(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146750
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】鋼管柱の溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220928BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20220928BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20220928BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20220928BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B23K9/095 510E
B23K9/12 C
B23K9/00 501B
E04B1/24 P
E04B1/58 503H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047877
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】305017815
【氏名又は名称】十一屋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 貴久
(72)【発明者】
【氏名】大附 和敬
(72)【発明者】
【氏名】田原 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一道
【テーマコード(参考)】
2E125
4E081
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AB16
2E125AC16
2E125AG03
4E081YB03
4E081YX02
(57)【要約】
【課題】上部鋼管柱と下部鋼管柱との安定した品質の溶接をより簡単に行うことができる鋼管柱の溶接方法を提供する。
【解決手段】上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の周方向に沿って、開先30を形成する上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の隙間Sを測定する隙間測定工程S4と、測定された隙間の大きさの範囲に応じて、周方向に沿って周回する開先30を、複数の溶接区間に分割する区間分割工程S5と、隙間Sの大きさの範囲ごとに予め決定された溶接条件に合わせて、溶接区間ごとに溶接条件を設定する溶接条件設定工程S6と、溶接区間ごとに設定された溶接条件で、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を多関節ロボット80で行う溶接工程S7と、を少なくとも含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクションピースを建て入れ冶具で連結して仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、溶接用ロボットに取付けられたトーチの先端から、溶融した溶接材料を供給しながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の溶接する鋼管柱の溶接方法であって、
前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の周方向に沿って、前記開先を形成する前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の隙間を測定する隙間測定工程と、
前記周方向に沿って周回する前記開先を、複数の溶接区間に分割する区間分割工程と、
前記隙間の大きさの範囲ごとに予め決定された溶接条件と、前記溶接区間ごとに測定した前記隙間の大きさの範囲とから、前記溶接区間ごとに溶接条件を設定する溶接条件設定工程と、
前記溶接区間ごとに設定された溶接条件で、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を、前記溶接用ロボットで行う溶接工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする鋼管柱の溶接方法。
【請求項2】
前記区間分割工程において、前記周方向に沿って周回する前記開先を、予め設定された前記隙間の大きさの範囲に応じて、前記複数の溶接区間に分割することを特徴とする請求項1に記載の鋼管柱の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接用ロボットは、多関節ロボットであり、
前記溶接工程の前に、前記下部鋼管柱を挟むように、前記下部鋼管柱に一対のレールを取付けるレール取付工程を含み、
前記溶接工程において、前記多関節ロボットを前記レールに沿って走行させながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼管柱の溶接方法。
【請求項4】
前記溶接工程は、前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱を1組として、水平方向に沿って、一方向に配列された複数組の前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱の溶接を行うものであり、
