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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146433
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】近赤外線透過庇
(51)【国際特許分類】
   E04F 10/00 20060101AFI20220928BHJP
   E04D 3/40 20060101ALI20220928BHJP
   H02S 20/22 20140101ALI20220928BHJP
   H02S 20/10 20140101ALI20220928BHJP
【FI】
E04F10/00
E04D3/40 V
H02S20/22
H02S20/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047389
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】梅田 和彦
【テーマコード(参考)】
2E105
2E108
【Fターム(参考)】
2E105AA01
2E105BB01
2E105FF02
2E105FF03
2E105FF26
2E105FF32
2E108GG17
(57)【要約】
【課題】太陽電池(PV)の発電と防眩を両立させる壁面用日射遮蔽部材を開発すること
【解決手段】可視光線(VL:Visible Light)を透過せず、近赤外線(NIR: Near infrared rays)を透過する透過する構造を備えた庇。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線(VL:Visible Light)を透過せず、近赤外線(NIR:Near infrared rays)を透過する構造を備えた庇。
【請求項2】
庇が水平又は垂直であることを特徴とする請求項1記載の庇。
【請求項3】
太陽光発電部材を有する建物の外壁に請求項1又は2記載の庇を設けたことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
太陽電池を壁面に設けた建築技術に関する。壁面に太陽電池を取り付けた建物がある。一方、空調への負荷やまぶしさを抑制する庇(防眩材)を設けることがある。本発明は、建築分野におけるエネルギーの調整に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
太陽電池を壁面に設けた建物が提案されている。特許文献1(特開2000-64555号公報)には、建物の外壁に、着脱自在な大きさの異なる太陽電池の取付板支持手段をそれぞれ取り付け、太陽電池が配設された太陽電池取付板を、外壁に傾斜した状態で取り付け効率よく太陽光線を受けることができるようにした建物が開示されている。
【0003】
一方、建物の西日の遮光や視線の遮蔽のために外壁に縦ルーバーを平行に設けた建物(例えば、特許文献2(特開2019-132073号公報)が提案されている。
本発明者らは、特許文献3(特開2019-1655868号公報)に、採光性と太陽光発電を備えたガラス建材に関する発明を提案している。この発明では、近赤外線を反射させて、太陽光発電の発電効率を向上させる提案をした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-64555号公報
【特許文献2】特開2019-132073号公報
【特許文献3】特開2019-165568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、太陽電池の発電と防眩を両立させる壁面用日射遮蔽部材を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
太陽光を遮る機能を果たす垂直方向あるいは水平方向に設けられる建物の庇に、可視光を透過せずに、近赤外光を透過する素材を用いることにより、建物内入る可視光を制限し、太陽光発電を向上させることができることに着目した発明である。
1.可視光線(VL:Visible Light)を透過せず、近赤外線(NIR:Near infrared rays)を透過する構造を備えた庇。
2.庇が水平又は垂直であることを特徴とする1.記載の庇。
3.太陽光発電部材を有する建物の外壁に1.又は2.記載の庇を設けたことを特徴とする建物。
【発明の効果】
【0007】
1.本発明の庇を使用することにより、太陽光発電の低下を抑制しながら、可視光の入射を制限できるので防眩効果も確保することができる。
