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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146200
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/34 20060101AFI20220928BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20220928BHJP
   F03D 80/70 20160101ALI20220928BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16C33/34
F16C19/38
F03D80/70
C23C16/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047039
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591029699
【氏名又は名称】日本アイ・ティ・エフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】木場 勇策
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼古 一将
(72)【発明者】
【氏名】堀 径生
(72)【発明者】
【氏名】三宅 浩二
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥和
【テーマコード(参考)】
3H178
3J701
4K030
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178DD08X
3J701AA15
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA04
3J701BA09
3J701BA10
3J701CA14
3J701DA05
3J701EA03
3J701FA32
3J701GA24
3J701GA31
3J701XE03
3J701XE19
4K030BA06
4K030BA28
4K030BB12
4K030CA03
4K030LA23
(57)【要約】
【課題】低潤滑環境下においても潤滑性能の向上を図ることができるころ軸受を提供する。
【解決手段】ころ軸受は、内外輪と、これら内外輪の軌道面間に介在するころ4,5と、ころ4,5を保持する保持器とを備える。ころ4,5の外周面にDLC膜9を有する。DLC膜9の表面層9cに潤滑剤が保持される凹み部16が設けられ、この凹み部16の面積率が40%以下であり、凹み部16の平面視における大きさが10μm~100μmである。前記DLC膜9は表面層9cおよび他の層が積層された多層構造であり、前記凹み部16は、前記表面層9cのうち、他の層よりも膜硬さが低い軟性のDLCが除去されたものである。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪と、これら内外輪の軌道面間に介在するころと、前記ころを保持する保持器とを備え、前記ころの外周面にDLC膜を有するころ軸受であって、
前記DLC膜の表面層に潤滑剤が保持される凹み部が設けられ、この凹み部の面積率が40%以下であり、前記凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmであるころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のころ軸受において、前記DLC膜は前記表面層および他の層が積層された多層構造であり、前記凹み部は、前記表面層のうち、前記他の層よりも膜硬さが低い軟性のDLCが除去されたものであるころ軸受。
【請求項3】
請求項2に記載のころ軸受において、前記DLC膜は、前記ころの母材側から順に、金属層、金属とDLCの混合層である中間層、および前記表面層の3層構造であるころ軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のころ軸受において、前記内輪の軌道面および前記外輪の軌道面のいずれか一方または両方にDLC膜を有し、このDLC膜の表面層に潤滑剤が保持される凹み部が設けられ、この凹み部の面積率が40%以下であり、前記凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmであるころ軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のころ軸受において、風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受であるころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関し、例えば、風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受等に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から軸受の一部にDLC(Diamond-like Carbon)膜などの金属皮膜を施し、さらに潤滑性能を向上させる手法として、DLC膜の表面に中心線平均粗さRaで0.01~0.2μmの微細な凹凸形状を付与する手法が導入されている(特許文献1)。