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特開2022-14594電力変換装置、半導体スイッチ装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014594
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】電力変換装置、半導体スイッチ装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20220113BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220113BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116986
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 禎宏
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB02
5H740BB09
5H740JA01
5H740JA23
5H740JA25
5H740JA28
5H740JA29
5H740KK01
5H740MM11
5H740MM18
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770GA02
5H770GA19
5H770JA19X
5H770LA02X
5H770QA06
(57)【要約】
【課題】主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子によってオン/オフ制御する主回路の電流を、より多くする。
【解決手段】実施形態の電力変換装置は、複数の半導体スイッチング素子と、駆動装置とを備える。複数の半導体スイッチング素子は、主回路側が並列接続されている。駆動装置は、設定により前記複数の半導体スイッチング素子毎に互いに異なるタイミングで制御信号を出力可能とし、前記制御信号を前記半導体スイッチング素子に対して供給する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子と、
設定により前記複数の半導体スイッチング素子毎に互いに異なるタイミングで制御信号を出力可能とし、前記制御信号を前記半導体スイッチング素子に対して供給する駆動装置と
を備える半導体スイッチ装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、
前記設定に基づいて前記半導体スイッチング素子毎の前記タイミングを決定する遅延時間調整部
を備える請求項1に記載の半導体スイッチ装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、
前記設定に基づいた長さに応じて前記タイミングの遅延時間が調整される遅延時間調整部
を備える請求項1に記載の半導体スイッチ装置。
【請求項4】
定格電流値が、前記複数の半導体スイッチング素子の中の1つの半導体スイッチング素子の許容電流値よりも大きい、
請求項1に記載の半導体スイッチ装置。
【請求項5】
前記複数の半導体スイッチング素子は、
第1の半導体スイッチング素子と、
第2の半導体スイッチング素子と
を備え、
前記駆動装置は、
前記第1の半導体スイッチング素子に、前記制御信号として第1制御信号を供給する第1駆動部と、
前記第2の半導体スイッチング素子に、前記制御信号として第2制御信号を供給する第2駆動部と、
前記設定により少なくとも前記第1制御信号を出力するタイミングを調整する遅延時間調整部と
を備える請求項1に記載の半導体スイッチ装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の半導体スイッチ装置と、
半導体スイッチ装置を制御する制御装置と
を備える電力変換装置。
【請求項7】
主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子と、
設定により前記複数の半導体スイッチング素子毎に互いに異なるタイミングで制御信号を出力可能とし、前記制御信号を前記半導体スイッチング素子に対して供給する駆動装置と
を備える半導体スイッチ装置の製造方法であって、