前記レール取付工程において、前記複数組の前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱に対して、各下部鋼管柱を挟み込むように、前記下部鋼管柱に前記一対のレールを取付け、
前記溶接工程において、前記多関節ロボットを走行させながら、各組における前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を順次行うことを特徴とする請求項3に記載の鋼管柱の溶接方法。
【請求項5】
前記溶接工程において、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の溶接を、一対の前記多関節ロボットで行うものであり、
前記溶接工程において、前記一対の多関節ロボットの前記トーチの先端を、前記鋼管柱の中心軸を挟んで対向させながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を行うことを特徴とする請求項3または4に記載の鋼管柱の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部鋼管柱と下部鋼管柱の溶接する鋼管柱の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、たとえば、特許文献1には、上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、溶融した溶接材料を供給しながら、上部鋼管柱と下部鋼管柱の溶接する鋼管柱の溶接方法が提案されている。
【0003】
具体的には、エレクションピースを建て入れ冶具で連結して仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱とを、溶接用ロボットにより、複数層で初期溶接を行い、建て入れ冶具取り除いた後、溶接用ロボットにより、残りの層数の溶接を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上部鋼管柱と下部鋼管柱との鉛直度を調整することにより、上部鋼管柱と下部鋼管柱とにより形成される開先の大きさが、周方向に沿って変化することがある。このような場合、特許文献1に示す溶接方法を用いて、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を行うと、開先の大きい箇所と、開先の小さい箇所とで、同じ溶接条件で溶接することになり、鋼管柱の周方向に沿って、安定した品質の溶接とはなり難い。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上部鋼管柱と下部鋼管柱とにより形成される開先の大きさが、周方向に沿って変化する場合であっても、上部鋼管柱と下部鋼管柱との安定した品質の溶接をより簡単に行うことができる鋼管柱の溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、本発明に係る鋼管柱の溶接方法は、エレクションピースを建て入れ冶具で連結して仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、溶接用ロボットに取付けられたトーチの先端から、溶融した溶接材料を供給しながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の溶接する鋼管柱の溶接方法であって、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の周方向に沿って、前記開先を形成する前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の隙間を測定する隙間測定工程と、前記周方向に沿って周回する前記開先を、複数の溶接区間に分割する区間分割工程と、前記隙間の大きさの範囲ごとに予め決定された溶接条件と、前記溶接区間ごとに測定した前記隙間の大きさの範囲とから、前記溶接区間ごとに溶接条件を設定する溶接条件設定工程と、前記溶接区間ごとに設定された溶接条件で、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を、前記溶接用ロボットで行う溶接工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、溶接条件が、開先を形成する上部鋼管柱と下部鋼管柱の隙間の大きさの範囲ごとに予め決定されており、この溶接条件に合わせて、分割した溶接区間を溶接するので、より簡単な溶接条件で、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を行うことができる。
たとえば、測定した隙間(測定隙間)が一定の場合には、その一定となる測定隙間に応じた同じ溶接条件で溶接を行い、測定隙間が変化する場合には、その溶接区間の測定隙間の範囲ごとに設定された溶接条件で溶接を行うことができる。
【0009】
