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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146725
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】プリーツ加工をした製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06J 1/00 20060101AFI20220928BHJP
   D06M 15/39 20060101ALI20220928BHJP
   D06C 15/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
D06J1/00
D06M15/39
D06C15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047839
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】596126672
【氏名又は名称】株式会社市川プリーツ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】市川 起誉展
【テーマコード(参考)】
3B154
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AA02
3B154AB19
3B154AB31
3B154BA14
3B154BA35
3B154BA36
3B154BB02
3B154BB12
3B154BB32
3B154BB77
3B154BC28
3B154BD06
3B154BE04
3B154DA13
3B154DA18
4L033AA02
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC01
4L033CA33
(57)【要約】
【課題】セルロース系繊維を含有する生地にプリーツの耐久性と引裂強度の低下を抑制する。
【解決手段】セルロース系繊維を含む生地を、グリオキザール系樹脂、同グリオキザール系樹脂の反応触媒、及び引裂強度低下防止剤を含む加工液に含浸させる工程と、前記含浸させた生地を完全乾燥させる工程と、前記完全乾燥させた生地を加熱してプリーツ加工を行う工程と、を有するプリーツ加工をした製品の製造方法る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含む生地を、グリオキザール系樹脂、同グリオキザール系樹脂の反応触媒、及び引裂強度低下防止剤を含む加工液に含浸させる工程と、
前記含浸させた生地を完全乾燥させる工程と、
前記完全乾燥させた生地を加熱してプリーツ加工を行う工程と、
を有するプリーツ加工をした製品の製造方法。
【請求項2】
前記完全乾燥させる工程は、脱水とその後の熱乾燥を含むことを特徴とする請求項1に記載のプリーツ加工をした製品の製造方法。
【請求項3】
前記プリーツ加工は、ハンドプリーツ又はマシンプリーツによる本加工と、その後の熱平板プレスによる後加工とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のプリーツ加工をした製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリーツ加工をした製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スカート、パンツ等の生地に対してデザイン性の向上等を目的としてプリーツ加工が行われている。このプリーツ加工は、生地を構成する繊維に熱を付与することにより繊維の形態を変化させるものであるが、生地の材質によってはプリーツ加工の耐久性が異なる。具体的には、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維は熱可塑性を有し、耐久性のあるプリーツ加工が比較的容易である。一方、セルロース系繊維を含有する生地は熱可塑性に乏しく、耐久性を有するプリーツ加工が比較的困難となる。
【0003】
そして、これまでもセルロース系繊維を含有する生地に対して耐久性を有するプリーツ加工方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-284061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、従来技術としてセルロース系繊維を含有する生地に対するプリーツ加工の方法として生地にグリオキザール系樹脂と触媒とを付与、加熱し、プリーツを形成する方法が記載されている(段落0003)。
