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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145970
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20220928BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20220928BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220928BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20220928BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20220928BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20220928BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20220928BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220928BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20220928BHJP
   B60K 17/06 20060101ALI20220928BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20220928BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220928BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220928BHJP
   F16H 61/14 20060101ALI20220928BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220928BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20220928BHJP
   B60K 6/36 20071001ALN20220928BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/40
B60K6/48
B60K6/54
B60W10/10 900
B60W10/02 900
B60W10/30 900
B60W20/00
B60K17/04 G
B60K17/06 K
F16H59/66
F16H61/02
F16H63/50
F16H61/14 601B
B60L50/16
B60L1/00 L
B60K6/36 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019120300
(22)【出願日】2019-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】榊原 益穂
(72)【発明者】
【氏名】西谷 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小椋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】和田 賢介
(72)【発明者】
【氏名】永里 有
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 善雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】譚 国棟
【テーマコード(参考)】
3D039
3D202
3J053
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3D039AA04
3D039AA13
3D039AA20
3D039AB01
3D039AB27
3D039AC36
3D039AC54
3D039AD43
3D202AA08
3D202BB11
3D202BB28
3D202BB37
3D202BB46
3D202BB57
3D202BB61
3D202BB67
3D202CC14
3D202CC45
3D202CC71
3D202CC83
3D202DD00
3D202DD01
3D202DD04
3D202DD05
3D202DD06
3D202DD26
3D202DD33
3D202EE08
3D202EE19
3D202EE23
3D202FF04
3D202FF12
3D202FF13
3D202FF15
3J053CB09
3J053CB23
3J053CB24
3J053DA24
3J053DA26
3J053DA27
3J552MA01
3J552MA06
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB08
3J552PA26
3J552PA47
3J552PA59
3J552PA61
3J552QA06C
3J552QA30C
3J552QB07
3J552RB03
3J552RB22
3J552RB23
3J552RC02
3J552SA07
3J552SB04
3J552TB13
3J552UA02
3J552UA07
3J552VE04W
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BA09
5H125BE05
5H125DD01
5H125EE51
5H125EE70
(57)【要約】
【課題】アイドルストップ制御の実行中にオイルポンプの内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる車両用駆動装置を実現する。
【解決手段】アイドルストップ制御が行われている場合であって、第1オイルポンプ10の第1吸入口11と第2オイルポンプ20の第2吸入口21とを結ぶ対象方向Dが、第2吸入口21から第1吸入口11へ向かう側である対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、制御部は、変速機の状態を、回転電機の回転速度が出力部材の回転速度に拘束されない非拘束状態としつつ、第1オイルポンプ10が駆動されるように回転電機を回転させる傾斜時制御を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路に設けられた回転電機と、
前記動力伝達経路における前記回転電機と前記出力部材との間に設けられた変速機と、
前記回転電機及び前記変速機を収容するケースと、
前記ケースの下部に形成されて油を貯留する油貯留部と、
前記回転電機の回転に伴い駆動されて、前記変速機に油を供給する第1オイルポンプと、
前記動力伝達経路から独立したポンプ用駆動力源により駆動されて、前記変速機に油を供給する第2オイルポンプと、
前記回転電機、前記変速機、及び前記ポンプ用駆動力源の動作を制御する制御部と、を備え、
前記第1オイルポンプは、前記油貯留部の油を吸入する第1吸入口を備え、
前記第2オイルポンプは、前記油貯留部の油を吸入する第2吸入口を備え、
前記第1吸入口と前記第2吸入口とを結ぶ方向を対象方向とし、前記第2吸入口から前記第1吸入口へ向かう側を対象方向第1側として、
前記内燃機関のアイドルストップ制御が行われている場合であって、前記対象方向が、前記対象方向第1側に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、前記制御部は、前記変速機の状態を、前記回転電機の回転速度が前記出力部材の回転速度に拘束されない非拘束状態としつつ、前記第1オイルポンプが駆動されるように前記回転電機を回転させる傾斜時制御を実行する、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記内燃機関のアイドルストップ制御が行われている間、前記第2オイルポンプを駆動して前記第2オイルポンプから前記変速機に油を供給する油供給制御を実行する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記変速機は、流体継手を備え、
前記流体継手は、前記回転電機に駆動連結される入力側部材と、前記出力部材に駆動連結される出力側部材と、前記入力側部材と前記出力側部材とを直結する直結クラッチと、を備え、
前記制御部は、前記直結クラッチによる前記入力側部材と前記出力側部材との直結を解除することで、前記変速機の状態を前記非拘束状態とする、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記変速機は、前記回転電機と前記出力部材との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置を備え、
前記制御部は、前記摩擦係合装置を滑り係合状態又は解放状態に制御することで、前記変速機の状態を前記非拘束状態とする、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記回転電機、前記変速機、及び前記出力部材は、軸方向の一方側である軸方向第1側から記載の順に同軸上に配置され、
前記第1吸入口は、前記第2吸入口に対して前記軸方向第1側に配置され、
