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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145613
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】軽量耐熱合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20220926BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038867
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021045003
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(71)【出願人】
【識別番号】391016554
【氏名又は名称】株式会社キグチテクニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】遠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AB03
4K018BA03
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA20
4K018BC12
4K018EA01
4K018EA11
4K018EA21
4K018KA07
(57)【要約】
【課題】耐熱性を有する高強度で軽量なTiAl系合金を低コストで提供すること
【解決手段】 窒素量をN、不可避的不純物として許容する酸素量をO、アルミ量をAl、ニオブ量をNb、クロム量をCr、タングステン量をW、ホウ素量をBとしたときに、%をat%として、1%≦N≦7%、0%≦O≦3%かつO≦N、0.37≦(Al-N-0.5O)/(100-4N-1.5O)≦0.50、6%≦Nb≦14%、0%≦Cr≦6%、0.3%≦W≦2%、0%≦B≦0.3%、であって、さらに合計1%以下のその他元素の混入または添加を許容し、残部がTiにより構成され、かつ、1.0≦(Ti-2N)/(Nb+Cr+W)≦3.5を満たす組成を有することを特徴とする軽量耐熱合金。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素量をN、不可避的不純物として許容する酸素量をO、アルミ量をAl、ニオブ量をNb、クロム量をCr、タングステン量をW、ホウ素量をBとしたときに、%をat%として、
1%≦N≦7%
0%≦O≦3%かつO≦N
0.37≦(Al-N-0.5O)/(100-4N-1.5O)≦0.50
6%≦Nb≦14%
0%≦Cr≦6%
0.3%≦W≦2%
0%≦B≦0.3%
であって、さらに合計1%以下のその他元素の混入または添加を許容し、
残部がTiにより構成され、かつ、
1.0≦(Ti-2N)/(Nb+Cr+W)≦3.5
を満たす組成を有することを特徴とする軽量耐熱合金。
【請求項2】
1000℃~1200℃の範囲内で、所定の引張強度にて引っ張った場合に、引っ張り方向に25%以上伸びるまで破断せず熱間鍛造性に優れることを特徴とする請求項1に記載の軽量耐熱合金。
【請求項3】
窒化物は含み、請求項1に記載の元素比内にある純金属、および/または、合金、および/または、化合物、の混合粉末を原料として、
真空雰囲気にて50MPa以上の加圧下で、最高温度を1200℃以上1400℃以下の所定温度として所定時間保持して反応焼結させ、請求項1に記載の軽量耐熱合金を得ることを特徴とする軽量耐熱合金製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃費向上を追求する自動車や航空機、また、エネルギー産業分野において、高温にさらされる装置部品用の素材として使用される、チタンアルミ系の軽量耐熱合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の代表的な耐熱合金としてNi(ニッケル)基合金があるが、比重が約7.9~8.6(g/cm)と重い。燃費効率向上などの観点から、より軽量の耐熱合金が求められ、約800℃までの熱間比強度(比重あたりの引張強度等)に比較的優れた素材としてTiAl(チタンアルミ)系合金が期待され、適用が試みられてきた。
【0003】
しかしながら、従来のTiAl系合金は、製造しにくく高コストであること、耐熱温度上限がやや低いこと等の問題点があり、広範囲の利用には至っていない。
詳細にはまず、融点が高く溶湯の反応性が高いため、溶融法においては通常のるつぼ溶解が出来ず、真空中のスカル溶解と遠心鋳造、さらにVAR(真空アーク再溶解炉)による再溶解といった特殊設備が必要となり、製造に多大なエネルギーと歩留りロスを生じる欠点があった。
