(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145513
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】時計用装飾部品の製造方法、時計用装飾部品及び時計
(51)【国際特許分類】
A44C 5/00 20060101AFI20220926BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20220926BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20220926BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20220926BHJP
A44C 5/10 20060101ALI20220926BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220926BHJP
【FI】
A44C5/00 E
G04B37/22 J
G04B19/06 B
A44C5/02 B
A44C5/10 510L
A44C5/02 F
B23K26/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014624
(22)【出願日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2021044134
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有賀 庄作
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸島 功
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利磨
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恭
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168CB02
4E168DA24
4E168DA43
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】時計用装飾部品に傷がつくのを防止又は抑制する。
【解決手段】パルス状のレーザ光の走査により、中駒12の上面に、走査方向に延びた溝Kによる凹凸の装飾Gを形成する中駒12の製造方法において、中駒12の母材12aの表面12bを、母材12aよりも硬い材料の硬質膜12cで被覆し、その後、硬質膜12cにレーザ光を照射して凹凸を形成するに際して、凹凸の凹んだ部分12dにおいても母材12aを露出させない状態とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のレーザ光の照射により、時計用装飾部品の表面に、凹凸による装飾を形成する時計用装飾部品の製造方法において、
前記時計用装飾部品の母材の表面を、前記母材よりも硬い材料の硬質膜で被覆し、
その後、前記硬質膜に前記レーザ光を照射して凹凸を形成するに際して、前記凹凸の凹部においても前記母材を露出させない、時計用装飾部品の製造方法。
【請求項2】
前記硬質膜を1.0[μm]以上、2.0[μm]以下の厚さで形成する、請求項1に記載の時計用装飾部品の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸の高低差を0.5[μm]以上で形成する、請求項1又は2に記載の時計用装飾部品の製造方法。
【請求項4】
前記凹凸の高低差を3.0[μm]以下で形成する、請求項1から3のうちいずれか1項に記載の時計用装飾部品の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光を走査することにより、前記凹凸を、走査方向に延びたものとする、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の時計用装飾部品の製造方法。
【請求項6】
母材の表面に前記母材よりも硬い材料で被覆した硬質膜を有し、
パルス状のレーザ光の照射により前記硬質膜に凹凸の装飾が形成され、
前記凹凸の凹部においても前記母材が露出していない、時計用装飾部品。
【請求項7】
前記硬質膜は、厚さが1.0[μm]以上、2.0[μm]以下である、請求項6に記載の時計用装飾部品。
【請求項8】
前記凹凸の高低差が0.5[μm]以上である、請求項6又は7に記載の時計用装飾部品。
【請求項9】
前記凹凸の高低差が3.0[μm]以下である、請求項6から8のうちいずれか1項に記載の時計用装飾部品。
【請求項10】
前記凹凸が、前記レーザ光の走査により走査方向に延びたものである、請求項6から9のうちいずれか1項に記載の時計用装飾部品。
【請求項11】
