(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145743
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】加温・冷却一体型食材加工システム
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20220926BHJP
A23L 3/18 20060101ALI20220926BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220926BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20220926BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20220926BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20220926BHJP
A23L 13/50 20160101ALI20220926BHJP
A23B 7/005 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A23L5/10 Z
A23L3/18
A23L19/00 Z
A23L17/40 A
A23L13/00 A
A23L3/36 Z
A23L13/50
A23B7/005
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119744
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2020021781の分割
【原出願日】2016-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2015051057
(32)【優先日】2015-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015100898
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015185367
(32)【優先日】2015-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521223955
【氏名又は名称】株式会社ハクバイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】太田 幾生
(72)【発明者】
【氏名】太田 善之
(57)【要約】
【課題】高い生産規模で、食感に優れた殺菌済みの加工食材を画一的に提供することができる食材加工システムを提供すること。
【解決手段】食材を間接的に加温する加温機構を備える加温部と、該加温部によって加温された該食材を冷却する冷却機構を備える冷却部と、該加温部および該冷却部を通って該食材を搬送する搬送部とを備える、食材加工システム。本発明の一体型食材加工システムは、優れた食感および味質を有し、保存性に優れた殺菌済みの食材を大量に供給することができるという効果を奏する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温と冷却とを一体型で行う食材加工システム、そのシステムを用いて加工された加工食材、およびそのシステムを用いる加工食材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な便利な調理食品の製造、食品加工方法が提案されている。例えば、保存剤を使わず新鮮な調理済み食品を提供する方法(特許文献1)、食肉の風味や色の変化を防ぐことのできる食肉調理方法(特許文献2)も提案されている。しかしながら、特許文献1~2に記載されたような食材加工方法は、大量の食材を加工する場合には不向きであり、結果として歩留りが低く、コストの増大が生じてしまう。
【0003】
食材の加工におけるコストの増大を防止する手段として、これまでに様々な方法が提案されている。例えば特許文献3には、2段階の加熱手段を有する連続式加熱装置を用いて、調理油の交換頻度を少なくするとともに、食感の良い揚げものを製造することが記載されている。
【0004】
特許文献4には、高温熱水を食材に接触させることにより、食材の殺菌レベルを向上させると共に、ゆでる、煮る、蒸す、といった調理時間を短縮することが記載されている。
【0005】
特許文献5には、酸、アルカリ、アルコールを用いて食材を前処理した後に食材を緩やかな条件で加熱することにより、風味と保存性に優れた調理済み食品を製造することが記載されている。
【0006】
特許文献6には、密閉槽内で食材を調理する際に、減圧操作と加熱操作を繰り返すことによって短時間で殺菌と調理を同時に行うことが記載されている。
【0007】
さらに、長時間の調理時間や複雑な調理方法が敬遠されることや、缶詰やレトルト食品のように高温で加熱された食品では、食材の栄養や食感が失われると考える消費者は多いことから、調理時間を短縮できる家電製品(特許文献7)や、蒸気を用いて比較的穏やかな条件で加熱調理する方法(特許文献8)が提案されている。
【0008】
特に近年、カット野菜やカットフルーツなどの生鮮野菜・生鮮果物の加工品が普及しつつある。カット野菜は、細かく切り分けられた野菜が袋やプラスチックカップなどの容器に充填された商品である。消費者は、容器から内容物を食器に移すだけでサラダを作ることができる。カット野菜には、サラダ用商品だけでなく、炒め物用の商品もある。消費者は容器から内容物を直接なべやフライパンなどに移して加熱作業をする。消費者は、カット野菜を使うことによって、重たい、あるいは嵩高い野菜を購入し、持ち運んで、料理に応じた大きさに切るという重労働から解放される。このような便利な商品であるカット野菜の製造方法については、特許文献9~13に記載されている。
【0009】
しかしながら、低温輸送や低温陳列が普及した今日でもカット野菜やカットフルーツには、野菜や果物の表面が変色したり、野菜や果物が腐りやすいという問題がある。このため、カット野菜やカットフルーツの製造においては、変色防止処理や殺菌処理が不可欠とされている(特許文献11、12、13)。
【0010】
例えば、特許文献14には、水性二酸化塩素の水溶液と乳化剤を用いた生鮮食品の殺菌洗浄方法が記載されている。この方法では、殺菌剤による食品の酸化や装置の腐食を防止することができる。しかし、殺菌剤の他に乳化剤を必要としているためコスト増につながり、しかも、処理後48時間までしか殺菌効果が確認されていない。
【0011】
特許文献15には.塩素系殺菌剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル並びに有機酸及び/またはその塩の水性混合溶液に生鮮食品を接触あるいは浸漬することにより効率的に殺菌する方法が記載されている。しかし、この方法でも殺菌処理に新たに複数の薬剤を使用しなければならない、しかも、殺菌処理後に必要な十分に水洗と脱水によって、食材の風味が損なわれる恐れがある。このように、塩素系殺菌剤を用いた殺菌方法では、薬剤、水洗、脱水のすべてを省略することが困難であり、コストや食材の品質にとって問題が残る。
【0012】
このような塩素系殺菌剤の使用に伴う問題を解決する手段として、特許文献16には、グリセリンとモノグリセリン脂肪酸エステルを含有する食品用品質保持剤が記載されている。品質保持剤によって、食材の加工から10日後でも食品の乾燥や変色が抑えられる。しかし品質保持のためにある種の薬剤を使用する点で従来の殺菌方法と共通している。しかも、品質保持剤の食品の風味への影響や、品質保持剤を大量に摂取した場合の人体への影響については十分に検討されていない。また、オゾンや超音波を用いて野菜を無菌状態のレベルまで洗浄する方法も提案されているが、洗浄設備のコストが高く、現行の殺菌剤を用いた方法からの転換は容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2014-516574号公報
【特許文献2】特開平7 -123949号公報
【特許文献3】特開2006-246828号公報
【特許文献4】特開2003-325118号公報
【特許文献5】特開2000-354459号公報
【特許文献6】特開2012-231688号公報
【特許文献7】特開2002-119224号公報
【特許文献8】特許第5130363号公報
【特許文献9】特開平5 -137500号公報
【特許文献10】特開2014- 74号公報
【特許文献11】特開2013-243987号公報
【特許文献12】特開2008-271902号公報
【特許文献13】特開2001- 29055号公報
【特許文献14】特開平10 -313839号公報
【特許文献15】特開2005-323572号公報
【特許文献16】特開2013-121321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のとおり、種々の食材加工システムが提案されているものの、高い生産規模で、食感に優れた殺菌済みの加工食材を画一的に提供することができる食材加工システムは未だ実現されていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、中間温度帯での加温と冷却とを一体型とした食材加工システムを開発し、本発明を完成させた。この一体型食材加工システムは、フレッシュブル(登録商標)と名付けられた。中間温度帯での加温により、食材の細胞を破壊することなく灰汁を抜くことができ、食材内の酵素を失活させて食材の熟成変化を防ぎ、かつ食品衛生管理のための微生物死滅を達成することができる。さらに、その後の速やかな冷却により、食材をチルド帯(約2℃)まで冷却することにより、加温による殺菌の効果を維持することができる。これにより、本発明には、優れた食感および味質を有し、保存性に優れた殺菌済みの食材を提供することができるという利点がある。
【0016】
本発明者らはさらに、上記のような一体型食材加工システムにおいて、種々の条件や構成を検討し、食材の画一的な大量加工を達成した。具体的には、間接的な加温と冷却とを組み合わせることにより、好ましくは間接的な加温と直接的な冷却とを組み合わせることにより、食材の均一な加温と冷却とを達成し、それによって均一的に上記の利点を有する加工食材を提供することを可能にした。特に中間温度帯での加工は、非常にデリケートであり、安定的な加工を実現するのは困難であったが、本発明者らによって、食材の均一な加温と冷却とを達成するための食材加工システムが見出された。
【0017】
本発明の食材加工システムはまた、簡単な工程からなるシンプルなものであり、特別な薬剤や高価な設備を用いることなく、効率的に、食材の風味や外観を損ねることなく食材を殺菌処理することができるという利点も有し得る。
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、例えば以下のものである。
(項目1)
食材を間接的に加温する加温機構を備える加温部と、
該加温部によって加温された該食材を冷却する冷却機構を備える冷却部と、
該加温部および該冷却部を通って該食材を搬送する搬送部と
を備える、食材加工システム。
(項目2)
前記冷却機構は、前記食材を直接的に冷却するように構成される、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記加温機構は、前記搬送部の下方に存在する、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記加温部は送風機構を備える、項目1~3のいずれか1項に記載のシステム。
(項目5)
前記冷却部は送風機構を備える、項目1~4のいずれか1項に記載のシステム。
(項目6)
前記加温機構は、前記搬送部の搬送方向に沿って少なくとも2つの加温機構を含み、
前記加温部の入口に近い加温機構は、該加温部の出口に近い加温機構よりも大きな熱量を放出する、項目1~5のいずれか1項に記載のシステム。
(項目7)
前記加温部は前記搬送部近傍に温度センサーを備える、項目1~6のいずれか1項に記載のシステム。
(項目8)
前記温度センサーによって前記加温機構が間欠的に駆動される、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記加温機構は蒸気供給部を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のシステム。
(項目10)
前記加温機構はマイクロミスト供給部を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のシステム。
(項目11)
前記加温機構はクラスターエアー供給部を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のシステム。
(項目12)
前記搬送部は貫通孔を備える、項目1~11のいずれか1項に記載のシステム。
(項目13)
項目1~12のいずれか1項に記載のシステムを用いて食材を加温および冷却する加工工程を包含する、加工食材の製造方法。
(項目14)
前記食材がネギである、項目13に記載の製造方法。
(項目15)
加工されたネギの製造方法であって、
ネギを約70℃~75℃で約1~3分間加温する工程と、
加温されたネギを約2~4分間、約2~4℃になるまで冷却する工程と
を包含する製造方法。
【0019】
また、例えば、本発明のシステムの一部の実施形態としては以下のものが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、均一的な加温と冷却とを行う一体型食材加工システムが提供された。本発明の一体型食材加工システムは、優れた食感および味質を有し、保存性に優れた殺菌済みの食材を大量に供給することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、本発明の食材加工システムの1つの実施形態の模式的平面図である。点線は実際には見えない搬送部を示す。(100:投入部、200:加温部、300:冷却部、400:調整部、500:搬出部、600:搬送部、700:食材の搬送方向)