車体上下方向に沿う方向視で、前記軸方向が車体前後方向に沿い且つ前記軸方向第1側が車体の前側となる向きで、前記車体に取り付けられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記第1オイルポンプの吐出口である第1吐出口に接続された第1油路と、前記第2オイルポンプの吐出口である第2吐出口に接続された第2油路と、前記第1油路と前記第2油路とが合流して形成され、前記変速機に接続された第3油路と、を備え、
前記第1油路に、前記第3油路の側から前記第1吐出口の側への油の流動を規制する逆止弁が設けられている、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記傾斜時制御において、前記第1吐出口の側から前記逆止弁に供給される油圧が前記逆止弁の開弁圧以上となるように前記回転電機の回転速度を制御する、請求項6に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材と出力部材とを結ぶ動力伝達経路に設けられた変速機と、変速機に油を供給するオイルポンプと、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置の一例が、特開2002-47962号公報(特許文献1)や特開2007-113640号公報(特許文献2)に開示されている。以下、背景技術や課題の説明において括弧内に示す符号は参照する文献のものである。
【0003】
特許文献1に記載の車両用駆動装置は、歯車変速機部(6)に油を供給するオイルポンプとして、エンジン(2)からの動力により駆動されるオイルポンプ(16)と、電動オイルポンプ(18)とを備えている。この車両用駆動装置は、エンジン(2)の自動停止時には、電動オイルポンプ(18)を駆動して歯車変速機部(6)内のクラッチやブレーキを係合状態に維持することで、その後車両を発進させる際に良好な発進性能を得ることを可能としている。そして、この車両用駆動装置は、車両が所定角度以上傾斜している場合にはエンジン(2)の自動停止制御を禁止するように構成されている。これにより、電動オイルポンプ(18)がオイルパン(12)内の油を吸入することが困難となる程度に傾斜した状態で車両が停止している状況においては、エンジン(2)を停止させずにエンジン(2)からの動力によりオイルポンプ(16)を駆動することで、良好な発進性能を得ることを可能としている。
【0004】
特許文献2に記載の車両用駆動装置は、変速機(30)に油を供給するオイルポンプとして、エンジン(12)からの動力により駆動される機械式オイルポンプ(MOP)と、モータ(44)からの動力により駆動される電動オイルポンプ(EOP)とを備えている。そして、この車両用駆動装置は、エンジン(12)の運転停止に伴って機械式オイルポンプ(MOP)が停止しているときに、電動オイルポンプ(EOP)を作動させるように構成されている。特許文献2では、機械式オイルポンプ(MOP)の停止時にその内部やその周辺の油路にエアが混入することによって、その後機械式オイルポンプ(MOP)を作動させる際に吐出側の圧力を必要な圧力(具体的には、逆止弁を開弁させるのに必要な圧力)まで高めるのに長い時間を要することを課題としており、このような課題を解決するために、機械式オイルポンプ(MOP)の吐出ポート(68)に連通するエア抜き用の貫通孔(68a)を設けている。このような貫通孔(68a)を設けることで、停止状態の機械式オイルポンプ(MOP)を作動させる際にエアを貫通孔(68a)から排出して、吐出側の圧力を必要な圧力まで迅速に高めることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-47962号公報
【特許文献2】特開2007-113640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両用駆動装置において循環される油には、ギヤにより攪拌されること等によって気泡が混入するため、オイルポンプが吸入する油が貯留される油貯留部に、気泡が混入した油が存在する場合がある。そして、内燃機関のアイドルストップ制御の実行に伴い停止されているオイルポンプ(特許文献1でのオイルポンプ(16)、特許文献2での機械式オイルポンプ(MOP))の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まると、その後当該オイルポンプの駆動を再開した際に気泡を吸い込むことによって吐出圧の上昇の遅れを招くおそれがある。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、機械式オイルポンプ(MOP)の吐出ポート(68)に連通するエア抜き用の貫通孔(68a)を設けることでこのような問題の解決を図っているが、機械式オイルポンプ(MOP)の駆動中は常に当該貫通孔(68a)から油が排出されるため、機械式オイルポンプ(MOP)に要求される吐出容量が大きくなり効率が低下するおそれがある。一方、特許文献1にはこのような吐出圧の上昇の遅れの問題について記載されていないが、特許文献1のように車両が所定角度以上傾斜している場合にエンジン(2)の自動停止制御を禁止する場合、エンジン(2)への燃料供給を停止することができず、エネルギ効率が低下しやすい。
【0008】
そこで、アイドルストップ制御の実行中にオイルポンプの内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る車両用駆動装置は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路に設けられた回転電機と、前記動力伝達経路における前記回転電機と前記出力部材との間に設けられた変速機と、前記回転電機及び前記変速機を収容するケースと、前記ケースの下部に形成されて油を貯留する油貯留部と、前記回転電機の回転に伴い駆動されて、前記変速機に油を供給する第1オイルポンプと、前記動力伝達経路から独立したポンプ用駆動力源により駆動されて、前記変速機に油を供給する第2オイルポンプと、前記回転電機、前記変速機、及び前記ポンプ用駆動力源の動作を制御する制御部と、を備え、前記第1オイルポンプは、前記油貯留部の油を吸入する第1吸入口を備え、前記第2オイルポンプは、前記油貯留部の油を吸入する第2吸入口を備え、前記第1吸入口と前記第2吸入口とを結ぶ方向を対象方向とし、前記第2吸入口から前記第1吸入口へ向かう側を対象方向第1側として、前記内燃機関のアイドルストップ制御が行われている場合であって、前記対象方向が、前記対象方向第1側に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、前記制御部は、前記変速機の状態を、前記回転電機の回転速度が前記出力部材の回転速度に拘束されない非拘束状態としつつ、前記第1オイルポンプが駆動されるように前記回転電機を回転させる傾斜時制御を実行する。
【0010】
アイドルストップ制御の実行中に必要となる油圧を第1オイルポンプの駆動により発生させる必要がない場合には、アイドルストップ制御の実行中は、第1オイルポンプを停止させることができる。しかしながら、第1オイルポンプが停止された状態では、油貯留部の油に混入している気泡が、第1オイルポンプの内部やその周辺の油路に溜まるおそれがある。そして、多くの気泡が溜まった場合には、その後第1オイルポンプの駆動を再開した際に気泡を吸い込むことによって吐出圧の上昇に遅れが生じるおそれがある。このような吐出圧の上昇の遅れは、例えば、変速機に設けられた係合装置の係合動作の遅延を招き得る。
【0011】
気泡は油中を上方に向かって移動しやすいため、対象方向が、対象方向第1側に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して傾いている場合には、そうでない場合に比べて、第1オイルポンプの内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まりやすくなる。この点に鑑みて、本構成では、アイドルストップ制御が行われている場合であって、対象方向が上記の方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、傾斜時制御を実行して第1オイルポンプを駆動するように構成されている。このようにアイドルストップ制御の実行中に第1オイルポンプを駆動して油を流動させることで、第1オイルポンプの内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる。一方、対象方向が上記の方向に水平面に対して規定角度以上傾いていない場合には、第1オイルポンプの内部やその周辺の油路に多くの気泡は溜まりにくい。そこで、本構成ではこのような場合には傾斜時制御を実行しないことで、傾斜時制御を実行する場面を限定してエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0012】
なお、傾斜時制御では、回転電機を回転させることで第1オイルポンプを駆動するため、内燃機関への燃料供給を停止する制御(すなわち、アイドルストップ制御)を実行しながら第1オイルポンプを駆動することができる。また、傾斜時制御では、変速機の状態が非拘束状態とされるため、車速によらずに(すなわち、車両が停止している場合であっても)、回転電機を傾斜時制御における第1オイルポンプの駆動に適した回転速度で回転させることができる。
【0013】
車両用駆動装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る車両用駆動装置の模式図
図2】実施形態に係る車両用駆動装置の一部の断面図
図3】実施形態に係る油圧制御装置の模式図
図4】実施形態に係る制御部において実行される制御フローを示すフローチャート
図5】その他の実施形態に係る制御部において実行される制御フローを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
