(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145712
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】臓器保存及び/又は灌流用溶液
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20220926BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220926BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220926BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220926BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A01N1/02
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/36
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116936
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2019538494の分割
【原出願日】2017-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】517451386
【氏名又は名称】エクスビボ パフュージョン アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュークヴィスト,エリン
(72)【発明者】
【氏名】シグバードソン,アン-リ
(57)【要約】
【課題】本出願は、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液が提供することを課題とする。
【解決手段】デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を含み、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である溶液を見出した。この溶液の作製方法として、デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を混合して初期溶液を得ること、必要に応じて、初期溶液のpHを、7.0~7.8に調節すること、並びに初期溶液に加熱殺菌が行われて、臓器保存及び/又は灌流用溶液を得ること、を含む方法を見出した。単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する方法も見出し、さらにレシピエントへの最終的な移植に備えて、ドナーから摘出した後の単離された肺を洗浄、保管、及び/又は輸送するための方法も見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を含み、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液。
【請求項2】
前記デキストランが、20000~70000ダルトンの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記デキストランが、デキストラン40を含む、請求項2に記載の溶液。
【請求項4】
前記デキストランが、40~60g/Lの濃度で前記溶液中に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
前記グルコースが、前記加熱殺菌前に、0.5~5g/Lで前記溶液中に存在している、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
加熱殺菌時のグルコースの分解が、10%未満である、請求項5に記載の溶液。
【請求項7】
前記カルシウムイオンが、0.3~1.5mMの濃度で前記溶液中に存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項8】
前記溶液が、5~25℃での24ヶ月間の保管時に析出を起こさない、請求項7に記載の溶液。
【請求項9】
前記緩衝剤が、1~15mMの濃度で前記溶液中に存在する有機又は生物学的緩衝剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項10】
前記有機又は生物学的緩衝剤が、1~5mMの濃度のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)を含む、請求項9に記載の溶液。
【請求項11】
前記溶液が、リン酸イオンをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項12】
前記リン酸イオンが、0.2~0.8mMの濃度で前記溶液中に存在する、請求項11に記載の溶液。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液の作製方法であって:(1)前記デキストラン、前記グルコース、前記カルシウムイオン、前記緩衝剤、及び前記水を混合して初期溶液を得る工程;(2)必要に応じて、前記初期溶液のpHを、7.0~7.8に調節する工程;並びに(3)前記初期溶液に加熱殺菌が行われて、前記臓器保存及び/又は灌流用溶液を得る工程、を含む方法。
【請求項14】
単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する方法であって、(1)ある分量の請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液を、前記溶液が保管されている無菌容器から得る工程;並びに(2)前記得られた分量の前記溶液を、前記単離された組織又は臓器に投与して、前記単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する工程、を含む方法。
【請求項15】
工程(1)の前記得ることが、前記無菌容器に無菌チューブを挿入し、前記溶液の前記分量を前記無菌容器から前記無菌チューブを通して流すことを含み、工程(2)の前記投与することが、前記単離された組織又は臓器に、前記得られた分量の前記溶液を前記無菌チューブから投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(2)の前記投与することが、25℃以下の低体温で行われる、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
