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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146471
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】温度調節機構
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/02 20060101AFI20220928BHJP
   B60H 1/08 20060101ALI20220928BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20220928BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20220928BHJP
   B60L 58/26 20190101ALI20220928BHJP
   B60L 58/27 20190101ALI20220928BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20220928BHJP
   B60L 50/64 20190101ALI20220928BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/633 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/663 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20220928BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20220928BHJP
【FI】
B60K11/02
B60H1/08 611J
B60H1/22 651C
B60H1/08 611Z
B60H1/22 671
B60L53/14
B60L58/26
B60L58/27
B60L1/00 L
B60L50/64
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/6568
H01M10/6556
H01M10/633
H01M10/625
H01M10/663
H01M10/615
H01M10/6571
H01M10/651
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047448
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】津田 研一郎
【テーマコード(参考)】
3D038
3L211
5H031
5H125
【Fターム(参考)】
3D038AA10
3D038AB01
3D038AC20
3D038AC22
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA21
3L211BA60
3L211DA26
3L211DA45
3L211DA48
3L211EA56
3L211FB05
3L211GA26
3L211GA36
5H031AA09
5H031CC09
5H031HH06
5H031KK02
5H031KK03
5H031KK08
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC23
5H125AC24
5H125BA09
5H125BC19
5H125CD06
5H125CD08
5H125CD09
5H125DD02
5H125EE25
5H125EE64
(57)【要約】
【課題】バッテリの寿命を延長しつつ、走行中の電力の消費を抑制する温度調節機構を提供する。
【解決手段】バッテリ用ポンプ15と循環路11~13とを備え、車両の外部の外部電源から充電可能なバッテリ2の温度を所定の温度範囲に収まるように調節する車両の温度調節機構1において、外部電源からバッテリ2の充電中に、エネルギーの消費により生じる冷熱源により生成された冷水あるいはエネルギーの消費により生じる温熱源により加熱された温水のどちらか一方が雰囲気温度Taに応じて貯水される真空断熱タンク40を備え、外部電源からの充電を除くバッテリ2の電力の入出時に、真空断熱タンク40が循環路11~13に接続されて、真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水がバッテリ用ポンプ15の駆動によりバッテリ2に供給され、バッテリ温度Tbを温度範囲に収まるように調節する構成である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ用ポンプと循環路とを備え、前記バッテリ用ポンプの駆動により前記循環路に冷却水を循環させて、車両の外部の外部電源から充電可能なバッテリの温度を所定の温度範囲に収まるように調節する車両の温度調節機構において、
前記外部電源から前記バッテリの充電中に、エネルギーの消費により生じる冷熱源により生成された冷水あるいはエネルギーの消費により生じる温熱源により加熱された温水のどちらか一方が前記車両の周囲の雰囲気温度に応じて貯水される真空断熱タンクを備え、
前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記真空断熱タンクが前記循環路に接続されて、前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水が前記バッテリ用ポンプの駆動により前記循環路に供給され、前記バッテリの温度を前記温度範囲に収めるバッテリ温度調節を行う構成であることを特徴とする温度調節機構。
【請求項2】
前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時で、前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水の供給による前記バッテリ温度調節が不必要または不可能な場合に、前記真空断熱タンクが車室内に設置された熱交換器に接続され、前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水が前記熱交換器に供給され、車室内に冷風または温風を送付する構成である請求項1に記載の温度調節機構。
【請求項3】
電動コンプレッサにより循環する冷媒を用いた冷房回路および暖房用電気ヒータで加熱された温水を用いた暖房回路と、
前記バッテリ用ポンプおよび前記循環路に加えて、前記冷房回路の冷媒と冷却水とが熱交換する冷媒用熱交換器およびバッテリ用電気ヒータを備えたバッテリ温度調節回路と、
前記冷房回路、前記暖房回路、および、前記バッテリ温度調節回路のそれぞれに接続された前記真空断熱タンクと、
前記真空断熱タンクを経由する前記暖房回路および前記バッテリ温度調節回路における冷却水の流路を切り替える流路切替装置と、
前記車両の周囲の雰囲気温度を取得する雰囲気温度取得装置と、
前記バッテリの温度を取得するバッテリ温度取得装置と、
前記冷房回路、前記暖房回路、前記バッテリ温度調節回路、および、前記流路切替装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記外部電源から前記バッテリの充電中に、前記雰囲気温度取得装置が取得した雰囲気温度が予め設定された第一閾値よりも高い場合に、前記冷熱源である前記冷房回路を作動させるとともに前記バッテリ用ポンプを駆動し、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記冷房回路の冷媒で冷却された冷水を前記真空断熱タンクに貯水する制御を行い、または、取得した前記雰囲気温度が予め前記第一閾値よりも低く設定された第二閾値よりも低い場合に、前記温熱源である前記暖房回路を作動させるとともに前記バッテリ用ポンプを駆動し、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記暖房回路を流れる温水を前記真空断熱タンクに貯水する制御を行い、
前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記バッテリ用ポンプを駆動し、前記バッテリ温度取得装置が取得した前記バッテリの温度に基づいて、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記真空断熱タンクに貯水した前記冷水または前記温水を前記バッテリ温度調節回路に供給して、前記バッテリ温度調節の制御を行う構成である請求項1に記載の温度調節機構。
【請求項4】
前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水の温度を取得する貯水温度取得装置を備え、