前記複数の半導体スイッチング素子の各制御端子に供給される制御信号の論理状態が変化するタイミングを計測するステップと、
前記複数の半導体スイッチング素子の各制御端子において、前記制御信号の論理状態が変化するタイミングのばらつきが少なくなるように前記半導体スイッチング素子毎のタイミングを設定するステップと
を含む半導体スイッチ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置、半導体スイッチ装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、1つのパッケージの中に複数の半導体スイッチング素子を備え、これらの半導体スイッチング素子の主回路側が互いに並列接続されているものがある。しかしながら、主回路に流す電流が各半導体スイッチング素子に分散されず、複数の半導体スイッチング素子の中で特定の半導体スイッチング素子に電流が集中して、その特定の半導体スイッチング素子の故障の要因になることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-92820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子によってオン/オフ制御する主回路の電流を、より多くすることが可能な電力変換装置、半導体スイッチ装置及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電力変換装置は、複数の半導体スイッチング素子と、駆動装置とを備える。複数の半導体スイッチング素子は、主回路側が並列接続されている。駆動装置は、設定により前記複数の半導体スイッチング素子毎に互いに異なるタイミングで制御信号を出力可能とし、前記制御信号を前記半導体スイッチング素子に対して供給する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電力変換装置の構成図。
図2】実施形態の半導体スイッチの構成図。
図3A】比較例の半導体スイッチの構成図。
図3B図3Aに示す比較例の半導体スイッチの動作を説明するための図。
図4】実施形態の半導体スイッチ駆動装置を含む半導体スイッチ装置の概略構成図。
図5A】実施形態の遅延時間を計測するときの構成図。
図5B】実施形態の半導体スイッチ装置の製造工程の一部を示すフローチャート。
図5C】実施形態の半導体スイッチ装置の製造工程の一部を示すフローチャート。
図6】実施形態のゲート駆動信号の波形を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電力変換装置、半導体スイッチ装置及び製造方法について説明する。なお、以下の説明では、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態の電力変換装置1の構成図である。
電力変換装置1は、電動機2を駆動する。電動機2は、例えば、3相交流電動機である。電力変換装置1は、例えば、インバータ10と、制御装置20とを備える。
【0009】
インバータ10は、例えば、レグ11から13を備える。インバータ10は、直流電力を3相交流電力に変換する。レグ11から13は、同様に構成されていて、それぞれが電動機2のU相、V相、W相の巻線(不図示)に対応付けられている。インバータ10は、3相交流電力を電動機2に供給する。
【0010】
インバータ10と制御装置20は、光ファイバによって接続され、互いに絶縁されている。制御装置20は、インバータ10が備える複数の半導体スイッチをオン状態とオフ状態に切り替えるための信号を、インバータ10に供給する。例えば、制御装置20は、光信号のゲートパルスGPspとGPsnとを送信する。
【0011】
ここで、レグ11を代表して、各レグの構成例について説明する。
レグ11は、半導体スイッチQ1とQ3と、半導体スイッチ駆動装置101と103と光電気変換器(図中の記載は「O/E」)OEpとOEnとを備える。半導体スイッチQ1とQ3は、主回路部の一例である。
【0012】
半導体スイッチQ1とQ3は、同種の半導体スイッチング素子をそれぞれ複数備える。例えば、半導体スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を例示する。半導体スイッチQ1とQ3は、主回路側が直列に接続されていて、半導体スイッチQ1が正極側(p側という。)に、半導体スイッチQ3が負極側(n側という。)に設けられている。
