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特開2022-146430水処理装置およびそれを用いた水処理方法
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  • 特開-水処理装置およびそれを用いた水処理方法 図1
  • 特開-水処理装置およびそれを用いた水処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146430
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】水処理装置およびそれを用いた水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/08 20060101AFI20220928BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C02F3/08 A
C02F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047384
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 駿一
(72)【発明者】
【氏名】小塩 晃彦
【テーマコード(参考)】
4D003
【Fターム(参考)】
4D003AA09
4D003DB01
4D003EA04
4D003EA17
4D003EA30
4D003FA02
4D003FA05
(57)【要約】
【課題】微生物を保持する担体に対するメンテナンス性を向上させた水処理技術を提供する。
【解決手段】処理槽10と、処理槽10内の被処理水Wの中に少なくとも一部が浸漬される基材部11と、を備える水処理装置1であって、基材部11の表面11sには、表面11sから離れる方向に延びるように表面11sに基端部12bが固定された細長の微生物担体12が複数設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽と、前記処理槽内の被処理水の中に少なくとも一部が浸漬される基材部と、を備える水処理装置であって、
前記基材部の表面には、前記表面から離れる方向に延びるように前記表面に基端部が固定された細長の微生物担体が複数設けられていることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記水処理装置は、前記処理槽内の前記被処理水の中に少なくとも一部が浸漬された状態で回転できる回転体を備え、
前記回転体は、回転軸部と、前記回転軸部に中心部が固定され軸方向に沿って複数設けられた円板と、を備え、
前記基材部は、前記円板であることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記複数の各微生物担体は、自由端である先端部をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記複数の微生物担体は、前記基材部の表面に人工芝状に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記微生物担体は、樹脂製または布製であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記微生物担体は、ポリエチレンまたはポリプロピレンで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記複数の微生物担体の基端部間の平均距離は、前記細長の前記微生物担体の一本の延在方向に直交する断面径の0.5倍から10倍であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記複数の細長の各微生物担体の一本の長さは、異なっていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記複数の細長の各微生物担体の一本の延在方向に直交する断面径は、異なっていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記複数の細長の各微生物担体の前記基端部の反対側の端部は、複数の前記基材部のうち前記基端部が固定された前記基材部と異なる基材部の表面に固定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水処理装置。
【請求項11】
前記複数の細長の各微生物担体の一本の延在方向に直交する断面形状は、略円状または扁平状であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項12】
前記被処理水の水質は、BOD 50mg/L以上であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項13】
請求項2に記載の水処理装置を用いた水処理方法であって、
前記処理槽内の前記被処理水の中への前記微生物担体の浸水時間および前記微生物担体の空気中に曝露される時間を、前記円板の回転によって制御する工程を含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項14】
前記浸水時間は、10sから45sであることを特徴とする請求項13に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置およびそれを用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸や空洞を有する担体に微生物を保持させ、浄化を行う様々な水処理方法が知られている。例えば、回転円板法は、微生物を保持する円板状の担体を備える回転体を処理槽内に配置した水処理装置を用いて、被処理水を処理する方法であるが、円板を変形しにくくするために円板の強度を高め重量を増加させると、円板を支持する回転軸への負荷が大きくなるおそれがあった。
【0003】