前記制御装置は、前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記真空断熱タンクに前記冷水または前記温水が貯水されていて、前記貯水温度取得装置が取得した前記冷水の温度が予め設定された第三閾値よりも高い場合に、あるいは、前記温水の温度が予め設定された第四閾値よりも低い場合に、前記真空断熱タンクに貯水した前記冷水または前記温水の前記バッテリ温度調節回路への供給を禁止する構成である請求項3に記載の温度調節機構。
【請求項5】
前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水の温度を取得する貯水温度取得装置と前記バッテリから出力されるあるいは充電される電力量を取得する電力量取得装置と、を備え、
前記制御装置は、前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記バッテリ温度取得装置が取得した前記バッテリの温度が前記温度範囲に収まり、かつ、前記電力量取得装置が取得した前記電力量が予め設定された第一負荷閾値以下、あるいは、予め設定された第二負荷閾値以上の場合に、前記真空断熱タンクに貯水した前記冷水または前記温水の前記バッテリ温度調節回路への供給を禁止する構成である請求項3または4に記載の温度調節機構。
【請求項6】
前記制御装置は、前記真空断熱タンクに貯水した前記冷水または前記温水の前記バッテリ温度調節回路への供給を禁止すると、前記貯水温度取得装置が取得した前記冷水または前記温水の温度と運転手が所望する要求温度とを比較し、前記冷水の温度が前記要求温度よりも低い場合または前記温水の温度が前記要求温度よりも高い場合に、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水を前記暖房回路に供給し、前記暖房回路に冷却水を循環させる暖房用ポンプを駆動するとともに前記電動コンプレッサまたは前記暖房用電気ヒータの駆動を停止する制御を行い、それ以外の場合に前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水の供給を停止する構成である請求4または5に記載の温度調節機構。
【請求項7】
前記バッテリ温度調節回路は、空冷熱交換器が介在した冷却通路と、その空冷熱交換器を迂回する迂回通路と、を有し、
前記制御装置は、前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水を前記バッテリ温度調節回路に供給する場合に、前記バッテリ温度調節回路における冷却水の流路を前記迂回通路に切り替える制御を行う構成である請求項3~6のいずれか1項に記載の温度調節機構。
【請求項8】
前記制御装置は、前記外部電源からの前記バッテリの充電中に、前記雰囲気温度取得装置が取得した前記雰囲気温度が前記第二閾値以上、かつ、前記第一閾値以下の場合に、前記真空断熱タンクに貯水する制御を禁止する構成である請求項3~7のいずれか1項に記載の温度調節機構。
【請求項9】
電動コンプレッサにより正循環または逆循環する冷媒を用いた冷暖房回路と、
前記バッテリ用ポンプおよび前記循環路に加えて、前記冷暖房回路の冷媒と冷却水とが熱交換する冷媒用熱交換器を備えたバッテリ温度調節回路と、
前記冷暖房回路、および、前記バッテリ温度調節回路のそれぞれに接続された前記真空断熱タンクと、
前記真空断熱タンクを経由する前記バッテリ温度調節回路における冷却水の流路を切り替える流路切替装置と、
前記車両の周囲の雰囲気温度を取得する雰囲気温度取得装置と、
前記バッテリの温度を取得するバッテリ温度取得装置と、
前記冷暖房回路、前記バッテリ温度調節回路、および、前記流路切替装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記外部電源から前記バッテリの充電中に、前記雰囲気温度取得装置が取得した雰囲気温度が予め設定された第一閾値よりも高い場合に、または、予め前記第一閾値よりも低く設定された第二閾値よりも低い場合に、前記冷熱源および前記温熱源である前記冷暖房回路を作動させるとともに前記バッテリ用ポンプを駆動し、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記冷暖房回路の冷媒で冷却された冷水、あるいは、前記冷暖房回路の冷媒で加熱された温水のどちらか一方を前記真空断熱タンクに貯水する制御を行い、
前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記バッテリ用ポンプを駆動し、前記バッテリ温度取得装置が取得した前記バッテリの温度に基づいて、前記流路切替装置により冷却水の流路を切り替えて前記真空断熱タンクに貯水した前記冷水または前記温水を前記バッテリ温度調節回路に供給して、前記バッテリ温度調節の制御を行う構成である請求項1に記載の温度調節機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調節機構に関し、より詳細には、車両に搭載されて外部電源から充電可能なバッテリの温度を調節する温度調節機構に関する。
【背景技術】
【0002】
外部電源からバッテリに充電する期間に、外部電源の電力の消費によりヒートポンプサイクルを駆動させて、蓄熱装置に蓄熱させたり、蓄冷材に蓄冷させたりする車両用蓄冷制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-23527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載の装置は、蓄熱した熱を暖機や暖房に利用したり、蓄冷した冷熱を冷房に利用したりする。しかし、その装置は運転手が暖房や冷房を使用しない場合に蓄熱した熱や蓄冷した冷熱が無駄になっていた。
【0005】
ところで、バッテリの寿命を保つには、バッテリの温度を適切な温度範囲に保つ必要がある。バッテリの温度を調節する機構は、空冷では限度があるため、冷却水を用いたものが周知となっている。しかし、上記の特許文献1に記載の装置のように、空冷の熱交換器を用いた冷却水の循環路では、日本国において雰囲気温度の高い夏季にバッテリの温度が温度範囲よりも高くなり、雰囲気温度の低い冬季にバッテリの温度が温度範囲よりも低くなるおそれがある。それ故、空冷の熱交換器を用いた循環回路では、夏季や冬季にバッテリの温度を適切な温度範囲に保つことができず、バッテリの寿命が短いという問題があった。
【0006】
これに関して、夏季や冬季でもバッテリの温度を適切な温度範囲に保つために、バッテリの電力により駆動する冷熱源や温熱源により冷却水を冷却あるいは加熱すれば、バッテリの温度を適切な温度範囲に保つことが可能になる。しかしながら、冷熱源や温熱源によりバッテリに充電された電力が消費されてバッテリの充電量の減りが早まるという別の問題が生じる。このバッテリの充電量の減りが早まるという問題は、電気車両であればその航続距離が短くなる要因となっている。
【0007】
本開示の目的は、バッテリの寿命を延長しつつ、走行中の電力の消費を抑制する温度調節機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の一態様の温度調節機構は、バッテリ用ポンプと循環路とを備え、前記バッテリ用ポンプの駆動により前記循環路に冷却水を循環させて、車両の外部の外部電源から充電可能なバッテリの温度を所定の温度範囲に収まるように調節する車両の温度調節機構において、前記外部電源から前記バッテリの充電中に、エネルギーの消費により生じる冷熱源により生成された冷水あるいはエネルギーの消費により生じる温熱源により加熱された温水のどちらか一方が前記車両の周囲の雰囲気温度に応じて貯水される真空断熱タンクを備え、前記外部電源からの充電を除く前記バッテリの電力の入出時に、前記真空断熱タンクが前記循環路に接続されて、前記真空断熱タンクに貯水された前記冷水または前記温水が前記バッテリ用ポンプの駆動により前記循環路に供給され、前記バッテリの温度を前記温度範囲に収めるバッテリ温度調節を行う構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様は、外部電源からのバッテリの充電時で電力を消費してもよい状況でエネルギーを消費して真空断熱タンクに冷水や温水を貯水し、外部電源からの充電を除くバッテリの電力の入出時に真空断熱タンクに貯水された冷水や温水を利用するものである。それ故、本発明の一態様によれば、外部電源からの充電を除くバッテリの電力の入出時にバッテリの温度の調節をバッテリ用ポンプの電力の消費のみで行うことが可能となり、バッテリの寿命を延ばすために要する消費電力を低減できる。これにより、バッテリの寿命を延ばしつつ、バッテリの充電量の減りを緩和して、車両の航続距離を伸ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からのバッテリへの充電時に真空断熱タンクに冷水を貯水する状態を示す。
図2】第一実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からのバッテリへの充電時に真空断熱タンクに温水を貯水する状態を示す。
図3】第一実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からの充電を除くバッテリの電力入出時に冷水をバッテリ温度調節回路に利用する状態を示す。
