(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146095
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】弁座の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16K 3/08 20060101AFI20220928BHJP
B24B 7/17 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16K3/08
B24B7/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046893
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】福澤 覚
【テーマコード(参考)】
3C043
3H053
【Fターム(参考)】
3C043BC06
3H053AA26
(57)【要約】
【課題】弁座の摺動面側と固定面側の研磨時において、両面の研磨量がアンバランスにならないことでシール性に優れ、また生産性にも優れる弁座の製造方法を提供する。
【解決手段】弁座の製造方法は、弁座2に対して弁体を摺動させることで流体の流路や流量を切り換えるディスクバルブ装置における合成樹脂製の弁座の製造方法であり、弁座2の一方の面は弁体と摺動する摺動面であり、他方の面はパッキンを介して筐体に固定される固定面6であり、研磨対象物の両面を研磨して、摺動面と固定面6を形成する研磨工程を有し、研磨対象物の摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積との差が、摺動面側の研磨面積に対して-20%~20%以内である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座に対して弁体を摺動させることで流体の流路や流量を切り換えるディスクバルブ装置における合成樹脂製の弁座の製造方法であって、
前記弁座の一方の面は前記弁体と摺動する摺動面であり、他方の面はパッキンを介して筐体に固定される固定面であり、
前記製造方法は、研磨対象物の両面を研磨して、前記摺動面と前記固定面を形成する研磨工程を有し、前記研磨対象物の摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積との差が、前記摺動面側の研磨面積に対して-20%~20%以内であることを特徴とする弁座の製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程での研磨は、前記研磨対象物の両面に対して同時に行われることを特徴とする請求項1記載の弁座の製造方法。
【請求項3】
前記研磨工程での研磨は、両面研削盤によって行われることを特徴とする請求項2記載の弁座の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、前記研磨工程の前に、樹脂組成物を射出成形して前記研磨対象物となる成形体を得る成形工程を有し、該成形工程において、前記成形体は、前記摺動面側の研磨面積よりも前記固定面側の研磨面積の方が大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の弁座の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は、該成形体の前記固定面側の面に、その面の研磨代よりも深く形成された凹部を有することを特徴とする請求項4記載の弁座の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流路や流量を切り換えるディスクバルブ装置の弁座の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湯水混合水栓、人体局部洗浄装置などにおいて流路や流量を切り換えるディスクバルブ装置が使用されている(特許文献1、特許文献2)。このディスクバルブ装置は固定ディスクである弁座に対し可動ディスクである弁体が摺動自在に配置され、弁座および弁体には流路となる溝部や穴部が形成されている。
【0003】
弁座および弁体の摺動面は流体の漏れを防止するため、および摺動トルクを小さくするため精密な研磨が施されている。弁座および弁体は、複雑な形状を容易に形成するとともに摺動トルクを低くするため、潤滑性合成樹脂の射出成形体が用いられている。
【0004】
