(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145334
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】イオンアシスト蒸着法およびプラズマプロセス装置用構造体
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20220926BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C23C14/06 P
H01L21/302 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046696
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】721002554
【氏名又は名称】つばさ真空理研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川道夫
(72)【発明者】
【氏名】佐草信之
(72)【発明者】
【氏名】岡田英一
【テーマコード(参考)】
4K029
5F004
【Fターム(参考)】
4K029AA07
4K029AA08
4K029BA41
4K029BA43
4K029BB02
4K029BB07
4K029CA01
4K029CA09
4K029DB21
4K029FA04
4K029FA05
4K029JA02
5F004BB13
5F004BB18
5F004BB29
5F004DA01
5F004DA23
5F004DA26
5F004DB01
5F004DB03
5F004DB07
(57)【要約】
【課題】本発明ではエージング時間を短縮するために初めから高周波導入窓の表面にYOxFyを成膜してエージング後の組成にしておくことでエージング時間を短縮することを目的とする。
【解決手段】イオンガンを用いてAr:O2=50:50で30分基板に照射して基板表面清浄化を行った後にY2O3を成膜速度8.6Å/秒で電子ビーム蒸着を行い、同時にイオンガンに酸素ガス40sccm、アルゴンガス2sccmを流し1000V,1100mAで酸素イオンを基板に照射する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナまたは石英の基板表面にY2O3膜とYOxFy膜を真空中で連続して形成する成膜方法であって、Y2O3を基板表面から固定条件で一定膜厚まで連続成膜した後に、エッチングをかけながらYOxFyの組成をY2O3からYF3までの間で任意に設定し成膜することを特徴とするイオンアシスト蒸着法。
【請求項2】
前記基板上に成膜するY2O3の膜厚を5~15μmかつ、前記Y2O3膜上に成膜するYOxFyの膜厚を1~5μmとすることを特徴とする請求項1記載のイオンアシスト蒸着法。
【請求項3】
前記基板上に成膜するY2O3上に成膜するYOxFyの組成のF比率を前記Y2O3界面から膜表面に行くに従い増加させて組成傾斜させることを特徴とする請求項1記載のイオンアシスト蒸着法。
【請求項4】
アルミナまたは石英表面にY2O3膜とYOxFy膜が連続して成膜されたことを特徴とするプラズマプロセス装置用構造体。
【請求項5】
前記プラズマプロセス装置用構造体は絶縁体であり、高周波導入窓およびマイクロ波導入窓であることを特徴とする請求項4記載の構造体。
【請求項6】
前記プラズマプロセス装置用構造体は絶縁体であり、主成分がアルミナであることを特徴とする請求項4記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に多結晶セラミックスをコートして、基材に機能が付与された複合構造物に関する。また、本発明は該複合構造物を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置に関する。特に、本発明は、半導体製造装置部材など、腐食性プラズマに曝される環境において用いられる耐パーティクル性に優れた複合構造物および該複合構造物を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在半導体の製造で誘導結合型プラズマエッチング装置(以後ICPと呼ぶ)を用いてSi、Si酸化膜、Si窒化膜な等をエッチングする工程があるが高周波を透過する高周波導入窓は通常焼結体のアルミナ上にY2O3膜を溶射(非特許文献1)もしくはAD法で成膜している。一部IAD法(非特許文献2)により成膜の開発が始まっている。しかし高周波導入窓の表面がフッ素プラズマやフッ素ラジカルで徐々にフッ化されてYOxFyとなっていくこれはx、yの値は使用されるエッチングプロセスガスの組成で決まりある一定の値で飽和、安定する。この表面のフッ素化の値が一定になるまでエージングと称してプラズマ放電を行い続ける。この表面な安定しないとフッ素ラジカルのチェンバー内での失活の状況が変化してエッチング速度が安定しない。長い場合はエージングが70時間に及ぶ場合もある。
またY2O3のままでは酸素欠損を生じて、欠損部分に水分が付着すると膜質の低下を招く。このために成膜後すぐに400℃程度でベーキングが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-012192
