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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145369
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】サスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/0165 20060101AFI20220926BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B60G17/0165
B60G17/015 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021078830
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】513027329
【氏名又は名称】株式会社福島研究所
(71)【出願人】
【識別番号】514267179
【氏名又は名称】芝端 康二
(72)【発明者】
【氏名】福島 直人
(72)【発明者】
【氏名】芝端 康二
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA11
3D301AA12
3D301AA13
3D301CA01
3D301DA08
3D301DA29
3D301DA30
3D301DA33
3D301DA35
3D301DA50
3D301DA51
3D301DA57
3D301DA64
3D301EA04
3D301EA05
3D301EA06
3D301EA10
3D301EA11
3D301EA12
3D301EB05
3D301EB08
3D301EB16
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC10
3D301EC17
3D301EC54
3D301EC55
3D301EC67
(57)【要約】
【課題】車両の乗り心地を向上するアクティブサスペンションはすでに多くの種類があり商品化されている。しかし従来のアクティブサスペンションは、1~10Hzの周波数域では効果を出せるもののバネ下共振周波数(12Hz辺り)ではバネ上振動を低減させることは困難でありこのため乗心地改善にも限界があった。
【解決手段】本発明では、ショックアブソーバーと力制御型のアクチュエーターを直列に配置し、このショックアブソーバー筐体とアクチュエーター筐体を一体にしてこれを可動質量とし、この可動質量とバネ上質量との間をアクチュエーターロッドが繋ぎ、この可動質量とバネ下質量との間にはショックアブソーバーロッドとばねを設けた構造とした。これによりアクティブマスダンパーを構成しアクチュエーターを最適制御することでバネ下共振周波数を含む全周波数域でバネ上振動を低減させている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネ上(車体側)とバネ下(車軸側)に設置する車両のサスペンション制御装置にあって、バネ上質量とバネ下質量の双方の振動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を有し、この可動質量とバネ上およびバネ下とを繋ぐ要素として少なくとも一つのアクチュエーターと一つのショックアブソーバーを有することを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項2】
請求項1において、アクチュエーター筐体をバネ上にマウントし、アクチュエーターのロッドをショックアブソーバー筐体に固定し、ショックアブソーバーのロッドをバネ下にマウントすることでショックアブソーバー筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して独立した運動が可能な可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項3】
請求項1において、アクチュエーター筐体をバネ上にマウントし、ショックアブソーバー筐体をバネ下にマウントし、アククエーターロッドとショックアブソーバーロッドを固定しこの両ロッドと一体で動く付加質量を加えたことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項4】
請求項1において、アクチュエーター筐体をショックアブソーバーロッドに固定しアクチュエーターロッドをバネ上にマウントし、ショックアブソーバー筐体をバネ下にマウントすることでアクチュエーター筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項5】