そこで、当該円板の外周に浮部材を用いることによって、回転軸への負荷を低減できることを実現させたものが、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-195796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、担体の凹凸や空洞に微生物を保持する方法では、使用するにつれて微生物の付着量が増え、凹凸が平坦になったり空洞が閉塞してしまうことで、被処理水が微生物に接触する表面積が低下し、浄化が充分に行われないことが考えられる。また、当該凹凸や空洞に付着した微生物の剥離を目的にバブリング装置等を導入する方法もあるが、電力を必要とするためコストアップにつながることも考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の水処理装置では、凹凸が平坦になったり空洞が閉塞して浄化が充分に行われないことや、バブリング装置等によるコストアップについては考慮されておらず、微生物を保持する担体に対するメンテナンス性を向上させた水処理装置の構成について依然として改良の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、微生物を保持する担体に対するメンテナンス性を向上させた水処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による水処理装置は、処理槽と、前記処理槽内の被処理水の中に少なくとも一部が浸漬される基材部と、を備える水処理装置であって、前記基材部の表面には、前記表面から離れる方向に延びるように前記表面に基端部が固定された細長の微生物担体が複数設けられていることを特徴とするとするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材部に基端部が固定された複数の細長の担体に微生物を保持させ、被処理水の流れ等によって互いが接触し当該担体に保持された微生物が適度に剥離されるため、微生物担体のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る水処理装置の概略的な平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、基材部に人工芝状に設けられた細長の微生物担体について説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による水処理装置の実施形態について、図1および図2を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る水処理装置は、下水道、各種産業排水等に関するあらゆる水処理設備に設けられ得る。以下の実施形態では、好気処理を行う微生物を保持する回転担体を有する水処理装置について説明するが、本発明は本実施形態の態様に限定されるものではなく、例えば、回転しない担体や、嫌気処理を行う微生物を保持する担体に適用可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理装置の概略的な平面図であり、回転体の軸方向から視た図を示し、図2は、本実施形態に係る、基材部(円板)に人工芝状に設けられた細長の微生物担体について説明するための平面図である。
【0014】
本実施形態では、水処理装置1は、図1に示すように、処理槽10と、処理槽10内の被処理水Wの中に少なくとも一部が浸漬される基材部11と、を備える。本実施形態では、被処理水Wは、不図示の処理槽の流入口から処理槽内に流入し、図1に示すA方向に流れ、不図示の処理槽の流出口を介して流出し次段の処理槽へ移流する。
【0015】
本実施形態では、基材部11の表面11sには、図1および図2に示すように、表面11sから離れる方向に延びるように表面11sに基端部12bが固定された細長の微生物担体12が複数設けられている。
【0016】
本実施形態に係る水処理装置1では、好気性微生物が細長の微生物担体12に保持されている。また、本実施形態に係る水処理装置1は、処理槽10内の被処理水Wの中に少なくとも一部が浸漬された状態で回転できる回転体13を備える。回転体13は、回転軸部13aと、回転軸部13aに中心部11cが固定され軸方向に沿って複数設けられた円板11Dと、を備える。本実施形態では、当該基材部11が、円板11Dであり、図1および図2に示すように、複数の微生物担体12の基端部12bが円板11Dの主表面に固定されている。
【0017】
回転体13の個数は特に制限はなく、例えば処理槽10の内部に2個から10個の回転体13を配置することができる。隣り合う回転体の円板は、上流側と下流側の円板が完全に重なり合うように配置してもよく、上流側と下流側の円板が部分的に交互に重なり合うように配置してもよい。また、複数の円板11Dの個数は特に制限は無いが、例えば2個から50個であることが好ましい。複数の円板11Dは、離間配置されることが好ましい。
【0018】
本実施形態では、回転体13は、図1に示すように、被処理水Wの通過方向Aと逆方向であるR方向に回転して、微生物担体12が被処理水Wの流れに煽られる態様になっているが、本発明ではこれに限られず、R方向とは逆回転して被処理水Wの通過方向Aと順方向としてもいいし、R方向回転と逆回転の両方が行われる構成でもよい。
【0019】
本実施形態では、複数の各微生物担体12は、可撓性を有し、自由端である先端部12tを有する。この構成により、被処理水Wの流れや回転体13の回転により受ける遠心力等により、複数の各微生物担体12は、揺れ動き、互いに接触し、保持している微生物を適度に剥離することが可能となっている。
【0020】
本実施形態では、複数の微生物担体12は、図2に示すように、基材部11の表面11sに人工芝状に設けられている。また、微生物担体12の一本は、図2に示すように、S字が縦に連なったような形状を有している。しかしながら本発明では、この形状に限られず、ジグザグな形状や直線状な形状でもよいし、本発明の効果を奏する限り様々な形状を適用可能である。
【0021】
本発明に係る微生物担体12は、人工芝状を有する、公知のものも採用可能である。また、本発明では、微生物担体12には、さらに多くの微生物を保持するため、凹凸や空洞を設けてもよい。本実施形態では、微生物担体12は、樹脂製または布製であり、具体的には、ポリエチレンまたはポリプロピレンで構成されている。
【0022】
本発明の効果を奏する上で好ましくは、複数の微生物担体12の基端部12b間の平均距離(間隔d)は、細長の微生物担体12の一本の延在方向に直交する断面径Dの0.5倍から10倍である。本実施形態では、断面径Dは1mm、間隔dは5mmである。
【0023】
