(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145661
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5025 20060101AFI20220926BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61K31/5025
A61P43/00 111
A61P35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044030
(22)【出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2021045476
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(71)【出願人】
【識別番号】506374708
【氏名又は名称】一般社団法人ファルマバレープロジェクト支援機構
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】秋山 靖人
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 忠
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 明
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】安藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 吉伸
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、抗腫瘍剤として有用な、優れたPD-1及び/又はPD-L1の阻害作用を示す低分子化合物を提供することにある。
【解決手段】下記式(I)の化合物を提供する。
式中、R
1は、C
1-8パーフルオロアルキル基、C
1-8パーフルオロアルコキシ基、C
2-8パーフルオロアルケニル基及びC
2-8パーフルオロアルケニルオキシ基からなる群より選択され、R
2は、置換/非置換のヘテロシクリル基であり、Xは、O又はSである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化1】
式中、
R
1は、C
1-8パーフルオロアルキル基、C
1-8パーフルオロアルコキシ基、C
2-8パーフルオロアルケニル基及びC
2-8パーフルオロアルケニルオキシ基からなる群より選択され、
R
2は、置換若しくは非置換のヘテロシクリル基であり、そして
Xは、O又はSである。
【請求項2】
下記式(Ia)の化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、請求項1に記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化2】
式中、R
1、R
2は前記と同じ意味を有する。
【請求項3】
R2が、環原子として窒素原子1個を含む、5~8員環の置換若しくは非置換のヘテロシクリル基である、請求項1又は2に記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【請求項4】
下記式(Ib)の化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、請求項1~3のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化3】
式中、R
1は前記と同じ意味を有し、そして
R
3は、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは非置換のC
1-6アルコキシ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基及びカルボキシル基からなる群より選択される。
【請求項5】
下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、請求項1~4のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化4】
【請求項6】
T細胞表面のTIM3及び/又はCD39の発現抑制剤である、請求項1~5のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1阻害剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤を含む医薬。
【請求項8】
抗腫瘍剤である、請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
経口摂取される、請求項7又は8に記載の医薬。
【請求項10】
下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩。
【化5】
【請求項11】
下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む医薬組成物。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野で使用される、プログラム細胞死1(Programmed cell death 1;
PD-1)及び/又はプログラム細胞死リガンド1(Programmed cell death ligand 1;PD-L1)の阻害剤に関する。本発明の阻害剤は、医薬、特には抗腫瘍剤として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
PD-1(別名:CD279)は細胞傷害性T細胞上に発現する免疫チェックポイント受容体であり、通常抗原提示細胞の表面に発現するPD-L1(別名:CD274、B7-H1)又はPD-L2(別名:CD273、B7-DC)のいずれかのリガンドと結合した場合に、T細胞受容体からのシグナルの活性化(細胞増殖、各種サイトカイン産生誘導など)を抑制する(非特許文献1及び2)。PD-L1及びPD-L2は、腎細胞がん、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、食道がん、膵臓がん、肝細胞がん、リンパ腫を含む、複数の固形がん及び造血器腫瘍で発現していることが示されており、腫瘍細胞は、T細胞からの認識を逃れるために、この免疫チェックポイント・シグナル伝達を利用していることが知られている。
【0003】
これまでに、がん治療を目的としたさまざまな免疫チェックポイント阻害剤が開発されており、抗PD-1モノクローナル抗体医薬品であるニボルマブをはじめとして10種類以上のモノクローナル抗体医薬品が米国食品医薬品局(FDA)により承認されている。免疫チェックポイント分子に対する抗体医薬品の出現以降、特に固形がんに対するがん免疫療法は様変わりしており、一部のがんにおいては、従来の化学療法に代わる標準治療レジメンのひとつに採用され、劇的な奏効率の改善や生存期間の延長効果が報告されている。
【0004】
一方で、抗体医薬品による治療においては免疫的な副作用のコントロールを要することが臨床的な問題として挙げられる。また、抗体医薬品による治療においては、注射や点滴といった侵襲的投与法に頼らざるを得ないことから肉体的苦痛を伴い、投与のための通院の手間や時間的負担も発生することから患者のQOL(生活の質)低下を招くという問題がある。さらには、抗体医薬品は概して原材料が高価であることや大規模な製造設備を必要とすることなどから薬剤費用が高額となり、高額な医療費負担につながるという問題も挙げられる。
【0005】
従来、がんのシグナル阻害剤の開発には低分子化合物が積極的に活用されてきたが、免疫チェックポイント阻害剤の分野においても例外ではなく、特に近年はPD-1及び/又はPD-L1の阻害作用を示す低分子化合物の研究開発が世界的に試みられている(特許文献1~5)。しかし、それらのうち臨床応用された例はいまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/034820号
【特許文献2】国際公開第2015/160641号
【特許文献3】国際公開第2017/087777号
【特許文献4】国際公開第2017/118762号
【特許文献5】国際公開第2017/202273号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nat Immunol., 8(3), 239-245, 2007
【非特許文献2】Annu Rev Immunol., 26, 677-704, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、PD-1及び/又はPD-L1に対して強力かつ選択的な阻害作用を示し、抗腫瘍剤として有用な低分子化合物を新規に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、新規で強力かつ選択的な阻害剤の開発に当たり様々な医薬品化学技術を使用して鋭意検討を行った結果、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤として公知の低分子化合物とは構造的に異なる低分子化合物が、PD-1及び/又はPD-L1の阻害活性を有することを見いだした。また、当該低分子化合物が特にインビボで優れた抗腫瘍効果を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
