(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146277
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】動力伝達軸構造体
(51)【国際特許分類】
F16F 15/10 20060101AFI20220928BHJP
B60K 17/22 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16F15/10 B
B60K17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047159
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】申 大珍
【テーマコード(参考)】
3D042
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AB01
3D042DA05
3D042DA06
3D042DA09
3D042DA14
(57)【要約】
【課題】繊維強化プラスチック製の動力伝達軸内にダイナミックダンパを固定しつつ、重量の増加を抑制可能な動力伝達軸構造体を提供すること。
【解決手段】動力伝達軸構造体1Aは、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸10と、動力伝達軸10の内周面10aに保持されたダイナミックダンパ20と、を備えている。ダイナミックダンパ20は、外径を変更可能な環状の管状部30と、管状部30の軸心に配置されたインナウエイト40と、管状部30とインナウエイト40との間に介装され、管状部30とインナウエイト40とを一体に連結した弾性体50と、を有している。管状部30は、管状部30の外周面の一部に、管状部30の径方向外側に突出した凸部31を有している。動力伝達軸10は、動力伝達軸10の内周面10aの一部に、凸部31が嵌る凹部11を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸と、
前記動力伝達軸の内周面に保持されたダイナミックダンパと、を備え、
前記ダイナミックダンパは、
外径を変更可能な環状の管状部と、
前記管状部の軸心に配置されたインナウエイトと、
前記管状部と前記インナウエイトとの間に介装され、前記管状部と前記インナウエイトとを一体に連結した弾性体と、を有し、
前記管状部は、当該管状部の外周面の一部に、前記管状部の径方向外側に突出した凸部を有し、
前記動力伝達軸は、当該動力伝達軸の内周面の一部に、前記凸部が嵌る凹部を有している、
動力伝達軸構造体。
【請求項2】
繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸と、
前記動力伝達軸の内周面に保持されたダイナミックダンパと、を備え、
前記ダイナミックダンパは、
外径を変更可能な環状の管状部と、
前記管状部の軸心に配置されたインナウエイトと、
前記管状部と前記インナウエイトとの間に介装され、前記管状部と前記インナウエイトとを一体に連結した弾性体と、を有し、
前記管状部は、当該管状部の外周面の一部に、前記管状部の径方向内側へと向かう凹部を有し、
前記動力伝達軸は、当該動力伝達軸の内周面の一部に、前記凹部に嵌る凸部を有している、
動力伝達軸構造体。
【請求項3】
前記凸部及び前記凹部を、それぞれ複数有している、
請求項1または請求項2に記載の動力伝達軸構造体。
【請求項4】
繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸と、
前記動力伝達軸の内周面に保持されたダイナミックダンパと、を備え、
前記ダイナミックダンパは、
外径を変更可能な環状の管状部と、
前記管状部の軸心に配置されたインナウエイトと、
前記管状部と前記インナウエイトとの間に介装され、前記管状部と前記インナウエイトとを一体に連結した弾性体と、を有し、
前記動力伝達軸は、当該動力伝達軸の内周面の一部に、径方向内側に突出した凸部を有し、
前記凸部は、前記動力伝達軸の軸方向位置が異なる二箇所に備えられ、
前記凸部の内径をD1、前記管状部の外径の最小値をD2、前記管状部の外径の最大値をD3とするとき、D3>D1>D2である、
動力伝達軸構造体。
【請求項5】
前記管状部の外周面に、前記管状部よりも、前記動力伝達軸の内周面との間の電気抵抗を増大させる抵抗増大層を有している、
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の動力伝達軸構造体。
【請求項6】
前記管状部は、前記管状部の軸方向全長に亘って延びる切欠部を有している、
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の動力伝達軸構造体。
【請求項7】