工程(2)の前記投与することが、2~15℃の低体温で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記得られた分量の前記溶液には、工程(1)及び(2)の過程で、又はその間に、追加の成分は添加されない、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記単離された組織又は臓器が、肺、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、及び/又は腸のうちの1又は複数を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
レシピエントへの最終的な移植に備えて、ドナーから摘出した後の単離された肺を洗浄、保管、及び/又は輸送するための方法であって:(1)前記ドナーの前記単離された肺を、洗浄量の請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液で洗浄する工程、並びに(2)無菌臓器保管容器を、少なくとも部分的に、充填量の前記溶液で充填し、前記単離された肺を前記充填量の前記溶液中に浸漬する工程、を含む方法。
【請求項21】
工程(1)の前記洗浄が、まず室温で、次に2~8℃で行われ、工程(2)の前記充填が、2~8℃で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程(1)の前記洗浄が、前記単離された肺の流出液が発生する結果となり、前記流出液が透明となるまで行われる、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記溶液の前記洗浄量が、前記ドナーの体重1kgあたり50~75mLの前記溶液に相当し、及び/又は3~8Lの前記溶液に相当する、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
さらに、(3)前記単離された肺を中に入れた前記無菌臓器保管容器を、無菌キャップでシールする工程;及び続いて(4)前記単離された肺を前記レシピエントに移植する前に、前記無菌臓器保管容器を2~8℃で最大12時間まで維持する工程、を含み、この場合、工程(3)及び(4)は、工程(1)及び(2)の後に行われる、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記洗浄量の前記溶液が、前記溶液が保管されている1又は複数の無菌容器から得られ、さらに、前記洗浄量の前記溶液には、工程(1)の前又は過程で、追加の成分は添加されない、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記充填量の前記溶液が、前記溶液が保管されている1又は複数の無菌容器から得られ、さらに、前記充填量の前記溶液には、工程(2)の前又は過程で、追加の成分は添加されない、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液に関し、この溶液は、デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を含み、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態であり、並びに本発明は、そのような溶液を作製し、使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デキストラン溶液は、50年以上にわたって様々な医療目的で用いられてきた。Perfadex(登録商標)溶液は、1970年代初期に臓器灌流用に開発された加熱殺菌デキストラン溶液である。最近の15から20年の間にわたって、それは、移植前の肺を保存するための主要な製品となってきた。Macrodex(登録商標)溶液及びRheomacrodex(登録商標)溶液は、さらにより長い期間にわたって、外科手術中の及び外傷患者における血漿増量剤として用いられてきた。PrimECC(登録商標)(国際出願PCT/EP2011/069524号)溶液は、体外循環装置用のプライミング溶液として必要とされる別のデキストラン溶液である。これらの溶液はすべて、約4~6の生理学的pH未満(sub-physiological pH)で市販されている。これらの溶液は、リン酸塩及び/又は重炭酸塩で僅かに緩衝される場合もあるが、デキストランの加水分解に起因して加熱殺菌時にpHが低下することから、市販品として提供される商品のpHは、その使用温度において6.6未満、多くの場合は6未満である。この生理学的pH未満であることは、Macrodex(登録商標)溶液又はPrimECC(登録商標)溶液などの輸液される製品の場合は主要な懸念事項ではなく、それは、酸性が弱く、主として血清アルブミンである血漿含有物が、直ちに緩衝して、血漿中の生理学的pHを維持するからである。
【0003】
デキストラン溶液が、単離された臓器の洗浄又は灌流に用いられる場合、血清アルブミンなどの血漿成分は多く残ってはおらず、したがって、単離された臓器又は組織中での緩衝能は低下されている。したがって、実際には、ユーザーは一般に、Perfadex(登録商標)溶液を、使用の直前にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以降、TRIS、さらにはTHAMとも称される)又は類似の緩衝剤で緩衝して、生理学的pHに到達させる。Perfadex(登録商標)溶液をユーザーが緩衝すること(使用前緩衝とも称される)は許容されてきたが、製品がすぐに使用できる状態で提供されない場合、ミスが発生するリスクは常に存在する。ユーザーは、溶液を緩衝することを完全に忘れてしまう可能性があり、又はユーザーは、誤った緩衝剤若しくは誤った濃度を用いてしまう可能性もある。これらの状況のいずれもが、肺を例とする単離された臓器の品質に負の影響を与え得る。したがって、すぐに使用できる予備緩衝された臓器灌流用溶液は、臓器保存の安全性を、さらにはユーザーの利便性を改善することになる。
【0004】
