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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145843
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20220926BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L77/00
C08K5/29
C08K5/36
C08K5/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126944
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2018161479の分割
【原出願日】2018-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】古田 円
(57)【要約】
【課題】柔軟性及び機械的強度を損なうことなく、耐熱老化性に優れたポリエステル系の
熱可塑性エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル系エラストマーAと、該熱可塑性ポリエステル系エラ
ストマーA 100質量部に対して、ポリアミド系樹脂B 0.1~40質量部、カルボジイミド化
合物C 0.1~10質量部、及び酸化防止剤D 0.1~10質量部を含有してなる熱可塑性エラス
トマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAと、該熱可塑性ポリエステル系エラストマーA
100質量部に対して、ポリアミド系樹脂B 0.1~40質量部、カルボジイミド化合物C 0.1
~10質量部、及び酸化防止剤D0.1~10質量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成
物。
【請求項2】
酸化防止剤Dが芳香族アミン系酸化防止剤を含有する、請求項1記載の熱可塑性エラス
トマー組成物。
【請求項3】
酸化防止剤Dがさらにイオウ系酸化防止剤を含有する、請求項2記載の熱可塑性エラス
トマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨
用品等の各種成形品に使用される熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、成形性に優れ、機械的強度が高く、耐油性の
高い材料であり、自動車部品、電気・電子部品、繊維及びフィルム等に広く用いられてい
る。しかし、その一方でポリマー主鎖にエステル結合を含むことから、加水分解を受けや
すいことと共に、高温雰囲気で使用した場合に酸化劣化が起きやすく、比較的短時間で強
度や伸び等の性能が低下する、「熱老化」と呼ばれる現象が起きやすいことも知られてお
り、実用上の課題となっている。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1には、ポリエーテルエステルブロック共重合体に
、ポリアミド系樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤お
よび/またはリン系酸化防止剤を併用することにより、熱安定性と成形品の外観とに優れ
た組成物が得られることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエーテルエステルブロック共重合体に、カルボジイミド化
合物と、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤および/または芳香族アミン系酸化防止剤を
併用することにより、140℃における耐熱老化試験後の物性の保持率及び耐加水分解性
が良好であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-173059号公報
【特許文献2】特開2001-342331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーが熱老化しやすいという課題に対して、特許文献
1のようにポリアミド系樹脂と特定の酸化防止剤や、特許文献2のようにカルボジイミド
化合物と特定の酸化防止剤を組み合わせて用いる等、様々な安定剤が試みられているがそ
の効果は十分ではなく、より効果の高い安定剤が求められる。
【0007】
本発明の課題は、柔軟性及び機械的強度を損なうことなく、耐熱老化性に優れたポリエ
ステル系の熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーAと、該熱可塑性ポリエステル系エラ
ストマーA 100質量部に対して、ポリアミド系樹脂B 0.1~40質量部、カルボジイミド化
合物C 0.1~10質量部、及び酸化防止剤D 0.1~10質量部を含有してなる熱可塑性エラス
トマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性及び機械的強度を損なうことなく、耐
熱老化性に優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA、ポ
リアミド系樹脂B、カルボジイミド化合物C、及び酸化防止剤Dを含有するものである。
熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む熱可塑性エラストマー組成物に、ポリアミド
系樹脂と特定の酸化防止剤、又はカルボジイミド化合物と特定の酸化防止剤を配合するこ
とにより、耐熱老化性を向上させることは従来試みられているが、本発明は、ポリアミド
系樹脂とカルボジイミド化合物を併用した場合に、熱可塑性ポリエステル系エラストマー
の耐熱老化性を著しく向上するという効果が奏されるという新規な知見を見出し、完成す
るに到ったものである。
【0011】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAは、柔軟性及び成形性の観点から、ハードセグ
メントとソフトセグメントとを有するものが好ましい。
【0012】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーのハードセグメントとしては、芳香族ポリエステ
ルブロックが好ましい。
【0013】
芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,
6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテル
ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、そのア
