(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146093
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】シールリングの製造方法および成形金型
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20220928BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20220928BHJP
B29C 33/44 20060101ALI20220928BHJP
B29C 45/40 20060101ALI20220928BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16J15/00 B
F16J15/18
B29C33/44
B29C45/40
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046891
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】小田 真也
(72)【発明者】
【氏名】筧 幸三
【テーマコード(参考)】
3J043
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3J043AA17
3J043CA01
3J043CB13
3J043DA11
3J043FB20
4F202AG13
4F202AH13
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK13
4F202CK33
4F202CM01
4F202CM11
4F206AG13
4F206AH13
4F206JA07
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】型開き時の張り付きの発生およびその張り付きによる変形を防止でき、シール性を維持できるシールリングの製造方法、およびその成形金型を提供する。
【解決手段】シールリングの製造方法は、固定側型板10、可動側型板11およびコアピン12で形成されたキャビティ15内に溶融樹脂を充填してシールリングを成形する成形工程と、固定側型板10に対して可動側型板11およびコアピン12を一方向に移動させて型開きする型開き工程と、コアピン12を型開き工程とは反対方向に移動させて、コアピン12の外周面に設けられた段部13でシールリングの内径側端部を突き出す突き出し工程とを備え、コアピン12は、段部13よりも先端側の外周面に径方向外側に突出した凸部14を有しており、型開き工程において、凸部14が、該凸部14に対応して形成されるシールリングの内周面の凹部に引っ掛かることで、シールリングがコアピン12とともに移動する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のシールリングの製造方法であって、
前記製造方法は、固定側型板に対して可動側型板およびコアピンを型締めし、これらで形成されたキャビティ内に溶融樹脂を充填してシールリングを成形する成形工程と、前記固定側型板に対して前記可動側型板および前記コアピンを一方向に移動させて型開きする型開き工程と、前記コアピンを前記型開き工程とは反対方向に移動させて、前記コアピンの外周面に設けられた段部で前記シールリングの内径側端部を突き出す突き出し工程とを備え、
前記コアピンは、前記段部よりも先端側の外周面に径方向外側に突出した凸部を有しており、
前記型開き工程において、前記凸部が、該凸部に対応して形成される前記シールリングの内周面の凹部に引っ掛かることで、前記シールリングが前記コアピンとともに移動することを特徴とするシールリングの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、前記突き出し工程の後、前記コアピンに保持された前記シールリングの側面に治具を係合させ該治具を移動させることで、前記シールリングを前記コアピンから取り出す取り出し工程を備えることを特徴とする請求項1記載のシールリングの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のシールリングの製造方法に用いる成形金型であって、前記成形金型は、前記固定側型板と、前記可動側型板と、前記コアピンとを備えることを特徴とするシールリングの成形金型。
【請求項4】