【0006】
しかし、セルロース系繊維を含有する生地にグリオキザール系樹脂を用いたプリーツ加工を施すと生地の引裂強度が低下することがある。一方、生地の引裂強度を低下させないためにプリーツ加工時の加熱温度を低下させることが考えられるが、温度を下げてプリーツ加工を行うと、グリオキザール系樹脂による架橋が不十分となり、プリーツの耐久性が低下することになる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、セルロース系繊維を含有する生地にプリーツの耐久性と引裂強度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1は、セルロース系繊維を含む生地を、グリオキザール系樹脂、同グリオキザール系樹脂の反応触媒、及び引裂強度低下防止剤を含む加工液に含浸させる工程と、前記含浸させた生地を完全乾燥させる工程と、前記完全乾燥させた生地を加熱してプリーツ加工を行う工程と、を有するプリーツ加工をした製品の製造方法である。
【0009】
請求項2は、前記完全乾燥させる工程は、脱水とその後の熱乾燥を含むことを特徴とする。
請求項3は、前記プリーツ加工は、ハンドプリーツ又はマシンプリーツによる本加工と、その後の熱平板プレスによる後加工とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロース系繊維を含有する生地にプリーツ加工を施してもプリーツの耐久性と引裂強度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化したセルロース系繊維を含む生地をプリーツ加工した製品の製造方法の一実施形態を説明する。
本発明にいうセルロース系繊維とは、綿、麻、シルク等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、リヨセル等の再生セルロース繊維、アセテート、トリアセテート等のセルロースを含有する半合成繊維を含む。また、セルロース系繊維を含有するとは、これらの繊維を単独で使用する場合のみならず、ポリエステル、アクリル等の非セルロース繊維を混合したものも含む。非セルロース繊維との混合は、混繊、混紡、交撚、交織等の各種混合方法を含む。
【0012】
本発明にいう生地とは、織物、編物、不織布、及びこれらの混合した生地を含む。本発明にいうプリーツ加工とは狭義の襞のみならず生地に形成された耐久性のあるシワ、折り目、起伏、凹凸、膨らみ等をいう。
【0013】
本発明にいう加工液は、少なくともグリオキザール系樹脂、同グリオキザール系樹脂の反応触媒、及び引裂強度低下防止剤を含有していることを要する。グリオキザール系樹脂としては特に限定はなく、公知ないし市販されているものを使用することができる。また、グリオキサール系樹脂はホルムアルデヒドを含有しているが、生地に使用することを考慮して含有するホルムアルデヒド及び加工後の遊離ホルムアルデヒトの少ない低ホルムアルデヒド型のグリオキザール系樹脂を使用することが好ましい。グリオキザール系樹脂は触媒とともに加熱することにより架橋能を発揮するため、プリーツを付与した状態でグリオキザール系樹脂を架橋させることにより生地のプリーツ形状を保持することができる。
【0014】
グリオキザール系樹脂の反応触媒としては、グリオキザール系樹脂の反応促進用に用いられる触媒であれば公知ないし市販のものを使用することができる。使用することができる触媒として、例えば無機金属塩がある。
【0015】
セルロース系繊維をグリオキザール系樹脂によりプリーツ加工すると生地の引裂強度が低下することがある。このため、セルロース系繊維をグリオキザール系樹脂によりプリーツ加工をする際には、併せて引裂強度低下防止剤により生地の引裂強度の低下を防止する必要がある。引裂強度低下防止剤としては生地の引裂強度の低下改善を目的とするものであれば特に限定はなく、公知ないし市販されているものを使用することができる。具体的にはポリエチレンワックスが好ましく、また加工液溶媒への混合性、希釈性の点からはエマルジョンタイプが好ましい。
【0016】
加工液の溶媒としては安価であることや準備の容易性等から水が好ましい。なお、加工液には必要に応じて上記した薬剤の他、フィックス剤や撥水剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0017】
次に、セルロース系繊維を含有する生地にプリーツ加工を行い製品とする方法について説明する。この方法は、生地の準備工程、生地を加工液へ含浸させる工程、生地を乾燥させる工程、生地を加熱してプリーツ加工を行う工程、プリーツ加工をした生地を製品とする工程に分かれる。