図4】第一実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からの充電を除くバッテリの電力入出時に温水をバッテリ温度調節回路に利用する状態を示す。
図5】第一実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からの充電を除くバッテリの電力入出時に冷水または温水を室温調節に利用する状態を示す。
図6図1図5の制御装置の構成を例示するブロック図である。
図7図1図5の温度調節機構がバッテリ温度を調節する制御方法を例示するフロー図である。
図8図1図5の温度調節機構が室温を調節する制御方法を例示するフロー図である。
図9図1および図2の温度調節機構が外部電源からのバッテリへの充電中に真空断熱タンクに貯水する方法を例示するフロー図である。
図10図3および図5の温度調節機構がバッテリの電力の入出時に真空断熱タンクに貯水された冷水または温水をバッテリ温度調節回路に利用する方法を例示するフロー図である。
図11図4および図5の温度調節機構がバッテリの電力の入出時に真空断熱タンクに貯水された冷水または温水を室温調節に利用する方法を例示するフロー図である。
図12】第二実施形態の温度調節機構を例示する構成図であり、外部電源からのバッテリへの充電時に真空断熱タンクに温水を貯水する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示における温度調節機構の実施形態について説明する。
【0012】
図1図5図12において、塗り潰し矢印は冷却水の流れを示し、白抜き矢印は冷媒の流れを示す。各ヒータ(17、33)は駆動時を塗り潰しで示し、停止時を白抜きで示す。各々の流量調節装置や弁装置(14、24a、24b、51~57、74a~74d)は流路の遮断時を塗り潰しで示し、流路の開放時を白抜きで示す。点線で囲われた部分は、車両の車室に設置されるものとする。電力を供給する電線や信号を送る信号線は煩雑さを回避するため省略する。
【0013】
図1図5に例示するように、第一実施形態の温度調節機構1はバッテリ2の電力により駆動する図示しない電動モータを駆動源とする電気車両に搭載される。バッテリ2は図示しない外部電源により充電可能な構成である。外部電源としては、単相交流100Vまたは200Vのコンセント、ケーブル付きの立設型の充電器、三相200Vの急速充電器が例示される。
【0014】
温度調節機構1は、循環路(11~13)に冷却水を循環させて、バッテリ2の温度(以下、バッテリ温度Tbとする)を予め設定された下限値Tl~上限値Thの間の温度範囲に収まるように調節する機構である。本開示において温度範囲は、バッテリ2の種類や仕様により予め設定されたものである。バッテリ2がリチウムイオン電池で構成される場合に、その温度範囲としては、0℃~35℃の範囲、より好ましくは16℃~25℃の範囲が例示される。
【0015】
温度調節機構1は、バッテリ温度調節回路10、冷房回路20、暖房回路30、真空断熱タンク40、各々の接続配管41~45、および、流路切替装置50(図中には符号50を図示しない。この符号50は各々の接続配管や回路に配置された弁装置の総称とする。)を備えて構成される。また、温度調節機構1は、制御装置60、雰囲気温度取得装置61、バッテリ温度取得装置62、貯水温度取得装置63、室温取得装置64、電力量取得装置65、および、要求温度設定装置66を備えて構成される。
【0016】
バッテリ温度調節回路10は、冷却水が循環路を循環する回路であり、バッテリ用共有通路11、冷却通路12、迂回通路13、および、バッテリ用流路切替装置14を有して構成される。互いに並列の冷却通路12および迂回通路13はバッテリ用共有通路11から分岐して、再び、バッテリ用共有通路11に合流する。三方弁で構成されたバッテリ用流路切替装置14は冷却水の流路を冷却通路12または迂回通路13のどちらか一方に切り替える。
【0017】
バッテリ用共有通路11は、冷却水の流れに関して、バッテリ用ポンプ15、冷媒用熱交換器16、バッテリ用電気ヒータ17、バッテリ2、および、サブタンク18が順に配置される。冷却通路12は空冷熱交換器19が配置される。
【0018】
バッテリ温度調節回路10は、バッテリ2に対する電力の入出時にバッテリ2の電力によりバッテリ用ポンプ15が駆動して、バッテリ用共有通路11、冷却通路12、および、迂回通路13からなる循環路に冷却水を循環させる。バッテリ温度調節回路10は、バッテリ用流路切替装置14により冷却水に冷却通路12を経由させてもバッテリ温度Tbが上限値Thを上回る場合に、冷媒用熱交換器16で冷却水と冷房回路20の冷媒とを熱交換させて、冷却水を冷却する。バッテリ温度調節回路10は、バッテリ用流路切替装置14により冷却水に迂回通路13を経由させてもバッテリ温度Tbが下限値Tlを下回る場合にバッテリ用電気ヒータ17で直に冷却水を加熱する。
【0019】
冷房回路20は、冷媒が循環する回路であり、冷房用共有通路21、冷房用通路22、バッテリ用通路23、および、冷房用流路切替装置24(図中には符号24を図示しない。この符号24は冷房用通路22、バッテリ用通路23の各々に配置された冷房用第一弁装置24a、冷房用第二弁装置24bの総称とする。)を有して構成される。互いに並列の冷房用通路22およびバッテリ用通路23は冷房用共有通路21から分岐して、再び、冷房用共有通路21に合流する。二つの弁装置で構成された冷房用流路切替装置24は室温Trおよび要求温度Tdの差分とバッテリ温度調節回路10における冷媒の使用状況とに応じて、冷媒の流路を冷房用通路22またはバッテリ用通路23のどちらか一方に切り替える、あるいは、両方の通路にする。冷媒は特に限定されるものではないが、ハイドロフルオロオレフィン(HFO-1234yf)が例示される。
【0020】
冷房用共有通路21は、冷媒の流れに関して、電動コンプレッサ25およびコンデンサ26が順に配置される。冷房用通路22は、冷媒の流れに関して、膨張弁27およびエバポレータ28が順に配置される。バッテリ用通路23は、冷媒の流れに関して、膨張弁29および冷媒用熱交換器16が配置される。膨張弁27およびエバポレータ28は車室内に設置される。
【0021】
冷房回路20は、車室内の室温Trが運転手の所望する要求温度Tdよりも高い場合に、電動コンプレッサ25がバッテリ2の電力により駆動して、冷房用第一弁装置24aにより冷房用通路22を開放して、冷媒を冷房用共有通路21および冷房用通路22に循環させる。電動コンプレッサ25から吐出された高圧高温の冷媒は、コンデンサ26で車速風と後続の電動冷却ファンによる冷却風とにより冷却されて液化する。次いで、高圧低温の液化した冷媒は膨張弁27で霧状に噴霧される。噴霧された冷媒はエバポレータ28で後続の電動ファンにより吹き込まれた空気により気化し、空気から気化熱を奪う。以上のような過程を経て冷風が車室内に吹き出し、室温Trが要求温度Tdに調節される。
【0022】
冷房回路20は、バッテリ温度調節回路10が冷媒を用いて冷媒用熱交換器16で冷却水を冷却する状況の場合に、電動コンプレッサ25をバッテリ2の電力により駆動して、冷房用第二弁装置24bによりバッテリ用通路23を開放して、冷媒を冷房用共有通路21およびバッテリ用通路23に循環させる。電動コンプレッサ25から吐出された高圧高温の冷媒は、コンデンサ26で冷却されて液化する。次いで、高圧低温の液化した冷媒は膨張弁29で霧状に噴霧される。噴霧された冷媒は冷媒用熱交換器16で冷却水との熱交換により気化し、冷却水から気化熱を奪う。以上のような過程を経て冷媒用熱交換器16で冷却水が冷却される。
【0023】
暖房回路30は、冷却水が循環する回路であり、暖房用循環通路31を有して構成される。暖房用循環通路31は、冷却水の流れに関して、暖房用ポンプ32、暖房用電気ヒータ33、暖房用熱交換器34、および、サブタンク35が順に配置される。暖房用電気―た33および暖房用熱交換器34は車室内に設置される。
【0024】
暖房回路30は、車室内の室温Trが運転手の所望する要求温度Tdよりも低い場合に、暖房用ポンプ32がバッテリ2の電力により駆動し、冷却水を暖房用循環通路31に循環させ、暖房用電気ヒータ33をバッテリ2の電力により駆動して、冷却水を加熱する。加熱された冷却水は暖房用熱交換器34で後続の電動ファンにより吹き込まれた空気と熱交換して、空気を温める。以上のような過程を経て温風が車室内に吹き出し、室温Trが要求温度Tdに調節される。
【0025】
真空断熱タンク40は、外槽と内槽とからなる二重構造であり、外槽と内槽との間に真空層が形成される。真空断熱タンク40は、真空層によりその真空層で覆われた内槽に貯水された冷却水と外部との間の熱の伝達を遮断し、貯水された冷却水の温度を長期的に保持する構成である。真空断熱タンク40は雰囲気温度Taに応じて冷水または温水が貯水される。
【0026】