このような凹凸形状をDLC膜に施す場合、DLC膜自体の成膜条件を意図的に調整するか、またはショットピーニングなどで微細な粒子をDLC膜の表面に打ち付けて凹凸形状を付与する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-126419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DLC膜に微細な凹凸形状を付与する場合を考える。DLC膜の表面に凹凸形状を有することで、潤滑環境下で油を保持するディンプルとして機能し潤滑性能が向上する。しかし、特許文献1のような微細な凹凸形状では潤滑剤を保持する保持力に課題があり、特に、低潤滑環境下で潤滑性能の向上を図ることが難しい。
【0005】
本発明の目的は、低潤滑環境下においても潤滑性能の向上を図ることができるころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のころ軸受は、内外輪と、これら内外輪の軌道面間に介在するころと、前記ころを保持する保持器とを備え、前記ころの外周面にDLC膜を有するころ軸受であって、
前記DLC膜の表面層に潤滑剤が保持される凹み部が設けられ、この凹み部の面積率が40%以下であり、前記凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmである。
前記「面積率」とは、ころの外周面の全表面積に対する凹み部の面積の比率である。
【0007】
この構成によると、DLC膜の表面層に設けられる凹み部の大きさが10μmを超え100μm未満であるため、凹み部が潤滑剤を保持する所謂油だまりのディンプルとしての機能を果たし、低潤滑の環境下においても油膜を形成する能力を向上させ潤滑性能の向上を図ることができる。また凹み部の面積率を40%以下としたため、DLC膜の耐久性を保持でき、DLC膜の表面層が剥離することを防止し得る。
【0008】
前記DLC膜は前記表面層および他の層が積層された多層構造であり、前記凹み部は、前記表面層のうち、前記他の層よりも膜硬さが低い軟性のDLCが除去されたものであってもよい。本件出願人は、DLC膜の成膜後に表面層上に、他の層よりも膜硬さが低い軟性のDLCが点在することを見出した。そこで表面層上に存在する軟性のDLCを、例えば、ラップ加工等により除去することで、容易に前記凹み部を形成することが可能となる。この場合、DLC膜自体の成膜条件を変更することなく凹み部を形成し得るため、DLC膜の膜質の劣化を防ぐことができる。またショットピーニングのように微細粒子を別途用意することなく凹み部を形成し得るため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0009】
前記DLC膜は、前記ころの母材側から順に、金属層、金属とDLCの混合層である中間層、および前記表面層の3層構造であってもよい。この場合、DLC膜において硬度、弾性率などの物性が急激に変化することを避け、ころに対するDLC膜の密着性を高めることができる。
【0010】
前記内輪の軌道面および前記外輪の軌道面のいずれか一方または両方にDLC膜を有し、このDLC膜の表面層に潤滑剤が保持される凹み部が設けられ、この凹み部の面積率が40%以下であり、前記凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmであってもよい。
前記「面積率」とは、各軌道面の全表面積に対する凹み部の面積の比率である。
この構成によると、DLC膜の表面層に設けられる凹み部の大きさが10μm~100μmとしたため、軌道面のDLC膜の凹み部も潤滑剤を保持する所謂油だまりのディンプルとしての機能を果たす。したがって、ころのDLC膜に設けられる凹み部に保持される潤滑剤と相俟って潤滑性能の向上をさらに図ることができる。
【0011】
前記ころ軸受は、風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受であってもよい。この場合、風力発電装置用途の自動調心ころ軸受の長寿命化を図り、メンテナンス性に優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のころ軸受は、内外輪と、これら内外輪の軌道面間に介在するころと、前記ころを保持する保持器とを備え、前記ころの外周面にDLC膜を有するころ軸受であって、前記DLC膜の表面層に潤滑剤が保持される凹み部が設けられ、この凹み部の面積率が40%以下であり、前記凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmであるため、低潤滑環境下においても潤滑性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る自動調心ころ軸受の縦断面図である。
