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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145430
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】キャスター及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60B 33/00 20060101AFI20220926BHJP
   B62B 5/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B60B33/00 X
B62B5/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142915
(22)【出願日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2021045751
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木島 洸貴
(72)【発明者】
【氏名】中畑 多佳之
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 紘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大介
【テーマコード(参考)】
3D050
【Fターム(参考)】
3D050AA01
3D050BB01
3D050DD03
3D050EE09
3D050FF04
3D050KK04
3D050KK06
3D050KK16
(57)【要約】
【課題】単純な構造で、段差踏破に必要な力を低減することができるキャスター及び車両を提供する。
【解決手段】キャスター10は、フレーム20と、フレーム20に対して水平な主輪車軸Am回りに回動可能に支持される主輪30と、フレーム20に対して主輪車軸Amと平行な補助輪車軸Aa回りに回動可能に支持される補助輪40と、車体202に取り付けられるブラケット50と、フレーム20とブラケット50とを水平な接続軸Ac回りに回動可能かつ接続軸Acに垂直な摺動方向Lsに所定の移動範囲で摺動可能に接続する接続機構70と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
前記フレームに対して水平な主輪車軸回りに回動可能に支持される主輪と、
前記フレームに対して前記主輪車軸と平行な補助輪車軸回りに回動可能に支持される補助輪と、
車体に取り付けられるブラケットと、
前記フレームと前記ブラケットとを水平な接続軸回りに回動可能かつ前記接続軸に垂直な摺動方向に所定の移動範囲で摺動可能に接続する接続機構と、
を備える、キャスター。
【請求項2】
前記フレームに対して前記接続軸を前記摺動方向に駆動可能な直動アクチュエータを備える、
請求項1に記載のキャスター。
【請求項3】
前記接続軸が前記移動範囲のうち前記補助輪が設けられる側に移動すると、前記補助輪が走行面に接地し、前記主輪にかかる前記車体の分担荷重が減少するとともに前記補助輪にかかる前記車体の分担荷重が増加する、
請求項1又は2に記載のキャスター。
【請求項4】
前記接続軸が前記移動範囲のうち前記補助輪に対する前記主輪が設けられる側の端部にある状態では、前記補助輪が走行面から浮き上がった状態を維持する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のキャスター。
【請求項5】
前記ブラケットは、前記補助輪が走行面から浮き上がる方向への前記フレームの回転範囲を規制するストッパを有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のキャスター。
【請求項6】
前記接続機構は、
前記ブラケットに設けられ、軸心を前記接続軸とする接続軸部材と、
前記フレームに形成され、前記接続軸部材が前記接続軸回りに回動可能かつ前記摺動方向に摺動可能に接続される長穴と、
を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載のキャスター。
【請求項7】
前記長穴は、前記主輪及び前記補助輪が共に同一平面上に接地している状態において、前記補助輪側から前記主輪側へ向かって下方に傾斜するように設けられる、
請求項6に記載のキャスター。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のキャスターと、
前記ブラケットが取り付けられる前記車体と、
を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスター及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行補助器、自律移動ロボット、電動車椅子、自走車椅子、シルバーカー、ベビーカート、台車等の車両に取り付けられるキャスターには、走行路に存在する段差、凹凸、傾斜部、階段等の障害物の乗り越え及び昇降を行う技術が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、主輪が段差に衝突する際、主輪の前方に設けられた補助輪が下降し、補助輪の分担荷重が増加することで段差を乗り越えるキャスターの構造が開示されている。また、特許文献2には、主輪の前方に設けられた補助輪が段差に衝突する際、主輪が後退及び上昇し、主輪の段差との接触角度を変更することで段差を乗り越えるキャスターの構造が開示されている。また、特許文献3には、キャスターが先端に設けられる直動アクチュエータが垂直方向に伸長し、車椅子本体及び主輪が水平姿勢のまま垂直に上昇することで段差を乗り越える車椅子の構造が開示されている。また、特許文献4には、接地部が上方に位置するように主輪の前方に設けられた小径の補助輪が、主輪と動力伝達可能に連結され、主輪と比較して減速されトルクが増大した補助輪の推力によって段差を乗り越える台車の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-099066号公報
【特許文献2】特開2006-007855号公報
【特許文献3】特開2003-180757号公報
【特許文献4】特開2010-195160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のキャスターは、段差を乗り越える際に補助輪が地面を押して車体自体を持ち上げる、すなわち補助輪に車体の重量全体がかかるため、車椅子等の重量が大きい車両への適用が難しい。また、特許文献1のキャスターは、元の状態に戻すための復元力を生起する機構として設けられるばねの付勢力が、段差踏破方向とは逆向きの力として作用するため、段差踏破に必要な推力が増大する問題がある。
【0006】