前記コアピンの前記凸部の高さが、前記シールリングの径方向長さの1%~10%であることを特徴とする請求項3記載のシールリングの成形金型。
【請求項5】
前記コアピンの前記凸部の軸方向の幅が、前記シールリングの軸方向長さの2%~60%であることを特徴とする請求項3または請求項4記載のシールリングの成形金型。
【請求項6】
前記コアピンの前記凸部は、周方向に沿って連続して設けられており、該凸部の周方向における形成範囲は、前記シールリングの内周長さに対して15%以上であることを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか1項記載のシールリングの成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機などの流体圧を利用した機器内に充填された作動油の漏洩を防止するシールリングの製造方法、および該製造方法に用いる成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機などの機器では、作動油を密封するためのオイルシールリングが要所に取り付けられている。例えば、ハウジングの軸孔に挿通される回転軸に設けられた対の離間した環状溝に取り付けられ、両環状溝間にある油路から供給される作動油を両シールリングの側面と内周面で受け、反対側の側面と外周面とで環状溝の側壁とハウジング内周面とをシールする。シールリングにおける各シール面は、環状溝の側壁、ハウジング内周面とそれぞれ摺動接触しつつ、両シールリング間の作動油の油圧を保持している。このシールリングは略矩形断面の環状体であり、周方向の一箇所に合い口を有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、シールリングとして、環状部の内周にその環状部よりも軸方向幅の小さい環状突出部(段部)が形成されたシールリングが記載されており、そのシールリングの製造方法、およびその製造方法に用いる成形金型が開示されている。この成形金型は、固定側型板と、可動側型板と、コアピンとを有し、可動側型板にシールリングの段部の内周面およびその段部の一側面における内径部を成形するコアピンが軸方向にスライド自在に設けられている。この製造方法では、まず、固定側型板に対して可動側型板およびコアピンを型締めし、これらの間に形成されたキャビティ内に溶融樹脂を充填して、成形体を成形する。そして、可動側型板およびコアピンを型開きした後、コアピンを軸方向にスライドさせて可動側型板に残った成形体を突き出すことで、シールリングが得られる。
【0004】
近年、環境問題などを背景として、自動車業界は低燃費車の開発を加速させている。その一環で信号待ち時のアイドリングストップ機能の需要増加に伴って低オイルリークのニーズが高まっている。例えば、特許文献2には、回転摺動フリクションの低減を図りつつ、リーク量の低減を図り、長期にわたって安定したシール性能を維持する品質性に優れる樹脂製のシールリングが記載されている。具体的な構成としては、シールリングの側面に、環状溝の非密封流体側の側壁に線状に当接する線接触部が、合い口の一方側から他方側まで全周にわたって連続的に設けられ、合い口の一方側に設けられた線接触部と、該合い口の他方側に設けられた線接触部とが、径方向に離れて設けられている。また、このシールリングでは、外周面と側面との角部が面取りされて傾斜面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-9306号公報
【特許文献2】国際公開第2004/011827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような樹脂製のシールリングは、例えば樹脂組成物の射出成形によって得られる。ここで、一例として、外周面に傾斜面を備えるシールリングの製造方法の工程図を
図8に示す。
図8(a)は成形工程を示し、
図8(b)、(c)は型開き工程を示している。
図8(a)に示すように、成形金型は、固定側型板51と、可動側型板52と、コアピン53とを有し、これらが衝合されてキャビティ54が形成される。溶融樹脂がキャビティ54に充填され、保圧を経た後、一定時間冷却して成形体55が得られる。成形体55の外周面から側面にわたって傾斜面55aが形成されている。
【0007】
続いて、型開き工程では、固定側型板51に対して、可動側型板52およびコアピン53をX方向に可動させる。この際、本来であれば、コアピン53らの動きに合わせて成形体55もX方向に動くところ、成形体55が固定側型板51に吸着されて張り付く場合がある(
