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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146212
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/04 20190101AFI20220928BHJP
   B62D 21/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B62D21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047054
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】原澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井上 哲雄
【テーマコード(参考)】
3D203
3D235
【Fターム(参考)】
3D203AA13
3D203AA31
3D203AA33
3D203BA03
3D203BA06
3D203BA16
3D203CB09
3D203CB13
3D203CB19
3D203DB05
3D235AA06
3D235BB05
3D235BB06
3D235BB24
3D235CC15
3D235EE13
3D235EE18
3D235EE64
3D235FF02
(57)【要約】
【課題】ラダーフレームがバッテリーブラケットを保持する構造でも蓄電池の整備がし易く、衝突時に蓄電池を保護できる車両の提供。
【解決手段】車両1の前後方向に延在して幅方向に並列配置された桁である1対のサイドメンバ21a、21bとサイドメンバ21a、21bを連結する梁であるクロスメンバ23を有するラダーフレーム3と、1対のサイドメンバ21a、21b間に配置されてサイドメンバ21a、21bに保持され、車両1の駆動に要する電力を供給するバッテリー7を搭載する箱であるバッテリーブラケット5と、を備える車両1であって、サイドメンバ21a、21bに車両1の前後方向に沿って形成された長孔であるスリット31と、スリット31とバッテリーブラケット5を挿通するボルト35と、ボルト35と螺合してサイドメンバ21a、21bとバッテリーブラケット5を挟み込んで締結するナット51と、を備えることを特徴とする車両1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延在して幅方向に並列配置された桁である1対のサイドメンバと前記サイドメンバを連結する梁であるクロスメンバを有するラダーフレームと、1対の前記サイドメンバ間に配置されて前記サイドメンバに保持され、前記車両の駆動に要する電力を供給する蓄電池を搭載する箱であるバッテリーブラケットと、を備える車両であって、
前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットの互いに対向する面の一方に前記車両の前後方向に沿って形成された長孔であるスリットと、
前記スリット、及び前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットの互いに対向する面の他方を挿通するボルトと、
前記ボルトと螺合して前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットを挟み込んで締結する雌ネジを備える締結手段と、
を備えることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記スリットは、前記サイドメンバの側面に設けられ、
前記サイドメンバは、前記スリットの下方に形成されて前記スリットに接続され、円の下半分の半円状である切り欠きを有し、
前記ボルトは、前記切り欠き、前記スリット、及び前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットの互いに対向する面の他方を挿通して前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットを締結する頭付きボルトであり、
前記締結手段は前記ボルトに螺合して前記ボルトの頭であるボルト頭との間に前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットを挟み込んで締結するナットである請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記スリットは、後端が前記サイドメンバの後端に達する後方開きである請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記スリットの前端は、前記車両の前後方向における最前端にある切り欠きよりも前方にある請求項2又は3に記載の車両。
【請求項5】
