(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146483
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/228 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
C08J9/228 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047469
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 貴史
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA24A
4F074AB03
4F074AB05
4F074AD11
4F074AD13
4F074AG07
4F074BC12
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA24
4F074DA34
(57)【要約】
【課題】グリップ性に優れ、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得る発泡粒子成形体を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなる発泡粒子成形体であって、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である、発泡粒子成形体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなる発泡粒子成形体であって、
前記被覆層は非発泡状態であり、
前記被覆層は熱可塑性エラストマーをとし、
前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、
前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、
前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である、発泡粒子成形体。
【請求項2】
前記被覆層の基材ポリマーの動摩擦係数が1以上である、請求項1に記載の発泡粒子成形体。
【請求項3】
前記芯層の基材樹脂の曲げ弾性率が、500~1500MPaである、請求項1又は2に記載の発泡粒子成形体。
【請求項4】
前記芯層は、帯電防止剤を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の発泡粒子成形体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の発泡粒子成形体からなる包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体に比較して、耐薬品性、耐衝撃性、圧縮歪回復性等に優れている。このため、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、衝撃吸収材、断熱材及び各種包装材等として、食品容器、電気・電子部品の包装・緩衝材、自動車バンパーや内装部材、住宅用断熱材等の建築部材、雑貨等の広い分野で利用されている。しかし、プロピレン系樹脂の結晶性及び耐熱性に起因する成形加工の難しさを解決するため、プロピレン系樹脂発泡粒子を用いた型内成形法の改良が求められており、異なった樹脂で被覆されたプロピレン系樹脂発泡粒子を用いた成形体の検討が行われている。
【0003】
特許文献1及び2には、低圧での成形性と、剛性、耐熱性を有する成形体を得ることを目的として、ポリプロピレン系樹脂から形成される芯層とポリプロピレン系樹脂から形成される外層とからなる多層構造の発泡粒子が開示されている。例えば、特許文献1には、該外層のポリプロピレン系樹脂の融点と、該芯層のポリプロピレン系樹脂の融点との関係が特定の関係式を満足し、該外層の厚さが30μm以下である多層発泡粒子に発泡剤を含浸させて、加熱軟化状態の発泡剤含浸多層樹脂粒子を発泡させるプロピレン系樹脂発泡粒子及び成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-68016号公報
【特許文献2】特開2012-126816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のようにポリプロピレン系発泡粒子成形体を、例えば梱包容器として使用した場合には、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体と比較するとポリプロピレン系発泡粒子成形体は強度に優れ、従来のポリエチレン容器などのプラスチック容器に比べるとポリプロピレン系発泡粒子成形体は軽量で保護性に優れるものとなる。しかし、このような梱包容器を、被梱包材を梱包した状態で運搬する際に、被梱包物によっては成形体表面が被梱包物と擦れて変化し、被梱包物との接触部分の成形体表面の外観が悪化したり、被梱包物との接触部分の成形体のグリップ力が低下したりしてしまうおそれがあった。また、成形体の外観が悪化した場合には、繰り返し使用の際にも、当初のグリップ性能が発揮され難くなることがあった。
そこで、本発明は、グリップ性に優れ、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得る発泡粒子成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を構成する発泡粒子を多層発泡粒子とし、ポリプロピレン系樹脂多層発泡粒子の被覆層を非発泡状態とすると共に熱可塑性エラストマーによって構成し、成形体の動摩擦係数、静摩擦係数及び密度を特定の範囲にすることによって、前記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなる発泡粒子成形体であって、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である、発泡粒子成形体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、グリップ性に優れ、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得る発泡粒子成形体を得ることができるため、包装容器として特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の発泡粒子成形体を用いて摩擦係数を測定した場合の荷重変位曲線の概念図である。
【
図2】本発明の要件を満たさない発泡粒子成形体を用いて摩擦係数を測定し、スティックスリップ現象が発生した場合の荷重変位曲線の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発泡粒子成形体]
本発明の発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなる発泡粒子成形体であって、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である。
【0010】
<発泡粒子成形体の摩擦係数>
本発明の発泡粒子成形体において、発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する発泡粒子成形体の静摩擦係数の比は、0.4~0.9である。
動摩擦係数に対する発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が前記の範囲であることによって、グリップ性に優れ、特に摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得る発泡粒子成形体とすることができる。その理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の発泡粒子成形体では、成形体の動摩擦係数に対する発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が前記範囲、すなわち動摩擦係数と静摩擦係数が近い値を有することから、被包装物が振動等により動いた場合に、摩擦によるスティックスリップ現象が生じにくくなり、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得るものとなる。一方で、動摩擦係数が比較的大きい値となるので、グリップ性に優れるものになると考えられる。
