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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146356
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】電極シール装置
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/10 20060101AFI20220928BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F27B3/10
F27D7/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047268
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊哉
【テーマコード(参考)】
4K045
4K063
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA02
4K045BA07
4K045RA10
4K045RB02
4K063AA04
4K063AA12
4K063AA15
4K063BA02
4K063BA06
4K063CA03
4K063DA05
4K063DA13
4K063DA22
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でありつつも十分なシール性能を有し、電気炉又はLFの操業時に炉外から炉内への外気の侵入を抑制可能な、電極シール装置を開示する。
【解決手段】本開示の電極シール装置は、電気炉又はLFの電極周りをシールする電極シール装置であって、非導電性のシールリングと不活性ガス供給源とを備え、シールリングは、リング内周面を有し、シールリングは、リング内周面よりも内側に電極が配置されるように構成され、リング内周面と電極の表面との間には隙間が存在し、不活性ガス供給源は、シールリングに不活性ガスを供給し、電極シール装置は、不活性ガス供給源からシールリングへと供給された不活性ガスが、シールリングから前記隙間へと供給されるように構成され、電極シール装置は、前記隙間へと供給された不活性ガスが、前記隙間から炉内及び炉外の双方へと吹き出すように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉蓋を有する電気炉又はLFの電極周りをシールする電極シール装置であって、非導電性のシールリングと不活性ガス供給源とを備え、
前記シールリングは、リング内周面を有し、
前記シールリングは、前記リング内周面よりも内側に前記電極が配置されるように構成され、前記リング内周面と前記電極の表面との間には隙間が存在し、
前記不活性ガス供給源は、前記シールリングに不活性ガスを供給し、
前記電極シール装置は、前記不活性ガス供給源から前記シールリングへと供給された前記不活性ガスが、前記シールリングから前記隙間へと供給されるように構成され、
前記電極シール装置は、前記隙間へと供給された前記不活性ガスが、前記隙間から炉内及び炉外の双方へと吹き出すように構成されている、
電極シール装置。
【請求項2】
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向し、
前記リング内周面は、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備える、
請求項1に記載の電極シール装置。
【請求項3】
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向し、
前記リング内周面は、前記シールリングの周方向に沿って延在する少なくとも一つの溝を備え、
前記リング内周面は、前記溝に、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備える、
請求項1又は2に記載の電極シール装置。
【請求項4】
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向し、
前記リング内周面は、前記不活性ガスを吐出する複数の吐出孔を備え、
複数の前記吐出孔は、前記シールリングの周方向に沿って配置されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電極シール装置。
【請求項5】
