(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145343
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20220926BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20220926BHJP
B60T 8/32 20060101ALI20220926BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T1/06 G
B60T8/32
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046707
(22)【出願日】2021-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 雅浩
【テーマコード(参考)】
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D246AA01
3D246BA01
3D246EA11
3D246GC09
3D246HA25A
3D246JB02
3D246LA03Z
5H125AA01
5H125BA00
5H125DD01
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】パーキングロック装置を確実にロック可能にしつつ、ラチェット速度を効果的に低く設定する。
【解決手段】駆動輪に動力を伝達可能なシャフト18に設けられたパーキングギヤ41にパーキングポール43の爪部43Aを係合させることにより、シャフト18の回転をロックするパーキングロック装置40を搭載した車両の制御装置であって、車両が停車した際にパーキング要求がなされると、シャフト18に設けられたパーキングギヤ41の加速度を演算すると共に、演算した加速度が所定のラチェット速度以上の場合には、シャフト18に動力を伝達可能な駆動装置を駆動させてパーキングギヤ41の加速度をラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施する制御部110を備えた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に動力を伝達可能なシャフトに設けられたパーキングギヤにパーキングポールの爪部を係合させることにより、該シャフトの回転をロックするパーキングロック装置を搭載した車両の制御装置であって、
前記車両が停車した際にパーキング要求がなされると、前記シャフトに設けられた前記パーキングギヤの加速度を演算すると共に、演算した前記加速度が所定のラチェット速度以上の場合には、前記シャフトに動力を伝達可能な駆動装置を駆動させて前記パーキングギヤの加速度を前記ラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施する制御部を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両のフットブレーキ装置がONの場合には、前記加速度減少制御を実施しない
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記パーキングロック装置がロックを確立すると、前記加速度減少制御を終了する
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、前記車両に搭載された電子制御ブレーキシステム及び、又は電動モータである
請求項1から3の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
駆動輪に動力を伝達可能なシャフトに設けられたパーキングギヤにパーキングポールの爪部を係合させることにより、該シャフトの回転をロックするパーキングロック装置を搭載した車両の制御方法であって、
前記車両が停車した際にパーキング要求がなされると、前記シャフトに設けられた前記パーキングギヤの加速度を演算すると共に、演算した前記加速度が所定のラチェット速度以上の場合には、前記シャフトに動力を伝達可能な駆動装置を駆動させて前記パーキングギヤの加速度を前記ラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施する
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置及び、制御方法に関し、特に、パーキングロック装置を搭載した車両の制御に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーキングロック装置は、変速機のアウトプットシャフトに設けられたパーキングギヤにパーキングポールの爪を係合させることにより、アウトプットシャフトの回転をロックするよう構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両が例えば坂道等に停車した場合において、パーキング要求がなされてからパーキングロック装置がロックを確立するまでの間に車両が動いてしまうと、駆動輪の回転に伴い、アウトプットシャフトに固定されているパーキングギヤも回転してしまう。