【
図1B】
図1Bは、本発明の食材加工システムの1つの実施形態の模式的正面図である。(100:投入部、200:加温部、300:冷却部、400:調整部、500:搬出部、600:搬送部、700:食材の搬送方向)
【
図2】
図2は、本発明の食材加工方法の1例を模式的に示した図である。(101:前処理工程、201:加温工程、301:冷却工程)
【
図3】
図3は、本発明の加温部において蒸気の対流する様子を模式的に示した図である。(200:加温部、202:加温機構、203:底部、600:搬送部、700:食材の搬送方向)
【
図4】
図4は、本発明の食材加工方法の1例を模式的に示した図である。(101:前処理工程、201:加温工程、401:調味工程、301:冷却工程、501:製品化工程(他の食材との混合)、502:製品化工程(調味液との混合)、800:他の食材、503:製品化工程(包装工程))
【
図5】
図5は、本発明の1つの実施形態における、クラスターエアーの発生装置の模式図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の1つの実施形態における投入部の模式的平面図である。(121:第一の高さ調整部材、124:突起部、125:第二の高さ調整部材)
【
図6B】
図6Bは、本発明の1つの実施形態における投入部の模式的正面図である。(121:第一の高さ調整部材、124:突起部、125:第二の高さ調整部材)
【
図7A】
図7Aは、本発明の食材加工システムの1つの実施形態の模式的平面図である。(100:投入部、200:加温部、204:ファン、300:冷却部、500:搬出部、504:包装装置、600:搬送部、700:食材の搬送方向)
【
図7B】
図7Bは、本発明の食材加工システムの1つの実施形態の模式的正面図である。(100:投入部、200:加温部、204:ファン、300:冷却部、500:搬出部、504:包装装置、600:搬送部、700:食材の搬送方向)
【
図8】
図8は、本発明のシステムによって加工された食材を利用した、野菜と海鮮のマリネの写真である。
【
図9】
図9は、本発明のシステムによって加工された食材を利用した、キャベツとにんじんのコールスローの写真である。
【
図10】
図10は、本発明のシステムによって加工された食材を利用した、キャベツの塩昆布和えの写真である。
【
図11】
図11は、本発明のシステムによって加工された食材を利用した、キュウリとトマトの塩だれ和えの写真である。
【
図12】
図12は、本発明のシステムによって加工された食材を利用した、白菜の浅漬けの写真である。
【
図13】
図13は、本発明のシステムによって加工されたトマトの切り口の写真である。加工から4日経過した時に切った状態である。
【
図14】
図14は、未加工のトマトの切り口の写真である。加工しないで4日経過した時に切った状態である。
【
図15】
図15は、本発明のシステムによって加工されたミニトマトをつぶした状態を示す写真である。加工から4日経過した時につぶした状態である。
【
図16】
図16は、未加工のトマトをつぶした状態を示す写真である。加工しないで4日経過した時につぶした状態である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(定義)
【0023】
本明細書において、「食材」とは、人間が食することができる任意の物体をいう。100℃以上の加熱による加工を受けていない食材を特に「生鮮食材」という。
【0024】
本明細書において、「中間温度帯」とは、45℃~90℃の温度をいう。
【0025】
本明細書において、「間接的な加温」とは、蒸気などの熱媒介物質を加温される対象物に接触させることで加温する際に、熱媒介物質の運動方向を供給部から加温される対象物に到達するまでの間に変化させるように、供給部から熱媒介物質を放出することをいう。
【0026】
本明細書において、「直接的な加温」とは、蒸気などの熱媒介物質を加温される対象物に接触させることで加温する際に、熱媒介物質の運動方向を供給部から加温される対象物に到達するまでの間に変化させないように、供給部から熱媒介物質を放出することをいう。
【0027】
本明細書において、「直接的な冷却」とは、ファンなどの送風機構によって、冷却される対象物に向けて冷気を送ることをいう。
【0028】
本明細書において、「間接的な冷却」とは、冷却機構以外のファンなどの送風機構を用いずに冷却を行うか、または送風機構によって冷気を送る場合にも冷却される対象物に向けずに冷気を送ることをいう。
【0029】
本明細書において、「搬送部近傍」とは、搬送部から約30cm以内であることをいう。
【0030】
本明細書において、「蒸気」とは、水滴を含む気体をいう。本明細書において、「マイクロミスト」とは、蒸気において、粒子径0.01μm以上10μm未満の水滴を含むものをいう。本明細書において、「クラスターエアー」とは、蒸気において、粒子径0.01μm未満の水滴を含むものをいう。
【0031】
本明細書において、「殺菌」とは、食材加工処理の直後に、一般生菌数は標準寒天平板培養法による検査で105cfu/g(mL)以下、大腸菌はBGLG培地法による検査で陰性(10cfu/g(mL)未満)であることをいう。
【0032】
本明細書において、加温と冷却の「一体型」とは、「搬送部」が「加温部」と「冷却部」とを通り、少なくとも「搬送部」と「加温部」、および「搬送部」と「冷却部」とが結合された単一のユニットによって加温および冷却が行われるものをいう。
【0033】
本明細書において、「下向き」とは、鉛直下方向に対して0°~90°の角をなす方向をいう。
【0034】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%の範囲内をいう。
(食材)
【0035】
本発明の食材加工システムは、任意の食材を処理することができる。本発明の食材加工システムにおける中間温度帯での間接的な加温、およびその後の急速な冷却による、灰汁抜き、酵素失活および殺菌は、食材固有に達成されるのではなく、任意の食材において普遍的に達成され得るからである。
【0036】
したがって、一般に食用とされる野菜、果物、茸、肉、魚、貝、甲殻類、および海藻から選択される1種以上の何れもが、本発明の食材加工システムにより加工され得る。本発明の食材加工システムは、野菜、きのこ類、果物、海草、魚、肉のいずれにも適用できる。
【0037】
野菜としては、葉物、根菜類、芋類、きのこ類などの、市場に出回る品種を制限なく使用することができる。例えば、葉物としては、キャベツ、白菜、レタス、小松菜、ほうれん草、サラダ菜、小松菜、チンゲン菜、水菜、春菊、三つ葉、葱類、菜の花、なす、ズッキー二、キュウリ、トマト、瓜、ピーマン、パプリカ、オクラ、もやし、アスパラ、玉ねぎ、ネギ、ブロッコリー、カリフラワー、にら、葉ゴボウなどの何れもが使用できる。根菜類としては、にんじん、大根、かぶ、れんこん、ごぼうのいずれもが使用できる。このほか、みょうが、山菜類、セロリ、パセリやバジルなどのハーブ類、とうもろこし、さやいんげん、きぬさやなども使用できる。芋類としては、さつま芋、じゃがいも、山芋、自然薯など、いずれも制限なく使用することができる。きのこ類としては、しいたけ、しめじ、まいたけ、ひらたけ、なめこ、えのきだけ、マッシュルーム、エリンギ、シュタインピルツ、ポルチー二茸、トリュフなど、食用として知られる品種を制限なく使用することができる。
【0038】
果物としては、かんきつ類、いちご、ブルーベリーやブラックベリーなどのベリー類、さくらんぼ、ぶどうなど、市場に出回る品種を制限なく使用することができる。海草としては、海苔類、わかめ、もずくなど、市場に出回る品種を制限なく使用することができる。
【0039】
魚としては、青身魚、白身魚、赤身魚、うなぎ、あなごなど、市場に出回る品種を制限なく使用することができる。いか、たこ、貝類も使用することができる。えび類、かに類、ロブスター類なども使用することができる。肉としては、牛肉、豚肉、鶏肉、ジビエ料理に使用される鹿、鴨、馬、イノシシなどの肉など、市場に出回る品種を制限なく使用することができる。
【0040】
ある実施形態では、生鮮食材を、予め洗浄、裁断して、本発明の食材加工システムの投入部に置く。食材片の大きさは、各種惣菜に採用されている、そのまま食したり食器に盛り付けできる程度の大きさであれば、制限が無い。そのような大きさの食材であれば,後述の加温部に入ってから数十秒から数分程度で表面から中心まで均等に適切な温度に加温される。本発明の食材のサイズは任意であるが、一般には一辺が約30cmの立方体に収まる程度の大きさである。
【0041】
消費期限が特に短いために店頭からの廃棄割合が高いことが問題であった、カット野菜・カットフルーツ用の野菜、果物、きのこ類は、本発明の食材加工システムにおける殺菌の効果が大きいため、本発明の好ましい食材である。特に、殺菌液の処理によって処理が困難である食材は、本発明の好ましい食材である。したがって、周囲にゼラチン質を有し、その内部の菌が殺菌液によっては処理が困難であるネギ類は、本発明の好ましい食材である。孔に毛が生えているために表面張力が生じて殺菌液によっては処理が困難であるきゅうり、イチゴなどもまた、本発明の好ましい食材である。
(加温部)
【0042】
本発明のシステムは、食材を加温する加温機構を備える加温部を備える。加温部および加温機構は、食材を所望の温度に加温することができれば、その構成は限定されない。加温部内を搬送部が貫通し、加温部内を食材が搬送部によって搬送される間に食材が加温される。食材は、所望の温度に速やかに加温され、その後所望の温度に安定的に保たれることが望ましい。本発明の加温部としては、食品の調理に用いられている一般的なもの、加湿機能を有する恒温槽など、温度調節できるものであれば、いかなるものも使用することができる。様々な食材に対応するためには、加温部の形状は食材の搬送方向に沿ったトンネル型あるいは箱型のものが好ましいが、これらに限定されない。
【0043】
好ましくは、本発明のシステムは、食材を中間温度帯に速やかに加温し、安定的に維持することができる。中間温度帯での加温は、食材の細胞や組織を破壊することなく、灰汁を除去し、および/または酵素(例えば、ペクチナーゼまたはセルラーゼなどの糖質分解酵素、グルコースオキシナーゼなどの酸化酵素などが挙げられるが、これらに限定されない)を失活させ、および/または殺菌を行うことができる。他方で、100℃を超えるような加温(沸騰水や火を用いる加熱)は食材の細胞を破壊し、それによって旨味成分が細胞から流出してしまうので、本発明においては好ましくない。
【0044】
加温機構は、好ましくは、熱を加温部内に放出することによって、食材を加温する。1つの実施形態においては、熱は、食材と接触することによって食材を加温することができる高温の物質によって媒介され得る。加温部の内部に放出された熱によって、加温部内の温度が上昇し、加温を行うことができる。
【0045】
本発明の代表的な実施形態において、加温部は、間接的に食材を加温する。直接的な加温の場合には、食材に接触する熱媒介物質が供給部から食材に直接的に接触する相対的に温度の高い熱媒介物質と加温部内で対流している相対的に温度の低い熱媒介物質とに別れ、その温度差が激しく、食材を加温する温度を安定的に維持することが難しい。それに比べて「間接的」な加温を行う場合には食材に接触する熱媒介物質の温度差が小さいため、食材を加温する温度を安定に維持することができる。また、間接的な加温であれば、例え
ば、一定の温度の熱(例えば、98℃の蒸気)を供給しながら、その供給を間欠的にすることによって、一定の温度での加温をすることが容易であり、熱媒介物質の温度を細かく制御するための複雑な機構が必要とならない。結果的に、コストの削減も達成され得る。他方、直接的な加温では、熱媒介物質を間欠的に供給する場合、供給している間と供給を停止している間とで、食材に直接的に接触する相対的に温度の高い熱媒介物質が存在するときと存在しない時で食材の加温の温度に大きな差が生じてしまい、食材の均一な加温が達成できないことがある。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明の加温部は、食材を間接的に加温する。本発明における中間温度帯での加温は制御が難しい。具体的には、加温が過剰になれば食材の細胞を破壊してしまって食味や食感が損なわれ、加温が不足すれば殺菌および灰汁の除去が不十分になる。そのため、本発明者らは、食材を直接的に加温するのではなく、加温部の中の食材が通過する領域の温度を均一に制御することによって、結果的に食材の均一な加温温度制御を達成した。
【0047】
例えば、原則的に温度の高い物質は密度が低くなり相対的に上へと移動するが、熱を媒介する物質を下向きに放出することにより、熱を媒介する物質の対流を引き起こすことができ、加温部内の温度を一定の範囲内に安定に保つことができる。
【0048】
好ましい実施形態においては、加温部はさらに送風機構(例えば、ファン)を備える。このファンにより、食材付近の対流を常に発生させ、食材の接する温度を一定に保つことができる。加温部における送風機構は、好ましくは、搬送部に向けて風を送るのではなく、搬送部ではない方向に風を送る。間接的な加温と同様に、風を食材に直接当てないことにより、搬送部近傍での中間温度帯の制御を促進するためである。
【0049】
さらに、加温部内の底面や上面の付近では、温度が安定しにくい可能性がある。したがって、加温部内を貫通する搬送部を、加温部の上面と底面との間の中間部を通過するように構成すれば、温度が不安定になりやすい領域を避け、安定した温度の領域において均一に食材を加温することができる。
【0050】
本発明の加温機構は、食材を、約45~約90℃、好ましくは約50℃~約85℃、より好ましくは約60℃~約75℃に加温することができる。ただし、本発明のシステムにおいて加温機構によって加温する温度は食材や用途によって異なり、当業者が適切に決定することができる。なお、食材の加温は芯温を測定することによって確認され得る。
