(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145510
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】反応装置およびそれを用いた反応生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20220926BHJP
B01F 27/96 20220101ALI20220926BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20220926BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B01J19/18
B01F7/32 A
C07C69/24
C07C67/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010097
(22)【出願日】2022-01-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2021044151
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」(バイオマス)に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
【テーマコード(参考)】
4G075
4G078
4H006
【Fターム(参考)】
4G075AA13
4G075BA10
4G075CA02
4G075DA02
4G075EB01
4G075EC09
4G075EC11
4G075ED01
4G075ED08
4G075FA01
4G075FB02
4G078AB05
4G078BA05
4G078CA08
4G078DA01
4G078DC06
4G078EA03
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC48
4H006BD81
4H006KA06
(57)【要約】
【課題】 反応生成物の製造において、反応物の混合や撹拌のような物理的操作に要するエネルギーの負荷を低減することのできる反応装置およびそれを用いた反応生成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の反応装置は、反応液を収容する反応槽と、反応槽内に設けられている散液部とを備える。ここで、散液部は、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された少なくとも1つの流液部材とを備え、流液部材は、反応液の液面よりも上方に位置する吐出部、反応液の該液面よりも下方に位置する吸液部、および吐出部と吸液部との間を延びかつ反応液が流れる流路を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液を収容する反応槽と、該反応槽内に設けられている散液部とを備える反応装置であって、
該散液部が、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、該反応液の液面よりも上方に位置する吐出部、該反応液の該液面よりも下方に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びかつ該反応液が流れる流路を備える、反応装置。
【請求項2】
前記回転軸に対して、前記流液部材の前記吸液部が前記吐出部よりも近位となるように傾斜して配置されている、請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記散液部が、前記回転軸の軸周りに複数の前記流液部材を備える、請求項1または2に記載の反応装置。
【請求項4】
前流液部材が、両端が開放された筒状の形態を有する、請求項1から3のいずれかに記載の反応装置。
【請求項5】
前記流液部材が樋状の形態を有する、請求項1から3のいずれかに記載の反応装置。
【請求項6】
前記反応液が複数の液相から構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の反応装置。
【請求項7】
反応生成物の製造方法であって、請求項1から6のいずれかに記載の反応装置内で反応液を循環させることにより撹拌する工程を包含する、方法。
【請求項8】
前記反応液が複数の液相から構成されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応生成物が脂肪酸エステルであり、前記反応液が、原料油脂、液体酵素、炭素数1から8を有するアルコール、および水を含有する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記原料油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応装置およびそれを用いた反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0003】
他方、相間移動触媒やスラリー触媒を用いる2液相以上の反応系において、不斉合成反応などの反応を通じて様々な化合物を合成する技術が注目されている。こうした反応の多くでは、反応系を力強く撹拌することによって反応促進が行われる。
【0004】