特に、本発明においては、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子が、多層発泡粒子であり、その被覆層が熱可塑性エラストマーを基材とし、且つ非発泡の状態であることによって、はじめて上記の摩擦特性が発揮されると考えられる。
上記観点から、発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する発泡粒子成形体の静摩擦係数の比は、好ましくは0.45~0.80であり、より好ましくは0.47~0.75である。
【0011】
さらに、本発明の発泡粒子成形体において、発泡粒子成形体の動摩擦係数は、1.0~3.0であり、好ましくは1.1~2.5であり、より好ましくは1.2~2.0である。
発泡粒子成形体の摩擦特性が上記の関係を満足しつつ、動摩擦係数が前記の範囲であることによって、振動などによって成形体が移動した際にも、再び被包装物を保持することが容易となり、グリップ力に優れるものとなる。
【0012】
なお、動摩擦係数は、JIS K7125に準拠し、実施例に記載の方法で測定することができる。また、静摩擦係数は、JIS K7125に準拠し、実施例に記載の方法で測定することができる。得られた静摩擦係数と前記動摩擦係数から、発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する発泡粒子成形体の静摩擦係数の比を算出することができる。
【0013】
本発明の発泡粒子成形体において、発泡粒子成形体の静摩擦係数は、好ましくは0.7~2であり、より好ましくは0.8~1.8であり、更に好ましくは0.9~1.8である。
【0014】
図1に本発明の発泡粒子成形体の摩擦係数を測定した際の荷重変位曲線の概念図を示す。また、
図2に本発明の要件を満たさない発泡粒子成形体の摩擦係数を測定した際の荷重変位曲線の概念図を示す。
図2の荷重変位曲線を与える発泡粒子成形体は、被覆層が非発泡状態でなく、被覆層の基材ポリマーは熱可塑性エラストマーを含まず、発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する静摩擦係数の比が0.9を超えるものである。
図2の荷重変位曲線においては、摩擦係数測定時の摩擦によって振動が生じており、スティックスリップ現象が生じることがわかる。一方、
図1の荷重変位曲線においては、摩擦係数測定時の摩擦によっても振動が生じておらず、スティックスリップ現象が生じにくく、グリップ性に優れることがわかる。
【0015】
<発泡粒子成形体の成形体密度>
本発明の発泡粒子成形体において、前記発泡粒子成形体の成形体密度は、30~300kg/m3であり、好ましくは30~100kg/m3であり、より好ましくは30~70kg/m3であり、更に好ましくは40~70kg/m3である。
成形体密度が前記の範囲であることによって、軽量であり、クッション性に優れる成形体となる。さらには、上記のような発泡粒子成形体の成形体密度となるような、発泡粒子の気泡、及び気泡膜が形成されていることによって、前記発泡粒子成形体の表面における被包装物との接触状態が上記の摩擦特性を発揮し得るものとなると考えられる。
【0016】
[多層発泡粒子]
本発明の発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなり、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとする。
【0017】
<被覆層>
前記多層発泡粒子の被覆層は、芯層を被覆するものであり、被覆層は非発泡状態である。被覆層が非発泡状態であることにより、発泡粒子成形体とした際にはその表面において、特定の摩擦特性を発揮させることが可能となる。また、被覆層が非発泡層であることで、発泡粒子表面の気泡による凹凸が軽減され、良好な外観の発泡粒子成形体が得ることが可能となると考えられる。
ここで、非発泡状態とは、被覆層中に気泡が全く存在しない状態のみならず、ごく微小な気泡が僅かに存在する実質的に非発泡状態である場合も包含する。また、被覆層中に気泡が全く存在しない状態は、一旦形成された気泡が破泡して気泡が消滅した状態も包含する。
前記被覆層は、芯層の表面の50%以上の面積を覆うことが好ましく、70%以上の面積を覆うことがより好ましく、実質的に100%の面積を覆っていてもよいが、上限としては、概ね90%程度である。
【0018】
多層発泡粒子の製造方法については後述するが、例えば、被覆層の原料となるポリマーには気泡核剤を含有しないこと、被覆層と芯層の融点差を大きくすること、芯層と被覆層の質量比(芯層/被覆層)を特定範囲とすることなどにより、被覆層を非発泡状態とすることができる。そして、芯層が発泡する条件においても被覆層は発泡しない条件か、被覆層が発泡したとしても安定して気泡を保持できず破泡する条件において、得られる被覆層は非発泡状態として形成することができる。上記の観点から、被覆層中の気泡核剤の量が、被覆層の基材ポリマー100部に対して2部未満であることが好ましく、より好ましくは1部以下であり、さらに好ましくは被覆層に気泡核剤が含まれていないことが好ましい。
【0019】
(被覆層の基材ポリマー)
被覆層は、熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとする。被覆層が熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとすることにより、被覆層は柔軟性に優れたものとなり、発泡粒子成形体の表面がグリップ特性に優れたものとなると考えられる。一方で、被覆層が非発泡状態であることによって、発泡粒子成形体の表面は、滑らかな表面状態が形成されていると考えられるので、グリップ特性に優れつつ、スティックスリップ現象が生じ難い、特定の摩擦特性を有する発泡粒子成形体の表面状態が形成されると考えられる。
【0020】
被覆層が熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとするとは、被覆層のポリマーが熱可塑性エラストマーを主成分とすることを意味する。具体的には、被覆層のポリマー中の熱可塑性エラストマーの含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは97質量%以上であり、より更に好ましくは99質量%以上である。上限には制限はなく、100質量%以下であり、被覆層のポリマーは熱可塑性エラストマーのみからなっていてもよい。
なお、本発明の効果を損なわない範囲でその他の熱可塑性樹脂を被覆層に含むことができる。その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられ、好ましくはポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくはポリプロピレン系樹脂である。
【0021】
被覆層の基材ポリマーの動摩擦係数の下限は、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.2以上であり、更に好ましくは1.5以上である。また、その上限は、好ましくは3以下である。
被覆層の基材ポリマーの静摩擦係数は、好ましくは2以上であり、より好ましくは2.3以上であり、更に好ましくは2.5以上である。また、被覆層の基材ポリマーの静摩擦係数の上限は、好ましくは3.5以下である。
本発明においては、被覆層の基材ポリマーの摩擦係数が前記の範囲であることが好ましい。
被覆層の基材ポリマーの動摩擦係数及び静摩擦係数は、JIS K7125に準拠して、前述の発泡粒子成形体の摩擦係数と同様の方法で求めることができる。ただし、試験速度は500mm/分で行う。
被覆層の基材ポリマーの静摩擦係数と被覆層の基材ポリマーの動摩擦係数の比[静摩擦係数/動摩擦係数]は、好ましくは1.5~2である。
【0022】
被覆層の基材ポリマーが結晶性であり、融点を有する場合、その融点は、芯層の基材樹脂より5~30℃低いことが好ましく、8~20℃低いことがより好ましく、10~15℃低いことが更に好ましい。
また、被覆層の基材ポリマーの融点は、成形性を向上させるという観点から、116~143℃が好ましく、120~140℃がより好ましく、120~130℃が更に好ましい。なお、前記基材ポリマーの融点は、JIS K7121:2012に記載の熱流束示差走査熱量測定に基づき測定される。
