(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145325
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】半導体転写用フラックスシート
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20220926BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20220926BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046682
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】宮内 一浩
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、粘着・接着性に優れ、強度があり、はんだ接合性及び水洗性に優れる半導体転写用フラックスシートを提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、(A)水溶性粘着剤を含むことを特徴とする、半導体転写用フラックスシートを提供する。本発明の半導体転写用フラックスシートによれば、粘着・接着性に優れ、強度があり、はんだ接合性及び水洗性に優れる半導体転写用フラックスシートを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性粘着剤を含むことを特徴とする、半導体転写用フラックスシート。
【請求項2】
(B)フラックス剤(前記(A)水溶性粘着剤を除く)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の半導体転写用フラックスシート。
【請求項3】
前記(A)水溶性粘着剤が、ビニルアルコール系重合体、ビニルピロリドン系重合体、アクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性粘着剤を含む請求項1又は2に記載の半導体転写用フラックスシート。
【請求項4】
前記ビニルアルコール系重合体が、オキシアルキレン構造を有する請求項3に記載の半導体転写用フラックスシート。
【請求項5】
前記(B)フラックス剤が、カルボキシル基を有する化合物である請求項2~4のいずれか一項に記載の半導体転写用フラックスシート。
【請求項6】
前記半導体は、発光ダイオード又はチップ部品である請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体転写用フラックスシート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体転写用フラックスシートを用いることを特徴とする、電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体転写用フラックスシートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子および表示素子等の電子部品の製造において、異物付着の防止または半導体チップもしくは画像表示装置の効率的な製造を目的とし、粘着剤層(感圧接着剤層)を有する材料が使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、発光ダイオード(LED)を用いた表示装置の製造方法が提案されている。その製造方法では、一つのウエハ上に画素となるLED素子を多数形成した後、ダイシングおよび粘着剤層(感圧接着剤層)を有する一時保持用部材を用いた拡大転写を経る方法が記載されている。
また、特許文献2には、拡大転写が行われる際にレーザー光を利用し、LED素子を基材から離隔せる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-261335号公報
【特許文献2】特開2010-161221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、LED素子を接触転写によって転写元基板から転写先基板へ転写する場合に、LED素子が転写先基板の決められた位置からずれてしまうことがある。また、転写工程において転写時に半導体転写用フラックスシートが破れてしまうこともある。
【0006】
このようなことから、本発明の課題は、粘着・接着性に優れ、強度があり、はんだ接合性及び水洗性に優れる半導体転写用フラックスシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記課題に対して鋭意検討した結果、(A)水溶性粘着剤を含むことを特徴とする、半導体転写用フラックスシートを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の半導体転写用フラックスシート及び半導体転写用フラックスシートを用いた電子部品の製造方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の半導体転写用フラックスシートは、(A)水溶性粘着剤を含むことを特徴とするものである。
本発明の半導体転写用フラックスシートによれば、(A)水溶性粘着剤を含むため、半導体転写用フラックスシートの粘着・接着性が向上し、半導体素子等の製造時に素子の位置ズレを防止することができる。また、室温では強度に優れるため、製造プロセス中におけるフラックスシートの破れに起因する転写不良の発生を抑制することができ、高温においては軟化することにより良好なはんだ接合を行うことができ、半導体転写用フラックスシートの水洗による除去が容易となる。
【0009】
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの一実施態様としては、(B)フラックス剤(前記(A)水溶性粘着剤を除く)を含むことを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、粘着・接着性に優れるとともに、フラックス活性を有し、強度、水洗性及びはんだ接合性に優れた半導体転写用フラックスシートを提供することができる。フラックス活性により基板等の表面の酸化被膜除去をすることができ、また、高温においては軟化することから良好なはんだ接合性を発揮することができる。
【0010】
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの一実施態様としては、前記(A)水溶性粘着剤が、ビニルアルコール系重合体、ビニルピロリドン系重合体、アクリル系重合体及びからなる群から選択される少なくとも1種の水溶性粘着剤を含むことを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、粘着・接着性に優れるとともに、強度、水洗性及びはんだ接合性に優れた半導体転写用フラックスシートを提供することができる。また、ビニルアルコール系重合体を選択すれば、前記(A)水溶性粘着剤がフラックス活性を有することになるので、タック性、粘着性、強度、水洗性及びはんだ接合性に優れるとともに、フラックス活性を有する半導体転写用フラックスシートを提供することができる。
【0011】
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの一実施態様としては、前記ビニルアルコール系重合体が、オキシアルキレン構造を有することを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、粘着性及び低温の水に対する溶解性の向上による水洗性に優れた半導体転写用フラックスシートを提供することができる。
【0012】
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの一実施態様としては、前記(B)フラックス剤が、カルボキシル基を有する化合物であることを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、前記(B)フラックス剤が水に溶けやすくなるので、水洗性に優れた半導体転写用フラックスシートを提供することができる。
【0013】
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの一実施態様としては、前記半導体は、発光ダイオード又はチップ部品であることを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、転写工程におけるLED素子又はチップ部品の所望した配置位置からの位置ズレを防ぐことができる粘着・接着性に優れるとともに、室温においては半導体転写用フラックスシートの破れ等による転写不良を防ぐことができる強度を有し、高温においては軟化することによる良好なはんだ接合性及びフラックス性を有し、洗浄工程での水洗性に優れた半導体転写用フラックスシートを提供することができる。
【0014】
また、本発明の電子部品の製造方法の一実施態様としては、前記の半導体転写用フラックスシートを用いることを特徴とするものである。
上記の実施態様によれば、粘着・接着性に優れるとともに、強度、はんだ接合性及び水洗性に優れた半導体転写用フラックスシートを用いることから、はんだ接合の不良を抑制することができる。また、フラックスシート自体にフラックス活性を有している場合は、電子部品を製造する場合に別途フラックス剤を基板等に塗る必要がなくなるので、製造工程の短縮という効果を発揮する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粘着・接着性に優れ、強度があり、はんだ接合性及び水洗性に優れる半導体転写用フラックスシートを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】フラックス活性の評価のためのリフローはんだ付け工程におけるJEDECの推奨条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[半導体転写用フラックスシート]
本発明の半導体転写用フラックスシートは、半導体素子を基板の所望する位置に仮固定する粘着性・タック性と基板に対する粘着性・接着性とを有する。また、本発明の半導体転写用フラックスシートは、転写工程の転写時にシートの強度不足による転写不良を防止する。また、本発明の半導体転写用フラックスシートは、リフロー工程において、リフロー温度で軟化溶融するとともに、はんだ表面にある酸化物を除去または還元するフラックス活性を有し、半導体素子と回路との接合不良を防止する。さらに、本発明の半導体転写用フラックスシートは、水洗工程において、リフロー工程で溶融したフラックスシート残渣が水に溶解して除去できる。
【0018】
