IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-145321大腸菌及び当該大腸菌を用いた目的のタンパク質を製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145321
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】大腸菌及び当該大腸菌を用いた目的のタンパク質を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/70 20060101AFI20220926BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C12N15/70 Z
C12P21/02 C ZNA
C12N1/21
C12N1/20 A
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046678
(22)【出願日】2021-03-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術のうち高生産宿主構築の効率化基盤技術の開発に係るもの」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願 平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 光
(72)【発明者】
【氏名】梅津 光央
(72)【発明者】
【氏名】寺井 悟朗
(72)【発明者】
【氏名】柘植 謙爾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】目的のタンパク質の生産量を向上し得る、大腸菌を用いたタンパク質の新規製造方法を提供すること。
【解決手段】下記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種 のヘルパータンパク質の遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[I]シャペロニン
[II]ペリプラズムシャペロン
[III]シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロン
[IV]ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質
[V]ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質の遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[I]シャペロニン
[II]ペリプラズムシャペロン
[III]シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロン
[IV]ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質
[V]ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法。
【請求項2】
下記[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[1]Trigger factor
[2]DnaKJE
[3]GroEL-GroES
[4]Skp
[5]FkpA
[6]DsbABCD
[7]SecB-SecA
[8]Csa-SecA
[9]SecY、SecE又はSecG
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法。
【請求項3】
前記ヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌が、
前記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質を発現しうるベクターを大腸菌に導入し、前記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質の発現パターンが異なる少なくとも1000種類の組換え大腸菌を製造する工程、
得られた組換え大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程、及び
目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選抜する工程
を含む方法により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌が、
前記[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質を発現しうるベクターを大腸菌に導入し、前記[1]~[9]のヘルパータンパク質の発現パターンが異なる少なくとも1000種類の組換え大腸菌を製造する工程、
得られた組換え大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程、及び
目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選抜する工程
を含む方法により得られる請求項2に記載の方法
【請求項5】
下記(I)~(V)に属する核酸分子とプロモーターとの組合せのうち少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌:
(I)シャペロニンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(II)ペリプラズムシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(III)シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(IV)ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター
(V)ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター。
【請求項6】
下記(1)~(9)に属する核酸分子とプロモーターとの組合せのうち少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌:
(1)Trigger factorをコードする核酸分子とそのプロモーター
(2)DnaKJEをコードする核酸分子とそのプロモーター
(3)GroEL-GroESをコードする核酸分子とそのプロモーター
(4)Skpをコードする核酸分子とそのプロモーター
(5)FkpAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(6)DsbABCDをコードする核酸分子とそのプロモーター
(7)SecB-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(8)Csa-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(9)SecY、SecE又はSecGをコードする核酸分子とそのプロモーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸菌及び大腸菌を用いた目的のタンパク質を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
どんな組換えタンパク質でも安定的に生産できる宿主・ベクター系はない。タンパク質の種類にかかわらずに異種宿主発現できる宿主・ベクター系が望まれる。分子生物学や構造生物学の発展により、遺伝子の転写・翻訳の仕組みが徐々に解明されてきおり、徐々に利用できるようになってきている。その中でpETシステムは多くの遺伝子の転写産物およびポリペプチドを高レベルで生産できることから汎用されている。一方で、タンパク質の折り畳みに関しては、決まった解決手法はなく、正しいフォールディングを達成できずに不活性蛋白質として生産されることはいまだに多い。
【0003】
大腸菌における蛋白質の異種発現において、転写・翻訳の後、タンパク質折り畳みそして成熟化までにかかわるヘルパータンパク質として、すなわち、シャペロン、輸送蛋白質、内膜チャネルなどが知られている。
【0004】
これまでの研究では、これらを1つあるいは少数ずつ目的タンパク質と同時に発現させ折り畳みの失敗を防ぐことを成功させてきた。しかしながら、場当たり的な検証がほとんどであり、4種を超える多種のヘルパータンパク質の組み合わせを網羅的に調べた論文はない。ターゲットタンパク質の生産量向上に適したヘルパータンパク質を最適化できる発現システムが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2020/203496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、目的のタンパク質の生産量を向上し得る、大腸菌を用いたタンパク質の新規製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討した結果、特定のヘルパータンパク質の遺伝子を一定種類以上導入した大腸菌を用いることにより、目的のタンパク質の生産量を向上し得ることを見出した。かかる新たな知見に基づき、大腸菌に導入すべきヘルパータンパク質の遺伝子を最適化するための方法論について様々な点から試行錯誤を重ねた結果、本発明を完成するに至った。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.下記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種 のヘルパータンパク質の遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[I]シャペロニン
