(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146211
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】溶接構造及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/20 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
B23K9/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047053
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 和章
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制する方法を提供する。
【解決手段】鋼材2と、鋼材2との間に溶接空間Wを有して添設されている板材4と、鋼材2に先端3aが溶接されている棒材(スタッドボルト3)と、棒材(スタッドボルト3)の先端の部分に設けられているフェルール5と、を有する溶接構造1であって、鋼材2と板材4の間において溶接空間を閉塞する閉塞部(耐火材)を有し、板材4は、棒材(スタッドボルト3)を挿通する棒材(スタッドボルト3)より広径の挿通孔4aを有し、棒材と挿通孔の間隙が耐火耐熱絶縁材6で充填されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、
前記鋼材との間に溶接空間を有して添設されている板材と、
前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、
前記棒材の前記先端の部分に設けられているフェルールと、
を有する溶接構造であって、
前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間を閉塞する閉塞部を有し、
前記板材は、前記棒材を挿通する前記棒材より広径の挿通孔を有し、
前記棒材と前記挿通孔の間隙が耐火耐熱絶縁材で充填されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接構造であって、
前記フェルールは、
前記棒材を囲繞して前記挿通孔に収容されている囲繞部と、
前記囲繞部より広径であり、前記囲繞部に接続され、前記鋼材に当接する当接部と、
を有することを特徴とする溶接構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接構造であって、
前記棒材は、前記鋼材にスタッド溶接されており、
前記板材は、ガスを封入するためのガス封入孔を有することを特徴とする溶接構造。
【請求項4】
棒材を挿通させる前記棒材より広径の挿通孔を板材に形成する挿通孔形成工程と、
フェルールを前記板材に設置するフェルール設置工程と、
鋼材と前記板材の間に溶接空間が設けられ、かつ、該溶接空間内にフェルールが位置するように、前記鋼材に対し前記板材を添設する板材添設工程と、
前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間を閉塞する閉塞部を形成する閉塞部形成工程と、
前記挿通孔に耐火耐熱絶縁材を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程と、
前記棒材を前記挿通孔及び前記フェルールに挿入する棒材挿入工程と、
前記棒材の先端の部分に前記フェルールが設けられ、かつ、前記棒材と前記挿通孔の間隔が前記耐火耐熱絶縁材で充填された状態において、前記鋼材に前記棒材の前記先端を溶接する棒材溶接工程と、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶接方法であって、
前記フェルールは、囲繞部と前記囲繞部より広径であり前記囲繞部に接続されている当接部とを備え、
前記フェルール設置工程においては、前記囲繞部を前記挿通孔に収容することにより、前記フェルールを前記板材に設置し、
前記板材添設工程においては、前記当接部が前記鋼材に当接するように前記板材を添接し、
前記棒材溶接工程においては、前記棒材を前記囲繞部が囲繞した状態において前記鋼材に前記棒材の前記先端を溶接することを特徴とする溶接方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の溶接方法であって、
ガスを封入するためのガス封入孔を前記板材に形成するガス封入孔形成工程と、前記ガス封入孔からガスを封入するガス封入工程をさらに有し、
