(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145447
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20220926BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A23F3/16
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166751
(22)【出願日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021046535
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年3月25日にキリンビバレッジ株式会社に「キリン午後の紅茶ミルクティープラス」に関する研究について公開 (2)令和3年7月29日にキリングループのウェブサイトにて公開 (3)令和3年7月29日にAP日本橋ルームF+G及びZoomによるオンラインにて行った新商品発表会で公開 (4)令和3年9月9日に有明セントラルタワーホール&カンファレンス内4階ホールB及びZoomによるオンラインにて行った新商品発表会で公開
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 深保子
(72)【発明者】
【氏名】四元 祐子
【テーマコード(参考)】
4B027
4B065
【Fターム(参考)】
4B027FB01
4B027FB08
4B027FB13
4B027FC10
4B027FE06
4B027FE08
4B027FK01
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4B027FP72
4B027FP81
4B027FP85
4B027FP90
4B065AA01X
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料、及びその製造方法等を提供することを提供することにある。
【解決手段】茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料であって、乳酸菌を含有することを特徴とする、前記容器詰茶飲料。
【請求項2】
乳酸菌の含有量が、100億個/100mL 以上であることを特徴とする、請求項1に記載の容器詰茶飲料。
【請求項3】
乳酸菌がラクトコッカス属細菌であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の容器詰茶飲料。
【請求項4】
乳酸菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の容器詰茶飲料。
【請求項5】
容器詰緑茶飲料又は容器詰紅茶飲料である、請求項1~4のいずれかに記載の容器詰茶飲料。
【請求項6】
茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項7】
乳酸菌を含有させる工程が、容器詰茶飲料の製造において、加熱殺菌する前のいずれかの段階で実施される請求項6に記載の容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項8】
茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法。
【請求項9】
乳酸菌を含有させる工程が、容器詰茶飲料の製造において、加熱殺菌する前のいずれかの段階で実施される請求項8に記載の容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから、健康増進作用を有する飲食品への注目が高まっている。中でも、緑茶飲料や紅茶飲料などの茶飲料は、カテキンやテアニンなどの健康成分を含んでおり、消費者の需要も増加している。また、茶飲料を場所や時間を問わずに飲用できることから、容器詰茶飲料が多数上市されている。
【0003】
容器詰緑茶飲料は、保存中に緑茶飲料中の成分が酸化することによって、緑茶の色が薄緑色から赤褐色へと変化する現象が起こることが知られており、一般に「褐変」と呼ばれている。この褐変現象は、茶飲料の製造、特に茶抽出液の加熱殺菌時において、また流通・保管時にも起こり、商品価値を低下させるだけでなく不快な味や臭いを生じさせる。また、容器詰紅茶飲料においても、加熱殺菌時等において液色劣化が生じることが知られている。そのため、緑茶飲料や紅茶飲料などの茶飲料において液色劣化を抑制する方法が望まれていた。
【0004】
緑茶飲料の製造過程中および製造後の褐変を抑制するための方法として、例えば特許文献1には、緑茶飲料の製造方法において、緑茶の抽出を、シユガーエステルを含む40~80℃の温湯を用いて行ない、かつ抽出時もしくは抽出後にアスコルビン酸ナトリウムを加えること並びに緑茶抽出液を容器に充填後、容器中の残存空気を窒素ガスにて置換する方法が開示され、特許文献2には、緑茶飲料にトレハロースを添加する方法が開示され、特許文献3には、緑茶飲料にL-アスコルビン酸2-グルコシドを添加する方法が開示されている。
【0005】
この他に、乳酸菌を飲食品に利用した技術として、特許文献4には、乳酸菌の死菌体又は乳酸菌の死菌体を含む培養物を、生育対象とする乳酸菌の培養時に添加することで、生育対象とする乳酸菌の増殖を促進し、及び、製品中の乳酸菌の生残性を向上する方法が開示されており、特許文献5には、乳酸菌等の死菌体を容器詰コーヒー飲料に配合することによって、コーヒーのコク(飲みごたえ)を向上させる方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、容器詰茶飲料において、乳酸菌を含有させると、茶飲料の加熱殺菌時の液色劣化を抑制できることはこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1571801号公報
【特許文献2】特開2001-112414公報
【特許文献3】特開2007-60972公報
【特許文献4】特開2008-5811号公報
