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特開2022-146299転がり軸受の密封装置及び密封型転がり軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146299
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】転がり軸受の密封装置及び密封型転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20220928BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220928BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20220928BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20220928BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20220928BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20220928BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20220928BHJP
   H02K 5/15 20060101ALI20220928BHJP
   H02K 5/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
F16J15/3232 201
F16J15/18 C
B64C27/04
B64D27/24
H02K5/15
H02K5/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047185
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J006AE08
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA05
3J043CA20
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA03
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB15
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC17
3J216CC33
3J216CC48
3J216CC70
3J216DA01
3J216DA03
3J216DA11
3J216EA06
3J216EA10
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701CA11
3J701FA13
3J701GA24
3J701GA60
5H605AA02
5H605BB05
5H605BB17
5H605CC04
5H605DD07
5H605DD16
5H605EB10
5H605EB28
5H605EB31
5H605FF06
5H605FF08
5H605GG04
(57)【要約】
【課題】軸受内部空間と軸受外部とに圧力差が生じた場合に、圧力差を無くすように通気でき、かつ軸受内部に封入されたグリースを圧力差で外部に漏洩させない転がり軸受の密封装置であり、シールケースを備えていない軸受や小型の転がり軸受に対しても前記密封装置を簡便に装着可能にすることである。
【解決手段】シール溝5、6に環形のシール部材7を密接させ、シール部材7に環形の厚さ方向の中ほど付近を貫通して内外輪間の空間に通じる通気孔8を形成し、シール部材7の表面に、シート状のベントフィルタ9を接着固定して通気孔8の開口部を覆い、このベントフィルタ9を防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、これら内外輪間で転動する転動体とを備えた転がり軸受における前記内外輪間の空間を密封する転がり軸受の密封装置であって、
前記内輪と前記外輪のそれぞれの軸方向両端部に形成された周溝に密接する環形のシール部材と、
このシール部材を貫通し、前記内外輪間の空間に通じる1以上の通気孔と、
防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で前記通気孔を液密に塞ぐように設けられるベントフィルタと、を備えた転がり軸受の密封装置。
【請求項2】
前記通気孔が、前記環形のシール部材の厚さ方向の中ほどを貫通する通気孔である請求項1に記載の転がり軸受の密封装置。
【請求項3】
前記シール部材は、少なくとも前記シール溝に接する部分がニトリルゴム、アクリルゴムまたはフッ素ゴムで形成されたシール部材である請求項1または2に記載の転がり軸受の密封装置。
【請求項4】
前記通気性多孔質素材が、四フッ化エチレン樹脂製の通気性多孔質素材である請求項1~3のいずれかに記載の転がり軸受の密封装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の転がり軸受の密封装置を備えた密封型転がり軸受。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の転がり軸受の密封装置を備えた航空機用密封型転がり軸受。
