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特開2022-145622抗癌剤、医薬品組成物及び飲食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145622
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】抗癌剤、医薬品組成物及び飲食品組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/22 20060101AFI20220926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20220926BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220926BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220926BHJP
【FI】
C07D311/22 CSP
A61P35/00 ZNA
A61K31/352
A61P5/28
A23L33/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040423
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021044121
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591060289
【氏名又は名称】岐阜市
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100201710
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 尚仁
(72)【発明者】
【氏名】山口 英士
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD61
4B018MD94
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF10
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新しい抗癌剤、並びにこれを用いた医薬品組成物、及び飲食品組成物を提供すること。
【解決手段】本発明では、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を提供する。

(一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、1価の置換基である。)
また、本発明では、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する、DHRS11(短鎖型脱水素酵素/還元酵素スーパーファミリーメンバー11)阻害剤、及び/又は、AR(アンドロゲン受容体)発現抑制剤なども提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
(一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、1価の置換基である。)
【請求項2】
前記Rは、ヒドロキシ基、又は(C-C)アルコキシ基である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する、DHRS11(短鎖型脱水素酵素/還元酵素スーパーファミリーメンバー11)阻害剤、及び/又は、AR(アンドロゲン受容体)発現抑制剤。
【化1】
(一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、1価の置換基である。)
【請求項4】
癌の予防及び/又は治療に用いられる、請求項3に記載のDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤。
【請求項5】
前記癌は、前立腺癌、尿路上皮癌、又は乳癌である、請求項4に記載のDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤。
【請求項6】
前記乳癌は、トリプルネガティブ乳癌である、請求項5に記載のDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤。
【請求項7】
請求項3から6のいずれかに記載のDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤を含む、医薬品組成物。
【請求項8】
請求項3から6のいずれかに記載のDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤を含む、飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤、医薬品組成物、及び飲食品組成物に関する。より詳しくは、優れたDHRS11阻害活性、及び/又は、AR発現抑制活性を有する、新規化合物、DHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤、並びにこれを用いた医薬品組成物及び飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界的に主な死亡原因のトップであり、癌の予防及び/又は治療を目指した新規抗癌剤の開発が急務とされている。近年、治療奏効率の優れた抗癌剤が開発されてはいるが、その大半は抗体医薬である。抗体医薬は、癌細胞表面の抗原に直接作用するために高い効果が得られる反面、大量生産が困難である等の理由から、その高い薬価が問題となっている。したがって、金銭上の理由から、抗体医薬による治療を選択できない患者も多く存在する。
【0003】
そのため、大量生産が容易であり、比較的安価である新規抗癌剤の開発が望まれている。ここで、本願発明者らの研究グループは、特許文献1に示すように、低分子化合物でありながらも、癌細胞の増殖・成長等に関与するAKR1C3(Aldo-Keto Reductase Family 1 Member C3)に対し、高い阻害活性を有する新規化合物を同定した。
【0004】
また、近年、腫瘍の多様性が明らかとなり、一概に癌と言っても、癌を構成する細胞は1種類ではなく、異なる性質を有する細胞からなるヘテロな集団であることが明らかとなりつつある。そのため、例えば前立腺癌などのアンドロゲン依存性癌であっても、アンドロゲンの合成に関わる各反応の主酵素が異なると考えられる。しかしながら、例えば、これまでにアンドロゲンの合成に関わる酵素の一つであるDHRS11(Dehydrogenase/Reductase SDR Family Member 11;短鎖型脱水素酵素/還元酵素スーパーファミリーメンバー11)阻害剤について言えば、ほとんど発表されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-20966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、抗癌剤として用いられ得る低分子化合物に関する研究開発は未だ十分でない。
【0007】
このような実情のもと、本発明では、新しい抗癌剤、並びにこれを用いた医薬品組成物及び飲食品組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明では、まず、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を提供する。
【化1】
(一般式(1)中、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、1価の置換基である。)
本発明では、前記Rは、ヒドロキシ基、又は(C-C)アルコキシ基であってもよい。
また、本発明では、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する、DHRS11(短鎖型脱水素酵素/還元酵素スーパーファミリーメンバー11)阻害剤、及び/又は、AR(アンドロゲン受容体)発現抑制剤も提供する。
前記DHRS11阻害剤、及び/又は、前記AR発現抑制剤は、癌の予防及び/又は治療に用いられてもよい。この場合、前記癌は、前立腺癌、尿路上皮癌、又は乳癌であってもよい。また、この場合、前記乳癌は、トリプルネガティブ乳癌であってもよい。
更に、本発明では、前記DHRS11阻害剤、及び/又は、前記AR発現抑制剤を含む、医薬品組成物及び飲食品組成物も提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新しい抗癌剤、並びにこれを用いた医薬品組成物及び飲食品組成物を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コウボウムギ(Carex kobomugi)の花部から抽出された各成分を示す図である。