前記被覆層の基材ポリマーの融解熱量は、好ましくは20J/g以上であり、より好ましくは30J/g以上であり、更に好ましくは40J/g以上である。また、基材ポリマーの融解熱量は、好ましくは100J/g以下であり、より好ましくは80J/g以下である。
なお、前記被覆層の基材ポリマーの融解熱量は、JIS K7122:2012に基づき、熱流束示差走査熱量計を用いて測定される。
被覆層の基材ポリマーの曲げ弾性率は、柔軟性等の観点から、10~50MPaであることが好ましく、15~35MPaであることがより好ましく、20~25MPaであることが更に好ましい。
なお、被覆層の基材ポリマーの曲げ弾性率は、JIS K7171:2016に準拠して測定される値である。
また、前記基材ポリマーのタイプAデュロメータを用いて測定される、デュロメータ硬さ(HDA、ショアA硬度)は、好ましくは65~95、より好ましくは70~90である。前記基材ポリマーのデュロメータ硬さが上記範囲内であると、より柔軟性に優れる発泡粒子成形体を得ることできる。
なお、前記基材ポリマーのデュロメータ硬さ(HDA)はJIS K7215:1986に準拠して測定される値である。
また、基材ポリマーにおけるエチレン成分単位の含有割合は好ましくは45%質量以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上である。
【0023】
被覆層は、エルカ酸アミドやステアリン酸カルシウムなどの滑剤を含有することが好ましい。前記滑剤の添加量は、被覆層の基材ポリマー100質量部に対して0.05~0.2質量部であることが好ましい。
【0024】
(熱可塑性エラストマー)
被覆層の基材ポリマーとなる熱可塑性エラストマーは、特に限定されるものではなく、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等を挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらのなかでも芯層と被覆層との接着性の観点からは、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が好ましい。
【0025】
〔オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)〕
TPOとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンをハードセグメントとし、α-オレフィン共重合体、エチレン系ゴム等をソフトセグメントとする熱可塑性エラストマー、ポリエチレンブロックからなるハードセグメントとエチレン/α-オレフィン共重合体ブロックからなるソフトセグメントとを有するブロック共重合体等が挙げられる。
【0026】
ポリエチレンブロックからなるハードセグメントとエチレン/α-オレフィン共重合体ブロックからなるソフトセグメントとを有するブロック共重合体において、ポリエチレンブロックを構成するポリマーとしては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。一方、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックとしては、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体のブロックが挙げられる。一方、エチレンと共重合するα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手しやすさや諸特性、経済性等の観点から、エチレンと共重合するα-オレフィンは、好ましくはプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン又は1-オクテンであり、特に好ましくは1-オクテンである。
前記ブロック共重合体における、ポリエチレン成分の含有量は、45%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
【0027】
ポリエチレンブロックにおけるエチレン単位の割合は、ポリエチレンブロックの質量に対して、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上である。一方、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックにおける、α-オレフィン単位の割合は、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックの質量に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。
また、TPOにおけるエチレン成分単位の含有割合は好ましくは45%質量以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上である。
なお、ポリエチレンブロックの割合及びエチレン/α-オレフィン共重合体ブロックの割合は、示差走査熱量測定(DSC)又は核磁気共鳴(NMR)から得られるデータに基づいて計算される。
【0028】
TPOとして市販品を用いてもよく、例えば、ダウ・ケミカル株式会社製の、オレフィンブロックコポリマーである、商品名「インフューズ(Infuse)」、ダウ・ケミカル株式会社製の商品名「アフィニティー(Affinity)」、三菱ケミカル株式会社製の商品名「サーモラン」、三井化学株式会社製の商品名「ミラストマー」、三井化学株式会社製の商品名「タフマー」、住友化学株式会社製の商品名「住友TPE」、株式会社プライムポリマー製の「プライムTPO」等が挙げられる。
【0029】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの密度は、好ましくは700~1000kg/m3、より好ましくは800~900kg/m3である。上記範囲内であれば、耐熱性に優れる発泡粒子成形体を容易に得ることができる。
【0030】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが結晶性を有する場合には、前記熱可塑性エラストマーの融点は、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは115℃以上である。また、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは145℃以下である。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点が上記範囲内である場合には、特に耐熱性に優れる発泡粒子成形体となる。
なお、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点は、JIS K7121:2012に記載の熱流束示差走査熱量測定に基づき測定される。
【0031】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解熱量は、好ましくは20J/g以上であり、より好ましくは30J/g以上であり、更に好ましくは40J/g以上である。また、TPOの融解熱量は、概ね80J/g以下である。
なお、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解熱量は、JIS K7122:2012に基づき、熱流束示差走査熱量計を用いて測定される。
【0032】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレイト(MFR)は、190℃、荷重2.16kgの条件下で、好ましくは2~10g/10分であり、より好ましくは3~8g/10分であり、更に好ましくは4~7g/10分である。上記範囲内であれば、多層発泡粒子の形成時に被覆層の形成がより容易となる。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレイトは、JIS K7210-1:2014に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0033】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのタイプAデュロメータを用いて測定される、デュロメータ硬さ(HDA、ショアA硬度)は、好ましくは65~95、より好ましくは70~90である。前記熱可塑性エラストマーのデュロメータ硬さが上記範囲内であると、より柔軟性に優れる発泡粒子成形体を得ることできる。