車両用駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明における各部材(車両用駆動装置1が備える各部材)についての方向は、それらが車両用駆動装置1に組み付けられた状態での方向を表す。なお、本明細書では、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。
【0016】
本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態や、当該2つの回転要素が1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0017】
また、本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0018】
また、本明細書では、摩擦係合装置が係合した状態である「係合状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量(トルク容量)が生じている状態(すなわち、摩擦係合装置がトルク容量を持っている状態)を意味する。伝達トルク容量は、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさであり、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧に比例して変化する。ここで、係合圧は、摩擦係合装置が備える一対の係合部材である入力側回転要素と出力側回転要素とを、相互に押し付け合う圧力である。「係合状態」には、一対の係合部材間(すなわち、入力側回転要素と出力側回転要素との間)に回転速度差(滑り)がない「直結係合状態」と、一対の係合部材間に回転速度差がある「滑り係合状態」とが含まれる。
【0019】
また、本明細書では、摩擦係合装置が解放した状態である「解放状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態を意味する。なお、摩擦係合装置には、制御部又は制御装置により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。本明細書では、このような引き摺りトルクは係合の状態の分類に際して考慮せず、伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合に係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じている状態(すなわち、引き摺りトルクが発生している状態)も「解放状態」に含める。
【0020】
図1に示すように、車両用駆動装置1は、内燃機関3に駆動連結される入力部材81と、車輪8に駆動連結される出力部材82と、入力部材81と出力部材82とを結ぶ動力伝達経路Pに設けられた回転電機4と、動力伝達経路Pにおける回転電機4と出力部材82との間に設けられた変速機5と、回転電機4及び変速機5を収容するケース70と、を備えている。内燃機関は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等)である。車両用駆動装置1は、車両100が備える車体2に取り付けられることで、当該車両100に搭載される。そして、車両用駆動装置1は、内燃機関3及び回転電機4の一方又は双方の出力トルクを出力部材82に伝達させて、車両用駆動装置1が搭載された車両100を走行させる。すなわち、車両用駆動装置1は、車輪8の駆動力源として内燃機関3及び回転電機4の双方を備えたハイブリッド車両用の駆動装置である。
【0021】
本実施形態では、入力部材81は、係合装置84を介して内燃機関3に連結される。具体的には、入力部材81は、係合装置84を介して、内燃機関3の出力部材(クランクシャフト等)である内燃機関出力部材3aに連結される。係合装置84は、内燃機関3と入力部材81との間での動力伝達を断接するように構成されている。係合装置84が係合した状態では、内燃機関3と入力部材81との連結が維持される。また、係合装置84が解放した状態では、内燃機関3と入力部材81との連結が解除され、内燃機関3は車輪8から切り離された状態となる。本実施形態では、係合装置84は、供給される油圧に応じて動作する油圧駆動部(油圧サーボ機構等)を備えた、油圧駆動式の係合装置であり、当該油圧駆動部に供給される油圧に応じて、係合装置84の係合の状態が制御される。係合装置84として、例えば摩擦係合装置を用いることができる。
【0022】
本実施形態では、回転電機4は、入力部材81と一体的に回転するように連結されている。すなわち、回転電機4は、動力伝達経路Pの一端を構成する入力部材81に連結されることで、動力伝達経路Pに設けられている。回転電機4は、ケース70に固定されるステータ4aと、ステータ4aに対して回転可能にケース70に支持されるロータ4bと、を備えている。そして、ロータ4bが、入力部材81と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、回転電機4は、3相交流(多相交流の一例)で駆動される交流回転電機である。回転電機4は、直流電力と交流電力との間の電力変換を行うインバータ装置を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置と電気的に接続されており、蓄電装置から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関3の出力トルクや車両100の慣性力等により発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。図1に示す例では、回転電機4はインナロータ型の回転電機であり、ロータ4bはステータ4aに対して径方向内側に配置されている。
【0023】
変速機5は、入力部材81の側から入力される回転を変速して出力部材82の側に出力する変速機構50を備えている。入力部材81の側から変速機構50に回転を入力するための部材を変速入力部材とし、出力部材82の側に変速機構50から回転を出力するための部材を変速出力部材とすると、変速機構50は、変速出力部材の回転速度に対する変速入力部材の回転速度の比である変速比を、段階的に或いは無段階に変更可能に構成される。変速機構50は、変速入力部材の回転を現時点での変速比で変速して、変速出力部材に伝達する。変速入力部材は、入力部材81とされ、又は、変速機構50を介さずに入力部材81に駆動連結される回転部材とされる。また、変速出力部材は、出力部材82とされ、又は、変速機構50を介さずに出力部材82に駆動連結される回転部材とされる。本実施形態では、後述する中間部材83が変速入力部材とされ、出力部材82が変速出力部材とされている。
【0024】
本実施形態では、変速機構50は、変速用係合装置51を備えており、変速用係合装置51の係合の状態に応じて変速比を変更可能に構成されている。例えば、変速機構50が複数の変速用係合装置51を備え、係合される変速用係合装置51の組み合わせ(例えば、2つの変速用係合装置51の組み合わせ)に応じた変速段が変速機構50において形成される構成とすることができる。変速用係合装置51は、クラッチ又はブレーキとされる。なお、変速機構50が、ワンウェイクラッチを更に備えていてもよい。本実施形態では、変速用係合装置51は摩擦係合装置である。すなわち、本実施形態では、変速機5は、回転電機4と出力部材82との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置として、変速用係合装置51を備えている。本実施形態では、変速用係合装置51は、供給される油圧に応じて動作する油圧駆動部(油圧サーボ機構等)を備えた、油圧駆動式の係合装置であり、当該油圧駆動部に供給される油圧に応じて、変速用係合装置51の係合の状態が制御される。
【0025】
本実施形態では、変速機5は、流体継手6を備えている。流体継手6は、動力伝達経路Pにおける回転電機4と変速機構50との間に(言い換えれば、動力伝達経路Pにおける変速機構50よりも入力部材81の側に)設けられている。流体継手6は、回転電機4に駆動連結される入力側部材60と、出力部材82に駆動連結される出力側部材61と、入力側部材60と出力側部材61とを直結する直結クラッチ62と、を備えている。本実施形態では、流体継手6はトルクコンバータである。流体継手6は、回転電機4の側からポンプインペラとしての入力側部材60に入力されるトルクを増幅して、タービンランナとしての出力側部材61から出力部材82の側に出力する。本実施形態では、直結クラッチ62は、油圧駆動式のクラッチである。直結クラッチ62として、例えば摩擦係合装置を用いることができる。
【0026】
本実施形態では、入力側部材60は、入力部材81と一体的に回転するように連結されている。上述したように、回転電機4も入力部材81と一体的に回転するように連結されている。よって、入力側部材60は、回転電機4と一体的に回転するように連結されている。また、本実施形態では、出力側部材61は、中間部材83と一体的に回転するように連結されている。中間部材83は、変速機構50の変速入力部材として機能する部材であり、出力側部材61は、変速機構50を介して出力部材82に駆動連結されている。
【0027】
本実施形態では、出力部材82は、出力用差動歯車装置85を介して左右一対の車輪8(例えば、左右一対の前輪、又は左右一対の後輪)に駆動連結される。出力用差動歯車装置85は、例えば、傘歯車式又は遊星歯車式の差動歯車機構を用いて構成され、出力部材82の側から入力される回転及びトルクを、左右一対の車輪8に分配して伝達する。車両用駆動装置1は、内燃機関3及び回転電機4の一方又は双方の出力トルクを左右一対の車輪8に伝達させて、車両100を走行させる。