前記シールリングは、前記シールリングの周方向に前記不活性ガスを流通させる流路を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電極シール装置。
【請求項6】
前記流路は、前記シールリングの前記リング内周面に埋設された円環状の金属管によって構成され、
前記金属管は、その管壁面に、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備える、
請求項5に記載の電極シール装置。
【請求項7】
前記リング内周面と前記電極の表面との間の前記隙間が3mm以下である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電極シール装置。
【請求項8】
前記シールリングは、前記電気炉又は前記LFの前記炉蓋の上に載置される、
請求項1~7のいずれか1項に記載の電極シール装置。
【請求項9】
前記炉蓋は、障壁部と浮上防止部とを備え、
前記シールリングの水平方向への移動が、前記障壁部によって画定される範囲内に制限され、
前記シールリングの鉛直方向への移動が、前記炉蓋の上面と前記浮上防止部との間に制限される、
請求項8に記載の電極シール装置。
【請求項10】
前記電極シール装置は、前記隙間へと供給された前記不活性ガスが、前記隙間から前記炉内及び前記炉外の双方へと1m/s以上の流速にて吹き出すように構成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の電極シール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は電極シール装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
電気炉やLF(Ladle Furnace、取鍋炉)のように、炉蓋に設けられた電極挿入孔に電極が挿入された密閉型の加熱炉が知られている。通常、電極挿入孔における電極周りには隙間が存在し、当該隙間を介して炉内と炉外とが連通した状態となり得る。すなわち、密閉型の加熱炉であっても炉内への外気の侵入を完全に遮断できるわけではない。炉外から炉内への外気の侵入を抑制するためには、電極周りをシールする必要がある。特許文献1~5に開示されているように、電極周りをシールする様々な技術が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-022776号公報
【特許文献2】特開平6-074654号公報
【特許文献3】実公昭63-011593号公報
【特許文献4】特開平8-136164号公報
【特許文献5】特開平9-324988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密閉型の加熱炉は、密閉型でない加熱炉と比較して、炉内の温度及び炉内の電極の温度が高温となり易く、このような密閉型の加熱炉において、操業時に電極周りの隙間から炉内へと外気が侵入した場合、当該隙間から侵入する外気の流速が高いこともあって、酸化によって電極周りの隙間の直下(電極挿入孔の直下)において電極が損耗し易い。この点、電極周りの隙間を適切にシールする必要があるところ、従来の電極シール装置にあっては、高いシール性能を確保するために複雑な構成を採る必要がある。簡易な構成でありつつも高いシール性能を有し、電気炉又はLFの操業時に炉外から炉内への外気の侵入を抑制可能な、新たな電極シール装置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
炉蓋を有する電気炉又はLFの電極周りをシールする電極シール装置であって、非導電性のシールリングと不活性ガス供給源とを備え、
前記シールリングは、リング内周面を有し、
前記シールリングは、前記リング内周面よりも内側に前記電極が配置されるように構成され、前記リング内周面と前記電極の表面との間には隙間が存在し、
前記不活性ガス供給源は、前記シールリングに不活性ガスを供給し、
前記電極シール装置は、前記不活性ガス供給源から前記シールリングへと供給された前記不活性ガスが、前記シールリングから前記隙間へと供給されるように構成され、
前記電極シール装置は、前記隙間へと供給された前記不活性ガスが、前記隙間から炉内及び炉外の双方へと吹き出すように構成されている、
電極シール装置
を開示する。
【0006】
本開示の電極シール装置において、
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向していてもよく、