前記棒材溶接工程においては、前記溶接空間内にガスが封入された状態で、前記鋼材に前記棒材の前記先端をスタッド溶接することを特徴とする溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の補強を行う場合は、一般的に溶接作業を伴う。そして、かかる溶接作業は、例えば、特開文献1に開示されているような溶接装置により行われる。つまり、溶接ガンのチャックにスタッドボルトを装着し、溶接対象にスタッドボルトをアーク方式でスタッド溶接する溶接装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-68089号公報
【特許文献2】特開2013-35058号公報
【特許文献3】特開平5-237660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような溶接装置により溶接作業を行うと、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがあった。
【0005】
また、特許文献2や特許文献3には、溶接用治具として、火花等の拡散を抑制する治具が記載されているが、これらは、アーク方式に比べて放電時に使用される電流が小さく、且つ、溶接時間が短いコンデンサ方式のスタッド溶接に適用されるものであり、アーク方式のスタッド溶接には対応できなかった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、溶接(アーク方式による溶接)の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、鋼材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設されている板材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記棒材の前記先端の部分に設けられているフェルールと、を有する溶接構造であって、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間を閉塞する閉塞部を有し、前記板材は、前記棒材を挿通する前記棒材より広径の挿通孔を有し、前記棒材と前記挿通孔の間隙が耐火耐熱絶縁材で充填されていることを特徴とする溶接構造である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】溶接構造1の概略断面図と概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
鋼材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設されている板材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記棒材の前記先端の部分に設けられているフェルールと、を有する溶接構造であって、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間を閉塞する閉塞部を有し、前記板材は、前記棒材を挿通する前記棒材より広径の挿通孔を有し、前記棒材と前記挿通孔の間隙が耐火耐熱絶縁材で充填されていることを特徴とする溶接構造。
【0013】
このような溶接構造によれば、溶接空間を閉塞する閉塞部と、棒材と挿通孔の間隙を埋める耐火耐熱絶縁材と、によって、溶接空間が閉塞空間となり、さらにフェルールが設置されていことで、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能となる。
【0014】
かかる溶接構造であって、前記フェルールは、前記棒材を囲繞して前記挿通孔に収容されている囲繞部と、前記囲繞部より広径であり、前記囲繞部に接続され、前記鋼材に当接する当接部と、を有することが望ましい。
【0015】
このような溶接構造によれば、囲繞部が挿通孔に収容されているので、収容されていない場合に比べて、フェルールの位置がずれにくくなり、フェルールが囲繞している棒材の位置もずれにくくなるので、溶接位置のずれを抑制することができる。
【0016】
かかる溶接構造であって、前記棒材は、前記鋼材にスタッド溶接されており、前記板材は、ガスを封入するためのガス封入孔を有することが望ましい。
【0017】
このような溶接構造によれば、溶接の際に希ガス等を溶接空間に封入できるので、溶接の品質低下を抑制することができる。
【0018】
