(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145554
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】硬質合金複合部材の製造方法及び真空吸着装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220926BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20220926BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B22F1/00 Q
C22C33/02 101
B22F3/11
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027349
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2021046529の分割
【原出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】大山 弘展
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA24
4K018AB02
4K018AC01
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB06
4K018BC01
4K018KA22
(57)【要約】
【課題】 高い部材強度を有し、変形や接合不良が無く、多様な形状設計が可能な硬質合金複合部材及びその製造方法、及びかかる硬質合金複合部材を使用した真空吸着装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 超硬合金又はサーメットからなる第一の及び第二の硬質合金焼結体とを有し、第一の硬質合金焼結体の気孔率が第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材を製造する方法であって、未焼結成形体又は一次焼結体の第一及び第二の硬質合金材を接触させて、第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、第一及び第二の硬質合金材は超硬合金からなるか、サーメットからなる硬質合金複合部材の製造方法。
【選択図】
図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材を製造する方法であって、
未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、未焼結成形体又は一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項2】
硬質合金材を前記焼結温度で1分だけ保持した後冷却した被熱処理体の寸法に対する、硬質合金材に接合焼結時と同一の条件で熱処理を施した後の硬質合金焼結体の寸法の変化率[(硬質合金焼結体の寸法-被熱処理体の寸法)/被熱処理体の寸法]を、前記焼結温度で保持されている間における寸法変化率とした場合、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材との前記焼結温度に保持されている間における寸法変化率の差が2%以内であることを特徴とする請求項1に記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項3】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材を製造する方法であって、
未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、未焼結成形体又は一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第一の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の外径又は外寸と比べて、前記第二の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の内径又は内寸が同じかわずかに小さく、前記第一の硬質合金材が前記第二の硬質合金材の内側になるように接合し、前記第一の硬質合金材が前記第二の硬質合金材と比べて常温から前記焼結温度までの間における収縮率が小さく、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項4】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材を製造する方法であって、
未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第二の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の外径又は外寸と比べて、前記第一の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の内径又は内寸が同じかわずかに小さく、前記第二の硬質合金材が前記第一の硬質合金材の内側になるように接合し、前記第二の硬質合金材が前記第一の硬質合金材と比べて常温から前記焼結温度までの間における収縮率が小さく、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記第一の硬質合金焼結体は20~40%の気孔率を有し、前記第二の硬質合金焼結体は密度が98%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項6】
前記第一及び第二の硬質合金材が超硬合金からなる場合、前記硬質相成分として周期律表第4~6族元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項7】
前記焼結温度を前記第二の硬質合金材の液相出現温度以上の焼結温度とすることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼結温度を前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のうち最も高い液相出現温度以上の焼結温度とすることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項9】
前記第一の硬質合金材は前記結合相成分を5~16質量%含むことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の方法により製造された硬質合金複合部材を用いて真空吸着装置を製造する方法であって、前記第一の硬質合金材を吸着部とし、前記第二の硬質合金材を支持部とすることを特徴とする真空吸着装置の製造方法。
【請求項11】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とが接合され、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材であって、
前記超硬合金は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相と、WCを主成分とする硬質相とを含み、前記サーメットは、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相とを含むことを特徴とする硬質合金複合部材。
【請求項12】
前記第一の硬質合金焼結体は20~40%の気孔率を有し、前記第二の硬質合金焼結体は密度が98%以上であることを特徴とする請求項11に記載の硬質合金複合部材。
【請求項13】
前記第一及び第二の硬質合金焼結体が超硬合金からなる場合、前記硬質相成分として周期律表第4~6族元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の硬質合金複合部材。
【請求項14】
前記第一の硬質合金材は前記結合相成分を5~16質量%含むことを特徴とする請求項11~13のいずれかに記載の硬質合金複合部材。
【請求項15】
請求項11~14のいずれかに記載の硬質合金複合部材を用いた真空吸着装置であって、前記第一の硬質合金材が吸着部であり、前記第二の硬質合金材が支持部であることを特徴とする真空吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質合金複合部材及びその製造方法、並びにかかる硬質合金複合部材を用いた真空吸着装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多孔質材料は内部に連通する気孔を有する材料であり、気体や液体を通過させる特徴を有するため、多孔質材料部材を製品の一部に組み込んだ複合部材が、半導体製造装置におけるウエハの固定やセラミックス粉末成形シートの移動のための吸着部、紙コップ製造装置の潤滑油供給口など、対象物との接触面を有しかつ対象物を吸着又は供給する部材を備えた工具や、間隙に油浸して含油軸受などの摺動部材等に応用されている。
【0003】
例えば吸着工具は多孔質材料からなる吸着部と緻密質な支持部とを備える吸着板を具備しており、吸着対象製品を高い品質で取り扱うためには、安定した吸引力と優れた平面度を有する吸着面を有することが不可欠である。そのためには、多孔質の吸着部材とそれを設置する工具との接合部にごくわずかの隙間も生じないように設置する必要がある。また多孔質材料は、空隙を多数含む構造でもあり、緻密な材料と比較して強度が低い。このため、多孔質材料部材を吸着工具に組み込む際には、組み込む部材の大きさを制限したり、部材が破損しないように注意して支持部と接合したりするなど、細心の注意を払う必要がある。さらに、吸着工具を継続して使用すると目詰まりする場合があり、面の研削により目詰まりを解消することがあるが、その際、吸着面の多孔質材から粒子が脱落し、吸着対象物の品質を低下させることがある。