【特許文献5】特開2019-122316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、本発明の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させることにより、加熱殺菌時の茶飲料の液色劣化が抑制され、上記課題を解決し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料であって、乳酸菌を含有することを特徴とする、前記容器詰茶飲料;
(2)乳酸菌の含有量が、100億個/100mL 以上であることを特徴とする、上記(1)に記載の容器詰茶飲料;
(3)乳酸菌がラクトコッカス属細菌であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の容器詰茶飲料;
(4)乳酸菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805であることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれかに記載の容器詰茶飲料;
(5)容器詰緑茶飲料又は容器詰紅茶飲料である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰茶飲料;
(6)茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の製造方法;
(7)乳酸菌を含有させる工程が、容器詰茶飲料の製造において、加熱殺菌する前のいずれかの段階で実施される上記(6)に記載の容器詰茶飲料の製造方法;
(8)茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法;や、
(9)乳酸菌を含有させる工程が、容器詰茶飲料の製造において、加熱殺菌する前のいずれかの段階で実施される上記(8)に記載の容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法;
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料、及びその製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805株と、該株と同等の株(該株に由来する株および該株が由来する株)との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、
[1]茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料であって、乳酸菌を含有することを特徴とする、前記容器詰茶飲料;
[2]茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の製造方法;及び、
[3]茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含むことを特徴とする、容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法;
などの実施態様を含んでいる。
【0014】
(容器詰茶飲料)
本発明における容器詰茶飲料は、茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料であって、乳酸菌を含有することを特徴とする、前記容器詰茶飲料である。
本発明における「茶飲料」としては、特に限定されないが、例えば、不発酵茶(例えば、緑茶)飲料、発酵茶(例えば、紅茶)飲料、及び、半発酵茶(例えば、烏龍茶)飲料、並びにこれらの一部または全部のブレンド茶飲料が挙げられ、中でも、緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料が好ましく、本発明の効果をより多く享受する観点から、中でも緑茶飲料、紅茶飲料がより好ましく挙げられる。
【0015】
(茶ポリフェノール濃度)
本発明における容器詰茶飲料の茶ポリフェノール濃度は、特に制限されないが、加熱殺菌時の液色劣化による変化がより大きく、本発明の液色劣化抑制の効果をより多く享受する観点や、容器詰茶飲料の香味の好ましさの観点から、好ましくは10~200mg/100mL、より好ましくは40~100mg/100mLが挙げられる。容器詰茶飲料の茶ポリフェノール濃度は、茶飲料の製造に使用する茶葉の量や、茶抽出液の濃縮物や精製物の使用量を調整することによって、調整することができる。
【0016】
本発明における容器詰茶飲料の茶ポリフェノール濃度は、茶類のポリフェノール量を評価する際の基準である日本食品分析センター編「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」(日本食品分析センター編、中央法規、2001年7月、p.252)に記載の公定法(酒石酸鉄吸光度法)を用いて測定することができる。この測定方法においては、液中のポリフェノールと、酒石酸鉄試薬とを反応させて生じた紫色成分について、吸光度(540nm)を測定することにより、没食子酸エチルを標準物質として作成した検量線を用いて定量することができる。このようにして得られた定量した値に1.5倍したものを茶ポリフェノール量とすることができる。
茶ポリフェノール濃度の測定は、上記の酒石酸鉄吸光度法の他に、フォーリン・チオカルト法、フォーリン・デニス法等を用いてもよいが、酒石酸鉄吸光度法が適している場合は、酒石酸鉄吸光度法が好ましく挙げられる。
【0017】
(pH)
本発明における容器詰茶飲料のpHとしては特に制限されないが、例えば4.5~7.5が挙げられ、好ましくは6~7.3が挙げられる。
茶飲料のpHは、pHメーターを用いて常法により測定することができる。
【0018】
(乳酸菌)
本発明における容器詰茶飲料は、乳酸菌を含有する。
本発明における容器詰茶飲料を製造する際に用いる乳酸菌としては、乳酸菌である限り特に制限されず、乳酸菌の生菌体であっても、乳酸菌の死菌体であってもよいが、乳酸菌の死菌体であることが好ましい。かかる乳酸菌の死菌体としては、乾燥物であっても非乾燥物であってもよいが、保存安定性などの観点から、好ましくは乳酸菌の乾燥物が挙げられ、より好ましくは乳酸菌の乾燥粉末が挙げられる。