図8(b)参照)。部分的な張り付きが生じると、シールリングは固定側型板から離型するものの、いびつな離型になる(
図8(c)参照)ため、シールリングが変形しやすくなり、例えば、側面の平面度が悪化し、オイルリークが多くなるおそれがある。また、張り付きが生じることで、後続の製品の取り出しなどにも影響し、連続成形が困難になるおそれがある。このような張り付きは、金型の型割上、固定側型板51との接触面積が増加することから、傾斜面を有しないシールリングに比べて、傾斜面を有するシールリングの方がより発生しやすい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、型開き時の張り付きの発生およびその張り付きによる変形を防止でき、シール性を維持できるシールリングの製造方法、およびその成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシールリングの製造方法は、合成樹脂製のシールリングの製造方法であって、上記製造方法は、固定側型板に対して可動側型板およびコアピンを型締めし、これらで形成されたキャビティ内に溶融樹脂を充填してシールリングを成形する成形工程と、上記固定側型板に対して上記可動側型板および上記コアピンを一方向に移動させて型開きする型開き工程と、上記コアピンを上記型開き工程とは反対方向に移動させて、上記コアピンの外周面に設けられた段部で上記シールリングの内径側端部を突き出す突き出し工程とを備え、上記コアピンは、上記段部よりも先端側の外周面に径方向外側に突出した凸部を有しており、上記型開き工程において、上記凸部が、該凸部に対応して形成される上記シールリングの内周面の凹部に引っ掛かることで、上記シールリングが上記コアピンとともに移動することを特徴とする。
【0010】
上記製造方法は、上記突き出し工程の後、上記コアピンに保持された上記シールリングの側面に治具を係合させ該治具を移動させることで、上記シールリングを上記コアピンから取り出す取り出し工程を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のシールリングの成形金型は、本発明のシールリングの製造方法に用いる成形金型であって、上記成形金型は、上記固定側型板と、上記可動側型板と、上記コアピンとを備えることを特徴とする。
【0012】
上記コアピンの上記凸部の高さが、上記シールリングの径方向長さの1%~10%であることを特徴とする。
【0013】
上記コアピンの上記凸部の軸方向の幅が、上記シールリングの軸方向長さの2%~60%であることを特徴とする。
【0014】
上記コアピンの上記凸部は、周方向に沿って連続して設けられており、該凸部の周方向における形成範囲は、上記シールリングの内周長さに対して15%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシールリングの製造方法は、固定側型板、可動側型板、およびコアピンで形成されたキャビティ内に溶融樹脂を充填してシールリングを成形する成形工程と、固定側型板に対して可動側型板およびコアピンを一方向に移動させて型開きする型開き工程と、コアピンの外周面に設けられた段部でシールリングの内径側端部を突き出す突き出し工程とを備え、コアピンは、段部よりも先端側の外周面に径方向外側に突出した凸部を有しており、型開き工程において、凸部が、該凸部に対応して形成されるシールリングの内周面の凹部に引っ掛かることで、シールリングがコアピンとともに移動するので、型開き工程で、固定側型板にシールリングが吸着されて張り付くことを防止でき、また、張り付きによる変形を防止できる。その結果、シール性が維持されたシールリングを得ることができる。
【0016】
本発明のシールリングの成形金型は、本発明の製造方法に用いられる成形金型であって、上記固定側型板と、上記可動側型板と、上記コアピンとを備えるので、型開き工程において、固定側型板にシールリングが吸着されて張り付くことを防止でき、また、張り付きによる変形を防止できる。
【0017】
コアピンの凸部の高さが、シールリングの径方向長さの1%~10%であるので、型開き工程において、シールリングのコアピンへの追従性を確保しつつ、コアピンからの取り出しにも優れる。
【0018】
コアピンの凸部の幅が、シールリングの軸方向長さの2%~60%であるので、凸部をシールリングに引っ掛かりやすくしつつ、対応する凹部の幅を制限することでシールリングにおけるショートショットの発生を抑制できる。
【0019】