また、上部鋼管柱と下部鋼管柱とを、鉛直方向に沿って合わせる際に、上部鋼管柱と下部鋼管柱との周方向に沿った隙間は、軸心に対して一方側において大きくなり、その他方側において小さくなる傾向にある。このような場合、周方向に隙間の大きさは、連続的に変化するため、溶接区間の隙間の大きさも、周方向に連続的に変化する。したがって、たとえば、隙間の大きさの範囲に応じた溶接区間に開先を分割する場合には、その分割区間を容易に設定することができる。予め設定した溶接区間に(たとえば、エレクションピース同士の間で)開先を分割する場合には、溶接区間の隙間の大きさの範囲は、所定の範囲内に収まり易い。このような結果、分割した各溶接区間における溶接条件を設定することができ、これまでよりも、より簡単に、上部鋼管柱と下部鋼管柱との安定した溶接を、溶接用ロボットで行うことができる。
【0010】
ここで、好ましい態様としては、前記区間分割工程において、前記周方向に沿って周回する前記開先を、予め設定された前記隙間の大きさの範囲に応じて、前記複数の溶接区間に分割する。この態様によれば、溶接区間に分割する基準が、隙間の大きさの範囲に基づくので、より良い溶接条件を設定し、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を行うことができる。
【0011】
ここで、上述した溶接用ロボットは、溶接機のトーチ先端の位置を適切な位置に移動させることができるものであれば、溶接用ロボットは、たとえば、レール上を走行する溶接用ロボットや、旋回のみを行う溶接用ロボットであってもよく、溶接用ロボットの形態は、特に限定されるものではない。より好ましい態様としては、前記溶接用ロボットは、多関節ロボットであり、前記溶接工程の前に、前記下部鋼管柱を挟むように、前記下部鋼管柱に一対のレールを取付けるレール取付工程を含み、前記溶接工程において、前記多関節ロボットを前記レールに沿って走行させながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を行う。
【0012】
この態様によれば、レールに沿って、多関節ロボットを走行させながら、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を行うため、開先に対するトーチの先端の距離および角度を、所望の角度に簡単に調整しながら、溶接を行うことができる。
【0013】
さらに好ましい態様としては、前記溶接工程は、前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱を1組として、水平方向に沿って、一方向に配列された複数組の前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱の溶接を行うものであり、前記レール取付工程において、前記複数組の前記上部鋼管柱および前記下部鋼管柱に対して、各下部鋼管柱を挟み込むように、前記下部鋼管柱に前記一対のレールを取付け、前記溶接工程において、前記多関節ロボットを走行させながら、各組における前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を順次行う。
【0014】
この態様によれば、レールに沿って、多関節ロボットを走行させながら、隣接する各組の上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を連続して順次行うことができる。これにより、従来のごとく、各組ごとに上部鋼管柱または下部鋼管柱の周りを周回するように、ロボットを走行させるためのレールを取付けるような作業を行わなくてもよく、複数の鋼管柱の溶接を順次連続して行うことができる。
【0015】
さらに好ましい態様としては、前記溶接工程において、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱の溶接を、一対の前記多関節ロボットで行うものであり、前記溶接工程において、前記一対の多関節ロボットの前記トーチの先端を、前記鋼管柱の中心軸を挟んで対向させながら、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱との溶接を行う。
【0016】
この態様によれば、一対の多関節ロボットのトーチの先端を、鋼管柱の中心軸を挟んで対向させながら上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を行うので、上部鋼管柱および下部鋼管柱への溶接時の熱を、鋼管柱の中心軸を挟んで対称に入熱することができる。この結果、鋼管柱の中心軸の歪み等を抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上部鋼管柱と下部鋼管柱とにより形成される開先の大きさが、周方向に沿って変化する場合であっても、上部鋼管柱と下部鋼管柱との安定した品質の溶接をより簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋼管柱の溶接方法を説明するためのフロー図である。
【
図3】レール取付工程およびロボット設置工程を説明するための模式的斜視図である。
【
図4】(a)~(c)は、隙間測定工程を説明するための模式的断面図である。
【
図5】(a)は、区間分割工程を説明するための図であり、(b)は、溶接条件設定工程を説明するための図である。
【
図6】変形例に係る区間分割工程を説明するための図である。
【
図7】(a)は、他の変形例に係る区間分割工程を説明するための図であり、(b)は、他の変形例に係る溶接条件設定工程を説明するための図である。
【
図8】(a)~(c)は、溶接工程を説明するための模式的断面図である。
【
図9】溶接工程における多層肉盛りの溶接を説明するための模式的概念図である。
【
