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特開2022-146087シミュレーション方法、シミュレーションシステム、およびシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146087
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーションシステム、およびシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
C09C1/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046883
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野元 翔太郎
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037BB03
4J037BB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンブラックを生成する反応場の反応状態を把握する技術を提供する。
【解決手段】シミュレーションシステム1は、炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスをシミュレーションする。シミュレーションシステム1は、炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定部(設定部20)と、反応場に供給される原料の供給条件を設定する原料供給条件設定部22と、反応場に生成されたピレンの量を反応場の位置ごとに算出するピレン量算出部(ピレン分布算出部31)と、算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示部(ピレン分布算出部31)と、異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理部37と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーション方法であって、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定工程と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定工程と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定工程と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出工程と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示工程と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理工程と、
を有するシミュレーション方法。
【請求項2】
前記反応場に存在する前記炭化水素化合物の量を前記反応場の位置ごとに算出する炭化水素化合物算出工程と、
算出された前記炭化水素化合物の量を炭化水素化合物分布図として表示する炭化水素化合物分布図表示工程と、
を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記炭化水素化合物分布図とを比較可能な状態で表示する、
請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記ピレン量算出工程で算出された前記ピレンの量と、前記炭化水素化合物算出工程で算出された前記炭化水素化合物の量との比であるピレン比を前記反応場の位置ごとに算出し、ピレン比分布図として表示するピレン比分布図表示工程を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記ピレン比分布図とを比較可能な状態で表示する、
請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記反応場における位置の温度を算出する温度分布算出工程と、
算出された温度を温度分布図として表示する温度分布表示工程と、
を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記温度分布図とを比較可能な状態で表示する、
請求項1から3までのいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記炭化水素化合物はアセチレンである、
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーションするシミュレーションシステムであって、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定部と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定部と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定部と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出部と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示部と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理部と、
を有するシミュレーションシステム。
【請求項7】
炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーションするシミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定部と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定部と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定部と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出部と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示部と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理部、