乾燥粉末化の方法としては特に指定されないが、凍結乾燥、熱風乾燥又は噴霧乾燥などの処理を行い乾燥粉末化することができ、噴霧乾燥による粉末化が好ましい。
なお、本発明における容器詰茶飲料を製造する際に乳酸菌の生菌体を用いた場合であっても、加熱殺菌工程により、基本的には、乳酸菌の多くは死菌体となる。
【0019】
「乳酸菌」とは、分類学的に乳酸菌と認定されたものの全ての総称であり、属、種、株などで限定されるものではない。かかる「乳酸菌」としては、糖を乳酸発酵して多量の乳酸(好ましくは、消費した糖の50%以上の乳酸)を生成する細菌が挙げられ、ラクトバシラス(Lactobacillus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属細菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属細菌、ペディオコッカス(Pediococcus)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌が挙げられる。
【0020】
本発明に用いる乳酸菌の属や種は特に制限されないが、ラクトバシラス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス属細菌、ロイコノストック属細菌、ペディオコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、好ましくは、ラクトコッカス属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(以下、単に「ラクトコッカス・ラクティス」とも表示する。)からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられる。
【0021】
本発明における乳酸菌の、より具体的な好ましい態様として、ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillusacidophilus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillusdelbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillusparacasei)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・ヘルベティカス(Lactobacillushelveticus)、ラクトバシラス・ジョンソニ(Lactobacillusjohnsonii)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillusbrevis)、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス(Lactobacillus caseisubsp. rhamnosus)、ラクトバシラス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillusfermentum)、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス(Streptococcussalivarius subsp. thermophilus)(以下、単に「ストレプトコッカス・サーモフィラス」とも表示する)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)(以下、単に「ラクトコッカス・ラクティス」とも表示する)、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)、ラクトコッカス・ピシウム(Lactococcuspiscium)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ガルビエアエ(Lactococcusgarvieae)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ(Lactococcuslactis subsp. hordniae)、ロイコノストック・メセントロイデス・サブスピーシス・クレモリス(Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris)、ロイコノストック・ラクチス(Leuconostoc lactis)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcusdamnosus)、ペディオコッカスペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcusfaecalis)、及び、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、好ましくは、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ジョンソニ、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス、ラクトバシラス・ペントーサス、ラクトバシラス・ファーメンタム、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ガルビエアエ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ、ロイコノストック・メセントロイデス・サブスピーシス・クレモリス、及び、ロイコノストック・ラクチスからなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ガルビエアエ、及び、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエからなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、さらに好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスが挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスJCM5805、ラクトコッカス・ラクティスJCM20101、ラクトコッカス・ラクティスNBRC12007、及び、ラクトコッカス・ラクティスNRIC1150からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌が挙げられ、特に好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスJCM5805が挙げられる。