【0004】
特許文献1は、多孔質セラミックスからなる吸着部と緻密質部からなる支持部とを備える吸着板を具備した真空吸着装置の製造方法であって、セラミックス緻密凹型部材に多孔質セラミックススラリーを流し込み乾燥させ、その多孔質セラミックス成形体を焼結して、多孔質材と緻密材とが隙間のない一体の部材を作製する方法を開示している。しかし、焼結の際、多孔質セラミックス材の収縮や変形を防止する目的で、多孔質セラミックス材に含まれる結合材(ガラス粉末)のガラス軟化点以上であるができるだけ低い温度で焼成させる。特許文献1には、接合部強度が多孔質単体の強度より高いことが望ましいと記載されているものの、通常の温度で焼結した同成分の緻密セラミックス材よりは当然強度は低いため、使用上問題が生じると予想される。また緻密材の凹部にセラミックススラリーを流し込む成形方法は、自ずと形状の設計に制約が生じる。
【0005】
特許文献2は、緻密材用の通常のセラミックス原料粉末と、気孔形成用の焼失材粒子を緻密材用セラミックス原料粉末に混合した多孔質材用粉末とを、金型内を仕切り板で区切ったそれぞれの場所に充填し、一軸プレス成形および焼結して多孔質材と緻密材が一体である吸着部材を作製する方法を開示している。このとき焼結温度は通常の緻密材を焼結する温度で焼結可能であるため、多孔質材の材料自体はそれなりの強度を保持する。しかし、近年の製品品質や加工精度に対する要求の向上に伴い、より優れた強度及び靭性と高い加工性を備える多孔質複合部材が望まれている。
【0006】
また特許文献2の多孔質材の製造方法では、粉末に混合した焼失材粒子同士がプレス成形体内で接触して部まで繋がって存在することで、吸着面から吸引面まで連通した気孔を存在させることができる。しかし、金型内を仕切り板で区分けして粉末を充填し一軸プレス成形する成形体の作製方法は、特許文献1と同様に形状の設計には制約がある上に、仕切り板を取り除いて圧縮成形しているので変形や接合不良が生じやすい。さらに、プレス成形方向から見たときの緻密材部分の厚さを薄くしたい場合にはその分割部分は狭いために粉末を均一に充填するのは難しく、形状設計には制約が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許6159987号
【特許文献2】特許3663215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、多孔質硬質合金を含む硬質合金複合部材及びその製造方法であって、高い部材強度及び靭性を有し、変形や接合不良が無く、多様な形状設計が可能な硬質合金複合部材及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、かかる硬質合金複合部材を使用した真空吸着装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、多孔質の第一の硬質合金材と、少なくとも1つ以上の緻密又は多孔質の第二の硬質合金材とを所定の条件で接合焼結することにより、高い部材強度及び靭性を有し、変形や接合不良が無く、多様な形状設計が可能な硬質合金複合部材が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明の一実施態様による硬合金複合部材の製造方法は、超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材を製造する方法であって、
未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、未焼結成形体又は一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする。
【0012】
硬質合金材を前記焼結温度で1分だけ保持した後冷却した被熱処理体の寸法に対する、硬質合金材に接合焼結時と同一の条件で熱処理を施した後の硬質合金焼結体の寸法の変化率[(硬質合金焼結体の寸法-被熱処理体の寸法)/被熱処理体の寸法]を、前記焼結温度で保持されている間における寸法変化率とした場合、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材との前記焼結温度に保持されている間における寸法変化率の差が2%以内であるのが好ましい。
【0013】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きいのが好ましい。
【0014】
本発明の別の実施態様による硬合金複合部材の製造方法は、未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、未焼結成形体又は一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第一の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の外径又は外寸と比べて、前記第二の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の内径又は内寸が同じかわずかに小さく、前記第一の硬質合金材が前記第二の硬質合金材の内側になるように接合し、前記第一の硬質合金材が前記第二の硬質合金材と比べて常温から前記焼結温度までの間における収縮率が小さく、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする。
【0015】
超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とを有し、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きいのが好ましい。
【0016】
本発明のさらに別の実施態様による硬質合金複合部材の製造方法は、未焼結成形体又は一次焼結体の第一の硬質合金材と、一次焼結体の第二の硬質合金材とを接触させて、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のいずれか低い温度以上の焼結温度で加熱し、前記第一の硬質合金材と前記第二の硬質合金材とを接合焼結により接合し、
前記第二の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の外径又は外寸と比べて、前記第一の硬質合金材の前記接合焼結と同じ条件で熱処理を施した後の内径又は内寸が同じかわずかに小さく、前記第二の硬質合金材が前記第一の硬質合金材の内側になるように接合し、前記第二の硬質合金材が前記第一の硬質合金材と比べて常温から前記焼結温度までの間における収縮率が小さく、
前記第一及び第二の硬質合金材は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含む超硬合金からなるか、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むサーメットからなることを特徴とする。
【0017】
前記第一の硬質合金焼結体は20~40%の気孔率を有し、前記第二の硬質合金焼結体は密度が98%以上であるのが好ましい。
【0018】
前記第一及び第二の硬質合金材が超硬合金からなる場合、前記硬質相成分として周期律表第4~6族元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物のうち1種以上をさらに含むのが好ましい。
【0019】
前記第二の硬質合金材の液相出現温度以上の焼結温度で加熱するか、前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のうち最も高い液相出現温度以上の焼結温度で加熱するのが好ましい。
【0020】
前記第一の硬質合金材は前記結合相成分を5~16質量%含むのが好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様による真空吸着装置の製造方法であって、上記のいずれかの方法により製造された硬質合金複合部材を用いて、前記第一の硬質合金材を吸着部とし、前記第二の硬質合金材を支持部とすることを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施態様による硬質合金複合部材は、超硬合金又はサーメットからなる第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる第二の硬質合金焼結体とが接合され、前記第一の硬質合金焼結体の気孔率が前記第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きい硬質合金複合部材であって、
前記超硬合金は、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相と、WCを主成分とする硬質相とを含み、前記サーメットは、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相とを含むことを特徴とする。
【0023】
前記第一の硬質合金焼結体は20~40%の気孔率を有し、前記第二の硬質合金焼結体は密度が98%以上であるのが好ましい。
【0024】
本発明の一実施態様による真空吸着装置は、上記のいずれかの硬質合金複合部材を用いた真空吸着装置であって、前記第一の硬質合金材が吸着部であり、前記第二の硬質合金材が支持部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い部材強度及び靭性を有し、変形や接合不良が無く、多様な形状設計が可能な硬質合金複合部材が得られる。本発明は、特に硬質合金複合部材を真空吸着装置に用いるときに効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1(a)】硬質合金複合部材の一例を示す斜視図である。
【
図1(b)】本発明の一実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【