図2】DHRS11阻害活性を説明する図である。
図3】各前立腺癌細胞におけるAKR1C3及びDHRS11のタンパク質発現を説明する図である。
図4】各乳癌細胞におけるAKR1C3、DHRS11、及びARのmRNA発現を説明する図である。
図5】前立腺癌C4-2細胞における化合物CK2のアンドロゲンシグナル抑制効果を説明する図である。Aは48時間処理における生細胞数、BはAR下流シグナルの発現、CはAR核内移行、Dは核内AR発現を示している。B及びCにおいて、**:p < 0.01 vs DMSOであり、##:p < 0.01 vs Adione aloneである。
図6】各前立腺癌細胞における化合物CK2によるAR発現抑制効果を説明する図である。AはC4-2細胞におけるAR mRNA発現、BはLNCaP細胞におけるAR mRNA発現、CはC4-2細胞におけるARタンパク質発現、DはLNCaP細胞におけるARタンパク質発現、 Eは22Rv1細胞におけるARとAR V7のmRNA発現、Fは22Rv1細胞におけるARとARスプライシングバリアントのタンパク質発現を示している。A~Eにおいて、**:p < 0.01 vs DMSOである。
図7】前立腺癌LNCaP細胞における化合物CK2によるアンドロゲンシグナルの抑制を説明する図である。AはAR下流シグナルの発現、Bは核内AR発現、CはAR核内移行を示している。A及びCにおいて、**:p < 0.01 vs DMSOであり、##:p < 0.01 vs Adione aloneである。
図8】トリプルネガティブ乳癌MDA-MB-453細胞におけるAR発現抑制効果を説明する図である。AはARタンパク質発現、BはAR核内移行を示している。Aにおいて、**:p < 0.01 vs DMSOであり、##:p < 0.01 vs Trione aloneである。
図9】化合物CK2によるAR発現抑制効果を説明する図である。
図10】化合物CK2によるアンドロゲンシグナル制御効果を説明する図である。
図11】化合物CK2によるAKT阻害剤であるcapivasertibに対する相乗効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
1.上記一般式(1)で表される化合物又はその塩
本発明に係る化合物は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩である。
本発明に係る化合物は、アンドロゲン合成に関わる酵素の一つであるDHRS11阻害活性を示す。また、本発明に係る化合物は、アンドロゲン受容体(Androgen receptor;AR)の発現も抑制する。したがって、本発明に係る化合物は、特に、アンドロゲンシグナルが関与する各種症状又は疾患の予防及び/又は治療に有用である。
【0013】
上記一般式(1)において、R、R、R、R、及びRは、各々独立して、1価の置換基である。
1価の置換基としては、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルファニル基、アミノ基、アシル基、(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキル基、(C-C)アルキルカルボニル基、ハロ(C-C)アルキルカルボニル基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキルカルボニル基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキルカルボニル基、(C-C)アルコキシ基、ハロ(C-C)アルコキシ基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ基、(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、(C-C)アルケニル基、(C-C)アルキニル基、(C-C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C-C)アルコキシカルボニル基、ヒドロキシ(C-C)アルキル基、(C-C)アルキルチオ基、(C-C)アルキルスルフィニル基、(C-C)アルキルスルホニル基、ハロ(C-C)アルキルチオ基、ハロ(C-C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C-C)アルキルスルホニル基等が挙げられる。
【0014】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0015】
(C-C)アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ターシャリーペンチル基、ネオペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキル基を示す。
【0016】
(C-C)シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3~6個の環状のアルキル基を示す。
【0017】
(C-C)アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、ノルマルプロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、ノルマルブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、セカンダリーブチルカルボニル基、ターシャリーブチルカルボニル基、ノルマルペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、ターシャリーペンチルカルボニル基、ネオペンチルカルボニル基、2,3-ジメチルプロピルカルボニル基、1-エチルプロピルカルボニル基、1-メチルブチルカルボニル基、2-メチルブチルカルボニル基、ノルマルヘキシルカルボニル基、イソヘキシルカルボニル基、2-ヘキシルカルボニル基、3-ヘキシルカルボニル基、2-メチルペンチルカルボニル基、3-メチルペンチルカルボニル基、1,1,2-トリメチルプロピルカルボニル基、3,3-ジメチルブチルカルボニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルカルボニル基を示す。
【0018】
(C-C)アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、セカンダリーブトキシ基、ターシャリーブトキシ基、ノルマルペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ターシャリーペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチルプロピルオキシ基、1-エチルプロピルオキシ基、1-メチルブチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、1,1,2-トリメチルプロピルオキシ基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルコキシ基を示す。
【0019】
(C-C)アルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数2~6個のアルケニル基を示す。
【0020】
(C-C)アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数2~6個のアルキニル基を示す。
【0021】
(C-C)アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ノルマルプロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ノルマルブトキシカルボニル基、セカンダリーブトキシカルボニル基、ターシャリーブトキシカルボニル基、ノルマルペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ターシャリーペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、2,3-ジメチルプロピルオキシカルボニル基、1-エチルプロピルオキシカルボニル基、1-メチルブチルオキシカルボニル基、ノルマルヘキシルオキシカルボニル基、イソヘキシルオキシカルボニル基、1,1,2-トリメチルプロピルオキシカルボニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルコキシが結合しているカルボニル基を示す。
【0022】
ヒドロキシ(C-C)アルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基等の1又は2以上の水酸基が置換している直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキル基を示す。