かかるラクトコッカス・ラクティスJCM5805株の好適な態様として、好ましくはJCM5805株の死菌体、より好ましくはJCM5805株の死菌体の乾燥物、さらに好ましくはJCM5805株の死菌体の乾燥粉末、より好ましくはJCM5805株の死菌体の噴霧乾燥による乾燥粉末が挙げられる。
【0022】
本発明における「JCM5805株」には、本発明の効果が得られる限り、JCM5805株と同等の菌株も、該菌株に含まれる。ここで、同等の菌株とは、JCM5805株から由来している菌株(菌株A)、JCM5805株が由来する菌株(菌株B)、又は、前述の菌株A若しくは菌株Bの子孫菌株をいう。同等の菌株は他の菌株保存機関に保存されている場合もある。
図1に、JCM5805株に由来する菌株、及び、JCM5805株が由来する菌株を示す。
図1に記載のJCM5805株の同等の菌株であっても、本発明の効果が得られる限り、本発明における「JCM5805株」として用いることができる。
【0023】
また、本発明における「乳酸菌」は、ラクトバシラス・パラカゼイKW3110株(以下、「KW3110株」という)であってもよいが、KW3110株でないことが好ましい。
【0024】
本発明に用いる乳酸菌は、American type culture collection(米国)等の寄託機関などから入手することができる。また、本発明に用いる乳酸菌として、市販のスターターカルチャーを用いてもよい。
【0025】
本発明に用いる乳酸菌の調製方法は特に制限されず、乳酸菌の生菌体の調製方法としては、例えば、乳酸菌を培養した培地から、ろ過、遠心分離等により菌体を集菌する方法を挙げることができる。また、乳酸菌の死菌体の調製方法としては、例えば、乳酸菌を培養した培地を殺菌してから、ろ過、遠心分離等により菌体を集菌する方法や、乳酸菌を培養した培地から、ろ過、遠心分離等により菌体を集菌してから、殺菌する方法などを挙げることができ、必要に応じてさらに乾燥処理や破砕処理を行うことができる。
なお、殺菌の手段は特に制限されず、加熱のみならず、紫外線やγ線照射など、菌を死滅させる常套手段を用いることができる。
【0026】
本発明において、容器詰茶飲料における乳酸菌の含有量としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、加熱殺菌時の液色劣化をより多く抑制するなどの観点から、容器詰茶飲料100mL当たりの乳酸菌の菌体の個数として、例えば、「60億個/100mL」以上が挙げられ、好ましくは「100億個/100mL」以上、より好ましくは「150億個/100mL」以上、さらに好ましくは「300億個/100mL」以上、より好ましくは「1500億個/100mL」以上、さらに好ましくは「4500億個/100mL」以上が挙げられる。
また、上限としては、「1兆個/100mL」以下、好ましくは「7500億個/100mL」以下、さらに好ましくは「5000億個/100mL」以下が挙げられる。
これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
容器詰茶飲料における乳酸菌の好適な含有量としてより具体的には、例えば、60~5000億個/100mL、より好ましくは100~4800億個/100mL、さらに好ましくは160~4500億個/100mL、より好ましくは160~3000億個/100mL、さらに好ましくは160~1500億個/100mLが挙げられる。
乳酸菌の菌体の個数は、直接鏡検法、粒子電気的検知帯法、PCR法、フローサイトメトリー法等にて計測することができる。
なお、乳酸菌の菌体の乾燥物1g当たりの菌体の個数は前述した計測法により測定することができ、容器詰茶飲料におけるJCM5805株の配合量を調整することができる。
容器詰茶飲料中の乳酸菌の菌体個数は、直接鏡検法、フローサイトメトリー法等にて計測することができる。より正確には飲料中のその他原料由来の粒子の影響も考慮した方法を用いることができる。
【0027】
(本発明における容器詰茶飲料の製造)
本発明における容器詰茶飲料は、茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含む方法により製造することができる。本発明の製造方法としては、乳酸菌を含有させること以外は、容器詰茶飲料の一般的な製造方法を用いることができる。かかる一般的な製造方法としては、例えば、茶抽出液を調製し、調合工程、充填工程、加熱殺菌工程を経て容器詰茶飲料を製造する方法が挙げられる。本発明の飲料の製造においては、通常の茶飲料の処方設計に用いられている飲料用添加剤を添加してもよく、これら添加剤の添加時期は特に制限されない。なお、前述の容器詰茶飲料の一般的な製造方法としては、より詳細には、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0028】
本発明における「乳酸菌を含有させる工程」としては、茶飲料が乳酸菌を含有するように、乳酸菌を添加することが好ましく挙げられ、例えば、茶抽出液それ自体に乳酸菌を添加することのほか、茶抽出液の調製に用いる水に乳酸菌を添加することなども含まれる。
本発明において、乳酸菌を含有させる(好ましくは添加する)時期は、本発明の効果が得られる限り、容器詰茶飲料の製造工程のいずれの段階であってもよいが、加熱殺菌する前のいずれかの段階であることが好ましい。具体的には、例えば、茶抽出工程の茶抽出液に乳酸菌を含有させてもよいし、茶抽出工程の水に乳酸菌を含有させてもよいし、調合工程の茶抽出液に乳酸菌を含有させてもよいし、容器への充填工程の直前又は直後の茶抽出液に乳酸菌を含有させてもよい。
