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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146592
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】熱延鋼板の変態状態予測方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/76 20060101AFI20220928BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20220928BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220928BHJP
   C21D 9/573 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B21B37/76 A
B21B37/00
B21B1/26 E
C22C38/00 301W
C22C38/06
C22C38/58
C21D9/573 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047635
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 明久
(72)【発明者】
【氏名】井上 直紀
(72)【発明者】
【氏名】中田 達也
(72)【発明者】
【氏名】栗山 進吾
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
4K043
【Fターム(参考)】
4E002AD04
4E002BD03
4E002BD07
4E002BD20
4E002CA20
4E124BB02
4E124BB07
4E124BB08
4E124EE01
4E124EE14
4E124FF01
4E124FF10
4K043AA01
4K043AB01
4K043AB02
4K043AB03
4K043AB04
4K043AB07
4K043AB10
4K043AB13
4K043AB15
4K043AB16
4K043AB18
4K043AB20
4K043AB21
4K043AB22
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB27
4K043AB28
4K043AB29
4K043AB33
4K043BA04
4K043EA07
4K043FA03
4K043FA13
(57)【要約】
【課題】 コイル潰れの発生の防止等のため、熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態を正確に予測する方法を提供する。
【解決手段】 熱延工程における熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態を予測する変態状態予測方法であって、予測対象鋼種の恒温変態図を取得するステップと、実際に熱間圧延設備1により熱延工程を行い、該熱延工程により熱延鋼板を所定の温度まで冷却してからコイラー4に巻き取ったコイルCの状態に基づいて、所定の温度における熱延鋼板の変態の完了時間を推定する推定ステップと、該推定ステップにおいて推定した所定の温度における熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、恒温変態図の変換を行う変換ステップと、を含み、該変換ステップにより、恒温変態図の時間軸を、熱延鋼板の上記圧延が完了してからの経過時間を示す時間軸に変換する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延工程における熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での前記熱延鋼板の変態状態を予測する変態状態予測方法であって、
予測対象鋼種の鋼材の恒温変態図を取得するステップと、
実際に前記熱延工程を行い、該熱延工程により前記熱延鋼板を所定の温度まで冷却してからコイラーに巻き取ったコイルの状態に基づいて、前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定する推定ステップと、
該推定ステップにおいて推定した前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記恒温変態図の変換を行う変換ステップと、を含み、
該変換ステップにより、前記恒温変態図の時間軸を、前記熱延鋼板の前記圧延が完了してからの経過時間を示す時間軸に変換することを特徴とする、変態状態予測方法。
【請求項2】
前記推定ステップは、
前記熱延鋼板を前記所定の温度まで冷却してから巻き取った前記コイルを、前記コイラーから抜き出すまでの時間である抜出時間を変えて複数用意し、
該用意した複数の前記コイルそれぞれの前記抜出時間と、前記コイラーから抜き出した後の当該コイルの縦横の内径比とに基づいて、前記変態の完了時間を推定することを特徴とする、請求項1に記載の変態状態予測方法。
【請求項3】
前記推定ステップは、前記巻き取ったコイルの表面の変態率の経時変化に基づいて、前記変態の完了時間を推定することを特徴とする、請求項1に記載の変態状態予測方法。