【0013】
半導体スイッチ駆動装置101の入力側が、共通の光電気変換器OEp(図中の表記は「O/E」)の出力側に接続されている。光電気変換器OEpは、制御装置20からゲートパルスGPspを受けて、ゲートパルスGPregpを生成して、このゲートパルスGPregpを半導体スイッチ駆動装置101に供給する。半導体スイッチ駆動装置101は、入力側に供給されるゲートパルスGPregpに基づいて生成したゲート駆動信号を、出力側から出力する。半導体スイッチQ1は、半導体スイッチ駆動装置101から出力されたゲート駆動信号を受けて、オン状態とオフ状態が切り替わる。
【0014】
半導体スイッチ駆動装置103の入力側が、共通の光電気変換器OEn(図中の表記は「O/E」)の出力側にそれぞれ接続されている。光電気変換器OEnは、制御装置20から光信号のゲートパルスGPsnを受けて、ゲートパルスGPregnを生成して、このゲートパルスGPregnを半導体スイッチ駆動装置103とに供給する。半導体スイッチ駆動装置103は、入力側に供給されるゲートパルスGPregnに基づいて生成したゲート駆動信号を、出力側から出力する。半導体スイッチQ3は、半導体スイッチ駆動装置103から出力されたゲート駆動信号を受けて、オン状態とオフ状態が切り替わる。
【0015】
制御装置20は、図示されない上位装置からの指令と、電動機2の状態の検出結果とに応じて、インバータ10を制御する。ゲートパルスGPspとゲートパルスGPsnは、制御装置20からインバータ10に対する制御信号の一例である。
【0016】
このように構成された電力変換装置1は、電動機2の回転速度などを制御することができる。
【0017】
例えば、少なくとも上記の半導体スイッチQ1とQ3は、共通する1つのパッケージ(不図示の筐体)または個々のパッケージの中に収容される。より具体的な一例を示す。半導体スイッチ駆動装置101と、光電気変換器OEpと、半導体スイッチQ1とが、1つのパッケージ内に設けられていて、これを半導体スイッチ装置102と呼ぶ。同様に、半導体スイッチ駆動装置103と、光電気変換器OEnと、半導体スイッチQ3とが、1つのパッケージ内に設けられていて、これを半導体スイッチ装置104と呼ぶ。半導体スイッチ装置102と半導体スイッチ装置104は、互いに同様に構成されている。半導体スイッチ装置102と半導体スイッチ装置104を区別なく示すときには、単に半導体スイッチ装置100という。半導体スイッチ装置100は、電力変換用スイッチング素子の「モジュール」と呼ばれるときがる。以下、半導体スイッチ装置100について具体的に説明する場合には、半導体スイッチ装置102を例示して説明する。
【0018】
図2を参照して、半導体スイッチQ1を中心に説明する。図2は、実施形態の半導体スイッチQ1の構成図である。
【0019】
半導体スイッチQ1は、半導体スイッチング素子QaからQdを備える。これらの半導体スイッチング素子QaからQdの主回路側は互いに並列接続されている。主回路側が互いに並列接続されているとは、例えば、半導体スイッチング素子QaからQdの各コレクタが互いに接続されていていて、その各エミッタが互いに接続されていることをいう。半導体スイッチQ1の場合、半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子(ゲート)は、互いに独立に制御できるように電気的に絶縁されている。
【0020】
以下、主回路側に流れる電流が半導体スイッチング素子QaからQdに分散される場合について説明する。主回路側に流れる電流を半導体スイッチング素子QaからQdのそれぞれに分散させることによって、半導体スイッチング素子で発生する損失を、それぞれに分散させることができる。ここで、比較例を示し、実施形態における比較例との相違点を説明する。
【0021】
まず、図3A図3Bに、比較例の半導体スイッチQを例示する。図3Aは、比較例の半導体スイッチQの構成図である。図3Bは、図3Aに示す比較例の半導体スイッチQの動作を説明するための図である。
【0022】
比較例の半導体スイッチQも、実施形態の半導体スイッチQ1と同様に、半導体スイッチング素子QaからQdを備える。半導体スイッチQにおける半導体スイッチング素子QaからQdの主回路側も互いに並列接続されている。半導体スイッチング素子QaからQdのコレクタが、接続導体LN1にそれぞれ接続され、そのエミッタが接続導体LN2にそれぞれ接続されている。