【0028】
本実施形態では、回転電機4、変速機5、及び出力部材82が、軸方向Aの一方側である軸方向第1側A1から記載の順に同軸上に配置されている。以下では、軸方向Aの他方側(すなわち、軸方向Aにおける軸方向第1側A1とは反対側)を、軸方向第2側A2とする。上述したように、本実施形態では、変速機5が、流体継手6と変速機構50とを備えており、流体継手6及び変速機構50が、軸方向第1側A1から記載の順に同軸上に配置されている。本実施形態では、車両用駆動装置1は、内燃機関3に対して軸方向第2側A2に配置されており、ケース70は、内燃機関3に対して軸方向第2側A2から固定される。
【0029】
本実施形態では、図1に示すように、車両用駆動装置1は、車体上下方向V(図2参照)に沿う方向視で、軸方向Aが車体前後方向Lに沿い且つ軸方向第1側A1が車体2の前側L1(車体前後方向Lの前側)となる向きで、車体2に取り付けられている。図2に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置1は、軸方向第1側A1に向かうに従って上側V1(車体上下方向Vの上側)に向かうように傾斜した状態で、車体2に取り付けられている。そして、本実施形態では、出力部材82は、出力用差動歯車装置85を介して左右一対の後輪に駆動連結される。すなわち、本実施形態の車両用駆動装置1は、車両100の後輪を駆動する後輪駆動ユニットとされている。以下では、後側L2は、車体前後方向Lの後側を意味し、下側V2は、車体上下方向Vの下側を意味する。
【0030】
車体上下方向V、車体前後方向L、及び、後述する車体左右方向Wは、互いに直交する3つの方向であり、車体2を基準として定義される。一方、軸方向A及び後述する対象方向Dは、車両用駆動装置1を基準として定義される。車体上下方向V、車体前後方向L、及び、車体左右方向Wは、車体2の向きに応じて変化するが、車両用駆動装置1は車体2に取り付けられているため、軸方向A及び対象方向Dも、車体2の向きに応じて変化する。車両100が平坦路(水平面に沿う道路)に位置している状態では、車体上下方向Vは鉛直方向に沿う方向となり、車体前後方向L及び車体左右方向Wは水平面に沿う方向となる。以下では、車両用駆動装置1が車体2に取り付けられた状態を想定して、車体2を基準として定義される方向を用いて車両用駆動装置1の構成を説明する。
【0031】
図2に示すように、車両用駆動装置1は、ケース70の下部(下側V2の部分)に形成されて油を貯留する油貯留部71を備えている。油貯留部71は、ケース70における変速機5等の収容空間Sに対して下側V2に形成されている。本実施形態では、ケース70の下部にオイルパン72が固定されており、オイルパン72を用いて油貯留部71が形成されている。図1及び図3に示すように、車両用駆動装置1は、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20を備えており、油貯留部71には、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20が吸入する油が貯留される。本実施形態では、第2オイルポンプ20の吐出容量は、第1オイルポンプ10の吐出容量よりも小さい。なお、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20として、例えば、内接歯車ポンプ、外接歯車ポンプ、ベーンポンプ等を用いることができる。
【0032】
第1オイルポンプ10は、回転電機4の回転に伴い駆動されて、変速機5に油を供給するオイルポンプである。第1オイルポンプ10は、いわゆる機械式オイルポンプである。第1オイルポンプ10が吐出した油は、変速機5だけでなく、回転電機4や流体継手6に供給されてもよい。図2に示すように、第1オイルポンプ10は、油貯留部71の油を吸入する第1吸入口11を備えている。第1オイルポンプ10は、第1吸入口11を介して油貯留部71の油を吸入して油圧を発生させる。
【0033】
図1に示すように、本実施形態では、第1オイルポンプ10は、回転電機4と同軸上に配置されている。そして、第1オイルポンプ10の駆動軸10aが、流体継手6の入力側部材60と一体的に回転するように連結されている。上述したように入力側部材60は入力部材81と一体的に回転するように連結されているため、第1オイルポンプ10の駆動軸10aは、入力部材81と一体的に回転するように(すなわち、回転電機4と一体的に回転するように)連結されている。このように第1オイルポンプ10と回転電機4とが連結されているため、本実施形態では、第1オイルポンプ10の回転速度は、常に、回転電機4の回転速度に比例する。
【0034】
第2オイルポンプ20は、動力伝達経路Pから独立したポンプ用駆動力源7により駆動されて、変速機5に油を供給するオイルポンプである。本実施形態では、ポンプ用駆動力源7は、電動モータである。すなわち、本実施形態では、第2オイルポンプ20は、いわゆる電動オイルポンプである。第2オイルポンプ20が吐出した油は、変速機5だけでなく、回転電機4や流体継手6に供給されてもよい。図2に示すように、第2オイルポンプ20は、油貯留部71の油を吸入する第2吸入口21を備えている。第2オイルポンプ20は、第2吸入口21を介して油貯留部71の油を吸入して油圧を発生させる。
【0035】
車両用駆動装置1は、ストレーナ73を備えている。ストレーナ73は、油に含まれる異物を除去するための濾過器である。図2に示すように、ストレーナ73は、油貯留部71に配置されている。そして、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20は、ストレーナ73を介して油貯留部71の油を吸入する。すなわち、本実施形態では、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20は、共通のストレーナ73を介して油貯留部71の油を吸入する。
【0036】
図2に示すように、ストレーナ73は、互いに接合される上側ハウジング73aと下側ハウジング73bとを備えている。上側ハウジング73aは、下側ハウジング73bに対して上側V1から接合されている。図示は省略するが、上側ハウジング73aと下側ハウジング73bとにより形成されるハウジング内(すなわち、ストレーナ73の内部)に、油を濾過するスクリーン(濾材)が収容されている。
【0037】
下側ハウジング73bには、油をストレーナ73の内部に流入させるための流入口93が、下側V2に向かって開口するように形成されている。ここで、「下側V2に向かって開口する」とは、流入口93からストレーナ73の外側へ向かう開口方向が、下側V2に向かう成分を有することを意味する。また、上側ハウジング73aには、油をストレーナ73の外部に流出させるための2つの流出口(第1流出口91及び第2流出口92)が、上側V1に向かって開口するように形成されている。ここで、「上側V1に向かって開口する」とは、流出口からストレーナ73の外側へ向かう開口方向が、上側V1に向かう成分を有することを意味する。図2に示すように、本実施形態では、第1流出口91は、第2流出口92よりも上側V1に配置されている。そして、上側ハウジング73aにおける第1流出口91と第2流出口92とを接続する部分は、前側L1に向かうに従って上側V1に向かうように車体前後方向Lに対して傾斜している。
【0038】
第1吸入口11は、第1流出口91に接続され、第2吸入口21は、第2流出口92に接続されている。本実施形態では、第1吸入口11(具体的には、第1吸入口11における第1流出口91との接続部)は、第2吸入口21(具体的には、第2吸入口21における第2流出口92との接続部)よりも上側V1に配置されている。そして、図2及び図3に示すように、第1流出口91から第1吸入口11に流入した油は、第1吸入口11と第1オイルポンプ10のポンプ室とを接続する第4油路34を介して、第1オイルポンプ10のポンプ室に流入する。すなわち、本実施形態では、ストレーナ73と第1オイルポンプ10のポンプ室とを接続する油路(第4油路34)におけるストレーナ73側の端部(上流側の端部)が、第1吸入口11を構成している。また、第2流出口92から第2吸入口21に流入した油は、第2吸入口21と第2オイルポンプ20のポンプ室とを接続する第5油路35を介して、第2オイルポンプ20のポンプ室に流入する。すなわち、本実施形態では、ストレーナ73と第2オイルポンプ20のポンプ室とを接続する油路(第5油路35)におけるストレーナ73側の端部(上流側の端部)が、第2吸入口21を構成している。
【0039】
ここで、図2に示すように、第1吸入口11と第2吸入口21とを結ぶ方向を対象方向Dとし、第2吸入口21から第1吸入口11へ向かう側を対象方向第1側D1、第1吸入口11から第2吸入口21へ向かう側を対象方向第2側D2とする。すなわち、対象方向第1側D1は、対象方向Dの一方側(具体的には、対象方向Dに沿って第2吸入口21から第1吸入口11へ向かう側)であり、対象方向第2側D2は、対象方向Dの他方側(具体的には、対象方向Dに沿って第1吸入口11から第2吸入口21へ向かう側)である。本実施形態では、対象方向Dを、車両用駆動装置1が車体2に取り付けられた状態で車体上下方向Vに直交する面(車両用駆動装置1を基準として定義される面)に沿って、第1吸入口11と第2吸入口21とを結ぶ方向としている。言い換えれば、車両用駆動装置1が車体2に取り付けられた状態で車体上下方向Vに沿う方向(車両用駆動装置1を基準として定義される方向)を装置上下方向として、対象方向Dを、装置上下方向に沿う方向視で第1吸入口11と第2吸入口21とを結ぶ方向であって、装置上下方向に直交する方向としている。すなわち、対象方向Dは、第1吸入口11及び第2吸入口21の装置上下方向の位置を考慮せずに定義される。車両用駆動装置1は、車両用駆動装置1を基準として定義される対象方向Dが、車体上下方向Vに直交する方向となる向きで、車体2に取り付けられる。