【請求項4】
前記所定の温度は、複数の温度を含み、
前記推定ステップは、前記複数の温度の各温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定し、
前記変換ステップは、前記推定ステップにおいて推定した前記複数の温度の各温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記恒温変態図の変換を行い、前記恒温変態図の温度軸についても変換することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の変態状態予測方法。
【請求項5】
前記推定ステップは、回帰分析による近似曲線に基づき前記変態の完了時間の推定を行い、
前記推定ステップにおける前記回帰分析に、一次関数、二次関数または対数関数を用いることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の変態状態予測方法。
【請求項6】
前記鋼材は、質量%で、
C:0.05~0.35%、
Si:0.15~1.5%、
Mn:1.0~2.7%、
P:0.1%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01~1.5%、
N:0.01%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1に記載の変態状態予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実操業における熱間圧延(熱延)後の熱延鋼板の変態状態予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延工程の仕上圧延後の熱延鋼板は、搬送装置であるランアウトテーブルに設けられた冷却装置により冷却され、コイラーに巻き取られる。コイラーに巻き取られた熱延鋼板(コイル)は、当該コイラーから抜き取られた後、コイル潰れが発生する場合がある。この場合、次工程でアンコイルする際、巻き解き装置にコイルを装着することができず、巻き戻し処理などが必要となるため、コスト増となる。特に、高張力鋼材(例えばTi、Nb等が添加されたもの)では上述のコイル潰れが顕著となる。
【0003】
コイル潰れは、変態が完了してから熱延鋼板を巻き取ることにより防ぐことができると考えられる。しかし、高張力鋼の変態がいつ完了するかの予測は、材質予測モデルを用いて行うことができるが、高張力鋼の多くについては、実用的な材質予測モデルが存在しないか、提案されていても精度が十分でない。なお、材質予測モデルでは、仕上圧延機排出側の鋼板初期粒径、成分、冷却の時間履歴を入力値として鋼板材質が予測される。
【0004】
一方、コイル潰れは、変態が未完了のまま熱延鋼板を巻き取る場合にも防ぐことはできる。例えば、特許文献1には、熱延鋼板の長手方向の相変態率変化を抑制することにより、ホットランテーブル上で相変態が未完了であっても、コイル潰れを抑制可能な方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-65077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の方法でも、コイラーに巻き取られた熱延鋼板を、変態完了後にコイラーから抜き取らなければコイル潰れが発生してしまう。変態完了後の抜き取りなどを可能とするためには、熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態の履歴を把握することが肝要である。
熱延鋼板は、上下からランアウトテーブル冷却装置により冷却後コイル状態で巻かれ、板状態からバルク(コイル)状態となるため、コイラー巻き取り後の熱延鋼板の温度は巻き取り温度(CT)から若干低下するものの大きくは変わらない。したがって、該当鋼種の恒温変態図(TTT線図)を用いて、鋼板の変態状態を把握する方法が考えられる。しかし、この方法は簡易であるもののこの図を用いて変態完了を予測しても実態には合わない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、コイル潰れの発生の防止等のため、熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態を正確に予測することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、 熱延工程における熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での前記熱延鋼板の変態状態を予測する変態状態予測方法であって、予測対象鋼種の鋼の恒温変態図を取得するステップと、実際に前記熱延工程を行い、該熱延工程により前記熱延鋼板を所定の温度まで冷却してからコイラーに巻き取ったコイルの状態に基づいて、前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定する推定ステップと、該推定ステップにおいて推定した前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記恒温変態図の変換を行う変換ステップと、を含み、該変換ステップにより、前記恒温変態図の時間軸を、前記熱延鋼板の前記圧延が完了してからの経過時間を示す時間軸に変換することを特徴としている。前記所定の温度とは、略巻き取り温度(CT)である。詳述すれば、前記所定の温度は、熱延鋼板の冷却終了直後から実際にコイルに巻き取られるまでに若干の温度変化がある場合には、その温度変化分を巻き取り温度に加えた温度である。
