(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146709
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】エンジンの水冷式冷却装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20220928BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F01P7/16 503
F01P7/16 505B
F02F1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047816
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大文
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲喜
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA39
3G024CA02
3G024CA12
3G024FA00
(57)【要約】
【課題】冷間運転時にウォータポンプを停止した状態でエンジンを運転することによる早期暖機の効果を確実化させる。
【解決手段】ヘッドジャケット5の冷却水出口14とラジエータ送り通路16のアッパタンク15とが、上中継室17を介してラジエータ送り通路16によって接続されている。ブロックジャケットの冷却水入口7とラジエータ9のロアタンク10とは、下中継室12を介してラジエータ戻り通路11で接続されている。上中継室17に、冷却水出口14からの通水は許容してラジエータ送り通路からの逆流は阻止する通水規制手段(例えば逆止弁)22を配置している。ウォータポンプ8の運転を停止してエンジンを駆動している状態で、ラジエータ送り通路16の内部に冷却水の温度差による対流現象は発生しないため、エンジン1の熱がラジエータ送り通路16等を通じて放散されることを防止できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータの冷却水入口がエンジンの冷却水出口部よりも高い位置にあり、前記エンジンの冷却水出口部とラジエータの冷却水入口とはサーモ弁を介することなくラジエータ送り通路によって接続されている構成であって、
前記冷却水出口部又はラジエータ送り通路のうち前記エンジンの近くに、ウォータポンプを停止してエンジンを駆動しているときに前記ラジエータ送り通路の内部に温度差による対流が発生することを阻止する通水規制手段が設けられている、
エンジンの水冷式冷却装置。
【請求項2】
前記ウォータポンプは電動式である一方、
前記エンジンの冷却水出口部は、前記ラジエータ送り通路が接続された主冷却水出口部と、ヒータコア又は他の熱交換機器若しくは両方に向かう補助送水通路が接続された補助冷却水出口とから成っており、主冷却水出口部又は前記ラジエータ送り通路に前記通水規制手段を設けている、
請求項1に記載したエンジンの水冷式冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ラジエータを備えた水冷式冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンでは冷却水で機関を冷却しており、昇温した冷却水はラジエータによって冷却されているが、低温環境下での運転で過冷却を防止するため、サーモ弁を設けて、所定温度に昇温しないと冷却水がラジエータに流れないように設定している。
【0003】
しかし、低温環境下での冷間始動時には冷却水をエンジンに流して冷却すること自体が過冷却になる場合があり、そこで、ウォータポンプを電動化するなどして、冷却水が所定温度に至るまではウォータポンプの駆動を停止して早期暖機を図ることが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、冷間始動時にウォータポンプを停止すると、ラジエータへの通水は遮断されるため冷却水の早期昇温が促進される筈であるが、本願発明者たちが実機を運転して計測したところ、ウォータポンプを運転している状態と停止している状態とで冷却水の昇温の程度に違いは見られるものの、ウォータポンプを停止しても昇温の程度は理論値よりも低い結果になっていた。
【0006】
この点について本願発明者たちが分析したところ、エンジンで温まった冷却水がラジエータに向かうラジエータ送り通路に流れ出る一方、ラジエータ送り通路に溜まっていた冷たい冷却水がエンジン(シリンダヘッド)に向けて逆流する現象があり、このため、冷却水がラジエータを循環する現象が発生して、冷却水の(エンジンの)早期昇温が抑制されている事実を発見した。
【0007】