ルキルエステル、及び無水物の1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリ
コール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコー
ル等の炭素数2~6のアルキレングリコールの1種又は2種以上との重縮合体である結晶性ポ
リエステルブロックであることが好ましい。
【0014】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントとしては、ポリエステル型ポ
リマーブロック、ポリエーテル型ポリマーブロック、ポリカーボネート型ポリマーブロッ
ク等が挙げられ、これらの中では、柔軟性の観点から、ポリエーテル型ポリマーブロック
が好ましい。
【0015】
ポリエステル型ポリマーブロックとしては、ポリカプロラクトン、ポリエナンラクトン
、ポリカプリロラクトン、脂肪族ジカルボン酸化合物と脂肪族ジオールの縮合反応等より
形成されたポリアルキレンエステル等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸化合物と脂肪族
ジオールの縮合反応等より形成されたポリアルキレンエステルとしては、ポリブチレンア
ジペート等が挙げられる。
【0016】
ポリエーテル型ポリマーブロックは、脂肪族ポリエーテルブロックが好ましく、主とし
てポリアルキレンエーテルグリコールからなるものがより好ましい。
【0017】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAにおけるハードセグメントとソフトセグメント
の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、耐熱老化性の観点から、好ましく
は20/80~80/20、より好ましくは30/70~70/30である。
【0018】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAのD硬度は、熱可塑性エラストマー組成物の柔
軟性の観点から、好ましくは15~90、より好ましくは25~80、さらに好ましくは45~70で
ある。
【0019】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAの融点は、耐熱性の観点から、好ましくは130
~240℃、より好ましくは140~230℃、さらに好ましくは150~225℃である。
【0020】
本発明の組成物中の熱可塑性ポリエステル系エラストマーAの含有量は、好ましくは30
~99質量%、より好ましくは50~97質量%である。
【0021】
ポリアミド系樹脂Bは、組成物の耐油性と耐熱老化性の向上に有効であり、ポリアミド
系樹脂Bとしては、ポリアミド樹脂、ポリアミドブロックを有するポリアミド系ブロック
共重合体等が挙げられる。
【0022】
ポリアミド樹脂は、分子鎖中にアミド結合を有する高分子化合物であり、ラクタム類の
重合体、ω-アミノカルボン酸の重合体、ジアミン類とジカルボン酸との反応により得ら
れる塩の重合体等が挙げられる。
【0023】
ラクタム類としては、プロピオラクタム、α-ピロリドン、ε-カプロラクタム、エナ
ントラクタム、ω-ラウロラクタム、シクロドデカラクタム等が挙げられる。ω-アミノ
カルボン酸としては、アミノカプロン酸、6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、9-
アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。ジアミ
ン類としては、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジア
ミン、ピペラジン等が挙げられる。ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、
アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、グルタール酸等が挙げられ、こ
れらの無水物やアルキルエステル等であってもよい。
【0024】
ポリアミド樹脂は共重合体であっても、異なる重合体を2種類以上組み合わせて使用し
てもよいが、本発明においては、耐熱老化性の観点から、2元又は3元以上の共重合体(共
重合ポリアミド樹脂)が好ましい。
【0025】
ポリアミド系ブロック共重合体はポリアミド系エラストマーとも呼ばれるもので、ハー
ドセグメント(X)として、炭素数6以上のアミノカルボン酸、ラクタム、又はm+nが1
2以上のナイロンmn塩等からなるポリアミドブロックと、ソフトセグメント(Y)とし
て、ポリエーテルブロックから構成されるものが好ましい。ここで、XとYの質量比(X
/Y)は、95/5~5/95範囲が好ましい。
【0026】
炭素数6以上のアミノカルボン酸としては、ω-アミノカプロン酸、ω-アミノエナン
酸、ω-アミノカプリル酸、ω-アミノベルゴン酸、ω-アミノカプリン酸、11-アミノ
ウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。ラクタムとしては、カプロラクタ
ム、ラウロラクタム等が挙げられる。ナイロンmn塩としては、ナイロン6,6、ナイロン6
,10、ナイロン6,12、ナイロン11,6、ナイロン11,10、ナイロン12,6、ナイロン11,12、ナ
イロン12,10、ナイロン12,12等が挙げられる。
【0027】
好ましいポリアミドブロックは、組成物の耐熱老化性の点から、ナイロン6、ナイロン6
,6、及びナイロン12であり、ナイロン12がより好ましい。
【0028】
また、ポリエーテルブロックとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-
)プロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサ
メチレンエーテルグリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール、エチレンオキシド
とプロピレンオキシドとのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒ
ドロフランとのブロック又はランダム共重合体等が挙げられる。また、ソフトセグメント
(Y)として、ビスフェノールA、ヒドロキノン等の2価フェノールを含有したものも使
用することができる。このうち好ましいソフトセグメント(Y)は、相溶性の点から、ポ
リテトラメチレンエーテルグリコールである。これらのソフトセグメント(Y)のゲルパ
ーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは20
0~6,000、より好ましくは250~4,000である。
【0029】
本発明において、ポリアルキレンエーテルグリコールの両末端は、アミノ化又はカルボ
キシル化されていてもよい。ポリアミドブロックとポリアルキレンエーテルグリコールブ
ロックとの結合は、各成分の末端基に対して、エステル結合又はアミド結合であることが
できる。また、このような結合を形成する際に、ジカルボン酸やジアミン等の第3成分を
添加することもできる。
【0030】
ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、メタキシリレ
ンジアミン等の脂肪族ジアミン、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる
【0031】
ポリアミド系ブロック共重合体におけるポリアミドブロックの含有量は、好ましくは20
~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40質量%以上60質量
%以下である。また、ポリエーテルブロックの含有量は、好ましくは20~80質量%、より
好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。
【0032】
本発明では、熱可塑性ポリエステル系エラストマーAが芳香族ポリエステルとポリエー
テルのブロック共重合体である場合、ポリアミド系樹脂Bとしては、耐熱老化性の観点か
ら、ポリアミド系ブロック共重合体よりも共重合ポリアミド樹脂が好ましく、ジアミンが
ピペラジンのように2級アミンである複素環系ジアミンとジカルボン酸との共縮合反応に
より得られるピペラジン系共重合ポリアミド樹脂がより好ましい。なお、ポリアミド系樹
脂Bのアルコールに対する溶解性は、可溶性であっても不溶性であってもよい。
【0033】
ポリアミド系樹脂Bの含有量は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質量部に
対して、0.1~40質量部であり、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~10質量部で
ある。
【0034】
本発明の組成物中のポリアミド系樹脂Bの含有量は、好ましくは0.5~50質量%、より
好ましくは2~20質量%である。
【0035】
カルボジイミド化合物Cは、式(I):
【0036】
【化1】
【0037】
(式中、n個のRはそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1~18の2価の脂肪族炭化水素基
、炭素数3~12の2価の複素環基、炭素数6~14の2価の芳香族炭化水素基、炭素数3~13の2
価の脂環式炭化水素基、又は末端水酸基であり、nは1~15の整数である)
で表される構造を有し、カルボン酸と反応して架橋反応することができる。
【0038】
式(I)において、nが1のものとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロ
ピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
の他、BEC(1-t-ブチル-3-エチルカルボジイミド)、CMC(1-シクロヘキシル-3-(2
-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナート)等の略称で知られる
ものが挙げられる。
【0039】
式(I)において、nが2以上のものとしては、ポリカルボジイミドと呼ばれる線状ポリマ
ーが知られており、Rが脂肪族基である脂肪族ポリカルボジイミドと、Rに芳香族基を有
する芳香族ポリカルボジイミドとに大別される。脂肪族ポリカルボジイミドの方が芳香族
よりも反応性が高いので好ましく、また分枝状よりも線状の方が反応性が高いので好まし
い。ポリカルボジイミドの重量平均分子量は、安全性や扱いやすさの観点から、好ましく
は100~100,000、より好ましくは500~10,000である。
【0040】
カルボジイミド化合物Eは、例えば、適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加
熱して脱炭酸反応させて、カルボジイミド結合基を形成することにより製造することがで
き、カルボジイミド結合基の生成は、2260cm-1のイソシアネ-ト基の吸収ピ-クの消失、
及びカルボジイミド結合基の吸収ピ-クの生成によって確認することができる。また、カ
ルボジイミド化合物Eは、上記の基本的な製造方法の他、例えば、米国特許第2,941
,956号、特公昭47-33279号公報、特開平5-178954号公報、特開平7
-330849号公報等に開示されている方法や、J.Org.Chem.,28,20
69(1963)、Chem.,Review81,619(1981)に記載されてい
る方法等でも製造することができる。さらに、特開平5-178954号公報、特開平6
-56950号公報等に開示されている様に無溶媒下でも行うことができる。
【0041】
カルボジイミド化合物Eの市販品としては、日清紡ケミカル社製のカルボジライトシリ
ーズが知られており、中でもカルボジライトHMV-15CAは、脂肪族カルボジイミドの線状ポ
リマーで、末端のイソシアネート基を封止したものであり、本発明には好適である。一方
、芳香族ポリカルボジイミド化合物の市販品としては、スタバクゾールPや、スタバクゾ
ールP-400、スタバクゾールI(以上、ラインケミー(株)製)等が知られている。
【0042】
カルボジイミド化合物Cの含有量は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質量
部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.2~8質量部、より好ましくは0.3~5質
量部である。
【0043】
本発明の組成物中のカルボジイミド化合物Cの含有量は、好ましくは0.01~9質量%、
より好ましくは0.02~5質量%である。
【0044】
本発明における酸化防止剤Dとしては、耐熱老化性の観点から、芳香族アミン系酸化防
止剤が好ましい。
【0045】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、フェニルナフチルアミン、4,4’-ジメトキシジフ
ェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4-イソプロ
ポキシジフェニルアミン等が挙げられ、これらの中では、芳香族第2級アミン化合物が好
ましく、ジフェニルアミン系化合物がより好ましい。