前記リング内周面は、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備えていてもよい。
【0007】
本開示の電極シール装置において、
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向していてもよく、
前記リング内周面は、前記シールリングの周方向に沿って延在する少なくとも一つの溝を備えていてもよく、
前記リング内周面は、前記溝に、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備えていてもよい。
【0008】
本開示の電極シール装置において、
前記リング内周面は、前記電極の表面と対向していてもよく、
前記リング内周面は、前記不活性ガスを吐出する複数の吐出孔を備えていてもよく、
複数の前記吐出孔は、前記シールリングの周方向に沿って配置されていてもよい。
【0009】
本開示の電極シール装置において、
前記シールリングは、前記シールリングの周方向に前記不活性ガスを流通させる流路を備えていてもよい。
【0010】
本開示の電極シール装置において、
前記流路は、前記シールリングの前記リング内周面に埋設された円環状の金属管によって構成されていてもよく、
前記金属管は、その管壁面に、前記不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔を備えていてもよい。
【0011】
本開示の電極シール装置において、
前記リング内周面と前記電極の表面との間の前記隙間が3mm以下であってもよい。
【0012】
本開示の電極シール装置において、
前記シールリングは、前記電気炉又は前記LFの前記炉蓋の上に載置されていてもよい。
【0013】
本開示の電極シール装置において、
前記炉蓋は、障壁部と浮上防止部とを備えていてもよく、
前記シールリングの水平方向への移動が、前記障壁部によって画定される範囲内に制限されていてもよく、
前記シールリングの鉛直方向への移動が、前記炉蓋の上面と前記浮上防止部との間に制限されていてもよい。
【0014】
本開示の電極シール装置は、前記隙間へと供給された前記不活性ガスが、前記隙間から前記炉内及び前記炉外の双方へと1m/s以上の流速にて吹き出すように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の電極シール装置は、簡易な構成でありつつも高いシール性能を有する。本開示技術によれば、電気炉又はLFにおける電極周りをシールすることができ、炉外から炉内への外気の侵入を抑制することができる。これにより、例えば、電極挿入孔の直下における電極の異常損耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電極シール装置の構成の一例を概略的に示す図である。電極シール装置を上から見た図であり、炉蓋を省略して示している。
図2】電極シール装置の構成の一例であって図1のII-II矢視断面の構成を概略的に示す図である。
図3】電極シール装置の機能を概略的に示す図である。図2の領域Xにおける端面の構成を拡大して示している。
図4】電極シール装置の構成の一例を概略的に示す図である。電極シール装置を上から見た図であり、炉蓋を省略して示している。
図5】電極シール装置の構成の一例であって図4のV-V矢視断面の構成を概略的に示す図である。
図6】電極シール装置の機能を概略的に示す図である。図5の領域Yにおける端面の構成を拡大して示している。
図7】加熱炉の操業時に、電極周りから炉内へと外気が侵入した場合に生じる問題の一つについて説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電極シール装置の基本構成
図1~3に示されるように、本開示の電極シール装置10は、炉蓋30を有する電気炉又はLF(加熱炉100)の電極20周りをシールする装置であって、非導電性のシールリング1と不活性ガス供給源2とを備える。シールリング1は、リング内周面1aを有する。シールリング1は、リング内周面1aよりも内側に電極20が配置されるように構成され、リング内周面1aと電極20の表面20aとの間には隙間Gが存在する。不活性ガス供給源2は、シールリング1に不活性ガスを供給する。電極シール装置10は、不活性ガス供給源2からシールリング1へと供給された不活性ガスが、シールリング1から隙間Gへと供給されるように構成される。また、電極シール装置10は、隙間Gへと供給された不活性ガスが、隙間Gから炉内及び炉外の双方へと吹き出すように構成される。
