(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145562
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】建築用窓板ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/085 20060101AFI20220926BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20220926BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031380
(22)【出願日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2021044599
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
(72)【発明者】
【氏名】加藤 嘉成
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
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(57)【要約】
【課題】破損防止効果が高い建築用窓板ガラスを提供する。
【解決手段】本発明の建築用窓板ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40~80%、Al2O3 5~30%、B2O3 0~15%、P2O5 0~15%、Li2O+Na2O+K2O 0~20%、MgO 3~35%、CaO+SrO+BaO 0~25%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO2 40~80%、Al2O3 5~30%、B2O3 0~15%、P2O5 0~15%、Li2O+Na2O+K2O 0~20%、MgO 3~35%、CaO+SrO+BaO 0~25%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上であることを特徴とする建築用窓板ガラス。
【請求項2】
応力波速度と破壊靭性値の積が、3.8×109kg・m0.5/s3以上であることを特徴とする請求項1に記載の建築用窓板ガラス。
【請求項3】
破壊靭性値が0.8MPa・m0.5以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築用窓板ガラス。
【請求項4】
応力波速度が6200m/s以上であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の建築用窓板ガラス。
【請求項5】
ヤング率が85GPa以上であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の建築用窓板ガラス。
【請求項6】
結晶化度が30%以下であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の建築用窓板ガラス。
【請求項7】
板厚が3~10mmであることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の建築用窓板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用窓板ガラス、特に住宅用窓板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
建築用窓板ガラスには、一般的に、ソーダライム板ガラスが使用されている。しかし、ソーダライム板ガラスは、台風等の自然災害時における石片、木片、金属片等の飛来物に対する衝撃抵抗が十分とは言えない。近年、自然災害が増加しており、台風時の飛来物による建築用窓板ガラスの破損件数は増加している。
【0003】
その対策として、飛散防止フィルムを貼り付けた窓板ガラスや網入りガラスが使用されている。また強化板ガラスの使用も検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、飛散防止フィルムや網入りガラスは、飛散防止の効果はあるが、強度は変わらないため、破損防止には結び付かない。
【0005】
強化板ガラスは、高強度であるが、不純物による内部引張応力の発生によって不慮の破損が起こり易い。また全面破損して落下するため、高層住宅には使用し難いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、破損防止効果が高い建築用窓板ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意努力の結果、板ガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の建築用窓板ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40~80%、Al2O3 5~30%、B2O3 0~15%、P2O5 0~15%、Li2O+Na2O+K2O 0~20%、MgO 3~35%、CaO+SrO+BaO 0~25%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上であることを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「CaO+SrO+BaO」は、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)」は、MgOの含有量をMgO、CaO、SrO及びBaOの合量で除した値を指す。
