(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145670
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】多孔金属ガス拡散層、及びこれを備えた固体高分子形燃料電池、水電解装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220926BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220926BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20220926BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20220926BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20220926BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20220926BHJP
C25B 11/042 20210101ALI20220926BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220926BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220926BHJP
C25B 11/052 20210101ALN20220926BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M4/86 M
C25B11/032
C25B11/056
C25B11/063
C25B11/075
C25B11/042
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044763
(22)【出願日】2022-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2021045393
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年10月10日に240th ECS Meetingにて公開 (2)令和4年1月13日に第7回NEXT-FC基盤研究報告会にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】安武 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】林 灯
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA06
4K011AA10
4K011AA15
4K011AA21
4K011AA69
4K011DA01
4K021DB13
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB40
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB08
5H018BB17
5H018DD03
5H018DD05
5H018DD08
5H018DD10
5H018EE02
5H018EE10
5H018HH04
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】固体高分子形燃料電池用ガス拡散層に適した炭素材料を実質的に使用しないガス拡散層を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池用のガス拡散層であって、金属多孔シートからなる多孔金属ガス拡散層。当該多孔金属ガス拡散層として、金属Sn若しくはSn合金、金属Ti若しくはTi合金、またはステンレスからなる複数の貫通孔を有する金属多孔シートが好ましく、特に複数の貫通孔に金属SnまたはSn合金からなる樹枝状結晶を有することが好ましい。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池用のガス拡散層であって、金属多孔シートからなることを特徴とする多孔金属ガス拡散層。
【請求項2】
前記金属多孔シートが、金属Sn若しくはSn合金、金属Ti若しくはTi合金、またはステンレスからなる請求項1に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項3】
前記金属多孔シートが、複数の貫通孔を有する金属多孔シートである請求項2に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項4】
前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートが、以下(a)~(c)のいずれかである請求項3に記載の多孔金属ガス拡散層。
(a)貫通孔の孔径が50μm以上500μm以下であるパンチングメタルシート
(b)貫通孔の孔径が10μm以上300μm以下であるエキスパンドメタルシート
(c)貫通孔の孔径が2μm以上200μm以下であるメッシュメタルシート
【請求項5】