【0005】
このような状況で、パーキングギヤの歯間とパーキングポールの爪とが完全に対向して係合可能となるまでの間に、パーキングギヤの回転速度が所定速度以上に上昇してしまうと、パーキングポールの爪がパーキングギヤから弾かれる所謂ラチェッティング現象が発生する場合がある。以下では、このラチェッティング現象が発生するパーキングギヤの回転速度(最低回転速度)を、ラチェット速度という。
【0006】
ラチェット速度を高く(歯間を広く)設定すれば、坂道等においてもパーキングロック装置を確実にロックすることが可能となる。しかしながら、ラチェット速度を高くすると、パーキングギヤの歯間が広くなることで、ロックした瞬間に車両が前後に揺れ動いたり、或いは、平坦路で微速走行中にレバーの誤操作等によりロックしたり、パーキングギヤの強度が低下するといった課題がある。このため、ラチェット速度は低く設定することが望ましいが、パーキングギヤの歯間を狭くすると、坂道等でパーキング装置を確実にロックできなくなる可能性もある。
【0007】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、パーキングロック装置を確実にロック可能にしつつ、ラチェット速度を効果的に低く設定することができる車両の制御装置及び、制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の制御装置は、駆動輪に動力を伝達可能なシャフトに設けられたパーキングギヤにパーキングポールの爪部を係合させることにより、該シャフトの回転をロックするパーキングロック装置を搭載した車両の制御装置であって、前記車両が停車した際にパーキング要求がなされると、前記シャフトに設けられた前記パーキングギヤの加速度を演算すると共に、演算した前記加速度が所定のラチェット速度以上の場合には、前記シャフトに動力を伝達可能な駆動装置を駆動させて前記パーキングギヤの加速度を前記ラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施する制御部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記制御部は、前記車両のフットブレーキ装置がONの場合には、前記加速度減少制御を実施しないことが好ましい。
【0010】
また、前記制御部は、前記パーキングロック装置がロックを確立すると、前記加速度減少制御を終了することが好ましい。
【0011】
また、前記駆動装置は、前記車両に搭載された電子制御ブレーキシステム及び、又は電動モータであることが好ましい。
【0012】
本開示の制御方法は、駆動輪に動力を伝達可能なシャフトに設けられたパーキングギヤにパーキングポールの爪部を係合させることにより、該シャフトの回転をロックするパーキングロック装置を搭載した車両の制御方法であって、前記車両が停車した際にパーキング要求がなされると、前記シャフトに設けられた前記パーキングギヤの加速度を演算すると共に、演算した前記加速度が所定のラチェット速度以上の場合には、前記シャフトに動力を伝達可能な駆動装置を駆動させて前記パーキングギヤの加速度を前記ラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、パーキングロック装置を確実にロック可能にしつつ、ラチェット速度を効果的に低く設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る車両に搭載されたパーキングロック装置を示す模式的な斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る車両の制御装置及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る加速度減少制御の処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る車両の制御装置及び、制御方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[パーキングロック装置]
図1は、本実施形態に係る車両に搭載されたパーキングロック装置40を示す模式的な斜視図である。
【0017】
パーキングロック装置40は、車両に搭載された不図示の変速機のアウトプットシャフト18(本開示のシャフトの一例)に固定されたパーキングギヤ41と、パーキングギヤ41と選択的に係合する爪部43Aを有するパーキングポール43と、パーキングポール43をパーキングギヤ41に向けて押圧するカム44を有するパーキングロッド45と、カム44を付勢するスプリング45Aと、カム44を支持するブロック46と、リンクレバー50と、ワイヤ48とを備えている。
【0018】
パーキングポール43は、軸42を介して変速機ケース11に揺動自在に支持されている。リンクレバー50は、第1レバー部51と、第2レバー部52と、支持軸58とを有する。
【0019】
