(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014538
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】継手装置、および継手装置を有する鋼製構造部材
(51)【国際特許分類】
E02D 5/06 20060101AFI20220113BHJP
E02B 3/06 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
E02D5/06
E02B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116895
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】509066488
【氏名又は名称】株式会社第一基礎
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光一
【テーマコード(参考)】
2D049
2D118
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049EA03
2D049FC08
2D118CA03
2D118FA06
2D118FB11
2D118GA09
(57)【要約】
【課題】雄型継手を容易に嵌挿することができる継手装置を提供する。
【解決手段】円形鋼管によって形成される継手部材(34)と、継手部材の断面方向の所定部位に継手部材の長手方向に延びた一定幅の開口からなる嵌合用スリット(36)と、継手部材の内部に充填された成形充填材(40)とを備え、成形充填材の所定部位に、所定形状の開口(40a)が設けられていることを特徴とする継手装置(30)が提供される。好ましくは、継手装置は、成形充填材の継手部材内での回転を防止するための回転防止部材(42)を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形鋼管によって形成される継手部材と、
前記継手部材の断面方向の所定部位に前記継手部材の長手方向に延びた一定幅の開口からなる嵌合用スリットと、
前記継手部材の内部に充填された成形充填材とを備え、
前記成形充填材の所定部位に、所定形状の開口が設けられていることを特徴とする継手装置。
【請求項2】
前記成形充填材の前記継手部材内での回転を防止するための回転防止部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載された継手装置。
【請求項3】
前記回転防止部材が、基部と、前記基部に対してほぼ直交方向に延びた突出部とを有し、前記突出部が前記成形充填材に差し込まれ、前記基部が前記継手部材に固定されていることを特徴とする請求項2に記載された継手装置。
【請求項4】
前記回転防止部材が、前記成形充填材と前記継手部材との間に挿入された詰物又は前記成形充填材の外面に巻き付けられた柔軟材であることを特徴とする請求項2に記載された継手装置。
【請求項5】
長手方向に延びた一定幅の嵌合用スリットが設けられるように、一対の溝形形状鋼、一対の山形形状鋼、又は一対の平鋼によって形成される継手部材と、
前記継手部材の内部に充填された成形充填材とを備え、
前記成形充填材の所定部位に、所定形状の開口が設けられていることを特徴とする継手装置。
【請求項6】
前記継手部材の上端側に設置され、前記成形充填材が前記継手部材の軸方向に移動するのを防止するための上端側支持部材をさらに備え、前記上端側支持部材が、前記継手部材の上端開口を部分的又は完全に閉塞する閉塞部材によって形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された継手装置。
【請求項7】
前記継手部材の下端側に設置され、前記成形充填材が前記継手部材の軸方向に移動するのを防止するための下端側支持部材をさらに備え、前記下端側支持部材が、前記継手部材の下端開口を部分的又は完全に閉塞する閉塞部材によって形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された継手装置。
【請求項8】
前記下端側支持部材の下方に設置され、地中への貫入時の抵抗を低減するための地盤反力低減装置をさらに備え、前記地盤反力低減装置が、外方かつ上方に向かって傾斜するように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された継手装置。
【請求項9】
前記成形充填材が、発泡スチロール、発泡ウレタンのような固体状の有機系充填材料によって形成されていることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された継手装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのうちいずれか1項に記載された継手装置が所定部位に固定されていることを特徴とする継手装置を有する鋼製構造部材。
【請求項11】