本開示において、雰囲気温度Taは温度調節機構1を搭載した車両の周囲の空気の温度(外気温ともいう)を示す。冷水とはエネルギーの消費により生じる冷熱源により冷却された冷却水であり、その温度は少なくともバッテリ2の適切な温度範囲の上限値Thよりも低く、望ましくはその温度範囲の下限値Tlよりも低い。本実施形態において冷熱源はバッテリ2の電力により電動コンプレッサ25が駆動した冷房回路20の冷媒である。温水とはエネルギーの消費により生じる温熱源により加熱された冷却水であり、その温度は少なくともバッテリ2の適切な温度範囲の下限値Tlよりも高く、望ましくはその温度範囲の上限値Thよりも高い。本実施形態において温熱源はバッテリ2の電力により駆動する暖房用電気ヒータ33である。
【0027】
第一接続配管41は一端が真空断熱タンク40に連通し、他端が冷却水の流れに関してバッテリ2よりも下流の側で、かつ、冷却通路12および迂回通路13の分岐点よりも上流の側のバッテリ用共有通路11に連通する。第一接続配管41は真空断熱タンク40からの出口となる配管であり、真空断熱タンク40に冷水を貯水するときに真空断熱タンク40に貯水された冷却水が通過する。
【0028】
第二接続配管42は一端が真空断熱タンク40に連通し、他端が冷却水の流れに関して冷媒用熱交換器16よりも下流の側で、かつ、バッテリ2よりも上流の側のバッテリ用共有通路11に連通する。第二接続配管42は真空断熱タンク40への入口となる配管であり、真空断熱タンク40に冷水を貯水するときに冷水が通過し、真空断熱タンク40に貯水された冷水をバッテリ温度調節回路10に供給するときにバッテリ温度調節回路10を循環した冷却水が通過する。
【0029】
第三接続配管43は一端が真空断熱タンク40に連通し、他端が冷却水の流れに関して第二接続配管42よりも下流の側で、かつ、バッテリ2よりも上流の側のバッテリ用共有通路11に連通する。第三接続配管43は真空断熱タンク40からの出口となる配管であり、真空断熱タンク40に貯水した冷水をバッテリ温度調節回路10に供給するときにその冷水が通過する。
【0030】
第四接続配管44および第五接続配管45のそれぞれは一端が真空断熱タンク40に連通し、他端が暖房用循環通路31に連通する。第四接続配管44および第五接続配管45のそれぞれは、第五接続配管45が冷却水の流れに関して第四接続配管44よりも上流の側に配置されていればよい。第四接続配管44は真空断熱タンク40からの出口となる配管であり、---真空断熱タンク40に温水を貯水するときに真空断熱タンク40に貯水された冷却水が通過し、真空断熱タンク40に貯水した冷水または温水を暖房回路30に供給するときにそれらの冷水または温水が通過する。第五接続配管45は真空断熱タンクへの入口となる配管であり、---真空断熱タンク40に温水を貯水するときに温水が通過し、真空断熱タンク40に貯水した冷水または温水を暖房回路30に供給するときに暖房回路30を循環した冷却水が通過する。
【0031】
第一弁装置51~第五弁装置55のそれぞれは、第一接続配管41~第五接続配管45のそれぞれに一つずつ配置される。第一弁装置51~第五弁装置55のそれぞれは開閉により配置された配管を遮断または開放する。
【0032】
第六弁装置56は、第二接続配管42およびバッテリ用共有通路11の連通部と、第三接続配管43およびバッテリ用共有通路11の連通部と、の間のバッテリ用共有通路11に配置される。第六弁装置56は開閉開度が自在調節可能に構成され、自身を通過する冷却水の流量を調節可能な構成である。
【0033】
第七弁装置57は、第四接続配管44および暖房用循環通路31の連通部と、第五接続配管45および暖房用循環通路31の連通部と、の間の暖房用循環通路31に配置される。第七弁装置57は開閉によりそれらの連通部の間の暖房用循環通路31を遮断または開放する。
【0034】
図6に例示するように、制御装置60は各種情報処理を行う中央演算装置(CPU)、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能な内部記憶装置、及び各種インターフェースなどから構成されるハードウェアである。制御装置60は、各装置61~66が取得した値に基づいて、バッテリ温度調節回路10、冷房回路20、暖房回路30、および、流路切替装置50を制御する。
【0035】
雰囲気温度取得装置61は雰囲気温度Taを取得する温度センサで構成される。バッテリ温度取得装置62はバッテリ温度Tbを取得する温度センサで構成される。貯水温度取得装置63は真空断熱タンク40に貯水された冷却水の温度である貯水温度Twを取得する温度センサで構成される。室温取得装置64は車両の車室の内部の温度である室温Trを取得する温度センサで構成される。電力量取得装置65はバッテリ2から出力される電力の総量、あるいは、バッテリ2に充電される電力の総量である電力量を取得するセンサで構成される。
【0036】
各種取得装置は対象の温度や電力を直に測定するセンサに限定されず、他の測定値に基づいて対象の温度を推定する装置で構成されてもよい。例えば、雰囲気温度取得装置61は車両の停車中のバッテリ温度調節回路10や暖房回路30の冷却水の温度に基づいて雰囲気温度Taを推定する装置でもよい。バッテリ温度取得装置62は雰囲気温度Taとバッテリ2の電力の入出量に基づいてバッテリ温度Tbを推定する装置でもよい。電力量取得装置65はバッテリ2に電気的に接続されてバッテリ2の電力を消費して駆動する装置の駆動状況に基づいてバッテリ2の電力量を推定する装置でもよい。
【0037】
要求温度設定装置66は運転手が所望する要求温度Tdを入力する装置であり、車室内に設置されたインストルメントパネルに組み込まれている。要求温度設定装置66は運転手により操作されて、冷房回路20や暖房回路30の駆動の有無や要求温度Tdが入力される。
【0038】
制御装置60は、機能要素としてバッテリ制御部67、室温制御部68、および、貯水放水制御部69を有する。各機能要素は、プログラムとして内部記憶装置に記憶されていて、適時、中央演算装置により実行されている。各機能要素としては、プログラムの他にそれぞれが独立して機能するプログラマブルコントローラ(PLC)や電気回路で構成されてもよい。
【0039】
バッテリ制御部67は、バッテリ温度Tbに基づいてバッテリ温度調節回路10を制御して、バッテリ温度Tbを温度範囲Tl~Thに収めるバッテリ温度調節を制御する機能要素である。室温制御部68は室温Trおよび要求温度Tdに基づいて冷房回路20および暖房回路30を制御して、室温Trが要求温度Tdにする室温調節を制御する機能要素である。貯水放水制御部69は外部電源からのバッテリ2の充電中に雰囲気温度Taに基づいて真空断熱タンク40の貯水を制御する機能要素である。また、貯水放水制御部69は真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水された場合にバッテリ制御部67の代わりにバッテリ温度調節回路10を制御するとともに室温制御部68の代わりに冷房回路20および暖房回路30を制御する機能要素である。加えて、貯水放水制御部69は真空断熱タンク40への貯水時や真空断熱タンク40からの放水時にバッテリ制御部67の代わりにバッテリ温度調節を制御するとともに室温制御部68の代わりに室温調節を制御する機能要素である。
【0040】
バッテリ温度調節の制御権は、主としてバッテリ制御部67が有しており、外部電源からのバッテリ2の充電中の雰囲気温度Taが後述する第一閾値T1を上回る場合にバッテリ制御部67から貯水放水制御部69に移る。また、その制御権は、真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水された状態で、バッテリ2の電力の入出時にもバッテリ制御部67から貯水放水制御部69に移る。
【0041】
室温調節の制御権は、主として室温制御部68が有しており、バッテリ制御部67が熱源を利用する場合はバッテリ制御部67から回路を作動する指示が出され、その指示に基づいて回路の作動を制御する。また、その制御権は、外部電源からのバッテリ2の充電中の雰囲気温度Taが後述する第二閾値T2を下回る場合にバッテリ制御部67から貯水放水制御部69に移る。また、その制御権は、真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水された状態で、バッテリ温度Tbの制御権がバッテリ制御部67に移った後に、室温制御部68から貯水放水制御部69に移る。
【0042】
図7図11に例示するように、温度調節機構10の制御方法は、バッテリ制御部67がバッテリ温度Tbを調節する方法(図7)と、室温制御部68が室温Trを調節する方法(図8)と、貯水放水制御部69が真空断熱タンク40へ貯水する方法(図9)および真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水を利用する方法(図10図11)である。各々の制御方法は所定の周期ごとに繰り返し行われる。所定の周期とは各取得装置が取得値を取得する周期とする。フロー図における一周期の経過は「リターン」で示す。
【0043】