国際公開第2012/142487号には、デキストラン40、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、グルコースなどの栄養分、ホルモン、緩衝剤などを含むOCS溶液と称される肺灌流用溶液が記載されている。この文献は、OCS溶液のpHが、製造中にモニタリングされること、OCS溶液が加熱殺菌されること、使用前に、OCS溶液に細胞培養液が添加されること、及び得られる媒体のpHが、例えば重炭酸塩によって使用前に調節されること(段落[0010]、[0035]、[0045]、及び[0066])、が教示されており、OCS溶液が、生理学的pH未満で提供され、使用前のさらなる緩衝が必要であることが示される。
【0005】
STEEN溶液(国際出願PCT/SE01/02419号)などのオートクレーブを
用いない滅菌ろ過デキストラン溶液は、約15年にわたって生理学的pHで用いられてきたが、本発明者らの知る限りでは、6.6~7.8のpHである医療用途用の加熱殺菌デキストラン溶液で入手可能なものは存在しない。滅菌ろ過は、一般的に低デキストラン含有量である、少量の製品では許容可能である。そうでなければ、デキストランがフィルターに詰まってしまう。
【0006】
特にグルコースを含む溶液の、特には腹膜透析用の溶液の加熱殺菌での別の問題は、グルコースが分解して毒性の分解生成物となることである。加熱殺菌時の溶液のpHを3近辺までさらに低下させること、又は殺菌時に電解質とグルコースとを分離することによって(Ledebo et al.,2000、及びWieslander et al.,1995)、そのような毒性の副生物を低減する試みが成されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グルコース分解という同じ問題が、臓器保存などの様々な医療目的のためのデキストラン溶液の製造から知られている。この問題に対する主たる解決法は、殺菌前に溶液中のグルコース量を増加させて、臓器代謝の支持に用いるのに充分なグルコースを最終製品中に確保することであった。この解決法は、グルコースの分解生成物による潜在的な毒性の効果を考慮していない。それどころか、製造時にグルコースを入れ過ぎると、潜在的に毒性であるグルコース分解生成物の量が増加することによって、問題がより悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの問題に対処し、追加の利点を提供する、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液を提供する。この溶液は、デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を含む。この溶液は、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である。単離された組織又は臓器は、例えば、肺、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、及び/又は腸の中から選択され得る。この溶液は、加熱殺菌前に、その使用温度において生理学的に許容されるpHに緩衝され(予備緩衝とも称される)、やはり加熱殺菌前に、細胞外液を模倣するためにカルシウムイオンが添加され(予備カルシウム添加とも称される)、続いて、加熱殺菌が行われる。したがって、得られる溶液は、使用前に、いかなるさらなる緩衝も、又はカルシウム若しくは他のいかなる化合物によるいかなるさらなる添加も必要としないことから、すぐに使用できる。さらに、加熱殺菌前の予備緩衝及び予備カルシウム添加の組み合わせにより、加熱殺菌時のグルコースの保護が得られ、溶液中のグルコース濃度がより高く維持され、それによって、潜在的に毒性である分解生成物の生成が低減される。
【0009】
本発明はまた、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液の作製方法も提供する。この方法は、(1)デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を混合して初期溶液を得る工程を含む。この方法はまた、(2)必要に応じて、初期溶液のpHを、7.0~7.8に調節する工程も含む。この方法はまた、(3)初期溶液に加熱殺菌が行われ、臓器保存及び/又は灌流用溶液を得る工程も含む。
【0010】
本発明はまた、単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する方法も提供する。この方法は、(1)単離された組織又は臓器のためのある分量の臓器保存及び/又は灌流用溶液を、溶液が保管されている無菌容器から得る工程を含む。この方法はまた、(2)得られた分量の溶液を、単離された組織又は臓器に投与して、単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する工程も含む。
【0011】
本発明はまた、レシピエントへの最終的な移植に備えて、ドナーから摘出した後の単離された肺を洗浄、保管、及び/又は輸送するための方法も提供する。この方法は、(1)
ドナーの単離された肺を、洗浄量の単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液で洗浄する工程を含む。この方法はまた、(2)無菌臓器保管容器を、少なくとも部分的に、充填量の溶液で充填し、単離された肺を充填量の溶液中に浸漬する工程も含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
臓器保存及び/又は灌流用溶液
上記で記載したように、本発明は、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液を提供する。この溶液は、デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を含む。この溶液は、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である。
【0013】
デキストラン40を例とするデキストラン、及び細胞外レベルを例とする低レベルのカリウムを含有する溶液は、1960年代以降臓器保存に用いられており、この溶液は、例えばデキストラン溶液、デキストラン40溶液、及び/又はLPD溶液など様々に称される。
【0014】
1990年代の後半には、Perfadex(登録商標)溶液という名称のLPD溶液が、肺などの内皮が豊富な臓器と共に使用するための主たる保存用溶液となった。Perfadex(登録商標)溶液の組成は、以下の通りである(質量/Lで与えられる):