なお、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのデュロメータ硬さ(HDA)はJIS K7215:1986に準拠して測定される値である。
【0034】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率は、柔軟性等の観点から、10~50MPaであることが好ましく、15~35MPaであることがより好ましく、20~25MPaであることが更に好ましい。
なお、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率は、JIS K7171:2016に準拠して測定される値である。
【0035】
被覆層の厚さは、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上が更に好ましい。一方、上限値は、25μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましく、15μm以下が更に好ましい。
上記範囲内であれば、発泡粒子相互の融着性を阻害せず、発泡粒子成形体表面の摩擦特性を特定のものとすることができる。
また、芯層と被覆層の質量比(芯層/被覆層)は、99.5/0.5~85/15であることがより好ましく、99/1~88/12であることが更に好ましい。上記の範囲で、被覆層が構成されることによって、特に、被覆層において本発明に特有の摩擦特性が発揮できるものとなり、且つ、芯層を発泡状態とすることで被梱包物に対するクッション性にも優れる発泡粒子を形成することができる。
【0036】
<芯層>
前記多層発泡粒子の芯層は、発泡状態であり、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする。また、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とするとは、前記芯層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂を主成分とするものであることをいう。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするとは、基材樹脂中のポリプロピレン系樹脂の含有量が50質量%以上であることをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はなく、100質量%以下である。
【0037】
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単独重合体、プロピレン系共重合体又はその混合物が挙げられ、好ましくはプロピレン系共重合体又はプロピレン単独重合体とプロピレン系共重合体の混合物であり、より好ましくはプロピレン系共重合体である。
前記ポリプロピレン系樹脂が、プロピレン系共重合体、又はプロピレン単独重合体とプロピレン系共重合体の混合物である場合、前記ポリプロピレン系樹脂中のプロピレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上である。前記ポリプロピレン系樹脂中のプロピレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、更に好ましくは97質量%以下であり、より更に好ましくは96質量%以下である。
プロピレン系共重合体としては、プロピレンとエチレン又は/及び炭素数4~20の1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ブテンなどのα-オレフィンとの共重合体が例示され、好ましくはプロピレンとエチレンとの共重合体である。また、プロピレンとエチレンとの共重合体におけるエチレン成分量は2~5質量%であることが好ましく、2.5~4.5質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
前記ポリプロピレン系樹脂には、本発明の目的効果を阻害しない範囲内で、前記プロピレン単独重合体又はプロピレン系共重合体以外の樹脂またはエラストマーを含んでいてもよい。
前記ポリプロピレン系樹脂中の前記プロピレン単独重合体又はプロピレン系共重合体以外の樹脂またはエラストマーの含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、1質量%以下がより更に好ましい。
【0039】
また、芯層には、本発明の効果を阻害しない程度であれば添加剤が適宜添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、核剤及び気泡核剤などを挙げることができる。これらのなかでも芯層は、帯電防止剤を含有することが好ましい。これらの添加剤の含有量は、芯層を形成する基材樹脂100質量部当たり20質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。芯層が帯電防止剤を含有する場合、帯電防止剤の含有量は、前記芯層の基材樹脂100質量部に対して好ましくは0.2~2質量部であり、より好ましくは0.5~1質量部である。
【0040】
前記芯層の基材樹脂の曲げ弾性率は、好ましくは500~1500MPaであり、より好ましくは850~1300MPaであり、更に好ましくは900~1100MPaである。曲げ弾性率が、上記範囲内であることにより、発泡時の気泡膜が強固なものとなり、発泡粒子を成形して得られる発泡粒子成形体の強度をさらに大きくすることができ、特に梱包容器として有用な成形体となる。曲げ弾性率は、JIS K7171(2008)に基づき、求めることができる。
芯層の基材樹脂の曲げ弾性率と被覆層の基材ポリマーの曲げ弾性率の比[芯層/被覆層]は、好ましくは10~50であり、より好ましくは26~50であり、更に好ましくは30~50である。
【0041】
前記基材樹脂の融点は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは132℃以上であり、更に好ましくは135℃以上である。芯層の基材樹脂の融点は、耐熱性の観点から、好ましくは148℃以下であり、より好ましくは145℃以下であり、更に好ましくは142℃以下である。
【0042】
多層発泡粒子は、示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線に、前記基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂の樹脂固有の融解ピーク(樹脂固有ピーク)の高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)を有することが好ましい。
これらの融解ピークは、次に示す方法によって得ることができる。
具体的には、示差走査熱量計によって、発泡粒子を23℃から200℃まで10℃/分で昇温測定し、2つ以上の融解ピークを有するDSC曲線を得、最大の融解熱量を有するピークをポリプロピレン系樹脂固有の融解ピーク(樹脂固有ピーク)、それより高温側に現れる融解ピークを高温ピークとする。
この場合のDSC曲線とは、前記測定方法により得られる第1回目の加熱のDSC曲線であり、樹脂固有の融解による吸熱ピーク(樹脂固有ピーク)とは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピークであり、発泡粒子を構成する芯層の樹脂が本来有する結晶の融解時の吸熱によるものであると考えられる。
一方、樹脂固有ピークの高温側の吸熱ピーク(高温ピーク)とは、第1回目のDSC曲線で前記樹脂固有ピークよりも高温側に現れる吸熱ピークである。この高温ピークが現れる場合、樹脂中に二次結晶が存在するものと推定される。なお、10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)においては、多層発泡粒子の芯層を構成するポリプロピレン系樹脂に固有の融解による吸熱ピークのみが見られる。この樹脂固有ピークは前記第1回加熱のDSC曲線にも第2回加熱のDSC曲線にも現われ、ピーク頂点の温度は第1回と第2回で多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃未満である。これによって、いずれのピークが樹脂固有ピークであるかを確認することができる。この吸熱ピークは、前記樹脂の組成などにより変化する。