【0040】
図2に示すように、本実施形態では、第1吸入口11は、第2吸入口21に対して軸方向第1側A1に配置されている。すなわち、対象方向第1側D1に向かう方向(ベクトル)は、軸方向第1側A1に向かう成分を有する。このように第1吸入口11が第2吸入口21に対して軸方向第1側A1に配置されているため、本実施形態では、第1流出口91は、第2流出口92に対して軸方向第1側A1に配置されている。上述したように、本実施形態では、車両用駆動装置1は、軸方向第1側A1が前側L1となる向きで、車体2に取り付けられている。よって、本実施形態では、第1吸入口11は、第2吸入口21に対して前側L1に配置されている。すなわち、本実施形態では、対象方向第1側D1に向かう方向は、前側L1に向かう成分を有する。なお、車体上下方向Vに沿う方向視での軸方向Aと対象方向Dとの交差角(或いは、車体前後方向Lと対象方向Dとの交差角)は、第1吸入口11と第2吸入口21との車体左右方向Wの位置関係に応じて変化する。例えば、第1吸入口11と第2吸入口21とが車体左右方向Wの同じ位置に配置される場合には、車体上下方向Vに沿う方向視での軸方向Aと対象方向Dとの交差角(或いは、車体前後方向Lと対象方向Dとの交差角)は0度となる。
【0041】
図1に示すように、車両用駆動装置1は、油圧制御装置30を備えている。油圧制御装置30は、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20から吐出された油の油圧を制御して、車両用駆動装置1の各部(変速機5等)に供給する。図3に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置1(具体的には、油圧制御装置30)は、上述した第4油路34及び第5油路35に加えて、第1油路31、第2油路32、第3油路33、第6油路36、及び第7油路37を備えている。
【0042】
第1油路31は、第1オイルポンプ10の吐出口である第1吐出口12に接続された油路である。第2油路32は、第2オイルポンプ20の吐出口である第2吐出口22に接続された油路である。第3油路33は、第1油路31と第2油路32とが合流して形成され、変速機5(具体的には、油圧駆動部45)に接続された油路である。本実施形態では、油圧駆動部45には、変速機5に設けられた係合装置の油圧駆動部が含まれ、具体的には、変速用係合装置51の油圧駆動部が含まれる。また、本実施形態では、油圧駆動部45には、係合装置84の油圧駆動部も含まれる。第3油路33には、複数の制御弁(リニアソレノイド弁等)が設けられており、これら複数の制御弁の状態を制御することで、油圧駆動部45のそれぞれに対する油圧の供給状態が制御される。第6油路36は、車両用駆動装置1における潤滑必要部位46に接続された油路である。潤滑必要部位46には、車両用駆動装置1が備えるギヤ、軸受、回転電機4等が含まれ、第6油路36から供給される油によって、これらの潤滑や冷却が行われる。第7油路37は、後述するライン圧調整弁43による調圧に伴うドレン油を、第4油路34や第5油路35に(すなわち、ストレーナ73よりも下流側に)戻す油路である。
【0043】
車両用駆動装置1(具体的には、油圧制御装置30)は、更に、第1逆止弁41と、第2逆止弁42と、ライン圧調整弁43と、リリーフ弁44と、を備えている。第1逆止弁41は、第1油路31に設けられており、第3油路33の側から第1吐出口12の側への油の流動を規制する。すなわち、第1逆止弁41は、第1油路31と第2油路32との合流部40の側から第1吐出口12の側への油の流動を規制する。第2逆止弁42は、第2油路32に設けられており、第3油路33の側から第2吐出口22の側への油の流動を規制する。すなわち、第2逆止弁42は、合流部40の側から第2吐出口22の側への油の流動を規制する。本実施形態では、第1逆止弁41が「逆止弁」に相当する。
【0044】
ライン圧調整弁43は、合流部40の油圧をライン圧に調整する弁である。合流部40の油圧がライン圧に調整されることで、上流側の端部が合流部40に接続された第3油路33の油圧もライン圧に調整される。ライン圧調整弁43は、合流部40の油の一部(余剰油)を、第6油路36と第7油路37とに排出することで、合流部40の油圧をライン圧に調整する。ライン圧調整弁43は、リニアソレノイド弁(図示せず)から供給される油圧を信号圧としてライン圧を生成する。リリーフ弁44は、合流部40における油圧が過剰となった場合に油の一部を排出して合流部40の油圧を調整する弁である。
【0045】
流体継手6が備える直結クラッチ62が、油圧駆動部に供給される油圧に応じて係合の状態が制御されるように構成される場合には、第3油路33に接続される油圧駆動部45に、直結クラッチ62の油圧駆動部が含まれる構成とすることができる。また、流体継手6が係合側油室と解放側油室とを備え、直結クラッチ62の係合の状態が、係合側油室内の油圧と解放側油室内の油圧との差圧に応じて(すなわち、流体継手6内の油圧の循環方向に応じて)制御される構成とすることもできる。この場合、直結クラッチ62に対する油圧の供給を、第3油路33ではなく第6油路36から行ってもよい。具体的には、第6油路36の油圧をライン圧よりも低いセカンダリ圧に調整する調整弁を設け、セカンダリ圧の油が流体継手6に供給される構成とすることができる。この場合、例えば、第6油路36と流体継手6とを接続する油路に設けられた弁(切替弁等)を用いて、流体継手6内の油圧の循環方向を切り替えることができる。このように第6油路36の油圧をセカンダリ圧に調整する調整弁が設けられる場合、当該調整弁からドレンされた油が潤滑必要部位46に供給される構成とすることができる。
【0046】
図1に示すように、車両用駆動装置1は、回転電機4、変速機5、及びポンプ用駆動力源7の動作を制御する制御部9を備えている。制御部9は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の当該演算処理装置が参照可能な記憶装置を備えている。そして、ROM等の記憶装置に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御部9の各機能が実現される。制御部9が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。なお、制御部9が、1つのハードウェアではなく、互いに通信可能な複数のハードウェア(複数の分離したハードウェア)の集合によって構成されてもよい。また、制御部9は、本明細書で説明する各機能のうちの少なくとも後述する油供給制御及び傾斜時制御を実行する機能を有していればよく、それ以外の機能は制御部9とは別の制御装置(例えば、制御部9の上位の制御装置や、当該上位の制御装置から指令を受ける他の制御装置)が有する構成としてもよい。例えば、内燃機関3を制御する機能は、制御部9ではなく、他の制御装置(内燃機関制御装置)が有していてもよい。
【0047】
制御部9は、車両100に備えられた各種センサの検出情報(センサ検出情報)を取得可能に構成されている。センサ検出情報には、例えば、アクセル開度の情報、車速の情報、ブレーキ操作量の情報、操舵角の情報、蓄電装置の充電状態又は蓄電量の情報が含まれる。そして、制御部9は、制御マップを参照する等して、センサ検出情報に基づき、入力部材81の側から出力部材82に伝達することが要求されるトルクである要求トルクを決定すると共に、走行モードや変速機5において実現すべき状態を決定する。ここで、走行モードには、電動走行モードとハイブリッド走行モードとが含まれる。電動走行モードは、係合装置84が解放した状態で、回転電機4の出力トルクを出力部材82に伝達させて車両100を走行させる走行モードである。また、ハイブリッド走行モードは、係合装置84が係合した状態で、内燃機関3及び回転電機4の双方の出力トルクを出力部材82に伝達させて車両100を走行させるモードである。
【0048】
制御部9は、決定した要求トルクに基づき、内燃機関3と回転電機4とのトルク分担割合を考慮して、内燃機関要求トルクと回転電機要求トルクとを決定する。そして、制御部9は、内燃機関要求トルクを出力するように内燃機関3を制御する。制御部9は、停止中の内燃機関3を始動させる場合には、内燃機関3への燃料供給や点火を開始する等して内燃機関3を始動させる。制御部9は、燃焼運転中の内燃機関3を停止させる場合には、内燃機関3への燃料供給や点火を停止する等して内燃機関3を停止させる。また、制御部9は、回転電機要求トルクを出力するように回転電機4を制御する。ここでは、制御部9は、インバータ装置を介して回転電機4を制御する。
【0049】
制御部9は、決定した走行モードを実現するように、係合装置84の係合の状態を制御する。電動走行モードの実行中は、係合装置84は解放状態となるように制御され、ハイブリッド走行モードの実行中は、係合装置84は係合状態(基本的に、直結係合状態)となるように制御される。また、制御部9は、変速機5において実現すべき状態として決定された状態を実現するように、変速機5の状態(ここでは、流体継手6の状態、及び変速機構50の状態)を制御する。流体継手6の状態の制御には、直結クラッチ62の係合の状態の制御が含まれ、変速機構50の状態の制御には、例えば目標変速段を形成するための、変速用係合装置51の係合の状態の制御が含まれる。制御部9は、油圧制御装置30を介して、係合装置84の係合の状態、直結クラッチ62の係合の状態、及び、変速用係合装置51の係合の状態を制御する。制御部9は、油圧制御装置30が備える制御弁(リニアソレノイド弁等)のそれぞれに対する電力の供給状態(通電状態)を制御することで、各係合装置の係合の状態を制御する。
