(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145685
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】ウインドシールド
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220926BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220926BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20220926BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220926BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B32B17/10
B60J1/02 M
B60J1/00 J
B60K35/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109207
(22)【出願日】2022-07-06
(62)【分割の表示】P 2020180054の分割
【原出願日】2015-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2014097152
(32)【優先日】2014-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015023732
(32)【優先日】2015-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】神吉 哲
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 尚志
(72)【発明者】
【氏名】小川 永史
(57)【要約】
【課題】マスク層の開口を通じて光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる、ウインドシールドを提供する。
【解決手段】本発明は、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層が積層されたガラス板を備え、前記ガラス板と、前記マスク層を構成するマスク材の熱膨張率は相違し、前記ガラス板と前記マスク層は共に加熱されることにより成形され、前記マスク層における前記開口の周縁部の少なくとも一部には、単位面積当たりの前記マスク材が配置されている割合が少ない開口周縁領域が形成されており、前記情報取得装置は、前記ガラス板の車内側の面において、前記開口の中で、前記開口周縁領域よりも内側の領域を通じて情報を取得できるように配置される。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と対向配置される第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが小さくなるように断面楔状に形成される楔形領域を有し、前記情報取得装置への光は、前記楔形領域を通過するように構成されている、ウインドシールド。
【請求項2】
前記中間膜において、前記楔形領域の楔角は、0.05~0.3度である、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
ヘッドアップディスプレイ装置からの情報が投影されるとともに、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、前記ヘッドアップディスプレイ装置からの情報が投影される第1領域と、前記情報取得装置に対する光が通過する第2領域と、を有し、
前記第1領域において前記中間膜の外側表面と内側表面とがなす第1角度と、前記第2領域において前記中間膜の外側表面と内側表面とがなす第2角度と、が相違する、ウインドシールド。
【請求項4】
前記第1領域は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが小さくなるように断面楔状に形成されている、請求項3に記載のウインドシールド。
【請求項5】
前記第2領域は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが大きくなるように断面楔状に形成されている、請求項3または4に記載のウインドシールド。
【請求項6】
前記第2角度は、0.05~0.3度である、請求項3から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項7】
前記第1角度は、0~0.3度である、請求項3から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のウインドシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性能は飛躍的に向上しつつあり、その1つとして前方車両との衝突を回避するため、前方車両との距離及び前方車両の速度を感知し、異常接近時には、自動的にブレーキが作動する安全システムが提案されている(例えば、特許文献1)。このようなシステムは、前方車両との距離などをレーザーレーダーやカメラを用いて計測している。レーザーレーダーやカメラは、一般的に、ウインドシールドの内側に配置され、赤外線を前方に向けて照射することで、計測を行う。
【0003】
ところで、上記のようなレーザーレーダーやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面に取り付けられることが多いが、このような測定機器が外部から見えないようにするため、ガラス板の内面には、濃色のセラミックなどが塗布されたマスク層が形成されており、その上に測定装置が配置されている。このとき、マスク層には、開口が形成され、レーザーレーダーにおいて照射及び受光されるレーザ光、カメラで受光する可視光線及び/又は赤外線などは、この開口を通じて照射されたり、受光される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本発明者は、上記のようなマスク層上に測定装置を配置すると、次のような問題が生じ得ることを見出した。上記のようなウインドシールドは、ガラス板上にマスク層を塗布した後に加熱され、その後、曲面状に成形されることで製造される。その際、マスク層は、黒色などの濃色で形成されているため、マスク層が形成されていない領域と比べ、ガラス板における熱の吸収量が多くなる。ここで、セラミックで形成されたマスク層の熱膨張係数は、ガラスとは相違するため、熱の吸収による膨張量が相違する。そのため、ガラス板には、膨張量の差に起因して、例えば、
図53に示すように、マスク層と、これが形成されていない領域との境界付近に歪みが生じることが分かった。これにより、ガラス板を通して見える像が歪むという問題が生じていた。そして、本発明者は、この問題に起因しては、上記のような安全システムが設けられるウインドシールドでは、次のような問題を引き起こす可能性を見出した。すなわち、このような歪みがマスク層と開口との境界付近において生じると、レーザ光を照射及び受光したとき、あるいはカメラによって撮影を行うときには、歪みにより光が屈折するなどして、正確に光を照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。これにより、車間距離などが正確に算出されない可能性もある。
【0006】
このような問題は、車間距離の測定装置に限られず、例えば、光ビーコンなどの光の受光によって車外からの情報を取得する情報取得装置全般に生じうる問題である。そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、マスク層の開口を通じて光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる、ウインドシールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<発明1>
発明1は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0008】
項1.本発明は、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層が積層されたガラス板を備え、前記ガラス板と、前記マスク層を構成するマスク材の熱膨張率は相違し、前記ガラス板と前記マスク層は共に加熱されることにより形成され、前記マスク層における前記開口の周縁部の少なくとも一部には、単位面積当たりの前記マスク材が配置されている割合が少ない開口周縁領域が形成されており、前記情報取得装置は、前記ガラス板の車内側の面において、前記開口の中で、前記開口周縁領域よりも内側の領域を通じて情報を取得できるように配置される。
【0009】
項2.前記開口周縁領域は、前記開口の周縁部の全周に亘って形成されている、項1に記載のウインドシールド。
【0010】
項3.前記開口周縁領域の内部において外部に露出する前記ガラス板は、当該開口周縁領域の内周縁に沿う歪領域と、当該歪領域の内側に隣接する中央領域と、から構成され、
前記情報取得装置は、前記ガラス板の車内側の面において、前記中央領域の全部または一部を通じて情報を取得できるように配置される、項1または2に記載のウインドシールド。
【0011】
項4.前記歪領域の幅は、6mm以下である、項3に記載のウインドシールド。
【0012】
項5.前記開口周縁領域は、前記マスク材で形成された複数のマスク片を備えており、前記複数のマスク片は互いに間隔をあけて前記ガラス板上に積層されている、項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【0013】
項6.前記各マスク片は、円形状に形成されている、項5に記載のウインドシールド。
【0014】
項7.前記マスク片は、千鳥状に配置されている、項5または6に記載のウインドシールド。
【0015】
項8.前記ガラス板は、外側ガラス板、当該外側ガラス板と対向配置される内側ガラス板、及び前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜を備えている、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0016】
項9.前記マスク層の少なくとも一部は黒色である、項1から8のいずれかに記載のウインドシールド。
【0017】
項10.前記マスク層、開口周辺領域、及び歪領域において、前記情報取得装置が取付けられる領域の少なくとも一部には、電磁波遮蔽膜が形成されている、項1から9のいずれかに記載のウインドシールド。
【0018】
項11.前記マスク層、開口周辺領域、及び歪領域の少なくとも一部は、第1の視野遮蔽膜、前記電磁波遮蔽膜、及び第2の視野遮蔽膜が、外部から車内側へこの順で配置されていることで構成されている、項10に記載のウインドシールド。
【0019】
<発明2>
上記のようなレーザーレーダーやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面に取り付けられることが多いが、このような測定機器が外部から見えないようにするため、ガラス板の内面には、濃色のセラミックなどが塗布されたマスク層が形成されており、その上に測定装置が配置されている。このとき、マスク層には、開口が形成され、レーザーレーダーにおいて照射及び受光されるレーザ光、カメラで受光する可視光線及び/又は赤外線などは、この開口を通じて照射されたり、受光される。
【0020】
ところが、ガラス板において、上記開口に対応する位置に歪みが生じると、通過する光が想定以上に屈折するおそれがある。これにより、正確に光を照射できなかったり、あるいは正確に受光できないことがあり、その結果、画像認識不足になり、車間距離などが正確に算出されない可能性がある。したがって、上記開口には歪みが生じないように、ガラス板を製造する必要がある。
【0021】
ガラス板の製造工程において、最も歪みが生じやすいのは、ガラス板の成形工程であるが、この成形には種々の方法がある。例えば、成形型でプレスしてガラス板を湾曲させる方法のほか、ガラス板の自重によりガラス板を湾曲させる方法がある。後者の方法では、成形型にガラス板の周縁のみが支持されるように載置し、ガラス板を加熱する。これにより、ガラス板が自重によって下方に湾曲する。しかしながら、自重によって湾曲を形成する方法は、ガラス板に付与される熱のコントロールが容易ではなく、歪みが生じやすいという問題があった。
【0022】
そこで、発明2は、上記問題を解決するためになされたものであり、ウインドシールドを、自重によって湾曲を付与するウインドシールドの製造方法において、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる、ウインドシールドを製造することができる、ウインドシールドの製造方法、成形型、及びウインドシールドを提供することを目的とする。具体的には、発明2は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0023】
項1.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドの製造方法であって、
ガラス板上に、車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層を積層することで、ウインドシールドを形成するステップと、
前記ウインドシールドを成形型上に配置し、少なくとも前記成形型の下方から加熱を行うことで、前記ウインドシールドを自重により下方に湾曲させるステップと、
を備え、
前記成形型は、前記ウインドシールドの周縁部を支持し、上下方向に貫通する内部空間を有する枠状の型本体と、前記型本体の内周縁側から前記内部空間の中心側に延びる遮熱手段と、を備え、
前記遮熱手段において前記内部空間の中心側の端縁が、前記マスク層の開口の直下よりも前記内部空間の中心側に位置している、ウインドシールドの製造方法。
【0024】
項2.項1に記載のウインドシールドの製造方法に用いられる成形型であって、
前記ガラス板の周縁部を支持し、上下方向に貫通する内部空間を有する枠状の型本体と、
前記型本体の内周縁側から前記内部空間の中心側へ延びる遮熱手段と、
を備え、
前記遮熱手段において前記内部空間の中心側の端縁が、前記マスク層の開口の直下よりも前記内部空間の中心側に位置している、成形型。
【0025】
項3.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
ガラス板と、
前記ガラス板に積層され、車外からの視野を遮蔽するとともに、少なくとも1つの開口を有するマスク層と、を備え、
前記ガラス板において、前記開口が形成されている箇所には、当該ガラス板の周方向に沿って延びる歪みが形成されていない、ウインドシールド。
【0026】
項4.前記ガラス板は、第1ガラス板、当該第1ガラス板と対向配置される第2ガラス板、及び前記両ガラス板の間に挟持される中間膜、を備えている、項3に記載のウインドシールド。
【0027】
項5.前記中間膜は、コア層と、前記コア層よりも硬度が高く当該コア層を挟持する一対のアウター層と、を備えている、項4に記載のウインドシールド。
【0028】
項6.前記コア層は、周波数100Hz,温度20℃で、ヤング率が1~20MPaである、項5に記載のウインドシールド。
【0029】
項7.前記アウター層は、周波数100Hz,温度20℃で、ヤング率が560MPa以上である、項5または6に記載のウインドシールド。
【0030】
<発明3>
一対のガラス板の間に中間膜が配置された車両用合わせガラス、特にウインドシールドには、防眩性、遮熱性などの向上のために、グリーン、ブルーなどに着色した帯状のシェード領域が形成されることがある。シェード領域は、ガラス板の表面に設けられることもあるが、中間膜の一部を帯状に着色することにより形成されることが多い。その一方で、ウインドシールドには、可視光線透過率を所定値以上(例えば70%以上)とするべき法定の視野領域があるため、ウインドシールドのシェード領域は、視野領域の外、つまり、通常はウインドシールドの上部に配置される。
【0031】
ところで、近年、自動車の安全性能は飛躍的に向上しつつあり、その1つとして前方車両との衝突を回避するため、前方車両との距離及び前方車両の速度を感知し、異常接近時には、自動的にブレーキが作動する安全システムが提案されている。このようなシステムには、前方車両との距離などをレーザーレーダーやカメラなどの機器を用い、レーザーや赤外線などによって計測している。そして、これらの機器は、一般的に、安全性の確保および機器の十分な機能発揮のために、ウインドシールドの上部に取り付けることが望まれる。