図7に例示するように、バッテリ温度Tbを調節する方法は、バッテリ2に対して電力の入出が生じた際に開始され、バッテリ2に対する電力の入出が無くなるまで所定の周期ごとに繰り返し行われる。この方法は、外部電源からバッテリ2への充電中と真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水されている場合以外はバッテリ制御部67が行う。
【0044】
バッテリ2に対して電力の入出が生じると、バッテリ制御部67はバッテリ用ポンプ15をバッテリ2の電力により駆動する(S110)。次いで、バッテリ制御部67はバッテリ温度取得装置62を介してバッテリ温度Tbを取得する(S120)。次いで、バッテリ制御部67は取得したバッテリ温度Tbと予め設定された温度範囲に収まるか否かを判定する。本開示において、バッテリ温度Tbが温度範囲に収まるとは、バッテリ温度Tbが下限値Tlや上限値Thと等しいことも含むものとする。
【0045】
バッテリ温度Tbが温度範囲に収まると判定すると(S120:YES)、熱源の利用を停止する(S150)。バッテリ温度Tbが温度範囲から外れると判定すると(S120:NO)、バッテリ制御部67は通路の切り替えにより温度の調節が可能か否かを判定する(S140)。例えば、通路が冷却通路12に切り替えられている状態でバッテリ温度Tbが上限値Thを超える場合や通路が迂回通路13に切り替えられている状態でバッテリ温度Tbが下限値Tlを下回る場合は、通路の切替が不可能と判定する。一方、通路が迂回通路13に切り替えられている状態でバッテリ温度Tbが上限値Thを超える場合や通路が冷却通路12に切り替えられている状態でバッテリ温度Tbが下限値Tlを下回る場合は、通路の切替が可能と判定する。
【0046】
通路の切替が可能と判定すると(S140:YES)、バッテリ制御部67はバッテリ用流路切替装置14により通路を切り替える(S160)。通路の切替が不可能と判定すると(S140:NO)、バッテリ制御部67は熱源の利用を開始する(S170)。例えば、バッテリ温度Tbが上限値Thを超える場合に、バッテリ制御部67は室温制御部68に冷房回路20を作動させる指示を出す。この指示に基づいて室温制御部68は冷房回路20の電動コンプレッサ25をバッテリ2の電力により駆動し、冷房用第一弁装置24aを閉じ、冷房用第二弁装置24bを開き、冷媒を冷媒用熱交換器16に導く。また、バッテリ温度Tbが下限値Tlを下回る場合に、バッテリ制御部67はバッテリ用電気ヒータ17をバッテリ2の電力により駆動する。以上の制御が繰り返されることで、バッテリ温度Tbが適切な温度範囲Tl~Thに収まり、バッテリ2の温度による劣化を抑制することができる。
【0047】
図8に例示するように、室温Trを運転手が所望する要求温度Tdに調節する方法は、運転手が要求温度設定装置66を操作したときに開始され、再度、要求温度設定装置66が操作されるか、車両が停車して電力が切断されるまで所定の周期ごとに行われる。この方法は、真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水されている場合以外は室温制御部68が行う。
【0048】
要求温度設定装置66により要求温度Tdが入力されると、室温制御部68は室温取得装置64を介して室温Trを取得する(S220)。次いで、室温制御部68は取得した室温Trと入力された要求温度Tdとを比較する(S220、S230)。
【0049】
室温Trが要求温度Tdよりも高い場合に(S220:YES)、室温制御部68は電動コンプレッサ25をバッテリ2の電力により駆動して、冷房回路20を作動させて冷風により室内を冷却する(S240)。室温Trが要求温度Tdよりも低い場合に(S220:NO、S230:YES)、室温制御部68は暖房用ポンプ32および暖房用電気ヒータ33をバッテリ2の電力により駆動して、暖房回路30を作動させて温風により室内を加熱する(S250)。室温Trが要求温度Tdと等しい場合に(S220:NO、S230:NO)、室温制御部68は作動していた冷房回路20や暖房回路30の駆動を停止する(S260)。以上の制御が繰り返されることで、室温Trが運転手の所望する要求温度Tdに調節される。
【0050】
図9に例示するように、真空断熱タンク40に貯水する方法は、外部電源からバッテリ2を充電する期間内に行われる方法である。この方法は、バッテリ2の充電が開始されると開始され、バッテリ2の充電の開始からバッテリ2の充電が完了するまでの間の期間のうちで、少なくとも真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水されている間で所定の周期ごとに行われる。
【0051】
バッテリ2が図示しない外部電源に電気的に接続されて充電が開始すると、バッテリ制御部67は前述したバッテリ温度Tbの制御を行う。貯水放水制御部69はバッテリ2が外部電源からの充電中であるか否かを判定する(ステップS310)。バッテリ2が外部電源からの充電中と判定すると(S310:YES)、貯水放水制御部69は雰囲気温度取得装置61を介して雰囲気温度Taを取得する(S320)。次いで、貯水放水制御部69は取得した雰囲気温度Taの温度判定を行う(S330、S340)。温度判定において、貯水放水制御部69は、雰囲気温度Taが予め設定された第一閾値T1を上回る状態(S330:YES)、雰囲気温度Taが予め設定された第二閾値T2を下回る状態(S340:YES)、雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下の状態(S330:NO、S340:NO)の三つの状態を判定する。
【0052】
本開示において、第一閾値T1はバッテリ2の電力の入出時にバッテリ温度Tbが冷却水のみの冷却では適切な温度範囲の上限値Thよりも高くなり、冷房回路20の作動による冷媒を利用する頻度が多い状態を判定可能な値である。つまり、第一閾値T1はバッテリ2の電力の入出時にエネルギーを消費した冷熱源を利用して冷却する頻度が多い状態を判定可能な値である。第二閾値T2は第一閾値T1よりも低い値であり、バッテリ2の電力の入出時にバッテリ温度Tbが温度範囲の下限値Tlよりも低くなり、バッテリ用電気ヒータ17を駆動する頻度が多い状態を判定可能な値である。つまり、第二閾値T2はバッテリ2の電力の入出時にエネルギーを生じした温熱源を利用して加熱する頻度が多い状態を判定可能な値である。
【0053】
バッテリ2の電力の入出時にエネルギーを消費した冷熱源を利用して冷却する頻度が多い状態は日本国における夏季に生じ、温熱源を利用して加熱する頻度が多い状態は日本国における冬季に生じる。そこで、第一閾値T1は日本国における夏季を判定可能な値にしてもよく、第二閾値T2は日本国における冬季を判定可能な値にしてもよい。例えば、第一閾値T1は夏季の期間における平均気温が例示され、第二閾値T2は冬季の期間における平均気温が例示される。なお、雰囲気温度Taは日中や夜間で寒暖差が生じることから、日中用の閾値や夜間用の閾値と時間帯に応じた異なる閾値を設定するとよい。
【0054】
バッテリ2の電力の入出時にエネルギーを消費した冷熱源を利用して冷却する機会はバッテリ温度Tbが適切な温度範囲の上限値Thを上回るときであり、温熱源を利用して加熱する機会はバッテリ温度Tbが適切な温度範囲の下限値Tlを下回るときである。そこで、第一閾値T1はバッテリ2の適切な温度範囲の上限値Thに設定されてもよく、第二閾値T2は温度範囲の下限値Tlに設定されてもよい。
【0055】
雰囲気温度Taが第一閾値T1を上回ると判定すると(S330:YES)、バッテリ温度調節の制御権がバッテリ制御部67から貯水放水制御部69に切り替わる(S350)。次いで、貯水放水制御部69がバッテリ温度調節回路10、冷房回路20、および、流路切替装置50を制御して、バッテリ温度Tbを温度範囲Tl~Thに収めながら、冷媒用熱交換器16において冷熱源である冷媒で冷却された冷水を真空断熱タンク40に貯水する(S360)。
【0056】
雰囲気温度Taが第二閾値T2を下回ると判定すると(S340:YES)、室温調節の制御権が室温制御部68から貯水放水制御部69に切り替わる(S370)。次いで、貯水放水制御部69が暖房回路30および流路切替装置50を制御して、温熱源である暖房用電気ヒータ33で加熱された温水を真空断熱タンク40に貯水する(S380)。雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下と判定すると(S330:NO、S340:NO)、制御権が貯水放水制御部69に切り替わることなく、真空断熱タンク40への冷水または温水の貯水が禁止される(S390)。
【0057】
外部電源からバッテリ2への充電が完了すると(S310:NO)、貯水放水制御部69は真空断熱タンク40への貯水を停止するとともに各々の制御権をバッテリ制御部67や室温制御部68に戻し、それらの制御部が各々の装置を停止して、この制御方法が完了する。なお、外部電源からバッテリ2が充電されている間で絶えず真空断熱タンク40に貯水してもよいが、貯水温度取得装置63で取得した貯水温度Twに基づいて貯水を終了させてもよい。例えば、貯水温度Twが所定の時間が経過しても変化しない場合や、貯水温度Twが予め設定された閾値になった場合に貯水を終了させてもよい。