【0008】
本発明者が台風等による飛来物の衝突を解析した結果、窓板ガラスの破損がヘルツ破壊に関係していることに着目した。そして、ヘルツ破壊に対する強度を高めると、飛来物に対する耐衝撃抵抗が向上することを見出した。
【0009】
ヘルツ破壊のメカニズムは、以下の通りであると考えられる。飛来物と窓板ガラスが衝突すると、接触面より応力波が発生する。応力波は弾性波であり、応力波速度は弾性体中を伝番する弾性波の伝搬速度を示している。応力波が伝搬した領域に対して弾性変形による歪みが生じて接触面周辺に引張応力が生じる。そして、その引張応力部にある傷に応力が集中して破壊応力に到達すると、クラックが進展して、窓板ガラスが破損する。ここで、発生する引張応力は応力波速度に比例して小さくなる。クラックの進展は、破壊靭性に比例して起こり難くなる。弾性変形は、ヤング率に比例して小さくなる。
【0010】
そこで、本発明の建築用窓板ガラスは、上記組成を有するため、特にモル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上であるため、ヤング率と破壊靭性を高めることができる。これにより、飛来物の衝突時に弾性変形が起こり難く、引張応力によるクラックの進展も起こり難くすることができる。結果として、飛来物による窓板ガラスのヘルツ破損が起こり難くなる。
【0011】
また、本発明の窓板ガラスは、応力波速度と破壊靭性値の積が、3.8×109kg・m0.5/s3以上であることが好ましい。発生する応力は、フックの法則より歪みとヤング率の積によって決まる。動的な歪みは、応力波が伝搬した領域に対して生じるので、飛来物の衝突等の動的な場合は、応力波の影響を受ける。応力波速度が速いと、歪みが小さくなり、発生する応力が小さくなる。また、破壊靭性は、傷からクラック進展が起こるための応力を決めている。発生する応力が応力波速度の影響を受け、クラック進展が起こる応力が破壊靭性によって決まるため、応力波速度と破壊靭性値の積が上記の値以上であると、ヘルツ破壊が起こり難くなる。結果として、窓板ガラスが破損し難くなる。ここで、「応力波速度」は、試料の片面に超音波パルスを入射し、多重反射した超音波エコーをセンサーで検出してパルスエコー間の時間間隔と試料長から超音波の音速を測定したものである。簡易的にはヤング率を密度で割った値の平方根が材料の応力波速度として用いられることもある。「破壊靱性値」は、JIS R1607「ファインセラミックスの破壊靱性K1C試験方法」に基づき、予き裂導入破壊試験法(SEPB法:Single-Edge-Precracked-Beam method)を用いて測定したものである。SEPB法は、予き裂導入試験片の3点曲げ破壊試験によって試験片が破壊するまでの最大荷重を測定し、最大荷重、予き裂長さ、試験片寸法及び曲げ支点間距離から平面歪み破壊靱性を求める方法である。なお、各ガラスの破壊靱性値は5点の平均値より求めるものとする。
【0012】
また、本発明の窓板ガラスは、破壊靭性値が0.8MPa・m0.5以上であることが好ましい。このようにすれば、傷を起点としたクラックの進展が起こり難いため、ヘルツ破壊が起こり難くなる。結果として、窓板ガラスが破損し難くなる。
【0013】
また、本発明の窓板ガラスは、応力波速度が6200m/s以上であることが好ましい。このようにすれば、応力波の伝播領域が広くなることによって、歪みが小さくなるため、ヘルツ破壊が発生する応力に到達し難くなる。結果として、窓板ガラスが破損し難くなる。
【0014】
また、本発明の窓板ガラスは、ヤング率が85GPa以上であることが好ましい。このようにすれば、弾性変形が起こり難く、歪みが小さくなるため、ヘルツ破壊が発生する応力に到達し難くなる。結果として、窓板ガラスが破損し難くなる。ここで、「ヤング率」は、周知の共振法で測定した値を指す。
【0015】
また、本発明の建築用窓板ガラスは、板厚が3~10mmであることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の建築用窓板ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40~80%、Al2O3 5~30%、B2O3 0~15%、P2O5 0~15%、Li2O+Na2O+K2O 0~20%、MgO 3~35%、CaO+SrO+BaO 0~25%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上である。上記のように各成分の含有範囲を規制した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指すものとする。
【0017】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は、好ましくは45~80%、45~70%、特に45~65%である。SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また耐候性が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなる。
【0018】
Al2O3は、ヤング率や耐候性を高める成分である。Al2O3の含有量は、好ましくは5~30%、9~25%、特に14~24%である。Al2O3の含有量が少な過ぎると、ヤング率や耐候性が低下し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、溶融性、成形性及び耐失透性が低下し易くなる。
【0019】