ディスクバルブ装置は、弁座および弁体からなるディスクバルブと、パッキンとをハウジング内に備える。弁座の摺動面とは反対側の面である反摺動面は、ゴム製のパッキンを介してハウジングの底面に押し付けて固定されている(以下、反摺動面を固定面という)。弁座は、ハウジング内で回転不能に位置決めされている。弁座には通水するための複数の貫通孔(通水孔)が形成されており、該貫通孔は固定面から摺動面に貫通している。ハウジングの下部にはディスクバルブに水道水を供給する流路が形成され、流路と通水孔がパッキンの穴を介して連通している。弁座とハウジングを通じる水路はパッキンによって水漏れが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-336648号公報
【特許文献2】特開2007-270863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弁座の摺動面および固定面は、水漏れ防止(シール性確保)のために平滑な面に形成する必要があることから、研磨によって仕上げられている。そのため、研磨前の成形体(成形素材)の摺動面側、および固定面側にはそれぞれ研磨代が設けられており、該成形素材の厚みは研磨後の弁座の厚みよりも研磨代分厚くなるように成形される。
【0007】
従来、弁座の摺動面および固定面の研磨には、両面ラップ盤が用いられている。しかし、研磨後の弁座において、摺動面側の研磨量と固定面側の研磨量とがアンバランスとなり、意図した研磨代を研磨できない場合があった。これは、摺動面と固定面のデザイン(平面形状や凹凸形状)が異なることに起因して、成形体の両面で実際に研磨される面積に大きな差が生じることから、研磨面積が大きい方の面の研磨高さが、研磨面積が小さい方の面の研磨高さよりも小さくなるためである。ここで、研磨高さとは、各面において研磨によって削られる高さをいう。
【0008】
従来、上記のように、摺動面側と固定面側の研磨量のアンバランスに対しては、成形金型を修理することによって是正していた。すなわち、両面ラップ盤で摺動面側と固定面側を同時に研磨した際に、いずれか一方の面の研磨代分が研磨され、他方の面の研磨代が残っていた場合、その他方の面に残っていた研磨代分を、一方の面を形成する金型キャビティに掘り込むことによって対処していた。通常、成形金型は生産効率の観点から、製品を多数個取りできるよう複数のキャビティが形成されている。そのため、成形金型の修理は、修理に要する時間や費用が膨大になり、製品コストの上昇につながるおそれがある。また、一度の成形金型の修理では摺動面側と固定面側の研磨量のアンバランスが是正されず、二度目、三度目の修理が必要になる場合もあり、その場合には成形金型の完成が遅れ、予定された生産開始時期が遅れることなどが考えられる。
【0009】
本発明は、弁座の摺動面側と固定面側の研磨時において、両面の研磨量がアンバランスにならないことでシール性に優れ、また生産性にも優れる弁座の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の弁座の製造方法は、弁座に対して弁体を摺動させることで流体の流路や流量を切り換えるディスクバルブ装置における合成樹脂製の弁座の製造方法であって、上記弁座の一方の面は上記弁体と摺動する摺動面であり、他方の面はパッキンを介して筐体に固定される固定面であり、上記製造方法は、研磨対象物の両面を研磨して、上記摺動面と上記固定面を形成する研磨工程を有し、上記研磨対象物の摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積との差が、上記摺動面側の研磨面積に対して-20%~20%以内であることを特徴とする。
【0011】
ここで、「研磨対象物の摺動面側の研磨面積」とは、研磨対象物の摺動面側の面において実際に研磨が行われる面の面積をいい、「研磨対象物の固定面側の研磨面積」とは、研磨対象物の固定面側の面において実際に研磨が行われる面の面積をいう。また、両者の研磨面積の差Dは、以下の式(1)で表わすことができる。
差D(%)=((固定面側の研磨面積-摺動面側の研磨面積)/(摺動面側の研磨面積))×100・・・(1)
【0012】
上記研磨工程での研磨は、上記研磨対象物の両面に対して同時に行われることを特徴とする。さらに、上記研磨は、両面研削盤によって行われることを特徴とする。
【0013】
上記製造方法は、上記研磨工程の前に、樹脂組成物を射出成形して上記研磨対象物となる成形体を得る成形工程を有し、該成形工程において、上記成形体は、上記摺動面側の研磨面積よりも上記固定面側の研磨面積の方が大きくなるように形成されることを特徴とする。