請求項1において、アクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体を一体構造としアクチュエーターのロッドをバネ上にマウントし、ショックアブソーバーのロッドをバネ下にマウントすることで一体構造筐体がバネ上とバネ下の双方の振動に対して可動質量を構成したことを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項6】
請求項2と5の構成において、ショックアブソーバー筐体部を摺動させる外筒を設置し、この外筒の下端はショックアブソーバーロッド先端部をバネ下へ取り付ける部材に固定されていることを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項7】
請求項1において可動質量を10Kg以上とすることを特徴とする車両のサスペンション制御装置。
【請求項8】
請求項1から7において、少なくともバネ上振動とバネ下振動と可動質量振動および路面凹凸の値を計測あるいは推定する手段を有し、これらの計測値あるいは推定値を用いた演算によりアクチュエーターへの指令値を出力する制御装置を有することを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項9】
請求項8において、次式に示す制御則によりアクチュエーター発生力指令値を出力する制御装置を有することを特徴とするサスペンション制御装置。
【数1】
ただし、R、R、R、Rは正の定数、H、Hはローパスフィルタ特性である。
計測値もしくはその推定値である。路面凹凸信号を使わない場合は数式1の右辺第4項は
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り心地性能向上を目的としたサスペンション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は車両の乗り心地性能向上を目的としたサスペンション制御装置に関するもので、特許文献1の改良に関する考案である。
ここで、背景技術として特許文献1の実施例3を説明する。特許文献1の図3を本出願の図1として再掲載し、特許文献1の図9、10を本出願の図2、3として再掲載する。符合も特許文献1に合わせている。
【0003】
図1において25はモーターコイルである。24が回転磁石でボールねじメス側22と一体に回転する。
ボールねじメス側22の回転に応じてボールねじオス側26はねじ留めされたショックアブソーバーピストンロッド30と一体に図中上下にストロークすることでアクチュエーターを構成している。
【0004】
図2はこの装置のモデルと制御ブロック図を示す。
ここでMはバネ下質量、Mはバネ上質量、Mはボールねじオス側とショックアブソーバーロッドの合計質量、Cはショックアブソーバー減衰定数、Cはアクチュエーターフリクションの等価減衰定数、Cはサスペンションフリクションの等価減衰定数、Kはタイヤ縦バネ定数、Kはサスペンションバネ定数、Kはストッパーバネ定数、Xは路面変位入力、xはバネ下変位、xはバネ上変位、xはショックアブソーバーロッド変位である。
【0005】
制御システムはバネ下加速度センサー90、バネ上加速度センサー91、ショックアブソーバーロッド加速度センサー92、コントローラー93、ボールねじ式アクチュエーター本体94からなる。
コントローラー93は各加速度センサー信号を積分して図のブロック線図に示す演算式により制御指令値Uを計算して出力する。アクチュエーター本体94は制御指令値Uを受けてこれに等しい力Fを発生させる。
【0006】
図3図2のモデルを用いたシミュレーションによりバネ上加速度のPSD(パワースペクトル密度)を計算した結果を示す。路面入力は良路走行を想定している。
車両諸元は小型乗用車のものを使用し、制御指令値のパラメータは図中に示した。制御なしサスペンション、従来アクティブサスペンションと比較して特許文献1のサスペンションの結果を示した。結果を見ると従来アクティブサスペンションと比較して1~10Hzの振動レベルが低減していることがわかる。ここでいう従来アクティブサスペンションの特性は非特許文献1から推測したものである。
【0007】
結果をみると、従来アクティブサスや特許文献1のアクティブサスは10Hz以下の周波数域では振動が低減しているものの、バネ下共振周波数(12Hz)では効果がほとんど見られないことから12Hz辺りにおけるバネ上振動低減の難しさが認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1を含めた従来のアクティブサスペンションは、10Hz以下の周波数域では効果を出せるもののバネ下共振周波数(12Hz)辺りではバネ上振動を低減させることは困難であり乗心地改善にも限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ショックアブソーバーとアクチュエーターを直列に配置し、バネ上質量とバネ下質量の運動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を有する構造とし、この可動質量をアクティブマスダンパーとして活用して課題解決を図っている。