前記継手装置が、前記鋼製構造部材に直接固定され及び/又は固定部材を介して間接的に固定されていることを特徴とする請求項10に記載された継手装置を有する鋼製構造部材。
【請求項12】
前記固定部材が、平鋼、山形形状鋼、丸鋼、及び鉄筋によって構成される部材群から選択された部材であることを特徴とする請求項11に記載された継手装置を有する鋼製構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域構造物(護岸、岸壁、防波堤、導流堤など)や陸域構造物(擁壁、土留壁など)として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置、および継手装置を有する鋼製構造部材に関する。本発明における鋼製構造部材には、ハット形鋼矢板等の鋼矢板、およびその他の鋼製部材が含まれる。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板等の使用において、法線の変更箇所、法線の分岐個所や異なる型式の鋼矢板等を接続する場合には、継手装置が用いられている。継手装置は一般的に、鋼矢板等にスリット付き筒状継手(例えば、スリット付き鋼管)等の継手部材を設置することによって形成される。そして、雌型継手となる継手部材のスリットに、雄型継手(例えば、鋼矢板の継手部)を嵌挿することによって、鋼矢板等が接続されるようになっている。
【0003】
一方、上記のような接続形態では、土砂漏れの発生、継手部材内の腐食の進行などの不都合が生ずるため、継手部材の内部に固体状の充填材(発泡スチロール、発泡ウレタンなど)を充填し、雄型継手の嵌挿が容易になるように、充填材に一文字又は十文字の分離線を設ける接続形態が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、成形充填材の断面に分離線を設けただけでは、スリットに雄型継手を嵌挿しようとする際の抵抗が大きく、雄型継手を円滑に嵌挿するのが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、雄型継手を容易に嵌挿することができる継手装置、および継手装置を有する鋼製構造部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に記載された継手装置は、円形鋼管によって形成される継手部材と、前記継手部材の断面方向の所定部位に前記継手部材の長手方向に延びた一定幅の開口からなる嵌合用スリットと、前記継手部材の内部に充填された成形充填材とを備え、前記成形充填材の所定部位に、所定形状の開口が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項2に記載された継手装置は、前記請求項1の継手装置において、 前記成形充填材の前記継手部材内での回転を防止するための回転防止部材をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項3に記載された継手装置は、前記請求項2の継手装置において、 前記回転防止部材が、基部と、前記基部に対してほぼ直交方向に延びた突出部とを有し、前記突出部が前記成形充填材に差し込まれ、前記基部が前記継手部材に固定されていることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項4に記載された継手装置は、前記請求項2の継手装置において、 前記回転防止部材が、前記成形充填材と前記継手部材との間に挿入された詰物又は前記成形充填材の外面に巻き付けられた柔軟材であることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項5に記載された継手装置は、長手方向に延びた一定幅の嵌合用スリットが設けられるように、一対の溝形形状鋼、一対の山形形状鋼、又一対の平鋼によって形成される継手部材と、前記継手部材の内部に充填された成形充填材とを備え、前記成形充填材の所定部位に、所定形状の開口が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項6に記載された継手装置は、前記請求項1から請求項5までのいずれか1項の継手装置において、前記継手部材の上端側に設置され、前記成形充填材が前記継手部材の軸方向に移動するのを防止するための上端側支持部材をさらに備え、前記上端側支持部材が、前記継手部材の上端開口を部分的又は完全に閉塞する閉塞部材によって形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項7に記載された継手装置は、前記請求項1から請求項6までのいずれか1項の継手装置において、前記継手部材の下端側に設置され、前記成形充填材が前記継手部材の軸方向に移動するのを防止するための下端側支持部材をさらに備え、前記下端側支持部材が、前記継手部材の下端開口を部分的又は完全に閉塞する閉塞部材によって形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本願請求項8に記載された継手装置は、前記請求項1から請求項7までのいずれか1項の継手装置において、前記下端側支持部材の下方に設置され、地中への貫入時の抵抗を低減するための地盤反力低減装置をさらに備え、前記地盤反力低減装置が、外方かつ上方に向かって傾斜するように形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