請求項6から10のうちいずれか1項に記載の時計用装飾部品を有する時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用装飾部品の製造方法、時計用装飾部品及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば腕時計のバンドや文字板等の装飾部品に、装飾を施すことが行われている。装飾の一例として、溝となる細い線を狭い間隔で多数並べることで表面に凹凸を形成し、光の反射による模様を形成することがある。
【0003】
ここで、例えば、レーザ光を用いた加工(レーザ加工)により、上述した凹凸を形成することが提案されている。具体的には、装飾部品の表面にレーザ光を照射して、照射された表面を溶融、昇華させ、レーザ光を走査することで走査方向に沿って延びた溝を形成するものであり、これにより装飾部品の表面に凹凸形状を形成する。
【0004】
つまり、レーザ光が走査された部分は、溝状に凹み、溝が形成されていない部分は、凹状の溝に対して相対的に凸となることで凹凸形状となる。なお、溝の縁の部分は、溝の形成されていない部分よりも盛り上がるため、この盛り上がった縁の部分を凸とした凹凸形状とみることもできる。
【0005】
ここで、装飾部品の表面に、窒化チタン、炭化チタン又はダイヤモンド状カーボン(DLC:Diamond-Like Carbon)等の硬質膜(硬質皮膜)を形成することが行われている。硬質膜を形成することにより、装飾部品の表面への傷つきを防止又は抑制することができる。
【0006】
このように装飾部品の表面に硬質膜を形成する場合、硬質膜を形成した後にレーザ加工が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、硬質膜にレーザ加工を行うと、レーザ光が走査された部分は硬質膜が無くなって、硬質膜よりも軟らかい素地である装飾部品の母材(例えば、ステンレスやチタン)が露出し、その露出した部分は、耐摩耗性が低く、傷がつき易いという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、時計に用いる装飾部品(時計用装飾部品)に傷がつくのを防止又は抑制することができる時計用装飾部品の製造方法、時計用装飾部品及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、パルス状のレーザ光の照射により、時計用装飾部品の表面に、凹凸による装飾を形成する時計用装飾部品の製造方法において、前記時計用装飾部品の母材の表面を、前記母材よりも硬い材料の硬質膜で被覆し、その後、前記硬質膜に前記レーザ光を照射して凹凸を形成するに際して、前記凹凸の凹部においても前記母材を露出させない時計用装飾部品の製造方法である。
【0011】
本発明の第2は、母材の表面に前記母材よりも硬い材料で被覆した硬質膜を有し、パルス状のレーザ光の照射により前記硬質膜に凹凸の装飾が形成され、前記凹凸の凹部においても前記母材が露出していない時計用装飾部品である。
【0012】
本発明の第3は、本発明に係る時計用装飾部品を有する時計である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る時計用装飾部品の製造方法、時計用装飾部品及び時計によれば、時計用装飾部品に傷がつくのを防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1に示したバンドを構成する中駒の表面である上面に、溝による装飾が形成された様子を示す模式図である。
【
図4】中駒における、
図3のI-I線に沿った断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法、時計用装飾部品及び時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
図1は腕時計のバンド1を示す斜視図であり、
図2は
図1に示したバンド1を構成する中駒12の表面である上面に、溝Kによる装飾Gが形成された様子を示す模式図である。
【0017】
図示のバンド1は、長手方向Lが腕時計の使用者の手首の周方向に沿うように、使用者に装着される。バンド1は、長手方向Lに直交する幅方向Wの両端に配置された外駒11と、外駒11の両端の間に配置された中駒12と、を備えた構成である。
【0018】
外駒11は、幅方向Wの両端にそれぞれ駒11a,11bを有している。これら2つの駒11a,11bは、幅方向Wに延びた図示しない棒状部材にそれぞれ接合されて、一体の外駒11を形成している。
【0019】
中駒12は、外駒11に対して長手方向Lにずれた位置に配置され、長手方向に沿って隣り合う2つの外駒11,11に跨って連結されている。この、外駒11と中駒12との連結された構造の繰り返しにより、長手方向Lに沿って延びたバンド1を形成している。
【0020】