また、特許文献2のキャスターも、特許文献1のキャスターと同様に、段差踏破に必要な推力を低減するのには限界があり、さらに、機構が複雑である。また、特許文献3の車椅子は、水平姿勢を維持した状態で垂直に上昇するために、少なくとも3つの直動アクチュエータと各々の直動アクチュエータを制御する制御機能とが必要であり、構造が複雑である。また、特許文献4の台車は、平地走行時においても常に補助輪に動力が伝達されるので、走行のためのエネルギーに浪費が生じる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、単純な構造で、段差踏破に必要な力を低減することができるキャスター及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るキャスターは、フレームと、前記フレームに対して水平な主輪車軸回りに回動可能に支持される主輪と、前記フレームに対して前記主輪車軸と平行な補助輪車軸回りに回動可能に支持される補助輪と、車体に取り付けられるブラケットと、前記フレームと前記ブラケットとを水平な接続軸回りに回動可能かつ前記接続軸に垂直な摺動方向に所定の移動範囲で摺動可能に接続する接続機構と、を備える。
【0009】
キャスターは、車体に取り付けられるブラケットに対してフレームが回動することにより、主輪のみを走行面に接地させる状態と、主輪及び補助輪を走行面に接地させる状態と、の間で変形可能である。すなわち、主輪が段差の下側の走行面に接地している状態で、補助輪を段差の上側の走行面に接地させることができる。また、この状態において、車体に取り付けられるブラケットを、フレームに対して補助輪が設けられる側に摺動させることによって、車体から受ける分担荷重が、主輪側から補助輪側へ移動する。これにより、段差踏破に必要な推進力を低減することができる。
【0010】
本発明の一態様に係るキャスターは、前記フレームに対して前記接続軸を前記摺動方向に駆動可能な直動アクチュエータを備える。これにより、フレームに対してブラケットが補助輪側へ移動するのを補助することができるため、段差踏破に必要な推進力をさらに低減することができる。
【0011】
本発明の一態様に係るキャスターは、前記接続軸が前記移動範囲のうち前記補助輪が設けられる側に移動すると、前記補助輪が走行面に接地し、前記主輪にかかる前記車体の分担荷重が減少するとともに前記補助輪にかかる前記車体の分担荷重が増加する。これにより、段差踏破に必要な荷重移動を効率的かつ効果的に行なうことができるので、主輪による段差乗り越えがさらに容易となる。
【0012】
本発明の一態様に係るキャスターは、前記接続軸が前記移動範囲のうち前記補助輪に対する前記主輪が設けられる側の端部にある状態では、前記補助輪が走行面から浮き上がった状態を維持する。これにより、段差がない走行面上での通常の走行時には主輪のみでの走行が可能となる。
【0013】
本発明の一態様に係るキャスターにおいて、前記ブラケットは、前記補助輪が走行面から浮き上がる方向への前記フレームの回転範囲を規制するストッパを有する。これにより、フレームが必要以上に回転しなくなり、フレームの過度な浮き上がりによる不安定な走行を回避できる。
【0014】
本発明の一態様に係るキャスターにおいて、前記接続機構は、前記ブラケットに設けられ、軸心を前記接続軸とする接続軸部材と、前記フレームに形成され、前記接続軸部材が前記接続軸回りに回動可能かつ前記摺動方向に摺動可能に接続される長穴と、を含む。これにより、接続機構を簡単な形態で実現できるとともに、接続機構によるフレームとブラケットとの摺動機能及び回動機能を同時に果たすこともできる。また、接続軸部材及び長穴は、フレームに対するブラケットの摺動を滑らかにし、あたかも坂道をスライドして登り上がるようなスムーズな荷重移動を可能にする。したがって、推力低減効果を効果的かつ効率的に得ることができる。
【0015】
本発明の一態様に係るキャスターにおいて、前記長穴は、前記主輪及び前記補助輪が共に同一平面上に接地している状態において、前記補助輪側から前記主輪側へ向かって下方に傾斜するように設けられる。これにより、主輪及び補助輪が共に同一平面上に接地している状態において、長穴は、補助輪側から主輪側へ向けて下方に傾斜する体勢である。このため、補助輪側へ移動していた接続軸部材は、フレームが車体から受ける荷重によって、長穴に沿って滑り降りる方向の力を受ける。したがって、直動アクチュエータの駆動力を小さくすることができる。もしくは、例えば、接続軸部材の摺動を補助する駆動力を、直動アクチュエータの駆動源から伝達する状態と伝達しない状態とを切り替え可能な機構をさらに設け、駆動力を伝達しない状態において接続軸部材を車体から受ける荷重によって主輪側へ自動的に復帰させるようにしてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る車両は、前記キャスターと、前記ブラケットが取り付けられる前記車体と、を備える。キャスターは、車体に取り付けられるブラケットに対してフレームが回動することにより、主輪のみを走行面に接地させる状態と、主輪及び補助輪を走行面に接地させる状態と、の間で変形可能である。すなわち、主輪が段差の下側の走行面に接地している状態で、補助輪を段差の上側の走行面に接地させることができる。また、この状態において、車体に取り付けられるブラケットを、フレームに対して補助輪が設けられる側に摺動させることによって、車体から受ける分担荷重が、主輪側から補助輪側へ移動する。これにより、段差踏破に必要な推進力を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、単純な構造で、段差踏破に必要な力を低減することができるキャスター及び車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態に係るキャスターの概略側面図である。
図2図2は、図1に示すキャスターが変形した状態を示す概略側面図である。
図3図3は、図1に示すキャスターが図2に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
図4図4は、図1に示すキャスターの図3に示す状態における推力低減効果を説明するための説明図である。
図5図5は、図1に示すキャスターが図3に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
図6図6は、第2実施形態に係るキャスターの概略側面図である。
図7図7は、図6に示すキャスターが変形した状態を示す概略側面図である。
図8図8は、図6に示すキャスターが図7に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
図9図9は、図6に示すキャスターの図8に示す状態における推力低減効果を説明するための説明図である。
図10図10は、図6に示すキャスターが図8に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
[第1施形態]