第2レバー部52は、第1レバー部51よりも長く形成されている。支持軸58は、第1レバー部51の一端側と、第2レバー部52の軸方向の略中間部位とを接続する。支持軸58は、変速機ケース11に回転可能に支持されている。
【0020】
第2レバー部52の下端部には、パーキングロッド45のカム44とは反対側の基端部が回動可能に連結されている。第1レバー部51の下端部は、ワイヤ48等を介してシフト操作装置80の操作レバー81に連結されている。
【0021】
操作レバー81がパーキングレンジPに操作(図中矢印A1方向)されると、リンクレバー50の回動に伴いパーキングロッド45及びカム44が図中矢印A2方向に移動し、パーキングポール43がカム44によってパーキングギヤ41に向けて押圧される。これにより、パーキングポール43の爪部43Aがパーキングギヤ41と係合し、パーキングギヤ41及びアウトプットシャフト18の回転をロックすることで、パーキング状態が確立される(ロック確立)。
【0022】
一方、操作レバー81がパーキングレンジPから他のレンジ(例えば、ニュートラルN、リバースR、ドライブD等)に操作(図中矢印B1方向)されると、リンクレバー50の回動に伴いパーキングロッド45及びカム44が図中矢印B2方向に移動し、カム44によるパーキングポール43の押圧が解除される。これにより、パーキングポール43が自重によりパーキングギヤ41から離反し、爪部43Aとパーキングギヤ41との係合が解放されることで、パーキング状態が解除されるようになっている(ロック解除)。
【0023】
[制御装置]
図2は、本実施形態に係る車両の制御装置100及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【0024】
制御装置100は、例えば、コンピュータ等の演算を行う装置であり、互いにバス等で接続されたCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備え、プログラムを実行する。この制御装置100には、各種センサ類90~94、加速度減少装置60等が接続されている。また、制御装置100は、プログラムの実行により、加速度減少制御部110(本開示の制御部)を備える装置として機能する。
【0025】
車速センサ90は、アウトプットシャフト18(
図1参照)又はプロペラシャフトから車両の車速を検出する。なお、車速センサ90は、車輪速センサであってもよい。勾配センサ91は、車両が位置する路面の勾配(角度又は度合い)を取得する。車重センサ92は、車両の重量(以下、車重)を取得する。ポジションセンサ93は、シフト操作装置80の操作レバー81(
図1参照)の操作位置(レンジ)を取得する。ブレーキセンサ94は、乗員により操作されるフットブレーキ装置のON/OFFを取得する。
【0026】
加速度減少装置60は、パーキングギヤ41が設けられたアウトプットシャフト18に動力を伝達可能な装置であって、例えば、EBS(電子制御ブレーキシステム)や電動モータ等が挙げられる。電動モータの場合、車両は電気自動車又はハイブリッド車の何れであってもよい。
【0027】
加速度減少制御部110は、パーキング要求がなされた際に、パーキングギヤ41が設けられたアウトプットシャフト18の加速度を減少させるよう加速度減少装置60を駆動する加速度減少制御を実施する。
【0028】
具体的には、加速度減少制御部110は、車両が坂道等で停車した際に、パーキング要求がなされると、パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度以上か否かを判定する。パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度以上であり、且つ、フットブレーキがOFFの場合、加速度減少制御部110は、パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度よりも低くなるように、加速度減少装置60を駆動させる。これにより、パーキングギヤ41の歯間にパーキングポール43の爪部43Aが容易に係合できるようになり、パーキングロック装置40を確実にロックすることが可能となる。
【0029】
ここで、パーキング要求がなされたか否かは、ポジションセンサ93で検出すればよく、車両が停車したか否かは、車速センサ90で検出すればよい。また、パーキングギヤ41の加速度は、勾配センサ91で取得される路面の勾配及び、車重センサ92で取得される車重等から演算すればよい。また、フットブレーキ装置のON/OFFは、ブレーキセンサ94で検出すればよい。
【0030】
次に、
図3に基づいて、本実施形態に係る加速度減少制御の処理の流れを説明する。
【0031】
ステップS100では、車速センサ90のセンサ値に基づいて、車両が停車したか否かを判定する。車速センサ90のセンサ値が0(ゼロ)の場合、すなわち、車両が停車している場合(Yes)、本制御はステップS110に進む。一方、車速センサ90のセンサ値が0(ゼロ)よりも大きい場合、すなわち、車両が停車していない場合(No)、本制御はリターンされる。
【0032】