【0023】
比較例の場合、半導体スイッチQにおける半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子は、互いに並列に接続されている。例えば、ある駆動回路Dの出力には、配線LGBが接続されている。例えば、配線LGBは、半導体スイッチング素子QaからQdに対して分岐されている。分岐された先の各端部には、半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子がそれぞれ接続されている。
【0024】
このような駆動回路Dが出力する電圧を切り替えることにより、半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子の電圧がこれに伴って変化して、半導体スイッチング素子QaからQdの導通状態が切り替わる。その結果、図3Aに示すように、主回路の電流が半導体スイッチング素子QaからQdに分流されることが期待される。
【0025】
ただし、比較例の場合には、半導体スイッチング素子QaからQdは、揃って切り替わらないことがある。例えば、パッケージ内に、半導体スイッチング素子QaからQdが配置されるが、半導体スイッチング素子QaからQdが配置さた位置の違い、又は半導体スイッチング素子QaからQdを制御するための制御信号が半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子に届くまでの経路の違いなどによって、制御信号の電圧の変化が、半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子に到達するタイミングにばらつきが生じる。その結果、半導体スイッチング素子QaからQdのオン/オフが切り替わるタイミングがばらつくことがある。図3Bに、このような事象が生じた状態をモデル化して示す。
【0026】
上記のように、オン/オフが切り替わるタイミングがばらつくと、図3Bに示すように複数の半導体スイッチング素子の中で特定の半導体スイッチング素子に電流が集中し、その他の半導体スイッチング素子に流れる電流とのバランスが崩れる事象が生じて、その特定の半導体スイッチング素子が劣化することがあった。
【0027】
これに対して、実施形態の半導体スイッチQ1は、図2に示すように半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子が電気的に独立して構成されている。これを用いて、半導体スイッチQ1における半導体スイッチング素子QaからQdの各制御端子の電圧が変化するタイミングがばらつかないように構成するとよい。
【0028】
図4は、実施形態の半導体スイッチ駆動装置101を含む半導体スイッチ装置102の概略構成図である。
半導体スイッチ駆動装置101は、例えば、1つの半導体装置として構成されていてもよい。半導体スイッチ駆動装置101の典型的な一例は、FPGA(Field Programmable Gate Array)であるが、他の種類のASIC(application specific integrated circuit)であってもよい。
【0029】
例えば、半導体スイッチ駆動装置101は、入力バッファ回路IBと、遅延時間調整部101aから101dと、出力バッファ回路DaからDdと、クロック分配部101kとを備える。遅延時間調整部101aから101dをまとめて、調整部101TDと呼ぶ。
【0030】
さらに、半導体スイッチ駆動装置101は、信号端子として、端子Tckと、信号入力端子Tiと、信号出力端子ToaからTodと、基準電位端子Tcomと、図示されない電源端子などを備える。
【0031】
端子Tckは、基準信号源OSCの出力に接続され、基準信号源OSCから基準信号Syncが供給される。
【0032】
信号入力端子Tiは、光電気変換器OEpの出力に接続され、光電気変換器OEpからゲートパルスGPregpが供給される。信号出力端子ToaからTodは、半導体スイッチQ1にそれぞれ接続される。例えば、信号出力端子Toaは、配線LGaを介して、半導体スイッチング素子Qaの制御端子が接続されている。信号出力端子Tobは、配線LGbを介して、半導体スイッチング素子Qbの制御端子が接続されている。信号出力端子Tocは、配線LGcを介して、半導体スイッチング素子Qcの制御端子が接続されている。信号出力端子Todは、配線LGdを介して、半導体スイッチング素子Qdの制御端子が接続されている。