〔1〕下記式(I)の化合物又はその医薬上許容される塩(以下、「本発明における化合物」ということがある。)を有効成分として含む、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化1】
式中、
R
1は、C
1-8パーフルオロアルキル基、C
1-8パーフルオロアルコキシ基、C
2-8パーフルオロアルケニル基及びC
2-8パーフルオロアルケニルオキシ基からなる群より選択され、
R
2は、置換若しくは非置換のヘテロシクリル基であり、そして
Xは、O又はSである。
〔2〕下記式(Ia)の化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、上記〔1〕に記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化2】
式中、R
1、R
2は前記と同じ意味を有する。
〔3〕R
2が、環原子として窒素原子1個を含む、5~8員環の置換若しくは非置換のヘテロシクリル基である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
〔4〕下記式(Ib)の化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化3】
式中、R
1は前記と同じ意味を有し、そして
R
3は、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは非置換のC
1-6アルコキシ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基及びカルボキシル基からなる群より選択される。
〔5〕下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤。
【化4】
〔6〕T細胞表面のTIM3及び/又はCD39の発現抑制剤である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1阻害剤。
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤を含む医薬。
〔8〕抗腫瘍剤である、上記〔7〕に記載の医薬。
〔9〕経口摂取される、上記〔7〕又は〔8〕に記載の医薬。
〔10〕下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩。
【化5】
〔11〕下記式で示される化合物のいずれか又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む医薬組成物。
【化6】
【0011】
また本発明の実施の他の形態として、
本発明における化合物を、PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療を必要とする対象に投与するステップを含む、PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療方法;や、
PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療のための医薬として使用するための本発明における化合物;や、
PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療における使用のための本発明における化合物;や、
PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療のための医薬を製造するための、本発明における化合物の使用;
を挙げることができる。
【0012】
また本発明の実施の他の形態として、
本発明における化合物を、腫瘍の治療を必要とする対象に投与するステップを含む、腫瘍の治療方法;や、
抗腫瘍剤として使用するための本発明における化合物;や、
腫瘍の治療における使用のための本発明における化合物;や、
抗腫瘍剤を製造するための、本発明における化合物の使用;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れたPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤が提供される。本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤は、PD-1及び/又はPD-L1への結合特異性を有し、高い抗腫瘍活性を有しながらも、副作用が少ないため、抗腫瘍剤として有効に利用可能である。また、本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤の有効成分は低分子化合物であるため、安価で容易に製造でき、かつ経口摂取が可能な医薬として提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例4における、SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する化合物Aの抗腫瘍効果の検討結果(増殖抑制活性)を示すグラフである。図中の「化合物A」は、化合物A処理群を示す(以下、
図2及び
図4において同じ)。
【
図2】試験例4における、SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する化合物Aの抗腫瘍効果の検討結果(体重変化)を示すグラフである。
【
図3】試験例6における、T細胞サブセット除去抗体による化合物Aの抗腫瘍効果への影響の検討結果(増殖抑制活性)を示すグラフである。図中の「化合物A」は、化合物A単独処理群を示し、「抗CD4抗体+化合物A」は、抗CD4抗体+化合物A処理群を示し、「抗CD8抗体+化合物A」は、抗CD8抗体+化合物A処理群を示す。
【
図4】試験例7における、化合物AのPD-1及び/又はPD-L1への結合特異性の検討結果(増殖抑制活性)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において用いられる化合物は、下記式(I)の化合物、該化合物の医薬上許容される塩、及びこれらの光学異性体を含む。
【0016】
【化7】
式中、R
1は、C
1-8パーフルオロアルキル基、C
1-8パーフルオロアルコキシ基、C
2-8パーフルオロアルケニル基及びC
2-8パーフルオロアルケニルオキシ基からなる群より選択され、
R
2は、置換若しくは非置換のヘテロシクリル基であり、そして
Xは、O又はSである。
【0017】
本発明において用いられる化合物の一つの態様として、本発明において用いられる化合物は、下記式(Ia)の化合物、該化合物の医薬上許容される塩、及びこれらの光学異性体を含む。
【0018】
【化8】
式中、R
1、R
2は前記と同じ意味を有する。
R
2が、環原子として窒素原子1個を含む、5~8員環の置換若しくは非置換のヘテロシクリル基である場合が一つの態様として挙げられる。
【0019】
さらに、本発明において用いられる化合物の他の一つの態様として、本発明において用いられる化合物は、下記式(Ib)の化合物、該化合物の医薬上許容される塩、及びこれらの光学異性体を含む。
【0020】
【化9】
式中、R
1は前記と同じ意味を有し、そして
R
3は、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは非置換のC
1-6アルコキシ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基及びカルボキシル基からなる群より選択される。
【0021】
本願で用いられる「C1-8パーフルオロアルキル基」という用語は、炭素数が1-8個のアルキル基(-CnH2n+1:nは1から8までの整数)における水素原子がすべてフッ素原子によって置き換わった基、即ち、-CnF2n+1(nは1から8までの整数)を意味する。C1-8パーフルオロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、n-ヘプタフルオロプロピル基、n-ノナフルオロブチル基などが挙げられる。
【0022】
本願で用いられる「C1-8パーフルオロアルコキシ基」という用語は、-O-CnF2n+1(nは1から8までの整数)で表される基を意味する。C1-8パーフルオロアルコキシ基の例としては、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、n-ヘプタフルオロプロポキシ基、n-ノナフルオロブトキシ基などが挙げられる。
【0023】
本願で用いられる「C2-8パーフルオロアルケニル基」という用語は、炭素数が2-8個のアルケニル基(-CnH2n:nは1から8までの整数)における水素原子がすべてフッ素原子によって置き換わった基、即ち、-CnF2n-1(nは2から8までの整数)を意味する。C2-8パーフルオロアルケニル基の例としては、トリフルオロエテニル基、ペンタフルオロ2-プロペニル基などが挙げられる。
【0024】