として機能させる、シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックの生成をシミュレーションするシミュレーション方法、シミュレーションシステム、およびシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な環境を実現すべく、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))が広く認識されている。SDGsを実現する観点において、産業分野では、電池技術に注目が集まっている。例えば、リチウムイオン電池では、正極電極に導電助剤としてカーボンブラックが使用される。カーボンブラックの製造方法として、例えば、アセチレンなどの炭素原子を含んでなる炭化水素化合物を含む原料を反応炉に供給して、カーボンブラックを生成する反応が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-209504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、高性能電池の需要の高まりを受けて、高品質かつ高効率にカーボンブラックを生産する技術が求められている。一方、カーボンブラックの生産する場合、反応炉によって反応条件が変わり、その結果得られるカーボンブラックの特性が異なってくることから、所望の特性のカーボンブラックを得るために、反応状態を適切に把握する技術が求められていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、カーボンブラックを生成する反応場の反応状態を把握することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーション方法であって、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定工程と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定工程と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定工程と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出工程と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示工程と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理工程と、
を有する、シミュレーション方法が提供される。
本発明によれば、炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーションするシミュレーションシステムであって、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定部と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定部と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定部と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出部と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示部と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理部と、
を有するシミュレーションシステムが提供される。
本発明によれば、炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーションするシミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定部と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定部と、
前記反応場の条件を設定する反応場条件設定部と、
前記反応場に生成されるピレンの量を前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出部と、
算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示部と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理部、
として機能させる、シミュレーションプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カーボンブラックを生成する反応場の反応状態を把握することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るシミュレーションシステムが概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施形態に係る反応炉内のピレン分布図の例を示す図である。
図3】実施形態に係る反応炉内のアセチレン分布図の例を示す図である。
図4】実施形態に係る反応炉内の温度分布図の例を示す図である。
図5】実施形態に係る反応炉内の温度分布図の例を示す図である。
図6】実施形態に係るアセチレンの量Xとピレンの量Yの比X/Yの分布図である。
図7】実施形態に係る対応関係DBに記録されているテーブルの例である。
図8】実施形態に係るシミュレーションDBに記録されているデータの例を示す図である。
図9】実施形態に係る取得した比X/Yと基準データの関係を示すデータの例を示す図である。
図10】実施形態に係るパラメータ算出処理を示すフローチャートである。
図11】実施形態に係る比較表示画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、カーボンブラックの製造技術について、主に反応炉(反応場)におけるカーボンブラックの製造シミュレーションに着目して説明する。
【0010】
<アセチレンブラックの製造法の概要>