前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートが、表面及び/又は貫通孔に金属SnまたはSn合金を有する請求項4に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項6】
前記複数の貫通孔に金属SnまたはSn合金からなる樹枝状結晶を有する請求項5に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項7】
前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートがステンレスメッシュメタルシートである請求項4に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項8】
前記金属多孔シートが、金属繊維シートである請求項1に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項9】
前記金属繊維シートが、金属TiまたはTi合金からなる請求項8に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項10】
前記金属繊維シートの表面に、金属SnまたはSn合金を有する請求項8または9に記載の多孔金属ガス拡散層。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の多孔金属ガス拡散層及び電極触媒層を有するガス拡散電極。
【請求項12】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、請求項11に記載のガス拡散電極である膜電極接合体。
【請求項13】
請求項12に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
【請求項14】
請求項12に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置等の電極部材として使用されるガス拡散層及びこれを備えたガス拡散電極、並びに固体高分子形燃料電池及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極(アノード及びカソード)とを含む膜電極接合体(MEA)と、前記膜電極接合体の両面に積層されたガス拡散層(GDL)とからなる発電モジュールを、ガス流路が形成された2つのセパレータで挟んだ構造のセルを基本単位として構成されている。PEFCの構成部材は、一般的に、セパレータは金属材料で形成されており、ガス拡散層は多孔質の炭素材料(典型的にはポリアクリロニトリル系炭素繊維)が使用されている。 また、電極触媒層は、担体の表面にPt等の貴金属微粒子が担持された構造を有し、担体やガス拡散層には主に炭素材料が使用されている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
一方、PEFCの膜電極接合体(MEA)の電解質膜で使用されるナフィオン(Nafion)は酸性(pH=0~3)であるため、PEFCの電極材料は超強酸性条件で使用されることになる。また、通常運転しているときのセル電圧は0.4~1.0Vであるが、起動停止時にはセル電圧が1.5Vまで上昇するため、カソードでは、炭素系担体が電気化学的に酸化されてCO2に分解する反応が起こり、炭素系担体が腐食されて触媒活性成分である貴金属粒子が脱落するという問題があり、アノードにおいても運転初期等に燃料ガスが不足すると、その部分での電圧低下、あるいは濃度分極が生じて局部的に通常と反対の電位となり、炭素系担体の電気化学的酸化分解反応が起こることがある。
上述した炭素系担体の腐食の問題に対し、本発明者らは担体として、強酸性条件、高電位においても安定な電子伝導性酸化物(例えば、酸化スズ(SnO2))を使用し、これに選択的に電極触媒を担持した電極触媒材料を開発している(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-87993号公報
【特許文献2】特許第368364号公報
【特許文献3】特許第5322110号公報
【特許文献4】特許第6598159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上述のように、PEFCの構成部材には、金属材料(セパレータ)や炭素材料(ガス拡散層、電極触媒層)、酸化物材料(電極触媒層)が用いられているが、電子伝導率は一般に、金属材料>炭素材料>酸化物材料の関係にある。そして、セパレータや、ガス拡散層、電極触媒層は異なる材料が用いられているため、それぞれの構成部材間における接触抵抗も生じ、PEFCの性能を低下させる一因になっていた。
【0006】
伝統的に炭素材料が使用されてきた電極触媒層-ガス拡散層の導電パスを酸化物材料や炭素材料からより導電性の高い金属材料にすることで電気抵抗要因をさらに低減できる可能性がある。しかしながら、上述の通り、PEFCにおいて、膜電極接合体(MEA)に用いられるナフィオンは超強酸性であり、また、PEFCでは起動停止時等に高電位にさらされるため、炭素材料の腐食の問題がある。
また、担体として安定な電子伝導性の酸化物材料を使用した、特許文献3,4の電極触媒も導電補助材として炭素材料を使用するため、炭素材料の腐食の問題を完全には解決できない。また、電極触媒層において酸化物材料(電子伝導性酸化物担体)を使用すると、電極触媒層の電気抵抗が炭素系担体を使用した場合より高くなる傾向という課題があった。また、PEFCと同様の固体高分子電解質膜を使用した水電解装置に使用される電極やその構成部材においても、上述のPEFCと同様の課題があった。