本願で用いられる「C2-8パーフルオロアルケニルオキシ基」という用語は、-O-CnF2n-1(nは2から8までの整数)で表される基を意味する。C2-8パーフルオロアルケニルオキシ基の例としては、トリフルオロエテニルオキシ基、ペンタフルオロ2-プロペニルオキシ基などが挙げられる。
【0025】
本願で用いられる「置換若しくは非置換の」という用語において、「置換の」は、1若しくは2以上の置換基を有することを、「非置換の」は、置換基を全く有さないことを意味する。置換基の例としては、ハロゲン原子(フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)、及びヨウ素原子(ヨード基))、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、モノ(C1-C4)アルキルアミノ基、ジ(C1-C4)アルキルアミノ基、アセチル基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、フェニル基などが挙げられる。2以上の置換基を有する場合、各置換基は独立的に選択され、同一であっても異なっていてもよい。なお、「(C1-C4)」は炭素数1~4を意味する。
【0026】
本願で用いられる「置換若しくは非置換のヘテロシクリル基」という用語における「ヘテロシクリル基」とは、単一の環又は複数の環が縮合した縮合環を構成する原子として窒素、酸素、及び/又は、硫黄からなる群から選択された1つ以上のヘテロ原子を含み、さらに、1個若しくは2個以上の置換基によって置換された環状構造(複素環系)から水素原子1個を除いた基を意味する。この場合、単一の環は、飽和環、不飽和環のいずれであってもよく、縮合環は、飽和環のみを含んでいても、不飽和環のみを含んでいても、あるいは飽和環と不飽和環の双方を含んでいてもよい。ヘテロシクリル基を構成する環の例としては、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピロール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾ-1,2,5-チアジアゾール、イミダゾ-チアゾール、ベンゾチアゾール、インドール、ベンゾトリアゾール、ベンゾジオキソラン、ベンゾジオキサン、カルバゾール、及びキナゾリンなどが挙げられる。
【0027】
本願で用いられる「医薬上許容される塩」という用語は、ヒト及び動物の組織と接触して用いるのに、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答又は他の問題又は合併症を伴うことのない酸又は塩基との塩を意味する。かかる塩は、慣用的な手段により製造することができる。
【0028】
本発明において医薬上許容される塩としては、酸付加塩が存在し、例えば、酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンフルスルホン酸塩、コリン、クエン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、ジエチレンジアミン、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、2-ヒドロキシエチルスルホン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、メグルミン、2-ナフタレンスルホン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、キナ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルファミン酸塩、スルファニル酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシレート(p-トルエンスルホン酸塩)、トリフルオロ酢酸塩及びウンデカン酸塩などが例示される。
【0029】
式(I)で表される化合物の種々の異性体(例えば、光学異性体、位置異性体、互変異性体など)、水和物などの溶媒和物、及び結晶多形などは、いずれも本発明の範囲に包含される。
【0030】
また、式(I)で表される化合物を構成する1個若しくは2個以上の原子が同位体である化合物、該化合物の医薬上許容される塩、及び該化合物の水和物、並びにこれらの光学異性体も本発明に含まれる。含まれる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、フッ素、臭素、及び塩素の同位体、例えば、2H、3H、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、18F、75Br、76Br、77Br、82Br、及び37Clなどが挙げられる。
【0031】
以下に本発明における化合物の具体例を掲げるが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0032】
【0033】
式(I)、(Ia)及び(Ib)で示される化合物は、公知の反応を適宜組み合わせることによって合成することができる。原料は市販購入又は市販購入品に一般的な保護基などを付与して合成することが可能である。化合物合成におけるいずれの工程も有機化学で汎用される保護・脱保護による精製なども適応可能である。
例えば、下記の化合物(I0)とR2を含むアミンとを脱水縮合させ、反応物を減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーなどによって精製することによって式(I)、(Ia)あるいは(Ib)の化合物が得られる。
【0034】
【0035】
具体的な化合物の合成例として、以下に、化合物No.1(化合物A)の合成を記載する。
合成例
1-(3-(Trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carboxylicacid(63 mg, 0.2 mmol) 及び 2-methylpiperidine (24 μL,0.2 mmol) をジクロロメタン 5 mL に溶解し、HATU(228 mg, 0.6 mmol) 及び DIPEA (105 μL, 0.6 mmol)を加えて、80 ℃ にて 16 時間反応させた。減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール勾配溶離液、メタノール0 % → 10 %)にて精製し、目的の化合物Aを46 mg、収率 58 %で得た。
なお、HATU 及び DIPEA はそれぞれ下記の化合物の略である。
HATU:1-[Bis(dimethylamino)methylene]-1H-1,2,3-triazolo[4,5-b]pyridinium3-Oxide
Hexafluorophosphate
MW:380.24
228mg, 0.6 mmol
DIPEA:N,N-diisopropylethylamine
MW:129.25, d = 0.742
105μL, 0.6 mmol
【0036】
本発明における化合物又はその医薬上許容される塩は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。すなわち、本発明の医薬組成物は、本発明における化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む。本願で用いられる「有効成分として含む」という用語は、有効量を含むことを意味し、有効量とは、所望の作用をするのに充分な量を意味する。有効量は、投与対象の疾患又は病態の程度、投与対象個体の動物種、年齢(月齢)、性別、又は体重等によって変動し得る。
【0037】
本発明における化合物は、PD-1とPD-L1との結合を阻害し、すなわち、PD-1/PD-L1のタンパク質/タンパク質の相互作用を阻害する。したがって、本発明における化合物は、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤の有効成分として使用することができる。すなわち、本発明におけるPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤は、本発明における化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む。本発明における化合物は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害し得る限り、PD-1又はPD-L1の少なくとも一つに結合し得るものであればよい。すなわち、本発明における阻害剤は、PD-1又はPD-L1の少なくとも一つの阻害剤であればよく、PD-1及びPD-L1の阻害剤であってもよく、PD-1又はPD-L1のいずれか一つの阻害剤であってもよい。本発明におけるPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤は、PD-1とPD-L1との結合阻害剤又は相互作用阻害剤ということもできる。なお、本発明における阻害には、インビトロにおける阻害もインビボにおける阻害も含まれる。
【0038】