【0029】
本発明における「茶抽出液」とは、茶葉(抹茶等の茶葉粉砕物を含む)を抽出処理に付することにより得られる、抽出液を意味する。本発明に用いられる茶抽出液としては、茶葉からの抽出液(茶葉抽出液)それ自体や、その加工品類(例えば、濃縮液体エキス、粉末エキス)の希釈液などが挙げられ、従来、茶飲料の製造に用いられている茶抽出原料(好ましくは緑茶抽出原料、紅茶抽出原料及び/又は烏龍茶抽出原料)であれば、特に限定されず、適宜選択することができる。本明細書において、「茶抽出液」として、不発酵茶抽出液(例えば緑茶抽出液)、発酵茶抽出液(例えば紅茶抽出液)、半発酵茶抽出液(例えば烏龍茶抽出液)が挙げられ、中でも、緑茶抽出液、紅茶抽出液、烏龍茶抽出液が好ましく挙げられ、中でも、緑茶抽出液や紅茶抽出液がより好ましく挙げられる。なお、本発明において、抽出処理とは、茶成分が抽出溶媒中に溶出されていればよく、例えば、抹茶等の茶葉粉砕物を溶解させる処理等の態様も含まれる。
【0030】
茶抽出液の調製に用いられる茶葉としては、ツバキ科の常緑樹である茶樹カメリア・シネンシス(Camelliasinensis var.)に属する茶葉を用いることができる。本発明の茶飲料の製造に用いられる茶葉は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではなく、煎茶、玉露、抹茶、釜炒り茶、深蒸し茶、番茶、ほうじ茶などの緑茶に代表される不発酵茶の茶葉に限らず、烏龍茶のような半発酵茶の茶葉や、紅茶のような発酵茶の茶葉なども用いることができる。本発明に用いられる茶葉として、緑茶葉や紅茶葉が好ましく挙げられる。本発明においてはまた、複数種類の原料および茶葉が使用されてもよい。
【0031】
茶葉の抽出処理の方法としては、特に限定されず、食品加工分野で一般的に用いられている種々の抽出方法を用いることができ、例えば、溶媒抽出、気流抽出、圧搾抽出などが包含され、必要に応じて、沈殿もしくは濾過などの固液分離、濃縮、遠心分離、乾燥(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥)又は粉末化などの処理をさらに施してもよい。
【0032】
ここで、溶媒抽出で用いられる抽出溶媒としては、水(例えば、硬水、軟水、イオン交換水および天然水)が望ましい。抽出溶媒の量は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、抽出溶媒が水の場合は、その量は、茶葉の1~100倍量(質量)である。
【0033】
抽出温度や抽出時間は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、抽出溶媒が水の場合は、その温度および時間は、10~120℃で1分~12時間が挙げられる。
【0034】
抽出処理の一例としては、茶葉を、水中に、0~90℃で、1分~24時間浸漬および攪拌し、その後、茶葉を濾過または遠心分離する方法が挙げられる。ここで、抽出時の温度や時間などの条件は、特に限定されず、茶葉の種類や量によって当業者が任意に選択し、かつ設定することができる。
【0035】
茶抽出液の調製において、茶エキスや茶パウダーなどの茶抽出液の濃縮物や精製物を用いてもよく、例えば、ポリフェノン(三井農林社製)、サンフェノン(太陽化学社製)、テアフラン(伊藤園社製)などの市販品を用いることができる。また、これらの茶濃縮物(好ましくは緑茶濃縮物、紅茶濃縮物及び/又は烏龍茶濃縮物など)や茶精製物(好ましくは緑茶精製物、紅茶精製物及び/又は烏龍茶精製物など)は、そのまま、又は水で溶解若しくは希釈したものを単独で使用しても、複数の種類を混合して用いても、茶抽出液と混合して用いてもよい。
【0036】
なお、茶抽出液の調製に際し茶葉以外の任意の原料を配合してよい。また、本発明に用いられる茶葉や茶抽出液は、本発明の効果が得られる限り、乳酸菌で発酵した茶葉や茶抽出液であってもよいが、乳酸菌で発酵していない茶葉(好ましくは緑茶葉、紅茶葉及び/又は烏龍茶葉)や茶抽出液(好ましくは緑茶抽出液、紅茶抽出液及び/又は烏龍茶抽出液)であることが好ましい。
【0037】
(加熱殺菌)
本発明における容器詰茶飲料は加熱殺菌された容器詰茶飲料である。加熱殺菌工程は、容器への充填前であっても充填後であってもよい。
加熱殺菌方法としては、食品分野で一般的に用いられている種々の加熱殺菌方法を用いることができ、例えば、熱水スプレー式、熱水貯湯式若しくは蒸気式のレトルト殺菌装置や、チューブ式若しくはプレート式の液体連続殺菌装置を用いた方法が挙げられる。
本発明における加熱殺菌の条件としては、特に制限されず、容器詰茶飲料の加熱殺菌に用いられる通常の条件を用いることができる。かかる条件として、例えばF0値が4~40である条件が挙げられ、殺菌時間が比較的短時間で足りる点で、好ましくは、111~150℃であって、かつ、F0値が4~20となる時間である条件が挙げられる。
【0038】
(任意成分)
本発明の容器詰茶飲料では、通常の飲料の製造に用いられている飲料用添加剤、例えば、酸味料、香料、色素、果汁、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、乳原料、茶葉粉砕物(抹茶、粉茶など)、食品添加剤(例えば、酸化防止剤、保存料、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、pH調整剤、苦味料)などを添加してもよい。
【0039】
本発明における茶飲料は、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸類を含んでいなくてもよいが、含んでいることが好ましい。本発明における「アスコルビン酸」や「アスコルビン酸類」としては、飲料への配合が許容されるものであれば特に制限されない。本発明における「アスコルビン酸」には、L-アスコルビン酸のみならず、その異性体(イソアスコルビン酸等)も含まれる。
【0040】