【0023】
(C-C)アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、セカンダリーブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ノルマルペンチルチオ基、イソペンチルチオ基、ターシャリーペンチルチオ基、ネオペンチルチオ基、2,3-ジメチルプロピルチオ基、1-エチルプロピルチオ基、1-メチルブチルチオ基、ノルマルヘキシルチオ基、イソヘキシルチオ基、1,1,2-トリメチルプロピルチオ基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルチオ基を示す。
【0024】
(C-C)アルキルスルフィニル基としては、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ノルマルプロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、ノルマルブチルスルフィニル基、セカンダリーブチルスルフィニル基、ターシャリーブチルスルフィニル基、ノルマルペンチルスルフィニル基、イソペンチルスルフィニル基、ターシャリーペンチルスルフィニル基、ネオペンチルスルフィニル基、2,3-ジメチルプロピルスルフィニル基、1-エチルプロピルスルフィニル基、1-メチルブチルスルフィニル基、ノルマルヘキシルスルフィニル基、イソヘキシルスルフィニル基、1,1,2-トリメチルプロピルスルフィニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルスルフィニル基を示す。
【0025】
(C-C)アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ノルマルブチルスルホニル基、セカンダリーブチルスルホニル基、ターシャリーブチルスルホニル基、ノルマルペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、ターシャリーペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、ノルマルヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルスルホニル基を示す。
【0026】
なお、本発明において、「ハロ」とは、「ハロゲン原子」を意味し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示す。また、(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル基、(C-C)アルキルカルボニル基、及び(C-C)アルコキシカルボニル基の水素原子が置換され得る位置において、水素原子が1又は2以上のハロゲン原子によって置換されていてもよく、置換するハロゲン原子が2以上の場合は、ハロゲン原子は同一又は異なっていてもよい。
1又は2以上のハロゲン原子が置換された置換基は、それぞれ、ハロ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル基、ハロ(C-C)アルキルカルボニル基、及びハロ(C-C)アルコキシカルボニル基と示される。
【0027】
本発明において、「(C-C)」、「(C-C)」、「(C-C)」等の表現は、各種置換基の炭素原子数の範囲を示す。更に、前記置換基が連結した基についても、前述の定義で示すことができ、例えば、(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基の場合は、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~6個のアルコキシ基が、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~6個のアルキル基に結合していることを示す。
【0028】
本発明では、これらの中でも特に、前記Rとして、ヒドロキシ基、又は(C-C)アルコキシ基であることが好ましい。
【0029】
なお、本発明において、「塩」とは、例えば薬学的に許容される塩であり、これは、親化合物(塩フリーの化合物)の生物学的有効性を備え、生物学的に無毒性か、若しくは生物学的に毒性の低い無機又は有機の酸又は塩基の付加塩をいう。
このような塩としては、例えば、塩酸、硫酸等との無機酸付加塩;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等との有機酸付加塩;ナトリウム、カリウム等とのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等とのアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミン等との有機アミン塩等が挙げられる。
なお、上記の例示は、「薬学的に許容される塩」が限定解釈されるために用いられるべきではない。すなわち、「薬学的に許容される塩」とは、広義に解釈されるべきであり、各種の塩を含む広い概念である。
【0030】
本発明に係る化合物は、従来公知の合成法により調製することができる。また、後述する実施例に示すように、天然物から抽出・単離してもよい。本発明に係る化合物は、上記一般式(1)に示す通り、低分子化合物であることから、比較的安価に製造できるという利点を有する。そのため、化学合成が容易であり、大量生産にも耐えられるため、患者の治療機会の向上や、医療費の削減にも繋がる。
【0031】
2.DHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤
本発明に係るDHRS11阻害剤、及び/又は、AR発現抑制剤(以下、単に「本発明に係る剤」とも称する。)は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を少なくとも有効成分として含有する。
【0032】
本発明において、「DHRS11阻害剤」とは、DHRS11を阻害する剤を意味する。また、「AR発現抑制剤」とは、ARの発現を抑制する剤を意味する。
本発明に係る剤は、DHRS11及び/又はARが関与する各種症状又は疾患のための予防及び/又は治療薬として使用することができる。また、研究用試薬として使用できる他、診断用試薬等にも使用できる。
【0033】
本発明に係るDHRS11阻害剤は、DHRS11の阻害を介してアンドロゲンの合成を抑制するため、例えばアンドロゲン依存性癌細胞の増殖抑制などの目的で用いることができる。また、本発明に係るAR発現抑制剤は、ARの発現抑制を介して、例えばプロテインキナーゼB(AKT)阻害剤の抗癌活性を増強することができる。したがって、本発明に係る剤は、アンドロゲンシグナルが関与する癌の予防及び/又は治療として用いられ得る。
【0034】
なお、本発明において、「癌」とは、広義に解釈され、「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち、腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。一般的に、癌はその発生の母体となった臓器の名、或いは発生母組織の名で呼ばれ、例えば、舌癌、歯肉癌、咽頭癌、上顎癌、喉頭癌、唾液腺癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、甲状腺癌、副腎癌、脳下垂体腫瘍、松果体腫瘍、子宮癌、卵巣癌、膣癌、腎臓癌、前立腺癌、尿路上皮癌、網膜芽細胞腫、結膜癌、神経芽腫、神経膠腫(グリオーマ)、神経膠芽腫(グリオブラストーマ)、皮膚癌、髄芽種、白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫等が挙げられる。そして、発生臓器の部位の特徴によって、上・中・下咽頭癌、上部・中部・下部食道癌、胃噴門癌、胃幽門癌、子宮頚癌、子宮体癌等に細分類されているが、これらは限定的ではなく、本発明の「癌」としての記載に含まれ得る。
【0035】
なお、本発明において、「予防」とは、対象における症状又は疾患の発症(再発も含む。)の防止若しくは遅延、又は対象における症状又は疾患の発症の危険性の低下等の意味も含む。また、「治療」とは、対象における症状又は随伴症状の緩和(軽症化)、症状悪化の防止若しくは遅延等の意味を含む。
【0036】
本発明に係る剤は、好ましくは、アンドロゲンシグナルとの関与が報告されている前立腺癌、尿路上皮癌、又は乳癌の予防及び/又は治療に用いられる。なお、「尿路上皮癌」は、尿路上皮から生じる腫瘍の総称であり、膀胱癌、腎盂癌、尿管癌、及び尿道癌を含む。
【0037】