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、炭素材料を実質的に使用しないガス拡散層及びこれを備えたガス拡散電極、並びにこれらを備えた固体高分子形燃料電池、固体高分子形水電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 固体高分子形燃料電池及び/又は固体高分子形水電解装置用のガス拡散層であって、金属多孔シートからなる多孔金属ガス拡散層。
<2> 前記金属多孔シートが、金属Sn若しくはSn合金、金属Ti若しくはTi合金、またはステンレスからなる<1>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<3> 前記金属多孔シートが、複数の貫通孔を有する金属多孔シートである<2>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<4> 前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートが、以下(a)~(c)のいずれかである<3>に記載の多孔金属ガス拡散層。
(a)貫通孔の孔径が50μm以上500μm以下であるパンチングメタルシート
(b)貫通孔の孔径が10μm以上300μm以下であるエキスパンドメタルシート
(c)貫通孔の孔径が2μm以上200μm以下であるメッシュメタルシート
<5> 前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートが、表面及び/又は貫通孔に金属SnまたはSn合金を有する<4>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<6> 前記複数の貫通孔に金属SnまたはSn合金からなる樹枝状結晶を有する<5>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<7> 前記複数の貫通孔を有する金属多孔シートがステンレスメッシュメタルシートである<4>に記載の多孔金属ガス拡散層。
【0010】
<8> 前記金属多孔シートが、金属繊維シートである<1>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<9> 前記金属繊維シートが、金属TiまたはTi合金からなる<8>に記載の多孔金属ガス拡散層。
<10> 前記金属繊維シートの表面に、金属SnまたはSn合金を有する<8>または<9>に記載の多孔金属ガス拡散層。
【0011】
<11> <1>から<10>のいずれかに記載の多孔金属ガス拡散層及び電極触媒層を有するガス拡散電極。
<12> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、<11>に記載のガス拡散電極である膜電極接合体。
<13> <12>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
<14> <12>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形水電解装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭素材料を実質的に使用しない多孔金属ガス拡散層及びこれを備えたガス拡散電極、並びにこれらを備えた固体高分子形燃料電池、固体高分子形水電解装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実験例1(Ti繊維シート)のガス拡散層(GDL)の外観写真である。
【
図3】実験例2(Snコート/Ti繊維シート)のGDLの外観写真である。
【
図4】実験例2のGDLの微細構造観察結果であり、(a)は倍率500倍、(b)は倍率10000倍である。
【
図6】実験例3(Tiパンチングメタルシート)のGDLの外観写真である。
【
図7】実験例4(Snパンチングメタルシート)のGDLの外観写真である。
【
図8】実験例5(Snめっき/Snパンチングメタルシート)のGDLの作製手順のフローチャートである。
【
図9】実験例5(Snめっき/Snパンチングメタルシート)のGDLの外観写真である。
【
図10】実験例5のGDLの微細構造観察結果であり、(a)はパンチング孔近傍、(b)は樹枝状結晶の拡大写真である。
【
図11】実験例6(ステンレスメッシュメタルシート(SUS316 500mesh))のGDLの微細構造観察結果である。
【
図12】実験例7(ステンレスメッシュメタルシート(SUS316 977mesh))のGDLの微細構造観察結果である。
【
図13】実験例1~5及び参考例1の電流電圧特性の評価結果である。
【
図14】SnパンチングメタルシートからなるGDLのモデル図であり、(a)は実験例4(Snめっきなし)、(b)は及び実験例5(Snめっきあり)である。
【
図15】実験例6,7及び参考例1の電流電圧特性の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0015】
1.多孔金属ガス拡散層
本発明は、固体高分子形燃料電池用のガス拡散層であって、金属多孔シートからなる多孔金属ガス拡散層(以下、「本発明のガス拡散層」と称する場合がある。)