【0032】
しかしながら、ウインドシールドの上部には、上記のようにシェード領域が形成されるため、レーザーレーダーなどの機器を取付けるには、シェード領域に、レーザー光などが通過できるような開口を形成する必要がある。そこで、例えば、国際公開第2003/059837号公報には、次のような方法が開示されている。
【0033】
まず、
図54(a)に示すように、予め一端部にシェード領域を形成した中間膜100の上に、着色剤などを含まない透明の膜材200を重ねる。この膜材200は、中間膜と同じ材料で形成されている。そして、膜材200は、シェード領域の中の透過領域を形成すべき位置に配置する。次に、
図54(b)に示すように、透過領域の形状を有する型を用いて中間膜100及び膜材200を2枚ともに打ち抜く。これに続いて、
図54(c)に示すように、中間膜100において打ち抜かれた領域を取り外して貫通孔102を形成するとともに、膜材200から打ち抜かれた開口用中間膜201を、この貫通孔102に嵌め込む。こうして、シェード領域の中に、上記機器のレーザなどが通過する透明の開口が形成される。
【0034】
しかしながら、上記のような方法では、貫通孔102を塞ぐために、小さく形成された膜材200を別途準備しなければならず、その分だけ工程が煩雑になるという問題があった。そこで、発明3は、このような問題を解決するためになされたものであり、レーザレーダーなどの機器用の光の通過経路を、シェード領域内に簡単に形成することができる中間膜の製造方法及び合わせガラスを提供することを目的とする。具体的には、発明3は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0035】
項1.着色されたシェード領域が一部に形成された少なくとも1つの第1中間膜を準備する第1ステップと、
着色されたシェード領域が一部に形成された少なくとも1つの第2中間膜を準備する第2ステップと、
前記第1中間膜におけるシェード領域が、前記第2中間膜の非シェード領域と重なるように、当該第1中間膜の1つと第2中間膜とを重ね合わせる第3ステップと、
重ね合わせた、少なくとも前記第1中間膜のシェード領域及び前記第2中間膜の非シェード領域をともに貫通する開口を形成するように、型抜きを行って第1中間膜片及び第2中間膜片を切り出す第4ステップと、
前記型抜きにより前記第1中間膜に形成され前記開口に、前記第2中間膜片を嵌め込む第5ステップと、
を備えている、中間膜の製造方法。
【0036】
項2.前記第1中間膜と第2中間膜とは同一構成である、項1に記載の中間膜の製造方法。
【0037】
項3.前記第1ステップでは、複数の前記第1中間膜を準備し、
前記第3ステップでは、前記第1中間膜におけるシェード領域が、前記開口が形成されていない前記第2中間膜の非シェード領域と重なるように、当該第1中間膜の1つと第2中間膜とを重ね合わせ、
当該第3ステップから第5ステップを少なくとも1回繰り返す、項1または2に記載の中間膜の製造方法。
【0038】
項4.前記第1及び第2中間膜は、面方向に沿って厚みが変化するように形成されており、
前記第2ステップでは、前記第1中間膜のシェード領域を、前記第2中間膜のシェード領域近傍の前記非シェード領域と重ね合わせ、
前記第2中間膜片は、前記第2中間膜のシェード領域近傍の前記非シェード領域から切り出す、項1から3のいずれかに記載の中間膜の製造方法。
【0039】
項5.項1から4のいずれかの中間膜の製造方法により製造された中間膜と、
前記中間膜を挟持する第1及び第2のガラス板と、
を備えている、合わせガラス。
【0040】
項6.前記開口に対応する領域において、波長が850~950nmの光の透過率が20~80%である、項5に記載の合わせガラス。
【0041】
項7.前記開口に対応する領域において、波長が700~800nmの光の透過率が30~80%である、項5または6に記載の合わせガラス。
【0042】
項8.前記中間膜は、コア層と、前記コア層よりも硬度が高く当該コア層を挟持する一対のアウター層と、を備え、
前記一対のアウター層の少なくとも1つのヤング率は、周波数100Hz,温度20℃において、560MPa以上である、項5から7のいずれかに記載の合わせガラス。
【0043】
<発明4>
上記のようなレーザーレーダーやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面に取り付けられることが多いが、このような測定機器が外部から見えないようにするため、ガラス板の内面には、濃色のセラミックなどが塗布されたマスク層が形成されており、その上に測定装置が配置されている。このとき、マスク層には、開口が形成され、レーザーレーダーにおいて照射及び受光されるレーザ光、カメラで受光する可視光線及び/又は赤外線などは、この開口を通じて照射されたり、受光される。
【0044】
ところで、このような開口は光が透過しやすいように透過率を向上する必要があるが、そのような透過率の高い開口を形成する方法として、上述した国際公開第2003/059837号公報に記載の方法がある。しかしながら、このような方法では、必ずしも容易とは言えず、作業が繁雑になるという問題があった。
【0045】
そこで、発明4は、上記問題を解決するためになされたものであり、マスク層の開口を通じて光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、作成が容易に行うことができる、ウインドシールドを提供することを目的とする。具体的には、発明4は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0046】
項1.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層が積層された合わせガラスを備え、
前記合わせガラスは、第1ガラス板、当該第1ガラス板と対向配置される第2ガラス板、及び前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される中間膜を備えており、
前記中間膜は、第1領域と、当該第1領域よりも光透過率の高い第2領域とが面方向に隣接するように形成され、
前記第2領域が、前記マスク層の開口と対応する位置に形成され、当該第2領域の少なくとも一部が前記マスク層が積層された領域と重複しており、
前記情報取得装置は、前記ガラス板の車内側の面において、前記開口を通じて情報を取得できるように配置される、ウインドシールド。
【0047】
項2.前記第2領域は、ポリビニルブチラールで形成されている、項1に記載のウインドシールド。
【0048】
項3.前記第2領域は、前記両ガラス板の上端部に沿って帯状に形成されている、項1または2に記載のウインドシールド。
【0049】
項4.前記開口においては、
波長が850~950nmの光の透過率が20~80%である、項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【0050】
項5.前記第1領域において、波長が850~950nmの光の透過率が27.5~32.5である項1~4のいずれかに記載のウインドシールド。
【0051】
項6.前記第1ガラス板と第2ガラス板の厚みは、それぞれ1~2.5mmであり、
前記中間膜の厚みは、0.3~2mmであり、
前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板は、その厚みが2mmであるとき、波長が850~950nmの光の透過率がそれぞれ63%以下であり、
それぞれ厚みが2.5mmのクリアガラスの間に、厚みが0.76mmである前記中間膜を配置したとき、波長が850~950nmの光の透過率が75%以下である項5に記載のウインドシールド。
【0052】
項7.前記開口においては、
波長が700~800nmの光の透過率が30~80%である、項1から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【0053】
項8.前記第1領域は、コア層と、当該コア層よりも剛性が高く、且つ当該コア層を挟む一対のアウター層と、を備えている、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0054】
項9.前記第1領域には、赤外線遮蔽性微粒子が含有され、前記第2領域には、前記赤外線遮蔽性微粒子が含有されていない、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0055】
項10.前記第1領域及び第2領域には、赤外線遮蔽性微粒子が含有されており、前記第1領域に含有されている前記赤外線遮蔽性微粒子の量が、前記第2領域に含有されている前記赤外線遮蔽性微粒子の量よりも多い、項1から7のいずれかに記載のウインドシールド。
【0056】
項11.前記赤外線遮蔽性微粒子はITO微粒子である、項9または項10に記載のウインドシールド。
【0057】
項9~項11の発明によれば、車外から第1領域を通過する赤外線が、赤外線遮蔽性微粒子に吸収されるため、車内に赤外線が到達するのを防止することができる。その結果、車内の温度が上昇するのを防止することができる。一方、第2領域においては、赤外線遮蔽性微粒子が含有されてないか、少ないため、赤外線の通過が阻害されるのが防止される。その結果、情報取得装置の誤動作を防止することができる。
【0058】
<発明5>
従来より、ガラス板は加熱炉を通過させることで加熱し、加熱炉を通過した後に、軟化させた状態で成形型により所望の形状に成形する(例えば、特許文献1:特開2012-158478号公報)。
【0059】
しかしながら、成形型により所望の形状に成形するにはガラス板が適切に軟化していなければならず、温度が低いと成形時に割れが生じるおそれがある。そこで、発明5は、このような問題を解決するためになされたものであり、加熱炉を通過後、適切な温度でガラス板を成形することができる、ガラス板の製造方法、及びウインドシールドを提供することを目的とする。具体的には、発明5は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0060】
項1.ガラス板を搬送装置によって加熱炉を通過させる第1ステップと、
前記ガラス板を前記加熱炉から搬出後、当該ガラス板を、成形型が設けられた成形位置に移動させる第2ステップと、
前記ガラス板を前記成形型により成形する第3ステップと、
を備え、
前記加熱炉の出口から前記成形位置までの前記ガラス板の平均搬送速度は、前記加熱炉内における前記ガラス板の平均搬送速度より速い、ガラス板の製造方法。
【0061】
項2.前記第1ステップでは、前記加熱炉の下流側において、前記ガラス板の搬送速度を、当該加熱炉から搬出されるまでの間に増大させる、項1に記載のガラス板の製造方法。
【0062】
項3.前記ガラス板における、二酸化鉄に換算した酸化鉄の含有率が、0.035重量%以下である、項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【0063】
項4.前記第1ステップに先立って、前記ガラス板上に、車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層を形成するステップを、さらに備えている、項1から3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0064】
項5.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
項1から3のいずれかに記載の方法により製造された第1ガラス板及び第2ガラス板と、
前記第1ガラス板及び第2ガラス板の間に挟持される中間膜と、
を備え、
前記第1ガラス板及び第2ガラス板のいずれか一方には、車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層が積層されている、ウインドシールド。
【0065】
<発明6>
従来より、車両のフロントガラスに、車速等の情報を投射するヘッドアップディスプレイ装置が提案されている(例えば、特開平2-279437号公報)。このヘッドアップディスプレイ装置を用いると、運転者は、スピードメータなどの車内の計器の代わりに、ウインドシールドに投影された情報を見ることで車速を確認できるため、車速の確認のために運転中に前方への視線を大きく動かす必要がない。したがって、運転時の安全性を向上できるという利点がある。
【0066】
しかしながら、厚さが均一なウインドシールドに対して、上記のようなヘッドアップディスプレイ装置を用いると、ウインドシールドの内面で反射することにより視認される像と、ウインドシールドの外面で反射することにより視認される像とが生じるため、ウインドシールド上に投影される像、つまり車速などの情報が二重になる二重像現象が生じるという問題があった。これを解決するため、例えば、特開2011-207645号公報では、ウインドシールドを外側ガラス板、内側ガラス板、及びこれらの間に挟まれる樹脂製の中間膜で構成し、さらに中間膜を断面楔形に形成することで、ウインドシールドを全体として断面楔形に形成することが提案されている。これにより、2つの像が重なるため、二重像現象を防止することができる。
【0067】
ところで、上記のような二重像現象は、ヘッドアップディスプレイ装置を用いたときのみならず、外部から光を受光する場合にも少なからず生じることが、本発明者により見出された。すなわち、上記のようなレーザーレーダーにおいて照射及び受光されるレーザー光、カメラで受光する可視光線及び/又は赤外線などが、マスク層の開口を通じて受光される場合、外部から入射する光が、ウインドシールドの内面で分光し、二重像が形成されるおそれがあることが分かった。より詳細には、車外からの光が、ウインドシールドを透過する光と、ウインドシールドの内面で反射し、さらにウインドシールドの外面で反射して車内へと透過する光と、に分光し、これら2つの光による像がレーザーレーダーで受光されたり、あるいはカメラで撮像されることが分かった。これにより、正確な計測ができないおそれがある。
【0068】
そこで、発明6に係るウインドシールドは、上記問題を解決するためになされたものであり、外部からの光を受光して計測を行う情報取得装置が配置される場合、光の受光に際して、二重像現象を防止することができるウインドシールドを提供することを第1の目的とする。また、このウインドシールドにヘッドアップディスプレイ装置をさらに設ける場合、ヘッドアップディスプレイ装置に起因する二重像現象も防止することができるウインドシールドを提供することを第2の目的とする。具体的には、発明6は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0069】
項1.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と対向配置される第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが小さくなるように断面楔状に形成される楔形領域を有し、前記情報取得装置の光は、前記楔形領域を通過するように構成されている、ウインドシールド。
【0070】
項2.前記中間膜において、前記楔形領域の楔角は、0.05~0.3度である、項1に記載のウインドシールド。
【0071】
項3.ヘッドアップディスプレイ装置からの情報が投影されるとともに、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、前記ヘッドアップディスプレイ装置からの情報が投影される第1領域と、前記情報取得装置に対する光が通過する第2領域と、を有し、
前記第1領域において前記中間膜の外側表面と内側表面とがなす第1角度と、前記第2領域において前記中間膜の外側表面と内側表面とがなす第2角度と、が相違する、ウインドシールド。
【0072】
項4.前記第1領域は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが小さくなるように断面楔状に形成されている、項3に記載のウインドシールド。
【0073】
項5.前記第2領域は、当該ウインドシールドの上端部側から下端部側に向かって厚みが大きくなるように断面楔状に形成されている、項3または4に記載のウインドシールド。
【0074】