【0051】
本発明の加温機構によって放出される熱の温度は、意図される食材の加温を達成できるものであればどのような温度であってもよいが、代表的には、放出される熱の温度は98℃であり得る。
【0052】
加温機構は、中間温度帯での食材の加温を達成し得る任意の機構であってよく、蒸気供給部、マイクロミスト供給部、クラスターエアー供給部などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の1つの実施形態において、熱媒介物質は蒸気であり、本発明の加温機構は蒸気供給部であり得る。ただし、蒸気を用いて加温を行うと食材の表面に水滴が付着する場合がある。そのような水滴の付着を避けることが好ましい場合には、加温機構は、マイクロミストまたはクラスターエアーのようなより小さな粒子径の水滴を含む熱媒介物質を用いて加温してもよい。
【0054】
ある実施形態において、熱媒介物質は、マイクロミストである。マイクロミストを発生させる方法は公知である。理論に束縛されるものではないが、マイクロミストを用いて加温を行う場合、蒸気において微細な水滴(粒子径0.01μm以上10μm未満の水滴)を含んでいるため、食材への水滴の付着をおさえることができる。食材への水滴の付着を防ぐことは、細菌の増殖しにくい条件を保つことに繋がり得る。さらに、食材への水滴の付着を防ぐことにより、乾燥する工程が不必要になり得る。
【0055】
マイクロミストは、公知の発生装置または発生方法によって発生させることができる。例えば、水塊を高速回転するファンに衝突させること等によって、物理的な衝撃を与えて水塊を微細な水粒子に破砕し、微細な水粒子から構成されるマイクロミストを発生させることができる。高温の水を水塊として用いれば、高温のマイクロミストを発生させることができる。
【0056】
熱媒介物質の粒子径は、食材の種類や大きさによって適切に選択することができる。例えば、ネギ、カットフルーツ、肉やカニなどは熱伝導効率や水滴付着の防止の観点から、クラスターエアーによって加温するのが好ましい。野菜原体は水滴の付着を防止する必要性が比較的ないため、蒸気を用いて加温してもよい。
【0057】
ある実施形態において、熱媒介物質は、クラスターエアーである。クラスターエアーは、上記のマイクロミストよりも、蒸気においてさらに微細な水滴(粒子径0.01μm未満の水滴)を含んでいるため、高温を用いなくとも食材への熱伝導効率が向上し、同時に食材への水滴の付着をおさえることができる。食材への水滴の付着を防ぐことは、細菌の増殖しにくい条件を保つことに繋がり得る。乾燥する工程が不必要になることによって、効率の良い処理が可能になり、コスト負担を削減することができる。また、食材を処理温度まで速やかに加温することができるため、加温による灰汁抜き、殺菌、酵素の失活などの効果をより確実なものにすることができる。
【0058】
ある実施形態では、加温機構は蒸気などの熱媒介物質を噴出させることによって食材を加温し得る。ある実施形態においては、加温機構は98℃の熱媒介物質を噴出させることによって食材を加温する。なお、上記のとおり、加温機構は、噴出させた熱媒介物質が間接的に食材を加温するように構成される。このような構成の例としては、加温機構が搬送部の下部に備えられ、かつ、熱媒介物質の噴出孔が下方に向けられている構成が挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、加温機構は、熱媒介物質を継続的に噴出させるのではなく、噴出に間隔を設け、間欠的に噴出させる。ある実施形態において、噴出孔は、開閉することができる。さらなる実施形態では、噴出孔の開閉は、外部からの入力により、または自動で制御される。
【0059】
ある実施形態において、加温部は、センサーを備える。例えば、センサーとしては、温度センサー、湿度センサーが挙げられる。センサーは、加温部の内部の状態に関する情報を定量化し、送信する。加温部の内部の状態に関する情報は、管理部に送信されてもよく、または、システムの別の部分、例えば、搬送部、加温部または冷却部に送信されてもよい。センサーの位置は、限定されないが、好ましくは、加温部を貫通する搬送部の近傍に配置され得る。本発明のシステムにおいては、食材が通過する領域の温度を均一に保つことが重要であるから、搬送部近傍の温度の測定値に従って加温機構を制御することが有利であり得る。ある実施形態においては、加温部内において、センサーは、搬送部から約30cm以内、好ましくは約15cmの距離に存在する。
【0060】
ある実施形態においては、温度センサーによって前記加温機構が間欠的に駆動される。例えば、搬送部の近傍に設けられた温度センサーの測定値が規定の温度に達した際に蒸気などの熱媒介物質の噴出孔の蓋が閉まって熱媒介物質の排出が止まり、温度が下がれば再び熱媒介物質を噴出して、適切な割合で加温部内の空気と熱媒介物質との混合を行う事で加温部内の温度を一定に保つことができる。
【0061】
加温機構が蒸気供給部である場合、蒸気供給部の運転時には、内部温度を所定の温度域に維持するために、上述のセンサーで検出された内部の温度および/または湿度の値をもとに、加温機構の外部に付随するボイラーや通水管、電源等を自動制御して、蒸気の温度と放出量が自動制御され得る。食材が加温部内にある時間は1分~8分、好ましくは1分~3分である。この時間は食材の熱伝導性とカットされた食材の大きさによって、適当に調節される。食材の表面は、上記内部温度にこのような時間で晒された結果、殺菌され得る。
【0062】
好ましくは、加温部は、蒸気などの熱媒介物質が対流することができるように構成される。熱媒介物質が対流することによって、加温部全体にわたっては温度にムラが存在したとしても、加温工程の間の食材の加温の程度を均一なものとすることができる。また、時間当たりに食材が接触する熱媒介物質の量を増加させることができ、高い温度を用いずに食材を速やかに所望の温度にすることができる。
【0063】
ある実施形態において、加温部の底部は、蒸気などの熱媒介物質の対流を起こさせるような形状であり得る。そのような形状の例としては、限定されるものではないが、底部の縁が斜めになるように加工された舟形が挙げられる。熱媒介物質の対流は、加温部への搬入口、搬出口において、上下方向に対流することによって、加温部内に冷たい外気が侵入することおよび/または加温部内から温かい熱媒介物質が漏出するのを遮断する、いわばエアーカーテンとしての機能を有し得る。
【0064】
熱媒介物質(例えば、蒸気)は、90℃を超える高温であれば自ずから対流が発生するが、例えば、70℃前後の温度帯では発生する対流が緩やかであり、熱媒介物質を積極的に対流させる機構を用いることが望ましい場合がある。
【0065】
この熱媒介物質を積極的に対流させる機構として、加温部は、好ましくは送風機構を有する。送風機構は加温部内の熱媒介物質の対流を促進することができる。送風機構としては、シロッコファン、ターボファン、翼形ファン、横流ファンなどの送風機や空調機に用いられるものであればいずれも使用することができる。送風機構の構成は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風機構は、加温部の上部にあってもよく、加温部の側部にあってもよく、その両方にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。ある実施形態においては、送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向であっても、食材に向かう方向でなくてもよい。好ましい実施形態においては、加温部における送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向ではない。送風機構による送風の強度は、十分に熱媒介物質を対流させることができれば限定されず、一定であっても、変化させることができてもよい。送風機構(好ましくはファン)の取り付け数、送風能力は加温部の容量、食材の種類と処理量、食材の搬送速度などを勘案して適宜調節され得る。加温機構の運転時には、内部の各部に取り付けられたセンサーによって加温部内の温度と湿度とを随時検出し、加温部内で温度と湿度とが均一となるようにファンの回転数と送風量を調節してもよい。
【0066】
ある実施形態において、加温部は密閉されない。加温部が密閉されると、熱で膨張した空気の圧力によって食材の細胞が破壊され得るからである。この場合、投入口、排出口に設けられた開放部が圧力弁の役割を果たし、熱媒介物質の対流がエアーカーテンの役割を果たし得る。
【0067】
加温部における加温機構は単一であっても複数であってもよい。ある実施形態では、加温機構は、搬送部の搬送方向に沿って少なくとも2つの加温機構を含む。ある実施形態において、加温機構は、蒸気などの熱媒介物質の噴出孔を備えたパイプである。このパイプは、複数であってよい。複数の加温機構の放出する熱量の大きさは異なってもよい。ある実施形態では、加温部の入口に近い加温機構は、加温部の出口に近い加温機構よりも大きな熱量を放出する。本発明のある実施形態では、加温部は、搬送部の搬送方向に沿って少なくとも2つの加温機構を含み、加温部の入口に近い加温機構は、加温部の出口に近い加温機構よりも大量の熱媒介物質を放出することができる。ある実施形態では、加温機構のパイプは、口径の異なる複数のパイプである。好ましくは、投入口に近いパイプの口径が、排出口に近いパイプの口径よりも大きい。そのような、加温部の入り口に近い加温機構が、加温部の出口に近い加温機構よりも大きな熱量を放出する構成によれば、加温部に投入された低温の食材の所定の温度への加温がより促進され、所定の温度に到達した後はその所定の温度で維持され得、それによって、意図した所定の温度での食材の処理時間をより長く確保することができる。ある実施形態では、複数のパイプの噴出孔は、それぞれ開閉弁を備え、個々に制御され得る。
【0068】
一部の実施形態において、加温部は、スチーム加温器である。一部の実施形態において、加温部は、食材の搬送方向に沿って延長する蒸器であり、加温機構は蒸器の内部壁に設けられた多数の小孔から蒸器内に熱媒介物質(蒸気、マイクロミスト、またはクラスターエアーなどが挙げられるが、これらに限定されない)を放出する。
【0069】
本発明のシステムのある実施形態においては、加温部は、例えば、食材を45℃~90℃での湿潤雰囲気下で1~8分間加温するための部位であり、好ましくは搬送方向に沿って延長する蒸器である。加温部の内部を搬送部が貫通する。ある実施形態では、本発明の食材加工システムにおいて投入部と加温部とは連続している。ある実施形態では、本発明の食材加工システムの運転時には、搬送部によって開口した加温部に食材が連続的に搬入される。食材が加温部の内部を通過する過程で、食材の温度は表面から上昇し、続いて中心部の温度も45℃~90℃に上昇し、表面から中心部まで加温された状態が1~8分間持続する。
【0070】
一部の実施形態では、加温部の内部温度は食材の種類に応じて調節される.例えば、熱通りの悪い大型の食材片を加温する場合には比較的高温域に調整される。例えば、熱通りの良い小型の食材片を加温する場合には比較的低温域に調整される。加温部の内部温度は45℃~90℃、好ましくは50℃~85℃、より好ましくは60℃~80℃に保たれる。食材が加温部内にある時間は1~8分、好ましくは1分~3分である。この時間は食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさによって、適切に調節され得る。食材が加温部の内部を通過する過程で、食材の温度は表面から上昇し、続いて中心部の温度も45℃~90℃に上昇し、表面から中心部まで加温された状態が1~8分間、好ましくは1~3分間持続する。加温部の内部温度が45℃よりも低いと、食材の味覚向上、最終調理時間の短縮が期待できず、好ましくない。加温部の内部温度が95℃を超えると、食材に煮る、焼く、揚げる、蒸すなどの通常の加熱調理が施された状態となって、新鮮な食材の風味が失われ、好ましくない。
【0071】
本発明のある実施形態では、加温部は、好ましくは、内部に霧状の蒸気などの熱媒介物質を発生して食材を加温する蒸器である。加温部の形状はこの搬送方向に沿った長形が好ましい。このような蒸器の内部壁に設けられた多数の小孔から蒸器内に熱媒介物質を放出し、連続移動する食材表面を均一に加温する。加湿と加温のために、このような蒸器にはボイラーや通水管、電源、温度センサー、湿度センサー等が付随する。蒸器内部の温度と湿度は、食材の種類と大きさによって最適値に設定される。熱媒介物質の湿度と放出量は、蒸器内部の湿度と温度の設定値と自動計測値に基づき、自動的に調整される。この自動調整を短時間で行うために、調整部に設けられた送風ファンも用いられる。
【0072】
食材が加温部を出る部分(出口)も、加温部の入口と同様に、本発明の食材加工システムの運転時には開口している。食材は滞留することなく連続的に加温部内を移動して、加温部から調整部または冷却部に排出される。
(加温工程)
【0073】
本発明の加工食材の製造方法は、加温部を用いて食材を加温する工程を包含する。食材を加温する工程は、食材を間接的に加温する工程であってよい。
【0074】
食材は、加温部を通過する間、例えば、1~8分、好ましくは1分~3分の間加温される。この時間は、搬送部の速度を調節することによって変化させ得る。
【0075】
加温工程は、様々な加温時間と温度の組み合わせを取り得る。例えば、ある実施形態では、根菜類を75~90℃で3~7分間加温する。他の実施形態では、葉物類を、60~75℃で1~3分間加温する。さらに他の実施形態では、果菜類を45~75℃で1~3分間加温する。さらに別の実施形態では、動物性食材を75~90℃で3~8分間加温する。
【0076】