【0046】
芳香族アミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防
止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0047】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2
,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ヒドロキシメチル-2,6-ジ-
t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,5-ジ-t-ブチル-4-
エチルフェノール、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-4
-メチル-6-t-ブチルフェノール、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール
)、4,4’-メチレン-ビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ
-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール
)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-t-
ブチル-3-メチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)ス
ルフィド、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6
-t-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル
)-4-メチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸ジエチルエ
ステル、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ジ(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチル-ジ
フェニルメタン、α-オクタデシル-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)
プロピオネート、6-(ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチル-チオ-
1,3,5-トリアジン、ヘキサメチレングリコール-ビス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキ
シフェノール)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒ
ドロキシヒドロ桂皮酸アミド)、2,2-チオ[ジエチル-ビス-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒド
ロキシフェニル)プロピオネート]、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゼンホスホン酸
ジオクタデシルエステル、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェ
ニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-
ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-ジ-t-ブチル
フェニル)ブタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート
、トリス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル-オキシエチル]
イソシアヌレート等が挙げられ、これらの中では、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-
ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンのような分子量が500以上のもの
が好ましい。
【0048】
イオウ系酸化防止剤としては、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミ
ダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオンエステル系等のイオウを含む化合物
が挙げられ、これらの中では、チオエーテル系が好ましい。チオエーテル系酸化防止剤は
、分子構造中に少なくとも1個のチオエーテル結合を有する化合物である。具体的に、チ
オエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ジ長鎖アルキルチオジプロピオネート(ジラ
ウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート等)、
テトラキス[メチレン-3-(長鎖アルキルチオ)プロピオネート]アルカン(例えば、テ
トラキス[メチレン-3-(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン等)等が挙げられる。
なお、長鎖アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数8~20のアルキル基等が
挙げられる。これらのチオエーテル系酸化防止剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合
わせて用いることができる。
【0049】
リン系酸化防止剤としては、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物等が挙げら
れ、これらの中では、ホスファイト系化合物が好ましい。
【0050】
ホスファイト系化合物としては、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒ
ドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-
ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチ
ル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1
,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-ヒドロキシエチルカルボニルヒドラ
ジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5
’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックア
シッド-ジ-サリシロイルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(
2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-ジ(ヒドロキ
シエチルカルボニル)ヒドラジド-ジホスァイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-
メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-N,N’-ビス(ヒド
ロキシエチル)オキサミド-ジホスファイト等が挙げられるが、本発明では、少なくとも1
つのP-O結合又はP=O結合が芳香族基に結合しているホスファイト系化合物が好まし
い。かかるホスファイト系化合物としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフ
ァイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンホスフォナイト、
ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-
ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレン
ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メ
チル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ
トリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノ及びジ
-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソ
プロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル
-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン等
が挙げられる。
【0051】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤のな
かでは、イオウ系酸化防止剤が好ましく、耐熱老化性の観点から、芳香族アミン系酸化防
止剤とイオウ系酸化防止剤とを併用することが好ましい。即ち、酸化防止剤Dは、芳香族
アミン系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤とを含有することが好ましい。
【0052】
芳香族アミン系酸化防止剤の含有量は、酸化防止剤D中、好ましくは10~90質量%、よ
り好ましくは20~80質量%である。
【0053】
芳香族アミン系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤の質量比(芳香族アミン系酸化防止剤
/イオウ系酸化防止剤)は、好ましくは9/1~1/9、より好ましくは8/2~2/8である。
【0054】
酸化防止剤Dの含有量は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質量部に対して
、0.1~10質量部であり、好ましくは0.5~8質量部、より好ましくは0.7~3質量部である
【0055】
本発明の組成物中の酸化防止剤Dの含有量は、好ましくは0.1~9質量%、より好ましく
は0.2~8質量%である。
【0056】
本発明の組成物は、耐熱老化性及び柔軟性の観点から、さらに、スチレン系エラストマ
ーEを含有することが好ましい。
【0057】
スチレン系エラストマーEとしては、スチレン系単量体からなる重合体のスチレンブロ
ックと、共役ジエンからなる重合体の共役ジエンブロックとからなるブロック共重合体及
びその水素添加物が好ましい。
【0058】
スチレンブロックを構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン
、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレ
ン等が挙げられる。
【0059】
共役ジエンブロックを構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペ
ンタジエン等が挙げられる。
【0060】
ブロック共重合体は、スチレンブロック単位からなるハードセグメントと、共役ジエン
ブロック単位とからなるソフトセグメントとからなり、全体の物性を決定する観点から、
ブロック共重合体におけるスチレン系単量体単位の含有量は、好ましくは5~70質量%、
より好ましくは10~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。
【0061】
ブロック共重合体の水素添加は、一部であっても、全部であってもよいが、水素添加す
ることにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的強度が得られる。それらの
観点から、水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加率は
、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素二重結合の含有量を、水
素添加の前後において、1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることがで
きる。
【0062】
ブロック共重合体の水素添加物の具体例としては、スチレン-エチレン-ブチレン-ス
チレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体
、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-
イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリ
ル-ブタジエンゴム、ピリジン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン
-エチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イ
ソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポ
リ(α-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリイソプレン-ポリ(α-メチ
ルスチレン)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-クロロプレンゴム等が挙げら
れる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作
業性の観点から、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、
スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチ
レン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、及びスチレン-イ
ソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)からなる群より選ばれた少なくとも1種
であることが好ましい。
【0063】
スチレン系エラストマーEの含有量は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質
量部に対して、耐熱変形性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは10~1
80質量部、さらに好ましくは20~150質量部である。
【0064】
本発明の組成物中のスチレン系エラストマーEの含有量は、好ましくは0~180質量%、
より好ましくは5~70質量%である。
【0065】
本発明の組成物は、耐熱老化性及び柔軟性の観点から、さらにアクリルゴムFを含有す
ることが好ましい。
【0066】
アクリルゴムは、単量体にアクリル酸エステルが含まれる重合体であり、アクリル酸エ
ステルによりゴム弾性が付与されたものである。本発明において、アクリル酸エステルと
しては、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル等の非架
橋性モノマーが好ましく、これらの2種以上が用いられていてもよいが、アクリル酸アル
キルエステルがより好ましい。
【0067】
アクリルゴムFは、架橋点官能基を有するものを用いた場合、結晶性エラストマーの分
子末端官能基とアクリルゴムのゴム架橋点官能基との反応により生成したアクリルゴムと
結晶性エラストマーのグラフト体により強固な界面が形成され、耐熱性及び機械的強度が
さらに向上する。これらの観点から、アクリルゴムFは、架橋構造を形成するための官能
基を有していることが好ましく、かかる官能基としては、エポキシ基、カルボキシ基、活
性塩素含有基等が挙げられ、これらの中では、エポキシ基及びカルボキシ基が好ましく、
エポキシ基がより好ましい。
【0068】
従って、アクリルゴムFには、前記アクリル酸エステルに加えて、架橋構造を形成する
ための官能性単量体、例えば、非共役ジエン、カルボキシ基含有単量体、エポキシ基含有
単量体、活性水素原子含有単量体等が用いられていることが好ましい。
【0069】
非共役ジエンとしては、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン等のア
ルキリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0070】
カルボキシ基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0071】
エポキシ基含有単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジル
エーテル等が挙げられる。
【0072】
活性水素原子含有単量体としては、2-クロロエチルビニルエーテル、ビニルベンジルク
ロライド、ビニルクロロアセテート等が挙げられる。
【0073】
アクリル酸エステル及び架橋構造を形成するための官能性単量体以外の単量体としては
、例えば、アクリル酸エステルとともに共重合体にゴム弾性を付与する単量体としては、
エチレン、プロピレン、イソブテン等のα-オレフィン、ブタジエン、イソプレン、クロ
ロプレン等の共役ジエン等が挙げられる。
【0074】
その他の共重合可能な単量体としては、スチレン、低級アルキル、低級アルコキシ、ハ
ロゲン、ビニル等の置換基により置換されたスチレン、アクリロニトリル等のエチレン性
不飽和ニトリル、メタクリル酸メチル等のアルキル基の炭素数が1~8程度のメタクリル酸
アルキルエステル、メタクリル酸テトラヒドロベンジル、ジビニルベンゼン等が挙げられ
る。
【0075】
好適なアクリルゴムFとしては、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキル
エステルとエポキシ基又はカルボキシ基含有単量体との共重合体(アクリル酸アルキルエ
ステル:90~99.95モル%、エポキシ基又はカルボキシ基含有単量体:0.05~10モル%)
、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステルとエチレンとエポキシ基
又はカルボキシ基含有単量体との共重合体(アクリル酸アルキルエステル:10~89.95モ
ル%、エチレン:10~80モル%、エポキシ基又はカルボキシ基含有単量体:0.05~10モル
%)等が挙げられる。
【0076】
本発明におけるアクリルゴムFの、100℃で予備加熱1分間の後、回転開始後4分経過後
のムーニー粘度(ML1+4)は、好ましくは10~150、より好ましくは10~120、さらに好ま
しくは15~80である。ムーニー粘度は、JIS K6300により定義されており、成形性に関わ
る溶融流動性の指標として用いることができる。ムーニー粘度は組成や分子量等様々な要
因で変化するが、粘度が小さいほど溶融流動性が良くなる一方、ある程度大きい方が組成
物の強度が上がる傾向がある。
【0077】
アクリルゴムFのガラス転移温度は、好ましくは-100~10℃、より好ましくは-90~0℃
、さらに好ましくは-40~-10℃である。ガラス転移温度(Tg)は、構成する単量体成分の
ホモポリマーのTgを組成に応じて加重平均して算出する。
【0078】
アクリルゴムFの含有量は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質量部に対し
て、耐熱変形性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは10~180質量部、
さらに好ましくは20~150質量部である。
【0079】
本発明の組成物中のアクリルゴムFの含有量は、好ましくは0~80質量%、より好まし
くは5~70質量%である。