【0009】
本発明によれば、恒温変態図から作成した図に基づいて熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態を正確に予測することができる。したがって、コイル潰れの発生の防止等が可能となる。
【0010】
また、前記推定ステップでは、例えば、前記熱延鋼板を前記所定の温度まで冷却してから巻き取った前記コイルを、前記コイラーから抜き出すまでの時間である抜出時間を変えて複数用意し、該用意した複数の前記コイルそれぞれの前記抜出時間と、前記コイラーから抜き出した後の当該コイルの縦横の内径比とに基づいて、前記変態の完了時間を推定する。
【0011】
前記推定ステップは、前記巻き取ったコイルの表面の変態率の経時変化に基づいて、前記変態の完了時間を推定するようにしてもよい。
【0012】
前記所定の温度は、複数の温度を含むようにし、前記推定ステップにおいて、前記複数の温度の各温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定し、前記変換ステップにおいて、前記推定ステップにおいて推定した前記複数の温度の各温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記恒温変態図の変換を行い、前記恒温変態図の温度軸についても変換するようにすることが好ましい。
【0013】
前記推定ステップは、例えば、回帰分析による近似曲線に基づき前記変態の完了時間の推定を行い、前記推定ステップにおける前記回帰分析には、一次関数、二次関数または対数関数等を用いることができる。
【0014】
前記鋼材は、質量%で、C:0.05~0.35%、Si:0.15~1.5%、Mn:1.0~2.7%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~1.5%、N:0.01%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態を正確に予測することができ、したがって、コイル潰れの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱間圧延設備の仕上圧延機以降の構成の概略を示す説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態予測方法を説明するためのフローチャートである。
図3】恒温変態図の一例と共に、実操業における熱延鋼板の代表点の圧延終了からの冷却履歴と変態完了点とを示した図である。
図4】熱延鋼板の代表点の例を示す図である。
図5】所定の巻き取り温度における変態完了時間を推定する方法の一例を説明する図である。
図6】所定の巻き取り温度における変態完了時間の推定に用いるデータを示す図である。
図7】恒温変態図を変換した後の変態図の一例を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る変態状態予測方法を説明するための図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る変態状態予測方法を説明するための他の図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る変態状態予測方法を説明するための別の図である。
図11】所定の巻き取り温度における熱延鋼板の変態の完了時間を推定する方法の他の例を説明する図である。
図12】コイル長と熱延鋼板の代表点の位置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
まず、本発明に係る熱間圧延設備の構成について説明する。図1は、熱間圧延設備の仕上圧延機以降の構成の概略を示す説明図である。
熱間圧延設備1には、加熱炉(図示せず)から排出され粗圧延機(図示せず)で圧延された鋼板Hを所定の厚みに連続圧延する仕上圧延機2、仕上圧延後の鋼板H(以下、熱延鋼板H)を所定温度まで冷却する冷却装置3、冷却された熱延鋼板Hを巻き取るマンドレル4aを備えたコイラー4が、熱延鋼板Hの搬送方向にこの順で設けられている。仕上圧延機2とコイラー4との間には、熱延鋼板Hを搬送するランアウトテーブル5が設けられている。そして、仕上圧延機2で圧延された熱延鋼板Hは、ランアウトテーブル5上で搬送中に冷却装置3によって冷却された後、コイラー4に巻き取られてコイルCとして製造される。
【0019】
上述のように製造されるコイルCは、鋼板H/熱延鋼板Hが高張力鋼材である場合、コイル潰れを防ぐため、コイラー4に巻き取った熱延鋼板Hの変態が完了してからコイラー4から取り外す必要がある。そのためには熱延鋼板Hの圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板Hの変態状態を予測し把握することが必要である。なお、以下ではコイルCを熱延コイルC等と記載する場合がある。
【0020】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態に係る圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板Hの変態状態予測方法を説明するためのフローチャートである。