【0050】
また、制御部9は、ポンプ用駆動力源7の駆動を制御することで、第2オイルポンプ20を駆動する。上述したように、本実施形態では、ポンプ用駆動力源7は電動モータである。ポンプ用駆動力源7として、例えば、3相交流で駆動される交流回転電機を用いることができ、この場合、制御部9は、インバータ装置を介してポンプ用駆動力源7を制御する。本実施形態では、制御部9は、第1オイルポンプ10が停止している場合や、第1オイルポンプ10の回転速度が規定値以下である場合に、第2オイルポンプ20を駆動するように構成されている。
【0051】
本実施形態では、制御部9は、アイドルストップ制御(内燃機関3のアイドルストップ制御)が行われている間、第2オイルポンプ20を駆動して第2オイルポンプ20から変速機5に油を供給する油供給制御を実行するように構成されている。なお、制御部9が、車両100が停止中であることを条件に、又は、車速が規定速度未満であることを条件に、油供給制御を実行する構成としてもよい。アイドルストップ制御の実行中は、内燃機関3への燃料供給や点火が停止されることで、内燃機関3は停止状態に維持される。このようにアイドルストップ制御が行われている間、油供給制御を実行することで、第1オイルポンプ10が停止している場合であっても、変速機5において必要となる油圧を発生させることができる。本実施形態では、変速機構50は、油圧が供給されない場合にニュートラル状態(トルクの伝達を行わない状態)となるように構成されており、油供給制御では、例えば、変速用係合装置51(例えば、最大変速比の変速段を形成するための変速用係合装置51)の係合圧が待機圧に維持されるように、第2オイルポンプ20から変速機5に油を供給する。ここで、待機圧は、変速用係合装置51を係合させる際の本係合前の待機中における係合圧であり、例えば、ストロークエンド圧に応じた係合圧とされる。
【0052】
アイドルストップ制御の実行中は、第1オイルポンプ10を停止させることができるが、第1オイルポンプ10が停止された状態では、油貯留部71の油に混入している気泡が、第1オイルポンプ10の内部(ポンプ室の内部)やその周辺の油路(ここでは、第1油路31における第1逆止弁41より第1吐出口12側の部分や、第4油路34)に溜まるおそれがある。そして、気泡は油中を上方に向かって移動しやすいため、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して傾いている場合には、そうでない場合に比べて、第1オイルポンプ10の内部やその周辺の油路に気泡が溜まりやすくなる。上述したように、本実施形態では、対象方向第1側D1に向かう方向は、車体2の前側L1に向かう成分を有するため、車両100が登坂路に位置している場合に、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して傾斜する状況となる。
【0053】
この点に鑑みて、アイドルストップ制御が行われている場合であって、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向(言い換えれば、対象方向第1側D1が対象方向第2側D2より高くなる方向)に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、制御部9は、傾斜時制御を実行するように構成されている。なお、制御部9が、車両100が停止中であることを条件に、又は、車速が規定速度未満であることを条件に、傾斜時制御を実行する構成としてもよい。ここで、傾斜時制御は、変速機5の状態を、回転電機4の回転速度が出力部材82の回転速度に拘束されない非拘束状態としつつ、第1オイルポンプ10が駆動されるように回転電機4を回転させる制御である。このような傾斜時制御を実行して、第1オイルポンプ10を駆動して油を流動させることで、第1オイルポンプ10の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる。この結果、車両100の停止中にアイドルストップ制御が行われている状態から車両100を発進させる際に(例えば、回転電機4の駆動力により車両100を発進させる際に)、変速用係合装置51の係合圧を適切に確保することができる吐出圧まで、第1オイルポンプ10の吐出圧を迅速に高めることができる。
【0054】
傾斜時制御では、変速機5の状態が非拘束状態とされるため、車速によらずに(すなわち、車両100が停止している場合であっても)、回転電機4を、傾斜時制御における第1オイルポンプ10の駆動に適した回転速度で回転させることができる。本実施形態では、制御部9は、傾斜時制御において、第1吐出口12の側から第1逆止弁41に供給される油圧が第1逆止弁41の開弁圧以上となるように、回転電機4の回転速度を制御するように構成されている。傾斜時制御に要する消費エネルギの低減の観点から、傾斜時制御における回転電機4の回転速度を、第1吐出口12の側から第1逆止弁41に供給される油圧が第1逆止弁41の開弁圧となる回転速度に合わせると好適である。なお、傾斜時制御において第1オイルポンプ10を連続的に駆動し続ける必要はなく、例えば、第1オイルポンプ10を駆動する期間と第1オイルポンプ10を停止する期間とが繰り返し現れるように、傾斜時制御において回転電機4を回転させてもよい。
【0055】
本実施形態では、制御部9は、直結クラッチ62による入力側部材60と出力側部材61との直結を解除することで、変速機5の状態を非拘束状態とするように構成されている。すなわち、制御部9は、直結クラッチ62を解放状態又は滑り係合状態に制御することで、変速機5の状態を非拘束状態とする。なお、制御部9は、アイドルストップ制御の実行中は、直結クラッチ62による入力側部材60と出力側部材61との直結を解除するように構成されている。そのため、本実施形態では、油供給制御の実行中は、傾斜時制御の実行の有無にかかわらず、変速機5の状態は非拘束状態とされる。また、本実施形態では、制御部9は、油供給制御の実行中は、傾斜時制御の実行の有無にかかわらず、係合装置84を解放状態に制御するように構成されている。
【0056】
図4に示すように、制御部9は、アイドルストップ制御が実行される場合に(ステップ#01:Yes)、油供給制御を実行する(ステップ#02)。そして、制御部9は、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には(ステップ#03:Yes)、傾斜時制御を実行する(ステップ#04)。すなわち、制御部9は、油供給制御中に傾斜時制御を実行する。一方、制御部9は、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いていない場合には(ステップ#03:No)、傾斜時制御を実行しない(すなわち、油供給制御中に傾斜時制御を実行しない)。なお、油供給制御は、例えば、車両100を発進或いは加速させる運転操作が行われて、変速機5において必要となる油圧を第1オイルポンプ10の駆動により発生させることが可能な回転速度まで、第1オイルポンプ10の回転速度が上昇すると、終了される。
【0057】
アイドルストップ制御を実行するか否かの判断が、制御部9で行われない場合には、制御部9は、別の制御装置(例えば、上記の判断を行う制御装置)から取得した情報に基づき、ステップ#01の判定を行う。例えば、車速が規定速度未満であり、アクセル開度がゼロであり、操舵角が規定角度未満であり、且つ、ブレーキ操作がなされている場合に、アイドルストップ制御を実行すると判断される。
【0058】
図1に示すように、本実施形態では、制御部9は、車体2の傾きを検出する傾斜センサ86の検出情報を取得可能に構成されている。対象方向Dの水平面に対する傾斜方向及び傾斜角度は、車体2の水平面に対する傾斜方向及び傾斜角度に応じて定まるため、制御部9は、傾斜センサ86の検出情報に基づき、ステップ#03の判定を行う。なお、制御部9が、傾斜センサ86の検出情報に基づかずに車体2の傾きを検出する構成としてもよい。車体2の傾きは路面の勾配に応じて定まるため、例えば、制御部9が、地図情報に基づき車体2の傾きを検出する構成とすることができる。
【0059】
〔その他の実施形態〕
次に、車両用駆動装置のその他の実施形態について説明する。
【0060】
(1)上記の実施形態では、制御部9が、アイドルストップ制御が行われている間、油供給制御(第2オイルポンプ20による油供給制御、以下同様)を実行する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、制御部9が、アイドルストップ制御が行われている場合であって、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いていない場合に(すなわち、傾斜時制御を実行しない場合に)、油供給制御を実行する構成とすることもできる。この場合、例えば、傾斜時制御の実行中は、第2オイルポンプ20が停止されると共に、第1オイルポンプ10の回転速度が、変速機5において必要となる油圧を第1オイルポンプ10の駆動により発生させることが可能な回転速度となるように制御される。すなわち、制御部9は、第1オイルポンプ10を駆動して第1オイルポンプ10から変速機5に油を供給する。
【0061】