図10】変形例に係る鋼管柱の溶接方法を説明するための模式的斜視図である。
【
図11】
図10に示すさらなる変形例に係る鋼管柱の溶接方法を説明するための模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る鋼管柱の溶接方法について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る鋼管柱1の溶接方法を説明するためのフロー図である。以下に、本実施形態における溶接方法として、
図1に示す仮固定工程S1から溶接工程S7までの各工程について、詳細に説明する。
【0021】
1.仮固定工程S1について、
実施形態では、まず、仮固定工程S1を行う。
図2に示すように、仮固定工程S1において、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とを建て入れ冶具3で仮固定した後、上部鋼管柱10の傾きを調整する。
【0022】
ここで、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とは、4つの平面部と4つの湾曲部によって形成された多角形鋼管からなり、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20のそれぞれの平面部には、エレクションピース11、21が取付けられている。なお、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とは、
図2および
図3等に示す四角形の角形鋼管柱に限定されるものではなく、たとえば、四角形以外の多角形の角形鋼管柱(具体的には四面以上の多角形鋼管)であってもよく、四面ボックス柱など多面ボックス柱であってもよい。
【0023】
上部鋼管柱10の下端縁面13は、外側に向いて傾斜したテーパ面であり、下部鋼管柱20の上端縁面23は、下部鋼管柱20の長手方向に対して直交するように形成された平坦面である。これにより、下部鋼管柱20の上端縁面23に対向するように、上部鋼管柱10の下端縁面13を配置すると、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との間に、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の周方向に沿った開先30を形成することができる。
【0024】
さらに、本実施形態では、下部鋼管柱20の内壁面には、裏当金31が周方向に沿って取付けられている。裏当金31は、下部鋼管柱20の上端縁面23から鉛直方向(下部鋼管柱20の長手方向)に突出しており、下部鋼管柱20に上部鋼管柱10を配置する際に、裏当金31の突出した部分が、上部鋼管柱10に内挿される。
【0025】
このような裏当金31により、後述するように、上部鋼管柱10の傾きを調整した際に、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との間隙を、裏当金31で覆うことができるので、溶接時に、溶融した溶接材料が、鋼管柱1の内部に入り込むことを防止することができる。なお、本実施形態では、裏当金31を、下部鋼管柱20の内壁面に取付けたが、たとえば、上部鋼管柱10の下端縁面13から突出するように、裏当金を上部鋼管柱10の内壁面に取付けてもよい。
【0026】
仮固定工程S1では、まず、下部鋼管柱20に上部鋼管柱10を配置するとともに、裏当金31の突出した部分を、上部鋼管柱10に内挿する。建て入れ冶具3の上側の端部を、ボルト等を用いてエレクションピース11に締結し、その下側の端部を、ボルト等を用いてエレクションピース21に締結する。これにより、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とのエレクションピース11、21同士を建て入れ冶具3で連結し、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とを仮固定することができる。
【0027】
次に、下部鋼管柱20の上側に配置された上部鋼管柱10の傾きを調節する。これにより、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との鉛直度を調整し、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20を合わせることができる。なお、下部鋼管柱20および下部鋼管柱20の据え付け誤差等、下部鋼管柱20および下部鋼管柱20の寸法公差などにより、
図2のA部、B部に示すように、開先30を形成する上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の隙間Da、Dbの大きさが、周方向において変化することがある。具体的には、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との周方向に沿った隙間は、軸心に対して一方側において大きくなり、その他方側において小さくなり、これらの間では隙間の大きさは傾斜的に変化する。
【0028】
ここでは、建て入れ冶具3の構造の詳細な説明を省略するが、各建て入れ冶具3は、上下に配置された2つのエレクションピース11、21同士の間の距離を調節可能に構成されている。これにより、