まず、本発明に係る変態状態予測方法では、予測対象の鋼種の恒温変態図すなわち該恒温変態図を示すデータを取得する(ステップS1)。恒温変態図は、オーステナイト化した鋼材に対し、ランアウトテーブル冷却を模擬した冷却パターンで所定の試験温度にまで急冷し等温保持したときの変態の様子を示す図である。
【0021】
恒温変態図の取得は、例えば、熱間圧延工程すなわち上述の熱間圧延設備を用いた工程後に冷間圧延工程まで行って得られた鋼板から試験片を作製し、該試験片を用いたフォーマスター試験により、実行することができる。
恒温変態図を取得するための試験片の作製方法は上述の例に限られず、例えば、冷間圧延工程を行っていない鋼材から作製してもよい。
なお、恒温変態図が既知の鋼種であれば、上述のように試験により取得する代わりに、頒布された資料から取得することも可能である。
【0022】
図3は、恒温変態図の一例であって、後述の冷却履歴と変態完了点とについても併せて示した図である。
図3の恒温変態図M1は、横軸が等温保持時間、縦軸が保持温度である。
恒温変態図M1上の各点は、600℃などの各保持温度で、変態率10%、30%、90%に至るまでの等温保持時間を示している。例えば、600℃で保持した場合、変態率90%へ到達するまでの保持時間は約20秒である。
【0023】
また、恒温変態図M1上には、3つの状態曲線C1~C3がある。
状態曲線C1は、変態率90%となる保持温度と等温保持時間との関係を示す曲線であり、例えば、恒温変態図M1上の変態率90%となる6つのデータに基づいて導出することができる。
同様に、状態曲線C2、C3はそれぞれ、変態率50%、10%となる保持温度と等温保持時間との関係を示す曲線であり、例えば、恒温変態図M1上の変態率50%、10%となる6つのデータに基づいて導出することができる。
【0024】
また、図3では、後述の熱延鋼板の代表点の圧延終了からの冷却履歴すなわち冷却開始からの冷却履歴(鋼板温度の時間変化)Rが恒温変態図M1に重ねて示されている。冷却履歴R1を示す際に、恒温変態図M1の横軸は、上記代表点の圧延終了を0秒とした冷却経過時間と読み替えられ、縦軸は、上記代表点の鋼板温度と読み替えられている。
【0025】
さらに、図3では、巻き取り温度550℃における後述の変態完了時間を示す点(変態完了点)p1も重ねて示されている。点p1を示す際に、恒温変態図M1の縦軸は、巻き取り温度と読み替えられ、横軸は変態完了時間と読み替えられている。
【0026】
前述した熱延鋼板の代表点を、図4で例示し説明する。図4は、熱延コイルCを側面から見た図であり、各例の代表点の位置をコイル半径方向の位置で示している。熱延鋼板の代表点は、当該位置の変態特性が熱延コイルCの変態特性を表すものとして定義されたものであり、例えば、図の熱延コイルCの最内周部(TOP部)TPである。熱延コイルCの最外周部(BOTTOM部)BTを熱延鋼板の代表点としてもよい。また、熱延コイルCの中心からの距離が、(外径+内径)/2で与えられる位置、言い換えると、コイル厚の半分となる位置MIDを熱延鋼板の代表点としてもよい。さらに、TOP部がコイラーのマンドレルに捲き取られ始めてからBOTTOM部に到り捲き取りが完了するまでの時間の半分の時間が経過するまでに巻き取られた位置MIDを上記代表点としてもよい。なお、以下の説明では、(幾何学的に)コイル厚の半分となる位置MIDを代表点にしたものとする。
【0027】
図2の説明に戻る。
本発明に係る変態状態予測方法では、前述のステップS1の後、実際に熱間圧延設備1を用いて熱間圧延工程を行い、製造したコイルに基づいて変態の完了時間を推定する(ステップS2)。より詳細には、ステップS2では、熱間圧延工程を行い、該熱間圧延工程により熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してから図1のコイラー4に巻き取ったコイルの状態に基づいて、上記所定の巻き取り温度における、巻き取り後の熱延鋼板の変態の完了時間を推定する(ステップS2)。推定方法の具体例は後述する。所定の巻き取り温度までの冷却は、図1のランアウトテーブル5に対して設けられた冷却装置3により行われる。
なお、ステップS1とステップS2の時間の前後は問わない。
以下では、「巻き取り後の熱延鋼板の変態の完了時間」を「変態完了時間」と省略する。
【0028】
図5は、所定の巻き取り温度における変態完了時間を推定する方法の一例を説明する図である。図6は、上記変態完了時間の推定に用いるデータを示す図である。
変態完了時間の推定は、上述のように、実際の熱間圧延工程により熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してからコイラー4に巻き取ったコイルの状態に基づいて行われる。変態完了時間の推定に用いる上記コイルの状態とは、例えば、以下に説明するように、実際に熱延圧延工程を行いコイラーから抜き出した直後のコイルの潰れ度合すなわちコイラーの内径の縦横比である。また、後述するように、変態完了時間の推定に用いる上記コイルの状態は、実際に熱延圧延工程を行いコイラーに巻き取ったコイルの表面の変態率であってもよい。
【0029】