【請求項7】
回転翼およびこの回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載される転がり軸受であって、前記電動垂直離着陸機の前記回転翼の回転軸を回転自在に支持する請求項6に記載の航空機用密封型転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の密封装置及び密封装置を備えた密封型転がり軸受に関し、例えば、回転翼を備えた垂直離着陸機等の航空機本体やその付属品類に装着される航空機用密封型転がり軸受にも適用できる密封型転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、潤滑グリース(以下、単にグリースと称する場合がある)が封入された転がり軸受は、内外輪間の空間からグリースが漏れ出さないように、密封装置で密封することが周知である。
【0003】
代表的な密封装置としては、内輪と外輪の隙間を埋める環形のシール部材からなり、環形の周縁を除く本体部分に補強用の鋼板を埋め込み、外周縁を外輪端部の内周面に形成したシール溝に嵌め入れ、内周縁には弾性変形可能なシールリップを設けて、これを内輪外周面に形成されたシール溝に摺動可能に密接させたものが知られている(特許文献1)。
【0004】
このような密封装置は、グリース漏れを充分に防ぐために、シールリップとシール溝を強く圧接させて転がり軸受に装着すると、軸受が稼働する時に圧接部分に摩擦熱が生じやすくなり、生じた摩擦熱で軸受内の空気が膨張して内圧を高め、シールリップがシール溝から押し出されてグリースが軸受外に漏れ出る可能性がある。
【0005】
軸受内部空間の圧力上昇を防ぐためのベント機能に関する周知技術としては、シールリップ形状を改良し、またシール部材の一部に空気穴を設けたり、切欠きを形成するなどの工夫がなされたが、従来の手段では、グリースの漏れを充分に防止できなかったり、ベント装置の付設は困難な場合があった。
【0006】
図6に示すように、グリースの漏洩を防止可能な転がり軸受用密封装置の例としては、通気路をグリース等に遮られることなく確保するため、外輪18の端面に固定される環状のシールケース19と、シールケース19の内周面に基端部が固定され、先端部が内輪20に接して軸受空間を密封する環状のシール本体21とを有するものであり、シールケース19と一体の部材に軸受内外に連通する連通孔22を設け、この連通孔22に、気体を透過可能で水分および油分を遮断するフィルタ23を設けたものが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019- 15368号公報
【特許文献2】特開2011-256902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載された密封装置では、フィルタ23は、シール部材の本体(シール本体21)とは別に設けられたシールケース19に取り付けられたものである。
【0009】
このようなシールケースは、シールケースを取り付けるために設計された特別な外輪等を必要とし、予めそのような設計がなされていない転がり軸受には、後付けで密封装置を装着できなかった。
特に小型の転がり軸受に対しては、内外輪にシールケースを取り付ける余地は少なく、前記シールケースやその内部機構を装着したものを設計することさえ困難であるから、ベント機能を有する密封装置を必要に応じて簡便に適用することは困難であった。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、軸受内部空間と軸受外部とに圧力差が生じた場合には、そのような圧力差を無くすように通気でき、かつ軸受内部に封入されたグリースを軸受外部との圧力差で漏出しない転がり軸受の密封装置であり、このような密封装置が、予めシールケースを備えていない軸受や、小型の転がり軸受に対しても必要に応じて簡単に装着できるようにし、またそのような密封装置を備えていることにより軸受内外の圧力差に対応できる密封型転がり軸受であり、特に航空機用密封型転がり軸受に適用できるものを創製することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、内輪と、外輪と、これら内外輪間で転動する転動体とを備えた転がり軸受における前記内外輪間の空間を密封する転がり軸受の密封装置であって、前記内輪と前記外輪のそれぞれ軸方向両端部に形成された周溝に密接する環形のシール部材と、このシール部材を貫通し、前記内外輪間の空間に通じる1以上の通気孔と、防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で前記通気孔を液密に塞ぐように設けられるベントフィルタと、を備えた転がり軸受の密封装置としたのである。
【0012】