シミュレーションするカーボンブラックの製造方法では、付加反応を行う炭化水素化合物(付加反応物ともいう)を含む原料を、炉頂に設置されたノズルから反応炉に噴射して供給する。本実施形態では、炭化水素化合物としてアセチレンを用いる。すなわち、生成されるカーボンブラックとして、いわゆるアセチレンの熱分解によって製造されるアセチレンブラックを想定する。
【0011】
<技術的意義>
カーボンブラックおよびアセチレンブラックについて簡単に説明する。カーボンブラックおよびアセチレンブラックの基本的な特徴および製造方法は上記の特許文献1(特開2013-209504号公報)に開示されているが、以下に簡単に説明する。
(1)カーボンブラック
カーボンブラックは、原料の炭化水素の熱分解、脱水素反応、粒子生長、ストラクチャー形成というメカニズムで得られるものであって、一次粒子がブドウ房状に連なった連鎖体からなる二次粒子(凝集粒子)で構成されたストラクチャーとして存在する。
カーボンブラックの特性を決める要因として、一次粒子径、ストラクチャー、表面特性の3つが特に重要と考えられている。
【0012】
(2)アセチレンブラック
カーボンブラックの一つとしてアセチレンブラックがある。アセチレンブラックは、カーボンブラックの一種で、下記の式1で表されるようなアセチレンの自己発熱分解によって製造される。
→ 2C + H 発熱量:228kJ/mol・・・(式1)
【0013】
アセチレンブラックの生成は、反応炉内に供給されたアセチレンガスが瞬時に熱分解または不完全燃焼してまずアセチレンブラックの核が生成し、それが捕集系に移行する間の低温領域で、その核とアセチレンがさらに反応して成長し、それらが融着して鎖状につながりストラクチャーを形成することで説明される。
【0014】
アセチレンブラックの特徴として、以下のものを挙げることができる。
(a)高純度である:高純度のアセチレンガスを用いることから、金属をはじめとする不純物が少ない。
(b)高ストラクチャーである:分解生成ガスが水素だけであり、生成される炭素濃度が高く炭素粒子が粒子生長過程において衝突・合着しやすい。
(c)表面官能基が少ない:酸素を用いないため、酸素を含む官能基(COOH、OHなど)が少ない。
(d)高結晶である:発熱量が非常に大きく、カーボンブラックのなかでも結晶性が高い。
【0015】
(3)ピレン
本実施形態では、アセチレンブラックの製造過程において、特に炭素粒子の衝突・合着する粒子生長過程において、ピレン(化学式C1610の縮合芳香族炭化水素)が核生成のキー化学種として生成されるという化学反応モデルを導入する。次の式2で示されるように、反応炉内に供給されたアセチレンが、粒子生長過程においてピレンとして粒子生長し、ストラクチャー構造のアセチレンブラックが得られる。
8C →C1610+3H→ 16C + 8H ・・・(式2)
この化学反応モデルにより、より具体的には、アセチレンからピレンに変わる化学反応モデルに着目することで、最終的に生成されるアセチレンブラックの特性、特に比表面積を好適にシミュレーションすることができる。
【0016】
(4)アセチレンブラックの比表面積
ピレンの生成には適した温度域があると考えられる。その温度域よりも高くても核生成が起きにくくなり、アセチレンが消費されず残りやすくなる。その結果、付加反応でカーボン源が消費されてしまい、小粒径になりにくい、すなわち、比表面積が大きくなりにくいと考えられる。すなわち、アセチレンの残存量とアセチレンから変わったピレンとの関係、より具体的にはアセチレンの量とピレンの量の比がアセチレンブラックの比表面積に反映されると考えられる。
【0017】
以上から、アセチレンブラックの比表面積をコントロールすることは、(1)反応炉内に存在するアセチレンの量とピレンの量の比、(2)反応炉内の温度、を適切にコントロールすることで実現できると考えられる。
【0018】
以下で説明するシミュレーションシステムでは、反応炉内に存在するアセチレンの量Xおよびピレンの量Yとの比X/Yに着目してシミュレーションを行い、生成されるアセチレンブラックの比表面積を推定する技術を提供する。比表面積の推定では、実際の反応炉により生成されたアセチレンブラックの比表面積と、そのときの各種条件(化学反応モデルや炉などのモデル(境界条件)、原料供給条件など)にもとづくシミュレーションの結果とを対応させたデータをデータベースに記録しておく。さらに、それらのデータを参照して、任意の条件を設定したときのアセチレンブラックの比表面積を算出する。また、データベースに記録されているデータやシミュレーションの結果を比較可能に表示し、新たな条件を設定したときに、シミュレーション結果がどのように変化するかを容易に認識できるようにする。以下、具体的に説明する。
【0019】
<シミュレーションシステム1>
図1に示すシミュレーションシステム1は、カーボンブラックを製造するシミュレーションを実行するもので、反応場である反応炉の条件、反応炉に供給される原料の条件を設定し、反応炉における反応状態をシミュレーションして表示する。
以下、シミュレーションシステム1の構成および機能を具体的に説明する。
【0020】
シミュレーションシステム1は、主制御部2と、表示部3と、入力部4と、通信部5と、シミュレーション部10とを備える。シミュレーションシステム1は単一の装置で構成されてもよいし、複数の装置から構成されてもよい。
【0021】
主制御部2は、CPU、MPU、DSPなどの専用プロセッサや、RAM、ROM、フラッシュメモリ、HDDなどの記憶手段を備え、シミュレーションシステム1の各構成要素を統括的に制御する。
【0022】
表示部3は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示手段である。表示部3は、主制御部2および後述のシミュレーション部10の処理結果により生成された二次元画像や3次元画像を表示する。
【0023】
入力部4は、キーボードやマウス、タッチパネル、その他の各種ボタンなどを備えている入力手段である。入力部4は、これらの入力手段によりユーザが入力した入力情報を取得する。
【0024】
通信部5は、有線LANや無線LANなどの各種のネットワークIFであって、外部機器(外部の記憶装置や反応炉の制御装置など)と接続する。
【0025】
<シミュレーション部10>