【0033】
クロック分配部101kは、端子Tckを経て、基準信号源OSCから基準信号Syncを受けて、クロックckを生成する。クロック分配部101kは、クロックckを遅延時間調整部101aから101dに供給する。例えば、クロック分配部101kは、比較的高い周波数のクロックckを生成するPLLであってもよい。
【0034】
入力バッファ回路IBは、信号入力端子Tiを経て、光電気変換器OEpから供給されるゲートパルスGPregpを検出し、これに対応するパルス信号を遅延時間調整部101aから101dに供給する。
【0035】
遅延時間調整部101aから101dは、上記のパルス信号とクロックckとを受けて、予め定められた遅延時間分、入力バッファ回路IBから供給されたパルス信号を遅延させて出力する。遅延時間調整部101aから101dの遅延時間は、例えばクロックckの周期の整数倍になるように、遅延時間調整部ごとに設定される。遅延時間調整部101aから101d内の具体的な構成には制限がなく、所望の段数(サイズ)を有するシフトレジスタ、FIFO(First In, First Out)方式のバッファメモリなどを用いる一般的な構成の遅延回路であってよい。
【0036】
出力バッファ回路DaからDdの入力は、遅延時間調整部101aから101dの出力にそれぞれ接続されている。出力バッファ回路DaからDdの出力は、信号出力端子ToaからTodに接続されている。出力バッファ回路DaからDdは、遅延時間調整部101aから101dが遅延させたパルス信号に基づいた、ゲート駆動信号をそれぞれ生成する。
【0037】
調整部101TDは、出力バッファ回路Da(第1駆動部)が半導体スイッチング素子Qa(第1の半導体スイッチング素子)に対するゲート駆動信号(第1制御信号)を出力するタイミングと、出力バッファ回路Db(第2駆動部)が半導体スイッチング素子Qa(第2の半導体スイッチング素子)に対するゲート駆動信号(第2制御信号)を出力するタイミングが揃うように、第1制御信号を出力するタイミングと、第2制御信号を出力するタイミングとのうち、少なくとも前記第1制御信号を出力するタイミングを調整する。
【0038】
さらに、出力バッファ回路Dcが半導体スイッチング素子Qcに対するゲート駆動信号を出力するタイミングと、出力バッファ回路Ddが半導体スイッチング素子Qdに対するゲート駆動信号を出力するタイミングは、上記のように揃えた結果のタイミングにさらに揃うように、各ゲート駆動信号を出力するタイミングが調整部101TDによって調整されている。
【0039】
例えば、遅延時間調整部101aは、出力バッファ回路Daがゲート駆動信号(第1制御信号)を出力するタイミングを、第1設定値に基づいた長さの遅延時間によって遅延させる。遅延時間調整部101bは、出力バッファ回路Dbがゲート駆動信号(第2制御信号)を出力するタイミングを、第2設定値に基づいた長さの遅延時間によって遅延させる。遅延時間調整部101cは、出力バッファ回路Dcがゲート駆動信号(第3制御信号)を出力するタイミングを、第3設定値に基づいた長さの遅延時間によって遅延させる。遅延時間調整部101dは、出力バッファ回路Ddがゲート駆動信号(第4制御信号)を出力するタイミングを、第4設定値に基づいた長さの遅延時間によって遅延させる。このように、遅延時間調整部101aから101dは、設定に基づいて半導体スイッチング素子毎のタイミングを決定する。遅延時間調整部101aから101dは、上記の設定に基づいた長さに応じて上記のタイミングの遅延時間をが調整される。
【0040】
上記のように、遅延時間調整部101aから101dに所望の遅延時間を設定することによって、半導体スイッチング素子QaからQdの制御端子に供給されたゲート信号の状態が変化するタイミングを揃えることが可能になる。この実施例の場合、タイミングを揃える分解能は、クロックckの周期の長さに依存する。そのため、クロックckの周期を比較的短くするとよい。
【0041】
上記のように設定により所望のタイミングに調整することにより、半導体スイッチング素子QaからQdの中の特定の半導体スイッチング素子に電流が集中しにくくなる。ここで、半導体スイッチ装置100全体でオン/オフ切り替え可能な最大の電流を規定する指標値を「半導体スイッチ装置100の定格電流値」と呼ぶ。