デキストラン40 50g
塩化ナトリウム 8g
D-グルコース一水和物 1g
塩化カリウム 400mg
硫酸マグネシウム・7H2O 200mg
リン酸二ナトリウム・12H2O 117mg
リン酸二水素カリウム 63mg
【0015】
生理学的に許容され、血漿に比較的近い電解質組成を有する限りにおいて、別の選択肢としての電解質組成が用いられてもよい。
【0016】
デキストラン
記載したように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、デキストランを含む。デキストランは、1000ダルトン(Da)以上の分子量を有するポリサッカリドであり、α-結合したD-グルコピラノシル繰り返し単位の直鎖状主鎖を有し、その構造に基づいて、クラス1、クラス2、及びクラス3の3つのクラスに分類され得る。市販のデキストランは、入手源及び/又は重量平均分子量に応じて分類され得る。市販のデキストランとしては、例えば、ロイコノストック属菌種(Leuconostoc spp.)又はロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)から得られたデキストラ
ンが挙げられる。市販のデキストランとしてはまた、中でも、例えば、重量平均分子量が、およそ20000Da、デキストラン20とも称される、およそ40000Da、デキストラン40とも称される、およそ60000Da、デキストラン60とも称される、及びおよそ70000Da、デキストラン70とも称されるデキストラン、並びにこれらのデキストランの、及び他のデキストランの混合物も挙げられる。
【0017】
デキストラン40は、分子サイズが最適であり、それによって、特に40~60g/Lで、好ましくは50g/Lでデキストラン溶液中に与えられた場合に、不必要に粘度を上昇させることなくデキストラン溶液に充分な膠質浸透圧を提供することから、臓器保存において理想的である。しかし、デキストラン60、デキストラン70、又はデキストラン20とデキストラン70との間のオンコティック分子サイズ分布(oncotic molecular si
ze distribution)を有する他のいずれのデキストランも、デキストラン40に置き換え
て許容可能な結果を提供し得る。
【0018】
したがって、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のある実施形態では、デキストランは、30000~50000Da又は33000~42000Daを例とする20000~70000Daの重量平均分子量を有する。また、ある実施形態ではデキストランは、デキストラン40を含む。また、ある実施形態では、デキストランは、45~55g/L、48~52g/L、又は50g/Lを例とする40~60g/Lの濃度で溶液中に存在する。また、ある例では、デキストランは、ロイコノストック属菌種又はロイコノストック・メセンテロイデスから得られたデキストランを含む。
【0019】
グルコース、カルシウムイオン、及び緩衝剤
記載したように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、グルコース及びカルシウムイオンも含む。
【0020】
最近の15年ほどにわたって、Perfadex(登録商標)溶液は、移植前のすべての肺移植片の約90%に対して用いられてきた。Perfadex(登録商標)溶液は、他のすべての市販のデキストラン40溶液と同様に、約4~6という低いpHで市販されており、したがって、使用の直前に、pHを高めるための緩衝が必要である。この緩衝は、主としてTRISを用いて行われてきた。Perfadex(登録商標)溶液が低いpHで提供されてきた理由は、とりわけ加熱殺菌時の製品の安定性、特に製品中のグルコースの安定性を高めるためである。以下で詳細に考察されるように、本発明者らは、先行技術とは対照的に、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液において、加熱殺菌前に上昇された7.0~7.8の、好ましくは7.4±0.2のpHが、加熱殺菌プロセス時にグルコースを安定化することを示した。
【0021】
多くのユーザーは、使用の直前に、Perfadex(登録商標)溶液にカルシウムイオンの無菌溶液も添加してきたが、その理由は、これが、内皮にとって有益であることが示されているからである(Ingemansson et al.,1996)。使用の直前までPerfadex(登録商標)溶液にカルシウムイオンが含まれなかった1つの理由は、Perfadex(登録商標)溶液の加熱殺菌前にカルシウムイオンが添加された場合、加熱殺菌時及び続いての保管時にリン酸カルシウムが析出するものと考えられたからである。驚くべきことに、本発明者らは、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液が、加熱殺菌時、又は続いての加熱殺菌後24ヶ月間にわたる保管時に、析出物の形成を呈さないことを示した。さらに、先行技術とは対照的に、本発明者らは、カルシウムイオンの添加が、7.0~7.8の、好ましくは7.4±0.2のpHと共に、加熱殺菌時のグルコースを相乗効果的に安定化することを示した。
【0022】
これらの理由から、Perfadex(登録商標)溶液のTRISによる緩衝及びカルシウムイオンの添加の両方が、最終的な使用において有益であり、又は必要でさえあることが理解されたが、これまでは、TRIS又はカルシウムイオンのいずれも、加熱殺菌及び保管時の予測される問題のために、使用の直前までPerfadex(登録商標)溶液に与えられなかった。本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液の1つの利点は、加熱殺菌前の予備緩衝及び予備カルシウム添加に基づいて、臓器保存及び/又は灌流用溶液が、すぐに使用できる製品として提供され得るということである。すぐに使用できる製品は、ユーザーにとっての利便性を提供し、並びにさらなる緩衝又は他の添加が必要とされない場合、誤った緩衝及び/又は他の添加という点での関与するリスクが低減されることから、安全性を改善する。
【0023】
したがって、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のある実施形態では