まず、第1実施形態に係るキャスター10の構成について、図1から図5までを参照して説明する。図1は、第1実施形態に係るキャスター10の概略側面図である。図2は、図1に示すキャスター10が変形した状態を示す概略側面図である。図3は、図1に示すキャスター10が図2に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。図4は、図1に示すキャスター10の図3に示す状態における推力低減効果を説明するための説明図である。図5は、図1に示すキャスター10が図3に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
【0021】
なお、図1から図5までは、第1実施形態に係るキャスター10の様々な異なる姿勢状態を示している。図1は、キャスター10が走行する走行面Gsにおいて走行方向前方に位置する段差Stにキャスター10が接触した状態を示す。図2図3及び図4は、キャスター10が段差Stを乗り越えるために変形した状態を示す。図5は、キャスター10が段差Stを乗り越えた直後の状態を示す。
【0022】
また、以下の説明において、キャスター10が段差踏破可能な方向への回転方向を正回転方向Rfといい、正回転方向Rfとは反対側の回転方向を逆回転方向Rrという。キャスター10が段差踏破可能な方向へ回転する場合の進行方向は、図1から図5までにおいて、左方向である。正回転方向Rfは、図1から図5までにおいて、反時計方向である。逆回転方向Rrは、図1から図5までにおいて、時計方向である。また、走行面Gsのうち、段差Stより手前の下側の走行面Gsを第1の走行面Gs1といい、段差Stを越えた上側の走行面Gsを第2の走行面Gs2という。
【0023】
第1実施形態のキャスター10は、歩行補助器、自律移動ロボット、電動車椅子、自走車椅子、シルバーカー、ベビーカート、台車等の車両100の車体102の走行のために車体102の所定の部位に取り付けられる走行用の部材である。キャスター10は、例えば、旋回可能に車体102の下部に取り付けられる。キャスター10は、例えば、車両100の左右対称に、車体102の少なくとも前方2箇所に配置される。キャスター10は、フレーム20と、主輪30と、補助輪40と、ブラケット50と、接続機構70と、直動アクチュエータ80と、を備える。
【0024】
フレーム20は、大径の主輪30と小径の補助輪40とを支持し、かつ車体102に取り付けられるブラケット50に支持される構造体である。フレーム20は、走行方向の後端部付近において、主輪30を水平軸(主輪車軸Am)回りに回動可能に支持する。フレーム20は、走行方向の前端部付近において、補助輪40を水平軸(補助輪車軸Aa)回りに回動可能に支持する。フレーム20は、ブラケット50に対して、水平軸(接続軸Ac)回りに回動可能、かつ摺動方向Lsに所定の移動範囲で摺動可能に支持される。摺動方向Lsは、接続軸Acに垂直な一方向である。摺動方向Lsは、主輪30及び補助輪40が共に同一平面上に接地している状態(例えば、図5に示す状態)において、フレーム20の前方(補助輪40側)から後方(主輪30側)へ向かって下方に傾斜するように設定される。
【0025】
フレーム20には、摺動方向Lsに長手方向を有する長穴24が形成される。長穴24は、フレーム20の上端部付近において、フレーム20の前端部付近から後端部付近に向かって延びて形成される。長穴24の前端部は、少なくとも主輪車軸Amより前方に位置する。長穴24の後端部は、少なくとも主輪車軸Amより後方に位置する。長穴24は、摺動方向Lsに沿って設けられるので、主輪30及び補助輪40が共に同一平面上に接地している状態(例えば、図5に示す状態)において、フレーム20の前方(補助輪40側)から後方(主輪30側)へ向かって下方に傾斜するように設けられる。長穴24は、第1実施形態において、主輪車軸Amと平行な方向に貫通する。長穴24は、後述の接続軸部材72とともに、フレーム20とブラケット50とを接続する接続機構70を構成する。長穴24には、接続軸部材72が挿通する。
【0026】
主輪30は、補助輪40に対して大径である。主輪30は、より大径である方が、段差踏破に有利である。主輪30は、フレーム20の後端部付近に配置され、フレーム20に対して主輪車軸Am回りに回動可能に設けられる。主輪30は、第1実施形態において、主輪車軸Amを軸心とする主輪車軸部材32を介して、フレーム20に支持される。主輪車軸部材32は、第1実施形態において、円柱状の軸部材である。主輪車軸部材32は、フレーム20に固定されて主輪30を主輪車軸Am回りに回動可能に支持してもよいし、主輪30に固定されてフレーム20に対して主輪車軸Am回りに回動可能に支持されてもよい。
【0027】
補助輪40は、主輪30に対して小径である。補助輪40は、小径であっても、段差踏破に影響がない。補助輪40は、フレーム20の前端部付近に配置され、フレーム20に対して補助輪車軸Aa回りに回動可能に設けられる。補助輪40は、第1実施形態において、補助輪車軸Aaを軸心とする補助輪車軸部材42を介して、フレーム20に支持される。補助輪車軸部材42は、第1実施形態において、円柱状の軸部材である。補助輪車軸部材42は、フレーム20に固定されて補助輪40を補助輪車軸Aa回りに回動可能に支持してもよいし、補助輪40に固定されてフレーム20に対して補助輪車軸Aa回りに回動可能に支持されてもよい。
【0028】
ブラケット50は、車体102の所定の固定部位に取り付けられ、フレーム20を車体102に接続する。ブラケット50は、接続部52と、固定部54と、延在部56と、を含む。
【0029】
接続部52は、ブラケット50の下端部付近に構成される。接続部52は、接続機構70を介して、フレーム20に対して接続軸Ac回りに回動可能、かつ摺動方向Lsに所定の移動範囲で摺動可能であるように、フレーム20に接続される。第1実施形態において、接続部52には、後述の接続機構70の接続軸Acを軸心とする接続軸部材72が固定される。
【0030】
固定部54は、ブラケット50の上端部付近に構成される。固定部54は、車体102の所定の固定部位に取り付けられる。固定部54は、例えば、旋回可能にブラケット50を車体102に接続する。固定部54は、接続部52よりキャスター10の走行方向の前方に位置する。
【0031】
延在部56は、接続部52と固定部54との間で延在するブラケット50の中央部分を示す。延在部56は、第1実施形態において、固定部54から後方に位置する接続部52に向かって下方に傾斜するように延びて設けられる。延在部56の下面58は、図1及び図2に示すように、フレーム20が主輪車軸Am回りに逆回転方向Rr側に回転した位置にある場合、フレーム20の上端面22の傾斜角とほぼ対応する傾斜角を水平面に対してなす。延在部56は、ブラケット50に対して主輪車軸Am回りに逆回転方向Rrに回転するフレーム20と当接して、フレーム20のそれ以上の逆回転方向Rrへの回転を規制するストッパとしての機能を有する。第1実施形態において、ストッパとしての下面58には、フレーム20が突き当たる際の衝撃を緩和する緩衝材60が設けられている。
【0032】