また、乳癌は、その性質毎に複数のサブタイプに分類されるが、本発明に係る剤は、特に、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)に対して有用である。トリプルネガティブ乳癌は、乳癌の治療標的となり得るER(estrogen receptor:エストロゲン受容体)、PgR(progesterone receptor:プロゲステロン受容体)、及びHER2(human epidermal receptor 2:上皮成長因子受容体2/ハーツー)の3つの受容体が欠如しているため、治療標的の欠如に起因する難治性の癌であり、他のタイプの乳癌と比較して予後が不良であることが知られている。
【0038】
本発明に係る剤は、有効成分である上記一般式(1)で表される化合物又はその塩のみからなるものであってもよく、該有効成分とそれ以外の任意の成分を含んでいてもよい。
【0039】
本発明に係る剤の製剤化は、従来公知の方法により行うことができる。製剤化する場合には、例えば、製剤上許容され得る他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水など)等を含有させることができる。
【0040】
本発明に係る剤を製剤化する場合の剤形も、特に限定されない。剤形としては、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤、座剤等が挙げられる。
【0041】
本発明に係る剤には、本発明の効果が奏されるために必要な量(すなわち、治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明に係るDHRS11阻害剤中の有効量は、一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるような有効量(例えば0.01重量%~約100重量%の範囲内など)を適宜設定する。また、対象は、通常ヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ等の家畜、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、サル等の実験動物も含む。
【0042】
本発明に係る剤は、その剤形に応じて、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。なお、これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。また、全身投与によらず、局所投与することにしてもよく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などを利用してもよい。
【0043】
3.医薬品組成物
本発明に係る医薬品組成物は、本発明に係る剤を少なくとも含む。
【0044】
本発明に係る医薬品組成物は、有効成分である本発明に係る剤の他、抗癌剤等の他の有効成分や、それ以外の任意の成分を含んでいてもよい。
なお、本発明において、「抗癌剤」とは、標的の疾病乃至病態である、癌に対する予防及び/又は治療効果を示す薬剤のことを意味する。また、既存の抗癌剤はもとより、開発中の抗癌剤や、今後開発される抗癌剤も含む広い概念である。
【0045】
本発明に係る医薬品組成物の製剤化は、従来公知の方法により行うことができる。製剤化する場合には、例えば、前述した製剤上許容される他の成分などを含有させることができる。本発明に係る医薬品組成物を製剤化する場合の剤形も、本発明に係るDHRS11阻害剤と同様、特に限定されない。また、抗癌剤等の他の有効成分と併用する場合は、抗癌剤等との合剤としてもよい。
【0046】
本発明に係る医薬品組成物には、治療及び/又は予防効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。有効成分の量は、それが使用される対象の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0047】
本発明に係る医薬品組成物は、その剤形に応じて、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によ
って対象に適用される。なお、これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。また、全身投与によらず、局所投与することにしてもよく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などを利用してもよい。
【0048】
本発明に係る医薬品組成物の投与量は、対象の症状、健康状態、年齢、性別、体重などによって変動し得るが、当業者により適宜設定することができる。投与スケジュールも、例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回など、当業者により適宜設定することができる。また、投与スケジュールの設定においては、対象の症状等や、有効成分の効果持続時間などを考慮できる。
【0049】
4.飲食品組成物
本発明に係る飲食品組成物は、本発明に係る剤を少なくとも含む。
【0050】
本発明に係る飲食品組成物としては、例えば、一般食品(例えば、穀類、野菜、食肉、各種加工食品など)、菓子類(例えば、クッキー、ビスケット、ゼリー、飴、グミなど)、飲料(例えば、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料など)、栄養補助食品(例えば、サプリメント、栄養ドリンクなど)、食品添加物等が挙げられる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供できる。飲食品組成物の形態で提供することにより、本発明に係る剤を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
【0051】
本発明に係る飲食品組成物には、予防及び/又は治療効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。また、有効成分の量は、それが使用される対象の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【実施例0052】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0053】
<実験例1>
図1に、コウボウムギ(Carex kobomugi)の花部から単離・同定された8成分を示す。本実験例1では、これら8成分について、アンドロゲン合成に関わるDHRS11阻害活性を検討した。
【0054】
DHRS11の脱水素酵素活性は、以下の反応系におけるNADPHの分解速度を分光光学的(Ex.340 nm、Em. 455 nm)に測定した。標準反応系は、0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 7.4)、0.1 mM NADPH、80 μM Diacetyl 及び酵素を含む全量2.0 mLとした。酵素活性1 unit(U)は、25 ℃において1分間に1 μmolのNADPHを生成する酵素量とした。阻害剤のIC50値は、標準反応系に5点の異なる濃度の阻害剤を添加した時の阻害率から算出した。これらの阻害定数は少なくとも3回以上の測定の平均値 ± 標準偏差で表した。
【0055】
また、図1中の化合物CK2には3つの水酸基が存在するため、一部メチル化した誘導体CK2A及びCK2B(図2参照)の評価も同様に行った。
【0056】
本実験例1の結果から、化合物CK2のみが0.350 μMのIC50値を示し、強いDHRS11阻害活性を示すことが明らかとなった。また、化合物CK2を一部メチル化した誘導体CK2AとCK2Bの評価も行ったところ、両化合物ともに阻害活性を示さなかった。
【0057】
<実験例2>
本実験例2では、化合物CK2について詳細な評価を行うために、新規に有機合成を行った。
【0058】
【化2】
【0059】
アルデヒドI(1.96 g, 12 mmol)とアセトフェノンII(2.10 g, 10mmol)をエタノール(40 mL)に60 ℃で加熱撹拌し、溶解させた。その後4 M NaOH 水溶液(5mL)を加え加熱還流条件下、一晩反応させた。反応溶液を室温で放冷し、反応溶液を濃縮した。残渣を水(20 mL)で希釈し、酢酸エチル(30 mL x 3)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後濾過し、濃縮した。得られた粗生成物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶し目的化合物IIIを収率88%(3.12 g)で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 7.68-7.39 (m, 4H), 6.93-6.87 (m, 4H), 5.99 (s, 1H), 3.95 (s, 3H), 2.90 (s, 3H), 3.85 (s, 3H), 2.04 (s, 3H).
