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特開2022-145611傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法
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  • 特開-傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145611
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 19/02 20060101AFI20220926BHJP
   B21B 23/00 20060101ALI20220926BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220926BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220926BHJP
   C22C 38/44 20060101ALN20220926BHJP
   C22C 38/18 20060101ALN20220926BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
B21B19/02
B21B23/00 F
C22C30/00
C22C38/00 302Z
C22C38/44
C22C38/18
C22C19/05 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038797
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021043499
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】木島 秀夫
(57)【要約】
【課題】圧延の安定性を確保し、焼き付きの抑制を実現し、偏肉が抑制された管を製造することが可能な傾斜圧延設備、該傾斜圧延設備を用いた傾斜圧延方法および継目無管の製造方法を提供すること。
【解決手段】圧延ロール11、12、プラグ10およびガイド13、14を備える傾斜圧延設備であって、ガイド13、14は、圧延方向に移動可能な機構および被圧延材との間隔を調整する機構を備える、傾斜圧延設備1。ガイド13、14は圧延方向に沿って延設されていてよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ロール、プラグおよびガイドを備える傾斜圧延設備であって、
前記ガイドは、圧延方向に移動可能な機構および被圧延材との間隔を調整する機構を備える、傾斜圧延設備。
【請求項2】
前記ガイドは圧延方向に沿って延設されている、請求項1に記載の傾斜圧延設備。
【請求項3】
前記ガイドの前記圧延方向全長LGが、前記プラグの前記圧延方向全長LPの1.2倍以上である、請求項1または2に記載の傾斜圧延設備。
【請求項4】
前記ガイドは、以下の式(1)を満たす速度で圧延方向に移動可能である、請求項1~3のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備。
0.002×VP<VG<1.0×VP ・・・式(1)
式(1)において、
VP(mm/s):被圧延材の圧延方向への進行速度、
VG(mm/s):ガイドの圧延方向への移動速度である。
【請求項5】
前記ガイドは、以下の式(2)を満たすように、被圧延材との間隔を調整可能である、請求項1~4のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備。
GL<0.20×RL ・・・式(2)
式(2)において、
RL(ton):圧延ロールの被圧延材に対する荷重、
GL(ton):ガイドの被圧延材に対する荷重である。
【請求項6】
パスラインと前記ガイドのパスライン対向面との距離の圧延方向における変化量が、プラグ外径の30%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備を用いて被圧延材を圧延する、傾斜圧延方法。
【請求項8】
前記ガイドに圧延開始前に潤滑剤を供給する、請求項7に記載の傾斜圧延方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の傾斜圧延方法により得られた継目無管素材を用いて継目無管を製造する、継目無管の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備を用いて継目無管を製造する、継目無管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐焼き付き性および圧延安定性を有し、偏肉が抑制された管を製造可能な傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無管の熱間製造プロセスで利用する熱間圧延設備の一つに、傾斜圧延設備がある。
傾斜圧延設備では、樽型または円錐型の圧延ロールの回転軸(ロール軸)を、管材進行方向(圧延方向)に対して傾斜させて配置し、ビレット(管材)を圧延ロールにより回転させながら引き込む。そして、ロール間に配設された内面工具(プラグ)との間で、ビレット(管材)に対して穿孔したり、減肉、拡管を行ったりする。
【0003】
また、傾斜圧延設備では、圧延ロールの形状や、圧延ロール、プラグの設置位置によらず、パスライン円周上の圧延ロール間に配置されるガイドが設置される。
【0004】
ガイドは、ロールおよびプラグにより穿孔、減肉、拡管された管材の管周方向への過大な変形を抑制し、圧延後の継目無管素材の外径を制御する。また、ガイドは、圧延ロール間への材料のはみだしを抑制し、噛み出しにより圧延が停止してしまうことを防止する。ガイドはこのような圧延の安定性を保つという役割を担う。また、剛性の高いガイドは、外径、肉厚を精度よく仕上げるのに役立ち、また、偏肉の発生を低減するのにも寄与する。