【0016】
図1は固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。固体高分子形燃料電池において燃料極(アノード)には水素が供給され、(反応1)2H
2 → 4H
++4e
-によって、生成したプロトン(H
+)は固体高分子電解質膜を介して空気極(カソード)に供給され、また、生成した電子は外部回路(図示せず)を介して空気極(カソード)へ供給され、(反応2)O
2+4H
++4e
-→2H
2Oによって、酸素と反応して水を生成する。この燃料極(アノード)と空気極(カソード)の電気化学反応によって両電極間に電位差を発生させる。
【0017】
PEFCのガス拡散層に求められる主な機能としては、固体高分子電解質膜の保湿と電極触媒層からの排水、電極触媒層とセパレータの間の電子伝導、そしてガス輸送がある。従来、これらの機能を満たす材料として、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維が用いられていたが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維は軽さや化学的安定性に優れている一方で、金属材料等と比較して高価かつ機械的強度や導電性が低いという欠点がある。
これに対し、本発明のガス拡散層は、導電性と耐久性に優れる金属からなる金属多孔シートを使用することで、耐久性とガス拡散性に優れるガス拡散電極を供することができる。
【0018】
本発明のガス拡散層を構成する金属としては、PEFCの運転条件で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つ金属を選択すればよい。
ここで、本明細書において、PEFCの運転条件は、PEFCのカソード条件及びアノード条件の両方を含む。PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0019】
本発明のガス拡散層を構成する金属として、好適には金属Sn若しくはSn合金、金属Ti若しくはTi合金、またはステンレスが挙げられる。
【0020】
本発明のガス拡散層の好適例として、以下の第1の態様、又は第2の態様のガス拡散層が挙げられる。
本発明の第1の態様は、前記金属多孔シートが、複数の貫通孔を有する金属多孔シートであるガス拡散層である。「複数の貫通孔を有する金属多孔シート」についての詳細は後述する。
また、本発明の第2の態様は、前記金属多孔シートが、金属繊維シートであるガス拡散層である。「金属繊維シート」についての詳細は後述する。
【0021】
なお、本発明のガス拡散層は、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層であるが、固体高分子形水電解装置用ガス拡散層として使用することもできる。
【0022】
以下、本発明のガス拡散層についてより詳細に説明する。
【0023】
1-1.本発明のガス拡散層(第1の態様)
本発明のガス拡散層(第1の態様)は、金属多孔シートとして複数の貫通孔を有する金属多孔シートであるガス拡散層である。
【0024】
本発明のガス拡散層(第1の態様)において、複数の貫通孔を有する金属多孔シートは本発明の効果を奏す限り制限されないが、その好適例は、パンチングメタルシート、エキスパンドメタルシート又はメッシュメタルシートである。
【0025】
本明細書において、「パンチングメタルシート」は、原料金属シート(帯状体)をパンチング装置により穴あけすることにより製造される、貫通孔が多数開けられた金属シートを意味する。
【0026】
本明細書において、「エキスパンドメタルシート」は、原料金属シートに切れ目を入れて拡げて、その切れ目を菱形や亀甲形等にしたシート状の部材であり、切れ目が拡げられて菱形や亀甲形等になった部分が、エキスパンドメタルを厚さ方向に貫通する貫通空間(貫通孔)となる。
【0027】
本明細書において、「メッシュメタルシート」は、金属の細線を編んで形成されたシート状の部材であり、その編まれた細線の間の空間が金属メッシュを厚さ方向に貫通する貫通空間(貫通孔)となる。
【0028】
本発明のガス拡散層(第1の態様)において、パンチングメタルシート、エキスパンドメタルシート又はメッシュメタルシートからなるシート状多孔体の材質は、本発明の目的を損なわない限り制限はない。
好適には金属Sn(スズ)またはSn合金、金属Ti(チタン)またはTi合金、ステンレスが挙げられる。
【0029】
合金金属は本発明の目的を損なわない限り制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、アンチモン(Sb)や、Nb(ニオブ)等が挙げられる。
【0030】
パンチングメタルシート、エキスパンドメタルシート又はメッシュメタルシートの物性(孔径、孔密度、大きさ、厚み)は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0031】
複数の貫通孔を有する金属多孔シートがパンチングメタルシートの場合、貫通孔の孔径は、好適には50μm以上500μm以下である。なお、パンチングメタルシートの厚みや貫通孔の密度は、貫通孔の孔径に応じて、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0032】