前記切り欠きは、円弧の長さが円周の半分未満であり、切り欠きの最大幅が円弧の直径未満である請求項2~4のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両のように電動機を動力源とする車両は、電動機に電力を供給する蓄電池を搭載する必要がある。また、内燃機関を動力源とする車両も、照明等の電装の電源として蓄電池を搭載している。
【0003】
車両が蓄電池を搭載する場合、蓄電池を保持する構造が必要になる。車両のフレーム構造には梯子型の支持部材を用いたラダーフレームと、車体そのものが支持構造となるモノコックがある。ラダーフレームを有する車両の場合、ラダーフレームを構成する1対のサイドメンバに接続されたバッテリーブラケット等の保持手段で蓄電池を保持するのが一般的である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-69686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モノコックと比べてラダーフレームは堅牢性に優れるため、貨物車両のように積載重量が大きい車両に採用される。しかしながら貨物車両は貨物を搭載する荷台等の多岐に渡る架装をラダーフレーム上に搭載するため、ラダーフレームがバッテリーブラケットを保持する構造では蓄電池の上方が架装で覆われる。そのため、蓄電池の整備を行う際には車両の下部から整備士が蓄電池にアクセスするしかなく、整備がし難い問題があった。また、ラダーフレームは車両に加えられた衝撃を吸収する機能もあるため、バッテリーブラケットを保持させると、車両に加えられた衝撃が蓄電池に伝達されて電極が短絡して発火する可能性もあった。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みてなされたもので、ラダーフレームがバッテリーブラケットを保持する構造でも蓄電池の整備がし易く、衝突時に蓄電池を保護できる車両の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の一態様は、車両の前後方向に延在して幅方向に並列配置された桁である1対のサイドメンバと前記サイドメンバを連結する梁であるクロスメンバを有するラダーフレームと、1対の前記サイドメンバ間に配置されて前記サイドメンバに保持され、前記車両の駆動に要する電力を供給する蓄電池を搭載する箱であるバッテリーブラケットと、を備える車両であって、前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットの互いに対向する面の一方に車両の前後方向に沿って形成された長孔であるスリットと、前記スリット、及び前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットの互いに対向する面の他方を挿通するボルトと、前記ボルトと螺合して前記サイドメンバと前記バッテリーブラケットを挟み込んで締結する雌ネジを備える締結手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ラダーフレームがバッテリーブラケットを保持する構造でも蓄電池の整備がし易く、衝突時に蓄電池を保護できる車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る車両の概略構成を示す図であって、(a)は上面図、(b)は側面図であって、運転室や架装は記載を省略している。
図2図1(b)の拡大図であって、(a)は図1のバッテリーブラケット近傍の拡大図、(b)は(a)のサイドメンバのみを示す図、(c)は(a)のバッテリーブラケットのみを示す図である。
図3図2のA―A断面図であって、左半分のみを示す図である。
図4】バッテリーブラケットをラダーフレームの後方に引き出す手順を示す側面図である。
図5】本開示の実施形態に係る車両の変形例を示す側面図であり、ボルトは点線で示してる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示に好適な実施形態を詳細に説明する。まず図1図3を参照して本開示の実施形態に係る車両1の概略構成を説明する。ここでは車両1として、トラック等の貨物車両を例示する。図1図3に示すように車両1はラダーフレーム3、電動発電機9、駆動軸11、前輪12、後輪13、バッテリーブラケット5、及びバッテリー7を備える。
【0011】
ラダーフレーム3は車両1を構成する各装置を支持する梯子型のフレームであり、図1に示すようにサイドメンバ21a、21b、及びクロスメンバ23を有する。サイドメンバ21a、21bは、車両1の前後方向であるX方向に延在して車両1の幅方向であるY方向に並列配置された1対の桁である。図3ではサイドメンバ21aとして溝形鋼を例示している。具体的にはサイドメンバ21aは、水平に配置され車両1の前後方向であるX方向から見た両側面がX方向に延びるサイドメンバ底板65を備える。サイドメンバ21aは、車両1の前後方向であるX方向から見たサイドメンバ底板65の外側の側面に設けられサイドメンバ底板65に直交してX方向及びZ方向に延在するサイドメンバ側板61を備える。サイドメンバ21aは、サイドメンバ側板61の上端に設けられてサイドメンバ底板65と対向するサイドメンバ上板63も備える。なお、サイドメンバ21bの構造は、車両1の前後方向から見てサイドメンバ21aと左右対称であるため説明を省略する。