棒材を挿通させる前記棒材より広径の挿通孔を板材に形成する挿通孔形成工程と、フェルールを前記板材に設置するフェルール設置工程と、鋼材と前記板材の間に溶接空間が設けられ、かつ、該溶接空間内にフェルールが位置するように、前記鋼材に対し前記板材を添設する板材添設工程と、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間を閉塞する閉塞部を形成する閉塞部形成工程と、前記挿通孔に耐火耐熱絶縁材を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程と、前記棒材を前記挿通孔及び前記フェルールに挿入する棒材挿入工程と、前記棒材の先端の部分に前記フェルールが設けられ、かつ、前記棒材と前記挿通孔の間隔が前記耐火耐熱絶縁材で充填された状態において、前記鋼材に前記棒材の前記先端を溶接する棒材溶接工程と、を有することを特徴とする溶接方法。
【0019】
このような溶接方法によれば、溶接空間を閉塞する閉塞部と、棒材と挿通孔の間隙を埋める耐火耐熱絶縁材と、によって、溶接空間が閉塞空間となり、さらにフェルールが設置されていることで、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能となる。
【0020】
かかる溶接方法であって、前記フェルールは、囲繞部と前記囲繞部より広径であり前記囲繞部に接続されている当接部とを備え、前記フェルール設置工程においては、前記囲繞部を前記挿通孔に収容することにより、前記フェルールを前記板材に設置し、前記板材添設工程においては、前記当接部が前記鋼材に当接するように前記板材を添接し、前記棒材溶接工程においては、前記棒材を前記囲繞部が囲繞した状態において前記鋼材に前記棒材の前記先端を溶接することが望ましい。
【0021】
このような溶接方法によれば、囲繞部が挿通孔に収容されているので、収容されていない場合に比べて、フェルールの位置がずれにくくなり、フェルールが囲繞している棒材の位置もずれにくくなるので、溶接位置のずれを抑制することができる。
【0022】
かかる溶接方法であって、ガスを封入するためのガス封入孔を前記板材に形成するガス封入孔形成工程と、前記ガス封入孔からガスを封入するガス封入工程をさらに有し、前記棒材溶接工程においては、前記溶接空間内にガスが封入された状態で、前記鋼材に前記棒材の前記先端をスタッド溶接することが望ましい。
【0023】
このような溶接方法によれば、溶接の際に希ガス等を溶接空間に封入できるので、溶接の品質低下を抑制することができる。
【0024】
===本実施形態===
本実施形態に係る溶接構造1について図を用いて説明する。
図1は、溶接構造1の概略断面図と概略平面図であり、上図が概略断面図、下図が下側から見た概略平面図である。
【0025】
本実施形態に係る溶接構造1は、アーク方式によってスタッドボルト3(棒材に相当)が鋼材2にアークスタッド溶接(以下、単に溶接ともいう)されている溶接構造1であって、鋼材2と、鋼材2に先端3a(上端)が溶接されているスタッドボルト3と、鋼材2との間に溶接空間Wを有して添設されている板材4、スタッドボルト3の先端3aの部分(上端部)に設けられているフェルール5と、耐火耐熱絶縁材6と、ガス封入孔7と、ガス吸引孔9と、を有している。
【0026】
なお、
図1においては、鋼材2の下面にスタッドボルト3の上端面がスタッド溶接された例を示しているが、これに限るものではなく、上下が逆様でも良いし、鋼材2が左側(右側)でスタッドボルト3が右側(左側)でもよい。
【0027】
鋼材2は、建築物等の構造材であって、例えば、H鋼を用いた鉄骨梁を挙げることができる。
【0028】
スタッドボルト3は、板材4を補強材として鋼材2に取り付けるためのボルトである。そして、スタッドボルト3の上端面は鋼材2の下面と接触しており、かかる状態からアークを発生させてスタッドボルト3と鋼材2とが溶接される。なお、溶接の際には、スタッドボルト3の下側にアーク溶接装置(不図示)がセットされ、アーク溶接装置を起動させることによりスタッドボルト3が鋼材2に溶接される。
【0029】
板材4は、鋼材2を補強するための補強材であって、平面視で略矩形状をしている。そして、上記したように、鋼材2との間に溶接空間Wを有して添設されている。
【0030】
また、板材4は、断面視で凹形状をしており、左端部と右端部が上側に突出している。そしてかかる突出部は、板材4の外周の全周に設けられており、
図1において、溶接空間Wを閉塞空間とすることが可能となっている。つまり、板材4は、鋼材2と板材4の間において溶接空間Wを閉塞する突出部(閉塞部に相当)を有している。
【0031】
なお、
図1には示していないが、本実施形態においては、板材4を鋼材2にしっかりと密着させるため、クランプのような物で板材4と鋼材2を挟みつけて固定している。しかしながら、これに限るものではなく、例えば、作業者が強く押し付けて密着させる方法や、電磁石の引き付けあう力を用いて密着させる方法等を用いることもできる。
【0032】