シートにすることによって、液状フラックスを用いた場合に比較し、配線用基板への塗布や印刷の工程を省略でき、単にシートをラミネーター等で貼付するのみでよく、取り扱いが容易となり、作業効率が向上できる。例えば、印刷の工程では、フラックスの乾燥による粘度上昇で、マスクの開口にフラックスが詰まり、転写不良を起こす懸念があり、このような転写不良を防ぐために、製造途中でマスクを頻繁に洗浄する必要がある。また、液状フラックスに比較し、シートは液体成分の量を著しく低減できることから、運搬効率が向上し、保存安定性も良好とすることができる。
【0019】
また、シートでは、基板の各電極にフラックスを均等供給することができるので、各電極にて安定にフラックス活性を発現して良好なはんだ接合性を示す。また、シートの貼付では、液状フラックスの塗布に比べて、部品などの搭載面(シート上面、液状フラックス上面)が平坦なので、部品を安定に置くことができる。
【0020】
本発明の半導体転写用フラックスシートの形状は、特に制限されない。平面視した本発明の半導体転写用フラックスシートの形状としては、例えば、多角形(例えば、長方形、矩形および三角形等)、円形、楕円形および不定形等が挙げられる。本発明の半導体転写用フラックスシートの形状は、被着基板の形状に合わせた形状等、所望する形状とすることもできる。また、切断等の公知の方法を用い、所望する形状に加工してもよい。さらに、ロール状にした後、必要な量を切断し、使用することもできる。
【0021】
本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さは、特に制限されないが、例えば、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。
本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さが1μm以上であると、強度が向上するので好ましい。
また、本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さの上限値は、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらにが好ましい。
本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さが500μm以下であると、フラックスシートの軟化溶融時間を短くでき、フラックスシート残渣の量も少ないので、フラックス工程および洗浄工程の時間を短縮できるので、好ましい。
【0022】
本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さは、半導体素子に形成されるバンプの高さとの関係により、適宜選択されることが好ましい。バンプの高さよりもフラックスシートが厚い場合には、半導体素子の底面及び側面がフラックスシートと接触するので半導体素子の位置ズレを抑制することができる。
【0023】
本発明の半導体転写用フラックスシートは、発光ダイオード(LED)やチップ部品、半導体チップを基板等に搭載することに用いることができる。発光ダイオードの大きさとしては、いろいろあるが、例えば、JIS規格が挙げられ、3216サイズ(3.2mm×1.6mm)、2012(2125)サイズ(2.0mm×1.25mm)、1608サイズ(1.6mm×0.8mm)、1005サイズ(1.0mm×0.5mm)等がある。この他に、ミニLED(一辺が100μm程度)やマイクロLED(一辺が50μm程度)等も挙げられる。また、チップ部品としては、例えば、チップ抵抗、チップコンデンサ、チップインダクタ等が挙げられる。チップ部品の大きさとしては、例えば、JIS規格が挙げられ、3216サイズ(3.2mm×1.6mm)、2012(2125)サイズ(2.0mm×1.25mm)、1608サイズ(1.6mm×0.8mm)、1005サイズ(1.0mm×0.5mm)、0603サイズ(0.6mm×0.3mm)、0402サイズ(0.4mm×0.2mm)等があり、更に小さい部品としては、0201サイズ(0.2mm×0.1mm)等がある。半導体チップの大きさとしては、いろいろあり、特に規格等はないが、例えば、最大で一辺が数cm程度の大きさのものがある。液状フラックスでは、特に小型部品の場合、電極への均等供給が難しいが、本発明の半導体転写用フラックスシートにおいては、シートであること及び粘着性から、特に0402、0201等の小型部品や、ミニLED,マイクロLED等の搭載に好適である。
【0024】
発光ダイオードやチップ部品、半導体チップはバンプを有している。バンプ(bump)とは、半導体チップ等にメッキ等で形成された突起電極である。ミニLEDやマイクロLED等の発光ダイオードや、チップ部品は、バンプを2つ有している。半導体チップが有するバンプの数は、特に制限はなく、半導体チップごとにいろいろな数のバンプを有している。また、半導体チップ等へのバンプの配置は、特に制限されるものではないが、例えば、ペリヘラル(バンプがチップの端部近傍に数列配置されている)やエリアアレイ(バンプがチップ全面に配置されている)等がある。
【0025】
本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さと半導体素子のバンプの高さとの割合(フラックスシートの厚さ/バンプの高さ)は、半導体素子搭載での位置ズレや半導体素子破損の観点から、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましい。本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さとバンプの高さとの割合が1.0以上であると半導体素子搭載工程で半導体素子のバンプが基板の電極の所望の位置からずれることが発生しにくく好ましい。
【0026】
また、半導体素子の位置ズレなく搭載した後のリフローはんだ付け工程では、半導体転写用フラックスシートの軟化により半導体素子が下に沈んで半導体素子のバンプと基板電極が接触し、融点以上の温度で、半導体素子のバンプが電極に濡れる必要がある。半導体転写用フラックスシートの厚さが半導体素子高さ(半導体素子のバンプ下面と半導体素子上面の最短距離)に比べて著しく厚い場合には、半導体素子の沈み込みの距離が長く、沈み込みの間に半導体素子が揺れて基板電極からのズレが大きくなる懸念がある。前記位置ズレが大きくなると、リフローはんだ付け工程でのセルフアライメント効果では、位置補正ができなくなり接合不良となる。
【0027】
このようなことから、本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さとバンプの高さとの割合(フラックスシートの厚さ/半導体素子のバンプの高さ)は、半導体素子の位置ズレなく搭載した後のリフローはんだ付け工程での半導体素子の沈み込みによる位置ズレの観点から、3.0以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、1.8以下が更に好ましい。本発明の半導体転写用フラックスシートの厚さと半導体素子のバンプの高さとの割合が3.0以下であると、半導体素子を所望する位置に搭載した後のリフローはんだ付け工程での沈み込みでの半導体素子のバンプと基板電極との位置ズレを抑えることができる。
【0028】
半導体素子に形成されるバンプの高さは、特に制限されないが、例えば、1μm以上、50μm以下である。バンプの高さの下限値は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましい。バンプの高さの上限値は、70μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。
【0029】
なお、チップ部品の場合においては、バンプ(本明細書では、チップ部品の電極をバンプという)はチップの下に突き出ておらず、ダンベル状でチップの左右両端に備えられている。従って、チップ部品における「バンプの高さ」とは、チップの左右両端に備えられているバンプにおけるバンプ底面からチップ底面までの間の高さ(厚さ)をいう。
【0030】
本発明の半導体転写用フラックスシートは、(A)水溶性粘着剤及び、必要に応じて(B)フラックス剤を含むことが好ましい。
【0031】
(A)水溶性粘着剤における固形分の含有量は、半導体転写用フラックスシート全体を基準として、例えば、65質量%以上、98質量%以下である。(A)水溶性粘着剤における固形分が、65質量%以上であると、強度及びシートの成形性のため好ましい。(A)水溶性粘着剤における固形分が、98質量%以下であると、粘着性や接着性のため好ましい。
(A)水溶性粘着剤における固形分の含有量の下限値は、シートの成形性及び強度の向上の観点から、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
また、(A)水溶性粘着剤の含有量の上限値は、粘着性や接着性の観点から、97質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0032】
(B)フラックス剤の含有量は、(A)水溶性粘着剤がフラックス活性を有するか否か及び、(A)水溶性粘着剤の含有量によって、適宜選択できる。
フラックス活性を発現させ、素子と配線用基板とを接合させるために、例えば、(B)フラックス剤の含有量の下限値は、フラックスシート全体を基準として、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。(C)フラックス剤の含有量の下限値が、1.0質量%以上であると、はんだ表面の酸化被膜の除去のため好ましい。
(B)フラックス剤の含有量の上限値は、フラックスシート全体を基準として、20.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましい。(B)フラックス剤の含有量の上限値が、20.0質量%以下であると、基板中にフラックス剤が残留することを抑制でき、金属の腐食やイオンマイグレーションを防ぐため好ましい。
【0033】
本発明の半導体転写用フラックスシートは、水や液状可塑剤等の液状成分を含まない。ここで「液状成分を含まない」とは、水や液状可塑剤等の液状成分を全く含まないという意味ではなく、本発明のフラックスシートは、若干の水分を含むが、意図して本発明のフラックスシートの強度を弱めるような液状成分を含むことはない、ということである。
【0034】
以下に、本発明の半導体転写用フラックスシートを構成する各成分について、説明する。
また、半導体転写用フラックスシートを、単に、「フラックスシート」ともいう。
【0035】
[(A)水溶性粘着剤]
(A)水溶性粘着剤は、フラックスシートを構成する主な成分であり、重合体を主な構成成分とする。また、(A)水溶性粘着剤は、水溶性を有する成分であり、単独で粘着性を発現する成分である。ここで、水溶性とは、常温(25℃)下で、1質量%の水溶液とした場合に、濁りがなく溶解するものである。また、粘着性とは、(A)水溶性粘着剤単独で作製したシートにおいて、常温(25℃)で、シート(1cm×5cm×10μm)をPETフィルム(非離型処理面)に押し当てた後に、前記シートが張り付いたPETフィルムをシートに沿って短冊形状に切り抜きして、前記短冊形状に切り抜きしたPETフィルムを垂直に垂らしたときにシートとPETフィルムが剥がれないものである。本発明の半導体転写用フラックスシートは、(A)水溶性粘着剤を含有することにより、半導体素子に対するタック性および粘着性(感圧接着性)、基板に対する粘着・接着性、リフロー温度での分解抑制性又は溶融性及び水溶性が向上する。
