IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146264
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】フォイル軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/02 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
F16C27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047143
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幹久
【テーマコード(参考)】
3J012
【Fターム(参考)】
3J012EB09
3J012EB11
3J012FB01
(57)【要約】
【課題】フォイルと軸との接触に起因するフォイルの破損を防止する。
【解決手段】各フォイル12は、軸受面S1を有するトップフォイル部12aと、トップフォイル部12aの下流側に設けられた差込部12bとを有する。各フォイル12の差込部12bは、フォイルホルダ11の軸方向溝13cに、フォイルホルダ11に対する回転方向の移動が許容された状態で挿入される。フォイルホルダ11の軸方向溝13cの内壁には、フォイル12の差込部12bの下流側端部の縁が当接する係止面15が設けられる。各フォイル12の差込部12bの下流側の端部の縁に、その縁の延在方向中間部を下流側に突出させた凸部12fを設ける。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォイルホルダと、支持すべき回転部材の回転方向の移動が許容された状態で前記フォイルホルダに取り付けられたフォイルとを有するフォイル軸受において、
前記フォイルホルダに、前記フォイルの前記回転方向下流側の端部の縁が当接する係止面を設け、
前記フォイルの前記回転方向下流側の端部の縁に、当該縁の延在方向中間部を前記回転方向下流側に突出させた凸部を設けたフォイル軸受。
【請求項2】
前記凸部が、厚さ方向中間部を前記回転方向下流側に突出させた形状を有する請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項3】
支持すべき回転部材の回転方向に離隔した複数の凹部を有するフォイルホルダと、前記フォイルホルダに前記回転方向に並べて取り付けられた複数のフォイルとを有し、
各フォイルが、軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の前記回転方向下流側に設けられた差込部とを有し、
各フォイルの差込部が、前記フォイルホルダの凹部に、前記フォイルホルダに対する前記回転方向の移動が許容された状態で挿入され、
前記フォイルホルダの凹部の内壁に、前記フォイルの差込部の前記回転方向下流側の端部の縁が当接する係止面が設けられたフォイル軸受において、
各フォイルの差込部の前記回転方向下流側の端部の縁に、前記縁の延在方向中間部を前記回転方向下流側に突出させた凸部を設けたフォイル軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボチャージャの主軸は超高速で回転し、タービン翼は高温環境下に晒される。主軸は、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受によって支持されることも多いが、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合や、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合には、空気動圧軸受の一種であるフォイル軸受が使用されることがある。
【0003】
フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、フォイルのたわみを許容して荷重を支持する軸受である。軸の回転時には、軸とフォイルの軸受面との間に流体膜(空気膜)が形成され、この流体膜を介して軸が非接触で支持される。このとき、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切な軸受隙間が自動的に形成されるため、フォイル軸受は、高速回転する軸であっても安定して支持することができる。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、図21に示すようなフォイル軸受100が示されている。このフォイル軸受100は、円筒状のフォイルホルダ110と、フォイルホルダ110の内周面に周方向に並べて取り付けられた3枚のフォイル120とを有する。フォイルホルダ110の内周面112には、周方向に離間した3本の軸方向溝111が形成される。図22に示すように、各フォイル120は、トップフォイル部121と、トップフォイル部121の下流側に設けられた差込部122と、トップフォイル部121の上流側に設けられたバックフォイル部123とを有する。各フォイル120のトップフォイル部121の内径面は、軸受隙間に面する軸受面として機能する(図21参照)。各フォイル120の差込部122はフォイルホルダ110の軸方向溝111に差し込まれる。各フォイル120のバックフォイル部123は、隣接するフォイル120のトップフォイル部121とフォイルホルダ110の内周面112との間に配される。
【0005】
各フォイル120のトップフォイル部121とバックフォイル部123との境界には、図22に示すようなスリット124が形成される。図23は、2枚のフォイル120を組み合わせた状態を示し、理解しやすいように上流側のフォイルの符号にダッシュ(’)を付している。同図に示されるように、下流側のフォイル120のスリット124には、上流側のフォイル120’の差込部122’が差し込まれる。これにより、隣接するフォイル120,120’同士が軸方向で互いに係合した状態で連結される。このように、各フォイル120の差込部122は、下流側に隣接するフォイル120のスリット124に差し込まれ、さらに、フォイルホルダ110の軸方向溝111に差し込まれる(図21参照)。
【0006】
上記のフォイル軸受100では、各フォイル120の差込部122が、フォイルホルダ110の軸方向溝111に完全に固定されているのではなく、隙間を介して差し込まれているため、各フォイル120はフォイルホルダ110に対する移動が許容されている。このため、軸130の起動直後の低速回転時には、軸130とフォイル120との摺動によりフォイル120が回転方向下流側に移動し、各フォイル120の差込部122の下流端の縁がフォイルホルダ110の軸方向溝111の内壁に当接する(図23の白抜き矢印参照)。この状態で、軸130の回転速度が上昇し、軸130とフォイル120との間の流体膜の圧力が高まることで、軸130が非接触支持される(図21参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-143572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のフォイル軸受において、軸130がコニカルモードで振動すると、図23に示すように、フォイル120の軸方向端部付近(a部)に軸130が回転しながら強く接触する。これにより、フォイル120が矢印b方向に引っ張られ、隣接するフォイル120同士の連結部cに負荷が加わり、この連結部cでフォイル120が破損するおそれがある。特に、軸の振れ回りが大きい環境や、フォイル軸受の取り付け精度が悪い(ミスアライメントが大きい)環境でフォイル軸受を使用すると、軸フォイルとの干渉を抑えきれず、フォイルに過剰なせん断力が加わることで、フォイルが破損するおそれが高い。
【0009】
以上のような問題は、上記のようなフォイル軸受に限らず、フォイルが、フォイルホルダに対して移動が許容された状態で取り付けられたフォイル軸受において生じ得る。
【0010】
以上のような事情から、本発明は、フォイルと軸(回転部材)との接触に起因するフォイルの破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、フォイルホルダと、支持すべき回転部材の回転方向の移動が許容された状態で前記フォイルホルダに取り付けられたフォイルとを有するフォイル軸受において、
前記フォイルホルダに、前記フォイルの前記回転方向下流側の端部の縁が当接する係止面を設け、
前記フォイルの前記回転方向下流側の端部の縁に、当該縁の延在方向中間部を前記回転方向下流側に突出させた凸部を設けたフォイル軸受を提供する。
【0012】