【0058】
図1に例示するように、ステップS360において、バッテリ温度調節回路10ではバッテリ用流路切替装置14により冷却水の流路が迂回通路13に切り替わる。冷房回路20では電動コンプレッサ25が駆動し、冷房用第一弁装置24aが冷房用通路22を遮断し、冷房用第二弁装置24bがバッテリ用通路23を開放する。このとき、エバポレータ28の後続の電動ファンの駆動は停止する。これにより、バッテリ温度調節回路10では冷媒用熱交換器16で冷房回路20の冷媒と冷却水とが熱交換して、冷却水が冷却される。次いで、第一弁装置51および第二弁装置52が開いて第一接続配管41および第二接続配管42を開放する。第六弁装置56を除く他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40では冷媒用熱交換器16で冷媒により冷却された冷水が注入され、その冷水が貯水される。同時に、第六弁装置56によりバッテリ2へ流れる冷水の流量を調節し、バッテリ温度Tbが調節される。
【0059】
なお、雰囲気温度Taが第一閾値T1よりも高い場合に、貯水放水制御部69は、図7における制御フローで熱源の利用を停止する判定をしても、冷房回路20を作動させて冷水を真空断熱タンク40に貯水することを優先する。また、貯水放水制御部69は、図7における制御フローで通路を切り替える判定をしても、迂回通路13から冷却通路12への切り替えを禁止する。
【0060】
図2に例示するように、ステップS380において、バッテリ温度調節回路10ではバッテリ用流路切替装置14により冷却水の流路が迂回通路13に切り替わるとともにバッテリ用電気ヒータ17が駆動して冷却水を加熱する。なお、バッテリ温度Tbによっては、バッテリ温度調節回路10ではバッテリ用流路切替装置14により冷却水の流路が冷却通路12に切り替わり、空冷の冷却水でバッテリ2を冷却する場合もある。暖房回路30では暖房用ポンプ32が駆動し、暖房用電気ヒータ33が駆動する。このとき、エバポレータ28の後続で暖房用熱交換器34に送風する電動ファンの駆動は停止する。これにより、暖房回路30では暖房用電気ヒータ33により冷却水が加熱される。次いで、第四弁装置54および第五弁装置55が開き第四接続配管44および第五接続配管45を開放する。その他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40では暖房用電気ヒータ33で加熱された温水が注入し、その温水が貯水される。
【0061】
なお、雰囲気温度Taが第二閾値T2よりも低い場合は、バッテリ温度調節回路10と暖房回路30に接続された真空断熱タンク40とが互いに独立した回路になり、真空断熱タンク40に温水を貯水しても、バッテリ温度調節回路10に何ら影響がない。そこで、雰囲気温度Taが第二閾値T2よりも低い場合は、バッテリ温度調節の制御権はバッテリ制御部67にある。
【0062】
図10に例示するように、外部電源からの充電を除き、バッテリ2に対する電力の入出時に真空断熱タンク40に貯水された冷水を利用する方法は、バッテリ2の電力の入出が開始されてから開始される。この方法は、真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水の供給によるバッテリ温度調節が不必要または不可能になるまで行われる。以下のフロー図では運転手により要求温度設定装置66が操作され、要求温度Tdが室温Trよりも低い、あるは要求温度Tdが室温Trよりも高いものとする。
【0063】
真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水された状態でバッテリ2の電力の入出が生じると、図7に例示するバッテリ温度調節の制御権がバッテリ制御部67から貯水放水制御部69に切り替わる(S410)。なお、この時点において、室温調節の制御権は室温制御部68にあり、室温制御部68は入力された要求温度Tdと取得した室温Trとに基づいて冷房回路20を作動させる。次いで、貯水放水制御部69はバッテリ用ポンプ15をバッテリ2の電力により駆動する(S420)。次いで、貯水放水制御部69は貯水温度取得装置63を介して貯水温度Twを、バッテリ温度取得装置62を介してバッテリ温度Tbを、電力量取得装置65を介して電力量Pbをそれぞれ取得する(S430)。
【0064】
次いで、貯水放水制御部69は真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水の供給によるバッテリ温度Tbの調節が不必要または不可能な状態を判定する(S440、S450、および、S460)。具体的に、貯水放水制御部69は、取得したバッテリ温度Tbが適切な温度範囲に収まっているか否かを判定する(S440)。また、貯水放水制御部69は、真空断熱タンク40に冷水が貯水されている場合に取得した電力量Pbの絶対値が予め設定された第一負荷閾値P1を上回るか否かを判定し、真空断熱タンク40に温水が貯水されている場合に電力量Pbの絶対値が予め設定された第二負荷閾値P2を下回るか否かをする(S450)。この二つの判定により冷水または温水によるバッテリ温度調節が不必要な状態を判定する。加えて、貯水放水制御部69は、真空断熱タンク40に冷水が貯水されている場合に取得した貯水温度Twが予め設定された第三閾値T3よりも低いか否か、あるいは、真空断熱タンク40に温水が貯水されている場合に貯水温度Twが予め設定された第四閾値T4よりも高いか否かを判定する(S460)。この判定により冷水または温水によるバッテリ温度調節が不可能な状態を判定する。
【0065】
本開示において、第一負荷閾値P1は真空断熱タンク40に冷水が貯水された場合の閾値である。第一負荷閾値P1は、バッテリ2の電力負荷が大きく、バッテリ温度Tbの上昇率が高く、バッテリ温度調節回路10において、冷却通路12の空冷熱交換器19でバッテリ温度Tbが適切な温度範囲に維持することが不可能な状態を判定可能な値である。例えば、電力量Pbの絶対値が第一負荷閾値P1を上回る場合は、車両の走行開始直後、急な登坂路や降坂路の走行中が例示される。第二負荷閾値P2は真空断熱タンク40に温水が貯水された場合の閾値である。第二負荷閾値P2はバッテリ2の電力負荷が小さく、バッテリ温度Tbの上昇率が低く、バッテリ温度調節回路10において、迂回通路13に切り替えられた状態でバッテリ温度Tbが適切な温度範囲に維持することが不可能な状態を判定可能な値である。例えば、電力量Pbの絶対値が第二負荷閾値P2を下回る場合は、車両が渋滞した道の走行中や緩やかな降坂路の走行中が例示される。なお、電力量Pbはバッテリ2から出力される電力量を正とし、バッテリ2に充電される電力量を負とする。
【0066】
第三閾値T3は真空断熱タンク40に貯水された冷水が冷熱源の代わりにバッテリ2を十分に冷却できる状態を判定可能な値である。例えば、第三閾値T3としてはバッテリ2の適切な温度範囲の下限値Tlが例示される。また、第三閾値T3としてはバッテリ温度調節回路10の流路が冷却通路12に切り替えられている場合の冷却水の温度も例示される。第四閾値T4は真空断熱タンク40に貯水された温水が温熱源の代わりにバッテリ2を十分に加熱できる状態を判定可能な値である。例えば、第四閾値T4としてはバッテリ2の適切な温度範囲の上限値Thが例示される。また、第四閾値T4としてはバッテリ温度調節回路10の流路が迂回通路13に切り替えられている場合の冷却水の温度も例示される。
【0067】
バッテリ温度調節が必要かつ可能な状態の場合に(S440:NO、または、S450:YES、かつ、S460:YES)、貯水放水制御部69は流路切替装置50を制御して、バッテリ温度調節回路10の冷熱源や温熱源の代わりに真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水を利用する(S470)。このステップ以後、図7のステップS170では熱源の代わりに真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水が利用される。
【0068】
バッテリ温度Tbの調節が不必要あるいは不可能な状態の場合に(S440:YESかつS450:NO、または、S460:NO)、貯水放水制御部69は以後の真空断熱タンク40に貯水された冷水の利用を禁止する(S480)。次いで、バッテリ温度調節の制御権は貯水放水制御部69からバッテリ制御部67に切り替わり(S490)、以後のバッテリ温度Tbの調節はバッテリ制御部67が図7に例示する制御フローに基づいて行う。
【0069】
図3に例示するように、真空断熱タンク40に冷水が貯水されている場合に、ステップS470において、バッテリ温度調節回路10ではバッテリ用流路切替装置14により冷却水の流路が迂回通路13に切り替わる。次いで、第二弁装置52および第三弁装置53が開き第二接続配管42および第三接続配管43を開放する。その他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40に貯水された冷水がバッテリ用ポンプ15の駆動によりバッテリ温度調節回路10に供給され、バッテリ温度Tbが調節される。なお、このとき、室温調節の制御権は室温制御部68にあるので、室温制御部68は図8に例示する制御フローにより室温Trを要求温度Tdに調節する。室温Trが要求温度Tdよりも高い場合に、冷房回路20が作動して冷風が送風される。