【0005】
一方、圧延により、ガイドには焼き付きが発生するという問題がある。
【0006】
従来の傾斜圧延設備では、様々なガイドが提案されている。
例えば、特許文献1には、板状で、パスライン上で固定されたガイドと、焼き付きを防止する潤滑剤を塗布する方法が開示されている。しかし、熱間圧延中の鋼管外表面は、ガイドの同一位置を摺動することになり、高合金鋼などの焼き付きやすい材料では潤滑剤の常時供給が必要となる。その場合、ガイドへ供給される潤滑剤は圧延ロールにも飛散し、圧延ロールと鋼管の摩擦を低減し、圧延安定性を低下させ、寸法不良や偏肉を悪化させる。つまり、焼き付きを抑制することと、スリップを防止する等といった圧延安定性の両立が困難となる課題がある。
【0007】
また、特許文献2には、同じ板状のガイドを複数個準備し、圧延毎に取り換えられる仕組みを具備した傾斜圧延設備が開示されている。しかし、この方法によっても管1本の圧延中はガイドの交換はできない。連続的な複数本の圧延による金型の温度上昇抑制や交換の段取りを省略できたとしても、特に、高合金鋼で課題となる管1本毎の焼き付きを抑制できる技術ではない。
【0008】
また、特許文献3に記載の技術では、ディスク状の回転式ガイドを利用することで、管1本毎のガイドとの摺動位置を変化させることが可能になり、耐焼き付き性を向上させることが可能である。しかし、ディスク状であるため、パスラインに対するガイド間隔が圧延機入側、または出側に向けて広くなり、管外表面を拘束できる領域が小さく、拘束力が小さくなる。そのため、スリップを十分に抑制できず、さらに偏肉の抑制も十分でなく、圧延の安定性や寸法の高精度化を実現することが困難であった。
さらに、特許文献4、5に記載の技術では、ガイドシューを圧延材の進行方向に移動させることにより、または加振しながら圧延材の進行方向に移動させることにより、摩耗や熱負荷を分散させる方法が提案されている。
しかしながら、特許文献4、5に記載の技術では、ガイドシューの移動により摩耗や熱負荷を分散できる一方で、摩耗や熱負荷の程度に応じた制御ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-116709号公報
【特許文献2】特開平7-185606号公報
【特許文献3】特開平2-224808号公報
【特許文献4】特開昭62-127107号公報
【特許文献5】特開昭62-148003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した従来の技術では、圧延の安定性を確保し、焼き付きの抑制、偏肉の抑制を十分に実現する技術としてはまだ十分とは言えなかった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐焼き付き性および圧延安定性を有し、偏肉が抑制された管を製造可能な傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法を提供することを目的とする。
ここで、偏肉が抑制されたとは、被圧延材の最大肉厚と最小肉厚の差を平均肉厚で除した値(%)として算出される偏肉率が平均で10%以下であることを指す。
耐焼き付き性に優れるとは、圧延後、ガイドの表面を観察し、目視で焼き付きがないことを指す。
圧延安定性に優れるとは、ロール間への被圧延材の噛み出しに伴う圧延ロールと被圧延材のスリップにより、圧延ロールが回転しているのにも関わらず、被圧延材が圧延方向に十分に進行しないことを抑制することを指す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した。まず、偏肉について検討した。
傾斜圧延設備による減肉拡管圧延等の傾斜圧延は、圧延ロールとプラグにより行われ、減肉開始はプラグと被圧延材(以下、管材とも記す。)の接触開始時点であり、減肉終了は管材の肉厚が圧延ロールとプラグの間隔よりも小さくなった時点である。
傾斜圧延設備で減肉拡管圧延を行うことにより、管外周にはふくらみが発生する。このふくらみは、減肉を開始した時点から減肉が完了するまで存在する。
この管外周のふくらみは、傾斜圧延で減肉された際の延びが管外周の延びになるために発生するものである。このふくらみが過大となると、管外周長が大きくなりすぎ、偏肉が発生して、寸法精度に問題が発生する。
また、ふくらみが適切に拘束されないと、傾斜圧延時の管がパスライン(以下、圧延方向または管軸方向とも記す。)からずれて圧延安定性が損なわれる。また、これによっても偏肉が発生する。
また、さらに、圧延安定性が低下すると、管材の噛み出しや圧延ロールのグリップ力の低下が発生し、圧延を停止させうるスリップが発生する場合がある。
【0013】
傾斜圧延設備を構成する部材のうち、プラグは、先端が細く、後端に向けて径が大きくなる円錐状の形状をしており、圧延方向にある程度の長さを有する。傾斜圧延において、このプラグが管材内に挿入されることで、管材には上記のふくらみが発生する。
このとき、傾斜圧延時に発生する管外周のふくらみをガイドにより拘束し、圧延方向にある程度の長さをガイドが有するようにすることで管材のふくらみを抑制することができる。
【0014】
また、管材の先後端の非定常部では、傾斜圧延によりもたらされる外周長の変化に加え、扁平変形が起こり、より広い範囲でガイドに接触する。
この先後端の変形をガイドで拘束するためにも、ガイドは圧延方向にある程度の長さを有しつつ、高い拘束力を維持する必要がある。このように、ガイドは、圧延方向に延設された形状を有することが好ましい。
ガイドが圧延方向に延設されていないと、上述したようなふくらみによる偏肉率の低下をもたらす場合がある。また、ガイドと圧延ロールの間に管材が噛み出して管を製造できなくなり、圧延を中止せざるを得なくなる場合もある。