項6.前記第2角度は、0.05~0.3度である、項3から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0075】
項7.前記第1角度は、0~0.3度である、項3から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【0076】
<発明7>
上記のようなレーザーレーダーやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面に取り付けられることが多いが、このような測定機器が外部から見えないようにするため、ガラス板の内面には、濃色のセラミックなどが塗布されたマスク層が形成されており、その上に測定装置が配置されている。このとき、マスク層には、開口が形成され、レーザーレーダーにおいて照射及び受光されるレーザ光、カメラで受光する可視光線及び/又は赤外線などは、この開口を通じて照射されたり、受光される。
【0077】
ところで、ガラス板は鉄の含有量が多いほど光の透過率が低下する。そのため、上述した測定装置が取り付けられるウインドシールドにおいて、鉄の含有率が多いと、レーザー光などの光の透過率が低下するという問題が生じる。そこで、光の透過率を上げるため、鉄の含有率を低下させることが考えられるが、そのようにすると、ガラス板における輻射熱の吸収量が低下し、成形がし難くなるという新たな問題が発生する。
【0078】
発明7は、上記問題を解決するためになされたものであり、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドの製造方法であって、鉄の含有量を低減しても成形を容易に行うことができるウインドシールドの製造方法を提供することを目的とする。具体的には、発明7は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0079】
項1.光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドの製造方法であって、
二酸化鉄に換算した酸化鉄の含有率を0.17重量%以下としたガラス原料を調製するステップと、
前記ガラス原料から平板状のガラス板を成形するステップと、
車外からの視野を遮蔽するとともに少なくとも1つの開口を有するマスク層を、前記ガラス板に積層するステップと、
前記鉄の含有率に応じて、前記ガラス板に付与する熱量を決定し、当該熱量に基づいて前記ガラス板を加熱するステップと、
前記ガラス板を曲面状に成形するステップと、
を備えている、ウインドシールドの製造方法。
【0080】
項2.前記ガラス板を加熱するステップでは、前記ガラス板を650~675℃で加熱する、項1に記載のウインドシールドの製造方法。
【0081】
項3.前記ガラス板は、外側ガラス板、内側ガラス板、及び当該両ガラス板の間に配置される中間膜、で形成されている、項1または2に記載のウインドシールドの製造方法。
【発明の効果】
【0082】
本発明によれば、マスク層の開口を通じて光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理が正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】本発明に係るウインドシールドの一実施形態の断面図である。
【
図4】湾曲状の合わせガラスのダブリ量を示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【
図5】、湾曲形状のガラス板と、平面形状のガラス板の、一般的な周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
【
図6】合わせガラスの厚みの測定位置を示す概略平面図である。
【
図12】ガラス板の製造方法の一例を示す側面図である。
【
図13】測定ユニットを構成するパーツの平面図である。
【
図15】アンテナが取付けられたガラス板の平面図である。
【
図19】カメラによる撮影範囲を示すガラス板の断面図である。
【
図20】合わせガラスの他の例を示す平面図である。
【
図23】開口用中間膜の取付を説明する平面図である。
【
図25】開口用中間膜の取付を説明する平面図である。
【
図27】楔形中間膜における開口用中間膜の取付を説明する平面図である。
【
図28】合わせガラスの他の例を示す平面図である。
【
図31】ウインドシールドの他の製造方法を示す側面図である。
【
図32】鉄の含有率が異なるガラス板の波長と光透過率との関係を示すグラフである。
【
図33】ウインドシールドの他の製造方法を示す側面図である。
【
図35】ウインドシールドを載置した状態を示す
図32の成形型の断面図である。
【
図37】
図35のガラス板において生じる歪みを示す写真である。
【
図38】車外から入射する光による二重像現象を説明する断面図である。
【
図39】車外から入射する光による二重像現象を解消するためのウインドシールドの断面図である。
【
図40】ヘッドアップディスプレイ装置による二重像現象を説明する断面図である。
【
図41】ヘッドアップディスプレイ装置による二重像現象を解消するウインドシールドを説明する断面図である。
【
図42】車外から入射する光及びヘッドアップディスプレイ装置による二重像を同時に解消するウインドシールドの断面図である。
【
図45】ウインドシールドの製造方法の他の例を示す図である。
【
図46】ウインドシールドの製造方法の他の例を示す図である。
【
図47】音響透過損失を出力するためのシミュレーションのモデル図である。
【
図48】コア層のヤング率に関する評価の結果を示すグラフである。
【
図49】コア層の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図50】合わせガラスの取付角度に関する評価の結果を示すグラフである。
【
図51】アウター層のヤング率に関する評価の結果を示すグラフである。
【
図52】アウター層のヤング率に関する評価の結果を示すグラフである。
【
図53】マスク層と非マスク層との境界の像の歪みを示す写真である。
【
図54】従来の開口用中間膜の取付を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、本発明に係るウインドシールドに車間距離の測定ユニットを取付けた場合の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るウインドシールドの断面図、
図2は
図1の平面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るウインドシールドは、ガラス板1と、このガラス板1の車内側の面に形成されたマスク層2と、を備え、マスク層2に、車間距離の測定を行う測定ユニット4が取付けられている。以下、各部材について説明する。
【0085】
<1.ガラス板>
ガラス板1は、種々の構成が可能であり、例えば、複数のガラス板を有する合わせガラスで構成したり、あるいは一枚のガラス板により構成することもできる。合わせガラスを用いる場合には、例えば、
図3に示すように、構成することができる。
図3は合わせガラスの断面図である。
【0086】
同図に示すように、この合わせガラスは、外側ガラス板11及び内側ガラス板12を備え、これらガラス板11、12の間に樹脂製の中間膜13が配置されている。まず、外側ガラス板11及び内側ガラス板12から説明する。外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板11、12は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0087】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0088】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0089】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0090】
本実施形態に係る合わせガラスの厚みは特には限定されないが、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4~3.8mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板11と内側ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みを決定することができる。
【0091】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラスを自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは1.8~2.3mmとすることが好ましく、1.9~2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0092】
内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11と同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.8~1.6mmであることがさらに好ましく、1.0~1.4mmであることが特に好ましい。更には、0.8~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る外側ガラス板11及び内側ガラス板12の形状は、湾曲形状である。
【0094】
なお、ガラス板が湾曲形状である場合には、ダブリ量が大きくなると遮音性能が低下するとされている。ダブリ量とは、ガラス板の曲げを示す量であり、例えば、
図4に示すように、ガラス板の上辺の中央と下辺の中央とを結ぶ直線Lを設定したとき、この直線Lとガラス板との距離のうち最も大きいものをダブリ量Dと定義する。
【0095】
図5は、湾曲形状のガラス板と、平面形状のガラス板の、一般的な周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
図5によれば、湾曲形状のガラス板は、ダブリ量が30~38mmの範囲では、音響透過損失に大きな差はないが、平面形状のガラス板と比べると、4000Hz以下の周波数帯域で音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、湾曲形状のガラス板を作製する場合、ダブリ量は小さい方がよいが、例えば、ダブリ量が30mmを超える場合には、後述するように、中間膜のコア層のヤング率を18MPa(周波数100Hz,温度20℃)以下とすることが好ましい。
【0096】
ここで、ガラス板が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、
図6に示すように、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。なお、ガラス板が平坦な場合でも、湾曲している場合と同様に測定することができる。
【0097】
<1-2.中間膜>
続いて、中間膜13について説明する。中間膜13は、少なくとも一層で形成されており、一例として、
図3に示すように、軟質のコア層131を、これよりも硬質のアウター層132で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される少なくとも1つのアウター層132とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される1つのアウター層132を含む2層の中間膜13、またはコア層131を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層132を配置した中間膜13、あるいはコア層131を挟んで一方に奇数のアウター層132、他方の側に偶数のアウター層132を配置した中間膜13とすることもできる。なお、アウター層132を1つだけ設ける場合には、上記のように外側ガラス板11側に設けているが、これは、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能を向上するためである。また、アウター層132の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0098】
コア層131はアウター層132よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されないが、例えば、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20℃において、1~20MPaであることが好ましく、1~18MPaであることがさらに好ましく、1~14MPaであることが特に好ましい。このような範囲にすると、概ね3500Hz以下の低周波数域で、音響透過損失(Sound Transmission Loss:STL)が低下するのを防止することができる。
【0099】
この点について、本発明者により、一般的にコア層のヤング率を低下させると、3000~5000Hzの周波数域で遮音性能が向上することが見出されている。この点について、以下の表1には、クリアガラスからなる外側ガラス板と内側ガラス板、及びコア層とコア層の両側に位置するアウター層で構成された中間膜を有する合わせガラスの遮音性能を示している。外側ガラス板の厚みは2.0mm、内側ガラス板の厚みは1.3mm、中間膜の厚みは、コア層が0.10mm、アウター層が0.33mmであり、合計0.76mmである。以下の表1では、周波数が1250~10000Hzの間での音響透過損失を示している。具体的には、中間膜のヤング率(周波数100Hz、温度20℃で測定)を25MPa,12.5MPa,及び6.25MPaとした場合の音響透過損失を算出し(算出方法は後述する実施例の方法に従う)、ヤング率が25MPaの場合を基準として(以下の表では基準であるため0としている)、ヤング率が12.5MPa,6.25MPaのときの音響透過損失の差(単位はdB)を示している。このとき、アウター層のヤング率は560MPa、tanδは0.26(温度20℃、周波数100Hz)である。表1によれば、周波数が、3150~5000Hzの間では、中間膜のヤング率が25MPaから12.5MPa,6.25MPaへと低下するのにしたがって音響透過損失が向上していることが分かる。
【表1】
【0100】
測定方法としては、例えば、Metravib社製固体粘弾性測定装置DMA 50を用い、ひずみ量0.05%にて周波数分散測定を行うことができる。以下、本明細書においては、特に断りのない限り、ヤング率は上記方法での測定値とする。但し、周波数が200Hz以下の場合の測定は実測値を用いるが、200Hzより大きい場合には実測値に基づく算出値を用いる。この算出値とは、実測値からWLF法を用いることで算出されるマスターカーブに基づくものである。
【0101】
一方、アウター層132のヤング率は、後述するように、高周波域における遮音性能の向上のために、大きいことが好ましく、周波数100Hz,温度20度において560MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、880MPa以上、または1300MPa以上とすることができる。一方、アウター層132のヤング率の上限は特には限定されないが、例えば、加工性の観点から設定することができる。例えば、1750MPa以上となると、加工性、特に切断が困難になることが経験的に知られている。また、外側ガラス板11側のアウター層のヤング率を、内側ガラス板12側のアウター層のヤング率よりも大きくすることが好ましい。これにより、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能が向上する。
【0102】
また、コア層131のtanδは、周波数100Hz,温度20℃において、例えば、0.1~0.9とすることができる。tanδが上記範囲にあると、遮音性能が向上する。
【0103】