複数の貫通孔を有する金属多孔シートがエキスパンドメタルシートの場合、例えば、孔径が10μm以上300μm以下である。
エキスパンドメタルシートの厚みや貫通孔の密度は、貫通孔の孔径に応じて、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0033】
複数の貫通孔を有する金属多孔シートがメッシュメタルシートの場合、例えば、孔径が2μm以上200μm以下である。
メッシュメタルシートの厚みや貫通孔の密度は、貫通孔の孔径に応じて、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0034】
複数の貫通孔を有する金属多孔シートは自作しても市販品を使用してもよい。
【0035】
複数の貫通孔を有する金属多孔シートは、必要に応じて他の金属(合金を含む)を固着させていてもよい。当該固着させる他の金属は、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、好適には金属SnやSn合金が挙げられる。
【0036】
他の金属を複数の貫通孔を有する金属多孔シートに固着させる方法は任意であり、他の金属の種類や固着量等に応じて適宜選択される。例えば、他の金属が金属Snである場合にはめっき法が好ましい。
【0037】
本発明のガス拡散層(第1の態様)において、他の金属の固着量は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、他の金属の種類や目的に応じて適宜選択できる。
【0038】
本発明のガス拡散層(第1の態様)の好適例は、複数の貫通孔を有する金属多孔シートが、表面及び/又は貫通孔に金属SnまたはSn合金を有するガス拡散層である。特に複数の貫通孔に金属SnまたはSn合金からなる樹枝状結晶を有することが好ましい。
ここで、「樹枝状結晶」とは、幹に相当する部分を有し、複数に枝分かれした樹枝状の結晶をいう。
【0039】
特に実施例で後述するように、金属Snからなる貫通孔50μm以上500μm以下のパンチングメタルシートであれば、表面及び/又は貫通孔に金属Sn(貫通孔に金属Snからなる樹枝状結晶)を固着させることができ、発電性能に優れる固体高分子形燃料電池を供することができる。
【0040】
また、本発明のガス拡散層(第1の態様)の好適例は、複数の貫通孔を有する金属多孔シートがステンレスメッシュメタルシートであるガス拡散層である。
【0041】
ステンレスメッシュメタルシートは、市販品をそのまま本発明のガス拡散層として使用してもよいが、その表面に他の金属(例えば、SnやAu等)やカーボンを固着することもできる。
【0042】
1-2.本発明のガス拡散層(第2の態様)
本発明のガス拡散層(第2の態様)において、金属繊維シート(金属繊維からなるシート状多孔体)は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、例えば、シート状の金属TiまたはTi合金を使用できる。
【0043】
金属繊維シートの物性(大きさ、繊維径、空隙率等)は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0044】
本発明のガス拡散層(第2の態様)において、金属繊維シートに金属SnまたはSn合金を固着させる方法は任意の方法が選択できる。
例えば、金属SnまたはSn合金は、酸化スズまたは酸化スズを主体とする酸化物を還元して形成すればよい。例えば、市販の酸化スズのゾルを金属繊維シートに担持させて還元すればよい。
【0045】
例えば、金属SnまたはSn合金は、金属Snまたは金属Sn及び合金金属を還元して形成すればよい。例えば、市販の金属Snペースト(及び合金金属のペースト)を金属繊維シートに担持させて還元すればよい。
【0046】
例えば、金属SnまたはSn合金が、溶融させた金属Snまたは金属Sn及び合金金属に、金属繊維シートを浸漬して形成すればよい。溶融温度はSn及び合金金属の融点等を考慮して適宜選択される。
【0047】
合金金属は本発明の目的を損なわない限り制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、アンチモン(Sb)や、Nb(ニオブ)が挙げられる。
【0048】
還元条件は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、例えば、水素を含む還元ガス雰囲気下で、300℃以下の温度で行えばよい。
【0049】
前記SnまたはSn合金の担持量は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0050】
2.ガス拡散電極、膜電極接合体(MEA)、並びに固体高分子形燃料電池又は固体高分子形水電解装置
本発明のガス拡散層は、これを含むガス拡散電極、膜電極接合体(MEA)、並びに固体高分子形燃料電池又は固体高分子形水電解装置として使用することができる。
【0051】
以下、PEFCの構成について説明するが、本発明のガス拡散層は、PEFC以外の電極部材(例えば、固体高分子形水電解装置の電極部材)としても使用することが可能である。すなわち、本発明のガス拡散層は、当該本発明のガス拡散層及び電極触媒層を有するガス拡散電極を備えた固体高分子形燃料電池又は固体高分子形水電解装置として好適に使用することができる。
【0052】
本発明のガス拡散層は、