次に、得られたインゴットの熱間加工性は一般的には良好とはいえず、適当なサイズの素材を準備しにくいこともコスト高の要因となってきた。
【0004】
ただし、熱間加工性だけで見れば、各種合金元素の適量添加により高温領域で延性変形しやすいβ相を一定量安定化させたTNM合金などが開発され、実用合金として一定の地位を確立しつつある(なお、β相は、TiAl系合金において格子定数約3.2Åの体心立方構造を有する相である)。
しかし、代表的な鍛造用(β相安定化)TiAl系合金であるTNM合金などについては、800℃以上の温度での高温強度やクリープ強度、耐酸化性などが不足しており、800℃の適用温度が推奨されていない。
従って、用途上重要な指標温度である800℃を含んでそれを超える程度までの適用温度範囲を実現する素材開発が望まれていた。
【0005】
一方、本願発明者らは、先に、文献1、2に示すように、25at%以下の窒素を含有させ、TiAlN相を強化相として分散させたTi-Al-N合金を新規に提案し、原料として金属粉末と窒化物粉末を混合して真空中の加圧反応焼結を用いる簡易な製造方法を示し、更に合金元素としてNb、Crを一定の範囲で添加することによる常温及び高温の強度改善及びβ相安定化による熱間加工性改善の方向性を示した(特願2019-051005、2019-211349)。
【0006】
しかしながら、熱間加工性を確保するために必要なβ相安定化をNbとCrの添加に頼ると、相対的ではあるが、合金比重の増大と靱性低下とを招来してしまう、という問題点を確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2019-051005
【特許文献2】特願2019-211349
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Kastenhuber et al.,"Effect of microstructural instability on the creep resistance of an advanced intermetallic γ-TiAl based alloy", Intermetallics, Vol 80(2017), pp.1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、耐熱性を有する高強度で軽量なTiAl系合金を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1にかかる発明は、窒素量をN、不可避的不純物として許容する酸素量をO、アルミ量をAl、ニオブ量をNb、クロム量をCr、タングステン量をW、ホウ素量をBとしたときに、%をat%として、1%≦N≦7%、0%≦O≦3%かつO≦N、0.37≦(Al-N-0.5O)/(100-4N-1.5O)≦0.50、6%≦Nb≦14%、0%≦Cr≦6%、0.3%≦W≦2%、0%≦B≦0.3%、であって、さらに合計1%以下のその他元素の混入または添加を許容し、残部がTiにより構成され、かつ、1.0≦(Ti-2N)/(Nb+Cr+W)≦3.5を満たす組成を有することを特徴とする軽量耐熱合金である。
0.5OはO×1/2、1.5OはO×3/2である。
【0011】
請求項2にかかる発明は、1000℃~1200℃の範囲内で、所定の引張強度にて引っ張った場合に、引っ張り方向に25%以上伸びるまで破断せず熱間鍛造性に優れることを特徴とする請求項1に記載の軽量耐熱合金である。
【0012】
請求項3にかかる発明は、窒化物は含み、請求項1に記載の元素比内にある純金属、および/または、合金、および/または、化合物、の混合粉末を原料として、真空雰囲気にて50MPa以上の加圧下で、最高温度を1200℃以上1400℃以下の所定温度として所定時間保持して反応焼結させ、請求項1に記載の軽量耐熱合金を得ることを特徴とする軽量耐熱合金製造法である。
【0013】
本発明により、製造しやすく、従来のTiAl合金に比して、高温強度、高温クリープ強度に優れた軽量耐熱合金が得られる。
【0014】
次に、各元素、合金、化合物の添加、混合理由と、その範囲について言及する。以降において元素、合金、化合物の%は特に断らない限り、at%を示すものとする。
【0015】
Nは、TiAl系従来合金対比にて強度向上を目的として含有させる。この効果は、TiAl相(γ相)やβ相に対する窒素の固溶強化と、比較的硬質であるTiAlN相の強化相としての微細分散と、が複合して生じるものである。
1%未満のNでは、他の組成の配合ないし組み合わせにもよるが、TiAlN相の析出強化効果、及び焼結プロセスにおけるAl溶融時の粘性増大効果が不足する。従って、N添加量の下限は1%とする。また、当該窒化物相は過剰な酸素の一部を吸収しその有害性を減じる作用も担っており、O≦Nとする。