本願請求項9に記載された継手装置は、前記請求項1から請求項8までのいずれか1項の継手装置において、前記成形充填材が、発泡スチロール、発泡ウレタンのような固体状の有機系充填材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本願請求項10に記載された継手装置を有する鋼製構造部材は、請求項1から請求項9までのうちいずれか1項に記載された継手装置が所定部位に固定されていることを特徴とするものである。
【0017】
本願請求項11に記載された継手装置を有する鋼製構造部材は、前記請求項10の継手装置を有する鋼製構造部材において、前記継手装置が、前記鋼製構造部材に直接固定され及び/又は固定部材を介して間接的に固定されていることを特徴とするものである。
【0018】
本願請求項12に記載された継手装置を有する鋼製構造部材は、前記請求項11の継手装置を有する鋼製構造部材において、前記固定部材が、平鋼、山形形状鋼、丸鋼、及び鉄筋によって構成される部材群から選択された部材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、継手部材34の内部に充填された成形充填材40に開口40aを設けたことにより、雄型継手の嵌合用スリット36への嵌挿がスムーズ、確実になり、かつ、雄型継手及びその近傍の板厚部分が成形充填材40の開口40aや入口スリット40a1を外側に押し広げ、成形充填材40を継手部材内面に密接させるため、確実かつ容易に土砂漏れを防止し、かつ、継手部材34内の腐食の進行を遅らせる状態を維持することが可能になる。また、回転防止部材42、上端側支持部材44、下端側支持部材46を設置することにより、継手部材34内の成形充填材40が良好に機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る継手装置を有する鋼製構造部材によって形成された壁体の一部を示した平面図である。
【
図3】
図3(a)は、継手部材が取り付けられているハット形鋼矢板(鋼製構造部材)と継手部材が取り付けられていないハット形鋼矢板を接続した状態を示した図、
図3(b)は、
図3(a)の部分3bの拡大図である。
【
図4】成形充填材の2つの態様を示した分解斜視図である。
【
図5】継手部材がハット形鋼矢板の種々の個所に取り付けられている状態を示した一の図である。
【
図7】
図7(a)は、継手装置に回転防止部材が設置されている状態を示した図、
図7(b)は、
図7(a)の線7b-7bに沿って見た図、
図7(c)は、回転防止部材の別の形態を示した図、
図7(d)は、回転防止部材のさらに別の形態を示した図、
図7(e)は、
図7(a)の回転防止部材を示した斜視図である。
【
図8】
図8(a)は、上端側支持部材および下端側支持部材を示した側面図、
図8(b)は、
図8(a)の線8b-8bに沿って見た図であって上端側支持部材を示した図、
図8(c)は、
図8(a)の線8c-8cに沿って見た図であって上端側支持部材の別の形態を示した図、
図8(d)は、
図8(a)の線8d-8dに沿って見た図であって下端側支持部材を示した図、
図8(e)は、
図8(a)の線8e-8eに沿って見た図であって下端側支持部材の別の形態を示した図、
図8(f)は、
図8(a)の線8f-8fに沿って見た図であって地盤反力低減装置を示した図、
図8(g)は、地盤反力低減装置の別の形態を示した図である。
【
図9】
図9(a)は、海と陸との境界に設置された鋼製構造部材を示した模式図、
図9(b)および
図9(c)は、
図9(a)の線9b‐9b、線9c‐9cに沿ってそれぞれ見た図である。
【
図10】継手部材として溝形形状鋼、山形形状鋼および平鋼が用いられている形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る継手装置について説明する。
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る継手装置を有する鋼製構造部材によって形成された壁体の一部を示した平面図、
図2(a)は、
図1の部分2aの拡大図である。
【0022】
図1に示される壁体10は、一対の前壁12、後壁14と、一対の隔壁16、18とを平面的に見て矩形に組んで構成した函体20を有している。一対の前壁12、後壁14、一対の隔壁16、18は、それぞれ鋼製構造部材(例えば、ハット形鋼矢板)からなる壁体構成部材を嵌合継手を介して接続して構成される。また、函体20内の内部空間22には、中詰材(図示せず)が充填される。
【0023】
前壁12、後壁14と隔壁16、18の端部との接合個所に、継手装置30を有する鋼製構造部材が設置される。
【0024】