図5に示す例を参照して説明すると、制御部9は、アイドルストップ制御が実行される場合であって(ステップ#10:Yes)、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には(ステップ#11:Yes)、傾斜時制御を実行する(ステップ#12)。すなわち、制御部9は、油供給制御は実行せずに傾斜時制御を実行する。一方、制御部9は、アイドルストップ制御が実行される場合であって(ステップ#10:Yes)、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いていない場合には(ステップ#11:No)、油供給制御を実行する(ステップ#13)。
【0062】
(2)上記の実施形態では、制御部9が、直結クラッチ62による入力側部材60と出力側部材61との直結を解除することで、変速機5の状態を非拘束状態とする構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、制御部9が、回転電機4と出力部材82との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置(上記実施形態の例では、変速用係合装置51)を滑り係合状態又は解放状態に制御することで、変速機5の状態を非拘束状態とする構成とすることもできる。このような場合等において、制御部9が、油供給制御中に傾斜時制御を実行する場合にのみ、変速機5の状態を非拘束状態とする構成としてもよい。
【0063】
(3)上記の実施形態では、変速機5が流体継手6を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、変速機5が流体継手6を備えない構成とすることもできる。この場合、上記のように、変速用係合装置51を滑り係合状態又は解放状態に制御することで、制御部9が変速機5の状態を非拘束状態とする構成とすることができる。なお、変速機5が流体継手6を備えない場合に、入力部材81が変速機構50の変速入力部材とされる構成ではなく、入力部材81と中間部材83との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置(回転電機4と出力部材82との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置の一例)が設けられる構成とすることもできる。この場合、制御部9が当該摩擦係合装置を滑り係合状態又は解放状態に制御することで、変速機5の状態を非拘束状態とする構成とすることができる。
【0064】
(4)上記の実施形態では、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ20が、共通のストレーナ73を介して油貯留部71の油を吸入する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1オイルポンプ10が油貯留部71から吸入する油を濾過するためのストレーナと、第2オイルポンプ20が油貯留部71から吸入する油を濾過するためのストレーナとが、各別に設けられる構成とすることもできる。
【0065】
(5)上記の実施形態では、第1オイルポンプ10が、回転電機4と同軸上に配置される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1オイルポンプ10が回転電機4とは別軸に配置される構成とすることもできる。この場合、回転電機4と同軸に配置された回転部材(例えば、入力部材81)と第1オイルポンプ10の駆動軸10aとが、ギヤ機構を介して連結され、或いは、巻掛伝動機構(チェーンとスプロケットとを用いた機構、ベルトとプーリとを用いた機構等)を介して連結される構成とすることができる。
【0066】
(6)上記の実施形態では、第1オイルポンプ10の回転速度が、常に、回転電機4の回転速度に比例する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第1オイルポンプ10が、内燃機関3から伝達される回転と回転電機4から伝達される回転のうちの回転速度の高い方により駆動される構成とすることもできる。この場合、内燃機関3及び回転電機4のうちの少なくとも回転電機4が回転していれば第1オイルポンプ10が駆動される点で、第1オイルポンプ10は回転電機4の回転に伴い駆動されるといえる。なお、この場合、回転電機4が回転していない状態においても内燃機関3が回転していれば第1オイルポンプ10が駆動されるため、第1オイルポンプ10は、回転電機4の回転に伴い駆動されると共に、内燃機関3の回転に伴い駆動される。
【0067】
(7)上記の実施形態では、対象方向第1側D1に向かう方向が、車体2の前側L1に向かう成分を有する向きで、車両用駆動装置1が車体2に取り付けられる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、対象方向第1側D1に向かう方向が、車体2の後側L2に向かう成分を有する向きで、車両用駆動装置1が車体2に取り付けられる構成とすることもできる。この場合、車両100が降坂路に位置している場合に、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して傾斜する状況となる。
【0068】
(8)上記の実施形態では、車両用駆動装置1が、車体上下方向Vに沿う方向視で、軸方向Aが車体前後方向Lに沿い且つ軸方向第1側A1が車体2の前側L1となる向きで、車体2に取り付けられる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、車両用駆動装置1が、車体上下方向Vに沿う方向視で、軸方向Aが車体左右方向Wに沿う向きで車体2に取り付けられる構成とすることもできる。この場合、例えば、出力部材82が、出力用差動歯車装置85を介して左右一対の前輪に駆動連結される構成(すなわち、車両用駆動装置1が前輪駆動ユニットである構成)とすることができる。なお、車両用駆動装置1が、車体上下方向Vに沿う方向視で、軸方向Aが車体前後方向Lに沿い且つ軸方向第1側A1が車体2の後側L2となる向きで、車体2に取り付けられる構成とすることも可能である。
【0069】
(9)上記の実施形態では、対象方向Dが、第1吸入口11及び第2吸入口21の装置上下方向の位置を考慮せずに定義される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、対象方向Dを、第1吸入口11及び第2吸入口21の装置上下方向の位置を考慮して定義してもよい。図2に示す例では、第1吸入口11は第2吸入口21よりも上側V1に配置されているため、図2に示す例において第1吸入口11及び第2吸入口21の装置上下方向の位置を考慮して対象方向Dを定義した場合、対象方向Dは、対象方向第1側D1に向かうに従って上側V1に向かうように車体前後方向Lに対して傾斜した方向となる。この場合、規定角度の大きさによっては、車両100が登坂路に位置していない状態(例えば、平坦路に位置している状態)においても、対象方向Dが、対象方向第1側D1に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾く状態となることで、傾斜時制御が実行される。
【0070】
(10)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0071】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の概要について説明する。
【0072】
車両用駆動装置(1)は、内燃機関(3)に駆動連結される入力部材(81)と、車輪(8)に駆動連結される出力部材(82)と、前記入力部材(81)と前記出力部材(82)とを結ぶ動力伝達経路(P)に設けられた回転電機(4)と、前記動力伝達経路(P)における前記回転電機(4)と前記出力部材(82)との間に設けられた変速機(5)と、前記回転電機(4)及び前記変速機(5)を収容するケース(70)と、前記ケース(70)の下部に形成されて油を貯留する油貯留部(71)と、前記回転電機(4)の回転に伴い駆動されて、前記変速機(5)に油を供給する第1オイルポンプ(10)と、前記動力伝達経路(P)から独立したポンプ用駆動力源(7)により駆動されて、前記変速機(5)に油を供給する第2オイルポンプ(20)と、前記回転電機(4)、前記変速機(5)、及び前記ポンプ用駆動力源(7)の動作を制御する制御部(9)と、を備え、前記第1オイルポンプ(10)は、前記油貯留部(71)の油を吸入する第1吸入口(11)を備え、前記第2オイルポンプ(20)は、前記油貯留部(71)の油を吸入する第2吸入口(21)を備え、前記第1吸入口(11)と前記第2吸入口(21)とを結ぶ方向を対象方向(D)とし、前記第2吸入口(21)から前記第1吸入口(11)へ向かう側を対象方向第1側(D1)として、前記内燃機関(3)のアイドルストップ制御が行われている場合であって、前記対象方向(D)が、前記対象方向第1側(D1)に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、前記制御部(9)は、前記変速機(5)の状態を、前記回転電機(4)の回転速度が前記出力部材(82)の回転速度に拘束されない非拘束状態としつつ、前記第1オイルポンプ(10)が駆動されるように前記回転電機(4)を回転させる傾斜時制御を実行する。
【0073】
アイドルストップ制御の実行中に必要となる油圧を第1オイルポンプ(10)の駆動により発生させる必要がない場合には、アイドルストップ制御の実行中は、第1オイルポンプ(10)を停止させることができる。しかしながら、第1オイルポンプ(10)が停止された状態では、油貯留部(71)の油に混入している気泡が、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に溜まるおそれがある。そして、多くの気泡が溜まった場合には、その後第1オイルポンプ(10)の駆動を再開した際に気泡を吸い込むことによって吐出圧の上昇に遅れが生じるおそれがある。このような吐出圧の上昇の遅れは、例えば、変速機(5)に設けられた係合装置の係合動作の遅延を招き得る。