【0036】
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体は、重合体自体にタック性および粘着性を有するものに加え、ゲルを形成することによってタック性および粘着性を発現するものを包含する。
【0037】
本発明の半導体転写用フラックスシートは、リフロー工程において、溶融し、半導体素子のバンプと基板の電極とを接触させる。このため、フラックスシートの(A)水溶性粘着剤を構成する重合体は、リフローはんだ付け工程の温度で溶融する。(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の軟化点は、リフローはんだ付け工程においてフラックスシートが溶融すれば、特に制限はない。
例えば、(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の軟化点は、特に制限されないが、例えば、40℃以上、200℃以下が好ましい。軟化点の下限値は、50℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましい。軟化点の上限値は、150℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましく、80℃以下が最も好ましい。
軟化点が40℃以上であると、シート化の観点から好ましい。軟化点が200℃以下であると、リフローはんだ付け工程中における、(A)水溶性粘着剤の軟化による半導体素子のフラックスシートへの沈み込みが起こるという観点から好ましい。
【0038】
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体は、水に溶解することから、リフロー工程後の水洗によって基板から容易に取り除くことができる。
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の溶解度は、水によって洗浄することができれば、特に制限はない。例えば、(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の水に対する溶解度は、90℃において、0.05g/g-H2O以上が好ましく、0.10g/g-H2O以上がより好ましく、0.30g/g-H2O以上がさらに好ましい。
0.05g/g-H2O以上であれば、常温でも短時間で洗浄でき、洗浄残渣をなくす、または、極めて少なくすることができるため好ましい。
【0039】
また、(A)水溶性粘着剤が、例えば、重量平均分子量が5.0×105を超える場合、洗浄による水への溶解に長い時間を要することとなり、洗浄残渣が発生しやすくなる。そのため、洗浄時間の短縮と、洗浄残渣の低減の観点から、(A)水溶性粘着剤の分解で低分子化して溶解速度を向上することが好ましい。低分子化する方法としては、半導体素子や基板などのワークにダメージを与えない方法であれば特に制限はない。
【0040】
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の重量平均分子量Mwは、特に制限されないが、例えば、3.0×103以上、5.0×105以下が好ましい。重量平均分子量Mwの下限値は、シート成形性の向上の観点から、1.0×104以上がより好ましい。また、(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の重量平均分子量Mwの上限値は、水溶性粘着剤の軟化による半導体素子のフラックスシートへの沈み込みにより、速やかに半導体素子のバンプが基板電極に接しやすいという観点と、水での洗浄性に優れるという観点から、1.0×105以下がより好ましく、8.0×104以下が更に好ましく、5.0×104以下がより更に好ましい。
【0041】
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体の分子量分布Mw/Mn(ここで、Mnは数平均分子量を示す。)は、特に限定されない。例えば、分子量分布Mw/Mnは、1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましい。また、分子量分布Mw/Mnは、30以下が好ましく、15以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
分子量分布Mw/Mnを上記範囲とすることで、良好な成膜を得ることができ、シート面内での物性バラツキを低く(均一な物性発現)できる。
【0042】
重合体の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)を用いた。
測定条件は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定し、溶離液はテトラヒドロフラン(THF)、検出器はRIを用いた。なお、(A)水溶性粘着剤の分子量はポリスチレン換算値である。
【0043】
(A)水溶性粘着剤を構成する重合体として、タック性および粘着性に優れるビニルアルコール系重合体、ビニルピロリドン系重合体およびアクリル系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
また、(A)水溶性粘着剤を構成する重合体が、酸性基(カルボキシル基等)、塩基性基(アミノ基等)またはアルコール性水酸基を有する場合、重合体自体にフラックス活性を有する。
このため、(A)水溶性粘着剤としては、フラックス活性を有することから、ビニルアルコール系重合体がより好ましく用いられる。
【0044】
<ビニルアルコール系重合体>
本発明において、ビニルアルコール系重合体は、一般式(1)で表されるヒドロキシエチレン繰り返し単位を有する重合体をいう。
以下、一般式(1)で表される構造を、ビニルアルコール繰り返し単位ともいう。
【0045】
【0046】
ビニルアルコール系重合体は、繰り返し単位が、ビニルアルコール繰り返し単位のみからなる単独重合体構造であってもよく、他の繰り返し単位を有する共重合体構造であってもよい。
以下、ビニルアルコール繰り返し単位のみからなる単独重合体構造のビニルアルコール系重合体を、単に「単独重合体」ともいい、他の繰り返し単位を有する共重合体構造のビニルアルコール系重合体を、単に「共重合体」ともいう。
【0047】
ビニルアルコール系重合体は、一般に、ビニルアルコールの水酸基を保護した単量体(例えば、酸酸ビニル等)を単独または共重合した後、保護基を脱離する変性(例えば、加水分解等)を経て製造する。
このため、ビニルアルコール繰り返し単位以外の他の繰り返し単位としては、変性前の繰り返し単位が残存した単位を挙げることができる。変性前の繰り返し単位として、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテルおよびトリメチルシリルビニルエーテルから誘導される繰り返し単位が挙げられる。
以下、変性されずに変性前の官能基が残存した状態で、ビニルアルコール系重合体中の繰り返し単位となるものを、「未変性繰り返し単位」ともいう。
ビニルアルコール系重合体において、残存した未変性繰り返し単位は1種または2種以上であってもよい。
ビニルアルコール系重合体は、一般的に、酢酸ビニル系重合体のけん化によって製造する。このため、入手が容易である変性前繰り返し単位が酢酸ビニルから誘導される酢酸ビニル重合体を変性したビニルアルコール系共重合が好ましく使用される。
【0048】
ビニルアルコール繰り返し単位および未変性繰り返し単位とからなるビニルアルコール系重合体では、水に対する溶解性と粘着性(感圧接着性)は、けん化度および重合度に影響される。
ここで、ビニルアルコール繰り返し単位および未変性繰り返し単位とからなるビニルアルコール系重合体におけるけん化度は、全繰り返し単位数に対するビニルアルコール繰り返し単位数の割合([ビニルアルコール繰り返し単位数]/{[ビニルアルコール繰り返し単位数]+[未変性繰り返し単位数]}比)である。
【0049】
ビニルアルコール繰り返し単位および未変性繰り返し単位とからなるビニルアルコール系重合体は、けん化度が高過ぎる場合でも、低過ぎる場合でも水に対する溶解性は低下する。また、重合度が高い場合においても水に対する溶解性は低下する。
このため、未変性繰り返し単位とからなるビニルアルコール系重合体では、未変性繰り返し単位の種類によって、けん化度および重合度が選択される。
例えば、けん化度は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
また、例えば、けん化度は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
上記範囲内であれば、結晶化して水に溶けにくくなることや親水性基が少ないため水に溶けにくくなることがないため好ましく使用できる。
【0050】
また、ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール繰り返し単位及び未変性繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を1種または2種以上含むことができる。ビニルアルコール繰り返し単位および未変性繰り返し単位以外の他の繰り返し単位として、例えば、エチレン、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、一般式(2)で表される単量体(例えば、オキシエチレンモノアリルエーテルおよび(メタ)アクリル酸エチルカルビトール等)等から誘導される繰り返し単位が挙げられる。
以下、ビニルアルコール繰り返し単位および未変性繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を、「第三の繰り返し単位」ともいう。
けん化度の測定は、第三の繰り返し単位(オキシアルキレン構造等)がある場合は、1H-NMRで、前記第三の繰り返し単位がない場合は、JIS K6726に準拠して測定することができる。
【0051】
【化2】
(式中、R
1およびR
3は、独立して、水素原子または有機基を表し、R
2はエーテル結合、エステル結合、アミド結合、炭素数1~6のアルキレンもしくはこれらの複合基または単結合を表し、Aは炭素数2~22のアルキレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【0052】
一般式(2)におけるR1は、水素原子または炭素数1~20の有機基を表し、有機基は、当然に、O、N、S、SiおよびPの各元素の1種または2種以上を含んでいてもよい。