そして、板材4は、平面視の中央部に、スタッドボルト3を挿通するスタッドボルト3より広径の挿通孔4aを有している。つまり、挿通孔4aは、板材4を上下方向に貫通した穴であり、スタッドボルト3の上端面は、溶接空間Wの外側から挿通孔4aを貫通して鋼材2の下面と接している。
【0033】
フェルール5は、耐熱のセラミックでできており、発生するアークを空気からシールドする機能、溶融した金属の鋳型の機能、急激に冷めすぎないように保温する機能等を有している。
【0034】
また、フェルール5は、平面視で略円形状であり、スタッドボルト3を囲繞して挿通孔4aに収容される囲繞部5aと、囲繞部5aより広径であり、囲繞部5aに接続され、鋼材2に当接する当接部5bと、を有している。つまり、フェルール5は、少なくとも挿通孔4aよりも小さい外径の部分と、挿通孔4aよりも大きい外径の部分を有しており、挿通孔4aよりも小さい外径部分(囲繞部5a)が挿通孔4aに挿入されている。
【0035】
耐火耐熱絶縁材6は、スタッドボルト3が挿通できる大きさの内径が上下方向に貫通しており、かかる内径部をスタッドボルト3が貫通している。
【0036】
また、耐火耐熱絶縁材6は、平面視で略円形状であり、挿通孔4aよりも小さい外径部と大きい外径部を有しており、上から順に小さい外径部、大きい外径部、小さい外径部の構成である。そして、上側に位置する小さい外径部が挿通孔4aに挿入されている。つまり、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隙が耐火耐熱絶縁材6で充填されている。
【0037】
また、本実施形態においては、上下方向に貫通するガス封入孔7が板材4に設けられている。つまり、板材4は、ガスを封入するためのガス封入孔7を有する。そして、ガス封入孔7の外側(下端部)は、ホース8の一方側と接続されており、ホース8の他方側はガスボンベ等(不図示)と接続されている。そして、接続されたガスボンベ等(不図示)から、
図1に示す矢印の方向にガスが送られ、溶接空間Wにガスが封入される。なお、ガスの種類としては、アルゴンガスのような希ガス、二酸化炭素ガス等を挙げることができる。
【0038】
また、本実施形態においては、上下方向に貫通して溶接の際に発生する等を吸引するガス吸引孔9が板材4に設けられている。そして、ガス吸引孔9の溶接空間W側には耐熱フィルター9aが備えられている。そして、これにより、粉塵や臭気等を吸引し第三者迷惑を防止でき、溶接により発生するガス圧を逃がすことができる。
【0039】
<<<溶接方法について>>>
次に、上記した溶接構造1についての溶接方法の一例について図を用いて説明する。
図2は、溶接方法を説明するための説明図であり、
図3は、溶接方法のフローチャートである。
【0040】
先ずは、
図2aに示すように、挿通孔4aと、ガス封入孔7と、ガス吸引孔9と、閉塞部(
図2aの破線の円部分)と、を板材4に形成する(ステップS1)。
【0041】
挿通孔4aは、上述したように、スタッドボルト3の外径よりも大きな直径の孔である。つまり、この溶接方法は、板材4にスタッドボルト3を挿通させるスタッドボルト3より広径の挿通孔4aを形成する挿通孔形成工程を有する。さらに、ガスを封入するためのガス封入孔7を板材4に形成するガス封入孔形成工程と、鋼材2と板材4の間において溶接空間Wを閉塞する閉塞部を形成する閉塞部形成工程と、を有する。
【0042】
次に、
図2bに示すように、板材4の挿通孔4aにフェルール5を設ける(ステップS2)。つまり、この溶接方法は、フェルール5を板材4に設置するフェルール設置工程を有する。なお、このフェルール工程においては、囲繞部5aを挿通孔4aに収容することにより、フェルール5を板材4に設置する。
【0043】
そして、
図2cに示すように、鋼材2に対し板材4を添接する(ステップS3)。つまり、この溶接方法は、鋼材2と板材4の間に溶接空間Wが設けられ、かつ、該溶接空間W内にフェルール5が位置するように、鋼材2に対し板材4を添設する板材添設工程を有する。なお、板材添設工程においては、当接部5bが鋼材2に当接するように板材4を添接する。
【0044】
そうしたら、
図2dに示すように、挿通孔4aに耐火耐熱絶縁材6を設置する(ステップS4)。つまり、この溶接方法は、挿通孔4aに耐火耐熱絶縁材6を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程を有する。
【0045】
なお、本実施形態のように上方向(天井)に向かってスタッドボルト3を溶接する場合には、挿入孔4aから耐火耐熱絶縁材6が落下してしまうおそれがある。このような場合には、例えば、耐火耐熱絶縁材6を固定する方法や、先にスタッドボルト3に耐火耐熱絶縁材6を挿通させ、棒材挿入工程において、耐火耐熱絶縁材設置工程を行う方法等により、耐火耐熱絶縁材6の落下を抑制することができる。