【0043】
多層発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、好ましくは5~40J/g、より好ましくは7~30J/g、更に好ましくは10~20J/gである。
高温ピークの融解熱量をこのような範囲にすることで、高温ピークとして表れる二次結晶の存在により、発泡粒子は特に機械的強度に優れると共に、型内成形性に優れるものになると考えられる。
【0044】
多層発泡粒子は、1個当たりの平均質量(無作為に選んだ200個の質量を測定した1個当たりの相加平均値)は、好ましくは0.1~20mgであり、より好ましくは0.2~10mgであり、更に好ましくは0.3~5mgであり、より更に好ましくは0.4~2mgである。
【0045】
<発泡粒子成形体>
本発明の発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする、発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなる発泡粒子成形体であって、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である。
上記のような発泡粒子成形体の摩擦特性を有することにより、被包装物のグリップ性に優れ、表面の破壊が起きにくく、外観が変化しにくいため、繰り返し使用に適するものになる。
このような摩擦特性は、発泡粒子成形体が多層発泡粒子により形成されており、その発泡粒子の被覆層が熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、且つ被覆層が非発泡状態であることが関連していると考えられる。具体的には、被覆層の熱可塑性エラストマーによる柔軟性によりグリップ力が発揮されると共に、被覆層の非発泡状態によりスティックグリップ現象が生じ難くなり、本発明の発泡粒子成形体に特有の摩擦特性が発揮されると考えられる。また、発泡粒子成形体の成形体密度が上記範囲であることによって、発泡層が特定の発泡状態となり、被包装物に対するクッション性と、発泡粒子成形体における摩擦特性を発揮するものと考えられる。
【0046】
本発明の発泡粒子成形体の25%圧縮応力は、0.20~0.80MPaであることが好ましく、0.30~0.50MPaであることがさらに好ましい。
上記範囲内であることにより、特に、クッション性に優れる発泡粒子成形体となる。
上記25%圧縮応力は、JIS K6767:1999に基づいて、10mm/分の速度で圧縮した際の25%ひずみ時の圧縮応力(MPa)を測定した。
【0047】
前記発泡粒子成形体表面において、前記発泡粒子成形体を構成する発泡粒子の被覆層が露出している面積割合は50~80%であることが好ましい。
特に、本発明に用いられる発泡粒子の外形形状が円柱状の場合、発泡粒子の長さLと直径Dとの比L/Dが1.2以上とすることが、得られる発泡粒子成形体の良好な摩擦特性を発揮させ、発泡粒子成形体における発泡粒子の被覆層成分による占有面積率(発泡粒子の被覆層が露出している面積割合)を50%以上とする点から好ましい。
発泡粒子成形体の表面における、発泡粒子の被覆層成分による占有面積率は、発泡粒子成形体の表面をナノシステム株式会社製 NS2K-Proなどの画像解析ソフトを用いて画像解析することにより得ることができる。具体的には、発泡粒子成形体のできるだけ平らな表面を適宜広範囲で写真撮影し当該写真において、発泡粒子の被覆層成分が発泡粒子成形体の表面に存在している部分と、発泡粒子の芯層成分が発泡粒子成形体の表面に存在している部分とを画像解析ソフトにて黒と白に二値化処理して、各々の部分の占有面積を求め、発泡粒子の被覆層成分による占有面積率は次式により求めることができる。
発泡粒子の被覆層成分による占有面積率(%)=発泡粒子の被覆層成分による占有面積/(発泡粒子の被覆層成分による占有面積+発泡粒子の芯層成分による占有面積)×100
なお、発泡粒子成形体の表面の発泡粒子の被覆層が露出している部分が見分け難い場合は、被覆層を形成する樹脂を着色することにより、画像解析を容易に行うことができる。
【0048】
<多層発泡粒子の製造方法>
前記多層発泡粒子の製造方法には、制限はないが次の方法によることが好ましい。
前記多層発泡粒子の好適な製造方法として、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする芯層と、前記芯層を被覆し、熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとする被覆層とを有する多層粒子を分散媒に分散させ、多層粒子に発泡剤を含侵させ、低圧下に放出する(分散媒放出発泡方法)方法を採用することができる。
【0049】
(多層粒子の製造)
本発明の多層発泡粒子の製造に用いられる前記多層粒子は、芯層と被覆層を有する。
まず、第一の押出機内に芯層の樹脂として、必要に応じて配合される気泡核剤等の他の添加剤と前記ポリプロピレン系樹脂とを配合して供給し、加熱、混練して芯層の樹脂溶融物とする。
また、第二の押出機内に被覆層として、必要に応じて配合される他の添加剤と前記被覆層のポリマーとを配合して供給し、加熱、混練して被覆層の樹脂溶融物とする。なお、この際に被覆層には気泡核剤を配合しないことが好ましい。気泡核剤を配合しないことで、非発泡状態の被覆層を得ることが容易となる。
次に、芯層の樹脂溶融物と被覆層の樹脂溶融物を共押出ダイに供給し、該ダイ内において、芯層の樹脂溶融物の流れと被覆層の樹脂溶融物の流れとを合流させ、両者を積層する。次に積層された樹脂溶融物を押出機からストランドカット方式、ホットカット方式、水中カット方式等によりペレタイズすることにより得ることができる。
【0050】
なお、多層粒子を製造する際には、芯層と被覆層の質量比は90/10~95/5とすることが好ましい。また、多層粒子の製造に際し、芯層には、気泡核剤としてホウ酸亜鉛、帯電防止剤、耐候剤などの添加剤を含有させることができる。また、被覆層にも、滑剤、帯電防止剤、耐候剤などの添加剤を含有させることができる。
特に、芯層に帯電防止剤を添加した場合には、理由は定かではないが、成形時の離型が容易となるという効果が発揮されるため、好ましく、芯層は帯電防止剤を含有することが好ましい。前記帯電防止剤としては、特に制限はなく、例えば、ヒドロキシアルキルアミン、ヒドロキシアルキルモノエーテルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスフェート等のアニオン系界面活性剤;オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等が挙げられる。また、これらの帯電防止剤は、単独または混合して使用することもできる。これらの中では、ノニオン系界面活性剤が好ましい。前記芯層中の前記帯電防止剤の含有量は、前記芯層の基材樹脂100質量部に対して0.2~2質量部であることが好ましく、0.5~1質量部であることがさらに好ましい。
被覆層には、製造安定性の観点から、エルカ酸アミドやステアリン酸カルシウムなどの滑剤を含有することが好ましい。前記滑剤の含有量は、被覆層を構成する基材ポリマー100質量部に対して0.05~0.2質量部であることが好ましい。
この場合にも、成形時の離型が容易となるという効果が発揮される。
【0051】
前記多層粒子の粒子径は、好ましくは0.1~3.0mmであり、より好ましくは0.3~1.5mmである。また、前記多層粒子の長さ/直径比は、好ましくは0.5~5.0であり、より好ましくは1.0~3.0である。また、1個当たりの平均質量(無作為に選んだ200個の質量を測定した1個当たりの相加平均値)は、0.1~20mgとなるように調整されることが好ましく、より好ましくは0.2~10mg、更に好ましくは0.3~5mg、より更に好ましくは0.4~2mgである。上記多層粒子の外形形状は円柱状である。
【0052】
なお、ストランドカット法における、多層粒子の粒子径、長さ/直径比や平均質量の調整は、樹脂溶融物を押出す際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより行うことができる。
【0053】
(多層発泡粒子の製造)
前記のようにして得られた多層粒子を密閉容器内で分散させるための分散媒としては水性分散媒が用いられる。該水性分散媒は、水を主成分とする分散媒である。
【0054】