コアピンの凸部は、周方向に沿って連続して設けられており、該凸部の周方向における形成範囲は、シールリングの内周長さに対して15%以上であるので、シールリングに対してコアピンの略全体で引っ掛かることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の製造方法で得られるシールリングの一例を示す平面図である。
【
図3】
図1のシールリングを製造する成形金型の説明図である。
【
図4】
図1のシールリングの製造方法の工程図である。
【
図5】他のシールリングの製造方法を示す工程図である。
【
図6】他のシールリングの製造方法を示す工程図である。
【
図7】
図1のシールリングを環状溝に組み込んだ状態を示す断面図である。
【
図8】従来のシールリングの製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の製造方法で得られるシールリングの一例を
図1~
図2に基づいて説明する。
図1はシールリングの平面図であり、
図2はA-A線断面図である。
図1に示すように、シールリング1は、成形金型を用いた射出成形によって形成され、断面が略矩形の環状体である。シールリング1は、周方向の一箇所に合い口8を有するカットタイプのリングであり、弾性変形により拡径して環状溝に装着される。
【0022】
合い口8は一対の端部から構成される。一対の端部の形状については、ストレートカット、アングルカットなどにすることも可能であるが、オイルシール性に優れることから、
図1に示す複合ステップカットを採用することが好ましい。複合ステップカットにおいて、一方の合い口は、シールリングの内径面側に突き合わせ面と、外径面側に突き合わせ面から突出したリップおよび後退したポケットとを有し、他方の合い口は、上記突き合わせ面、上記リップおよびポケットと、相補的に嵌合するように形成された突き合わせ面、ポケットおよびリップとを有している。
【0023】
シールリングの大きさ(外径φ、内径φ、厚みT(径方向長さ)、幅W(軸方向長さ)など)は、用途などによって適宜設定される。例えば、シールリングの内径φは9mm~75mmであり、外径φは13mm~80mmである。
【0024】
シールリング1において、側面4または4’が環状溝の側壁面との摺動面となる。
図2に示すように、内周面2と側面4、4’との角部には、射出成形時において金型からの突出し部分となる段部5、5’が設けられている。
図2では、段部5、5’は軸方向の両側の内径側端部に設けられ、径方向に凹んだ部分である。また、外周面3と側面4、4’との両側の角部には、傾斜面6、6’が設けられている。傾斜面6、6’は、シールリングの全周にわたって設けられ、環状溝の側壁面との非接触部となる。なお、側面4、4’には、凹部からなる複数の潤滑溝が周方向に離間して形成されていてもよい。
【0025】
傾斜面6、6’の摺動面(側面4または4’)からの深さは、径方向の外側に向けて深くなる。シールリング1の軸方向断面において、外周面3に対する傾斜面6、6’の傾斜角αは、例えば20度~60度である。傾斜角αは、好ましくは30度~50度であり、より好ましくは30度~45度であり、さらに好ましくは40度~45度である。傾斜角αが20度未満であると、ハウジングへの組み付け時において、シールリングの偏芯(環状溝からの飛び出し)が大きい場合にハウジングの端面に当たりやすくなり、かじりが発生するおそれがある。また、傾斜角αが60度を超えると、ハウジングの端面に当たった際にシールリングがスムーズに誘導されないおそれがある。
【0026】
図2に示すように、シールリング1は、一対の段部5、5’の間の内周面2に径方向に凹んだ凹部7を有している。凹部7は、後述の
図3で示すように、コアピンの外周面に設けられる凸部に対応して形成される。この凹部7は、型開き工程におけるアンダーカット部である。アンダーカット部は、コアピンの凸部との係り代、つまりコアピンに引っ掛かる部分である。
図2において、凹部7は、周方向に沿って連続して形成された断面円弧状の円弧溝である。この円弧溝は、両側の段部5、5’には開口しておらず、内周面内で閉じた凹溝となっている。なお、
図2において、シールリング1の軸方向における内周面2の幅をw
aとする。
【0027】
図3には、シールリングを製造する成形金型の概略断面図を示す。
図3に示すように、成形金型9は、固定側型板10と、可動側型板11と、コアピン12とを有する。
図3は、これらが衝合されてキャビティ15が形成された状態を示している。キャビティ15に溶融状態の樹脂組成物が充填されることでシールリングが成形される。なお、