図2】同自動調心ころ軸受の非対称ころの説明図である。
図3A】同自動調心ころ軸受のころの外周面に成膜されたDLC膜の構成を模式的に示す断面図である。
図3B】同DLC膜の表面層に凹み部が設けられた状態を示す断面図である。
図4図3BのIV部を部分的に拡大して示す図である。
図5】同DLC膜の凹み部を部分的に拡大して示す平面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る自動調心ころ軸受の軌道面にDLC膜が設けられた状態を模式的に示す断面図である。
図7】本発明のさらに他の実施形態に係る自動調心ころ軸受の縦断面図である。
図8】風力発電装置の主軸支持装置の一例の要部を示す斜視図である。
図9】同主軸支持装置の要部を示す破断側面図である。
図10】試験機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
本発明のころ軸受を自動調心ころ軸受に適用した例を図1ないし図5と共に説明する。以下の説明はDLC膜の製造方法についての説明をも含む。
図1に示すように、この自動調心ころ軸受1は、内外輪2,3と、これら内外輪2,3の軌道面間に介在する左右2列のころ4,5と、ころ4,5を保持する保持器10L,10Rとを備える。前記左右2列のころ4,5は、内輪2と外輪3との間で軸受幅方向すなわち軸心方向に並ぶ。外輪3の軌道面3aは凹球面状である。
【0015】
左右各列のころ4,5は外周面が外輪3の軌道面3aに沿う断面形状である。換言すれば、ころ4,5の外周面は、外輪3の軌道面3aに沿った円弧を中心線C1,C2回りに回転させた回転体形状の曲面である。内輪2には、左右各列のころ4,5の外周面に沿う断面形状の複列の軌道面2a,2bが形成されている。内輪2の外周面の両端には、小つば6,7がそれぞれ設けられている。内輪2の外周面の中央部である左右のころ4,5間に、中つば8が設けられている。
【0016】
各列のころ4,5、内輪2および外輪3は、鉄系材料から成る。前記鉄系材料として一般的に用いられる任意の鋼材等を使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、浸炭鋼等が挙げられる。
【0017】
本実施形態は、左右列対称の自動調心ころ軸受1に適用した例であり、左右列の接触角θ1,θ2は互いに同じである。本明細書における用語「左」,「右」は、軸受のアキシアル方向における相対的な位置関係を便宜上示すための用語に過ぎない。本明細書において、「左」,「右」は、理解を容易にするため、各図における左右と一致させている。
【0018】
左右各列のころ4,5は、それぞれ保持器10L,10Rにより保持されている。左列用の保持器10Lは、円環部11から複数の柱部12が軸方向一方側(左側)に延び、これら柱部12間のポケットに左列のころ4が保持される。右列用の保持器10Rは、円環部11から複数の柱部12が軸方向他方側(右側)に延び、これら柱部12間のポケットに右列のころ5が保持される。
【0019】
図2に示すように、左右各列のころ4,5は、いずれも最大径D1max,D2maxの位置M1,M2がころ長さの中央A1,A2から外れた非対称ころである。左列のころ4の最大径D1maxの位置はころ長さの中央A1よりも右側にあり、右列のころ5の最大径D2maxの位置はころ長さの中央A2よりも左側にある。このような非対称ころからなる左右各列のころ4,5は、誘起スラスト荷重が発生する。この誘起スラスト荷重を受けるために、内輪2の前記中つば8が設けられる。非対称ころ4,5と中つば8の組合せは、ころ4,5を内輪2、外輪3、および中つば8の3箇所で案内するので、案内精度が良い。
【0020】
<DLC膜について>
図1に示す各列のころ4,5は、外周面に多層構造のDLC(Diamond-like Carbon)膜を有している。DLC膜は、表面層および他の層が積層された多層構造である。具体的には、図3Bに示すように、この例のDLC膜9は、ころ4,5の母材側から順に、金属層9a、金属とDLCの混合層である中間層9b、および表面層9cの3層構造である。図4に示すように、DLC膜9の表面層9cに、潤滑剤が保持される凹み部16が設けられている。
【0021】
図5は、DLC膜9の凹み部16を部分的に拡大して示す平面図であり、図4のV-V線矢視図である。図5に示すように、前記凹み部16の面積率は10%以上40%以下である。前記「面積率」とは、ころの外周面の全表面積に対する凹み部16の面積の比率である。
【0022】