シミュレーション部10は、カーボンブラックを製造するシミュレーションを演算し、各種の機能を実行する。シミュレーション部10の各機能は、主制御部2において実行されるシミュレーションソフトウェアにより実現される。シミュレーションソフトウェアとして、例えば、流体解析ツールのソフトウェアであるANSYS社製「ANSYS Fluent(2019R1)」を用いることができる。この流体解析ツールのソフトウェアでは、有限要素法を用いて、反応炉内の原料(ここではアセチレン)や生成物(ここではピレン)の分布、温度などを算出し、それらを反応炉内の分布として表示することができる。すなわち、主に反応炉内に生成されるピレンに着目することで、最終的に生成されるアセチレンブラックの特性、特に比表面積を評価する。
【0026】
具体的には、シミュレーション部10は、シミュレーションのための各種条件(化学反応モデルや反応炉などのモデル(境界条件))を設定する設定部20と、設定された条件に基づきシミュレーションを実行する計算処理部30と、シミュレーションに用いる各種条件やシミュレーション結果などのデータを記録するDB部50とを備える。化学反応モデルとして、アセチレンがピレンになるモデルが含まれる。
【0027】
<設定部20>
設定部20は、上述のように各種の条件を設定する機能を有するが、本実施形態の特徴的な機能として、反応場条件設定部21と、原料供給条件設定部22とを備える。
【0028】
反応場条件設定部21は、反応炉の条件を設定する。設定する反応炉の条件は、具体的には、炉の形状・寸法、ノズルの形状・寸法、炉の断熱特性(断熱材の厚さや伝熱特性など)、反応炉の中のノズルの配置などの境界条件などである。設定された境界条件をもとに、反応炉および反応炉内の位置が3次元の位置情報(x、y、z)(以下、単に「位置情報」ともいう)として設定される。ここで設定された条件にもとづき、後述する計算処理部30が、各種項目を反応炉内の分布として算出し、さらに分布図を作成し表示部3に表示させる。
【0029】
なお、設定される反応炉の条件が3次元であれば、反応炉内の分布図は3次元データとして算出され、3次元分布表示、特定の領域の2次元分布や1次元分布(グラフ)として表示される。表示に用いられるデータは、位置ごとのデータであってもよいし、一定面積の平均値や積分値であってもよく、適切な評価が可能なデータ形式であればよい。
【0030】
原料供給条件設定部22は、反応炉に供給される原料の供給条件を設定する。設定する供給条件は、原料の組成、原料の量(単位時間当たりの供給流量)などであって、具体的には供給されるアセチレン、アセチレンとともに供給される窒素、アルゴン、酸素やその他の原料の量などである。
【0031】
<計算処理部30>
計算処理部30は、設定部20において設定された条件をもとに、反応炉内の各位置に存在する原料(アセチレンなど)、生成物(ピレンなど)、温度、乱流運動エネルギーなどを計算し、さらに、本実施形態に特徴的な機能を実行する。そのような機能を実現する構成として、計算処理部30は、ピレン分布算出部31と、炭化水素化合物算出部32と、温度分布算出部33と、ピレン比算出部34と、比表面積算出部35と、操作量算出部36と、比較表示処理部37と、を有する。
【0032】
<ピレン分布算出部31(ピレン量算出部)>
ピレン分布算出部31は、ピレン量算出工程として、反応炉内の各位置(位置情報(x、y、z))のピレンの量Yを算出し、算出した各位置のピレンの量Yを反応炉内の分布図にして表示部3に表示する。より具体的には、ピレン分布算出部31は、反応場条件設定部21で設定された反応炉の条件、すなわち、設定された反応炉の具体的な形状や寸法を反応炉内の位置情報として算出し、その反応炉内の各位置のピレンの量Yをピレン分布図として表示する。
【0033】
図2に反応炉内のピレン分布図の例を示す。ここでは、3つの条件1~3のピレン分布について、それぞれ反応炉の縦断面内のピレン分布を、ノズル先端を中心とした図示水平方向の所定幅の領域のピレンのモル分率の分布として示している。反応炉内における反応状態(ここではピレンの量Y)を、濃淡図などのように視覚的に表示することから反応状態が適正であるか否かを容易に判断できる。なお、ピレン分布図の表示態様は、図示のような、2次元の濃淡図に限らず、ノズル先端を中心軸(ノズル先端位置を横方向中心とした軸)として、その中心軸上の分布をグラフとして表示してもよい。また、反応炉の縦断面内の分布図の代わりに、横断面図内の分布図であってもよく、任意の領域を拡大した分布図であってもよい。どのような表示態様(分布図の種類、反応炉全体の領域を表示するか一部を拡大して表示するかなどの表示態様)とするかは、シミュレーション操作者(以下、「ユーザ」という)により選択される。そのような表示態様の選択は、後述するアセチレン分布図、温度分布図、ピレン比分布図の表示においても同様である。
【0034】
<炭化水素化合物算出部32>
炭化水素化合物算出部32は、炭化水素化合物算出工程として、反応炉内の各位置(位置情報(x、y、z))における炭化水素化合物の量、ここではアセチレンの量Xを算出する。また、炭化水素化合物算出部32は、炭化水素化合物分布図表示工程として、算出した各位置のアセチレンの量Xを反応炉内の分布図にして表示部3に表示する。より具体的には、炭化水素化合物算出部32は、反応場条件設定部21で設定された反応炉(反応場)の条件、すなわち、設定された反応炉の具体的な形状や寸法を反応炉内の位置情報として算出し、その反応炉内の各位置のアセチレンの量Xをアセチレン分布図として表示する。
【0035】
図3に反応炉内のアセチレン分布図の例を示す。ここでは、3つの条件1~3のアセチレン分布について、それぞれ反応炉の縦断面内のアセチレン分布を、ノズル先端を中心とした図示水平方向の所定幅の領域のアセチレンのモル分率の分布として示している。反応炉内における反応状態(ここではアセチレンの存在量)を、濃淡図などのように表示することから反応状態が適正であるか否かを容易に判断できる。アセチレン分布図の表示態様は、ピレン分布図と同様に、様々な表示態様とすることができる。
【0036】
<温度分布算出部33>
温度分布算出部33は、温度分布算出工程として、反応炉内の各位置(位置情報(x、y、z))における温度Tを算出する。また、温度分布算出部33は、温度分布図表示工程として、算出した各位置の温度Tを反応炉内の分布図にして表示部3に表示する。より具体的には、温度分布算出部33は、反応場条件設定部21で設定された反応炉(反応場)の条件、すなわち、設定された反応炉の具体的な形状や寸法を反応炉内の位置情報として算出し、その反応炉内の各位置の温度Tを温度分布図として表示する。