2液相の反応は、例えばバイオディーゼル燃料の製造に採用されることがある。例えば、リパーゼのような酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応が挙げられる。こうした酵素接触法によるエステル交換反応では、酵素として、例えば、液体酵素やイオン交換樹脂などの担体に固定化された酵素(固定化酵素)が使用される。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物のグリセリン水に残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応では、油層と水層との二相系が用いられ、例えば反応物を高速で撹拌する等によりエマルジョンが形成される。ここで、反応物の高速撹拌には、撹拌機への相当なエネルギーの負荷が必要である。一方、工業製品としての生産性を高めるためには、反応物の撹拌等の操作に要するエネルギーを低減させることが所望されている。しかし、そうすると上記反応物を用いるエマルジョン形成能が低下し、エステル交換反応を効果的に行うことができないという矛盾を生じる。
【0006】
あるいは、上記酵素に代えてアルカリ触媒を用いる方法もある。この場合も2液相の反応系が採用され、反応には力強い撹拌が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、反応生成物の製造において、反応物の混合や撹拌のような操作に要するエネルギーを低減することのできる反応装置およびそれを用いた反応生成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、反応液を収容する反応槽と、該反応槽内に設けられている散液部とを備える反応装置であって、
該散液部が、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、該反応液の液面よりも上方に位置する吐出部、該反応液の該液面よりも下方に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びかつ該反応液が流れる流路を備える、反応装置である。
【0010】
1つの実施形態では、上記回転軸に対して、上記流液部材の上記吸液部が上記吐出部よりも近位となるように傾斜して配置されている。
【0011】
1つの実施形態では、上記散液部は、上記回転軸の軸周りに複数の上記流液部材を備える。
【0012】
1つの実施形態では、上記前流液部材は、両端が開放された筒状の形態を有する。
【0013】
1つの実施形態では、上記流液部材は樋状の形態を有する。
【0014】
1つの実施形態では、上記反応液は複数の液相から構成されている。
【0015】
本発明はまた、反応生成物の製造方法であって、上記反応装置内で反応液を循環させることにより撹拌する工程を包含する、方法である。
【0016】
1つの実施形態では、上記反応液は複数の液相から構成されている。
【0017】
1つの実施形態では、上記反応生成物は脂肪酸エステルであり、上記反応液は、原料油脂、液体酵素、炭素数1から8を有するアルコール、および水を含有する。
【0018】
さらなる実施形態では、上記原料油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、掬い上げた反応液を液面より上方に移動させて散液することにより、反応液を効率良く混ぜ返すことができる。例えば、反応槽に含まれる反応液について、水平方向の回転に基づく撹拌に加え、鉛直方向の移動および循環を促すことができる。これにより、種々の反応生成物を製造するにあたり、反応物の混合や撹拌に要する物理的操作のエネルギーを減じることができる。例えば、本発明の反応装置に複数の液相(油相と水相との2相など)で構成される反応液を収容させた場合、余分な動力を使用することなく反応液のエマルジョン化を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の反応装置の一例を示す概略図である。
【
図2】(a)は
図1に示す反応装置のA-A方向における端面図であり、(b)は
図1に示す反応装置のB-B方向における端面図である。
【
図3】
図1に示す反応装置の散液部を構成する流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。
【
図4】本発明の反応装置の他の例を示す概略図である。
【
図5】本発明の反応装置の別の例を示す概略図である。
【
図6】本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
【
図7】(a)は
図6に示す反応装置のA’-A’方向における端面図であり、(b)は
図6に示す反応装置のB’-B’方向における端面図である。
【
図8】
図6に示す反応装置の散液部を構成する流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。
【
図9】本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
【
図10】本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
【
図11】本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
【
図12】参考例1~3で作製した試験装置の概略図であって、(a)は参考例1で作製した試験装置(R1)の概略図であり、(b)は参考例2で作製した試験装置(R2)の概略図であり、(c)は参考例3で作製した試験装置(R3)の概略図であり、(d)は、参考例3で使用したアンカー型(U字型)撹拌翼の拡大斜視図である。
【