【0060】
【化3】
【0061】
化合物III(354 mg, 1.0 mmol)とヨウ素(0.1 mmol, 25.6 mg)をDMSO中120 ℃で14時間加熱撹拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム水溶液(10 mL)を加えた後、酢酸エチル(30 mL x 3)で抽出し食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し濃縮した。粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3)で単離生成し、目的化合物IVを収率82%(288 mg)で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 7.55 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.60 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.40 (s, 1H), 6.14 (s, 1H), 3.99 (s, 3H), 3.96 (s, 3H), 3.86 (s, 3H), 2.32 (S, 3H).
【0062】
【化4】
【0063】
化合物IV(564 mg, 1.6 mmol)のジクロロメタン溶液を-78 ℃に冷却しBBr3(1M in DCM, 6.4 mmol)を滴下し、そのまま1時間反応させた。その後、重曹水溶液(30 mL)を加
え、ジクロロメタン(40 mL x 3)で抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し濃縮した。
粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH= 100 :1)で単離生成し、目的化合物Vを収率74%(400 mg)で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 7.59-7.53 (m, 3H), 6.95 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.40 (s, 1H), 6.14 (s, 1H), 3.92 (s, 3H), 3.88
(s, 3H), 2.92 (S, 3H).
【0064】
【化5】
【0065】
化合物V(67.6 mg, 0.2 mmol)とBBr3(1M in DCM, 0.4 mmol)をジクロロメタンに溶
解させた。その後室温下、撹拌し一晩反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮した。残渣をVLC(CHCl3 : MeOH = 9 : 1)で精製し、目的生成物VI(=化合物CK2)を収率68%(44.6 mg)で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) d 12.85 (s, 1H), 7.59 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.54 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 8.3 Hz, 1H),
6.29 (s, 1H), 6.28 (s, 1H), 2.21 (s, 3H).
【0066】
<実験例3>
本実験例3では、前立腺癌細胞株(LNCaP、C4-2、及び22Rv1)を用いて、各細胞株における17β-hydroxysteroid dehydrogenase(17β-HSD)であるDHRS11とAKR1C3の発現をウエスタンブロット法で確認した。
【0067】
[ウエスタンブロット法]
各前立腺癌細胞(LNCaP、C4-2、及び22Rv1)は、それぞれ37℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/mL penicillin-G potassium、100 μg/mL streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液(pH 7.0)を含むRPMI1640を用いた。各細胞を1×106 cells/dishで6 cm dishに播種し、24時間後にFBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物を終濃度10 μMで添加した。24時間培養後に細胞をDPBSでセルスクレイパーを用いて回収し、以下のようにウエスタンブロットに供した。細胞ペレットを8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferで懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離(15,000 x g、15分間、4 ℃)し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、DHRS11又はAKR1C3に対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit(GE healthcare社)を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH社)を用いて解析した。
【0068】
本実験例3の結果から、アンドロゲン代謝経路における17β-ヒドロキシステロイド脱
水素酵素反応を触媒する2種の酵素AKR1C3とDHRS11の発現量を評価したところ、AKR1C3は22Rv1細胞のみで高発現しており、一方で、DHRS11はLNCaP細胞、C4-2細胞、22Rv1細胞の
全ての細胞で発現が認められることが分かった。
【0069】
<実験例4>
本実験例4では、乳癌細胞株(MCF7、MDA-MB-231、及びMDA-MB-453)を用いて、各細胞株におけるARと2種の17β-HSD(DHRS11及びAKR1C3)のmRNA発現を半定量PCR法で確認した。
【0070】
[半定量PCR法]
total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし、逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA(cDNA)を調製した。調製したcDNA(1 μg)を鋳型とし、Quick Taq HS DyeMix DNA polymerase(東洋紡社)を用いた半定量PCR法を行った。CFX96 Deep Well Real-Time System(BIO RAD社, Hercules, CA, USA)を用い、次の温度条件にてPCR反応を行った。すなわち、95 ℃/30秒の熱処理後、95 ℃/15秒、55 ℃/1分を1サイクルとして40サイクルの熱処理を行った。増幅したPCR産物を2% アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイド染色し、ultraviolet(UV)照射下にて検出した。内標準物質として、ヒトβ-actinのcDNAを増幅した。AKR1C3、DHRS11、ARとβ-actinの特異的プライマーの配列は、下記表1に記載した。
【0071】
【表1】
【0072】
本実験例4の結果から、前立腺癌細胞株の中でAKR1C3の発現レベルが低いLNCaP細胞と比較しても3種の乳癌細胞株におけるAKR1C3の発現は低く、特に、MDA-MB-453細胞では検出限界以下であることが分かった。一方で、いずれの乳癌細胞株においてもDHRS11の発現が認められることが分かった。また、ARはMCF7細胞とMDA-MB-453細胞で発現していたが、MDA-MB-231細胞での発現レベルは低いことが分かった。
【0073】
したがって、前立腺癌細胞LNCaP及びC4-2、並びに3種の乳癌細胞(MCF7、MDA-MB-231
、及びMDA-MB-453)ではDHRS11が主要な17β-HSDとして機能し、前立腺癌細胞22Rv1ではAKR1C3とDHRS11の両酵素が、17β-HSDとして機能することが示唆された。
【0074】
<実験例5>
DHRS11は、5α-androstane-3,17-dione(Adione)から5α-dihydrotestosterone(DHT)への還元反応を触媒することが知られている。本実験例5では、DHRS11とARを共に発現している前立腺癌細胞株C4-2を用いてアンドロゲンシグナルに及ぼす化合物CK2の影響を検討した。