接続機構70は、フレーム20とブラケット50とを水平軸(接続軸Ac)回りに回動可能かつ接続軸Acに垂直な摺動方向Lsに所定の移動範囲で摺動可能に接続する。接続機構70は、第1実施形態において、フレーム20に形成された長穴24と、ブラケット50の接続部52に固定された接続軸部材72と、を含む。
【0033】
接続軸部材72は、接続軸Acを軸心とする円柱状の軸部材である。接続軸部材72は、長穴24内において、軸心である接続軸Ac回りに回動可能である。また、接続軸部材72は、長穴24内を摺動方向Lsに摺動可能である。接続軸部材72は、少なくとも、図2図3図4及び図5に示す第1の位置P1と、図1に示す第2の位置P2と、の間で長穴24内を摺動移動可能である。
【0034】
第2の位置P2は、主輪30が設けられるフレーム20の後方寄りであって、少なくとも主輪車軸Amより後方に位置する。接続軸部材72が長穴24内において図1に示す第2の位置P2にある場合では、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20が主輪車軸Am回りの逆回転方向Rrの力を受ける。このため、キャスター10は、主輪30が走行面Gsに接地するとともに補助輪40が走行面Gsから浮き上がる。
【0035】
接続軸部材72が長穴24内において図1に示す第2の位置P2にある場合であって、ブラケット50の延在部56の下面58に設けられた緩衝材60にフレーム20の上端面22が当接している場合、フレーム20は、主輪車軸Am回りの逆回転方向Rrへの回転を規制される。すなわち、キャスター10は、補助輪40が走行面Gsから浮き上がった状態を維持する。このような状態において、キャスター10は、段差Stのない走行面Gs上での通常の走行時に主輪30のみで走行することが可能である。
【0036】
なお、第2の位置P2は、接続軸部材72の接続軸Acが移動可能な範囲のうち、主輪30が設けられる側の端部を含み、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20が主輪車軸Am回りの逆回転方向Rrの力を受ける位置を含む。第2の位置P2は、段差Stの高さやフレーム20の形状等によって所定の範囲内で変動し得る。
【0037】
第1の位置P1は、補助輪40が設けられるフレーム20の前方寄りであって、少なくとも主輪車軸Amより前方に位置する。接続軸部材72が長穴24内において図2図3図4及び図5に示す第1の位置P1にある場合、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20は、主輪車軸Am回りの正回転方向Rfの力を受ける。このため、キャスター10は、主輪30が走行面Gsに接地するとともに補助輪40が走行面Gsに接地する。
【0038】
すなわち、接続軸部材72が第2の位置P2から第1の位置P1に移動することによって、キャスター10が車体102から受ける荷重を、主輪30のみならず補助輪40も分担するようになる。接続軸Acが主輪車軸Amから補助輪40が設けられる側に離隔するほど、フレーム20にかかる正回転方向Rfへのトルクが大きくなるので、補助輪40に作用する分担荷重が増加し、主輪30に作用する分担荷重が減少する。
【0039】
なお、第1の位置P1は、接続軸部材72の接続軸Acが移動可能な範囲のうち、補助輪40が設けられる側の端部を含み、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20が主輪車軸Am回りの正回転方向Rfの力を受ける位置を含む。第1の位置P1は、段差Stの高さやフレーム20の形状等によって所定の範囲内で変動し得る。
【0040】
直動アクチュエータ80は、フレーム20に対して接続軸Acを摺動方向Lsに駆動可能に設けられる。直動アクチュエータ80は、第1実施形態において、一対の固定基部82と、ガイド部材84と、ボールねじ86と、モータ88と、可動部90と、を含む。
【0041】
一対の固定基部82は、フレーム20に形成された長穴24の前端部側及び後端部側において、接続軸Ac方向視で長穴24を長手方向に挟む位置に設けられる。固定基部82は、フレーム20に固定されるか、又はフレーム20と一体で設けられる。
【0042】
ガイド部材84は、可動部90の摺動方向Lsへの摺動移動を案内するとともに、可動部90の摺動方向Lsに平行な軸回りの回動を規制する。ガイド部材84は、第1実施形態において、一対のシャフトであるが、本実施形態では、例えば、一対のレールであってもよい。一対のガイド部材84は、接続軸Ac方向視で長穴24を短手方向に挟む位置において、摺動方向Lsに沿って一対の固定基部82の間に設けられる。
【0043】
ボールねじ86は、摺動方向Lsに沿って一対の固定基部82の間に設けられる。ボールねじ86は、一対の固定基部82に対して軸心回りに回動可能に支持される。ボールねじ86は、軸心回りに回動することによって、可動部90を摺動方向Lsへ移動させる。
【0044】
モータ88は、ボールねじ86を軸心回りに回動させるための回転駆動力を出力する。モータ88は、例えば、キャスター10が取り付けられる車体102に設けられた電源から供給された電力によって回転駆動する。
【0045】
可動部90は、ガイド部材84によって、摺動方向Lsに摺動移動可能に支持される。可動部90は、ボールねじ86が回動することによって、ボールねじ86の回転方向及び回転量に応じて、摺動方向Lsに摺動する。可動部90は、接続機構70の接続軸部材72と、接続軸Ac回りに相対回動可能に接続する。可動部90が摺動方向Lsに摺動移動することによって、接続軸部材72の接続軸Acは、長穴24に沿って摺動方向Lsに移動する。
【0046】
第1実施形態に係るキャスター10の段差の乗り越え動作について、図1から図5までを参照して説明する。図1から図5までには、第1実施形態に係るキャスター10が段差Stを乗り越える際の様々な異なる姿勢状態が示されている。なお、以下の説明では、キャスター10が取り付けられる車両100の車体102をユーザが前方に押し進めて走行移動させている状態を想定する。
【0047】
図1に示すように、接続軸部材72が長穴24内において第2の位置P2にある場合、フレーム20は、キャスター10が車体102から受ける荷重により主輪車軸Am回りの逆回転方向Rrの力を受けるとともに、上端面22がブラケット50の延在部56の下面58に設けられた緩衝材60に当接する。これにより、キャスター10は、補助輪40が走行面Gsから浮き上がった状態を維持するため、段差Stのない走行面Gs上での通常の走行時に主輪30のみで走行することが可能である。
【0048】
図1に示すように、補助輪40が走行面Gs(第1の走行面Gs1)から浮き上がった状態においてキャスター10が段差Stに到達すると、まず、主輪30が段差Stに接触する。この際、補助輪40は、走行面Gsから浮き上がった状態のまま段差Stを通り過ぎ、段差Stの上側の第2の走行面Gs2の上方に位置する。
【0049】