図1(c)】第一の硬質合金焼結体の結合相富化領域を示す模式図である。
【
図2(a)】硬質合金複合部材の別の例を示す斜視図である。
【
図2(b)】本発明の別の実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【
図3】第一及び第二の硬質合金焼結体の界面部を示すSEM写真である。
【
図4】第一の硬質合金焼結体の界面部を示すSEM写真である。
【
図5】第一の硬質合金焼結体の界面部を示すSEM写真である。
【
図6(a)】硬質合金複合部材のさらに別の例を示す斜視図である。
【
図6(b)】本発明のさらに別の実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【
図6(c)】本発明のさらに別の実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【
図7(a)】硬質合金複合部材のさらに別の例を示す斜視図である。
【
図7(b)】本発明のさらに別の実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【
図8(a)】硬質合金複合部材のさらに別の例を示す斜視図である。
【
図8(b)】本発明のさらに別の実施例による硬質合金複合部材の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1] 硬質合金複合部材
本発明の一実施態様による硬質合金複合部材は、超硬合金又はサーメットからなる多孔質の第一の硬質合金焼結体と、超硬合金又はサーメットからなる緻密又は多孔質の第二の硬質合金焼結体とを有する。
【0028】
超硬合金とは、硬質相であるWCを金属相であるCo、Ni及びFeのうち1種以上で結合した合金を意味する。さらに硬質相にはWC相に加え、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種が固溶する相があっても良く、例えば(W,Ti)C,(W,Ti)CN,(W,Ti,Nb)C等が挙げられる。結合相としてCrを含んでも良い。また超硬合金の結合相には硬質相を構成する金属元素が固溶している。
【0029】
サーメットとは、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相とからなる合金を意味する。硬質相の周期律表第4~6族の金属はTi,Nb及びTaのうち少なくとも一種が含まれるのが好ましい。また硬質相は複数の金属の固溶体で構成されていても良く、例えば(Ti,Ta)C,(Ti,Ta)CN,(Ti,Nb)CN,(Nb,Ta)N等が挙げられる。サーメットの結合相には硬質相を構成する金属元素が固溶している。
【0030】
第一の硬質合金焼結体は、20~40%の気孔率を有することが好ましい。これにより、吸着工具として用いたときに十分な吸着機能を維持しつつ、高い強度を保持することができる。また吸着工具として用いたときに十分な通気量を得るために、第一の硬質合金焼結体の気孔は開気孔であるのが好ましい。
【0031】
第一の硬質合金焼結体の気孔率は第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きいのが好ましい。多孔質の第一の硬質合金焼結体に気孔率がより小さい第二の硬質合金焼結体を接合することにより、全体として部材強度に優れた硬質合金複合部材が得られる。第二の硬質合金焼結体は密度98%以上の緻密体であるのが好ましい。
【0032】
第一の硬質合金焼結体は結合相を5~16質量%含むのが好ましい。第一の硬質合金焼結体の結合相量が5質量%より少ないと耐摩耗性に優れるが強度が低下し、16質量%より多いと焼結や熱処理の際に緻密化しやすくなる。第一の硬質合金焼結体は結合相を5~10質量%含むのがより好ましい。
【0033】
第二の硬質合金焼結体は結合相を5.2~27質量%含むのが好ましい。第二の硬質合金焼結体の結合相量が5.2質量%より少ないと十分な強度を有することができず、27質量%より多いと焼結や熱処理の際に変形しやすくなる。第二の硬質合金焼結体は結合相を5.2~16質量%含むのがより好ましい。
【0034】
第二の硬質合金焼結体の結合相量B’の第一の硬質合金焼結体の結合相量A’に対する比B’/A’が1.02より大きく、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体とが接合する界面部において、第一の硬質合金焼結体の界面部に硬質合金粒子内の結合相量Cが第一の硬質合金焼結体の中央部における硬質合金粒子内の結合相量A”より大きい結合相富化領域が形成されているのが好ましい。ここで結合相量A”は第一の硬質合金焼結体の中央部における硬質合金粒子内に含まれる結合相の割合(質量%)であり、結合相量Cは結合相富化領域における硬質合金粒子内に含まれる結合相の割合(質量%)である。
【0035】
この結合相富化領域には、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との接合界面や第一の硬質合金焼結体の硬質合金粒子間に、他の部分よりも多くの結合相が存在しており、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との結合強度を高めるとともに、第一の硬質合金焼結体の界面部の靭性を高めるができる。また結合相富化領域に存在する硬質合金粒子には中央部付近に存在する硬質合金粒子よりも結合相量が多く含まれるため、界面部の強度を高めることができる。
【0036】
結合相富化領域は、後述するように、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とを接合焼結する際に、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とが接合する界面部において、第二の硬質合金材の界面部から第一の硬質合金材の界面部に結合相成分が移動することにより形成させることができる。
【0037】
第一の硬質合金焼結体の結合相富化領域において、中央部の結合相より肥大化した結合相富化組織が形成されているのが好ましい。第一の硬質合金焼結体は多孔質であるため、結合相富化領域において、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との接合界面や、硬質相の硬質合金粒子間の空隙に結合相成分が凝集したり、結合相量の差により硬質粒子内部に結合相が浸透することにより結合相富化組織が形成されるものと思われる。このような結合相富化組織は、後述するように、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とを接合焼結する際に、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とが接合する界面部において、第二の硬質合金材の界面部から第一の硬質合金材の界面部に結合相成分が移動することにより形成させることができる。
【0038】
結合相富化領域の大きさは、気孔率の悪化を妨げない範囲であれば、第一の硬質合金焼結体の大きさによって適宜設定可能であるが、第一の硬質合金焼結体の第二の硬質合金焼結体との接合界面と垂直の断面の面積に対して、その断面における結合相富化領域の面積が30%未満であるのが好ましい。結合相富化領域の面積が第一の硬質合金焼結体の断面積に対して30%以上であると第一の硬質合金材の全体の気孔率を低下させてしまう恐れがある。結合相富化領域の面積は第一の硬質合金焼結体の断面積に対して10%未満であるのがより好ましく、5%未満であるのがさらに好ましい。
【0039】
第一の硬質合金焼結体を形成する硬質合金粒子を第一の硬質合金焼結体の第二の硬質合金焼結体との接合界面と垂直の断面において円に近似したときの直径の平均値をDμmとしたとき、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との接合界面から少なくとも(D×5)μm離れた位置までの領域において、結合相富化領域の硬質合金粒子内の結合相量Cの第一の硬質合金焼結体中央部の硬質合金粒子内の結合相量A”に対する比C/A”が1.02より大きいのが好ましい。それにより、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との結合強度や、第一の硬質合金焼結体の界面部の靭性をさらに高めるができる。比C/A”は1.1~3であるのがより好ましい。
【0040】
比B’/A’がより大きければ結合相富化領域の硬質合金粒子内の結合相量Cの第一の硬質合金焼結体中央部の硬質合金粒子内の結合相量A”に対する比C/A”がより大きくなる。比B’/A’は1.10より大きいのがより好ましく、1.20以上であるのがさらに好ましい。また比B’/A’は5.4以下であるのが好ましい。比B’/A’が5.4より大きいと第一の硬質合金材の界面部の気孔率を低下させてしまう。
【0041】
結合相富化領域は、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体とが接合する界面部において、少なくとも強度が必要な部分に形成されていれば良い。すなわち、強度が必要な部分では、第二の硬質合金焼結体の硬質合金粒子内の結合相量B’の第一の硬質合金焼結体の硬質合金粒子内の’に対する比B’/A’が1.02より大きく、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体とが接合する界面部において、結合相量A”より大きい結合相量Cを有する結合相富化領域が形成されており、強度が必要でない部分では、第二の硬質合金焼結体の硬質合金粒子内の結合相量b’の第一の硬質合金焼結体の硬質合金粒子内の結合相量a’に対する比b’/a’が1以下であっても良い。これにより、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との結合強度や、第一の硬質合金焼結体の界面部の靭性を高めるとともに、設計の自由度も高めることができる。強度が必要な部分は、硬質合金複合部材の構造に応じて適宜設定可能である。