一方、Nが7%を超えて多くなると、他の組成の配合ないし組み合わせにもよるが、TiAlNの析出量が25%超となり、硬さが上昇し靭性低下も顕著となり、構造材料としての実用性がかえって低下する。従って、N添加量の上限は7%とする。
【0016】
Oは本合金においては不純物であり少ないほど良い。しかしながら、原料粉末には少量の酸素が不可避的に含まれ、混合その他の取り扱い時にも不可避的に混入する可能性がある。酸素量が窒素量よりも少ない場合には3%以下の混入があっても前述の理由で窒化物がその有害性をある程度減じるため、用途によっては実用材料として成立しうるが、3%を超えると有害性が顕在化してくる可能性が高まる。従って、Oの許容上限は3%とする。ただし、各種材質特性を鑑みた場合、望ましいOの上限は1%である。
【0017】
Alは本合金の主要な構成相であるTiAlN(六方晶系)、TiAl相(γ相、面心立方晶系の規則格子)、および、体心立方晶系のβ相(TiAl型の化学組成、しばしば六方晶系α相であるTiAlと共存する)の比率を決定する要素となる。これら各相に含まれるAl量は、順に約25%、約50%、約30%である。合金を、例えばTiAlN相が15%、γ相が70%、β相が15%となるように設計するのであれば、概算としては、Al量は約43%となる。このように、設計する合金毎にAl量の値はほぼ1点に決まるが、共存する可能性のあるAlOなど少量析出相もあり、また、熱処理等の条件により平衡相の組成も変動するので、ある程度の試作をおこない誤差を含めて最適値を求める必要がある。
本発明においては、Al量は、他の組成の配合ないし組み合わせ、また、上記誤差にもよるが、誤差をおりこんで近似的にNが全量TiAlNの形に、Oが全量AlOの形に析出すると仮定した場合の、これらの析出物を除いた全マトリックス原子の量(原子の数)に占めるAlの割合をN量(原子の数)とO量(原子の数)との関数として、(Al-N-0.5O)/(100-4N-1.5O)と表し、これが0.37以上0.50以下であるようにAlを添加すると、Wの介在下、本合金が軽量でありつつ、好適に、耐熱性を有し、高強度となる。
【0018】
Nb、Cr、Wは、β相を安定化させて材料に靭性を付与する目的として含有させる。各元素は、ほとんどがTiを置き換える形でγ相とβ相に決まった範囲で固溶する。それぞれ効果を発揮するに必要な下限量がある。反対に添加しすぎると別の化合物を形成するなど、硬さ上昇、靭性低下の要因となり、上限量が個別に存在する。実験の結果、各元素添加量の下限と上限は下記の通りとすべきことが分かった。
・Nb:6%~14%
・Cr:0%~6%
・W:0.3%~2%、
・1.0≦(Ti-2×N)/(Nb+Cr+W)≦3.5
上式は、βとγの2相が平衡し安定化する条件である。すなわち、Nb+Cr+WをNb等量と仮に定義し、窒化物として析出している以外のTiつまりTi-2Nを近似的なマトリックスTi等量と定義した場合、βとγの2相が平衡し安定化させるために、上記Nb等量とTi等量の原子量比率として、1.0≦(Ti-2×N)/(Nb+Cr+W)≦3.5が成立するように合金元素量を調整する。
なお、Nbの固溶可能な上限は14%よりかなり高いが、14%より多いと、他の組成の配合ないし組み合わせにもよるが、硬さや比重の顕著な上昇につながるため14%以下とする。
また、Crは強力なβ安定化効果を有するが、本合金の主体となるTiAl相には本来約2%程度しか固溶できず、β相、α2相への固溶限を考慮しても全体として上限6%以下の範囲でしか添加効果は期待できない。一方、Crの下限については、組成の配合条件により、Crのβ相の安定化効果がNbとWで全量代替される場合がありうるので0%以上とする。
Wは、本発明において特に重要な位置づけの元素である。主要な構成相であるTiAlN、γ-TiAl相、β相の3相をいずれも少量の添加で安定化させる効果がある。0.3%未満では十分有効ではなく、2%を超えると密度の上昇などの弊害を生じるので、0.3%≦W≦2%とする。
【0019】
Bは合金内で窒化物として析出するが、比較的軟質なので存在していても機械的特性の劣化要因となりにくい。この窒化物は過剰な酸素を吸着してその有害性を減じる効果なども有するので、他の組成の配合ないし組み合わせにもよるが、0.3%以下として微量を添加するのが好ましい。ただし、必須ではない。
【0020】
本発明の合金においては、特性調整のために上記の元素とTi以外の「その他の元素」の微量添加は許容される。たとえば、CoやMoが挙げられ、CoはTiAl(γ)相の安定化に、Moはβ相の安定性に寄与する。製造装置などからのFeやCなどの微量混入もある程度許容されうる。
ただし、「その他の元素」は有害とならない範囲、すなわち、合計1%以下とする。
【0021】
Tiは、以上の各元素の合計%の残部、すなわち合計%をx%とすると、Ti量は(100-x)%である。
【0022】