【0075】
[生細胞数測定]
増殖培地に懸濁したC4-2細胞を96-well multiplate中に2×104 cells/200 μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加し、更に24時間培養した。対照群としてdimethyl sulfoxide(DMSO)を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40μM resazurinを添加し、37℃で2-4時間培養した後、マイクロプレートリーダー Model680(BIO RAD社)を用いて、波長570 nm及び600 nmの吸光度を測定した。細胞生存率(%)は以下の数式(1)により算出した。
【0076】
【数1】
【0077】
[定量PCR法]
total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし、逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA(cDNA)を調製した。調製したcDNA(1 μg)を鋳型とし、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix試薬(東洋紡社)と特異的プライマーを用いた定量PCR法を行った。定量PCRにはCFX96 Deep Well Real-Time System(BIO RAD社)を用い、次の温度条件にて熱処理した。すなわち、94 ℃/5分の熱処理後、94 ℃/30秒の変性、55 ℃/30秒のアニーリング、72 ℃/1分の伸長を1サイクルとした。PSA、TMPRSS2とβ-actinの特異的プライマーの配列は、下記表2に記載した。
【0078】
【表2】
【0079】
[AR核内移行評価]
細胞抽出液中の核タンパク質と細胞質タンパク質はLysoPure Nuclear and Cytoplasmic
Extractor Kit(WAKO社)を用い、プロトコールに従い分離した。核画分と細胞質画分の分離は、それぞれ核特異的に発現するhistone H1と細胞質特異的に発現するα-tubulinの抗体を用いたウエスタンブロット解析にて確認した。分離した各画分を用いて、ウエスタンブロットに供した。
【0080】
[蛍光免疫染色]
増殖培地に懸濁したC4-2細胞を24-well multiplate中に2×104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物CK2を添加した。2時間後に10 nM 4-androstenedione(Adione)でアンドロゲンシグナルを誘導し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄した。4% paraformaldehyde phosphate buffer solution 300 μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300 μLを加え、10分間静置した。0.1% Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300 μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体(抗AR抗体)液中に、4℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 : 1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤(DAPI fluoromount-G)を用いて、カバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700(Carl Zeiss社)にセットし、蛍光観察を行った。
【0081】
本実験例5の結果から、化合物CK2をC4-2細胞に48時間処理したところ、10 μMの濃度で生細胞数を20%程度低下させたことが分かった。また、24時間処理では5 μMで生細胞数を低下させなかったことから、以後の検討では5 μM CK2を24時間処理した。更に、アンドロゲンシグナルの誘導に10 nM Adioneを用いた場合において、AR下流で発現誘導されるPSAとTMPRSS2の発現は亢進し、この発現上昇は化合物CK2の前処理によって有意に抑制されることが分かった。
【0082】
加えて、細胞質と核におけるAR発現量の比を検討したところ、アンドロゲンによってARの核/細胞質比は有意に増大し、化合物CK2によって抑制されることが分かった。また、この傾向は、免疫蛍光染色でも確認された。
【0083】
<実験例6>
本実験例6では、他の前立腺癌細胞株においてもAR発現を低下させるのかどうか検討した。
【0084】
[定量PCR法]
total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし、逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA(cDNA)を調製した。調製したcDNA(1 μg)を鋳型とし、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix試薬(東洋紡社)と特異的プライマーを用いた定量PCR法を行った。定量PCRにはCFX96 Deep Well Real-Time System(BIO RAD社)を用い、次の温度条件にて熱処理した。すなわち、94 ℃/5分の熱処理後、94 ℃/30秒の変性、55 ℃/30秒のアニーリング、72 ℃/1分の伸長を1サイクルとした。AR、AR V7とβ-actinの特異的プライマーの配列は、下記表3に記載した。
【0085】
【表3】
【0086】
[ウエスタンブロット法]
各前立腺癌細胞(LNCaP、C4-2、及び22Rv1)は、それぞれ37℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/mL penicilli
n-G potassium、100 μg/mL streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液(pH 7.0)を含むRPMI1640を用いた。各細胞を1×106 cells/dishで6 cm dishに播種し、24時間後にFBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物を終濃度10 μMで添加した。24時間培養後に細胞をDPBSでセルスクレイパーを用いて回収し、以下のようにウエスタンブロットに供した。細胞ペレットを8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferで懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離(15,000 x g、15分間、4 ℃)し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、AR、AR Vs、又はAR V7に対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit(GE healthcare社)を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH社)を用いて解析した。
【0087】
本実験例6の結果から、化合物CK2は、用量依存的にC4-2細胞とLNCaP細胞のmRNAとタンパク質発現を低下させることが分かった。また、22Rv1細胞では、ARのスプライシングバリアントで恒常的なアンドロゲンシグナルの活性化に関与するAR Vs、及びARV7の発現も低下させることが分かった。
【0088】
<実験例7>
本実験例7では、前立腺癌細胞株LNCaPを用いてアンドロゲンシグナルに及ぼす化合物CK2の影響を検討した。
【0089】
[生細胞数測定]
増殖培地に懸濁したLNCaP細胞を96-well multiplate中に2×104 cells/200 μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加し、更に24時間培養した。対照群としてdimethyl sulfoxide(DMSO)を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40 μM resazurinを添加し、37℃で2-4時間培養した後、マイクロプレートリーダー Model680(BIO RAD社)を用いて、波長570 nm及び600 nmの吸光度を測定した。細胞生存率(%)は前述した数式(1)により算出した。