【0042】
[2] 硬質合金複合部材の製造方法
本発明の硬質合金複合部材の製造方法は、多孔質の第一の硬質合金材と、少なくとも1つ以上の緻密又は多孔質の第二の硬質合金材とを接合して、多孔質の第一の硬質合金焼結体と、緻密又は多孔質の第二の硬質合金焼結体とを有する硬質合金複合部材を製造する方法であって、第一及び第二の硬質合金材は未焼結成形体又は一次焼結体であり、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とを接触させて、第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度以上の焼結温度で加熱することを特徴とする。
【0043】
第一及び第二の硬質合金材は、第一及び第二の硬質合金焼結体が超硬合金である場合、Co、Ni及びFeのうち1種以上を含む結合相成分と、WCを主成分とする硬質相成分とを含むのが好ましい。さらに硬質相成分としてWCに加え、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物のうち1種以上をさらに含んでも良く、例えば(W,Ti)C,(W,Ti)CN,(W,Ti,Nb)C等が挙げられる。結合相成分としてCrをさらに含んでも良い。
【0044】
第一及び第二の硬質合金材は、第一及び第二の硬質合金焼結体がサーメットである場合、周期律表第4~6族の金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種を含む硬質相成分と、Co,Ni,Fe及びCrの少なくとも一種を含む結合相成分とを含むのが好ましい。また硬質相成分は複数の金属の固溶体で構成されていても良く、例えば(Ti,Ta)C,(Ti,Ta)CN,(Ti,Nb)CN,(Nb,Ta)N等が挙げられる。第一及び第二の硬質合金材の組成は同一でも良いし、異なっていても良い。
【0045】
第一の硬質合金材は結合相成分を5~16質量%含むのが好ましい。第一の硬質合金材の結合相成分量が5質量%より少ないと、得られる硬質合金焼結体の耐摩耗性に優れるが強度が低下し、16質量%より多いと接合焼結や熱処理の際に緻密化しやすくなる。第一の硬質合金材は結合相成分を5~10質量%含むのがより好ましい。
【0046】
第二の硬質合金材は結合相成分を5.2~27質量%含むのが好ましい。第二の硬質合金材の結合相成分量が5.2質量%より少ないと、得られる硬質合金焼結体の十分な強度を有することができず、27質量%より多いと焼結や熱処理の際に変形しやすくなる。第二の硬質合金材は結合相成分を5.2~16質量%含むのがより好ましい。
【0047】
緻密の硬質合金材は粉末冶金法により作製することができる。まず硬質相となる炭化物、窒化物などの化合物粉末と結合相となる金属粉末とを湿式混合又は乾式混合して、混合粉末を得る。必要に応じてパラフィンなどの結合剤を含ませても良い。この混合粉末をそのまま用いてもよいし、スプレードライヤー等の造粒方法で造粒粉末としても良い。混合粉末又は造粒粉末を所定の形状の型に充填した後、加圧成形して未焼結成形体を作製する。この未焼結成形体を真空焼結やホットプレス、通電焼結等により一次焼結を行うことにより一次焼結体を作製する。なお、一次焼結は後述する接合焼結と同じ温度で行っても良いし、接合焼結の焼結温度より低い温度で行っても良く、例えば、1300℃程度の温度で加熱する仮焼結や、1200℃程度の温度で加熱する半焼結でも良い。
【0048】
多孔質の硬質合金材の作製方法の一例を以下に示す。まず多孔質の硬質合金材を一次焼結体とする場合について説明する。緻密の硬質合金材の場合と同様の方法で、化合物と金属の混合粉末を作製する。この混合粉末をスプレードライヤー法や転造法などにより造粒して球状造粒粉末を得る。この球状造粒粉末を所定の形状の型に充填する。充填に際し、型に振動を加えながら注入することが好ましいが、注入後に振動を加えても良い。必要に応じてパラフィンなどの結合剤を含ませても良い。球状造粒粉末を一次焼結より低い温度で加熱してある程度の強度を付与してから型に充填しても良い。得られた未焼結成形体を真空焼結やホットプレス、通電焼結等により一次焼結を行うことにより一次焼結体を作製する。
【0049】
このように球状造粒粉末を所定の形状の型に充填することにより、焼結後に球状粒子の間隙が網目状に連通した気孔となるため、必要最小限の空隙率で十分な通気量を得ることができる。球状造粒粉末を分級することで内部に連続する気孔が形成されやすくなる。球状造粒粉末の平均粒度は50~200μm程度であるのが好ましい。球状造粒粉末の平均粒度がこの範囲にあれば、十分な強度を保持しつつ所望の通気量を得ることができる。球状造粒粉末の平均粒度は100~150μmであるのがより好ましい。球状造粒粉末の粒度はバラつきが少ない(粒度分布は狭い)ほうが望ましい。一方、粒度の分布幅を調整することで気孔率を調整することもできる。
【0050】
多孔質の硬質合金材の作製方法はこれに限らず、用いる粉末は球状ではなく粉砕紛のような粉末であっても良く、混合粉末に焼結中に揮散する有機物を焼失材として添加混合して、加圧成形・真空焼結を行う方法や、球状造粒粉末を型に充填して仮焼結したのち解砕して、結合剤等を加えて所定の型に充填して加圧成形して製造する方法等の公知の方法を用いても良い。
【0051】
多孔質の硬質合金材を未焼結成形体とする場合は、混合粉末に焼結中に揮散する有機物を焼失材として添加混合して、加圧成形を行う方法や、球状造粒粉末を型に充填して仮焼結したのち解砕して、結合剤等を加えて所定の型に充填して加圧成形する方法等の公知の方法を用いることができる。
【0052】
第一及び第二の硬質合金材を切断加工や研削加工して所定の形状に加工しても良いし、接合焼結前の時点で所望の形状に成形加工しても良い。第一及び第二の硬質合金材の接合面を必要に応じて研削や研磨等により平滑にしたのち、必要に応じ接合面に荷重を負荷して面を接触させて組み立て、第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度以上の温度で加熱して一定時間保持した後冷却する。加熱雰囲気は真空でも良いし、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気でも良い。
【0053】
接合焼結を行う際、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材の接合面同士を押し付けるように押圧しながら焼結しても良い。それにより、第一及び第二の硬質合金材をより強固に接合させることができる。押圧手段は、例えば第一の硬質合金材に第二の硬質合金材を重ねて、上から重石を載せても良い。
【0054】
第一及び第二の硬質合金材の接合させる面は、平面や曲面、またはそれらを組み合わせた面でも良く、接合させる際に隙間なく合わせることができる面であれば良い。なお、必要に応じて接合面付近に空間を配置できるように接合面に凹形状の加工を施した上で接合することも可能である。例えばこの空間を硬質合金複合部材の外面と他の外面とを連通させて液体や気体を流通させることで冷却効率を高めたり、特定の流体を特定の場所に供給したりすることができる。
【0055】
焼結温度が第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度より低い場合には十分に接合しない。第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度がそれぞれ異なる場合は、最も高い液相出現温度を第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度とする。なお、多孔質の第一の硬質合金材の液相出現温度が第二の硬質合金材の液相出現温度より高い場合、第一の硬質合金材では液相は出現していなくても第二の硬質合金材で液相が出現していれば、第二の硬質合金材の結合相成分が第一の硬質合金材の気孔内に移動し、第二の硬質合金材の界面部に結合相富化領域が形成されて十分な強度及び靭性が得られるので、第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度は第二の硬質合金材の液相出現温度としても良い。
【0056】
なお、WC-Co系合金では合金に含まれる炭素量に応じて液相が発生する温度は変化し、低炭素のWC-Co-η三相合金の液相出現温度は1357℃であり、高炭素のWC-Co-C三相合金の液相出現温度(1298℃)と比較して60℃程度高い温度でWC-Co共晶反応による液相が発生する(鈴木壽編著、超硬合金と焼結硬質材料基礎と応用、丸善株式会社、p.96参照)。結合相がNiであったり、他炭化物が添加されたりすると、この温度は変化する。
【0057】
接合焼結を行う際、十分に部材を接合するためには液相出現温度よりさらに高い焼結温度で保持するのが望ましい。このときに多孔質硬質合金や緻密硬質合金にごくわずかな収縮や膨張があるとき、その差が2%よりも大きいとき接合が十分でなかったり、変形したりして硬質合金複合部材として不具合が生じるため、焼結温度で保持されている間における寸法変化率の差が2%以内であるのが好ましい。すなわち、常温から焼結温度まで昇温している間に第一及び第二の硬質合金材の収縮がほぼ完了しているのが好ましく、それにより焼結温度に保持している間の第一及び第二の硬質合金材の収縮や膨張の程度の差がほとんど無くなるため、焼結接合の際の変形や界面部の不具合が生じるのを防止することができる。焼結温度で保持されている間における寸法変化率の差が1%以内であるのがより好ましく、0.5%以内であるのがさらに好ましい。焼結温度で保持されている間における寸法変化率は、硬質合金材を焼結温度で1分だけ保持した後冷却したときの寸法(被熱処理体の寸法)に対する、硬質合金材にそれぞれ接合焼結時と同一の雰囲気及び熱履歴で熱処理を施した後の硬質合金焼結体の寸法(焼結体の寸法)の変化率[(焼結体の寸法-被熱処理体の寸法)/被熱処理体の寸法]とする。寸法変化率の差は、接合する第一の硬質合金材の寸法変化率と、第二の硬質合金材の寸法変化率の差である。なお、常温から焼結温度まで昇温している間に第一及び第二の硬質合金材の収縮がほぼ完了しているのが好ましく、それにより焼結温度に保持している間の第一及び第二の硬質合金材の収縮や膨張の程度の差がほとんど無くなるため、焼結接合の際の変形や界面部の不具合が生じるのを防止することができる。
