(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145520
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
C01G33/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018278
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021044724
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼之
(72)【発明者】
【氏名】常石 琢
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB03
4G048AC06
4G048AD03
(57)【要約】
【課題】リチウム含有量を多くしても良好な安定性を示すニオブ酸ゾルの開発を課題とする。
【解決手段】分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルである。当該ゾルの好適な一製造方法は、ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程、第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程、第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程、を含む製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項2】
Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である、請求項1記載のリチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項3】
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程
(3)第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程
(4)第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【請求項4】
(1)リチウム化合物をリン酸に溶解させてリチウム-リン酸水溶液を調製する第1工程
(2)第1工程で調製したリチウム-リン酸水溶液と、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)とを混合する第2工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
(3′)任意の工程として、第3工程で処理された液とリン酸とを混合する第3′工程
(4)第3工程における処理が洗浄のみである場合又は第3′工程を実施した場合に、第3工程で洗浄処理された液又は第3′工程で得られた液を加熱処理する第4工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【請求項5】
(1)下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)と炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第1′工程
(2)第1工程で得られた液又は第1′工程で処理された液とリン酸とを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱処理する第3工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【請求項6】
(1)下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)とリン酸とを混合する第1工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(2)第1工程で得られた液を加熱処理する第2工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25~1.0の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池材料の分野においてニオブ系ゾルが正極や負極の表面コート用材料として着目されている。
【0003】
本出願人は、ニオブ系ゾルとして特許文献1に記載のニオブ酸アンモニウムゾルに関する技術を発明したのを皮切りに、特許文献2に記載のアミン化合物安定型ニオブ酸ゾルを発明した。さらには、特許文献3に記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルを発明し、その1つはリチウム安定型ニオブ酸ゾルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5441264号公報
【特許文献2】特許第6156876号公報
【特許文献3】特許第6774158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニオブ系ゾルのうち、リチウムを含有したニオブ酸ゾルへの要望が高まっている。とりわけ、特許文献3に記載のリチウム安定型ニオブ酸ゾルよりもリチウム含有量の多いニオブ酸ゾルが要望されていた。
【0006】
本発明は、リチウム含有量を多くしても良好な安定性を示すニオブ酸ゾルの開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、驚くべきことにリチウム及びリン酸を分散安定化剤として用いることによって上記課題が解決されることを見出し、係る知見を基に本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
