(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145899
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】糸巻取機及びパッケージの生産方法
(51)【国際特許分類】
B65H 54/38 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B65H54/38 B
B65H54/38 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127816
(22)【出願日】2022-08-10
(62)【分割の表示】P 2020550006の分割
【原出願日】2019-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018190595
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】播戸 志郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 竹弘
(57)【要約】
【課題】クリーピングによって耳高を効果的に解消するとともに、綾落ちの発生を防止する。
【解決手段】トラバースガイド33の動作を制御する制御装置13は、トラバースガイド33を所定の正規位置Tsで反転させる通常制御と、トラバースガイド33を正規位置Tsから内側に所定の離間距離Lだけ離れたクリーピング領域C内のクリーピング位置T1~T4で反転させるクリーピング制御と、を実行可能であり、トラバースガイド33の往復移動ごとに、通常制御及びクリーピング制御の何れを実行するかを設定することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、前記糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産する糸巻取機であって、
前記トラバースガイドを前記トラバース方向に往復移動させるガイド駆動部と、
前記ガイド駆動部を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記トラバースガイドを所定の正規位置で反転させる通常制御と、
前記トラバースガイドを前記正規位置から内側に所定の離間距離だけ離れたクリーピング領域内のクリーピング位置で反転させるクリーピング制御と、
を実行可能であり、
前記トラバースガイドの往復移動ごとに、前記通常制御及び前記クリーピング制御の何れを実行するかを設定可能であり、
前記クリーピング領域内に、複数の前記クリーピング位置が設定されており、
前記クリーピング領域内の前記複数のクリーピング位置間の間隔が前記離間距離より小さいことを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記離間距離は10mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記トラバース方向における前記クリーピング領域の幅は5mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記通常制御及び前記クリーピング制御の合計回数に対する前記クリーピング制御の回数の割合が10%以上50%未満であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記クリーピング制御の直前及び直後に前記通常制御を実行することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記トラバースガイドは、前記ガイド駆動部によって駆動されるベルト部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、前記糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産するパッケージの生産方法であって、
前記トラバースガイドを所定の正規位置で反転させる通常工程と、
前記トラバースガイドを前記正規位置から内側に所定の離間距離だけ離れたクリーピング領域内のクリーピング位置で反転させるクリーピング工程と、
を実行し、
前記トラバースガイドの往復移動ごとに、前記通常工程及び前記クリーピング工程の何れを実行するかを設定し、
前記クリーピング領域内に、複数の前記クリーピング位置が設定されており、