図2に示すように、上下に配置された上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との隙間を調節することが可能であるとともに、上側に配置された上部鋼管柱10の傾きを調節することができる。後述する溶接工程7の後またはその途中で、除去工程S8において、建て入れ冶具3はエレクションピース11、21から取り外され、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20から、エレクションピース11、21は切断される。
【0029】
2.レール取付工程S2について
図1に示すレール取付工程S2を行う。この工程では、下部鋼管柱20を挟むように、下部鋼管柱20に一対のレール73を、取付ける。本実施形態では、下部鋼管柱20の4つの平面部のうち、反対側に位置する2つの平面部のそれぞれには、一対の支持片78、26が溶接されている。本実施形態では、まず、下部鋼管柱20に、第1支持部材71で挟むように、支持片78、78に、第1支持部材71を固定する。本実施形態では、第1支持部材71は、H形鋼などの長尺状の部材であり、後述する多関節ロボット(ロボットアーム)80が、走行するレール73と直交する方向に延在している。
【0030】
次に、下部鋼管柱20を挟むように、一対の第2支持部材72を一対の第1支持部材71に跨って固定する。第2支持部材72は、長尺状の部材であり、第2支持部材72には、長手方向に沿ってレール73が取付けられているので、下部鋼管柱20を挟むように、下部鋼管柱20に一対のレール73、73を、取付けることができる。なお、本実施形態では、第1支持部材71と第2支持部材72とを用いて、下部鋼管柱20にレール73を取付けたが、たとえば、剛性が確保することができるのであれば、下部鋼管柱20に、レール73を取付けてもよい。
【0031】
本実施形態では、レール73は、リニアガイドレールであり、レール73には、台車(スライダ)74が取付けられている。台車74は、図示しないモータにより、レール73に沿って走行自在となっている。なお、本実施形態では、台車74の走行制御、後述する多関節ロボット80の駆動制御、多関節ロボット80の先端に取付けられたトーチ92による溶接条件に応じた溶接等は、制御装置(図示せず)により行われるが、たとえば、これらの作業の少なくとも一部を作業者により行ってもよい。
【0032】
3.ロボット設置工程S3について
次に、
図1に示すロボット設置工程S3を行う。この工程では、多関節ロボット80を、台車74に設置する。本実施形態で用いる多関節ロボット80は、6軸で回動するロボットであり、溶接機に接続された溶接用ロボットである。
【0033】
多関節ロボット80は、溶接機(図示せず)に接続された溶接用ロボットであり、多関節ロボット80は、台車74に取付けられる基台82と、基台82に載置され、基台82に対して旋回する旋回台83と、を備えている。旋回台83には、ロアアーム84が枢動自在に取付けられている。ロアアーム84の先端には、関節部85が枢動自在に取付けられている。関節部85には、アッパアーム86が、長手方向を軸心として回動自在に取付けられている。
【0034】
さらに、アッパアーム86の先端には、エンドエフェクタとなる溶接機のトーチ92を支持する支持アーム87が取付けられている。支持アーム87は、アッパアーム86に対して、トーチ92には、溶接ワイヤを送給するケーブル91が接続されており、ケーブル91の基端は溶接ワイヤを送給する送給装置(図示せず)に接続されている。
【0035】
本実施形態では、後述する隙間測定工程S4前に、レール取付工程S2とロボット設置工程S3とを行ったが、仮固定工程S1後、後述する溶接工程S7前であれば、これらの工程をいつ行ってもよい。
【0036】
4.隙間測定工程S4について
次に、
図1に示す隙間測定工程S4を行う。この工程では、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の周方向に沿って、開先30を形成する上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の隙間Dを測定する。
【0037】
本実施形態では、例えば、
図4(a)~(c)に示すように、周方向に沿って形成された開先30おいて、上部鋼管柱10の下端縁面13と、下部鋼管柱20の上端縁面23と、上下方向の距離を、隙間Dとして測定する。ここで、距離を測定する位置は、たとえば、
図4(a)~(c)に示すように、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20の鉛直方向の内壁面18、28に沿った位置における隙間である。
【0038】
ただし、これに限定されるものではなく、たとえば、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20の鉛直方向の外壁面17、27に沿った位置における、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との距離であってもよい。周方向に沿った開先30の大きさの変化を、具体的な数値として特定できるのであれば、その隙間を測定する位置は、特に限定されるものではない。
【0039】
なお、この隙間Dの測定は、例えば、周方向に沿って、作業者が、所定の間隔を空けて測定してもよく、たとえば、多関節ロボット80を用いたタッチセンシングにより、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20の周方向に沿って、連続的または断続的に隙間を測定してもよい。