【0037】
図4および図5に反応炉内の温度分布図の例を示す。ここでは、3つの条件1~3について示している。図4の温度分布図は、反応炉の縦断面内の温度分布図について、ノズル先端を中心とした図示水平方向の所定幅の領域の温度分布を示している。反応炉内における反応状態(ここでは温度状態)を、濃淡図などのように表示することから反応状態が適正であるか否かを容易に判断できる。図5は、ノズル先端を中心軸として、その中心軸上の温度分布をグラフとして表示している。横軸がノズル先端からの距離であり、縦軸が温度を示す。
【0038】
<ピレン比算出部34>
ピレン比算出部34は、ピレン比算出工程として、炭化水素化合物算出部32が算出したアセチレンの量Xと、ピレン分布算出部31が算出したピレンの量Yとから、反応炉内の各位置(位置情報(x、y、z))における比X/Y(「ピレン比」ともいう)を算出する。位置ごとの分布とは、位置情報で定まる位置ごとの値の分布であってもよいし、一定の面積を有する領域内の平均値や積分値であってもよい。また、ピレン比算出部34は、ピレン比分布図表示工程として、算出した各位置の比X/Yを反応炉内の分布図にして表示部3に表示する。より具体的には、ピレン比算出部34は、反応場条件設定部21で設定された反応炉(反応場)の条件、すなわち、設定された反応炉の具体的な形状や寸法を反応炉内の位置情報として算出し、その反応炉内の各位置の比X/Yをピレン比分布図として表示する。
【0039】
図6に反応炉内のピレン比分布図の例を示す。このピレン比分布図は、反応炉内の中心軸上におけるアセチレンの量Xとピレンの量Yの比X/Yの分布を示している。比X/Yはモル分率比である。横軸がノズル先端からの距離であり、縦軸がモル分率比を示す。なお、ピレン比分布図を反応炉内の2次元の濃淡分布として表示することもできる。このように、比X/Yを分布図として算出し表示することで、ユーザは、反応炉内における反応状態が適正であるか否かを判断できる。
【0040】
<比表面積算出部35>
比表面積算出部35は、比表面積算出工程として、ピレン比算出部34が算出した比X/Yをもとに生成されるカーボンブラック(ここではアセチレンブラック)の比表面積を、後述する対応関係DB51を参照して算出する。上述のように、生成されるアセチレンブラックの比表面積は、アセチレンの残存量とアセチレンから変わったピレンとの関係、より具体的にはアセチレンの量Xとピレンの量Yの比X/Yがアセチレンブラックの比表面積に反映されると考えられる。そこで、DB部50(対応関係DB51、シミュレーションDB52)に記録されているデータを用いて、ユーザが指定する条件において、アセチレンブラックの比表面積がどのような値になるかを比X/Yを用いて算出する。
【0041】
アセチレンブラックなどのカーボンブラックの比表面積は、カーボンブラックの粒子径と相関があり、一般に、比表面積が大きいと粒子径が小さい(すなわち粒子が細かい)。比表面積を把握することで、カーボンブラックの特性を把握でき、言い換えると、比表面積をコントロールすること、さらには、比X/Yをコントロールすることで、生成されるカーボンブラックの特性をコントロールできる。具体的な比表面積算出処理は後述する。
【0042】
<操作量算出部36>
操作量算出部36は、操作量算出工程として、目標とする比表面積(以下、「ターゲット比表面積」という)を取得し、現在または過去のシミュレーション結果の比表面積(以下、「基準比表面積」という)とから、パラメータの操作量を算出する。すなわち、操作量算出部36は、ユーザから入力部4などによりターゲット比表面積を取得し、基準比表面積に対してどのパラメータをどのように操作するとターゲット比表面積になるかを算出する。操作するパラメータとして、例えば、温度、供給する原料の量(ここではアセチレンの量やアセチレンとともに供給される他の原料の量)、比X/Yなどがあり、また、反応炉の形状(寸法やノズルの形状、配置)であってもよい。パラメータの操作量を算出処理については、後述の「パラメータ算出処理および比較表示処理工程」の項目で説明する。
【0043】
<比較表示処理部37>
比較表示処理部37は、比較表示処理工程として、シミュレーションの結果を比較可能な状態で表示部3に表示する。比較表示処理部37は、同一のシミュレーションの異なる種類の分布図を同じ画面上に表示させたり、異なる複数のシミュレーションの同じ種類の分布図を同じ画面上に表示させたりする。例えば、比較表示処理部37は、あるシミュレーションの結果から得られたピレン分布図とピレン比分布図と温度分布図の3つの分布図を並べて、それら分布図間の対応が分かるように表示する。また、比較表示処理部37は、あるシミュレーションの結果から得られたピレン比分布図と他のシミュレーションの結果から得られたピレン比分布図とを並べて、さらに、それらシミュレーションの各種条件や評価結果(アセチレン流量や炉内平均温度など)を比較可能に表示する。なお、比較表示処理工程の一例を、後述の「パラメータ算出処理および比較表示処理工程」の項目で、パラメータの操作量の算出処理とともに説明する。
【0044】
<DB部50>
DB部50は、シミュレーションに用いる各種モデル(化学反応モデルなど)のデータを記録する。さらに、DB部50は、本実施形態に特徴的な機能として、対応関係DB51と、シミュレーションDB52とを備える。
【0045】
<対応関係DB51>
対応関係DB51は、供給条件およびアセチレンブラックを生成する装置ごと(すなわち反応炉やノズルの形状、配置)に、各種の対応関係を記述したデータを記録している。対応関係とは、装置ごとに、どのような設定条件のときに、生成されるアセチレンブラックがどのような評価結果(特に比表面積)であるかが所定のテーブルとして記録されている。
【0046】
図7は、対応関係DB51に記録されているテーブルの例である。データNo.ごとに、設定条件および評価結果が記録されている。ここでは、設定条件として、炉形状の種類、ノズル形状の種類、アセチレン流量の項目が記録されている。評価結果として、平均炉内温度、アセチレンブラックの比表面積の項目が記録されている。炉形状の種類やノズル形状の種類に関する詳細データは参照可能に別途記録されている。なお、これら項目は例示であり、必要に応じて他の項目(例えば「アセチレンブラックの生産量」)が適宜追加されたり、削除されたりする。