外駒11及び中駒12は、例えば、ステンレス等の金属の母材に硬質膜12cを被覆して形成されている。外駒11及び中駒12の母材は、ステンレスに限定されず、他の金属、例えばチタンであってもよい。また、外駒11及び中駒12の母材は、ステンレスやチタン等の金属でなくてもよく、金属以外の材料、例えば樹脂であってもよい。なお、外駒11と中駒12とは、異なる母材であってもよい。
【0021】
中駒12は、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法によって装飾加工される対象である時計用装飾部品の一例であり、本発明に係る時計用装飾部品の一例でもある。また、この中駒12を有する時計は、本発明に係る時計の一例である。
【0022】
中駒12は、詳しくは、
図4に示すように、ステンレスやチタン等の母材12aの表面12bに、硬質膜12cを有し、表面12bは硬質膜12cによって全面が被覆されている。硬質膜12cは、例えば、炭化チタン(硬度3000~4000HV)、窒化チタン(硬度1900~2400HV)、窒炭化チタン(硬度2600~3200HV)又はDLC(ダイヤモンド状カーボン;硬度3000~5000HV)等の、母材12a(硬度200HV前後)よりも硬い材料で形成された皮膜である。
【0023】
硬質膜12cは、例えば、膜厚D0が1.0[μm]で形成されている。この膜厚D0は、中駒12を被覆する硬質膜の一般的な膜厚である0.6[μm]に対して、1.5倍以上厚い。硬質膜12cの厚さは、生産性も考慮し、1.0[μm]から2.0[μm]程度で形成することで、レーザ光を照射して凹凸を形成するに際して、凹凸の凹部においても母材12a(
図4参照)を露出させないようにすることができる。
【0024】
例えば、硬質膜12cとして窒炭化チタンを形成する場合、アルゴンガスを約190[cc/min]、窒素ガスを約100[cc/min]、メタンガスを約50[cc/min]の流量で真空装置のチャンバ内へ導入し、母材12aにカソード電圧を10[V]印加した後、ルツボ内にセットされた蒸発材料(チタン)に電子ビームを照射して蒸発させて、真空度を約0.2[Pa]に維持しながら、イオンプレーティングを30[分]程度行い、母材12a上に窒炭化チタンの硬質膜12cを形成する。硬質膜12cとして窒化チタンを形成する場合は、窒素ガスのみを導入し、炭化チタンを形成する場合は、メタンガスのみを導入する。
【0025】
硬質膜12cとしてDLC(ダイヤモンド状カーボン)を形成する場合は、例えば母材12aを配置したチャンバ内に、炭化水素系ガスを導入し、プラズマCVD法により形成する。イオン化蒸着法、固体カーボンターゲットを用いるスパッタリング法、アーク法等によりDLCを形成してもよい。
【0026】
そして、この硬質膜12cには、
図2に示すように、バンド1の長手方向Lに沿って延びた凹凸に形成された溝Kが複数配置されて装飾Gを構成している。
【0027】
図3は、硬質膜12cで被覆された中駒12に、パルス状のレーザ光を長手方向Lに沿って走査して形成した溝Kを示す写真であり、
図4は
図3におけるI-I線に沿った断面を示す断面図である。
【0028】
溝Kは、レーザ加工機のレーザヘッドから出射されたパルス状のレーザ光を、中駒12の硬質膜12cに、長手方向Lに沿って走査することで、走査方向(長手方向L)に延びて形成されている。具体的には、レーザヘッドからパルス状に出射したレーザ光は、中駒12の硬質膜12cに間欠的に照射されるため、
図3に示すように照射された部分が点状に溶融、昇華され、
図4に示すように、レーザ光の照射されていない部分12fの膜厚D0よりも薄い膜厚D1の、点状に凹んだ部分12d(凹部)となる。
【0029】
そして、レーザ加工機がレーザヘッドを長手方向Lに沿って走査することで、点状に凹んだ部分12dが、長手方向Lに連なって並び、凹んだ部分12dが全体として、長手方向Lに沿って延びた溝Kを形成する。本実施形態においては、点状に凹んだ部分12d同士が、凹んだ部分12dの直径の1/4程度が重複する程度のスピードで走査している。
【0030】
ここで、凹んだ部分12dにおいても、母材12aは露出していない。これは、硬質膜12cの膜厚D0が、一般的な硬質膜の膜厚に比べて厚いため、一般的な膜厚の硬質膜に溝Kを形成するレーザ加工の加工条件をそのまま適用しても、レーザ光が母材12aに到達しないからであり、これにより、凹んだ部分12dも硬質膜12cで被覆された状態となる(D1>0[μm])。
【0031】
一方、レーザ光が照射されていない部分12fは、凹んだ部分12dに対して、相対的に凸となり、凹凸が形成される。なお、凹んだ部分12dの輪郭となる縁の部分は、レーザ光が照射されていない部分12fよりもさらに盛り上がった凸部12eとなり、この凸部12eの膜厚D2は、レーザ光が照射されていない部分12fの膜厚D0(=1.0[μm])よりも厚くなる。したがって、凹んだ部分12dと凸部12eとによって、凹凸が形成されているとみることもできる。
【0032】
硬質膜12cは融点が高いため、硬質膜12cにレーザ加工を行った場合は、母材12aに直接、レーザ加工を行った場合よりも、凸部12eと凹んだ部分12dとの高低差(=D2-D1)が小さくなるが、装飾として形成された溝Kの十分な視認性を得る観点から、中駒12の凸部12eの膜厚D2と凹んだ部分12dの膜厚D1との差は、0.5[μm]以上であることが好ましい。