【0058】
焼結温度は第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度より10℃以上高いのが好ましい。液相出現温度より10℃以上高い温度であれば硬質合金はほぼ収縮が完了しており、十分な部材強度と接合力が得られるとともに、変形や接合不良を防止できる。焼結温度は第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度より20℃以上,30℃以上又は40℃以上でも良い。焼結温度は第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度に応じて適宜設定可能であるが、中炭素域の一般的なWC-Co超硬合金の場合の焼結温度は1330℃以上であるのが好ましく、1340℃以上,1350℃以上又は1360℃以上でも良い。
【0059】
焼結温度は第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度より160℃高い温度以下であるのが好ましい。接合焼結温度が液相出現温度より160℃高い温度を超える場合、緻密の硬質合金材では、原料粉末に起因した硬質合金内部に存在する微小な酸化物が還元されてCO等になり、内部に気孔が生じて膨張する恐れがある。また多孔質の硬質合金では、加熱温度が高いほど、少しずつ気孔率が減少して緻密化し、変形等の不具合が生じる。焼結温度は第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度より120℃高い温度以下であるのがより好ましい。中炭素域の一般的なWC-Co超硬合金の場合の焼結温度は1480℃以下であるのが好ましく、1440℃以下であるのがより好ましい。
【0060】
接合焼結時の保持時間は、平滑な面が隙間なく設置されていれば5分程度で良いが、第一の硬質合金材中に結合相富化領域を形成するためには15分以上であるのが好ましく、30分以上保持するのがより好ましい。硬質合金複合部材が大型の場合、必要な温度に達するのに時間を要するため保持時間も長くとる必要があるが、保持時間が長すぎると多孔質材が徐々に緻密化して気孔率が減少する傾向にあり、それに伴い多孔質材の寸法も縮小するため、2時間より長く保持することは好ましくない。
【0061】
第一及び第二の硬質合金材は、いずれも未焼結成形体でも良いし、いずれも一次焼結体でも良い。また一方が未焼結成形体であって、他方が一次焼結体であっても良い。例えば、円筒状の未焼結成形体の中に、それより接合焼結時の収縮率が小さい円柱形状の未焼結成形体を設置して接合焼結しても良い。また円筒状の未焼結成形体の中に、円柱形状の一次焼結体を設置して接合焼結しても良い。このとき円筒状の未焼結成形体が接合焼結時に収縮することを利用して円筒内に設置した硬質合金材と緊密に接合させることができる。その円筒状の未焼結成形体の寸法は接合焼結時の収縮を考慮した寸法とする。円筒状の未焼結成形体の中に、円柱形状の未焼結成形体を設置して接合焼結しても良い。このように本発明の第一及び第二の硬質合金材は超硬合金又はサーメットの成分を有するため、未焼結成形体又は一次焼結体の硬質合金材、特に一次焼結体の硬質合金材であっても接合焼結により強固な接合が得られるため、多様な形状設計にも変形や接合不良等することなく対応できる。
【0062】
第二の硬質合金材の結合相成分量Bの第一の硬質合金材の結合相成分量Aに対する比B/Aが1.02より大きく、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とが接合する界面部において、接合時に第二の硬質合金材の界面部から第一の硬質合金材の界面部に結合相成分が移動するのが好ましい。結合相成分量は、硬質合金材の原料中に含まれる結合相成分の割合(質量%)である。それにより前述の第一の硬質合金焼結体の界面部に、結合相量A”より大きい結合相量Cを有する結合相富化領域を形成することができる。比B/Aは、前述の比B’/A’と同様に1.10より大きいのがより好ましく、1.20以上であるのがさらに好ましく、5.4以下であるのが好ましい。
【0063】
この結合相成分が移動のための駆動力は二つある。第一には、接合焼結時の二種類の硬質合金材の液相化した結合相成分の量を等しくしようとする駆動力である。硬質合金材の硬質相/結合相の界面は硬質相/硬質相の界面よりも界面エネルギーが低く安定である。そのため、結合相量が小さい硬質合金材では全界面に対する硬質相/硬質相の界面の比率が高いため、界面エネルギーが大きく不安定になる。従って、結合相量が大きい硬質合金材との界面部において、結合相量が小さい硬質合金材を安定化させるために、結合相量が大きい硬質合金材から液相化した結合相成分が移動する。同様のことは、硬質粒子径が異なる硬質合金間でも発生し、例えば結合相量が等しい粗粒硬質合金と微粒硬質合金を接合させた場合には粗粒合金から微粒合金に結合相成分は移動する。そのため、第二の硬質合金材の結合相成分量と第一の硬質合金材の結合相成分量が同じであるが、第二の硬質合金材の結合相成分の平均粒度が第一の硬質合金材の結合相成分の平均粒度より大きくしても良い。
【0064】
第二には、液相焼結の駆動力でもある液相化した結合相成分の硬質相に対する濡れ性に起因して、多孔質の硬質合金材へ液相化した結合相成分が移動しようとする駆動力である。液相焼結の初期段階では、混合粉末成形体の結合相粒子と硬質合金粒子との共晶反応によって結合相成分が液相化する。液相化した結合相成分は硬質合金粒子に対して濡れ性がよいため、硬質合金粒子の表面を覆うようにすばやく浸透する。同様のことが緻密の硬質合金材と多孔質の硬質合金材の界面部でも起きる。つまり緻密の硬質合金材の液相化した結合相成分が焼結進行中の多孔質の硬質合金材の硬質合金粒子の表面に広がり移動する。このとき移動した液相化した結合相成分は、その表面張力により緻密の硬質合金材と多孔質の硬質合金材の界面や、多孔質の硬質合金材の硬質合金粒子同士の接合ネック部や隙間など強度が低い部位を満たすように浸透する。この移動は、第一の駆動力と異なり、多孔質の硬質合金材に液相が発生している必要はなく緻密の硬質合金材に液相が発生していれば良い。
【0065】
第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とが接合する界面部において、強度が必要な部分では、第二の硬質合金材の結合相成分量Bの第一の硬質合金材の結合相成分量Aに対する比B/Aが1.02より大きく、第一の硬質合金材と第二の硬質合金材とが接合する界面部において、接合時に第二の硬質合金材の界面部から第一の硬質合金材の界面部に結合相成分が移動し、強度が必要でない部分では、第二の硬質合金材の結合相成分量bの第一の硬質合金材の結合相成分量aに対する比b/aが1以下であっても良い。
【0066】
一般に、硬質合金材の成形体を加熱により焼結体にする際、緻密硬質合金である場合は約20%程度収縮し、多孔質硬質合金である場合は約15%程度収縮する。そのため、第一及び第二の硬質合金材が未焼結成形体である場合、加熱による収縮率差が特に大きいため、焼結温度に到達した時点で第一及び第二の硬質合金材の収縮がほぼ完了しているのが望ましい。
【0067】
第一の硬質合金材と第二の硬質合金材のいずれか一方の硬質合金材が他方の硬質合金材の内側になるように接合する場合、一方の硬質合金材が他方の硬質合金材と比べて常温から焼結温度までの間における収縮率が小さいのが好ましい。それにより、外側の他方の硬質合金材が内側の一方の硬質合金材よりも接合焼結時に収縮することにより、互いの硬質合金材を緊密に接合させることができ、いわゆる「焼嵌め」のように接合することができる。
【0068】
常温から焼結温度に到達するまでの第一及び第二の硬質合金材の収縮率差は3~30%であるのが好ましく、5~15%以下であるのが好ましい。第一及び第二の硬質合金材の収縮率は、第一及び第二の硬質合金材の焼結前の寸法と、第一及び第二の硬質合金材を焼結温度で1分だけ保持した後冷却したときの寸法との比で求める。第一及び第二の硬質合金材の大きさは、収縮後の外側の他方の硬質合金材の内径が、内側の一方の硬質合金材の外径と同じか僅かに小さくなるように設定するのが好ましい。また接合させる部材が角型であれば、外側の硬質合金材の内寸が内側の硬質合金材の外寸よりも同じかわずかに小さくなるように設定するのが好ましい。なお、硬質合金複合部材の大きさは特に限定されず、接合焼結に用いる加熱装置の加熱空間の大きさが許す限りの大きさを有することができる。
【0069】
本発明の第一の実施態様による硬質合金複合部材の製造方法を、
図1(a) 及び4(b) を用いて以下詳細に説明する。
図1(a) に示す硬質合金複合部材10は、多孔質の第一の硬質合金焼結体11と、緻密の第二の硬質合金焼結体12とからなる。第一の硬質合金焼結体11は正方形の板状であり、緻密の第二の硬質合金焼結体12は、第一の硬質合金焼結体11の側面を取り囲むような枠状である。第二の硬質合金焼結体12は、第一の硬質合金焼結体11の側辺の長さと同じ長さを有する一対の対向する第一の短冊状部13,13と、第一の硬質合金焼結体11の側辺の長さと第一の短冊状部13,13の幅の長さの合計と同じ長さを有する一対の対向する第二の短冊状部14,14とを組み合わせてなる。
【0070】
第一の硬質合金材11aの対向する一対の側面を、第二の硬質合金材からなる第一の短冊状部品13a,13aにより挟むようにして縦置きに設置して接合焼結を行う。第一の短冊状部品13a,13aを接合焼結する際、(ア)の方向から第一の短冊状部品13a,13aを第一の硬質合金材11aに押圧した状態で焼結を行っても良い。第一の硬質合金材11aの他方の一対の側面を、第二の硬質合金材からなる第二の短冊状部品14a,14aにより挟むようにして縦置きに設置して接合焼結を行う。第一の短冊状部品13a,13aと同様に、(イ)の方向から第二の短冊状部品14a,14aを第一の硬質合金材11aに押圧した状態で焼結を行っても良い。