本発明の阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害することにより、T細胞受容体からのシグナルを活性化させ、T細胞の増殖や各種サイトカインの産生を誘導することができる。また、本発明の阻害剤は、さらにT細胞表面のTIM3(T cell immunoglobulin and mucindomain-containing protein 3)及び/又はCD39(別名:Ectonucleoside triphosphate diphosphohydrolase-1;ENTPD1)の発現抑制を誘導することもできることから、T細胞表面のTIM3及び/又はCD39の発現抑制剤としての使用も可能である。TIM3及びCD39は、様々ながんや感染症などでT細胞表面に発現が誘導される、T細胞の活性抑制因子として知られている。したがって、T細胞表面のTIM3及び/又はCD39の発現抑制を誘導できれば、さらにT細胞の活性抑制を免れてT細胞受容体からのシグナルを活性化させ、T細胞の増殖や各種サイトカインの産生を誘導することができる。そのため、本発明の阻害剤は、PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患や、TIM3シグナル伝達経路に関連する疾患や、CD39が関与するA2aR(Adenosine A2a receptor)シグナル伝達経路や、それらに付随するT細胞受容体シグナル伝達経路に関連する疾患の予防又は治療のための医薬として有効に使用することができる。
【0039】
本発明の医薬は、特に抗腫瘍剤として好適に使用することができる。対象とする腫瘍としては、本発明における化合物を用いてその成長が阻害されうる腫瘍であれば特に制限されないが、例えば、胃がん、食道がん、肺がん、十二指腸がん、結腸直腸がん(大腸がん)、乳がん、子宮がん、卵管がん、子宮内膜がん腫、子宮頚部のがん腫、膣のがん腫、外陰部のがん腫、中皮腫、肝胆道の(胆道及び胆管)がん、原発性又は続発性CNS腫瘍、原発性又は続発性脳腫瘍、咽頭がん、口腔がん、鼻腔がん、骨がん、肝がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部又は頚部のがん、皮膚又は眼内の黒色腫、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、肛門部のがん、ホジキン病、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎腺がん、軟組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、精巣がん、慢性又は急性の白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、尿管がん、腎細胞がん腫、腎盂のがん腫、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、副腎皮質がん、胆嚢がん、多発性骨髄腫、胆管がん、線維肉腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫などが例示される。
【0040】
また、PD-1及び/又はPD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患や、TIM3シグナル伝達経路に関連する疾患や、CD39が関与するA2aRシグナル伝達経路や、それらに付随するT細胞受容体シグナル伝達経路に関連する疾患として、腫瘍の他に、例えば、感染性疾患及び自己免疫性疾患を例示することができる。そのため、本発明の医薬は、感染性疾患及び自己免疫性疾患の予防又は治療にも使用することができる。感染性疾患としては、特に限定されないが、例えば、細菌感染症、ウイルス感染症などが例示される。自己免疫疾患としては、特に限定されないが、例えば、臓器特異的自己免疫疾患、全身性自己免疫疾患などが例示され、臓器特異的自己免疫疾患としては、慢性リンパ球性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、慢性萎縮性胃炎に伴う悪性貧血、肺出血性腎炎症候群、原発性胆汁性肝硬変、多発性脳脊髄硬化症、及び急性特発性多発神経炎などが例示され、全身性自己免疫疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性血管炎、強皮症、天疱瘡、皮膚筋炎、混合性結合組織病、自己免疫性溶血性貧血などが例示される。
【0041】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、経口投与(例えば、錠剤、ロゼンジ、硬又は軟カプセル剤、水性又は油状懸濁剤、乳剤、分散性散剤又は顆粒剤、シロップ剤又はエリキシル剤として)、局所使用(例えば、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、又は水性又は油状の液剤又は懸濁剤として)、吸入による投与(例えば、微粉散剤又は液体エアゾル剤として)、吹入による投与(例えば、微粉散剤として)又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、膀胱内、胸腔内、頭蓋内又は筋肉内投与用の滅菌水性又は油状液剤として、又は直腸投与用の坐剤として)のいずれの形でも投与することができるが、特に、経口投与(経口摂取)が望ましい。
【0042】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、当該技術分野において周知の慣用的な医薬賦形剤などを用いて、慣用的な手順によって得ることができる。したがって、経口投与を予定した本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、例えば、一つ又はそれを超える着色剤、甘味剤、着香剤及び/又は保存剤を含有していてもよい。また、シクロデキストリンの内側は疎水性を示し、外側は親水性を示すので、シクロデキストリンは疎水性の分子を包接することによって包接化合物(包摂化合物)を形成することができる。包接化合物は、水への溶解性を高めたり、水や酸素と反応しやすい化合物を保護したりすることができるので、種々の剤形の医薬を製造する際に必要に応じて利用することができる。シクロデキストリンは種々の構造を有する物が存在するが、例えば、グルコースが6個結合しているα-シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース、α-CD)、グルコースが7個結合しているβ-シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース、β-CD)、グルコースが8個結合しているγ-シクロデキストリン(シクロオクタアミロース、γ-CD)が挙げられる。例えば、プロスタグランジン、ニトログリセリンなどの薬物の安定化のためにシクロデキストリンによる包接化が応用されている。
【0043】
錠剤製剤に適する薬学的に許容しうる賦形剤には、例えば、ラクトース、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの不活性希釈剤;デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムなどの造粒剤及び崩壊剤;デンプンなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルクなどの滑沢剤;p-ヒドロキシ安息香酸エチル、プロピルなどの保存剤;及びアスコルビン酸などの酸化防止剤が含まれる。錠剤製剤は、未コーティングであってよいし、又は胃腸管内でのそれらの崩壊及び引き続きの有効成分の吸収を変更するように又はそれらの安定性及び/又は外観を改善するように、どちらの場合も、当該技術分野において周知の慣用的なコーティング剤及び手順を用いてコーティングされていてもよい。
【0044】
経口投与のための本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、有効成分が、不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合されている硬ゼラチンカプセル剤の形であってよいし、又は有効成分が、水と、又はラッカセイ油、流動パラフィン又はオリーブ油などの油と混合されている軟ゼラチンカプセル剤であってもよい。
【0045】
水性懸濁剤は、概して、有効成分を、微粉の形で又はナノ粒子又は超微粉粒子の形で、一つ又はそれを超える懸濁化剤であって、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム及びアラビアゴムなどのもの;分散助剤又は湿潤剤であって、レシチン;又は脂肪酸とアルキレンオキシドの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート);又は長鎖脂肪族アルコールとエチレンオキシドの縮合物、例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール;又はポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなどの、脂肪酸及びヘキシトールから誘導される部分エステルとエチレンオキシドの縮合物;又は脂肪酸及びヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとエチレンオキシドの縮合物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートなどのものと一緒に含有する。水性懸濁剤は、更に、一つ又はそれを超える保存剤であって、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はプロピルなどのもの;アスコルビン酸などの酸化防止剤;着色剤;着香剤;及び/又は、スクロース、サッカリン又はアスパルテームなどの甘味剤を含有していてもよい。