図1に示すように、ころ4,5の外周面は、前述のように回転体形状の曲面であるため、凹み部16(図5)の面積を次のように求める。ころ4,5の外周面における円周方向の所定範囲となる部分を、例えば、顕微鏡等の撮像手段を用いて平面視で見たときの凹み部16(図5)の面積を計測する。次に、撮像手段に対し、ころ4,5をその軸心回りに回転させ前記ころ4,5の外周面における円周方向の他の部分を、平面視で見たときの凹み部16(図5)の面積を計測する。以下、同様にころ4,5を軸心回りに回転させつつころ4,5の外周面全周に渡って計測した凹み部16(図5)の面積の合計値より、凹み部16(図5)の面積を求める。なお、ころの外周面に対して相対的に撮像手段を回転させつつ凹み部の面積を計測してもよい。図5に示す凹み部16の面積率の上限値を40%としたため、DLC膜9の耐久性を保持でき、DLC膜9の表面層9cが剥離することを防止し得る。また凹み部16の面積率の下限値を10%としたため、凹み部16に潤滑剤をより確実に保持し得る。凹み部16の面積率の上限値は35~40%、下限値は10~20%がより好ましい。
【0023】
さらに前記凹み部16の平面視における大きさLが10μm~100μmである。前記凹み部16の平面視における大きさLは、前述の凹み部16の面積の計測方法と同様に、撮像手段に対してころをその軸心回りに相対回転させつつ計測する。各凹み部16において、最も離隔した外縁部P1,P2間の最大値を撮像手段等を用いて計測することで、凹み部16の平面視における大きさLを計測し得る。凹み部16の大きさLが10μm以下であると、凹み部16が潤滑剤を保持する保持力が不十分となるおそれがある。凹み部16の大きさLが100μm以上であると、ころの外周面に微小剥離が生じるおそれがある。
【0024】
図3Aおよび図3Bに示すように、DLC膜の製造方法としては、順次、DLC膜の成膜過程(図3A)と、DLC膜の表面層9cに凹み部16を形成する凹み部形成過程(図3B)と、を有する。
【0025】
<DLC膜の成膜過程>
前記下地処理過程の後、ころ4,5の外周面にDLC膜9を成膜する。DLC膜9の成膜方法として、例えば、熱CVD、プラズマCVD等のCVD法、真空蒸着法、イオンプレーティング、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、イオンビームデポジション、イオン注入法等のPVD法等を適用し得る。
前記成膜過程により図3Aに示すように、ころ4,5の外周面に直接クロムCrを主体とする金属層9a、この金属層9aの上にDLCを主体とする中間層9b、この中間層9bの上にDLCを主体とする表面層9cが成膜される。
【0026】
中間層9bは、金属層9a側から表面層9c側へ向けて連続的または段階的に、中間層9b中のCrの含有率が小さくなり、且つ、前記中間層9b中のDLCの含有率が高くなっている。例えば、プラズマCVD等においては、原料ガスの充填濃度等を徐々に変化させることで、前記中間層9bを形成し得る。本実施形態では、DLC膜9の膜構造を前述のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
【0027】
金属層9aは、Crを含むので超硬合金材料または鉄系材料から成る母材との相性がよく、W、Ti、Si、Al等を用いる場合と比較して母材との密着性に優れる。金属層9aは、ころ表面側から中間層9b側に向けてCrの含有率が小さくすることが好ましい。これにより、ころ表面と中間層9bとの両面で密着性に優れる。
【0028】
<凹み部形成過程>
前記成膜過程の後、図3B図4および図5に示すように、表面層9cに凹み部16が形成される。この凹み部16は、表面層9cのうち、他の層である金属層9a、中間層9bよりも膜硬さが低い軟性のDLCが除去されたものである。DLC膜の成膜後に表面層9c上に点在する軟性のDLCを、例えば、ラップ加工等により除去することで、容易に前記凹み部16を形成し得る。
【0029】
<試験および試験結果>
円筒形状の複数の試験片(テストピース)の外周面にDLC膜をそれぞれ成膜した後、ラップ加工により、DLC膜の表面層上に点在する軟性のDLCを除去することで、表面層に複数の凹み部を形成した。
試験条件は以下の通りである。
・試験片:内径20mm×外径40mm×幅12mmの円筒形状で、高炭素クロム軸受鋼製。
・2円筒試験機の概略を図10に示す。試験機は2本の互いに平行な回転軸S1,S2を有し、一方の回転軸S1にDLC膜を施した試験片D2、他方の回転軸S2には相手材として無処理の試験片F2を備え構成されている。各回転軸S1,S2はそれぞれモータMにより回転駆動可能である。ここで試験片D2とF2に加えられる荷重及び回転数は、風力発電機主軸受の実機使用条件に相当する数値を仮定し試験を行った。潤滑機構はフェルトパッド給油とし潤滑油を含侵させたフェルトパッドFPを各試験片D2,F2の真下に設置した。なお使用する潤滑剤は油枯渇状態を想定し、無添加低粘度油を用いた。
試験後、DLCの表面状態を光学顕微鏡にて確認し、各条件のDLC膜の耐剥離性および潤滑剤保持力を観察した。潤滑状態で試験後表面の凹み部に潤滑剤の存在を示す干渉色が見られたとき、潤滑剤保持力に問題なしと規定した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示す試験結果によると、100μm程度の凹み部の大きさでDLC膜の剥離が進展することが示されている。