前記管状部は、複数に分割されている、
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の動力伝達軸構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達軸構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される鋼管等の金属から成る動力伝達軸(プロペラシャフト)は、ダイナミックダンパを圧入している(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されているような金属製の動力伝達軸を使用した場合は、重量が重いため、燃費が悪化するという問題点があった。
【0003】
このような問題点を解消して軽量化を図ったものとしては、繊維強化プラスチック(FRP)製の動力伝達軸や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の動力伝達軸を使用したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4-122843号公報
【特許文献2】特許第3508941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動力伝達軸の内部にダイナミックダンパを圧入するには、比較的大きな圧入荷重が必要である。繊維強化プラスチック製の管体の場合、圧入荷重が大きいと管体が破損するおそれがある。また、管体の破損を防止するために圧入荷重に耐えるための構成を管体に追加すると、重量の増加を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するために創作されたものであり、繊維強化プラスチック製の動力伝達軸内にダイナミックダンパを固定しつつ、重量の増加を抑制可能な動力伝達軸構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る動力伝達軸構造体は、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸と、前記動力伝達軸の内周面に保持されたダイナミックダンパと、を備え、前記ダイナミックダンパは、外径を変更可能な環状の管状部と、前記管状部の軸心に配置されたインナウエイトと、前記管状部と前記インナウエイトとの間に介装され、前記管状部と前記インナウエイトとを一体に連結した弾性体と、を有し、前記管状部は、当該管状部の外周面の一部に、前記管状部の径方向外側に突出した凸部を有し、前記動力伝達軸は、当該動力伝達軸の内周面の一部に、前記凸部が嵌る凹部を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維強化プラスチック製の動力伝達軸内にダイナミックダンパを固定しつつ、重量の増加を抑制可能な動力伝達軸構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体を模式的に示す要部概略断面図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体における動力伝達軸を示す要部斜視図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸構造体を模式的に示す要部概略断面図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸構造体における動力伝達軸を示す要部斜視図である。
【
図7】本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸構造体における動力伝達軸を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、参照する図面は、分かり易さのためにデフォルメされたものであり、各部材の形状や寸法等を正確に表したものではない。
【0011】
[第一の実施形態]
図1~
図3を参照して、本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aを説明する。
【0012】
≪動力伝達軸構造体≫
図1に示すように、本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aは、繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成された中空状の動力伝達軸10と、動力伝達軸10の内周面10aに保持されたダイナミックダンパ20と、を備えて成る。繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、いわゆるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)が好ましいが、これに限定されるものではなく、AFRP(Aramid-Fiber-Reinforced Plastics)や、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)であってもよい。