更に述べると、ラジエータの冷却水入口は一般にエンジンの冷却水出口よりも高い位置にあることから、エンジンで温まった冷却水は軽いため表層流としてラジエータに向かう一方、ラジエータ送り通路に溜まっていた冷たい冷却水は自重によって下層流としてエンジンに向かう(逆流する)現象があり、その結果、ラジエータ送り通路及びラジエータ戻り通路の内部で冷却水の循環(対流)が生じて、エンジンの熱が外部に放散されていた。
【0008】
本願発明はこのような研究と知見を基にして成されたものであり、冷間運転時の熱の逃げを確実に防止して早期暖機促進を確実化できる技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の冷却装置は、
「ラジエータの冷却水入口がエンジンの冷却水出口部よりも高い位置にあり、前記エンジンの冷却水出口部とラジエータの冷却水入口とはサーモ弁を介することなくラジエータ送り通路によって接続されている」
という基本構成において、
「前記冷却水出口部又はラジエータ送り通路のうち前記エンジンの近くに、ウォータポンプを停止してエンジンを駆動しているときに前記ラジエータ送り通路の内部に温度差による対流が発生することを阻止する通水規制手段が設けられている」
という特徴を備えている。
【0010】
本願発明は、請求項2の構成も含んでいる。この請求項2の発明は、請求項1を前提として、
「前記ウォータポンプは電動式である一方、
前記エンジンの冷却水出口部は、前記ラジエータ送り通路が接続された主冷却水出口部と、ヒータコア又は他の熱交換機器若しくは両方に向かう補助送水通路が接続された補助冷却水出口とから成っており、主冷却水出口部又は前記ラジエータ送り通路に前記通水規制手段を設けている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明において、エンジンからの熱の逃げを抑制する趣旨から、通水規制手段はできるだけエンジンに近づけて配置するのが好ましい。また、通水規制手段は、典型的には逆止弁を採用できるが、ラジエータ送り通路に上向きの塞き止め部を設けて、これを通水規制手段と成すことも可能である。また、逆止弁を使用する場合、ばね等によって閉止状態に付勢されている必要があるが、対流を阻止するための付勢力はごく僅かでよいので、ウォータポンプを駆動している状態での圧損は無視できるほどに小さくできる。
【発明の効果】
【0012】
ラジエータへの通水をON・OFFするサーモ弁は、ラジエータ送り通路の始端に設ける場合とラジエータ戻り通路の終端に設ける場合とがあり、ラジエータ戻り通路の終端に設けると、冷却後の温度に反応するため過冷却を的確に防止できる利点があるが、この場合は、エンジンの冷却水出口とラジエータ送り通路とが常に連通しているため、既述のとおり、冷間運転時に対流による熱の放散が発生してしまう。
【0013】
これに対して本願発明では、エンジンで加温された冷却水がラジエータ送り通路に逃げることが通水規制手段によって阻止されるため、熱の逃げを防止して冷却水の(エンジンの)早期暖機促進効果を確実化できる。その結果、過冷却を防止できる利点を損なうことなく、燃費の向上や触媒の早期活性化による排気ガス浄化性能の向上に貢献できる。
【0014】
本願発明において、ウォータポンプはクランク軸で駆動される方式を採用して、クラッチのON・OFFによってウォータポンプへの動力を継断することも可能であるが、請求項2のように電動式のウォータポンプを採用すると、構造を単純化して故障も抑制できる利点がある。
【0015】
また、自動車用に搭載されるエンジンの場合、車内の暖房に冷却水の熱を使用していることがあるが、この場合、請求項2の構成では、暖機運転中でもヒータコアには通水されて暖房を効かせることができるため、車内環境を維持する上で好適である。また、ヒータを除いた熱交換機器としては、ミッションオイル用又は潤滑油用のオイルクーラやEGRクーラなどがあるが、請求項2の構成では、これらの熱交換器への通水を確保できるため、エンジンの機能を維持する上で好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は第1実施形態の模式図、(B)は比較例の断面図である。
【
図2】(A)は通水規制手段としての逆止弁の例である第2実施形態を示す図、(B)は逆止弁の例である第3実施形態を示す図である。
【
図3】(A)は逆止弁の例である第4実施形態を示す図、(B)は逆止弁の例である第5実施形態を示す図、(C)は逆止弁の例である第6実施形態を示す図である。
【
図4】逆止弁の例である第7実施形態を示す図である。
【
図5】請求項2に対応した第8実施形態を示す模式図である。
【
図6】通水規制手段の別例である第9実施形態の模式図である。
【
図7】通水規制手段の別例である第10実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの冷却装置に適用している。以下では、方向を特定するため前後・上下の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、上下は鉛直方向である。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションケースが配置される側を後ろとしている。