ステップS110では、ポジションセンサ93の検出信号に基づいて、操作レバー81がパーキングレンジPに操作されたか否か、すなわち、パーキング要求がなされたか否かを判定する。パーキング要求がなされた場合(Yes)、本制御はS110に進む。一方、パーキング要求がなされていない場合(No)、本制御はステップS100の処理に戻される。
【0033】
ステップS120では、ブレーキセンサ94の検出信号に基づいて、フットブレーキ装置がONか否かを判定する。フットブレーキ装置がONの場合(Yes)、本制御はステップS100の処理に戻される。一方、フットブレーキ装置がONでない場合、すなわち、フットブレーキ装置がOFFの場合(No)、本制御はステップS130に進む。
【0034】
ステップS130では、路面の勾配や車重に基づいて、パーキングギヤ41の加速度を演算する。次いで、ステップS140では、ステップS130で演算した加速度が所定のラチェット速度以上か否かを判定する。加速度がラチェット速度以上の場合(Yes)、本制御はステップS150の処理に進む。一方、加速度がラチェット速度未満の場合(No)、本制御はリターンされる。
【0035】
ステップS150では、パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度よりも低くなるように加速度減少装置60を駆動する加速度減少制御を実行する。次いで、ステップS160では、パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度よりも低くなったか否かを判定する。加速度がラチェット速度よりも低くなった場合(Yes)、本制御はステップS170に進む。一方、加速度がラチェット速度以上の場合(No)、本制御はステップS150の処理を継続する。
【0036】
ステップS170では、パーキングロック装置40のロックが確立したか否かを判定する。ロックが確立したかは、車速センサ90の検出信号に基づいて、アウトプットシャフト18の回転が停止したか否かに基づいて判定すればよい。ロックが確立した場合(Yes)、本制御はステップS180に進み、加速度減少装置60の駆動を停止し、その後、リターンされる。一方、ロックが確立していない場合(No)、本制御はステップS150の処理に戻される。すなわち、パーキングロック装置40がロックするまで、加速度減少制御を継続して実行する。
【0037】
以上詳述した本実施形態によれば、車両が坂道等で停車してパーキング要求がなされた際に、パーキングギヤ41の加速度がラチェット速度以上の場合には、加速度減少装置60からアウトプットシャフト18に動力を伝達し、パーキングギヤ41の加速度をラチェット速度よりも低下させる加速度減少制御を実施するように構成されている。
【0038】
これにより、ラチェット速度を低く(パーキングギヤ41の歯間を狭く)設定しても、坂道などでパーキングロック装置40を確実にロックすることが可能となる。また、ラチェット速度を低くできることで、パーキングギヤ41の強度も確実に確保することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態によれば、パーキング要求がなされた際に、フットブレーキ装置がONであれば、アウトプットシャフト18等に動力を伝達する加速度減少制御を実施しないように構成されている。
【0040】
これにより、フットブレーキ装置により駆動輪がロックされた状態で、アウトプットシャフト18やプロペラシャフトに動力が伝達されることを効果的に防止できるようになり、これらシャフトの捩じれや、その後にパーキングロック装置40が解除された際の異音の発生を効果的に防止することも可能となる。
【0041】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変形して実施することが可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態において、加速度減少装置60は、EBS(電子制御ブレーキシステム)や電動モータを一例に説明したが、パーキングギヤ41が設けられているアウトプットシャフト18に動力を伝達可能な装置であれば、他の駆動装置を用いてもよい。
【0043】
また、パーキングロック装置40のパーキングギヤ41は、アウトプットシャフト18に設けられるものとして説明したが、車両の駆動輪に動力伝達可能に接続されたシャフトであれば、プロペラシャフト等の他のシャフトに設けられてもよい。
【0044】
また、パーキング装置40は、図示例の構造に限定されず、他の構造のパーキング装置にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
18 アウトプットシャフト(シャフト)
40 パーキングロック装置
41 パーキングギヤ
43 パーキングポール
43A 爪部
44 カム
45 パーキングロッド
46 ブロック
48 ワイヤ
50 リンクレバー
60 加速度減少装置
81 操作レバー
90 車速センサ
91 勾配センサ
92 車重センサ
93 ポジションセンサ
94 ブレーキセンサ
100 制御装置
110 加速度減少制御部