[2]Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である、上記[1]記載のリチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
[3](1)ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程
(3)第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程
(4)第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
[4](1)リチウム化合物をリン酸に溶解させてリチウム-リン酸水溶液を調製する第1工程
(2)第1工程で調製したリチウム-リン酸水溶液と、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)とを混合する第2工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
(3′)任意の工程として、第3工程で処理された液とリン酸とを混合する第3′工程
(4)第3工程における処理が洗浄のみである場合又は第3′工程を実施した場合に、第3工程で洗浄処理された液又は第3′工程で得られた液を加熱処理する第4工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
[5](1)下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)と炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第1′工程
(2)第1工程で得られた液又は第1′工程で処理された液とリン酸とを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱処理する第3工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
[6](1)下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)とリン酸とを混合する第1工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(2)第1工程で得られた液を加熱処理する第2工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25~1.0の範囲である、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
【0010】
本発明は、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル(以下「本発明のゾル」という)に関する。本発明のゾルは、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルとも言えるものである。
【0011】
本発明のゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって、特許文献3に記載のリチウム安定型ニオブ酸ゾルと同様に、分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。一方、上記以外のリチウムは、共存するリン酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。
【0012】
本発明のゾル中におけるLi/Nb(モル比)は、0.25以上の範囲であることが好ましい。このうち、Li/Nb(モル比)が0.25~1の範囲(Li/Nb2O5(モル比)では0.5~2の範囲)は、リチウムの大半がニオブ酸の分散粒子に結合又は吸着されていることによって分散安定化がなされていると考えられるが、当該範囲であってもリン酸はゾルとしてのさらなる安定化に貢献していると考えられる。Li/Nb(モル比)が1超の範囲では、分散粒子に結合又は吸着していないリチウムとリン酸がゾルとしての安定化に大きく貢献していると考えられる。Li/Nb(モル比)の下限は、より好ましくは0.3以上であり、さらにより好ましくは0.4以上であり、特に好ましくは0.5以上であり、特により好ましくは0.7以上である。Li/Nb(モル比)の上限は特に限定されないが、例えば、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは10以下である。
【0013】
本発明のゾル中におけるリン酸量は、ゾルとしての安定化が得られる量であれば特に限定されない。そのような量として、例えば、P/Li(モル比)が0.5~1.25の範囲であることが好ましい。Li/Nb(モル比)が高くなると、分散安定化に好適なP/Li(モル比)の範囲が狭まる傾向を示すので、例えば、(i)Li/Nb(モル比)が1以下の範囲ではP/Li(モル比)が0.5~1.25の範囲であることが好ましく、(ii)Li/Nb(モル比)が1超の範囲ではP/Li(モル比)が0.85~1.25の範囲であることが好ましい。(i)におけるP/Li(モル比)の下限値は、0.6であることがより好ましく、さらに好ましくは0.7である。(ii)におけるP/Li(モル比)の下限値は、0.9であることがより好ましい。(i)と(ii)に共通して、P/Li(モル比)の上限値は、1.2であることがより好ましく、さらに好ましくは1.1である。また、(i)と(ii)に共通して、P/Li(モル比)が1であるときに、ゾルとしての安定化が最も得られ易い。
【0014】