【0015】
次に、焼き付きについて検討した。ガイドには、ふくらみが形成された管材の荷重が負荷された条件下、高温に加熱された管材からの熱と回転による摺動がもたらされる。高温での摺動は、ガイドに焼き付きを発生させる。特に、管材からの荷重が大きく、管材が、潤滑性を有する酸化スケールの生成が少ないステンレス鋼等の合金鋼である場合、ガイドには焼き付きが発生しやすい。ガイドに焼き付きが発生すると管外表面に疵が発生し、製品品質を損ねる。このような圧延中の焼き付きを抑制するためには、材質を改良したガイドを用いること、または焼き付きが発生する前にガイドを取り換えるようにすることが挙げられる。
【0016】
以上のように、傾斜圧延設備に用いるガイドには、圧延中の管先端から後端までを安定して保持する形状と、更に、焼き付きを防止できるようにすることが必要である。また、圧延安定性の確保も求められる。
【0017】
本発明者らは、これらの問題に対して鋭意検討した結果、ガイドの材質は改良せずとも、その構成および機能を改良することにより、圧延安定性を実現するとともに、優れた耐焼き付き性を有するようにし、さらには偏肉を抑制した管を得られることを知見した。
【0018】
本発明は以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]圧延ロール、プラグおよびガイドを備える傾斜圧延設備であって、
前記ガイドは、圧延方向に移動可能な機構および被圧延材との間隔を調整する機構を備える、傾斜圧延設備。
[2]前記ガイドは圧延方向に沿って延設されている、前記[1]に記載の傾斜圧延設備。
[3]前記ガイドの前記圧延方向全長LGが、前記プラグの前記圧延方向全長LPの1.2倍以上である、前記[1]または[2]に記載の傾斜圧延設備。
[4]前記ガイドは、以下の式(1)を満たす速度で圧延方向に移動可能である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の傾斜圧延設備。
0.002×VP<VG<1.0×VP ・・・式(1)
式(1)において、
VP(mm/s):被圧延材の圧延方向への進行速度、
VG(mm/s):ガイドの圧延方向への移動速度である。
[5]前記ガイドは、以下の式(2)を満たすように、被圧延材との間隔を調整する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の傾斜圧延設備。
GL<0.20×RL ・・・式(2)
式(2)において、
RL(ton):圧延ロールの被圧延材に対する荷重、
GL(ton):ガイドの被圧延材に対する荷重である。
[6]パスラインと前記ガイドのパスライン対向面との距離の圧延方向における変化量が、プラグ外径の30%以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の傾斜圧延設備。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の傾斜圧延設備を用いて被圧延材を圧延する、傾斜圧延方法。
[8]前記ガイドに圧延開始前に潤滑剤を供給する、前記[7]に記載の傾斜圧延方法。
[9]前記[7]または[8]に記載の傾斜圧延方法により得られた継目無管素材を用いて継目無管を製造する、継目無管の製造方法。
[10]前記[1]~[6]のいずれかに記載の傾斜圧延設備を用いて継目無管を製造する、継目無管の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた耐焼き付き性および圧延安定性を有し、偏肉が抑制された管を製造することが可能な傾斜圧延設備、傾斜圧延方法および継目無管の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の傾斜圧延設備を圧延方向に視た場合の模式図である。
図2図2は、本発明の傾斜圧延設備を設備上面から視た場合の模式図である。
図3図3は、ガイドのパスライン対向面においてパスラインPLとの距離DXが圧延方向に一定でない場合の傾斜圧延設備の模式図である。
図4図4は、関連技術の傾斜圧延設備を圧延方向に視た場合の模式図である。
図5図5は、関連技術の傾斜圧延設備を設備上面から視た場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。
【0022】
[傾斜圧延設備]
本発明の傾斜圧延設備の説明をする前に、まず、図4および図5を参照しながら、関連技術の傾斜圧延設備について説明する。
【0023】
傾斜圧延設備としては中実の丸ビレットに孔をあける穿孔圧延設備と、中空の素管を減肉拡管する設備が挙げられる。いずれの傾斜圧延設備についても、従来、ガイドには、高い剛性と、高い焼き付き性を有することが求められてきた。
高い剛性を有するようにするためには、被圧延材(管材)のふくらみが発生するプラグの圧延方向(管軸方向)全長LPよりも管軸方向に長い範囲でガイドが管を拘束することが好ましい。
このとき、図4図5に示すディスク状のガイド113、114は、管材を支持する外表面がC字形状を有しており、圧延設備入出側で、パスラインPLから離隔する。そして、ディスク状のガイド113、114は、ディスク状のガイドを回転させつつ保持位置を固定するための軸113A、114Aを有し、この軸で圧延による荷重を支えるため、軸径が小さくなるに従い剛性が低くなる。なお、図4図5中、符号10のプラグ、符号11、12の圧延ロールについては、図1図2に示す本発明の傾斜圧延設備1のプラグ10、圧延ロール11、12と同一とすることができるため、図1図2を参照しながら後述する。なお、図5中、符号11で示す圧延ロールは非表示にしている。
【0024】