この点について、本発明者により、一般的にコア層のtanδを大きくすると、5000~10000Hzの周波数域で遮音性能が向上することが見出されている。この点について、以下の表2には、クリアガラスからなる外側ガラス板と内側ガラス板、及びコア層とコア層の両側に位置するアウター層で構成された中間膜を有する合わせガラスの遮音性能を示している。外側ガラス板の厚みは2.0mm、内側ガラス板の厚みは1.3mm、中間膜の厚みは、コア層が0.10mm、アウター層が0.33mmであり、合計0.76mmである。なお、このときのコア層、及びアウター層のヤング率はそれぞれ12.5MPa,560MPaである(周波数100Hz,温度20℃で測定)。以下の表2では、周波数が1250~10000Hzの間での音響透過損失を示している。具体的には、コア層のtanδ(周波数100Hz、温度20℃で測定)を0.8,1.2,及び1.6とした場合の音響透過損失を算出し(算出方法は後述する実施例の方法に従う)、tanδが0.8の場合を基準として(以下の表では基準であるため0としている)、tanδが1.2,1.6のときの音響透過損失の差(単位はdB)を示している。なお、アウター層のtanδは、0.26である。表2によれば、周波数が、5000~10000Hzの間では、中間膜のtanδが0.8から1.2,1.6へと大きくなるのにしたがって音響透過損失が向上していることが分かる。
【表2】
【0104】
各層131,132を構成する材料は、特には限定されないが、少なくともヤング率が上記のような範囲とすることができる材料であることが必要である。例えば、アウター層132は、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層131は、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層132を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層131を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0105】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層132に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層131に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化かによっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層132がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層131には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-へプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはない。
【0106】
また、中間膜13の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層131の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層132の厚みは、コア層131の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜3の総厚を一定とし、この中でコア層131の厚みを調整することもできる。
【0107】
コア層131及びアウター層132の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層131及びアウター層132の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層131、アウター層132の厚みとする。例えば、
図7に示すような合わせガラスの拡大写真を撮影し、このなかでコア層やアウター層132を特定して厚みを測定する。
【0108】
なお、中間膜13のコア層131、アウター層132の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜13のコア層131やアウター層132の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜3が楔形の場合、外側ガラス板及び内側ガラス板は、平行に配置されないが、このような配置も本発明におけるガラス板に含まれる物とする。すなわち、本発明においては、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなるコア層131やアウター層132を用いた中間膜13を使用した時の外側ガラス板11と内側ガラス板12の配置を含む。
【0109】
中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜13は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0110】
<1-3.ガラス板の赤外線透過率>
上記のように、本実施形態に係るウインドシールドは、レーザーレーダー、カメラなどの測定ユニットを用いた自動車の前方安全システム用に用いられる。このような安全システムでは、前方の車両に対して赤外線を照射して、前方の自動車の速度や車間距離を計測する。そのため、合わせガラス(または一枚のガラス板)には、所定範囲の赤外線の透過率を達成することが要求される。
【0111】
このような透過率としては、例えば、レーザーレーダーに一般的なセンサを使用する場合、波長が850~950nmの光(赤外線)に対して20%以上80%以下、好ましくは、20%以上60%以下であることが有用であるとされている。透過率の測定方法は、JIS R3106にしたがい、測定装置として、UV3100(島津製作所製)を用いることができる。具体的には、合わせガラスの表面に対して90度の角度で照射した、一方向の光の透過を測定する。
【0112】
また、上記のような安全システムでは、レーザーレーダーを用いず、赤外線カメラを用いて前方車両の速度や車間距離を測定するものもあるが、その場合には、例えば、レーザーレーダーに一般的なカメラを使用する場合、波長が700~800nmの光(赤外線)に対して30%以上80%以下、好ましくは、40%以上60%以下であることが有用とされている。透過率の測定方法は、ISO9050に従う。
【0113】
<2.マスク層>
次に、マスク層2について説明する。本実施形態に係るガラス板1には、
図8に示すようなマスク層2が形成される。マスク層2は、ガラス板上に積層されるのであるが、その位置は特には限定されない。例えば、ガラス板が一枚のガラス板で形成されている場合には、車内側の面にマスク層2を積層することができる。一方、ガラス板が、
図3に示すような合わせガラスで形成されている場合には、外側ガラス板11の車内側の面、内側ガラス板12の車外側の面、及び内側ガラス板12の車内側の面の少なくとも1つに積層することができる。このなかで、例えば、外側ガラス板11の車内側の面、及び内側ガラス板12の車内側の面の両方に概ね同一形状のマスク層2を形成すると、マスク層2が積層されている箇所において両ガラス板11,12の湾曲が一致するため、好ましい。
【0114】
このマスク層2は、ガラス板1を車体に取付ける際の接着剤が塗布されたりするなど、外部から見えないようにするための領域であり、ガラス板1の外周縁に形成された周縁マスク層21と、この周縁マスク層21において、ガラス板1の上縁の中央から下方に延びるセンターマスク層22と、を備えている。そして、センターマスク層22には、上述した測定ユニット4が取付けられる。測定ユニット4は、センサ5から照射される光が開口の中心を通過し、先行車および障害物からの反射光を受光できる程度に配置されていればよい。これらマスク層2は、種々の材料で形成することができるが、車外からの視野を遮蔽できるものであれば特には限定されず、例えば、黒色などの濃色のセラミックをガラス板1に塗布することで形成することができる。
【0115】
次に、センターマスク層22について説明する。
図9に示すように、センターマスク層22は、上下方向に延びる矩形状に形成されており、上下方向に並ぶ2つの開口、つまり上側開口231と下側開口232とが形成されている。また、これら開口231,232の内周縁には、後に詳述する開口周縁領域2311、2321がそれぞれ形成されている。上側開口231及び下側開口232はともに台形状に形成されているが、下側開口232の左右方向の幅は、上側開口231の半分ほどの大きさとなっている。但し、上下方向の長さは概ね同じである。開口の大きさは、特には限定されないが、例えば、上側開口231を縦が約58mm、横が約58mm、下側開口232を縦が約52mm、横が約27mmとすることができる。また、上部開口231及び下部開口232の周縁部には、後述するように、ドットパターンで形成された開口周縁領域2311,2321が形成されている。
【0116】
センターマスク層22は、3つの領域に分かれており、上部開口231よりも上側の上部領域221、この上部領域221より下方で両開口231,232を含む下部領域222、及びこの下部領域222の側部に形成された矩形状の小さい側部領域223で構成されている。
【0117】
次に、各領域の層構成について説明する。
図10に示すように、上部領域221は、黒色セラミックからなる第1セラミック層241により1層で形成されている。下部領域222は、ガラス板1の内表面から積層される上記第1セラミック層241、銀層242、及び第2セラミック層243からなる3層で形成されている。銀層242は銀により形成され、第2セラミック層243は、第1セラミック層241と同じ材料で形成されている。また、側部領域223は、ガラス板1の内表面から積層される第1セラミック層241及び銀層242の2層で形成されており、銀層242が車内側に露出している。最下層の第1セラミック層241は、各領域で共通であり、2層目の銀層242は下部領域222と側部領域223で共通である。なお、遮光性を担保するため、各セラミック層241、243の厚みは、例えば、10~20μmとすることができる。また、後述するように、内側ガラス板12の車内側の面に形成されたセンターマスク層22には、測定ユニット4のブラケットが接着剤で接着されるため、接着性を担保するためにもこのような厚みが好ましい。これは、例えば、ウレタン・シリコン系の接着剤が紫外線などによって劣化するおそれがことによる。
【0118】
次に、上述した開口周縁領域について説明する。
図11に示すように、上部開口231及び下部開口232の開口周縁に沿う領域には、複数の円形状のドット(マスク片)2220が所定間隔をおいて千鳥状に配置された開口周縁領域2311,2321がそれぞれ形成されている(拡大図参照)。すなわち、これらの領域2311,2321はセンターマスク層22と同じ材料(マスク材)で形成されているが、センターマスク層22と同じ材料の配置される割合よりも、密度が小さくなっている。これら開口周縁領域2311,2321の幅、つまり上部開口231または下部開口232の周縁からの距離s1、s2は、4mm以上であることが好ましく、6mm以上であることがさらに好ましい。また、開口周縁領域2311,2321において、ドット2220が占める割合は、例えば、20~80%であることが好ましい。なお、これらドット2220は、センターマスク層22と同じ材料で形成することができ、例えば、第1及び第2セラミック層241,243を重ねることで形成してもよいし、第1セラミック層241のみで形成することもできる。
【0119】
なお、マスク層2が積層される内側ガラス板12において、開口周縁領域2311、2321の内周縁から内側へ概ね4~6mmの領域は、加熱工程や徐冷工程に応じて多少の変化はあるものの、後述するように、歪みが生じる可能性のある歪領域2312,2322である。また、この歪領域2312,2322に、上述した銀層242を設けることもできる。
【0120】
周縁マスク層21、センターマスク層22、及び開口周縁領域2311、2321は、例えば、次のように形成することができる。まず、ガラス板上に第1セラミック層241を塗布する。この第1セラミック層241は周縁マスク層21と共通である。次に、この第1セラミック層241上に、下部領域222及び側部領域223に該当する領域に銀層242を塗布する。最後に、下部領域222に該当する領域に第2セラミック層243を塗布する。なお、下部領域222において、銀層242が形成されている領域は、後述する測定ユニット4のセンサが配置されている位置に相当する。また、側部領域223において露出する銀層242には接地用の配線が施される。セラミック層241,243及び銀層242は、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムをガラス板に転写し焼成することにより作製することも可能である。
【0121】
セラミック層241、243及び開口周縁領域2311、2321は、種々の材料で形成することができるが、例えば、以下の組成とすることができる。
【表3】
【0122】
また、銀層242も、特には限定されないが、例えば、以下の組成とすることができる。
【表4】
【0123】
また、スクリーン印刷の条件として、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、セラミック層及び銀層を形成することができる。なお、第1セラミック層、銀層、及び第2セラミック層をこの順で積層する場合には、上述したスクリーン印刷及び乾燥を繰り返せばよい。
【0124】
<3.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法について説明する。まず、ガラス板の製造ラインについて説明する。
【0125】
図12に示すように、この製造ラインには、上流から下流へ、加熱炉901、成形装置902がこの順で配置されている。そして、加熱炉901から成形装置902、及びその下流側に亘ってはローラコンベア903が配置されており、加工対象となるガラス板10は、このローラコンベア903により搬送される。ガラス板10は、加熱炉901に搬入される前には、平板状に形成されており、このガラス板10に上述したマスク層2が積層された後、加熱炉901に搬入される。
【0126】
加熱炉901は、種々の構成が可能であるが、例えば、電気加熱炉とすることができる。この加熱炉901は、上流側及び下流側の端部が開放する角筒状の炉本体を備えており、その内部に上流から下流へ向かってローラコンベア903が配置されている。加熱炉901の内壁面の上面、下面、及び一対の側面には、それぞれヒータ(図示省略)が配置されており、加熱炉901を通過するガラス板10を成形可能な温度、例えば、ガラスの軟化点付近まで加熱する。
【0127】
成形装置902は、上型921及び下型922によりガラス板をプレスし、所定の形状に成形するように構成されている。上型921はガラス板10の上面全体を覆うような下に凸の曲面形状を有し、上下動可能に構成されている。また、下型922はガラス板10の周縁部に対応するような枠状に形成されており、その上面は上型921と対応するように曲面形状を有している。この構成により、ガラス板10は、上型921と下型922との間でプレス成形され、最終的な曲面形状に成形される。また、下型922の枠内には、ローラコンベア903が配置されており、このローラコンベア903は、下型922の枠内を通過するように、上下動可能となっている。そして、図示を省略するが、成形装置902の下流側には、徐冷装置(図示省略)が配置されており、成形されたガラス板が冷却される。
【0128】
上記のようなローラコンベア903は公知のものであり、両端部を回転自在に支持された複数のローラ931が、所定間隔をあけて配置されている。各ローラ931の駆動には種々の方法があるが、例えば、各ローラ931の端部にスプロケットを取り付け、各スプロケットにチェーンを巻回して駆動することができる。そして、各ローラ931の回転速度を調整することで、ガラス板10の搬送速度も調整することができる。なお、成形装置902の下型922はガラス板10の全面に亘って接するような形態でもよい。このほか、成形装置902は、ガラス板を成形するものであれば、上型及び下型の形態は特には限定されない。
【0129】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が成形されると、これに続いて、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能である。例えば、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、オーブンにより45~65℃で加熱する。続いて、この合わせガラスを0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラスを、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0130】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係る合わせガラスが製造される。