次に、図2に示すように、主輪30が段差Stに接触した状態で、車体102が押し進められると、車体102に接続されたブラケット50に固定された接続軸部材72は、長穴24に沿ってあたかも坂道をスライドして登り上がるように摺動する、この際、同時に、直動アクチュエータ80を駆動させ、可動部90を介して接続軸部材72を長穴24に沿って前方の第1の位置P1に移動させるのを補助する。これにより、キャスター10が車体102から受ける荷重の力の方向が、接続軸Acに対して主輪車軸Amよりも後方から前方へと徐々に移動する。
【0050】
次に、図3に示すように、さらに、車体102が押し進められると、接続軸部材72は、長穴24に沿って前方に摺動移動する。この際、同時に、直動アクチュエータ80を駆動させ、可動部90を介して接続軸部材72を長穴24に沿って前方に移動させるのを補助する。これにより、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20が主輪車軸Am回りの正回転方向Rfの力を受ける。これにより、フレーム20が主輪車軸Am回りの正回転方向Rfに回転し、浮き上がっていた補助輪40が降下して第2の走行面Gs2に接地する。
【0051】
図3に示す状態から、さらに、車体102が押し進められると、接続軸部材72は、長穴24に沿って前方に摺動移動する。この際、同時に、直動アクチュエータ80を駆動させ、可動部90を介して接続軸部材72を長穴24に沿って前方に移動させるのを補助する。これにより、接続軸Acが主輪車軸Amから補助輪40が設けられる側に離隔するので、フレーム20にかかる正回転方向Rfへのトルクが大きくなり、補助輪40に作用する分担荷重が増加するとともに、主輪30に作用する分担荷重が減少する。ここで、後述の数式4に示すように、段差踏破に必要な推力(キャスター10が取り付けられる車両100の車体102をユーザが前方に押し進めようとする力)は、掛けられる荷重に比例する。したがって、補助輪40に作用する分担荷重が増加し、主輪30に作用する分担荷重が減少することによって、段差踏破に必要な推力の閾値が低減されるので、主輪30は、段差踏破に必要な推力の閾値が、車体102がユーザに押される力を下回るタイミングで、段差Stの角を支点にしつつ第1の走行面Gs1から離れて段差Stを乗り越える。
【0052】
図5に示すように、主輪30が段差Stを完全に乗り越えて主輪30及び補助輪40がいずれも段差Stの上側の第2の走行面Gs2に接触した状態をそれぞれ示している。この状態から、直動アクチュエータ80を駆動させ、可動部90を介して接続軸部材72を長穴24に沿って後方の第2の位置P2に移動させるのを補助する。これにより、キャスター10が車体102から受ける荷重により、フレーム20が主輪車軸Am回りの正回転方向Rfの力を受けるため、キャスター10は、再び補助輪40が走行面Gsから浮き上がり、主輪30のみで走行する。
【0053】
ここで、図5に示す状態、すなわち、主輪30及び補助輪40が共に同一平面(第2の走行面Gs2)上に接地している状態において、長穴24は、補助輪40側から主輪30側へ向けて下方に傾斜する体勢である。このため、フレーム20の前方(補助輪40)側へ移動していた接続軸部材72は、フレーム20が車体102から受ける荷重によって、長穴24に沿って滑り降りる方向の力を受ける。したがって、直動アクチュエータ80のモータ88の回転トルクを小さくすることができる。もしくは、例えば、モータ88の出力軸とボールねじ86との間に、回転駆動力を伝達する状態と伝達しない状態とを切り替え可能なクラッチ機構を設け、回転駆動力を伝達しない状態において接続軸部材72を車体102から受ける荷重によって第2の位置P2へ自動的に復帰させるようにしてもよい。
【0054】
第1実施形態のキャスター10において、推力低減効果を得るためには、例えば、以下のように設計パラメータを設定すればよい。すなわち、図4に示されるように、主輪30が段差Stに接触した状態で、車体102を前方へ押し進めるための推力をF、車体102から受ける荷重をWb、キャスター10からの抗力をN、水平に対する長穴24の傾斜角度をθ、段差Stに対する主輪30の接触角をφとすると、以下の数式1から数式4までに示すように表わされる。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】
【0055】
ここで、通常の車輪では、
【数5】

が段差踏破に必要な推力であることが知られており、また、tanが単調増加な関数であることから、(π/2)-θ>φを満たすように設計すれば、推力低減効果を見込める。一例として、主輪30の直径を200mm、段差Stの高さを50mmとすると、接触角φは約30°となる。長穴24の傾斜角度θを60°より小さくなるよう設計すれば、推力低減効果が見込める。定性的には、「車輪で段差を越える」のではなく、「長穴をスロープのように利用して段差の上に登る」ため、この低減効果が得られる。
【0056】
さらに、直動アクチュエータ80によって、可動部90を介して接続軸部材72を長穴24に沿って後方の第2の位置P2に移動させるのを補助することにより、ユーザは、ごく僅かな推力を与えるのみでキャスター10に段差を踏破させることができる。
【0057】
以上説明したように、第1実施形態のキャスター10は、フレーム20と、フレーム20に対して水平な主輪車軸Am回りに回動可能に支持される主輪30と、フレーム20に対して主輪車軸Amと平行な補助輪車軸Aa回りに回動可能に支持される補助輪40と、車体102に取り付けられるブラケット50と、フレーム20とブラケット50とを水平な接続軸Ac回りに回動可能かつ接続軸Acに垂直な摺動方向Lsに所定の移動範囲で摺動可能に接続する接続機構70と、を備える。また、第1実施形態の車両100は、キャスター10と、ブラケット50が取り付けられる前記車体102と、を備える。
【0058】
第1実施形態のキャスター10は、車体102に取り付けられるブラケット50に対してフレーム20が回動することにより、主輪30のみを走行面Gsに接地させる状態と、主輪30及び補助輪40を走行面Gsに接地させる状態と、の間で変形可能である。すなわち、主輪30が段差Stの下側の第1の走行面Gs1に接地している状態で、補助輪40を段差Stの上側の第2の走行面Gs2に接地させることができる。また、この状態において、車体102に取り付けられるブラケット50を、フレーム20に対して補助輪40が設けられる側に摺動させることによって、車体102から受ける分担荷重が、主輪30側から補助輪40側へ移動する。これにより、段差踏破に必要な推進力を低減することができる。
【0059】
また、第1実施形態のキャスター10は、フレーム20に対して接続軸Acを摺動方向Lsに駆動可能な直動アクチュエータ80を備える。これにより、フレーム20に対してブラケット50が補助輪40側へ移動するのを補助することができるため、段差踏破に必要な推進力をさらに低減することができる。
【0060】
また、第1実施形態のキャスター10は、接続軸Acが移動範囲のうち補助輪40が設けられる側に移動すると、補助輪40が走行面Gsに接地し、主輪30にかかる車体102の分担荷重が減少するとともに補助輪40にかかる車体102の分担荷重が増加する。これにより、段差踏破に必要な荷重移動を効率的かつ効果的に行なうことができるので、主輪30による段差乗り越えがさらに容易となる。