【0014】
上記成形体は、該成形体の上記固定面側の面に、その面の研磨代よりも深く形成された凹部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の弁座の製造方法は、研磨対象物の両面を研磨して、弁座における摺動面と固定面を形成する研磨工程を有し、上記研磨対象物の摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積との差が、摺動面側の研磨面積に対して-20%~20%以内であるので、研磨対象物の摺動面側の面と固定面側の面のそれぞれに対する研磨速度(一定時間で研磨可能な厚み)の差が所定範囲内となり、両面の研磨量がアンバランスにならずに均一な量を研磨することができる。その結果、筐体とのパッキンを介した固定部や、弁体との接触部のシール性に優れる。さらに、研磨量のアンバランスに伴う成形金型の修理などが不要となり、金型修理にかかる時間や費用を削減でき、生産性が向上する。
【0016】
研磨工程での研磨は、研磨対象物の両面に対して同時に行われ、例えば両面研削盤が用いられるので、弁座の研磨に要する時間を短縮でき、生産性により優れる。
【0017】
弁座において、摺動面と固定面の形状は、弁体との流路の切り換えを行う摺動面の方が凹状に形成される面積が大きくなる傾向がある。そのため、研磨対象物(成形体)において、固定面側の面の方が摺動面側の面よりも研磨面積が大幅に大きくなりやすい。そのような場合でも、成形工程によって得られる成形体は、固定面側の面に、その面の研磨代よりも深く形成された凹部を有するので、該凹部によって研磨面積を減少でき、研磨面積の差を所定の範囲内に収めやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】成形体の凹部を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法によって製造される弁座を用いたディスクバルブ装置の一例として、人体局部洗浄装置について
図8を用いて説明する。人体局部洗浄装置14は、内部に流路切り換え手段としてディスクバルブ21を備えた筐体15と、筐体15内の流路切り換え手段を駆動する駆動装置16とを備えている。筐体15の内部に備えられる流路切り換え手段は、後述する弁体1および弁座2から構成されている。また、筐体15は、筐体15内に洗浄水を供給する洗浄水供給装置17と、洗浄水供給装置17から供給される洗浄水を人体局部へ噴出する人体局部洗浄ノズル18と、人体局部洗浄ノズル18を洗浄するノズル洗浄水吐出部19と、洗浄水が排出される排水部20とに接続されている。
【0020】
人体局部洗浄装置14は、筐体15の内部の流路切り換え手段を駆動装置16で駆動することにより、筐体15内の流路を切り換え、洗浄水供給装置17からの洗浄水を人体局部洗浄ノズル18またはノズル洗浄水吐出部19のいずれかに流通させる構成である。
【0021】
図8に示すように、ディスクバルブ21において、弁座2(固定ディスク)は筐体15に対して回転不能に固定されており、弁体1(可動ディスク)は弁座2に対して回転可能であり、弁体1と弁座2は、各摺動面同士が摺動自在に配置される。弁体1は、その円形状の中心を回転軸として摺動しながら回転し、弁体1と弁座2の穴部や溝部同士が重なり合ったり、ずれたりすることで、水の流路や、流量を切り換えることができる。
図8において、弁座2が本発明の製造方法によって製造される。
【0022】
この人体局部洗浄装置の内部構造について、
図9を用いて説明する。
図9は、駆動装置の回転軸方向に沿って切断した模式断面図である。
図9に示すように、筐体15の中には、駆動装置16によって回転する弁体1と、筐体15に対して回転不能に固定され、人体局部洗浄ノズルおよびノズル洗浄水吐出部に連通する通水孔を設けた弁座2と、該通水孔の形状や位置に対応した構造のパッキン13とが収納されている。パッキン13は、弁座2と筐体15の流路をつなぎ、人体局部洗浄ノズル、ノズル洗浄水吐出部および排水部へ洗浄水を流通させる。上述したように、弁座2は、一方の面が弁体1と対面して配置され、かつ、他方の面がパッキン13と対面するように配置されている。弁座2のパッキン13と対面する固定面6は、パッキン13を介して筐体15と接触している。
【0023】
ここで、ディスクバルブの一例として、
図1に弁体を示し、
図2に弁座を示す。