本実施形態では、細長の微生物担体12の長さLは、25mmである。本実施形態では、複数の細長の各微生物担体12の一本の長さLは、図2に示すように、略等しくなっているが、本発明では、複数の細長の各微生物担体12の一本の長さLは、異なってもよい。本実施形態では、複数の細長の各微生物担体12の一本の延在方向に直交する断面の径Dは、略等しくなっているが、本発明では、複数の細長の各微生物担体12の一本の延在方向に直交する断面径Dは、異なってもよい。
【0024】
本実施形態では、複数の微生物担体12の基端部12bは、円板11Dの片方の表面11sにおいて、人工芝状に等間隔で並列するように、また、全体的に偏在しないように配置固定されているが、本発明ではこの限りでなく、本発明の効果を奏する限りにおいて、全体的に形成されなくてもよく、偏在するように配置されてもよく、円板11Dの両方の表面に配置されてもよい。
【0025】
本実施形態では、複数の細長の各微生物担体12の基端部12bの反対側の端部は、自由端となっているが、本発明では、細長の各微生物担体12の長手方向両端部が円板11Dの表面(基材部11の表面11s)にそれぞれ固定された態様、例えば、複数の細長の各微生物担体12の基端部12bの反対側の端部が、複数の基材部11のうち基端部12bが固定された基材部11と異なる隣接した基材部の表面に固定されている態様や、複数の細長の各微生物担体12の基端部12bの反対側の端部が、基端部12bが固定された基材部11と同じ基材部11の表面11sに固定されている態様も許容されるものである。
【0026】
本実施形態では、複数の細長の各微生物担体12の一本の延在方向に直交する断面形状は、略円状であるが、本発明ではこれに限られず、扁平状や他の形状であってもよい。
【0027】
本実施形態に係る水処理装置に用いられる被処理水としては特に制限はないが、下水、畜産排水、工業排水等の様々な種類の汚水を用いることができる。必要に応じて汚水に適当な前処理をしたものを被処理水として用いてもよい。本発明の水処理装置は、特に被処理水の有機物(BOD、COD、TOC)低減、アンモニアの硝化などの好気的生物処理に用いられることが好ましい。本発明の効果を奏する上で好ましくは、被処理水Wの水質は、BOD 50mg/L以上である。
【0028】
また、本発明では、処理槽10内の被処理水Wの中への微生物担体12の浸水時間Tiおよび微生物担体12の空気中に曝露される時間Teを、円板11Dの回転によって制御してもよい。例えば、本発明に係る水処理装置が制御装置を有し、当該制御装置の制御部が、回転体13の回転軸部13aを回転させる電動機の回転速度を制御する電動機制御部に対して、記憶部に格納された当該時間Tiや時間Teに係るデータに紐づいた回転速度に係るデータに基づいて、電動機の回転速度を指示して制御してもよい。本発明の効果を奏する上で好ましくは、浸水時間Tiは、10sから45sである。なお、当該時間Tiや時間Teを考慮して円板11Dの直径や数、回転体の数、微生物担体12の数や長さ、微生物担体12を固定するピッチ等を予め設計してもよい。この構成により、微生物担体から剥離される微生物の量を調整することができるので、微生物による有効な浄化やメンテナンス性の向上を実現することが可能となる。
【0029】
従来、凹凸や空洞を有する担体に微生物を保持させ、浄化を行う様々な水処理方法が知られており、例えば、回転円板法において、円板を変形しにくくするために円板の強度を高め重量を増加させることによって、円板を支持する回転軸への負荷が大きくなるおそれがあることに鑑み、当該円板の外周に浮部材を用いることによって、回転軸への負荷を低減できることを実現させたものが、例えば、特許文献1に記載されている。
【0030】
ところで、担体の凹凸や空洞に微生物を保持する方法では、使用するにつれて微生物の付着量が増え、凹凸が平坦になったり空洞が閉塞してしまうことで、被処理水が微生物に接触する表面積が低下し、浄化が充分に行われないことが考えられ、これに対し、当該凹凸や空洞に付着した微生物の剥離を目的にバブリング装置等を導入する方法もあるが、電力を必要とするためコストアップにつながるおそれも考えられるところ、特許文献1に記載の水処理装置では、当該問題については考慮されていなかった。
【0031】
本実施形態によれば、基材部11に基端部12bが固定された複数の細長の担体12に微生物を保持させ、被処理水Wの流れ等によって互いが接触し当該担体12に保持された微生物が適度に剥離されるため、微生物による被処理水Wの有効な浄化を維持しつつ、微生物担体12のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0032】
また、本実施形態によれば、従来と同様の表面積を維持しながら、人工芝状の微生物担体が揺らぐことでより多くの酸素を供給できる。さらに、本実施形態によれば、微生物担体が凹凸や空洞を有する場合に、揺らいだ人工芝状の微生物担体同士の衝突によって適度に微生物が剥離し、凹凸や空洞がなくなることを防ぐことで、長期に水処理設備を運用することができる。
【0033】
本実施形態によれば、新たに素材を開発する必要はなく、既存の商材を使用可能なことから導入のコストが抑えられうる。よって、既存設備の容易な改修による処理能力アップも期待できる。
【0034】
<その他>
本発明は、上述した実施形態や、随所に述べた変形例に限られることなく、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、適宜の変更や変形が可能である。
【0035】
例えば、上記各実施形態やその変形例を、嫌気処理を行う処理槽に適用する場合、微生物担体を密閉された処理槽内の被処理水の中に全て浸漬させ、被処理水の流れを微生物担体に当てたり、微生物担体が固定した円板を回転させて微生物担体に被処理水を接触させればよい。これにより、嫌気処理においても、微生物担体に保持された微生物が適度に剥離されるので、メンテナンスが向上するという本発明の効果を得ることができる。
【0036】
なお、上記各実施形態に係る制御装置は、制御部と、制御部で生成された各種データや閾値データを格納するための記憶部とを備えうる。制御部はCPU(Central Processing Unit)を備え、上述した各機能部は当該CPUによって実行されうる。記憶部は、例えば、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶領域で構成される。
【符号の説明】
【0037】
1 水処理装置
10 処理槽
11 基材部
11D 円板
11s 表面
11c 中心部
12 微生物担体
12b 基端部
12t 先端部
13 回転体
13a 回転軸部
図1
図2