図4(a)~
図4(c)の順に、開先30を形成する上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の隙間D(D1>D2>D3)は小さくなり、この順に開先30の大きさも小さい。
【0040】
5.区間分割工程S5について
次に、
図1に示す区間分割工程S5を行う。
図5(a)に示すように、この工程では、周方向に沿って周回する開先30(の溶接ライン)を、複数の溶接区間1L、1R、…に分割する。本実施形態では、エレクションピース11、21を挟んだ4つの区間で開先30の溶接ラインを分割している。
【0041】
この他にも、例えば、
図6に示す変形例に示すように、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の4つの平面部に応じて、4つの区間に分割してもよい。なお、本実施形態では、開先30の溶接ラインを、4つの溶接区間に分割したが、溶接のし易さ、隙間の変化等などに応じて、作業者が、溶接区間を適切な数で分割してもよい。
【0042】
さらに、
図7(a)に示す他の変形例に示すように、区間分割工程S5において、周方向に沿って周回する開先30(の溶接ライン)を、予め設定された隙間の大きさの範囲(隙間範囲A~C)に応じて、複数の溶接区間s1~s4に分割してもよい。この変形例では、隙間測定工程S4で測定した隙間の結果に基づいて、開先30の溶接ラインを分割する。
【0043】
隙間範囲とは、たとえば、隙間範囲Aが、他の隙間範囲B、Cに比べて最も大きい範囲であり、隙間範囲Bが、隙間範囲Aと隙間範囲Cの中間の範囲であり、隙間範囲Cが、他の隙間範囲A、Bに比べて最も小さい範囲である。たとえば、
図4(a)に示す隙間D1は、隙間範囲Aにあり、
図4(b)に示す隙間D2は、隙間範囲Bにあり、
図4(c)に示す隙間D3は、隙間範囲Cにある。これらの隙間範囲は、その範囲の一部が重複してもよい。この場合には、後述する周方向に沿った開先を溶接区間に分割する際、これらの重複する隙間範囲のたとえば中央の位置で分割してもよい。
【0044】
6.溶接条件設定工程S6について
次に、
図1に示す溶接条件設定工程S6を行う。
図5(b)に示すように、この工程では、隙間の大きさの範囲Da~Db、Dc~Dd、…ごとに予め決定された溶接条件a、b、…と、溶接区間1L、1R、…ごとに測定した隙間の大きさの範囲Da~Db、Dg~Dh、De~Df、Dc~Dd、とから、溶接区間1L、1R、…ごとに溶接条件d、c、…を設定する。
【0045】
具体的には、本実施形態では、
図5(b)の左の表に示すように、隙間範囲ごとに溶接条件が予め設定されている。これらの隙間範囲のレンジは、一部重複してもよい。たとえば、隙間範囲Da~Dbの一部に、隙間範囲Di~Djが含まれていてもよい。このように、複数の隙間範囲Da~Db、Dc~Dd、…に応じた溶接条件a、b、…を予め決定しておくことにより、作業者が分割した溶接区間の隙間の範囲に応じて、適切な溶接条件で、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を行うことができる。
【0046】
ここで、本実施形態では、溶接区間1L、1R、…ごとの溶接条件の設定を以下のようにして行う。具体的には、
図5(a)に示すように、溶接区間1Lにおいて、測定した最小隙間はDgであり、最大隙間Dhである場合には、溶接区間1Lでの隙間範囲は、Dg~Dhである。
【0047】
したがって、
図5(b)の隙間範囲と溶接条件の関係(左表)から、この場合の溶接条件は、条件dに該当するので、溶接区間1Lの溶接条件を条件dに設定する(右表参照)。他の溶接区間1R、2L、2Rについても同様の作業で、溶接条件をそれぞれ、条件c、b、aに設定することができる。このように、本実施形態では、
図5(a)において、より細かな範囲で、隙間範囲に応じた溶接条件を予め設定しておけば、より品質の高い溶接を行うことができる。
【0048】
図7(a)に示す変形例では、上述した如く、区間分割工程S5において、周方向に沿って周回する開先30(の溶接ライン)を、予め設定された隙間の大きさの範囲(隙間範囲A~C)に応じて、複数の溶接区間s1~s4に分割した。この場合には、
図7(b)の左図に示すように、隙間範囲A~Cごとに、溶接条件である条件X~Zが、予め決定されている。したがって、溶接区間s1~s4ごとに、右表に示す条件X、Y、Zを設定することができる。この変形例では、予め決定された溶接条件X~Zに最適な隙間範囲A~Bに合わせて、溶接区間s1、s2、…を分割するので、より少ない溶接条件で、安定した溶接を行うことができる。
【0049】
7.溶接工程S7について
次に、
図1に示す溶接工程S7を行う。この工程では、溶接区間ごとに設定された溶接条件で、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を、多関節ロボット80で行う。ここで、
図8(a)~(c)は、
図4(a)~(c)に示す上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の開先30に対して溶接を行った結果である。本実施形態では、隙間範囲の大きさに応じて溶接条件が設定されているので、
図4(a)~(c)に示すように、開先30が大きくなる(すなわち、隙間Dが大きくなる)にしたがって、溶接部36A~36Cは、大きくなるように、トーチ92の先端から溶接材料を供給する。
【0050】