図1は、弁体の平面図であり、弁座と摺動する摺動面を示している。
図1に示すように、弁体1の摺動面には、様々な形状の溝部や穴部からなる弁体凹部1aが形成されている。弁体凹部1aは水道水の流路(通水路)を構成している。
【0024】
続いて
図2は、弁座の平面図であり、弁体と摺動する摺動面を示している。弁座2の摺動面3、および、摺動面3の裏側の固定面の一部は、両面研削盤などの機械的方法により平滑に研磨された研磨面となっている。
図2に示すように、弁座2の摺動面3には、通水路を構成する様々な形状の溝部4や通水孔5が形成されている。
図2において通水孔5は摺動面3から固定面に貫通した貫通孔である。
【0025】
図3は、
図2に示した弁座の固定面の平面図である。固定面におけるそれぞれの通水孔5は、弁座2に接触するパッキンによって区切られる。パッキンと接触することで、ディスクバルブ装置の使用時に筐体から水が漏れることを防止している。
図3において、固定面6は、パッキンと接触する面7と、通水孔5の周囲の面8と、凹面9とで構成される。接触面7および周囲面8は研磨面である。凹面9は、研磨面以外の面(非研磨面)であり、研磨面に対して所定の深さに凹んで形成されている。ここで、研磨面を凸面ともいい、
図3では凸面は接触面7および周囲面8を併せた面である。
【0026】
図4を用いて固定面における凸面と凹面との関係について説明する。
図4は、
図3において点線部で囲った部分Aである、凹面9と接触面7との境界部の拡大断面図を示す。
図4に示すように、凹面9の接触面7との境界となる壁面には勾配を設けることが好ましい。
図4では、凹面9と接触面7とを繋ぐ傾斜面10は、接触面7に対して40°傾斜している。傾斜面10は、接触面7に対して20°~45°傾斜していることが好ましい。これにより、研磨バリの発生を抑えやすく、また、研磨バリが発生した場合でも研磨バリの除去を行いやすくなる。傾斜面10の傾斜角度は、より好ましくは25°~40°である。
【0027】
本発明の弁座の製造方法の一例について以下に説明する。なお、本発明の製造方法は以下に記載の方法に限定されない。
【0028】
本発明の製造方法は、樹脂組成物を射出成形して成形体(研磨対象物)を得る成形工程と、該成形体の両面を研磨して、摺動面3(
図2参照)と固定面6(
図3参照)を形成する研磨工程を有する。ここで、本発明では、研磨前である研磨対象物の摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積との差が、摺動面側の研磨面積に対して-20%~20%以内であることを特徴としている。つまり、研磨対象物の摺動面側の面において実際に研磨が行われる研磨面積と、固定面側の面において実際に研磨が行われる研磨面積とがほぼ等しくなっている。これにより、研磨による研磨量のアンバランスを防止できる。上記研磨面積の差は、好ましくは-15%~15%以内であり、より好ましくは-10%~10%以内である。なお、この差は、上記式(1)により算出される。
【0029】
本発明において、摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積の大小関係は、特に限定されない。
【0030】
上記成形工程では、後述する樹脂組成物を溶融混錬して得られた成形用ペレットを用いて、公知の射出成形法により所定形状に成形する。例えば、ディスクバルブの流路設計とともに、研磨工程での研磨速度などを考慮して、摺動面と固定面のそれぞれに凹凸が設けられる。この成形工程で得られた成形体が、後続の研磨工程での研磨対象物になる。したがって、この成形工程では、上記研磨面積の差が-20%~20%以内になるように成形体を成形する。例えば、後述のように、固定面側の面に凹部が形成された成形体を成形することで研磨面積の差を調整する。
【0031】
一般に、弁座において、摺動面と固定面の形状は、弁体との流路の切り換えを行う摺動面の方がより複雑になる。その結果、凹状に形成される面積は摺動面の方が大きくなる傾向がある。そのため、研磨対象物において実際に研磨が行われる研磨面積は、固定面側の方が摺動面側よりも大きくなりやすく、上記研磨面積の差が広がりやすい。
【0032】
これの対処として、成形体の固定面側の面に凹部を形成して固定面側の研磨面積を減少させることが好ましい。この凹部は、研磨面積を調整するための調整凹部ともいえる。凹部を形成することで、固定面側の研磨面積が摺動面側の研磨面積とほぼ等しくなりやすい。
図5には成形体の凹部の拡大断面図を示す。なお、
図5は、