[II]ペリプラズムシャペロン
[III]シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロン
[IV]ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質
[V]ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法。
【0008】
項2.下記[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[1]Trigger factor
[2]DnaKJE
[3]GroEL-GroES
[4]Skp
[5]FkpA
[6]DsbABCD
[7]SecB-SecA
[8]Csa-SecA
[9]SecY、SecE又はSecG
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法。
【0009】
項3.前記ヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌が、
前記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質を発現しうるベクターを大腸菌に導入し、前記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質の発現パターンが異なる少なくとも1000種類の組換え大腸菌を製造する工程、
得られた組換え大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程、及び
目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選抜する工程
を含む方法により得られる、項1に記載の方法。
【0010】
項4.前記ヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌が、
前記[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質を発現しうるベクターを大腸菌に導入し、前記[1]~[9]のヘルパータンパク質の発現パターンが異なる少なくとも1000種類の組換え大腸菌を製造する工程、
得られた組換え大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程、及び
目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選抜する工程
を含む方法により得られる項2に記載の方法。
【0011】
項5.下記(I)~(V)に属する核酸分子とプロモーターとの組合せのうち少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌:
(I)シャペロニンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(II)ペリプラズムシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(III)シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(IV)ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター
(V)ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター。
【0012】
項6.下記(1)~(9)に属する核酸分子とプロモーターとの組合せのうち少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌:
(1)Trigger factorをコードする核酸分子とそのプロモーター
(2)DnaKJEをコードする核酸分子とそのプロモーター
(3)GroEL-GroESをコードする核酸分子とそのプロモーター
(4)Skpをコードする核酸分子とそのプロモーター
(5)FkpAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(6)DsbABCDをコードする核酸分子とそのプロモーター
(7)SecB-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(8)Csa-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(9)SecY、SecE又はSecGをコードする核酸分子とそのプロモーター。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、目的のタンパク質の生産性を向上し得る、大腸菌を用いたタンパク質の新規製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例(コンビOGABベクターの作り方 パターン1)におけるヘルパータンパク質OGABベクターの概略を示す。
図2】実施例(コンビOGABベクターの作り方 パターン1)におけるヘルパータンパク質OGABベクターの概略を示す。
図3】実施例における転写強度の強いプロモーター、中程度のプロモーター、弱いプロモーターの制御下でLH22ディアボディを導入した形質転換体におけるLH22ディアボディの発現量を示す。
図4】実施例におけるコンビOGABライブラリーにおけるLH22発現量のELISA解析の結果を示す。
図5】実施例における精製LH22量のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析の結果を示す。
図6】実施例(コンビOGABベクターの作り方 パターン2)におけるOGABTFベクターの構築の概略を示す。
図7】実施例におけるコンビOGABライブラリーにおけるCTB発現量のELISA解析の結果を示す。
図8】実施例におけるOGABTFを用いたCTBの発現量のSECによる評価の結果を示す。
図9】実施例(コンビOGABベクターの作り方 パターン3)におけるコンビOGAB法によるライブラリー作成方法の概略を示す。
図10】実施例におけるコンビOGABライブラリーのWESによるCTB発現量評価の結果を示す。
図11】実施例における各OGABオペロンのプロモーター部分をPCRで増幅し、電気泳動をした結果を示す。
図12】実施例における機械学習入力データの概要を示す。
図13】実施例における機械学習により提案された配列の一部を示す。
図14】実施例における機械学習提案OGABベクターの構築の概要を示す。
図15】実施例における機械学習提案変異体の解析結果の結果を示す。
図16】実施例で用いた、プロモーター強を連結したTrigger Factor(TF)のブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネータ配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がTrigger Factorをコードする塩基配列を示す。
図17】実施例で用いた、プロモーター強を連結したDnaKJEのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がDnaKJEをコードする塩基配列を示す。
図18】実施例で用いた、プロモーター強を連結したGroEL-ESのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がGroEL-ESをコードする塩基配列を示す。
図19】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSkpのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSkpをコードする塩基配列を示す。
図20】実施例で用いた、プロモーター強を連結したFkpAのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がFkpAをコードする塩基配列を示す。
図21】実施例で用いた、プロモーター強を連結したDsbABCDのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がDsbABCDをコードする塩基配列を示す。
図22】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSecB-SecAのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSecB-SecAをコードする塩基配列を示す。
図23】実施例で用いた、プロモーター強を連結したCsa-SecAのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がCsa-SecAをコードする塩基配列を示す。
図24】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSecYEG E.coliのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSecYEG E.coliをコードする塩基配列を示す。
図25】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSecYEG BSのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSecYEG BSをコードする塩基配列を示す。
図26】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSecYEG TMのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSecYEG TMをコードする塩基配列を示す。