このように、フォイルの下流側端部の縁に凸部を設け、この凸部の頂部をフォイルホルダに設けられた係止面に当接させることにより、両者を略点接触させることができる。コニカルモードで振動するフォイルが回転部材と摺動してフォイルに負荷が加わったときには、フォイルの縁の凸部とフォイルホルダの係止面との当接部(点接触部)を支持点としてフォイルを局部的に動かす(揺動させる)ことができる(図6の矢印Q1参照)。これにより、回転部材の動きに合わせてフォイルが回転部材に追従して、フォイルに加わる負荷を逃がすことができるため、フォイルの破損を防止できる。
【0013】
上記の凸部を、厚さ方向中間部を下流側に向けて突出させた形状とすれば、フォイルがフォイルホルダに対してさらに動きやすくなるため、フォイルの破損をより確実に防止できる。
【0014】
より具体的な構成として、本発明は、支持すべき回転部材の回転方向に離隔した複数の凹部を有するフォイルホルダと、前記フォイルホルダに前記回転方向に並べて取り付けられた複数のフォイルとを有し、
各フォイルが、軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の前記回転方向下流側に設けられた差込部とを有し、
各フォイルの差込部が、前記フォイルホルダの凹部に、前記フォイルホルダに対する前記回転方向の移動が許容された状態で挿入され、
前記フォイルホルダの凹部の内壁に、前記フォイルの差込部の前記回転方向下流側の端部の縁が当接する係止面が設けられたフォイル軸受において、
各フォイルの差込部の前記回転方向下流側の端部の縁に、前記縁の延在方向中間部を前記回転方向下流側に突出させた凸部を設けたフォイル軸受を提供する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、フォイルの下流側端部の縁に設けられた凸部とフォイルホルダの係止面とを略点接触させることで、フォイルの変形の自由度が高まるため、フォイルと回転部材との接触に起因するフォイルの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガスタービンの構成を概念的に示す図である。
図2】上記ガスタービンにおけるロータの支持構造を示す断面図である。
図3】ラジアルフォイル軸受の軸直交方向断面図(図4におけるY-Y線断面図)である。
図4図3におけるX-X線断面図である。
図5図3のラジアルフォイル軸受のフォイルの平面図である。
図6】2枚のフォイルを組み合わせた状態を示す平面図である。
図7】スラストフォイル軸受を軸受面側から見た平面図である。
図8】スラストフォイル軸受のフォイルホルダおよび一枚のフォイルを示す平面図である。
図9図7におけるZ-Z線断面図である。
図10】フォイルの凸部の他の例を示す平面図である。
図11】フォイルの凸部のさらに他の例を示す平面図である。
図12】フォイルの凸部のさらに他の例を示すフォイル厚さ方向の断面図である。
図13】フォイルの他の例を示す平面図である。
図14】(A)は、図13のフォイルをフォイルホルダの凹部に差し込んだ状態を示す斜視図であり、(B)は、そのフォイルホルダに係止部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
図15図13のフォイルを有するフォイル軸受の軸直交方向断面図である。
図16図13のフォイルの拡大図である。
図17】(A)は、スラストフォイル軸受の他の例を示す斜視図であり、(B)は、同スラストフォイル軸受の一部のフォイルの図示を省略した斜視図である。
図18図17のスラストフォイル軸受のフォイルの平面図である。
図19図18のフォイルを2枚組み合わせた状態を示す平面図である。
図20図17AにおけるW-W線断面図である。
図21】従来のラジアルフォイル軸受の軸直交方向断面図である。
図22図21のラジアルフォイル軸受のフォイルの平面図である。
図23図22のフォイルを2枚組み合わせた状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1に、ターボ機械の一種であるガスタービンの構成を概念的に示す。このガスタービンは、それぞれに翼列を形成したタービン1および圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、および発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。
【0019】
吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0020】