【0131】
なお、ガラス板として、一枚のガラスを用いる場合には、上述したガラスのうち、一枚を用いればよい。ガラス板の製造方法も同様であり、ガラス板の内面にマスク層を形成した後、加熱を行い、その後、曲面状に成形する。
【0132】
また、このような合わせガラスの自動車への取付において、合わせガラスの取付角度は、垂直から45度以下にすることが好ましい。
【0133】
<4.測定ユニット>
図13に示すように、測定ユニット4は、以下のように構成されている。
図13は、測定ユニットを構成するパーツの平面図である。この測定ユニット4は、ガラス板1の内面に固定されるブラケット42、ブラケット42の周囲に固定される枠状のカバーベース41、ブラケットに支持されるセンサ(情報取得装置)5、センサに接続するハーネス(図示省略)、及びカバーベース41に固定され、ブラケット42とセンサ5とハーネスを車内側から覆うカバー43に、により構成されている。
【0134】
ブラケット42は、矩形状に形成されており、上述したセンターマスク層22に、接着剤で固定される。また、このブラケット42の中央には開口421が形成されており、この開口421は、センターマスク層22の2つの開口231,232を含むような大きさに形成されている。そして、このブラケット42の周囲には、カバー43固定用のカバーベース41が両面テープで固定される。このとき、カバーベース41の外縁がセンターマスク層22の外縁に一致するか、それよりも内側に配置される大きさに形成されている。
【0135】
そして、このブラケット42の開口421を塞ぐように、矩形状のセンサ5がブラケット42に固定される。センサ5の詳細は後述する。こうして、ブラケット42に、カバーベース41、センサ5、ハーネスが取り付けられた後、カバーベース41にカバー43を取付ける。すなわち、カバーベース41の外縁にカバー43の外縁が嵌め込みなどにより固定される。
【0136】
カバー43は、ブラケット42及びセンサ5を覆うように取付けられ、これによって車内側からブラケット42及びセンサ5が見えないようにする。なお、センターマスク層22が形成されているため、上部開口231及び下部開口232を除いては、車外側からも測定ユニット4は見えないようになっている。
【0137】
次に、センサ5の概要を
図14を参照しつつ説明する。
図14はセンサの断面図である。同図に示すように、このセンサ5は、側面視三角形状の筐体51を備えており、この筐体51の前面が、ブラケット42の開口421と一致するように配置され、ガラス板1の内面に接触するようになっている。そして、筐体51の内部は、側面視三角形状の上部空間501と、側面視台形状の下部空間502とに仕切られており、筐体51の前面には、これら上部空間及び下部空間と連通する前面開口52が形成されている。一方、筐体51の背面側にはコネクタ53が取付けられており、外部機器への接続に用いられる。
【0138】
上部空間501には、第1支持部54が配置されており、この第1支持部54には、後方から前方へ向けて第1制御基板541、受光レンズ542が配置されている。また、第1制御基板541上には、受光素子543が実装されており、受光レンズ542を通過したレーザ光を受光し、電気信号に変換するようになっている。この電気信号は、第1制御基板541において増幅され、後述する第2制御基板56に送信される。受光レンズ542は、上述した前面開口52からセンターマスク層22の上部開口231を介して外部を臨むように配置されている。特に、受光素子543で受光される光の通過経路が、上部開口231の中心付近X(上述した
図11の歪領域2312よりも内側の領域のいずれか一部)を通るように上部開口231の位置、大きさ、センサ5の位置等が調整されている。また、先行車や障害物から反射された多方向からの反射光が上部開口231の中心付近を通り、その反射光を受光素子543は受光する。
【0139】
一方、下部空間502には、第2支持部55が配置されており、この第2支持部55に後方から前方へ向かってレーザ発光素子551、照射レンズ552がこの順で支持されている。レーザ発光素子551は、レーザダイオードなどの波長850nm~980nm近赤外線波長域のレーザ光を発信するものであり、照射レンズ552は、レーザ発光素子551からのレーザ光を所定のビーム状に成形するレンズである。この照射レンズ552は、筐体51の前面開口52からからセンターマスク層22の下部開口232を介して外部を臨むように配置されている。特に、レーザ発光素子551から発信されるレーザ光の通過経路が、下部開口232の中心付近Y(上述した
図11の歪領域2322よりも内側の領域のいずれか一部)を通るように下部開口232の位置、大きさ、センサ5の位置が調整されている。
【0140】
また、第2支持部55の上面には、第2制御基板56が配置されており、レーザ発光素子551の駆動、第1制御基板541から送信された電気信号の処理などを行う。
【0141】
次に、測定ユニットの動作について説明する。まず、第1制御基板541は、レーザ発光素子551からレーザ光のパルスを発信する。そして、このレーザ光が先行車や障害物などで反射された反射光を、受光素子543で受光するまでの時間に基づいて、先行車両や障害物と自車との距離を算出する。算出された距離は、コネクタ53を介して外部機器に送信され、ブレーキの制御などに用いられる。
【0142】
<5.アンテナ>
アンテナは、ラジオやデジタルテレビのために、ガラス板に設けられる。その態様は種々のものがあるが、例えば、
図15に示すように、アンテナ60を、ガラス板1の車内側の面の上辺の一部から右辺の一部に亘るL字状に形成することができる。作製方法としては、例えば、マスク層の銀層と同じ材料で、ガラス板にスクリーン印刷することで形成することができる。また、マスク層と同様に、加熱炉に搬送される前にガラス板上に印刷される。
【0143】
<6.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。上記のように、マスク層2は、ガラス板1上に形成される。その後、ガラス板1は加熱され、成形が行われる。その際、マスク層2は、黒色等の濃色であるため、マスク層2が形成されていない領域、例えば、上部開口231及び下部開口232と比べると、ガラス板1における熱の吸収量が多くなる。そして、マスク層2とガラス板1は、熱膨張率が異なっており、例えば、上述したによるマスク層(セラミック)2の線膨張係数は、70×10-7~100×10-7/℃であり、ガラスの線膨張係数は、1×10-6~10×10-6/℃である。そのため、マスク層2が形成された領域では成形時における圧縮応力や引張応力が発生し、また、外側ガラス板と内側ガラス板のガラス表面の曲率が相違することにより、ガラス板1には、上部開口231及び下部開口232との境界付近において、歪みが生じる。また、ウインドシールドが合わせガラスからなり、外側ガラス板11の厚みが内側よりも大きい場合、内側ガラス板12の境界付近では外側ガラス板11よりも大きく曲がるため、異厚合わせガラスでは歪みがより顕著になる。その結果、レーザ光を照射及び受光したときには、歪みによって光が屈折するなどして、正確に照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。
【0144】
この点について、本発明者は以下のように検討した。まず、以下のようなマスク層が形成されたガラス板を準備した。
(1) ガラス板の構成:外側ガラス板及び内側ガラス板を厚み2mmのグリーンガラスで構成し、これらの間に単層の中間膜を配置した合わせガラスとした。
(2) マスク層:上述した表1及び表2の組成とした。上側開口は、縦58mm、横72mm、下側開口は縦29mm、横72mmとした。
(3) ガラス板の作製:内側ガラス板の車内側の面に、第1セラミック層、銀層、及び第2セラミック層をスクリーン印刷し、マスク層を形成した。その後、
図12に示すような成形型で、加熱炉で650℃に焼成し曲面状に成形し、加熱炉から搬出後に徐冷した。
【0145】
続いて、上記のように製造されたガラス板に対し、マスク層2の境界付近におけるガラス板の歪みを測定したところ、
図16のようになった。このグラフでは、横軸がガラス板の面方向の長さ、縦軸がレンズパワー(mili diopter:焦点距離の逆数)である。レンズパワーの測定方法は、以下の通りである。まず、暗室内でガラス板に光を投影し、ガラス板の背後のスクリーンに影を形成する。このとき、ガラス板上に凸レンズがあると光が集光し、スクリーン上の影が明るくなる。一方、ガラス板上に凹レンズがあると暗くなる。ここで、レンズパワーとスクリーン上の影の明るさには相関があり、レンズパワーが既知のレンズを置き、そのときのスクリーン上での明るさを測定することで、レンズパワーと明るさの関係を得ることができる。したがって、対象となるガラス板を配置し、スクリーン上での明るさをガラス全面に渡って測定することで、ガラス板のレンズパワーを得ることができる。
【0146】
このような測定による結果、
図16によれば、マスク層から非マスク層に向かうにしたがって、その境界付近では、レンズパワーが急激に増しているため、歪みが増大していることが分かる。そして、境界から所定の長さ離れると、歪みが低減し、さらに離れると消失していることが分かる。
【0147】
また、ガラス板の歪みによる像の歪みを検討すると、
図17に示すとおりである。この写真は、マスク層に台形状の開口を形成したガラス板において、JIS R3212の透視歪みの試験に基づいて、撮影したものである。同図から、マスク層2と開口との境界から4mm以内では真円が変形して楕円形状に歪んでいる。一方、開口の中央付近(境界から4mmを除いた領域)では、境界付近に比較して真円に近いことが分かる。
【0148】
したがって、レーザーレーダーなどの光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置を用いる場合には、光の照射及び/または受光の通過範囲が、上述したような歪みの大きい領域に配置されないようにする必要がある。
【0149】
そこで、本実施形態では、
図11に示すように、ドットパターンで形成された開口周縁領域2311,2321を形成することで、この開口周縁領域2311,2321の熱膨張が、マスク層2に比べて小さくなるようにしている。これにより、マスク層2(開口の縁部)と開口内部との境界で熱膨張率が急激に変化するのを防止することができる。すなわち、セラミックの密度が大きいマスク層2(開口の縁部)から、セラミックの密度が小さい周縁領域2311,2321を介して、セラミックが形成されていない開口内部へ、セラミックの密度が遷移するため、熱膨張量の変化が緩やかになり、したがって、上部開口及び下部開口231,232の境界付近でガラス板1に歪みが生じるのを抑制することができる。そのため、開口内部においてレーザ光の屈折など、歪みの影響を受けるのを防止することができる。その結果、レーザ光の照射及び受光、を正確に行うことができ、車間距離を正確に算出することができる。
【0150】
但し、開口周縁領域2311,2321の内周縁においても、なお、上記のように歪みが生じる可能性があるため(歪領域2312,2322)、測定ユニット4の光が通過する領域(例えば、
図11のX,Y)は、この歪領域2312,2322を避けて設けられることが好ましい。
【0151】
また、マスク層2には、銀層242が形成されているため、センサ5から発せられる電磁波が外部に放出されるのを遮蔽することができる。したがって、センサ5からの電磁波によって、AM(長波・中波・短波長)・FM(超短波長以上の周波数)ラジオやデジタルテレビ(周波数470~720MHz)などの音声・映像にノイズが入るのを防止することができる。ガラスにアンテナを搭載した車輌に対し、銀層242は電磁波遮蔽機能として有効であり、ウインドシールドに搭載したラジオ・デジタルテレビアンテナに対しては、センサ5との距離が近く、より電磁波の影響を受けやすいため、銀層242の形成が有効である。特に、センサ5との距離が近いガラス板の歪領域に銀層242を形成すると有利である。また、銀層242は、黒色のセラミック層241,243により挟まれているため、車外及び車内から見えるのを防止している。したがって、銀層242を形成しても外観には影響を及ぼさない。さらに、センターマスク層22は、ブラケット、カバーなどによって覆われているため、外部に対する電気的な影響を防止することができる。
【0152】
<7.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0153】
<7-1.開口周縁領域>
上記実施形態では、開口周縁領域2311,2321を千鳥状のドットパターンで形成したが、セラミックの密度を小さくできるものであれば、円形以外の矩形状、多角形状、異形状などであってもよく、これらを千鳥状、あるいは所定の間隔をおいて配置することができる。また、ドット2220の大きさを変化させてもよい。また、線状のパターンを所定間隔おきに形成することができる。このほか、種々の形状のマスク片を所定間隔で配置することで開口周縁領域を形成することができる。例えば、
図18に示すように、ドットの大きさ、形状を変化させたり、あるいは開口周縁の形状を直線ではなく,曲線状にすることもできる。
【0154】
また、開口周縁領域2311,2321は、開口231、232の全周に亘って形成される必要はなく、その一部であってもよいし、幅を変化させてもよい。例えば、矩形状の開口のうち、下辺に沿ってのみ開口周縁領域を形成することができる。これは、例えば、カメラで情報を取得する場合には、カメラの下方から情報を取得することが多いからである。したがって、開口231,232の下部にのみ開口周縁領域を形成すると、コスト的に有利である。
【0155】
また、熱膨張量を低減するため、マスク層2と同じ材料で、且つ厚みを小さくした開口周縁領域を形成することもできし、上記のようなパターンを形成し、その厚みを小さくすることもできる。例えば、厚みが開口の中心にいくにしたがって、変化するようにしてもよい。この場合、厚みが漸進的に変化するようにしてもよいし、段階的に変化するようにしてもよい。
【0156】
さらに、開口周縁領域として、マスク層2に比べて熱膨張係数の小さい材料を用いることもできる。
【0157】
上記実施形態では、車間距離を測定するためのセンサ5の一例を示したが、これに限定されるものではなく、光を照射し、その反射光を受光することで車間距離を測定できるものであれば、特には限定されない。
【0158】
上記実施形態では、本発明の情報取得装置として、車間距離を測定するセンサ5を用いたが、これに限定されるものではなく、種々の情報取得装置を用いることができる。すなわち、車外からの情報を取得するために、光の照射及び/または受光を行うものであれば、特には限定されない。例えば、車間距離を測定するための可視光線及び/又は赤外線カメラ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置、道路の白線等を画像にて読み取る可視光線及び/又は赤外線を使用したカメラなど、種々の装置に適用することができる。ここで、光の照射または受光のいずれか一方のみを行う場合には、センターマスク層の開口は1つになる。また、光の種類に応じて、複数の開口を設けることもできる。なお、情報取得装置はガラスに接触していても接触していなくても良い。また、開口は全周が完全に閉じていなくてもよく、一部が開放されていてもよい。例えば、開口の下側が閉じずに解放されていてもよい。そして、開口周縁領域や歪領域は、開口において閉じた部分に形成される。
【0159】
情報取得装置としてカメラを用いる場合には、センターマスク層22の開口の内側に上述したような周縁領域を形成し、カメラの視野(画角)を次のように調整する。すなわち、
図19に示すように、カメラ80の視野(可視光又は赤外線の通過範囲Z)と、開口周縁領域250の内縁とを概ね一致させる。また、さらに好ましくは、カメラの視野は、上述した歪領域よりもさらに内側の領域の全部又は一部を通過するようにしておく。
【0160】
マスク層2は、上記のように3層の構成を行っているが、これに限定されない。すなわち、上記実施形態では、電磁波を遮蔽するために、銀層242を設けたが、銀とセラミック層を混ぜ合わせた単層を設ける方法や、電磁波を遮蔽できるのであれば、他の材料、例えば、銅やニッケルなどを積層してもよい。また、銀層242が外部から見えないようにするためにセラミック層で挟んでいるが、セラミック層で覆う以外に、上述したカバーなどの部材を用いることもできる。また、必ずしも電磁波の遮蔽層を設けなくてもよく、少なくとも外部から見えないような層が形成されていればよい。さらに、上述した歪みが生じる領域を隠すために、銀層を塗布することもできる。