図27】実施例で用いた、プロモーター強を連結したSecYEG AFのブロックの塩基配列を示す。5’末端側及び3’末端側の四角で囲まれた部分はSfiI部位を示す。5’末端側の網掛け部分はプロモーター強の配列を示し、3’末端側の網掛け部分はターミネーター配列を示す。プロモーターとターミネーターとに挟まれた部分がSecYEG AFをコードする塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中において、「核酸」は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドと同義であって、DNA、RNA、DNA-RNAハイブリッドのいずれであってもよい。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する核酸分子といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する核酸分子(またはヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチド)も包括的に意味するものとする。また、これらの核酸分子は環状でも直鎖状であってもよく、また合成及び生物由来のいずれであってもよい。
【0016】
目的のタンパク質を製造するための方法
一つの実施形態において、本発明は、下記[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質の遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[I]シャペロニン
[II]ペリプラズムシャペロン
[III]シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロン
[IV]ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質
[V]ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法を提供する。
【0017】
シャペロニンとは細胞質にて折り畳みを補佐する分子シャペロンの一種であり、GroEL-GroES等が挙げられる。より具体的には、GroELとしては、NCBIのアクセッションNo.AAS75782.1で示されるアミノ酸配列の1~548位の領域等が挙げられる。GroELは、Hsp60等と呼ばれることもある。GroESとしては、NCBIのアクセッションNo.AAL56005.1で示されるアミノ酸配列の1~97位の領域等が挙げられる。GroESは、Hsp10等と呼ばれることもある。
【0018】
ペリプラズムシャペロンとは、ペリプラズム空間にて折り畳みを補佐するタンパク質であり、Skp、FkpA、DsbA-DsbB-DsbC-DsbD(DsbABCD)等が挙げられる。より具体的には、Skpとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6017773.1で示されるアミノ酸配列の1~161位の領域等が挙げられる。また、FkpAとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6001217.1で示されるアミノ酸配列の1~270位の領域等が挙げられる。また、DsbAとしては、NCBIのアクセッションNo.No. CAD6023018.1で示されるアミノ酸配列の1~208位の領域等が挙げられる。また、DsbBとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6016189.1で示されるアミノ酸配列の1~176位の領域等が挙げられる。
【0019】
また、DsbCとしては、NCBIのアクセッションNo.AJL35295.1で示されるアミノ酸配列の1~343位の領域等が挙げられる。
【0020】
また、DsbDとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6022541.1で示されるアミノ酸配列の1~565位の領域等が挙げられる。
【0021】
シャペロニン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロンとしては、例えば、細胞質にて折り畳み初期を補佐するタンパク質であるTrigger factor(TF)、細胞質にて折り畳みを補佐するタンパク質であるDnaK-DnaJ-GrpE(DnaKJE)等が挙げられる。より具体的には、Trigger factorとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_063091140.1で示されるアミノ酸配列の1~432位の領域等が挙げられる。また、DnaKとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_023278178.1で示されるアミノ酸配列の1~638位の領域等が挙げられる。また、DnaJとしては、NCBIのアクセッションNo.AAA00009.1で示されるアミノ酸配列の1~376位の領域等が挙げられる。また、GrpEとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6006251.1で示されるアミノ酸配列の1~197位の領域等が挙げられる。DnaKは、Hsp70、HspAfamily等と呼ばれることもある。DnaJは、Hsp40、等と呼ばれることもある。GrpEは、HspBfamily等と呼ばれることもある。
【0022】
また、ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質としては、大腸菌由来のSecB-SecA、枯草菌由来のCsa-SecA等が挙げられる。より具体的には、SecBとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD5999083.1で示されるアミノ酸配列の1~155位の領域等が挙げられる。SecB-SecAにおけるSecA配列としては、NCBIのアクセッションNo.CAD6005338.1で示されるアミノ酸配列の1~221位の領域等が挙げられる。Csaとしては、NCBIのアクセッションNo.CAA41277.1で示されるアミノ酸配列の1~110位の領域等が挙げられる。Csa-SecAにおけるSecAとしては、NCBIのアクセッションNo.BAA01122.1で示されるアミノ酸配列の1~841位の領域等が挙げられる。
【0023】
ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質としては、SecY,SecE,SecG等が挙げられる。また、これらのポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質としては、大腸菌由来、枯草菌由来、好熱菌(Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus等)由来等のものがある。より具体的には、大腸菌由来のSecYとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6001560.1で示されるアミノ酸配列の1~443位の領域等が挙げられる。枯草菌由来のSecYとしては、NCBIのアクセッションNo.AAB59118.1で示されるアミノ酸配列の1~431位の領域等が挙げられる。好熱菌(Thermotoga maritima)由来のSecYとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_004081795.1で示されるアミノ酸配列の1~431位の領域等が挙げられる。好熱菌(Aquifex aeolicus)由来のSecYとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_010879989.1で示されるアミノ酸配列の1~429位の領域等が挙げられる。また、大腸菌由来のSecEとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6022906.1で示されるアミノ酸配列の1~65位の領域等が挙げられる。枯草菌由来のSecEとしては、NCBIのアクセッションNo.QGU22383.1で示されるアミノ酸配列の1~59位の領域等が挙げられる。好熱菌(Thermotoga maritima)由来のSecEとしては、NCBIのアクセッションNo.AKE30117.1で示されるアミノ酸配列の1~65位の領域等が挙げられる。好熱菌(Aquifex aeolicus)由来のSecEとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_010881261.1で示されるアミノ酸配列の1~65位の領域等が挙げられる。
【0024】
大腸菌由来のSecGとしては、NCBIのアクセッションNo.CAD6002359.1で示されるアミノ酸配列の1~110位の領域等が挙げられる。枯草菌由来のSecGとしては、NCBIのアクセッションNo.CON66364.1で示されるアミノ酸配列の1~76位の領域等が挙げられる。好熱菌(Thermotoga maritima)由来のSecGとしては、NCBIのアクセッションNo.AKE30141.1で示されるアミノ酸配列の1~76位の領域等が挙げられる。好熱菌(Aquifex aeolicus)由来のSecGとしては、NCBIのアクセッションNo.WP_010880002.1で示されるアミノ酸配列の1~100位の領域等が挙げられる。本実施形態においては、上記[I]~[V]からなる群より選択される少なくとも4種のヘルパータンパク質の遺伝子が導入された大腸菌を用いることを特徴とする。