例えば、本発明の1つの実施形態において、加温工程は、洗浄・カットされた食材を、内部温度が45℃~90℃の範囲にある所定の一定温度に保たれた加温部の端部に搬送し、その後、スチーム加温器の内部に任意に取り付けられたファンによって対流を発生させ、それによって該食材の表面に送風しながら該食材を加温部の内部で1分~8分かけて搬送することによって該食材の温度を上昇させる。加温工程では、食材は外気に晒されることなく加温され得る。
【0077】
スチーム加温器は後述の冷却部に連結しており、加温工程を終えた食材は外気にほとんど触れることなく直ちに後述の冷却工程に移される。加温工程と冷却工程との間に食材が外気にほとんど触れる機会がないため、食材の表面は加温工程の加温処理によって表面の細菌が死滅した状態のままで冷却部内部の冷気に晒される。
(冷却部)
【0078】
本発明のシステムは、食材を冷却する冷却機構を備える冷却部を備える。冷却部および冷却機構は、冷却部内部を所望の温度に保つことができれば、その構成は限定されない。
【0079】
冷却部は、限定されるものではないが、その内部を-10℃~-40℃、-10℃~-35℃、-10℃~-30℃、-10℃~-25℃、-10℃~-20℃、-10℃~-15℃またはそれより高い温度に保つことができる。
【0080】
冷却部は、送風機構を備えていてもよい。送風機構としては、シロッコファン、ターボファン、翼形ファン、横流ファンなどの送風機や空調機に用いられるものであればいずれも使用することができる。送風機構の構成は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風機構は、冷却部の上部にあってもよく、冷却部の側部にあってもよく、その両方にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。冷却部において送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向であってもよいし、食材に向かう方向でなくてもよい。送風機構による送風の強度は、十分に食材を冷却することができれば限定されず、一定であっても、変化させることができてもよい。例えば、ある実施形態においては、冷却部の側方に冷却機構があり、上部に送風機構(ファン)がある。
【0081】
好ましくは、冷却部は、直接的に食材を冷却する。具体的には、冷却部に備えられた送風機構(例えば、ファン)が食材に向けて送風する。これによって、食材の速やかな冷却が可能になる。これは、本発明において有利である。加温部での加温によって殺菌された食材には、24℃~37℃付近の温度において再度微生物の付着のリスクがあるが、直接的な冷却によって温度低下が速やかに行われるため、この温度帯に留まる時間が短縮されるからである。
【0082】
ある実施形態において、冷却部は、センサーを備える。センサーは、冷却部の内部の状態に関する情報を定量化し、送信する。冷却部の内部の状態に関する情報は、管理部に送信されてもよく、または、システムの別の部分、例えば、搬送部、加温部または冷却部に送信されてもよい。センサーとしては、温度センサー、湿度センサーが挙げられる。センサーの位置は、限定されないが、好ましくは、冷却部を貫通する搬送部の近傍に配置すれば、冷却される食材の温度を正確に測定することができ、システムの制御にとって有利であり得る。
【0083】
冷却部は、例えば、一般的に用いられる冷凍機、フリーザーであってよく、形状としてトンネルフリーザーなどであってよい。
【0084】
ある実施形態において、冷却部は、加温部で加温処理を終えた食材を-10~-40℃の温度下で2~8分間冷却するための部位である。食材は滞留することなく、連続的に冷却部内を移動して搬出部に排出される。冷却部で食材を急速に冷却するためには、冷却部全体を温度調節が容易な冷却装置で覆う構造が好ましい。このような冷却装置としては、例えばトンネルフリーザーが用いられる。冷却部の形状は食材の搬送方向に沿った長形が好ましい。このような冷却部としていわゆるトンネルフリーザーが好ましい。冷凍器内の温度は-10~-40℃、好ましくは-10~-20℃に保たれる。食材が冷凍機の中にある時間は2~8分、好ましくは2~5分、さらに好ましくは2~4分である。この時間は、食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさによって、適当に調節され得る。食材が冷却部を出る時には、食材の表面から中心部までの温度は、5℃~-40℃、好ましくは2℃~-20℃に低下している。
【0085】
本発明のシステムで冷蔵保管用の加工食品(いわゆる冷蔵食品。「チルド食品」を含む。)を製造する場合には、冷却部の出口で食品の中心温度が約5℃以下、好ましくは約1℃~約4℃、より好ましくは約2℃となるように冷却部の温度を適宜調節する。本発明のシステムで冷凍保管用の加工食品(いわゆる冷凍食品)を製造する場合には、冷却部の出口で食品の中心温度が0℃未満、好ましくは-2℃~-20℃となるように冷却部の温度を適宜調節する。
(冷却工程)
【0086】
本発明のシステムを用いる方法は、冷却機構を備える冷却部を用いて食材を冷却する工程を包含する。好ましくは、食材を冷却する工程は、直接的に食材を冷却する工程である。
【0087】
一部の実施形態では、好ましくは、冷却部は送風機構を備え、送風機構を用いて冷気を食材に当てることによって、加温された食材を速やかに冷却する。冷却する過程で細菌の増殖しやすい温度帯(例えば、約20~40℃)を通過するため、速やかに食材を冷却し、例えば、チルド帯(例えば、約2℃)にまで冷却することが望ましい。
【0088】
食材は、冷却部を通過する間、例えば、2~8分、好ましくは2分~5分、さらに好ましくは2分~4分の間冷却される。代表的な実施形態において、加温時間の調節のため設定された搬送速度に応じて、冷却部の長さを変化させることによって冷却時間を調節するか、または十分に食材が冷却されるように冷却部の温度または送風機構の送風強度を設定することができる。他の実施形態において、冷却時間は、搬送部の速度を調節することによって変化させ得る。理論に束縛されるものではないが、-40℃の冷却部において冷却時間が5分を超えると、食材の凍結が生じ、凍結が生じた場合には食材の細胞が破壊される。
【0089】
冷却部の内部の温度は、限定されるものではないが、-10℃~-40℃、-10℃~-35℃、-10℃~-30℃などであり得る。また、理論に束縛されるものではないが、冷却工程終了時の食材の温度が10℃を超える場合、その後の作業中に細菌が増殖する危険性が生じる場合がある。冷却工程後の食材の温度は、限定されるものではないが、好ましくは約5℃以下、さらに好ましくは約1℃~約4℃、より好ましくは約2℃である。食材を冷凍して保存する場合には、冷却工程後の食材の温度はより低い温度であってよい。
【0090】
加温工程から冷却工程までをできる限り短い時間で行うことによって、食材加工中の食材表面での細菌繁殖や、食材内部の変質を抑えることができる。本発明の加工食品の衛生性を良好に保つために、冷却工程を終了した本発明の加工食品の温度を、その後の工程あるいは包装、輸送時にも維持することが望ましい。
【0091】
冷却工程を経た食材は、その種類や調味工程の条件によって、そのまま食用に供することができる。例えば、食材が生で食べられる野菜や果物の場合には、生野菜の食感と濃厚な味を兼ね備えた、新鮮味のある加工野菜が提供される。このような加工野菜は、従来のカット野菜にもカットフルーツにも無い品質を有する。本発明の加工方法によって、玉ねぎの辛味が除かれること、ゴボウの苦みが除かれること、ほうれん草の苦みが除かれること、れんこんに独特のうまみが生じることは、驚くべき結果である。食材がきのこ類の場合には、冷却工程を経たきのこ類をそのまま食用に供することができる。刺身用の魚介の場合には、「たたき」や「漬け」の味が感じられる独特な半生状の魚介加工品が得られる。食材が刺身用やカルパッチョ用、ローストビーフやローストポーク用の肉の場合も同様に、独特な半生状の肉加工品が得られる。
【0092】
このような、冷却工程を経てそのまま食べられるようになった食材は、直ちに包装、梱包され、加工食品として出荷、輸送される。包装材としては、プラスチック製の袋、カップ、箱などが好ましい。食材が容器を通して良く見えるために、透明性の高い容器が好ましい。消費者は、個々の加工食品をそのまま食べることもでき、複数の加工食品を好みに応じて混ぜることもできる。
【0093】
あるいは、冷却工程を経た食材は、その種類や調味工程の条件によって、食材は後述の製品化工程に送られ、さらに加工される。
【0094】
本発明の1つの実施形態では、冷却工程は、加温工程を終えた食材を外気にさらすことなく内部温度が-10℃~-40℃の範囲にある所定温度に保たれた冷却部の端部に搬送し、その後、該食材を該冷却部の内部で2分~8分かけて搬送することによって該食材を冷却する、急速冷却工程であり得る。冷却工程においても、食材は外気に晒されることなく冷却される。
【0095】
ある実施形態において、食材が冷却部の中にある時間は2~8分、好ましくは2~5分、さらに好ましくは2~4分である。この時間は、食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさによって、適当に調節される。食材が冷却部を出る時には、食材の表面から中心部までの温度は、5℃~-40℃、好ましくは2℃~-20℃に低下している。このような温度と時間の設定によって、冷却工程では食材全体の温度が微生物の繁殖が困難な低温域に急速に低下し、そのような低温域で保持される。
【0096】
本発明のシステムによって殺菌された食材を冷蔵保管用の加工食品(いわゆる冷蔵食品。チルド食品」を含む。)として利用する場合には、冷却部の出口で食品の中心温度が約5℃以下、好ましくは約1℃~約4℃、より好ましくは約2℃となるように冷却部の温度を適宜調節する。本発明の殺薗方法を施した食材を冷凍保管用の加工食品(いわゆる冷凍食品)として利用する場合には、冷却部の出口で食品の中心温度が0℃未満、好ましくは約-2℃~約-20℃となるように冷却部の温度を適宜調節し得る。
【0097】
冷却部内部にも送風機構を設けて食材の表面付近の空気を攪拌し、冷却効率を高めることができる。用いられる送風手段は、加温部の送風機構(例えば、ファン)と同様のものであってよい。冷却工程で食材を中心部まで急速冷却することによって、食材の表面と内部は細菌増殖が抑制された状態に維持される。
(搬送部)
【0098】
本発明の食材加工システムは、加温部および冷却部を通って食材を搬送する搬送部を備える。搬送部の構成としては、食材を連続的に移動させる機能を有していれば、特に制限はされない。
【0099】
加温および/または冷却を食材を移動させながら行うことは、大量の食材を均一な温度で画一的に加工するのに有利であり得る。例えば、食材が静止した状態で加工すると、加工を行う空間内の温度のムラによってそれぞれの加工温度に差が生じるが、食材の搬送方向に沿って食材を移動させながら加工することによって空間内の温度のムラによる食材ごとの差を無くすことができる。
【0100】
搬送部は、好ましくは、一定の速度で、加温部及び冷却部を通って食材を搬送する。また、ある実施形態において、搬送部は、前記一定の速度を調節する調節機構を有する。調節機構は、自動で一定の速度を調節することができてもよく、手動で設定された速度に速度を調節することができてもよく、または、その両方が可能であってよい。ある実施形態において、搬送部は、好ましくは、ベルトコンベアである。ある実施形態において、搬送部は、貫通孔を有する。例えば、貫通孔を有する搬送部は網目状のベルトコンベアなどであってよい。搬送部は、複数であってよく、複数の搬送部を並列させることによって、時間あたりに処理する食材の量を増加させ、本発明のシステムの処理能力を向上させることができる。食材の搬送は、食材を搬送部に直接載せて行ってもよいし、食材を入れた容器を搬送部によって搬送することによって行ってもよい。この場合、好ましくは、通気性のある容器が用いられる。通気性のある容器は、例えば、底面および/または側面に貫通孔を有する容器である。この容器は、例えば、底面および/または側面に、通気性のある網目状の部材を含む容器であり得る。搬送部および/または容器に、貫通孔および/または網目状の部材を含めることによって、食材を均一な温度帯を通過させるだけでなく、食材ごとに熱を均等に作用させることができる。
【0101】
食材の搬送速度は毎分数メートル~数十メートルの範囲で自在に設定できる。食材の芯温が適切な温度に上昇し、その温度が適切な時間維持された時点で食材が加温部の出口に到達するように、食材の種類や大きさに応じた最適な搬送速度が決定され得る。また、搬送部は、当該搬送速度で、冷却部を通って食材を搬送してもよい。この場合、好ましくは、当該搬送速度によって冷却部を食材が通過する時間に応じて、冷却温度、または冷却部の送風機構が調節される。
【0102】
本発明の一部の実施形態では、食材は搬送部によって、投入部、加温部、調整部、冷却部、搬出部に、この順で連続的に移動する。ここで、調整部は存在していてもしていなくてもよい。搬送部としてはベルトコンベアが好ましい。搬送部の速度は、投入部に置かれる食材の各片の大きさ、食材の形状、加温部の加温条件、冷却部の冷却条件と連繋して、適切な値に自動調節され得る。
【0103】
例えば、ベルトコンベアなどの本発明で用いる食材の搬送部を、洗浄・カットされた食材の投入部を始点に、食材の加温部への搬入口、加温部内部、加温部に連結する冷却部の端部、もう一方の冷却部の端部、最後の冷却部の食材の排出口まで、加温部と冷却部を貫通するライン状に敷設すると、食材の洗浄・カットから殺菌処理までを一体型プロセスで実行することができ、効率が良い。このような一体型プロセスでは、食材は加温部あるいは冷却部の内部を連続移動し、滞留することがない。その結果、単位時間あたりに一定量の食材を加工および/または殺菌処理することができ、安定的で効率のよい食材加工および/または連続殺菌が可能となる。
(クラスターエアー)
【0104】