上記したように構成されるこの発明の転がり軸受の密封装置は、内外輪間の空間に通じる1以上の通気孔が所定のベントフィルタを備えており、前記通気孔は防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で覆われているので、転がり軸受の加熱または軸受の外部気圧の低下などによって、内外輪間の空間の気圧が軸受外部の気圧に比べて相対的に高くなった際に、内外輪間の空気を逃がすことができ、しかも内外輪間の潤滑グリース等の油分を漏洩させない液密性があり、軸受外部から水分を内外輪間へ浸入することも防ぐことができる。
【0013】
前記通気孔は、前記環形のシール部材の厚さ方向の中ほどを貫通するように配置されていることにより、回転する転がり軸受の内外輪間の空間で遠心力を受けたグリースが、シール溝付近に偏って存在していても通気孔を塞ぐ可能性が低くなり、常に軸受内外に通気性のある状態が保たれる。
【0014】
このような密封装置は、内輪及び外輪のそれぞれ軸方向両端部に形成された周溝に密接させている汎用の環形のシール部材と同じ形状に形成できるという互換性を有しているので、様々な転がり軸受に対し、この発明の密封装置を備えるシール部材に交換するだけで、所期した作用を奏する密封型転がり軸受にすることができる。
【0015】
前記シール部材は、シール溝に対する摩擦係数が低く耐摩耗性に優れ、適切な柔軟性及び弾力性を有するゴム状弾性を有する素材からなることが好ましく、例えばニトリルゴム、アクリルゴムまたはフッ素ゴムで、少なくとも前記シール溝に接する部分が形成されたシール部材であることが好ましい。
【0016】
前記通気性多孔質素材は、通気性を有し、かつ防水性及び防油性を有するように、所要径の微細な連通気孔を有している三次元網目構造を有する多孔質素材であり、できれば撥水性、撥油性を備えた素材でもあることが好ましいので、四フッ化エチレン樹脂製の通気性多孔質素材であることが好ましい。
【0017】
以上のように構成される密封装置を備えた密封型転がり軸受であることにより、軸受内外の圧力差に対応し、軸受内部に保持されたグリースを圧力差で外部に漏洩させない密封型転がり軸受になる。
【0018】
このような作用効果を奏する密封型転がり軸受は、航空機に装備される装置の回転軸を支持する転がり軸受として用いると、飛行する高度や風圧に応じて変動する外部環境の気圧が潤滑グリースを封入した転がり軸受に及ぼす油分漏出の問題を解決することができるので、航空機用密封型転がり軸受として適用できるものである。
【0019】
また、前記航空機用密封型転がり軸受が、回転翼を備えた垂直離着陸機の前記回転翼の回転軸を回転自在に支持する転がり軸受である場合においても、上記同様に航空機用密封型転がり軸受として適用できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の転がり軸受の密封装置は、内外輪間の空間に通じる1以上の通気孔が所定のベントフィルタを備えており、前記通気孔は防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で液密に塞がれているので、軸受内部空間と軸受外部とに圧力差が生じた場合に圧力差を無くすように通気でき、かつ軸受内部に封入されたグリースを圧力差で外部に漏洩させないものであり、シールケースを備えていない軸受や小型の転がり軸受に対しても簡便に装着可能であるという利点がある。
【0021】
また、そのような利点を有する密封装置を備えた密封型転がり軸受を構成し、特に航空機用密封型転がり軸受に適用できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態の密封装置及び同密封装置を備えた密封型転がり軸受の要部断面図
図2】第1実施形態の密封型転がり軸受の正面図
図3】第2実施形態の密封型転がり軸受の正面図
図4】第3実施形態の航空機用密封型転がり軸受を備えた垂直離着陸機の斜視図
図5】第3実施形態の航空機用密封型転がり軸受を備えた垂直離着陸機の駆動部の断面図
図6】従来例の転がり軸受の密封装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の第1~第3実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、第1実施形態の転がり軸受の密封装置1は、転がり軸受Aの内輪2と、外輪3と、これら内輪2と外輪3の間で転動する転動体4とを備えた深溝型玉軸受における前記内外輪間の空間を液密に密封するものであり、内輪2の外周面と外輪3の内周面のそれぞれの両端部に形成されたシール溝5、6に環形のシール部材7を密接させ、シール部材7に環形の厚さ方向の中ほど付近を貫通して内外輪間の空間に通じる通気孔8を形成し、このような通気孔8は環形の周方向に等間隔で8か所配置している。
【0024】
そして、シール部材7の表面に、シート状のベントフィルタ9を接着固定して通気孔8の開口部を覆い、このベントフィルタ9を防水性及び防油性を有する通気性多孔質素材で形成している。
【0025】
前記シール部材7は、一般的な転がり軸受の接触形シールとして共通する構造を備えたものであり、周縁を除く本体部分に補強用の環形の鋼板を埋め込み、外周縁を外輪3の内周面に形成した周溝(シール溝)6に嵌め入れ、内周縁に設けた二重シールリップを、内輪2の外周面に形成したシール溝5に摺動可能に弾性的に密接させている。
【0026】
シール部材7は、転がり軸受が外輪回転または内輪回転で稼働できるように、環形の内周縁または外周縁のいずれか一方を、内輪2のシール溝5または外輪3のシール溝6に嵌め入れて弾性力で密接させて固定し、他方の周縁は外輪3のシール溝6または内輪2のシール溝5に摺動自在に密接させている。