図13】参考例1および参考例3で作製した試験装置(R1)および(R3)のメチルエステル中における回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【
図14】実施例1ならびに比較例1および2で行ったエステル交換反応におけるメチルエステルの生成量の変化を示すグラフである。
【
図15】実施例1で得られた反応液のW/Oエマルジョンの粒度分布を示すグラフである。
【
図16】実施例1で得られた反応液のW/Oエマルジョンの顕微鏡写真である。
【
図17】実施例2で行ったエステル交換反応後に回転軸の回転を停止した状態を示す写真であり、(a)は回転軸の回転を停止して1分間経過後の反応液の状態を示す写真であり、(b)は回転軸の回転を停止して5分間経過後の反応液の状態を示す写真であり、(c)は回転軸の回転を停止して1分間経過後の反応液の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(反応装置)
本発明の反応装置を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0022】
図1は、本発明の反応装置の一例を示す概略図である。反応装置100は反応槽110および散液部120を備える。
【0023】
反応槽110は、反応液116を収容して撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底、丸底、円錐底または下方に向かって傾斜する底部109を有する。
【0024】
反応槽110の大きさ(容量)は、反応装置100の用途(例えば、これを用いて行われる反応の種類)や、反応液の処理量などによって適宜設定されるため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~40,000リットルである。
【0025】
1つの実施形態では、反応槽110はまた、反応液供給口112および生成物出口114を備える。反応液供給口112は、反応槽110内に反応液116を新たに供給するための入口である。反応液供給口112は、例えば反応槽110の上方(例えば、上蓋)に設けられている。あるいは、反応液供給口112は、反応槽110の側面部に設けられていてもよい。反応槽110に設けられる反応液供給口112の数は1個に限定されない。例えば、複数個の反応液供給口が反応槽110に設けられていてもよい。
【0026】
生成物出口114は、反応槽110内で得られた生成物を反応槽110から取り出すための出口である。生成物出口114は、当該生成物に加えて反応残渣や廃液等も排出可能であり、当該排出は、例えば生成物出口114の下流側に設けられたバルブ115の開閉によって調節され得る。生成物出口114はまた、例えば反応槽110内の底部109の中央に連通して設けられている。
【0027】
反応槽110の上部は、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。さらに、反応槽110の上部には、反応槽110内の圧力を調節するための圧力調節口(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、圧力調節口は例えば図示しない減圧ポンプに接続されていてもよい。
【0028】
散液部120は、反応槽110の内部に設けられており、反応槽110内で鉛直方向に配置された回転軸121と、好ましくは水平方向に延びる取付具122を介して当該回転軸121に装着された流液部材123とから構成されている。散液部120は、回転軸121の回転とそれに伴う流液部材123にかかる遠心力により、反応槽110に収容された反応液116を掬い上げ、反応槽110の下方から上方に向かって流動させることができる。ここで、流液部材123は吸液部124および吐出部125、ならびに吸液部124と吐出部125との間を延びる流路126を備える。さらに、吸液部124は反応液116の液面128よりも下方となるように配置されており、吐出部125は反応液116の液面128よりも上方となるように配置されている。
【0029】
本発明において、吸液部124および吐出部125のこれらの配置は、静置段階(すなわち、回転軸121の回転がなく、反応液116の液面が略水平方向に広がった状態にあるとき)に加え、回転軸121を所望の回転速度で回転させている段階(すなわち、回転軸121の回転を通じて後述するような反応液116の撹拌が行われている状態にあるとき)にも保持されていることが好ましい。その結果、反応槽110内の反応液116は、回転軸121および流液部材123の回転によって流液部材の吸液部124から容易に汲み上げ可能であり、その後遠心力によって流液部材123内の流路126を通じて吐出部125までに移動し、当該吐出部125から、例えば反応槽110の内壁111や反応液116(油相116a)の液面128に向かって吐出され得る。
【0030】
回転軸121は所定の剛性を有するシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、反応槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する反応槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0031】