図3に示す寸法T、W、w
aは、それぞれシールリングの厚み、幅、内周面幅に相当する。
【0028】
図3に示すように、可動側型板11によって、シールリングの外周面と、シールリングの軸方向一方側の傾斜面および側面が形成され、コアピン12によって、シールリングの内周面と、シールリングの軸方向一方側の段部が形成される。また、固定側型板10によって、シールリングの軸方向他方側の傾斜面、側面および段部が形成される。
【0029】
コアピン12は、軸方向にスライド可能な円柱状部材であり、大径部12aと、大径部12aよりも先端側に位置する小径部12bを有し、段部13によって大径部12aと小径部12bが繋がれている。段部13は、コアピン12およびシールリングの軸方向に対して直交するように形成され、この段部13によって、シールリングの一方の段部が形成される。後述するように、突き出し工程ではコアピン12を軸方向の一方側に移動させることで、段部13がシールリングの段部を突き出す。
【0030】
図3に示すように、シールリングの内周面はコアピン12の小径部12bによって形成される。小径部12bの外周面には径方向外側に突出した凸部14が形成されており、この凸部14に対応して、シールリングの内周面に凹部7(
図2参照)が形成される。
図3において、凸部14は、コアピンの周方向に沿って連続して形成された断面円弧状の凸部である。該凸部の形状は特に限定されず、例えば、断面矩形の凸部や断面三角形の凸部などにしてもよい。この場合、凸部の形状に合わせてシールリングの凹部の形状も変わり、例えば断面矩形の角溝や断面三角形の三角溝などが形成される。以下には、凸部の寸法などについて説明する。
【0031】
コアピン12の凸部14の高さt
aは、シールリングの厚みTの1%~10%であることが好ましい。厚みTは、シールリングにおいて径方向の最大厚みをいい、例えば
図2では、内周面2と外周面3との間の長さである。凸部14の高さt
aは、凸部の最も突出した地点から、凸部が形成されていないと仮定した場合の小径部12bの外周面の仮想面Fに降ろした垂線の長さをいう。高さt
aが1%未満の場合、型開き時に引っ掛かりが弱くなり、張り付きが発生するおそれがある。また、高さt
aが10%を超えると、コアピン12との引っ掛かりが強くなり、コアピン12からの取り出しが困難になるおそれがある。高さt
aは、好ましくはシールリングの厚みTの3%~5%である。
【0032】
また、別の観点では、凸部14の高さtaは、コアピン12の段部13の高さ(径方向長さ)よりも浅いことが好ましい。また、凸部14の高さtaの具体的な数値は0.05mm~0.2mm程度である。なお、コアピン12の段部13は、突き出し工程においてシールリングを突き出す部分であり、その際のシールリングの変形防止のため、段部13の高さはシールリングの厚みTの10%を超えて設けられている。
【0033】
コアピン12の凸部14の軸方向幅w
bは、特に限定されない。ただし、幅w
bが小さいと、型開き時に引っ掛かりが弱くなり、張り付きが発生するおそれがある。幅w
bが大きいと、例えば溶融粘度が高い材料を用いた場合にシールリングにおいてショートショットが発生する場合がある。そのため、凸部14の幅w
bは、幅Wの2%~60%であることが好ましく、5%~40%であることがより好ましい。幅Wは、シールリングにおいて軸方向の最大幅をいい、例えば
図2では、一方の側面4と他方の側面4’との間の長さである。また、別の観点では、凸部14の幅w
bは、内周面幅w
aの10%~50%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。
【0034】
また、凸部14は、高さtaの厚みTに対する割合(%)と、幅wbの幅Wに対する割合(%)との積が10以上、500以下の範囲となることが望ましい。10未満であれば型開き時にアンカー効果が得られにくく張り付きが発生するおそれがあり、500を超えると溶融粘度が高い材料を用いた場合にシールリングにおいてショートショットが発生する場合がある。
【0035】
凸部14の周方向における形成範囲は、シールリングの内周長さに対して15%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましい。凸部14の形成範囲を15%以上とすることでアンカー効果が得られやすい。一方、合い口8(
図1参照)の周辺、例えば合い口8を中心にしたシールリングの周方向±10°の範囲の部分には凹部が形成されないようにするため、コアピン12の凸部14を形成することが好ましい。凸部14の周方向における形成範囲の上限は、例えばシールリングの内周長さに対して90%であり、80%が好ましい。
