(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145369
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】サスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/0165 20060101AFI20220926BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B60G17/0165
B60G17/015 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021078830
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】513027329
【氏名又は名称】株式会社福島研究所
(71)【出願人】
【識別番号】514267179
【氏名又は名称】芝端 康二
(72)【発明者】
【氏名】福島 直人
(72)【発明者】
【氏名】芝端 康二
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA11
3D301AA12
3D301AA13
3D301CA01
3D301DA08
3D301DA29
3D301DA30
3D301DA33
3D301DA35
3D301DA50
3D301DA51
3D301DA57
3D301DA64
3D301EA04
3D301EA05
3D301EA06
3D301EA10
3D301EA11
3D301EA12
3D301EB05
3D301EB08
3D301EB16
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC10
3D301EC17
3D301EC54
3D301EC55
3D301EC67
(57)【要約】
【課題】車両の乗り心地を向上するアクティブサスペンションはすでに多くの種類があり商品化されている。しかし従来のアクティブサスペンションは、1~10Hzの周波数域では効果を出せるもののバネ下共振周波数(12Hz辺り)ではバネ上振動を低減させることは困難でありこのため乗心地改善にも限界があった。
【解決手段】本発明では、ショックアブソーバーと力制御型のアクチュエーターを直列に配置し、このショックアブソーバー筐体とアクチュエーター筐体を一体にしてこれを可動質量とし、この可動質量とバネ上質量との間をアクチュエーターロッドが繋ぎ、この可動質量とバネ下質量との間にはショックアブソーバーロッドとばねを設けた構造とした。これによりアクティブマスダンパーを構成しアクチュエーターを最適制御することでバネ下共振周波数を含む全周波数域でバネ上振動を低減させている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネ上(車体側)とバネ下(車軸側)に設置する車両のサスペンション制御装置にあって、バネ上質量とバネ下質量の双方の振動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を有し、この可動質量とバネ上およびバネ下とを繋ぐ要素として少なくとも一つのアクチュエーターと一つのショックアブソーバーを有することを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項2】
請求項1において、アクチュエーター筐体をバネ上にマウントし、アクチュエーターのロッドをショックアブソーバー筐体に固定し、ショックアブソーバーのロッドをバネ下にマウントすることでショックアブソーバー筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して独立した運動が可能な可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項3】
請求項1において、アクチュエーター筐体をバネ上にマウントし、ショックアブソーバー筐体をバネ下にマウントし、アククエーターロッドとショックアブソーバーロッドを固定しこの両ロッドと一体で動く付加質量を加えたことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項4】
請求項1において、アクチュエーター筐体をショックアブソーバーロッドに固定しアクチュエーターロッドをバネ上にマウントし、ショックアブソーバー筐体をバネ下にマウントすることでアクチュエーター筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項5】
請求項1において、アクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体を一体構造としアクチュエーターのロッドをバネ上にマウントし、ショックアブソーバーのロッドをバネ下にマウントすることで一体構造筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項6】