R1の有機基として、例えば、アルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルエステル基(アシルオキシ置換ヒドロカルビル基およびアルコキシカルボニル置換ヒドロカルビル基)、アルキルアミドアルキレン基、スルホン酸塩基を挙げることができる。
【0053】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられる。
アシル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、i-プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基およびヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
アルキルエステル基としては、メチルオキシカルボニルメチレン基、メチルカルボニルオキシメチレン基、エチルオキシカルボニルエチレン基およびエチルカルボニルオキシエチレン基等が挙げられる。
アルキルアミドアルキレン基としては、N,N’-ジメチルアミドアルキレン基およびN,N’-ジエチルアミドアルキレン基等が挙げられる。
R1として、水素原子またはアルキル基、アシル基、アルキルエステル基もしくはアルキルアミドアルキレン基における炭素数1~10のものが好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
R1が水素原子であると、重合体のガラス転移温度を低くすることができるので好ましい。
【0054】
一般式(2)におけるR2は、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-、-OCO-)、アミド結合(-NHCO-、-OCNH-)、炭素数1~6のアルキレンもしくはこれらの複合基または単結合を表す。
【0055】
一般式(2)におけるR3は、水素原子または炭素数1~20の有機基を表し、有機基は、当然に、O、N、S、SiおよびPの各元素の1種または2種以上を含んでいてもよい。
R3の有機基として、例えば、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルエステル基(アシルオキシ置換ヒドロカルビル基およびアルコキシカルボニル置換ヒドロカルビル基)、アルキルアミド基、アルキルアミドアルキレン基、スルホン酸塩基を挙げることができる。
【0056】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられる。
アシル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、i-プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基およびヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
アルキルエステル基としては、メチルオキシカルボニルメチレン基、メチルカルボニルオキシメチレン基、エチルオキシカルボニルエチレン基およびエチルカルボニルオキシエチレン基等が挙げられる。
アルキルアミドアルキレン基としては、N,N’-ジメチルアミドアルキレン基およびN,N’-ジエチルアミドアルキレン基等が挙げられる。
R3として、水素原子またはアルキル基、アシル基、アルキルエステル基もしくはアルキルアミドアルキレン基における炭素数1~10のものが好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
【0057】
一般式(2)におけるAは、直鎖状または分岐した炭素数2~22のアルキレン基を表す。
一般式(2)において、nが2以上である場合は、複数のAは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
Aの炭素数は、10以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2が特に好ましい。
Aとして、例えば、ジメチレン(エチレン)、トリメチレン、メチルエチレン、テトラメチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレンおよび1-エチルエチレン等を挙げることができる。
オキシアルキレン構造において、疎水性基として作用するアルキレン基の炭素数が少ないオキシアルキレン基は、炭素数の多いオキシアルキレン基に比較し、親水性である。
したがって、一般式(2)において、「AO」で表されるオキシアルキレン構造は、オキシエチレン構造がもっとも好ましい。
【0058】
一般式(2)における繰り返し数nは、親水性基である「AO」で表されるオキシアルキレン構造の数を表す。このため、一般に、nの数が増すと、一般式(2)で表される繰り返し単位の親水性が向上する。
したがって、一般式(2)における繰り返し数nは、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。また、一般式(2)における繰り返し数nは、300以下が好ましく、200以下がより好ましく、65以下がさらに好ましく、20以下が特に好ましい。
オキシアルキレン基の繰り返し単位数nを上記範囲内とすることで、低温の水に対する溶解性を向上することができ、また、粘着性を向上させることができる。
【0059】
第三の繰り返し単位の含有割合は、ビニルアルコール系重合体が、タック性および粘着性(感圧接着性)を示し、水に溶けることができれば、特に制限はない。
したがって、第三の繰り返し単位の種類により、タック性および粘着性(感圧接着性)と水溶性の観点から、第三の繰り返し単位の割合は選択される。
例えば、ビニルアルコール系重合体における第三の繰り返し単位の割合(「第三の繰り返し単位」×100/「ビニルアルコール繰り返し単位」+「未変性繰り返し単位」+「第三の繰り返し単位」)は、0.5mol%以上が好ましく、3.0mol%以上がより好ましく、5.0mol%以上がさらに好ましい。
0.5mol%以上であれば、低温での水に対する溶解性が良好のため好ましく使用できる。
また、ビニルアルコール系重合体における第三の繰り返し単位の割合は、20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下がさらに好ましい。
20mol%以下であれば、シート成形性が良好のため好ましく使用できる。
【0060】
また、ビニルアルコール系重合体におけるビニルアルコール繰り返し単位の含有割合は、ビニルアルコール系重合体が、粘着性(感圧接着性)を示し、水に溶けることができれば、特に制限されない。例えば、ビニルアルコール系重合体におけるビニルアルコール繰り返し単位の割合は、20mol%以上が好ましく、30mol%以上がより好ましく、40mol%以上がさらに好ましい。
20mol%以上であれば、粘着性が良好のため好ましい。
また、ビニルアルコール系重合体におけるビニルアルコール繰り返し単位の割合は、90mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましく、60mol%以下がさらに好ましい。
90mol%以下であれば、粘着性が良好のため好ましい。
【0061】
ビニルアルコール系重合体は、カルボキシル基を有する単量体から誘導される繰り返し単位を含む重合体はフラックス活性が向上する。また、(ポリ)オキシアルキレン構造を有する単量体から誘導される繰り返し単位を含む重合体は、水溶性が向上する。
このため、第三の繰り返し単位として、カルボキシル基または(ポリ)オキシアルキレン構造を有する単量体から誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0062】
また、第三の繰り返し単位が水溶性である場合、ビニルアルコール繰り返し単位に依らなくともビニルアルコール系重合体の水溶性を向上することができる。このため、水に対する溶解性の観点からは、ビニルアルコール系重合体のけん化度を、第三の繰り返し単位を含まないビニルアルコール系重合体のけん化度に比較して、低くすることができる。
さらに、結晶性のビニルアルコール繰り返し単位の割合が低くなる結果、ビニルアルコール系共重合体のガラス転移温度を低くすることができ、タック性および粘着性を向上することができる。
したがって、第三の繰り返し単位は、(ポリ)オキシアルキレン構造を有する単量体から誘導される繰り返し単位がより好ましく、一般式(2)で表される繰り返し単位がさらに好ましい。
【0063】
ビニルアルコール単独重合体またはビニルアルコール系共重合体は、一般式(3)で表される構造を重合体の少なくとも1末端に有していてもよい。
【0064】
【化3】
(式中、R
4は、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、炭素数1~6のアルキレンもしくはこれらの複合基または単結合を表し、R
5およびR
6は、独立して、水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基を表し、R
7は、水素原子または炭素数1~20の有機基を表す。mは1以上の整数を表す。)
【0065】
一般式(3)におけるR4、R7およびmは、それぞれ、一般式(2)におけるR3、R3およびnについて記載した内容のとおりである。
R5およびR6は、独立して、水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、mが2以上の場合は、複数のR5または複数のR6は、同一でもよく、異なっていてもよい。
R5およびR6におけるアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられる。
ビニルアルコール系重合体の水溶性を向上する観点から、水素原子が好ましい。
【0066】
ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単独重合体、ビニルアルコール系共重合体または少なくとも1末端に一般式(3)で表される構造を有するビニルアルコール系重合体から選ばれる重合体を1種単独で使用してもよく、2種以上を用いてよい。また、2種以上を用いる場合において、ビニルアルコール系共重合体から選ばれる2種以上または少なくとも1末端に一般式(3)で表される構造を有するビニルアルコール系重合体から2種以上を用いてもよい。
【0067】
<ビニルピロリドン系重合体>
本発明において、ビニルピロリドン系重合体は、一般式(4)で表される構造を主な繰り返し単位として有する重合体をいう。
【0068】
【0069】
ビニルピロリドン系重合体は、ビニルピロリドン単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
共重合成分としては、例えば、エチレン、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、一般式(2)表される単量体(例えば、オキシエチレンモノアリルエーテルおよび(メタ)アクリル酸エチルカルビトール等)等を挙げることができる。