【0071】
これらの工程により、多孔質の第一の硬質合金焼結体11と、緻密の第二の硬質合金焼結体12を有する硬質合金複合部材を製造する。第一の硬質合金材11aは接合焼結により第一の硬質合金焼結体11となる。第一の短冊状部品13a,13aは接合焼結後の第二の硬質合金焼結体12の第一の短冊状部13,13に相当し、第二の短冊状部品14a,14aは接合焼結後の第二の硬質合金焼結体12の第二の短冊状部14,14に相当し、第一の短冊状部品13a,13a及び第二の短冊状部品13a,13aからなる第二の硬質合金材12aは接合焼結により第二の硬質合金焼結体12となる。
【0072】
第一の硬質合金材11a及び第一の短冊状部品13a,13aは、混合粉末を金型成形等により所定の形状に成形した未焼結成形体か、それを一次焼結した一次焼結体とし、両者の収縮率差はほとんど無いのが望ましい。また第二の短冊状部品14a,14aは焼結後の第一の硬質合金材11a及び第一の短冊状部品13a,13aと接合することになるので、一次焼結体であるのが好ましい。また第一の硬質合金材11aの対向する一対の側面を第二の硬質合金材からなる第一の短冊状部品13a,13aにより挟み、さらに第一の硬質合金材11aの他方の一対の側面を、第二の硬質合金材からなる第二の短冊状部品14a,14aにより挟んだ後、(ア)及び(イ)の方向から第一の短冊状部品13a,13a及び第二の短冊状部品14a,14aを第一の硬質合金材11aに押圧した状態で一度に焼結を行っても良い。これらの方法のように未焼結成形体又は一次焼結体を組み合わせた後に接合焼結を行うことにより、多様な形状設計にも変形や接合不良等することなく対応できる。
【0073】
第一及び第二の硬質合金材11a,12aが接合する界面部に強度が要求される場合には、第二の硬質合金材12aの結合相成分量が第一の硬質合金材11aの結合相成分量より大きいのが好ましい。これにより、
図1(c) に示すように、接合焼結時に第二の硬質合金材12aの界面部から第一の硬質合金材の界面部11aに結合相が拡散し、接合界面部の第一の硬質合金材11a側に結合相富化組織を多数有する結合相富化領域15が形成され、界面部の弾性率等の急激な変化による応力集中を緩和して強度低下を抑制することができる。これにより多孔質の硬質合金を含む硬質合金複合材料の設計の自由度をさらに高めることができる。また第二の硬質合金材12aの第一の短冊状部品13a,13aと第二の短冊状部品14a,14aとの間で接合界面部における結合相成分量に差を設けても良い。
【0074】
一方、接合界面部において第一の硬質合金材11a側に結合相が拡散されることにより、吸引力が低下するなどの不具合が生じる場合がある。そのため、第一及び第二の硬質合金材11a,12aが接合する界面部において、強度が必要な部分のみにおいて、第二の硬質合金材12aの結合相成分量を第一の硬質合金材11aの結合相成分量より大きくしても良い。第一及び第二の硬質合金材11a,12aが接合する界面部では、強度が必要でない部分では、第二の硬質合金材12aの結合相成分量が第一の硬質合金材11aの結合相成分量と同じであるか、第二の硬質合金材12aの結合相成分量を第一の硬質合金材11aの結合相成分量より小さくしても良い。これにより、強度面でも強化が必ずしも必須でない場合には、第一の硬質合金材11aの結合相成分量と同等又は低い結合相成分量の第二の硬質合金材12aを用いることにより、十分な気孔率を確保することができる。
【0075】
本発明の第二の実施態様による硬質合金複合部材の製造方法を、
図2(a) 及び5(b) を用いて以下詳細に説明する。
図2(a) に示す硬質合金複合部材20は、多孔質の第一の硬質合金焼結体21と、緻密の第二の硬質合金焼結体22とからなる。第一の硬質合金焼結体21は円柱状であり、緻密の第二の硬質合金焼結体22は、第一の硬質合金焼結体21の側面を取り囲むような円筒状である。
【0076】
図2(b) に示すように、第一の硬質合金材21aを第二の硬質合金材22aの内側に嵌合し、接合焼結を行う。第一の硬質合金材21aは接合焼結により第一の硬質合金焼結体21となり、第二の硬質合金材22aは接合焼結により第二の硬質合金焼結体22となる。第一及び第二の硬質合金材21a,22aは第一の実施態様と同様に未焼結成形体又は一次焼結体であり、液相出現温度や焼結温度は第一の実施態様と同様のものでも良い。
【0077】
常温から接合焼結温度まで昇温する間における収縮率は、内側の第一の硬質合金材21aのほうが第二の硬質合金材22aよりも小さいのが好ましい。それにより、いわゆる「焼嵌め」のように接合することができる。常温から焼結温度に到達するまでの第一及び第二の硬質合金材21a,22aの収縮率差は3~30%であるのが好ましく、5~25%であるのが好ましい。第一及び第二の硬質合金材21a,22aの大きさは、収縮後の第二の硬質合金材22aの内径が、第一の硬質合金材21aの外径と同じか僅かに小さくなるように設定するのが好ましい。
【0078】
例えば、第一及び第二の硬質合金材21a,22aが両方とも未焼結成形体である場合、接合焼結により第二の硬質合金材が緻密硬質合金である場合は約20%程度収縮し、多孔質の第一の硬質合金材は約15%程度収縮するため、第一及び第二の硬質合金材21a,22aの収縮率差は約5%程度となる。また第一の硬質合金材21aが一次焼結体であり、第二の硬質合金材22aが未焼結成形体である場合、第一の硬質合金材21aは接合焼結により約1%以下収縮するので、収縮率差は約19%程度となる。第一及び第二の硬質合金材21a,22aを両方とも一次焼結体とする場合、第二の硬質合金材22aの一次焼結温度を第一の硬質合金材21aよりも下げる(例えば第一の硬質合金材21aを接合焼結と同じ温度で一次焼結し、第二の硬質合金材22aを半焼結温度で一次焼結する)等の手段により、第一及び第二の硬質合金材21a,22aの収縮率差は3%以上にするのが望ましい。
【0079】
第一及び第二の実施態様では、内側の第一の硬質合金焼結体を多孔質とし、外側の第二の硬質合金焼結体を緻密としているが、本発明はこれに限らず、第一及び第二の硬質合金焼結体を両方多孔質にしても良い。その場合、第一の硬質合金焼結体の気孔率が第二の硬質合金焼結体の気孔率より大きいのが好ましい。また外側を第一の硬質合金焼結体とし、内側を第二の硬質合金焼結体としても良い。
【0080】
第一及び第二の実施態様では、多孔質の硬質合金焼結体と緻密な硬質合金焼結体の2つの異なる硬質合金焼結体を接合して硬質合金複合部材を形成しているが、本発明はこれに限らず、3種以上の異なる硬質合金焼結体を接合しても良い。例えば、2つの異なる気孔率を有する多孔質の硬質合金焼結体と、緻密な硬質合金焼結体とを接合して硬質合金複合部材を製造しても良い。また同じ組成及び気孔率を有する複数の多孔質材を接合して第一の硬質合金焼結体としても良い。
【0081】
本発明の硬質合金複合部材は、半導体製造工程装置におけるウエハの固定や移動のための真空吸着装置、紙コップ製造装置の潤滑油供給口、セラミックス粉末成形シートの吸着搬送など、対象物との接触面を有しかつ対象物を吸着又は供給する用途や、間隙に油浸して含油軸受などの摺動部材等の種々の用途に用いることができる。本発明の硬質合金複合部材を真空吸着装置に用いる場合、第一の硬質合金材11aを吸着部とし、第二の硬質合金材12aを支持部とし、第一の硬質合金材11aの被吸着物を吸着する面の反対側に吸気孔(図示せず)を設けることにより、吸気孔を介して真空ポンプにより吸引することで、第一の硬質合金材11aの開気孔を介して被吸着物が吸着される。
【実施例0082】
以下、本発明の硬質合金複合部材及びその製造方法について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0083】
(実施例1)
多孔質の第一の硬質合金材と緻密の第二の硬質合金材とを接合して硬質合金複合部材を作製した。第一及び第二の硬質合金材の原料粉末として、WC(1.3μm及び5.9μm)、Co(1.5μm)、Ni(2.8μm)、Fe(4.0μm)、Cr3C2(1.4μm)、TiC0.5N0.5(1.3μm)、Mo2C(3μm)、(Ta0.9,Nb0.1)C(1.8μm)、NbC(1.7μm)を用いた(括弧内は平均粒度を示す)。平均粒度が1.3μmのWCを多孔質合金A~Fと緻密合金1~9及び12に使用し、平均粒度が5.9μmのWCを緻密合金10及び11に使用した。これらの粉末を用い、表1に示す組成に粉末を配合して湿式混合、乾燥し混合粉末を得た。この混合粉末を加圧成形した後、1400~1500℃の真空焼結を行って緻密の第二の硬質合金材を作製した。また混合粉末をスプレードライヤーで造粒した粉末を1150~1250℃での一次焼結し、解砕処理した後、分級して粒度を調整し、得られた平均粒度100μmの球状造粒粉末を成形し、1350~1450℃で真空焼結して多孔質の第一の硬質合金材を作製した。
【0084】
この第一及び第二の硬質合金材を9×13.5×28(mm)の板状素材に切り出し、9×28(mm)の1面を研削して接合面とし、第一の硬質合金材を第二の硬質合金材の上側に配置して接合面を重ね合わせ、その上に重石を載せて、1340~1420℃で真空熱処理を1時間行い、発明品1~20の硬質合金複合部材を作製した。この硬質合金複合部材を接合界面に対して垂直に切断し、切断面を鏡面となるまで研磨して観察面とした。
【0085】