【0025】
上記のように、[I]のグループに属するヘルパータンパク質にも種々のものがある。同様に、[II]~[V]のグループに属するヘルパータンパク質にも、それぞれのグループの中に、種々のものがある。本発明において、「[I]~[V]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質」とは、[I]~[V]のグループに属するヘルパータンパク質が少なくとも4種類あればよく、上記[I]~[V]の別々のグループに属する少なくとも4種のヘルパータンパク質がある場合だけでなく、例えば、1つのグループ(例えば、グループ[I])に属するヘルパータンパク質が少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、2つのグループ(例えば、グループ[I]及び[II])に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、3つのグループ(例えば、グループ[I]、[II]及び[V])に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合も含まれる。
【0026】
また、[I]~[V]のヘルパータンパク質には、上記のように種々のものが含まれる。別の実施形態において、本発明は、下記[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種(好ましくは少なくとも5種、より好ましくは少なくとも7種、より好ましくは少なくとも9種)のヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
[1]Trigger factor
[2]DnaKJE
[3]GroEL-GroES
[4]Skp
[5]FkpA
[6]DsbABCD
[7]SecB-SecA
[8]Csa-SecA
[9]SecY、SecE又はSecG
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法を提供する。
【0027】
かかる実施形態においても、「[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質」とは、[1]~[9]のグループに属するヘルパータンパク質が少なくとも4種類あればよく、上記[1]~[9]の別々のグループに属する少なくとも4種のヘルパータンパク質がある場合だけでなく、例えば、1つのグループ(例えば、グループ[1])に属するヘルパータンパク質が少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、2つのグループ(例えば、グループ[2]及び[5])に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、3つのグループ(例えば、グループ[3]、[7]及び[9])に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合も含まれる。当該実施形態において、「[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質」としては、上記[1]~[9]の別々のグループに属する少なくとも4種のヘルパータンパク質が好ましい。同様に当該実施形態において、「[1]~[9]に属するヘルパータンパク質のうち少なくともX種のヘルパータンパク質」としては、上記[1]~[9]の別々のグループに属する少なくともX種のヘルパータンパク質が好ましい(Xは4~9の自然数を示す)。
【0028】
また、別の実施形態において、[I]~[V]のヘルパータンパク質を12のスロットにわけてもよい。従って、本発明は、下記Slot1~12に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質遺伝子が導入された大腸菌を培養し、目的のタンパク質を生産させる工程、
Slot1:Trigger factor(TF)
Slot2:DnaK-DnaJ-GrpE(DnaKJE)
Slot3:GroEL-GroES
Slot4:Skp
Slot5:FkpA
Slot6:DsbA-DsbB-DsbC-DsbD(DsbABCD)
Slot7:SecB-SecA
Slot8:Csa-SecA
Slot9:大腸菌由来のSecY,SecE,又はSecG
Slot10:枯草菌由来のSecY,SecE,又はSecG
Slot11:好熱菌Thermotoga maritima 由来のSecY又はSecE又はSecG
Slot12:好熱菌Aquifex aeolicus 由来のSecY,SecE又はSecG
上記工程で生産された目的のタンパク質を回収する工程
を含む、目的のタンパク質を製造するための方法を提供する。
【0029】
かかる実施形態においても、「Slot1~12に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質」とは、Slot1~12のグループに属するヘルパータンパク質が少なくとも4種類あればよく、上記Slot1~12の別々のグループに属する少なくとも4種のヘルパータンパク質がある場合だけでなく、例えば、1つのグループ(例えば、Slot1)に属するヘルパータンパク質が少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、2つのグループ(例えば、Slot2及び8)に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合、3つのグループ(例えば、Slot1、3及び12)に属するヘルパータンパク質が合計で少なくとも4種ありかつその他のグループに属するヘルパータンパク質がない場合も含まれる。当該実施形態において、「Slot1~12に属するヘルパータンパク質のうち少なくとも4種のヘルパータンパク質」としては、上記Slot1~12の別々のグループに属する少なくとも4種のヘルパータンパク質が好ましい。同様に当該実施形態において、「Slot1~12に属するヘルパータンパク質のうち少なくともX種のヘルパータンパク質」としては、上記Slot1~12の別々のグループに属する少なくともX種のヘルパータンパク質が好ましい(Xは4~12の自然数を示す)。
【0030】
上記工程に用いる大腸菌は、上記ヘルパータンパク質を発現し得るベクターを大腸菌に導入することにより調製され得る。典型的な実施形態において、当該ベクターは、例えば、OGAB法を用いて、上記ヘルパータンパク質の複数の遺伝子を集積し、プラスミドベクターに組み込むことで作製することができる。
【0031】
OGAB法は長鎖DNAとして合成できる技術としてすでに報告されている(特許文献1)。より具体的には、OGAB法は、Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis法の略であり、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用した多重DNA断片集積法を示す。当該方法においては、3~4塩基の特異的な突出を有するようにした集積対象のDNA断片と集積プラスミドベクター(右端)とを用いることで、これらの相補性に起因して、多数のDNA断片を、順序と方向を指定して連結することができる。
【0032】
例えば、Slot1~12からなる群より選択される少なくとも4種のヘルパータンパク質遺伝子を導入する実施形態において、これらの各スロットに規定するタンパク質について、当該ヘルパータンパク質をコードする核酸分子に、転写強度の異なるプロモーター(例えば、転写強度の強いプロモーター、転写強度が弱いプロモーター、転写強度がそれらの中程度のプロモーターの3種類;転写強度の強いプロモーター、転写強度が弱いプロモーターの2種類等)を連結したものを用意する。より具体的には、例えば、Trigger factorをコードする核酸分子に転写強度の強いプロモーターを連結したもの、転写強度が弱いプロモーターを連結したもの、及び転写強度がそれらの中程度のプロモーターを連結したものの3種類のブロックを用意する。かかる実施形態においては、Slot2~12についても同様にそれぞれ、上記3種類のプロモーターを連結したブロックを用意し、これらを、OGAB法を用いて集積すると、理論上、312種類のプロモーターの組合せの(ヘルパータンパク質の発現パターンが異なり得る)ベクターを含むライブラリーを構築し得る。転写強度が強いプロモーター、転写強度が弱いプロモーター、転写強度がそれらの中程度のプロモーター等を使用する場合、例えば、転写強度が強いプロモーターとしては、後述する実施例で用いた配列番号1で示される塩基配列からなる核酸分子等が挙げられる。また、転写強度が中程度のプロモーターとしては、例えば、配列番号2で示される塩基配列からなる核酸分子等が挙げられる。また、転写強度が弱いプロモーターとしては、例えば、配列番号3で示される塩基配列からなる核酸分子等が挙げられる。また、上記のように転写強度の異なるプロモーターを、各ヘルパータンパク質をコードする核酸分子に連結してブロックを作製する代わりに、各スロットに規定するヘルパータンパク質について、プロモーターを結合したブロックと、プロモーターを結合したブロック(従って、当該ヘルパータンパク質は発現しない)とを用意し、OGAB法を用いてこれらを連結してライブラリーを構築してもよい。このようにプロモーターを含むブロックとそうでないブロックとの2種類を作製する方法は、得られたライブラリーを用いて形質転換した大腸菌において、どのヘルパータンパク質が発現するか(どのヘルパータンパク質をコードする核酸分子がプロモーターの制御下で組み込まれているか)を判別するのに、大腸菌の遺伝子配列解析をする必要がなく、各ヘルパータンパク質に対応するプロモーターの有無を電気泳動等のより簡便な方法で確認することができるため、好適である。上記にSlot1~12の全てをOGAB法で大腸菌に組み込む実施形態を用いて説明をしたが、本発明はかかる実施形態に限定されず、例えば、Slot1~12のうち一部のスロットに規定するヘルパータンパク質をコードする核酸分子を使用し、これに転写強度の異なるプロモーターを組み合わせてブロック化する、プロモーター有、プロモーター無のブロックを作成する等し、OGAB法を用いて集積してもよい。これらの実施形態において、OGAB法を用いてヘルパータンパク質の発現パターンが異なる大腸菌を、例えば、10種類以上、好ましくは50種類以上、より好ましくは1000種類以上作製することができる。OGAB法を用いて作製するヘルパータンパク質の発現パターンが異なる大腸菌の種類の上限は限定されないが、例えば、7x1023種類以下、好ましくは530000種類以下、より好ましくは48000種類以下作製することができる。ヘルパータンパク質の発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換する方法は限定されないが、例えば、エレクトポレーション、塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法、井上法等が挙げられる。