本発明の反応装置100では、回転軸121の一端は、反応槽110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。回転軸121の他端は、反応槽110の底部109に接続されておらず、例えば反応槽110の底部109から一定の間隔を開けて(好ましくは反応液116の液面128から離れて)配置されている。これにより、回転軸121が反応液116に接触する機会を低減できる。あるいは、回転軸の他端は反応槽の底部109に設けられた軸受に収容されていてもよい。
【0032】
図1に示す反応装置100では、回転軸121に対して、流液部材123の吸液部124が吐出部125よりも近位となるように傾斜して配置されている。
図1において、流液部材123は、回転軸121の軸方向に対して所定の角度(取付傾斜角ともいう)θ
1をなすように傾斜して取付けられている。取付傾斜角θ
1は、当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば10°~45°、好ましくは15°~25°である。
【0033】
図1に示す反応装置100では、散液部120として、回転軸121の周りに2つの流液部材123が対称的に設けられている。ここで、本発明の反応装置に設けられ得る流液部材の数は、必ずしも限定されないが、例えば1つまたは複数、好ましくは2つ~8つ、より好ましくは2つ~6つである。これらの流液部材は、それぞれ回転軸の軸周りに略均等な角度で装着されていることが好ましい。
【0034】
本発明おいて、流液部材123は、例えば、全体が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状または角筒状)に加工されたものであってもよく、半円筒状、半角筒状、V字状などの、いわゆる樋状の形態を有していてもよく、下端および上端がこのような樋状の形態を有し、かつその間の中間部分が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状、角筒状)に加工されたものであってもよく、下端のみまたは上端のみがこのような樋状の形態を有し、かつそれ以外の部分が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状、角筒状)に加工されたものであってもよい。
【0035】
例えば、
図1に示す実施形態では、流液部材123は両端が開放された筒状の形態を有する。このような筒状の流液部材123が採用される場合、反応装置100における反応槽110の上方(例えば、
図1のA-A方向に示す流液部材123の吐出部125付近)の水平端面では、例えば
図2の(a)に示すように、回転軸121の軸周りに取付具122によって2つの流液部材123が当該回転軸121から略均等な距離で取り付けられている。回転軸121が回転すると、2つの流液部材123は、取付具122を介して反応槽110内の中心よりも内壁111の近くで回転することができる。一方、反応装置100における反応槽110の下方(例えば、
図1のB-B方向に示す流液部材123の吸液部124付近)の水平端面では、例えば
図2の(b)に示すように、2つの流液部材123が反応槽110のより中心付近に配置されている。回転軸121が回転すると、2つの流液部材123は、反応槽110内の中心近くで回転することができる。
【0036】
流液部材123の大きさは、特に限定されないが、例えば、
図3に示すような円筒状の部材が使用される場合、円筒部分の内径は、例えば2mm~200mmである。吸液部124から吐出部125までの長さ(すなわち通路126の長さ)は、例えば40mm~8,000mmである。
【0037】
再び
図1を参照すると、反応槽110に収容される反応液116は、水溶液、スラリーなどの液体である。本発明の反応装置100が例えば後述する脂肪酸エステルの製造に使用されるような場合、反応液116は、例えば油相116aおよび水相116bの二相系で構成されており、油相116aおよび水相116bのそれぞれには出発材料などの反応物および溶媒などの媒体が含有されている。なお、反応槽110に収容される反応液116は、当該油相116aおよび水相116bの二相系に限定されない。反応液116は1つの液相で構成されるものであってもよく、複数の液相(例えば、二相、三層)で構成されるものであってもよい。
【0038】
本発明の反応装置100によれば、回転軸121を回転させることにより、散液部120内の流液部材123が吸液口124から反応液116を掬い取る。掬い取られた反応液は、当該回転軸121の回転に伴う遠心力により、通路126を介して吐出口125まで移動し、当該吐出口125から反応槽110内に、具体的には反応槽110内の反応液116の液面128よりも上方に吐出される。これにより、反応液116は、反応槽110の内壁111や液面128への衝突とともに、反応槽110の底部109から上方への移動が可能となり、反応槽110の高さ方向での反応液116の混ぜ返し(例えば、鉛直方向における撹拌または循環)を促すことができる。その結果、反応装置100内で行われる反応生成物の製造がより効果的に進行し得る。
【0039】
なお、上記反応槽110、回転軸121、取付具122および流液部材123は、それ添え独立して、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。これらは、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0040】
図4は、本発明の反応装置の他の例を示す概略図である。
図4に示す本発明の反応装置200では、反応槽110の内壁111に、複数の邪魔板210が設けられている。