得られた試料を用いて以下について調べた。第一の硬質合金焼結体の界面部における結合相富化領域の有無は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製S-4800)での組織観察、エネルギー分散型X線分光器(EDS、NORAN社製UTW型Si(Li)半導体検出器、ビーム径:約1 nm)での成分分析により調べた。具体的には、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との接合界面に対して垂直な断面において組織観察を行い、組織中の硬質合金粒子を円で近似したときの直径の平均値をDμmとした。その上で、上記断面の接合界面から(D×5)μmの距離までの範囲の組織観察を行い、結合相富化領域の有無を調べた。また、接合界面から同じく(D×5)μmまでの距離の範囲の多孔質合金を構成する硬質合金粒子の結合相量CをEDSにより調べ、第一の硬質合金焼結体中央部付近の硬質合金粒子内の結合相量A”に対する結合相量Cの比C/A”を算出した。なお、結合相量Cは結合相富化領域における任意の10個の硬質合金粒子内の結合相量の平均値である。
【0086】
接合界面から(D×5)μmだけ離れた範囲までの第一の硬質合金焼結体の気孔率E、接合界面から十分に離れた中央部付近の気孔率Fを、それぞれのSEM組織写真を画像処理(アドビ株式会社製Photoshop Elements12)して算出し、その比E/Fを求めた。
【0087】
硬質合金複合部材から接合界面が中央に位置するように4×8×24(mm)の形状に試片を切り出し、3点曲げ抗折力試験片とした。このとき接合界面が荷重負荷方向と平行であり、かつ接合界面が負荷位置、つまりスパンの中央の位置となるようにした。この試験片を用いてスパン距離20 mmとして硬質合金複合部材の界面部の強度を調べた。得られた結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
【表2-1】
注※1 第一の硬質合金材の試料No.と第二の硬質合金材の試料No.の組み合わせ
※2 結合相富化領域の有無。〇:あり、△:わずかにあり、×:無
【0090】
【表2-2】
注※3 評価。◎:非常に良好、〇:良好、△:やや良好、▲:普通
【0091】
発明品1及び2は第一の硬質合金材よりも結合相成分量が少ない第一及び第二の硬質合金材として選定しており、発明品8及び16は結合相成分量が等しい硬質合金を第一及び第二の硬質合金材に選定しているため、接合はしているものの多孔質材組織中には結合相富化領域は形成されていなかった。発明品6及び15は緻密材として結合相が30質量%の超硬合金を選定していて、多孔質材への結合相移動量が多く気孔率が他の発明品と比べてやや低かった。同じく結合相30質量%の超硬合金を選定している発明品19は第一及び第二の硬質合金材いずれも結合相が多いため、部材の変形も目立った。発明品20は、第一及び第二の硬質合金材としてサーメットを選定しており、抗折力は超硬合金と比べて低いが、界面部の強度も十分に高かった。発明品3~5,7,9~14,17及び18はA/Bはいずれも1.02以上であり、第一の硬質合金材の界面部に結合相富化領域を有していて、界面部の強度も十分に高かった。
【0092】
発明品9の試料の界面部における結合相富化領域を組織観察したSEM写真を
図3~5に示す。
図3は第一及び第二の硬質合金焼結体の界面部を示す。
図3に示すように、第一の硬質合金焼結体1と第二の硬質合金焼結体2との界面に結合相富化組織3が形成されている。
図4及び5は第一の硬質合金焼結体1の界面部を示す。
図4に示すように、硬質合金粒子表面や硬質合金粒子同士の接触部に結合相富化組織4が形成されており、
図5に示すように、硬質合金粒子間の隙間を結合相の金属成分で充填した結合相富化組織5が形成されている。
図3~5に示すように、第一及び第二の硬質合金焼結体の接合界面や第一の硬質合金焼結体の界面部に富化された結合相が存在しており、結合相富化組織が形成されていることが確認された。
図3~5の倍率では硬質合金粒子の隙間に存在する通常の結合相はほとんど見えず、この倍率で明らかに見える大きさの結合相リッチである部分が結合相富化組織である。このように第一の硬質合金焼結体の界面部に結合相リッチな結合相富化領域を形成することにより、第一の硬質合金焼結体と第二の硬質合金焼結体との結合強度を高めるとともに、第一の硬質合金焼結体の界面部の靭性を高めるができる。またこれらの結合相富化組織により、界面部の弾性率等の急激な変化による応力集中を緩和して強度低下を抑制することができる。
【0093】
(実施例2)
第一及び第二の硬質合金材がいずれも未焼結成形体の場合、またはいずれかが未焼結成形体の場合の実施例を示す。実施例1と同様の方法で得た多孔質合金B及びDの粉末と、緻密合金1、3及び10の粉末との混合粉末を加圧成形して未焼結成形体を得た。その成形体を焼結して焼結体を得た。試験片寸法は、9×13.5×28(mm)の板状とし、各試料の接合面は研削等で平面とした。
【0094】
表3に示すように第一及び第二の硬質合金材のいずれかが未焼結成形体、また、双方が未焼結成形体となるような組み合わせで第二の硬質合金材を第一の硬質合金材の上側に設置して接合面を重ね合わせ、その上に重石を載せて、実施例1と同様の条件で真空熱処理を行い、発明品21~29の硬質合金複合部材を作製した。この硬質合金複合部材から実施例1と同様の方法で界面部の強度測定用の3点曲げ抗折力試験片と組織観察用の試料を得た。
【0095】
第一及び第二の硬質合金材の一方が未焼結成形体である組合せの発明品では、接合焼結の際に未焼結成形体が収縮するため試料自体は変形しやすい傾向があったが、重石により接合面に対して垂直方向に荷重を負荷しているため、著しい変形は生じず、界面部にも欠陥は認められなかった。表3には実施例1と同様に結合相富化領域の有無の確認、C/A”及びE/F、界面部の強度に示した。
【0096】
発明品2と同じ緻密材及び多孔質材を用いた発明品21~23は発明品2と同様に多孔質材よりも結合相成分量が少ない硬質合金を緻密材として選定しているため、接合はしているものの多孔質材組織中には結合相富化領域は形成されていなかった。発明品3と同じ緻密材と多孔質材を用いた発明品24~26は発明品3と同様にB/Aは1.02より大きく、第一の硬質合金材の界面部には結合相富化領域を有していて、界面部の強度も十分に高く、実用することができた。また、発明品21~26よりも結合相の多い硬質合金材の組合せである発明品27~29もB/Aは1.02より大きく、結合相富化領域も形成され強度も高く実用することができた。
【0097】
【表3-1】
注※1 第一の硬質合金材の試料No.と第二の硬質合金材の試料No.の組み合わせ
※2 第一及び第二の硬質合金材が成形体又は焼結体であるかを示す。
※3 結合相富化領域の有無。〇:あり、△:わずかにあり、×:無
【0098】
【表3-2】
注※4 評価。〇:良好、△:やや良好
【0099】
(実施例3)
多孔質材と緻密材に液相出現温度が異なる硬質合金を選択し処理温度を変化させて接合を行い、その界面部の強度に対する処理温度の影響を調べた。用いた硬質合金の組成を表4に示す。WCは粒径1.3μmの粉末、その他の粉末は実施例1に示した粉末を用いた。これらの合金を同じく実施例1に示した手順で作製して、形状が9×13.5×28(mm)である接合用焼結体試片を作製した。
【0100】
前述のようにWC-Co系合金の液相出現温度は約1298~1357℃とされ、WC-Cr3C2-Co系合金(多孔質合金H、緻密合金13)の液相出現温度は約40℃低い1258~1317℃とされる(棚瀬照義、超微粒超硬合金における諸現象、粉体および粉末冶金53巻5号(2006)409)。WC-Ni系合金(多孔質合金G、緻密合金14)の液相出現温度は70℃高い1368~1427℃とされる(鈴木寿他、WC-10%Ni超硬合金の性質と結合相組成との関係、粉体および粉末冶金,第13巻6号(1966),290)。このため、多孔質合金Gと緻密合金13、多孔質合金Hと緻密合金14を組合せ、多孔質合金と緻密合金双方の液相が出る温度、また、多孔質合金と緻密合金のいずれかのみの液相がでる温度で接合処理を行った。
【0101】
結果を表5に示す。多孔質材と緻密材いずれも液相が出現していない比較品1の接合界面は十分に接合していないため界面部の強度は測定しなかった。緻密材のみに液相が出現している発明品30は結合相富化領域も界面に認められ、界面部の強度も使用に耐える強度となった。緻密材には液相は出現しておらず多孔質材のみに液相が出現する発明品32は接合しているものの明瞭な結合相富化組織は観察できなかった。多孔質材と緻密材双方の液相が出現している発明品31、33は結合相富化領域も多数観察され界面部の強度も良好で実用可能な結果となった。
【0102】
【0103】
【表5-1】
注※1 第一の硬質合金材の試料No.と第二の硬質合金材の試料No.の組み合わせ
※2 結合相富化領域の有無。〇:あり、×:無
【0104】
【表5-2】
注※3 評価。◎:非常に良好、〇:良好、△:やや良好
【0105】
(実施例4)
図1に示す板状の硬質合金複合部材10を作製した。200×200×20(mm)の板状の多孔質の第一の硬質合金材11aとして表1-Cの硬質合金材を使用し、緻密な第二の硬質合金材12aの200×10×20(mm)の第一の短冊状部品13a,13a及び10×220×20(mm)の第一の短冊状部品13a,13aとして表1-5の硬質合金材を使用し、それぞれ実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。
図1(b) に示すように、第一の硬質合金材11aの一対の側面を、緻密の第二の硬質合金材からなる第一の短冊状部品13a,13aにより挟むようにして縦置きに設置し、(ア)の方向から挟むようにして重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。第一の硬質合金材11aの第一の短冊状部品13a,13aが設けられていない一対の側面を、緻密の第二の硬質合金材からなる第二の短冊状部品14a,14aにより挟むようにして縦置きに設置し、(イ)の方向から挟むようにして重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。接合した部材の各面を必要に応じて研削加工等行い、
図1(a) に示す硬質合金複合部材10(220×220×20(mm))を得た。
【0106】