【0061】
また、第1実施形態のキャスター10は、接続軸Acが移動範囲のうち補助輪40に対する主輪30が設けられる側の端部にある状態では、補助輪40が走行面Gsから浮き上がった状態を維持する。これにより、段差Stがない走行面Gs上での通常の走行時には主輪30のみでの走行が可能となる。
【0062】
また、第1実施形態のキャスター10において、ブラケット50は、補助輪40が走行面Gsから浮き上がる方向(逆回転方向Rr)へのフレーム20の回転範囲を規制するストッパ(第1実施形態では、延在部56の下面58に設けられる緩衝材60)を有する。これにより、フレーム20が必要以上に逆回転方向Rrへ回転しなくなり、フレーム20の過度な浮き上がりによる不安定な走行を回避できる。
【0063】
また、第1実施形態のキャスター10において、接続機構70は、ブラケット50に設けられ、軸心を接続軸Acとする接続軸部材72と、フレーム20に形成され、接続軸部材72が接続軸Ac回りに回動可能かつ摺動方向Lsに摺動可能に接続される長穴24と、を含む。これにより、接続機構70を簡単な形態で実現できるとともに、接続機構70によるフレーム20とブラケット50との摺動機能及び回動機能を同時に果たすこともできる。また、接続軸部材72及び長穴24は、フレーム20に対するブラケット50の摺動を滑らかにし、あたかも坂道をスライドして登り上がるようなスムーズな荷重移動を可能にする。したがって、推力低減効果を効果的かつ効率的に得ることができる。
【0064】
また、第1実施形態のキャスター10において、長穴24は、主輪30及び補助輪40が共に同一平面上に接地している状態において、補助輪40側から主輪30側へ向かって下方に傾斜するように設けられる。これにより、主輪30及び補助輪40が共に同一平面(第2の走行面Gs2)上に接地している状態において、長穴24は、補助輪40側から主輪30側へ向けて下方に傾斜する体勢である。このため、補助輪40側へ移動していた接続軸部材72は、フレーム20が車体102から受ける荷重によって、長穴24に沿って滑り降りる方向の力を受ける。したがって、直動アクチュエータ80の回転駆動力を小さくすることができる。もしくは、例えば、接続軸部材72の摺動を補助する駆動力を、直動アクチュエータ80の駆動源から伝達する状態と伝達しない状態とを切り替え可能な機構を設け、駆動力を伝達しない状態において接続軸部材72を車体102から受ける荷重によって第2の位置P2へ自動的に復帰させるようにしてもよい。
【0065】
[第2施形態]
次に、第2実施形態に係るキャスター110の構成及び動作について、図6から図10までを参照して説明する。図6は、第2実施形態に係るキャスター110の概略側面図である。図7は、図6に示すキャスター110が変形した状態を示す概略側面図である。図8は、図6に示すキャスター110が図7に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。図9は、図6に示すキャスター110の図8に示す状態における推力低減効果を説明するための説明図である。図10は、図6に示すキャスター110が図8に示す状態よりさらに変形した状態を示す概略側面図である。
【0066】
図6から図10までには、第2実施形態に係るキャスター110が様々な異なる姿勢状態で示されている。具体的には、図6は、走行面Gsの段差Stにキャスター110の主輪130が接触した状態、すなわち、段差Stの下側の第1の走行面Gs1上を走行する主輪130が段差Stに接触した状態、図7は、段差Stを乗り越えようとする推力(キャスター110が取り付けられる車両200の車体202をユーザによって前方へ押し進めようとする力)によって車体202と共にキャスター110のブラケット150がフレーム120に対して摺動した状態、図8及び図9は、図7の摺動に伴ってキャスター110の補助輪140が段差Stの上側の第2の走行面Gs2に接触した状態、図10は、図8及び図9の状態から主輪130が段差Stを完全に乗り越えて主輪130及び補助輪140がいずれも段差Stの上側の第2の走行面Gs2に接触した状態をそれぞれ示している。
【0067】
これらの図に示されるように、第2実施形態に係るキャスター110は、車体202の走行のために車体202の所定部位に(例えば旋回可能に)取り付けられるようになっており、大径の主輪130と小径の補助輪140とを有するフレーム120と、フレーム120を車体202に接続するためのブラケット150と、フレーム120とブラケット150とを互いに摺動可能にかつ回動可能に接続する接続機構170とを有する。
【0068】
主輪130は、フレーム120の後端部付近に回転軸(車軸)132を中心に回転可能に取り付けられており、また、補助輪140は、フレーム120の前端部付近に回転軸(車軸)142を中心に回転可能に取り付けられている。
【0069】
また、接続機構170は、本実施の形態では、フレーム120に形成される長穴124と、この長穴124に接続されるブラケット150の接続部152とを有して成る。この場合、長穴124は、フレーム120の上端部側で、補助輪140が位置されるフレーム120の前端部から主輪130が位置されるフレーム120の後端部に至る(回転軸132よりも後方に至る)まで、フレーム120の長手方向(前後方向)に沿って延在している。また、長穴124は、主輪130及び補助輪140が共に同一平面上に接触されている図10の状態(主輪130が段差Stを完全に乗り越えて主輪130及び補助輪140が段差Stの上側の第2の走行面Gs2に接触した状態)で補助輪140側から主輪130側へ向けて下向きに傾斜するように延在している。
【0070】
フレーム120を車体202に接続するためのブラケット150は、車体202の所定の固定部位に固定される(例えば、旋回可能に取り付けられる)上端側の固定部154と、例えば枢軸172を介してフレーム120の長穴124内に摺動可能かつ回動可能に係合状態で接続される下端側の接続部152と、固定部154と接続部152との間で延在する延在部156とを有して成る。この場合、延在部156は、固定部154から後方の接続部152に向かって下向きに傾斜するように延びており、その下面158は、後述するように通常走行状態(接続部152が後述する第2の位置P2にある状態)で補助輪140が浮き上がるように傾斜する(枢軸172を中心に回動する)フレーム120の上端面122の傾斜角とほぼ対応する傾斜角を水平面に対して成し、ブラケット150に対して回動するフレーム120と当接してフレーム120のそれ以上の回動を規制するストッパとしての機能を果たすようになっている。なお、このストッパとしての下面158には、フレーム120が突き当たる際の衝撃を緩和する緩衝材160が設けられている。
【0071】