図1に示すガス拡散電極の構成要素として適用できる。すなわち、本発明のガス拡散電極は、アノードとカソードの少なくとも一方に使用され、本発明のガス拡散層と電極触媒層とを有する。
本発明のガス拡散電極は、本発明のガス拡散層を有することに特徴があり、電極触媒層は従来公知の電極触媒層(例えば、貴金属微粒子を担持した炭素系担体、貴金属微粒子を担持した酸化物担体等からなる電極触媒層)を利用できるため、詳細な説明を省略する。
【0053】
本発明の膜電極接合体(MEA)は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、上記本発明のガス拡散層と電極触媒層とを有する本発明のガス拡散電極であることを特徴とする。
【0054】
本発明の膜電極接合体において、本発明のガス拡散層を用いた本発明のガス拡散電極(アノード及びカソードの少なくとも一方)以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0055】
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明の膜電極接合体を構成要素に含む。すなわち、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたカソードと、を有し、本発明のガス拡散層及び電極触媒層を有するガス拡散電極を前記アノードとカソードの少なくとも一方として使用している。
また、本発明に係る固体高分子形燃料電池において、本発明のガス拡散層を用いた本発明のガス拡散電極(アノード及びカソードの少なくとも一方)以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、詳細な説明を省略する。実際には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層されたスタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置等その他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【0056】
本発明に係る固体高分子形水電解装置は、本発明の膜電極接合体を構成要素に含む。すなわち、本発明に係る固体高分子形水電解装置は、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたカソードと、を有し、本発明のガス拡散層及び電極触媒層を有するガス拡散電極を前記アノードとカソードの少なくとも一方として使用している。
また、本発明に係る固体高分子形水電解装置において、本発明のガス拡散層を用いた本発明のガス拡散電極(アノード及びカソードの少なくとも一方)以外の構成要素は、公知の固体高分子形水電解装置と同様であるため、詳細な説明を省略する。実際には、本発明の固体高分子形水電解装置(単セル)が水電解性能に応じた基数だけ積層されたスタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置等その他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【実施例0057】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
実験例1~4のガス拡散層(GDL)として以下を使用した。
【0059】
実験例1:Ti繊維シート
株式会社日工テクノ(ST/Ti/270/70)、(繊維径10μm、厚さ200μm、空隙率70%)を使用した。
図2に実験例2のGDLの外観写真を示す。
【0060】
実験例2:Sn/Ti繊維シート
実験例1のTi繊維シートにSn95重量%,Sb5重量%の金属ペーストを塗布し、5%H2(N2バランス)雰囲気下、200℃で2時間還元を行うことで作製した。
【0061】
図3に実験例2のGDLの外観写真、
図4にGDL表面の顕微鏡写真を示す。
図4(a)に示すように、Ti繊維シート上には直径20~40μm程度のSn粒子が担持されているのが確認できた。なお、Snペーストは還元前には直径数十μmの独立した粒子で構成されていたが、還元後から粒子間が結合された多孔体構造となった。一方、
図4(b)からは、直径数十~数百nmのSn粒子がTi繊維上にわずかに担持されているのが確認できた。
図5に顕微鏡写真に基づく実験例2のGDLの断面模式図を示す。
【0062】
実験例3:Ti多孔シート(Tiパンチングメタルシート)
Ti製のパンチングメタルシート(パンチング孔径300μm、厚さ12μm、福田金属箔粉工業株式会社(試作品))を使用した。
図6に実験例3のGDLの外観写真を示す。
【0063】
実験例4:Sn多孔シート(Snパンチングメタルシート)
Sn製のパンチングメタルシート(パンチング孔径300μm、厚さ100μm、福田金属箔粉工業株式会社(試作品))を使用した。
図7に実験例4のGDLの外観写真を示す。
【0064】
実験例5:Sn/Sn多孔シート(Sn/Snパンチングメタルシート)
図8に示すフローチャートのとおり、実験例5のGDLを作製した。
Snめっきの手法としては、電源装置の正極側に金属Sn板を接続し、負極側にSn多孔シート(実験例4と同じSnパンチングメタルシート)を接続し、両電極を電解液である0.1 mol/LのHCl水溶液に浸漬させ、1.5V電圧下で20分間電流を流すことにより、Sn多孔シート(Snパンチングメタルシート)に対して、Snめっきを行った。次いで、5%H