上記のディスク状のガイドに対し、板状のガイドでは、パスラインとの距離について、圧延方向で一定に、または変化量を小さく保ちやすいため、上記剛性の観点から、板状のガイドを用いることが好ましい。ここで、板状のガイドとは、圧延方向(管軸方向、パスライン方向)に沿って、延設された形状を有するガイドのことを指す。特に、板状のガイドは、管材を支持する外表面(パスライン対向面)に管軸方向に平行な平面を有していることが好ましい。また、板状のガイドは、材料との接触により発生する荷重を、管材との接触面反対側で保持しやすく、高い荷重に対して剛性を確保することができるため、圧延安定性や偏肉率の改善の点からも好ましい。
【0025】
一方、通常の板状のガイドは圧延中の交換ができず、高合金や長尺管を圧延する場合など、高い面圧と入熱に長時間曝されるときは、焼き付きやすく、焼き付きが発生した部位の頻繁な補修を必要とする。また、製品の後端側に焼き付き疵を発生させる場合もあり、用途が限定されていた。
焼き付きを抑制するためには、潤滑剤をガイド表面に塗布する方法も挙げられるが、圧延中にガイドに潤滑剤を塗布することは難しい。また、塗布した場合も近接する圧延ロールへの潤滑剤の飛散が避けられないため、スリップが発生しやすく、圧延安定性を損なう。このように圧延安定性を確保するためにも、板状のガイドでは圧延中に潤滑剤を用いないことが好ましい。
また、焼き付きは、製品歩留まりの低下をもたらすため、偏肉の抑制は十分ではないもののディスク状のガイドが選択される場合が多い。一方、近年は焼き付きが発生しやすい高合金管の需要に加え、寸法精度の要求が厳しくなる傾向があり、ディスク状のガイドでは製造が難しいケースも多い。そのため、傾斜圧延設備では、優れた圧延安定性、優れた偏肉の抑制を実現しやすい板状のガイドを用いることが好ましいが、焼き付きとの両立が難しいという問題がある。
また、圧延条件、管材の材質等に適したガイドの形状を採用し、焼き付きが十分に抑制されないと、板状のガイドを用いても、偏肉の抑制が十分でない場合があるという問題もある。
【0026】
このような関連技術の傾斜圧延設備に対して、本発明者らは、管材に対する拘束力の高い板状のガイドを用いつつ、偏肉および焼き付きを抑制できる設備仕様を鋭意検討した。その結果、焼き付きを抑制するために、ガイド表面の温度を一定以上、高温化させないことに着目した。
板状のガイドは、傾斜圧延中、同一面が高温の管外表面と摺動し、高圧で接触することにより温度が上昇する。本発明者らは、傾斜圧延が進行して、高圧条件下で管外表面との接触により、ガイドの表面温度が上昇することが耐焼き付き性を大きく損ねる原因であることに着目した。
【0027】
そして、板状のガイドであっても、温度の上昇を緩和できれば焼き付きの発生を抑制し、さらに、管の外表面品質と圧延の安定性も保てると考えた。
また、本発明者らは、焼き付きの原因となるガイドの表面温度の上昇は、ガイド表面と高温の管材表面の接触圧力と接触時間の影響が大きいと考え、圧延時、接触圧力に関わるガイド荷重の測定と、ガイド荷重の測定結果に基づいたガイド間隔(被圧延材との間隔)の制御により、ガイド表面と管表面の同一部位での接触時間を少なくし、ガイドの表面温度の上昇を抑制することで、焼き付きを抑制できることを見出した。そして、これらの知見からガイドの温度上昇を抑制する機構についてさらなる検討を重ね、圧延中にガイドを圧延方向に移動させる機構、ガイドと被圧延材(管材)との間隔を調整する機構(圧延中のガイド荷重を測定する機構)を考えた。
すなわち、管材の圧延開始から圧延終了までの間、拘束力の高い板状のガイドを圧延方向(管軸方向)に移動させることで、高温の管表面との接触位置をガイド表面で分散することに加え、圧延中のガイド荷重測定結果に基づいたガイド間隔(管材との間隔)の制御により、焼き付きが発生する温度を超えないように管理でき、圧延安定性と耐焼き付き性の双方を向上させられることを知見した。
さらに、上記の機構を備えたガイドでは、偏肉を発生させやすい形状であっても、圧延中にガイドを圧延方向に移動させたり、ガイドと被圧延材(管材)との間隔を調整したりすることで、焼き付きを抑制できると共に、十分に偏肉を抑制できることも知見した。これらの知見を踏まえ、本発明を完成させた。
【0028】
次に、図1および図2を参照しながら、本発明の傾斜圧延設備の構成及びその機能を説明する。図1および図2は、本発明の傾斜圧延設備を説明するための模式図である。なお、以下の説明の都合上、図2中、符号11で示す圧延ロールは非表示にしている。
【0029】
このようにして完成させた本発明の傾斜圧延設備1は、圧延ロール11、12、プラグ10、ガイド13、14を備える傾斜圧延設備で、ガイド13、14が、圧延方向(圧延進行方向)に移動可能な機構、および被圧延材(管材)との間隔を調整する機構を備えている。傾斜圧延設備1は、ガイド荷重測定用のロードセル(荷重計)を備えていてもよい。
また、上記ガイド13、14は圧延方向に沿って延設されている。具体的には、管周方向に回転しながら管軸に平行な圧延方向(パスラインPLの方向)に進行する被圧延材(管材)を圧延し、継目無管素材を製造する圧延設備であって、管材の進行に伴い、管材内に挿入されるプラグ10と、圧延される管材の管周方向に2個以上配設されており、圧延方向に対し傾斜した回転軸αで回転することで、管材を回転させながら圧延する圧延ロール11、12と、圧延される管材の管周方向において圧延ロール11、12間に設置され、圧延方向に沿って延設されており、プラグ10が挿入された管材を圧延ロール11、12と共に支持可能なガイド13、14と、を備え、被圧延材(管材)の圧延方向への進行に伴い、ガイド13、14が圧延方向に移動可能であり、また、被圧延材(管材)との間隔を調整可能である傾斜圧延設備が挙げられる。
【0030】
本発明の傾斜圧延設備1は、管軸(パスラインPL)に平行な圧延方向(図中、Y方向)に進行する管材を圧延することができれば、特に限定されるものではなく、前述した関連技術の傾斜圧延設備と同様に、中実の丸ビレット等の管材に孔をあける穿孔圧延設備であってもよいし、中空の管材を減肉拡管する設備であってもよい。また、本発明で用いる管材についても、通常公知の中空または中実の管材であってよく、材質や機械的特性は特に限定されない。