請求項2と5の構成において、ショックアブソーバー筐体部を摺動させる外筒を設置し、この外筒の下端はショックアブソーバーロッド先端部をバネ下へ取り付ける部材に固定されていることを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項7】
請求項1において可動質量を10Kg以上とすることを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項8】
請求項1から7において、少なくともバネ上振動とバネ下振動と可動質量振動および路面凹凸の値を計測あるいは推定する手段を有し、これらの計測値あるいは推定値を用いた演算によりアクチュエーターへの指令値を出力する制御装置を有することを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項9】
請求項8において、次式に示す制御則によりアクチュエーター発生力指令値を出力する制御装置を有することを特徴とするサスペンション制御装置。
【数1】
ただし、R
a、R
b、R
c、R
0は正の定数、H
c、H
0はローパスフィルタ特性である。
計測値もしくはその推定値である。路面凹凸信号を使わない場合は数式1の右辺第4項は
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り心地性能向上を目的としたサスペンション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は車両の乗り心地性能向上を目的としたサスペンション制御装置に関するもので、特許文献1の改良に関する考案である。
ここで、背景技術として特許文献1の実施例3を説明する。特許文献1の
図3を本出願の
図1として再掲載し、特許文献1の
図9、10を本出願の
図2、3として再掲載する。符合も特許文献1に合わせている。
【0003】
図1において25はモーターコイルである。24が回転磁石でボールねじメス側22と一体に回転する。
ボールねじメス側22の回転に応じてボールねじオス側26はねじ留めされたショックアブソーバーピストンロッド30と一体に図中上下にストロークすることでアクチュエーターを構成している。
【0004】
図2はこの装置のモデルと制御ブロック図を示す。
ここでM
1はバネ下質量、M
2はバネ上質量、M
rはボールねじオス側とショックアブソーバーロッドの合計質量、C
2はショックアブソーバー減衰定数、C
sはアクチュエーターフリクションの等価減衰定数、C
qはサスペンションフリクションの等価減衰定数、K
tはタイヤ縦バネ定数、K
2はサスペンションバネ定数、K
bはストッパーバネ定数、X
0は路面変位入力、x
1はバネ下変位、x
2はバネ上変位、x
rはショックアブソーバーロッド変位である。
【0005】
制御システムはバネ下加速度センサー90、バネ上加速度センサー91、ショックアブソーバーロッド加速度センサー92、コントローラー93、ボールねじ式アクチュエーター本体94からなる。
コントローラー93は各加速度センサー信号を積分して図のブロック線図に示す演算式により制御指令値Uを計算して出力する。アクチュエーター本体94は制御指令値Uを受けてこれに等しい力Faを発生させる。
【0006】
図3は
図2のモデルを用いたシミュレーションによりバネ上加速度のPSD(パワースペクトル密度)を計算した結果を示す。路面入力は良路走行を想定している。
車両諸元は小型乗用車のものを使用し、制御指令値のパラメータは図中に示した。制御なしサスペンション、従来アクティブサスペンションと比較して特許文献1のサスペンションの結果を示した。結果を見ると従来アクティブサスペンションと比較して1~10Hzの振動レベルが低減していることがわかる。ここでいう従来アクティブサスペンションの特性は非特許文献1から推測したものである。
【0007】
結果をみると、従来アクティブサスや特許文献1のアクティブサスは10Hz以下の周波数域では振動が低減しているものの、バネ下共振周波数(12Hz)では効果がほとんど見られないことから12Hz辺りにおけるバネ上振動低減の難しさが認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1を含めた従来のアクティブサスペンションは、10Hz以下の周波数域では効果を出せるもののバネ下共振周波数(12Hz)辺りではバネ上振動を低減させることは困難であり乗心地改善にも限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ショックアブソーバーとアクチュエーターを直列に配置し、バネ上質量とバネ下質量の運動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を有する構造とし、この可動質量をアクティブマスダンパーとして活用して課題解決を図っている。
【0010】