【特許文献2】韓国公開特許2013-0145725
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the Ceramic Society of Japan Vol.129 P.46 (2021)
【非特許文献2】Journal of Applied Physics Vol.117, 014903 (2015)
【非特許文献3】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.57 06JF04 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明ではエージング時間を短縮するために初めから高周波導入窓の表面にYOxFyを成膜してエージング後の組成にしておくことでエージング時間を短縮することを目的とする。
さらに表面にYOFが有る事で酸素欠損位置をFが補ってくれるため、成膜直後にベーキングが省略できる効果もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
イオンガンを用いてAr:O2=50:50で30分基板に照射して基板表面清浄化を行った後にY2O3を成膜速度8.6Å/秒で電子ビーム蒸着を行い、同時にイオンガンに酸素ガス40sccm、アルゴンガス2sccmを流し1000V,1100mAで酸素イオンを基板に照射する。
【発明の効果】
【0007】
Y2O3は結晶としては体心立方構造である。
図1に示す様にYを中心として酸素が各立方体の角に位置する。しかしYは6配位なので2つの頂点は酸素が無い状態である。この分電荷の中和に為にYは中心から少しずれて電気的に中性化している。逆を言うと2つの頂点は空位となっている為結晶内で酸素は比較的容易に動くことができる。
【0008】
特に結晶粒介の界面ではエネルギー的に不安定なので容易に酸素が膜から抜ける現象が起きる。フッ素を添加すると結晶的には斜方晶に変化する。斜方晶ではすべての頂点はO,Fで埋まっている。すなわちFは酸素欠損をうめる為にも役に立つ。
【0009】
また、
図2に示す様にY-Oの平衡状態図を見るとY2O3と言う形態しか存在しないが2295℃で高温相がある。これは斜方晶である。更に酸素が1%程度少ないと立方晶になることが解かる。
【0010】
IADでは酸素イオンが膜中に入りYもしくはO原子に衝突することでエネルギーを与えるがこの際Y原子に比べて酸素原子のが質量が小さいので遠くに散乱される。
【0011】
従って酸素イオンが停止して周囲を結晶化する時は周囲は酸素が少ない状態になっていると考えられる。実際成膜した膜もプラズマを使ったイオンプレーティング膜は透明だが斜方晶が混ざっている。これは酸素イオンエネルギーが小さく膜中で酸素の散乱が小さい為斜方晶が混ざっている為である。
【0012】
筆者たちの実験ではIADではイオンエネルギーを大きくするにしたがって応力が引っ張りから圧縮に替わり同時に着色は始まる。すなわち酸素イオンにより酸素欠損が起きていることに対応する。結晶としては体心立方のみとなる。
【0013】
更にイオン照射を増やすと(111)が優先配向して再稠密面に成る。
YOxFyの最終組成はエッチングプロセスで長時間使用した時の表面の状態で決まる。実際は表面からF化して内部に拡散していく。
【0014】
すなわちFの組成は表面ではyであるが膜の中に入るにつれてFは減少する。
エッチング装置のICP窓のコイルの直下の様なイオンでたたかれる部分はイオンの運動エネルギーで相転移を発生してパーティクル発生の可能性がある。
この状態を事前に成膜で作っておくことがエージング時間短縮につながる。
膜断面はFの組成傾斜膜の様になる。
【0015】
この際重要なことはYOFすなわちO:F=1:1を避ける事である。
YOFについては未だ詳細な点で不明なことが多いが、YOF膜は室温では斜方晶であるが
図3に示す様に500℃から600℃の間で相転移を起こし体積膨張をすることが報告されている。(非特許文献3)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図6】Y2O3およびYF3におけるYおよびOの積算膜厚
【
図7】実施例3に使用した簡易型エッチング装置の概略図
【
図8】積算エッチング時間に対するエッチング速度比
【発明を実施するための形態】
【0017】
25mm□、2mmtのアルミナ基板600φのSUS製のホルダーに搭載してIAD装置にセットして1時間真空排気後裏面のヒーターで300℃に加熱した。この状態で3時間真空排気を行った。装置の概略図を
図4に示す。
【0018】
電子ビーム加熱による蒸発源を2個搭載して、膜厚モニターは個々の蒸発源からの蒸発物が見えるように対置した。図示していないは開口率20%のフィルターがモニターの前面に設置されている。イオンガンは2個の蒸発源の中間に設置してある。分析用の試験基板はアルミナをくり抜いたホルダーに搭載してある。ヒーターはSUSのシースヒーターが巻いてあり500℃までの加熱が可能である。
【実施例0019】
実施例1