蒸気やマイクロミストと比べて、クラスターエアーまで水の粒子径を微細にすると、マイナスイオンを発生させることができる。マイナスイオンは水が何かとぶつかって小さい粒子になる際に発生する(レナート効果)ため、クラスターエアーの生成時にマイナスイオンが発生する。マイナスイオンを有するクラスターエアーで加温工程を行えば、細胞を活性化することができ、新鮮な状態が長持ちする。
【0105】
このようなクラスターエアーを発生させる方法は公知である。例えば、日本食品化学工学会誌 Vol.43 No.9,1012~1018(1996)等に記載されているように、空気中の水分は水分子どうしが水素結合してクラスターを形成し、これらのクラスターが集合すると、大きな塊として浮遊する。個々のクラスターは、短時間のうちに生成と消滅を繰り返しており、また、クラスターのサイズ分布は形成条件の違いによって異なる。したがって、例えば、空気流中において、水の液塊を激しく破砕・分裂させ、サイズのさまざまに異なる水クラスターにし、さらにこれを遠心分離して大きな水クラスターを除去することによって、微細な粒子から構成されるクラスターエアーを生成することができる。さらに、このようなクラスターエアーは、水塊を破砕する際に負電荷を帯び、通常の含湿空気とは異なった物理的特性を示すことが以前から知られている。
【0106】
このようなクラスターエアーは、無菌室等のバイオクリーンルームに利用され、高い除塵・除菌効果が認められている。また、蚕の無菌飼育などにも応用され良好な成績が報告されている。このように様々な分野での利用がなされていたが、食材の加温へと応用することで、驚くべきことに、効率よく食材を芯まで加温することができ、食材の表面への水滴の付着を防ぐことに加えて、発生するマイナスイオンによって、加温しながらも食材の新鮮が持続することが見出された。
【0107】
本発明の食材加工システムにおいて用いられるクラスターエアーは、「フレッシュブルクラスターエアー」とも称される。
【0108】
クラスターエアーは、公知の任意の手段によって生成することができる。例えば、クラスターエアーは、
図5に示される装置によって発生させることができる。ファンによって生成した空気流中でスプレーノズルから水を噴射して水滴を破砕することで、微細な粒子が空気流に乗って、クラスターエアーとして供給することができる。大きい水クラスターは、装置の底部において水塊として回収され、ポンプによって再びスプレーノズルへと送ることができる。クラスターエアーの流路にヒーターを設け、クラスターエアーを所望の温度に加熱して供給することができる。
(管理部)
【0109】
本発明のシステムは、管理部を備えてもよい。管理部は、本発明のシステムから送信された情報を受信することができ、および/または、本発明のシステムに制御のための情報を送信することができる。管理部により、加温部および/または冷却部の内部の条件を監視し、システムを制御することで、加工条件が想定と異なる条件、例えば、想定と異なる温度になることを防ぐことができる。
【0110】
管理部は、本発明のシステムと一体となっていてもよいし、離れた部分に設けることもできる。ある実施形態では、管理部は、受信した情報またはその情報から算出した情報を作業者に表示し、作業者の入力に従って、制御のための情報をシステムに送信する。ある実施形態では、管理部は、受信した情報またはその情報から算出した情報を利用して、自動で制御のための情報をシステムに送信する。
【0111】
本発明のシステムが管理部を備える実施形態においては、例えば、本発明のシステムの運転時に、好ましくは、加温部の内部温度、内部湿度、通水量、蒸気などの熱媒介物質放出量、冷却部の温度、調整部のファン回転数などの各部位の条件が装置外部の管理部に送られる。管理部ではモニターなどで各データを監視できる。管理部のコンピュータで、予め登録された最適値と時々刻々入力される実測値との隔たりが算出、評価され、警告表示や各条件の調整などが自動的に行われる。したがって、装置付近と管理部に少数の人員を配置すれば、本発明のシステムを24時間連続運転することができる。本発明のシステムは熟練者を要さず運転できるため、システムの設置場所を問わず、均質な製品を大量に製造することができる。
(投入部)
【0112】
本発明のシステムは、投入部を備える。食材は、投入部から本発明のシステムに導入される。投入部は搬送部の端部にあり、連続移動する搬送部に食材を搭載する部分である。投入部では効率よく均一に食材が加温されるように人的手段及び/又は機械的手段を用いて食材を均一の高さに揃えて搬送部上に積載される。機械的手段は、投入された食材を均一に均す手段および食材間に気流の流路を設ける手段を含む。投入された食材を均一に均す手段は、一般には、板状部材、ブラシ、振動機構などである。食材間に気流の流路を設ける手段は、突起部、障害物などである。投入部では、一般には、運転状態の搬送部に食材を連続投入する。食材は、投入部を出発し、搬送部によって加温部(例えば、スチーム加温器)に移動する。
【0113】
図6A及び
図6Bを参照して、本発明の1つの実施形態における投入部の構造を説明する。
図6Aは本発明の1つの実施形態における投入部の模式的平面図である、
図6Bは本発明の1つの実施形態における投入部の模式的正面図である(
図6AのA-A端面図)を示す。
図6Aに示されるように、食材は矢印方向に搬送される。搬送方向の上流側に一対の平板部材からなる第一の高さ調整部材(121)が設けられている。一対の第一の高さ調整部材(121)は搬送部幅方向中央側の端部(122)に比べて幅方向端部側の端部(123)が下流側になるように傾斜している。そして、第一の高さ調整部材(121)よりも搬送方向下流側には幅方向に所定の間隔を設けて複数の突起部(124)を備えている。また、突起部のさらに下流側には第一の高さ調整部材よりも大きさの小さい一対の平板部材からなる第二の高さ調整部材(125)が搬送部幅方向に所定の間隔を設けて複数設けられている。突起部の搬送部幅方向の位置と第二の平板部材の幅方向中央側の端部(126)の位置が略同一になっている。
図6Bに示されるように、第一の高さ調整部材の下側端部の高さは搬送部の上面から所定の高さに調整している。また、第二の高さ調整部材の下側端部の高さは第一の高さ調整部材の下側端部の高さと同じ高さとなるように調整している。そして、突起部の高さは第一の高さ調整部材および第二の高さ調整部材の下側端部の高さよりも高くしている。例えば、投入部(120)において、食材(127)を搬送部に積載する場合、搬送部の幅方向中央部に食材が偏り得る。しかしながら、第一の高さ調整部材を設けることで、幅方向の中央部では所定高さの食材しか第一の高さ調整部材を通過することができず、余分な食材の一部が第一の高さ調整部材に設けた傾斜に沿って搬送部の幅方向端部側に流されることで搬送部上での食材の高さの偏りを防ぐことが
できる。突起部を設けることで食材が突起部を通過する際に突起部の幅方向両側に逃げることになり所定の隙間を形成することができる。この隙間を設けることで加熱機構を搬送部の下側に設けた際に搬送部の貫通孔が食材で覆われて蒸気などの熱媒介物質が搬送部の下側から搬送部の上側へ向かう対流が不十分となることを防ぐことができる。第二の高さ調整部材を設けることで、食材が突起部を通過する際に幅方向両側に逃げることにより高さが不均一になる部分を修正することができる。このようにすることで、加温部内で搬送される食材の高さを均一にすることができ、食材を均一に加温することができる。第一の高さ調整部材および第二の高さ調整部材の形状は平板に限らず、様々な形状を採用することができる。また、第一の高さ調整部材、突起部、第二の高さ調整部材の数は任意の数を採用することができる。
(前処理工程)
【0114】
一部の実施形態では、本発明のシステムに供される食材は、必要に応じて、洗浄および/または切断されたものであってよい。したがって、本発明の方法は、一部の実施形態において、加温工程の前に、前処理工程を包含する。前処理工程は、食材を洗浄する工程および/または食材を切断する工程からなる。食材の洗浄、カットには、野菜、果物、魚、肉類で一般的な方法を制限なく用いることができる。
【0115】
ある実施形態において、前処理工程は、食材を洗浄する工程である。比較的大きい食材を用いる場合には、食材から皮、種、骨などの非可食部分を取り除き、水洗いして、食材に応じた形状で、適度な大きさに食材をカットする。比較的小さい食材を用いる場合には、切らずに次の工程に用いる。食材が野菜の場合には、例えば、カット野菜と同様な形状にカットすることができる。ミニトマトやいちごは水洗いするだけでカットする必要は無い。大根やニンジンの場合には、千切り、短冊切り、いちょう切りのような、規則的な形状にカットすることもできる。もやしやきのこ、ベビーリ一フのような小型の野菜の場合は、非可食部分を取り除くことは好ましいが、小さくカットする必要は無い。洗浄と切り分けの順序、回数に、特に制限は無い。前処理工程の終了後に、ほこりや汚れ、非可食部分が完全に取り除かれ、食材に応じた適当な形状と大きさが完成されていれば、上記順序と回数には制限が無い。経済性や鮮度保持のためには、できるだけ短い時間で洗浄と切り分けを行うことが望ましい。
【0116】
前処理工程には、通常は、シャワーや水槽を用いた洗浄装置と、カッター、グラインダー、篩などを用いた切り分け装置を用いる。これらの装置は、野菜、果物、きのこ類、魚、肉の加工設備で通常用いられている洗浄装置と切断装置を用いることができる。前処理工程を経た食材は、先述の加温工程に送られる。
(調整部)
【0117】
本発明のシステムは、必要に応じて、加温部と冷却部との間に調整部を備えることがある。ある実施形態において、調整部は、加温部と冷却部との間の部分である。食材は滞留することなく、連続的に調整部を移動する。調整部には加温部の出口に送風するためのファンが設置されている。加温部内の温度と湿度を短時間で低下させるために、調整部のファンが用いられる。調整部のファンは、加温部内の温度と湿度の自動調節と連動して管理される。
【0118】
ある実施形態において、調整部は通常冷却部である。通常冷却部は、搬送部上の食材が外気温によって冷却されるように構成される部分である。例えば、蒸気を用いて加温を行う場合、加温部から直接冷却部での冷却を行うと、加温部で食材表面に付着した水滴が冷凍してしまい、食材の細胞を傷つけるおそれがある。そのため、外気温によって水滴を蒸発させる。粒子が小さく食材表面に水滴が付着しないクラスターエアーを用いる場合には、食材を外気温に接触させる通常冷却部は必ずしも必要ではない。
【0119】
他の実施形態において、調整部には、各種調味液槽を設けることもできる。加温部から出た直後の、表面から内部までの温度が45℃~90℃の範囲にある食材を直ちに調味液槽に導入し、食材表面に調味液を付着させる。調味液が付着した加温された食材が冷却部で冷却される過程で、調味液が食材内部まで浸透する。本発明のシステムにより得られた加工食材を、煮る、焼く、揚げる、蒸すなどの加熱調理を施して惣菜に加工する場合には、加熱調理直前の調味工程が不要となる。
【0120】
調味液としては、限定されるものではないが、醤油、酢、酒、みりん、たれ、ソース、ドレッシング、マリネ液、漬物液などの液体調味料、だし汁などの液体食品、塩、砂糖、味噌、各種香りづけ材料などの調味料などを含む液体調味液、またはそれらの任意の混合物を使用することができる。調味液の温度は室温でよい。理論に束縛されるものではないが、加温された状態の食材に調味液を付着させた後に急速冷却することで、食材に付着した調味液が食材の内部まで浸透する。
【0121】
1つの実施形態において、調味は、加温部と冷却部の間に挿入された、外気と内部が遮断された調味槽で行う。加温部の出口から直ちに食材を調味槽に搬入し、調味槽の調味液に浸漬し、その後直ちに食材を冷却部に搬入する。
【0122】
さらに、調味工程で殺菌済み食材に様々な副材料を混合することにより、多様な惣菜や半調理食品を製造することもできる。副材料としては、食材の衛生面に問題のないものであれば制限がない。例えば、胡麻、くるみ、松の実などの木の実、するめなどの干物、サラミなどの燻製品、のりなどの海藻加工品などを副材料として使用することができる。また、調味された食材をパン粉や天ぷら粉などで被覆することもできる.このように調味することにより、殺菌済み食材を、開封してすぐに食べられる惣菜あるいは調理時間の短い半完成惣菜として利用することができる。
(搬出部)
【0123】
本発明のシステムは、必要に応じて、冷却部の出口に搬出部を備えていてよい。1つの実施形態では、搬出部は、食材を包装する機能を備える。包装材としては、プラスチック製の袋、カップ、箱などが挙げられるが、特に限定されない。食材を包装する機構については、当該技術分野において周知であり、当業者は、本発明のシステムを用いて加工する食材に応じて適切な包装機構を選択し、利用することができる。
【0124】
ある実施形態では、搬出部は、食材を他の食材、調味液及び/又は可食被覆材料と混合する機能を備える。このような混合には、食品加工で通常用いられるミキサーが制限なく用いられる。このような混合機構については、当該技術分野において周知であり、当業者は、本発明のシステムを用いて加工する食材に応じて適切な混合機構を選択し、利用することができる。
【0125】
本発明のシステムが搬出部を備える1つの実施形態において、食材は冷却部から出て搬出部に到着する。搬出部では、製造する加工食材の種類に応じた処理を行う。ある実施形態では、本発明のシステムで冷蔵食品を製造する場合、搬出部で食材の冷蔵温度を保ったまま包装し、冷蔵食品として保管や輸送の工程に移送する。他の実施形態では、本発明のシステムで冷凍食品を製造する場合、搬出部で食材の冷凍温度を保ったまま包装し、冷凍食品として保管や輸送の工程に移送する。
【0126】
包装の前に、搬出部に到達した上記加工食材を他の食材と混合することができる。他の食材は、本発明のシステムにより同様の加工がなされた異なる種類の食材のいずれであってもよく、これらを併用してもよい。例えば、搬出部に到達した加工済みカット野菜を、乾物や燻製品のフレークと混合することができる。このような混合には、食品加工で通常用いられるミキサーが制限なく用いられる。
【0127】