【0010】
この構成においてアクチュエーターに適切な指令信号を加えて制御することで、従来のアクティブサスペンションに比べバネ下共振周波数を含む広い周波数域でバネ上振動を低減させることが可能となり、上記困難な課題を解決するための有効な手段となった。
【発明の効果】
【0011】
バネ上とバネ下振動に対して可動質量とするマスダンパーを適切な指令信号を加えて制御することで、従来のアクティブサスペンションに比べバネ下共振周波数を含む広い周波数域でバネ上振動を低減させることが可能となり大幅な乗り心地性能の向上が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】 従来のサスペンション制御装置断面図
図2】 従来のサスペンションモデルと制御ブロック図
図3】 従来のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
図4】 実施例1のサスペンション制御装置断面図
図5】 実施例1のサスペンションモデル
図6】 実施例1のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
図7】 実施例1のサスペンション制御装置のバネ下加速度PSD図
図8】 実施例2のサスペンションモデル
図9】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ上加速度PSD図
図10】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ下加速度PSD図
図11】 実施例2のバネ上加速度におけるMの影響のPSD図
図12】 実施例2のバネ下加速度におけるMの影響のPSD図
図13】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ上伝達関数
図14】 実施例2のサスペンション制御装置のバネ下伝達関数
図15】 実施例3のサスペンション制御装置断面図
図16】 実施例4のサスペンション制御装置断面図
図17】 実施例5のサスペンション制御装置断面図
図18】 実施例6のサスペンション制御装置断面図
図19】 実施例7のサスペンション制御装置断面図
図20】 実施例8のサスペンション制御装置断面図
図21】 実施例9のサスペンション制御装置断面図
図22】 実施例10のサスペンション制御装置断面図
図23】 エネルギー最適制御理論の概要図
図24】 エネルギー最適制御理論の本考案への適用図
図25】 最適制御則中の偏微分項の伝達関数表示
【発明を実施するための形態】
【0013】
バネ上(車体側)とバネ下(車軸側)の間にアクチュエーターとショックアブソーバーを直列に置いた車両のサスペンション制御装置にあって、バネ上質量とバネ下質量の運動に対して独立した運動が可能な第三の可動質量を設けてアクティブマスダンパーを構成し、このアクチュエーターに適切な力指令信号を加えて制御するサスペンション制御装置を考案した。以下に実施例1から実施例10にて実施の形態を説明する。
尚、実施例1~7は請求項5に対応し、実施例2は請求項7にも対応し、実施例5は請求項6にも対応し、実施例8は請求項2に対応し、実施例9は請求項3に対応し、実施例10は請求項4に対応している。制御則に関する請求項8、9は段落番号44~53において解説した。
【実施例0014】
実施例1では、ショックアブソーバーとアクチュエーターを直列に配置し、このショックアブソーバー筐体とアクチュエーター筐体を一体にしてバネ上とバネ下の運動に対して可動質量とし、この可動質量とバネ上質量との間をアクチュエーターロッドが繋ぎ、この可動質量とバネ下質量との間にはショックアブソーバーロッドとバネを設けた構造とした。
図4に具体的な構成を示す。
図4の実施例1ではボールねじ方式アクチュエーターとブラダ11によるガス室12を構成したショックアブソーバーとを用いた実施例を示す。図4において4はモーターコイルで筐体7に固定されている。3は回転磁石でボールねじメス側1と一体に回転する。ボールねじオス側2の上部はインシュレータ18を介してバネ上へ取り付けられている。ボールねじメス側1の回転に応じて筐体7は図中上下にストロークする。モーターの回転運動を直進運動に変換するボールねじは滑りネジに置き換えることもできる。
【0015】
ボールねじメス側1を回転するとボールねじオス側2との間に回転反力が生じる。この回転反力はボールねじ下部に設けた円盤状部材9に切り欠き部を設けこれと筐体内側に固定されたガイド8により受けとめる構造となっている。切り欠き部とガイド8はわずかな隙間が設定されており筐体7をスムーズに上下動させている。以上の1~9の部品でアクチュエーターが構成されている。
【0016】
筐体7はアクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体が一体化固定されたものであり、ショックアブソーバーのロッド17はショックアブソーバー筐体から下方に設定されこの下端はバネ下に取り付けるためのブッシュ19に固定されている。