上記他の繰り返し単位として、カルボキシル基を有する単量体から誘導される繰り返し単位を含む重合体にフラックス活性を付与することができるため、好ましい。
【0070】
ビニルピロリドン系重合体における共重合成分の割合は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はない。例えば、共重合成分の割合は、30mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下がさらに好ましい。
30mol%以下であれば、発熱を伴う水との強い水素結合の形成を阻害せず水に対する溶解性が良好のため好ましい。
水溶性および粘着性に優れることから、ビニルピロリドン単独重合体であることが好ましい。
【0071】
<アクリル系重合体>
アクリル系重合体は、(メタ)アクリロイルオキシ構造を有する単量体が付加重合した構造を主な繰り返し単位として有する重合体をいう。
水溶性を有するアクリル系重合体としては、水酸基、カルボキシル基(カルボキシル基の塩、例えば、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸アンモニウムなどの官能基も含む)、オキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン構造またはオキシプロピレン構造等)またはアミノ基(アミノ基の塩、例えば、塩酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの官能基も含む)を有することが好ましい。
アクリル系重合体が、水酸基、カルボキシル基またはアミノ基を有すると、フラックス作用を有するのでより好ましい。
【0072】
また、本発明で使用するアクリル系重合体は、単独により、粘着性(感圧接着性)を有することから、ガラス転移温度は、120℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0073】
ガラス転移温度の測定方法としては、JIS K6240(DSC法)に準拠した。
【0074】
アクリル系重合体としては、例えば、親水性のアクリル酸系単量体(アクリル酸、アクリル酸カルボキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、アクリル酸ポリオキシエチレン、アクリル酸ポリオキシプロピレンおよびアクリル酸ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン等)から選ばれる1種または2種以上と、アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等)等、メタクリル酸系単量体(メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルおよびメタクリル酸ポリ(オキシアルキレン)等)並びにアクリロニトリルから選ばれる1種または2種以上とを共重合体したものが挙げられる。
【0075】
アクリル系重合体は、親水性のアクリル酸系単量体以外の単量体の割合は、水に溶けることができ、ガラス転移温度が好ましくは120℃以下であれば、特に制限はない。例えば、30mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下がさらに好ましい。
【0076】
アクリル系重合体としては、例えば、低いガラス転移温度の単独重合体を誘導する親水性のアクリル酸系単量体に、金属との粘着性(感圧接着性)を向上させる極性基(カルボキシル基および水酸基)等を有する(メタ)アクリル酸系単量体および(メタ)アクリル酸アルキルエステルを組み合わせて共重合したものが挙げられる。
【0077】
[(B)フラックス剤]
本発明フラックスシートは、必要に応じて、フラックス剤を含有することができる。
フラックス剤は、金属表面の酸化物を還元または除去し、はんだ接合性を向上させる作用を有する。また、金属表面の酸化物が還元または除去されることによって、濡れ性が向上し、素子の電極と配線基板の電極との位置ズレを補正するというセルフアライメント効果を発揮または向上させることができる。
本発明でいうフラックス剤は、(A)水溶性粘着剤以外のものをいう。
【0078】
本発明において、「必要に応じて、フラックス剤を含有する」とは、(A)水溶性粘着剤がフラックス活性を有しない場合に、フラックスシートにフラックス活性を付与するとき、又は、(A)水溶性粘着剤がフラックス活性を有する場合であっても、さらにフラックス活性を強く発現させる必要があるときに(B)フラックス剤を含むことを意味する。
例えば、(A)水溶性粘着剤として、ビニルピロリドン単独重合体を使用した場合は、ビニルピロリドン単独重合体にフラックス活性がない。このため、フラックスシートは、(B)フラックス剤を含むことを必要とする。
同様に、例えば、(A)水溶性粘着剤として、酸性基を含むアクリル系共重合体を使用したときに、酸性基の量が少ないために、金属の酸化被膜を十分に除去できない場合がある。この場合には、フラックス活性を十分に発現させるため、(B)フラックス剤を含むことを必要とする。したがって、(A)水溶性粘着剤として、酸性基の量が少ないアクリル系共重合体を使用した場合に、本発明のフラックスシートは(B)フラックス剤を含むこととなる。
【0079】
(B)フラックス剤として、例えば、酸性化合物、塩基性化合物、アルコール性水酸基を有する化合物、アルデヒド類およびカルボン酸の塩とアミンの塩を挙げることができる。
フラックス剤は、本発明のフラックスシートを基板に使用するので、金属元素を含まないものが好ましい。このため、酸性化合物としては、有機酸(カルボン酸類およびフェノール類等)が好ましく、塩基性化合物としてはイミダゾール類およびアミン類が好ましい。
【0080】
フラックス剤として用いるカルボン酸類としては、例えば、サリチル酸、安息香酸、m-ジヒドロキシ安息香酸、ピロメリット酸、セバシン酸、アビチエン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸またはマレイン酸等を挙げることができる。
【0081】
フラックス剤として用いるイミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが挙げられる。
フラックス剤として用いるアミノ類としては、例えば、ドデシルアミン等を挙げることができる。
【0082】
アルデヒドとしては、例えば、アルドース類(グルタルアルデヒド、ペリルアルデヒドおよびグリセルアルデヒド等)を挙げることができる。
【0083】
アミンの塩としては、例えば、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩などの(有機)アミン・ハロゲン化水素酸塩を挙げることができる。これらは活性剤といわれることもある。
【0084】
本発明において、(B)フラックス剤は、(A)水溶性粘着剤との反応または相互作用によって本発明の効果を阻害することのないフラックス剤を選択して使用する。
本発明のフラックスシート残渣は、水洗によって除去されるので、(B)フラックス剤は、水溶性であることが好ましい。
【0085】
[その他の成分]
本発明のフラックスシートには、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤およびはんだ粒子等が挙げられる。
本発明のフラックスシートには、熱硬化性樹脂を含まないことが好ましい。熱硬化性樹脂は、リフロー工程において硬化し、水洗等により除去できない場合があるためである。
【0086】
[フラックスシートの製造方法]
本発明のフラックスシートの製造は、公知の粘着剤フラックスシートの製造方法を用いて製造することができる。
例えば、まず、準備した剥離用シートに、本発明のフラックスシートを構成する成分を含む組成物を用いた層を形成することによって、製造することができる。
剥離用シートの基材としては、本発明のシート形成用組成物が剥離できれば特に制限はない。剥離用シートの基材として、例えば、ポリエステル、ポリオレフィンおよびポリアミドを挙げることができる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレート等を挙げることができる。
ポリオレフィンとしては、例えば、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンおよびポリプロピレン等を挙げることができる。
ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンテレフタラミド、ポリデカメチレンテレフタラミド、ポリウンデカンラクタム、ポリドデカンラクタムおよびポリメタキシリレンアジパミド等を挙げることができる。
剥離用シートは、少なくとも片面に公知の離型処理が施されていてもよい。
本発明のフラックスシートを構成する成分を含む組成物を用いた層は、離型用シートの片面または両面に形成されてもよい。
【0087】
本発明のフラックスシート用組成物を用いた層を設ける方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、フラックスシートを構成する成分の全部または一部を含む組成物を溶媒に溶解または分散させ、離型用シートに塗布することによって、製造することができる。
塗布の方法としては、本発明のフラックスシート用組成物を用いて形成された層が、均一な厚さを形成できる方法であれば、特に制限はない。例えば、均一な厚さの層を形成する方法としては、スピンコート、ブレードコート、スリットコートおよびスロットダイコートを挙げることができる。
フラックスシートを構成する成分の一部を含む組成物を用いた場合には、例えば、層を形成させた後、液状の成分(例えば、(B)フラックス剤をフラックスシートの乾燥前または乾燥後に含侵または置換させてもよい。
【0088】
[フラックスシートの使用方法]
本発明のフラックスシートは、例えば、次の工程を有する電子部品の製造に使用することができる。なお、フラックスシートの使用方法に関する以下の説明は、本発明の電子部品の製造方法の説明に置き換えることができる。
(1)本発明のフラックスシートを配線用基板の電極面側に配置し、貼り合わせる工程、
(2)本発明のフラックスシートに、半導体素子を転写する工程、
(3)半導体素子を配線用基板に物理的および電気的に接合させるリフローはんだ付け工程、
(4)フラックスシート残渣を除去する洗浄工程
(5)配線用基板の乾燥工程
【0089】
<(1)貼り合わせ工程>
本発明のフラックスシートを配線用基板の電極面側に配置し、貼り合わせる工程では、剥離用シート上に形成された本発明のフラックスシートを配線基板に貼り合わせる。本発明のフラックスシートに剥離シートがある場合には、剥離用シートを剥離する。
本発明のフラックスシートを貼り合わせる前に、配線基板の電極面を洗浄してもよい。洗浄は有機溶媒、酸性水溶液または塩基性水溶液等を用いて行うことができる。
配線用基板としては、配線を備えた基板であれば特に制限はなく、例えば、ガラス基板であるTFTバックブレーン、カラスエポキシ基板であるFR-4、セラミック基板、シリコーンウエハなどを挙げることができる。