本発明の合金は、原料の窒化物と純Alとが反応を促進するため、真空加圧下での焼結が可能となり、溶解法に比べて低コストで製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来のTiAl合金に比べ高強度で熱間加工も可能な軽量耐熱合金を低コストで得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】発明品(実施例1~実施例4)と、従来例(比較例1~比較例3)の化学組成とX線回析、硬さ、比重、及びネジ部加工が必要な引張試験片加工の可否についての実験結果を示した表である。
図2】実施例2の発明品の外観写真である。
図3】実施例2の発明品のミクロ組織写真である。
図4】実施例2の発明品の常温及び高温引張試験結果である。
図5】実施例2の発明品のクリープ試験結果である。
図6】実施例2の発明品のクリープ試験結果のラーソンミラープロットである。
図7】実施例2の発明品のクリープ試験の試験後の外観写真である。
図8】実施例2の発明品の、比重、ヤング率、硬さ、常温引張強さ、800℃クリープ強さについて、従来のTNM合金(Ti-44Al-4Nb-1Mo-0.1B)と比較した表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、本願発明者らの鋭意検討の結果、従来の知見に加えさらにWを一定の組成範囲で添加することで、窒素量は適量配合の範囲内に抑えて比重の増大と靭性低下を最小限に留めつつ、800℃における比強度や比クリープ強度を現用のTiAl系合金以上に高めることが可能であることを発見したことに基づきなした発明である。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。まず、本発明の耐熱軽量合金の組成等を説明し、次に、製造(成形)方法について言及し、その後、各種物性評価について説明する。なお、以降では、本発明の耐熱軽量合金を適宜発明品と称することとする。
【0027】
図1は、発明品の組成と物性等を示した表である。従来の合金も比較例として示している。
はじめに比較例について説明する。
比較例1は、N量を8%とし、NbとCrも多すぎない範囲に抑えて加圧焼結した合金である。ただし、β相が残らず、脆性相であるTiAl相が3番目の主要構成相となっており、全体として脆い(脆さについては、切削加工の可否にて判断した)。
比較例2は、比較例1よりN量を増やし、NbとCrも増量して加圧焼結した合金である。β相が残存し切削加工は可能となったものの、ネジ加工をおこなったところで硬さに由来する欠けが発生した。
比較例3は、比較例2によりさらにNを増やし、β相安定化用にMoも添加して、加圧焼結した合金である。比較例2と同様に切削加工は可能、ネジ加工不可となった。XRDから、脆性相であるTiAl相が8wt%であって、低減効果は未だ十分でなく、また、比重に増加傾向が認められた。
【0028】
これらの比較例から、主要な添加元素がNbとCrのみの場合、β相を安定化させるにはマトリックス中の合金元素の割合を相対的に大きくする必要があるといえる。もしくは、N量を9%以上と多くする必要があるといえる(これは、TiとAl以外の合金元素はTiAlN中には固溶しにくく、マトリックス中のNbやCrの濃度が上がり、結果としてβ相が安定化する)。
しかしながら前者では、比重増の要因となり比強度を損ねてしまう可能性が生じ、後者では、TiAlN由来の硬度上昇および靭性不足の可能性が生じる。
【0029】
実施例1~3は、Wを適量添加することとして加圧焼結し、本発明品である合金を作成したものである。具体的には、Wの添加によりN量を7%以下に抑えつつ、NbとCrに関しても(割合が多くならずに)適正範囲にとどまるように調整した合金である。
組成の観点からは、3番目の主要構成相をβ相とすることが出来た(なお、本発明では、β相は、Ti%+Cr%+Nb%+W%:Al%が概ね2:1の組成比となりやすい)。
硬さは、カケが生じず450HV程度以下に抑えつつ従来TiAl合金よりは硬いものとすることができた。その結果、ネジ加工も問題なく行えることを確認した。
比重も約4.6と軽量であることを確認した。
なお、実施例4については、Nの量を実施例1~3に比して更に少なくし、結晶(各相)のwt%を測定した結果であり、概ね実施例1~3と同様の軽量耐熱合金が得られているといえる。
【0030】
次に、実施例2の発明品について、大型試料の成形と実用特性評価を行なった。
成形については、まず、実施例2の元素比となる純金属及び窒化物の粉末を計量し、十分混合した。続いて、直径120mmΦの型に詰めて、真空引きし、SPS装置をもちいて放電プラズマ焼結をおこなった。このとき、最高保持温度を1300℃×60minとして、当該温度にあるときは50MPaの圧がかかるようにした。得られた円柱形合金の大きさはΦ120mm×60mmである。
なお、焼結の際はSPSでなく、ホットプレスやHIP(熱間静水圧プレス)による加圧焼結をおこなってもよい。