【0012】
図1に示すクロスメンバ23は車両1の幅方向であるY方向に延在してサイドメンバ21aとサイドメンバ21bを連結する梁である。クロスメンバ23のY方向に直交する軸断面の断面積やクロスメンバ23の数はラダーフレーム3に要求される強度及び重量制限の範囲内で適宜設定する。
【0013】
電動発電機9は車両1の動力源であり、電力の供給を受けて出力軸を回転させることで機械仕事を得る電動機である。また、制動時のように外部からの機械仕事で出力軸が回転されると回生することで電力を生成する発電機でもある。
【0014】
電動発電機9は車両1を所望の速度で走行させられる機械仕事を得られるのであれば、構造は公知のものを適宜選択すればよい。また、図1では電動発電機9として、前輪12の駆動用と後輪13の駆動用の2つを例示しているが、前輪12と後輪13の一方のみを駆動する場合や1つの電動発電機9で前輪12と後輪13を駆動できる場合、電動発電機9は1つでもよい。
【0015】
駆動軸11は電動発電機9が生成した機械仕事を前輪12及び後輪13に伝達する回転軸であり、車両1の前後方向であるX方向に直交するY方向に延在して両端に前輪12又は後輪13が連結される。駆動軸11は図示しないギヤ等を介して電動発電機9の出力軸に連結されており、電動発電機9が生成した機械仕事が図示しないギヤを介して伝達される。また制動時は前輪12及び後輪13から伝達される回転力を機械仕事として電動発電機9の出力軸に図示しないギヤを介して伝達する。
【0016】
前輪12は車両1の4つの車輪の内、前方に並列配置された2つの車輪であり、車両1では電動発電機9から伝達された機械仕事による回転力を路面に伝え、路面との摩擦力で車両1を走行させる車輪である。前輪12は操舵輪でもあり、図示しないステアリング機構に接続されてZ方向を中心に旋回可能に構成されている。そのため前輪12は、ステアリング機構を構成する装置の1つであるハンドルの操作角に応じた旋回角で上下方向であるZ方向を中心に旋回することで車両1が左右に旋回できるように構成されている。
【0017】
後輪13は車両1の4つの車輪の内、後方に並列配置された2つの車輪であり、前輪12と同様に電動発電機9から伝達された機械仕事による回転力を路面に伝え、路面との摩擦力で車両1を走行させる車輪である。貨物車両や自家用車の場合、後輪13は前輪12とは異なり操舵輪でないのが一般的であるが、後輪13を操舵輪としてもよい。バッテリーブラケット5はバッテリー7を収納する箱である。図3に示すようにバッテリーブラケット5は、水平に配置され、X方向から見た両側面がX方向に延び、バッテリー7が搭載されるブラケット底板73を備える。バッテリーブラケット5は、X方向から見たブラケット底板73の両側面に設けられてブラケット底板73に直交してX方向及びZ方向に延びるブラケット側板71も備える。なお図3に示すようにブラケット側板71の側面であるブラケット側面70はサイドメンバ側板61の側面であるサイドメンバ側面62と対向する。
【0018】
バッテリー7は電動発電機9の駆動に要する電力を供給する蓄電池であり、バッテリー7と図示しない電力線で電気的に接続されて電力を供給するように構成されている。バッテリー7は電動発電機9が回生駆動した際に生成した電力を貯蔵するようにも構成されている。図3に示すようにバッテリー7はバッテリーブラケット5に搭載される。具体的にはバッテリー7はバッテリーブラケット5のブラケット底板73に搭載され、図示しないボルト等でブラケット底板73に締結されることでバッテリーブラケット5に固定される。
【0019】
バッテリー7は一回の満充電で車両1を所望の距離だけ走行させることができ、かつ所定の回数だけ充放電を繰り返した後での充電可能な容量の低下が許容できる範囲であれば、リチウムイオン二次電池等の公知の蓄電池を用いればよい。
【0020】
なお、図1ではバッテリー7は車両1の上方から視認できるように図示しているが、車両1は貨物車両であるため、ラダーフレーム3の上方において、前輪12の上方には運転室であるキャブが設けれる。またキャブの後方には貨物を搭載する図示しない荷台等の架装が設けられ、バッテリー7の上方が架装で覆われる。よって、図1に示す位置にバッテリー7が設けられた状態では、車両1の上方からバッテリー7を視認することはできず、整備の際に車両1の上方から整備士がバッテリー7にアクセスすることもできない。以上が車両1の概略構成の説明である。
【0021】
次に車両1において、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持する構造の詳細について説明する。図1図3に示すように車両1はバッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持する構造として、スリット31、ボルト35、ナット51、及び切り欠き33を備える。