【0013】
≪動力伝達軸≫
動力伝達軸10は、動力源で発生した動力を軸線周りの回転として伝達する管状体(プロペラシャフト)である。動力伝達軸10は、繊維強化プラスチックによって形成されたパイプから成り、軽量で強度が高い。動力伝達軸10は、車両において前後方向に延設されている。動力伝達軸10は、動力伝達軸10の内周面10aの一部に凹部11を有している。
【0014】
凹部11は、動力伝達軸10内に嵌めたダイナミックダンパ20が軸方向に移動し難くするための窪みである。凹部11は、後記するダイナミックダンパ20に形成された凸部31に係合するように形成されている。凹部11は、断面視して径方向内側に窪んだ円弧状の溝から成る。凹部11は、動力伝達軸10の内周面10aの周方向全周に亘って円環状に形成されている。凹部11は、動力伝達軸10の内周面10aの予め設定した位置に適宜な間隔で形成された複数(例えば、二つ)の溝から成る。
【0015】
図1に示す動力伝達軸10の製造方法の一例を簡単に説明する。動力伝達軸10を成形する場合は、例えば、RTM(Resin Transfer Molding)成形法によって、金型形状を転写して凹部11を有する動力伝達軸10を製造する。
【0016】
動力伝達軸10を製造する場合は、外周面に凸部を有するマンドレル(図示省略)を用いる。この凸部が動力伝達軸10の内周面に転写されることで凹部11が形成される。マンドレルは、樹脂製でもよい。動力伝達軸10は、金型の中空部と繊維が巻回されたマンドレルとの間に樹脂を流し込み、プラスチックの繊維の間に樹脂が含浸した状態で加熱して固めた後、マンドレルを抜き出すことによって製造される。なお、動力伝達軸10の凹部11の形成手法は、特に限定されない。凹部11は、上記のようにRTM成形法で形成してもよく、また、切削加工等の他の方法で形成しても構わない。
【0017】
≪ダイナミックダンパ≫
図1に示すように、ダイナミックダンパ20は、ダイナミックダンパ20の径方向外側に配置された動力伝達軸構造体1Aに発生する振動を減衰するための部材である。ダイナミックダンパ20は、外径を変更可能な環状の管状部30と、管状部30の軸心に配置されたインナウエイト40と、管状部30とインナウエイト40との間に介装された弾性体50と、を有して構成されている。
【0018】
≪管状部≫
図2及び
図3に示すように、管状部30は、外径を変更可能な中空の略円筒状の管状体である。管状部30は、鋼管、ばね鋼等の金属によって形成されている。管状部30は、当該管状部30の外周面30aの一部に管状部30の径方向外側に突出した凸部31と、側面視してC字状に切欠形成された切欠部32と、管状部30の外周面30aに形成された抵抗増大層33と、を有している。
【0019】
<凸部>
凸部31は、管状部30の外周面30aの周方向全周に亘って形成された環状の突起から成る。凸部31は、管状部30の外周面30aに軸方向に適宜な間隔で複数(本実施形態では2つ)形成されている。
図1に示すように、凸部31は、動力伝達軸10の凹部11に係合している。これにより、動力伝達軸10内に挿入したダイナミックダンパ20が軸方向に移動し難くなる。断面視して山形状の凸部31は、断面視して谷形状の凹部11に嵌合することで、軸方向にズレることなく、動力伝達軸10内にダイナミックダンパ20を固定することが可能になっている。
【0020】
<切欠部>
図2及び
図3に示すように、切欠部32は、管状部30の軸線に沿って軸方向全長に亘って切欠形成された1本のスリットから成る。管状部30は、この切欠部32を有していることによって、側面視してC字状の筒体に形成されている。また、管状部30は、この切欠部32を有していることで、径方向に弾性変形する。このため、切欠部32を有する管状部30は、
図1に示すように、動力伝達軸10内に圧入した際に縮径し、凸部31が凹部11に係合した際に拡径して、動力伝達軸10内にしっかりと保持される。このように管状部30は、切欠部32によって弾性変形することで、外径を変更可能に構成されている。
【0021】
<抵抗増大層>
抵抗増大層33は、管状部30と、動力伝達軸10の内周面10aとの間の電気抵抗及び摩擦抵抗を増大させて、電蝕を防止したり、軸方向に移動し難くするためのものである。抵抗増大層33は、管状部30の外周面30a全体にコーティングしたゴム等の電蝕防止材から成る。なお、抵抗増大層33は、管状部30の外周面30aに加硫成形した膜状のゴム層や、管状部30の外周面30aに被着させた薄肉の管状部材であってもよい。
【0022】
<インナウエイト>
図2及び