次に実験手順を示す。3時間排気後の真空度は1.3×10-4Paであった。その後イオンガンを用いてAr/酸素=50%/50%で合計30sccm流しイオン電流を1000V、1100mAで30分基板に照射して基板表面清浄化を行った。
【0020】
次にY2O3を成膜速度8.6Å/秒で電子ビーム蒸着を行い、同時にイオンガンに酸素40sccm、Ar2sccmを流し1000V,1100mAで酸素イオンを基板に照射した。この際蒸着材料の面と基板の距離は950mmである。
【0021】
基板の温度は成膜中一定になる様にIRモニターで測定しながら300℃に制御した。成膜速度は水晶振動子の膜厚計でモニターして電子ビームの出力にフィードバックし成膜速度の安定化を行った。成膜中は膜厚の均一化とイオン照射の均一化のためにホルダーの回転を行っている。ホルダーの回転10rpmで行った。
【0022】
通常の水晶振動子の膜厚計は3μm以上では周波数のずれが大きくなり正確な測定ができなくなる。筆者らはモニターの前面に開口率20%になるように1mmtのSUS304の板に1mmφの穴を配置したフィルター板を設置して入射量を制限して10μmまで計測できるようにした。
【0023】
エッチング装置のICP窓のコイルの直下の様なイオンでたたかれる部分はイオンの運動エネルギーで相転移を発生してパーティクル発生の可能性がある。このようにしてY2O3を9μm成膜した後、YOFを1μm成膜した。この際Y2O3は成膜速度を徐々に低下させ、1時間で4.2/secにした。成膜速度の低下は線形に低下させた。
【0024】
一方、もう一つの蒸発源でYF3を蒸発させて1時間で0から4.1Å/sec迄線形に増加させた。合計での成膜速度はほぼ一定でO,Fの濃度だけが徐々に変化させた。
【0025】
図5および
図6に、Y2O3とYF3の成膜速度および積算膜厚を示す。この膜の表面をEDXで組成分析したところY:1,O=1.53at%,F=0.47at%であった。EDXでは深さ方向に0.2μm程度測定されているので表面よりは積算されて酸素が多く検出される。しかし、この方法で十分に表面にYOxFyの組成傾斜膜は形成できることがわかる。
【0026】
この膜の断面における、膜厚9μmから10μmまでを厚さ方向に対しEDXで酸素、フッ素の測定を行った。Y2O3および実施例1の積算エッチング時間に対するエッチング速度比(Yに対するFの比率)を
図7に示す。ほぼ設定通りに膜の表面に向かってFが増加してOが減少している。
【0027】
実施例2
実施例1と同条件でYF3の成膜を表面の0.5μmのみとした。すなわちY2O3を9.5μm成膜した後、実施例1と同じにY2O3を3.2から4.2Å/secまで線形に低下、一方でYF3を0から4.1Å/secまで線形に増加させた。
【0028】
この結果EDXで表面組成を測定したところY:1,O=1.22at%,F=0.78at%であった。表面にFが多いのでFが高めに出ている。以上よりY2O3とYF3の成膜速度を制御することで酸素とフッ素の比率を自由に制御できることが示された。
【0029】
実施例3
次に300mmφ用の簡易型エッチング装置を用いて成膜速度の変化を時間とともに調べた。
図7に実験に使用した簡易型エッチング装置の概略図を示す。チェンバー壁はできる限りアルミナで覆った。基板ステージはアルミ(A5052)に陽極酸化、上部は20mmtのアルミナを設置。このアルミナの上にSi基板を置いてRFコイルに2kW、13.56MHzを印加してプラズマを発生させた。Si基板と窓の距離は100mmとした。
【0030】
エッチングガスはCF4:100sccm,O2:70cm,Ar:10sccmである。表面保護膜がY2O3だけの場合と実施例1の膜でエッチング時間に伴うSi基板の中心と外周のエッチング速度を測定した。
【0031】
積算エッチング時間30時間の時のエッチング速度を1とした場合のエッチング速度の比を
図8に示す窓にY2O3成膜ではエッチング速度が安定するのに25時間要するが、実施例1では10時間で安定している。これは窓のY2O3が徐々にフッ化してFラジカルの量が安定しないためである。
【0032】
現在使用されている表面保護膜はY2O3であり、このように表面がフッ化するまで時間がかかるのが問題である。ここで使用するエッチングガスはCF4:100sccm,O2:50sccm,Ar:70cmで通常のCF4,O2でのエッチングより酸素を多めに入れてある。CF4でO2比率が20%ではY2O3の表面ほとんどYF3に近い状態までフッ化する。
【0033】
エッチングは使用するプロセスによりエッチングガス組成が大きく異なるが、実施例3ではエッチングストップが使えるように酸素を多めに入れて試験した。以上から解ることは、エッチングガスの組成を制御することにより、YOxFyの組成を最適化する必要があることは容易に想像される。
【0034】
一方、表面一定組成のYOxFyを成膜してもエッチング工程で膜の深さ方向にFが拡散していくことも報告されている。(非特許文献2)。エッチング工程によって最終的には組成傾斜膜になるが、はじめから組成傾斜膜にしておくことで、より安定化できる。
【0035】
また、真空中で連続で処理する理由はY2O3膜は一度大気に出して室温迄低下すると空気中の水分を吸着してしまうため、水の影響を避けるために真空中で連続成膜を行うことが好ましい。