本発明で好適に用いられる分散媒放出発泡方法においては、容器内で加熱された多層粒子同士が容器内で互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、多層粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物が好ましい。例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の天然又は合成粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも天然又は合成粘土鉱物が好ましく用いられる。前記分散剤は、前記多層粒子100質量部当たり0.001~5質量部程度添加することが好ましい。
【0055】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。前記分散助剤は、前記多層粒子100質量部当たり、0.001~1質量部程度添加することが好ましい。
【0056】
多層粒子を発泡させるための発泡剤としては、物理発泡剤を用いることが好ましい。該物理発泡剤は、無機系物理発泡剤と有機系物理発泡剤が挙げられ、無機系物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。また、有機系物理発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。なお、該物理発泡剤は単独で用いても、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。また、無機系物理発泡剤と有機系物理発泡剤とを混合して用いることもできる。これらの発泡剤のうち、環境に対する負荷や取扱い性の観点から、好ましくは無機系物理発泡剤、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。
【0057】
多層粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~15質量部である。
【0058】
発泡粒子製造工程において、多層粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、多層粒子を密閉容器内の水性分散媒中に分散させ、加熱しながら、発泡剤を圧入し、多層粒子に発泡剤を含浸させる方法が好ましく用いられる。
【0059】
発泡時の密閉容器内圧は0.5MPa(G)以上であることが好ましい。一方、密閉容器内圧の上限は4MPa(G)が好ましく、0.8~3MPa(G)がより好ましい。上記範囲内であれば、密閉容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。また、100~200℃、好ましくは130~160℃に昇温し、その温度で5~30分程度保持してから発泡性多層粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させる。
【0060】
発泡粒子の平均気泡径は、20~400μmが好ましく、50~300μmがより好ましく、80~200μmがさらに好ましい。該平均気泡径が前記範囲内であると、型内成形性に優れると共に、成形後の寸法回復性に優れ、圧縮物性などの機械的物性にも優れた発泡粒子成形体を得ることができる。
【0061】
前記多層発泡粒子の見掛け密度は、好ましくは10~100kg/m3であり、より好ましくは30~80kg/m3である。前記範囲内であれば、得られる発泡粒子は、被包装物に対するクッション性と摩擦特性を有することから好ましい。
【0062】
なお、上記のようにして得られる多層発泡粒子は、空気により加圧処理して内圧を高めた後、スチーム等で加熱して発泡させ(二段発泡)、さらに発泡倍率の高い(見掛け密度の低い)発泡粒子とすることもできる。
【0063】
<発泡粒子成形体の製造>
本発明の発泡粒子成形体は、前記多層発泡粒子からなる成形体であり、前記発泡粒子を型内成形することにより得ることができる。
具体的には、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子を型内成形して得ることができ、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材とする。
【0064】
型内成形法は、発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を用いて加熱成形することにより行うことができる。具体的には、発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチーム等の加熱媒体を導入することにより、発泡粒子を加熱して発泡させると共に、相互に融着させて成形空間の形状が賦形された発泡粒子成形体を得ることができる。また、本発明における型内成形は、発泡粒子を空気等の加圧気体により予め加圧処理して発泡粒子の気泡内の圧力を高めて、発泡粒子内の圧力を大気圧よりも0.01~0.3MPa高い圧力に調整した後、大気圧下又は減圧下で該発泡粒子を成形型内に充填し、次いで型内にスチーム等の加熱媒体を供給して発泡粒子を加熱融着させる加圧成形法(例えば、特公昭51-22951号公報)により成形することが好ましい。また、圧縮ガスにより大気圧以上に加圧した成形型内に、当該圧力以上に加圧した発泡粒子を充填した後、キャビティ内にスチーム等の加熱媒体を供給して加熱を行い、発泡粒子を加熱融着させる圧縮充填成形法(特公平4-46217号公報)により成形することもできる。その他に、特殊な条件にて得られる二次発泡力の高い発泡粒子を、大気圧下又は減圧下で成形型のキャビティ内に充填した後、次いでスチーム等の加熱媒体を供給して加熱を行い、発泡粒子を加熱融着させる常圧充填成形法(特公平6-49795号公報)又は上記の方法を組み合わせた方法(特公平6-22919号公報)などによっても成形することができる。
発泡粒子成形体の製造において、収縮率は好ましくは3%以下であり、より好ましくは2.5%以下である。
また、得られる発泡粒子成形体において、融着率は好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。上記範囲内であれば、被包装物をグリップした際に発泡粒子が欠けることなく、より優れたグリップ性を有するものとなる。
得られた発泡粒子成形体において、成形体の曲げ強度は、0.2~2MPaであることが好ましく、0.3~1.5MPaであることが、より優れる包装容器を形成できる観点から好ましい。
また、発泡粒子成形体の圧縮強度(25%)は、0.1~1MPaであることが好ましく、0.2~0.8MPaであることが、被包装物の保護性の観点から好ましい。
【0065】
[包装容器]
本発明の包装容器は、前記発泡粒子成形体からなる。具体的には、本発明の包装容器は、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡状態の芯層と、前記芯層を被覆する被覆層とを有する多層発泡粒子からなり、前記被覆層は非発泡状態であり、前記被覆層は熱可塑性エラストマーを基材ポリマーとし、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数が1.0~3.0であり、前記発泡粒子成形体の動摩擦係数に対する前記発泡粒子成形体の静摩擦係数の比が0.4~0.9であり、前記発泡粒子成形体の成形体密度が30~300kg/m3である発泡粒子成形体からなる。
【0066】
本発明の包装容器は、前記発泡粒子成形体からなるため、その形状は成形に用いられる金型形状で調整することができる。包装容器の形状は、包装される被包装物の形状、大きさ、重量、材質によって最適なものを選択すればよい。包装容器の形状としては、箱状、トレー状、シート状等が挙げられる。
本発明の包装容器を構成する発泡粒子成形体は、グリップ性に優れ、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得ることから、本発明の包装容器は、重量物や精密部品の包装に適する。また、運搬時の落下や振動によって変質や、破損しやすい被包装物の包装にも適する。
【実施例0067】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0068】
[物性・評価]
実施例、比較例に使用した樹脂、発泡粒子、発泡粒子成形体について、以下の測定及び評価を実施した。結果は表1及び表2に示す。なお、発泡粒子又は発泡粒子成形体の評価は、これらを相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日放置して状態調節した後に行った。