図3に示すように、インナウエイト40は、管状部30の軸心線上に配置された円柱形状の鋼棒等の金属製の部材から成る。インナウエイト40は、このインナウエイト40の外周部に固定された複数の弾性体50によって保持されている。インナウエイト40の軸方向の長さは、管状部30の軸方向の長さよりも短く、管状部30の軸方向の長さの略半分の長さに形成されている。
【0023】
<弾性体>
図2及び
図3に示すように、弾性体50は、管状部30とインナウエイト40とを一体に連結するための部材である。弾性体50は、径方向内側がインナウエイト40の外周面の軸方向中央部に固定され、径方向外側がインナウエイト40の外周面から径方向外側へ放射状に配置されて管状部30の内周面の軸方向中央部に固定されている。弾性体50は、例えば、周方向に均等な間隔で配置された複数(例えば五つ)の部材から成る。弾性体50は、合成ゴム等の弾性を有する弾性材料によって形成されて、管状部30の径方向に弾性(ばね性)を有している。このため、管状部30は、径方向に縮径しても、この弾性体50の弾性と管状部30の切欠部32による弾性とによって元の状態に戻る復元力を有している。動力伝達軸構造体1A(
図1参照)は、インナウェイト40の質量と弾性体50のばね性による共振を利用して動力伝達軸10の振動を吸収して減衰させる機能を備えている。
【0024】
≪動力伝達軸構造体の製造方法≫
本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aは、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、
図1~
図3を参照して、その製造方法の一例を組付手順に沿って説明する。
なお、後記する動力伝達軸構造体1Aの組付手順は、一例であって、動力伝達軸10内にダイナミックダンパ20を挿入して組み付けることができれば、どのような形態であってもよい。
【0025】
まず、
図2及び
図3に示すダイナミックダンパ20を、外径を小さく縮小させた状態で保持する。ダイナミックダンパ20は、不図示の治具等によって外周部から軸心方向に力を受けることで、弾性体50が圧縮し、切欠部32の周方向の間隔が狭くなることで、外径が縮小される。ダイナミックダンパ20は、切欠部32が形成されていることで、切欠部32が無いものと比較して、管状体30に押し込むときの荷重が小さくて済むので、管状体30を補強することが不要となる。
【0026】
このようにして外径を縮小させたダイナミックダンパ20を、
図1に示す動力伝達軸10内の予め設定した所定位置まで挿入する。このとき、ダイナミックダンパ20は、治具等によって縮径されているので、スムーズに動力伝達軸10内の所定位置まで挿入することができる。動力伝達軸10内の所定位置までダイナミックダンパ20を挿入すると、凸部31と、凹部11とが合致する位置となる。
【0027】
ダイナミックダンパ20は、動力伝達軸10内の所定位置に到達したら、治具等をダイナミックダンパ20から抜いて取り外す。すると、ダイナミックダンパ20は、管状部30の凸部31が動力伝達軸10内の凹部11に嵌合することによって、動力伝達軸10内の所定位置に固定されて、ズレることがない。管状部30は、ゴム層等から成る抵抗増大層33によって外周面30aが覆われているので、抵抗増大層33の摩擦抵抗及び弾性力によっても、動力伝達軸10内から抜けないようにしっかりと固定されている。
【0028】
このように、本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aは、
図1に示すように、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸10と、動力伝達軸10の内周面10aに保持されたダイナミックダンパ20と、を備え、ダイナミックダンパ20は、外径を変更可能な環状の管状部30と、管状部30の軸心に配置されたインナウエイト40と、管状部30とインナウエイト40との間に介装され、管状部30とインナウエイト40とを一体に連結した弾性体50と、を有し、管状部30は、当該管状部30の外周面30aの一部に、管状部30の径方向外側に突出した凸部31を有し、動力伝達軸10は、当該動力伝達軸10の内周面10aの一部に、凸部31が嵌る凹部11を有している。
【0029】
かかる構成によれば、動力伝達軸構造体1Aは、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸10を有しているので、金属製の動力伝達軸を使用しているものと比較して、軽量化を図ることができる。動力伝達軸10は、管状部30の外周面30aの径方向外側に突出した凸部31を、動力伝達軸10の内周面10aに形成した凹部11に嵌めることで、動力伝達軸10内にダイナミックダンパ20を抜けないように固定することができる。このため、動力伝達軸10は、部品点数及び重量を増加させることなく、ダイナミックダンパ20をしっかりと固定して、軸方向の予め設定した所定位置に保持することができる。