また、長穴124内に摺動可能かつ回動可能に接続されるブラケット150の接続部152は、少なくとも、主輪130の回転軸132に対して補助輪140側に位置される第1の位置P1(図7図8図9及び図10には第1の位置P1の一例が示されている;この第1の位置P1は、段差Stの高さやフレーム120の長さ等によって所定の範囲内で変動し得る)と、回転軸132に対して第1の位置P1と反対側に位置される第2の位置P2(図6参照)との間で、長穴124内を摺動できるようになっている。したがって、ブラケット150が車体202に接続されてブラケット150の接続部152が第2の位置P2にある状態(図6の状態)では、車体202から受ける荷重により、主輪130が走行面Gsに接触するとともに補助輪140が走行面Gsから浮き上がるようになり、これにより、段差Stがない走行面上での通常の走行時には主輪130のみでの走行が可能となる。一方、主輪130による段差踏破時(図7及び図8参照)には、ブラケット150の接続部152が第2の位置P2から第1の位置P1へ移動して車体202の分担荷重が補助輪140側へ移動できるようになり、そのため、主輪130が段差Stの下側に位置される第1の走行面Gs1から浮き上がるとともに、補助輪140が段差Stの上側に位置される第2の走行面Gs2上に接触することができる。すなわち、ブラケット150の効果的な位置変動量が確保されて、段差踏破に必要な荷重移動を効率的かつ効果的に行なうことができるようになる。
【0072】
そして、このような長穴124に沿う接続部152の位置P1、P2間の移動を伴う接続機構170は、ブラケット150が車体202に接続された状態での主輪130による段差踏破時に、フレーム120に対するブラケット150の摺動及びブラケット150に対するフレーム120の回動を許容して、車体202の分担荷重を主輪130側から補助輪140側へと移動可能にすることによって、段差踏破に必要な推力を低減できるようにする。以下、これについて図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、キャスター110が取り付けられた車体202をユーザが前方に押し進めて走行移動させている状態を想定する。
【0073】
段差がない走行面Gs上での通常の走行時、補助輪140は、図6に示されるように、走行面Gsから浮いた状態となっている。この状態は、主輪130の回転軸132を挟んで補助輪140と逆側に位置される第2の位置P2にブラケット150の接続部152が位置されることによって実現され、車体202から受ける荷重によって補助輪140が空中に持ち上がった状態に維持される。
【0074】
走行面Gs(第1の走行面Gs1)上でキャスター110が段差Stに差し掛かかる際には、補助輪140が空中に浮いていることから、最初に主輪130が段差Stと接触する。その状態が図7に示される。その後、この状態で主輪130が段差Stに押し当てられたまま車体202が押し進められると、車体202に接続されたブラケット150の接続部152が長穴124に沿ってあたかも坂道をスライドして登り上がるように摺動し、それにより、車体202の分担荷重が主輪130側から補助輪140側へと移動していく。これにより、補助輪140側に作用する分担荷重が大きくなり、フレーム120が枢軸172を中心に下方に回動して、補助輪140が段差Stの上側に位置される第2の走行面Gs2に接触する。その状態が図8に示される。そのままさらに車体202が押し進められてブラケット150が長穴124に沿って前方に摺動されると、補助輪140に作用する分担荷重がさらに増えて主輪130に作用する分担荷重が減少するため、主輪130が徐々に第1の走行面Gs1から浮き上がるようになり、最終的に、段差踏破に必要な推力が低減されつつ主輪130が段差Stを乗り越えるようになる。
【0075】
主輪130が段差Stを乗り越えた状態が図10に示されている。この状態、すなわち、主輪130及び補助輪140が共に同一平面(第2の走行面Gs2)上に接触されている状態で、接続機構170を構成する長穴124は、補助輪140側から主輪130側へ向けて下向きに傾斜するように延びている。そのため、フレーム120の前方(補助輪140側)へ移動していたブラケット150は、車体202の荷重に伴う重力を受けて長穴124に沿って滑り降り、主輪130側の初期位置(第2の位置P2)へと自動的に戻ることができる。したがって、前述した特許文献1のようにキャスターを元の状態に戻すための復元力を生起するばね等の機構を別個に設ける必要がなく、それに伴う推力の増大化及び重量化を回避できる。
【0076】
実際に、このような接続機構170を利用して推力低減効果を得るためには、例えば、以下のように設計パラメータを設定すればよい。すなわち、図9に示されるように、主輪130が段差Stに接触した状態で、車体202を前方へ押し進めるための推力をF、車体202から受ける荷重をWb、キャスター110からの抗力をN、水平に対する長穴124の傾斜角度をθ、段差Stに対する主輪130の接触角をφとすると、数学的には、前述の第1実施形態のキャスター10と同様に、数式1から数式4までに示すように表わされる。
【0077】
ここで、通常の車輪では、前述の数式5に示す推力Fが段差踏破に必要な推力であることが知られており、また、tanが単調増加な関数であることから、(π/2)-θ>φを満たすように設計すれば、推力低減効果を見込める。一例として、主輪130の直径を200mm、段差Stの高さを50mmとすると、接触角φは約30°となる。長穴124の傾斜角度θを60°より小さくなるよう設計すれば、推力低減効果が見込める。定性的には、「車輪で段差を越える」のではなく、「長穴をスロープのように利用して段差の上に登る」ため、この低減効果が得られる。
【0078】
以上説明したように、第2実施形態のキャスター110は、車体202走行のために車体202に取り付けられるキャスター110であって、主輪130と補助輪140とを有するフレーム120と、フレーム120を車体202に接続するためのブラケット150と、フレーム120とブラケット150とを互いに摺動可能にかつ回動可能に接続する接続機構170と、を備え、接続機構170は、ブラケット150が車体202に接続された状態での主輪130による段差踏破時にフレーム120に対するブラケット150の摺動及びブラケット150に対するフレーム120の回動を許容して車体202の分担荷重を主輪130側から補助輪140側へと移動可能にする。
【0079】
第2実施形態のキャスター110によれば、接続機構170によってフレーム120とブラケット150とが互いに摺動可能にかつ回動可能に接続されるとともに、接続機構170の作用により、ブラケット150が車体202に接続された状態での主輪130による段差踏破時に、ブラケット150がフレーム120に対して摺動するとともにフレーム120がブラケット150に対して回動することでブラケット150に接続された車体202の分担荷重が主輪130側から補助輪140側へと移動できる。そのため、補助輪140に作用する車体分担荷重が次第に増大して主輪130に作用する車体分担荷重が減少し、したがって、段差踏破に必要な推進力を低減できる。すなわち、車体202を押し進めるユーザは、段差踏破のために(主輪130が段差Stを乗り越えるために)、車体202の重量を自らの力で持ち上げる必要はなく、接続機構170によるフレーム120とブラケット150との摺動/回動機能を利用して(あたかも坂道をスライドして登り上がるように)車体202の分担荷重を主輪130側から補助輪140側へと移動させる(車体202が前進する方向に力(推進力)を及ぼす)だけで済む。また、第2実施形態のキャスター110によれば、主輪130が段差Stに突き当たる際の力は、ブラケット150がフレーム120に対して摺動することにより前方に逃がされるため、段差衝突時の衝撃も緩和できる。つまり、第2実施形態のキャスター110によれば、少ない力でかつ衝撃を伴うことなく容易に段差Stを乗り越えることができる。