【0017】
アクチュエーターおよびショックアブソーバーは伸び側と縮み側ともスムーズに衝撃なく所定のストロークに収まるようにストッパー5が設定されている。またショックアブソーバーにはコイルスプリング6が設けられピストンが常に中立位置にもどされるように設定されている。コイルスプリング6はショックアブソーバー内に設けられているがその作用はバネ下質量と筐体7の間の変位を中立位置にもどす働きである。
【0018】
ショックアブソーバーのピストン部にはポート13が設けられていてピストン上下の油室15は常に同圧力になっている。従ってショックアブソーバーの伸縮に伴いロッド17が出入りする容積分の油が減衰弁14を流れこれによって減衰力が生ずることになる。減衰弁14を出入りする油は別置きの油室10に出入りする。油室10の上方にはガス室12とガス室12と油室10を隔離するブラダ11が設けられている。また図示していないがガス室12と油室10を隔離するのはフリーピストンでも金属ベローズでもよい。またガス室12と油室10は油室6の上部に直列に設けても良い。
ロッドガイド&オイルシール16はロッド17の円滑な摺動と油の漏れを防止している。
【0019】
図4の実施例に示すユニットをサスペンションに組み込みこれをモデルで表示すると図5のようになる。
ここでMはバネ下質量、Mはバネ上質量、Mはアクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体からなる可動質量、Cはショックアブソーバー減衰定数、Cはアクチュエーターの等価減衰定数、Cはサスペンションフリクションの等価減衰定数、Kはタイヤ縦バネ定数、Kはサスペンションバネ定数、Kはアクチュエーターのストッパーバネ定数、Kはショックアブソーバーのストッパーとコイルスプリングの合計バネ定数、xは路面変位入力、xはバネ下変位、xはバネ上変位、xはアクチュエーター筐体部の変位である。
【0020】
図1の従来技術のモデルでは可動質量Mはアクチュエーターロッドとショックアブソーバーロッドの合計質量で比較的小さく性能への貢献は期待できないが、本実施例では可動質量Mはある程度大きく設定できている。この質量Mがバネ上振動を抑えるアクチュエーターの制御力がバネ下に作用するのを低減し、バネ下振動を抑える減衰Cの作用力がバネ上に及ぶのを低減している。
【0021】
制御システムはバネ下加速度センサー90、バネ上加速度センサー91、アクチュエーター筐体部加速度センサー96、コントローラー93、アクチュエーター本体94からなる。
コントローラー93は各加速度センサー信号を積分して図のブロック線図に示す演算式により制御指令値Uを計算して出力する。アクチュエーター本体94は制御指令値Uを受けてこれに等しい力Fを発生させる。
【0022】
次に図5のモデルの運動方程式を記す。
バネ上質量の運動方程式は以下の通りである。
【数1】
バネ下質量の運動方程式は以下の通りである。
【数2】
質量Mの運動方程式は以下の通りである。
【数3】
制御指令値Uは次式である。この指令値を受けてアクチュエーターはFを発生させる。
【数4】
【0023】
図6にバネ上振動特性のシミュレーション結果を示す。数式1、2、3の車両運動方程式と、数式4の制御指令値を用いている。車両諸元は小型乗用車のものを使用した。良路相当の路面入力を加えバネ上加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。
【0024】
図中の制御なしサスペンションは図3と同一である。また図中のパッシブマスダンパー付きサスペンションは図5の本考案サスペンション制御装置のアクチュエーター指令値U=0とした場合であって図示のようにバネ上とバネ下の間に質量Mのマスダンパーを設定した場合に相当する。図中の破線は参考として図3に示す特許文献1のアクティブサスペンションを再掲示したものである。これらと比較して本発明サスペンションの結果を示した。ここで制御則Uは数式(4)である。
【0025】
結果を見ると、パッシブマスダンパー付きサスペンションはバネ下共振での振動低減効果は多少認められるが10Hz以下での効果は少なく1Hz辺りでは効果は見られない。これに対し、本考案システムではバネ下共振周波数域での振動低減効果が顕著でありさらに10Hz以下の全周波数域において大幅な効果が見られる。参考に示した特許文献1のアクティブサスペンションに対しても特にバネ下共振周波数での振動低減効果は大きいことが分かる。
このように、従来技術ではバネ下共振周波数(12Hz)辺りではバネ上振動を低減させることは困難であり乗心地改善にも限界があったが、本考案システムによりこのような従来技術の課題を解決することができた。
【0026】
図7は良路相当の路面入力を入力しバネ下加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。本考案システムのバネ下振動への影響は小さく走行時のバタツキ感や接地性などの大きな問題は生じないことが分かる。