前記クリーピング領域内の前記複数のクリーピング位置間の間隔が前記離間距離より小さいことを特徴とするパッケージの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産する糸巻取機及びパッケージの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、2に記載の糸巻取機は、糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産する。このような糸巻取機では、巻取速度が高速だったり、フリーレングス(トラバースガイドとパッケージとの間の糸)が長かったりすると、トラバースガイドで糸を鋭角的に反転させることが困難となる。その結果、パッケージの両端部で糸が多く巻かれることになり、パッケージの両端部に「耳高」と呼ばれる突出部が形成されてしまう。耳高は、パッケージ密度の不均一、外観不良、解舒不良等の一因となるため、好ましくない。
【0003】
そこで、特許文献1、2では、耳高の形成を抑えるため、トラバースガイドを正規位置よりも内側で反転させる「クリーピング」を行うように構成されている。具体的には、トラバースガイドが往復移動する範囲をカム機構によって変化させることで、周期的にトラバースガイドが正規位置より内側で反転するように構成されている。こうすることで、パッケージの両端部に巻かれる糸の量を減らし、耳高を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-145075号公報
【特許文献2】特開昭62-211274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に設けられたカム機構は、クリーピングの際にトラバースガイドのトラバース幅を漸減及び漸増させる機構となっている。このように、トラバース幅が漸減及び漸増することで、耳高が形成される範囲にもかなりの糸が巻かれてしまうため、耳高を効果的に解消することができなかった。また、クリーピングの際にかなりの巻層が形成されることでパッケージ表面に段差ができやすく、トラバース幅が正規の幅に戻ると綾落ちするおそれもあった。
【0006】
以上の課題に鑑みて、本発明は、クリーピングによって耳高を効果的に解消するとともに、綾落ちの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る糸巻取機は、糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、前記糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産する糸巻取機であって、前記トラバースガイドを前記トラバース方向に往復移動させるガイド駆動部と、前記ガイド駆動部を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記トラバースガイドを所定の正規位置で反転させる通常制御と、前記トラバースガイドを前記正規位置から内側に所定の離間距離だけ離れたクリーピング領域内のクリーピング位置で反転させるクリーピング制御と、を実行可能であり、前記トラバースガイドの往復移動ごとに、前記通常制御及び前記クリーピング制御の何れを実行するかを設定可能であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るパッケージの生産方法は、糸が掛けられたトラバースガイドを所定のトラバース方向に往復移動させながら、前記糸をボビンに巻き取ってパッケージを生産するパッケージの生産方法であって、前記トラバースガイドを所定の正規位置で反転させる通常工程と、前記トラバースガイドを前記正規位置から内側に所定の離間距離だけ離れたクリーピング領域内のクリーピング位置で反転させるクリーピング工程と、を実行し、前記トラバースガイドの往復移動ごとに、前記通常工程及び前記クリーピング工程の何れを実行するかを設定することを特徴とする。
【0009】
本発明では、クリーピング制御(又はクリーピング工程)の際に、トラバースガイドを正規位置から内側に所定の離間距離だけ離れたクリーピング領域内のクリーピング位置で反転させる。つまり、クリーピング制御(又はクリーピング工程)の際にトラバース幅を漸減及び漸増するのではなく、トラバース幅を一気に狭めたり正規の幅に戻したりすることができる構成となっている。このため、上記離間距離を適切に設定すれば、耳高が形成される範囲に糸が巻かれることを抑え、クリーピング制御によって耳高を効果的に解消できる。また、本発明では、トラバースガイドの往復移動ごとに、通常制御(又は通常工程)及びクリーピング制御(又はクリーピング工程)の何れを実行するかを設定できる。このため、クリーピング制御(又はクリーピング工程)を実行する頻度を適切に設定すれば、クリーピング制御(又はクリーピング工程)の際に形成される巻層を減らし、パッケージ表面に段差が生じることを防止できる。その結果、トラバース幅が正規の幅に戻る際に綾落ちが発生することを防止できる。
【0010】
本発明において、前記クリーピング領域内に、複数の前記クリーピング位置が設定されているとよい。
【0011】