【0080】
また、第2実施形態のキャスター110は、接続機構170が、フレーム120に形成されてブラケット150の接続部152が摺動可能かつ回動可能に接続される長穴124により構成されているため、接続機構170を簡単な形態で実現できるとともに、接続機構170によるフレーム120とブラケット150との摺動機能及び回動機能を同時に果たすこともできる。また、このような長穴124は、フレーム120に対するブラケット150の摺動を滑らかにし、あたかも坂道をスライドして登り上がるようなスムーズな荷重移動を可能にする。したがって、推力低減効果を効果的かつ効率的に得ることができる。
【0081】
また、第2実施形態のキャスター110は、接続機構170を構成する長穴124が、主輪130及び補助輪140が共に同一平面上に接触されている状態で補助輪140側から主輪130側へ向けて下向きに傾斜するように延在する。これによれば、主輪130による段差踏破が完了した(主輪130が段差Stを完全に乗り越えた)時点、すなわち、主輪130及び補助輪140が共に同一平面上に接触された時点で、長穴124は、補助輪140側から主輪130側へ向けて下向きに傾斜していることから、フレーム120の前方(補助輪140側)へ移動していたブラケット150は、車体202荷重に伴う重力を受けて長穴124に沿って滑り降り、主輪130側の初期位置へと自動的に戻ることができる。そのため、前述した特許文献1のようにキャスターを元の状態に戻すための復元力を生起するばね等の機構を別個に設ける必要がなく、したがって、それに伴う推力の増大化及び重量化を回避できる。
【0082】
また、第2実施形態において、ブラケット150の接続部152は、主輪130の回転軸132に対して補助輪140側に位置される第1の位置P1と、回転軸132に対して第1の位置P1と反対側に位置される第2の位置P2との間で、長穴124内を摺動可能であるため、段差Stがない走行面上での通常の走行時には主輪130のみでの走行を可能にするとともに、段差踏破時には補助輪140の補助を伴う段差乗り越えを可能にするといったように、適切な荷重分配を確実に行なうことができ、段差踏破に必要な荷重移動を効率的かつ効果的に行なうことができるようになる。
【0083】
具体的には、ブラケット150が車体202に接続されてブラケット150の接続部152が第2の位置P2にある状態では、車体202から受ける荷重により、主輪130が走行面Gsに接触するとともに補助輪140が走行面Gsから浮き上がるようにすることができる。これにより、段差Stがない走行面Gs上での通常の走行時には主輪130のみでの走行が可能となる。
【0084】
一方、主輪130による段差踏破時に、ブラケット150の接続部152が第2の位置P2から第1の位置P1へ移動して車体202の分担荷重が補助輪140側へ移動されると、主輪130が段差Stの角を支点にしつつ段差Stの下側に位置される第1の走行面Gs1から離れるとともに、補助輪140が段差Stの上側に位置される第2の走行面Gs2上に接触するようになり、段差踏破に必要な荷重移動を効率的かつ効果的に行なうことができるようになるので、主輪130による段差乗り越えがさらに容易となる。
【0085】
また、第2実施形態のキャスター110において、ブラケット150には、該ブラケット150に対して回動するフレーム120と当接してフレーム120のそれ以上の回動を規制するストッパ(第2実施形態においては、延在部156の下面158に設けられる緩衝材160)が設けられていることが好ましい。これによれば、ストッパによりフレーム120が必要以上に回動しなくなり、フレーム120の過度な浮き上がりによる不安定な走行を回避できる。
【0086】
なお、実施形態のキャスター10、110及び車両100、200は、一部の構成を適宜変更してもよい。
【0087】
例えば、主輪30、130はより大径である方が段差踏破に有利であり、補助輪40、140は小径であっても段差踏破に影響がないため、実施形態の主輪30、130は、好適な一例として補助輪40、140より大径に設けられている。しかしながら、主輪30、130は、補助輪40、140より大径に限定されず、補助輪40、140と同径でもよいし、補助輪40、140より小径でもよい。
【0088】
また、前述した各実施形態では、接続機構70、170が長穴24、124を有していたが、ブラケット50、150が車体102、202に接続された状態での主輪30、130による段差踏破時にフレーム20、120に対するブラケット50、150の摺動及びブラケット50、150に対するフレーム20、120の回動を許容して車体102、202の分担荷重を主輪30、130側から補助輪40、140側へと移動可能にすることによって段差踏破に必要な推力を低減できさえすれば、接続機構70、170はどのような形態であっても構わない。
【0089】
また、前述した第2実施形態では、長穴124の傾斜した延在形態によって段差踏破後にブラケット150の接続部152を重力により第2の位置P2に復帰させるようにしているが、段差踏破後に接続部152を第2の位置P2に復帰させる別個の復帰機構(ばね等)が設けられてもよい。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部又は全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10、110 キャスター
20、120 フレーム
22、122 上端面
24、124 長穴
30、130 主輪
32 主輪車軸部材
132 回転軸(車軸)
40、140 補助輪
42 補助輪車軸部材
142 回転軸(車軸)
50、150 ブラケット
52、152 接続部
54、154 固定部
56、156 延在部
58、158 下面
60、160 緩衝材
70、170 接続機構
72 接続軸部材
172 枢軸
80 直動アクチュエータ
82 固定基部
84 ガイド部材
86 ボールねじ
88 モータ
90 可動部
100、200 車両
102、202 車体
Am 主輪車軸
Aa 補助輪車軸
Ac 接続軸
Ls 摺動方向
Rf 正回転方向
Rr 逆回転方向
P1、P2 位置
Gs 走行面
Gs1 第1の走行面
Gs2 第2の走行面
St 段差
F 推力
Wb 荷重
N 抗力
θ 傾斜角度
φ 接触角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10