【0031】
(プラグ10)
プラグ10は、管材の圧延方向への進行に伴い、管軸方向で管材内に挿入可能であれば特に限定されない。
プラグ10は、圧延方向(管軸方向、パスラインPLの方向)先端から後端に向けて、圧延方向垂直断面視で断面積が大きくなる円錐形状(または略円錐形状)を有していてよい。プラグ10の材質等については、管材を穿孔したり、減肉拡管したりすることができれば特に限定されず、通常公知の材質としてよい。
【0032】
(圧延ロール11、12)
圧延ロール11、12は、管材の周方向に2個以上配設され、圧延方向(パスラインPLの方向)に対し傾斜した回転軸αで回転することで、管材を回転させながら圧延することが可能であれば、その形状等は特に限定されない。圧延ロール11の回転軸αと、圧延ロール12の回転軸αとは、例えば、ねじれの位置の関係になるように、圧延方向に対して互いに反対方向に傾斜していてよい。
図1では、圧延ロール11、12の数が2個である場合を示しているが、後述のガイド13、14が管周方向において圧延ロール間に配置されて、各圧延ロールとガイドとにより管材を支持することができれば、圧延ロールの数は3個以上であってもよい。圧延ロール11、12は、通常公知の樽型のロール、円柱形状のロール、円錐形状のロールとしてよく、ロール側面部が管材に当接しながら管材を圧延する。
また、圧延ロール11、12の回転軸αの傾斜角度(回転軸αとパスラインPLとで形成される角度)は特に限定されないが、3.0~15.0度とすることができる。
圧延時に同時に用いる圧延ロールの回転軸αそれぞれの傾斜角度の差は特に限定されないが、被圧延材の直進性を高めるためには、1.0度以下であることが好ましく、より好ましくは、上記差は0度である。
ロールの材質等についても特に限定されず、通常公知の材質としてよい。
【0033】
また、圧延ロール11、12は、後述のように被圧延材(管材)への荷重(垂直荷重)を調整できることが好ましく、例えば、圧延ロール11、12には荷重計を設置しておいてよい。荷重計としては、ロードセル等、従来公知のセンサーを用いることができる。
【0034】
(ガイド13、14)
ガイド13、14は、管材の管周方向において2個以上の圧延ロール間に設置され、圧延方向に沿って延設されており、2個以上の圧延ロールと共に、管材を支持することができる。
ガイド13、14は、管材を安定に支持できるように、図1図2に示すように、2個設置されていてよい。また、圧延ロールの数に応じて、3個以上設置されていてもよい。
本発明のガイド13、14は、管材の圧延方向(パスラインPLの方向)の進行に伴い、圧延方向(パスラインPLの方向)に移動する。
また、ガイド13、14は、被圧延材との間隔を調整することができる。
本発明のガイド13、14は、拘束力の低いディスク状ではなく、前述したように、圧延方向に移動可能な機構を有している。具体的には、ガイド13、14は、圧延方向に沿って延設されており、拘束力の高い板状のガイドとすることができる。
【0035】
本発明のガイド13、14では、ガイドへの入熱を分散させるために、圧延方向(圧延進行方向、パスラインPLの方向)への移動を可能とし、傾斜圧延中、管材の圧延方向への進行に伴い移動する。これにより、ガイド13、14における高温の管外表面との接触位置を圧延中に変化させて、入熱を抑制し、焼き付きの原因となるガイド表面の温度上昇を抑えることが可能となる。
【0036】
また、ガイド13、14は、管外周のふくらみを抑制する際、大きな荷重を受ける場合がある。この荷重に耐え得る十分な剛性をガイド13、14が有することが好ましく、これにより、圧延の安定性を確保しつつ、偏肉を抑制することができる。
ガイド13、14が十分な剛性を有さず、圧延荷重によりガイドが動いてしまうことがあると、管の外径の寸法精度低下が起こる場合がある。また、圧延荷重によるガイドの移動は、圧延の安定性を低下させ、管のパスラインからのずれを招く場合もある。それに伴い、内面工具であるプラグ10の位置が変化し、ロール11、12とプラグ10の位置のギャップに変化を生じさせて管の肉厚を変化させ、偏肉率を悪化させる場合がある。これらの理由から、ガイド13、14は十分な剛性を有することが好ましい。
具体的には特に限定されないが、本発明のガイド13、14の剛性として、偏肉を抑制する観点から、垂直荷重100tonに対して垂直荷重方向への変位を1.0mm以下とすることが好ましい。
【0037】
また、ガイド13、14は、高圧条件下での管外表面との接触を避けるために、被圧延材(管材)との間隔を調整することができる。
この間隔は、ガイド13、14の被圧延材(管材)に対する荷重(垂直荷重)を測定し、この荷重値に基づいて調整することができる。荷重の測定のために、例えば、ガイド13、14に荷重計を設置しておいてよい。荷重計は、ガイド13、14が移動した場合でも、ガイド13、14の圧延方向に垂直な方向への荷重(垂直荷重、被圧延材(管材)に対する荷重)を測定できることが好ましい。荷重計としては、ロードセル等、従来公知のセンサーを用いることができる。
【0038】
本発明において、管材の圧延方向への進行に伴う、上記のガイド13、14の圧延方向への移動、さらに、ガイド13、14の被圧延材(管材)との間隔の調整は、傾斜圧延設備が有する制御部により自動で制御することができる。制御部は、特に限定されないが、CPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータ等の情報処理装置とすることができる。
圧延中の管材の圧延方向の進行速度については、管材先端がレーザー検出器前を通過する時間から測定し、この管材の圧延方向への進行速度に基づいてガイド13、14の圧延方向への移動を制御することもできる。
【0039】
(0.002×VP<VG<1.0×VP ・・・式(1))