図2に、ロータの支持構造、特に、タービン1と圧縮機2との軸方向間における軸6の支持構造を示す。この領域は高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているため、ここでは空気動圧軸受、特にフォイル軸受が好適に使用される。具体的には、ラジアルフォイル軸受10により軸6がラジアル方向に支持されると共に、一対のスラストフォイル軸受20により軸6に設けられたスラストカラー6aが両スラスト方向に支持される。以下、ラジアルフォイル軸受10およびスラストフォイル軸受20の構成を説明するが、各部の説明において、軸6の回転方向下流側を「下流側」、軸6の回転方向上流側を「上流側」と言う。
【0021】
[ラジアルフォイル軸受の基本的構成]
ラジアルフォイル軸受10は、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受であり、図3に示すように、フォイルホルダ11と、フォイルホルダ11に取り付けられた複数枚(図示例では3枚)のフォイル12とを備える。本実施形態では、フォイルホルダ11が、筒状(図示例では円筒状)のホルダ本体13と、係止部材14とを有する。図示例では、3枚のフォイル12が、フォイルホルダ11の周方向(すなわち、軸6の回転方向)に並べた状態でホルダ本体13の内周面に取り付けられる。
【0022】
ホルダ本体13は、金属あるいは樹脂で一体に形成される。ホルダ本体13の内周面には、図4に示すように、小径内周面13aと、小径内周面13aの軸方向一方側に設けられた大径内周面13bとが設けられる。ホルダ本体13の小径内周面13aには、フォイル12を取り付けるための凹部が設けられる。図示例では、凹部として、3本の軸方向溝13cが周方向等間隔に設けられる(図3参照)。軸方向溝13cの内壁には、フォイル12の下流側端部の縁が当接する係止面15が設けられる。
【0023】
フォイルホルダ11には、フォイル12の差込部12bに軸方向外側から当接する軸方向係止面16,17が設けられる(図4参照)。図示例では、一方の軸方向係止面16が、ホルダ本体13と一体に設けられた係止部13dに形成され、他方の軸方向係止面17が、ホルダ本体13と別体に形成された係止部材14に形成される。係止部材14は、例えば円環状あるいは円環の周方向一部を切り欠いたC形を成し、弾性に富んだ金属あるいは樹脂で形成される。係止部材14は、ホルダ本体13の小径内周面13aと大径内周面13bとの軸方向間に設けられた環状溝13eに装着される。係止部材14の内周面は、フォイルホルダ11の小径内周面13aと同一円筒面上あるいはそれよりも外径側に配される。
【0024】
フォイル12は、一枚の金属製の箔材にプレス加工やエッチングあるいはワイヤカットを施すことにより一体に形成される。フォイル12は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属からなる厚さ20μm~200μm程度の箔材で形成される。箔材の材質としては、例えば鋼材料や銅合金を使用することができ、特にステンレス鋼もしくは青銅を使用するのが好ましい。
【0025】
各フォイル12は、図5に示すように、トップフォイル部12aと、トップフォイル部12aの下流側(図5の左側)に設けられた差込部12bと、トップフォイル部12aの上流側(図5の右側)に設けられたバックフォイル部12cとを備える。トップフォイル部12aとバックフォイル部12cとの境界には、スリット12dが形成される。図示例では、差込部12b及びスリット12dが、それぞれ軸方向に離隔した複数箇所(2箇所)に設けられ、軸方向で同じ位置に設けられる。各スリット12dの軸方向幅は、各差込部12bの軸方向幅よりも僅かに大きい。すなわち、一対のスリット12dの軸方向間に設けられた中間部12eの軸方向幅W1が、一対の差込部12bの軸方向間隔W2よりも僅かに小さい。中間部12eの軸方向幅W1と一対の差込部12bの軸方向間隔W2との差(W2―W1)は、例えば0.1~0.5mmの範囲とされる。
【0026】
図6に、2枚のフォイル12を組み合わせた状態を示す。この図では、理解しやすいように、2枚のフォイル12のうちの上流側のフォイルの符号にダッシュ(’)を付している。下流側のフォイル12のスリット12dに、上流側のフォイル12’の差込部12b’が差し込まれ、これにより2枚のフォイル12が連結される。これにより、下流側のフォイル12の中間部12eと、上流側のフォイル12’の一対の差込部12b’とが軸方向(図6の上下方向)で互いに係合した連結部Cが形成される。