【0033】
レーザ加工によって溝Kを形成する具体的な条件は、一例として、パルス周期が10[μsec]、出力が10[W]のYAGレーザを用いて、走査速度が2000[mm/sec]である。なお、これらの条件は、本実施形態での例にすぎず、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法は、これらの条件以外の条件で溝Kを形成するものであってもよい。
【0034】
本実施形態の中駒12の製造方法によれば、製造された中駒12が、レーザ加工が施されて凹んだ部分12dにおいても、硬質膜12cが残っていて母材12aが露出していないため、母材12aが露出しているものに比べて、傷がつくのを防止又は抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態の中駒12の製造方法によって中駒12に形成された凹凸は、母材12aが露出する一般的な凹凸に比べて、凸部12eの盛り上がり量を低く抑えることができるため、凹凸を触ったときの触感として、抵抗を感じる引っ掛かり感を防止又は抑制することができる。
【0036】
なお、衣類等への引っ掛かりを防止する観点から、中駒12の凸部12eと凹んだ部分12dとの高低差、すなわち、凸部12eの膜厚D2と凹んだ部分12dの膜厚D1との差は、3.0[μm]以下であることが好ましい。したがって、中駒12の凸部12eの膜厚D2と凹んだ部分12dの膜厚D1との差は、0.5[μm]以上で、かつ3.0[μm]以下であることが、より好ましい。
【0037】
本実施形態の中駒12の製造方法は、硬質膜12cの膜厚D0を一般的な膜厚よりも厚くすることで、レーザ光による凹凸の加工後も、母材12aが露出しない構造とした。しかし、硬質膜12cの膜厚D0を厚くするのに代えて、レーザ加工によって溝Kを形成する条件を変えることで、母材12aが露出しないものとしてもよい。つまり、レーザ加工によって溝Kを形成する条件を、一般的な条件よりも低下させることで、母材12aが露出しない構造としてもよい。
【0038】
そのような加工条件としては、例えば、パルス周期6[μsec]、出力8[W]のYAGレーザを用いて、走査速度2000[mm/sec]の条件で溝Kを形成するものなどを適用することができる。この加工条件によれば、硬質膜12cの膜厚D0を、一般的な膜厚である0.6[μm]としても、レーザ光を照射して凹凸を形成するに際して、凹凸の凹部においても母材12aが露出しないようにすることができる。
【0039】
本実施形態の中駒12の製造方法は、レーザ光を走査して線状の溝Kを形成することで、装飾Gを形成したが、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法は、レーザ光を走査せずに、パルス状のレーザ光の照射によって、装飾部品の表面に凹凸による装飾を形成するものであればよく、パルス状のレーザ光の照射によって点状の凹凸による装飾を形成するものであってもよい。
【0040】
上述した実施形態は、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法によって装飾加工される対象である時計用装飾部品として、又は本発明に係る時計用装飾部品として、腕時計のバンド1に用いられている中駒12に適用した例であるが、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法によって装飾加工される対象である時計用装飾部品としては、又は本発明に係る時計用装飾部品としては、中駒に限定されるものではない。
【0041】
すなわち、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法によって装飾加工される対象である時計用装飾部品としては、又は本発明に係る時計用装飾部品としては、中駒以外の外駒であってもよいし、バンドに限らず腕時計の他の時計用装飾部品、例えば、文字板や、時計本体ケース(文字板、時針等の指針、ムーブメント等を収容した外装)であってもよい。
【0042】
また、本発明に係る時計用装飾部品の製造方法によって装飾加工される対象である時計用装飾部品としては、腕時計の装飾部品に限定されず、腕時計以外の時計用の装飾品であってもよい。
【0043】
なお、本発明に係る時計用装飾部品は、完成品の一部分を構成するものであってもよいし、完成品であってもよい。また、本発明に係る時計は、腕時計に限定されず、置時計や掛け時計、装飾された時計、その他の時計であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 バンド
12 中駒
12a 母材
12b 表面
12c 硬質膜
12d 凹んだ部分(凹部)
12e 凸部
12f 部分
D0,D1,D2 膜厚
G 装飾
K 溝
L 長手方向
W 幅方向