【0046】
油状懸濁剤は、有効成分を、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油又はヤシ油などの植物油中に、又は流動パラフィンなどの鉱油中に懸濁させることによって製剤化することができる。それら油状懸濁剤は、更に、蜜蝋、硬質パラフィン又はセチルアルコールなどの増粘剤を含有してよい。上に挙げられたものなどの甘味剤、及び着香剤は、風味のよい経口製剤を提供するために加えられてよい。
【0047】
水の添加による水性懸濁剤の製造に適する分散性散剤及び顆粒剤は、概して、有効成分を、分散助剤又は湿潤剤、懸濁化剤及び一つ又はそれを超える保存剤と一緒に含有する。適する分散助剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、上に既述されたものによって代表される。甘味剤、着香剤及び着色剤などの追加の賦形剤も、存在してよい。
【0048】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、更に、水中油エマルジョンの形であってよい。油状相は、オリーブ油又はラッカセイ油などの植物油、又は例えば、流動パラフィンなどの鉱油、又はいずれかこれらの混合物であってよい。適する乳化剤は、例えば、アラビアゴム又はトラガカントゴムなどの天然に存在するガム;ダイズ、レシチンなどの天然に存在するホスファチド;脂肪酸及びヘキシトール無水物から誘導されるエステル又は部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート);及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの、エチレンオキシドとこの部分エステルの縮合物であってよい。それらエマルジョンは、更に、甘味剤、着香剤及び保存剤を含有してよい。
【0049】
また、本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬を注射剤として使用する場合、当該化合物を特定の組織に集中させるために注射用のリポソームや高分子ミセルを利用することもできる。注射用のリポソームは、リン脂質を基本とする脂質二分子膜からなる閉鎖型小胞で、脂質膜の部分と水の層の部分の両方から成り立っているため、脂溶性薬物と水溶性薬物をともに包含することができる。リポソームの粒子径は一般に数μm以下であり、注射剤を製造する場合に利用することができる。一方、高分子ミセルの粒径は非常に小さく(10~100nm)、内核と外殻の明確な二層構造をもつために、外殻により生体との相互作用を通して体内動態・分布を決定し、内核には薬物を物理的あるいは化学的に封入することができる。ポリエチレングリコールを外殻にもつ抗腫瘍剤内包ミセルは、がん組織に対して、選択的に薬剤を集中させることにより十分な効果を示すと同時に、副作用の低減を図ることができる。このため、かかる化合物を内包した高分子ミセルは、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)製剤として好都合である。
【0050】
シロップ剤及びエリキシル剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、アスパルテーム又はスクロースなどの甘味剤と一緒に製剤化することができるし、そして更に、粘滑剤、保存剤、着香剤及び/又は着色剤を含有してよい。
【0051】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、更に、滅菌注射可能水性又は油状懸濁液の形であってよく、それらは、既知の手順にしたがって、上に挙げられた一つ又はそれを超える適当な分散助剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて製剤化することができる。滅菌注射可能製剤は、更に、無毒性の非経口的に許容しうる希釈剤又は溶媒中の滅菌注射可能溶液又は懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液であってよい。
【0052】
吸入による投与用の本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬は、有効成分を、微粉固体を含有するエアゾルか又は液体粒子として分配するように配置された慣用的な加圧エアゾルの形であってよい。揮発性のフッ素化炭化水素又は炭化水素などの慣用的なエアゾル噴射剤を用いることができ、そしてエアゾル装置は、好都合には、一定計測量の有効成分を分配するように配置される。
【0053】
一つ又はそれを超える賦形剤と混合されて単一剤形を生じる有効成分の量は、必然的に、処置される宿主及び具体的な投与経路に依存して変動する。例えば、ヒトへの経口投与を予定した製剤は、全組成物の約5~約98重量%であってよい適当かつ好都合な量の賦形剤とともに配合される、例えば、0.5mg~5gの活性剤を含有し得る。単位剤形は、例えば、約1mg~約500mgの有効成分を含有し得る。
【0054】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬の投与対象は、ヒトを含む動物であれば特に限定されず、通常はヒトであるが、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、サルなどの哺乳類)であってもよい。
【0055】
本発明のPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤並びに抗腫瘍剤などの医薬の治療用量は、例えば、治療が行われる特定の用途、投与方法、患者の性別、年齢、体重、健康及び状態、ならびに処方する医師の判断に従って異なり得る。本発明の阻害剤、医薬、及び抗腫瘍剤中の本発明における化合物の比率又は濃度は、用量、化学特性(例えば、疎水性)、及び投与経路を含む、多数の因子に応じて異なり得る。本発明における化合物を抗腫瘍剤として使用する場合の用法、用量は、例えば、経口投与の場合、概ね、1日当たり約0.5mg~約500mgを1~3回に分けて投与する。また、非経口投与の場合、概ね、1日当たり約0.05mg~1000mgを1~3回に分けて投与する。用量は、疾患又は障害の種類及び進行の程度、特定の患者の全体的な健康状態、選択される化合物の相対生物学的有用性、賦形剤の剤形、及びその投与経路などの可変要素に依存する可能性が高い。有効な用量は、管内又は動物モデル試験システムに由来する、用量応答曲線から推定することができる。
【0056】
本発明の抗腫瘍剤は、周知の抗腫瘍剤の1種若しくは2種以上と組み合わせて使用することができる。投与方法は、組合せ製剤として同時に使用することも、周知の抗腫瘍剤の1種若しくは2種以上の投与前に本発明における化合物を投与することも、周知の抗腫瘍剤の1種若しくは2種以上の投与後に本発明の抗腫瘍剤を投与することも可能である。
【0057】
前記の周知の抗腫瘍剤としては、アルキル化剤(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン(oxaliplatin)、カルボプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスター
ド、メルファラン、クロラムブシル、ベンダムスチン(bendamustine)、ブスルファン、テモゾラミド(temozolamide)及びニトロソ尿素);代謝拮抗薬(例えば、ジェムシタビン、クペシタビン(cpecitabine)、及び5-フルオロウラシル及びテガフルのようなフ
ルオロピリミジン類などの葉酸拮抗薬、ラルチトレキセド(raltitrexed)、メトトレキ
サート、シトシンアラビノシド及びヒドロキシ尿素);抗腫瘍抗生物質(例えば、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン(idarubicin)、マイトマイシンC、ダクチノマイシン及びミトラマイシンのようなアントラサイクリン系);抗有糸分裂薬(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン及びビノレルビン(vinorelbine)のようなビンカアルカロイド系;及びタキ
ソール及びタキソテレ(taxotere)のようなタキソイド類;及びポロキナーゼ又はキネシンモータータンパク質の阻害剤);及びトポイソメラーゼ阻害剤(例えば、エトポシド及びテニポシドのようなエピポドフィロトキシン類、アムサクリン、トポテカン(topotecan)、カンプトテシン、ピクサントロン(Pixantrone)及びイリノテカン(irinotecan)