図4において、邪魔板210は、例えば静置された反応液116の略中央に位置するように(すなわち、邪魔板210の上端が油相116aの内部に位置し、邪魔板210の下端が水相116bの内部に位置し、かつ当該上端および下端が油相116aと水相116bとの界面近傍に位置するように)設けられている。
【0041】
邪魔板210は、回転軸121の回転により、取付具122を通じて流液部材123が回転し、それにより反応槽110内の反応液116が追随して一緒に回転運動することを防止する役割を果たす。言い換えれば、邪魔板210は、反応槽110内で反応液116が水平方向に回転する際の障壁となり、渦の形成を防止できる。その結果、反応液116には反応槽110内で不規則な動きが与えられ、結果として反応液116の撹拌効率を高めることができる。
【0042】
反応槽110に設けられる邪魔板210の数は必ずしも限定されないが、例えば、反応槽110の内壁111に略等間隔で1つ~8つが設けられている。
【0043】
図5は、本発明の反応装置の別の例を示す概略図である。
図5に示す実施形態では、反応槽110の外周に温度調整用のジャケット130が設けられている。
図5において、ジャケット130は、例えば中空の材料で構成されており、図示しない管を通じて、ジャケット入口131から例えば水蒸気や水や熱媒油などの熱媒体を導入し、ジャケット出口137から排出することができる。ジャケット130内に導入された熱媒体は、反応槽110の外側から反応液116の加熱を行うことにより、反応槽110内の反応液116に対する温度制御を可能にする。
【0044】
なお、
図5に示す実施形態では、熱媒体として反応槽110内を加熱するための加熱用熱媒体を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。当該加熱用熱媒体に代えて、例えば、水、ブライン、ガス冷媒(例えば、二酸化炭素、フロン)のような冷却用熱媒体がジャケット130に導入されてもよい。
【0045】
図6は、本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。反応装置400において、散液部420を構成する流液部材423の流路426は、樋状の形態を有する。
【0046】
このような樋状の流液部材423が採用される場合、反応装置400における反応槽110の上方(例えば、
図6のA’-A’方向に示す流液部材423の吐出部425付近)の水平端面では、例えば
図7の(a)に示すように、回転軸121の軸周りに取付具122によって2つの流液部材423が当該回転軸121から略均等な距離で、円運動の進行方向(接線方向)に開口部分が指向するように設けられている。回転軸121が回転すると、2つの流液部材423は、取付具122を介して反応槽110内の中心よりも内壁111の近くで回転することができる。一方、反応装置400における反応槽110の下方(例えば、
図6のB’-B’方向に示す流液部材423の下端424付近)の水平端面では、例えば
図7の(b)に示すように、2つの流液部材423が反応槽110のより中心付近に配置されている。回転軸121が回転すると、2つの流液部材423は、反応槽110内の中心近くで回転することができる。
【0047】
図6の反応装置400に採用されるような樋状の流液部材423は、回転軸121の回転により、下端425付近の反応液116(
図6では、水相116b)に加え、下端425より上方の液部材223が浸漬する部分に位置する反応液116(
図6では、水相116bおよび油相116a)も汲み取ることができる。そして、汲み取られた反応液116は、液流部材423の流路426を通って吐出部425から排出され、反応槽110の高さ方向での反応液116の撹拌または循環を促すことができる。なお、回転軸121の回転によって、流液部材423の下部(例えば水相116b)では、それに係る遠心力は比較的小さく、かつ汲み取られる反応液116(水相116b)の密度が大きいため、流液部材423の流路426を通って上昇する量は余り多くはない場合があると考えられる。このため、樋状の流液部材423を採用した場合には、当該流液部材423が従来の撹拌翼としても作用し得る。
【0048】
樋状の流液部材423の大きさもまた、特に限定されないが、例えば、
図8に示すような半円筒状の流路426を有する流液部材が使用される場合、半円筒部分の直径は、例えば2mm~200mmである。下端424から吐出部245までの長さは、例えば40mm~8,000mmである。当該板状体の幅は必ずしも限定されないが、例えば、20mm~300mmである。樋状の流液部材423を構成し得る材料は上記と同様である。
【0049】
図9は本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
図9に示す反応装置500では、散液部520を構成する流液部材523が円筒などの筒状の形態と、樋状の形態とを組み合わせて構成されている。
図9に示す流液部材523では、主に反応槽110内の反応液116に浸漬する下方の部分が筒状の形態を有するように設計されており、それ以外の上方の部分が樋状の形態を有するように設計されている。このような配置において、流液部材523の吸液部524から汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により流液部材523の流路526を通過して上方に移動し、吐出部525から反応槽110の内壁111に向かって吐出される。吐出された反応液はそのまま内壁111を流下して再び反応液116と混ざることができる。
【0050】