【実施例0027】
図8図5のシステムに路面凹凸センサー95とその信号を用いた制御を追加した場合のモデルを示す。路面凹凸センサー95の凹凸検出位置はタイヤ踏面の近傍である。制御指令値Uは次式で与えられる。
【数5】
図5の実施例1の制御則に対して右辺第4項を追加したものである。
【0028】
図9図8のモデルを用いてバネ上加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。
結果を見ると、路面凹凸センサーを用いることによって本考案システムは図6の結果に対して、バネ下共振周波数域での振動低減効果がさらに顕著であり、10Hz以下の周波数域においてもさらに大幅な振動低減効果があることが分かる。
【0029】
図10は同様に図8のモデルを用いてバネ下加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。この場合もバネ下振動への影響は小さく走行時のバタツキ感や接地性などの大きな問題は生じないことが分かる。
【0030】
図11図9の本考案の路面凹凸センサー付きシステムにおいて質量Mの値を変化させた場合のバネ上加速度PSDを示している。バネ下共振周波数辺りで十分なバネ上振動低減効果を狙うにはM=10Kg程度は必要であり、付加質量なしでこれを実現するにはアクチュエーター筐体とショックアブソーバー筐体を一体化させることが一つの方策であることが分かる。
【0031】
図12は同様にしてバネ下加速度振動のパワースペクトル密度(PSD)を計算したものである。マスダンパー効果によりMを増すとバネ下共振が抑えられることが分かる。
【0032】
図13図8のモデルを用いて、バネ上速度に対するアクチュエーター全発生力Faaの伝達関数特性と10Hz辺りの周波数域における等価モデルを示している。ここでFaaとは制御指令値Uによってモーターが生ずる発生力FにアクチュエーターのストッパーバネKによる発生力とアクチュエーターの等価減衰定数Cによる発生力を加えたアクチュエーター全体の発生力である。これより10Hz辺りの周波数域ではFaaはバネ上速度に対してほぼ同相であることからFaaはスカイフックダンパーとして作用しておりゲイン特性よりその値はCs2=100000N/(m/sec)と大きな減衰を発生させていることが分かる。これによって図9に示すようなバネ下共振周波数域で大幅な振動低減がなされることになり極めて優れた乗心地性能が得られることになる。
【0033】
図14は同様に図8のモデルを用いてバネ下速度に対するショックアブソーバー発生力(内蔵しているバネ力を含む)Fの伝達関数特性と10Hz辺りの周波数域における等価モデルを示している。
これよりバネ下共振周波数辺りでのFはバネ下速度に対してほぼほぼ60degだけ進んでいることからFはスカイフックイナータとスカイフックダンパーの合成された作用を及ぼしていることが分かる。ゲイン特性よりその値はスカイフックイナータがM=14N/(m/sec)程度であり、スカイフックダンパーはCs1=423N/(m/sec)程度であることが分かる。
【0034】
一般にバネ上スカイフックダンパーCs2を大きくしていくとバネ下スカイフックダンパーCs1はゼロに近づいてしまうが本考案ではそうならず423N/(m/sec)程度の値を保っている。これによって図10に示すように従来サスペンションに対してバネ下共振レベルは若干増大傾向になるが接地性など走りの性能に影響を及ぼす程ではない程度に収まっている。
【実施例0035】
図15に実施例3を示す。実施例3は実施例1のショックアブソーバーの構造を変更したものでショックアブソーバーの機能と性能は実施例1と同じである。ショックアブソーバーの筐体50は三重チューブで構成され、ロッド17の伸び行程では減衰弁51により減衰力を生じ、ロッド17の縮み行程では主に減衰弁52により減衰力を生じる(縮み行程ではロッド進入による容積分は減衰弁51を通して流れるがこの流量は小さいく減衰力も小さいため減衰力としては省略できる)。
【0036】
チェック弁53はチューブで仕切られた油室の外側から内側への流れを許容しその逆は流れないように作用させている。また減衰弁52に直列に設けたチェック弁54は伸び行程で油を流さず全て減衰弁51を流れるようにしている。空気室56はロッド17の出入りに伴う容積変化を吸収している。ロッド17の伸び行程時には油はポート55とチェック弁53を通って容積変化を吸収している。ロッド17の縮み行程時には油は減衰弁51を通って容積変化を吸収している。
このような実施例3の構成にするとガス室とブラダが不要になってガス漏れが皆無となって耐久性が向上する。
【実施例0037】
図16に実施例4のサスペンション制御装置断面図を示す。
フリーピストン57を介して油室58とガス室59を隔離する構成にしている。ショックアブソーバー圧縮側のバネとストッパーを筐体の外に設置している。この構成によりフリーピストンを介して油室とガス室を同一直線上に配置することができ、従来ショックアブソーバーとの互換性が高く車載が容易になる。ガス室59と油室58を隔離するのは金属ベローズでもよい。