【0047】
例えば、データNo.001では、炉形状「A001」、ノズル形状「N001」の反応炉に、アセチレンが流量「150Nm/h」で供給されていることが示されている。評価結果として、平均炉内温度が「1000K」、生成されたアセチレンの比表面積が「155m/g」である。
【0048】
<シミュレーションDB52>
シミュレーションDB52は、シミュレーション結果と各結果に対応する条件とを関連づけて記録している。具体的には、シミュレーション結果は、上述したピレン分布、アセチレン分布、比X/Yの分布、温度分布などである。より具体的には、反応炉内全体にわたって、3次元の位置情報(x、y、z)とその位置情報に対応する位置のアセチレンの量X、ピレンの量Y、温度T、比X/Y、時間tの各データが付加された8次元のデータ(x、y、z、X、Y、T、X/Y、t)が所定のテーブルとして記録されている。なお、時間tは、例えば原料が反応時間に供給開始されてからの経過時間とすることができる。図8にシミュレーションDB52に記録されているデータがどのようなものかが分かりやすいように、上記データを用いて上述した分布図(ピレン分布図、アセチレン分布図、ピレン比分布図、温度分布図)として表した例を示している。対応関係DB51およびシミュレーションDB52に記録されているデータは、実際の製造実績およびそれに対応するシミュレーション結果をもとに適宜更新され、基準データとして用いられる。
【0049】
<比表面積算出処理>
比表面積算出部35による比表面積算出処理を具体的に説明する。
比表面積算出部35は、DB部50(対応関係DB51、シミュレーションDB52)に記録されている比X/Yとアセチレンブラックの比表面積との関係から、ユーザが指定する条件で、アセチレンブラックの比表面積がどのような値になるかを算出する。どのような種類の比X/Yを使用するかは以下の例(1)~(3)のものが想定される。
(1)反応炉全体の平均値
(2)ユーザが指定する所定領域の平均値
(3)ユーザが指定する所定位置の値
(2)(3)の場合は、実績を考慮して最もアセチレンブラックの比表面積に関連していると想定される領域または位置の値とすることが好ましい。また(1)の場合は、実績を考慮して、領域または位置ごとに重み付けをした加重平均の値としてもよい。
【0050】
例えば、図7で説明した設定条件において、データNo.001~010と同じ炉形状「A001」、ノズル形状「N001」の反応炉で、新たにアセチレン流量を「80Nm/h」としてシミュレーションを行う場合を想定する。また、用いる比X/Yの種類として、上記(3)のユーザが指定する所定位置の値を想定する。所定位置は中心軸上であってノズル先端から1mの位置とし、xyz軸上の座標表示では(0、0、1)と示すことができる。この位置を便宜的に指定位置と言う。
【0051】
比表面積算出部35は、ピレン比算出部34が算出した指定位置(座標(0、0、1))の比X/Yを取得する。指定位置(座標(0、0、1))の比X/Yは、ここでは「15%」と仮定する。つづいて、比表面積算出部35は、DB部50を参照して、同じ炉形状「A001」、ノズル形状「N001」の反応炉のデータ(基準データ)から上記の指定位置(座標(0、0、1))の比X/Yとそれらに関連づけられたアセチレンブラックの比表面積とを取得する。
【0052】
図9に取得した指定位置の基準データの比X/Yおよび比表面積の関係を示す。図9(a)は表として示したもので、図9(b)はグラフとして示したものである。ここでは、10個の基準データA01~A10の比X/Yとそれらに対応したアセチレンブラックの比表面積が示されている。基準データA01~A10は、図7のデータNo.001~010に対応している。例えば、基準データA01(データNo.001)の比X/Yが「10%」、アセチレンブラックの比表面積が「155m/g」である。基準データA2の比X/Yが「20%」、アセチレンブラックの比表面積が「120m/g」である。
【0053】
比表面積算出部35は、上記10個のデータから検量線に対応する関数(図9(b)の破線で示す曲線の関数)を算出し、比X/Y「15%」に対応するアセチレンブラックの比表面積を算出する。検量線に対応する関数は直線でもよいし曲線でもよい。ここでは、例えば比X/Y「15%」に対応する比表面積が「135.6m/g」と算出され、算出結果は、表示部3に図9(a)のテーブルや図9(b)のグラフとともに表示させることができる。
【0054】
<パラメータ算出処理および比較表示処理工程>
図10のフローチャートを参照して、操作量算出部36のパラメータ算出処理について説明する。また、合わせて図11の比較表示画面100の例を参照して、比較表示処理工程の一例を説明する。
【0055】
まず、図11を参照して比較表示画面100について説明する。
比較表示画面100の左側の表示領域に、既に結果が出ているシミュレーションを表示させておき、右側の表示領域に各種のパラメータを動かした場合にどのようになるかを、ユーザは左右の表示領域で確認しながら様々な条件を検証する。
【0056】
比較表示画面100は、図左側領域の現在結果表示領域101と、図右側領域のターゲット算出結果表示領域102とを有する。現在結果表示領域101には、現在または過去に実施済みであってユーザが指定したシミュレーション(以下、単に「指定シミュレーション」という)に関する情報が表示される。ターゲット算出結果表示領域102には、ターゲット比表面積に対応するシミュレーションに関する情報が表示される。ターゲット算出結果表示領域102に設けられた更新ボタン180が押下されると、指定された条件を反映させて、新たなターゲット比表面積に対応するシミュレーションが実行され、結果がターゲット算出結果表示領域102に表示される。具体的には以下の通りである。
【0057】
画面左側領域の現在結果表示領域101は、上側表示領域の条件・パラメータ表示領域110と、下側表示領域の分布図表示領域130とを有する。
【0058】