【0022】
スリット31はサイドメンバ21a、21bとバッテリーブラケット5の互いに対向する面であるサイドメンバ側面62とブラケット側面70の一方に車両1の前後方向に沿って形成された長孔である。図1図3ではサイドメンバ側板61のサイドメンバ側面62にスリット31を形成した例を図示している。なおスリット31はサイドメンバ21a、21bの両方に設けられる。
【0023】
ボルト35はバッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持するための部材であり、ここでは頭付きボルトを例示している。ボルト35はスリット31を挿通する。ボルト35はさらにサイドメンバ21a、21bとバッテリーブラケット5の互いに対向する面であるサイドメンバ側面62とブラケット側面70の他方を挿通する。ここでは図2(c)に示すブラケット側板71のブラケット側面70に設けられた貫通孔41を挿通する。
【0024】
ナット51はボルト35と螺合する雌ネジを備える締結手段である。図3に示すようにナット51はボルト35がスリット31と貫通孔41を挿通した状態で、ボルト35に螺合してボルト頭39と共にサイドメンバ側面62とブラケット側面70を挟み込んで締め付ける。これによりサイドメンバ21a、21bとバッテリーブラケット5を締め付け、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持させる。なお、図3では締結手段としてナット51を図示しているが、貫通孔41に雌ネジを切る等してバッテリーブラケット5に締結手段を設ける場合、ナット51は不要である。また図3ではボルト35として頭付きボルトを例示しているが、ナット51を2つ使用するのであればボルト35はスタッドボルトでもよい。
【0025】
ボルト35とナット51を締結した状態でバッテリーブラケット5をX方向に移動させようとするとボルト35とナット51の締結力によってサイドメンバ側面62とブラケット側面70の間に摩擦力が生じる。この摩擦力により、ブラケット側面70がサイドメンバ21a、21bに対してX方向及びZ方向に移動するのを規制される。また貫通孔41及びスリット31によってもブラケット側面70がサイドメンバ21a、21bに対してZ方向へ移動するのを規制される。ボルト35とナット51の締結力により、ブラケット側面70がサイドメンバ21a、21bに対してY方向へ移動するのも規制される。
【0026】
一方でボルト35とナット51の締結を緩めると、バッテリーブラケット5をX方向に移動させようとする際に生じる摩擦力が小さくなるので、ボルト35がスリット31にガイドされてX方向に移動できるようになる。そのため、バッテリーブラケット5がサイドメンバ21a、21bに対してX方向に移動できる。よって、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに対してX方向後方に移動させることで、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bから後方に引き出すことができる。バッテリー7を引き出せる位置はスリット31のX方向長さによるが、少なくとも架装よりも後方までスリット31が形成されていれば、上方に架装がない位置までバッテリーブラケット5を引き出すことができる。この状態では車両1の上方からバッテリー7にアクセスできるため、バッテリー7の交換や電装の交換等の整備を行いやすくなる。
【0027】
また、ボルト35とナット51を締結した状態でも、車両1の前面が他の車両、又は電柱等の路面に設置された構造物に衝突して前後方向に強い衝撃が加えられた場合、バッテリーブラケット5がサイドメンバ21a、21bに対して後方に移動する。より具体的には衝突による衝撃力がサイドメンバ側面62とブラケット側面70の間に生じる最大静止摩擦力を超えるとバッテリーブラケット5がサイドメンバ21a、21bに対して摺動しつつ後方に移動する。そのため、ボルト35とナット51の締結力を調整することで、衝突事故の際に衝撃力でバッテリー7を後方に移動させることができる。これにより、衝突の際の衝撃でバッテリー7が潰れて電極が短絡して発火する等の事故を防止できる。
【0028】
このように車両1はボルト35とナット51の締結を緩めるとボルト35がスリット31にガイドされて前後方向に相対移動することでバッテリーブラケット5が車両1の前後方向であるX方向に移動する。そのため、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3から引き出すことで上方からバッテリー7を整備できる。
【0029】