【0036】
図3では、凸部として、周方向に沿って連続して形成された凸部を示したが、該凸部が周方向で分割された複数(例えば2本)の凸部で構成されていてもよい。この場合、複数の凸部のリング周方向における形成範囲(各凸部の合計)は、シールリングの内周長さに対して15%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましい。その上限は、例えば90%であり、80%が好ましい。
【0037】
また、コアピン12の凸部14は、周方向に沿って連続して形成された凸部に限らず、独立した複数の突起で構成されていてもよい。この場合、例えば、複数の突起が周方向に互いに離間して配列された形状にすることができる。突起の高さ、軸方向における幅、周方向における形成範囲(複数の突起の場合はその合計)については、上述の各数値範囲を採用できる。
【0038】
上記シールリングは、樹脂組成物の射出成形体である。樹脂組成物のベース樹脂としては、射出成形可能な合成樹脂であれば任意のものを使用できる。例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ホリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、フェノール(PF)樹脂などが挙げられる。なお、これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。これらの樹脂の中でも特に、摩擦摩耗特性、曲げ弾性率、耐熱性、摺動性などに優れることから、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、またはPAI樹脂をベース樹脂として用いることが好ましい。これらの樹脂は高い弾性率を有し、環状溝に組み込む際に拡径しても割れ難く、シールする作動油の油温が高くなる場合でも使用でき、また、ソルベントクラックの心配もない。
【0039】
また、必要に応じて上記ベース樹脂に、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの繊維状補強材、球状シリカや球状炭素などの球状充填材、マイカやタルクなどの鱗状補強材、チタン酸カリウムウィスカなどの微小繊維補強材を配合できる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの摺動補強材、カーボンブラックなどの顔料も配合できる。これらは単独で配合することも、組み合せて配合することもできる。
【0040】
以上の諸原材料を溶融混練して成形用ペレットとし、これを用いて射出成形法により所定形状に成形する。
【0041】
本発明のシールリングの製造方法は、少なくとも、キャビティ内に溶融樹脂を充填してシールリングを成形する成形工程と、固定側型板に対して可動側型板およびコアピンを一方向に移動させて型開きする型開き工程と、コアピンを型開き工程とは反対方向に移動させてシールリングを突き出す突き出し工程とを備える。また、この製造方法は、突き出し工程の後、治具を用いてコアピン上のシールリングをコアピンから取り出す取り出し工程をさらに備えることが好ましい。
【0042】
以下に、各工程について
図4を用いて説明する。
図4(a)~(d)がそれぞれ4つの各工程を示している。
【0043】
<成形工程>
図4(a)に示すように、固定側型板10に対して、可動側型板11およびコアピン12を型締めし、これらでキャビティ15が形成される。溶融状態の樹脂組成物がキャビティ15に充填され、保圧を経た後、一定時間冷却して成形体(シールリング)16が得られる。コアピン12の小径部12bの外周面に形成された凸部14に対応して成形体16の内周面に凹部16aが形成される。また、コアピン12の段部13によって、成形体16の軸方向一方側の段部が形成される。
図4(a)において、固定側型板10と可動側型板11との衝合面は成形体16の外周面と軸方向他方側の傾斜面との境界線上に配置され、固定側型板10とコアピン12との衝合面は成形体16の軸方向他方側の段部の延長線上に配置される。
【0044】
<型開き工程>
図4(b)に示すように、固定側型板10に対して、可動側型板11およびコアピン12をX方向に移動させて型開きする。この際、凹部16aがコアピン12の凸部14に引っ掛かるため、コアピン12の動きに追従して成形体16もX方向に動く。このように、凹部16aがアンダーカット部となり、成形体16が物理的に固定されるため、固定側型板10への張り付きが抑制される。