【0018】
1.1 シールリング
シールリング1は、リング内周面1aを有する。また、シールリング1は、上面、下面及びリング外周面を有するものであってもよい。後述するように、シールリング1の下面は炉蓋30の上に載置されてもよい。図1~3に示されるように、リング内周面1aは、電極20の表面20aと対向していてもよく、また、リング内周面1aは、不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔(図1~3において図示せず)を備えていてもよい。
【0019】
シールリング1は、リング外周よりも内側(例えば、シールリング1の内部やリング内周面)に、不活性ガスを流通させるための流路を備えていてもよい。当該流路は、上記の吐出孔に接続され得る。シールリング1における流路の形態は、隙間Gへと不活性ガスを適切に供給可能な形態であればよく、シールリング1の大きさや吐出孔の位置や数、シールリング1と不活性ガス供給源2との接続の形態等に応じて、様々な形態を採り得る。流路の具体例については後述する。
【0020】
シールリング1は、リング内周面1aよりも内側に電極20が配置されるように構成される。言い換えれば、リング内周面1aによってリング孔が画定され、当該リング孔に電極20が挿入され得る。リング孔の直径(シールリング1の内径)は電極20の断面直径(電極径)よりも大きい。すなわち、リング内周面1aと電極20の表面20aとの間には隙間Gが存在する。リング内周面1aと電極20の表面20aとの間の隙間Gの大きさは特に限定されるものではない。ただし、隙間Gが大き過ぎると、不活性ガスが炉内及び炉外の双方に均一に吹き出し難くなる場合がある。一方で、隙間Gが小さ過ぎると、シールリング1への電極20の挿入や電極20の昇降等が困難となる場合がある。隙間Gは、例えば、3mm以下であってもよく、1mm以上であってもよい。
【0021】
シールリング1の外径(水平方向の直径)や厚み(鉛直方向の厚み)に特に制限はなく、電気炉やLFの大きさ、電極20の大きさ、設置スペースの大きさや設置位置等に応じて適宜決定されればよい。シールリング1は、非導電性の材料によって構成されればよく、例えば、非導電性の耐火物によって構成され得る。そのような耐火物としては公知の耐火物を採用することができる。シールリング1を非導電性の材料によって構成することで、炉の操業時、電極20とシールリング1との間にアークが飛んで地絡することを防止できる。
【0022】
尚、シールリング1は全体として完全な円環状である必要はなく、一部が途切れていてもよいし、一部に凹凸等が設けられていてもよい。また、シールリング1は、全体として一つの部品からなるものであってもよいし、複数の部品からなるものであってもよい。
【0023】
電気炉又はLFにおけるシールリング1の設置位置は、電極周りの隙間をシール可能な位置であればよく、例えば、炉蓋30の電極挿入孔の近傍の電極20周りであればよい。シールリング1の設置の容易性を考慮した場合、図1~3に示されるように、シールリング1は、電気炉又はLFの炉蓋30の上に載置されていてもよい。或いは、設置の容易性に劣るものの、シールリング1を炉蓋30の下(炉内)に設置してもよい。
【0024】
1.2 不活性ガス供給源
不活性ガス供給源2は、シールリング1に不活性ガスを供給する。シールリング1に供給される不活性ガスの種類は、特に限定されるものではない。例えば、窒素やアルゴン等が挙げられる。炉内の窒素濃度を低減したい場合(窒素濃度の低い溶鉄や溶鋼を得る場合等)は、窒素以外の不活性ガスを採用すればよい。不活性ガス供給源2の具体例としては、高圧の不活性ガスを封入した容器等が挙げられる。
【0025】
不活性ガス供給源2とシールリング1とは、例えば、配管3等によって接続してもよい。不活性ガス供給源2とシールリング1との接続形態は特に限定されるものではない。
【0026】
シールリング1に供給される不活性ガスの圧力は、特に限定されるものではなく、例えば、大気圧以上であってもよく、0.10MPa以上であってもよい。シールリング1に供給される不活性ガスの流量や流速は、特に限定されるものではなく、隙間Gから炉内及び炉外の双方に不活性ガスが吹き出すように、装置の規模等に応じて適宜決定されればよい。
【0027】