【0046】
最後に、
図1の上図に示すように、スタッドボルト3を耐火耐熱絶縁材6、挿通孔4a、フェルール5に挿入し、溶接空間Wにガスを封入してスタッド溶接を行う(ステップS5)。つまり、この溶接方法は、スタッドボルト3を挿通孔4a及びフェルール5に挿入する棒材挿入工程と、スタッドボルト3の先端3aの部分にフェルール5が設けられ、かつ、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隔が耐火耐熱絶縁材6で充填された状態において、鋼材2にスタッドボルト3の先端3aを溶接する棒材溶接工程と、を有する。
【0047】
そして、棒材溶接工程においては、ガス封入孔7からガスを封入するガス封入工程をさらに有し、溶接空間W内にガスが封入された状態で、鋼材2にスタッドボルト3の先端3aをスタッド溶接する。また、棒材溶接工程においては、スタッドボルト3を囲繞部5aが囲繞した状態において鋼材2にスタッドボルト3の先端3aを溶接する。
【0048】
<<<溶接構造1の有効性について>>>
上述したように、本実施形態に係る溶接構造1は、鋼材2と、鋼材2との間に溶接空間Wを有して添設されている板材4と、鋼材2に先端3aが溶接されているスタッドボルト3と、スタッドボルト3の先端3aの部分に設けられているフェルール5と、を有する溶接構造1であって、鋼材2と板材4の間において溶接空間Wを閉塞する閉塞部を有し、板材4は、スタッドボルト3を挿通するスタッドボルト3より広径の挿通孔4aを有し、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隙が耐火耐熱絶縁材6で充填されていることとした。そのため、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能となる。
【0049】
鋼構造物の補強を行う場合は、一般的に溶接作業が行われる。そして、作業現場において溶接作業を行うと、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがある。
【0050】
これに対し、本実施形態に係る溶接構造1は、溶接空間Wを閉塞する閉塞部と、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隙を埋める耐火耐熱絶縁材6と、によって、溶接空間Wが閉塞空間となり、さらにフェルールが設置されることで、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態に係る溶接構造1では、ボルトをアーク方式によってスタッド溶接している。これは、例えば、コンデンサ方式による径が小さいボルトをスタッド溶接するよりも、放電時に使用される電流が大きく、且つ、溶接時間も長い。つまり、溶接の際の火花等が激しく発生するので、発生する火花等の拡散を抑制する有効性が高いといえる。
【0052】
加えて、本実施形態のように、鋼材2の下面にスタッドボルト3をスタッド溶接するような上方(天井)においてスタッド溶接するような場合は、下方(地面)においてスタッド溶接する場合よりも、より火花等が拡散しやすい。つまり、溶接の際の火花等が拡散しやすいので、火花等の拡散を抑制する有効性が高いといえる。
【0053】
また、本実施形態に係る溶接構造1では、フェルール5は、スタッドボルト3を囲繞して挿通孔4aに収容されている囲繞部5aと、囲繞部5aより広径であり、囲繞部5aに接続され、鋼材2に当接する当接部5bと、を有することとした。
【0054】
そして、これにより、囲繞部5aが挿通孔4aに収容されているので、収容されていない場合に比べて、フェルール5の位置がずれにくくなり、フェルール5が囲繞しているスタッドボルト3位置もずれにくくなるので、溶接位置のずれを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る溶接構造1では、スタッドボルト3は、鋼材2にスタッド溶接されており、板材4は、ガスを封入するためのガス封入孔7を有することとした。そして、これにより、溶接の際に希ガス等を溶接空間Wに封入できるので、溶接の品質低下を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る溶接構造1の溶接方法では、スタッドボルト3を挿通させるスタッドボルト3より広径の挿通孔4aを板材4に形成する挿通孔形成工程と、フェルール5を板材4に設置するフェルール設置工程と、鋼材2と板材4の間に溶接空間Wが設けられ、かつ、該溶接空間W内にフェルール5が位置するように、鋼材2に対し板材4を添設する板材添設工程と、鋼材2と板材4の間において溶接空間Wを閉塞する閉塞部を形成する閉塞部形成工程と、挿通孔4aに耐火耐熱絶縁材6を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程と、スタッドボルト3を挿通孔4a及びフェルール5に挿入する棒材挿入工程と、スタッドボルト3の先端3aの部分にフェルール5が設けられ、かつ、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隔が耐火耐熱絶縁材6で充填された状態において、鋼材2にスタッドボルト3の先端3aを溶接する棒材溶接工程と、を有することとした。