【0069】
(摩擦係数)
JIS K7125に準拠し、下記の方法で測定を行った。
実施例及び比較例で得られた発泡粒子成形体から縦63mm×横63mm×厚さ10mmの片面スキン(スキンとは、型内成形時に金型に接していた面であり、切削面でないことを示す)のサンプルを切り出し、試験片とした。なお、試験サンプルの発泡粒子成形体は、平滑な金型表面により型内成形が行われたものである。
水平面上に厚み3mmの表面が平滑な軟質塩化ビニル樹脂シートを置き、その上に前記サンプルをスキン面(面積40cm
2)が下(塩化ビニル樹脂シート側)になるように置き、更にその上に9.8Nの法線力となるように錘を置いた。なお、サンプルの上側を均一な圧力分布をかけられるように厚み1mmのフェルトで覆った。
測定はテンシロン万能材料試験機を用いた。前記サンプルを、軟質塩化ビニルシート上を水平方向に速度100mm/分で70mm移動させ、その際の荷重(単位:N)と移動距離を記録し、荷重変位曲線を得た。
荷重変位曲線の概念図を
図1及び
図2に示す。
静摩擦係数(μ
S)は、前記荷重変位曲線において、最初の極大荷重値(静荷重)(F
S)を法線力(9.8N)で除して求めた。具体的には次式で表される。なお、極大値は、例えば、荷重変位曲線(
図1)の拡大図を得ることにより、判別することができる。
静摩擦係数(μ
S)=F
S/9.8
本発明における動摩擦係数(μ
D)は、前記荷重変位曲線において、変位(移動距離)10mmから60mmまでの、検出された測定変位における動荷重の平均値を動荷重(F
D)とし、これを法線力(9.8N)で除して求めた。具体的には次式で表される。
動摩擦係数(μ
D)=F
D/9.8
なお、本発明においては、サンプルが発泡体であることに起因して、相対ずれ運動を開始した直後の動摩擦力の値が安定しないことがあることから、変位10mmからの値を採用する。
また、被覆層原料の基材ポリマーの動摩擦係数及び静摩擦係数は、試験速度を100mm/分から500mm/分に変更した以外は、前記発泡粒子成形体を測定した試験条件及び操作で測定し、前記式により求めた。なお、変位計の精度は0.001mm以上であった。
表3に被覆層原料の基材ポリマーの動摩擦係数、静摩擦係数、及び静摩擦係数と動摩擦係数の比を示す。
【0070】
(成形体密度)
発泡粒子成形体の外形寸法に基づいて発泡粒子成形体の体積を算出した。発泡粒子成形体の質量を前述した体積で除した値を成形体密度ρ(D)[kg/m3]とした。
【0071】
(融点、融解熱量)
融点(Tm)は、JIS K7121(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」を採用した(試験片の状態調節における加熱速度及び冷却速度はいずれも10℃/分とする。)。
DSC装置(ティー・エイ・インスツルメント社製DSCQ1000)により、加熱速度10℃/分で昇温してDSC曲線を描かせ、該DSC曲線上の樹脂の融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点とした。なお、DSC曲線上に複数の吸熱ピークが存在した場合には、吸熱ピークの面積が最も広い吸熱ピークの頂点を融点とした。
融解熱量は、前記DSC曲線上の樹脂の融解に伴う吸熱ピークの融解開始から融解終了までのピーク面積から求めた。
【0072】
(曲げ弾性率)
曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に準拠して求めた。試験片は、試験片を230℃でヒートプレスして4mmのシートを作製し、該シートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm(標準試験片)に切り出したものを使用した。また、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mm、支点間距離は64mmとし、試験速度は2mm/minとした。
【0073】
(発泡粒子の高温ピークの融解熱量)
発泡粒子の内層部分1~3mgを採取し、示差熱走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント社製DSC Q1000)によって23℃から200℃まで10℃/分で昇温測定を行い、1つ以上の融解ピークを有するDSC曲線を得る。次の説明における樹脂固有ピークをA、それより高温側に現れる高温ピークをBとする。
該DSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α-β)を引く。なお、上記融解終了温度Tとは、高温ピークBの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースラインとの交点をいう。次に上記の樹脂固有ピークAと高温ピークBとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α-β)と交わる点をδとする。
樹脂固有ピークAの面積は、DSC曲線の樹脂固有ピークA部分の曲線と、線分(α-δ)と、線分(γ-δ)とによって囲まれる部分の面積であり、これを樹脂固有ピークの融解熱量とした。
高温ピークBの面積は、DSC曲線の高温ピークB部分の曲線と、線分(δ-β)と、線分(γ-δ)とによって囲まれる部分の面積であり、これを高温ピークの融解熱量とした。
【0074】
(収縮率)
発泡粒子成形体の収縮率[%]は、金型寸法の長辺寸法に対する、発泡粒子成形体の長辺長さの割合とした。具体的には、(金型長辺寸法[mm]-成形体の長辺長さ[mm])/金型長辺寸法[mm]×1000で求めた。なお、「成形体の長辺長さ[mm]」とは、実施例及び比較例で得られた発泡粒子成形体を80℃の雰囲気下で12時間養生した後、徐冷し、さらに23℃の雰囲気下で6時間養生した後の発泡粒子成形体の長辺の長さを計測した値である。
【0075】
(融着率)
発泡粒子成形体の融着率は、曲げ試験による破断面での材料破壊率にて評価できる。すなわち、発泡粒子成形体の曲げ破断面(発泡粒子100個以上が存在する破断面)を観察し、目視により破壊された発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の数をそれぞれ計数する。そして、破壊された発泡粒子数と界面で剥離した発泡粒子数の合計に対する破壊された発泡粒子数の百分率を融着率とする。
【0076】
(こすれ試験)
発泡粒子成形体から縦50mm×横50mm×厚み15mmの、少なくとも片面がスキン面を有するサンプルを切り出し、固定した。縦30mm×横30mmの400番サンドペーパーを前記スキン面に接するようにセットした。荷重1000g、試験移動距離(水平方向移動)8mm、試験速度60回/分の条件にて500回サンプルのスキン面をサンドペーパーで擦り、以下の基準により評価した。なお、JIS K7204:1999に記載された試験条件を参考に、前記こすれ試験の100回擦るごとに試験を停止し、サンドペーパーの目詰まり点検を実施し、サンドペーパーに付着している粉の除去を行った。(評価基準)
○:こすれ量(試験により減少した発泡粒子成形体の質量)が1mg以下であり、こすれ試験後も表面の毛羽立ちが見られず、外観が良好である。
×:こすれ量(試験により減少した発泡粒子成形体の質量)が1mg以上であり、こすれ試験後に毛羽立ちが見られ、外観が不良である。
【0077】
(グリップ性試験)
発泡粒子成形体から切り出した縦63mm×横63mm×厚み10mmの片面スキンのサンプルを使用し上記摩擦係数測定を行った際に、スティックスリップ現象が発生したかどうかを以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:スティックスリップ現象が発生せず、こすれ音も発生しなかった。
×:スティックスリップ現象が発生し、こすれ音が発生した。
【0078】
(曲げ物性)
実施例及び比較例で作製した縦300mm×横250mm×厚さ60mmの成形体にかえて、実施例及び比較例に記載された条件で、金型のみ変更して、縦300mm×横75mm×厚さ25mmの板状を呈する発泡粒子成形体を作製した。この成形体を試験片とし、JIS K7221-2(1999年)の附属書1に記載された大形試験片による曲げ試験方法に準拠して3点曲げ試験を行い、応力-歪曲線を取得した。この応力-歪曲線に基づいて算出した最大荷重における曲げ応力を発泡粒子成形体の曲げ強度とした。なお、3点曲げ試験には万能試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」)を使用し、下部支点間距離200mm、試験速度10mm/分の条件で試験を行った。