2(N
2バランス)雰囲気下、180℃で2時間還元を行うことでSn/Snパンチングメタルシートからなる実験例5のGDLを得た。
【0065】
図9に示す実験例5のGDLの外観写真の通り、Snパンチングメタルシートの全面にSnめっきが形成されていることが確認された。また、
図10に実験例5のGDLの微細構造観察結果を示す。
図10(a)に示す通り、実験例5のGDLにおいてパンチング孔内には、直径2~3μmの幹を持つSn樹枝状結晶が形成されていることが確認された。また、シート表面には直径0.5~5μm程度の金属Sn粒子が形成されていることが確認された。
【0066】
実験例6:ステンレスメッシュメタルシート
株式会社ニラコ ステンレスSUS316/金網(500mesh、線径φ0.025mm、品番788500)を使用した。
図11に実験例6のGDLの外観写真を示す。
【0067】
実験例7:ステンレスメッシュメタルシート
株式会社ニラコ ステンレスSUS316/金網(977mesh、線径φ0.013mm、品番788977)を使用した。
図12に実験例7のGDLの外観写真を示す。
【0068】
<電気化学的評価(単セル、初期性能評価)>
下記構成のPEFC(単セル)を作製し、発電実験(IV測定)を行った。
(固体電解質膜)
ナフィオン膜(デュポン社製、ナフィオン212 厚さ51μm)
(アノード)
・電極触媒層: Pt/C 触媒(田中貴金属工業株式会社製)
・ガス拡散層:炭素繊維系ガス拡散層
(カソード)
・電極触媒層:Pt/C 触媒(田中貴金属工業株式会社製)
・ガス拡散層:実験例1~7のガス拡散層、炭素繊維系ガス拡散層(参考例1)
【0069】
実験例1~5を組み込んだ単セル発電評価用治具(自作)を80℃に設定した恒温槽内に設置し、以下の条件で発電試験を行った。なお、燃料電池評価装置(東陽テクニカ社製、型番:PE-8900K)およびポテンショ/ガルバノスタット(Solatron社製、型番:SI1287)を用いた。
(アノード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 :100% H2
ガス供給速度 :139mL/分
供給ガス加湿温度 :80℃(相対湿度:100%)
(カソード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 :Air
ガス供給速度 :332mL/分
供給ガス加湿温度 :80℃(相対湿度:100%)
【0070】
(実験例1~5)多孔金属GDL:金属繊維シート及びパンチングメタルシート
図13に実験例1~5の多孔金属GDLを用いたPEFC(単セル)の電流-電圧(IV)特性の評価結果を示す。参考のため、従来の炭素系GDLを使用した単セルのデータも併せて示す。
【0071】
図13に示す通り、多孔金属GDLを用いた実験例1~5のPEFCはいずれも発電を行えることが確認された。
金属繊維シートをGDLに使用した実験例1(GDL:Ti繊維シート)と実験例2のPEFC(GDL:Sn/Ti繊維シート)との対比から、Ti繊維シートは表面にSn粒子を有することにより、IV特性が向上することが確認された。
また、パンチングメタルシートをGDLに使用した実験例3~5のPEFCは、実験例1,2のPEFCと比較してより優れたIV特性を示した。また、Tiパンチングメタルシートを使用した実験例3と比較して、Snパンチングメタルシートを使用した実験例4は優れたIV特性を示した。
【0072】
さらにSnパンチングメタルシートにSnめっきを施し、パンチング孔にSn樹枝状結晶を有する実験例5は、めっきをしていない実験例4より優れたIV特性を示した。
【0073】
以上の結果から、多孔金属GDLにおいて表面に金属Snが存在すること(特には孔内にSn樹枝状結晶を有すること)によってセル性能が向上する傾向にあることが判明した。なお、パンチング孔にSn樹枝状結晶を有する実験例5のGDLを用いたPEFCが優れたIV特性を示す原因として、めっきをしていないSn多孔シートからなる実験例4のGDLでは、発電により生じた水が孔内に留まりガスの流れを阻害するのに対し(
図14(a)参照)、Snを行ったSn/Sn多孔シートからなる実験例5のGDLでは、孔内に形成されたSn樹枝状結晶が生成水の分散化に寄与している可能性が考えられる(
図14(b)参照)。
【0074】
(実験例6,7)多孔金属GDL:ステンレスメッシュメタルシート
図15に実験例6,7の多孔金属GDLを用いたPEFC(単セル)の電流-電圧(IV)特性の評価結果を示す。参考のため、従来の炭素系GDLを使用した単セルのデータも併せて示す。
【0075】
多孔金属GDLとして孔径の異なるステンレスメッシュメタルシート(実験例6:500mesh、実施例7:977mesh)を用いたPEFCを作製し発電試験を行った。
図11に示す通り、多孔金属GDLとしてステンレスメッシュメタルシートを用いた実験例6,7のPEFCはいずれも発電を行えることが確認され、977meshの実施例7がより優れたIV特性を示した。
本発明は、自動車、電力、ガス、家電業界で使用される固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置の電極構成部材として有望である。特に、負荷変動が激しい燃料電池自動車向けに供されることが期待される。