図5の変態完了時間の推定方法では、まず、実際の熱間圧延工程により熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してからコイラーに巻き取ったコイルを、コイラーからの抜出時間を変えて複数サンプル製造/用意し、各サンプルについて、コイラーから抜き出した直後の水平方向及び鉛直方向の内径を測定する(ステップS11)。抜出時間とは、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからコイラーから抜き出すまでの経過時間である。ステップS11では、例えば、巻き取り温度を550℃とし、前記代表点が圧延終了からコイル抜き出し時間までの抜出時間を60秒、120秒、180秒としたサンプルを製造し、各サンプルについて上述の内径を測定する。
【0030】
内径の測定後、各サンプルについて、コイラーから抜き出した直後の各サンプルの内径の縦横比を計算する(ステップS12)。コイルの内径の縦横比とは、水平方向のコイルの内径の大きさに対する鉛直方向のコイルの内径の大きさのことをいう。
上述の計算などを行うことにより、上記所定の巻き取り温度における抜出時間と上記内径の縦横比との関係を示すデータを取得することができる。
この取得したデータの散布図の一例が図6に示されている。図6の散布図P1は、横軸が抜出時間、縦軸が上記内径の縦横比である。
【0031】
データの取得後、取得したデータについて回帰分析を行い、上記データの近似曲線を取得する(ステップS13)。散布図P1には、回帰分析により得られた近似曲線C11が示されている。本例のでは対数関数を用いて回帰分析を行っているが、一次関数や二次関数などの他の関数を用いて回帰分析を行ってもよい。
【0032】
そして、回帰分析により得られた近似曲線に基づき、所定条件を満たす抜出時間すなわちコイルの内径の縦横比が1となる抜出時間tを算出し(ステップS14)、該算出した抜出時間tを、複数のサンプルを製造した所定の巻き取り温度(例えば550℃)における変態完了時間と推定する。
【0033】
図1の説明に戻る。
本発明に係る変態状態予測方法では、ステップS2において推定した、上記所定の巻き取り温度における変態完了時間に基づいて、ステップS1で取得した恒温変態図の変換を行う(ステップS3)。
【0034】
図7は、恒温変態図を変換することにより得られる新たなTTT線図の一例を示す図である。
図7の新たなTTT線図M2は、巻き取り温度と、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間と、上記代表点の予測される変態率との関係を表す状態曲線C1´~C3´を示す。新たなTTT線図M2は、縦軸が巻き取り温度であり、時間軸が熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間となっている。
【0035】
また、図7では、図3と同様に、熱延鋼板の代表点の冷却履歴R1と、変態完了点p1とが、新たなTTT線図M2に重ねて示されている。冷却履歴R1と変態完了点p1とを示す際に、図3と同様の読み替えが行われている。
【0036】
ステップ3の変換では、恒温変態図の時間軸の変換を行い、例えば、推定した上記所定の巻き取り温度での変態完了時間と、元の恒温変態図における上記所定の巻き取り温度と温度が等しい保持温度での変態完了までの等温保持時間と、が一致するような変換を行う。時間軸の変換には、変換前の時間をxとしたときに変換後の時間f(x)=ax+bとなる一次関数を用いることができる。
なお、ステップS3の変換における温度軸の変換は実質的な変換は伴わない。
以下、恒温変態図の時間軸の変換方法をより具体的に説明する。
【0037】
ここで、ステップS2において、550℃の巻き取り温度についての変態完了時間を推定したものとし、また、推定した変態完了時間が270秒であったものとする。
図3の恒温変態図M1において、変態完了時間が推定された巻き取り温度と等しい保持温度(550℃)で、変態率が90%となる等温保持時間は約27秒であり、本例では、この等温保持時間を変態完了までの等温保持時間とする。その理由は後述する。
【0038】
ステップS3では、ステップS2において推定した巻き取り温度550℃での変態完了時間(270秒)と、恒温変態図M1における550℃の等温保持温度での変態完了までの等温保持時間(27秒)と、が一致するように、一次関数f(x)=ax+b(x:変換前の時間、f(x):変換後の時間)を用いて時間軸の変換を行う。
【0039】
本例ではa=10、b=0で両者が一致するため、f(x)=10xとなる時間軸の変換を行った結果が、図6の新たなTTT線図(変態図)M2である。
該TTT線図M2では、前述のように、横軸が熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間、縦軸が巻き取り温度となっている。そのため、図7の新たなTTT線図M2に基づいて、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの熱延鋼板の変態の進行状態が把握できるので、例えば、所定の変態完了時間までコイラー内でコイルを保持してコイルを抜き取ることができるので、コイル潰れの発生を防ぐことができる。
【0040】
以上の例では、恒温変態図の変換の際、元の恒温変態図において変態率が90%となる等温保持時間が、変態が完了するまでの等温保持時間であるものとした。変態が完了する時間すなわち変態率が100%となる時間を測定するのは困難だからである。