【0080】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エ
ラストマー、例えばNBR(ニトリルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴ
ム、アクリル系熱可塑性エラストマー等を含有していてもよい。
【0081】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン
、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、軟化剤、エステル化交換触媒失活剤、各種難燃
剤、架橋剤、特にはエポキシ系架橋剤、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊
維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、ステアリン酸カルシウム、ステア
リン酸亜鉛等の外滑剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、粘着付与剤、架橋助剤、熱安定剤、
光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料
等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーA、ポ
リアミド系樹脂B、カルボジイミド化合物C、及び酸化防止剤Dと、さらに必要に応じて
、スチレン系エラストマーE、アクリルゴムF等を含む原料を混合し、冷却により固化さ
せて得られる。
【0083】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず
、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混
合してもよい。
【0084】
熱可塑性エラストマー組成物は、溶融混合して得たものを直接成形体に成形して利用す
る他に、用途に応じて、最終製品として利用される成形体にする前に、いったんペレット
、粉体、シート等の中間製品とすることができる。例えば、押出機によって溶融混合して
ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレット
に切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形、プレス成形等の成形方
法によって所定のシート状成形品や金型成形品とすることができる。
【0085】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のD硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは90以
下、より好ましくは85以下、さらに好ましくは80以下であり、また、耐熱変形性の観点か
ら、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、さらに好ましく10以上である。
【0086】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより
、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形
体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なポリエステル系エラストマー、ポリオ
レフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ
アミド系エラストマー、アクリル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができ
る。
【0087】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形
材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、
射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【実施例0088】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって
なんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の
方法により測定した。
【0089】
<成分A:熱可塑性ポリエステル系エラストマー>
〔ハードセグメント(HS)/ソフトセグメント(SS)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比(HS/SS)は、核磁気共鳴装置(ドイツ
国BRUKER社製、DPX-400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3~5vol%濃度、25℃でプロ
トンNMR測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度
比から算出する。
【0090】
〔D硬度〕
JIS K 6253 タイプDにて測定する。
【0091】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/mi
nで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、
より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0092】
<成分B:ポリアミド系樹脂>
〔組成〕
塩酸を用いた加圧酸分解法で樹脂を水溶化し、乾固した後、重メタノールに溶解してbr
uker社製AVANCE III NMR装置によりプロトンNMR測定をしてピペラジン成分の含有
量を測定する。また、メタノールに溶解したものをWATERS社製AcQuity 液体クロマトグラ
フィー装置にかけ、質量分析法によりポリアミド系樹脂を構成するモノマー成分の同定、
定量を行う。
【0093】
〔D硬度〕
JIS K 6253-3タイプDに準拠して測定する。
【0094】
〔融点〕
試料約10mgをアルミパンに入れてアルミ蓋を圧着する。アルミパンを示差走査熱量分析
計(パーキンエルマー社DSC8000)の装置測定部に設置し、JIS K 7121で規定される方法
に準拠して空気中・昇温速度20℃/分の条件で測定する。
【0095】
<成分C:ポリカルボジイミド>
〔重量平均分子量〕
カルボジイミド化合物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、マイクロフィルター