【0057】
そして、これにより、溶接空間Wを閉塞する閉塞部と、スタッドボルト3と挿通孔4aの間隙を埋める耐火耐熱絶縁材6と、によって、溶接空間Wが閉塞空間となり、さらにフェルール5が設置されていることで、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る溶接構造1の溶接方法では、フェルール5は、囲繞部5aと囲繞部5aより広径であり囲繞部5aに接続されている当接部5bとを備え、フェルール設置工程においては、囲繞部5aを挿通孔4aに収容することにより、フェルール5を板材4に設置し、板材添設工程においては、当接部5bが鋼材2に当接するように板材4を添接し、棒材溶接工程においては、スタッドボルト3を囲繞部5aが囲繞した状態において鋼材2にスタッドボルト3の先端3aを溶接することとした。
【0059】
そして、これにより、囲繞部5aが挿通孔4aに収容されているので、収容されていない場合に比べて、フェルール5の位置がずれにくくなり、フェルール5が囲繞しているスタッドボルト3の位置もずれにくくなるので、溶接位置のずれを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る溶接構造1の溶接方法では、ガスを封入するためのガス封入孔7を板材4に形成するガス封入孔形成工程と、ガス封入孔7からガスを封入するガス封入工程をさらに有し、棒材溶接工程においては、溶接空間W内にガスが封入された状態で、鋼材2にスタッドボルト3の先端3aをスタッド溶接することとした。
【0061】
そして、これにより、溶接の際に希ガス等を溶接空間Wに封入できるので、溶接の品質低下を抑制することができる。
【0062】
<<<変形例について>>>
次に、本実施形態の変形例の一例を説明する。
図4は、変形例の溶接構造10の概略断面図である。
図4に示すように、変形例の溶接構造10においては、板材4の代わりに耐火材11と板材12が用いられている。さらに、耐火耐熱絶縁材6の代わりにフェルール5が用いられている。
【0063】
溶接構造10においては、板材12が凹形状ではなく平板となっており、板材4において突出部(閉塞部)としていた部分に耐火材11が用いられている。つまり、耐火材11は、閉塞部であって、板材12の外周部の全周に設けられており、鋼材2と板材12の間において溶接空間Wを閉塞する。なお、耐火材11の一例としては、積水化学工業株式会社 フィブロック(登録商標)を挙げることができ、例えば、上述した板材添設工程において、閉塞部を形成することができる。
【0064】
また、溶接構造10ではフェルール5が2つ用いられている。一方は、本実施形態と同じ使われ方をしており、他方は、板材12の下側における耐火耐熱絶縁材6の代わりとして、板材12とスタッドボルト3の間隙に囲繞部5aが収容(充填)されている。つまり、フェルール5は、耐火、耐熱、絶縁材料なので、耐火耐熱絶縁材6の代わりとして変形例では用いられている。また、その他にも、耐火耐熱絶縁材6の代わりとして耐火パテ等を用いて板材12とスタッドボルト3の間隙を埋める方法等も用いることができる。
【0065】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0066】
また、上記実施形態では、板材4は平面視で略矩形状であったが、これに限るものではなく、例えば、略円形状であってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、希ガス等を溶接空間Wに封入して溶接を行ったが、これに限るものではなく、希ガス等を封入しなくてもよい。この場合、ガス封入孔7とホース8は必要ないので設けなくてよい。
【符号の説明】
【0068】
1 溶接構造、2 鋼材、3 スタッドボルト(棒材)、3a 先端、4 板材、
4a 挿通孔、5 フェルール、5a 囲繞部、5b 当接部、6 耐火耐熱絶縁材、
7 ガス封入孔、8 ホース、9 ガス吸引孔、9a 耐熱フィルター、
10 溶接構造、11 耐火材(閉塞部)、12 板材、W 溶接空間、