ガイド13、14の圧延方向への移動速度VG(mm/s)と、被圧延材(管材)の圧延方向への進行速度VP(mm/s)とは、上記の式(1)を満たすことが好ましい。
前述したように、ガイド13、14を圧延方向(パスラインPLの方向)に平行に移動させることで、入熱を抑制し、焼き付きの抑制を実現できる。しかしながら、ガイド13、14の移動量が多過ぎると、設備の大型化、複雑化や圧延後の管の搬送が負担となる。
この点、ガイド13、14の焼き付きを抑制するには、ガイド表面の最高温度を低減させればよい。そのため、入熱を分散させる目的においては、ガイド13、14の圧延方向への移動速度VGは、必ずしも高くなくてよく、管材の圧延方向への進行速度VPよりも低くてもよい。
【0040】
本発明者らは、管材の圧延方向の進行速度と、管の長さを用いて測定した板状のガイドの移動速度とガイドの表面温度を検討した結果、ガイド13、14の圧延方向への移動速度VGが式(1)を満たせば、焼き付きを抑制できる表面温度に制御しつつ、ガイド13、14の移動量を抑えることができることを知見した。これにより、設備の大型化、複雑化を避けつつ、焼き付きの抑制効果が得られる。
具体的には、板状のガイド13、14のパスラインPLに平行な圧延方向の移動速度VGを、管材の圧延方向への進行速度VPの0.002倍超えとすれば、管外周のふくらみを介して発生する管材からの入熱をガイド13、14の圧延方向(パスラインPLの方向)で分散でき、焼き付きを抑制できる。
【0041】
一方、焼き付きの原因となる入熱を抑制できれば、ガイド13、14の圧延方向への移動速度VGに上限はないが、ガイド13、14の圧延方向への移動速度VGが、管材の圧延方向への進行速度VP以上になると、ガイド13、14と管材の摩擦により、圧延方向に管材が引っ張られ、内面の工具であるプラグ10に圧延方向の圧縮力が発生し、損傷を招く場合がある。また、ガイド13、14の移動速度VGが、管材の圧延方向への進行速度VP以上になると、その分ガイド長を長くする必要があり、設備が大型化、複雑化する。そのため、板状のガイド13、14の圧延方向の移動速度VGは管材の圧延方向の進行速度VP以上とならない方が好ましい。
【0042】
以上より、VGについては、0.002×VPよりも大きく、1.0×VPよりも小さいことが好ましい。
また、入熱による焼き付きの抑制、プラグ保護、設備の大型化防止の観点から、VGはVPの0.003~0.100倍であることがより好ましい。
ガイド13、14と管表面が焼き付く条件は、管材の温度や材質、摺動速度により異なるが、ガイド13、14をパスライン上で移動させ、かつVGをVPの0.003~0.100倍とすることで、焼き付きに影響するガイド13、14の表面温度をより適切に制御でき、より優れた耐焼き付き性と圧延安定性が得られる。上述したガイド13の移動速度VGとガイド14の移動速度VGの差は、特に限定されないが、より速い方の移動速度の10%以内であることが好ましく、より好ましくはそれぞれの移動速度VGは同じである。
【0043】
(GL<0.20×RL ・・・式(2))
ガイド13、14の被圧延材(管材)との間隔を調整することで、ガイド13、14の被圧延材(管材)に対する荷重(垂直荷重)GL(ton)と、圧延ロール11、12の被圧延材(管材)に対する荷重(垂直荷重)RL(ton)とは、上記の式(2)を満たすことが好ましい。
本発明者らは、ガイド13、14の圧延方向への移動により入熱を分散させるだけでは、製品サイズや圧延条件により変化する入熱量が過大となった際、焼き付きを十分に抑制できない場合があることに着目し、ガイドと被圧延材との間隔の調整、すなわち、ガイド13、14の垂直荷重の調整を検討した。
この点、本発明者らは、GL<0.20×RLを満たすようにすることで、ガイド13、14の焼き付きを十分に抑制することができることを知見し、上記の式(2)を規定した。
この式(2)の調整については、様々なガイド間隔や、ロール間隔、プラグ位置等の圧延条件に対応した圧延ロールの垂直荷重、ガイドの垂直荷重についての荷重データに基づいて、ガイド間隔(ガイドと被圧延材(管材)との間隔)を調整することにより制御できる。
なお、GL/RLは、値が小さすぎるとガイドによる管材の拘束力が低下し、偏肉を悪化させる可能性がある。そのため、GL/RLは0.05以上とすることが好ましい。
【0044】
(LG≧LP×1.2)
ガイド13、14が管材を支持する範囲は、プラグ10と圧延ロール11、12で肉厚を減ずる範囲に一致し、おおよそプラグ10の圧延方向全長LPと一致する。
ガイド13、14が管材の外表面のふくらみを支持し、圧延の安定性を得るには、ガイド13、14の圧延方向全長LGはLP以上であることが好ましく、LPの1.2倍未満とすると管材の先後端の非定常部の形状が不安定になる可能性がある。このとき、管材の先後端の非定常部で扁平変形が発生し、ガイド13、14への接触が予想される範囲を超えて接触する可能性がある。非定常部を含めた管材のふくらみに対して、ガイド13、14による安定した支持力を発揮するために、LGはLPの1.2倍以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、あまりに長いガイドは設備構造を複雑にするため、LGはLPの5.0倍以下であることが好ましい。LG/LPは、設備の配置やスペースを考慮し、1.2以上2.5以下であることがより好ましい。
【0045】
(パスラインPLとガイドのパスライン対向面との距離DXの圧延方向における変化量:プラグ外径DPの30%以下)
管材のふくらみを支持する板状のガイド形状はパスラインPL(被圧延材(管材)が進行するライン)に対し、圧延方向に距離DXが変化してもよい。
すなわち、ガイドのパスライン対向面において、圧延方向に垂直な方向でのパスラインPLとの距離DXが圧延方向に同一でなくてよい。
【0046】