以上のように、本発明品は、特殊な溶解方法や鋳造方法等を用いず合金製造をおこなえるので、安価に原料合金を得ることができるといえる。
【0031】
今回、実際に用いた原料粉末は以下であり、いずれも市販の試薬から適切な純度、品質、粒度のものを選択して用いた。
NbN粉末、BN粉末・純Ti粉末、純Al粉末、純Nb粉末、純Cr粉末、純W粉末
【0032】
図2は、本発明品の焼結体の外観を示した写真である。
成形した試料は、900℃×6h保持+炉冷の熱処理(焼き鈍し)を施し、ワイヤカット放電加工により割り出し、切削、研削、研磨加工を行なって試験片に仕上げた。なお、図7にも示すように、形状が比較的複雑なクリープ試験片への加工は、一般的な鉄鋼加工用機械を用いて室温にて問題なく行なうことが出来た。すなわち、本発明品は、上述した、ワイヤカット放電加工性、切削加工性、研削加工性といった各種加工性に優れた合金であるといえる。反射的に、製造コスト高を招く特殊加工は不要であり、安価に製品製造できるといえる。
【0033】
図3は、試験片断面の光学顕微鏡写真である。
白い雲状に見えるのが発明品に特徴的な強化相TiAlNである。一方、素地すなわちマトリクスの大半はTiAl(γ)相でありマトリクスであるβ相が少量残留している。また、γ相と比較的少量のα相からなるラメラ組織のコロニーが認められた。
【0034】
図4は、発明品の常温及び高温における引張試験結果である。
比強度すなわち比重あたりの引張強度を見ると、常温から900℃まで100MPa/(g/cm)以上の強度が維持されている。特に高温側では、従来の鍛造用TiAl系合金と概ね同等以上の比強度を実現している。
また、高温域では延性にも優れ、特に1000℃~1200℃では恒温鍛造や押出といった熱間加工が可能な特性を有する。
【0035】
図5は、発明品のクリープ試験結果である。
従来の鍛造用TiAl合金などのTNM合金は、800℃以上での長時間稼働用には耐酸化性とミクロ組織安定性の点から推奨されていない。そのため、公表されているクリープデータの最高温度は、800℃-150MPaのものである(図中にプロットしてある)。なお、800℃-150MPaについて熱処理条件を振った最長寿命としては、非特許文献1に194hが示されている(同様にプロットしてある)。
一方、発明品では、850℃-100MPaにて試験がおこなえ、さらには、850℃-200MPaについても正常な試験をおこなえることを確認した。特に、800℃-150MPa評価では、試験時間(破断時間)は514.7hであり、従来のTNM合金に比して、実に2.5倍以上の寿命であることがわかった(図8参照)。
【0036】
図6は、クリープ試験結果に基づいてラーソンミラーパラメータをプロットした図である。図では、同じく各種耐熱合金に関するラーソンミラーパラメータをプロットしてある。なお、各種耐熱合金のデータは、Roger C Reed著”SuperAlloys”のFig.1.16図に基づく。
発明品のクリープ強度は、特殊な鋳造合金や単結晶合金には及ばないが、鍛造用多結晶合金の範疇として比較すると、驚くべきことに、従来のTiAl合金のみならずNi基合金とも比肩する合金であるといえる。
【0037】
図7は、クリープ試験後の外観を示した写真である。850℃-100MPaの試験片は、色調から表面酸化が認められるものの、258.9hの破断寿命を示して正常であり、従来の鍛造用TiAl合金に比べて耐酸化性にも優れていることが確認できた。
【0038】
図8は、実施例2の発明品の、比重、ヤング率、硬さ、常温引張強さ、800℃クリープ強さについて、従来のTNM合金(Ti-44Al-4Nb-1Mo-0.1B)と比較した表である。
比重は従来品より約10%大きいが、Ni基合金と比べれば十分な軽量化メリットを有するといえる。
ヤング率は強化相のTiAlNの存在により従来品よりも高く、Ni基合金やFe基合金に近い値となっている。
硬さもN添加により従来品よりも高い。
室温における引張強さは同等といえ、800℃(150MPa)クリープ試験も、前述したように従来品より2.5培の寿命がある。
【0039】
以上説明したように、本発明は、従来のTiAl合金に比べ高強度で熱間加工も可能な軽量耐熱合金を低コストで得る事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、良好な熱間加工性や冷間加工性があり、剛性が高く、硬度も高軽量合金である。従って、燃費向上が要求される自動車や航空機、また、エネルギー産業分野において、高温にさらされる装置部品用素材として有用である。その他、ロケットや衛星の部品への応用も可能である。硬度の観点からは、高温下も含めて耐摺動摩耗性を要求される部材への応用も可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8