図9に示す実施形態において、流液部材523を構成する筒状の形態と樋状の形態との割合は特に限定されない。例えば反応槽110の容量や、それに収容される反応液116の量(すなわち、油相116aおよび水相116bの量)に基づいて当業者が適切な割合を選択することができる。
【0051】
図10は、本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
図10に示す反応装置600では、散液部620を構成する流液部材623が円筒などの筒状の形態を有し、かつその上方が湾曲することにより吐出部625が反応槽110の内壁111方向に指向するように設計されている。このような配置において、流液部材623の吸液部624から汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により流液部材623の流路626を通過して上方に移動し、吐出部625から反応槽110の内壁111に向かって吐出される。吐出された反応液はそのまま内壁111を流下して再び反応液116と混ざることができる。
【0052】
図10に示す実施形態では、流液部材623は例えば所定の曲率にて緩やかに湾曲している例につい説明したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、散液部材の上方にて1つまたはそれ以上の折れ曲がりによって屈曲し、吐出口が反応槽110の内壁111に指向しているものであってもよい。
【0053】
図11は、本発明の反応装置のさらに別の例を示す概略図である。
図11に示す反応装置700では、散液部を構成する円筒状の2つの流液部材723a,723bが互いに対向し、かつ両者の吸液部724a,724bが接続されるように設計されている。このような配置よって、散液部材723a,723bは回転軸121の軸周りにより安定して回転することができる。流液部材723a,723bの吸液部724a,724bから汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により流液部材723a,723bの流路726a,726bを通過して上方に移動し、吐出部725a,725bから反応槽110の内壁111に向かって吐出される。
【0054】
本発明の反応装置は、反応液(反応物)の撹拌が所望される種々の反応生成物の製造において有用である。特に、油相と水相とで構成されるような二相系(不均一反応系)において、従来の撹拌機を用いる場合よりも効果的に反応生成物を得ることができる。このような二相系の例としては、脂肪酸エステルを製造するためのエステル交換反応が挙げられる。
【0055】
(反応生成物の製造方法)
次に、本発明の反応装置を用いて所定の反応生成物を製造する方法について説明する。
【0056】
本発明の製造方法では、上記反応装置内で反応液を循環させることにより撹拌が行われる。ここで、本明細書において、用語「循環による撹拌」とは、対象となる液体(例えば反応液)に対して、水平方向の回転を加えることによる撹拌と、上記反応装置を用いる場合のように、鉛直方向の当該液体の移動かつ循環を通じて当該液体全体の混ぜ返し(またはミキシング)との両方を包含していう。
【0057】
本発明に用いられる反応液は、無機または有機系の液体媒体を含有し、一般に撹拌機等による撹拌を通じて化学反応を進行させかつ制御され得るものである。例えば反応液は不均一系の反応液である。例えば、油相および水相から構成されている反応液は、上記循環による撹拌を通じて、反応液の乳化を向上かつ促進することができる点で有用である。
【0058】
反応液が不均一系の反応液である場合、当該反応液には、例えば原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコール、および水が含有されている。
【0059】
原料油脂は、例えばバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0060】
原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0061】
廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0062】
原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0063】
本発明において液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0064】
本発明において、リパーゼは1,3-特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。リパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。
【0065】
本発明における上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは0.2質量部~30質量部である。液体酵素の使用量が0.1質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0066】
本発明におけるアルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1~8のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびn-ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0067】