上記本発明のゾル中におけるLi/Nb(モル比)の好適な範囲(0.25~20)とP/Li(モル比)の好適な範囲(0.5~1.25)より、P/Nb(モル比)の好適な範囲は0.125~25と算出される。本発明のゾル中におけるP/Nb(モル比)が上記範囲であることは特に問題なく許容されるが、下限は0.2であることがより好ましく、さらに好ましくは0.3であり、上限は20であることがより好ましく、さらに好ましくは15である。
【0015】
本発明のゾルは、アンモニアの含有を許容するものである。本発明のゾル中のアンモニアの含有量は、特に限定されるものではないが、NH3/Nb(モル比)として0以上0.25未満の範囲であることが好ましい。上記範囲の上限は、より好ましくは0.2未満であり、さらにより好ましくは0.1未満である。アンモニアを含有するときの上記範囲の下限は、例えば、0.005以上であることが好ましいが、より低含有の観点からは0.001以上であることが好ましい。アンモニアを含有するときの分散粒子におけるアンモニアは、分散粒子におけるリチウムと同様の場所で分散粒子に結合又は吸着していると考えられる。
【0016】
(製造方法)
本発明のゾルの好適な製造方法として、以下に示す製法A、製法B、製法C及び製法Dが挙げられる。
【0017】
〔製法A〕
製法Aは、以下の第1~4工程を含む製法である。
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程
(3)第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程
(4)第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程
【0018】
製法Aによって得られる本発明のゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲のものである。
【0019】
原料として用いるニオブ酸アンモニウムゾルについて説明する。
ニオブ酸アンモニウムゾル及びその製造方法は、特許文献1に詳述されているので、ここではその概略を説明する。ニオブ酸アンモニウムゾルは、無定形のニオブ酸アンモニウムの微粒子がコロイド粒子として分散した水分散型ゾルであり、当該ゾルを100℃で10時間乾燥させたときのアンモニアとニオブ酸がNH3/Nb(モル比)=0.25~0.75(NH3/Nb2O5(モル比)では0.5~1.5)の範囲であることを特徴とするものである。ニオブ酸アンモニウムゾルの製造方法は、フッ酸、又はフッ酸と硫酸の混酸にニオブ化合物を溶解させた水溶液と、アンモニア水溶液とを、pHを8以上に維持しつつ混合、反応させてニオブ酸アンモニウムの微粒子を含有する分散液を得た後、当該分散液をろ過洗浄するものである。また、市販のニオブ酸アンモニウムゾルとして、例えば、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができる。
【0020】
第1工程では、ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾルに、炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムを添加する。炭酸リチウムは、固体、特に粉体を用いることが好ましい。また、少量の水に粉体を分散させたものを用いてもよい。炭酸水素リチウムは単独で用いてもよいが、炭酸水素リチウムは水溶液として存在するためリチウム濃度が低いので、製造効率の観点から炭酸リチウムと併用することが好ましい。本製法によって得られるゾルのLi/Nb(モル比)の上限は、炭酸リチウムの溶解度によって制約される傾向にあるが、例えば、4.0以下であることが好ましい。
【0021】
第2工程では、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する。当該処理は、アンモニアの除去を目的に行うことが好ましい。例えば、本発明のゾルにおいて、NH3/Nb(モル比)が0.25未満になるまで行う。また、当該処理によって得られる液は、リチウムが直接的に結合又は吸着したニオブ酸粒子(場合によっては残存アンモニアも直接的に結合又は吸着)と、上記以外のリチウムが存在する場合にはリチウムイオンを含有すると考えられる液である。
【0022】
加熱処理における温度と時間の加熱条件は適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は、50~150℃の範囲であることが好ましい。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~8時間である。リチウムの存在量及び加熱条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。本発明では、検出限界以下を含有量0とする。アンモニアの測定には、ケルダール法を用いる。
【0023】
洗浄処理の方法については特に制限は無いが、好ましくは水を添加しながらの限外ろ過である。洗浄方法や洗浄条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。加熱と洗浄は、一方のみを行ってもよく、また、併用してもよい。併用する場合は、例えば、加熱後に洗浄してもよいし、洗浄後に加熱してもよい。
【0024】
加熱及び/又は洗浄処理によるアンモニア除去のメカニズムとして、次のことが推測される。ニオブ酸アンモニウムゾル中では、アンモニウムイオンはほとんど存在せず、アンモニアはニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在していると推定されるが、そのアンモニアのうち少なくとも一部がリチウムによって置換され、これによって遊離のアンモニアが生成し、この遊離のアンモニアを加熱においては揮散させ、洗浄においては系外へ排出する、というものである。