この構成においてアクチュエーターに適切な指令信号を加えて制御することで、従来のアクティブサスペンションに比べバネ下共振周波数を含む広い周波数域でバネ上振動を低減させることが可能となり、上記困難な課題を解決するための有効な手段となった。
【発明の効果】
【0011】
バネ上とバネ下振動に対して可動質量とするマスダンパーを適切な指令信号を加えて制御することで、従来のアクティブサスペンションに比べバネ下共振周波数を含む広い周波数域でバネ上振動を低減させることが可能となり大幅な乗り心地性能の向上が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】 従来のサスペンションモデルと制御ブロック図
【
図3】 従来のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
【
図6】 実施例1のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
【
図7】 実施例1のサスペンション制御装置のバネ下加速度PSD図
【
図9】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
【
図10】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ下加速度PSD図
【
図11】 実施例2のバネ上加速度におけるM
rの影響のPSD図
【
図12】 実施例2のバネ下加速度におけるM
rの影響のPSD図
【
図13】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ上伝達関数
【
図14】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ下伝達関数
【
図15】 実施例3のサスペンション制御装置断面図
【
図16】 実施例4のサスペンション制御装置断面図
【
図17】 実施例5のサスペンション制御装置断面図
【
図18】 実施例6のサスペンション制御装置断面図
【
図19】 実施例7のサスペンション制御装置断面図
【
図20】 実施例8のサスペンション制御装置断面図
【
図21】 実施例9のサスペンション制御装置断面図
【
図22】 実施例10のサスペンション制御装置断面図
【
図24】 エネルギー最適制御理論の本考案への適用図
【発明を実施するための形態】
【0013】
バネ上(車体側)とバネ下(車軸側)の間にアクチュエーターとショックアブソーバーを直列に置いた車両のサスペンション制御装置にあって、バネ上質量とバネ下質量の運動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を設けてアクティブマスダンパーを構成し、このアクチュエーターに適切な力指令信号を加えて制御するサスペンション制御装置を考案した。以下に実施例1から実施例10にて実施の形態を説明する。
尚、実施例1~7は請求項5に対応し、実施例2は請求項7にも対応し、実施例5は請求項6にも対応し、実施例8は請求項2に対応し、実施例9は請求項3に対応し、実施例10は請求項4に対応している。制御則に関する請求項8、9は段落番号44~53において解説した。
【実施例0014】
実施例1では、ショックアブソーバーとアクチュエーターを直列に配置し、このショックアブソーバー筐体とアクチュエーター筐体を一体にしてバネ上とバネ下の運動に対して可動質量とし、この可動質量とバネ上質量との間をアクチュエーターロッドが繋ぎ、この可動質量とバネ下質量との間にはショックアブソーバーロッドとバネを設けた構造とした。
図4に具体的な構成を示す。
図4の実施例1ではボールねじ方式アクチュエーターとブラダ11によるガス室12を構成したショックアブソーバーとを用いた実施例を示す。
図4において4はモーターコイルで筐体7に固定されている。3は回転磁石でボールねじメス側1と一体に回転する。ボールねじオス側2の上部はインシュレータ18を介してバネ上へ取り付けられている。ボールねじメス側1の回転に応じて筐体7は図中上下にストロークする。モーターの回転運動を直進運動に変換するボールねじは滑りネジに置き換えることもできる。
【0015】
ボールねじメス側1を回転するとボールねじオス側2との間に回転反力が生じる。この回転反力はボールねじ下部に設けた円盤状部材9に切り欠き部を設けこれと筐体内側に固定されたガイド8により受けとめる構造となっている。切り欠き部とガイド8はわずかな隙間が設定されており筐体7をスムーズに上下動させている。以上の1~9の部品でアクチュエーターが構成されている。
【0016】
筐体7はアクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体が一体化固定されたものであり、ショックアブソーバーのロッド17はショックアブソーバー筐体から下方に設定されこの下端はバネ下に取り付けるためのブッシュ19に固定されている。
【0017】