本開示の電極シール装置10は、上記のシールリング1及び不活性ガス供給源2を基本構成として備えることで、簡易な構成にて、電気炉又はLF(加熱炉100)の電極20周りをシールすることができる。尚、本願にいう「電極周りをシールする」とは、炉蓋を有する電気炉又はLFにおいて、炉蓋の電極挿入孔における電極周りに存在する隙間をシールすることを意味する。
【0028】
1.3 その他の構成
本開示の電極シール装置10は、上記の基本構成に加えて以下の追加構成を備えていてもよい。図4~6に基本構成と追加構成とを備える電極シール装置10の一例を示す。尚、図4~6には、図1~3に示されるような基本構成に対して、複数の追加構成が採用された形態を示したが、本開示の電極シール装置10においては、図1~3に示されるような基本構成に対して、図4~6に示される追加構成の一部のみが採用されてもよい。また、図4~6に示されたような追加構成以外のその他の追加構成が採用されてもよい。
【0029】
図4~6に示されるように、電極シール装置10において、リング内周面1aは、電極20の表面20aと対向していてもよく、また、リング内周面1aは、シールリング1の周方向に沿って延在する少なくとも一つの溝1bを備えていてもよく、さらに、リング内周面1aは、溝1bに、不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔1cxを備えていてもよい。これにより、シールリング1のリング内周面1aと電極20の表面20aとの間において、周方向に一定の大きさで延在する空間が確保されて、不活性ガスを周方向に均一に行き渡らせ易くなり、周方向における不活性ガスの圧力の偏りが生じ難くなり、シールリング1のリング内周面1aと電極20の表面20aとの隙間Gの全周から炉内及び炉外の双方へと均一に不活性ガスが吹き出し易くなる。
【0030】
図4~6に示されるように、電極シール装置10において、リング内周面1aは、電極20の表面20aと対向していてもよく、また、リング内周面1aは、不活性ガスを吐出する複数の吐出孔1cxを備えていてもよく、複数の吐出孔1cxは、シールリング1の周方向に沿って配置されていてもよい。例えば、シールリング1の軸(リング孔の中心軸)を中心とする同心円上に複数の吐出孔1cxが配置されていてもよい。これにより、シールリング1のリング内周面1aと電極20の表面20aとの間において、不活性ガスを周方向に均一に行き渡らせ易くなり、周方向における不活性ガスの圧力の偏りが生じ難くなり、シールリング1のリング内周面1aと電極20の表面20aとの隙間Gの全周から炉内及び炉外の双方へと均一に不活性ガスが吹き出し易くなる。複数の吐出孔1cxの周方向における間隔は、特に限定されるものではないが、例えば、等間隔であってよい。複数の吐出孔1cxの数は、特に限定されるものではないが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上又は8以上であってもよい。吐出孔1cxは上下方向において1つ(1列)だけ設けられていてもよいし、複数(2列以上)設けられていてもよい。
【0031】
図4~6に示されるように、電極シール装置10において、シールリング1は、当該シールリング1の周方向に不活性ガスを流通させる流路を備えていてもよい。この場合、図4~6に示されるように、流路は、シールリング1のリング内周面1aに埋設された円環状の金属管1cによって構成されていてもよく、当該円環状の金属管1cは、その管壁面に、不活性ガスを吐出する少なくとも一つの吐出孔1cxを備えていてもよい。尚、「リング内周面1aに埋設され」とは、リング内周面1aのうち電極20に最も近接し得る面に対して、それよりもリング外周側(電極とは反対側)に配置されることを意味する。金属管1cは、リング内周側から見て、一部がリング材料に覆われることなく露出していてもよいし、リング内部に金属管1cの全体(吐出孔1cxの部分を除く)が埋まっていてもよい。或いは、シールリング1に備えられる流路は、不活性ガス供給源2から供給される不活性ガスの入口を含む第1流路と、前記第1流路に接続されるとともに、シールリング1の周方向に延在する円環状の第2流路と、前記第2流路から分岐して吐出孔1cxに接続される第3流路とを備えていてもよい。このように、シールリング1が周方向に延在する流路を備えることで、不活性ガスを周方向に均一に行き渡らせ易くなり、周方向における圧力の偏りが生じ難くなり、シールリング1のリング内周面1aと電極20の表面20aとの隙間Gの全周から炉内及び炉外の双方へと均一に不活性ガスが吹き出し易くなる。
【0032】