(実施例5)
図2に示す円筒状の硬質合金複合部材20を作製した。φ25×30(mm)の円柱状の多孔質の第一の硬質合金材21aとして表4-Gの硬質合金材を使用し、実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。また円筒状の緻密な第二の硬質合金材22aとして表4-13の硬質合金材を使用し、未焼結成形体を接合焼結時の収縮量が20%となるように実施例1と同様の方法で作製し、その寸法は、接合焼結後にφ30×30(内寸φ24.8×30)(mm)となるようにした。
図2(b) に示すように、第二の硬質合金材22aの内側に第一の硬質合金材21aを嵌入し、1370℃で40分間接合焼結した。接合した部材の各面を必要に応じて研削加工等行い、
図2(a) に示す硬質合金複合部材20(φ30×30(mm))を得た。
【0107】
(実施例6)
図6に示す板状の硬質合金複合部材30を作製した。50×50×5(mm)の板状の多孔質の第一の硬質合金材31aとして表1-Cの硬質合金材を使用し、実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。また50×50×5(mm)の板状の多孔質の第二の硬質合金材32aとして同じく表1-Cの硬質合金材を使用し、平均粒度100μmの球状造粒粉末と平均粒度50μmの球状造粒粉末を成形して混合した粉末を使用し、実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。
図6(b) に示すように、第二の硬質合金材32aの上に第一の硬質合金材31aを裁置し、(ア)の方向から重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結し、50×50×10(mm)の板状の多孔質の第一の硬質合金材を作製した。また緻密な第二の硬質合金材33aの50×5×10(mm)の第一の短冊状部品34a,34a及び5×60×10(mm)の第一の短冊状部品35a,35aとして表1-5の硬質合金材を使用し、それぞれ実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。
図6(c) に示すように、第一の硬質合金材の一対の側面を、緻密の第二の硬質合金材からなる第一の短冊状部品34a,34aにより挟むようにして縦置きに設置し、(イ)の方向から挟むようにして重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。第一の硬質合金材の第一の短冊状部品34a,34aが設けられていない一対の側面を、緻密の第二の硬質合金材からなる第二の短冊状部品35a,35aにより挟むようにして縦置きに設置し、(ウ)の方向から挟むようにして重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。接合した部材の各面を必要に応じて研削加工等行い、
図6(a) に示す硬質合金複合部材30(60×60×10(mm))を得た。第一の硬質合金焼結体31の気孔率は35%であり、第二の硬質合金焼結体32の気孔率は27%であった。
【0108】
(実施例7)
図7に示す円筒状の硬質合金複合部材40を作製した。φ15×30(mm)の円柱状の緻密な第二の硬質合金材42aとして表1-5の硬質合金材を使用し、実施例1と同様の方法で作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。また円筒状の多孔質の第一の硬質合金材41aとして表1-Cの硬質合金材を使用し、未焼結成形体を接合焼結時の収縮量が10%となるように作製し、その寸法は、接合焼結後にφ30×30(内寸φ14.8×30)(mm)となるようにした。
図7(b) に示すように、第一の硬質合金材41aの内側に第二の硬質合金材42aを嵌入し、1350℃で50分間接合焼結した。接合した部材の各面を必要に応じて研削加工等行い、
図7(a) に示す硬質合金複合部材40(φ30×30(mm))を得た。
【0109】
(実施例8)
図8に示す板状の硬質合金複合部材50を作製した。硬質合金複合部材50は、
図8(a) 及び8(b) に示すように、100×100.3×10(mm)の板状の多孔質の第一の硬質合金焼結体51と、120×10×20(mm)の一対の緻密の短冊状部53,53と、120×100×8(mm)の底面部55とその両辺に設けられた10×100×12(mm)の短冊状部56,56とが一体的に形成された緻密のコの字型部54とを有する。一対の短冊状部53,53及びコの字型部54により緻密な第二の硬質合金焼結体52が構成される。コの字型部54の底面4か所には第一の硬質合金材51を保持する16×16×2(mm)の突起57、底面中央にはφ15(mm)の貫通孔58が設けられている。
【0110】
硬質合金複合部材50を作製する工程を
図8(b) を用いて以下説明する。なお、
図8(b) には接合焼結前の符号と接合焼結後の符号の両方が記されている。多孔質の第一の硬質合金材51aとして表1-Cの硬質合金材を使用し、緻密な第二の硬質合金材52aの短冊状部品53a,53aとして表1-5の硬質合金材を使用し、実施例1と同様の方法でそれぞれ作製し、得られた一次焼結体に研削加工を施した。またコの字型部品54aの未焼結成形体を接合焼結時の収縮量が20%となるように作製した。
図8(b) に示すように、第一の硬質合金材51aを、コの字型部品54aの底面に設置し、(ウ)の方向から重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。さらに第一の硬質合金材51aのコの字型部品54aが設けられていない一対の側面を、短冊状部品53a,53aにより挟むようにして縦置きに設置し、(エ)の方向から挟むようにして重石を載せて加圧し、1350℃で20分間接合焼結した。接合した部材の各面を必要に応じて研削加工等行い、
図8(a) に示す硬質合金複合部材50(120×120×20(mm))を得た。
【0111】
(寸法変化試験)
実施例4~8に使用した第一の硬質合金材及び第二の硬質合金材の焼結温度に保持されている間における寸法変化率の差を求めた。まず実施例4~8に使用した第一の硬質合金材及び第二の硬質合金材と同一ロットのサンプル(一次焼結体又は未焼結成形体)をそれぞれ用意した。各サンプルに、接合焼結の保持時間を1分とした以外は各実施例と同じ条件で熱処理を施し、被熱処理体を作製した。各被熱処理体の寸法を測定した。また各サンプルに、各実施例の接合焼結と同じ条件で熱処理を施し、焼結体を作製した。各焼結体の寸法を測定した。各サンプルの被熱処理体の接合予定部分の寸法と焼結体の接合部分の寸法の差の、被熱処理体の接合部分の寸法に対する割合を寸法変化率とし、第一の硬質合金材の寸法変化率と第二の硬質合金材の寸法変化率の差を求めた。得られた結果を表6に示す。
【0112】
【0113】
表6に示すように、各実施例に用いた第一の硬質合金材及び第二の硬質合金材の寸法変化率の差は0.3~0.7%の範囲内であり、焼結温度に保持されている間における寸法変化率の差が小さいことが確認された。
【0114】
(通気性試験)
実施例4~6及び8で作製した硬質合金複合部材が実用に耐えうるか通気性を調べた。実施例4の発明品の第一の硬質合金焼結体11の一方の面を4分割した各領域及び中央部の計5か所をそれぞれ直径10 mmの円を残して樹脂で封止し、円状開口部を設けた。実施例5の発明品は、第一の硬質合金焼結体21の一方の面を直径10 mmの円を中央部に残して樹脂で封止し、円状開口部を設けた。実施例6の発明品は、気孔率が大きい第一の硬質合金焼結体31の表面を直径10 mmの円を中央部に残して樹脂で封止し、円状開口部を設けた。各多孔質材の円状開口部を有する表面側に真空ポンプを取り付けて減圧を行い、その際の多孔質材の通気性を調べた。実施例4については5か所の円状開口部のうちのいずれか1つに真空ポンプを取り付けて減圧を行い、5か所の円状開口部についてそれぞれ多孔質材の通気性を調べた。実施例8の発明品は、貫通孔58に真空ポンプを取り付けて減圧を行い、その際の多孔質材の通気性を調べた。
【0115】
実施例4の発明品の通気量は、計5か所の全てにおいて使用上問題ない程度であった。中央部の円状開口部と4分割した各領域の円状開口部とでも大きなバラつきはなく、全体的に優れた通気性を有することが分かった。5の発明品の通気量は、使用上問題ない程度であった。実施例6の発明品は気孔率が実施例4及び5の発明品よりも低い部材で作製しているため、やや低めの通気量であったが実用上問題ない程度であった。このことにより、製品を吸引する際に気孔率が低い特徴を発揮することができることが分かった。実施例8の発明品は、減圧によっても接合面等から空気の流入がなく、また使用上問題ない通気量が得られた。このように、気孔率が大きい第一の硬質合金焼結体31側を減圧すれば、製品を吸着する側である第二の硬質合金焼結体32は気孔率が小さいため硬度が十分であり、かつ被吸着物が傷つきにくく、減圧を行う側である第一の硬質合金焼結体31は気孔率が高いので、十分な通気量を維持できる。
前記第一の硬質合金焼結体は20~40%の気孔率を有し、前記第二の硬質合金焼結体は密度が98%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
前記第一及び第二の硬質合金材が超硬合金からなる場合、前記硬質相成分として周期律表第4~6族元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
前記焼結温度を前記第一及び第二の硬質合金材の液相出現温度のうち最も高い液相出現温度以上の焼結温度とすることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の硬質合金複合部材の製造方法。
請求項1~9のいずれかに記載の方法により製造された硬質合金複合部材を用いて真空吸着装置を製造する方法であって、前記第一の硬質合金材を吸着部とし、前記第二の硬質合金材を支持部とすることを特徴とする真空吸着装置の製造方法。