【0030】
また、
図1に示すように、動力伝達軸構造体1Aは、凸部31及び凹部11を、それぞれ複数有している。
【0031】
かかる構成によれば、動力伝達軸構造体1Aは、凸部31及び凹部11をそれぞれ複数有することで、複数の凸部31と、複数の凹部11と、がそれぞれ嵌合して、管状部30を動力伝達軸10内から抜けないようにしっかりと嵌合させることができる。
【0032】
また、
図1~
図3に示すように、管状部30の外周面30aに、管状部30よりも、動力伝達軸10の内周面10aとの間の電気抵抗を増大させる抵抗増大層33を有している。
【0033】
かかる構成によれば、管状部30は、管状部30の外周面30aに、動力伝達軸10の内周面10aとの間の電気抵抗を増大させる抵抗増大層33を有していることで、管状部30の電蝕を防止することができる。
【0034】
また、
図2に示すように、管状部30は、管状部30の軸方向全長に亘って延びる切欠部32を有している。
【0035】
かかる構成によれば、管状部30は、
図1に示すように、軸方向全長に亘って形成された切欠部32を有することで、動力伝達軸10内に圧入した際に、縮径し、凸部31が凹部11に係合した際に、拡径するように弾性変形させて外径を変更可能である。このため、管状部30は、動力伝達軸10内に圧入する際に、縮径するので圧入し易い。また、管状部30は、動力伝達軸10内に押し込むことで、凸部31が凹部11に弾性的に係合して、動力伝達軸10内にしっかりと固定させることができる。
【0036】
[第二の実施形態]
次に、
図4~
図6を参照して、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Bについて、第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aとの相違点を中心に説明する。
【0037】
図4に示すように、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Bは、管状部30Bの外周面30Baに凹部31Bを有すると共に、動力伝達軸10Bの内周面10Baに凸部11Bを有する点で、第一の実施形態と相違している。
【0038】
動力伝達軸10Bは、内周面10Baに、軸線方向に離間して複数(例えば三つ)形成された環状の凸部11Bを有している。管状部30Bは、複数の凸部11Bにそれぞれ嵌まる複数(例えば、三つ)の環状の凹部31Bを有している。このように、動力伝達軸10B及び管状部30Bは、互いに係合し合う凸部11Bと凹部31Bとを予め設定した位置に適宜な間隔で複数有するものであればよい。
【0039】
また、
図5及び
図6に示すように、第二の実施形態の管状部30Bは、切欠部32Bを有して、複数に分割されている点で、第一の実施形態と相違している(
図2及び
図3参照)。例えば、管状部30Bは、外周面30Baに軸線方向に沿って形成された二つの切欠部32Bによって、縦断面視して半円状の筒状半体から成る二つの分割体34B,35Bを備えて、管状体を形成している。
【0040】
図6に示すように、二分割された管状部30Bは、例えば、一方に分割体34Bが三本の弾性体50によって弾性的に保持され、他方の分割体35Bが二本の弾性体50によって弾性的に保持されている。このため、
図1に示すように、動力伝達軸10B内に嵌合したダイナミックダンパ20Bは、二つの分割体34B,35Bから成る管状部30Bがそれぞれの弾性体50の弾性力によって軸心側から弾性的に反発された状態に保持されている。このようなことから、動力伝達軸10B内にダイナミックダンパ20Bを圧入した際に、管状部30Bは、弾性体50が弾性変形することで、縮径、拡径して外径を変更可能に構成されているので、動力伝達軸10B内に押し込み易く、弾性保持し易くなっている。
【0041】
なお、管状部30Bは、外周面30Baに電気抵抗を増大させるための抵抗増大層33(
図1参照)を有していることが好ましいが、
図6に示すように、抵抗増大層33(
図1参照)は、無くてもよい。
【0042】
このように、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Bは、
図4に示すように、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸10Bと、動力伝達軸10Bの内周面10Baに保持されたダイナミックダンパ20Bと、を備え、ダイナミックダンパ20Bは、外径を変更可能な環状の管状部30Bと、管状部30Bの軸心に配置されたインナウエイト40と、管状部30Bとインナウエイト40との間に介装され、管状部30Bとインナウエイト40とを一体に連結した弾性体50と、を有し、管状部30Bは、当該管状部30Bの外周面30Baの一部に、管状部30Bの径方向内側へと向かう凹部31Bを有し、動力伝達軸10Bは、当該動力伝達軸10Bの内周面10Baの一部に、凹部31Bに嵌る凸部11Bを有している。