しかしながら、本発明では実操業結果から推定される変態完了点に基づいて、TTT線図を再定義する、すなわち上述の新たなTTT線図を取得するため、新たなTTT線図では、変態率が90%の状態曲線は変態率100%の状態曲線と考えることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図8乃至図10は、本発明の第2の実施形態に係る変態状態予測方法を説明するための図である。
第1の実施形態と第2の実施形態では、変態完了時間の推定対象と、恒温変態図の変換方法と、が異なる。
【0042】
第1の実施形態では、1つの巻き取り温度における変態完了時間を推定していたが、本実施形態では、2つの巻き取り温度における変態完了時間を推定する。
ここで、変態完了時間の推定は、550℃と600℃の2つの巻き取り温度について行ったものとする。
【0043】
図8では、巻き取り温度550℃で推定した変態完了時間を示す点p1と、巻き取り温度600℃で推定した変態完了時間を示す点p2と、が、巻き取り温度550℃での熱延鋼板の代表点の冷却履歴R1と、巻き取り温度600℃での熱延鋼板の代表点の冷却履歴R2と共に、恒温変態図M3に重ねて示されている。なお、点p1、p2と冷却履歴R1、R2とを示す際に、図3と同様の読み替えが行われている。
【0044】
そして、第2の実施形態の態状態予測方法では、恒温変態図M3の変換の際、2つの巻き取り温度の各温度で推定した変態完了時間に基づいて、恒温変態図M3の時間軸だけでなく温度軸についても変換を行う。
例えば、後述の図10に示すように、変換することにより得られる新たなTTT線図M4に、上記2つの巻き取り温度での推定した変態完了時間を示す点p1、p2を重ねて示した際に、該点p1、p2が、新たなTTT線図M4における変態完了までの等温保持時間を示す曲線C1”と略重なるように、時間軸及び温度軸の変換を行う。
【0045】
上述の時間軸及び温度軸の変換では、例えば、変換前の時間,温度をそれぞれx,yとしたときに、変換後の時間f(x)=ax+b、変換後の温度f(y)=cy+dとなる一次関数を用いて、前述のように恒温変態図M3に点p1、p2を重ねて示した際に以下の距離の絶対値の和が最少となるようにする。
【0046】
上述の距離の和とは、図9に示すように、恒温変態図を示すデータのうち変態率が90%で保持温度が550℃以下のものについての近似直線C21から、同図中の巻き取り温度550℃の推定変態完了時間の点p1までの距離L1と、同データのうち変態率が90%で保持温度が600℃以上のものについての近似直線C22から、同図中の巻き取り温度600℃の推定変態完了時間の点p2までの距離L2と、の和である。
【0047】
上記距離の和が最少となるよう、時間軸及び温度の変換を行った結果が、図10の新たなTTT線図M4である。
このような変換を行うことにより、より正確に、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの熱延鋼板の変態の進行状態が把握できる。
なお、図9では、図3と同様の読み替えを行って、図8と同様に点p1、p2と冷却履歴R1、R2とがTTT線図M4に重ねて示されている。
【0048】
本例では、推定する変態完了時間は2つであるが、3つ以上であってもよく、3つ以上の変態完了時間に基づいて恒温変態図を変換するようにしてもよい。
また、複数の巻き取り温度について推定した変態完了時間に基づく温度軸及び時間軸の変換方法は上述以外の方法であってもよい。
【0049】
図11は、所定の巻き取り温度における熱延鋼板の変態の完了時間を推定する方法の他の例を説明する図である。
本例の変態完了時間推定方法では、図4及び図5の例とは異なり、所定の巻き取り温度で巻き取ったコイルの表面の変態率の経時変化に基づいて、上記巻き取り温度における変態の完了時間を推定する。
【0050】
具体的には、熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してからコイラーに巻き取り、コイルを製造する。その製造の際、巻き取り中または巻き取り後のコイルの最外周の表層の変態率を変態率測定点(最外周)が圧延を完了してから、一定時間毎(例えば60秒毎)に測定する。
これにより、巻き取り中または巻き取り後のコイルの最外周の表層の変態率と、変態率の測定点が圧延を完了してからの経過時間との関係を示すデータを取得することができる。
この取得したデータの散布図の一例が図11に示されている。図11の散布図P2は、横軸が上記経過時間、縦軸が変態率である。
【0051】
データの取得後、取得したデータについての回帰分析を行う。散布図P2には、回帰分析により得られた近似曲線C31が示されている。本例の近似曲線C31は対数関数を用いて回帰分析を行っているが、一次関数や二次関数などの他の関数を用いて回帰分析を行ってもよい。
【0052】
そして、回帰分析により得られた近似曲線C31に基づき、変態率が100%となる経過時間tを算出し、該算出した経過時間tを、該コイルを製造した所定の巻き取り温度(例えば550℃)における変態完了時間と推定する。
【0053】
以上の方法により算出/推定される変態完了時間は熱延鋼板/熱延コイルのBOTTOM部のものである。しかし、本例の変態状態予測方法では、熱延鋼板の代表点として幾何学的なコイル厚の半分の位置を採用しているので、BOTTOM部の変態完了時間から内挿して代表位置の変態完了時間を求める。ちなみに代表位置をBOTTOM部とした場合はそのまま用いることができる。