条件・パラメータ表示領域110は、指定シミュレーションのIDが表示されるID領域111、そのシミュレーション結果に対応する比表面積(以下、便宜的に「基準比表面積」)が表示される基準比表面積表示領域112、および各種パラメータの値が表示されるパラメータ表示領域113を有する。ID領域111には、データ選択用の参照ボタン119が設けられており、ユーザはこの参照ボタン119を操作して所望のIDの指定シミュレーションの結果をDB部50から選択する。例えば、図7に示したようなテーブルが表示され、そのテーブルから所望のデータを選択して指定シミュレーションとして設定する。パラメータ表示領域113には、指定シミュレーションに対応するパラメータ、ここでは「パラメータ1:炉内平均温度」「パラメータ2:アセチレン流量」「パラメータ3:平均X/Y」の3種類が表示されている。表示させるパラメータの種類は、これらに限らずユーザが指定することができる。なお、指定シミュレーションを選択するテーブルは、例えば、選択対象のデータを特徴(例えば、アセチレン流量「大」やアセチレンブラック比表面積「小」)などによって分類したライブラリとして、DB部50に記録されてもよい。
【0059】
分布図表示領域130は、指定シミュレーションの結果を表示する。具体的には、条件・パラメータ表示領域110に表示されているシミュレーションIDの指定シミュレーションの結果を、例えば図示のように、アセチレン分布図、ピレン分布図およびピレン比分布図を縦に並べて表示する。分布図の表示態様は、ユーザが指定することができる。
【0060】
画面右側領域のターゲット算出結果表示領域102は、現在結果表示領域101と同様に、条件・パラメータ表示領域120と、下側表示領域の分布図表示領域140と、更新ボタン180を有する。
【0061】
条件・パラメータ表示領域120は、ターゲット比表面積を入力する入力領域121、再計算により算出されたターゲット比表面積が表示される計算結果領域122と、および各種パラメータの値が表示されるパラメータ表示領域123を有する。パラメータ表示領域123には、現在結果表示領域101のパラメータ表示領域113に表示されているパラメータと同じ種類のパラメータが同じ順で表示される。すなわち、ここでは、「パラメータ1:炉内平均温度」「パラメータ2:アセチレン流量」「パラメータ3:平均X/Y」の3種類が表示されている。
【0062】
パラメータ表示領域123の各パラメータの図示右横には、ターゲット比表面積を算出する際に変更するパラメータを指定するチェック欄125が設けられている。ここでは、一つのチェック欄125がチェック可能になっている。ユーザが、所望のチェック欄125をチェックして、更新ボタン180を押下することで、チェックされたパラメータについて、上記のターゲット比表面積になる値が算出される。図示の例では、「パラメータ1:炉内平均温度」がチェックされており、入力領域121に入力したターゲット比表面積「150」に対して、計算結果領域122では計算の結果としてターゲット比表面積「149」が表示されている。チェック欄125でチェックしたパラメータ(ここでは「炉内平均温度」)は1350Kと算出されている。
【0063】
分布図表示領域140は、入力領域121に入力されたターゲット比表面積を算出するために行ったシミュレーション結果を表示するもので、現在結果表示領域101の分布図表示領域130に表示されている分布図と同じ種類の分布図が同じ順で比較可能に表示される。具体的には、例えば図示のように、アセチレン分布図、ピレン分布図およびピレン比分布を縦に並べて表示する。
【0064】
つづいて、図10のフローチャートおよび図11で上述した比較表示画面100の例を参照して、操作量算出部36のパラメータ算出処理(S10~S16)について説明する。
【0065】
[基準比表面積設定工程(S10)]
操作量算出部36は、現在条件のシミュレーション結果として算出されている比表面積を取得し基準比表面積として確定する(S10)。具体的には、ユーザが、参照ボタン119を操作して、所望のIDのシミュレーション結果を選択する。その結果、基準比表面積表示領域112に選択されたシミュレーション結果に関連づけられている比表面積が基準比表面積設定として表示される。
【0066】
[基準パラメータ設定工程(S11)]
つぎに操作量算出部36は、基準比表面積に対応する各種パラメータを基準パラメータとして取得する(S11)。ここで各種パラメータとは、選択されているIDのシミュレーションの条件および結果である。具体的には、反応場条件設定部21および原料供給条件設定部22で設定された条件(反応炉の条件、原料の供給条件)、アセチレンの量X、ピレンの量Y、比X/Y(ピレン比)、温度Tなどである。取得された基準パラメータは、ユーザが指定する種類について、パラメータ表示領域113に表示される。
【0067】
[基準分布図表示工程(S12)]
つづいて比較表示処理部37が、選択されているIDのシミュレーションの結果のデータをもとに、ユーザが選択する種類の分布図を分布図表示領域130に表示する(S12)。
これらの工程(S10~S12)により、基準データの設定が完了するとともに、ターゲット算出結果表示領域102においても、ターゲット比表面積の計算前の初期表示として、現在結果表示領域101に表示された内容と同じ内容が表示される。
【0068】
[ターゲット比表面積設定工程(S13)]
つぎに、操作量算出部36は、ターゲット比表面積を設定する(S13)。具体的には、ユーザがターゲット算出結果表示領域102の入力領域121に所望の比表面積を入力する。なお、この入力は、後述の工程S14、S15の後、更新ボタン180が押下されることで確定する。
【0069】
[ターゲットパラメータ設定工程(S14)]
つづいて、操作量算出部36は、操作量算出対象のパラメータをターゲットパラメータとして設定する。具体的には、ユーザがチェックしたチェック欄125のパラメータを操作量算出対象のパラメータ(すなわちターゲットパラメータ)として設定する。また、チェックされていないパラメータを固定パラメータとして設定する。
【0070】
[操作量算出工程(S15)]