図4に示した弁座の研磨前の状態を示している。
【0033】
図5に示すように、成形体11の固定面側の面11aには凹部12が形成されている。この凹部12の深さD
aは、固定面側の面11aの研磨代D
bよりも深く形成される。深さD
aは、固定面側の面11aから、研磨されない面である凹面12aまでの深さである。例えば、固定面側の研磨代D
bが0.2mmの場合、深さD
aは0.2mmよりも大きくなるように形成され、例えば0.3mmに形成される。深さD
aは、研磨代D
bよりも、例えば0.03mm~0.5mm大きく形成される。
【0034】
なお、
図5において、成形体11から研磨代D
b分除去された面が接触面7(
図4参照)になる。また、凹部12の凹面12aは弁座における凹面9(
図4参照)である。
【0035】
成形体11の凹部12は、射出成形金型のキャビティの形状を変更することで形成できる。凹部12は、キャビティにおける凸状部によって形成される。また、凹部12と固定面側の面11aとの境界となる壁面12bには、研磨によるバリ発生の防止のため、勾配を設けることが好ましい。その勾配は、研磨される面である固定面側の面11aに対して20°~45°が好ましく、25°~40°がより好ましい。
【0036】
成形体の固定面側の面において凹部を形成する位置は特に限定されないが、弁座において、パッキンと接触する面7(
図3参照)および通水孔5の周囲の面8(
図3参照)以外の面に形成することが好ましい。通常、固定面は、通水孔の凹状形成部以外の面は平面部であるが、パッキンと接触する部位以外は、凹状に形成しても機能上問題がないため、その部位に凹部を形成することができる。換言するとパッキンと接触する部位は凹状にできないため、研磨面積の調整はパッキンとの接触面積に関わってくる。そのため、上記研磨面積の差をゼロにすることは困難な場合がある。なお、通水孔の周囲とは、固定面を平面視した場合において、通水孔を取り囲む、通水孔の内縁から所定範囲の幅の領域であり、具体的には、通水孔の内縁から少なくとも0.5mm以内の幅の領域である。
【0037】
研磨工程では、例えば、両面研削盤が用いられ、上記成形体の両面に対して研磨が同時に行われる。この研磨によって各面の研磨代が除去される。研磨代は、0.05mm~0.3mm程度である。
【0038】
研磨工程の後、必要に応じてショットブラストやバレル研磨などを行い、研磨バリの除去や投射材の洗浄を行ってもよい。
【0039】
以下には、本発明に用いる樹脂組成物について説明する。この樹脂組成物は、摺動特性を有するベース樹脂を含む。ベース樹脂としては、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などが使用できる。特に、PPS樹脂、PEEK樹脂は吸水率が小さく、耐水性に優れるとともに、研磨加工が容易であるため、好ましい。上記樹脂組成物は、ベース樹脂のみ(ベース樹脂100%)で構成されてもよく、また、ベース樹脂に、以下に示す固体潤滑剤や、球状充填剤などの充填剤を適宜配合してもよい。
【0040】
充填剤としては、潤滑特性を高くするため、例えば、黒鉛、二硫化モリブデン、PTFE樹脂などの固体潤滑剤を配合することが好ましい。中でもPTFE樹脂は潤滑性付与効果が高いため好ましい。固体潤滑剤はベース樹脂100質量部に対して5~60質量部、好ましくは10~45質量部、さらに好ましくは20~30質量部配合できる。5質量部未満であると潤滑性の向上効果が得られにくく、60質量部を超えると研磨面に対する傷付きが多くなり不良率が高くなる傾向がある。
【0041】
また、充填剤として、球状黒鉛や、ガラスビーズなどの球状充填剤を含むことで摺動特性が安定して得られやすくなる。この理由は、配合方向に異方性が出ないため摺動方向によって摺動トルクが変化しないためである。また、研磨によって球状充填剤が半球状に削られ、バレルタンブラーなどの後工程によって、摺動面に露出した半球状の球状充填剤が脱落しても、使用に際して脱落痕の凹部に水道水が保持されるようになり水中での潤滑効果が向上する。球状充填剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して5~30質量部であり、好ましくは5~20質量部である。5質量部未満であると補強効果が得られにくく、30質量部を超えると低摩擦性が低下するおそれがある。
【0042】