【0025】
第3工程では、第2工程で処理された液とリン酸とを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下の液に、リン酸を添加する。リン酸は、オルトリン酸を用いることが好ましい。また、必要に応じて、リン酸に加えてリン酸塩を添加してもよい。リン酸塩としては、水溶性リン酸塩を用いることが好ましく、その中でもアルカリ金属のリン酸塩が好ましい。水溶性のアルカリ金属リン酸塩の好例として、リン酸二水素リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。リン酸塩を用いたときは、必要に応じて、リン酸塩由来の余分な陽イオンを常法によって除去する工程を設けてもよい。リン酸及び必要に応じて添加するリン酸塩の添加量は、前記P/Li(モル比)に関する説明を参考にすればよい。
【0026】
第4工程では、第3工程で得られた液を加熱処理する。加熱温度は、例えば、50~150℃の範囲であることが好ましい。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。また、加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~8時間である。本発明のゾルが得られる限りにおいて、第2工程と第4工程の加熱条件は同じにしてもよいし、第4工程の加熱時間を第2工程よりも短くしてもよい。
【0027】
第4工程の後に、必要に応じて、ろ過工程、濃度調整工程を設けてもよい。これは、他の製法B、製法C及び製法Dについても同様である。
【0028】
〔製法B〕
製法Bは、以下の第1~4工程を含む製法である。
(1)リチウム化合物をリン酸に溶解させて、リチウム-リン酸水溶液を調製する第1工程
(2)第1工程で調製したリチウム-リン酸水溶液と、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有し、pHが7~10の範囲であり、かつリン酸を含有しないリチウム安定型ニオブ酸ゾル(ここで、当該ゾル中のLi/Nb(モル比)の値をfとし、アンモニア/Nb(モル比)の値をgする)とを混合する第2工程
(a)0.25≦f≦1、かつ、g=0
(b)f≧0.25、0<g<0.25、かつ、0.25<f+g≦1
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
(3′)任意の工程として、第3工程で処理された液とリン酸とを混合する第3′工程
(4)第3工程における処理が洗浄のみである場合又は第3′工程を実施した場合に、第3工程で洗浄処理された液又は第3′工程で得られた液を加熱処理する第4工程
【0029】
製法Bによって得られる本発明のゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲のものである。
【0030】
第1工程では、リチウム化合物をリン酸に溶解させてリチウム-リン酸水溶液を調製する。リチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム等が挙げられるが、得られるリチウム-リン酸水溶液中のリチウム濃度を高くする観点から、水酸化リチウムが好ましい。リチウム化合物をリン酸に溶解させる方法は、常法によればよく、好例は撹拌下のリン酸にリチウム化合物を添加する方法であり、必要に応じて水を添加してもよい。リチウム-リン酸水溶液におけるP/Li(モル比)の範囲は1.0以上が好ましい。
【0031】
第2工程において原料として用いるリチウム安定型ニオブ酸ゾル(以下「Li-Nbゾル」ともいう)について説明する。
Li-Nbゾルは、特許文献3の請求項1に規定されたものである。また、Li-Nbゾルの製造方法として、特許文献3の明細書における第一~三製法を用いることができる。本発明のゾルにおいては、アンモニアの含有の有無は問わないので、上記(a)と(b)のいずれの組成比のものでも使用することができる。
【0032】
第2工程では、第1工程で調製したリチウム-リン酸水溶液とLi-Nbゾルとを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下のLi-Nbゾルに、リチウム-リン酸水溶液を添加する。
【0033】
第3工程における加熱及び/又は洗浄処理は、製法Aの第2工程を適用すればよい。
【0034】
第3′工程は、任意の工程であるため、必須の工程ではなく、必要に応じて実施すればよい工程である。第3′工程を実施する場合は、製法Aの第3工程における「第2工程で処理された液」を、本製法の「第3工程で処理された液」に置き換えて同様に実施すればよい。
【0035】
第4工程は、第3工程における処理が洗浄のみである場合又は第3′工程を実施した場合にのみ実施する工程である。第4工程における加熱処理は、製法Aの第4工程を適用すればよい。
【0036】
〔製法C〕
製法Cは、以下の第1~3工程を含む製法である。
(1)Li-Nbゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第1′工程
(2)第1工程で得られた液又は第1′工程で処理された液とリン酸とを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱処理する第3工程
【0037】
製法Cによって得られる本発明のゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)がf超の範囲のものである。
【0038】
第1工程は、製法Aのニオブ酸アンモニウムゾルをLi-Nbゾルに置き換えて実施すればよい。
【0039】
第1′工程は、任意の工程であるため、必要に応じて実施すればよい。第1′工程を実施する場合は、製法Aの第2工程を適用すればよい。第2工程と第3工程は、それぞれ製法Aの第3工程と第4工程を適用すればよい。