また車両1はラダーフレーム3の前後方向に衝撃が加えられるとボルト35がスリット31にガイドされて前後方向に相対移動することでバッテリーブラケット5が前後方向に移動する。そのため、車両1の前面が他の車両や構造物に衝突して潰れた場合でも衝撃でバッテリーブラケット5が後方にスライドすることで、バッテリー7の破損による発火を防ぐことができる。よって車両1は、ラダーフレーム3がバッテリーブラケット5を保持する構造でも、バッテリー7の整備がし易く、衝突時にバッテリー7を保護できる。
【0030】
図2(b)に示す切り欠き33は、ボルト35をスリット31に挿通させる際のガイドとなる部材であり、必要に応じて設けられる。切り欠き33は、ボルト35とナット51を締結した状態でバッテリーブラケット5がX方向へ移動するのを規制する機能も若干、有する。図2(b)に示すように切り欠き33はスリット31の下方に形成されてスリット31に連通して接続され、円の下半分の半円状の欠損部である。
【0031】
この構成でバッテリーブラケット5をラダーフレーム3に保持させる場合は、まず、全ての切り欠き33の位置を貫通孔41の位置に合わせる。次に図2(a)に示すようにボルト35を切り欠き33、スリット31、及びブラケット側面70の貫通孔41に挿通して、図3に示すようにナット51と螺合することで、サイドメンバ21a、21bとバッテリーブラケット5を締結する。
【0032】
この状態からバッテリーブラケット5を前後方向に移動させたい場合は、ボルト35とナット51の締結を緩め、バッテリーブラケット5を図4(a)の矢印Bに示すように上斜め後方に移動させてボルト35を切り欠き33から離間させる。さらに図4(b)に示すようにボルト35をスリット31に乗り上げさせる。これによりボルト35がスリット31にガイドされて車両1の前後方向であるX方向に移動できる。移動中に一部のボルト35が、移動する向きの前方にある切り欠き33に落ちた場合でも、同様にバッテリーブラケット5を図4の矢印Bに示すように上斜め後方に移動させてボルト35を切り欠き33から離間させてスリット31に乗り上げればよい。
【0033】
また、車両1の前後方向に衝撃が加えられた場合でも、切り欠き33は円の下半分の半円状であるため、ボルト35は切り欠き33にガイドされて図4(a)の矢印Bに示す向きに移動して図4(b)に示すようにスリット31に乗り上げてX方向に移動する。
【0034】
このように、切り欠き33を設けると、切り欠き33と貫通孔41の位置を合わせればバッテリーブラケット5を保持すべきサイドメンバ21a、21bの位置が決まる。そのため、サイドメンバ21a、21bにバッテリーブラケット5を締結する際の位置決めが容易になる。
【0035】
また、バッテリーブラケット5をX方向に移動させた後で、移動前の位置にバッテリーブラケット5を戻したい場合、すべてのボルト35が切り欠き33に落ちる位置にバッテリーブラケット5を移動すれよい。これにより元の位置にバッテリーブラケット5を戻せる。このように移動前の位置にバッテリーブラケット5を戻す場合に位置決めにも切り欠き33を利用できる。
【0036】
スリット31及び切り欠き33の寸法は、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3に対して所望の位置まで移動させることができ、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3に保持させる場合に十分な保持力が得られる範囲で適宜設定する。
【0037】
まずスリット31のX方向長さについては、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3に対して移動させるために、図2(c)に示す貫通孔41間の最長距離D3よりもスリット31の長さが長い必要がある。切り欠き33を設ける場合は、切り欠き33間の最長距離D4よりもスリット31の長さが長い必要がある。
【0038】
また、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3から引き出して上方からバッテリー7を整備することを考慮すると、スリット31は、図1(b)に示すようにスリット後端31aがサイドメンバ21a、21bの後端36に達する後方開きであるのが好ましい。後方開きの場合、スリット31にガイドされたバッテリーブラケット5をX方向後方に移動させ続けると、ラダーフレーム3から外せるため、より整備がし易いためである。
【0039】
図1(b)に示すスリット31の前端であるスリット前端31bは車両1の前後方向であるX方向における最前端にある切り欠き33よりも前方にあると、後方から追突された場合にバッテリーブラケット5が前方にも移動できる。そのためバッテリー7を衝撃から保護する観点から好ましい。スリット前端31bはサイドメンバ21a、21bの前端34に近くなるほど前方への移動可能な距離が長くなる。一方でスリット前端31bはサイドメンバ21a、21bの前端34に近くなるほどスリット31が長くなりサイドメンバ21a、21bの強度が下がるので、必要な強度を確保できる範囲で適宜設定する。
【0040】