2.太陽光発電を行う機能を付加した建物において、建築外観(建築ファサード)設計の制約が少なくなり、意匠性の優れた建物を実現することができる。太陽光発電は、建物の窓を含む外壁に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】縦方向の庇が設けられた建物の例を示す図
図2】本発明の外壁構造を示す模式図、(a)立面図、(b)縦断面図、(c)横断面図
図3】遮光庇を設けた従来の外壁構造を示す模式図、(a)立面図、(b)縦断面図、(c)横断面図
図4】日光と太陽光発電に関する波長を示す図、(a)太陽光発電の種類と発電波長、(b)近赤外線透過膜の波長特性の例
図5】近赤外線透過庇の例1を示す図
図6】近赤外線透過庇の例2を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、可視光線(VL:Visible Light)を透過せずに、近赤外線(NIR:Near infrared rays)を透過する構造を備えた庇である。庇は、日よけなどのために建物の窓などの上や脇に設けられる突出部である。本発明は、外面に太陽光発電機能を装備した建物に対して、可視光の入射を制限して防眩を確保するとともに、近赤外光が透過する庇を設けて、太陽光発電の発電に利用するものである。外壁等に太陽光発電機能を付加しても、建築外観(建築ファサード)設計の制約が少なくなり、意匠性の優れた建物を実現することができる発明である。
太陽光発電は、建物の窓を含む外壁に設けることができる。
なお、太陽光発電機能を庇自体に設けた提案が特開2014-136916号公報や特開2014-136920号公報になされている。太陽光発電機能を搭載した部材を建物から片持ち状態で突出させることは、風圧や耐震性を考慮すると、外見上の損傷はなくても内部に存在する電気配線の断線、発電素子の損傷等への対策が必要となるが、本発明の庇は、近赤外光を選択的に透過する材料を使用するだけで電気的要素がないため、外観を損傷しない強度確保のみで電気的な配慮を必要としない。
【0010】
図1に縦方向の庇が設けられた建物の例を示す。
建物1には、外壁2から突出した庇3が縦方向に複数設けられている。建物1の外壁2には、水平に窓4とスパンドレル5が設けられている。本例では、スパンドレルの部分に太陽電池(PV)6を設けている。なお、本明細書では、「スパンドレル」を「天井裏空間に該当する部分の外壁」として、定義することとする。
太陽光発電は、スパンドレル部分や窓部分に設けることができる。窓に設ける場合は、採光性のある太陽光発電を採用する。
【0011】
近赤外光を透過する庇を設けた本発明の外壁構造を示す模式図を図2に示す。(a)は立面図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図を示している。
窓4とスパンドレルに設けられた太陽電池6外側に庇3が縦方向に複数平行に設けられている。(c)に示すように、太陽光の日射7が斜めに建物当たると、太陽光は建物の奥まで入り、まぶしくなることとなる。本発明の近赤外光を選択的に透過する庇31を設けることにより、庇31の影となる部分には、近赤外光71が入射するので、この近赤外光を発電に変換する太陽電池は、発電効率を上げることができる。一方、可視光は遮られるので、室内ではまぶしさが軽減される。
NIRを反射するLow-E ガラスを組込んでいるペアガラスを窓ガラスに使用した場合、NIRが庇を透過しても、建物の空調負荷を増加させることはない。PVを窓に使用する場合、ペアガラスの屋外側ガラスにPV モジュールを、同ガラスの屋内側にLow-E ガラスを使用することができる。したがって、近赤外光を透過する庇を用いても、建物の省エネルギー作用を低下させることは無い。
図3は、従来の遮光庇32を設けた例を示しており、横断面図(c)にみられるように、遮光された部分は日陰73が形成されることとなるので、日陰になった部分の太陽電池6の発電能力は低下することとなる。
【0012】
日光と太陽光発電に関する波長の関係を図4に示す。(a)はアモルファスシリコン型太陽電池は可視光を発電に利用しており、結晶シリコン型太陽電池は近赤外光の利用率が高いことを示している。太陽光発電変換率は、結晶シリコン型太陽電池が高いので、本発明では結晶シリコン型の太陽電池を用いることが有利である。なお、近赤外線は波長がおよそ0.8~2.5μmの電磁波とされ、中赤外線は、波長がおよそ2.5~4μmとされ、可視光線に相当する電磁波の波長は、およそ0.4~0.8μmである。