上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは5質量部~100質量部、好ましくは10質量部~30質量部である。アルコールの使用量が5質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0068】
本発明に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。当該水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは2質量部~30質量部である。水の使用量が0.1質量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0069】
本発明の製造方法では、上記反応液に対して所定の電解質が添加されていてもよい。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において、電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0070】
本発明において、上記原料油脂、触媒、およびアルコール、および水は、例えば
図1に示す反応装置100の反応槽110に反応液供給口112を通じて同時または任意の順序で添加され、油相116aおよび水相116bで構成される反応液116が構成される。その後、回転軸121の回転を通じて散液部120の流液部材123を反応槽110内で回転させることにより、上述の通り、流液部材123の吸液部124から反応液116が汲み取られ、汲み取られた反応液は流路126を通じて上方に移動し、流液部材123の吐出口125から吐出される。このような反応液116の移動によって反応液116の撹拌が促され、反応生成物である脂肪酸エステルの生成が行われる。反応槽110内に付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃~80℃、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは25℃~50℃である。
【0071】
なお、本発明において、反応装置100内の回転軸の回転は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)に設定されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、アルコール、および水の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。
【0072】
反応の終了後、生成物および反応残渣は反応装置100の反応槽110から取り出され、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0073】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(参考例1:試験装置(R1)の作製)
図12の(a)に示す試験装置(R1)800を以下のようにして作製した。具体的には、内径115mmの丸底かつ透明な反応槽810内に、2つの円筒形のステンレススチール製パイプ(内径 10mm,長さ86mm)823a,823bを、互いに向き合いかつ回転軸821の軸方向に対して20°傾斜するように取付具822でV字状に固定した。パイプ823a,823bの上端部の距離tは84mmであった。
【0076】
(参考例2:試験装置(R2)の作製)
図12の(b)に示す試験装置(R2)900を以下のようにして作製した。具体的には、
図12の(a)に示す試験装置(R1)800を構成するパイプ823a,823bの下端824および上端825をシリコーン樹脂902で密栓したこと以外は、参考例1と同様にして試験装置(R2)900を作製した。
【0077】
(参考例3:試験装置(R3)の作製)
図12の(c)に示す試験装置(R3)1000を以下のようにして作製した。具体的には、
図12の(a)に示す試験装置(R1)800を構成するパイプ823a,823bの代わりに、
図12の(d)に示すアンカー型(U字型)撹拌翼1020を備え、反応槽810の内壁に幅11.5mmの3枚(
図12の(c)では2枚のみ記載する)の邪魔板1010を水平方向に略均等な間隔で有する試験装置(R3)1000を作製した。U字型撹拌翼のサイズについては、aが15mmであり、b
1が35mmであり、b
2が50mmであり、cが65mmであった。
【0078】
(参考例4:試験装置の回転数とトルクとの関係)
参考例1で作製した試験装置(R1)および参考例3で作製した試験装置(R3)における回転数とトルクとの関係を以下のようにして測定した。
【0079】
具体的には、
図12の(a)に示す参考例1で作製した試験装置(R1)および
図12の(c)に示す参考例3で作製した試験装置(R3)のそれぞれの反応槽810に、メチルエステルを底から液面までの高さdが85mmとなるように入れ、図示しないモータの回転数を0rpmから500rpmまで上昇させた際のトルク(N・m)を、トルク変換器付撹拌機BL1200Te(新東科学株式会社製)により測定した。得られた結果を
図13に示す。
【0080】
図13に示すように、参考例1で作製された試験装置(R1)は、参考例3の試験装置(R3)と比較して、同じ回転数でのトルクが著しく低く、より動力が少ない状態で円筒形のパイプ(
図12の(a)に示す823a,823bを)回転可能であることを確認した。
【0081】
(実施例1:試験装置(R1)を用いるメチルエステルの製造)