【0027】
各フォイル12の差込部12bは、ホルダ本体13の軸方向溝13cに差し込まれる(図3参照)。差込部12bは、軸方向溝13cに完全に固定されているのではなく、ホルダ本体13の軸方向溝13cに隙間を介して差し込まれているため、軸方向溝13cの内部での移動が許容される。軸方向溝13cに差し込まれた差込部12bとトップフォイル部12aとの境界は、折れ曲がることなく滑らかに湾曲している。
【0028】
各フォイル12のバックフォイル部12cは、隣接するフォイル12のトップフォイル部12aとホルダ本体13の小径内周面13aとの間に配される。各フォイル12のトップフォイル部12aの内径面は、ラジアル軸受面S1として機能する。図6に示すように、各フォイル12のトップフォイル部12aの上流側端部12a1の縁(すなわち、スリット12dの下流側の縁)は、上流側に隣接するフォイル12’のトップフォイル部12a’の下流側端部の縁12a2’(一対の差込部12b’の軸方向間領域)と周方向で互いに突っ張りあっている。これにより、各フォイル12が外径側に張り出し、フォイルホルダ11の小径内周面13aに沿った軸受面S1が得られる(図3参照)。
【0029】
[スラストフォイル軸受の構成]
スラストフォイル軸受20は、軸6をスラスト方向に支持するものであり、図示例では、軸6に設けられたスラストカラー6aの軸方向両側に、一対のスラストフォイル軸受20が配される(図2参照)。尚、以下では、一方のスラストフォイル軸受20について説明するが、他方のスラストフォイル軸受20は、軸受面側からみた平面図が鏡像対称であることを除いて同様の構成を有するため、説明を省略する。
【0030】
スラストフォイル軸受20は、図7および図8に示すように、フォイルホルダ21と、フォイルホルダ21に、周方向に並べた状態で取り付けられた複数のフォイル22とを備える。本実施形態では、フォイルホルダ21が、ホルダ本体21aと固定部材21bとを有する。ホルダ本体21aの、スラストカラー6aと対向する端面6a1に、複数のフォイル22が取り付けられる。
【0031】
図7に示すように、フォイル22は、フォイルホルダ21の周方向(すなわち、軸6の回転方向)に等ピッチで配置される。図8は、周方向に並べた複数のフォイル22のうち、一つのフォイル22のみを図示して他のフォイルの図示を省略したものである。同図に示すように、各フォイル22は、後述するトップフォイル部22a1およびバックフォイル部22a2を有する本体部22aと、本体部22aから外径側に延びる延在部22bとを一体に備える。
【0032】
図示例では、各フォイル22の内径端縁22eおよび外径端縁22fの双方が軸心を中心とする円弧で形成されている。また、下流端縁22cは、半径方向中間部を下流側に突出させた凸形状をなし、上流端縁22dは、半径方向中間部を下流側に凹ませた凹形状をなしている。図示例では、下流端縁22cおよび上流端縁22dが同形状の曲線であるため、一枚のフォイルから複数のフォイル22を効率よく切り出すことができる。
【0033】
延在部22bは、本体部22aから外径側に延びている。ホルダ本体21aの端面上に複数のフォイル22を周方向に並べて配し、各フォイル22の延在部22bの外径部分(図8にクロスハッチングで示す領域)をホルダ本体21aと固定部材21bとで挟み込み、これらをボルト等で締め付け固定することで、各フォイル22がフォイルホルダ21に固定される(図7参照)。
【0034】
フォイル22は、ラジアルフォイル軸受10のフォイル12と同様の材質で形成される。フォイル22の材質の具体例はフォイル12と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
図9に示すように、スラストフォイル軸受20の各フォイル22は、ホルダ本体21aの端面21a1上に、概ね半ピッチずつ位相をずらしながら周方向に並べて配置されている。各フォイル22の本体部22aの下流端縁22cを含む領域は、下流側に隣接するフォイル22の上(スラストカラー6a側)に乗り上げ、この領域がトップフォイル部22a1を構成する。また、各フォイル22の本体部22aの上流端縁22dを含む領域は、上流側に隣接するフォイル22のトップフォイル部22a1の下(ホルダ本体21a側)に配され、この領域が、当該トップフォイル部22a1を背後から弾性的に支持するバックフォイル部22a2を構成する。各フォイル22のトップフォイル部22a1の表面に、スラストカラー6aの一方の端面6a1と対向するスラスト軸受面S2が形成される。