【0070】
図4に例示するように、真空断熱タンク40に温水が貯水されている場合に、ステップS470において、バッテリ温度調節回路10ではバッテリ用流路切替装置14により冷却水の流路が迂回通路13に切り替わる。次いで、第二弁装置52および第三弁装置53が開き第二接続配管42および第三接続配管43を開放する。その他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40に貯水された温水がバッテリ用ポンプ15の駆動によりバッテリ温度調節回路10に供給され、バッテリ温度Tbが調節される。なお、このとき、室温調節の制御権は室温制御部68にあるので、室温制御部68は図8に例示する制御フローにより室温Trを要求温度Tdに調節する。室温Trが要求温度Tdよりも低い場合に、暖房回路30が作動して温風が送風される。
【0071】
図11に例示するように、次いで、室温調節の制御権が室温制御部68から貯水放水制御部69に切り替わる(S510)。次いで、貯水放水制御部69は貯水温度取得装置63を介して貯水温度Twを取得する(S520)。次いで、貯水放水制御部69は冷水の貯水温度Twが要求温度Tdよりも低いか否か、あるいは、温水の貯水温度Twが要求温度Tdよりも高いか否かを判定する(S530)。
【0072】
冷水の貯水温度Twが要求温度Tdよりも低い、あるいは、温水の貯水温度Twが要求温度Tdよりも高いと判定すると(S530:YES)、貯水放水制御部69は流路切替装置50を制御して、真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水を暖房回路30に供給する(S540)。次いで、貯水放水制御部69は暖房用ポンプ32をバッテリ2の電力により駆動する(S550)。次いで、貯水放水制御部69は冷房回路20の電動コンプレッサ25の駆動を停止して冷房回路20の作動を停止する、または、暖房用電気ヒータ33の駆動を停止して暖房回路30の作動を停止する(S560)。なお、この暖房回路30の作動の停止は、暖房回路30が暖房用電気ヒータ33の駆動により温風を送風する作動が停止することを意味するものとする。
【0073】
図5に例示するように、真空断熱タンク40に冷水が貯水されている場合に、ステップS540~S560において、冷房回路20の作動が停止し、第四弁装置54および第五弁装置55が開き第四接続配管44および第五接続配管45を開放する。その他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40に貯水された冷水が暖房用ポンプ32の駆動により暖房回路30に供給される。次いで、暖房用熱交換器34でエバポレータ28の後続の電動ファンで送風された空気と冷水とが熱交換し、送風された空気が冷水により冷却される。次いで、送風された冷風により室温Trが調節される。なお、このとき、バッテリ温度Tbの制御権はバッテリ制御部67にあるので、バッテリ制御部67は図7に例示する制御フローによりバッテリ温度Tbを調節する。
【0074】
また、真空断熱タンク40に温水が貯水されている場合に、ステップS540~S560において、暖房回路30の暖房用電気ヒータ33の駆動が停止し、第四弁装置54および第五弁装置55が開き第四接続配管44および第五接続配管45を開放する。その他の弁装置は閉じる。これにより、真空断熱タンク40に貯水された温水が暖房用ポンプ32の駆動により暖房回路30に供給される。次いで、暖房用熱交換器34でエバポレータ28の後続の電動ファンで送風された空気と温水とが熱交換し、送風された空気が温水により加熱される。次いで、送風された温風により室温Trが調節される。なお、このとき、バッテリ温度Tbの制御権はバッテリ制御部67にあるので、バッテリ制御部67は図7に例示する制御フローによりバッテリ温度Tbを調節する。
【0075】
以上のように第一実施形態の温度調節機構1は、外部電源からのバッテリ2の充電時で電力を消費してもよい状況でエネルギーを消費して真空断熱タンク40に冷水や温水を貯水し、外部電源からの充電を除くバッテリ2の電力の入出時のバッテリ温度調節に真空断熱タンク40に貯水された冷水や温水を利用する。それ故、この温度調節機構1によれば、外部電源からの充電を除くバッテリ2の電力の入出時にバッテリ温度調節をバッテリ用ポンプ15の電力の消費のみで行うことが可能となり、バッテリ2の寿命を延ばすために要する消費電力を低減できる。これにより、バッテリ2の寿命を延ばしつつ、バッテリ2の充電量の減りを緩和して、車両の航続距離を伸ばすことができる。
【0076】
また、この温度調節機構1は真空断熱タンク40に貯水された冷水または温水を主としてバッテリ温度調節に利用し、副として室温調節に利用する。温度調節機構1は、バッテリ温度調節に冷水または温水の利用が不必要な場合に、あるいは、冷水または温水によりバッテリ温度調節が不可能な場合に、冷水または温水を車室内に設置された熱交換器に供給し、車室内の室温調節に利用する。それ故、温度調節機構10によれば、室温調節を冷水または温水をその熱交換器に送るポンプの電力の消費のみで行うことが可能となり、室温調節のために要する消費電力を低減できる。これにより、バッテリ2の充電量の減りを緩和して、車両の航続距離を伸ばすことができる。加えて、予め冷却されている冷水や予め加熱されている温水を利用することで、冷暖房の効きがよくなり、冷房回路20や暖房回路30を利用するよりも早期に車室内を冷やす、あるいは、温めることができる。
【0077】
図12に例示するように、第二実施形態の温度調節機構10は第一実施形態に対してヒートポンプ式の冷暖房回路70を備え、温熱源として冷暖房回路70の冷媒を用いる点が異なっている。この実施形態の温度調節機構1は、バッテリ温度調節回路10、冷暖房回路70、および、室内熱交換回路80を備えて構成される。
【0078】
バッテリ温度調節回路10は、第一実施形態と同様の構成でもよく、冷媒用熱交換器16で冷却水を加熱できるので、バッテリ用電気ヒータ17を備えなくてもよい。
【0079】
冷暖房回路70は、冷媒が正循環または逆循環する回路であり、冷媒が正循環した場合に車室内を冷房し、冷媒が逆循環した場合に車室内を暖房する。冷暖房回路70は、冷暖房用共有通路71、冷暖房用通路72、バッテリ用通路73、および、冷暖房用流路切替装置74(図中には符号74を図示しない。この符号74は冷暖房用通路72、バッテリ用通路73の各々に配置された冷暖房用第一弁装置74a~冷暖房用第四弁装置74dの総称とする。)を有して構成される。
【0080】
冷暖房用共有通路71は、冷房作動時の冷媒の正循環の流れに関して、電動コンプレッサ75およびコンデンサ76が順に配置される。冷暖房用通路72は、冷房作動時の冷媒の正循環の流れに関して、膨張弁77およびエバポレータ78が順に配置される。バッテリ用通路73は、冷房作動時の冷媒の正循環の流れに関して、膨張弁79および冷媒用熱交換器16が配置される。
【0081】
冷暖房回路70は、室温Trが要求温度Tdよりも高い場合に、電動コンプレッサ75がバッテリ2の電力により駆動して、冷暖房用第一弁装置74aおよび冷暖房用第三弁装置74cにより冷暖房用通路72を開放して、第一実施形態と同様に冷媒を図中の左回りに正循環させる。冷暖房回路70は、室温Trが要求温度Tdよりも低い場合に、電動コンプレッサ75がバッテリ2の電力により駆動して、冷暖房用第一弁装置74aおよび冷暖房用第三弁装置74cにより冷暖房用通路72を開放して、第一実施形態とは反対に冷媒を図中の右回りに逆循環させる。電動コンプレッサ25から吐出された高圧高温の冷媒は、エバポレータ78で後続の電動ファンにより吹き込まれた空気と熱交換して、空気を温める。以上のような過程を経て温風が車室内に吹き出す。
【0082】
冷暖房回路70は、バッテリ温度調節回路10が冷媒を用いて冷媒用熱交換器16で冷却水を冷却する状況、あるいは、加熱する状況の場合に、電動コンプレッサ75をバッテリ2の電力により駆動して、冷暖房用第二弁装置74bおよび冷暖房用第四弁装置24dによりバッテリ用通路73を開放して、冷媒を冷暖房用共有通路71およびバッテリ用通路73に循環させる。冷却水を冷却する場合に第一実施形態と同様に図中の左回りに冷媒が正循環し、膨張弁29で霧状に噴霧された冷媒は冷媒用熱交換器16で冷却水との熱交換により気化し、冷却水から気化熱を奪う。以上のような過程を経て冷媒用熱交換器16で冷却水が冷却される。冷却水を加熱する場合に第一実施形態と反対に図中の右回りに冷媒が逆循環し、電動コンプレッサ75で高温高圧となった冷媒は冷媒用熱交換器16で冷却水との熱交換で冷却水と熱交換して、冷却される。以上のような過程を経て冷媒用熱交換器16で冷却水が加熱される。
【0083】