【0042】
比較例のように、主回路に流す電流が各半導体スイッチング素子に分散されず、複数の半導体スイッチング素子の中で特定の半導体スイッチング素子に電流が集中する場合には、集中した電流でも半導体スイッチング素子の許容電流値を越えないようにする必要があり、その定格電流値を抑えることでこれを満足させることがあった。
【0043】
これに対して、本実施形態の半導体スイッチ装置100の場合、複数の半導体スイッチング素子に、半導体スイッチ装置100の主回路に流れる電流を分散させることが可能になる。例えば、電流が分散することを見込むことで、半導体スイッチ装置100の定格電流値を、半導体スイッチング素子QaからQdの許容電流値合計により近い値とすることができる。
【0044】
(製造工程)
図5Aから図5Cを参照して、実施形態の遅延時間を調整する製造工程(製造方法)について説明する。図5Aは、実施形態の遅延時間を計測するときの構成図である。この図5Aに図示されないオシロスコープなどの汎用の測定器を、後述する電圧の測定に利用してもよい。図5B図5Cは、実施形態の半導体スイッチ装置100の製造工程の一部を示すフローチャートである。
【0045】
上記の遅延時間の調整は、例えば、半導体スイッチ装置100の種別ごとに実施して、その調整量を決定するとよい。その結果を用いて、個々の半導体スイッチ装置100の遅延時間の設定を装置ごとに実施する。
【0046】
最初に、半導体スイッチQ1のスイッチングタイミング(遅延時間)を決定するための製造工程について説明する。半導体スイッチ装置100は、遅延時間の設定を実施する前の初期状態にある場合、遅延時間調整部101aから101dに設定される遅延時間は0、つまり遅延を生じさせないように設定されている。
【0047】
まず、半導体スイッチQ1に係る電気部品を基盤に搭載する(ステップSA12)。上記の基盤は、ヒートシンクに熱結合させる面を備える板状部材である。ヒートシンクに熱結合させる面は、半導体スイッチ装置100のパッケージの外側になる1つの面を形成する。半導体スイッチ装置100のパッケージの内側になる面(上記の面の裏面)に電気部品が搭載される。半導体スイッチQ1に係る電気部品には、半導体スイッチング素子QaからQdが含まれる。
【0048】
次に、電気的な接続を実施する。電気的な接続には、例えば次の接続が含まれる。出力バッファ回路Daの出力側の信号出力端子Toaに半導体スイッチング素子Qa(第1の半導体スイッチング素子)の制御端子(Qag)を接続する(ステップSA14)。出力バッファ回路Dbの出力側の信号出力端子Tobに半導体スイッチング素子Qb(第2の半導体スイッチング素子)の制御端子を接続する(ステップSA16)。半導体スイッチング素子Qcと半導体スイッチング素子Qdについても同様に実施する(ステップSA18)。
【0049】
次に、図5Aに示す構成を利用して、出力バッファ回路Daが出力する第1制御信号の第1伝搬遅延時間を計測する(ステップSA20)。例えば、出力バッファ回路Daの出力におけるゲート駆動信号(第1制御信号)のONからOFFの状態に変化するタイミングと、半導体スイッチング素子Qaの制御端子におけるゲート駆動信号のONからOFFの状態に変化するタイミングとを比較して、その差を第1伝搬遅延時間として計測する。上記に代えて又は上記に加えてゲート駆動信号のOFFからONの状態に変化するタイミングを利用してもよい。その際に、例えば、Tcomの電位を基準にした場合の信号出力端子Toaの電圧V1と、これと同様に半導体スイッチング素子Qaの制御端子の電圧V2とを、その解析に利用するとよい。この信号出力端子Toaの電圧V1と、半導体スイッチング素子Qaの制御端子の電圧V2は、汎用の測定器を用いて測定された結果から取得してもよい。この場合、信号出力端子Toaの電圧V1と、半導体スイッチング素子Qaの制御端子の電圧V2を測定するためのセンサを、半導体スイッチ装置100に設けておく必要がないため、半導体スイッチ装置100のコスト軽減に有効である。
【0050】
さらに、これと同様にして、出力バッファ回路Dbが出力するゲート駆動信号(第2制御信号)の第2伝搬遅延時間を計測する(ステップSA22)。出力バッファ回路Dcが出力するゲート駆動信号と、出力バッファ回路Ddが出力するゲート駆動信号との伝搬遅延時間を計測する。
【0051】