【0036】
[フォイル軸受の動作]
軸6が回転すると、ラジアルフォイル軸受10のフォイル12のラジアル軸受面S1と軸6の外周面6bとの間のラジアル軸受隙間G1に流体膜(空気膜)が形成される(図3参照)。これと同時に、スラストフォイル軸受20のフォイル22のスラスト軸受面S2と軸6のスラストカラー6aの端面6a1との間のスラスト軸受隙間G2に流体膜(空気膜)が形成される(図9参照)。尚、実際の軸受隙間G1,G2の幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3および図9ではその幅を誇張して描いている。
【0037】
各フォイル12,22のトップフォイル部12a,22a1が、隣接するフォイル12,22のバックフォイル部12c,22a2の上に乗り上げて湾曲することで、ラジアル軸受隙間G1およびスラスト軸受隙間G2は、下流側へ行くにつれて狭くなった楔状を成す。このような楔状の軸受隙間G1,G2の幅狭側に空気が押し込まれることにより、軸受隙間G1,G2の空気膜の圧力が高められ、この圧力により軸6がラジアル方向および両スラスト方向に非接触支持される。
【0038】
また、各フォイル12,22のトップフォイル部12a,22a1が、隣接するフォイル12,22のバックフォイル部12c,22a2に乗り上げることで、各フォイル12,22が湾曲する。この湾曲部のバネ性により、各フォイル12,22が、荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間G1およびスラスト軸受隙間G2は運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温、高速回転といった過酷な条件下でも、軸受隙間G1,G2を最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0039】
[本発明の特徴的構成]
以下、本発明の特徴的構成である、ラジアルフォイル軸受10のフォイル12に設けられる凸部12fについて説明する。
【0040】
図5に示すように、ラジアルフォイル軸受10に設けられた各フォイル12の差込部12bの下流側端部(図中左端)の縁には、凸部12fが設けられる。凸部12fは、差込部12bの下流側端部の縁の延在方向中間部(軸方向中間部)を下流側に突出させた形状を成している。図示例の凸部12fは、平面視で下流側に凸の凸曲線(例えば円弧)で構成される。また、図示例の凸部12fは、差込部12bの下流側端部の縁の延在方向全域に設けられる。
【0041】
軸6の回転開始直後は回転速度が低速であるため、流体膜が十分に形成されず、軸6とラジアルフォイル軸受10のフォイル12とが摺動する。これにより、フォイル12が下流側に移動し、フォイル12の差込部12bの下流側端部が、フォイルホルダ11の軸方向溝13cの内壁に形成された係止面15に当接する(図6参照)。なお、図6では、一つの係止面15のみを示しているが、実際には、全てのフォイル12の差込部12bがそれぞれ係止面15に当接している(図3参照)。その後、軸6の回転数が高まり、軸6がラジアルフォイル軸受10で非接触支持されても、ラジアル軸受隙間G1の流体膜の粘性により、各フォイル12の差込部12bが係止面15に押し付けられた状態が維持される(図6の白抜き矢印参照)。
【0042】
そして、軸6のコニカルモードの振動等により、軸6がフォイル12の軸受面S1の軸方向端部付近のA部に当接すると、フォイル12のトップフォイル部12aが矢印B方向に引っ張られる。このとき、隣接するフォイル12同士の連結部Cでは、各フォイル12の中間部12eと、上流側に隣接するフォイル12’の差込部12b’とが軸方向で係合している。このため、上記のようにトップフォイル部12aのA部が矢印B方向に引っ張られることで、隣接するフォイル12同士の連結部Cに負荷が加わる。
【0043】