【0161】
マスク層2は、黒以外でも可能であり、車外からの視野を遮蔽し、車内側が見えないような茶色、灰色、濃紺などの濃色であれば、特には限定されない。
【0162】
<7-2.中間膜(態様A)>
合わせガラスにはシェード領域を設けることができる。例えば、
図20に示す合わせガラスは、外側ガラス板1、内側ガラス板2、及びこれらのガラス板1、2の間に挟持される中間膜50で構成されている。この中間膜50は、後述するように、ベース中間膜(第1中間膜)3及び開口用中間膜(第2中間膜)4で構成されている。
【0163】
また、この合わせガラスには、可視光線について透過率損失が高いシェード領域10と、透過率損失が低い視野領域20と、が形成されている。シェード領域10は、合わせガラスの上縁全体に沿って着色された帯状の領域であり、減光を伴う諸機能(防眩、遮熱など)が発揮される。一方、視野領域20は光学的窓として利用される。これら2つの領域10,20は、ベース中間膜3により形成されている。
【0164】
また、シェード領域10の左右方向の中央には、矩形状の透過領域30が形成されている。この透過領域30は、着色されていない透明の領域であり、レーザーレーダーやカメラなどの安全システム用の機器(情報取得装置)からのレーザー、赤外線、可視光が透過される。そして、この領域は、上述した開口用中間膜4により形成されている。以下、ベース中間膜3と、開口用中間膜4について、詳細に説明する。
【0165】
<7-2-1.ベース中間膜>
ベース中間膜3は、複数の層で形成することができ、一例として、
図21に示すように、軟質のコア層31を、これよりも硬質のアウター層32で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、軟質のコア層31を有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層31を含む2層(コア層が1層と、アウター層が1層)、またはコア層31を中心に配置した5層以上の奇数の層(コア層が1層と、アウター層が4層)、あるいはコア層31を内側に含む偶数の層(コア層が1層と、他の層がアウター層)で形成することもできる。これらコア層及びアウター層については、上記実施形態と材料、硬度、厚みなどは同じである。
【0166】
また、ベース中間膜3の一部には、上述したシェード領域10を形成するための着色された領域が形成されている。この領域は、ベース中間膜3の上端縁に沿って帯状に形成され、コア層31及びアウター層32のいずれか1つ以上を、顔料または染料など着色剤によりグリーン、ブルーなどに着色したものである。顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクドリン系などの有機顔料、金属酸化物、金属粉などの無機顔料を用いることができる。
【0167】
顔料を用いる場合は、顔料を樹脂および可塑剤とともに混練した樹脂組成物と、顔料を含まない樹脂組成物(樹脂および可塑剤)とから、それぞれ押出成形法により、着色層とクリアー層とを作製し、クリアー層で着色層を挟持して成形することにより、着色したベース中間膜3を得ることができる。一方、染料を用いる場合には、マスクを用いて、シェード領域10を形成したい領域を露出させ、この領域に染料を塗布する。染料は、例えば、吹き付けまたはプリント印刷により塗布することができる。また、マスクは、上述した透過領域30にも配置しておくこともできる。
【0168】
なお、ベース中間膜3の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に、楔形にすることもできる。この場合、ベース中間膜3の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。このように中間膜50を楔形にするには、種々の方法があるが、例えば、
図22に示すように、コア層31が断面楔形になるように面方向に沿ってガラス板の上端から下端へ向かって厚みを小さくする一方、両アウター層32の厚みを一定とすることができる。
【0169】
ベース中間膜は、上記実施形態で示した中間膜13と同様に構成することができる。また、ベース中間膜の製造方法も同様にすることができる。但し、シェード領域を形成にするには、例えば、いずれかの層に着色してシェード領域を形成してから積層してもよいし、積層後にいずれかのアウター層に着色してシェード領域を形成してもよい。
【0170】
<7-2-2.開口用中間膜とその取付>
開口用中間膜4はベース中間膜3と同様に、コア層41及びアウター層42で形成されている。ベース中間膜3との相違点は、着色がなさず透明であることと、形状である。開口用中間膜4の大きさ、形状は、特には限定されないが、上述したレーザーレーダーやカメラへの光が通過可能な大きさであればよい。開口用中間膜4は、
図23及び
図24に示すように、ベース中間膜3に取り付けられる。
図23は取り付け方法を説明する平面図、
図24は
図23のB-B線断面図である。
【0171】
まず、
図23に示すように、開口が形成されていない2つのベース中間膜3を準備する。ここでは、一方のベース中間膜(以下、切出用ベース中間膜302という)から開口用中間膜4を切り出し、これを他方のベース中間膜(以下、製品用ベース中間膜301という)に取り付ける。これら2つのベース中間膜301、302には、予め一端部にシェード領域3011、3021が形成されており、同一構成である。
【0172】
次に、製品用ベース中間膜301上に、切出用ベース中間膜302を重ねる。このとき、切出用ベース中間膜302の視野領域3022を、製品用ベース中間膜301のシェード領域3011において透過領域30を形成すべき位置に配置する。続いて、
図24(b)に示すように、透過領域30の形状を有する型を用いて切出用ベース中間膜302及び製品用ベース中間膜301を2枚ともに打ち抜く。これに続いて、製品用ベース中間膜301において打ち抜かれた領域を取り外して貫通孔39を形成するとともに、
図24(c)に示すように、打ち抜かれた切出用ベース中間膜302を開口用中間膜4として、この貫通孔39に嵌め込む。最後に、貫通孔39の周囲の境界部分を、はんだごてなどを用いて、例えば100~200℃程度の熱をかけて仮接着しておくと、製品用ベース中間膜301と開口用中間膜4との隙間や段差を確実に解消できる。こうして、
図21に示すような中間膜50を形成することができる。なお、透過領域30は、シェード領域3011の内部あるいは、シェード領域3011と視野領域3012との境界付近に視野領域に開放するように形成されていてもよい。
【0173】
上記のように、1つの製品用ベース中間膜301に開口用中間膜4を嵌め込むと、次の製品用ベース中間膜301の処理を行う。すなわち、さきほど用いた切出用ベース中間膜302は、開口が形成されていない視野領域3022が多く残存しているので、この切出用ベース中間膜302を引き続き用いる。例えば、
図25に示すように、切出用ベース中間膜302において開口が形成されていない視野領域3022を、次の製品用ベース中間膜301におけるシェード領域3011(開口を形成すべき位置)に重ね合わせる。これに続いて、上記と同様に、打ち抜きによる貫通孔39の形成、開口用中間膜4の嵌め込みを行うと、
図21に示すような中間膜50を形成することができる。このように、切出用ベース中間膜302は、視野領域3022から開口用中間膜4が切り出すことができなくなるまで使用され、上記工程が繰り返されることで、切り出された開口用中間膜4が、製品用ベース中間膜301に順次嵌め込まれる。
【0174】
また、中間膜が
図26に示すように、楔形に形成されている場合には、次のように開口用中間膜を作製する。まず、問題として、中間膜が楔形に形成されている場合には、
図26に示すように、面方向の位置によって中間膜の厚さが一定ではない。そのため、透過領域30の深さT1も一定でないため、これに適した開口用中間膜4を準備するのが容易ではない。これに対しては、例えば、
図27(a)に示すように、切出用ベース中間膜302のシェード領域3021の「近傍」を、製品用ベース中間膜301の透過領域30付近に配置する。すなわち、切出用ベース中間膜302のシェード領域3021の近傍から開口用中間膜4を切り出す。これにより、製品用ベース中間膜301のシェード領域3011と概ね厚さが同じ開口用中間膜4を抽出することができるため、この開口用中間膜4を透過領域30の深さと概ね一致させることができる。その結果、透過領域30に適した開口用中間膜4を簡単に形成することができる。
【0175】
ここで、上述したシェード領域3021の「近傍」について説明する。例えば、透過領域30の厚み(深さ)T3と開口用中間膜4の厚みT4の差が大きいと、先述の本接着後に、両ガラス板の間に空気が残ってしまうおそれがあり、好ましくない。かかる観点から、T4とT3との差が0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下となるような開口用中間膜4が切り出せる位置をシェード領域の「近傍」という。なお、
図27(b)及び
図27(c)に示すように、1つの切出用ベース中間膜302においては、シェード領域3021の下端に沿って、複数の開口用中間膜4を切り出すことができる。
【0176】
以上のように、同一構成のベース中間膜301,302を2枚準備することで、一方のベース中間膜302を開口用中間膜4の切り出し用として用いることができるため、開口用中間膜4を切り出すための膜材を別途用意する必要がない。したがって、開口用中間膜4を簡単に作製することができる。さらに、ベース中間膜3においてシェード領域10以外の視野領域20は大きいため、一枚のベース中間膜から多数の開口用中間膜を抽出することができる。したがって、一枚のベース中間膜を繰り返し使用することができ、コストの低減にもつながる。
【0177】
なお、上記説明では、同一構成のベース中間膜301、302を用いたが、必ずしも同一構成でなくてもよい。例えば、切出用ベース中間膜302は、製品用ベース中間膜301と材料や厚みが概ね同じであればよく、例えば、シェード領域の大きさや位置が異なっていてもよい。但し、上記のように中間膜301、302が傾斜する楔形である場合、両中間膜が同一構成であれば、ベース中間膜と開口用中間膜4の傾斜角度を簡単に一致させることができる。
【0178】
上記説明における中間膜は、複数層で構成されているが、これを単層で構成することもできる。
【0179】
<7-3.中間膜(態様B)>
中間膜は次のように構成することもできる。すなわち、中間膜13は、
図28に示すように、面方向に隣接する第1領域1301と第2領域1302とで、形成されている。このうち、第2領域1302は、両ガラス板11,12の上端部に沿って延びる帯状に形成されており、第1領域1301は、両ガラス板11,12において、第2領域1302の下方全体をカバーするように配置されている。
【0180】
第1領域1301及び第2領域1302は、一層で形成されていてもよいし、複数の層で形成されていてもよい。ここでは、一例として、
図29(a)に示すように、第1領域1301を3層で形成し、第2領域1302を1層で形成した中間膜13について説明する。
【0181】
まず、第2領域1302から説明する。上述したように、第2領域は、ガラス板11,12の上端に沿って帯状に延び、センターマスク層を通過するように、延びている。第2領域1302は、第1領域よりも光透過率の高い透明の樹脂材料で形成されており、例えば、ポリビニルブラチール、ポリエチレンテレフタレートなどで形成することができる(いわゆるクリア膜)。なお、第2領域の縦方向の長さは、センターマスク層22の長さによるが、例えば、50~150mmとすることができる。
【0182】
このような中間膜13は種々の方法で製造することができる。例えば、中間膜の第1領域1301を複数の層で形成する場合には、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、第1領域1301と第2領域1302とは共押出により成形することができる。あるいは、第2領域1302は、第1領域1301にあらかじめ切り込み部を設け、そこに顔料や染料等で着色した樹脂を共押出することにより形成することができる。中間膜13が複数の層で形成されている場合には、例えば、
図29(b)に示すように、一方のアウター層132に透過性の高い材料1305を配置することができる。但し、もう一方のアウター層132やコア層131、あるいは複数の層に透過性の高い材料1305を配置することもできる。また、
図29(c)に示すように、中間層13を一層で形成する場合には、この中に透過性の高い材料1305を配置することができる。このような製造方法は、後述するITO微粒子を含む層と含まない層とが配置された中間膜の製造にも適用可能である。
【0183】
以上の中間層13によれば、次の効果を得ることができる。上記のように、この中間膜13の第2領域1302は、センターマスク層22を通過している。そのため、センターマスク層22の開口231,232を通じて光の照射や受光を行う際には、光は第2領域1302を通過する。この第2領域1302は上記のように、透明樹脂、例えば、ポリビニルプラチールやポリエチレンテレフタレートのような光透過性の高い材料で形成されているため、上述した赤外線の透過率を充足することができる。特に、第2領域1302は1層の樹脂材料で形成されているため、この領域内で光の屈折が生じず、その結果、センサ5による光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる。
【0184】
特に、光が通過する部分に、上記のような中間膜13の第2領域1302が設けられている。
【0185】
また、国際公開第2003/059837号公報では、中間膜の一部をくりぬいて開口を形成しているが、それに比べ、作業が簡易である。これは、当該公報に記載の方法では、中間膜の完成後に、開口を形成する必要があるが、この方法では、中間膜の製造過程において、透過率の高い領域を形成することができるからである。さらに、一部をくりぬくと、境界部分が目立つが、上記の方法では、中間膜において、開口付近に境界は生じず、見栄えがよくなるという利点がある。
【0186】
また、第2領域1302は、大部分がマスク層2に覆われているため、開口以外の領域において、ガラス板の透過率が高くなるのを抑制することができる。
【0187】
上記説明では、中間膜13の第2領域1302をガラス板11,12の上端部に沿う帯状に形成しているが、第2領域1302の形状はこれに限定されず、少なくともマスク層22の開口231,232と対応する位置に配置されていればよい。また、透過率の高い領域を覆うために、マスク層の形状に沿って第2領域1302を形成することもできる。
【0188】
上記説明では、中間膜13の厚み方向の全体に亘って第2領域1302を形成しているが、厚み方向の一部に第2領域を形成することもできる。例えば、中間膜の厚み方向の一部を切り込み部を設け、この切り込み部に透過性の高い材料を共押出により形成することができる。
【0189】
そして、上述した中間膜と、外側ガラス板、及び内側ガラス板により合わせガラスを形成した場合、第1領域1301におけるこのウインドシールドの透過率は、波長が850~950nmの光の透過率が27.5~32.5%となるように構成されている。
【0190】
この点について、透過率が上記範囲に入るようにして歩留まりが向上する方策について検討する。まず、
図30は、シミュレーションにより、製造した合わせガラスにおける、波長が950nmの光の透過率の正規分布を示す図である。このシミュレーションでは、外側ガラス及び内側ガラスは、いずれも厚みが2.0mmのクリアガラスとしており、同図では、複数の厚みの中間膜を用いた場合の正規分布が示されている。なお、このような正規分布では、経験的に標準偏差σ=0.5~0.7であるが、この図の正規分布では、標準偏差σを0.6としている。
【0191】
同図に示すように、厚みが0.76mmの中間膜を用いて合わせガラスを製造する場合には、波長が950nmの光の透過率の平均値(期待値)は30%である。そして、同図より透過率の範囲は、概ね30±2.5%である(4σ程度とする)。
【0192】
ここで、第1領域1301において、950nmの光の透過率が30±2.5%のウインドシールの場合、第2領域1301に上述したような光の透過率の高いクリア膜を入れると、歩留まりが向上する。