でろ過したものを、THFを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(G
PC)にかけ、ポリスチレン標準物質の保持時間を基に重量平均分子量を決定する。
【0096】
実施例1~15及び比較例2~10
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
表5、6に示す配合(質量比)で原料成分をミキサーに投入し、ドライブレンドした。
【0097】
その後、得られた混合物を下記の条件で押出機(連続式混練機)で溶融混練して、熱可
塑性組成物のペレットを製造した。
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW-60MG-NH((株)テクノベル製)
シリンダー温度:180~260℃
スクリュー回転数:200~650r/min
【0098】
実施例及び比較例で使用した表5、6に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレスシート
を作製した。
【0104】
〔射出成形条件〕
射出成形機:100MSIII-10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:200℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0105】
実施例及び比較例で得られた組成物について、下記の評価を行った。結果を表5、6に
示す。なお、比較例1はポリエステルエラストマーAそのものである。
【0106】
〔柔軟性(D硬度)〕
プレスシートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、シートの
状態を安定させた。2mm厚さのプレスシートを3枚重ね、JIS K7215「プラスチックのデュ
ロメータ硬さ試験法」に準じて、D硬度を測定した。
【0107】
〔機械的強度(引張破壊応力及び破断伸び率)〕
プレスシートから、型抜機を用いてJIS K7113に記載の3号試験片(長さ20mm)を作製し
、(株)島津製作所製の引張試験機(オートグラフ AG-50kND型)を用いて、23℃の温度
環境下、200mm/minの速度で試験片を引っ張った。試験片破断時の応力(MPa)を引張破壊応
力として記録した。また、破断時の試験片の長さから、破断伸び率((破断時の試験片の
長さ(mm)-20)/20×100,%)を算出した。
【0108】
〔耐熱老化性〕
プレスシートから、型抜機を用いてJIS K7113に記載の3号試験片(長さ20mm)を作製し
、東洋精機社製ギヤーオーブンA45A2型を用いて、150℃で、250時間保存後、500時間保存
後、760時間保存後、1000時間保存後の試験片を、それぞれ機械的強度の引張試験に供し
た。破断時の試験片の長さを測定し、保存前の試験片の破断伸び率に対する伸び保持率(
%)を算出した。即ち、保存前の破断伸び率が100%である試験片の、保存後の破断伸び
率が80%である場合、伸び保持率は80%(80/100×100)と算出した。「崩壊」は高温下
での保存により試験片が崩壊した状態を示す。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
以上の結果より、実施例1~15の熱可塑性エラストマー組成物は、1000時間の耐熱試
験にも耐え得る良好な耐熱老化性を有していることが分かる。なかでも、実施例1と実施
例11の対比より、ポリアミド系樹脂として、ピペラジン系共重合ポリアミド樹脂を用い
ることにより、耐熱老化性が向上していることが分かる。また、実施例1と実施例9の対
比、実施例2と4の対比から、酸化防止剤は、芳香族アミン系酸化防止剤が好ましく、芳
香族アミン系酸化防止剤をイオウ系酸化防止剤と併用することにより、さらに耐熱老化性
が向上することが分かる。
これに対し、比較例1~10では、耐熱老化性が低下している。例えば、酸化防止剤を
配合していない比較例1、4では、250時間の試験ですでに崩壊している。また、ポリエ
ステルエラストマーそのもののである比較例1に対して、酸化防止剤を配合した比較例2
、5、及び比較例2に対して、さらにカルボジイミド化合物を配合した比較例3は、順に
耐熱老化性が改善される傾向はあるものの、さらにポリアミド系樹脂を配合した実施例1
と対比すると、時間経過による耐熱老化性の低下が顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装
資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に用いられる。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーAと、該熱可塑性ポリエステル系エラストマーA 100質量部に対して、ポリアミド系樹脂B 0.1~40質量部、カルボジイミド化合物C 0.1~10質量部、及び酸化防止剤D 0.1~10質量部を含有してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーAが、ハードセグメントとソフトセグメントとを30/70~60/40の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で有し、該ソフトセグメントがポリエステル型ポリマーブロック又はポリエーテル型ポリマーブロックであり、前記酸化防止剤Dが芳香族アミン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤を含有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)、脂環族ポリカルボジイミド化合物及び/又は脂肪族ポリカルボジイミド化合物(B)、芳香族カルボジイミド化合物(C)、及びポリアミド樹脂(D)を、(A)100質量部に対して(B)0.1~2質量部、(C)0.1~2質量部、(D)0.5~10質量部の割合で含有することを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂組成物を除く)
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0096
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0096】
実施例1~15及び比較例2~10(実施例1~3、5~8、11、13は参考例である)
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
表5、6に示す配合(質量比)で原料成分をミキサーに投入し、ドライブレンドした。