図2(a)において全体として参照符号30で示される本発明の好ましい実施形態に係る継手装置は、鋼製構造部材32のフランジ32aのほぼ中央の外面に長手方向に延びるように一対の固定部材38を介して取り付けられた継手部材34を備えている。
【0025】
継手部材34は、円形鋼管で形成されており、継手部材34には、断面方向の所定部位において、長手方向に延びた嵌合用スリット36が設けられている。
図2(a)に示される例では、嵌合用スリット36は、継手部材34の右側真横に設けられているが、嵌合用スリット36の位置は、必要に応じて変更される。なお、嵌合用スリット36に、雄側部材となるハット形鋼矢板の継手部が嵌挿されている例が図示されているが、嵌挿される雄側部材としてU形鋼矢板等の各種鋼矢板や鋼板が用いられる場合もある。
【0026】
継手部材34の内部に、成形充填材40が充填されている。成形充填材40の所定部位には、所定形状(例えば、嵌挿される雄側部材の嵌挿部位の形状に対応した形状)の開口40aが設けられ、開口40aの嵌合用スリット36の側には、入口スリット40a1が設けられている。成形充填材40は、固体状の有機系充填材料(発泡スチロール、発泡ウレタンなど)によって形成されている。なお、成形充填材40は、成形状態で発泡スチロールや発泡ウレタンのような性状を有する有機材料から形成されるものであればよい。ここでいう性状とは、適度な硬度、圧縮強度、脆性、耐久性、耐海水性等である。
【0027】
成形充填材40は、一体に形成されたもの(
図4(a)参照)を使用してもよいし、複数に分割して形成されたもの(
図4(b)には、2分割されたものが図示されている)を使用してもよい。
【0028】
継手部材34の内部に成形充填材40を充填することにより、より確実かつ容易に土砂漏れを防止することができるとともに、継手部材34内の腐食の進行を遅らせることができる。また、成形充填材40に開口40aを設けることにより、雄型継手の嵌合用スリット36への嵌挿がスムーズ、確実になり、かつ、雄型継手及びその近傍の板厚部分が成形充填材40の開口40aや入口スリット40a1を外側に押し広げ、成形充填材40を継手部材内面に密接させるため、確実かつ容易に土砂漏れを防止し、かつ、継手部材34内の腐食の進行を遅らせる状態を維持することが可能になる。
【0029】
図1および
図2に示される例では、鋼製構造部材32として、ハット形鋼矢板が用いられている。
【0030】
図3(a)は、継手部材34が取り付けられている鋼製構造部材(ハット形鋼矢板)32と継手部材34が取り付けられていない鋼製構造部材(ハット形鋼矢板)32を接続した状態を示した図である。ハット形鋼矢板32は、
図3(a)に示されるように、土水圧等の荷重が作用した場合に主として曲げモーメントに抵抗するフランジ32a、アーム部32b及び継手部32cと、主としてせん断力に抵抗するウェブ32dとを有している。より詳細に説明すると、ハット形鋼矢板32では、フランジ32aの両縁部から外方に向かって拡がるように一対のウェブ32dがそれぞれ連続して配置され、各ウェブ32dにフランジ32aと略平行になるようにアーム部32bがそれぞれ連続して配置されており、各アーム部32bに継手部32cがそれぞれ連続して設けられている。
【0031】
ハット形鋼矢板32の継手部32cの一方には上方開口爪32c1が形成され、継手部32cの他方には下方開口爪32c2が形成されている。上方開口爪32c1と下方開口爪32c2は、互いに相補する形状に形作られており、一方のハット形鋼矢板32の継手部32cの上方開口爪32c1に、隣接する他方のハット形鋼矢板32の継手部32cの下方開口爪32c2を嵌め込むことによって、或いは、一方のハット形鋼矢板32の継手部32cの下方開口爪32c2に、隣接する他方のハット形鋼矢板32の継手部32cの上方開口爪32c1を嵌め込むことによって、所望の枚数のハット形鋼矢板32を嵌合させることができる。
【0032】
継手部材34は、
図2及び
図3(a)に示される例では、鋼製構造部材32のフランジ32aのほぼ中央の外面(山側)に取り付けられているが、必要に応じて、継手部材34を鋼製構造部材32の所望個所に固定してもよい。例えば、継手部材34をウェブ32dの外面(山側)に取り付けてもよいし(
図5(a)参照)、アーム部32bの内面(谷側)に取り付けてもよいし(
図5(b)参照)、フランジ32aとウェブ32dとの接続箇所付近の内面(谷側)に取り付けてもよい(
図5(c)参照)。或いは、継手部材34を上記以外の適当な個所に取り付けてもよい。
【0033】
継手部材34を鋼製構造部材32に設置するには、様々な方法がある。代表的な設置方法を以下に列記する。第1の設置方法では、計画設計通りに継手部材34を鋼製構造部材32に設置する。この場合、設置場所は、工場や現場近傍のヤード等である。継手部材34は、計画設計通りの長さ構成の場合と、数m長さのパーツを準備し、このパーツを複数個連接させて設置する場合がある。第2の設置方法では、施工進捗の適当な時点において、既施工の施工誤差状況等を考慮して、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付ける。この場合も、設置場所は、工場や現場近傍のヤード等である。