【0193】
具体的には、ガラス板の厚みと組成、中間膜の厚みと組成が透過率に影響しているところ、ウインドシールドを以下のように構成することで、歩留まりが向上する。
・外側ガラス板(第1ガラス板)と内側ガラス板(第2ガラス板)の厚みは、それぞれ1~2.5mmであること
・中間膜の厚みが、0.3~2mmであること
・外側ガラス板と内側ガラス板がそれぞれ厚み2mmであるとき、波長850~950nmの光の透過率が63%以下であること
・外側ガラス板と内側ガラス板がそれぞれ厚み2.5mmであるクリアガラスの間に、厚みが0.76mmである上記中間膜を配したとき、波長850~950nmの光の透過率が75%以下であること
【0194】
ところで、中間膜13は、種々の機能を果たすように構成することができる。例えば、ウインドシールドを通過する光によって車内の温度が上昇するという問題を解決するには、中間膜13によって赤外線を吸収するようにすればよく、そのためには、中間膜13に、例えば、赤外線遮蔽性粒子の1つであるITO微粒子を分散配合することができる。
【0195】
但し、ITO微粒子が中間膜13に配合されると、上述した情報取得装置から照射される赤外線が透過しにくくなり、装置に不具合が生じるおそれがある。そこで、情報取得装置の不具合を防止するために、中間膜13を次のように構成することができる。
【0196】
まず、上述したクリア膜で形成された樹脂に、ITO微粒子を分散配合する。このITO微粒子は、例えば、酸化インジウムと酸化錫をおよそ重量比で9:1とした複合酸化物であるインジウム錫酸化物で形成することができる。ここで用いられるITO微粒子は、例えば、平均粒径を0.2μm以下とすることが好ましく、0.1μm以下とすることがさらに好ましい。平均粒径が0.2μmよりも大きい微粒子もしくは凝集した粗大微粒子は、成形した中間膜13の光散乱源となって、中間膜13を曇らせるからである。
【0197】
そして、クリア膜に含有されるITO微粒子の量は、例えば、0.4g/m2以上0.8g/m2以下とすることができる。これは、0.4g/m2未満とすると、赤外線遮蔽による遮熱効果が不十分である可能性があり、0.8g/m2を越えると、コストが高くなる可能性があることによる。なお、中間膜13に含有されるITO微粒子の量の測定方法としては、例えば、中間膜13を約1cm×6cmに切断し、酸を用いて分解し、分解した溶液中のSn,Inをプラズマ発光分析法により定量する方法を用いることができる。このように形成されたクリア膜を第1領域1301として用いる。
【0198】
一方、第2領域1302に配置される樹脂も、同様に、上述したクリア膜で形成するが、ITO微粒子を含有しない。例えば、
図29に示す第2領域1302中の符号1305で示される領域に、ITO微粒子を含有しないクリア膜を配置し、それ以外の領域、例えば、
図29(a)及び
図29(b)の符号132で示される領域や、
図29(c)の符号1304で示す領域にITO微粒子を含有するクリア膜を配置することができる。なお、
図29(b)に示す例では、中間膜13のいずれの層にも、ITO微粒子を含有しないクリア膜を配置することができる。
【0199】
こうすることで、車外から第1領域1301を通過する赤外線は、ITO微粒子により吸収されるため、車内に赤外線が達するのを抑制することができる。その結果、車内の温度が上昇するのを防止することができる。一方、第2領域1302には、ITO微粒子が含まれていないか、あるいはわずかにしか含まれていないため、情報取得装置から照射される赤外線の通過が阻害されるのを防止することができる。その結果、情報取得装置が誤動作を起こすのを防止することができる。
【0200】
なお、ITO微粒子を含有する中間膜13は、例えば、以下のように製造することができる。例えば、可塑剤に分散したITO微粒子をアウター層132を構成する樹脂にロールミキサーで練り込み混合する。そして、上述したように、得られた樹脂原料を溶融し、コア層131とともに押出し機で成形してシート状の中間膜13を得る。例えば、アウター層132として、ビニル系樹脂組成物を用い、これをシート状に成形する際には、必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤などを配合し、またシートの貫通性を高めるために接着力調整剤( 例えば金属塩) を配合してもよい。
図29(c)のように、中間膜13を一層(符号1304)で形成するには、上述したアウター層132と同様に製造することができる。
【0201】
このようなITO微粒子は、ビニル系樹脂への分散をよくするために、可塑剤に分散させてビニル系樹脂に添加してもよい。可塑剤としては、一般的に中間膜用に用いられているものを用いることができ、単独で用いられても2 種以上が併用されて使用されてもよい。具体的には、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)、ジヘキシルアジペート(DHA)、テトラエチレングリコール-ジ-ヘプタノエート(4G7)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコール-ジ-ヘプタノエート(3G7)等が好ましく用いられる。このような可塑剤の添加量は、ビニル系樹脂100重量部に対して30~60重量部が好ましい。
【0202】
ビニル系樹脂には、他の添加剤を加えてもよい。添加剤の例としては、例えば、各種顔料、各種染料、顔料と染料の混合材料、紫外線吸収剤, 光安定剤等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、例えばベンゾトリアゾール系のものが好ましく用いられる。具体例としては、例えばチバガイキ社製「チヌビンP 」が用いられる。光安定剤としては、特に限定されるものではないが、例えばヒンダードアミン系のものが好ましく用いられる。具体例としては、例えば旭電化工業社製「アデカスタブLA - 5 7 」が用いられる。
【0203】
<7-4.成形方法>
【0204】
上記
図12に示すウインドシールドの製造方法においては、各ローラ931の回転速度を調整することで、ガラス板10の搬送速度も調整することができる。例えば、
図31に示すように、加熱炉901内でのガラス板10の搬送速度を概ね一定とし、加熱炉901の出口付近で加速する。そして、その速度で加熱炉901から搬出され、成形装置902に移動する。その後、ガラス板が成形装置902の成形位置に配置される直前に減速し、成形位置で停止させる。このときの搬送速度は特には限定されないが、例えば、加熱炉内の搬送速度V1を100~300mm/secとすることが好ましく200~300mm/secとすることがさらに好ましい。また、加熱炉901から搬出された後の搬送速度V2を500~1500mm/secとすることが好ましく、1000~1500mm/secとすることがさらに好ましい。なお、加熱炉901から成形位置までの搬送時間は、1~2秒とすることが好ましく、1~1.5秒とすることがさらに好ましい。
【0205】
このように搬送速度の調整を行うと、加熱炉901の出口手前からガラス板10の搬送速度を加速し、加熱炉出口から成形位置まで搬送時間が短くなるようにしている。そのため、加熱炉出口から成形位置までの間の温度低下を小さくすることができ、適切な温度でガラス板の成形を行うことができる。そのため、ガラス板の割れなどを防止することができる。このとき、ガラス板10の搬送方向の先端部が、加熱炉901の出口に達する前に、搬送速度を加速するのが好ましい。
【0206】
なお、上記説明では、加熱炉901の出口手前からガラス板10の搬送速度を上昇させているが、ガラス板10が加熱炉901から出た後に加速することもできる。すなわち、加熱炉901から成形位置までの搬送時間を短くできるのであれば、特には限定されず、ガラス板10の加熱炉901内の平均搬送速度よりも、加熱炉出口から成形位置までの平均搬送速度が速ければよい。また、加熱炉901内の搬送速度は、一定でなくてもよく、例えば、加熱炉内の上流側と下流側とで搬送速度を変えることもできる。
【0207】
また、上記説明では、成形装置902の下型922を枠状に形成しているが、これに限定されない。すなわち、下型もガラス板の全面に亘って接するような形態でもよい。このほか、成形装置は、ガラスを成形するものであれば、上型及び下型の形態は特には限定されない。
【0208】
ところで、ガラス板は鉄の含有量が多いほど光の透過率が低下する。例えば、
図32は、鉄の含有率が異なるガラス板における波長と透過率との関係を示している。同図によれば、ガラス板における鉄の含有率(二酸化鉄に換算した酸化鉄の含有率、以下同じ)が0.17重量%以下であれば、850~950nmの波長における光の透過率が、太陽光の透過率と同等以上、つまり概ね40%以上となっている。さらに、ガラス板における鉄の含有率を0.035重量%以下とすれば、850~950nmの波長における光の透過率は、概ね80%となる。したがって、上述したレーザーレーダーなどの測定ユニットに対して有利である。
【0209】
このように調製されたガラス板の組成の一例を以下に示す。
SiO2:72.4質量%
Al2O3:1.42質量%
CaO:8.0質量%
MgO:4.1質量%
NaO:13.1質量%
K2O:0.72質量%
SO3:0.23質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.027質量%
【0210】
しかしながら、鉄の含有量が低いガラス板は、輻射熱の吸収量が低下するため、加熱温度を高くすることが好ましい。この場合、炉内の温度を650~675℃とすることが好ましい。650℃より低いと加熱が不十分であることにより、割れが生じるおそれがある。一方、675℃よりも高いと歪みが生じやすくなり、光の透過率がかえって低下する可能性がある。あるいは、炉内での加熱時間を長くしてもよい。このように、鉄の含有量が低い場合には、その含有量に応じてガラス板に付与すべき熱の吸収量を決めておき、その熱量を付与するために、炉内の温度を高くしたり、炉内に配置する時間を長くすることができる。
【0211】
また、このような鉄の含有量が低いガラス板は、輻射熱の吸収量が低下するため、炉から搬出された後、温度が大きく低下する前に、できるだけ早く成形することが必要である。したがって、上記のように、炉から搬出された後の搬送速度を上げることが好ましい。
【0212】
なお、合わせガラスを用いる場合には、2つのガラス板のうち、少なくとも一方のガラス板の鉄の含有率が、上記と同様に0.17重量%以下、好ましくは0.035重量%以下であってもよい。
【0213】
<7-5.成形装置>
また、ガラス板は、次のように、成形することもできる。まず、内側ガラス板12と外側ガラス板1との間に中間膜を挟んだ平板状のガラス板10を準備する。なお、この平板状のガラス板には、上記のような方法でマスク層を積層し、ウインドシールドを形成する。そして、
図33に示すように、このウインドシールド10をリング状(枠状)の成形型800に載置する。この成形型800は搬送台801上に配置されており、成形型800にウインドシールド10が載置された状態で、搬送台801が加熱炉802、徐冷炉803内を通過する。加熱炉には、搬送台の経路の上方及び下方にヒータ(図示省略)が設けられており、このヒータによって、ウインドシールド10が加熱される。
【0214】
ここで、成形型について、
図34及び
図35を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
図34は成形型の平面図、
図35はウインドシールドを載置した状態を示す
図34の断面図である。同図に示すように、この成形型800は、ウインドシールド10の外形と概ね一致するような枠状の型本体810を備えている。この型本体810は、枠状に形成されているため、内側には上下方向に貫通する内部空間820を有している。そして、この型本体810の上面に平板状のガラス板10の周縁部が載置される。そのため、ウインドシールド10は、下側に配置されたヒータ830からは、内部空間820を介して熱が加えられる。これにより、ウインドシールド10は加熱により軟化し、自重によって下方へ湾曲することとなる。このとき、ウインドシールド10に付与される熱量が、ウインドシールド10の変形に影響するため、変形を小さくしたい領域には、ヒータ830からの熱をできるだけ受けないようにすることが必要である。
【0215】
ここで、変形を小さくしたい領域とは、例えば、ウインドシールドの周縁部である。その理由は、以下の通りである。すなわち、ウインドシールドの周縁部がヒータ830から熱量を受けると、この部分の温度が高くなる。これにより、ウインドシールドの粘性が大きくなるため、周縁部では、ウインドシールドの自重による変形量が大きくなる。結果、ウインドシールドの断面が、いわゆる鍋形状のように、断面央部がフラットになってしまう。そこで、上記成形装置では、このような形態になるのを防止するため、ウインドシールドの中央部が受ける熱量を大きくし、周縁部が受ける熱量を小さくするように構成されている。
【0216】
具体的には、
図34及び
図35に示すように、型本体810の内部空間820に、この型本体810の内周から内部空間820の中心側へ突出する遮熱板(遮熱手段)840が設けられている。この遮熱板840により、下方のヒータ830から発せられる熱が遮られ、ウインドシールド10に直接的に到達するのを遮蔽することができる。そのため、ウインドシールド10の周縁付近は型本体810及び遮熱板840により、下方のヒータ830からの熱H1が遮蔽されるため、ガラス板10に付与される熱量は少ない。一方、ウインドシールド10の中央付近では、遮熱板940が設けられていないため、下方のヒータ830からの熱H2は内部空間820を介して直接的にウインドシールド10に付与される。したがって、ウインドシールド10の中央付近が受ける熱量は大きく、変形の度合いも大きくなる。
【0217】
また、この遮熱板840は、ウインドシールド10の下方に配置されているが、ガラス板10が自重により湾曲しても、ウインドシールド10が接触しないような位置に配置されている。なお、遮熱板840の配置は、特には限定されず、要求されるウインドシールド10の湾曲によって決定される。
【0218】
特に、本実施形態においては、ウインドシールド10に、開口231、232を有するマスク層2が積層されているが、遮熱板840の内周縁841が開口231、232の直下に位置しないように、遮熱板840の形状、位置が調整されている。すなわち、
図35の例では、遮熱板840の内周縁841が、開口231、232よりも内部空間820の中心側に位置している。
【0219】
そして、ウインドシールド10は、このような成形型に指示された状態で、
図33に示すように、加熱炉802を通過する。加熱炉802内で軟化点温度付近まで加熱されると、ウインドシールド10は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、ガラス板10は加熱炉802から徐冷炉803に搬入され、徐冷処理が行われる。その後、ウインドシールド10は、徐冷炉803から外部に搬出されて放冷される。
【0220】
以上の成形装置によれば、次の効果を得ることができる。上記のように、ウインドシールドは、成形型800に周縁を支持された状態で加熱され、自重によって下方に湾曲するのであるが、ウインドシールドが受ける熱のコントロールは、遮熱板840によって行われている。すなわち、遮熱板840の存在する位置では、ウインドシールドに付与される熱量は小さくなるが、遮熱板840の存在しない位置ではウインドシールドに付与される熱量は大きくなる。そのため、遮熱板840の内周縁付近、つまり遮熱板840が存在する位置と存在しない位置との境界においては、ウインドシールドに付与される熱量が大きく変化する。本発明者は、このような境界と対向する位置では熱量の大きい変化によって、ウインドシールドに無視できない歪みが形成されることを見出した。
【0221】
例えば、
図36に示すように、ウインドシールド上の線によって囲まれている領域は、遮熱板の内周縁が通過する領域なのであるが、この領域には、
図37に示すような歪みが生じていることが分かる。
【0222】
また、上記のように、ウインドシールドには、センサからの光が通過する開口231,232が形成されているため、この開口231,232を通過するように歪みが生じると、レーザ光を照射及び受光したときには、歪みによって光が屈折するなどして、正確に照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。
【0223】