次に、第1伝搬遅延時間と第2伝搬遅延時間を含む伝搬遅延時間に基づいて、半導体スイッチング素子QaからQdの各制御端子に到達するゲート駆動信号の状態変化のタイミングに差がなくなるように、調整部101TDの調整量を決定する(ステップSA24)。
【0052】
例えば、半導体スイッチング素子QaからQdの各制御端子に到達するゲート駆動信号の中で、最も遅くにゲート駆動信号が到達する傾向の半導体スイッチング素子のタイミングを基準にして、より早く到達している半導体スイッチング素子のゲート駆動信号が到達するタイミングを遅らせるように調整量が決定されるとよい。
【0053】
上記の半導体スイッチ装置100の製造工程の手順に従い、上記の調整量として所望の遅延時間を決定するとよい。上記の手順によって決定される所望のタイミングに、半導体スイッチQ1の導通の状態が遷移するようにゲート駆動信号を遅延させるための調整量を決定する。
【0054】
次に、図5Cを参照して、上記の手順によって決定された調整量に基づいて、半導体スイッチQ1のスイッチングタイミングが調整されえた半導体スイッチ装置100を製造するための製造工程について説明する。
【0055】
決定した調整量に基づいた遅延時間を、半導体スイッチ駆動装置101内の調整部101TDに設定する(ステップSB12)。上記の通り、半導体スイッチ駆動装置101は、例えば所望の遅延時間分の長さで信号を遅延させる遅延回路を含む。この調整部101TDの遅延時間を設定するためには、例えば所望の遅延時間を指定するデータを、遅延回路の遅延時間を指定するためのデータとして半導体スイッチ駆動装置101に書き込むとよい。これにより半導体スイッチ駆動装置101に、上記のデータに基づいた遅延回路が形成される。
【0056】
基盤に搭載されたソケットに、上記の半導体スイッチ駆動装置101を装着して、上記の基盤に実装する(ステップSB14)。上記の基盤にカバーを取り付けて(ステップSB16)、半導体スイッチ装置100の組み上げを終える。この後、半導体スイッチ装置100に対して、機能試験を含む検査を実施する(ステップSB18)。
【0057】
上記の手順に従い、半導体スイッチ装置100の製造を終える。
【0058】
図6は、実施形態のゲート駆動信号の波形を説明するための図である。図6(a)に調整前の状態(無調整状態という。)を示し、図6(b)に調整後の状態を示す。
【0059】
図6(a)の上段側から下段側に向けて、半導体スイッチQ1に供給されるゲートパルスGPregと、半導体スイッチング素子Qaの制御端子に供給されるゲート駆動信号SQagと、半導体スイッチング素子Qdの制御端子に供給されるゲート駆動信号SQdgとが、示されている。このタイミングチャートの横軸は、時間の経過を示す。
【0060】
時刻t11において、ゲートパルスGPregが立ち上がり、時刻t12において、ゲートパルスGPregが立ち下がる。
【0061】
Z101の入力バッファIBは、時刻t11にゲートパルスGPregが立ち上がりを検出する。入力バッファIBが時刻t11のゲートパルスGPregの立ち上がりを検出すると、Z101は、出力バッファ回路Daから、これに同期してゲート駆動信号SQagを出力する。ゲート駆動信号SQagの遅延時間を調整していない状態(無調整状態)にあるときには、Z101は、遅延量調整時間を0とする。遅延量調整時間とは、Z101ないを通過するときの遅延時間に、調整用に付加する時間である。
【0062】
上記の状態でゲート駆動信号SQagとゲート駆動信号SQdgとが出力されて、時刻t11Aに、ゲート駆動信号SQagの立ち上がりが検出され、時刻t11Dに、ゲート駆動信号SQdgの立ち上がりが検出される。同様に、時刻t12Aに、ゲート駆動信号SQagの立ち下がりが検出され、時刻t12Dに、ゲート駆動信号SQdgの立ち下がりが検出される。各ゲート駆動信号の波形は、各半導体スイッチング素子のゲート端子の位置で検出された各ゲート駆動信号の振幅を示す。
【0063】
この図6(a)に示すように、ゲート駆動信号SQdgは、ゲート駆動信号SQagに対して、遅延時間tofaほどの遅れが検出された。なお、ここで示す各ゲート駆動信号の波形は、各半導体スイッチング素子の要求特性に合わせて等価されたものであり、波形の形は適宜変更してよい。ゲート駆動信号の最も代表的な波形は、正の電圧の矩形波パルスであり、各半導体スイッチング素子をオフにする期間の電圧を負の電圧にバイアスさせてもよい。