クリーピング制御のたびに、同じクリーピング位置でトラバースガイドを反転させていると、そのクリーピング位置付近に耳高のような突出部が形成されるおそれがある。この点、上述の構成によれば、クリーピング制御の際に、トラバースガイドの反転位置を複数の位置に分散させることができるので、突出部が形成されることを回避できる。
【0012】
本発明において、前記離間距離は10mm以上30mm以下であるとよい。
【0013】
巻取条件にもよるが、耳高はパッケージの端から10mm未満の範囲に形成されることが多い。したがって、クリーピング領域を正規位置から10mm以上離間させることで、クリーピング制御によって耳高をより効果的に解消することができる。一方、クリーピング制御の際にトラバースガイドをあまりにも内側で反転させると、正規位置で反転させたときの巻取軌跡とのずれが大きくなり、パッケージの外観に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、上記離間距離を30mm以下とすることで、パッケージの外観を良好に維持することができる。
【0014】
本発明において、前記トラバース方向における前記クリーピング領域の幅は5mm以上20mm以下であるとよい。
【0015】
クリーピング領域が狭すぎると、クリーピング位置をクリーピング領域内で十分に分散させることができず、クリーピング制御によって耳高のような突出部が形成されてしまうおそれがある。そこで、クリーピング領域の幅を5mm以上とすることで、クリーピング位置を十分に分散させることができ、突出部の形成を回避できる。一方、クリーピング領域が広すぎると、クリーピング位置によって巻取軌跡の差が大きくなり、パッケージの外観に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、クリーピング領域の幅を20mm以下とすることで、パッケージの外観を良好に維持することができる。
【0016】
本発明において、前記通常制御及び前記クリーピング制御の合計回数に対する前記クリーピング制御の回数の割合が10%以上50%未満であるとよい。
【0017】
クリーピング制御の実行回数が少なすぎると、耳高を解消できないおそれがある。そこで、クリーピング制御の実行割合を10%以上とすることで、耳高をより確実に解消することができる。一方、パッケージの外観の観点からは、できるだけ通常制御の実行回数を多くするのが好ましい。そこで、クリーピング制御の実行割合を50%未満、言い換えると、通常制御の実行割合を50%以上とすることで、パッケージの外観を良好に維持できる。
【0018】
本発明において、前記クリーピング制御の直前及び直後に前記通常制御を実行するとよい。
【0019】
こうすることで、クリーピング制御を連続では実行しないことになるので、クリーピング制御によってパッケージ表面に段差が生じることをより効果的に防止できる。その結果、トラバース幅が正規の幅に戻る際に綾落ちが発生することをより確実に防止できる。
【0020】
本発明において、前記トラバースガイドは、前記ガイド駆動部によって駆動されるベルト部材に取り付けられているとよい。
【0021】
このようなベルト式のトラバース装置であれば、軽量のベルト部材及びトラバースガイドを用いることで慣性の影響を低減でき、トラバースガイドを精度よく反転させることができるので好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るリワインダを正面から見た模式図である。
【
図3】本実施形態におけるトラバースガイドの反転位置を示す模式図である。
【
図4】本実施形態におけるトラバースガイドの動きを示す模式図である。
【
図5】(a)従来パッケージに形成されていた耳高を示す図、及び、(b)本実施形態のクリーピング制御を実行した場合のパッケージの形状を示す図である。
【
図6】従来装置のトラバースガイドの動きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示す上下方向及び左右方向を、それぞれリワインダ1の上下方向及び左右方向とする。上下方向及び左右方向の両方と直交する方向(
図1の紙面垂直方向)を前後方向とする。糸Yの走行する方向を糸走行方向とする。
【0024】
(リワインダの構成)
まず、
図1を用いて、本実施形態に係るリワインダ1(本発明の糸巻取機)の構成について説明する。
図1は、リワインダ1を正面から見た模式図である。
図1に示すように、リワインダ1は、給糸部11と、巻取部12と、制御装置13等を備える。リワインダ1は、給糸部11に支持されている給糸パッケージPsから糸Yを解舒して、巻取部12によって巻取ボビンBw(本発明のボビン)に巻き返し、巻取パッケージPw(本発明のパッケージ)を形成するためのものである。より具体的には、リワインダ1は、例えば給糸パッケージPsに巻かれている糸Yをよりきれいに巻き直したり、所望の密度の巻取パッケージPwを形成したりするためのものである。