そこで、この例においては、
図35に示すように、遮熱板840の内周縁841が開口231、232の直下に位置しないようにされている。すなわち、
図34の例では、遮熱板840の内周縁841が、開口231、232よりも内部空間820の中心側に位置している。これにより、遮熱板840が存在する位置と存在しない位置との境界が、開口231、232の直下を通過しなくなる。これにより、開口231、232に対応するウインドシールド上には、このような境界による歪みが生じるのを防止することができる。
【0224】
また、熱を遮蔽するには、必ずしも板状の部材でなくてもよく、その態様は特には限定されない。例えば、ブロック状の部材で、熱を遮蔽することもできる。
【0225】
<7-6.二重像現象の防止>
ところで、上述した測定ユニット4を用いてマスク層2の開口231、232から光を受光する場合、本発明者は、光がウインドシールド1の内面で分光することにより、測定ユニット4に対して光が二重に入射することを見出した。具体的には、以下の通りである。
図38(a)に示すように、このウインドシールド1において、光が入射する開口231が形成されている領域は、厚みが一定である。そして、外部からウインドシールド1に照射された光は、外面(外側ガラス板の外面)のP点で屈折した後、ウインドシールド1の内部に入射し、その後、ウインドシールド1の内面のQ点で屈折した後、車内に入射する。この光が分光1である。その一方で、ウインドシールド1の内面のQ点では、一部の光が反射し、ウインドシールド1の外面に向かう。そして、この外面のR点で反射した光はウインドシールド1の内面のS点で屈折した後、車内に入射する。この光が分光2である。このように、ウインドシールドの内面では、車外から入射した光が分光し、2つの光が車内の測定ユニットに入射する。そのため、測定ユニット4ではこの2つの光による2つの像が形成されることになり、二重像現象が生じる。
【0226】
また、二重像に関する規定は、ECE R43にも規定されている。すなわち、
図38(b)に示すように、車内の観測者が車外の目的物を見る場合、イメージ1,2が観測され、二重像が生じる。上記ECE R43では、二重像の生じる角度、つまり、観測者とイメージ1とを結ぶ直線と、観測者とイメージ2とを結ぶ直線のなす角Aが、15arcmin以下とする必要がある。
【0227】
このような二重像現象を解消するためには、以下のようにウインドシールドを構成する。すなわち、
図39に示すように、ウインドシールド1の断面が楔状になるようにする。より詳細には、少なくとも光が通過する領域(楔形領域)においては、ウインドシールド1の上端部にいくにしたがって厚みが小さくなるような断面楔形に形成する。このときの楔角αは、ウインドシールド1の設置角度にもよるが、例えば、0.05~0.3度(第2角度)とすることができ、好ましくは、0.05~0.2度であり、さらに好ましくは、0.1~0.2度である。こうすることで、上述した二重像の生じる角度を15arcmin以下とすることができる。
【0228】
以下では、例として、楔角αが10度のウインドシールド1に対し、65度の入射角で車外から光が入射した場合について説明する。ウインドシールド1の外面のA点に入射した光は屈折し、40度の出射角でウインドシールド1の内面へ向かう。そして、この光の一部は、ウインドシールド1の内面のB点で屈折し、入射角60度で車内に入射する。これが分光2である。一方、ウインドシールド1の内面のB点で反射した光は、ウインドシールド1の外面のC点に入射角30度で入射し、反射する。そして、この反射光はウインドシールド1の内面のD点に20度の入射角で入射し、ここで屈折して出射角50度で車内に入射する。これが分光1である。したがって、分光1と分光2とは、互いに近づくように車内へと入射するため、二重像現象が解消される。
【0229】
以上の例で示した角度は、あくまで一例であるが、マスク層2の開口231、232が形成されている領域におけるウインドシールド1の厚みが、ウインドシールドの上方にいくにしたがって小さくなるように形成されていれば、車外から入射する光の二重像現象が解消される。
【0230】
ところで、近年は、車両のフロントガラスに、車速等の情報を投射するヘッドアップディスプレイ装置が提案されているが、このヘッドアップディスプレイ装置を用いると、ウインドシールドに投影された光により、二重像が形成されることが知られている。すなわち、
図40に示すように、ウインドシールド1の内面で反射することで視認される像と、ウインドシールド1の外面で反射することで視認される像とが別々に視認されるため、像が二重になっていた。
【0231】
これを防止するためには、
図41に示すように、ウインドシールド1において、少なくともヘッドアップディスプレイ装置500から光が投影される領域においては、厚みが下方にいくにしたがって、小さくなるように形成する。これにより、ウインドシールド1の内面で反射して車内に入射する光と、ウインドシールドの外面で反射した後、車内に入射する光とが、概ね一致するため、二重像が解消される。なお、このときのウインドシールド1の楔角βは、ウインドシールド1の設置角度にもよるが、例えば、0~0.3度(第1角度)とすることができる。この場合、第2角度は、0.05~0.3度とすることができる。
【0232】
したがって、測定ユニット4とヘッドアップディスプレイ装置500の両方を備えるウインドシールドにおいては、例えば、
図42に示すように、ウインドシールドの上部においては上方にいくにしたがって厚みが小さくなるように形成し、ウインドシールドの下部においては、下方にいくにしたがって厚みが小さくなるように形成すればよい。
【0233】
ところで、上記のように、ウインドシールド1を断面楔形に形成するには、種々の方法があるが、例えば、ウインドシールド1を外面ガラス板11、内面ガラス板12、及びこれらの間に配置される中間膜13により形成し、中間膜13の断面形状を上述したように形状にすることで、ウインドシールド1を断面楔形に形成することができる。例えば、車外から入射する光により二重像現象が生じるのを防止するには、
図43のように、中間膜13を、上方に向かって厚みが小さくなる楔状に形成すればよい。一方、測定ユニット4及びヘッドアップディスプレイ装置500の両方に起因する二重像現象を防止するには、
図44に示すように、中間膜13の上部(第2領域)においては上方にいくにしたがって厚みが小さくなるように形成し、中間膜13の下部(第1領域)においては、下方にいくにしたがって厚みが小さくなるように形成すればよい。なお、中間膜13の構造、材料などは、上記実施形態で示した通りである。
【0234】
このようなウインドシールドを形成するには、例えば、
図45に示すように、同じ断面形状を有する外側ガラス板11と内側ガラス板12とを準備し、これらを中間膜13の外形に沿って曲げながら、中間膜13の外面及び内面にそれぞれ接合する方法がある。このほか、例えば、
図46に示すように、外側ガラス板11と内側ガラス板12とを、製造すべきウインドシールド1の外形を予め反映させた形状に成形しておく。そして、予め断面楔形に形成された中間膜13を、これらガラス板11,12の間に挟んだ後、予備接着及びオートクレーブによる接着により接合する。なお、両ガラス板11,12の間に配置される中間膜は最終製品の形状に成形されていなくてもよく、概ね断面楔形であってもよい。この場合、中間膜13は、両ガラス板11、12の間で押圧されるため、最終製品の形状に成形される。
【0235】
なお、上記のように、ウインドシールドが複数の楔角を有するよう成形する以外に、例えば、例えば、5cm角の楔形ガラスを、測定ユニット4と対向する内側ガラス板の所望の位置に、接着剤を用いて貼り付けておき、本接着時にオードクレイブをしてもよい。
【実施例0236】
以下、本発明に係るウインドシールドの実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
<1.コア層のヤング率に関する評価>
以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。
【表5】
【0237】
各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成した。また、中間膜はコア層とこれを挟持する一対のアウター層で構成した。中間膜の厚みは0.76mm、コア層の厚みは0.1mm、両アウター層の厚みは0.33mmとした。両アウター層のヤング率は441MPa(20℃、100Hz)に調整した。
【0238】
上記実施例及び比較例について、音響透過損失をシミュレーションにより、評価した。シミュレーション条件は、以下の通りである。
【0239】
まず、シミュレーションは、音響解析ソフト(ACTRAN、Free Field technology社製)を用いて行った。このソフトでは、有限要素法を用いて次の波動方程式を解くことにより、合わせガラスの音響透過損失(透過音圧レベル/入射音圧レベル)を算出することができる。
【数1】
【0240】
次に、算出条件について説明する。
(1) モデルの設定
本シミュレーションで用いた合わせガラスのモデルを
図47に示す。このモデルでは、音の発生源側から外側ガラス板、中間膜、内側ガラス板、ウレタン枠の順で積層した合わせガラスを規定している。ここで、ウレタン枠をモデルに追加しているのは、ウレタン枠の有無により音響透過損失の算出結果に少なからず影響があると考えられる点、及び、合わせガラスと車両のウインドシールドの間にはウレタン枠が用いられて接着していることが一般的である点を考慮したためである。
(2) 入力条件1(寸法等)
【表6】
【0241】
なお、ガラス板の寸法である800×500mmは、実際の車両で用いられるサイズよりも小さい。ガラスサイズが大きくなるとSTL値は悪くなる傾向にあるが、これは、サイズが大きいほど拘束箇所が大きくなり、それにともない共振モードが大きくなるからである。但し、ガラスサイズが異なっても、周波数毎の相対的値の傾向、つまり、異なる厚みのガラス板からなる合わせガラスが同厚のガラス板からなる合わせガラスに比して所定の周波数帯で悪くなる傾向は同じである。
【0242】
また、上記表4のランダム拡散音波とは、所定の周波数の音波が外側ガラス板に対してあらゆる方向の入射角をもって伝番していく音波であり、音響透過損失を測定する残響室での音源を想定したものとなっている。
(3) 入力条件2(物性値)
【表7】
[コア層及び両アウター層のヤング率及び損失係数について]
主な周波数毎に異なった値を用いた。これは、コア層及び両アウター層は粘弾性体のため、粘性効果によりヤング率は周波数依存性が強いためである。なお、温度依存性も大きいが、今回は温度一定(20℃)を想定した物性値を用いた。
【表8】
【0243】
結果は、
図48のグラフに示すとおりである。この結果によれば、実施例1~4のように、コア層のヤング率を20MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、異厚によるSTL値を抑えることができる。また、実施例2~4のように、コア層のヤング率を16MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、両ガラスが同厚である比較例1と比べ、2000~5000Hzの周波数領域で音響透過損失が高くなっている。更に、実施例3,4のように、コア層のヤング率を10MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、両ガラスが同厚である比較例1と比べ、2000~5000Hzの周波数領域で音響透過損失が明らかに高くなっている。したがって、内側ガラス板を外側ガラス板よりも薄くし、且つコア層のヤング率を20MPa以下とすることで、人間に聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域での遮音性能が高くなることが分かった。
【0244】
<2.コア層の厚みに関する評価>
以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。ここでは、コア層の厚みを変化させ、音響透過損失を上記シミュレーション方法により算出した。中間膜は3層で構成し、総厚を変化させず、コア層とアウター層の厚みを変化させた。コア層のヤング率は10MPa(20℃、100Hz),アウター層のヤング率は441Mpa(20℃、100Hz)とした。また、外側ガラス板及び内側ガラス板の厚みはそれぞれ2.0mm、1.0mmとした。
【表9】
【0245】
上記実施例及び比較例について、音響透過損失をシミュレーションにより評価した。結果は、
図49に示すとおりである。同図によれば、コア層の厚みが0.1mmより小さくなると、2000~5000Hzの周波数領域で、音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、人間に聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域での遮音性能を高くするためには、コア層の厚みを0.1mm以上とすることが好ましい。
【0246】
<3.合わせガラスの取付角度に関する評価>
続いて、音の入射角を変化させたシミュレーションにより、合わせガラスの取付角度について評価を行った。ここでは、垂直からの角度を0~75度に変化させて音響透過損失を算出した。各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成した。また、中間膜はコア層とこれを挟持する一対のアウター層で構成した。中間膜の厚みは0.76mm、コア層の厚みは0.1mm、両アウター層の厚みは0.33mmとした。コア層のヤング率は10MPa(20℃、100Hz),両アウター層のヤング率は441MPa(20℃、100Hz)とした。また、ガラス板の厚みは、2.0mm、1.0mmとした。
【表10】
【0247】
上記実施例及び比較例について、音響透過損失を上記シミュレーション方法により、評価した。但し、入力条件として合わせガラスの取付角度を追加してシミュレーションを行った。結果は、
図50に示すとおりである。同図によれば、取付角度が60度を超えると、3000Hz付近の周波数で、音響透過損失が急激に低下していることが分かる。したがって、人間に聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域での遮音性能を高くするためには、合わせガラスの垂直からの取付角度を45度以下とすることが好ましいことが分かった。また、60度以下であれば、遮音性能を高めることができ、場合によっては、75度以下とすることで、遮音性能を高めることができる。
【0248】
<4.アウター層のヤング率に関する評価>
アウター層のヤング率に関する評価を行うため、以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。ここでは、外側ガラス及び内側ガラスの厚みを一定にした上で、中間膜のアウター層及びコア層のヤング率を変化させ、音響透過損失を上記シミュレーション方法により算出した。各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成し、中間膜はコア層とこれを挟持する一対のアウター層で構成した。中間膜の厚みは0.76mm、コア層の厚みは0.1mm、両アウター層の厚みは0.33mmとした。
【表11】
【0249】
結果は、以下の通りである。まず、
図51に実施例13及び14の結果を示した。上述したコア層のヤング率の評価では、ヤング率を20MPa以下にすると、人間が聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域で音響透過損失が高くなっていることが分かった。これに対して、実施例13及び14では、コア層のヤング率を一定にした上で、アウター層のヤング率を変化させた。その結果、
図51に示すように、アウター層のヤング率が高い実施例14では、5000Hz以上の高い周波数領域で、音響透過損失が高くなることが分かった。
【0250】
また、実施例15~18では、コア層のヤング率をさらに下げるとともに、アウター層のヤング率を大きくしている。
図52に示すように、これらの例では、実施例13及び14に比べ、2000~5000Hzの周波数領域での音響透過損失が高くなっているものの、実施例13及び実施例14ほど5000Hz以上の高い周波数領域での音響透過損失は高くなっていない。特に、アウター層のヤング率が1764MPaを超えると、5000Hz以上の高い周波数領域での音響透過損失はほとんど高くならない。