);DNA修復機構の阻害剤であって、CHKキナーゼ、DNA依存性プロテインキナーゼの阻害剤及びポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP阻害剤)、ATM又はATRの阻害剤などであるがこれに制限されるわけではないもの;及びタネスパマイシン(tanespamycin)及びレタスピマイシン(retaspimycin)などのHsp90阻害剤などのもの;細胞周期を通して進行を阻害する化合物であって、抗有糸分裂薬(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン及びビノレルビンのようなビンカアルカロイド系;イクサベピロン(ixabepilone)などのエポチロン類(epothilones);及びタキソール及びタキソテレのようなタキソイド類;ポロ様キナーゼ阻害剤;及びEg5タンパク質阻害剤などのキネシンモータータンパク質の阻害剤であるがこれに制限されるわけではない);オーロラキナーゼ阻害剤(例えば、AZD1152、PH739358、VX-680、MLN8054、R763、MP235、MP529、VX-528及びAX39459などが挙げられるがこれに制限されるわけではない)、及びCDK2及び/又はCDK4阻害剤などのサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(例えば、フラボピリドール(flavopiridol)/Alvocidib、ロスコビチン(roscovitine)、セリシクリブ(seliciclib));CENP-E阻害剤などのセントロメアタンパク質機能の阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint blockade)(例えば、ニボルマブ(nivolmab)、ペムブロリズマブ(pembrolizumab)などの抗PD-1抗体;アテゾリズマブ(atezolizumab)、デ
ュルバルマブ(durvalumab)、アベルマブ(avelumab)などの抗PD-L1抗体;イピリムマブ(ipilimumab)、トレメリムマブ(tremelimumab)などの抗CTLA-4抗体)、などが例示される。さらに、公知の細胞分裂抑制薬、抗浸潤薬、増殖因子機能の阻害剤、抗血管新生薬、血管損傷薬、エンドセリン受容体アンタゴニストなどを併用することもできる。
【0058】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0059】
[試験例1]
化合物のスクリーニング
新規で強力かつ選択的な阻害剤の開発に当たり静岡県化合物ライブラリー67,395個より、PD-1とPD-L1との結合阻害活性に着目して定法によりスクリーニングを行い、化合物Aを選別して以下の試験に供した。
【0060】
なお、化合物A((2-methylpiperidin-1-yl)-[1-[3-(trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl]piperidin-4-yl]methanone)は、下記式で表される。化合物Aは、試験例8では後述する方法で合成したものを使用し、それ以外の試験例ではEnamine社より購入したもの(カタログID:EN300-7492070)を使用した。
【化11】
【0061】
また、比較に用いた化合物は、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤として公知の化合物である「BMS-202」(N-{2-[({2-methoxy-6-[(2-methyl-3-phenylphenyl)methoxy]pyridin-3-yl}methyl)amino]ethyl}acetamide;国際公開第2015/034820号)、及び、「BMS-1166」((2R,4R)-1-(5-chloro-2-((3-cyanobenzyl)oxy)-4-((3-(2,3-dihydrobenzo[b][1,4]dioxin-6-yl)-2-methylbenzyl)oxy)benzyl)-4-hydroxypyrrolidine-2-carboxylicacid;国際公開第2015/160641号)である。
BMS-202は、Selleck Chemicals社より購入したものを試験例2及び3で使用し、ArkPharm, Inc社より購入したものを試験例3、8、及び比較試験例1で使用した。BMS-1166は、InvivoChem社より購入したものを試験例2、3、及び8で使用した。
【0062】
[試験例2]
T細胞シグナルの活性化作用
各試験化合物のインビトロにおけるT細胞シグナルのリカバリー活性を、Promega社のPD-1/PD-L1 Blockade Bioassayキットを用いて、当該キットのプロトコルに従って測定し
た。なお、ポジティブコントロールとしては、HEK293細胞系を用いて作製したリコンビナント抗ヒトPD-1ヒト化抗体(Ashizawa T et al., Clin Cancer Res; 23(1) 149-158, 2017 にて報告)を用いた。
【0063】
その結果を[表2]に示す。BMS-202及びBMS-1166はT細胞シグナルのリカバリー活性を示さなかったのに対し、化合物AはT細胞シグナルのリカバリー活性を示した。このことから、化合物Aは優れたPD-1及び/又はPD-L1の阻害活性を有し、T細胞シグナルを活性化させることが示唆された。
【0064】
【0065】
[試験例3]
直接的な細胞増殖抑制作用
ヒトリンパ腫細胞由来細胞株であるSCC-3細胞(JCRB細胞バンクより入手;No.JCRB0115)及びヒト急性T細胞性白血病細胞由来細胞株であるJurkat細胞(AT
CCより入手;TIB-152)を用いて、各試験化合物のインビトロでの直接的な細胞増殖抑
制活性を検討した。なお、いずれの細胞も、10%ウシ胎児血清(FBS;Thermo Fisherscientific社製)を添加したRPMI1640培地(Sigma-Aldrich社製)を用いて培
養した。
【0066】
SCC-3細胞及びJurkat細胞をそれぞれ培養用の96穴ウェルプレートに2×104細胞ずつ播種した。37℃、CO25%条件下に一晩培養後、各試験化合物を適切な濃度にジメチルスルホキシド(DMSO;富士フイルム和光純薬社製)で希釈し、プレートの各ウェルに添加した。72時間培養した後、WST-1試薬(同仁化学研究所社製)を各ウェルに加えて4時間培養した。吸光光度計で470nmの吸光度を測定した。各試験化合物における各細胞の増殖抑制率から、50%細胞増殖抑制濃度(IC50(μM))を推定した。
【0067】
その結果を[表3]に示す。BMS-202及びBMS-1166は10~25μMといった低濃度で直接的な細胞障害活性を示したのに対し、化合物Aは直接的な細胞障害活性が少ないことが示された。なお、BMS-202についてはSelleck Chemicals社とArk
Pharm, Inc社の2社より購入した製品をそれぞれ使用して同様の試験を2回行ったが、
いずれの製品でも同等の結果を示した。
【0068】
【0069】
[試験例4]
SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する化合物Aの抗腫瘍効果
SCC-3細胞を皮下移植した主要組織適合遺伝子(MHC)ダブルノックアウトNOG(NOD/Shi-scid-IL2rγnull)マウス(以下、「NOG-dKOマウス」というこ
ともある;公益財団法人実験動物中央研究所より入手)(Ashizawa T et al., ClinCancer Res; 23(1) 149-158, 2017 にて報告)を用いて、化合物Aの抗腫瘍効果を検討した。
【0070】
11週齢のNOG-dKOマウスに、X線を照射し(2.5Gy;HW-150;HITEX社製)、1×107個のヒト抹消血単核球(PBMC)細胞(HLA-A(ヒト白血球型抗原)*0201陽性)を各マウスに尾静脈を介して移植した。その翌日、2×105個のSCC-3細胞(HLA-A*0201陽性)を皮下移植した。その後、腫瘍体積が50mm3以上に達した時点で群分け(2群、各群5匹)を行い、化合物A処理群には化合物Aを経口投与用溶媒(富士フイルム和光純薬社製0.5%メチルセルロースに、富士フイルム和光純社製Tween80を1%含有)に懸濁して1日あたり50mg/Kgを経口投与した。化合物Aの投与はSCC-3細胞移植後2週間目から開始し、投与開始後0日目~4日目、及び7日目~11日目に1日1回、計10回経口投与した。なお、無処理群には何も投与しなかった。経日的に、電子ノギスを使用し、各マウスの皮下腫瘍の長径と短径を測定した。また、電子天秤を使用し、副作用の目安となる体重を測定した。腫瘍体積を、下記の算定式に基づき求めた。腫瘍体積(mm3)=長径(mm)×[短径(mm)]2×1/2。そして、腫瘍体積から、下記の算定式に基づき腫瘍の増殖抑制活性を求めた。T/C;増殖抑制活性(%)={T;処理群の腫瘍体積(mm3)/C;無処理群の腫瘍体積(mm3)}×100。なお、試験期間における最大の増殖抑制活性を抗腫瘍活性として評価した。
【0071】
その結果を[
図1]、[
図2]、及び[表4]に示す。[
図1]及び[
図2]には投与開始後0日目~11日目の結果を示した。[表4]には、そのうち投与開始後0日目からの11日間における最大の増殖抑制活性(抗腫瘍活性)と最大の副作用を示した。化合物A処理群では、投与開始後7日目、9日目及び11日目において無処理群に比して50%以上の統計的にも有意な腫瘍の増殖抑制活性を認めた(Mann-Whitney U-testにより、p<0.05の値を統計的に有意とみなした。以下、特に断りがなければ同じ。)(