【0025】
給糸部11は、例えば、立設された機台14の下部の前面に取り付けられている。給糸部11は、給糸ボビンBsに糸Yが巻かれて形成された給糸パッケージPsを支持するように構成されている。これにより、給糸部11は、糸Yを供給可能となっている。
【0026】
巻取部12は、巻取ボビンBwに糸Yを巻き取って巻取パッケージPwを形成するためのものである。巻取部12は、機台14の上部に設けられている。巻取部12は、クレードルアーム21と、巻取モータ22と、トラバース装置23と、コンタクトローラ24等を有する。
【0027】
クレードルアーム21は、例えば、機台14に揺動可能に支持されている。クレードルアーム21は、例えば左右方向を巻取ボビンBwの軸方向として、巻取ボビンBwを回転可能に支持する。クレードルアーム21の先端部には、巻取ボビンBwを把持するボビンホルダ(不図示)が回転可能に取り付けられている。巻取モータ22は、ボビンホルダを回転駆動するためのものである。巻取モータ22は、例えば一般的な交流モータであり、回転数を変更可能に構成されている。これにより、巻取モータ22は、巻取ボビンBwの回転速度を変更可能となっている。巻取モータ22は、制御装置13と電気的に接続されている(
図2参照)。
【0028】
トラバース装置23は、巻取ボビンBwの軸方向(本実施形態では左右方向)に糸Yをトラバースさせる装置である。トラバース装置23は、巻取パッケージPwの糸走行方向におけるすぐ上流側に配置されている。トラバース装置23は、トラバースモータ31(本発明のガイド駆動部)と、無端ベルト32(本発明のベルト部材)と、トラバースガイド33とを有する。
【0029】
トラバースモータ31は、例えば一般的な交流モータである。トラバースモータ31は、正転駆動及び逆転駆動可能に構成され、且つ、回転数を変更可能に構成された駆動源である。トラバースモータ31は、制御装置13と電気的に接続されている(
図2参照)。無端ベルト32は、トラバースガイド33が取り付けられたベルト部材である。無端ベルト32は、左右方向に互いに離間して配置されたプーリ34及びプーリ35と、トラバースモータ31の回転軸に連結された駆動プーリ36とに巻き掛けられており、略三角形状に張られている。無端ベルト32は、トラバースモータ31によって往復駆動される。トラバースガイド33は、無端ベルト32に取り付けられ、左右方向においてプーリ34とプーリ35の間に配置されている。トラバースガイド33は、無端ベルト32がトラバースモータ31によって往復駆動されることにより、左右方向に直線的に往復走行させられる(
図1の矢印参照)。これにより、トラバースガイド33は、糸Yを左右方向にトラバースさせる。以下では、左右方向をトラバース方向とも呼ぶ。上記のような構成を有するトラバース装置23では、トラバースモータ31の回転軸の回転方向の切換タイミング等を制御することにより、糸の巻取動作中にトラバースガイド33の移動領域の長さ(トラバース幅)を変更可能となっている。
【0030】
コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwの表面に接圧を付与して巻取パッケージPwの形状を整えるためのものである。コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwに接触し、巻取パッケージPwの回転に従動して回転する。
【0031】
糸走行方向において、給糸部11と巻取部12との間には、上流側から順に糸ガイド15、案内ローラ16、テンションセンサ17が配置されている。糸ガイド15は、例えば給糸ボビンBsの中心軸の延長線上に配置されており、給糸パッケージPsから解舒された糸Yを糸走行方向下流側へ案内する。案内ローラ16は、糸ガイド15によって案内された糸Yをさらに糸走行方向下流側へ案内するためのものである。案内ローラ16は、機台14の前面且つ糸ガイド15の上方に配置されている。案内ローラ16は、例えばローラ駆動モータ18によって回転駆動される。ローラ駆動モータ18は、例えば一般的な交流モータであり、回転数を変更可能に構成されている。これにより、ローラ駆動モータ18は、案内ローラ16の回転速度を変更可能となっている。ローラ駆動モータ18は、制御装置13と電気的に接続されている(
図2参照)。本実施形態では、案内ローラ16の周速度と巻取パッケージPwの周速度との速度差によって、糸Yにテンションが付与される。
【0032】
テンションセンサ17は、糸走行方向において巻取パッケージPwと案内ローラ16との間に配置されており、糸Yに付与されているテンションを検知する。テンションセンサ17は、制御装置13と電気的に接続されており(
図2参照)、テンションの検知結果を制御装置13に送る。
【0033】