図12の(a)に示す参考例1で得られた試験装置(R1)800の反応槽810に、0.423mg-KOH/gの酸価を有するパーム油500g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)10g、蒸留水75g、およびメタノール5M当量をそれぞれ添加し、反応槽810内を40℃に保持して回転軸821の回転速度を200rpmに設定してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応槽810内の反応液を定期的にサンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC-2010)により測定した。得られた結果を
図14に示す。
【0082】
なお、上記エステル交換反応を開始して24時間が経過した段階で反応槽810内の反応液をサンプリングし、得られた反応液のW/Oエマルジョンの粒度分布を自動セルカウンター(オリンパス株式会社製Model R1)により測定した。得られた結果を
図15に示す。また、この反応液のW/Oエマルジョンを生物顕微鏡(オリンパス株式会社製CX21LED)により拡大倍率1,000倍で観察した(
図16)。
【0083】
(比較例1:試験装置(R2)を用いるメチルエステルの製造)
実施例1で使用した試験装置(R1)の代わりに、
図12の(b)に示す参考例2で得られた試験装置(R2)900を用いたこと以外は、回転軸821の回転速度は200rpmに保持したまま、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行った。当該反応中、反応槽810内の反応液を定期的にサンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を
図14に示す。
【0084】
(比較例2:試験装置(R3)を用いるメチルエステルの製造)
実施例1で使用した試験装置(R1)の代わりに、
図12の(c)に示す参考例3で得られた試験装置(R3)1000を用いたこと以外は、回転軸821の回転速度は200rpmに保持したまま、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行った。当該反応中、反応槽810内の反応液を定期的にサンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を
図14に示す。
【0085】
図14に示すように、円筒型パイプ823a,823bの両端が開放された試験装置(R1)を用いる実施例1の反応系では、円筒型パイプ823a,823bの両端がシリコーン樹脂902で密栓された試験装置(R2)を用いる比較例1の反応系と比較して、反応開始直後から、明らかに多くのメチルエステル(ME)を生成していた。また、実際に反応中の試験装置(R1)および(R2)の円筒型パイプ823a,823bを確認すると、試験装置(R1)では、回転軸821の回転に伴って、円筒型パイプ823a,823bの上端から反応液が吐出されており、試験装置(R2)のものと比較して、反応液がより効果的に循環かつ撹拌されていることを確認した。このことから、試験装置(R1)を用いる実施例1の反応系では、両端が開放された円筒型パイプ823a,823bによって、メチルエステル(ME)の反応効率が高められたことがわかる。
【0086】
一方、
図14に示すように、上記試験装置(R1)を用いる実施例1の反応系と、アンカー型撹拌翼を有する試験装置(R3)を用いる比較例2の反応系とを比較すると、反応開始直後から生成されるメチルエステル(ME)の量に大差が見られなかった。ただ、実施例1の反応系および比較例2の反応系はいずれも回転軸821の回転速度は200rpmであった。ここで、
図13に示すように、参考例1の試験装置(R1)と参考例3の試験装置(R3)とは、同一の回転速度(例えば200rpm)におけるトルクは、参考例3の試験装置(R3)の方が参考例1の試験装置(R1)より明らかに高く、より多くの動力を必要とするものであった。このことから、試験装置(R1)を用いる実施例1の反応系では、より多くの動力を必要とする試験装置(R3)を用いる比較例2の反応系と比較して、メチルエステル(ME)をより少ない動力で製造できたことがわかる。
【0087】
また、
図15および
図16に示すように、上記試験装置(R1)を用いる実施例1の反応系では、粒度分布が比較的狭くかつエステル交換反応に丁度良い大きさである反応液のW/Oエマルジョンが形成されていた。さらに、
図15に示すグラフより、得られたW/Oエマルジョンが5.9μmの平均粒径を有していたことを確認した。
【0088】
(実施例2:試験装置(R1)を用いるメチルエステルの製造)
回転軸821の回転速度を300rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応を行った。反応開始から24時間が経過した段階で、回転軸821の回転を停止させ、1分間経過後、5分間経過後、60分間経過後の反応槽810内の反応液の状態を写真撮影した。得られた結果を
図17に示す。
【0089】
図17に示すように、回転軸821を停止して1分間経過後(
図17の(a))および5分間経過後(
図17の(b))と比較して、60分間経過後(
図17の(c))では、W/Oエマルジョンが失われ、反応槽810内で油相と水相とがほぼ相分離していることを確認した。
本発明によれば、脂肪酸エステルなどの生成物を効率良く製造することができる。本発明により得られた脂肪酸エステルは、例えば、バイオディーゼル燃料またはその構成成分として有用である。