アクチュエーターおよびショックアブソーバーは伸び側と縮み側ともスムーズに衝撃なく所定のストロークに収まるようにストッパー5が設定されている。またショックアブソーバーにはコイルスプリング6が設けられピストンが常に中立位置にもどされるように設定されている。コイルスプリング6はショックアブソーバー内に設けられているがその作用はバネ下質量と筐体7の間の変位を中立位置にもどす働きである。
【0018】
ショックアブソーバーのピストン部にはポート13が設けられていてピストン上下の油室15は常に同圧力になっている。従ってショックアブソーバーの伸縮に伴いロッド17が出入りする容積分の油が減衰弁14を流れこれによって減衰力が生ずることになる。減衰弁14を出入りする油は別置きの油室10に出入りする。油室10の上方にはガス室12とガス室12と油室10を隔離するブラダ11が設けられている。また図示していないがガス室12と油室10を隔離するのはフリーピストンでも金属ベローズでもよい。またガス室12と油室10は油室6の上部に直列に設けても良い。
ロッドガイド&オイルシール16はロッド17の円滑な摺動と油の漏れを防止している。
【0019】
図4の実施例に示すユニットをサスペンションに組み込みこれをモデルで表示すると
図5のようになる。
ここでM
1はバネ下質量、M
2はバネ上質量、M
rはアクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体からなる可動質量、C
2はショックアブソーバー減衰定数、C
sはアクチュエーターの等価減衰定数、C
qはサスペンションフリクションの等価減衰定数、K
tはタイヤ縦バネ定数、K
2はサスペンションバネ定数、K
bはアクチュエーターのストッパーバネ定数、K
dはショックアブソーバーのストッパーとコイルスプリングの合計バネ定数、x
0は路面変位入力、x
1はバネ下変位、x
2はバネ上変位、x
rはアクチュエーター筐体部の変位である。
【0020】
図1の従来技術のモデルでは可動質量M
rはアクチュエーターロッドとショックアブソーバーロッドの合計質量で比較的小さく性能への貢献は期待できないが、本実施例では可動質量M
rはある程度大きく設定できている。この質量M
rがバネ上振動を抑えるアクチュエーターの制御力がバネ下に作用するのを低減し、バネ下振動を抑える減衰C
2の作用力がバネ上に及ぶのを低減している。
【0021】
制御システムはバネ下加速度センサー90、バネ上加速度センサー91、アクチュエーター筐体部加速度センサー96、コントローラー93、アクチュエーター本体94からなる。
コントローラー93は各加速度センサー信号を積分して図のブロック線図に示す演算式により制御指令値Uを計算して出力する。アクチュエーター本体94は制御指令値Uを受けてこれに等しい力Faを発生させる。
【0022】
次に
図5のモデルの運動方程式を記す。
バネ上質量の運動方程式は以下の通りである。
【数1】
バネ下質量の運動方程式は以下の通りである。
【数2】
質量M
rの運動方程式は以下の通りである。
【数3】
制御指令値Uは次式である。この指令値を受けてアクチュエーターはF
aを発生させる。
【数4】
【0023】
図6にバネ上振動特性のシミュレーション結果を示す。数式1、2、3の車両運動方程式と、数式4の制御指令値を用いている。車両諸元は小型乗用車のものを使用した。良路相当の路面入力を加えバネ上加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。
【0024】
図中の制御なしサスペンションは
図3と同一である。また図中のパッシブマスダンパー付きサスペンションは
図5の本考案サスペンション制御装置のアクチュエーター指令値U=0とした場合であって図示のようにバネ上とバネ下の間に質量M
rのマスダンパーを設定した場合に相当する。図中の破線は参考として
図3に示す特許文献1のアクティブサスペンションを再掲示したものである。これらと比較して本発明サスペンションの結果を示した。ここで制御則Uは数式(4)である。
【0025】
結果を見ると、パッシブマスダンパー付きサスペンションはバネ下共振での振動低減効果は多少認められるが10Hz以下での効果は少なく1Hz辺りでは効果は見られない。これに対し、本考案システムではバネ下共振周波数域での振動低減効果が顕著でありさらに10Hz以下の全周波数域において大幅な効果が見られる。参考に示した特許文献1のアクティブサスペンションに対しても特にバネ下共振周波数での振動低減効果は大きいことが分かる。
このように、従来技術ではバネ下共振周波数(12Hz)辺りではバネ上振動を低減させることは困難であり乗心地改善にも限界があったが、本考案システムによりこのような従来技術の課題を解決することができた。
【0026】
図7は良路相当の路面入力を入力しバネ下加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。本考案システムのバネ下振動への影響は小さく走行時のバタツキ感や接地性などの大きな問題は生じないことが分かる。