、グルコースは、加熱殺菌前は、0.5~5g/Lで溶液中に存在しており、例えば、0.6~3g/L、0.8~2g/L、0.9~1.5g/L、又は1g/Lである。これは、初期溶液中、初期溶液に加熱殺菌が行われて臓器保存及び/又は灌流用溶液を得る前に、したがって、加熱殺菌時に発生するグルコースの部分的分解の前に、グルコースが、0.5~5g/Lで存在していたことを意味している。したがって、ある例では、グルコースは、0.5~5g/Lで初期溶液に添加されてよく、続いて、初期溶液は、加熱殺菌が行われてよく、それによって、グルコースが0.5~5g/Lで溶液中に存在していた臓器保存及び/又は灌流用溶液が得られる。
【0024】
また、ある実施形態では、加熱殺菌時のグルコース分解は、10%未満、例えば9.5%未満又は9.0%未満であった。これは、臓器保存及び/又は灌流用溶液を得るための初期溶液の加熱殺菌の結果、初期溶液中に存在していたグルコース濃度よりも低いグルコース濃度を有する臓器保存及び/又は灌流用溶液が得られることを意味しており、この減少はやはり、加熱殺菌時に発生するグルコースの部分的分解に起因し、この減少は、初期溶液中に存在していたグルコース濃度の10%未満である。
【0025】
また、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のある実施形態では、カルシウムイオンは、0.3~1.5mM、例えば0.4~1mM又は0.5mMの濃度で溶液中に存在する。また、ある実施形態では、溶液は、5~25℃で24ヶ月間の保管時に析出を起こさない。また、ある実施形態では、溶液は、リン酸イオンをさらに含む。また、ある実施形態では、リン酸イオンは、0.2~0.8mM、例えば0.7~0.8mMの濃度で溶液中に存在する。
【0026】
溶液温度、緩衝剤の選択、及びpH
記載したように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、緩衝剤も含む。さらに、この溶液は、6.6~7.8のpHを有し、加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である。
【0027】
臓器の洗浄灌流及び保存は、生理学的温度未満で行われる。通常、室温洗浄が、臓器洗浄の開始時に行われ、次に、2~15℃での冷洗浄及び冷保存が行われる。対応するデキストラン溶液のpHは、温度に依存する。これは、TRISなどの緩衝剤がデキストラン溶液に用いられる場合に特に当てはまる。TRIS緩衝溶液のpHは、摂氏1度の下降あたり約0.01pH単位上昇する。従来から、pHは、18~25℃を意味する室温で、又はより特には25℃で測定される。25℃~5℃へ向かう温度の変化は、TRIS緩衝溶液の場合、約0.2pH単位のpH上昇という結果となる。
【0028】
組織、特に肺は、7.4未満のpHに対するよりも、7.4よりも高い、特に7.8よりも高いpHに対する感受性の方が強い。したがって、デキストラン溶液のpHが、いかなるその使用温度でも、7.8を超えない場合、好ましくは7.6を超えない場合に有益である。下限については、25℃で測定された場合の低くは6.6のpHが、2~15℃での保管に対して許容可能であり、それは、デキストラン溶液のpHが、低温では多少高めであるからである。肺組織は、低くは6.6のpHの溶液を用いた室温での短時間の洗浄にも耐え、それは、特に、保存時よりも洗浄時の方が脈管構造中に存在する血清アルブミンが多いからであり、及び血清アルブミンがデキストラン溶液の弱酸性を緩衝するからである。
【0029】
記載したように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、TRISを用いて予備緩衝されていてよい。TRISを用いた予備緩衝では、TRIS緩衝剤の温度依存性を利用しており、それによって、加熱殺菌後にその意図する使用温度における許容可能なpHが維持され、ユーザーによる緩衝は必要とされない。加熱殺菌前の溶液のpH
、すなわち、臓器保存及び/又は灌流用溶液を得るために加熱殺菌されることになる初期溶液のpHは、好ましくは、加熱殺菌前、室温又は25℃で7.0~7.8、より好ましくは、7.2~7.6であるべきである。溶液のpHは、一般的に、加熱殺菌後、グルコース及びデキストランの分解に起因して、最大で0.4pH単位、より特には0.1~0.3pH単位低下しているであろう。したがって、加熱殺菌前に室温又は25℃で7.0~7.8のpH、より好ましくは7.2~7.6のpHを有する初期溶液を作製することによって、臓器保存及び/又は灌流用溶液は、加熱殺菌後、やはり室温又は25℃で、臓器保存及び/又は灌流に適するpH、例えば、6.6~7.8のpH、6.7~7.7のpH、又は6.9~7.6のpHを有することになる。
【0030】
理解されるように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、TRISについて考察されたものに類似の原理に基づいて、TRIS以外の、又はTRISに加えての緩衝剤を用いた予備緩衝が行われてもよく、例えば、TRIS以外の、若しくはTRISに加えての有機又は生物学的緩衝剤である。そのような別の選択肢としての緩衝剤の例は、BIS-TRISである。
【0031】
やはり理解されるように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、オートクレーブでの蒸気滅菌に基づいて、適切な温度で適切な時間にわたって、例えば、121℃で20分間以上、又は別の選択肢としての時間及び温度で加熱殺菌して、12~15のF0値に到達させてよい。
【0032】
したがって、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のある実施形態では、緩衝剤は、1~15mM、例えば1.5~10mM、2~5mM、又は3mMの濃度で溶液中に存在する有機又は生物学的緩衝剤を含む。また、ある例では、有機又は生物学的緩衝剤は、1~5mM、例えば1.5~4mM又は3mMの濃度でTRISを含む。
【0033】
また、ある実施形態では、臓器保存及び/又は灌流用溶液は、室温、例えば18~25℃、又は25℃で、6.6~7.8のpHを有する。また、ある実施形態では、溶液は、やはり室温、例えば18~25℃、又は25℃で、6.7~7.7のpH又は6.9~7.6のpHを有する。
【0034】