ここで、各溶接は、上述した溶接条件に従って行われる。具体的には、供給する溶接材料を増やす場合には、(1)ワイヤの送給速度を上昇させる、(2)トーチ92の移動速度を低下させる、または(1)および(2)の両方を行うように、多関節ロボット80を制御する。ここで、(1)の場合には、トーチ92に流れる印加電圧または電流を増加させる。一方、供給する溶接材料を減らす場合には、溶接ワイヤの送給速度、または、トーチ92の移動速度に対して、供給する溶接材料を増やす場合とは逆の動作となるよう、多関節ロボット80を制御する。
【0051】
本実施形態では、
図5(a)、
図6、
図7(a)に示すように、対向するレール73、73の間の空間を境界線で仕切った領域A、Bにおいて、それぞれの多関節ロボット(溶接用ロボット)80が溶接を行うように、設定されている。この設定された領域A、B内において、各多関節ロボット80で溶接する際には、トーチ92を開先30の溶接ラインに沿って移動させながら、トーチ92の先端から開先30に溶接材料を供給する。
図5(a)に示す溶接区間ごとに溶接する場合には、溶接区間の境界にあるエレクションピース11、21を、多関節ロボット80が通過する際に、一旦溶接が中断され、溶接条件が変更されるため、よりスムーズに溶接をすることができる。なお、この溶接の中断時に、トーチ92等の清掃を自動で行うこともできる。
【0052】
ここで、トーチ92を開先30の溶接ラインに沿って複数回移動させながら、溶接材料を供給し、
図9に示す、多層肉盛り部となる溶接部36を形成してもよい。
図9に示すように、この際には、トーチ92の先端部に位置する溶接点の位置とトーチの方向は、移動ごとに異なるため、このような溶接を行う際には、多関節ロボットにより溶接を行うことが適している。また、各溶接区間において、トーチ92を移動させて、溶接材料を肉盛る回数は同じであることが好ましい。これにより、溶接部(ビード)に段差が形成されることを抑えることができる。
【0053】
本実施形態では、一対の多関節ロボット80、80のトーチ92の先端を、鋼管柱1の中心軸を挟んで対向させながら、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を行う。これにより、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20への溶接時の熱を、鋼管柱1の中心軸を挟んで対称に入熱することができる。この結果、鋼管柱1の中心軸の歪み等を抑えることができる。
【0054】
なお、実施形態では、溶接工程S7における多関節ロボット80の制御は、多関節ロボット80の制御装置(図示せず)により行われ、溶接条件、ロボットの動作などは、予めプログラムに記憶され、作業者により分割した溶接区間が制御装置に入力される。これにより、溶接工程S7における一連の作業を自動で行うことができる。
【0055】
図10は、変形例に係る鋼管柱1の溶接方法を説明するための模式的斜視図である。
この変形例では、溶接工程において、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20を1組として、水平方向に沿って、一方向に配列された複数組(
図10では2組)の上部鋼管柱10および下部鋼管柱20の溶接を行う。
【0056】
レール取付工程S2において、
図10に示すように、2組の上部鋼管柱10および下部鋼管柱20に対して、各下部鋼管柱20を挟み込むように、下部鋼管柱20に一対のレール73を、取付ける。溶接工程S7において、各多関節ロボット80をレール73に沿って走行させながら、各組における上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を順次連続して行う。
【0057】
この変形例では、レール73に沿って、一対の多関節ロボット80、80を走行させながら、隣接する各組の上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を連続して順次行うことができる。これにより、従来のごとく、各組ごとに上部鋼管柱10または下部鋼管柱20の周りを周回するように、ロボットを走行させるためのレールを取付けるような作業を行わなくてもよく、複数の鋼管柱1の溶接を順次連続して行うことができる。
【0058】
さらに、レール取付工程S2において、
図11に示すように、同じフロアに配置される複数組の上部鋼管柱10および下部鋼管柱20に対して、各下部鋼管柱20を挟み込むように、ストレート部分73aとカーブ部分73bを組み合わせた一対のレール73A、73Bを、下部鋼管柱20に、取付けてもよい。次に、溶接工程S7において、各多関節ロボット80をレール73A、73Bに沿って走行させながら、各組における上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を順次行う。ここで、各レール73A(73B)に複数台の多関節ロボット80を配置し、複数台の多関節ロボット80で、溶接を行ってもよい。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0060】
1:鋼管柱、3:建て入れ冶具、10:上部鋼管柱、11:エレクションピース、20:下部鋼管柱、21:エレクションピース、30:開先、80:溶接用ロボット(多関節ロボット)、92:トーチ、S2:レール取付工程、S4:隙間測定工程、S5:区間分割工程、S6溶接条件設定工程、S7溶接工程