【0045】
<突き出し工程>
図4(c)に示すように、コアピン12を型開き工程とは反対方向に、つまり固定側型板10に向けてY方向に移動させることで、コアピン12の段部13によって成形体16の段部を押圧して成形体16を突き出す。これにより、成形体16が可動側型板11から離型する。
【0046】
<取り出し工程>
そして、取り出し工程においてコアピン12に保持された成形体16を取り出す。
図4(d)に示すように、取り出しハンド17の係合部17aを成形体16の側面16bの一部に係合させて、Z方向に移動させることで、成形体16がコアピン12から取り出される。
【0047】
上記一連の工程によって得られた成形体の合い口は、一対の端部が相互に離れた状態となっているが、熱固定などによって閉じられ、
図1に示すシールリング1が得られる。
【0048】
本発明の製造方法は、
図4に示す方法に限らない。例えば、
図5に示すように、コアピン12’の小径部12bの外周面に幅広の凸部14を設けてもよい。この場合も、
図5(b)に示すように、型開き工程において固定側型板10への張り付きを防止できる。また、凸部14の高さt
aは、リング厚みTの1%~10%を満たすことが好ましい。これにより、シール性やリングの落ち込みは従来のシールリングと同等を確保しつつ、金型からの取り出しを容易にできる。なお、凸部の高さが高くなると、例えば、
図6(a)に示すように、コアピン12への引っ掛かりが強くなり、取り出し工程で凹部周辺に負荷がかかり、シールリングに変形が生じやすくなる。
【0049】
また、アンダーカット部となる凹部の形成位置は、シールリングの内周面以外にも、側面や外周面が考えられるが、側面の場合は、突き出し時でもアンカー効果が強く、取り出しが困難になる(
図6(b)参照)。また、外周面の場合は、突き出し時に成形体が金型に拘束された状態となるため、成形体を突き出せず連続成形が困難である。そのため、凹部を内周面に形成する、つまりコアピンの外周面に凸部を形成することで、
図4で示したように、取り出し時に成形体が拘束されず、取り出しを容易に行うことができる。
【0050】
上記
図1~
図5では、外周面に傾斜面を有するシールリングを示したが、本発明の製造方法は、このようなシールリングの製造方法に限定されず、傾斜面を有しないシールリング、つまり外周面の角部が面取りされていないシールリングの製造方法にも適用できる。
【0051】
続いて、シールリングの使用形態の概略を
図7に基づいて説明する。シールリング1は、ハウジング22の軸孔22aに挿通される回転軸21に設けられた環状溝21aに装着される。図中の矢印が作動油からの圧力が加わる方向であり、図中右側が非密封流体側である。シールリング1は、その側面4で、環状溝21aの非密封流体側の側壁面21bに摺動自在に接触している。また、その外周面3で軸孔22aの内周面に接触している。このシール構造により、回転軸21と軸孔22aとの間の環状隙間を封止している。また、作動油は用途に応じた種類が適宜用いられる。例えば、油温として-30~150℃程度、油圧として0~3.0MPa程度、回転軸の回転数として0~7000rpm程度の条件で使用される。
【0052】
図7に示すように、シールリング1において、オイルリークに関わる外周面3や側面4にはアンダーカット部となる凹部が形成されておらず、内周面2に凹部7を形成することで、低オイルリーク性を維持することができる。さらに、凹部7によって、型開き時に固定側型板への張り付きが抑制されるので、張り付きに伴う変形、例えば側面4の平面度の悪化などを抑制でき、その結果、シール性の維持に繋がる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシールリングは、型開き時の張り付きの発生を抑制でき、シール性を維持できるので、回転軸とハウジングとの間で低オイルリーク性が要求されるシールリングとして使用できる。特に、自動車等におけるATやCVTなどの油圧機器に燃費向上のために好適に使用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 シールリング
2 内周面
3 外周面
4、4’ 側面
5、5’ 段部
6、6’ 傾斜面
7 凹部
8 合い口
9 成形金型
10 固定側型板
11 可動側型板
12、12’ コアピン
13 段部
14 凸部
15 キャビティ
16 成形体
17 取り出しハンド(治具)
21 回転軸
22 ハウジング