包装の前に、搬出部に到達した上記加工済み食材に調味液及び/又は可食被覆材料を付着させることができる。この調味液としては、ドレッシング、マヨネーズ、胡麻や味噌を含む和えもの材料、コールスロー調味液、キムチだれ、マリネ液、漬けもの液、カルパッチョソースなども用いることができる。このような調味料と加工食材を混合することで、各種サラダ、浅漬け、マリネ、和え物などの各種惣菜が完成する。また、パン粉、から揚げ粉、片栗粉、パニエ粉などの揚げ物用の被覆材料(いわゆる「衣:ころも」)を食材に混合すれば、揚げ物用半調理食材が得られる。揚げ物用の衣に、青のり、パセリ粉末などの副材料を加えることもできる。
【0128】
一部の実施形態では、このように、搬出部以降で、食材は、販売用惣菜、冷凍カットフルーツ、冷凍カット野菜、サラダ野菜セットのようなそのまま食すことのできる冷蔵食品または冷凍食品として、あるいは、さらに焼く、煮る、揚げる、蒸すなどの最終的な加熱調理がなされた後に食される冷蔵食品または冷凍食品として、包装、保管、出荷される。
(製品化工程)
【0129】
本発明の方法は、一部の実施形態では、必要に応じて、冷却工程を経た食材を、他の食材、調味液及び/又は可食被覆材料と混合する工程、及び/又は包装工程を含む、製品化工程を含んでもよい。
【0130】
例えば、ある実施形態において、製品化工程は、冷却工程を経た食材を他の食材と混合する工程である。他の食材として、上述の本発明の工程を経た異なる種類の食材、別途用意された食材のいずれであってもよく、これらを併用してもよい。例えば、本発明の工程を複数のラインで行い、冷却工程を経た複数種の食材を、製品化工程で集めて混ぜ合わせることができる。また、冷却工程を経た食材に、別途用意した調理済みの魚介類や肉類、乾物、燻製品を添加することができる。
【0131】
例えば、別の実施形態において、製品化工程は、冷却工程を経た食材を調味液及び/又は可食被覆材料と混合する工程である。この調味液としては、通常は食べる直前に食材につける調味液である、ドレッシング、マヨネーズ、胡麻や味噌を含む和えもの材料を用いることができる。あるいは、コールスロー調味液、キムチだれ、漬けもの液なども用いることができる。また、パン粉、から揚げ粉、片栗粉、パニエ粉などの揚げ物用の被覆材料(いわゆる「衣:ころも」)を食材に混合すれば、揚げ物用半調理食材が得られる。揚げ物用の衣に、青のり、パセリ粉末などの副材料を加えることもできる。
【0132】
例えば、別の実施形態において、冷却工程の後に包装工程を設けることができる。包装工程では、搬送手段によって連続的にフリーザーから排出される食材を、外気と遮断した状態で包装機器を用いてカップ、袋、箱などに小分けし、出荷に適した荷姿に梱包する。梱包された食材は、必要に応じて冷蔵あるいは冷凍の状態で直ちに保管、出荷される。
【0133】
例えば、ある実施形態において、他の食材と混合する工程及び/又は調味液及び/又は可食被覆材料と混合する工程を経た食材は、直ちに包装、梱包され、加工食品として出荷、輸送される。包装材としては、プラスチック製の袋、カップ、箱などが好ましい。食材が容器を通して良く見えるために、透明性の高い容器が好ましい。
(好ましい実施形態)
【0134】
本発明は、食材を加温する加温部と、加温部によって加温された食材を冷却する冷却部と、加温部および冷却部を通って食材を搬送する搬送部とを備える、食材加工システムを提供する。例えば、
図1A(平面図)および
図1B(正面図)は、本発明のシステムの1つの実施形態を示す模式図である。搬送部(600)によって食材を移動させながら加温部(200)および冷却部(300)で食材を処理することができる。
【0135】
本発明の他の実施形態は、例えば、本発明の食材加工システムを使用して、加工食材を製造する方法を提供する。
図2は、本発明の加工食材の製造方法を示す模式図である。本発明の加工食材の製造方法は、必要に応じて前処理工程(101)を含み、加温工程(201)および冷却工程(301)を含む。
【0136】
好ましい実施形態において、搬送部の下に設けられた加温機構から蒸気などの熱媒介物質が下向きに噴出し、舟形の底部によって対流する(
図3)。前述の搬送部が貫通孔を有し(例えば、網目状のベルトコンベア)、および/または搬送に用いる容器が通気性である場合、熱媒介物質はこれらを透過して対流し、加温部の温度のムラを解消するとともに、食材に広い接触面積で熱を加えることができ、高温を用いずとも速やかに所望の温度まで加温される。
【0137】
ある実施形態において、加温機構から蒸気などの熱媒介物質が噴出する方向は、鉛直下方向と0°~90°の角をなす方向であり得る。好ましい実施形態において、加温機構から熱媒介物質が噴出する方向は、鉛直下方向と0°~75°の角をなす方向であり得る。別の好ましい実施形態では、加温機構から熱媒介物質が噴出する方向は、鉛直下方向と0°~45°の角をなす方向であり得る。好ましい実施形態において、加温機構から蒸気などの熱媒介物質を下向きに噴出し、さらに送風機構によって食材に向けずに風を送ることによって、食材が通過する搬送部近傍の温度を均一に保ち、その温度が均一に保たれた領域を食材を通過させることができる。これによって、例えば加温機構からの蒸気などの熱源によって食材を直接的に加温する場合や、加温室全体に蒸気が充填されたような加温室に一定時間食材を静置するような食材加工と比較して、大量の食材の中間温度帯での均一な加温処理が可能になった。中間温度帯の制御は困難であるため、このような大量の食材を中間温度帯で均一に処理できることは当該分野では予想外であった。
【0138】
好ましい実施形態において、加温部の投入口に近い熱媒介物質噴出口(例えば、蒸気噴出口)からは、加温部の出口に近い熱媒介物質噴出口と比較して多くの熱媒介物質を噴出させる。これによって、投入された食材を速やかに目的温度に上昇させることができる。
【0139】
好ましい実施形態において、搬送部の下に複数の加温機構が設けられ、加温部の投入口に近い加温機構からは、加温部の出口に近い加温機構と比較して多くの熱媒介物質が噴出され、熱媒介物質の噴出の方向は下向きであり、熱媒介物質が搬送部を貫通しながら舟形の底部によって対流する(
図3)。これによって、間接的・安定的な加温を実現しながら、投入された食材を速やかに目的温度に上昇させることができる。
【0140】
加温部と冷却部は、搬送部によって連結され、一体型のシステムとして提供されるのが好ましい。ある実施形態では、本発明の食材加工システムは、加温部と冷却部が搬送部によって連結されることを特徴とする。食材を一旦加温した場合、そのままの状態で放置されれば、細胞の自然劣化が進み、殺菌効果の生じる温度から常温以下の温度に食材の温度が低下する過程で細菌の増殖しやすい温度帯(例えば、約20~40℃)を通過するため、速やかに冷却処理を行い、例えば、チルド帯(例えば、約2℃)に冷却しなければ、殺菌の効果が十分に得られない。冷却を行う場合、緩やかに冷却すると、食材が細菌の増殖しやすい温度帯にある時間が長くなるため、急速に冷却し、細菌の増殖しやすい温度帯にある時間を短くすることが求められる。
【0141】
加温工程と冷却工程を一体の方法として、画一的な加工をライン上で行うことにより、短時間で均一な効果の処理を大量に行うことができ、望ましい特性を食材に付与するために現在当該技術分野で利用されている方法に付随するコストの負担を驚異的に減少させることができる。
【0142】
例えば、本発明を殺菌方法として利用する場合、一旦加温工程により殺菌がなされた後速やかに冷却工程に供されることにより、食材の表面は、通常食材で懸念される細菌が増殖する温度帯、すなわち概ね20℃~40℃の温度域にも、外気にもほとんど晒されない。冷却工程を終えた時点で、食材の表面に付着していた食品で懸念される細菌類の数は、食品衛生上問題のないレベルにまで低減され、通常食品に求められる殺菌が完了している。したがって、加温工程、冷却工程を終えた食品を引き続き細菌が増殖し無い雰囲気で包装、保管、輸送、販売すれば、加温部で清浄となった食材の表面はそのままの状態に保たれる。
【0143】
一部の実施形態において、本発明のシステムは、例えば、以下に記載される他の部分をさらに含んでよい。また一部の実施形態において、本発明の方法は、以下に記載される他の工程をさらに含んでよい。一部の実施形態において、本発明の方法のさらなる工程は、以下に記載される本発明のシステムの他の部分を用いる方法である。
【0144】
例えば、
図4は、本発明の方法のさらなる実施形態(101:前処理工程、201:加温工程、401:調味工程、301:冷却工程、501:製品化工程(他の食材との混合)、502:製品化工程(調味液との混合)、800:他の食材、503:製品化工程(包装工程))を示す模式図である。本発明の方法は、加温工程および冷却工程に加えて、このような工程を必要に応じて含んでよい。
【0145】
本明細書に記載される本発明の特徴は、発明の効果を損なわない限りにおいて、任意の組み合わせおよび任意の配置・順序で備えられ得る。さらに、本発明は、当業者にとって自明である様々な改変を加えて実施され得る。
【0146】
例えば、ある実施形態においては、本発明は、食材を間接的に加温する加温機構を備える加温部と、加温部によって加温された食材を冷却する冷却機構を備える冷却部と、加温部および冷却部を通って食材を搬送する搬送部とを備える、食材加工システムである。
【0147】
例えば、他の実施形態においては、本発明は、食材を間接的に加温する加温機構と、ファンである送風機構とを備える加温部と、加温部によって加温された食材を冷却する冷却機構を備える冷却部と、加温部および冷却部を通って食材を搬送する搬送部とを備え、さらに、搬送部の端に搬入部を備え、反対の端に包装装置を備える、食材加工システムである。このような本発明のシステムの実施形態は、
図7A(平面図)および
図7B(正面図)に模式図として示される。
【0148】
また、本発明のシステムは、その規模においても特段限定されるものではない。ある実施形態では、加温部、調整部、冷却部の全長が15mの長さであり、約6分~約7分で加工を行う。しかしながら、加工する食材や、加工の目的に合わせ、システムの規模を適切に変化させることができる。例えば、ある加温部の大きさでは、加温部を通過する時間は少なくとも1.5分程度であるが、加温部の長さを短くすることで、少なくとも1分程度に短縮することが可能である。例えば、ある実施形態では、調整部の長さは1.5mであり、食材が通過する時間は約40秒である。
【0149】
ある実施形態においては、上述の投入部~搬出部を有する本発明のシステムで処理することによって、各種食材を、総じて3~10分、好ましくは5~8分の時間をかけて加工し、目的の加工済み食品が得られる。以上の投入部~搬出部の部位、機構の規模は、単位時間当たりに加工すべき食材の量に応じて、自在に拡大、縮小できる。
【0150】
本発明の食材加工方法は、好ましくは、その各工程を一つのラインで連続して行う。例えば、本発明の食材加工方法を、その必須の工程である前処理工程、加温工程、冷却工程からなる工程で行う場合には、好ましくは、前処理工程、加温工程、冷却工程を、この順に一つのラインで連続して行う。前処理工程、加温工程、冷却工程の他に、上述の任意の調味工程、製品化工程のいずれか1以上の工程を設ける場合であっても、好ましくは、本発明の食材加工方法の各工程を一つのラインで連続して行う。
【0151】
好ましくは、ベルトコンベア、自動搬入・搬出装置、混合機などを用いて、全ての工程を、同一ライン各工程の移行時に食材の動きを停止させることなく、連続して行う。全ての工程をできるだけ短い時間で終了させることが好ましい。
【0152】
本発明は、ある一部の実施形態では、食材の殺菌システムを提供する。例えば、本発明の食材の殺菌システムは、スチーム加温器、フリーザー、食材の搬送手段を備える、食材の殺菌システムであって、該スチーム加温器は、その端部に洗浄・カットされた食材の導入部があり、その内部温度が45℃~90℃の範囲の温度に保たれ、その内部には該食材の表面に送風するためのファンが設けられ、またその内部を該食材の搬送手段が貫通しており、該フリーザーは、その端部に上記スチーム加温器で加温された食材の導入口があり、その内部温度が-10℃~-40℃の範囲の温度に保たれ、その内部を該食材の搬送手段が貫通している。このような殺菌システムにより、上述の加温工程、冷却工程を連続したライン上で行うことができる。
【0153】
洗浄・カットされた食材を一旦搬送手段に搭載して本発明の殺菌システムに導入すれば、食材を入れ替える作業をすることなく、ほぼ無人運転で連続的に殺菌済み食材を取り出すことができる。本発明の殺菌システムは、その運転中の1ラインを1種の食材あるいは1種の食材の組み合わせに充当することができる。運転時間やライン数の調節によって、食材の切り替えや食材量の変更に柔軟に対応することができる。
(本発明の用途)
【0154】
例えば、食材として特に野菜、海草、きのこ、果物を用いて前処理工程、加温工程、冷却工程の加工をこの順で行えば、食感や味が加工前と同等以上の、あるいは加工前の食材の雑味や灰汁が除かれたより食感や味が好ましい、保存性のよい、野菜、海草、きのこ、果物の加工品が得られる。特にきのこを加工した場合には、きのこに含まれるうまみ成分が増加することが、官能試験により確認されている。
【0155】
従来は灰汁が強く商品価値が低いとされてきた、伝統的な、45~60cmまでに成長したほうれん草であっても、本発明の加工方法によって、灰汁は完全に除去される。このため、従来は成長しすぎて灰汁が強いことを理由に廃棄されていたほうれん草も無駄なく有効利用することができ、コスト削減に寄与する。本発明の加工方法によれば、同時に、ほうれん草のほとんど全ての部位、すなわち茎の境界部分、茎、葉、のいずれの食感も向上し、ほぼ全体を可食部分として扱うことができ、加工における歩留まりが向上する。
【0156】
このような野菜、海草、きのこ、果物の加工品は、従来のカット野菜、カットフルーツに替わる画期的な食品であると同時に、半調理食品として、業務用あるいは家庭用の調理に用いることができる。本発明で得られるこのような半調理食品の調理時間は従来よりも短いため、いわゆる「早煮え食材」として用いることができる。特に、比較的長い調理時間が必要とされる根菜類を用いた場合、これらの半調理食品は有用である。