【0027】
シール部材7の全体または少なくともシール溝5、6に接する部分は、摩擦係数が低く耐摩耗性に優れ、適切な柔軟性及び弾力性を有するゴム状弾性素材であることが好ましく、例えばニトリルゴム、アクリルゴムまたはフッ素ゴムからなるゴム状弾性素材を採用することが好ましい。
【0028】
通気孔8は、シール部材7の表裏面に開口して内外輪間の空間に通じる孔であればよく、その孔径と配置、および数は、転がり軸受の大きさや構造に応じて所期したベントが可能であるように、例えば0.5~10mmなどの任意孔径を採用できる。また、1または2以上形成される通気孔8は、シール部材7の内外両周縁を除いて環形の厚さ方向の中央部を含むように配置されることが好ましく、孔径や位置を変えて複数箇所に配置される場合には、異なる孔径や位置を選択的に採用することができる。
【0029】
このように通気孔8はシール部材7のリップ部分でなく、シール中央部に多く開口させることが好ましいが、このように配置すれば遠心力や重力によって軸受内部で流動する潤滑グリースに通気孔8の開口部が塞がれる機会が少なくなり、常に通気性が保たれやすく、軸受内外の気圧の均衡が保たれる。
【0030】
ベントフィルタ9は、このような通気孔8を液密に塞ぐように設けられる通気性多孔質素材からなり、この素材は防水性及び防油性を有している。
【0031】
通気性多孔質素材は、工業用材料として市販されているものを用いることができる。そのような通気性多孔質素材は、耐熱性、耐薬品性、撥水性に優れた四フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂製であり、ミクロンレベル(例えば孔径0.1~10μm)の空孔が数多く空いている素材であって、液体は通さないが気体は通す性質があり、軸受内で加熱されて膨張した空気が適宜に透過し、冷えたら吸気することによって内圧を調整可能な素材である。
【0032】
また通気性多孔質素材は、フィルム状、シート状、板状の形態であるものを通気孔の開口部に、または柱状に成形されたものを内部に挿入し、適宜に接着剤、粘着剤、もしくはこれらが塗布された両面テープや任意の器具を利用して固定し、または溶着することができる。
【0033】
図2に示す第1実施形態のベントフィルタ9は、転がり軸受Aの環形のシール部材7の厚さ方向の中ほどを周方向に連続して覆う環形のシート状のものであり、1以上形成された通気孔8の数や配置に拘わらず、それらをまとめて覆うことができるので、様々な形状と配置の通気孔8に対応できるものである。
【0034】
また、図3に示した第2実施形態のベントフィルタ10は、転がり軸受Bの環形のシール部材7の厚さ方向の中ほどに形成された通気孔8の開口部を個別に塞ぐパッチ状のものであり、通気性多孔質素材を効率的に無駄なく使用できるものである。
【0035】
密封装置を備えた密封型の転がり軸受A、Bは、潤滑グリースが封入された状態で使用されるが、そのようなグリースは、通常、転がり軸受に用いられるグリースであれば特に制限なく用いることができ、グリースを構成する基油及び増ちょう剤その他の添加剤についても同様に、炭化水素系合成油、非炭化水素系油等の周知の基油、金属石けん系、ウレア系、フッ素樹脂粉末系などの周知の増ちょう剤などを使用できる。
【0036】
上記の実施形態の密封装置を備えた密封型転がり軸受A、Bは、例えば航空機用密封型転がり軸受として用いることができる。
航空機としては、飛行機やヘリコプターばかりでなく、ドローンもしくはドローン型の乗用の垂直離着陸機の用途にもこの発明の航空機用密封型転がり軸受を適用することができる。垂直離着陸機は、回転翼およびこの回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機であってもよい。
【0037】
図4,5に示す第3実施形態は、航空機用密封型転がり軸受Aの使用状態を示す電動垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)の全体構成を示している。
【0038】
図示した電動垂直離着陸機11は、機体中央に位置する本体部12と、前後左右に配置された4つの駆動部13を有するマルチコプターである。駆動部13は、電動垂直離着陸機11の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部13の駆動によって電動垂直離着陸機11が飛行する。電動垂直離着陸機11において駆動部13は複数あればよく、図示した4つに限定されるものではない。
【0039】
本体部12の居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部12からは4本のアーム12aがそれぞれ延び、各アーム12aの先端に駆動部13が設けられている。
【0040】
アーム12aには、回転翼14aを保護するために、回転翼14aの回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部12の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド12bが設けられている。