図1)。一方で、副作用の指標である体重減少は見られなかった(
図2)。なお、同様の実験を2回実施し、再現性が確認された。このことから、化合物Aは、副作用を及ぼすことなく優れた抗腫瘍効果をもたらすことが示唆された。
【0072】
【0073】
[試験例5]
SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスの腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)の解析
試験例4における化合物Aの計10回の経口投与後に、化合物A処理群及び無処理群のマウスから腫瘍を採取し、腫瘍内浸潤リンパ球の解析をフローサイトメトリーにより行った。具体的には、腫瘍内浸潤リンパ球は、すりつぶした腫瘍組織を70μMのフィルターに通し、抗ヒトCD45抗体で染色された細胞を腫瘍内白血球細胞として解析を行った。分離した細胞は、10種類の細胞表面マーカー(hCD3、hCD4、hCD8、hCD62L、CXCR3、hCD45RO、hCD127、PD-1、TIM3、hCD39)に対する抗体で染色し細胞を洗浄後、FACSCanto II フローサイトメーター(BD Biosciences社製)で、ヒトCD45+細胞に由来する様々な細胞集団につき解析した。なお、使用した抗体は[表5]に示す。
【表5】
【0074】
その結果を[表6]に示す。化合物A処理群の腫瘍内浸潤リンパ球は、無処理群に比較して、腫瘍重量あたりの細胞数で3倍以上の有意な増加を認め、その80%以上はT細胞(ヒトCD3+/ヒトCD45+細胞)であった。T細胞の画分別では、CD4+T細胞の増加が優位であった。また、化合物A処理群では、T細胞の活性抑制因子として知られるTIM3及びCD39の発現率が低下していた。このことから、化合物Aによる抗腫瘍メカニズムには、PD-1及び/又はPD-L1の阻害によってT細胞の活性化が誘導されることのみならず、さらにT細胞表面のTIM3及び/又はCD39の発現抑制が誘導されることも寄与していることが示唆された。
【0075】
【0076】
[試験例6]
T細胞サブセット除去抗体による化合物Aの抗腫瘍効果への影響
抗CD4抗体及び抗CD8抗体を用いて、それらによる化合物Aの抗腫瘍効果への影響を検討した。
【0077】
7週齢のNOG-dKOマウスに、試験例4と同様にX線を照射し、1×107個のヒト抹消血単核球細胞を各マウスに尾静脈を介して移植した。その翌日、2×105個のSCC-3細胞を皮下移植した。その後、腫瘍体積が100mm3以上に達した時点で群分け(4群、各群5匹)を行い、SCC-3細胞移植後10日目、11日目、12日目に、抗CD4抗体+化合物A処理群には、マウス1匹あたり100μgの抗CD4抗体(OKT-4、Bio X Cell社製)を、抗CD8抗体+化合物A処理群には、マウス1匹あたり100
μgの抗CD8抗体(OKT-8、Bio X Cell社製)をそれぞれ1日1回、計3回腹腔内投与
した。その後、SCC-3細胞移植後15日目~24日目に、抗CD4抗体+化合物A処理群、抗CD8抗体+化合物A処理群及び化合物A単独処理群には、化合物Aをそれぞれ1日1回、計10回経口投与した。化合物Aは試験例4と同様の経口投与溶媒で懸濁し、1日あたり50mg/Kgを経口投与した。なお、無処理群には何も投与しなかった。抗腫瘍活性の評価及び体重の測定は、試験例4と同様の方法で行った。
【0078】
その結果を[
図3]に示す。抗CD4抗体及び抗CD8抗体のいずれによっても、化合物Aによる腫瘍の増殖抑制活性は統計的にも有意に抑制された。このことから、化合物Aの抗腫瘍効果はT細胞依存性の抗腫瘍免疫応答に基づくことが示唆された。
【0079】
[試験例7]
化合物AのPD-1及び/又はPD-L1への結合特異性
SCC-3細胞株(JCRB細胞バンクより入手;No.JCRB0115)から、PD-L1遺
伝子をゲノム編集技術によりノックアウトしたサブクローン株を用いて化合物AのPD-1及び/又はPD-L1への結合特異性を検討した。
【0080】
PD-L1ノックアウトSCC-3細胞株の作製は、PD-L1遺伝子のエキソン3を切断し、Becton Dickinson社のセルソーターFACSAriaを用いてPD-L1発現の消失した細胞をクローン化し、DNAシーケンサーによりPD-L1遺伝子にフレームシフト変異の確認されたクローン#11、#29、#49、#53の4株を選択し、その内、造腫瘍性が確認されたクローン#11をインビボ評価に使用した。
【0081】
7週齢のNOG-dKOマウスに、試験例4と同様にX線を照射後、1×107個のヒト抹消血単核球細胞を各マウスに尾静脈を介して移植した。その翌日、2×105個のPD-L1ノックアウトSCC-3細胞を皮下移植した。その後、腫瘍体積が100mm3以上に達した時点で群分け(2群、各群5匹)を行い、化合物A処理群には投与開始後0日目~4日目、及び7日目~11日目に1日1回、計10回経口投与した。なお、無処理群には何も投与しなかった。化合物Aは試験例4と同様の経口投与溶媒で懸濁し、1日あたり50mg/Kgを経口投与した。試験例4と同様に抗腫瘍活性を評価した。
【0082】
その結果を[
図4]に示す。化合物Aによる増殖抑制活性がみられなかったことから、化合物AのPD-1及び/又はPD-L1への結合特異性が示唆された。
【0083】
[試験例8]
化合物Aの類似化合物のPD-1及び/又はPD-L1への結合性
化合物Aと化学構造の類似する化合物の中から無作為に選択した化合物が、化合物Aと同様にPD-1及び/又はPD-L1への結合性を有するか否かを、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)法により検討した。
SPR法では、リガンドをセンサーチップ表面上に固定化し、これに作用する物質(アナライト)を含む溶液を添加すると、分子の結合・解離によって生じる微量の質量変化がSPRシグナルの変化として検出される。質量変化(レスポンス)はresonance unit(RU)で表され、1000RUは共鳴による反射角度0.1°の変化に相当し、アナライトがセンサーチップ上のリガンドに1ng/mm2結合したことを意味する。本試験例では、ヒトPD-1及びヒトPD-L1の可溶型(遊離型)組換えタンパク質をリガンドとして、各試験化合物をアナライトとして供した。
【0084】
1.ヒトPD-1及びヒトPD-L1の可溶型(遊離型)組換えタンパク質の作製
(1)ヒトPD-1タンパク質(NCBIアクセッション番号;NP_005009.2)の細胞外ドメインは、第24番目のフェニルアラニン(Phe24)から第170番目のバリン(Val170)までの領域により構成される。(2)ヒトPD-L1アイソフォーム1タンパク質(NCBIアクセッション番号;NP_054862)の細胞外ドメインは、第19番目のフェニルアラニン(Phe19)から第238番目のアルギニン(Arg238)までの領域により構成される。本試験例では、この各タンパク質のシグナル配列及び細胞外ドメインのアミノ酸配列をコードする核酸配列のC末端相当側に6連ヒスチジンタグをコードする核酸配列および終止コドンをそれぞれ付加した核酸断片を作製し、該核酸断片をpcDNA3.3発現ベクターに組み込んで可溶型タンパク質発現ベクターを作製した。該発現ベクターをExpi293F細胞(ライフテクノロジー社)に遺伝子導入して培養し、培養上清を回収した。得られた培養上清から、ヒスチジンタグ親和性カラムを用いた一般的な方法によって精製し、ヒトPD-1可溶型組換えタンパク質(0.5mg/mL、溶媒:PBS)及びPD-L1可溶型組換えタンパク質(6.0mg/mL、溶媒:PBS)を得た。
【0085】
2.試験化合物の合成
試験化合物のうち、化合物A、No.10、No.13、及びNo.14を以下の方法で合成した。
【0086】
【0087】
1-(3-(Trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carboxylic acid (63 mg, 0.2 mmol) 及び 2-methylpiperidine (24 μL,0.2 mmol) をジクロロメタン 5 mL に溶解し、HATU(228 mg, 0.6 mmol) 及び DIPEA (105 μL, 0.6 mmol)を加えて、80 ℃ にて 16 時間反応させた。減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール勾配溶離液、メタノール0 % → 10 %)にて精製し、目的の化合物Aを46 mg、収率 58 %で得た。
【0088】
【0089】
1-(3-(Trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carboxylic acid (63 mg, 0.2 mmol) 及びmethyl piperidine-2-carboxylate (29 mg, 0.2 mmol)をジクロロメタン 5 mL に溶解し、HATU (228 mg, 0.6 mmol) 及び DIPEA (105 μL, 0.6 mmol) を加えて、80 ℃ にて 16 時間反応させた。減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール勾配溶離液、メタノール0% → 10 %)にて精製し、目的の化合物No.10(methyl 1-(1-(3-(trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carbonyl)piperidine-2-carboxylate)を57 mg、収率65 %で得た。