また、ある実施形態では、臓器保存及び/又は灌流用溶液は、少なくとも10、又は少なくとも12、又は少なくとも15、又は12~15のF0値を実現するために、例えば115~130℃、又は118~123℃、又は121℃で、少なくとも5分間、又は少なくとも10分間、又は20分間以上にわたって、オートクレーブでの蒸気滅菌に基づいて加熱殺菌が行われたことに基づいて無菌状態である。
【0035】
加熱殺菌時のグルコースの分解
グルコースの分解をより詳細に考察すると、加熱殺菌時のグルコースの分解は、主として、腹腔栄養溶液(peritoneal nutrition solutions)及び腹膜透析用の溶液に関連して研究されてきた。これらの溶液は、比較的高い濃度のグルコース、典型的には、約1.5%のグルコースを含有し、同じ患者に対して繰り返し使用される場合が多い。腹膜透析溶液におけるグルコースの分解、その毒性効果、及び毒性効果を回避するために取られるべき予防手段という課題は、Lund、SwedenのGambro ABの研究者らと一緒にUniversity Hospital of Lundの研究者らによって充分に研究されてきた。これらの結果は、いくつかの刊行物に公開されており、そのいくつかは、本明細書において参照される(Nilsson Thorell et al.,1993、Ledebo et al.,2000、及びWieslander et al.,1995)。(Nilsson Thorell et al.,1993)では、いくつかのグルコース分解生成物が、アセトアルデヒド、5-HMF、グリオキサール
、メチルグリオキサール、ホルムアルデヒド、及び2-フルアルデヒドとして識別された。また、腹膜透析溶液の加熱殺菌後に見られる細胞毒性効果の原因であり得る未同定の分解生成物がさらに存在するとも結論づけられた。
【0036】
グルコースの分解を回避するための解決策は、(Ledebo et al.,2000及びWieslander et al.,1995)によって提案されたところによると、主として、加熱殺菌を回避することに基づいている。溶液を加熱殺菌する必要がある場合は、これは、低pHで、好ましくは3~3.5近辺で行われるべきであり、そうでなければ、グルコースは、電解質と一緒に殺菌されるべきではない。
【0037】
臓器灌流のためのデキストラン溶液において、グルコース濃度は、一般的には、約0.05~0.5%である。加熱殺菌時にグルコースが分解されることはよく認識されており、これは、加熱殺菌後の最終製品中における算出された目標に少なくともより近づくように、約5~10%のグルコースを製造時に過剰に添加することによって相殺されてきた。典型的には、例えば12~15のF0値を実現するための上記で述べた蒸気滅菌に基づいた加熱殺菌時には、グルコースの10~15%が分解される。分解生成物の潜在的毒性効果については、恐らくは、続いての曝露が短時間であり、1回であることから、考慮されて来なかった。臓器灌流にデキストラン溶液を用いることによるそのような直接の毒性は観察されていないが、本明細書で開示される臓器保存及び灌流用溶液において実現された潜在的に毒性であるグルコース分解生成物の低減は、製品の安全性をさらに改善するはずであることから、有益であるはずである。臓器保存及び/又は灌流用溶液の製造時に安定化されているグルコースによる別の利点は、単離された組織又は臓器の保管時に代謝を支持するレベルでの最終製品中の重要なグルコース含有量がより良好に担保されることである。
【0038】
グルコースの安定化
グルコースの安定化についてより詳細に考察すると、参照された先行技術(Ledebo et al.,2000及びWieslander et al.,1995)に示されるように、低いpHは、グルコースの分解及びグルコース分解生成物の形成を低減するのに不可欠であると考えられる。さらに、(Wieslander et al.,1995)には、Ca2+がグルコースの分解に対する触媒物質であると記載されており、加熱殺菌時には、Ca2+が、Mg2+、Cl-、及びNa+イオンと共に、グルコースから分離されて保持されるべきであると示唆されている。
【0039】
上記で記載したように、本発明者らは、先行技術とは対照的に、加熱殺菌前に上昇された7.0~7.8、好ましくは7.4±0.2のpHは、例えば12~15のF0値を実現するための上記で述べた蒸気滅菌に再び基づいた加熱殺菌プロセス時に、グルコースを安定化することを示した。また、上記で記載したように、先行技術とは対照的に、本発明者らは、カルシウムイオンの添加が、7.0~7.8の、好ましくは7.4±0.2のpHと共に、加熱殺菌時のグルコースを相乗効果的に安定化することを示した。溶液にカルシウムイオンが添加されるが、pHが上昇されない場合は、安定化効果は見られない。実施例1の表2に示されるように、pH調節なし、及びTRISなどの加熱殺菌安定性の有機又は生物学的緩衝剤なしの2つの溶液は(すなわち、LPD及びLPD+CaCl2)、加熱殺菌時のグルコースの分解によってほぼ13%のグルコースを失っているが、一方7.4±0.2のpHに調節されたTRIS緩衝溶液では(LPD+TRIS)、分解は、10%未満であり、さらにカルシウムイオンも添加された場合(LPD+TRIS+CaCl2)、分解は、9%未満である。
【0040】
上記で述べたように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、生理学的に許容されるpHに予備緩衝され、及び低濃度のカルシウムイオンが添加されており、
それによって、溶液のためのより血漿に近い電解質マトリックスが得られる。生理学的に許容されるpHへのTRISを用いた緩衝は、加熱殺菌時のグルコース保護効果を有する。さらに、溶液のカルシウムイオン及び生理学的に許容されるpHの組み合わせは、加
殺菌時において相乗的にさらにグルコースを安定化する。
【0041】
緩衝剤の選択
緩衝剤についてより詳細に考察すると、加熱殺菌が意図される本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のための緩衝剤は、MOPS及びHEPESなどの多くの緩衝剤が加熱殺菌時に分解し得ることから、注意深く選択される必要がある。近生理学的電解質溶液(near physiological electrolyte solution)のための緩衝剤を選択する際の