【0043】
かかる構成によれば、動力伝達軸構造体1Bは、繊維強化プラスチックで形成された中空状の動力伝達軸10Bを有しているので、金属製の動力伝達軸を使用しているものと比較して、軽量化を図ることができる。動力伝達軸10Bは、管状部30Bの外周面30Baの径方向外側に形成した凹部31Bを、動力伝達軸10Bの内周面10Baに突出した凸部11Bに嵌めることで、動力伝達軸10B内にダイナミックダンパ20Bを固定することができる。このため、動力伝達軸10Bは、部品点数及び重量を増加させることなく、ダイナミックダンパ20Bをしっかりと固定して、軸方向の予め設定した所定位置に保持することができる。
なお、管状部30Bは、管状部に凸部を形成したものと比較して、小さい圧入荷重で動力伝達軸10B内に嵌めることができる。つまり、管状部に凸部がある場合は、動力伝達軸の端部から凹部があるところまで、径方向に凸部の圧力がかかるので、大きな圧入荷重が必要である。これに対して、動力伝達軸構造体1Bは、動力伝達軸10B内に挿入した管状部30Bが所定位置の近傍まで到達した最後の地点で、動力伝達軸10Bの凸部11Bを管状部30Bが縮径して乗り越えるだけなので、小さい圧入荷重で嵌めることができる。
【0044】
また、
図5及び
図6に示すように、管状部30Bは、複数に分割されている。
【0045】
この場合、管状部30Bは、軸線に沿って複数に分割されてあればよく、分割体34Bと分割体35Bとの二分割になっているものに限定されるものではない。管状部30Bは、周方向に三分割、四分割等の二分割以上に分割したものであってもよい。管状部30Bは、円筒形状の管状部30Bの切欠部32Bの数を増加させて、分割体34B,35Bの数を増やした場合、分割体34B,35Bを増加させたのに応じてそれぞれの分割体34B,35Bを支える弾性体50の数を増加させればよい。
【0046】
また、弾性体50は、分割体34B,35Bの数に応じて、その数を適宜増加させてもよい。複数に分割された分割体34B,35Bは、インナウエイト40の外周面から放射状に配置された複数の弾性体50を介在して一体化させて、一つのダイナミックダンパ20Bを形成するようにすればよい。
【0047】
かかる構成によれば、管状部30Bは、複数に分割されていることで、径方向に可変可能な弾性を有するので、凹部31Bを動力伝達軸10Bの凸部11Bに比較的容易に嵌めることができる。凸部11Bに嵌合した凹部31Bは、分割された管状部30B、及び、管状部30Bを保持している弾性体50の弾性によって、しっかりと凸部11Bに嵌合させることができる。
【0048】
[第三の実施形態]
次に、
図7を参照して、本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Cについて、第一の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Aとの相違点を中心に説明する。
【0049】
第三の実施形態の動力伝達軸構造体1Cは、動力伝達軸10Cの内周面10Caの軸方向の異なる二箇所に、径方向内側に突出した凸部11C,11Cを有する点、凸部11Cが嵌合する凹部がない点、管状部30Cに切欠部がない点で、第一の実施形態と相違している。
【0050】
凸部11Cの内径をD1、動力伝達軸10Cの凸部11C内に管状部30Cを圧入したときの管状部30Cの外径(最小値)をD2、動力伝達軸10C内に挿入する前の管状部30Cの外径(最大値)をD3とするとき、管状部30Cの外径D3,D2及び凸部11Cの内径D1は、
D3>D1>D2
になっている。
【0051】
このため、動力伝達軸10C内にダイナミックダンパ20Cを挿入した場合、凸部11Cが管状部30Cに当接するまでは、ダイナミックダンパ20Cを圧入しなくてもスムーズに挿入することが可能である。このため、ダイナミックダンパ20Cは、第一及び第二の実施形態で説明したスリット状の切欠部32,32B(
図1~
図6参照)が無くても、動力伝達軸10C内に挿入可能である。
動力伝達軸構造体1Cは、管状部30Cを、凸部11Cに当接させて、さらに、押し込んで二つの凸部11C,11Cに当接した状態に組み付けるときにのみ、管状部30Cと凸部11Cとが押し合う圧入構造になっている。
【0052】
また、
図7に示すように、動力伝達軸10Cの内周面10Caは、大径部10Cbと、小径部10Ccと、凸部11C,11Cと、が形成されている。
大径部10Cbは、動力伝達軸10Cの内周面10Caの一端側及び他端側に形成されている。大径部10Cbの内径は、D4である。
小径部10Ccは、一端側の大径部10Cbと、他端側の大径部10Cbとの間の中央部に形成されている。小径部10Ccの内径は、D5である。大径部10Cbの内径D4は、
D4>D5
になっている。