【0033】
本発明において、目的のタンパク質としては、特に限定されないが、例えば、抗体、酵素、ワクチン、構造タンパク質、ホルモン、サイトカイン、膜タンパク質、アミロイド、転写調節関連因子、翻訳関連因子、翻訳後修飾関連因子等およびその部分配列等が挙げられる。目的のタンパク質の分子量も限定されないが、例えば、15000~40000Da、好ましくは3000~300000Daの範囲のものが挙げられる。目的のタンパク質としては、宿主である大腸菌の成長を阻害しないものが好ましい。目的のタンパク質は、野生型の大腸菌が生産し得るものであっても、遺伝子組み換えにより生産能を付与した異種タンパク質であってもよい。従って、本発明の方法に用いる大腸菌は目的のタンパク質の発現ベクターを導入したものであってもよい。係る実施形態において、目的のタンパク質をコードする核酸分子は上記ヘルパータンパク質の発現ベクターに組み込んでもよいが、上記ヘルパータンパク質の発現ベクターとは別に、目的のタンパク質の発現ベクターを作製し、それら両方を大腸菌に導入することが好ましい。目的のタンパク質の発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換する方法は限定されないが、例えば、エレクトポレーション、塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法、井上法等が挙げられる。
【0034】
本発明の方法は、上記で得られたヘルパータンパク質の発現パターンが異なる大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程をさらに含んでもよい。目的のタンパク質の発現量の測定方法は限定されないが、例えば、ELISA法、SDS-PAGE法、ウェスタンブロッティング法、目的のタンパク質の機能(活性値)値によって発現量を推し量る方法等が挙げられる。測定の結果、目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選択することができる。例えば、目的タンパク質の発現量が、本発明の方法に規定するヘルパータンパク質の遺伝子を導入していない大腸菌を用いた場合の発現量以上である大腸菌を選択し、目的タンパク質の安定性、活性値等の機能値を考慮して最適な大腸菌を選択してもよい。別に実施形態においては、例えば、測定した大腸菌の中で最も目的のタンパク質の発現量が高いものを選択してもよいし、測定した大腸菌の中で目的のタンパク質の発現量が上位T%の大腸菌を選択し、安定性、活性値等を考慮して、最適な大腸菌を選択してよい。かかる実施形態において基準値Tは、活性測定した大腸菌の試験区の数等により異なるが、例えば、5~70(%)、好ましくは10~60、より好ましくは15~55(%)の範囲で適宜設定できる。
【0035】
また前述の方法で、各ヘルパータンパク質のグループ毎に転写強度の異なるプロモーターを組み合わせてブロック化する、プロモーター有、プロモーター無のブロックを作成する等し、OGAB法を用いて集積すると、数千、数万又は数十万種類以上の発現パターンの大腸菌が製造され得る。これらの大腸菌全てについて目的のタンパク質の発現量を測定するのは多大な労力を必要とする。従って、得られた大腸菌の一部のみについてデータを取得し、当該データを用いて、機械学習により目的のタンパク質の高発現する大腸菌を予想することが好ましい。例えば、得られた大腸菌の一部のみについて目的のタンパク質の発現量を測定し、それらの大腸菌におけるヘルパータンパク質の発現パターン(又は、各ヘルパータンパク質の遺伝子がプロモーターの制御下にあるか否か、もしくは各ヘルパータンパク質の遺伝子が転写強度の強いプロモーター、弱いプロモーター及び中程度のプロモーターのいずれの制御下にあるか)を確認した上で、目的のタンパク質の発現量とヘルパータンパク質の発現パターンとの組合せを学習データとして用い、機械学習により、学習データに含まれているもの以外のヘルパータンパク質の発現パターンを有する大腸菌による目的のタンパク質の発現量の予想値を求めることが好ましい。
【0036】
機械学習に用いるアルゴリズムとしては、ランダムフォレスト、サポートベクターマシーン、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、勾配ブースティング、決定木、k最近傍法、ガウス過程回帰、線形回帰、リッジ回帰、ラッソ回帰、エラスティックネット、射影追跡回帰等が挙げられる。
【0037】
これらの機械学習はコンピュータ等を用いて行うことができる。かかる実施形態において、機械学習の結果に基づき、複数種類(例えば、50~100種類、好ましくは101~4096種類)のヘルパータンパク質の発現パターンの大腸菌を作製し、これらの大腸菌による目的のタンパク質の発現量を測定する工程をさらに含んでもよい。測定結果に基づき、目的のタンパク質の発現量が高い大腸菌を選択することができる。選択方法は、例えば、前述したもの同様の方法により行うことができる。
【0038】
上記説明は、Slot1~12の全て又は一部に規定のヘルパータンパク質をコードする核酸分子を含むブロックを構築し、これらを組み合わせて大腸菌を形質転換する実施形態を用いて本発明の方法を説明したが、本発明は当該実施形態に限定されない。従って、本発明には、前述の(I)~(V)の全て又は一部に規定のヘルパータンパク質をコードする核酸分子を含むブロックを構築し、これらを組み合わせて大腸菌を形質転換する実施形態も、前述の[1]~[9]の全て又は一部に規定のヘルパータンパク質をコードする核酸分子を含むブロックを構築し、これらを組み合わせて大腸菌を形質転換する実施形態も包含する。これらの実施形態においても、OGAB法における条件、学習方法、目的のタンパク質の発現量の測定等は上記と同様である。
【0039】
大腸菌
一つの実施形態において、本発明は、下記(I)~(V)からなる群より選択される少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌を提供する:
(I)シャペニロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(II)ペリプラズムシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(III)シャペニロン及びペリプラズムシャペロン以外のシャペロンをコードする核酸分子とそのプロモーター
(IV)ポリペプチドを細胞質中でSecYEGまで輸送するタンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター
(V)ポリペプチドを細胞質からペリプラズムへ通す膜透過タンパク質をコードする核酸分子とそのプロモーター。
【0040】
また、別の実施形態において、本発明は、下記(1)~(9)からなる群より選択される少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌を提供する:
(1)Trigger factorをコードする核酸分子とそのプロモーター
(2)DnaKJEをコードする核酸分子とそのプロモーター
(3)GroEL-GroESをコードする核酸分子とそのプロモーター
(4)Skpをコードする核酸分子とそのプロモーター
(5)FkpAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(6)DsbABCDをコードする核酸分子とそのプロモーター
(7)SecB-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(8)Csa-SecAをコードする核酸分子とそのプロモーター
(9)SecY、SecE又はSecGをコードする核酸分子とそのプロモーター。
【0041】
さらに、別の実施形態において、本発明は、下記Slot1~12からなる群より選択される少なくとも4種を含むベクターを導入した大腸菌を提供する:
Slot1:Trigger factor(TF)
Slot2:DnaK-DnaJ-GrpE(DnaKJE)
Slot3:GroEL-GroES
Slot4:Skp
Slot5:FkpA
Slot6:DsbA-DsbB-DsbC-DsbD(DsbABCD)
Slot7:SecB-SecA
Slot8:Csa-SecA
Slot9:大腸菌由来のSecY,SecE,又はSecG
Slot10:枯草菌由来のSecY,SecE,又はSecG
Slot11:好熱菌Thermotoga maritima 由来のSecY又はSecE又はSecG
Slot12:好熱菌Aquifex aeolicus 由来のSecY,SecE又はSecG