【実施例0038】
図17に実施例5のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例4に外筒60を設けてバネ下に近くて過酷な環境下のショックアブソーバーロッドや圧縮側のバネ、ストッパーを保護しつつ、サスペンションバネの併設を容易にしまた車輪スピンドルを固定したストラット構造への対応を容易にするものである。
【実施例0039】
図18に実施例6のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例5にコイルバネ方式のサスペンションバネ61を併設した場合の実施例である。このサスペンションバネとショックアブソーバーを一つのユニットにまとめられるため一層の車載性が増す。
【実施例0040】
図19に実施例7のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例5に空気バネ方式のサスペンションバネを併設した場合の実施例である。
空気バネは空気室62とダイヤフラム63、ダイヤフラムガイド64から成る。
外部空気圧源(図示せず)からソレノイドバルブ(図示せず)を介して制御圧を導き空気室の空気圧を調整することで車高調整を可能にしている。
【実施例0041】
図20に実施例8のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例6に対して、アクチュエーター筐体66をバネ上にマウントし、アクチュエーターロッド67をショックアブソーバー筐体68に固定していることが変更点である。こうする事でアクチュエーターへの振動入力を低減しアクチュエーターへの電気配線をバネ上に集約できるため信頼性を高めることができる。この場合はアクチュエーター質量が可動質量から除かれて可動質量が低減し性能が十分でない恐れもあるので円盤上部材9やショックアブソーバー筐体68の厚さを増すなどして追加質量を加えることもできる。
【実施例0042】
図21に実施例9のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例6に対して、アクチュエーター筐体66をバネ上にマウントし、アクチュエーターロッド67をショックアブソーバーロッド17に固定していることが変更点である。この場合は可動質量が小さいので付加質量69を追加する。こうする事で実施例8と同様にアクチュエーターへの振動入力を低減しアクチュエーターへの電気配線をバネ上に集約できるため信頼性を高めることができる。この構成ではガス室とフリーピストンを空気室56に置き換えられガス漏れの心配がなくなり耐久性が増す。
【実施例0043】
図22に実施例10のサスペンション制御装置断面図を示す。
実施例6に対して、アクチュエーター筐体66をショックアブソーバーロッド17に固定していることが変更点である。こうする事で実施例9と同様にガス室とフリーピストンを空気室56に置き換えられガス漏れの心配がなくなり耐久性が増す。この場合もショックアブソーバー筐体の質量が可動質量から除かれて可動質量が低減し性能が十分でない恐れもあるのでアクチュエーター筐体66の厚さを増すなどして追加質量を加えることもできる。
【0044】
最後に、数式4、5の制御則の導出方法について説明する。
本考案の制御則は、特許文献2および非特許文献2に示すエネルギー最適制御理論から導いている。
エネルギー最適制御理論の概要を説明する。
まず制御則を求めるという発想を変えて、評価関数の値を最小化させる理想的なシステムの運動方程式を求めるというように制御問題の形式を変える。
次に評価関数をパワー表現によりエネルギーの流れを記述し、評価関数を最小化する理想的なシステムの運動方程式を導く。この導出過程は従来の変分法を適用するだけであり、微分方程式を解く過程は存在しないのでほぼ自動的に導き出される。
最後に、“閉ループ系は、ハードウエアである制御対象の運動と制御則と称するソフトウエアで記述された制御対象のあるべき運動との連立微分方程式の解を実時間で解いている”という事実を利用する。
【0045】
現代では多くの制御システムがコンピュータ制御による閉ループ系を構成していることを考えると最適制御理論の構築に当たって閉ループ系を前提にすることは自然な方策である。具体的には、前述の理想的なシステムの運動方程式の入出力を逆にした特性を制御則として閉ループ系に組み込む。こうすると前記の連立微分方程式の解を生成する作用により最適制御が実現する。しかも制御則は状態変数による演算式であるから実時間制御が可能になる。
【0046】
図23は従来の最適制御問題Aと、エネルギー最適制御理論による新しい最適制御問題Bを対比して示している。
問題A:制御対象の運動方程式と評価関数Jが与えられているとき評価関数を最小化させる制御則Uを求めよ。
問題B:任意の制御則Uに対して、与えられた評価関数Jを最小化させる理想システムの運動方程式を求めよ。
【0047】