【0034】
数m長さのパーツを複数本並べて所定の長さにして用いる場合には、背面からの土砂漏れ防止が必要な範囲では、継手部材34を密接状態(メタルタッチ)で配置し、必要に応じて、パーツ同士の接続部を直接または添接板を介して溶接する。背面からの土砂漏れ防止が不要な範囲では、パーツを不連続(断続)状態で配置してもよい。
図6(a)~
図6(c)は、継手部材34の各種態様を例示した図である。
図6(a)に示される態様では、継手部材34は、長さLの1本のパーツで形成されている。
図6(b)に示される態様では、継手部材34は、長さL1と長さL2の2本のパーツで形成されている。
図6(c)に示される態様では、継手装置30は、長さL3と長さL4の2本のパーツを不連続(断続)状態で配置することによって形成されている。なお、図示した例では、パーツが1本又は2本であるが、パーツの数を3本以上にしてもよい。パーツの長さを12m以下にすると、搬送や取り扱いに便利である。
【0035】
成形充填材40は、
図4に示されるように、円筒形の継手部材34内に挿入することによって設置されるが、挿入し易くするために成形充填材40の外径を継手部材34の内径よりも小さくしすぎると、設置後に成形充填材40が継手部材34内で回転し易くなって、嵌合用スリット36と成形充填材40の入口スリット40a1とがずれてしまうという不都合が生ずる。このような不都合を解消するため、回転防止部材42を設置するのが好ましい。
【0036】
回転防止部材42は、
図7(a)に示されるように、矩形板からなる基部42bと、基部42bのほぼ中央から基部42bに対してほぼ直交方向に延びた突出部42aとを有する、全体としてT形横断面に形作られている。回転防止部材42は、雄型鋼矢板が嵌挿されると容易に破壊される必要があるので、そのような固定方法とする必要があり、そのため、回転防止部材42は、例えば、突出部42aを成形充填材40の入口スリット40a1に差し込み、基部42bの下端を継手部材34に点付け溶接42c等することによって固定される(
図7(b)参照)。このように固定することにより、雄側鋼矢板からの貫入力を受けると、点付け溶接42cが破壊し易い。
【0037】
T形横断面の回転防止部材42の代わりに、L形横断面の回転防止部材42を用いてもよい(
図7(c)参照)。また、丸鋼や鉄筋をL形に折り曲げて回転防止部材42としてもよい(
図7(d)参照)。
【0038】
なお、回転防止部材42として、T形横断面部材やL形横断面部材の代わりに、成形充填材40と継手部材34との隙間に挿入された布等の詰物(図示せず)、或いは布等の柔軟材を成形充填材40の外面に巻き付けてもよい。
【0039】
好ましくは、継手部材34の上端側には、成形充填材40が継手部材34の軸方向に移動するのを防止するための上端側支持部材44が設置されている。上端側支持部材44は、継手部材34の上端開口を部分的に閉塞する閉塞部材(
図8(b)、(c)参照)又は完全に閉塞する閉塞部材(図示せず)によって形成されている。図示される上端側支持部材44は、板材であるが、上端側支持部材44として溝形形状鋼や山形形状鋼を用いてもよい。上端側支持部材44は、点付け溶接44aによって鋼製構造部材32に取り付けてもよく(
図8(b)参照)、点付け溶接44bによって継手部材34に取り付けてもよく(
図8(c)参照)、点付け溶接44a、44bによって、鋼製構造部材32と継手部材34の両方に取り付けてもよい。
【0040】
好ましくは、継手部材34の下端側には、成形充填材40が継手部材34の軸方向に移動するのを防止するための下端側支持部材46が設置されている。下端側支持部材46は、継手部材34の下端開口を部分的に閉塞する閉塞部材(
図8(d)、(e)参照)又は完全に閉塞する閉塞部材(図示せず)によって形成されている。図示される下端側支持部材46は、板材であるが、下端側支持部材46として溝形形状鋼や山形形状鋼を用いてもよい。下端側支持部材46は、点付け溶接46aによって鋼製構造部材32に取り付けてもよく(
図8(d)参照)、点付け溶接46bによって継手部材34に取り付けてもよく(
図8(e)参照)、点付け溶接46a、46bによって、鋼製構造部材32と継手部材34の両方に取り付けてもよい。
【0041】
上端側支持部材44、下端側支持部材46は、以下のような役割を果たす。すなわち、継手装置30を有する鋼製構造部材32を土中に打設すると、継手装置30の下端に作用する地盤反力(下から上に向かう力)によって、成形充填材40は上方に抜け上がろうとするが、成形充填材40の機能を発揮させるため、この抜け上がりを防止する必要がある。このため、地盤反力が成形充填材40に作用しないようにするため、下端側支持部材46を設置する必要があり、地盤反力が作用して成形充填材40が上方に抜け上がろうとするのを上端で押さえ込むため、上端側支持部材44を設置する必要がある。成形充填材40の抜け上りを防止するには、上端側支持部材44および下端側支持部材46のいずれかを設置すればよい。なお、上端側支持部材44の設置により、上部コンクリート工を施工しない場合や上部コンクリート工の施工までに長時間を要する場合に、継手部材34の上端部からの海水の浸入・循環を抑止し、継手部材34の内部の腐食の進行を遅らせるという追加の効果も得られる。