図4及び5に示されるように、炉蓋30は、障壁部31と浮上防止部32とを備えていてもよく、シールリング1の水平方向への移動が、障壁部31によって画定される範囲内に制限されていてもよく、シールリング1の鉛直方向への移動が、炉蓋30の上面と浮上防止部32との間に制限されていてもよい。この場合、障壁部31によって画定される範囲の直径は、シールリング1の外径と同じであってもよいし、当該外径よりも大きくてもよい。特に、障壁部31によって画定される範囲の直径がシールリング1の外径よりも大きい場合、シールリング1の水平方向位置の自由度が高くなる。すなわち、炉蓋30の上において、障壁部31によって画定される範囲内で、シールリング1が水平方向に自由摺動可能となる。これにより、例えば、電極20の昇降等によって電極20の位置が水平方向に変位した場合でも、電極20の変位に対してシールリング1が追従でき、電極20やシールリング1の破損等が抑制され易くなる。障壁部31の形状は特に限定されるものではなく、シールリング1の外周と対応する形状(円環状)を有していてもよいし、不連続な円弧状であってもよいし、平面状であってもよいし、棒状であってもよいし、不定形の凸状であってもよいし、これら以外の形状であってもよい。また、浮上防止部32によってシールリング1の鉛直方向への移動が制限されることで、電極20の上昇等の際にシールリング1が鉛直方向に不要に持ち上げられることがなく、シールリング1の鉛直方向位置が適切に維持され易くなる。結果として、電極20が水平方向や鉛直方向に動いた場合でも、電極シール装置10によって電極周りを適切にシールし易くなる。浮上防止部32の形状も特に限定されるものではなく、様々な形状が採用され得る。
【0033】
電極シール装置10においては、隙間Gへと供給された不活性ガスが、隙間Gから炉内及び炉外の双方へと1m/s以上の流速にて吹き出すように構成されていてもよい。これにより、電極20周りにおいて炉外から炉内への外気の侵入を一層抑制することができる。隙間Gから吹き出す不活性ガスの流速は、当該隙間Gへと供給される不活性ガスの流量や圧力等によって調整可能である。
【0034】
1.4 従来技術における課題
炉蓋を有する密閉型の電気炉や通常のLF(密閉型の加熱炉)においては、炉蓋の電極挿入孔の電極周りに隙間が存在する。密閉型の加熱炉においては、炉外への発塵等を抑制するため、炉内を減圧とする場合が多い。この場合、当該隙間から炉内へと外気が侵入し易い。また、密閉型の加熱炉は、密閉型でない加熱炉と比較して、炉内の温度及び炉内の電極の温度が高温となり易く、このような密閉型の加熱炉において、操業時に電極周りの隙間から炉内へと外気が侵入した場合、当該隙間から侵入する外気の流速が高いこともあって、酸化によって電極周りの隙間の直下(電極挿入孔の直下)において電極が局所的に損耗し易い。例えば、図7に示されるように、当該隙間近傍において局所的に電極が損耗して電極が括れてしまい、場合によっては電極が折れてしまう。このような電極の異常損耗を防ぐためには、当該隙間近傍において電極周りを適切にシールする必要があるが、従来の電極シール装置は装置構成が複雑となりがちである。そのため、簡易な構成でありつつも高いシール性能を有し、電気炉又はLFの操業時に炉外から炉内への外気の侵入を抑制可能な、新たな電極シール装置が必要である。
【0035】
1.5 本開示の電極シール装置の機能及び効果
これに対し、本開示の電極シール装置10は、図3及び6に示されるように、電極周りに不活性ガスが供給され、且つ、当該不活性ガスが隙間Gから炉内及び炉外の双方に吹き出すことで、電極周りにおける炉外から炉内への外気の侵入を抑制することができ、結果として、上記した電極の異常損耗を抑制することができる。また、不活性ガスが電極の表面に吹き付けられることによって、電極の表面を冷却する効果も期待でき、この点からも電極の異常損耗が抑制され易くなるものと考えられる。
【0036】
密閉型の加熱炉において電極周りからの外気の侵入が抑制されることで、上記の電極の異常損耗が抑制される効果のほか、以下の効果も期待できる。すなわち、炉内の酸素分圧を低下させることができることから、炉内の還元効率が向上する。また、炉内に炭材を投入して炉内の溶融物と反応させる場合に、当該炭材の酸化によるロスが低減される。また、供給する不活性ガスの種類によっては、炉内の溶湯の窒素ピックアップを防止することもできる。さらに、炉内から炉外への排ガスによる熱ロスも低減することができる。
【0037】
2.加熱炉