図2(a)に示すスリット31のZ方向長さWは、ボルト35をX方向にスライドさせるためにボルト35のネジ棒37の径よりも大きい必要がある。Z方向長さWは長くなるほどバッテリーブラケット5を上方にも移動させられるようになるが、サイドメンバ21a、21bの強度が低下する。また、ボルト頭39がスリット31を上下に跨げなくなるほどZ方向長さが長くなると締結力が低下する。そのため、ボルト35のネジ棒37の径よりも若干大きい程度で、かつネジ棒37が切り欠き33を挿通した状態でボルト頭39がスリット31を上下に跨げる程度が好ましい。切り欠き33の位置は、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持させたい位置である。
【0041】
図3ではサイドメンバ側板61のサイドメンバ側面62にスリット31を形成した例を図示している。これは、バッテリーブラケット5がバッテリー7を支持できる強度を有すればよいのに対し、サイドメンバ側板61は車両1を構成する他の部材も支持する強度を有するため強度面で有利なためである。ただし、バッテリーブラケット5に十分な強度がある場合は、図5(a)に示すようにバッテリーブラケット5にスリット31を設けても良い。この場合はバッテリーブラケット5を後方から完全に引き出して取り外すためにはスリット31はスリット前端31bが開放された前開きである必要がある。
【0042】
切り欠き33はネジ棒37が挿通するため、円弧の径はネジ棒37の径よりも大きい必要がある。ただし円弧の径がネジ棒37の径に対して大きすぎると位置決めに使い難くなるため、ネジ棒37の径よりも若干大きい程度が好ましい。切り欠き33の円弧の長さは円周の半分以下である必要がある。円周の半分を超えると切り欠き33を変形させないとボルト35とナット51の締結を緩めても切り欠き33からボルト35が外れず、ボルト35がX方向に移動できないためである。バッテリーブラケット5をX方向に移動させ易くするため切り欠き33からボルト35を外れやすくするという観点からは、切り欠き33の円弧の長さは円周の半分未満で、図2(b)に示す切り欠き33の最大幅D1が円弧の直径未満であるのが好ましい。
【0043】
切り欠き33は必須ではない。バッテリーブラケット5を保持させたいサイドメンバ21aの位置に目印をつける等して、位置決め手段を別途設ける場合は、図5(b)に示すように切り欠き33を設けない構造もあり得る。
【0044】
以上が、バッテリーブラケット5をサイドメンバ21a、21bに保持する構造の詳細の説明である。
【0045】
このように本実施形態の車両1は、サイドメンバ21aに保持されるバッテリーブラケット5と、サイドメンバ21aに形成されたスリット31と、スリット31とバッテリーブラケット5を挿通するボルト35と、ボルト35と螺合するナット51を備える。
【0046】
この構成ではボルト35を緩めるか、ラダーフレーム3の前後方向に衝撃が加えられるとボルト35がスリット31にガイドされて相対移動することでバッテリーブラケット5が前後方向に移動する。
【0047】
そのため、バッテリーブラケット5をラダーフレーム3から引き出すことで上方からバッテリー7を整備できる。また、車両1の前面が他の車両や構造物に衝突して潰れた場合でも衝撃でバッテリーブラケット5が後方にスライドすることで、バッテリー7の破損による発火を防ぐことができる。よって、車両1は、ラダーフレーム3がバッテリーブラケット5を保持する構造でも蓄電池であるバッテリー7の整備がし易く、衝突時に蓄電池であるバッテリー7を保護できる。
【0048】
以上、実施形態に基づき本開示を説明したが本開示は実施形態に限定されない。当業者であれば本開示の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも当然に本開示に含まれる。
【0049】
例えば上記した実施形態では車両1として電動発電機9のみを動力源として走行する電気自動車を例示したが、本開示はバッテリーを必要とする車両であればハイブリッド車両のように電動発電機9と内燃機関を動力源として併用する車両にも適用できる。また内燃機関のみを動力源とする車両でも、照明等の電装の電源としてバッテリーを必要とする車両であれば、本開示は適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 :車両
3 :ラダーフレーム
5 :バッテリーブラケット
7 :バッテリー
9 :電動発電機
11 :駆動軸
12 :前輪
13 :後輪
21a、21b :サイドメンバ
23 :クロスメンバ
31 :スリット
31a :スリット後端
31b :前端
33 :切り欠き
34 :前端
35 :ボルト
36 :後端
37 :ネジ棒
39 :ボルト頭
41 :貫通孔
51 :ナット
61 :サイドメンバ側板
62 :サイドメンバ側面
63 :サイドメンバ上板
65 :サイドメンバ底板
70 :ブラケット側面
71 :ブラケット側板
73 :ブラケット底板
図1
図2
図3
図4
図5