基本的にDLC膜の耐久性の観点からある程度凹み部の面積率を抑えた方がよいため、複数の試験片のうち、最も面積率の高い40%を上限値として採用した。また凹み部に潤滑剤をより確実に保持する観点から、凹み部の面積率の下限値を10%とした。
【0032】
<作用効果>
以上説明した自動調心ころ軸受1によると、DLC膜9の表面層9cに設けられる凹み部16の大きさが10μmを超え100μm未満としたため、凹み部16が潤滑剤を保持する所謂油だまりのディンプルとしての機能を果たし、低潤滑の環境下においても油膜を形成する能力を向上させ潤滑性能の向上を図ることができる。また凹み部16の面積率を40%以下としたため、DLC膜9の耐久性を保持でき、DLC膜9の表面層9cが剥離することを防止し得る。
【0033】
表面層9c上に存在する軟性のDLCを、例えば、ラップ加工等により除去することで、容易に凹み部16を形成することが可能となる。この場合、DLC膜自体の成膜条件を変更することなく凹み部16を形成し得るため、DLC膜9の膜質の劣化を防ぐことができる。またショットピーニングのように微細粒子を別途用意することなく凹み部16を形成し得るため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0034】
DLC膜9は、ころ4,5の母材側から順に、金属層9a、金属とDLCの混合層である中間層9b、および前記表面層9cの3層構造である。このため、DLC膜9において硬度、弾性率などの物性が急激に変化することを避け、ころ4,5に対するDLC膜9の密着性を高めることができる。
【0035】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0036】
[第2の実施形態]
ころの外周面に、前述の凹み部を有するDLC膜が設けられる構成に加えて、図6に示すように、内輪の軌道面2a,2bおよび外輪の軌道面3aのいずれか一方または両方にDLC膜9を有し、このDLC膜9の表面層9cに潤滑剤が保持される凹み部16が設けられてもよい。この凹み部16の面積率が40%以下であり、凹み部16の平面視における大きさが10μm~100μmである。
この構成によると、DLC膜9の表面層9cに設けられる凹み部16の大きさが10μm~100μmとしたため、軌道面2a,2b,3aのDLC膜9の凹み部16も潤滑剤を保持する所謂油だまりのディンプルとしての機能を果たす。したがって、ころのDLC膜に設けられる凹み部に保持される潤滑剤と相俟って潤滑性能の向上をさらに図ることができる。
【0037】
[第3の実施形態]
上記各実施形態は左右対称の自動調心ころ軸受に適用した例であるが、左右非対称の自動調心ころ軸受、例えば、図7に示すように、左右列の接触角θ1、θ2が互いに異なる自動調心ころ軸受1に適用してもよい。左右非対称の自動調心ころ軸受1のころ4,5の外周面にDLC膜が設けられてもよく、さらに内外輪2,3の軌道面2a,2b,3aのいずれか一方または両方にDLC膜が設けられてもよい。
【0038】
図示しないが、円筒ころ軸受や円すいころ軸受のころの外周面にDLC膜が設けられてもよく、さらに内外輪の軌道面のいずれか一方または両方にDLC膜が設けられてもよい。
凹み部を形成するラップ加工として、乾式ラッピングを採用してもよい。
【0039】
参考提案例として、内輪の軌道面および外輪の軌道面のいずれか一方または両方にDLC膜を有し、このDLC膜の表面層のみに凹み部が設けられてもよい。この凹み部の面積率が40%以下であり、凹み部の平面視における大きさが10μm~100μmである。
【0040】
図8図9は、風力発電装置の主軸支持装置の一例を示す。支持台21上に旋回座軸受22(図9)を介してナセル23のケーシング23aが水平旋回自在に設置されている。ナセル23のケーシング23a内には、軸受ハウジング24に設置された主軸支持軸受25を介して主軸26が回転自在に設置され、主軸26のケーシング23a外に突出した部分に、旋回翼となるブレード27が取り付けられている。主軸支持軸受25として、いずれかの実施形態に係る自動調心ころ軸受1が適用されている。
主軸26の他端は、増速機28に接続され、増速機28の出力軸が発電機29のロータ軸に結合されている。ナセル23は、旋回用モータ30により、減速機31を介して任意の角度に旋回させられる。主軸支持軸受25は、図示の例では2個並べて設置してあるが、1個であってもよい。
【0041】
いずれかの実施形態に係る自動調心ころ軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受を参考提案例に係るころ軸受および玉軸受を、風力発電装置以外の用途、例えば、産業機械、工作機械、ロボット等に採用することも可能である。
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1…自動調心ころ軸受、2…内輪、2a,2b…軌道面、3…外輪、3a…軌道面、4,5…ころ、9…DLC膜、9a…金属層、9b…中間層、9c…表面層、10L,10R…保持器、16…凹み部、26…主軸
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10