ターゲット比表面積設定工程(S13)およびターゲットパラメータ設定工程(S14)における設定が完了したのちに、ユーザが更新ボタン180を押下すると、操作量算出部36は操作量算出工程を実行する(S15)。具体的には、操作量算出部36は、ターゲットパラメータを変更し、固定パラメータは変更せずに、ターゲット比表面積に最も近い値になる、ターゲットパラメータを算出する。例えば、図10の比較表示画面100の例では、ターゲットパラメータとして「炉内平均温度」(温度プロファイル)が選択されている。操作量算出部36は、シミュレーションDB52から固定パラメータで特定されるシミュレーション結果およびそれに関連づけられている比表面積を複数取得し、それらを用いてターゲットパラメータと比表面積との関係を表す関係式(検量線に相当する関数)を算出し、算出した関係式当てはめてターゲット比表面積を算出する。算出したターゲット比表面積は、計算結果領域122に表示される。この表示のときに、基準比表面積と算出したターゲット比表面積との差が、操作量としてあわせて表示されるようにしてもよい。
【0071】
[ターゲット分布図表示工程(S16)]
操作量算出部36は、ターゲット比表面積を算出するために用いたシミュレーション結果および関係式から、反応炉内の位置ごとのアセチレンの量X、ピレンの量Y、比X/Y、温度Tを求め、それらをターゲット算出結果表示領域102の分布図表示領域140に表示する(S16)。これによって、ユーザは、現在結果表示領域101の分布図表示領域130に表示されている分布図と、ターゲット算出結果表示領域102の分布図表示領域140に表示されている分布図を一見容易に比較することができる。
【0072】
以上のパラメータ算出処理および比較表示処理工程によると、操作量算出部36は、ユーザから目標とする比表面積(ターゲット比表面積)を取得し、現在シミュレーション結果として算出されている比表面積とから、パラメータの操作量を算出する。その結果、現在の条件の比表面積から、どのパラメータをどのように操作すると目標とする比表面積になるかを算出する。
【0073】
なお、上記の例では、探索する変更可能なパラメータ(すなわちターゲットパラメータ)を一つとして説明したが、複数であってもよい。また、パラメータの探索にAI(人工知能)技術を採用してもよい。この場合、DB部50に記録されているシミュレーション結果と比表面積の関係のデータを教師データとして学習させることで、高い精度を持ったシミュレーションを実現できる。
【0074】
以上、本実施形態のシミュレーション方法を纏めると次の通りである。
(1)炭化水素化合物を含む原料を反応場に供給してカーボンブラックを生成するプロセスのシミュレーション方法であって、
前記炭化水素化合物がピレンになる化学反応モデルを設定する化学反応モデル設定工程と、
前記反応場に供給される前記原料の供給条件を設定する原料供給条件設定工程と、
前記反応場に供給されて残っている前記炭化水素化合物の量Xの前記反応場の位置ごとに算出する炭化水素化合物算出工程と、
前記反応場に生成されたピレンの量Yを前記反応場の位置ごとに算出するピレン量算出工程と、
前記炭化水素化合物の前記量Xと、前記ピレンの前記量Yとの比X/Yを算出するピレン比算出工程と、
前記比X/Yにもとづいて、前記カーボンブラックの比表面積を算出する比表面積算出工程と、
を有する。
(2)前記比表面積算出工程は、前記比X/Yと前記カーボンブラックの比表面積との対応関係を記述した対応関係データベースを参照して、前記比表面積を算出する。
(3)前記対応関係データベースは、前記供給条件および前記カーボンブラックを生成する装置ごとに、前記対応関係を記述している。
(4)前記比表面積算出工程は、前記比表面積に関連づけられたパラメータを取得し、前記パラメータにもとづき前記比表面積を算出する。
(5)目標とする比表面積を取得し、現在の比表面積とから、前記パラメータの操作量を算出する操作量算出工程と、を有する。
(6)前記ピレン比算出工程は、前記比X/Yを前記反応場の領域ごとの分布として算出する。
(7)前記炭化水素化合物はアセチレンである。
【0075】
さらに以下の特徴を有する。
(8)算出された前記ピレンの量をピレン分布図として表示するピレン分布図表示工程と、
異なる条件で算出された複数の前記ピレン分布図を、それらを比較可能な状態で表示する比較表示処理工程と、
を有する。
(9)算出された前記炭化水素化合物の量を炭化水素化合物分布図として表示する炭化水素化合物分布図表示工程を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記炭化水素化合物分布図とを比較可能な状態で表示する。
(10)前記ピレン量算出工程で算出された前記ピレンの量と、前記炭化水素化合物算出工程で算出された前記炭化水素化合物の量との比であるピレン比を前記反応場の位置ごとに算出し、ピレン比分布図として表示するピレン比分布図表示工程を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記ピレン比分布図とを比較可能な状態で表示する。
(11)前記反応場における位置の温度を算出する温度分布算出工程と、
算出された温度を温度分布図として表示する温度分布表示工程と、
を有し、
前記比較表示処理工程は、前記ピレン分布図と前記温度分布図とを比較可能な状態で表示する。
【0076】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、本実施形態において、シミュレーション方法やシミュレーションシステムは、シミュレーション装置、シミュレーションプログラム、シミュレーションプログラムを格納する記録媒体と言い換えることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 シミュレーションシステム
2 主制御部
3 表示部
4 入力部
5 通信部
10 シミュレーション部
20 設定部
21 反応場条件設定部
22 原料供給条件設定部
30 計算処理部
31 ピレン分布算出部
32 炭化水素化合物算出部
33 温度分布算出部
34 ピレン比算出部
35 比表面積算出部
36 操作量算出部
37 比較表示処理部
50 DB部
51 対応関係DB
52 シミュレーションDB
100 比較表示画面
101 現在結果表示領域
102 ターゲット算出結果表示領域
110、120 条件・パラメータ表示領域
111 ID領域
112 基準比表面積表示領域
113 パラメータ表示領域
119 参照ボタン
121 入力領域
122 計算結果領域
123 パラメータ表示領域
125 チェック欄
130、140 分布図表示領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11