(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146541
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/08 20120101AFI20220928BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047548
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】井口 尚彦
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA31
3D241BA33
3D241CC20
3D241DC01Z
3D241DC25Z
(57)【要約】
【課題】衝突試験において車両の評価を高める。
【解決手段】車両制御装置は、車両1の衝突を予測する衝突予測ユニット8と、車両のタイヤ6の空気圧を調整するための空気圧調整装置7と、衝突予測ユニットにより車両の衝突が予測されたときに、タイヤの空気圧を減少させるよう、空気圧調整装置を制御するように構成された制御ユニット100とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突を予測する衝突予測ユニットと、
前記車両のタイヤの空気圧を調整するための空気圧調整装置と、
前記衝突予測ユニットにより前記車両の衝突が予測されたときに、前記タイヤの空気圧を減少させるよう、前記空気圧調整装置を制御するように構成された制御ユニットと、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記車両の衝突を検知する衝突検知ユニットを備え、
前記制御ユニットは、
前記車両の衝突が予測されてから所定時間経過後に前記衝突検知ユニットにより前記車両の衝突が検知されなかった場合、前記タイヤの空気圧を増大させるよう、前記空気圧調整装置を制御する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、
前記車両の衝突が予測されてから所定時間経過前に前記衝突検知ユニットにより前記車両の衝突が検知された場合、前記タイヤの空気圧を減少し続けるよう前記空気圧調整装置を制御する
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記衝突予測ユニットは、前記車両の衝突を予測したときに所定時間だけオン信号を出力し、
前記衝突検知ユニットは、前記車両の衝突を検知したときにオン信号を出力し、
前記制御ユニットは、前記衝突予測ユニットと前記衝突検知ユニットの出力信号のオンオフの組み合わせに基づいてオンまたはオフ信号を出力するOR回路を備え、前記OR回路からのオンオフ信号に基づいて前記空気圧調整装置の動作モードを切り替える
請求項2または3に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフロードを走ることを想定したピックアップトラック等の車両については、最低地上高を高くしてアプローチアングルを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、欧州の新車アセスメントプログラム(Euro NCAP)では、車両をムービングバリア(MPDB)付き台車と衝突させる試験(MPDB衝突試験)が導入され、試験項目としてコンパティビリティ評価(相手車両への加害性評価)が追加されている。上記のような最低地上高が高い車両では、車両前面部の最低地上高がMPDB台車の最低地上高より高いため、高い評価を得ることが難しい。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、衝突試験において車両の評価を高めることができる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
車両の衝突を予測する衝突予測ユニットと、
前記車両のタイヤの空気圧を調整するための空気圧調整装置と、
前記衝突予測ユニットにより前記車両の衝突が予測されたときに、前記タイヤの空気圧を減少させるよう、前記空気圧調整装置を制御するように構成された制御ユニットと、
を備えたことを特徴とする車両制御装置が提供される。
【0007】
好ましくは、前記車両制御装置は、前記車両の衝突を検知する衝突検知ユニットを備え、
前記制御ユニットは、
前記車両の衝突が予測されてから所定時間経過後に前記衝突検知ユニットにより前記車両の衝突が検知されなかった場合、前記タイヤの空気圧を増大させるよう、前記空気圧調整装置を制御する。
【0008】
好ましくは、前記制御ユニットは、
前記車両の衝突が予測されてから所定時間経過前に前記衝突検知ユニットにより前記車両の衝突が検知された場合、前記タイヤの空気圧を減少し続けるよう前記空気圧調整装置を制御する。
【0009】
好ましくは、前記衝突予測ユニットは、前記車両の衝突を予測したときに所定時間だけオン信号を出力し、
前記衝突検知ユニットは、前記車両の衝突を検知したときにオン信号を出力し、
前記制御ユニットは、前記衝突予測ユニットと前記衝突検知ユニットの出力信号のオンオフの組み合わせに基づいてオンまたはオフ信号を出力するOR回路を備え、前記OR回路からのオンオフ信号に基づいて前記空気圧調整装置の動作モードを切り替える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、衝突試験において車両の評価を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の車両を示す概略右側面図である。