本実施形態では、上記のように、各フォイル12の差込部12bの下流側端部の縁に凸部12fを設けているため、この凸部12fの頂部(下流側端部)とフォイルホルダ11の係止面15とが平面視で略点接触した状態となる。このため、軸6とフォイル12との接触によりトップフォイル部12aのA部が矢印B方向に引っ張られたときに、各フォイル12の差込部12bおよびその周辺が、図6に矢印Q1で示すように、差込部12bの凸部12fとフォイルホルダ11の係止面15との当接部P1を支持点として局所的に動きやすく(揺動しやすく)なっている。このようなフォイル12の局部的な動きにより、トップフォイル部12aのA部を矢印B方向に引っ張る負荷が吸収されるため、隣接するフォイル12同士の連結部Cの破損を防止できる。
【0044】
本発明の上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0045】
上記の実施形態では、フォイル12の縁に形成する凸部12fの頂部が丸まった形状(平面視で曲線状)である場合を示したが、これに限らず、例えば図10に示すように、凸部12fを、頂部が尖った形状(平面視で三角形状)としてもよい。また、上記の実施形態では、フォイル12の差込部12bの下流側端部の縁の全域に凸部12fを設けているが、これに限らず、例えば図11に示すように、差込部12bの下流側端部の縁の一部(図示例では、縁の延在方向両端を除く中間部)に凸部12fを設けてもよい。
【0046】
また、一対の差込部12bの一方のみに凸部12fを設けてもよい。例えば、予め、軸6の変位が大きくなる方向が分かっていれば、振れが大きくなる側の差込部12bのみに凸部12fを設けてもよい。通常、軸6の振れは軸端側で大きくなるため、軸端に近い方の差込部12b(ラジアルフォイル軸受10を図2の状態で配した場合、タービン1に近い側の差込部12b)のみに凸部12fを設けてもよい。
【0047】
また、図12に示すように、凸部12fの厚さ方向中間部を下流側(図中左側)に突出させてもよい。図示例では、凸部12fの断面形状を下流側に凸の凸曲線状とし、具体的には下流側に凸の凸円弧状としている。この他、凸部12fの断面形状を、下流側の端部が尖った形状(断面三角形状)としてもよい。これにより、各フォイル12の凸部12fとフォイルホルダ11の係止面15とが厚さ方向断面で略点接触した状態となるため、矢印Q2で示すように、当接部P2を支持点としてフォイル12が厚さ方向に動きやすく(揺動しやすく)なり、フォイル12の破損の防止効果が高まる。
【0048】
図13に示すフォイル12は、差込部12bの軸方向外側の縁に凹部12gを有する。係止部材14には、軸方向内側に突出した軸方向突起14aが設けられる(図14B参照)。フォイル12の差込部12bをホルダ本体13の軸方向溝13cに差し込み(図14A参照)、係止部材14をホルダ本体13に取り付けると、各フォイル12の凹部12gに係止部材14の軸方向突起14aが嵌合する(図14B参照)。これにより、図15に点線矢印で示すように軸6が何らかの原因により逆回転し、フォイル12が上流側に移動しようとしたときに、係止部材14の軸方向突起14aとフォイル12の凹部12gとが周方向で係合することにより、フォイル12の上流側への移動が規制され、フォイル12の差込部12bがホルダ本体13の軸方向溝13cから抜ける事態を防止できる。なお、図14では、ホルダ本体13の大径内周面13bの図示を省略している。
【0049】
この場合、図16に示すように、凸部12fの軸方向外側の端部12f1が凹部12gの下流側の内壁12g1に達すると、凹部12gの下流側の内壁12g1の軸方向寸法が低減される。この凹部12gの下流側の内壁12g1は、係止部材14の軸方向突起14aと係合する部分であるため、この部分の軸方向寸法が小さいと強度が不足し、フォイル12の上流側への移動を規制できなくなるおそれがある。従って、差込部12bの凸部12fの軸方向外側の端部12f1は、凹部12gの下流側の内壁12g1よりも下流側に離間させて配することが好ましい。
【0050】
本発明は、スラストフォイル軸受にも適用することができる。図17~20に、本発明を適用したスラストフォイル軸受30を示す。スラストフォイル軸受30は、図17に示すように、円盤状のフォイルホルダ31と、フォイルホルダ31の端面31aに取り付けられた複数のフォイル32とを有する。図示例では、12枚のフォイル32が、周方向に並べた状態でフォイルホルダ31の端面31aに取り付けられる。なお、図17Bでは、複数のフォイル32のうち、一部のフォイル32の図示を省略している。
【0051】