B2O3は、ガラスのネットワークを形成する成分であるが、ヤング率や耐候性を低下させる成分である。よって、B2O3の含有量は、好ましくは0~20%、特に0~10%である。
【0020】
P2O5は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、また溶融性、成形性を高める成分であり、特に液相温度近辺における粘度を高める成分である。一方、P2O5の含有量が多過ぎると、ヤング率や耐候性が低下し易くなり、また分相が起こり易くなる。よって、P2O5の含有量は、好ましくは0~15%、0~10%、特に0~7%である。
【0021】
Li2O、Na2O及びK2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。一方、Li2O、Na2O及びK2Oの含有量が多過ぎると、耐候性が低下し易くなる。よって、Li2O、Na2O及びK2Oの合量は、好ましくは0~20%、1~10%、特に1~8%である。Li2O及びK2Oのそれぞれの含有量は、好ましくは0~15%、0~8%、特に1~5%である。
【0022】
MgOは、ヤング率と破壊靭性を高める成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。MgOの含有量は、好ましくは3~35%、5~30%、特に10~25%である。MgOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、MgOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。
【0023】
CaO、SrO及びBaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。しかし、CaO、SrO及びBaOの含有量が多過ぎると、耐失透性、ヤング率等が低下し易くなる。よって、CaO、SrO及びBaOの合量は、好ましくは0~25%、0~15%、特に0~10%である。CaO、SrO及びBaOのそれぞれの含有量は、好ましくは0~12%、0~8%、0~5%、特に0~1%である。
【0024】
モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上である。モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が小さ過ぎると、ヤング率、破壊靭性、応力波速度が低下して、飛来物の衝突による窓板ガラスのヘルツ破損が起こり易くなる。
【0025】
(Al2O3+MgO)-(CaO+SrO+BaO)は、好ましくは15%以上、20%以上、24%以上、28%以上、32%以上、26%以上、特に40~55%である。(Al2O3+MgO)-(CaO+SrO+BaO)が少な過ぎると、ヤング率、破壊靭性、応力波速度が低下して、飛来物の衝突による窓板ガラスのヘルツ破損が起こり易くなる。なお、「(Al2O3+MgO)-(CaO+SrO+BaO)」は、Al2O3とMgOの合量から、CaO、SrO及びBaOの合量を減じた量を指す。
【0026】
MgO-(CaO+SrO+BaO)は、好ましくは5%以上、10%以上、14%以上、18%以上、特に20~35%である。MgO-(CaO+SrO+BaO)が少な過ぎると、ヤング率、破壊靭性、応力波速度が低下して、飛来物の衝突による窓板ガラスのヘルツ破損が起こり易くなる。なお、「MgO-(CaO+SrO+BaO)」は、MgOの含有量から、CaO、SrO及びBaOの合量を減じた量を指す。
【0027】
モル比MgO/(Li2O+Na2O+K2O)は、好ましくは1以上、3以上、4以上、5以上、特に6~15である。MgO/(Li2O+Na2O+K2O)が少な過ぎると、ヤング率、破壊靭性、応力波速度が低下して、飛来物の衝突による窓板ガラスのヘルツ破損が起こり易くなる。なお、「MgO/(Li2O+Na2O+K2O)」は、MgOの含有量をLi2O、Na2O及びK2Oの合量を減じた量を指す。
【0028】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0029】
TiO2は、耐候性を高める成分であるが、ガラスを着色させる成分である。よって、TiO2の含有量は、好ましくは0~0.5%、特に0~0.1%未満である。
【0030】
ZrO2は、ヤング率や耐候性を高める成分であるが、耐失透性を低下させる成分である。よって、ZrO2の含有量は、好ましくは0~0.5%、特に0~0.1%未満である。
【0031】
清澄剤として、SnO2、Cl、SO3、CeO2の群(好ましくはSnO2、SO3の群)から選択された一種又は二種以上を0.05~0.5%添加してもよい。
【0032】
Fe2O3は、ガラス原料に不純物として不可避的に混入する成分であり、着色成分である。よって、Fe2O3の含有量は、好ましくは0.05%以下、特に0.001~0.03%である。
【0033】
V2O5、Cr2O3、CoO3及びNiOは、着色成分である。よって、V2O5、Cr2O3、CoO3及びNiOのそれぞれの含有量は、好ましくは0.1%以下、特に0.01%未満である。
【0034】
Y2O3、Nd2O3、La2O3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の合量は、好ましくは3%以下、1%以下、特に0.1%未満である。
【0035】