【
図2】衝突試験においてムービングバリアに衝突を開始した瞬間の車両を示す概略右側面図である。
【
図3】本実施形態の制御を説明するための図である。
【
図4】本実施形態の制御を説明するための図である。
【
図5】本実施形態の制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0013】
図1は、本実施形態の車両制御装置が適用された車両の前端部を示す概略右側面図である。車両1は、最低地上高が比較的高い車両であり、本実施形態ではピックアップトラックである。但し車両の種類、形式、用途等は特に限定されず、例えば車両はSUV(Sports Utility Vehicle)等であってもよい。車両の前後左右上下の各方向は図示の通りである。
【0014】
車両1は、その前面部2にフロントバンパ3を備える。また車両1は、操舵のための左右の前輪4(右側のみ示す)を備える。前輪4は、ホイール5とタイヤ6を備える。
【0015】
本実施形態の車両1は、タイヤ6の空気圧を調整するための空気圧調整装置7を備える。空気圧調整装置7は、図示しない空圧源(例えばエアタンク)に接続されると共に、タイヤ6に対する空気の給排を切り替えるための弁を備える。空気圧調整装置7は、タイヤ6の空気圧が所定の標準空気圧になるまで、空圧源から送られてきた圧縮空気をタイヤ6に供給する給気モードと、タイヤ6から空気を排出する排気モードとの2つの動作モードで動作可能である。空気圧調整装置7は、車両1に搭載された制御ユニットとしての電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)という)100により制御される。
【0016】
また車両1には、車両1の衝突を予測する衝突予測ユニット8が設けられる。衝突予測ユニット8は、ミリ波の反射により車両1と前方障害物との距離、相対速度等の情報を検出するミリ波レーダを備える。また衝突予測ユニット8は、ミリ波レーダから取得した情報に基づき車両1が前方障害物に衝突する可能性があるか否かを判断する衝突可能性判定ユニットを備える。衝突可能性判定ユニットは前記ECU100とは別のECUで構成されるが、前記ECU100により一体的に構成されてもよい。例えば衝突可能性判定ユニットは、ミリ波レーダにより検出された距離が所定のしきい値以下になり、かつ、ミリ波レーダにより検出された相対速度が所定のしきい値以上になったとき、衝突する可能性があると判断し、そうでないときには衝突する可能性がないと判断する。なお相対速度は、車両1が前方障害物に接近するとき正である。
【0017】
衝突可能性判定ユニットは、衝突する可能性があると判断したとき、つまり衝突を予測したとき、オン(ON)信号を出力し、衝突する可能性がないと判断したとき、つまり衝突を予測してないときには、オフ(OFF)信号を出力する。特に衝突可能性判定ユニットは、衝突を予測したときには所定時間だけオン信号を出力する。
【0018】
また車両1には、車両1の衝突を検知する衝突検知ユニット9が設けられる。衝突検知ユニット9は、車両1の前向きの加速度を検出する加速度センサを備える。また衝突検知ユニット9は、加速度センサから取得した加速度に基づき車両1が前方障害物に衝突したか否かを判断する衝突判定ユニットを備える。衝突判定ユニットも前記ECU100とは別のECUで構成されるが、前記ECU100により一体的に構成されてもよい。例えば衝突判定ユニットは、加速度センサにより検出された加速度が所定のしきい値以上になったとき、衝突したと判断し、そうでないときには衝突していないと判断する。
【0019】
衝突判定ユニットは、衝突したと判断したとき、つまり衝突を検知したときには、オン(ON)信号を出力し、衝突していないと判断したとき、つまり衝突を検知してないときには、オフ(OFF)信号を出力する。
【0020】
衝突予測ユニット8と衝突検知ユニット9はECU100に接続されている。ECU100は、衝突予測ユニット8と衝突検知ユニット9の出力信号に基づいて空気圧調整装置7を制御するように構成されている。特にECU100は、衝突予測ユニット8と衝突検知ユニット9の出力信号を入力し、それら出力信号のオンオフの組み合わせに基づいて、オンまたはオフ信号を出力するOR回路10を備える。このOR回路10からのオンオフ信号に基づいて空気圧調整装置7のモードが切り替えられる。
【0021】
このように本実施形態の車両制御装置は、衝突予測ユニット8と空気圧調整装置7とECU100を備え、さらには衝突検知ユニット9も備える。
【0022】
さて、ピックアップトラックからなる本実施形態の車両1では、オフロード走行も想定して最低地上高を高くし、アプローチアングルを確保している。
【0023】
一方、欧州の新車アセスメントプログラム(Euro NCAP)では、車両をムービングバリア(MPDB)付き台車と衝突させる試験(MPDB衝突試験)が導入され、試験項目としてコンパティビリティ評価(相手車両への加害性評価)が追加されている。上記のような最低地上高が高い車両1では、車両前面部2の最低地上高がMPDB台車の最低地上高より高いため、高い評価を得ることが難しい。
【0024】
これを詳しく説明する。
図2は、MPDB衝突試験においてムービングバリア11に衝突を開始した瞬間の車両1を示す。図示されるように、車両前面部2の最低地上高Hvはムービングバリア11の最低地上高Hmより高い。
【0025】