本開示の技術は、上記の電極シール装置10を備える加熱炉としての側面も有する。すなわち、図1~6に示されるように、本開示の加熱炉は、電気炉又はLFである加熱炉100であって、炉蓋30と電極20と電極シール装置10とを備える。炉蓋30は、電極挿入孔を有し、電極20は、炉蓋30の電極挿入孔に挿入される。電極シール装置10は、電極挿入孔における電極20周りをシールする。加熱炉100において、炉蓋30、電極20及び電極シール装置10以外の構成については、従来の加熱炉と同様とすればよい。加熱炉100に備えられる各構成については、上述した通りであり、ここでは説明を省略する。
【0038】
炉蓋30を備える加熱炉100は、操業時に炉内が高温となり得る。例えば、電極20が炉内で赤熱するほどの高温となってもよい。例えば、炉内の温度は1000℃以上となってもよい。このような場合でも、本開示の加熱炉100においては、電極20周りが適切にシールされることで、電極挿入孔の直下における電極20の異常損耗が抑制される。
【0039】
加熱炉100は、操業時に炉内が減圧とされていてもよい。これにより、炉内から炉外への発塵等を抑制することができる。操業時の炉内の圧力としては、例えば、大気圧未満であってよく、-30Pa以下であってもよい。本開示の加熱炉100においては、炉内がこのような減圧下にあっても、電極20周りが適切にシールされることで、電極20周りから炉内への外気の侵入を抑制することができる。
【0040】
3.電気炉又はLFにおける電極周りのシール方法
本開示の技術は、電気炉又はLFにおける電極周りをシールする方法としての側面も有する。すなわち、本開示の方法は、炉蓋を有する電気炉又はLFにおける電極周りをシールする方法であって、前記電気炉又は前記LFにおける前記電極周りの隙間に不活性ガスを供給し、前記不活性ガスを前記隙間から炉内及び炉外の双方に吹き出させることを特徴とする。本開示の方法による課題解決メカニズムについては上述した通りである。
【実施例0041】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
1.実施例
密閉型直流還元電気炉に電極シール装置を配置して、その効果を確認した。電極径は10インチ(φ254mm)であり、炉蓋の上、且つ、電極の周囲にシールリングを配置して電極周りのシールを行った。シールリングは、内径がφ258mm(隙間G:2mm)、外径がφ500mm、鉛直方向厚さが80mmであり、シールリングの内周面に上下幅20mm、深さ30mmの溝を周方向の全周に亘って設けるものとした。また、当該溝に、孔径φ3mmの吐出孔を溝の延在方向に沿って合計16個設けた。電気炉の操業時、吐出孔から溝内に合計1Nm/minの流量で不活性ガス(窒素又はアルゴン)を供給することで、シールリングのリング内周面と電極の表面との隙間Gから炉内及び炉外の双方に約5m/sの流速にて不活性ガスを吹き出させることで、電極周りをシールした。操業時、電気炉の炉内圧力を減圧(ゲージ圧:-30Pa)としながら、炭材を用いたスラグ還元や鉄スクラップの溶解を行った。
【0043】
2.比較例
電極シール装置を設けなかったこと以外は、実施例と同様にして電気炉の操業を行った。尚、炉蓋の電極挿入孔において、電極周りに30mmの隙間が生じており、電気炉の操業時、炉外から炉内へと高い流速にて外気が侵入することが確認された。
【0044】
3.結果
実施例においては、電気炉の操業後、電極挿入孔の直下における電極の異常損耗は認められなかった。電極周りがシールされたことで、炉外から炉内への外気の侵入が抑制されたためと考えられる。また、電気炉の操業時に炉内の酸素分圧が低下したことによって、炭材によるスラグ還元でスラグの(T.Fe)を1質量%以下にまで低減することができた。また、不活性ガスとしてアルゴンを用いて鉄スクラップの溶解を行ったところ、溶解後の窒素濃度を低位に抑えることができた。また、排ガス流量が低減されたことで、炉内の熱効率が向上した。
【0045】
一方で、比較例においては、電気炉の操業後、電極挿入孔の直下において電極が局所的に大きく損耗していた。空気酸化の影響と考えられた。
【符号の説明】
【0046】
10 電極シール装置
1 シールリング
1a リング内周面
1b 溝
1c 円環状の金属管(流路)
1cx 吐出孔
2 不活性ガス供給源
3 配管
20 電極
20a 表面
30 炉蓋
31 障壁部
32 浮上防止部
100 加熱炉(炉蓋を有する電気炉又はLF)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7