制御装置13は、CPUと、ROMと、RAM(記憶部19)等を備える。記憶部19には、例えば、糸Yの巻取量や巻取速度、糸Yに付与するテンションの強さ等のパラメータが記憶されている。制御装置13は、RAM(記憶部19)に記憶されたパラメータ等に基づいて、ROMに格納されたプログラム従い、CPUにより各部を制御する。
【0034】
以上のようなリワインダ1において、給糸パッケージPsから解舒された糸Yが糸走行方向における下流側へ走行する。走行中の糸Yは、トラバースガイド33によって左右方向(トラバース方向)にトラバースされながら、回転中の巻取ボビンBwに巻き取られる。
【0035】
(クリーピング)
巻取部12において、巻取速度が高速(巻取ボビンBwの回転速度が高速)だったり、フリーレングス(トラバースガイド33と巻取パッケージPwとの間の糸Y)が長かったりすると、トラバースガイド33によって糸Yを鋭角的に反転させることが困難となる。その結果、巻取パッケージPwの両端部で糸Yが多く巻かれることになり、巻取パッケージPwの両端部に「耳高」と呼ばれる突出部が形成されてしまう(
図5のa図の符号Mは耳高を示す)。耳高は、パッケージ密度の不均一、外観不良、解舒不良等の一因となるため、好ましくない。
【0036】
そこで、従来より、耳高の形成を抑えるため、トラバースガイドが往復移動する範囲をカム機構によって変化させることで、周期的にトラバースガイドを正規位置より内側で反転させる構成が採用されている。こうすることで、パッケージの両端部に巻かれる糸の量を減らし、耳高を抑えている。このように、トラバースガイドを正規位置よりも内側で反転させる動作を「クリーピング」と呼ぶ。
【0037】
図6は、従来装置のトラバースガイドの動きを示す模式図である。
図6に示すように、上述したカム機構は、クリーピングの際にトラバースガイドのトラバース幅を漸減及び漸増させる機構となっている。しかしながら、トラバース幅が漸減及び漸増することで、耳高が形成される範囲にもかなりの糸が巻かれてしまうため、耳高を効果的に解消することができなかった。また、クリーピングの際にかなりの巻層が形成されることでパッケージ表面に段差ができやすく、トラバース幅が正規の幅に戻ると綾落ちすることもあった。
【0038】
そこで、本実施形態では、制御装置13によってトラバース装置23(具体的にはトラバースモータ31)を適切に制御することによって、耳高及び綾落ちの発生を抑制している。
図3は、本実施形態におけるトラバースガイド33の反転位置を示す模式図である。
図4は、本実施形態におけるトラバースガイド33の動きを示す模式図である。なお、
図3では、トラバース方向の左端部における反転位置について図示しているが、
図4に示すように、右端部についても同様の反転位置が設定されている。
【0039】
本実施形態では、
図3に示すように、トラバースガイド33の反転位置として、正規位置Ts及びクリーピング位置T1~T4が設定されている。正規位置Tsとは、クリーピングを行っていない通常巻き取り時の反転位置である。一方、クリーピング位置T1~T4は、トラバース方向において正規位置Tsの内側に設けられたクリーピング領域C内に設定された反転位置である。正規位置Tsとクリーピング領域Cとの離間距離Lは、クリーピング領域Cが耳高の形成範囲よりも内側となるように設定されるのが好ましい。耳高は巻取パッケージPwの端から10mm未満の範囲に形成されることが多いので、本実施形態では、例えば離間距離Lを20mmとしている。正規位置Tsとクリーピング領域Cとの間の領域には、トラバースガイド33の反転位置は設定されておらず、当該領域でトラバースガイド33が反転することはない。
【0040】
クリーピング領域Cのトラバース方向における幅をWとすると、クリーピング位置T1~T4はそれぞれ次のように設定されている。クリーピング位置T1は、クリーピング領域Cの外側の端位置である。クリーピング位置T2は、クリーピング位置T1よりも内側にW/3だけ離れた位置である。クリーピング位置T3は、クリーピング位置T2よりも内側にW/3だけ離れた位置である。クリーピング位置T4は、クリーピング領域Cの内側の端位置である。つまり、クリーピング位置T1~T4は等間隔に配置されている。本実施形態では、例えばクリーピング領域Cの幅Wを10mmとしている。
【0041】
本実施形態では、上述のように正規位置Ts及びクリーピング位置T1~T4を設定した上で、トラバースガイド33の往復移動ごとに、正規位置Ts及びクリーピング位置T1~T4のうちどの位置でトラバースガイド33を反転させるかを設定している。こういった設定事項は、オペレータが不図示の入力手段によって記憶部19に設定・記憶させることができる。以下の説明では、トラバースガイド33を正規位置Tsで反転させる制御を通常制御と言い、トラバースガイド33をクリーピング位置T1~T4で反転させる制御をクリーピング制御と言う。