別の重要な因子は、製品の製造時及び貯蔵期間全体を通しての緩衝剤と二価カチオンとの間での析出のリスクである。重炭酸塩及びリン酸塩はいずれも、溶解度限度以上の濃度で存在する場合、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンと共に析出することが知られている。TRISは、加熱殺菌溶液のための理想的な緩衝剤であるが、加熱殺菌可能であること及び二価カチオンとの析出物を形成しないことという同じ2つの特性を提供する他の緩衝剤も用いられ得る。25℃以下の、又は好ましくは15℃以下の低体温で用いるための灌流及び/又は保存用溶液に用いられる緩衝剤に対する別の有益な因子は、pHの温度依存性である。上記で記載したように、TRISは、摂氏1度の下降あたり約0.01のpHの上昇をもたらす。これは、溶液が、より低い使用温度において必要とされる許容可能な生理学的pHを損なうことなく、製品に安定性をもたらす僅かにより低いpHで室温保管され得ることを意味する。
【0042】
緩衝剤の濃度は、製品の貯蔵期間全体にわたって6.6~7.8のpHを維持するのに充分な濃度であるべきであるが、組織にとってのいかなる毒性レベルも超えてはならない。TRISの場合、1~15mM、又は好ましくは1~5mMの最終溶液中の濃度が、充分であり、安全でもあると見なされる。
【0043】
カルシウムイオン源
本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液のためのカルシウムイオン源は、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、又は好ましくは塩化カルシウムなどの可溶性で生理学的に許容されるいかなるカルシウムイオン塩であってもよい。臓器保存及び/又は灌流用溶液中のカルシウムイオンの濃度は、ヒト血漿中の濃度に類似しているべきであり、それは約1.5mMである。溶液中に存在するリン酸イオンとの析出のリスクを低減することから、僅かにより低い濃度が有益であり得る。溶液中のカルシウムイオンの最適濃度は、したがって、0.3~1.5mMである。
【0044】
水
記載したように、本明細書で開示される臓器保存及び/又は灌流用溶液は、水も含む。適切な水は、注射用水などの特別高水質の水を含む。
【0045】
臓器保存及び/又は灌流用溶液の作製方法
上記で記載したように、本発明はまた、単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液の作製方法も提供する。
【0046】
この方法は、(1)デキストラン、グルコース、カルシウムイオン、緩衝剤、及び水を混合して初期溶液を得る工程を含む。この方法はまた、(2)必要に応じて、初期溶液のpHを、7.0~7.8、又は7.2~7.6に調節する工程も含む。この方法はまた、(3)初期溶液に加熱殺菌が行われた、臓器保存及び/又は灌流用溶液を得る工程も含む。
【0047】
単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する方法
上記で記載したように、本発明はまた、単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する方法も提供する。
【0048】
この方法は、(1)単離された組織又は臓器のためのある分量の臓器保存及び/又は灌流用溶液を、溶液が保管されている無菌容器から得る工程を含む。この方法はまた、(2)得られた分量の溶液を、単離された組織又は臓器に投与して、単離された組織又は臓器を保存及び/又は灌流する工程も含む。無菌容器は、中でも、例えば、1000mL無菌輸液バッグ又は3000mL無菌輸液バッグなどの無菌輸液バッグであってよい。
【0049】
方法のある実施形態では、(1)の得る工程は、無菌容器に無菌チューブを挿入し、分量の溶液を無菌容器から無菌チューブを通して流すことを含み、(2)の投与する工程は、単離された組織又は臓器に、得られた分量の溶液を無菌チューブから投与することを含む。
【0050】
また、ある実施形態では、(2)の投与する工程は、25℃以下の低体温で行われる。例えば、ある実施形態では、(2)の投与する工程は、2~15℃の低体温で行われる。
【0051】
また、ある実施形態では、得られた分量の溶液には、工程(1)及び(2)の過程で、又はその間に、追加の成分は添加されない。これらの実施形態によると、得られた分量の溶液には、工程(1)及び(2)の過程で、又はその間に、追加の緩衝剤、又は酸若しくは塩基、又は培養液、又は他のいかなる追加の成分も添加されない。理解されるように、これらの実施形態によると、溶液は、すぐに使用できる状態で提供されている。しかし、これもまた理解されるように、他の実施形態では、得られた分量の溶液は、保存及び/又は灌流の状況に応じて、追加の成分のさらなる添加が行われてもよい。
【0052】
また、ある実施形態では、単離された組織又は臓器は、肺、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、及び/又は腸のうちの1又は複数を含む。単離された組織又は臓器は、ドナーの体腔内で循環隔離(circulatory isolated)された状態か、ドナーの身体から摘出された後であるか、又は連続してこれらの両方であってもよい。
【0053】
レシピエントへの最終的な移植に備えて、ドナーから摘出した後の単離された肺を洗浄、保管、及び/又は輸送するための方法
上記で記載したように、本発明はまた、レシピエントへの最終的な移植に備えて、ドナーから摘出した後の単離された肺を洗浄、保管、及び/又は輸送するための方法も提供する。
【0054】
この方法は、(1)ドナーの単離された肺を、洗浄量の単離された組織又は臓器のための臓器保存及び/又は灌流用溶液で洗浄する工程を含む。この方法はまた、(2)無菌臓器保管容器を、少なくとも部分的に、充填量の溶液で充填し、単離された肺を充填量の溶液中に浸漬する工程も含む。
【0055】
この方法によると、臓器保存及び/又は灌流用溶液は、移植に関連する肺の迅速な冷却、灌流、及び保管に用いられ得るデキストラン40及びカルシウムを含有する予備緩衝細胞外溶液として作用し得る。推奨される温度でこの溶液を投与することは、臓器を効果的に冷却して、その代謝に要求される物を減少させる。無菌技術が用いられるべきである。
【0056】
また、この方法によると、工程(1)及び(2)は、様々な順番で行われてよい。例えば、工程(1)の洗浄が最初に行われ、続いて工程(2)の充填、その後に工程(2)の浸漬が行われてよい。また、例えば、工程(2)の充填が最初に行われ、続いて工程(1
)の洗浄、その後に工程(2)の浸漬が行われてもよい。また、例えば、工程(1)の洗浄及び工程(2)の充填が同時に行われ、続いて工程(2)の浸漬が行われてもよい。