【0157】
また、理論に束縛されるものではないが、本発明の食材加工システムを用いて処理された加工食材は、細胞を破壊しない状態での加工済み食材である事から、味付け等の作業を次の加工段階で(調理)行う場合、調理の手順に関係なくすべての素材を一括して調理出来るという利点が生じる。すなわち、単純に加工済み食材を用いることによって調理に要する時間が短縮されるだけでなく、従来は異なる熱処理を必要としていた複数の食材を、一括で調理出来ることによって、家庭における調理、および業務用の調理の労力を大幅に低減することができるため、加工食品の提供におけるコストの削減に寄与する。
【0158】
食材として特に魚、肉を用いて前処理工程、加温工程、冷却工程の加工をこの順で行えば、食材に含まれるたんぱく質が適度に熱変性され、保存性のよい、独特の食感を有する魚や肉の加工品が得られる。このような本発明による魚、肉の加工品は、従来の生食用の魚や肉に替わる画期的な食品である。本発明で得られるこのような半調理食品は、魚や肉の生食の習慣が乏しい国々でも受け入れられる可能性が高い。
【0159】
最終的に食材に味付けして本発明の加工食品を調味された食品とする場合には、調味工程を加える。調味工程を加えた本発明の加工食品を加熱するだけで、唐揚げやてんぷら、ムニエルなどのような料理を簡単に作ることができる。本発明の加工食品を用いてこのような料理をした場合、調理用油の劣化が抑えられるという驚くべき利点も報告されている。
【0160】
上述の工程を有する本発明の食材加工方法を用いれば、様々な食材を用いて、多様な加工食品を製造することができる。最終的に得られる加工食材は、新鮮な食材の食感と、生の食材にも通常の加熱調理法で得られる食品にも無い味わいとを兼ね備え、栄養価の高い食材となる。消費者は、本発明の加工食材をそのまま食卓に並べることもでき、本発明の加工食材を簡単な調理で仕上げることもできる。本発明の加工食材を用いて、例えば、各図の写真で示すような、人気の高い加工食品、すなわち、野菜と海鮮のマリネ(
図8)、コールスロー(
図9)、野菜の塩昆布和え(
図10)、野菜の塩だれ和え(
図11)、もやしのポン酢和え、野菜の浅漬け(
図12)などの料理を提供することができる。
【0161】
本発明の一部の実施形態では、加温部で45℃~90℃に加温された食材が直ちに冷却部に入り、短時間でいわゆるチルド状態に冷却される。このような加工の過程で細菌増殖が容易な雰囲気下に食材が晒される期間は極めて短いか、ほとんど無い。それゆえ搬出部では無菌かそれに近い状態の衛生的な加工食材が得られる。このような加工食材は、新鮮食材のように薬剤や物理的処理による殺菌を行わずとも、冷蔵状態で新鮮食材に比べて格段に長く衛生的に保管できる。
【0162】
本発明のシステムでは、食材に対して、保水材や増粘材などの処理剤による化学的処理、圧縮、押圧などの物理的処理を行わず、加温部で比較的緩やかな条件で食材を処理するにすぎない。しかしながら驚くべきことに、この加温処理により、食材の品質が向上する。第一に、加温部において一定時間45℃~90℃の温度に保たれることで、果物や野菜に含まれる酵素が失活し、食材の自己劣化・自己分解が抑えられる。このため、野菜や果物を本発明のシステムで処理したものを常温で数日以上保管しても、変色、形崩れ、果汁や野菜汁の流出が抑えられ、良い食感が維持される。これに対して、市販の新鮮な野菜や果物を数日室温保管すれば、変色、形崩れ、果汁や野菜汁の流出が起こり易くなり生食には適さなくなる。
【0163】
このように本発明の食品加工システムでは食材の内容物の流出や食品の乾燥が抑えられるため、食材原料から最終加工食品に至る歩留まりが良い。従来の、熱湯や熱風を用いた高温調理を行った惣菜や乾燥野菜の製造に比べ、本発明のシステムの搬出部で得られる加工食品は、食材原料から最終加工食品に至る歩留まりが10%以上向上することが経験的に明らかとなっている。
【0164】
加温部では比較的低温で食材を処理することにより、新鮮な食材の組織が変質せず、新鮮食材に特有の硬さや軟らかさが維持される。加温部における処理により、食材に含まれる雑味成分(いわゆる灰汁)が除かれる点は注目に値する。このため、食材が生で食べられる野菜や果物の場合には、生野菜の食感と濃厚な味を兼ね備えた、新鮮味のある加工野菜が提供される。このような加工野菜は、従来のカット野菜にもカットフル一ツにも無い品質を有する。食材が海産物やきのこなどの旨味や香りが豊富な食材の場合には、食材の旨味や香りがより濃厚になる、新鮮な食材の滑らかな舌触りが維持されるといった効果がある。
【0165】
サラダなどの冷製惣菜には向かないとされていた、野菜や果物、茸の硬い部分も、加温部で軟らかく食感良く加工される。このため、通常は調理に向かないとされてきた食材の部位も、惣菜の素材として利用することができる。例えば、従来は成長しすぎたことを理由に廃棄されていた野菜も無駄なく惣菜に活用できる。
本発明のシステムによって加工された食材を、焼く、煮る、揚げる、蒸す等の加熱調理で各種惣菜に仕上げた場合、加熱調理に要する時間が大幅に短縮される点は、食品加工上の大きな利点である。例えば、最終的にフライドチキンやトンカツなどの惣菜を製造する場合に、本発明のシステムで加工された食材を用いれば、揚げ時間を通常の加熱時間の半
【0166】
分以下の、0.5分~2分、典型的には0.5分~1分に短縮することができ、揚げ油の寿命が3~5倍に延長されるという、高い経済効果が得られる。
【0167】
本発明の食品加工用システムは、ほぼ全体を自動運転することができ、高温高圧の加熱や電子レンジ加工のような高エネルギー処理を要しない。このため、本発明のシステムは低コスト運転が可能である。
【0168】
本発明のシステムは、加温と冷却との工程を一定の速度で行う機能を備え、そのため、効率よく大量の食材に均一に効果を付与する処理を行うことができる。例えば、ある実施形態において、本発明のシステムは、1日8時間の稼働によって、10トンの食材を処理することができる。本発明のシステムの設定および/または構成を改変することによって、この処理量を変化させることができる。例えば、搬送部の搬送速度、加温部の温度、冷却部の温度の設定を変更することによって、処理量を変化させることができる。また、例えば、投入口を3倍まで広げれば、1日8時間の稼働によって、30トンの食材を処理することができる。
【0169】
さらに、本発明を殺菌方法として用いる実施形態においても、加温工程で中心部まで45℃~90℃の範囲に加温されるため、食材内部では食材の劣化・熟成をひきおこす酵素が失活する。失活した酵素は再び活性化することがないため、本発明の殺菌処理がほどこされた時点で食材の熟成・老化がほぼ停止する。
【0170】
本発明の加温工程の加温は通常の加熱調理よりも極めて穏やかであり、食材の細胞を破壊することはない。冷却工程の急速冷却では食材の内部まで凍結させない条件で食材を冷却することができる。このため、本発明の殺菌方法では、生鮮食材の硬さや弾力性、形状を損なうことなく殺菌することができる。こうして本発明の殺菌方法で処理された食材は、未処理のカットされた食材に比べて極めて長い期間、衛生的で、汁の浸み出し(ドリップ)がほとんど無く、形くずれや変色の無い状態に維持される。
【0171】
本発明は、一部の実施形態において、従来は新鮮さが要求される食材の殺菌に不可欠と考えられてきた殺菌剤や大量の水、洗浄水の処理装置を一切使用せずに、2段階の温度管理という単純な手段によって、食品衛生上問題無いレベルまで食材を殺菌することのできる、画期的な方法と装置を提供する。このような本発明の食材の殺菌方法、得られる殺菌済み加工食材は、生産者にも消費者にも理解を得やすい。
【0172】
本発明の殺菌システムの運転に必要な人員はごくわずかである。スチーム加温器の内部温度、内部湿度、通水量、蒸気などの熱媒介物質放出量、ファンの回転数、フリーザーの温度、食材の搬送速度などの各部位の運転条件を装置の外部にある管理区域で監視・調節することができ、人間が食材や機器を直接操作する必要はほとんど無い。管理区域では、予め登録された最適値と時々刻々入力される実測値との隔たりが算出、評価され、警告表示や各条件の調整などが自動的に行われる。したがって、本発明の殺菌システムをわずかな人員によって24時間連続運転することができる。しかも、本発明のシステムの運転には熟練者を必要としない。このため、システムの設置場所を問わず、安定的に大量の食材を殺菌処理することができる。
【0173】
驚くべきことに、上述の加温工程で、食品の表面に蒸気などを当てながら食品の表面から中心部まで45℃~90℃の範囲に温度上昇させることによって、食材の灰汁抜きも行うことができる。例えば生食に向かないと言われるほうれん草やごぼうなどの野菜に本発明の殺菌方法を施すと、ほうれん草やごぼうの硬さを維持したまま、特有の苦味、雑味が除かれる。同様に、果物の皮に特有の苦味、雑味も除去することができる。結果的に、本発明の殺菌方法を施された食材では、未処理品が示す好ましい甘みや酸味、香りが強調されたものとなる。このように、本発明の殺菌方法によって、食材の保存性を向上すると同時に、食材の風味を改善することができる。
【0174】
さらに、本発明のシステムまたは方法は、酵素を失活させる事で、食材の完熟状態を保つこともできる。従来の野菜(特に果菜)や果物の流通においては、成長の途中で収穫し、販売者が消費者に提示する段階で熟した状態になるようにして、完熟食材としての販売が行われていた。自然の状態で完熟した生鮮品の流通は、非常に例外的なものであって高いコストを伴って行われており、完熟食材として販売されているものの多くは単純に経時変化を利用した置き熟れである。本発明のシステムまたは方法を利用すれば、自然の状態で完熟した食材の完熟状態を保つことができ、そのような食材を高いコストを伴わずに流通させることができる。
【0175】
本発明の食材加工システムは、味覚、コスト、保存性のいずれもが向上した惣菜を製造できる、画期的なシステムである。本発明によって、消費者の貪欲な嗜好を刺激し満足させることのできる、生食用食材にも無く加熱調理済み食材にも無い「第三の味」を持つ加工食品や販売用惣菜を提供することができる。本発明は、外食産業、小売店、給食業に全く新しい商機を提供することのできる、革命的な技術と言える。しかも、本発明のシステムによって、衛生性が格段に向上した加工食材を製造できるため、加工食品産業における食材の歩留まりを画期的に向上する。このため、本発明のシステムは、加工食材や調理済み食品を用いる小売業界や外食産業にも大きく貢献すると期待される。
【0176】
本発明は、加温工程で、45~90℃という比較的低温の中間温度帯で加熱することを特徴の一つとする。上記加熱条件は、伝統的な調理方法では「不完全」な処理として忌避されてきた。例えば、加熱においては「十分に火を通す」、「煮込むことでまろやかに仕上げる」が模範とされてきたし、生食においては野菜や果物の「もぎたて」が推奨され、魚介では「活き締め」や「洗い」、「踊り」のような一切の加熱をしない処理が理想とされてきた。ところが、以下の実施例などが示すように、本発明の加工方法では上記加熱条件が、加熱調理された食材にも、生食用の食材にも無い、独特な食感と味を食材にもたらす要因となっていると考えられる。本発明では、従来は否定されてきた食材加工操作を、既成概念にとらわれることなく実行した結果、思いがけない成果を得た。本発明はいわゆる逆転の発想に立つ画期的な技術である。
【0177】
本発明の食材加工システムによって得られる食材は、新鮮な食材の特徴が保たれ、味や食感に優れ、栄養面でも優れ、そのまま食べられるかあるいは短時間で調理が可能な、利便性の高いものである。したがって、消費者への貢献は大きい。本発明の加工食材によって、現代生活について指摘されている栄養上、口腔衛生上、公衆衛生上の各種の問題点が解消できると考えられる。
【0178】
さらに、本発明によって得られる加工食材を利用すれば、従来は非可食と考えられていた食材の部分も活用することができ、調理時間を短縮することができ、しかも、調理用油や高熱費などのコストを削減することができる。このような本発明の加工食材は、外食産業、給食産業、惣菜製造産業、スーパーマーケットなどの小売業等に、大きく貢献する。
【0179】
本発明によって得られる加工食材は、従来は加工や販売に適さないと考えられていた品種や等級の食材の食感や味を向上させることができる。このため、従来、消費者の嗜好に応えるために野菜や果物、魚、肉などの生産者に厳しく課されてきた品種選択や栽培管理が不要となる可能性がある。このため、生産者は従来よりも低コストで消費者に満足される食材を大量に生産することができる。こうして生産者は、安価な輸入食材に十分に対抗できる製品を生産することができると期待される。
【0180】
このように、本発明の食材加工方法および該方法で得られる加工食材は、食材の消費者、加工者、生産者のいずれにも貢献できる、画期的な技術である。本発明は食品市場の動静にも影響を与える可能性がある。
【0181】
また、本発明によって、低コストで安定的に大量の食材を殺菌することのできる食材殺菌法も提供される。このような本発明の殺菌法は、食材加工コストの大幅な低下をもたらし、また加工食材の廃棄量も減らすことができる。このような本発明のシステムは食品加工業界に革新的な飛躍をもたらすと期待される。
【0182】
本発明のシステムによって加工された加工食材には、食品衛生上問題がないレベルの衛生性が備わるだけでなく、生鮮食材が備える好ましい食感のみが凝集されている。このような本発明により得られる加工食材は、そのまま利用されるサラダ材料として、あるいは各種惣菜の素材として、広範な食品商品に利用することができる。このような保存性と風味が改善された加工食材は、食の安全や調理の簡素化を求める消費者にとって歓迎される商品として期待される。
【0183】