本発明における「アスコルビン酸類」には、アスコルビン酸の塩、アスコルビン酸の誘導体、アスコルビン酸の誘導体の塩が含まれ、中でも、アスコルビン酸の塩が好ましく含まれる。アスコルビン酸の誘導体としては、アスコルビン酸脂肪酸エステル(例えばアスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸パルミチン酸エステル等)、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、アスコルビン酸配糖体等が挙げられる。
【0041】
アスコルビン酸やその誘導体の塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩、トリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等を挙げることができ、中でも、アルカリ金属塩や、アルカリ土類金属塩が好ましく挙げられる。
【0042】
アスコルビン酸の塩として具体的には、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、イソアスコルビン酸ナトリウムが好ましく挙げられる。また、アスコルビン酸の誘導体又はその塩として、より具体的には、アスコルビン酸2,6-ジパルミテート、アスコルビン酸6-ステアレート、アスコルビン酸-2リン酸ナトリウム、アスコルビン酸-2硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸2-グルコシド、アスコルビン酸グルコサミン、L-デヒドロアスコルビン酸、アスコルビン酸6-パルミテート、テトライソパルミチン酸L-アスコルビン、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、リン酸L-アスコルビルマグネシウム等が挙げられる。
【0043】
本発明に用いる「アスコルビン酸」や「アスコルビン酸類」としては、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、「アスコルビン酸」や「アスコルビン酸類」としては、市販のものを使用することができる。
【0044】
本発明におけるアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸類の使用量(飲料における含有量又は飲料への添加量)としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、容器詰茶飲料中の「アスコルビン酸」及び「アスコルビン酸類」の合計をアスコルビン酸無水物に換算した濃度で、0.01~0.5重量%が挙げられ、好ましくは0.01~0.2重量%が挙げられ、より好ましくは0.02~0.1重量%が挙げられ、更に好ましくは0.03~0.08重量%が挙げられる。
茶飲料中のアスコルビン酸濃度は、例えばHPLCを用いて分析することができる。
【0045】
(容器)
本発明における茶飲料は容器詰茶飲料である。かかる容器とは、内容物と外気との接触を断つことができる密閉容器を意味し、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器などが挙げられる。
【0046】
(加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料)
本発明の容器詰茶飲料は、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料である。本明細書において、「加熱殺菌時の液色劣化が抑制された」とは、乳酸菌を含有しないこと以外は、同種の原材料を用いて同じ製造方法(加熱殺菌条件を含む)で製造した容器詰茶飲料(以下、「本発明におけるコントロール飲料とも表示する」の加熱殺菌時の液色劣化と比較して、加熱殺菌時の液色劣化が抑制された容器詰茶飲料を意味する。
【0047】
本発明において、「液色劣化」は、そのサンプルの非加熱サンプルとの色差ΔE*abで表される。色差ΔE*abとは、L*a*b*色空間における座標L*、a*、b*の差である、ΔL*、Δa*、Δb*によって定義される二つの試料(色刺激)の間の色差である。色差ΔE*abは、以下の数式により定義される。
ΔE*ab=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2
【0048】
ある容器詰茶飲料における、加熱殺菌時の液色劣化(ΔE*ab)は、市販の分光測色計を用いて計測することができる。
【0049】
(容器詰茶飲料の加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法)
本発明における加熱殺菌時の液色の劣化を抑制する方法としては、茶ポリフェノール濃度が10~200mg/100mLであり、及び、pHが4.5~7.5である、加熱殺菌された容器詰茶飲料の製造において、乳酸菌を含有させる工程を含む方法である限り、特に制限されない。
【実施例0050】
[試験1]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価1
茶抽出液を加熱殺菌処理することによる液色劣化が、乳酸菌を含有させることにより抑制されるかを調べるために以下の試験を行った。
【0051】
表1記載の配合量で緑茶葉(秋冬番茶)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表1に記載の配合量で添加して混合し、試験例4~6の各サンプル飲料を調製した。
なお、本願実施例のいずれの試験(試験1~6)においても、飲料中のJCM5805株の菌体濃度(億個/100mL)は、PBSバッファー(TAKARA社製)で適宜希釈し、BD Cell Viability Kit withBD Liquid Counting Beads(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いプロトコールに従ってチアゾールオレンジでの染色を行いサンプルを調製し、フローサイトメーターにより測定した。なお、菌体濃度(億個/100mL)は、表中には、有効数字2桁の概数を記載している。
その他、試験例1~3も、表1記載の配合でサンプル飲料を調製した。