【0054】
これにより、1つのサンプル/コイルに基づいて、変態の完了時間を推定することができる。
なお、変態率を計測する部分は、コイラーに巻き取られている熱延鋼板の最外層であるが、最外層の熱延鋼板は巻き取り終了まで常に新しい熱延鋼板に更新されていくので、巻き取り中の最外層の熱延鋼板の変態率は大きく変化しないと考えられる。したがって、変態率の計測はコイルの巻き取り終了後から始めるようにしてもよい。
【0055】
本発明に係る変態状態予測方法の予測対象の高張力鋼は、質量%で、C:0.05~0.35%、Si:0.15~1.5%、Mn:1.0~2.7%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~1.5%、N:0.01%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。
高張力鋼の成分限定理由について以下説明する。なお、以下では、組成における質量%は単に%と記す。
【0056】
C:Cは鋼の強度を増加させ、延性を向上させる残留オーステナイトを安定化させる元素として添加されるものである。0.05%未満では980MPa以上の引張強度の確保が困難であり、0.35%を超える過剰の添加は延性、溶接性、靭性などを著しく劣化させる。従って、C有量は0.05%以上、0.35%以下であることが好ましい。
【0057】
Si:Siは固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。また、Siはセメンタイトの生成を抑制するため、ベイナイト変態時にオーステナイト中へのCの濃化を促進させる効果をもち、焼鈍後に残留オーステナイトを生成させるのに必須の元素である。0.15%未満ではそれらの効果が発現されず、1.5%を超える過剰の添加は熱間圧延で生じるスケールの剥離性を著しく劣化させ、めっきの濡れ性を著しく損なうため、Si含有量は0.15%以上、1.5%以下であることが好ましい
【0058】
Mn:Mnは焼入れ性を高めるために有効な元素である。1.0%未満では焼入れ性を高める効果が十分には発現されず、2.7%を超える過剰の添加は靭性を劣化させる。従って、Mn含有量は1.0%以上、2.7%以下であることが好ましい。
【0059】
P:Pは、粒界に偏析して粒界強度を低下させ、靱性を劣化させる不純物元素であり、低減させることが望ましいため、Pの含有量は0.1%以下であることが好ましい。
【0060】
S:Sは、熱間加工性及び靭性を劣化させる不純物元素であり、低減させることが望ましい。したがって、Sの含有量は0.02%以下であることが好ましい。
【0061】
Al:Alは脱酸剤のはたらきをする元素である。また、Siと同様にフェライト安定化元素であり、Siの代替として使用することもできる。0.01%未満ではそれらの効果が発現されず、1.5%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Alの含有量は0.01%以上、1.5%以下であることが好ましい。
【0062】
N:Nは粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となること、加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。これより、N含有量の範囲は0.01%以下であることが好ましい。
【0063】
さらに、高張力鋼は、質量%で、Ti:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.5%、Cr:0.005~0.5%、Mo:0.005~0.5%、Ni:0.005~0.5%、Cu:0.005~0.5%、B:0.0003~0.030%、Ca:0.0003~0.030%、Mg:0.0003~0.030%、REM(希土類元素):0.0003~0.030%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0064】
また、以上の例では、恒温変態図の変換における時間軸及び温度軸の変換に一次関数を用いていたが、一次関数に代えて、二次関数や対数関数を用いてもよい。
【0065】
ちなみに、これまでの説明でも分かるように本発明においてコイル幅は何も影響しない。しかし、コイル長が変化するとコイル代表位置が変化するため、コイル長が異なる場合は、図12に示す代表点位置の変化に伴い変態完了時間を変更すればコイル長が変わっても対応可能である。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
前述したように、本発明によれば、熱延鋼板の圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板の変態状態をより正確に予測することができる。したがって、本発明は、例えば、高張力鋼材を用いた鋼板の製造産業に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1…熱間圧延設備
2…仕上圧延機
3…冷却装置
4…コイラー
4a…マンドレル
5…ランアウトテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12