【0042】
本発明の大腸菌は、目的のタンパク質の発現ベクターを導入したものであってもよい。
【0043】
さらに、本発明の大腸菌としては、Slot1、及びSlot8に示されるヘルパータンパク質をコードする核酸分子をプロモーターの制御下に含む発現ベクターを導入したものであることが好ましい。
【0044】
従って、本発明の大腸菌は、Slot1、Slot3、Slot6、Slot8、及びSlot12に示されるヘルパータンパク質を発現するものであることが好ましい。
【0045】
同様に、本発明の大腸菌としては、[I]~[V]のうち[I]、及び[IV]に示されるヘルパータンパク質をコードする核酸分子をプロモーターの制御下に含む発現ベクターを導入したものであることが好ましい。
【0046】
従って、本発明の大腸菌は、[I]~[V]のうち[I]、[II]、[III]及び[IV]に示されるヘルパータンパク質を発現するものであることが好ましい。
【0047】
同様に、本発明の大腸菌としては、[1]~[9]のうち[1]、及び[8]に示されるヘルパータンパク質をコードする核酸分子をプロモーターの制御下に含む発現ベクターを導入したものであることが好ましい。
【0048】
従って、本発明の大腸菌は、[1]~[9]のうち[1]、[3]、[6]、[8]及び[12]に示されるヘルパータンパク質を発現するものであることが好ましい。
【0049】
以下に本発明の具体的な実施形態を実施例を用いて例示的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例0050】
<実験手法>
・コンビOGABベクターの作り方 パターン1
コンビOGAB法を用いて、各12種のヘルパー蛋白質の発現量が異なるライブラリーを構築するために、まず、変異T7プロモーターを利用して転写強度「強」「中」「弱」の各ヘルパータンパク質遺伝子発現ベクターを設計した。通常のT7プロモーターの転写強度を「強」とし、-10塩基のAをTに変異した配列を「中」のプロモーター(転写活性はT7プロモーターの13%)とし、-9塩基のCをAに変異した配列を「弱」(転写活性T7プロモーターに対してほぼ0%)とした。プロモーター「強」プロモーター「中」及びプロモーター「弱」の塩基配列を以下の表に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
また、プロモーター配列を連結した各ヘルパータンパク質遺伝子の塩基配列を図16図29に示す。
【0053】
ヘルパー蛋白質同士の関係性を考慮し、例えばシャペロンとコシャペロンの関係性にあるヘルパー蛋白質や複合体を形成するヘルパー蛋白質などは発現量にバラつきが現れると機能的な働きをしないと予想し、それぞれを単一オペロン化してOGABブロックとして利用することとした。1ブロック目はターゲットタンパク質(LH22 Diabody)とした。プロモーターは強とし、発現量が異なるコドン変異体をそれぞれ図1のように割り当てた。ブロック2-11はヘルパータンパク質とした。DnaKJEオペロン、GroEL/ESオペロン、Skp、FkpA、DsbABCDオペロン、SecB-SecAオペロン、CsaA-SecAオペロン、SecYEG(E. coli)オペロン、SecYEG_BS(Bacillus subtilis:枯草菌)オペロン、SecYEG_TM (Thermotoga maritima)オペロン、SecYEG_AF(Aquifex aeolicus)オペロンの11種類のブロックの両端に図1のようにSfiIの制限酵素サイトが付加したDNA断片をそれぞれOGABブロックとして利用し、プロモーター「強」「中」「弱」を持つ各ヘルパー蛋白質オペロンベクターを作製した(強プロモーター×ターゲット抗体3種コドン変異体+3種プロモーター強度×ヘルパータンパク質11種=計36種)。
【0054】
これらのベクターを用いて、OGAB法によって、まずは、全11オペロンのヘルパープロテインがプロモーター「強」のOGABベクター、全て「中」のOGABベクター、全て「弱」のOGABベクターを作製した(図1)。作製は、QIAfilter Plasmid min ikit(キアゲン社)を用い、マニュアルに従って精製したプラスミドの10 μLを分取して、滅菌水30 μL、10×NEB buffer 5μL、SfiI制限酵素(NEB)5 μLを添加し、50℃、2h反応させることにより単位DNA断片をプラスミドベクターから切り離した。それを0.7%の低融点アガロースゲルで、1×TAE(バッファー存在下で、汎用アガロースゲル電気泳動装置で、50V(約4V/cm)の電圧を印加し、1h泳動することにより、プラスミドベクターと単位DNAを分離した。この泳動ゲルを、1μg/mLの臭化エチジウム(シグマ社)を含む1×TAEバッファー100mLで30min染色し、長波長の紫外線(366nm)で照らすことにより可視化することで、目的遺伝子付近をカミソリで切り出し、1.5mLチューブに回収した。回収した低融点アガロースゲル(約300mg程度)は、上述の通り精製し、20 μLのTEに溶解した。このようにして調製した単位DNAプラスミドは、市販されているLambda phage genome DNA (TOYOBO)の希釈系列を基づいて作成した検量線を用いて、核酸蛍光染料のSYBR Green II蛍光プレートリーダーにより定量した。各目的遺伝子と、遺伝子集積用ベクターのpGETS118-AarI-pBR(WO2015/111248に記載)が0.1fmol以上の等モルを含む混合溶液10μLに2×ライゲーションバッファーを11μL添加し、全体を37℃、5min間恒温した後、1 μLのT4DNAリガーゼ(TaKaRa)を添加して、37℃で4h恒温した。10μLを取って電気泳動することによりライゲーションされていることを確認後、これを10μL新しいチューブに採取し、枯草菌コンピテントセルを100μL添加し、37℃で30min、ダックローターで回転培養した。その後、300μLのLB培地を添加して、37℃で1h、ダックローターで回転培養し、その後、培養液を10μg/mLのテトラサイクリン入りLBプレートに広げ、37℃で一晩培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し制限酵素切断パターンを調べることでそれぞれ1個ずつ目的の構造をもつ形質転換体を選択し、これをOGAB強(全てのヘルパータンパク質ブロックが強プロモーター)、OGAB中(全てのヘルパータンパク質ブロックが中プロモーター)、OGAB弱(全てのヘルパータンパク質ブロックが弱プロモーター)とした(図1)。
【0055】
次にこの3種の集積ベクターを混合して用いてコンビOGAB法を行い、オペロンごとに「強」「中」「弱」がシャッフルされたコンビOGABライブラリーを次のように構築した(図2)。OGAB強、OGAB中、OGAB弱の各ベクターをエチジウムブロマイドー塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製後した。次に、各ベクター1 μgを1つのチューブに混合し滅菌水で170 μlにメスアップしたものに、20 μlの10×NEB2.1 buffer(New England Biolabs社)と、10 μlのSfiI(New England Biolabs社)を添加し、50℃で2時間反応させて完全消化した。制限酵素の失活のために、消化後のDNA溶液に、500 μlの滅菌水と500 μl のTE飽和フェノール(ナカライテスク社)を添加し、良く混合後、遠心(20,000×g、10分)することにより、フェノール相と水相を分離し、水相を新しいチューブに回収した。そこに、500 μlの1-ブタノール(ナカライテスク社)を添加し、混合後、遠心(20,000×g、10秒)し、分離したブタノール相をピペットで除去した。再度1-ブタノールを添加し、混合後、遠心しブタノール相を除去する操作をもう一度行った。得られた水相(約450 μl)に、50 μの3M 酢酸カリウム(pH5.2)と、900 μlのエタノールを添加し、混合後、遠心(20,000×g、10分)した。上清を捨てて、900 μl 70%エタノールを加えチューブ全体を洗浄後、除去した。得られたDNA沈殿を、20 μlのTE緩衝液(ナカライテスク社)に溶解した。そのうちの19 μlに8 μlのTE緩衝液、30 μlの2×ライゲーションバッファー(組成132mM Tris・HCl (pH 7.6), 13.2mM MgCl2 , 20mM dithiothreitol, 0.2mM ATP, 500mM NaCl, 20% (w/v) ポリエチレングリコール 6000 (和光純薬工業))、3 μlのT4 DNA ligase(Takara bio社)を加え37℃で4時間30分インキュベートした。特許文献1に記載の方法で準備した枯草菌BUSY9797コンピテントセルTF-II培養液1mlに対して、上記のライゲーション産物10 μlを加えた13ml試験管を6本準備し、37℃で30分、30rpmで旋回培養後、それぞれ2mlのLB培地(1Lあたり10 gポリペプトン(ベクトンディッキンソン)、5 g 酵母抽出物(ベクトンディッキンソン)、5 g NaCl(ナカライテスク))を加えて37℃で1時間30rpmで旋回培養した。その後、全培養液を合計60枚の10 μg/mlのテトラサイクリンが入ったLB培地寒天プレート(上記のLB培地に1.5 g/Lのアガー(ベクトンディッキンソン)を加えたもの)に広げて、37℃で一晩インキュベートした。その結果、約48000個の形質転換体を得た。得られた形質転換体をプレートからかき集め、エチジウムブロマイドー塩化セシウム密度勾配超遠心法により、プラスミドをライブラリーを精製した。
【0056】
・OGAB強、中、弱ベクターの形質転換
まず、作製したOGAB強、中、弱ベクターを用いて、大腸菌BL21(DE3)株あるいはpGold(DE3)株をエレクトロポレーション法にて形質転換し、34 μL/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上にプレーティングして37℃で48時間培養した。