【0042】
図3及び
図4に示す例では、トラバースガイド33が12回往復移動するのを1周期とし、トラバースガイド33が12回往復移動するごとにトラバースガイド33の反転位置の設定パターンを繰り返すようにしている。
図3及び
図4において反転位置を示す点に付している数字は、ある周期においてトラバースガイド33の何回目の往復移動であるかを意味する。以下、ある周期におけるトラバースガイド33の制御について説明する。
【0043】
トラバースガイド33の1回目及び2回目の往復移動の際には、トラバースガイド33を正規位置Tsで反転させる通常制御を実行する。続く3回目の往復移動の際には、トラバースガイド33をクリーピング位置T1で反転させるクリーピング制御を実行する。以下、3回ごとに同様の制御を繰り返すが、クリーピング制御における反転位置は互いに異ならせている。つまり、6回目の往復移動の際にはトラバースガイド33をクリーピング位置T2で反転させ、9回目の往復移動の際にはトラバースガイド33をクリーピング位置T3で反転させ、12回目の往復移動の際にはトラバースガイド33をクリーピング位置T4で反転させる。
【0044】
このように、本実施形態では、クリーピング制御の際に、徐々にクリーピング領域Cに向かってトラバースガイド33の反転位置を変化させるのではなく、一気にクリーピング領域C内のクリーピング位置T1~T4に反転位置を変化させる。このため、クリーピング制御の際に、正規位置Tsとクリーピング領域Cとの間、すなわち、耳高が本来形成される範囲に、糸Yが巻かれることを極力回避することができ、
図5のb図に示すように耳高が抑えられた巻取パッケージPwを形成することができる。
【0045】
また、クリーピング制御の際にトラバースガイド33の反転位置を一気にクリーピング位置T1~T4に変化させることで、クリーピング制御の回数が少なくても耳高を効果的に抑制できるので、その分、通常制御の回数を多くすることができる。例えば、本実施形態では、トラバースガイド33の往復移動3回のうち2回を通常制御とし、1回をクリーピング制御としたので、クリーピング制御の実行割合は33%である。従来装置では、
図6に示すようにクリーピングの実行時間が長くなりがちだったので、パッケージの外観が悪化しやすかった。一方、本発明によれば、クリーピング制御を減らし、通常制御を増やせるので、巻取パッケージPwの外観を良好に維持できる。
【0046】
(効果)
本実施形態では、トラバースガイド33の往復移動ごとに、トラバースガイド33を正規位置Tsで反転させる通常制御、及び、トラバースガイド33を正規位置Tsから内側に離間距離Lだけ離れたクリーピング領域C内のクリーピング位置T1~T4で反転させるクリーピング制御、の何れを実行するかを設定可能に構成されている。つまり、クリーピング制御の際にトラバース幅を漸減及び漸増させるのではなく、トラバース幅を一気に狭めたり正規の幅に戻したりすることができる構成となっている。このため、離間距離Lを適切に設定すれば、耳高が形成される範囲に糸Yが巻かれることを抑え、クリーピング制御によって耳高を効果的に解消できる。また、クリーピング制御を実行する頻度を適切に設定すれば、クリーピング制御の際に形成される巻層を減らし、パッケージ表面に段差が生じることを防止できる。その結果、トラバース幅が正規の幅に戻る際に綾落ちが発生することを防止できる。
【0047】
本実施形態では、クリーピング領域C内に、複数のクリーピング位置T1~T4が設定されている。クリーピング制御のたびに、同じクリーピング位置でトラバースガイド33を反転させていると、そのクリーピング位置付近に耳高のような突出部が形成されるおそれがある。この点、上述の構成によれば、クリーピング制御の際に、トラバースガイド33の反転位置を複数の位置に分散させることができるので、突出部が形成されることを回避できる。
【0048】
本実施形態では、上記離間距離Lを20mm、すなわち10mm以上30mm以下の距離としている。巻取条件にもよるが、耳高は巻取パッケージPwの端から10mm未満の範囲に形成されることが多い。したがって、クリーピング領域Cを正規位置Tsから10mm以上離間させることで、クリーピング制御によって耳高をより効果的に解消することができる。一方、クリーピング制御の際にトラバースガイド33をあまりにも内側で反転させると、正規位置Tsで反転させたときの巻取軌跡とのずれが大きくなり、巻取パッケージPwの外観に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、上記離間距離Lを30mm以下とすることで、巻取パッケージPwの外観を良好に維持することができる。
【0049】