【0064】
上記のように、ゲート駆動信号SQagとゲート駆動信号SQdgとに遅延時間tofaほどの遅れがあると、上記の通り半導体スイッチング素子QaとQdとがオン/オフする際のタイミングにばらつきが生じる。そこで、図6(b)に示すように、ゲート駆動信号SQagを遅らせて、この遅延時間が0になるように調整するとよい。さらに、上記のほか、ゲート駆動信号SQbgとゲート駆動信号SQcgについても、それぞれ遅らせて、それぞれの遅延時間が0になるように調整するとよい。
【0065】
上記のように調整することにより、複数の半導体スイッチング素子の各制御端子において、ゲート駆動信号SQagからゲート駆動信号SQdgの4つのゲート駆動信号の立ち上がりと立ち下がりのタイミングが揃う。これにより、主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子によってオン/オフ制御する主回路の電流を、より多くした半導体スイッチ装置100を製造できる。
【0066】
上記の実施形態によれば、基準にする1つのゲートパルス(GPreg)から半導体スイッチQ1とQ2に供給するゲート駆動信号SQagとゲート駆動信号SBを生成することができる。そのゲート駆動信号SQagとゲート駆動信号SBの位相を、共通のゲートパルスからの遅延時間を調整することで生成することで、半導体スイッチQ1とQ2に供給するゲート駆動信号SQagとゲート駆動信号SBが所望の波形になるように調整することができる。これにより、ゲートパルスの電圧跳ね上がりを抑えつつ、半導体スイッチのオン/オフ切り替えを速くして切り替えによる損失を抑えることができる。なお、上記の事例では、位相の調整について説明したが、所望の波形になるように振幅を調整してもよい。
【0067】
(実施形態の変形例)
実施形態の変形例について説明する。上記の実施形態において、クロックckの周期に基づいて遅延時間の調整可能な半導体スイッチ装置100について説明したが、これに制限されない。本変形例では、例えば、半導体スイッチ装置100内の信号の配線長、各信号の経路に設けるゲートの段数などを調整することによって、半導体スイッチ装置100内の遅延時間を調整可能に構成する。変形例の半導体スイッチ装置100は、クロックckの周期に基づいて遅延時間の調整に変えて、或いは、これに加えて、半導体スイッチ装置100内の信号の配線長、各信号の経路に設けるゲートの段数などを調整することにより、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、電力変換装置1は、複数の半導体スイッチング素子と、駆動装置とを備える。複数の半導体スイッチング素子は、主回路側が並列接続されている。駆動装置は、設定により複数の半導体スイッチング素子毎に互いに異なるタイミングで制御信号を出力可能とし、制御信号を半導体スイッチング素子に対して供給する。これにより、主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子のオン/オフのタイミングのばらつきを、より少なくすることができ、ひいては、主回路側が並列接続されている複数の半導体スイッチング素子によってオン/オフ制御する主回路の電流を、より多くすることができる。
【0069】
上記の制御装置20は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウエア機能部で実現してもよい。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0071】
例えば、半導体スイッチ装置100内の半導体スイッチング素子の個数は、2個以上であればよく、その個数に制限はない。
【符号の説明】
【0072】
1…電力変換装置、2…電動機(M)、10…インバータ、11、12、13…レグ、20…制御装置、101、103…半導体スイッチ駆動装置、100、102、104…半導体スイッチ装置、Qa、Qb、Qc、Qd…半導体スイッチング素子と、Da…出力バッファ回路(第1駆動部)、Db…出力バッファ回路(第2駆動部)、101TD…調整部、101a…遅延時間調整部(第1遅延時間調整部)、101b…遅延時間調整部(第2遅延時間調整部)
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6