試験例2、3、5及び6のサンプル飲料について、表1に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0052】
また、表1記載の配合量で紅茶葉を85℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、紅茶抽出液を作製した。この紅茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加して混合し、試験例32及び33のサンプル飲料を調製した。また、JCM5805株の乾燥死菌体粉末を添加しないサンプル飲料として、試験例30及び31を、表1記載の配合で調製した。なお、本願の実施例で用いている紅茶葉はすべてスリランカ産である。
試験例31及び33のサンプル飲料について、表1に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0053】
緑茶葉を用いた試験例1~6のサンプル飲料、及び、紅茶葉を用いた試験例30~33のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、日本食品分析センター編「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」(日本食品分析センター編、中央法規、2001年7月、p.252)に記載の公定法(酒石酸鉄吸光度法)にて測定した。その結果を表1に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製CM-5)にて、特殊シャーレ、白色落とし蓋、20mm黒色スペースリングを用い反射測定にて測定した結果を表1に示す。なお、本願実施例のいずれの試験(試験1~6)においても、色差ΔE*abの測定はこの方法により行った。
【0054】
【0055】
表1の結果から分かるように、緑茶葉、紅茶葉のいずれを用いた場合であっても、JCM5805株を含有させた場合は、JCM5805株を含有させない場合よりも、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)が抑制された。具体的には、緑茶葉を用いた場合について述べると、試験例5の、コントロール(試験例4)に対する色差3.29は、試験例2の、コントロール(試験例1)に対する色差4.61よりも小さく、また、試験例6の、コントロール(試験例4)に対する色差5.03は、試験例3の、コントロール(試験例1)に対する色差6.26よりも小さかった。また、紅茶葉を用いた場合について述べると、試験例33の、コントロール(試験例32)に対する色差9.65は、試験例31の、コントロール(試験例30)に対する色差19.4よりも小さかった。
これらのことから、緑茶抽出液、紅茶抽出液のいずれを用いた場合であっても、茶抽出液を加熱殺菌処理することによる液色劣化が、乳酸菌を含有させることにより抑制されることが示された。
【0056】
[試験2]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価2
茶飲料における茶ポリフェノール濃度が、乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制にどのような影響を与えるかを調べるために以下の試験を行った。
【0057】
表2~4に記載の配合量で緑茶葉(秋冬番茶)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表2~4に記載の配合量で添加して混合し、試験例9~10、13~14、17~18の各サンプル飲料を調製した。
その他、JCM5805株の乾燥死菌体粉末を含まないサンプル飲料として、試験例7~8、11~12、15~16も、表2~4に記載の配合でサンプル飲料を調製した。
試験例8、10、12、14、16及び18のサンプル飲料について、表2~4に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0058】
緑茶葉を用いた試験例のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、前述の酒石酸鉄吸光度法にて測定した結果を表2~4に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製)にて測定した結果を表2~4に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表2~4の結果から分かるように、いずれの茶ポリフェノール濃度であっても、JCM5805株を含有させた場合は、JCM5805株を含有させない場合よりも、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)が抑制された。
【0063】
[試験3]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価3
乳酸菌の配合量が、乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制にどのような影響を与えるかを調べるために以下の試験を行った。
【0064】
表5に記載の配合量で緑茶葉(秋冬番茶)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表5に記載の配合量で添加して混合し、試験例19~23、34の各サンプル飲料を調製した。
試験例19~23、34のサンプル飲料について、表5に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0065】
緑茶葉を用いた試験例のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、前述の酒石酸鉄吸光度法にて測定した結果を表5に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製)にて測定した結果を表5に示す。
【0066】
【0067】