コンパティビリティ評価にはバリア変形量の標準偏差SDという項目がある。標準偏差SDは次式(1)で表される。
【0026】
【0027】
xiは計測点iの変形量、nは計測点数、μは平均変形量である。平均変形量μは次式(2)で表される。
【0028】
【0029】
上式から理解されるように、標準偏差SDの式は、バリア変形量(奥行方向または前方への変形量)の偏差の2乗和で構成され、バリア領域をできるだけ均等に変形させることがSDの低下に特に重要である。しかし、車両前面部2の最低地上高Hvの高い車両1では,車両前面部2と衝突しないバリア下部の計測点の変形量が抑制される。そのため、SDの低下は原理的に難しい。
【0030】
そこで本実施形態では、衝突予測ユニット8により車両1の衝突が予測されたときに、タイヤ6の空気圧を減少させることで車両前面部2の最低地上高を低下させ、バリア下部の変形量を増大させるようにしている。
【0031】
以下、本実施形態の制御を説明する。
【0032】
図1は、通常時の状態を示す。このとき衝突予測ユニット8は衝突を予測してないためオフ信号を出力する。また衝突検知ユニット9も衝突を検知してないためオフ信号を出力する。
【0033】
するとECU100は、空気圧調整装置7にオフ信号を出力する。これにより空気圧調整装置7は給気モードで動作され、タイヤ6の空気圧は通常走行に適した標準空気圧に維持される。車両前面部2の最低地上高は通常もしくは標準の最低地上高Hvとされる。
【0034】
図3は、衝突予測ユニット8が衝突を予測したが、衝突検知ユニット9はまだ衝突を検知してないときの状態を示す。このとき、衝突予測ユニット8はオン信号を出力するが、衝突検知ユニット9はオフ信号を出力する。
【0035】
するとECU100は、空気圧調整装置7に所定時間だけオン信号を出力する。これにより空気圧調整装置7は所定時間だけ排気モードで動作され、タイヤ6から急速に空気を排出する。これによりタイヤ6の空気圧は標準空気圧から急速に低下され、タイヤ6が潰れるように変形する。これにより車両前面部2の最低地上高が、通常の最低地上高Hvからより低い最低地上高HvLに低下される。
【0036】
仮にこの状態で車両1が前方障害物、例えばムービングバリア11に衝突した場合、バリア下部における変形量を増大し、バリアをより均等に変形させることができ、SDを低下させることができる。そして衝突試験における車両の評価を高めることができる。
【0037】
また、試験以外の実際の走行時にも、前方障害物(例えば相手車両)が車両1(自車両)の下に潜りこむのを抑制できる。そのため、車両衝突時の安全性を高めることができる。
【0038】
図4は、衝突予測ユニット8が衝突を予測した直後、前記所定時間内に衝突が実際に起こり、衝突検知ユニット9が衝突を検知したときの状態を示す。このとき、衝突予測ユニット8と衝突検知ユニット9はともにオン信号を出力する。
【0039】
するとECU100は、空気圧調整装置7にオン信号を出力し続ける。これにより空気圧調整装置7は継続して排気モードで動作され、タイヤ6から空気を排出し続ける。これによりタイヤ6の空気圧は低下され続け、タイヤ6の変形状態が維持される。これにより車両前面部2の最低地上高が、低い最低地上高HvLに維持される。
【0040】
衝突は、その開始時から、車両1および前方障害物の移動および変形が終了するまで継続する。本実施形態によれば、その衝突の開始時だけでなく、衝突の全期間に亘って車両1の最低地上高を下げておくことができる。そのため、衝突の全期間に亘って前方障害物が車両1の下に潜りこむのを抑制でき、安全性を高めることができる。
【0041】
一方、
図5は、衝突予測ユニット8が衝突を予測したが、前記所定時間が経過しても衝突が起こらず、衝突検知ユニット9が衝突を検知しないときの状態を示す。つまり、衝突予測ユニット8による衝突予測が誤っていた(誤検知であった)ときの状態を示す。
【0042】
このとき、衝突予測ユニット8の出力信号は、前記所定時間が経過した時点でオンからオフに切り替えられる。また衝突検知ユニット9の出力信号は当然にオフである。
【0043】
するとECU100は、前記所定時間が経過した時点で空気圧調整装置7への出力信号をオンからオフに切り替える。これにより空気圧調整装置7は、排気モードから給気モードに切り替えられ、タイヤ6の空気圧を急速に増大させる。これによりタイヤ6の空気圧は急速に標準空気圧に戻され、車両前面部2の最低地上高は急速に元の最低地上高Hvに戻される。
【0044】
これにより、衝突予測ユニット8が誤検知した場合であっても、タイヤ6の空気圧と車両前面部2の最低地上高とを元の通常状態に急速に復帰させることができる。そして車両1の走行への悪影響を最小限に止めることができる。
【0045】
以上の説明から理解されるように、前記所定時間は、衝突予測ユニット8が衝突を予測した時点から実際に衝突が起こるまでの間の時間より僅かに長い時間に設定するのが好ましい。
【0046】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
【0047】
例えば、前記実施形態の車両制御装置を、後方衝突時に機能するよう変形してもよい。この場合、衝突予測ユニットおよび衝突検知ユニットは後方障害物との衝突を予測および検知し、空気圧調整装置は後輪のタイヤの空気圧を調整するよう変形される。
【0048】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 車両
6 タイヤ
7 空気圧調整装置
8 衝突予測ユニット
9 衝突検知ユニット
10 OR回路
100 電子制御ユニット(ECU)