【0090】
[定量PCR法]
total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし、逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA(cDNA)を調製した。調製したcDNA(1 μg)を鋳型とし、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix試薬(東洋紡社)と特異的プライマーを用いた定量PCR法を行った。定量PCRにはCFX96 Deep Well Real-Time System(BIO RAD社)を用い、次の温度条件にて熱処理した。すなわち、94 ℃/5分の熱処理後、94 ℃/30秒の変性、55 ℃/30秒のアニーリング、72 ℃/1分の伸長を1サイクルとした。PSA、TMPRSS2とβ-actinの特異的プライマーの配列は、上記表2に記載した。
【0091】
[AR核内移行評価]
細胞抽出液中の核タンパク質と細胞質タンパク質はLysoPure Nuclear and Cytoplasmic
Extractor Kit(WAKO社)を用い、プロトコールに従い分離した。核画分と細胞質画分の分離は、それぞれ核特異的に発現するhistone H1と細胞質特異的に発現するα-tubulinの抗体を用いたウエスタンブロット解析にて確認した。分離した各画分を用いて、ウエスタンブロットに供した。
【0092】
[蛍光免疫染色]
増殖培地に懸濁したLNCaP細胞を24-well multiplate中に2×104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物CK2を添加した。2時間後に10 nM 4-androstenedione(Adione)でアンドロゲンシグナルを誘導し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄した。4% paraformaldehyde phosphate buffer solution 300 μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300 μLを加え、10分間静置した。0.1% Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300 μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体(抗AR抗体)液中に、4℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 :1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤(DAPI fluoromount-G)を用いて、カバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700(Carl Zeiss社)にセットし、蛍光観察を行った。
【0093】
本実験例7の結果から、前述した実験例5の結果と同様の結果が、LNCaP細胞を用いた場合でも得られることが分かった。
【0094】
<実験例8>
DHRS11は、11-Keto-5α-androstenedione(Trione)から11-keto-5α-dihydrotestosterone(11KDHT)への還元反応を触媒することが知られている。本実験例8では、トリプルネガティブ乳癌細胞株MDA-MB-453を用いてアンドロゲンシグナルに及ぼす化合物CK2の影響を検討した。
【0095】
[ウエスタンブロット法]
MDA-MB-453細胞は、37℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/mL penicillin-G potassium、100 μg/mL streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液(pH 7.0)を含むRPMI1640を用いた。細胞を1×106 cells/dishで6 cm dishに播種し、24時間後にFBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物を終濃度10 μMで添加した。24時間培養後に細胞をDPBSでセルスクレイパーを用いて回収し、以下のようにウエスタンブロットに供した。細胞ペレットを8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferで懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離(15,000 x g、15分間、4 ℃)し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、一次抗体(抗AR抗体)とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit(GE healthcare社)を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH社)を用いて解析した。
【0096】
[免疫蛍光染色]
増殖培地に懸濁したMDA-MB-453細胞を24-well multiplate中に2×104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、5%FBSを含む増殖培地を2%の活性炭処理FBSを含む培地に置換し、化合物CK2を添加した。2時間後に10 nM Trioneでアンドロゲンシグナルを誘導し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄した。4% paraformaldehydephosphate buffer solution 300 μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300 μLを加え、10分間静置した。0.1% Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300 μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体(抗AR抗体又は抗Ki67抗体)液中に、4℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 : 1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体又はAlexa Fluoro-555標識したマウス二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤(DAPI fluoromount-G)を用いて、カバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700(Carl Zeiss社)にセットし、蛍光観察を行った。
【0097】
本実験例8の結果から、化合物CK2は、アンドロゲンによって誘導されたARタンパク質の発現量を有意に低下させることが分かった。また、免疫蛍光染色により、核内AR発現量の減少や、増殖マーカーであるKi67の蛍光強度の低下が認められたことから、トリプルネガティブ乳癌細胞においても、化合物CK2癌ドロゲンシグナルを抑制できることが示唆された。
【0098】
<実験例9>
本実験例9では、化合物CK2によるアンドロゲン受容体(AR)発現抑制効果について検討した。
【0099】
増殖培地に懸濁したMDA-MB-453細胞を96-well multiplate中に2×105 cellsずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加して更に6時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA (cDNA) を調製した。調製したcDNA (1 μg) を鋳型とし、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix試薬 (東洋紡) と特異的プライマーを用いた定量PCR法を行った。定量PCRにはCFX96 Deep Well Real-Time System (BIO-RAD) を用い、次の温度条件にて熱処理した。すなわち、94 ℃/5分の熱処理後、94 ℃/30秒の変性、55 ℃/30秒のアニーリング、72 ℃/1分の伸長を1サイクルとした。ARとβ-actinの特異的プライマーの配列は、下記表4に記載した。