【0079】
(圧縮強度(発泡粒子成形体の25%圧縮応力))
発泡粒子成形体の剛性の尺度として、実施例及び比較例で得られた樹脂発泡粒子成形体から、縦50mm×横50mm×厚み25mmのテストピースをスキン層がないように切り出し、JIS K 6767:1999に基づいて、10mm/分の速度で圧縮した際の25%ひずみ時の圧縮応力(MPa)を測定した。
【0080】
(平均気泡径)
発泡粒子の平均気泡径は、ASTM D3576-77に準拠し、次のように測定した。
発泡粒子群から無作為に50個以上の発泡粒子を選択した。発泡粒子をその中心部を通るように切断して2分割し、その断面の拡大写真をそれぞれ撮影した。各断面写真において、発泡粒子の最表面から中心部を通って反対側の最表面まで、等角度で4本の線分を引いた。各線分と交差する気泡数をそれぞれ計測し、4本の線分の合計長さを線分と交差する全気泡数で除して気泡の平均弦長を求め、さらに0.616で除することにより、各発泡粒子の平均気泡径を求め、これらの値を算術平均することにより、発泡粒子の平均気泡径を求めた。
【0081】
[原料]
実施例、比較例において使用した樹脂、エラストマーを次に示す。
(1)略称PP1(密度900g/cm3、MFR(2.16kg、190℃)7g/分、融点141℃、曲げ弾性率950MPa、エチレン成分含量3.1%)プライムポリマー社製;ポリプロピレン系樹脂、エチレン-プロピレンランダム共重合体「J832MZV」
(2)略称PP2(密度900g/cm3、MFR(2.16kg、190℃)7g/分、融点134℃、曲げ弾性率600MPa、エチレン成分含量4.2%):プライムポリマー社製;ポリプロピレン系樹脂、エチレン-プロピレンランダム共重合体「F744NP」
(3)略称PP3(密度900g/cm3、MFR(2.16kg、190℃)7g/分、融点131℃、曲げ弾性率650MPa、エチレン成分含量3.1%):日本ポリプロ社製;ポリプロピレン系樹脂、プロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体「FX4ET」
(4)略称TPO(密度887g/cm3、MFR(2.16kg、190℃)5g/分、融点119℃、ショアA硬度83、曲げ弾性率34MPa、エチレン成分含有量68%、融解熱量54J/g)ダウ・ケミカル株式会社製;オレフィン系熱可塑性エラストマー「INFUSE9530」
(5)気泡核剤マスターバッチ;商品名「CP-130786F」(ポリプロピレン系樹脂(PP);J832MZV、ホウ酸亜鉛濃度10質量%)
【0082】
(実施例1:発泡粒子成形体の製造)
表1に示すポリプロピレン系樹脂を押出機内で180~240℃にて溶融混練し、芯層用の樹脂溶融物を得た。同時に、表1に示すエラストマーを押出機内で180~240℃にて溶融混練し、被覆層用の樹脂溶融物を得た。
次に芯層用の樹脂溶融物と被覆層用の樹脂溶融物を共押出ダイに供給し、該ダイ内において、被覆層用の樹脂溶融物が芯層用の樹脂溶融物の周囲を覆うように積層し、ストランド状に押出して水冷し、ペレタイザーで質量が約1.0mgとなるように切断、乾燥して多層粒子を得た。
このときの芯層用の樹脂溶融物と被覆層用の樹脂溶融物の吐出量の質量比は90/10とした。なお、多層粒子製造に際し、芯層用の樹脂溶融物に対して、気泡核剤としてホウ酸亜鉛、帯電防止剤(花王株式会社製;エレクトロトロストリッパーTS-8B(基材樹脂100質量部に対して0.9部)(高級アルコール、ヒドロキシアルキルジエタノールアミド、ステアリン酸モノグリセライド混合品))を押出機に供給し、被覆層用の樹脂溶融物に対して、滑剤(エルカ酸アミド1000ppm(基材ポリマー100質量部に対して0.1部))を押出機に供給し、多層粒子を得た。この時、気泡核剤はマスターバッチで供給し、芯層のポリプロピレン系樹脂中のみに気泡核剤としてホウ酸亜鉛は1000質量ppmを含有させ、被覆層のポリマーには気泡核剤を含有させなかった。
【0083】
前記多層粒子50kgを、分散媒としての水280Lと共に400Lの密閉容器内に仕込み、更に多層粒子100質量部に対し、分散剤としてカオリン0.008質量部、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.004質量部、分散助剤として硫酸アルミニウム0.0002質量部を密閉容器内に添加し、発泡剤として二酸化炭素を容器内圧力が1.5MPa(二酸化炭素圧力)となるように密閉容器内に添加し、撹拌下に150.6℃(発泡温度)まで加熱昇温して同温度で6分保持した後、容器内容物を大気圧下に放出して多層発泡粒子1を得た。前記多層発泡粒子における被覆層の厚みは、芯層用の樹脂溶融物と被覆層用の樹脂溶融物の吐出量の質量比が90/10の樹脂粒子を発泡させた場合には、10μmであった。
【0084】
縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形型に空気で0.18MPa(G)の内圧を付与した後、多層発泡粒子1を倍率が10倍となるように充填し、金型両面からスチームを5秒間供給して予備加熱(排気工程)を行った後、成形圧0.34MPa(G)より0.08MPa(G)低い圧力のスチームに達するまで金型の一方の面側から一方加熱を行い、次いで成形圧より0.04MPa(G)低い圧力のスチームに達するまで金型の他方の面側より一方加熱を行った後、成形圧0.34MPa(G)に達するまで加熱を行った(本加熱)。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで水冷した後(水冷時間51秒間)、型を開放して成形体を取り出した。得られた成形体を80℃のオーブン中で12時間養生し、発泡粒子成形体を得た。
【0085】
(実施例2~5)
表1に示す原料及び条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、多層発泡粒子、及び発泡粒子成形体を得た。
【0086】
(比較例1)
実施例1において、被覆層用の樹脂溶融物を用いず、芯層用の樹脂溶融物のみを用いて単層の樹脂粒子を得、表2に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様にして多層発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。
【0087】
(比較例2)
実施例1において、被覆層用の樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(FX4ET))を用い、表2に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様にして多層発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。
【0088】
(比較例3~5)
実施例1において、被覆層用の基材ポリマーとしてオレフィン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレン系樹脂のブレンドを用い、表2に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様にして発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。
なお、前記ブレンドは、被覆層用の押出機にオレフィン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレン系樹脂のペレットを表2に示す割合で入れ、実施例1と同様に共押出ダイに供給した。なお、比較例3及び5は、被覆層用の樹脂溶融物に対しても気泡核剤を押出機に供給した。被覆層中に気泡核剤であるホウ酸亜鉛は1000質量ppm含有させた。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
実施例の発泡粒子成形体は、発泡粒子の被覆層が熱可塑性エラストマーで形成されており、特定の摩擦特性を有するものであることによって、グリップ性に優れることがわかる。このことは、実施例の発泡粒子成形体が、グリップ性試験において、スティックスリップ現象が発生しないことから、摩擦によっても外観が変化し難く、繰り返し使用に耐え得ることがわかる。