本発明の近赤外光を透過する庇は、この0.8~2.5μm(800~2500nm)程度の波長を透過し、0.8μm以下の波長の電磁波を透過しない(反射することも含む)光透過特性を備えている。なお、いくぶんかは可視光を透過してもよく、可視光域の透過率を波長選択的あるいは可視光全域の透過率を調整してもよく、太陽電池の発電性能を考慮すると、おおよそ0.7~0.8μmを境界とすればよいのであって、厳密に電磁波の波長で区分する必要はない。
【0013】
近赤外線(NIR)透過膜の光を透過する波長特性の例を図4(b)に示す。このように近赤外線の波長域である800nm(0.8μm)以上を透過し、およそ800nm(0.8μm)以下の可視光域は透過しない近赤外線透過膜を採用することができる。
【0014】
近赤外線透過構造を備えた庇は、近赤外線(NIR)透過膜をガラスに蒸着させる方法又はフィルム状にする方法を採用することができる。これらの技術は、合わせガラスの製造方法を応用することができる。
なお、ガラスには、青板、白板と称されるガラスがある。ガラスに含まれる珪素、カルシウム、ナトリウムの金属酸化物の成分が発色し緑色に見えることから青板(青板ガラス)と呼ばれている。青板と同じ成分で高純度原料を使用して、紫外線からVL、NIRの波長範囲で高い透過率を示す白板(高透過ガラス)であって、PV用のガラスとして使用される。本発明の庇には、このようなガラスを含めて使用することができる。
【0015】
図5に近赤外線透過庇Aの構造を示す。
フィルム状NIR透過膜81aの表裏にシート状封止材82を介して、両面にガラス83a、83bを設け、側部にアルミ枠84を取り付けて近赤外線透過庇A31aを形成している。このフィルム状NIR透過膜の適用事例として、テレビのリモコンのレーザー透過部カバーがある。
また、シート状封止材として、合成樹脂のEVA(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)などが利用できる。ガラスとしては、建築用のガラスやPVモジュールのカバーガラスとして使われる高透過ガラスなどを利用することができる。
【0016】
図6に近赤外線透過庇Bの構造を示す。
一方のガラス83bの表面にNIR透過材料を蒸着して製膜してNIR透過膜81bを形成する。NIR透過膜81bの表面にシート状封止材82を介して、ガラス83aを載せて一体化し、側部にアルミ枠84を取り付けて近赤外線透過庇B31bを形成している。
蒸着NIR透過膜として、虹彩認証や静脈認証用センサーに使用されている素材を使用することができる。
【0017】
近赤外線透過膜を構成する材料には次のようなものがある。
近赤外線(NIR)透過膜は、NIRを透過する材料であるシリコン(Si)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、合成石英(FS)、ゲルマニウム(Ge)、N-BK7、臭化カリウム(KBr)、サファイア、塩化ナトリウム(NaCl)、ジンクセレン(ZnSe)、硫化亜鉛(ZnS)等があって、これらの化合物をガラスやフィルムに蒸着させる方法で製膜することができる。
近赤外線透過剤は、東洋ビジュアルソリューションズ(株)や(株)トクシキが提供している例もある。
【0018】
表1に、近赤外線透過庇と従来の庇を適用した場合の発電効率を検討した一例を示す。
条件設定として、地上10階、延べ床面積10.000mの建物において、南面、東面、西面のスパンドレル(SD)部の壁面に発電効率20%の太陽電池を設置した建物であって、庇なしの例(A)、従来の遮光庇の例(B)、近赤外線透過庇の例(C)を想定している。
比較項目は、室内の光環境(眩しさ)、発電量(E1)である。庇なしの例(A)を基準として、比較した結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1に示すように、本発明のNIR透過庇(C)の場合、室内の眩しさは、従来の庇(B)程度に軽減されている。太陽電池(PV)の発電量は、庇がない場合(A)に比べてNIR透過庇(C)では55%程度に減少するが、従来の庇(B)が2%程度であるので、発電量が向上している。
本発明は、太陽光発電効果と防眩効果を奏することが明らかである。
【符号の説明】
【0021】
1 建物
2 外壁
3 庇
31 近赤外線透過庇
31a 近赤外線透過庇A
31b 近赤外線透過庇B
32 従来の庇
4 窓
5 スパンドレル
6 太陽電池(PV)
7 日射
71 近赤外線(NIR)
73 日陰
81a、81b フィルム状NIR透過膜
82 シート状封止材
83a、83b ガラス
84 アルミ枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6