【0018】
(1).第1実施形態
図1(A)では、第1実施形態を示している。
図1(A)において、エンジン1は、シリンダブロック2とこれに上から重なったシリンダヘッド3とを備えており、シリンダブロック2とシリンダヘッド3にはそれぞれ冷却水ジャケット4,5が形成されており、両者は、シリンダヘッド3に形成された通水穴(水足)6を介して連通している。
【0019】
以下では、単純化のため、シリンダブロック2に形成された冷却水ジャケット4をブロックジャケットと呼び、シリンダヘッド3に形成された冷却水ジャケット5をヘッドジャケットと呼ぶこととする。ブロックジャケット4はシリンダボアの群を囲っている。ヘッドジャケット5は上下2層に分かれていることが多いが、図では、1層に単純化して表示している。
【0020】
図示の例では、冷却水がブロックジャケット4からヘッドジャケット5に通水されるようになっているが、ブロックジャケット4への通水とヘッドジャケット5への通水とを別々に行うことも可能である。
【0021】
ブロックジャケット4の前端部には冷却水入口7が繋がっており、冷却水入口7には、電動式のウォータポンプ8から冷却水が圧送される。ブロックジャケット4の冷却水入口7とラジエータ9のロアタンク10とが、ラジエータ戻り通路11によって接続されている。ブロックジャケット4の冷却水入口7は、ポンプ室を有する下中継室12と連通しており、ラジエータ戻り通路11の終端は下中継室12に接続されている。そして、下中継室12に、所定温度になると開弁し始めてラジエータ戻り通路11の通水を許容するサーモ弁13が配置されている。
【0022】
他方、ヘッドジャケット5の後端部には冷却水出口14が形成されており、冷却水出口14とラジエータ9のアッパタンク15とがラジエータ送り通路16によって接続されている。この場合、シリンダヘッド3の後端に上中継室17を形成して、ラジエータ送り通路16を上中継室17に接続している。従って、ラジエータ送り通路16と冷却水出口14とは、上中継室17を介して接続されている。冷却水出口14と上中継室17とによって、請求項に記載した冷却水出口部が構成されている。
【0023】
ラジエータ9のアッパタンク15は上中継室17よりも高い位置にあるため、ラジエータ送り通路16は、上中継室17から上向きに延びた状態でアッパタンク15に向かっている。なお、上中継室17はシリンダヘッド3に一体に形成してもよいし、シリンダヘッド3とは別部材としてユニット化されていてもよい。
【0024】
自動車は車内暖房のためのヒータコア18を備えており、上中継室17とヒータコア18の入口とがヒータ行き通路19で接続され、ヒータコア18の出口と下中継室12とがヒータ戻り通路20で接続されている。一点鎖線で示すように、ウォータポンプ8が駆動されている状態で冷却水がラジエータ9に流れていないときに、冷却水を下中継室12に戻すリターン通路21を設けることも可能である。
【0025】
そして、冷却水出口部を構成する上中継室17に、冷却水がヘッドジャケット5から上中継室17に流入することは許容して、逆流は阻止する逆止弁22を配置している。
図1では、逆止弁22はボール式の記号として表示しているが、これは逆止弁22を上位概念として表示したものであり、ボール式として特定するものではない。
【0026】
(2).作用
図では省略しているが、ウォータポンプ停止時でもヘッドジャケットの水温を検知できる位置に水温センサを設けており、水温が予め設定した下限温度よりも低い場合は、ウォータポンプ8は駆動せずに冷却水ジャケット4,5に冷却水を溜めたままにして保温している。冷却水の温度が下限温度に至るとウォータポンプ8を駆動して、リターン通路21を介して冷却水を循環させる。ウォータポンプ8の駆動と停止とを何回か繰り返して、冷却水の温度を均一化させつつ昇温させることも可能である。
【0027】
エンジンの運転維持によって冷却水は徐々に昇温していき、所定の温度に至るとサーモ弁13が開き始めて、冷却水が上中継室17からラジエータ9に流れ始める。サーモ弁13が全開すると、ヒータコア18に向かう冷却水を除いた大半の冷却水が、ラジエータ9を経由してウォータポンプ8に戻る。
【0028】
そして、サーモ弁13が下中継室12にあると、上中継室17とラジエータ送り通路16とが連通しているため、単にラジエータ送り通路16が上中継室17に接続されただけの状態であると、
図1(B)に示すように、ラジエータ送り通路16の始端部が上向き傾斜していることにより、ラジエータ送り通路16の冷たい冷却水W2が、ラジエータ送り通路16の下層部を流れて上中継室17に向かう一方、エンジン1で加温されて軽くなった冷却水W1が、ラジエータ送り通路16の上層部を上昇してラジエータ9に向けて流れる現象が発生していた。すなわち、ラジエータ送り通路16の内部で、加温水W1と冷水W2との対流現象が発生していた。
【0029】