【0100】
【表4】
【0101】
これまでに植物由来成分としてルテオリンによるAR発現抑制効果が前立腺細胞株を用いた実験にて報告されている(Tsui et al., Int J Cancer, 2012;130:2812-2823)。しかしながら、トリプルネガティブ乳癌(TNBC) 細胞においてAR発現抑制効果を示す植物由来成分の報告はなく、また、前立腺癌細胞株を用いた検討においてもルテオリンよりも強力な活性を示す化合物はない。本実験例9の結果から、化合物CK2はルテオリンよりも低濃度でAR発現抑制効果を示した。
【0102】
<実験例10>
本実験例10では、化合物CK2によるアンドロゲンシグナル制御効果について検討した。
【0103】
増殖培地に懸濁したMDA-MB-453細胞を96-well multiplate中に2×105 cellsずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加して更に6時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。total RNAはTRI reagent試薬を用いて単離した。このtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Kitを用いて、37 ℃、30分間及び98 ℃、5分間インキュベートし逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA (cDNA) を調製した。調製したcDNA (1 μg) を鋳型とし、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix試薬 (東洋紡) と特異的プライマーを用いた定量PCR法を行った。定量PCRにはCFX96 Deep Well Real-Time System (BIO-RAD) を用い、次の温度条件にて熱処理した。すなわち、94 ℃/5分の熱処理後、94 ℃/30秒の変性、55 ℃/30秒のアニーリング、72 ℃/1分の伸長を1サイクルとした。ARとβ-actinの特異的プライマーの配列は、下記表5に記載した。
【0104】
【表5】
【0105】
女性では、従来型アンドロゲンであるテストステロンやジヒドロテストステロンに加えて、副腎由来アンドロゲンである11-keto-5α-dihydrotestosterone (Dione)、11-keto-5α-androstane-3,17-dione (Trione) が生成され、アンドロゲンシグナルを活性化することが知られる。本実験例10の結果から、10 nM Dioneとその前駆体である100 nM TrioneによってTMPRSS2やc-Mycの発現が誘導され、TNBC細胞においてもアンドロゲンシグナルが亢進することが示された。化合物CK2とルテオリンは両遺伝子の発現量を顕著に低下させ、その効果は化合物CK2の方が強かった。
【0106】
<実験例11>
本実験例11では、化合物CK2によるAKT阻害剤であるcapivasertibに対する相乗効果について検討した。
【0107】
[A:細胞生存率の測定]
増殖培地に懸濁したMDA-MB-453細胞を96-well multiplate中に2×104 cellsずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加してさらに48時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40 μM resazurinを添加し、37℃で2‐4時間培養した後、マイクロプレートリーダーModel680 (Bio Rad) を用いて波長570 nm 及び600 nmの吸光度を測定した。細胞生存率 (%) は上記の数式(1)により算出した。
【0108】
[B:乳酸脱水素酵素 (LDH) 放出量の測定]
培地中に放出された乳酸脱水素酵素 (LDH)活性の評価にはCytotoxicity LDH Assay Kit-WST (和光純薬) を用い、マイクロプレートリーダーModel680 (Bio Rad) による波長490nmの吸光度から算出した。
【0109】
[C, D:CompuSynプログラムを用いた相乗効果の算出]
上記Aの実験における細胞生存率をもとに、化合物CK2によるcapivasertibに対する相乗効果を算出した。
【0110】
[E:抗切断型カスパーゼ3抗体を用いたアポトーシス誘導の確認]
増殖培地に懸濁した細胞を24-well multiplate中に2×104 cellsずつ播種し、37℃、5% CO2条件下で24時間培養後、FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物CK2若しくはcapivasetib、又はその両方を添加した。48時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄した。4% paraformaldehyde phosphate buffer solution 300 μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300 μLを加え、10分間静置した。0.1 % Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300 μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体 (抗切断型カスパーゼ3抗体) 液中に、4 ℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 : 1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤 (DAPI fluoromount-G) を用いてカバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700 (Carl Zeiss) にセットし、蛍光観察を行った。
【0111】
[F, G:化合物CK2によるcapivasertib誘導性AR発現の抑制効果]
上記実験例9と同様の方法により実験を行った。
【0112】
TNBCは悪性度が高く、予後不良であり、ホルモン受容体やHER2が発現しないため、これらの標的に対する治療薬を使用することができない。最近、細胞増殖や細胞死に関わるキナーゼであるAKTの阻害剤の臨床試験が実施されている。そこで、AKT阻害剤の有効利用を目的として、AKT阻害剤との併用効果を検討した。
【0113】
本実験例11の結果から、capivasertibに5 μM CK2を併用することで、有意に細胞生存率が低下した。また、毒性の指標となる乳酸脱水素酵素放出量も増大した。一方で、化合物CK2単独では両者に影響はなかった。CompuSynプログラムを用いた併用効果評価において、Combination index (CI) が1未満であったことから、化合物CK2による相乗効果が明らかとなった。Capivasertib処理によってAR遺伝子発現が顕著に誘導されたことから、capivasertibはAKTシグナル阻害によって癌細胞の生存や増殖を抑制する一方で、AR発現上昇によって、アンドロゲン依存性細胞増殖を亢進させる可能性がある。capivasertibに化合物CK2を併用することでAR遺伝子発現量は有意に低下したことから、化合物CK2はAR発現抑制効果を介して併用効果を示したものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の有効成分である上記一般式(1)で表される化合物は、DHRS11の阻害及び/又はARの発現抑制を介してアンドロゲンシグナルに作用し、例えば抗癌剤などの用途に対する有用性が期待できる。更に、低分子化合物であり、且つ、天然化合物でもあることから、安価に製造できるという利点を有する。したがって、化学合成が容易であり、大量生産にも耐えられるため、患者の治療機会の向上や、医療費の削減にも繋がる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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