【0018】
生地の準備工程では、製品の製造に使用する生地を準備する。例えば製品としてスカートを製造する場合には生地を型紙等に沿って必要な形状に切断する。また、生地の切断部分には必要に応じてほつれ止め等のロックを行うことが好ましい。
【0019】
生地を加工液へ含浸させる工程では、事前に加工液を調整しておく。具体的に、加工液に用いるグリオキザール系樹脂は、生地の乾燥質量に対して60~200質量%の範囲で使用することが好ましい。なお、グリオキザール系樹脂は市販品では約40質量%水溶液とされていることが多いため、実含量に換算する必要がある。また、グリオキザール系樹脂の反応触媒は、グリオキザール系樹脂に対して20~40質量%の範囲で使用することが好ましい。さらに、引裂強度低下防止剤はその種類により添加量が相違するが、ポリエチレンワックスを使用する場合には溶媒1リットルに対して5~20グラムの範囲で使用することが好ましい。加工液の溶媒として水を使用する場合、生地の乾燥重量に対して1000~2000質量%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
溶媒を入れた容器にグリオキザール系樹脂、グリオキザール系樹脂の反応触媒、及び引裂強度低下防止剤をそれぞれ所定量添加した上で加工液を撹拌し、各薬剤が溶媒にムラなく混合した加工液に調整する。また、他の添加剤を加工液に添加することもできる。
【0021】
そして、調整した加工液に生地を含浸させる。このとき生地の繊維にムラなくグリオキザール系樹脂等の薬剤が付着するように、加工液と生地とを撹拌するように混ぜ合わせることが好ましい。生地の加工液への含浸時間は生地の材質や目付け等により異なるが、20~40分程度が好ましい。
【0022】
生地を乾燥させる工程は、加工液に含浸させた生地を完全乾燥させる工程である。加工液から取り出した生地を脱水機にて脱水し、続けて乾燥機にて熱乾燥により完全乾燥させる。ここでいう完全乾燥とは、一般家庭での洗濯物の乾燥と同様に感覚的に生地に水分が残存したいわゆる生乾きの状態でなければ足りる趣旨である。したがって、生地の含有水分量をある数値以下にするといった測定は不要であり、例えば生地を手で触って生乾きではなく乾燥したと認識できる状態であれば完全乾燥したと判断してよい。
【0023】
生地を加熱してプリーツ加工を行う工程は、ハンドプリーツ又はマシンプリーツを用いた本加工と、熱平板プレスによる後加工とに分かれる。本加工はハンドプリーツ又はマシンプリーツのいずれを使用してもよく、またいずれも公知の加熱によるプリーツ加工方法あるいはプリーツ加工装置を使用することができる。
【0024】
ハンドプリーツによる場合、まず、プリーツを付けた厚手の2枚の型紙(カルトン)に生地を挟む。次に生地を挟んだ型紙を畳み込んだ状態のまま加工窯に入れ、加工窯内に蒸気を添加して約110°~120゜で40~60分間の加圧加熱状態を維持する。この加熱時に生地に付着しているグリオキザール系樹脂が触媒の補助により架橋し、生地に付与したプリーツ形状が保持される。加圧加熱後に加工窯を減圧冷却し、加工窯から型紙と生地とを取り出す。
【0025】
一方、マシンプリーツの場合には、生地を薄手のプリーツ紙で挟んだ状態にてプリーツ加工装置により生地にプリーツを付けて約110度に加熱し、生地にプリーツを形成する。
【0026】
後加工は本加工によりプリーツが形成された生地のプリーツに対して熱平板プレスを行う工程である。熱平板プレスは型紙から取り出した生地に対する加熱した平板によるプレスであり、生地の片面に150~160゜かつ0.4~0.8MPaの加熱、加圧を約80~120秒間行い、これを生地の両面に行う。この後加工により生地に形成されたプリーツの耐久性がより向上し、形状が安定する。
【0027】
プリーツ加工をした生地を製品とする工程は、プリーツ加工をした生地を他の生地と縫い合わせて製品、例えばスカートを製造する工程である。
これら一連の工程により、セルロース系繊維を含有する生地からプリーツ加工をした製品を製造することができる。
【0028】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、セルロース系繊維を含む生地をプリーツ加工するためにグリオキザール系樹脂を触媒とともに使用している。生地に熱加工をするとグリオキザール系樹脂が触媒の補助により架橋されて生地に付与したプリーツ形状が保持される。このため、熱可塑性を有しないセルロース系繊維を含む生地であってもプリーツの耐久性の低下を抑制することができる。
【0029】