その結果、冷却水がラジエータ9を循環して、エンジン1の熱が冷却水を介して外部に放散されてしまい、ウォータポンプ8を停止しているのに暖機時間を理論値どおりに短縮できていなかった。従って、燃費改善の効果や、触媒の早期活性化の効果が未だ不十分であった。
【0030】
これに対して本実施形態では、ウォータポンプ8が停止している状態では、ヘッドジャケット5に溜まった冷却水はそのまま保持されて上中継室17には流れないため、ラジエータ送り通路16で加温水と冷水とが対流によって循環する現象は発生せず、エンジン及び冷却水の早期昇温を確実化できる。従って、暖機時間を短縮化して、燃費改善の効果や、触媒の早期活性化の効果を確実化できる。
【0031】
(3).第2~7実施形態(逆止弁の具体例)
次に、
図2,3に表示されている逆止弁22の具体例を説明する。
図2(A)に示す第2実施形態では、逆止弁22は軽い力で曲がる1枚の弁板24で構成されており、弁板24は、その一端部が弁ケース25に固定されている。弁ケース25は通水穴26を有してリング状に形成されており、上中継室17の底部にビス等で固定されている。弁ケース25を使用せずに、弁板24を上中継室17の底部にビス等で直接固定することも可能である。
【0032】
ウォータポンプ8が運転停止している状態では、弁板24は弁ケース25に重なって、ヘッドジャケット5から上中継室17への通水も、上中継室17からヘッドジャケット5への通水も阻止されている。従って、ラジエータ送り通路16の冷却水への熱交換は発生せず、早期暖機を確実化できる。
【0033】
冷却水の温度がある程度まで昇温してウォータポンプ8が駆動されると、弁板24が曲がり変形して、冷却水はヘッドジャケット5から上中継室17に流入し、ラジエータ9又はリターン通路21を介してウォータポンプ8に戻る。
【0034】
この場合、ウォータポンプ8が運転停止している状態では、ヘッドジャケット5の内部では冷却水の温度の違いによる対流現象は発生しうるが、基本的には冷却水は静止しているため、弁板24をヘッドジャケット5の内部から押すような外力は発生しない。逆に、ラジエータ送り通路16が上中継室17から上向きに延びていることにより、ラジエータ送り通路16の水頭がヘッドジャケット5の水頭よりも大きいため、ラジエータ送り通路16の水頭が上中継室17を閉じるように作用している。
【0035】
従って、弁板24の弾性復元力は僅かでよく、極論すると、弁板24はピンで枢支されているだけでも(ばねで付勢しなくても)閉じ状態に保持されている。このため、ウォータポンプ8の駆動によって弁板24を冷却水で押し開くにおいて、冷却水の流れに対する弁板24の抵抗を無視できる程に小さくできる。従って、ウォータポンプ8の駆動時の圧損を実質的に発生させることなく、ウォータポンプ8の運転停止時の熱の逃げを防止できる。
【0036】
図2(B)に示す第3実施形態は第2実施形態の変形例であり、2枚の弁板24を使用したものである。2枚の弁板24は対向しているため、弁ケース25には、弁板24の自由端を支持するステー27を設けている。
【0037】
図3(A)に示す第4実施形態では、逆止弁22をスイング式に構成している。すなわち、逆止弁22は、弁ケース25と弁板24とを備えており、弁板24にアーム28の一端を固定し、アーム28の他端が弁ケース25にピン29で連結されている。弁板24は、ごく弱いばねで閉じ方向に付勢されている。
【0038】
図3(B)に示す第5実施形態の逆止弁22は、円錐状(或いは角錐状)の籠方式になっている。すなわち、この実施形態の逆止弁22は、流れの上流に向けて突出した円錐状の籠体30と籠体30の内面に重なった弁板24とで構成されており、籠体30はそのフランジ30aがシリンダヘッド3に押さえ部材31で固定されている一方、弁板24は、籠体30の頂点部に連結されている。籠体30は3~5本程度の支持フレームを有しており、隣り合った弁板24の長手縁部が支持フレームの内面に重なっている。
【0039】
そして、ヘッドジャケット5から上中継室17への通水は、弁板24が曲がり変形(又は内向き回動)することによって許容され、上中継室17から冷却水出口14への通水は阻止されている。従って、ウォータポンプ8が停止した状態でエンジンの熱が外部に逃げることを防止できる。なお、逆止弁22は、ラジエータ送り通路16で押さえ固定してもよい。
【0040】
図3(C)に示す第6実施形態では、上中継室17の底部に段落ち凹部32が形成されており、逆止弁22は、段落ち凹部32に入り込む有底筒状の弁体33と、弁体33がスライド自在に嵌まったガイド筒33aと、ガイド筒34aが形成された受け板34と、弁体33を付勢するコイルばね35とで構成されている。受け板34は多数の穴が空いており、上中継室17の底部に固定されている。
【0041】
弁体33は、段落ち凹部32の内面に当接するようになっているが、弁体33の外径よりも段落ち凹部32の内径が大きくなっている。従って、ウォータポンプ8が運転されると、弁体33はコイルばね36に抗して後退し、冷却水は、弁板33の外側から受け板34を通過して上中継室17に流入する。コイルばね35のばね力は極く弱くてもよいので、ウォータポンプ8の駆動時には冷却水は殆ど抵抗無しで上中継室17に流入できる。