【0057】
・形質転換体の培養およびLH22ディアボディの粗精製
50 mL LB培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/三角フラスコに形質転換体コロニーを植菌し、37℃, 160 rpmで振盪し、20時間前培養した。続いて、前培養液5 mLを500 mL 2×YT培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/三角フラスコに添加して37℃, 160 rpmで回転培養を行い、OD600が0.8になったときに終濃度0.1 mM IPTGを添加して37℃, 160 rpmで20時間培養を行った。培養液を回収し、8000×gで1時間遠心分離することで培地上清画分と菌体画分を分離した。菌体に20 mLのりん酸緩衝液 (PBS)を加えて超音波破砕を行った後、8000×gで2時間遠心分離することで菌体内可溶性画分と沈殿を分離した。次に、得られた培地上清画分と菌体内可溶性画分を用いて固定化金属アフィニティクロマトグラフィ― (IMAC)を行った。20 mM, 50 mM, 300 mMおよび1 Mのイミダゾール/ PBS溶液をそれぞれ用いて溶出した。300mMイミダゾール溶出画分を用いたSDS-PAGEのバンド強度からLH22ディアボディの発現量を見積もった(図3)。その結果OGABベクターを用いない場合に比べてOGAB強ベクターを用いた場合に1.8倍程度発現量が向上し、OGAB中ベクターを用いた場合に5.6倍にまで発現量が向上した。OGAB弱べクターを用いた場合には発現量は低下した。このことからヘルパータンパク質の追加はタンパク質生産量を向上するということが分かった。そして、その生産強度は中が最も高いことから、プロモーター強度は強ければ良いというわけではなく、最適値があるということを示した。
【0058】
・コンビOGABベクターの形質転換
次に、作製したコンビOGABベクターを用いて、大腸菌BL21(DE3)株あるいはpGold(DE3)株をエレクトロポレーション法にて形質転換し、34 μL/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上にプレーティングして37℃で48時間培養した。
【0059】
・スクリーニング培養と粗酵素溶液回収
1.6 mL LB培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/試験管に形質転換体コロニーを植菌し、37℃, 135 rpmで振盪し、20時間前培養した。続いて、前培養液1 mLを50 mL 2×YT培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/三角フラスコに添加して37℃, 160 rpmで回転培養を行い、OD600が0.8になったときに終濃度0.1 mM IPTGを添加して37℃, 160 rpmで20時間培養を行った。培養液を回収し、8000×gで1時間遠心分離することで培地上清画分と菌体画分を分離した。菌体に5 mLのPBSを加えて超音波破砕を行った後、8000×gで2時間遠心分離することで菌体内可溶性画分と沈殿を分離した。
【0060】
・酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)による発現量の解析
得られた培地上清画分と菌体内可溶性画分を用いてELISAを行い、LH22発現量を評価した。diabody LH22のC末端に融合したFLAGタグとHisタグを利用したサンドウィッチELISAによって発現量評価を行った(図4)。
【0061】
Greiner社製の96wellプレート (96-well polypropylene ELISA microplate)にPBSを用いて500倍希釈した抗FLAGタグ抗体 (M2 Monoclonal antibody;, final conc.= 20 μM; SIGMA-ALDRICH社製)を50μL添加し, 25 ℃で1時間穏やかにプレートを振とうさせて固定化した。次に、96wellプレート中の溶液を除き150 μLのPBSで1回洗浄した。続いて、PBS / 0.1% Tween-20 / 0.05% BSA溶液を150 μL添加し、25 ℃で1時間穏やかにプレートを振とうさせてブロッキングした。その後、反応溶液を除き150 μLのPBSで1回洗浄後、培地上清画分か菌体内可溶性画分を50 μL添加し、25 ℃で30分間反応させた。そして、反応溶液を除き、PBS / 0.05% Tween20で3回洗浄を行った。続いて、PBS/0.05% Tween20/ 0.05% BSAで1000倍希釈した抗Hisタグ抗体-HRP (H-3; final conc.= 200 μM; Santa Cruz Biotechnology社製)を50μL添加して25 ℃で40分間抗体反応を行った後、反応溶液を除きPBS/ 0.05% Tween20で3回洗浄した。その後TMB溶液(1-Step(登録商標) Ultra TMB-ELISA Substrate Solution; Thermo Fisher Scientific社製)を50μL添加し、プレートリーダー(Synergy(登録商標) H4 Hybrid Multi-Mode Microplate Reader; BioTek社製)に設置し、37 ℃で動的な370 nmの吸光度変化を1分30秒間ごとに30分間経時測定した。
【0062】
そして、得られた吸光度変化を解析し、全てのウェル内の動的吸光度が線形的変化している状態で、かつ吸光度の値が飽和する直前の時点での値を発現量評価のためのデータとして決定した。
【0063】
・一部の有望変異体の培養精製
50 mL LB培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/三角フラスコに、OGABなしLH22発現ベクター、OGAB中、コンビOGAB形質転換体5番、68番、87番のコロニーを植菌し、37℃, 160 rpmで振盪し、20時間前培養した。続いて、前培養液5 mLを500 mL 2×YT培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールを含む)/三角フラスコに添加して37℃, 160 rpmで回転培養を行い、OD600が0.8になったときに終濃度0.1 mM IPTGを添加して37℃, 160 rpmで20時間培養を行った。培養液を回収し、8000×gで1時間遠心分離することで培地上清画分と菌体画分を分離した。菌体に20 mLのPBSを加えて超音波破砕を行った後、8000×gで2時間遠心分離することで菌体内可溶性画分と沈殿を分離した。次に、得られた培地上清画分と菌体内可溶性画分を用いてIMACを行った。20 mM, 50 mM, 300 mM, 1 Mのイミダゾール/ PBS溶液をそれぞれ用いて溶出した。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果からLH22の発現が多い画分を回収した。
【0064】
・サイズ排除クロマトグラフィーによる抗体生成量評価
IMAC後の300 mMイミダゾール溶出画分を用いて、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC)を行った(図5)。緩衝液はPBS(1mM EDTAを含む)を用いて行った。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果からLH22の発現が多い画分をまとめ、A280の吸収を測定することによりLH22生産量を算出した。その結果、いずれの形質転換体も発現量を向上し、OGAB中ベクターの発現量が、精製量換算で1.5 mg/L-培養液であったのに対して、変異体40(37℃)は7.2mg/L-培養液となり、約5倍の発現量向上を示した。
【0065】
・コンビOGABベクターの作り方 パターン2
コンビOGABベクターの作り方 パターン1では、12種類あるOGABブロックのうち、1番目のOGABブロックにはターゲットタンパク質であるLH22 Diabodyを割り当てていた。しかしこれではターゲットのタンパク質を変更するたびに、OGABベクターを再構築する必要があるため、時間と手間がかかる。そこで、1番目のブロックには次に有望なヘルパータンパク質であるトリガーファクター(TF)を割り当て、ターゲットタンパク質は別の発現ベクターとして大腸菌に導入することを試みた(図6)。すなわちターゲットタンパク質発現ベクターとOGABTFベクターを共発現させた。OGABブロック2-12は変更なしである。12種類のオペロンの両端にSfiIの制限酵素サイトが付加したDNA断片をそれぞれOGABブロックとして利用し、プロモーター「強」「中」「弱」を持つ各ヘルパー蛋白質オペロンベクターを作製した(3プロモーター強度×(ヘルパータンパク質12種)=36種)。
【0066】
コンビOGABTFベクターの作り方 パターン1の時と同様に、OGAB法によって、まずは、12オペロンのヘルパープロテイン全てがプロモーター「強」のOGABTFベクター、全て「中」のOGABTFベクター、全て「弱」のOGABTFベクターを作製した。
【0067】
次にこの3つのベクターを混合して用いてコンビOGAB法を行い、オペロンごとに「強」「中」「弱」がシャッフルされたコンビOGABTFライブラリーを構築した。
【0068】
・形質転換
コンビOGABTFベクターの導入された大腸菌BL21(DE3)株コンピテントセルを作製し、-80℃保存した。このコンピテントセルと、ターゲット遺伝子発現ベクター(豚コレラワクチンCTB)を用いてエレクトロポレーション法にて形質転換し、ターゲット遺伝子発現ベクターとコンビOGABTFベクターが導入された形質転換体を得た。34 μL/mLのクロラムフェニコールおよび100μL/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地上にプレーティングして37℃で48時間培養した。