【0090】
<(2)転写工程>
転写工程は、配線用基板における半導体素子の位置を決定し、転写元となる半導体素子が形成された基板または半導体素子を一時保持した基板から転写先となる本発明のフラックスシート上に半導体素子を移動する工程である。
以下、半導体素子が形成された基板を「素子形成基板」ともいう。
転写工程の方式としては、接触転写工程や非接触転写工程がある。
【0091】
(接触転写工程)
転写工程の一形態として、接触転写工程を
図1に基づいて説明する。本発明のフラックスシートを使用した転写工程は、例示した形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形および改良等を含むことができる。図面は、説明を理解しやすくするため、拡大または縮小した部分がある。
【0092】
(i)上記(1)貼り合わせ工程で製造した
図1(a)に示す転写先基板1Aにおいて、配線基板12Aと貼り合わされた本発明の半導体転写用フラックスシート11Aにおける面と反対側の面と、転写元基板2Aにおける半導体素子21Aを有する面とを対向させて間隙をおき配置する。
ここで、
図1(a)に示す転写元基板2Aは、素子一時保持基板23Aの片面に形成された粘着層22Aに保持された半導体素子21Aを有する。
(ii)
図1(b)に示す転写先基板1Aにおけるフラックスシート11Aに、転写元基板2Aにおける半導体素子21Aを接触させる。
(iii)
図1(c)に示すように転写元基板2Aにおける半導体素子21Aが形成された面と反対側の面から、所望する一つまたは二つ以上の半導体素子の位置にエネルギー線(レーザー等)3を照射する。エネルギー線(レーザー等)3の照射により、
図1(d)に示すように転写元の転写元基板2Aから半導体素子21Aを離隔させ、離隔した半導体素子21Aは、転写先のフラックスシート11Aに接着し、転写する。
(iv)離隔した半導体素子21Aを転写した後、
図1(e)に示すように半導体素子21Aとは別の半導体素子21Bを素子一時保持基板23Bに保持する転写元基板2Bを所望する位置に移動し、転写元基板2Bにおける半導体素子21Bをフラックスシート11Aに接触させる。接触後、
図1(g)および(h)に示すように、上記(iii)を繰り返す。
(v)上記(iii)、(iv)、および、必要に応じ上記(ii)を繰り返し、転写先基板1Bの所望する位置の全てに半導体素子を転写し、配置する。(図示せず)
【0093】
転写先基板1Aにおける配線基板12Aは、一つ以上の電極を備える基板である。電極表面には、はんだとの濡れ性を向上させるため、各種の表面処理(例えば、UBM層やSurface finish層等の形成)を有していてもよい。
【0094】
転写元基板2A及び2Bにおける素子一時保持基板23A及び23Bは、例えば、サファイヤ基板、石英ガラス、ガラス、プラスチックのいずれであってもよい。素子一時保持基板23Aと半導体素子21Aとの離隔及び素子一時保持基板23Bと半導体素子21Bとの離隔は、エネルギー線(レーザー等)3の照射によって、粘着層22A及び22Bを構成する成分が、例えば、分解(および発泡)凝集または軟化・溶融によって生じる。
このため、エネルギー線(レーザー等)のエネルギーを効率的に粘着層22A及び22Bに吸収させるため、素子一時保持基板23A及び23Bは、エネルギー線を透過するもの又は吸収が低いものであることが好ましい。
【0095】
転写元基板2A及び2Bにおける粘着層22A及び22Bを構成する成分は、粘着剤成分を含む。粘着剤成分として、例えば、シリコーン、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール系重合体およびビニルピロリドン系重合体が挙げられる。また、粘着層22A及び22Bを構成する成分は、エネルギー線(レーザー)によって、発泡する成分または凝集を促進する架橋する成分を含んでいてもよい。
【0096】
エネルギー線としては、例えば、レーザーが挙げられる。レーザーとしては、例えば、エキシマレーザーおよび高調波YAGレーザーが挙げられる。
【0097】
上記の接触転写工程における素子一時保持基板に形成された半導体素子の全てにエネルギー線(レーザー)を照射し、一括して半導体素子を転写してもよい。
また、上記の接触転写工程における(iv)において、転写元基板2Bの代わりに、又は転写元基板2Bともに、転写先基板1Aを移動させてもよい。
【0098】
さらに、上記の接触転写における転写元基板(2A、2B)の代わりに、又は転写元基板(2A、2B)とともに、素子形成基板を使用することができる。
例えば、素子形成基板は、サファイヤ基板上に導電層等の各種層を有する積層体を形成し、この積層体に半導体の結晶を成長等させ、発光ダイオードを形成したものが挙げられる。サファイヤ基板をとおして、結晶にレーザーを照射すると、サファイヤ基板との界面部分にある層の表面が分解することによって、発光ダイオードを離隔させることができる。
【0099】
上記転写工程の説明において、転写元基板から半導体素子を離隔させる方法として、エネルギー線(レーザー等)を照射させることにより、転写元基板の粘着力を弱めて半導体素子を離隔させる方法を記載したが、転写元基板から半導体素子を離隔させる方法は、これに限定されるものはなく、これ以外の公知の方法を採用することができる。例えば、
図1の(b)に示すように、転写元基板2Aの半導体素子21Aを転写先基板1Aに設けられた本発明の半導体転写用フラックスシート11Aに接触させる。この後、
図1(c)においてエネルギー線3を照射しているが、当該エネルギー線3の照射を行わず、
図1(d)に示すように、転写元基板2Aを転写先基板1Aから離すと、転写元基板2Aに保持されていた半導体素子21Aが転写元基板1Aに転写される。これは、転写元基板の粘着層22Aの粘着力や強度より、転写先基板1Aに設けられた本発明の半導体転写用フラックスシート11Aの粘着力や強度が強いため、エネルギー線3の照射を行わなくても、半導体素子21Aの転写を行うことができるからである。
【0100】
転写先基板上に半導体素子等を配置する方法としては、例えば、チップ部品を搭載する場合はチップマウンター、半導体チップを搭載する場合はフリップチップボンダー等の装置を使う方法もある。チップマウンターやフリップチップボンダー等の装置を使用する場合、チップ部品や半導体チップ等は、装置が備えている、吸着によりチップ部品や半導体チップ等を持ち上げる吸着部によって、装置に持ち上げられます。装置は、吸着部により持ち上げたチップ部品や半導体チップ等を転写先基板に配置し、真空破壊という弱い圧力で吸着部よりチップ部品や半導体チップ等を離し、転写先基板にチップ部品や半導体チップ等を配置する。
【0101】
<(3)リフローはんだ付け工程>
素子を配線用基板に電気的に接合させるリフローはんだ付け工程では、本発明のフラックスシートは、軟化溶融する。素子と配線用基板との間にあった本発明のフラックスシートが軟化溶融することによって、素子のバンプと配線用基板の電極とが物理的に接触するとともに、溶融したはんだにより接合する。本発明のフラックスシートは、フラックス作用を有する成分を含有することから、端子の金属酸化物を還元または除去し、はんだによる接合不良を抑制する。
リフローはんだ付け工程の最高温度は、はんだの種類および半導体の耐熱性によって選択されるが、例えば、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上がさらに好ましい。
150℃以上であれば、はんだの濡れ不足での接続不良を防ぐため好ましい。
また、リフローはんだ付け工程の温度は、260℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。
260℃以下であれば、歪みなどを防いで良好なはんだ接合性のため好ましい。
【0102】
<(4)洗浄工程>
本発明のフラックスシートは、リフロー工程後に残存する。したがって、フラックスシート残渣を洗浄によって取り除く。
洗浄は、イオンを除いた水(超純水、イオン交換水および蒸留水等)のみを用いてもよく、水溶性有機溶媒と水との混和物を使用してもよいが、環境負荷が低く、入手しやすいとの観点から、イオンを除いた水のみが好ましい。以下、イオンを除いた水および水溶性有機溶媒と水との混和物を「水等」ともいう。前記水等には、水溶性粘着剤を加水分解する添加剤を加えてもよい。例えば、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼなどなどの加水分解酵素を挙げることができる。当該加水分解酵素を使用するときには、高い酵素活性を発現する最適なpH、温度領域で洗浄することが好ましく、また、酵素によってはCa2+などの添加剤などを加えることにより、より酵素活性を高めることもできる。
水溶性有機溶媒としては、アルコールおよびケトン等を挙げることができるが、好ましくはアルコールである。水溶性有機溶媒を用いる場合、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール等を挙げられ、ケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。イオンを除いた水と水溶性有機溶媒との混和物において、混合比は、特に制限はないが、環境負荷の低減の観点から、水溶性有機溶媒の比率が低いほうが好ましい。
また、前記水等には、市販のフラックス洗浄剤を加えて用いてもよい。前記フラックス洗浄剤としては、特に制限はないが、前記水等と混和するものが好ましい。また、前記フラックス洗浄剤を前記水等で希釈せず、そのまま用いてもよい。前記フラックス剤の前記水等への添加量としては、洗浄性向上の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、コストの観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
フラックス洗浄剤の市販品としては、パインアルファST-231(荒川化学株式会社製)などを使用できる。
【0103】
洗浄工程において、使用される水等の温度は、(A)水溶性粘着剤の溶解度により、選択される。例えば、水洗において使用される水等の温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。
10℃以上であれば、洗浄後の残渣がない、又は少なくなる傾向のため好ましい。
また、水洗において使用される水等の温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。
80℃以下であれば、エネルギー消費が少なく、低環境負荷のため好ましい。
また、加水分解酵素を用いる場合は、各酵素で活性の高い最適な温度範囲があるので、前記温度で洗浄するのが好ましい。
【0104】
(A)水溶性粘着剤にオキシアルキレン構造を有するビニルアルコール系重合体を用いたフラックスシートでは、水溶性に優れるため、ビニルアルコール繰り返し単位と未変性繰り返し単位のみからなる重合体に比較し、より低温の水等で洗浄することができる。