Chemical Formula: C19H23F3N6O3
Exact Mass:440.18
Molecular Weight:440.43
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 8.22 (d, 1H), 7.60 (d,1H), 5.16-5.08 (m, 1H), 4.23 (q, , 2H), 3.99 (d, J = 12.8 Hz, 1H), 3.71 (s,1H), 3.30 (s, 3H), 3.17-3.03 (m, 3H), 2.23-2.08 (m, 1H), 1.81-1.18 (m, 9H)
【0090】
【0091】
1-(3-(Trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carboxylic acid (63 mg, 0.2 mmol) 及びmethyl (2S,4R)-4-hydroxypyrrolidine-2-carboxylate hydrochloride(36 mg, 0.2 mmol)をジクロロメタン 5 mL に溶解し、HATU (228 mg, 0.6 mmol) 及び DIPEA (105 μL, 0.6 mmol) を加えて、80 ℃ にて 16 時間反応させた。減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール勾配溶離液、メタノール0% → 10 %)にて精製し、目的の化合物No.13(methyl(2S,4R)-4-hydroxy-1-(1-(3-(trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carbonyl)pyrrolidine-2-carboxylate)を 45 mg、収率51 %で得た。
Chemical Formula: C18H21F3N6O4
Exact Mass:442.16
Molecular Weight:442.40
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 8.24 (d, 1H), 7.61 (d,1H), 5.21 (s, 1H), 4.31-4.23 (m, 2H), 3.81-3.63 (m, 2H), 3.61-3.59 (m, 3H),3.58-3.40 (m, 2H), 3.26-3.05 (m, 2H), 3.01-2.65 (m, 2H), 2.21-1.76 (m, 3H),1.64-1.48 (m, 2H)
【0092】
【0093】
1-(3-(Trifluoromethyl)-[1,2,4]triazolo[4,3-b]pyridazin-6-yl)piperidine-4-carboxylic acid (63 mg, 0.2 mmol) 及びpiperidine (20 μL, 0.2 mmol)をジクロロメタン 5 mL に溶解し、HATU (228 mg, 0.6 mmol) 及び DIPEA (105 μL, 0.6 mmol) を加えて、80 ℃ にて 16 時間反応させた。減圧化で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール勾配溶離液、メタノール0% → 10 %)にて精製し、目的の化合物No.14を51 mg、収率67%で得た。
【0094】
3.SPR解析方法
3.1.Running Bufferの調製
リン酸緩衝生理食塩水(10×PBS)pH7.4(ナカライテスク社製)を蒸留水で10倍希釈し、PBSを調製した。PBSとTween20(富士フィルム和光純薬社製)を混合し、0.05% PBS-Tを調製した。0.05% PBS-TとDMSO(富士フィルム和光純薬社製)を混合し、5% DMSO PBS-Tを調製した。
【0095】
3.2.タンパク質の固定化
PD-1はpH 4.5の酢酸バッファー(ブルカー社製)で50μg/mLに希釈し、PD-L1はpH 5.0の酢酸バッファー(ブルカー社製)で50μg/mLに希釈し、以下の条件でアミンカップリング法により固定化を実施した。
【0096】
SPR装置:Sierra SPR-24 Pro(ブルカー社製)
センサーチップ:SPR Affinity Sensors - High Capacity Amine(ブルカー社製)
温度:25℃
Running Buffer :5% DMSO PBS-T
リガンド:PD-1(50 μg/mL,pH 4.5),PD-L1(50 μg/mL,pH 5.0)
固定化スポット:PD-1;Channel 1B~8B
PD-L1;Channel 1C~8C
固定化時の流速 :10 μL/min
固定化時間:300 sec
【0097】
<ブロッキング条件>
ブロッキング試薬:1 mol/Lエタノールアミン・HCl
流速:10 μL/min
ブロッキング時間:360 sec
【0098】
なお、センサーチップは3(A~C)×8チャネル(計24スポット)の構成であり、チャネルごとに別々の試料をインジェクションすることが可能である。今回、Aを何も固定化しないコントロールスポットとし、BにPD-1を固定化し、CにPD-L1を固定化することで、化合物ごとのPD-1又はPD-L1への結合性を同時に評価した。
【0099】
3.3.各試験化合物の評価
各試験化合物をDMSO及びPBS-Tで希釈し、100 μmol/Lの5% DMSO PBS-T溶液を調製した。いずれの化合物溶液も溶解していることを確認した。なお、ポジティブコントロールとしたBMS-202及びBMS-1166は、15μmol/Lの5% DMSO PBS-T溶液に調製した。条件を以下に示した(3.2.項と同じ条件は省略した)。解析では、同インジェクションのスポットAの結果を差し引くととともに、各サイクルの0濃度の結果を差し引いた(double-substract)。
センサーチップ :タンパク質固定化済チップ
チャネル:Channel 1~8
流速:25 μL/min
Contact time:60 sec
Dissociation time:180 sec
【0100】
4.結果
4.1.タンパク質の固定化
各チャネルのPD-1の固定化量は約12300~13000RUであり、PD-L1の固定化量は約10500~10800RUであり、スポット間でおおむね同等かつ試験化合物の結合検出に充分な固定化量が得られた。
【0101】
4.2.各試験化合物の結合性
各試験化合物のPD-1又はPD-L1に対するレスポンス(RU値)の最大値(n=1)を[表7]に示す。化合物Aと化学構造の類似する化合物No.10、13、及び14のいずれも、PD-1及び/又はPD-L1に結合性を有していた。化合物Aと化学構造の類似する化合物の中から無作為に選択したこれらの化合物が、いずれも上記のような結果を示したことから、例示しきれなかった化合物を含め、化合物Aと化学構造の類似する本発明における化合物は、化合物Aと同様にPD-1及び/又はPD-L1の阻害活性及び抗腫瘍活性を示す蓋然性が高いことが理解される。
【0102】
【0103】
[比較試験例1]
SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対するBMS-202の抗腫瘍効果
BMS-202のヒト化マウスSCC-3に対する抗腫瘍効果の検討は、試験例4と同様に行ったが、BMS-202を経口投与用溶媒に懸濁後、投与開始後0日目~4日目、及び7日目~10日目に1日1回、計9回腹腔内投与し、SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する抗腫瘍効果を比較検討した。なお、BMS-202の用量は1日あたり20mg/Kgとし、各群のマウスは3匹を用いた。
【0104】
その結果を[表8]に示す。[表8]には、投与開始後0日目からの11日間における最大の増殖抑制活性(抗腫瘍活性)(9日目)と最大の副作用(7日目)を示した。BMS-202は、抗腫瘍効果は有効判定基準(抗腫瘍活性50%以下)に近い活性が認められたが、一方で化合物Aにはみられなかった著しい体重減少を示し、BMS-202はオフターゲット的な作用を有することが示唆された。
【0105】
【0106】
[比較試験例2]
SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する抗PD-1抗体の抗腫瘍効果
抗PD-1抗体(ニボルマブのバイオシミラー品;HEK293細胞系を用いて作製したリコンビナント抗ヒトPD-1ヒト化抗体(Ashizawa T et al., Clin Cancer Res; 23(1) 149-158, 2017 にて報告))を用いて、SCC-3ヒトリンパ腫移植ヒト化マウスに対する抗腫瘍効果を比較検討した。その結果、抗PD-1抗体は約50%前後の抗腫瘍活性を示したことから、化合物Aと抗PD-1抗体はほぼ同等の抗腫瘍効果を有することが推測された。
本発明における化合物はPD-1及び/又はPD-L1の阻害剤として優れた活性を有し、更に、優れた抗腫瘍活性を有する。したがって、PD-1及び/又はPD-L1の阻害剤が有効な腫瘍を始めとする種々の疾患の治療剤としての応用が期待される。