【0069】
・スクリーニング培養
CTB発現ベクターのみ、CTB発現ベクター+OGABTF強、OGABTF中、OGABTF弱、およびコンビOGABTF形質転換体それぞれを1.6 mL LB培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールおよび100 μL/mLのアンピシリンを含む)/試験管に形質転換体コロニーを植菌し、37℃, 135 rpmで振盪し、20時間前培養した。続いて、前培養液1 mLを10 mL 2×YT培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールおよび100 μL/mLのアンピシリンを含む)/三角フラスコに添加して37℃, 160 rpmで回転培養を行い、OD600が0.3になったときに終濃度1 mM IPTGを添加して37℃, 160 rpmで20時間培養を行った。培養液を回収し、8000×gで1時間遠心分離することで培地上清画分と菌体画分を分離した。菌体に1 mLのPBSを加えて超音波破砕を行った後、8000×gで2時間遠心分離することで菌体内可溶性画分と沈殿を分離した。
【0070】
・ELISA
LH22の時と同様にCTBに関してもタグサンドイッチELISA法を用いて発現量評価した(図7)。その結果、OGABTF中が最もCTBの発現量の向上を示した。コンビOGABTFの中では23番がOGABTF中に匹敵するCTB発現量を示した。
【0071】
・培養精製
CTB発現ベクターのみ、OGABTF中、および23番の形質転換体について、50 mL LB培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールおよび100 μL/mLのアンピシリンを含む)/三角フラスコにコロニーを植菌し、37℃, 160 rpmで振盪し、20時間前培養した。続いて、前培養液5 mLを500 mL 2×YT培地(34 μg/mLのクロラムフェニコールおよび100 μL/mLのアンピシリンを含む)/三角フラスコに添加して37℃, 160 rpmで回転培養を行い、OD600が0.3になったときに終濃度1 mM IPTGを添加して37℃, 160 rpmで20時間培養を行った。培養液を回収し、8000×gで1時間遠心分離することで培地上清画分と菌体画分を分離した。菌体に20 mLのPBSを加えて超音波破砕を行った後、8000×gで2時間遠心分離することで菌体内可溶性画分と沈殿を分離した。次に、得られた培地上清画分と菌体内可溶性画分を用いてIMACを行った。20 mM, 50 mM, 300 mM, 1 Mのイミダゾール/ PBS溶液をそれぞれ用いて溶出した。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果からCTBの発現が多い画分を回収した。
【0072】
・サイズ排除クロマトグラフィーによる抗体生成量評価
IMAC後の300 mMイミダゾール溶出画分を用いてSECを行った。緩衝液はPBS(1mM EDTAを含む)を用いて行った。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果からCTBの発現が多い画分をまとめ、A280の吸収を測定することによりCTB生産量を算出した(図8)。その結果、OGABを用いた形質転換体は発現量を向上した。OGABベクターなしの発現量が、精製量換算で7.5 mg/L-培養液に対して、変異体23は5.5倍(41mg/L-培養液)となり、OGABTF中は約9倍 (67.3mg/L-培養液)の発現量向上を示した。
【0073】
OGAB法と機械学習を利用した高生産菌作製手法の最適化
・コンビOGABベクターの作り方 パターン3(図9
53万のヘルパータンパク質の組み合わせの中から最適な組み合わせを選択するのは、大変な労力と費用がかかる。そこで、効率的に最適解を導き出すために、機械学習支援を試みた。機械学習を行うにあたって、そのままの設計でも、活性測定とプロモーターのシーケンシング解析を行うことで学習データを取得することは可能である。その場合はコンビOGABベクターの作り方 パターン2をそのまま用いる。しかしこの方法では、シーケンシング解析の費用が高いため、パターン3では、解析方法とコンビOGABベクター構築方法を改良した。
【0074】
これまでの結果から、プロモーター「強」は中以上の発現量向上効果があまり見られず、また「弱」プロモーターは発現ほとんどしないため発現量増加はほぼなかった。このことから、プロモーター「中」のOGABベクターとプロモーターなしのOGABベクターをまず作製し、これらをシャッフルすることでコンビOGABを作製することを考えた。この手法であると、プロモーター部分をPCR増幅した断片の長さをアガロース電気泳動で見分けることができることからどのヘルパータンパク質が重要であるのか見分けることができる。OGABブロック1-12の種類は変更なしである。(プロモーター中orプロモーターなし)×(ヘルパータンパク質12種)=24種)。規模は212=4096種となる。
【0075】
これらのベクターを用いて、OGAB法によって、まずは、12オペロンのヘルパープロテイン全てがプロモーター「中」のOGABベクター、すべてプロモーターなしのOGABベクターを作製した。次にこの2つのベクターを混合して用いてコンビOGAB法を行い、オペロンごとに「中」「なし」がシャッフルされたコンビOGABライブラリーを構築した。
【0076】
・形質転換&スクリーニング培養
上記と同様の方法
・WESによる発現量定量
ELISAの評価は誤差が大きく正しく発現量を見積もれていない可能性がある。そこで発現量の定量の方法を変更しProtein simple社の自動ウェスタン装置(WES)を用いて行った(図10)。ターゲットのタンパク質にはヒスチジンタグが融合されているので、そのタグをHis-probe-HRPを用いて検出した。ピークのエリア値から発現量を測定した。
【0077】
・プロモーターの「中」or「なし」の電気泳動による判定
各OGABオペロンのプロモーター部分をPCRで増幅し、増幅産物の長さを2%ゲル濃度のアガロースゲル電気泳動にてDNAバンドの移動度で評価することで、プロモーターのあるなしを判定した。
【0078】
・機械学習の方法
図11で示したように、電気泳動により各ヘルパータンパク質のプロモーターの有無を同定することができる。プロモーター有りを“+”、無しを“-”とする。また、電気泳動ではプロモーターの有無を判断できないことがあり、この場合を”ND(-)”と記述する。以下では、12種類のヘルパータンパク質のプロモーターの有無を“プロモーターパターン”と記述する。
【0079】
コンビOGABプラスミドを導入した大腸菌を127株単離し、CTB発現量を上述のWESを用いて測定した。そして、その127株のうち93株のプロモーターパターンを決定した。図12は、その127株とリフファレンス株(全プロモーターが“+”の株)のCTB発現量とプロモーターパターンを示したものである。プロモーターパターンが決定された93株のCTB生産量を目的変数、プロモーターパターンを12個の説明変数としてランダムフォレストアルゴリズムによる機械学習を行なった。ただし、機械学習を行う前に以下のような前処理を行ない、処理後のデータをランダムフォレストの学習データとした。まず、CTB発現量を自然対数で変換した。ただし、CTB発現量が0の場合は自然対数による変換は行わず、そのままの値を用いた。次に、93株のうち同じプロモーターパターンを持つ株が複数ある場合には、それらの株のデータをまとめて単一の株として扱った。その場合、同じプロモーターパターンを持つ複数の株のCTB生産量(自然対数で変換済み)の平均値を、そのプロモーターパターンを持つ単一の株のCTB生産量とした。このデータ処理により、異なるプロモーターパターンを持つ79株のプロモーターパターンとCTB生産量のデータを作成した。このデータをランダムフォレストアルゴリズムの学習データとして用いた。
【0080】
次に、全ての可能なプロモーターパターンに対して、学習済みのランダムフォレストを使って、CTB生産量の予測値を求めた(ただし、ヘルパータンパク質1から5については、学習データに”ND(-)”が存在しなかったため、ヘルパータンパク質1から5が”ND(-)”のプロモーターパターンは解析の対象外とした)。そして、その予測生産量に基づきプロモーターパターンをランキングした。図13は、ランキング上位29番目までのプロモーターパターンと、予測発現量などの情報を示したものである。図13においては、プロモーター有りをP、無しをA、判定不能をUと記述している。
【0081】
・機械学習提案OGABベクターの構築
機械学習の結果から、ブロック1,3,6,8,12について「プロモーターあり」のクローンが上位に見られたため、SfiIの制限酵素配列を変更して再構築することで、この5種類のみの組み合わせ全16種類のOGABベクターを作製した(図14)。
【0082】
・形質転換およびスクリーニング培養
前述と同様の操作で行った。
【0083】
・WESによる発現量定量
前述と同様の操作で行った。(図15
結果としてOGABベクターなしの場合と比較して、16種のOGABベクターを用いてCTBの発現量を調べたところ、同等か活性向上していた。中でも8番は34倍の発現量向上を示した。
また同じ16種のOGABベクターを用いて別のターゲット遺伝子VHHマラリアワクチンの発現量向上を目指した。その結果OGABベクターなしの場合と比較して、同じ最大で8番が26倍の発現量向上を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【配列表】
2022145321000001.app