板状のガイドの形状は、パスラインPLに対して入側または出側からの視野で圧延ロールギャップの最も狭い部分の板状のガイド断面を観察した場合、様々な形状であってよい。例えば、管材のふくらみをガイド表面(パスライン対向面)の広範囲で保持するために、圧延する管材の外周曲率に近い円弧状とすることができる。
パスラインPLと板状のガイドまでの距離DXについて、ロールバイトの最も狭い部分で短く、圧延機出側に向かうに従い長くなるようにしてよい。
【0047】
図3は、ガイドのパスライン対向面において、圧延方向に垂直な方向でのパスラインPLとの距離DXが圧延方向に同一でない場合の傾斜圧延設備の模式図を示す。図3に示す傾斜圧延設備1Aは、図2に示す傾斜圧延設備1と比し、ガイド13A、14Aの形状が異なり、ガイド13A、14Aのパスライン対向面において、パスラインPLとの距離DXが圧延方向に同一でない。
図3に示す例では、パスラインPLと板状のガイドまでの距離DXについて、ロールバイトの最も狭い部分で短く、圧延機出側に向かうに従い長くなる。
【0048】
上記のパスラインPLと板状のガイドまでの距離DXは、保持される管材の形状や圧延条件により適用範囲が変わるが、管の形状や圧延条件は変動があるため、これらと関係が高いプラグ外径DP(圧延方向垂直断面で最大となる外径。略円錐形状である場合のプラグ10の管材挿入方向後端部の外径)で管理することが好ましい。
具体的に、パスラインPLとガイド13、14のパスライン対向面との距離DXの圧延方向における変化量が、プラグ外径の30%以下であることが好ましい。すなわち、ガイド13、14のパスラインPLとの対向面において、圧延方向に垂直な方向(図2におけるX軸方向)の最大変位量(圧延方向で最もパスラインPLから離隔した部位と、最もパスラインPLに近接した部位との間隔)がDPに対して30%以下であることが好ましい。図3に示す例では、最もパスラインPLに近接した部位において、パスラインPLと板状のガイドまでの距離がDX1となる。また、圧延方向で最もパスラインPLから離隔した部位において、パスラインPLと板状のガイドまでの距離がDX2、DX3となる。よって、この例では、DX2-DX1およびDX3-DX1をプラグ外径DPの30%以下とすることが好ましい。
【0049】
ガイド13、14のパスラインPLとの対向面において、上記最大変位量がDPに対して30%以下であれば、パスラインPLと板状のガイドの距離は圧延方向で変化しても管材のふくらみを安定して保持できる。管材の外表面をより強く拘束し、より圧延を安定させるためには、15%以下であることが好ましい。
【0050】
ガイド13、14をパスライン方向に移動させる方法は特に制限はないが、例えば、パスラインPLに平行に固定した直線上のレールガイドに板状のガイドを取り付けて、圧延中にパスラインPL方向(圧延方向)にガイド13、14を移動させ、圧延後、元の位置に戻す方式とすることができる。また、レールガイドはパスラインPLに対して平行であってもよいし、上述したようにパスラインPLとガイドとの距離DXが圧延方向に変化する場合(例えば、ガイドが圧延方向に湾曲した円弧形状を有する場合)には、ガイドの形状に対応した形状を有していてもよい。
【0051】
[傾斜圧延方法、継目無管の製造方法]
次に、本発明の傾斜圧延方法、継目無管の製造方法について説明する。
本発明の傾斜圧延方法は、前述した本発明の傾斜圧延設備1を用いて、被圧延材を圧延する、傾斜圧延方法である。具体的には、管周方向に回転しながら管軸に平行な圧延方向(パスラインPLの方向)に進行する管材を圧延し、継目無管素材を製造する傾斜圧延方法であり、管材の進行に伴い、管材内にプラグ10を挿入し、管材の管周方向に2個配設された圧延ロール11、12を、圧延方向に対し傾斜した回転軸αで回転させることで、管材を回転させながら圧延し、管材の管周方向において圧延ロール11、12間に設置され、圧延方向に沿って延設されたガイド13、14により、プラグ10が挿入された管材を圧延ロール11、12と共に支持し、管材の圧延方向への進行に伴い、ガイド13、14が、圧延方向に移動し、また、管材との間隔を調整する傾斜圧延方法が挙げられる。
【0052】
圧延ロール11、12、プラグ10、ガイド13、14の構成およびその機能については、本発明の傾斜圧延設備1について説明したものと同様である。圧延ロールは、3個以上設置してもよく、また、ガイドは、圧延ロールの個数に応じて設置する個数を決めることができる。傾斜圧延設備1として、中実の丸ビレットに孔をあける穿孔圧延設備と、中空の素管を減肉拡管する設備が挙げられるように、本発明の傾斜圧延方法については、管材を中実の丸ビレットとして穿孔圧延を行ってもよいし、管材を中空の素管として、減肉拡管してもよい。
【0053】
本発明の傾斜圧延を行う前の工程については特に限定されないが、例えば、まず、管材を真空溶解炉で溶製し、その後熱間圧延を行い丸ビレットを得る。その後丸ビレットを1100~1300℃へ再加熱する。その後傾斜圧延としてビレット(被圧延材(管材))の穿孔圧延を行う。また、穿孔圧延後の管材には、減肉拡管圧延を行うことができる。
【0054】
本発明の傾斜圧延方法は、この穿孔圧延および/または減肉拡管圧延の処理において適用することができる。
【0055】
(ガイドに圧延開始前に潤滑剤供給)
本発明の傾斜圧延において、ガイド13、14に潤滑剤を塗布等の方法により供給することができる。これにより、より優れた耐焼き付き性が得られる。また、偏肉をより抑制することもできる。
一方、潤滑剤が圧延ロール11、12に付着すると、摩擦力が低下し、スリップが発生し、圧延安定性を損ねる。そのため、圧延ロール11、12により減肉する範囲、すなわち、プラグ10と近接する領域では、潤滑剤供給用のノズルの設置やガイド13、14への潤滑剤の塗布は行わないことが望ましい。