二つの凸部11C,11Cは、小径部10Ccの一端部と、小径部10Ccの他端部に形成されている。大径部10Cbの内径D4は、
D4>D5>D1
である。
【0053】
動力伝達軸10Cは、小径部10Ccの部分のみ、肉厚にすればよいので、重量を軽量化させることができる。また、ダイナミックダンパ20Cは、凸部11Cが嵌合する凹部がないので、円筒状の管状部30Cの外周面が凸部11Cと摺接するようにして圧入されるため、小さい圧入荷重で動力伝達軸10C内に圧入させることができる。
【0054】
このように、本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸構造体1Bは、
図7に示すように、繊維強化プラスチックによって形成された中空状の動力伝達軸10Cと、動力伝達軸10Cの内周面10Caに保持されたダイナミックダンパ20Cと、を備え、ダイナミックダンパ20Cは、外径を変更可能な環状の管状部30Cと、管状部30Cの軸心に配置されたインナウエイト40と、管状部30Cとインナウエイト40との間に介装され、管状部30Cとインナウエイト40とを一体に連結した弾性体50と、を有し、動力伝達軸10Cは、当該動力伝達軸10Cの内周面10Caの一部に、径方向内側に突出した凸部11Cを有し、凸部11Cは、動力伝達軸10Cの軸方向位置が異なる二箇所に備えられ、凸部11Cの内径をD1、動力伝達軸10Cの凸部11C内に管状部30Cを圧入したときの管状部30Cの外径(最小値)をD2、動力伝達軸10C内に挿入する前の管状部30Cの外径(最大値)をD3とするとき、管状部30Cの外径D3,D2及び凸部11Cの内径D1は、
D3>D1>D2
である。
【0055】
かかる構成によれば、動力伝達軸構造体1Cは、繊維強化プラスチックで形成された中空状の動力伝達軸10Cを有しているので、金属製の動力伝達軸を使用しているものと比較して、軽量化を図ることができる。動力伝達軸10Cは、管状部30Cの外周面30Caを、動力伝達軸10Cの内周面10Caに形成した凸部11Cに圧入して嵌めることで、動力伝達軸10C内にダイナミックダンパ20Cを圧接させて固定することができる。このため、動力伝達軸10Cは、部品点数及び重量を増加させることなく、ダイナミックダンパ20Cをしっかりと固定して保持することができる。
【0056】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形可能である。
【0057】
例えば、第一の実施形態等では、
図1~
図3に示すように、凹部11及び凸部31を、動力伝達軸10の内周面10aの周方向全周に亘って連続形成された環状の溝、及び、管状部30の外周面30aの周方向全周に亘って連続形成された環状の突起を例に挙げて説明した。凹部11及び凸部31は、互いに嵌合する構成であればよく、これに限定されるものではない。
【0058】
第一~第三の実施形態で説明した複数の凹部11,31B及び凸部11B,11C,31は、動力伝達軸10,10B,10Cの内周面及び管状部30,30Bの外周面30a,30Baにおいて、周方向に断続的に複数配置したものであってもよい。すなわち、凹部11,31B及び凸部11B,11C,31は、互いに係合し合うものであれば、周方向に適宜な間隔を空けて不連続に配置したものでもよい。このようにしても、動力伝達軸10,10B,10C内の所定位置に、ダイナミックダンパ20,20B,20Cを嵌合させることができる。
【0059】
その場合、複数の凹部11,31Bと、複数の凸部11B,11C,31は、互いに係合し合うものであればよく、周方向に等間隔に配列されたものであっても、適宜な所定間隔で配置したものであってもよく、配置間隔を適宜変更しても構わない。
【0060】
また、第一~第三の実施形態で説明した凹部11,31B及び凸部11B,11C,31は、断面視して曲線形状のものを例に挙げて説明したが、断面視して三角形、台形、正方形、あるいは、種々のねじ山の形状をした凹凸であってもよい。
【0061】
また、第三の実施形態の凸部11Cは、軸方向に二つ設けた場合を例に挙げて説明したが、凸部11Cの数を二つ以上にしたものであってもよい。その場合、凸部11Cは、管状部30Cの外周面30Caに圧接して、動力伝達軸10内にダイナミックダンパ20Cを固定できるものであれば、凸部11Cの軸方向の配置間隔、及び、凸部11Cの形状等は適宜変更しても構わない。
【符号の説明】
【0062】
1A,1B,1C 動力伝達軸構造体
10,10B,10C 動力伝達軸
10a,10Ba,10Ca 内周面
11 凹部
11B 凸部
20,20B,20C ダイナミックダンパ
30,30B,30C 管状部
30a,30Ba,30Ca 外周面
31 凸部
31B 凹部
32,32B 切欠部
33 抵抗増大層
40 インナウエイト
50 弾性体
D1 凸部の内径
D2 管状部の外径の最小値
D3 管状部の外径の最大値