本実施形態では、トラバース方向におけるクリーピング領域Cの幅を10mm、すなわち5mm以上20mm以下の幅としている。クリーピング領域Cが狭すぎると、クリーピング位置T1~T4をクリーピング領域C内で十分に分散させることができず、クリーピング制御によって耳高のような突出部が形成されてしまうおそれがある。そこで、クリーピング領域Cの幅Wを5mm以上とすることで、クリーピング位置T1~T4を十分に分散させることができ、突出部の形成を回避できる。一方、クリーピング領域Cが広すぎると、クリーピング位置T1~T4によって巻取軌跡の差が大きくなり、巻取パッケージPwの外観に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、クリーピング領域Cの幅Wを20mm以下とすることで、巻取パッケージPwの外観を良好に維持することができる。
【0050】
本実施形態では、通常制御及びクリーピング制御の合計回数に対するクリーピング制御の回数の割合が33%、すなわち10%以上50%未満の割合とされている。クリーピング制御の実行回数が少なすぎると、耳高を解消できないおそれがある。そこで、クリーピング制御の実行割合を10%以上とすることで、耳高をより確実に解消することができる。一方、巻取パッケージPwの外観の観点からは、できるだけ通常制御の実行回数を多くするのが好ましい。そこで、クリーピング制御の実行割合を50%未満、言い換えると、通常制御の実行割合を50%以上とすることで、パッケージPwの外観を良好に維持できる。
【0051】
本実施形態では、クリーピング制御の直前及び直後に通常制御を実行している。こうすることで、クリーピング制御を連続では実行しないことになるので、クリーピング制御によってパッケージ表面に段差が生じることをより効果的に防止できる。その結果、トラバース幅が正規の幅に戻る際に綾落ちが発生することをより確実に防止できる。
【0052】
本実施形態では、トラバースガイド33は、トラバースモータ31(ガイド駆動部)によって駆動される無端ベルト32(ベルト部材)に取り付けられている。このようなベルト式のトラバース装置23であれば、軽量の無端ベルト32及びトラバースガイド33を用いることで慣性の影響を低減でき、トラバースガイド33を精度よく反転させることができるので好適である。
【0053】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0054】
上記実施形態では、4つのクリーピング位置T1~T4を等間隔に設定するものとした。しかしながら、クリーピング領域C内にクリーピング位置をどのように設定するかは適宜変更が可能である。例えば、クリーピング位置を1つのみ設定してもよいし、複数のクリーピング位置を非等間隔に設定してもよい。
【0055】
上記実施形態では、正規位置Tsとクリーピング領域Cとの離間距離Lが、10mm以上30mm以下であるとした。しかしながら、離間距離Lを10mm未満としてもよいし、30mmより大きくすることも可能である。
【0056】
上記実施形態では、クリーピング領域Cの幅Wが、5mm以上20mm以下であるとした。しかしながら、クリーピング領域Cの幅Wを5mm未満としてもよいし、20mmより大きくすることも可能である。
【0057】
上記実施形態では、クリーピング制御の実行割合が、10%以上50%未満であるとした。しかしながら、クリーピング制御の実行割合を10%未満としてもよいし、50%以上とすることも可能である。
【0058】
上記実施形態では、
図3に示すように、トラバースガイド33の反転位置が周期的に変更されるものとした。しかしながら、トラバースガイド33の往復移動ごとに反転位置をどのように設定するかは、適宜変更が可能である。例えば、クリーピング制御を連続で実行してもよいし、トラバースガイド33の反転位置がランダムに変更される設定でもよい。ただし、ランダム設定の場合、クリーピング制御の実行割合だけは予め設定されていることが好ましい。
【0059】
上記実施形態のトラバース装置23は、無端ベルト32にトラバースガイド33が取り付けられたいわゆるベルト式のものとした。しかしながら、トラバース装置の具体的な構成はこれに限定されない。例えば、特開2007-153554号公報に記載されているように、揺動駆動されるアームの先端部にトラバースガイドが取り付けられた構成でもよい。また、トラバースガイドをリニアモータによって往復駆動する構成でもよい。
【0060】
上記実施形態では、本発明に係る糸巻取機をリワインダ1に適用するものとしたが、本発明を他の糸巻取機に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:リワインダ(糸巻取機)
13:制御装置
31:トラバースモータ(ガイド駆動部)
32:無端ベルト(ベルト部材)
33:トラバースガイド
Y:糸
Bw:巻取ボビン(ボビン)
Pw:巻取パッケージ(パッケージ)
Ts:正規位置
T1~T4:クリーピング位置
C:クリーピング領域
L:離間距離
W:クリーピング領域の幅