(2)プリーツ加工にはグリオキザール系樹脂及び触媒に加えて引裂強度低下防止剤を使用している。このため、セルロース系繊維を含有する生地へのプリーツ加工に伴う生地の引裂強度の低下を抑制することができる。
【0030】
(3)生地を加工液へ含浸した後に生地を完全乾燥させている。このため、乾燥後に生地を型紙に挟んでも生地から型紙に水分が移ることはない。型紙に厚紙を用いるハンドプリーツはもちろん、型紙に薄紙を用いるマシンプリーツも使用することができる。
【0031】
(4)プリーツ加工は、ハンドプリーツ又はマシンプリーツによる本加工と、その後の熱平板プレスによる後加工とを含む。この後加工により生地に形成されたプリーツの耐久性がより向上し、形状が安定する。
【0032】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 生地の乾燥は熱乾燥でなく生地に加熱していない気流を当てる気流乾燥でもよい。
次に本実施形態についての具体的実施例を示す。
【0033】
試験サンプルとして、綿100%の平織生地を使用した。この平織生地について予めJISL1096D法(ペンジュラム法)により生地の縦方向、横方向の引裂強さ(N)を測定したところ縦方向9.50、横方向9.10であった。また、使用する試験生地は60グラムとした。
【0034】
加工液を次のとおり調整した。溶媒としての水1リットル(1000グラム)を使用した。グリオキザール系樹脂として大原パラヂウム化学株式会社のパラレヂンLF-51(グリオキザール樹脂の40%水溶液)を140グラム使用した。グリオキザール系樹脂の含有量は(140グラム×0.4=)56グラムであり、生地に対して93質量%であった。また、反応触媒として無機金属塩である同社キャタリストG-33(40~45%水溶液)を42グラム使用した。反応触媒の含有量は(42グラム×0.4~0.45=)17~19グラムであり、グリオキザール系樹脂に対して30~34質量%であった。引裂強度低下防止剤としてポリエチレンワックスである同社パラゾールPY(15~20%水溶液)を46グラム使用した。引裂強度低下防止剤の含有量は(46グラム×0.15~0.2=)7~9グラムであり、溶媒(水)1リットルに対する使用量も7~9グラムであった。
【0035】
これら3つの薬剤を溶媒としての水にそれぞれ添加、撹拌して加工液を調整した。この加工液に試験生地60グラムを投入し、かき混ぜながら30分間浸責させた。続けて、加工液から取り出した試験生地を脱水した後にドライヤーにて完全乾燥した。
【0036】
プリーツ加工は、完全乾燥した試験生地をカルトンに挟み襞を形成し、加工窯内でスチームを添加して110度で45分間加熱加圧し本加工とした。その後、試験窯から取り出した試験生地をカルトンから取り外し、プリーツが形成された試験生地に対して熱平板プレスを、生地片面に対して155゜、0.6MPa、100秒の条件で生地両面に行い後加工とした。
【0037】
プリーツ加工を行った試験生地を4分割して3つを試験片とし1つを基準片とした。試験片の1つに対して、JISL1930C4M(繊維製品の家庭洗濯試験方法)に基づく家庭洗濯試験を1回行い、試験片に形成されているプリーツの状態を基準片のプリーツの状態と目視により対比した。また、別の試験片に対して、JISL1931-3F2(商業ドライクリーニング(石油系)タンブル乾燥試験)を1回行い、試験片に形成されているプリーツの状態を基準片のプリーツの状態と目視により対比した。さらに、別の試験片に対してJISL1096D法(ペンジュラム法)により生地の縦方向、横方向の引裂強さ(N)を測定した。
【0038】
その結果、家庭洗濯試験及び商業ドライクリーニング試験のいずれにおいても、基準片と比較して試験片に形成されたプリーツの損失は認められなかった。また、試験片の引裂強さ(N)は縦方向が8.40、横方向が8.15であった。これは加工前の平織り生地の引裂強度(縦方向9.50、横方向9.10)と比較しても縦方向が88%、横方向が90%の引裂強度を有しており、実用上で問題となるような引裂強度の低下は認められなかった。したがって、本実施例によって、生地に形成したプリーツの耐久性と引裂強度の低下が抑制されていることが明らかである。
【0039】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について追記する。
(a)引裂強度低下防止剤はポリエチレンワックスエマルジョンである。ポリエチレンワックスエマルジョンは水に溶解しやすいため、水を溶媒として加工液を調整する際に水に溶解してムラなく生地に付着させることができる。
【0040】
(b)加工液の溶媒は水である。溶媒として水を使用すれば安価かつ簡易に溶媒を準備することができる。