【0105】
<(5)乾燥工程>
配線用基板の乾燥工程は、遠心力で脱水を行う方法(スピンドライヤ)または揮発性が強く、水混和性の有機溶媒(イソプロパノール等)を用い、有機溶媒で洗浄後乾燥させる方法であってもよい。
【実施例0106】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の技術範囲が限定されるものではない。
【0107】
本発明で用いた測定方法および評価方法は以下のとおりである。
[1]測定方法
(1)ポリビニルアルコール系重合体のけん化度
第三の繰り返し単位(オキシアルキレン構造など)がある場合は、1H-NMR、前記繰り返し単位がない場合は、JIS K6726にてけん化度を求めた。
【0108】
(2)重合体の重量平均分子量
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)を用いた。
検出器:RI
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
標準物質:ポリスチレン
【0109】
(3)オキシアルキレン基の含有率
オキシアルキレン基の含有率は、1H NMRを用い、次式によって求めた値とした。
オキシアルキレンの含有率(%)=
[オキシアルキレン基を含む繰り返し単位数]/[全繰り返し単位数]×100
ここで、全繰り返し単位数は、オキシアルキレン基を含む繰り返し単位数、ビニルアルコール繰り返し単位数および両繰り返し単位以外の繰り返し単位数の合計を示す。
【0110】
(4)フラックスシートの組成
表4及び表5におけるフラックシートにおいて、フラックスシートに含まれる水分量は、カールフィッシャー法により測定した。また、(A)水溶性粘着剤及び、(B)フラックス剤は、フラックスシート製造の乾燥工程で、揮発等により系中から除かれることがないものとし、水以外の溶媒は、系中から全て除かれたものとして組成を計算した。
【0111】
[2]評価方法
(1)粘着性
プローブタックテスターの円柱状プローブ(φ=5mm)を、カバーフィルムを剥がして粘着面を露出したフラックスシート(厚さ20μm)に接触させ、25℃にて350gf/cm2で10秒加圧後、10mm/sで円柱状プローブを引き上げて、引き上げ時の最大荷重を粘着力として測定した。
試験を5回実施して、粘着力の平均値を算出した。
A:粘着力の平均値が、5N/cm2以上のとき
B:粘着力の平均値が、0.5N/cm2以上、5N/cm2未満のとき
C:粘着力の平均値が、0.5N/cm2未満のとき
【0112】
(2)強度
カバーフィルムを剥がして片側の粘着面を露出したフラックスシート(厚さ20μm)を、ガラス板(松浪硝子工業社製、製品名:マイクロスライドガラスS111、厚さ0.8~1.0mm)に室温(25℃)にて貼付し、カバーフィルムを剥がしてフラックスシートのもう一方の粘着面を露出させた。
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを、3mm×3cmに切り出し、PETフィルムの離型処理面の約2cmを、上記で露出させたフラックスシートの粘着面に押し当てて貼付した。
PETフィルムの残り約1cmを持ち手として、PETフィルムをフラックスシートから剥がした後、フラックスシートに貼付させていたPETフィルムの面に、フラックスシートが付着しているかどうかを目視で観察した。試験は、剥がす速度を変えて20回実施した。
A:20回の試験中全てで、PETフィルムの面に、フラックスシートの付着がないとき
B:20回の試験中5サンプル以下でPETフィルムの面の1~3か所にフラックスシートが付着しており、かつ、全ての付着物の大きさが1mm×1mmの正方形の中に納まるとき
C:上記A、B以外のとき
【0113】
(3)転写性
フラックスシート(厚さ20μm)の片面のカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)をはがして、ガラス板(松浪硝子工業社製、製品名:マイクロスライドガラスS111、厚さ0.8~1.0mm)に、常温(25℃)でローラーを用いて押し当てて、ラミネートした。ガラス板にラミネートしたフラックスシートのもう一方の片面のカバーフィルムはがして、粘着面を出して、転写先基板を作製した。
別のガラス板(松浪硝子工業社製、製品名:マイクロスライドガラスS111、厚さ0.8~1.0mm)に、搬送用のテープ(アズワン製ポリイミドテープPB416‐10‐30(ポリイミド基材の片面に粘着剤シリコーンを付着しているテープ、粘着力6.37N/25mm))の基材面をスライドガラス面に押し当て、粘着面を上面にした状態で仮置きし、搬送用のテープを引っ張りながら、搬送用のテープに対して垂直となるようにテープ2本で搬送用のテープをガラス板に貼りつけて固定して、転写元基板を作製した。チップが搬送用のテープに貼付できるように、テープ2本の間隔は、シリコンチップの幅より長くした。
8mm×8mm×厚さ0.42mm、5mm×5mm×厚さ0.42mm、または、2mm×2mm×厚さ0.42mmのサイズのシリコンチップを転写元基板の搬送用のテープに押し当てて、転写元基板に貼りつけた。
転写元基板を転写先基板と対向する位置に合わせて、チップ下面(搬送用テープに貼付した面と反対の面)を転写先基板のフラックスシートの粘着面と接触させて、その後、指で押し当てた。
転写先基板を固定した状態で、転写元基板を上に引き上げて、チップの転写を試みた。
上記の転写試験を10回実施し、シリコンチップが所望位置に転写されたかについて、評価した。また、シリコンチップの他に、0402チップ抵抗(パナソニック製角形チップ固定抵抗器ERJXG、サイズ:0.4mm×0.2mm×0.1mm(電極の厚さは0.13mm))を用いて、シリコンチップを用いたときと同様に評価した。
A:試験10回中、10回シリコンチップが所望位置に転写されたとき
B:試験10回中、8~9回シリコンチップが所望位置に転写されたとき
C:試験10回中、7回以下シリコンチップが所望位置に転写されたとき、又は、転写先基板のフラックスシートが破損等して転写不良が発生したとき
【0114】
(4)フラックス活性及びはんだ接合性
銅からなる電極の表面にSurface finish層(Cu/Ni/Au(Ni層の厚さ0.3μm、Au層の厚さ0.03μm))を形成したFR-4基板(ガラスエポキシ基板)に、フラックスシート(厚さ20μm)を常温(25℃)でローラーを用いて押し当てた後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がした。該フラックスシートを介して、基板のパッド上にはんだボールを搭載した。JEDECの推奨条件(
図2に示す)で、窒素雰囲気下、リフローはんだ付けを行った。
はんだボールは、直径760μmの合金組成がSn96.5質量%、Ag3.0質量%及び、Cu0.5質量%(Sn-3.0Ag-0.5Cu、以下、「SAC305」という。)のものを使用した。
ダイシェアテスター(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製、製品名:Dageシリーズ4000)にてボールのシェアテストを5回実施し、破断面を観察した。
A:5回全て凝集破壊のとき
B:2~4回が凝集破壊であり、その他は界面破壊のとき
C:1回が凝集破壊であり、その他は界面破壊のとき、または全て界面破壊のとき
【0115】
(5)洗浄性
上記フラックス活性の評価手順に従ってリフローはんだ付けを実施後、常温のイオン交換水、50℃のフラックス洗浄液(荒川化学工業株式会社製、パインアルファST-231をイオン交換水で希釈して20質量%として使用した)中で、10分間撹拌(200rpm)して、基板を洗浄した。洗浄後、基板表面を顕微鏡で観察した。
A:残渣が確認できないとき
B:残渣がはんだ端部などに少量(基板面積の10%未満)確認できるとき
C:残渣が基板全面にわたって(基板面積の10%以上)確認できるとき
【0116】
(6)プロセス適合性
転写工程、リフロー工程および洗浄工程を順次実施した場合のプロセスへの適合の評価をした。転写工程については、上記転写性の評価を、リフロー工程については、上記フラックス活性及びはんだ接合性の評価を、洗浄工程については、上記洗浄性の評価を用いて、プロセス適合性を評価した。
A:転写性の評価がAであり、フラックス活性の評価がAであり、かつ洗浄性の評価において、イオン交換水、フラックス洗浄剤の内で評価Aが1つ以上あるとき
B:転写性の評価がAであり、フラックス活性の評価がBであり、かつ洗浄性の評価において、イオン交換水、フラックス洗浄剤の内で、評価Aが1つ以上あるとき、又は、転写性の評価がAであり、フラックス活性の評価がBであり、かつ洗浄性の評価において、イオン交換水、フラックス洗浄剤の内で、評価Aが1つもなく、かつ評価Bが1つ以上あるとき
C:上記A及び、B以外の評価となったとき。
上記プロセス適合性の評価基準について、表1に示す。
【0117】
【0118】
表2及び表3は、実施例及び比較例のフラックスシートの製造に用いる成分及び割合を示したものである。表4及び表5は、実施例及び比較例のフラックスシートの各成分の質量に基づく比率と評価結果とを示したものである。なお、本発明における実施例においては、フラックスシートの強度を弱める液状成分を含まない。
【0119】
[実施例1]
(重合体の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計および圧力計を備えた反応器を窒素で置換した。メタノールおよび酢酸ビニルモノマーは、窒素ガスを吹き込むことによって、溶存酸素を置換した。
メタノール100質量部および酢酸ビニルモノマー(三菱ケミカル社製、製品名:酢酸ビニルモノマー(VEM))100質量部を、反応器に入れ、攪拌および加熱をした。
反応容器内の溶液が60℃となったところで、アゾビスイソブチロニトリル0.10質量部をメタノール50質量部に溶した液を添加し、3時間60℃で重合した。重合を冷却し、停止した。重合液をイオン交換水に投入し、ポリ酢酸ビニルを析出させた。ポリ酢酸ビニルはろ過で回収して、イオン交換水による洗浄で精製した後、真空下で50℃24時間乾燥させた。得られたポリ酢酸ビニル45質量部であった。
得られたポリ酢酸ビニル100質量部をメタノール286質量部に溶解させ、水酸化ナトリウム1.4gをメタノール12.6gに溶解させたアルカリ溶液を前記溶液に加えて40℃で30分間反応させ、けん化した。60質量%の酢酸水溶液を3.5g加えてけん化反応を停止した。
けん化後、析出させた重合体はろ過で回収して、メタノールによる洗浄で精製した後、真空下で60℃12時間乾燥させた。
乾燥後、ポリビニルアルコール55質量部を得た。けん化度は、51%、重量平均分子量Mwは11000、分子量分布Mw/Mnは2.1であった。
【0120】
(フラックスシートの製造)
ポリビニルアルコール100質量部、サリチル酸5質量部を、水/メタノール混合溶液(質量比1/1)300質量部に溶解させ、ポリビニルアルコール溶液を得た。