【0041】
駆動部13は、回転翼14aと、回転翼14aを回転させるモータ及びその駆動軸とを一体化したものである。駆動部13において、回転翼14aはモータを挟んで軸方向両側に一対設けられており、各回転翼14aは、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0042】
本体部12には、バッテリ(図示省略)および制御装置(図示省略)が内装されている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれ、電動垂直離着陸機11の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。
【0043】
制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータに回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータに備えられたアンプがバッテリからモータへ送る電力量を調整し、モータ(および回転翼14a)の回転数が変更される。また、モータの回転数の調整は、複数のモータ(図示せず)に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0044】
図5に示すように、駆動部13における回転軸14の一端側(図上側)には上述の回転翼14aが取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジングに固定されたステータに対向配置され、このステータに対して回転可能になっている。なお、モータは、アウターロータ型のブラシレスモータや、インナーロータ型のブラシレスモータの構成を採用できる。
【0045】
モータは、ハウジング(装置ハウジング)15と、ロータ(図示省略)と、ステータ(図示省略)と、アンプ(図示省略)と、2個の転がり軸受A、Aを備えている。
【0046】
転がり軸受Aは、第1実施形態の密封装置1を装備したものであり、ハウジング15内で回転軸14を回転自在に支持し、外輪3の外径形状は、ハウジング内周の嵌合部と同一の形状であり、ハウジング15に対して、軸受ハウジングなどを介さずに直接嵌合されている。2つの転がり軸受Aの間には内輪間座16及び、外輪間座17が挿入され、予圧が印加されている。
【0047】
なお、駆動部13における軸受構成は、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが同一の回転軸14としたが、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部13における回転軸を支持する転がり軸受Aは、モータの回転軸を支持する転がり軸受でもよく、回転翼14の回転軸を支持する転がり軸受でもよい。
【0048】
このように航空機に装備される装置の回転軸を支持する転がり軸受として用いると、飛行する高度や風圧に応じて変動する外部環境の気圧が潤滑グリースを封入した転がり軸受に及ぼす油分漏出の問題を解決できる。
【実施例0049】
第1実施形態の深溝型玉軸受の密封装置として、6206LLUの軸受を用いたものを実施例とした。また、同型の深溝型玉軸受の密封装置として、シール部材として、環形の鋼板に合成ゴムを固着した環形シール板を外輪に固定し、シール先端の二重リップを内輪のシール溝に接触させたものを比較例とした。
これらの実施例および比較例に対し、以下の条件でグリース漏れ確認試験を行ない、かつ目視評価を行なった。
【0050】
<グリース漏れ確認試験>
回転数3000rpm、ラジアル荷重500kgf、グリース封入量(容積)軸受内空間の50%の条件で軸受を48時間運転(回転)させ、さらにその後に室温下で放置した場合の実施例及び比較例の軸受温度(℃)を測定すると共に、グリース漏れ量を目視で確認し、以下の基準で3段階評価を行なって、その結果を表1に〇、△、×の記号で示した。
評価基準:漏れがない(〇)、極少量の漏れが確認される(△)、漏れがある(×)
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示される結果からも明らかなように、比較例は2時間の運転後、軸受温度60℃に達して以降から軸受外部にグリースの漏出が認められた。
これに対して実施例は、48時間の運転中25℃から65℃に軸受温度が上昇し、その後に12時間放置し、放冷された状態までグリースの漏出が全く認められなかった。
【0053】
このように実施例は、軸受内部空間と軸受外部とに圧力差が生じた場合に圧力差を無くすように通気でき、かつ軸受内部に封入されたグリースを圧力差で外部に漏洩させないものであることが確認できた。
【符号の説明】
【0054】
1 密封装置
2、20 内輪
3、18 外輪
4 転動体
5、6 シール溝
7 シール部材
8 通気孔
9、10 ベントフィルタ
11 電動垂直離着陸機
12 本体部
12a アーム
12b スキッド
13 駆動部
14 回転軸
14a 回転翼
15 ハウジング
16 内輪間座
17 外輪間座
19 シールケース
21 シール本体
22 連通孔
23 フィルタ
A、B 転がり軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6