室内熱交換回路80は、第一実施形態の暖房回路30から暖房用電気ヒータ33、サブタンク35が省かれた構造を成し、熱交換回路81に熱交換用ポンプ82、室内用熱交換器83を有して構成される。
【0084】
第二実施形態の温度調節機構1は、真空断熱タンク40に温水を貯水するときに、第一実施形態の真空断熱タンク40に冷水を貯水するときと同様の冷却水の流路にし、冷暖房回路70で高温高圧の冷媒を冷媒用熱交換器16に供給する。それ以外の制御に関しては第一実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0085】
以上のように、温度調節機構1は、ヒートポンプ式の冷暖房回路70を用いた構成にしても、第一実施形態と同様に、外部電源からのバッテリ2の充電時で電力を消費してもよい状況でエネルギーを消費して真空断熱タンク40に冷水や温水を貯水し、外部電源からの充電を除くバッテリ2の電力の入出時のバッテリ温度Tbの調節に真空断熱タンク40に貯水された冷水や温水を利用することが可能となる。
【0086】
また、ヒートポンプ式の冷暖房回路70を用いる場合は、バッテリ温度調節回路10および冷暖房回路70のみで真空断熱タンク40に冷水および温水の両方を貯水することが可能となる。この場合に、室内熱交換回路80を備えることが望ましい。室内熱交換回路80を備えることで、室温調節を冷暖房回路70を作動せずに、冷水または温水を室内用熱交換器83に送る熱交換用ポンプ82の電力の消費のみで行うことが可能となり、室温Trの調節のために要する消費電力を低減できる。
【0087】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の温度調節機構1は特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0088】
温度調節機構1が適用可能な車両は電気車両に限定されない。本開示の温度調節機構1は、外部電源から充電可能なバッテリ2を搭載した車両であれば適用可能であり、車両の駆動源としてエンジンおよびモータを備えるハイブリッド車両にも適用可能である。温度調節機構1をハイブリッド車両に適用した場合に、エネルギーを消費して生じる温熱源としては、暖房回路30の他に駆動したエンジンの冷却水を用いることもできる。なお、冷水を真空断熱タンク40に貯水することができなくなるが、温水のみの利用であれば、本開示の温度調節機構1を外部電源から充電不可能なバッテリを搭載した車両にも適用可能である。
【0089】
バッテリ温度調節回路10におけるバッテリ用共有通路11に配置される各々の装置の配置は、冷却水の流れに関して、冷媒用熱交換器16およびバッテリ用電気ヒータ17がバッテリ2よりも上流の側に配置されていればよく、他の装置に関しては特に限定されるものではない。また、サブタンク18は必ずしも必要ではない。また、バッテリ用流路切替装置14は、冷却通路12および迂回通路13を切替可能であればよく、冷却通路12および迂回通路13の分岐点に配置されてもよく、各々の通路に配置された複数の弁装置で構成されてもよい。
【0090】
冷房回路20は冷媒の流れに関して、コンデンサ26と膨張弁27および膨張弁29の間に液化できない冷媒を分離して、乾燥剤やストレーナにより水分や不純物を取り除くレシーバを介在させてもよい。また、冷房用流路切替装置24はバッテリ用流路切替装置14と同様に三方弁で構成されてもよいが、エバポレータ28と冷媒用熱交換器16の両方に冷媒が流れる状態に対応する必要がある。
【0091】
暖房回路30は、各々の装置の暖房用循環通路31における配置順は特に限定されない。また、サブタンク35は必ずしも必要ではない。前述したとおり、エンジンを搭載した車両においては、暖房回路30に暖房用電気ヒータ33を備えずにエンジンの冷却水を用いる構成にしてもよい。
【0092】
真空断熱タンク40の容量は特に限定されるものではない。また、真空断熱タンク40の貯水量は、その容量に対して100%(満杯)の状態でもよい。本開示において、真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水されるとは、真空断熱タンク40に冷水または温水が注入されるとともに貯水されていた冷却水が放出され、冷却水から冷水に入れ替わる、あるいは、温水に入れ替わることを意味する。つまり、真空断熱タンク40に冷水または温水が貯水されるとは、真空断熱タンク40の貯水量を変えずに貯水された冷却水の温度のみが変わることを意味する。真空断熱タンク40の貯水量が容量に対して100%未満の場合に、その貯水量を取得するセンサを用いて、貯水量が少なくなったときに真空断熱タンク40からの冷水や温水の供給を停止する制御を追加するとよい。また、真空断熱タンク40の貯水量が恒常的に少なくなったときに、各々のサブタンク18、35から冷却水を補充するとよい。
【0093】
既述した実施形態の真空断熱タンク40は、雰囲気温度Taが第一閾値T1より高い、あるいは、第二閾値T2よりも低い場合に冷水または温水が貯水される。つまり、真空断熱タンク40は雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下の場合に貯水が禁止される。例えば、雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下になる場合は、日本国において春季や秋季が例示される。雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下の場合に、バッテリ温度調節において冷熱源や温熱源を利用する頻度は低く、真空断熱タンク40に貯水した冷水または温水が使用されない可能性があるからである。なお、雰囲気温度Taが第二閾値T2以上、かつ、第一閾値T1以下になる場合は、真空断熱タンク40を空にする制御を行ってもよい。
【0094】
雰囲気温度Taが第二閾値T2を下回る場合でも、電気車両の走行直後に外部電源からバッテリ2に充電するときには、バッテリ温度Tbが適切な温度範囲の上限値Thを上回る状況がある。この場合、バッテリ温度調節回路10は冷房回路20を作動させて冷媒による冷却で、バッテリ温度Tbが適切な温度範囲に収めようとする。このとき、同時に暖房回路30を作動して真空断熱タンク40への温水の貯水を充電直後から開始してもよいが、充電時間が所定の時間が経過した後に開始するとよい。所定の時間としては、バッテリ温度Tbが適切な温度範囲に収まることを判定可能な時間が例示される。
【0095】
外部電源として三相200Vを用いた急速充電器でバッテリ2を充電する場合は、真空断熱タンク40への冷水や温水の貯水よりも、バッテリ2の充電を優先することが望ましい。これにより、真空断熱タンク40への貯水により急速充電器によるバッテリ2の早期の充電完了が阻害される事態を回避するには有利になる。
【0096】
真空断熱タンク40に貯水される冷水の温度や温水の温度には、バッテリ温度調節回路10への供給に適した温度範囲を定めるとよい。例えば、冷水の温度が低すぎたり、温水の温度が高すぎたりすると、その冷水や温水をバッテリ温度調節回路10に供給したときに、バッテリ温度Tbが適切な温度範囲から外れるおそれがある。そこで、真空断熱タンク40に冷水が貯水されている場合に上限である第三閾値T3に加えて下限の閾値を設けたり、真空断熱タンク40に温水が貯水されている場合に下限である第四閾値T4に加えて上限の閾値を設けたりするとよい。真空断熱タンク40に貯水された冷水の温度や温水の温度がバッテリ温度調節回路10への供給に適した温度範囲から外れた場合は、バッテリ温度調節には利用せず、室温調節に利用することが望ましい。
【0097】
図7に例示するように、バッテリ温度Tbの調節においては、バッテリ温度調節回路10における冷却通路12および迂回通路13の切り替えがある。外部電源からのバッテリ2の充電中は、電気車両が停車しているため走行風を利用することができない。そのため、外部電源からのバッテリ2の充電中は、冷却通路12および迂回通路13の切り替えを行わずに、迂回通路13に限定するとよい。これにより、冷熱源を用いて冷却された冷却水が空冷熱交換器19で温められたり、温熱源を用いて加熱された冷却水が空冷熱交換器19で冷却されたりする事態を避けることが可能となる。また、同様に、バッテリ2の電力の入出時に真空断熱タンク40に貯水された冷水や温水をバッテリ温度調節回路10に利用する場合も、冷却通路12を通過させると冷水が温められたり、温水が冷却されたりするときは、通路の切り替えを行わずに迂回通路13に限定するとよい。
【符号の説明】
【0098】
1 温度調節機構
2 バッテリ
10 バッテリ温度調節回路
15 バッテリ用ポンプ
16 冷媒用熱交換器
17 バッテリ用電気ヒータ
20 冷房回路
25 電動コンプレッサ
26 コンデンサ
27、29 膨張弁
28 エバポレータ
30 暖房回路
32 暖房用ポンプ
33 暖房用電気ヒータ
34 暖房用熱交換器
40 真空断熱タンク
41~45 接続配管
50 流路切替装置
60 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12