問題AではUを求めるのに対し、問題BではUは与えられているものとして評価関数を最小化する理想的な運動方程式を求めるというシステム設計問題に変換している。
問題AのLは2次形式で統一される場合が多いが、問題Bでは位差量と流通量の積即ちパワーで統一している。こうすると関数Lの形によらずこの評価関数を最小化させる条件から入力Uに対する理想システムの運動方程式をほぼ自動的に導くことができる。
【0048】
次に、エネルギー最適制御理論は閉ループ系が連立微分方程式を実時間で解いているという特質を活用する。
この理想システムの入出力の逆特性を閉ループ系の制御則とすれば制御対象はあたかも自身のダイナミックスの許容範囲内で理想システムであるかのごとく振舞うことになる。
【0049】
図24はこの理論を本考案システムへ適用した場合の説明図である。
関数Lを次式で定義する。
【数6】
ここで、r、r、r、r、rは重み係数、上式右辺第1項は路面からの入力パワー項に負符号をつけたもの、第2項はアクチュエーターの入力パワー項、第3項はダンパーの発熱項、第4項はバネ下スカイフックダンパーの発熱項、第5項はバネ上スカイフックダンパ
【0050】
【数7】
項が未知のまま残っている。これを理論的に求めることは難しいので、まずこの偏微分項をラプラス変換した関数を定数や1次の伝達関数として仮置きして試行錯誤的シミュレーションを繰り返しある程度適切な結果が得られるような伝達関数を確定する。
より確定した伝達関数は各数式の矢印ようになる。
【0051】
【数8】
【数9】
【数10】
【0052】
さらにr、r、r、r、rを適切な数値に置き換え、数式8~10に示す確定した伝達関数を数式7に代入すれば数式5が得られる。ここで、数式5の右辺第4項は路面凹凸センサー信号に1Hzのハイパスフィルター処理をしている。これは車体の定常的ピッチ角による変化分を除去するため、またxが推定値の場合は積分演算によるドリフト分を除くためなど路面凹凸信号処理特有の理由によるものである。
【0053】
次に、数式5の最適制御則を用いたシミュレーションを行い、伝達関数解析を行い数式8~10の確定した伝達関数の妥当性を確認した結果を図25に示す。図の上から順に数式8、9、10の確定した伝達関数を破線で示し、シミュレーションから求めた真の伝達関数を実線で示す。破線はほぼ実線を近似していることから数式5は近似的に最適制御則であるということが帰納法的に確認できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特願2020-154981 サスペンション制御装置
【0055】
【特許文献2】特許第4609767号 システムの最適制御方法
【非特許文献】
【0056】
【非特許文献1】「JSAE SYMPOSIUM 車両運動制御の温故知新」No.1-19 テキストP.58 図30、開催日/2019年7月5日(金)、会場/工学院大学 アーバンテックホール(新宿区西新宿 1-24-2)、主催/公益社団法人自動車技術会、企画/車両運動性能部門委員会
【非特許文献2】福島直人、萩原一郎、エネルギー最適制御理論-最適制御理論の新しい枠組みとその発展性について-、応用数理、Vol.21、No.4、2011年、P.259~275
【産業上の利用可能性】
【0057】
本考案はコーナーモジュール化されており従来サスペンションのバネとショックアブソーバーとの互換が容易で車載性がよく高級車を中心に一般車への適用も期待できる。
また本考案搭載車は揺れが極めて小さくなるので乗員はスマホなどの操作が容易になる。これは今後の自動運転車両にとってニーズが高く重要な性能と考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1 ボールねじメス側
2 ボールねじオス側
3 回転磁石
4 モーターコイル
5 ストッパー
6 コイルスプリング
7 筐体
8 ガイド
9 円盤状部材
10 別置き油室
11 ブラダ
12 ガス室
13 ポート
14 減衰弁
15 油室
16 ロッドガイド&オイルシール
17 ロッド
18 インシュレータ
19 ブッシュ
22 ボールねじメス側
24 回転磁石
25 モーターコイル
26 ボールねじオス側
30 ショックアブソーバーピストンロッド
50 筐体
51 減衰弁
52 減衰弁
53 チェック弁
54 チェック弁
55 ポート
56 空気室
57 フリーピストン
58 油室
59 ガス室
60 外筒
61 コイルバネ
62 空気室
63 ダイヤフラム
64 ダイヤフラムガイド
65 カバー
66 アクチュエーター筐体
67 アクチュエーターロッド
68 ショックアブソーバー筐体
69 付加質量
90 バネ下加速度センサー
91 バネ上加速度センサー
92 アクチュエーター可動部加速度センサー
93 アクチュエーター用コントローラー
94 アクチュエーター本体
95 路面凹凸センサー
96 アクチュエーター筐体加速度センサー
図1
図2
図3
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