【0042】
図4に示す第7実施形態では、逆止弁22は、シリンダヘッド3の外面に固定された継手(或いは弁ケース)36の内部に配置している。継手36は上向きに傾斜しており、その内部に、弁板24がその上端を支点にして回動するように支軸37によって連結されている。そして、継手36の内面のうち弁板24の下方部に、弁板24が上中継室17の側に回動するのを阻止して下向きの閉じ姿勢に保持するストッパー38を設けている。
【0043】
この実施形態では、弁板24は、自重によって閉じ姿勢に保持されており、サーモ弁13が開くと、弁板24が上向きに開き回動して冷却水の流れが許容される。ばねは使用していないので、冷却水が流れるに際しての圧損は現実には生じない。この実施形態において、継手36のうち弁板24を配置している部分は四角筒になって、ホースよりなるラジエータ送り通路16が接続されている部分36aは円筒になっている。
【0044】
(4).第8~10実施形態
次に、
図5~7に示す実施形態を説明する。
図5に示す第8実施形態は、第1実施形態の変形例でかつ請求項2の具体例である。すなわち、この実施形態では、ヘッドジャケット5に、上中継室17と連通した主冷却水出口14とは別に補助冷却水出口14aを設け、補助冷却水出口14aにヒータ行き通路19が接続されて、逆止弁22は第1実施形態と同様に上中継室17に設けている。
【0045】
従って、この実施形態では、ウォータポンプ8を停止しつつヒータコア18には通水可能である。但し、ウォータポンプ8が停止しているとヒータコア18への流れも基本的には生じないため、ヒータの効きは弱いものとなる。従って、ウォータポンプ8を僅かに駆動して、ラジエータ送り通路16への通水は逆止弁22で阻止しつつ、ヒータコア18への通水は許容する制御態様も採用可能である。
【0046】
また、通水規制手段として電磁弁を採用し、冷却水の温度が基準温度よりも低いときには、電磁弁は閉じてウォータポンプ8を僅かに回転させることにより、ヒータコア18のみに通水させることも可能である。
【0047】
図6に示す第9実施形態では、ラジエータ送り通路16のうちシリンダヘッド3に近接した部位に、通水規制部として、上向きのU型に曲げた塞き止め部39を形成している。
図7の第10実施形態も同様であるが、
図7の実施形態では、塞き止め部39をラジエータ9のアッパタンク15よりも高く設定しているのに対して、
図6の第9実施形態では、塞き止め部39はラジエータ9のアッパタンク15よりも低い高さになっている。いずれの実施形態においても、塞き止め部39の上端には、冷却水の補充に際して空気を逃がすためのキャップ付きエア抜き口40を設けている。
【0048】
図7のように、塞き止め部39をラジエータ9のアッパタンク15よりも高く設定すると、エア抜き口40を冷却水の注入口に兼用できるため、アッパタンク15の注入口を廃止できる。
【0049】
これら両実施形態の特徴は、塞き止め部39が鉛直姿勢の起立部39a,39bを有していることであり、この形態により、塞き止め部39のうち上流側の起立部39aでは、エンジンが加温された冷却水の上昇が阻止される一方、塞き止め部39のうち下流側の起立部39bでは、冷たい冷却水の上昇動が阻止される。すなわち、加温された冷却水も冷たい冷却水も、塞き止め部39を乗り越えることができない。
図6,7において、加温された冷却水をハッチングで表示している。
【0050】
更に述べると、塞き止め部39のうち上流側の起立部39aでは、加温された冷却水のみが充満しているため対流は発生せず、塞き止め部39のうち下流側の起立部39bでは、冷たい冷却水のみが充満しているためこれまた対流は発生しない。従って、ラジエータ送り通路16の長い範囲に亙る対流によってエンジンの熱が放散される現象を防止できる。これら
図6,7の実施形態では、通水規制手段はラジエータ送り通路16を曲げるだけでよいため、構造が簡単になる利点がある。
【0051】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、通水規制手段として逆止弁を設ける場合、シール性を高めるためゴム等のパッキンを設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明は、エンジンの冷却装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ブロックジャケット
5 ヘッドジャケット
7 ブロックジャケットの冷却水入口
8 電動式のウォータポンプ
9 ラジエータ
10 ロアタンク
11 ラジエータ戻り通路
12 下中継室
13 サーモ弁
14 ヘッドジャケットの冷却水出口部を構成する冷却水出口(主冷却水出口)
15 アッパタンク
16 ラジエータ送り通路
17 冷却水出口部を構成する上中継室
18 ヒータコア
22 通水規制手段の一例としての逆止弁
39 通水規制手段の一例として塞き止め部