フォイルホルダ31は、金属あるいは樹脂で円盤状に形成される。フォイルホルダ31の端面31aには、フォイル32を取り付けるための凹部が設けられる。図示例では、凹部として、複数の半径方向溝31cが周方向等間隔に設けられる。各半径方向溝31cの両端は、それぞれフォイルホルダ31の内周面及び外周面に開口している(図17B参照)。半径方向溝31cの内壁には、フォイル32の下流側の端部の縁が当接する係止面33が設けられる。
【0052】
フォイル32の材質や厚さ等は、上記の実施形態のフォイル12,22と同様である。各フォイル32は、図18に示すように、トップフォイル部32aと、トップフォイル部32aの下流側に設けられた差込部32bと、トップフォイル部32aの上流側に設けられたバックフォイル部32cとを備える。トップフォイル部32aとバックフォイル部32cとの境界には、スリット32dが形成される。図示例では、差込部32b及びスリット32dが、それぞれ半径方向に離隔した複数箇所(2箇所)に設けられ、半径方向で同じ位置に設けられる。スリット32dの半径方向幅は、差込部32bの半径方向幅よりも僅かに大きい。すなわち、一対のスリット32dの軸方向間に設けられた中間部32eの半径方向幅W3が、一対の差込部32bの半径方向間隔W4よりも僅かに小さい。中間部32eの半径方向幅W3と一対の差込部32bの半径方向間隔W4との差(W4-W3)は、例えば0.1~0.5mmの範囲とされる。
【0053】
各フォイル32の差込部32bの下流側の端部の縁には、凸部32fが設けられる。図示例では、凸部32fが、半径方向中間部を下流側に突出させた形状を成している。具体的には、図18に示す平面視において、凸部32fが、下流側に凸の凸曲線(例えば円弧)で構成される。
【0054】
図19に、2枚のフォイル22を組み合わせた状態を示す。この図では、理解しやすいように、上流側のフォイルの符号にダッシュ(’)を付している。下流側のフォイル32のスリット32dには、上流側のフォイル32’の差込部32b’が差し込まれる。これにより、下流側のフォイル32の中間部32eと上流側のフォイル32’の一対の差込部32b’とが半径方向で互いに係合した状態で連結される。
【0055】
図20に示すように、各フォイル32の差込部32bは、フォイルホルダ31の半径方向溝31cに差し込まれる。差込部32bは、半径方向溝31cに完全に固定されているのではなく、半径方向溝31cに隙間を介して差し込まれているため、半径方向溝31cの内部での移動が許容される。半径方向溝31cに差し込まれた差込部32bとトップフォイル部32aとの境界は、折れ曲がることなく滑らかに湾曲している。
【0056】
各フォイル32のバックフォイル部32cは、隣接するフォイル32のトップフォイル部32aとフォイルホルダ31の端面31aとの間に配される。各フォイル32のトップフォイル部32aのスラストカラー6a側の面は、スラスト軸受面S2として機能する。
【0057】
軸6の回転時におけるコニカルモードの振動等により、スラストカラー6aがフォイル32の軸受面S2の外径端部付近のD部(図19参照)に当接すると、フォイル32のトップフォイル部32aが矢印E方向に引っ張られ、隣接するフォイル32同士の連結部Fに負荷が加わる。本実施形態では、上記のように、差込部32bの下流側端部の縁に凸部32fを設けているため、この凸部32fの頂部(下流側端部)が半径方向溝31cの内壁に設けられた係止面33に当接し、両者が平面視で略点接触した状態となる。そのため、矢印Q3で示すように、当接部P3を支持点としてフォイル32が局所的に動きやすく(揺動しやすく)なっている。このようなフォイル32の局部的な動きにより、トップフォイル部32aのD部を矢印E方向に引っ張る負荷が吸収されるため、隣接するフォイル32同士の連結部Fの破損を防止できる。
【符号の説明】
【0058】
6 軸(回転部材)
6a スラストカラー
10 ラジアルフォイル軸受
11 フォイルホルダ
12 フォイル
12a トップフォイル部
12b 差込部
12c バックフォイル部
12f 凸部
13 ホルダ本体
13c 軸方向溝(凹部)
15 係止面
20 スラストフォイル軸受
21 フォイルホルダ
22 フォイル
30 スラストフォイル軸受
31 フォイルホルダ
31c 半径方向溝(凹部)
32 フォイル
32a トップフォイル部
32b 差込部
32c バックフォイル部
32f 凸部
33 係止面
G1 ラジアル軸受隙間
G2 スラスト軸受隙間
S1 ラジアル軸受面
S2 スラスト軸受面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23