本発明では、ガイド13、14は圧延方向(パスラインPLの方向)に移動する。この移動に伴い、管材と接触する領域も圧延機入側から出側に移動する。そのため、ガイド13、14の圧延機入側で潤滑剤を供給しておくことで、ガイド13、14の移動に伴い、ガイド13、14と管材との接触部にも潤滑剤が供給されることになる。
また、ガイド13、14の管材のふくらみと接触する範囲は、圧延開始前は圧延方向でプラグ10と同位置の部分よりも圧延設備入側(図2中、Y軸負方向側)にあるため、圧延ロール11、12への飛散を避けながらガイド13、14に潤滑剤を供給することが可能である。
【0056】
ガイド13、14への潤滑剤の供給により、ガイド13、14の冷却効果や、ガイド13、14への入熱の抑制効果が得られ、焼き付きの原因となるガイド表面の最高到達温度を低下させることができる。そのため、特に、焼き付きが顕著になる合金を管材として用いる場合には、圧延ロール11、12に潤滑剤が飛散しないように、圧延設備入側で、ガイド13、14のプラグ先端よりも圧延方向の逆方向側(図2中、Y軸負方向側)に位置する部位に、圧延開始前に潤滑剤を供給することが好ましい。
潤滑剤の成分としては、特に限定されず、黒鉛、窒化ホウ素、鉱物油を含有する黒鉛系潤滑剤を用いることができる。ガイド13、14への潤滑剤の供給量は、特に限定されず、10~500g/mとすることができる。
【0057】
また、本発明の継目無管の製造方法では、上記の傾斜圧延設備を用いて継目無管を製造する。また、本発明の継目無管の製造方法では、上記の傾斜圧延方法により得られた継目無管素材を用いて継目無管を製造する。
【0058】
以上、本発明によれば、圧延の安定性を確保し、耐焼き付き性を優れたものとし、偏肉が抑制された管を製造することが可能となる。得られる管の寸法精度および偏肉率を良好に保つことができ、さらには、焼き付きの抑制による管表面欠陥の抑制とガイドの寿命向上を実現できる。また、本発明によれば、様々な製品サイズや圧延条件において圧延の安定性を確保することができる。
【実施例0059】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0060】
表1に示す成分組成を有する管材を真空溶解炉で溶製し、その後外径Φ200mmの丸ビレットへ熱間圧延した。表2中、No.1~5、10、11、14、15、18、19においては、丸ビレットを1250℃へ再加熱し、傾斜圧延設備を用いて、Φ200mmの丸ビレットを被圧延材として、穿孔圧延を行った。また、表2中、No.6~9、12、13、16、17、20、21においては、既に穿孔圧延がなされた後の素管外径240mmである管を被圧延材(管材)として減肉拡管圧延を行った。
傾斜圧延設備は、図1図2に示すような圧延ロール、プラグ、ガイドを有するものを用いた。
圧延ロールは、最大径1500mmであるロールを利用した。
プラグの外径DPと圧延方向全長LPは図2に示す通りである。
ガイドは、圧延方向全長LG、パスラインとパスライン対向面との距離(入側、ロールギャップが最も狭い部分、出側)、管軸方向(圧延方向)の移動速度VGを測定した。
また、No.5、7、11、13、20、21では、圧延方向でプラグ位置よりも圧延機入側で、黒鉛系の潤滑剤をスプレー噴射により50~100g/mでガイドに供給した。
また、比較例として、No.11では、図1図2に示すガイドに代えて、外径650mmのディスク状のガイドを利用した傾斜圧延設備を用いた。No.11では、回転軸位置は圧延中固定しており、表2におけるVG(mm/s)は、ガイド外表面部の回転速度である。
また、圧延中の圧延ロール垂直荷重RLとガイド垂直荷重GLについて、ロードセルを用いて測定し、GL/RLを計算した。
【0061】
評価としては、まず、得られた継目無鋼管素材の偏肉率の比較を行った。偏肉率は、圧延後の素管軸方向5断面について周方向に16点の肉厚を測定した。そして、その各断面の計16点の平均を算出した。各断面の最大肉厚と最小肉厚の差を平均肉厚で除した値について5断面分計算し、その平均値[%]を算出し、10%以下を合格とした。
また、耐焼き付き性の評価として、圧延後、ガイドの表面を観察し、焼き付きの有無を確認した。
また、圧延安定性の評価として、被圧延材の圧延方向への進行速度を測定し、スリップにより圧延の進行が止まる、あるいは圧延作業中に遅くなることがないかを確認して、スリップの有無を判断した。スリップにより圧延の進行が止まることがなかった場合を優れているとして合格(○)とし、圧延作業中に進行速度が遅くなることもなかった場合をより優れているとして合格(◎)とした。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表2の結果から、本発明例はいずれも優れた耐焼き付き性および圧延安定性を有し、偏肉が抑制されていることが分かった。
これら本発明例のうち、No.2とNo.3とを対比すると、No.3ではVGが7mm/sとより高めであり、VG/VPを0.002超とすることで、偏肉をより抑制し、圧延安定性により優れたものとすることができた。
【0065】
一方、従来の管軸方向(パスライン、圧延方向)に移動しないガイド(No.1、8、17、18、20)や、ディスク状のガイドを用いた条件(No.11)では、焼き付きやスリップの発生が確認され、偏肉率も悪いことが示された。
No.1、8、17、18においては、ガイドが圧延方向に移動しないことにより、焼き付きが発生し、また、圧延効率が低下し、偏肉率も所望の範囲を満足しなかった。
また、No.20においては、この例もガイドが圧延方向に移動しないものの、圧延方向に移動しないガイドへの潤滑剤の使用により焼き付きの発生は抑制できたが、スリップの発生が確認され、圧延効率が低下し、偏肉率は所望の範囲を満足しなかった。
【符号の説明】
【0066】
1 傾斜圧延設備
10 プラグ
11、12 圧延ロール
13、14 ガイド
113、114 ディスク状のガイド
LG ガイドの圧延方向全長
LP プラグの圧延方向全長
図1
図2
図3
図4
図5