離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、6502)に、ポリビニルアルコール溶液を、アプリケータを使用し、塗布した。
80℃で乾燥し、膜厚が20μmのフラックスシートを得た。
[実施例2]
(重合体の製造)
実施例1において、酢酸ビニルモノマー100質量部の代わりに、酢酸ビニルモノマー77質量部及びポリオキシエチレンモノアリルエーテル(エチレンオキシドの平均付加モル数8、日油社製、製品名:ユニオックスPKA-5002)23質量部を用いた以外は、同様に行った。
乾燥後、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体55質量部を得た。
けん化度は、42%、重量平均分子量Mwは15000、分子量分布Mw/Mnは2.2であった。オキシアルキレン基の含有率は、3mol%であった。
【0121】
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体100質量部、アジピン酸7質量部を、水300質量部に溶解させたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0122】
[実施例3]
(重合体の製造)
実施例1において、酢酸ビニルモノマー100質量部の代わりに、酢酸ビニルモノマー44質量部およびエチレンオキシドモノメチルエーテルのメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数23、新中村化学社製、製品名:AM-230G)56質量部を用いた以外、同様に行った。
乾燥後、オキシアルキレン基含有ビニルアルコール系共重合体45質量部であった。
けん化度は、35%、重量平均分子量Mwは12000、分子量分布Mw/Mnは2.8であった。オキシアルキレン基の含有率は、5mol%であった。
【0123】
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体100質量部、コハク酸5質量部を、イオン交換水300質量部に溶解させたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0124】
[実施例4]
(重合体の製造)
実施例1において、酢酸ビニルモノマー100質量部の代わりに、酢酸ビニルモノマー77質量部及びポリオキシエチレンモノアリルエーテル(エチレンオキシドの平均付加モル数8、日油社製、製品名:ユニオックスPKA-5002)23質量部を用いて、また、アゾビスイソブチロニトリルは、0.20質量部を用いて、10時間50℃で重合した以外は、同様に行った。
乾燥後、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体75質量部を得た。
けん化度は、40%、重量平均分子量Mwは50000、分子量分布Mw/Mnは4.2であった。オキシアルキレン基の含有率は、4mol%であった。
【0125】
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体100質量部、コハク酸7質量部を、水300質量部に溶解させたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系共重合体溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0126】
[実施例5]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシエチレン基含有ビニルアルコール系重合体水溶液(三菱化学株式会社製、ゴーセノール(登録商標)LW-100、固形分40質量%、けん化度40%)625質量部(固形分100質量部)、アジピン酸7.5質量部を、イオン交換水475質量部に溶解したオキシエチレン基含有ビニルアルコール系重合体溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0127】
[実施例6]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシエチレン基含有ビニルアルコール系重合体水溶液(三菱化学株式会社製、ゴーセノール(登録商標)LW-200、固形分40質量%、けん化度50%)625質量部(固形分100質量部)、サリチル酸8質量部を、イオン交換水525質量部に溶解したオキシエチレン基含有ビニルアルコール系重合体溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0128】
[実施例7]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、ポリビニルアルコール(三菱ケミカル株式会社製、(登録商標)GL-03、けん化度88%)100質量部、マレイン酸3質量部を、イオン交換水200質量部に溶解したポリビニルアルコール溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。なお、ポリビニルアルコール(三菱ケミカル株式会社製、(登録商標)GL-03、けん化度88%)を常温のイオン交換水に溶かすときは、溶け残りが発生しやすいので、前記ポリビニルアルコール100質量部とイオン交換水200質量部を予め90℃で30分間溶解させた後、他の成分を加えた。
【0129】
[実施例8]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、ポリビニルピロリドン(第一工業製薬株式会社、K-30)100質量部、グルタル酸10質量部を、イオン交換水100質量部に溶解したポリビニルピロリドン溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0130】
[比較例1]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、オキシエチレン基含有ビニルアルコール系重合体水溶液(三菱化学株式会社製、ゴーセノール(登録商標)LW-100、固形分40量%、けん化度40%)250質量部(固形分100質量部)、アジピン酸8.5質量部及び、グリセリン30質量部を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0131】
[比較例2]
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、ポリアクリル酸系重合体水溶液(株式会社日本触媒製、アクアリックHL415(ポリアクリル酸、重量平均分子量Mw11700、固形分45.7%。以下、HL415とも称する。))219質量部(固形分100質量部)を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
【0132】
[比較例3]
(フラックスシートの製造)
実施例1におけるポリビニルアルコール溶液の代わりに、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ株式会社、品番1330)100質量部、アジピン酸5質量部を、イオン交換水1000質量部に溶解したカルボキシメチルセルロース溶液を用いた以外、同様にして、フラックスシートを得た。
用いたカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、1.2であった。
ここで、エーテル化度とは、セルロースの1つのグルコースに存在する3つの水酸基が平均どの程度エーテル化剤で置換されているかを表すものである。
【0133】
【表2】
PVA:ビニルアルコール系重合体(固形分)
PVP:ビニルピロリドン系重合体
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0134】
【表3】
PVA:ビニルアルコール系重合体(固形分)
PVP:ビニルピロリドン系重合体
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0135】
【表4】
PVA:ビニルアルコール系重合体
PVP:ビニルピロリドン系重合体
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0136】
【表5】
PVA:ビニルアルコール系重合体
PVP:ビニルピロリドン系重合体
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0137】
実施例と比較例1とを比較すると、比較例1は、液状の水溶性可塑剤であるグリセリンを含有しているため、強度が「C」となり、適した強度を有することができないことが分かる。また、適した強度を有することができないので、転写元基板と転写先基板との粘着性の差異によるチップの接触転写では、転写元基板に付着したチップを転写先基板に押し当てて、その後に転写元基板を引き上げるときに、転写先基板のフラックスシートの強度が低いために転写先基板のフラックスシートが破れてしまい、チップが転写先基板に転写されず、転写元基板に付着したままとなり、転写不良が発生しやすく、プロセス適合性も不良である。一方、本発明に係る実施例は、フラックスシートの強度を弱めるような液状成分を含有していないため、全ての評価において優れている。
実施例と比較例2とを比較すると、比較例2は、水溶性粘着剤(A)としてポリアクリル酸を使用したが、ポリアクリル酸は粘着性が全くなく、また、結晶性が高く、硬いシートのため粘着力が無く、粘着性や粘着力の差に起因する転写性において評価が悪い。それに伴い、プロセス適合性の評価も不良である。一方、本発明に係る実施例においては、いずれも優れた粘着性、転写性を有し、プロセス適合性も良好である。
実施例と比較例3とを比較すると、比較例3は、粘着性を有さず、また、リフローはんだ付け工程中において、天然高分子由来の材料を用いるため分子量が高くなり軟化しにくくなるため、フラックスシートの軟化が起こらず、部品が沈みこまず、フラックス活性の評価が悪いため、プロセス適合性も不良である。一方、実施例においては、優れた粘着力を有し、また、リフローはんだ付け工程中において、シートが軟化するため、フラックス活性及びはんだ接合性を発揮することができる。そのため、プロセス適合性が良好である。
実施例において、(A)水溶性粘着剤として、ポリエーテル側鎖含有PVAを用いた場合、ポリエーテル側鎖を有することで水溶性が向上する。また、水溶性が向上するため、より高分子量としても、水洗性を阻害されることがなく、高分子量としても良好な水洗性を発揮することができる。更に、高分子量とすると、本発明の半導体転写用フラックスシートの強度が向上するため、接触転写に用いた場合に、フラックスシートの破損等に起因する、転写不良の発生を防ぐことができる。
1A・・・転写先基板、11A・・・半導体転写用フラックスシート、12A・・・配線基板、2A,2B・・・転写元基板、21A,21B・・・半導体素子、22A,22B・・・粘着層、23A,23B・・・素子一時保持基板、3・・・エネルギー線