表5の試験例19~23、34における、非加熱サンプルとの色差ΔE*abの数値はいずれも、JCM5805株を含有させない場合における、非加熱サンプルとの色差ΔE*ab6.26(表1の試験例3)よりも小さいことから、試験例19~23、34のいずれにおいても、液色劣化が抑制されていることが示された。また、表5の結果から分かるように、JCM5805株を含有させる量が多くなるにしたがって、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)がより多く抑制されることが示された。
【0068】
[試験4]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価4
試験1~3で用いた緑茶葉(秋冬番茶)とは異なる種類の緑茶葉を用いた場合であっても、乳酸菌を含有させることによって、加熱殺菌時の液色劣化が抑制できるかを調べるために以下の試験を行った。
【0069】
表6に記載の配合量で緑茶葉(二番茶)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表6に記載の配合量で添加して混合し、試験例25のサンプル飲料を調製した。
また、JCM5805株の乾燥死菌体粉末を含まないサンプル飲料として、表6に記載の配合で試験例24のサンプル飲料を調製した。
試験例24及び25のサンプル飲料について、表6に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0070】
緑茶葉を用いた試験例のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、前述の酒石酸鉄吸光度法にて測定した結果を表6に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製)にて測定した結果を表6に示す。
【0071】
【0072】
表6の結果から分かるように、茶葉として二番茶を用いた場合であっても、JCM5805株を含有させた場合は、JCM5805株を含有させない場合よりも、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)が抑制された。
【0073】
[試験5]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価5
試験1~4では、バッチ式のレトルト殺菌装置を用いていたが、連続式のUHT殺菌装置を用いた場合であっても、乳酸菌を含有させることによって、加熱殺菌時の液色劣化が抑制できるか、及び、緑茶葉と粉茶を併用した場合であっても、乳酸菌を含有させることによって、加熱殺菌時の液色劣化が抑制できるか等を調べるために以下の試験を行った。
【0074】
表7に記載の配合量で緑茶葉(秋冬番茶;試験1~3で用いた秋冬番茶と同じ製品)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表7に記載の配合量で添加して混合し、試験例27のサンプル飲料を調製した。
また、JCM5805株の乾燥死菌体粉末を含まないサンプル飲料として、表7に記載の配合で試験例26のサンプル飲料を調製した。
【0075】
表7に記載の配合量で緑茶葉(秋冬番茶B;試験1~3で用いた秋冬番茶とは別の製品)を75℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、緑茶抽出液を作製した。この緑茶抽出液に、粉茶、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表7に記載の配合量で添加して混合し、試験例29のサンプル飲料を調製した。
また、JCM5805株の乾燥死菌体粉末を含まないサンプル飲料として、表7に記載の配合で試験例28のサンプル飲料を調製した。
試験例26~29のサンプル飲料について、表7に記載の加熱処理条件でUHT殺菌装置にて加熱殺菌処理を行った。
【0076】
各試験例のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、前述の酒石酸鉄吸光度法にて測定した結果を表7に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製)にて測定した結果を表7に示す。
【0077】
【0078】
表7の結果から分かるように、連続式のUHT殺菌装置を用いた場合や、緑茶葉と粉茶を併用した場合や、pHを7に調整した場合などであっても、JCM5805株を含有させた場合は、JCM5805株を含有させない場合よりも、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)が抑制された。
【0079】
[試験6]乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制評価6
紅茶飲料である場合に、乳酸菌の配合量が、乳酸菌を含有させることによる、液色劣化の抑制にどのような影響を与えるかを調べるために以下の試験を行った。
【0080】
表8に記載の配合量で紅茶葉を85℃のお湯に入れて6分間抽出し固液分離を行い、紅茶抽出液を作製した。この紅茶抽出液に、JCM5805株の乾燥死菌体粉末、L-アスコルビン酸、及び、重曹(炭酸水素ナトリウム)を、表8に記載の配合量で添加して混合し、試験例35~37の各サンプル飲料を調製した。
試験例35~37のサンプル飲料について、表8に記載の加熱処理条件で加熱殺菌処理を行った。
【0081】
紅茶葉を用いた試験例35~37のサンプル飲料の茶ポリフェノール濃度を、前述の酒石酸鉄吸光度法にて測定した結果を表8に示す。
また、非加熱のサンプル(コントロール)を基準とする、加熱殺菌処理後の色差ΔE*abを、分光測色計(ミノルタ製)にて測定した結果を表8に示す。
【0082】
【0083】
表8の試験例35~37における、非加熱サンプルとの色差ΔE*abの数値はいずれも、JCM5805株を含有させない場合における、非加熱サンプルとの色差ΔE*ab19.4(表1の試験例31)よりも小さいことから、試験例35~37のいずれにおいても、液色劣化が抑制されていることが示された。また、表8の結果から分かるように、紅茶飲料においても、JCM5805株を含有させる量が多くなると、非加熱のサンプル飲料との色差ΔE*ab(液色劣化)がより多く抑制されることが示された。