結果的に、本発明によって、農産物の利用効率も向上できると期待される。すなわち、従来は廃棄されていた規格外品、余剰収穫品、あるいは長期保管に適さない完熟品を、低コストで消費者に好まれる商品に加工することが可能となる。したがって、本発明は、農業、農産物の加工産業、流通業、小売業、飲食業、消費者のいずれにも利益をもたらす画期的食材加工技術として注目すべきものである。
【実施例0184】
(実施例1)
[野菜の加工例]
野菜類の新鮮な市販品を洗浄し、必要に応じてカットした。これらを本発明の食材加工システムを用いて加温したものと、何の処理もしなかったものとの食感を比較した。結果を表1に示す。
【表1】
【0185】
表1に示すように、本発明のシステムで加工した野菜は新鮮物に特有の歯触りや外観を維持しつつ、味覚が向上している。
(実施例2)
[野菜の加工品とその評価]
(1)加工
【0186】
食材として、キャベツ、白菜、玉ねぎ、もやし、ほうれん草、きゅうり、しめじ、じゃがいも、ごぼう、れんこん、トマト、プチトマトを用いた。(前処理工程)各食材を水洗いして、表2、表3に示すように、所定の形状に切り分けた。(加温工程)前処理工程に続いて各食材を表2、表3に示す条件で蒸気加熱処理した。(冷却工程)加温工程を経た各食材を内部温度が-20℃に保たれたトンネルフリーザーで2分間冷却した。
(2)評価
【0187】
冷却後の各食材を調味料なしで試食して味や食感を以下の4段階で評価した。評価結果を表2、表3に示す。
A判定:特に良い。B:良い。C:悪い。D:特に悪い。
【0188】
(1)の各食材について蒸気加熱条件を変えて加工し、(2)と同様に評価した。条件と結果を表2、表3に示す。
【表2】
【表3】
[トマトの加工品と未加工品との比較]
【0189】
収穫直後のトマト2個のうち、1個を上記の条件で加工し、他方の1個には何の処理もしなかった。加工したトマトと未加工のトマトを4日間、室温に置いた。その後、それぞれを半分に切って、切り口を比較した。写真を
図13(加工品)、
図14(未加工品)に示す。加工品ではトマトの細胞が壊れておらず、全体にわたって劣化が抑えられていることが分かる。
[ミニトマトの加工品と未加工品との比較]
【0190】
収穫直後のミニトマト2個のうち、1個を上記の条件で加工し、他方の1個には何の処理もしなかった。加工したミニトマトと未加工のミニトマトを4日間、室温に置いた。その後、それぞれをフォークでつぶして、汁の量を比較した。写真を
図15(加工品)、
図16(未加工品)に示す。加工品では水分が失われておらず、新鮮な状態が維持されていることが分かる。
【0191】
上述の結果から、本発明の食材加工方法によって、食材に新鮮さが残されたまま、食材の味や食感が向上することが分かる。本発明の加工食品は、新鮮な食材の長所と、加熱調理された食材の長所とを兼ね備えた画期的な食品である。
(実施例3)
[さらなる食材の加工例]
【0192】
その他にも、本発明のシステムを用いて、食感・食味の良い加工食材が得られた組み合わせとしては、以下の条件が挙げられる(表4)。
【表4-1】
【表4-2】
(実施例4)
[調理済み食品の製造の例]
【0193】
以下のように、様々な食材を本発明のシステムで加工し、そのまま、あるいは調理して、食感を評価した。いずれの場合も、本発明のシステムを用いて、内部温度が70~75℃の範囲に保たれミスト状の蒸気で満たされた(2)加温部(蒸器)にて3分~4分かけて加温し、(3)冷却部(トンネルフリーザー)で2分半~3分かけて食材中心部温度が2℃になるまで冷却した。得られた加工済み食材を室温に戻した後、試食あるいは次の調理に用いた。
[きのこサラダの製造]
【0194】
市販のえのきだけの石付き部分を除去し、本発明のシステムで加工した。加工済みえのきだけに瓶詰えのきだけ用調味液をかけてキノコサラダを製造した。生鮮品よりも滑らかで柔らかく、キノコの香りが増していた。瓶詰えのきだけには無い魅力的な食感と香りを楽しむことができた。
[タラバガニ剥き身の加工]
【0195】
タラバガニのむき身を、本発明のシステムで加工した。甘みと旨味が強く感じられ、蒸したカニ肉や茹でたカニ肉のような、カニ身の繊維が無く、滑らかな食感であった。生鮮品に特有のべたつきや生臭さは感じられなかった。生食用カニ肉にも、加熱したカニ肉にも無い、珍しい食感を楽しむことができた。
[鶏肉唐揚げの製造]
【0196】
本発明のシステムを用いて、一口大にカットした鶏肉を加工した。ただし、調整部で醤油と酒をベースとした調味液に浸漬した。得られた加工済み鶏肉を油で揚げて鶏肉のから揚げを製造した。必要な揚げ時間は約1分であった。得られた唐揚げは弾力性があり、ジューシーで、味が肉の中心部まで均一に浸みこんでいた。油汚れが通常よりも少なく、油交換までの期間が5倍に延長した。
[トンカツの製造]
【0197】
本発明のシステムを用いて、一口大にカットした豚ヒレ肉を加工した。得られた加工済み豚ヒレ肉に通常のトンカツ用衣をつけて油で揚げてトンカツを製造した。必要な揚げ時間は約1分であった。得られたトンカツは弾力性があり、ジューシーで、ヒレ肉特有のパサパサした感触がなかった。油汚れが通常よりも少なく、油交換までの期間が5倍に延長した。
[サイコロステーキの製造]
【0198】
本発明のシステムを用いて、一口大のサイコロ状にカットした牛モモ肉を加工した。得られた加工済み牛肉をフライパンで転がしながら焼いた。必要な焼き時間は約1分であった。得られたサイコロステーキは弾力性があり、ジューシーで、サーロインステーキのような味わいだった。
(実施例5)
[サラダキムチの製造例]
【0199】
加工ライン1で、白菜を洗浄、カットし、70℃に保温された加温部で4分間蒸気加熱し、内部温度-20℃の冷凍庫内で2分間冷却した。同時に、加工ライン2で、もやしを洗浄し、65℃に保温された加温部で7分間蒸気加熱し、内部温度-20℃の冷凍庫内で2分間冷却した。加工ライン1からの冷却済み白菜と、加工ライン2からの冷却済みのもやしとを混合し、混合物にキムチたれを加えて撹拌した。こうして白菜ともやしのサラダキムチが完成した。
[サラダキムチの衛生検査]
【0200】
上述の方法で得られたサラダキムチを4℃で保存し、完成直後のもの、保存から7、14、21、28日を経たものについて、ペトリフィルム法により一般性菌数と大腸菌群の生育数を検査した。結果を表5に示す。表5の結果から、サラダキムチを衛生的に問題が無い状態で長期保存できることが分かる。通常の店頭販売用キムチサラダでは、1週間程度で廃棄しなければならない、しかし、表5に示すように、本発明のシステムを用いたキムチサラダは3週間以上衛生的に安全な状態にある。次亜塩素酸を用いる従来の殺菌方法に
よると、殺菌直後の一般生菌数がおよそ1×10
3~1×10
4cfu/gであり、3~4日後には1×10
5~1×10
6cfu/gであることに鑑みると、表5の試験結果から、本発明の食材加工方法は、殺菌機能も併せ持つことが分かる。本発明の加工食品は安全性にも優れる画期的な食品である。
【表5】
(実施例6)
[さらなる加工食材の保存性]
【0201】
以下で、本発明のシステムによって製造された加工食材の保存性をさらに例証する。
[人参の殺菌]
【0202】
千切り人参10kgをベルトコンベアで搬送しながら、内部温度が70℃に保たれた加温部で5分間加温し、続いて冷却部(トンネルフリーザー)内を2分間通過させてチルド状態(0℃~1℃)に冷却し、トンネルフリーザーから取り出した。この殺菌済み人参を試食したところ、硬さと弾力は生の千切り人参(殺菌しないもの)と差がなかったが、甘みが増していた。
【0203】
トンネルフリーザーから取り出した人参をクリーン環境でポリ袋に小分けして密閉し、10℃で保管した。保管開始から10日後のポリ袋を開封して人参表面を洗浄液についてペトリフィルム法により一般生菌数と大腸菌群数を測定した。一般生菌数は1.1X104cfu/g(mL)、大腸菌群数は陰性(10未満)であった。この結果は、非加熱で摂食する冷凍食品に求められる基準:一般生菌数1.0X105cfu/g(mL)以下、大腸菌群陰性を満たしていた。また開封時にドリップ、形くずれ、変色はほとんど見られなかった。
[キャベツの殺菌]
【0204】
上記例の千切り人参を千切りキャベツに替えて同じ操作を行った。殺菌済みキャベツを試食したところ、硬さと弾力は生の千切りキャベツと差がなかったが、生の千切キャベツで感じられた灰汁味が減っていた。殺菌処理から10日後の一般生菌数は0.67X104cfu/g(mL)、大腸菌群数は陰性(10未満)であった。この結果は、非加熱で摂食する冷凍食品に求められる上記基準を満たしていた。開封時にドリップ、形くずれ、変色はほとんど見られなかった。
[しめじの殺菌]
【0205】
上記例の千切り人参をしめじに変更して同じ操作を行った。しめじは石づきを取り除いて房をほぐし軽く水洗いしたものを用いた。殺菌済みのしめじを試食したところ、しめじ特有の芳香が増していた。適度な硬さと弾力も感じられた。殺菌処理から10日後の一般生菌数は0.3X104cfu/g(mL)、大腸菌群数は陰性(10未満)であった。この結果は、非加熱で摂食する冷凍食品に求められる上記基準を満たしていた。開封時にドリップ、形くずれ、変色はほとんど見られなかった。
【0206】
これに対して、現行のカット野菜やカットフルーツと呼ばれる商品は、出荷後2、3日以内にドリップ、形くずれし、変色が進行して商品価値を失う。これらの商品を店頭で販売、あるいは飲食店で利用できる期間は、入荷後1~2日にすぎない。
[ネギの殺菌]
【0207】
ネギを食材として用いて、70~75℃の温度で1.5分加温し、冷却時間は約2~3分として、加工した。ネギの殺菌についての試験結果(ビューローベリタスジャパン株式会社)を、以下の表6に示した。驚くべきことに、処理直後の段階で、大腸菌数が陰性であることに加えて、一般生菌数が300cfu/g未満であった。薬剤(次亜塩素酸またはオゾン)を使用する一般的な殺菌方法では、処理段階直後で10
4cfu/g(mL)
が限界で、10
4cfu/g(mL)を安定的に生産する事はほぼ不可能であり、一般生
菌数300cfu/g未満まで低下させる本発明の優れた殺菌機能が明確に示された。10℃の保管であっても、7日目まで大腸菌数は陰性を維持し、本発明のシステムによって加工されたネギの良好な保存性が示された。
【表6】
【0208】
検査方法は食品衛生検査指針(微生物編)に準拠して行った。一般生菌数は標準寒天平板培養法により、大腸菌群はBGLG培地法により測定した。
【0209】
また、次亜塩素酸やオゾンを用いる従来の殺菌処理では、ネギのゼラチン質が取られてしまうため、ネギの味質が落ちる。他方、本発明の加工システムを用いると、加工後にもネギのゼラチン質が残るので、味質が優れている。
(実施例7)
[システムの最適条件の検討]
【0210】
実施例1~6は、本発明の好ましいシステムを用いて行った。この好ましいシステムは、食材を加温する加温部と、加温部によって加温された食材を冷却する冷却部と、加温部および冷却部を通って食材を搬送する搬送部とを備え、搬送部の下に設けられた加温機構から蒸気が下向きに噴出し、舟形の底部によって対流するものであった(
図3)。搬送部としては網目状のベルトコンベアを用いた。加温部の投入口に近い蒸気噴出口からは、加温部の出口に近い蒸気噴出口と比較して多くの蒸気を噴出させ、投入された食材を速やかに目的温度に上昇させた。加温部の上部および横部にはファンが備えられており、送風を行って加温部内に対流を積極的に生じさせ、それによって食材に常に目的の温度の蒸気が接するようにした。冷却部においてもファンを設け、冷気を直接的に食材に当てて、食材の冷却を速やかに行った。
【0211】
加温機構として蒸気を通すパイプを用いて、噴出孔から放出される蒸気を搬送部の上から直接食材に吹き付けるようにして食材の加温(直接的な加温)を行った。この場合、上記の好ましいシステムと比較して、新鮮な食感が失われ柔らかくなってしまった食材も得られた。直接的な加温では中間温度帯の制御が困難であり、食材の芯温が過度に上昇してしまったことが原因であると考えられる。したがって、上記の好ましい構成によってより均一な加工が達成されることが明らかになった。
【0212】
また、加温部において、ファンを作動させずに食材の加工を行った。この場合、意図した加工が行われた食材も得られたが、食材ごとに加温部内での加温のされ方にムラが生じ、結果として得られた加工食材は、新鮮な食感が維持されているものから、灰汁の抜け方が不十分であるもの、柔らかくなっているものまで若干のばらつきが生じた。したがって、上記の好ましい構成によってより均一な加工が達成されることが明らかになった。
【0213】
続いて、冷却部において、ファンを作動させずに食材の加工を行った(すなわち、間接的な冷却)。同じ時間でファンを作動させて冷却を行った場合と比較して、冷却部から出てきた食材の温度が適切に低下し切っていない場合が見られ、その後の作業において、菌の増殖する可能性があった。したがって、殺菌効果を考えると、ファンによって積極的に冷却を行う構成がより好ましいことが明らかになった。
【0214】
さらに、加温部において、加温部の投入口に近い蒸気噴出口と、加温部の出口に近い蒸気噴出口とでの蒸気の噴出量を一定とした。この場合、意図した加工が行われた食材も得られたが、食材が所望の温度になるまでに時間がかかり、灰汁の抜け方が不十分である食材も若干得られた。したがって、上記の好ましい構成によってより均一な加工が達成されていることが明らかになった。
【0215】
最後に、熱媒介物質をマイクロミストまたはクラスターエアーにして食材の加工を試みた。蒸気を用いる場合と比較して、マイクロミストを用いて加温を行うと、加温後に加工食材の表面に付着する水分量が明らかに減少し、クラスターエアーを用いた場合にはさらに減少した。食材表面の水分は微生物付着のリスクに直結するので、蒸気と比べてマイクロミスト、さらにはクラスターエアーを用いて加温を行うことには明確なメリットがある。
本発明のシステムによって、食味、保存性、衛生性などが格段に向上した加工食材を製造できるため、加工食品産業において利用可能である。また、本発明のシステムは、加工食材や調理済み食品を用いる小売業界や外食産業にも大きく貢献すると考えられる。