球状充填剤としては、ガラスビーズを用いることが好ましい。ガラスビーズの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、5μm~100μmであることが好ましく、5μm~50μmであることがより好ましい。ガラスビーズの平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、粒子径を測定する対象のガラスビーズを抽出して測定された粒子径から算出される数平均粒子径である。
【0043】
また、上記樹脂組成物には、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状充填剤は含まないことが好ましい。繊維状充填剤が含まれると、研磨後の表面粗さが不均一になるおそれがある。
【0044】
これらを考慮して、弁座を形成する樹脂組成物としては、PPS樹脂またはPEEK樹脂をベース樹脂とし、該ベース樹脂100質量部に対して、PTFE樹脂を20~30質量部、ガラスビーズを5~20質量部含み、かつ繊維状充填剤は含まないものが特に好ましい。さらに、ガラスビーズの平均粒子径が5μm~50μmであることが好ましい。
【0045】
また、本発明のディスクバルブ装置において、弁体は合成樹脂製であってもよい。その場合、弁体と弁座に用いられる各樹脂組成物は、同じ樹脂組成物でもよく、互いに異なる樹脂組成物であってもよい。弁体と弁座に用いられる各樹脂組成物は、製造工程簡略化の観点から、同じ樹脂組成物であることが好ましい。異なる樹脂組成物とは、その組成が異なるという意味であり、弁体を構成する各原料が異なることのみならず、各原料が同一で組成比が異なる場合も含む。例えば、弁座のベース樹脂をPPS樹脂として、弁体のベース樹脂をPEEK樹脂としてもよい。
【実施例0046】
本発明の効果、すなわち、研磨対象物の両面において実際に研磨が行われる面の研磨面積の差が研磨量におよぼす影響を確認した。
(1)固定面側の面に凹部を有する成形体(実施例:
図6参照)と、固定面側の面に凹部を有さない成形体(比較例:
図7参照)を、同一の樹脂組成物を用いて射出成形した。樹脂組成物には、PPS樹脂100質量部に対し、PTFE樹脂25質量部、ガラスビーズ15質量部を含む樹脂組成物を用いた。実施例1では、固定面側の面に追加工で
図6に示すような凹部を形成し、摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積の差を20%にした(固定面側の研磨面積は、摺動面側の研磨面積に対して20%研磨面積が多い)。実施例2では、固定面側の面に追加工で
図6に示すような凹部を形成し、摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積の差を10%にした(固定面側の研磨面積は、摺動面側の研磨面積に対して10%研磨面積が多い)。比較例1では、固定面の追加工を行わず成形したままの状態とした。摺動面側の研磨面積と固定面側の研磨面積の差は70%であった(固定面側の研磨面積は、摺動面側の研磨面積に対して70%研磨面積が多い)。
【0047】
実施例1、実施例2、比較例1の成形体の両面に設けた研磨代は、それぞれ0.2mmである。実施例1および実施例2の成形体の固定面側の面に追加工した凹部の深さは0.4mmである。また、実施例1および実施例2の成形体の固定面側の面において、研磨される面(平面部)と凹部との境界の壁面には平面部に対して40°の傾斜を形成した。なお、各弁座の摺動面の形状は、実施例と比較例で同一の形状である。
【0048】
(2)得られた成形体の摺動面側の面および固定面側の面を両面研磨機で研磨し、厚さ寸法を仕上げた。
(3)次に、研磨後の成形体にショットブラストとバレル研磨を行い、研磨バリの除去と投射材の洗浄を行った。
(4)上記(1)~(3)の工程を経て製造された弁座に対し、摺動面側と固定面側の研磨量を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、実施例1、実施例2の摺動面側と固定面側の研磨量の差はそれぞれ、0.024mm、0.010mmであり、吐水量に影響の無いレベルであった。一方、比較例1の摺動面側と固定面側の研磨量の差は、0.130mmであり、吐水量に影響が生じるレベルであった。そのため、比較例1の場合には金型の修理が必要になると考えられる。
本発明のディスクバルブ装置の弁座の製造方法は、研磨により成形体の摺動面側の面と固定面側の面の両面を同時加工しても、それぞれ均一な量を研磨することができる。このため、研磨量のアンバランスによる成形金型の修理が不要となり、金型修理にかかる時間や費用を無駄にすることを防止できる。