【0057】
方法のある実施形態では、工程(1)の洗浄は、循環からより完全に血液を除去するために、まず室温で行われ、続いて、2~8℃での冷洗浄が行われてもよい。洗浄は、好ましくは、順方向及び逆方向の両方で行われるべきである。工程(2)に従う充填は、好ましくは、2~8℃で行われる。これは、例えば、洗浄量の溶液がまず室温で、次に2~8℃で提供され、続いて充填量の溶液が2~8℃で提供されることに基づいて行われてよい。
【0058】
また、ある実施形態では、工程(1)の洗浄は、単離された肺の流出液が発生する結果となり、流出液が透明となるまで行われる。例えば、洗浄は、洗浄量の溶液を連続流で投与することによって行われてよく、その結果、単離された肺の流出液が発生する。また、例えば、洗浄は、流出液が、洗浄に用いられていない参照量の臓器保存及び/又は灌流用溶液と同じ透明性を有するまで行われてもよい。
【0059】
また、ある実施形態では、溶液の洗浄量は、ドナーの体重1kgあたり50~75mLの溶液に相当し、及び/又は3~8Lの溶液に相当するが、他の実施形態では、洗浄量は、これらの量よりも多いか又は少なくてもよい。
【0060】
また、ある実施形態では、この方法は、さらに、(3)単離された肺を中に入れた無菌臓器保管容器を、無菌キャップでシールする工程;及び続いて(4)単離された肺をレシピエントに移植する前に、肺の初期品質に応じて、無菌臓器保管容器を2~8℃で最大12時間まで維持する工程、を含み、この場合、工程(3)及び(4)は、工程(1)及び(2)の後に行われる。
【0061】
これらの実施形態によると、工程(4)の維持は、例えば、そのようにシールされ、充分に絶縁されたカートン又は輸送用ケース内の無菌臓器保管容器を、2~8℃に置くことによって行われ得る。これらの例では、氷を用いて無菌臓器保管容器を取り囲んでよいが、氷は、単離された肺と直接接触可能とされてはならない。
【0062】
また、これらの実施形態によると、単離された肺は、単離された肺をレシピエントへ移植する前に、その初期品質に基づいて、1~12時間、3~12時間、6~12時間、9~12時間、10~12時間、又は11~12時間にわたって保管され得る。また、これらの実施形態によると、単離された肺がそのように保管されている間、単離された肺は、レシピエントへ、例えば、病院及び/若しくは臓器移植センターなどの医療施設内、又は医療施設間で輸送され得る。
【0063】
また、ある実施形態では、洗浄量の溶液は、溶液が保管されている1又は複数の無菌容器から得られる。1又は複数の無菌容器は、上記で考察した無菌容器であってよく、中でも、例えば、1若しくは複数の1000mL無菌バッグ及び/又は1若しくは複数の3000mL無菌バッグである。これらの実施形態によると、洗浄量の溶液には、工程(1)の前又は過程で、追加の成分は添加されない。
【0064】
また、ある実施形態では、充填量の溶液は、溶液が保管されている1又は複数の無菌容器から得られる。1又は複数の無菌容器は、上記で考察した無菌容器であってよく、中でも、例えば、1若しくは複数の1000mL無菌バッグ及び/又は1若しくは複数の3000mL無菌バッグである。これらの実施形態によると、充填量の溶液には、工程(2)の前又は過程で、追加の成分は添加されない。
【0065】
また、ある実施形態では、臓器保存及び/又は灌流用溶液には、方法のいずれの工程の前又は過程でも、追加の成分は添加されない。理解されるように、これらの実施形態によると、溶液は、すぐに使用できる状態で提供されている。しかし、これもまた理解されるように、他の実施形態では、一部の分量の溶液には、洗浄、保管、及び/又は輸送の状況に応じて、追加の成分が添加されてもよい。
【実施例0066】
実施例1
4つの試験溶液を表1に従って作製した。
【0067】
【0068】
4つの溶液すべてを同時に、15のF0値に対応する121℃で20分間のオートクレーブに掛けた。
【0069】
加熱殺菌後の各溶液におけるグルコースの分解を、グルコース注射中のデキストラン40に対する米国薬局方に従うHPLC DRIグルコース分析を用いて測定した。結果を表2にまとめる。
【0070】
【0071】
カルシウムイオン単独では、予備緩衝のようなグルコース安定化効果は得られなかった。しかし、カルシウムイオンと予備緩衝との組み合わせでは、相乗効果的なグルコース安定化効果が得られた。
【0072】
析出物の形成も、2つの溶液で測定した。表3に、LPD及びLPD+カルシウム+TRISの2つの異なる温度での24ヶ月間にわたる保管後の濁度測定データをまとめる。
濁度の測定は、欧州薬局方、2.2.1 液体の透明度及び乳白度(Clarity and Degree
of Opalescence of Liquids)からの方法を用いて行い、濁度は、比濁法濁度単位(以降、NTU)として表した。
【0073】
【0074】
参考文献
1.Heat sterilization of fluids for peritoneal dialysis gives rise to aldehydes.Nilsson-Thorell CB1,Muscalu N,Andren AH,Kjellstrand PT,Wieslander AP.Perit Dial Int.1993;13(3):208-13.
2.Heat sterilization of glucose-containing fluids for peritoneal dialysis:biological consequences of chemical alterations.Wieslander AP,Kjellstrand PT,Rippel B.Perit Dial Int.1995;15(7 Suppl):S52-9;discussion S59-60
3.Can we prevent the degradation of glucose in peritoneal dialysis solutions? Ledebo I,Wieslander A,Kjellstrand P.Perit Dial Int.2000;20 Suppl 2:S48-51.
4.Importance of calcium in long-term preservation of the vasculature.Ingemansson
R,Sjoberg T,Steen S.Ann Thorac Surg.1996 Apr;61(4):1158-62.