【0042】
下端側支持部材46の下方に、地盤反力低減装置48を設置してもよい。地盤反力低減装置48は、
図8(a)に示されるように、鋼製構造部材32から外方かつ上方に向かって傾斜するように板材等で形成されており、鋼製構造部材32の地中への貫入時の抵抗を低減する役割を果たす。地盤反力低減装置48は、継手部材34の下端から所定距離隔てた個所に設置(
図8(a)、(f)参照)してもよいし、継手部材34の下端に接触した状態で設置(
図8(g)参照)してもよい。地盤反力低減装置48は、下端側支持部材46としての機能も果たすので、下端側支持部材46を設置せずに、地盤反力低減装置48のみを設置してもよい。
【0043】
なお、前記実施形態では、固定部材38として一対の平鋼が用いられているが、固定部材38として他の部材(例えば、一対の鋼棒、一対の山形形状鋼、平鋼と鋼棒、平鋼と山形形状鋼、鋼棒と山形形状鋼)を用いてもよい。また、前記実施形態では、継手部材34が固定部材38を介して鋼製構造部材32に取り付けられているが、固定部材38を用いずに、継手部材34を鋼製構造部材32に溶接等で直接固定してもよいし、固定部材38を介した間接固定と直接固定とを併用してもよい。
【0044】
鋼製構造部材32としてハット形鋼矢板を用いた例について説明してきたが、U形鋼矢板のような他の鋼矢板を用いる場合においても、継手装置30の構成は実質的に同じである。
【0045】
雌型継手となる継手部材34は、鋼製構造部材32の全長にわたって設けてもよいし、全長よりも短くし、所定範囲(少なくとも、壁体の背面に存在する土砂が土砂漏れを発生させるおそれのある範囲)にわたって設けてもよい。
図9は、雌型継手と雄型継手の鋼製構造部材32への設置の例を示した模式図である。
図9(b)では、鋼製構造部材32の一方の側の上半部に雌型継手が設置され、鋼製構造部材32の他方の側の上半部に雄型継手、下半部にガイド部が設置されている。
図9(c)は、ガイド部が断続的に設置されている点を除いて、
図9(b)の例と同じである。なお、鋼製構造部材の上端部は通常、上部コンクリートの中に埋設される(
図9(a)参照)。
【0046】
以上の実施形態では、継手部材34として、円形鋼管が用いられているが、一対の溝形形状鋼や一対の山形形状鋼、一対の平鋼を継手部材34として用いてもよい。
図10(a)及び
図10(b)は、継手部材34として一対の溝形形状鋼が用いられている形態を示した図、
図10(c)及び
図10(d)は、継手部材34として一対の山形形状鋼が用いられている形態を示した図、
図10(e)及び
図10(f)は、継手部材34として一対の平鋼が用いられている形態を示した図である。継手部材34として溝形形状鋼や山形形状鋼、平鋼が用いられる形態においても、上端側支持部材44、下端側支持部材46、地盤反力低減装置48を設置するのが好ましいが、成形充填材40が回転するおそれはないので、回転防止部材42の設置は不要である。
【0047】
継手装置30の製作に際して、施工現場の施工状況や工場等での製作状況に応じて、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付けない状態にしておき、施工の適当な時点において、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付けるようにしてもよい。
【0048】
なお、壁体10は、多数の鋼製構造部材32を嵌合させ又は配設させ、下方部を下方支持体中に埋設することによって形成される。下方支持体は、基礎地盤又はコンクリートフーチング等である。基礎地盤には、改良土によって形成される地盤も含まれる。壁体10の基礎地盤への埋設は、バイブロハンマによる振動打設、油圧ハンマによる衝撃打設、油圧圧入装置による圧入などによって行われる。また、基礎地盤が岩盤の場合には、岩盤を掘削し、掘削溝を形成し、この掘削溝に多数の鋼製構造部材32を嵌合、建込みした後に掘削溝にコンクリートやソイルセメントを充填し壁体下方部を固定する場合もある。
【0049】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0050】
例えば、図示されている構成要素の細部は、単なる例示的なものにすぎず、これらの細部を修正してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 壁体
12、14 前壁、後壁
16、18 隔壁
20 函体
22 内部空間
30 継手装置
32 鋼製構造部材(ハット形鋼矢板)
32a フランジ
32b アーム部
32c 継手部
32d ウェブ
34 継手部材
36 嵌合用スリット
38 固定部材
40 成形充填材
40a 開口
40a1 入口スリット
40b 分割線
42 回転防止部材
42a 突出部
42b 基部
44 上端側支持部材
46 下端側支持部材
48 地盤反力低減装置