環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Bi2O3及びFを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に~を含有しない」とは、ガラス成分として積極的に明示の成分を添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、明示の成分の含有量が0.01%未満であることを指す。
【0036】
本発明の建築用窓板ガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0037】
応力波速度と破壊靭性値の積は、好ましくは3.8×109kg・m0.5/s3以上、4.0×109kg・m0.5/s3以上、特に5.0×109kg・m0.5/s3~30.0×109kg・m0.5/s3である。応力波速度と破壊靭性の積が小さ過ぎると、発生する応力がクラック進展する応力に到達し易くなり、ヘルツ破壊が起こって、窓板ガラスが破損し易くなる。
【0038】
破壊靭性は、好ましくは0.8MPa・m0.5以上、0.9MPa・m0.5以上、特に0.9超~2MPa・m0.5である。破壊靭性が小さ過ぎると、窓板ガラス表面の傷からクラックが進展し易くなり、ヘルツ破壊が起こって、破損し易くなる。
【0039】
応力波速度は、好ましくは6200m/s以上、6300m/s以上、特に6400m/s~15000m/sである。応力波速度が低過ぎると、歪みが大きくなるため、ヘルツ破壊が起こって、窓板ガラスが破損し易くなる。
【0040】
ヤング率は、好ましくは85GPa以上、87GPa以上、90GPa以上、特に93~120GPaである。ヤング率が低過ぎると、弾性変形が起こり易くなり、引張応力が発生してヘルツ破壊が起こり、破損に繋がり易くなる。
【0041】
結晶化度は、好ましくは30%以下、10%以下、5%以下、1%以下、特に0%、つまり非晶質である。結晶化度が高過ぎると、透光性が低下してしまう。ここで、「結晶化度」は、粉末法によりXRDを測定することにより、非晶質の質量に相当するハローの面積と、結晶の質量に相当するピークの面積とをそれぞれ算出した後、[ピークの面積]×100/[ピークの面積+ハローの面積](%)の式により求めた値を指す。
【0042】
本発明の建築用窓板ガラスにおいて、板厚は、好ましくは10mm以下、9mm以下、特に8mm以下であり、好ましくは3mm以上、4mm以上、5mm以上、特に6mm以上である。板厚が小さ過ぎると、曲げ破壊が発生し易くなる。曲げ破壊が発生すると、窓板ガラスの傷より容易に破損が起こってしまう。
【0043】
本発明の建築用窓板ガラスは、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0044】
まず所定のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500~1700℃で加熱溶融し、清澄、攪拌した後、成形装置に供給して板状に成形し、徐冷することにより、板ガラスを作製することができる。
【0045】
板ガラスを成形する方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、板ガラスを安価に作製し得る方法である。
【0046】
フロート法以外にも、ロールアウト法やオーバーフローダウンドロー法を採用してもよい。オーバーフローダウンドロー法は、表面が未研磨の状態で、薄い板ガラスを大量に作製し得る方法である。なお、表面が未研磨であると、板ガラスの製造コストを低廉化することができる。
【0047】
板ガラスは、必要に応じて、面取り加工されていることが好ましい。その場合、#800のメタルボンド砥石等により、C面取り加工を行うことが好ましい。このようにすれば、端面強度を高めることができる。必要に応じて、板ガラスの端面をエッチングして、端面に存在するクラックソースを低減することも好ましい。
【実施例0048】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0049】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~4)と比較例(試料No.5、6)を示している。
【0050】
【0051】
次のようにして各試料を作製した。表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した。次に、調合済みのガラスバッチを溶融炉に投入し、1600℃で5時間溶融した後、清澄、攪拌して、溶融ガラスを均質化した上で、板厚10mmの板状に成形して、板ガラスを得た。得られた板ガラスについて、上記の方法によりヤング率、破壊靭性及び応力波速度を測定した。なお、試料No.1~6に係る板ガラスは、Fe2O3の混入不純量が0.01モル%であった。
【0052】
ヘルツ破壊の有無は、作製した板ガラスを50mm×50mmサイズ、厚み7mmになるように、光学研磨加工を行い、各評価サンプルを得た。飛来物を想定し、鉄球(φ10mm、4g、材質:SUJ-2)を使用して、20m/sで評価サンプルに衝突させて、ヘルツ破壊の発生の有無を確認し、ヘルツ破壊が発生しなかったものを「○」、ヘルツ破壊が発生したものを「×」として評価した。
【0053】
表1から分かるように、試料No.1~4では、応力波速度と破壊靭性の積が大きく、破壊靭性値が高く、応力波速度が速く、ヤング率が高いため、ヘルツ破壊が発生しなかった。よって、試料No.1~4は、建築用窓板ガラスに好適である。一方、試料No.5、6では、ヘルツ破壊が発生して、板ガラスの破損が生じた。
本発明の建築用窓板ガラスは、飛来物の衝突によりヘルツ破壊が発生しにくく、好適である。また、住宅用以外にも、一般的な建築物、建造物の窓ガラス、飛来物が衝突する自動車用の窓、工作機械の覗き窓などその他の用途に対しても好適である。