【0040】
〔製法D〕
製法Dは、以下の第1~2工程を含む製法である。
(1)Li-Nbゾルとリン酸とを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱処理する第2工程
【0041】
製法Dによって得られる本発明のゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25~1.0の範囲のものである。
【0042】
第1工程は、製法Aの第3工程における「第2工程で処理された液」を、本製法の「Li-Nbゾル」に置き換えて同様に実施すればよい。第2工程は、製法Aの第4工程を適用すればよい。
【0043】
本発明のゾルのNb濃度は、例えば、0.5~30質量%の範囲が好ましい。下限値は、製造上・輸送上の経済的な観点から、2質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは3質量%であり、さらにより好ましくは4質量%である。上限値の30質量%は、高粘度化によるハンドリング性の低下を回避する観点から設定したものである。製造上及び利用上の利便性を鑑みると、上限値は、20質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは15質量%である。
【0044】
本発明のゾルを濃度調整する場合は、ゾルとしての安定状態が保たれる範囲において常法によって実施すればよく、例えば、加熱濃縮、減圧濃縮等による濃縮、水による希釈等が挙げられる。
【0045】
本発明のゾルは、ハンドリング性が高いことから各種用途に好適に使用することができる。一例としては、本発明のゾルを含有してなる透明薄膜形成用塗布液、二次電池、電子材料等の添加剤等が挙げられる。
【実施例0046】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0047】
(ニオブ酸アンモニウムゾル)
ニオブ酸アンモニウムゾルとして、多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb=4.3質量%、pH8.8、アンモニア/Nb(モル比)=0.6)を用いた。
【0048】
〔実施例1~8〕
撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾル300gに純度98.5質量%以上の炭酸リチウム(粉体)を添加した後、90℃で3時間加熱(加熱1)した。次に、85質量%リン酸を添加し、90℃で1時間加熱(加熱2)した。最後に、夾雑物を除去する目的でろ過をした後、必要な場合は適当量の水添加による濃度調整をおこなって、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。
各原料は表1の組成となるように設計した。また、加熱1及び加熱2は、いずれも開放下において行った。加熱1では、Nb濃度4.3質量%をできるだけ維持するように適宜水を添加した。加熱2では、表1のNb濃度になるように適宜水を添加し調整した。
【0049】
〔実施例9~10〕
ニオブ酸アンモニウムゾルとして、表1のNb濃度になるように水で希釈したものを用いた以外は、実施例1~8と同様にして、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。ただし、加熱1では、表1のNb濃度をできるだけ維持するように適宜水を添加した。
【0050】
【0051】
(ゾルの分析)
実施例1~10で得られた各ゾルにつき、以下の分析を含め、ゾルは有姿で分析に供試した。
・平均粒子径:(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-500」を用いて測定した。
・ヘイズ、全光線透過率:日本電色工業(株)製のヘーズメーター「COH7700」を用い、波長400~700nm(10nm間隔)、光路長10mmの条件で測定した。
表2に、分析結果を示した。
【0052】
【0053】
〔実施例11~19〕
50質量%リン酸に水酸化リチウム一水和物を溶解させて、表3に示したP/Li(モル比)を有するリチウム-リン酸水溶液を調製した。
ニオブ酸アンモニウムゾル10.4kgを水でNb=0.7質量%まで希釈後、5%塩酸2.6kgを添加し、限外ろ過装置を用いてろ過洗浄を行った。これに5%水酸化リチウム水溶液1.1kgを添加し、限外ろ過装置でNb=4.3質量%まで濃縮後、140℃で3時間加熱処理を行い、リチウム安定型ニオブ酸ゾル(pH9.2、Nb=4.2質量%、Li/Nb(モル比)=0.5、アンモニア/Nb(モル比)=0.02)を得た。
撹拌下のリチウム安定型ニオブ酸ゾルに、リチウム-リン酸水溶液を添加した後、90℃で実施例11~17は1時間、実施例18は2時間、実施例19は3時間加熱(加熱3)した。
各原料は表4の組成となるように設計した。また、加熱3は、開放下において、表4のNb濃度になるように適宜水を添加し調整しながら行った。最後に、夾雑物を除去する目的でろ過をした後、必要な場合は適当量の水添加による濃度調整をおこなって、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。
【0054】
【0055】
【0056】
実施例1~10と同様にして、実施例11~19で得られた各ゾルを分析した。
表5に、分析結果を示した。
【0057】
【0058】
実施例19は平均粒子径が測定限界以下であったが、チンダル現象が確認されたことからゾルであった。
【0059】
実施例1~19で得られたいずれのゾルも、25℃で1ヶ月間保存したところ、沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。