【0074】
気泡は油中を上方に向かって移動しやすいため、対象方向(D)が、対象方向第1側(D1)に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して傾いている場合には、そうでない場合に比べて、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まりやすくなる。この点に鑑みて、本構成では、アイドルストップ制御が行われている場合であって、対象方向(D)が上記の方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合には、傾斜時制御を実行して第1オイルポンプ(10)を駆動するように構成されている。このようにアイドルストップ制御の実行中に第1オイルポンプ(10)を駆動して油を流動させることで、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる。一方、対象方向(D)が上記の方向に水平面に対して規定角度以上傾いていない場合には、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡は溜まりにくい。そこで、本構成ではこのような場合には傾斜時制御を実行しないことで、傾斜時制御を実行する場面を限定してエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0075】
なお、傾斜時制御では、回転電機(4)を回転させることで第1オイルポンプ(10)を駆動するため、内燃機関(3)への燃料供給を停止する制御(すなわち、アイドルストップ制御)を実行しながら第1オイルポンプ(10)を駆動することができる。また、傾斜時制御では、変速機(5)の状態が非拘束状態とされるため、車速によらずに(すなわち、車両(100)が停止している場合であっても)、回転電機(4)を傾斜時制御における第1オイルポンプ(10)の駆動に適した回転速度で回転させることができる。
【0076】
ここで、前記制御部(9)は、前記内燃機関(3)のアイドルストップ制御が行われている間、前記第2オイルポンプ(20)を駆動して前記第2オイルポンプ(20)から前記変速機(5)に油を供給する油供給制御を実行すると好適である。
【0077】
この構成によれば、アイドルストップ制御が行われている間、油供給制御を実行することで、アイドルストップ制御の実行中に変速機(5)において必要となる油圧を、第2オイルポンプ(20)の駆動により発生させることができる。よって、アイドルストップ制御の実行中、傾斜時制御を実行しない場合は第1オイルポンプ(10)を停止させることができ、傾斜時制御を実行する場合であっても、第1オイルポンプ(10)の回転速度を、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺に気泡が溜まることを抑制できる程度の低い回転速度とすることができる。
【0078】
また、前記変速機(5)は、流体継手(6)を備え、前記流体継手(6)は、前記回転電機(4)に駆動連結される入力側部材(60)と、前記出力部材(82)に駆動連結される出力側部材(61)と、前記入力側部材(60)と前記出力側部材(61)とを直結する直結クラッチ(62)と、を備え、前記制御部(9)は、前記直結クラッチ(62)による前記入力側部材(60)と前記出力側部材(61)との直結を解除することで、前記変速機(5)の状態を前記非拘束状態とすると好適である。
【0079】
この構成によれば、変速機(5)が、直結クラッチ(62)が設けられた流体継手(6)を備える場合に、変速機(5)の状態を非拘束状態とするための専用の係合装置を設けることなく、変速機(5)の状態を非拘束状態とすることができる。よって、変速機(5)の状態を非拘束状態とするための専用の係合装置が設けられる場合に比べて、装置の小型化やコストの低減を図ることができる。
【0080】
また、前記変速機(5)は、前記回転電機(4)と前記出力部材(82)との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置(51)を備え、前記制御部(9)は、前記摩擦係合装置(51)を滑り係合状態又は解放状態に制御することで、前記変速機(5)の状態を前記非拘束状態とすると好適である。
【0081】
この構成によれば、変速機(5)が、回転電機(4)と出力部材(82)との間での動力伝達を断接する摩擦係合装置(51)を備える場合に、変速機(5)の状態を非拘束状態とするための専用の係合装置を設けることなく、変速機(5)の状態を非拘束状態とすることができる。よって、変速機(5)の状態を非拘束状態とするための専用の係合装置が設けられる場合に比べて、装置の小型化やコストの低減を図ることができる。
【0082】
上記の各構成の車両用駆動装置(1)において、前記回転電機(4)、前記変速機(5)、及び前記出力部材(82)は、軸方向(A)の一方側である軸方向第1側(A1)から記載の順に同軸上に配置され、前記第1吸入口(11)は、前記第2吸入口(21)に対して前記軸方向第1側(A1)に配置され、車体上下方向(V)に沿う方向視で、前記軸方向(A)が車体前後方向(L)に沿い且つ前記軸方向第1側(A1)が車体(2)の前側(L1)となる向きで、前記車体(2)に取り付けられていると好適である。
【0083】
上記のような向きで車両用駆動装置(1)が車体(2)に取り付けられている場合、車両(100)が登坂路に位置している場合に、対象方向(D)が、対象方向第1側(D1)に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いた状況となり得る。上述したように、本開示の車両用駆動装置(1)では、対象方向(D)がこのように傾いた状況においても、アイドルストップ制御の実行中に第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる。よって、本構成では、例えば、登坂路での停止中にアイドルストップ制御が行われている状態から車両(100)を前進発進させる際に、第1オイルポンプ(10)の吐出圧を、登坂路での前進発進を適切に行うことが可能な油圧まで迅速に高めることが可能となる。
【0084】
また、前記第1オイルポンプ(10)の吐出口である第1吐出口(12)に接続された第1油路(31)と、前記第2オイルポンプ(20)の吐出口である第2吐出口(22)に接続された第2油路(32)と、前記第1油路(31)と前記第2油路(32)とが合流して形成され、前記変速機(5)に接続された第3油路(33)と、を備え、前記第1油路(31)に、前記第3油路(33)の側から前記第1吐出口(12)の側への油の流動を規制する逆止弁(41)が設けられていると好適である。
【0085】
このように第1オイルポンプ(10)の第1吐出口(12)に接続された第1油路(31)に逆止弁(41)が設けられている場合、逆止弁(41)が閉じた状態では、逆止弁(41)に対して第1オイルポンプ(10)側とは反対側に油が流動することが規制されるため、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に気泡が溜まりやすくなる。この点に関して、本開示の車両用駆動装置(1)では、上述したように、対象方向(D)が、対象方向第1側(D1)に向かうに従って高くなる方向に水平面に対して規定角度以上傾いている場合(すなわち、第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まりやすい場合)には、傾斜時制御が実行されて第1オイルポンプ(10)が駆動されるため、第1オイルポンプ(10)の吐出圧により逆止弁(41)を開いて、第1油路(31)の下流側に向けて油を流動させることができる。よって、本構成のように第1油路(31)に逆止弁(41)が設けられている場合であっても、アイドルストップ制御の実行中に第1オイルポンプ(10)の内部やその周辺の油路に多くの気泡が溜まることを抑制できる。
【0086】
上記のように前記第1油路(31)に前記逆止弁(41)が設けられている構成において、前記制御部(9)は、前記傾斜時制御において、前記第1吐出口(12)の側から前記逆止弁(41)に供給される油圧が前記逆止弁(41)の開弁圧以上となるように前記回転電機(4)の回転速度を制御すると好適である。
【0087】
この構成によれば、傾斜時制御において、逆止弁(41)が開くように第1オイルポンプ(10)を適切に駆動することができる。そして、傾斜時制御における回転電機(4)の回転速度を、第1吐出口(12)の側から逆止弁(41)に供給される油圧が逆止弁(41)の開弁圧となる回転速度に合わせる制御を行う場合には、傾斜時制御に要する消費エネルギを低く抑えやすくなる。
【0088】
本開示に係る車両用駆動装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0089】
1:車両用駆動装置
2:車体
3:内燃機関
4:回転電機
5:変速機
6:流体継手
7:ポンプ用駆動力源
8:車輪
9:制御部
10:第1オイルポンプ
11:第1吸入口
12:第1吐出口
20:第2オイルポンプ
21:第2吸入口
22:第2吐出口
31:第1油路
32:第2油路
33:第3油路
41:第1逆止弁(逆止弁)
51:変速用係合装置(摩擦係合装置)
60:入力側部材
61:出力側部材
62:直結クラッチ
70:ケース
71:油貯留部
81:入力部材
82:出力部材
A:軸方向
A1:軸方向第1側
D:対象方向
D1:対象方向第1側
L:車体前後方向
L1:前側
P:動力伝達経路
図1
図2
図3
図4
図5