(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146792
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】操船システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20220928BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20220928BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20220928BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H21/21
B63H25/42 B
B63H25/42 A
F02D29/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047951
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中安 良和
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093AA19
3G093CB15
3G093DA06
3G093DB05
3G093DB29
3G093EA09
(57)【要約】
【課題】操船フィーリングの向上を図れる操船システム及び船舶を提供する。
【解決手段】操船システム3は、エンジンによって推進力を発生する船外機4と、エンジンのスロットル開度を変化させるスロットルアクチュエータ37と、スロットル操作部9と、ジョイスティック10と、コントローラ60とを含む。船外機4が後進方向の推進力を発生する場合に、コントローラ60は、スロットル操作部9の操作に応じて、第1上限値以下の範囲で第1目標値を設定し、スロットル開度が第1目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。船外機4が後進方向の推進力を発生する場合に、コントローラ60は、ジョイスティック10の操作に応じて、第1上限値よりも大きい第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定し、スロットル開度が第2目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に装備される操船システムであって、
前記船舶の船体に装備可能に構成され、エンジンによって前進方向又は後進方向の推進力を発生する推進機と、
前記エンジンのスロットル開度を変化させるスロットルアクチュエータと、
操船のために操船者によって操作される第1操作子と、
前記第1操作子とは別に設けられ、操船のために操船者によって操作される第2操作子と、
前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記第1操作子の操作に応じて、第1上限値以下の範囲で第1目標値を設定し、前記スロットル開度が前記第1目標値になるように前記スロットルアクチュエータを制御し、前記第2操作子の操作に応じて、前記第1上限値よりも大きい第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定し、前記スロットル開度が前記第2目標値になるように前記スロットルアクチュエータを制御するコントローラと、を含む、操船システム。
【請求項2】
前記第2操作子は、ジョイスティックである、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記第2上限値は、前記スロットル開度の最大値である、請求項2に記載の操船システム。
【請求項4】
前記第1操作子を有し、前記第1操作子の操作に応じて前記スロットル開度についての第1リクエスト値を生成する第1操作系と、
前記第2操作子を有し、前記第2操作子の操作に応じて前記スロットル開度についての第2リクエスト値を生成する第2操作系と、をさらに含み、
前記コントローラは、前記第1リクエスト値に基づいて第1目標値を設定し、前記第2リクエスト値に基づいて第2目標値を設定し、
前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が最大値であるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が最大値であるときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項5】
前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下であるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する、請求項4に記載の操船システム。
【請求項6】
前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きい全範囲にあるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記推進機が前進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きいときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する、請求項4~6のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項8】
前記推進機が発生する推進力の前記船体に対する舵角を変化させる転舵ユニットをさらに含み、
前記コントローラは、前記第2操作子の操作に応じて、前記転舵ユニットを制御して前記舵角を変化させる、請求項1~7のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項9】
船体と、
前記船体に搭載される請求項1~8のいずれか一項に記載の操船システムと、を含む船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船システム、及び、これを含む船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、船体と、操船システムの一例として船体に搭載される船舶用推進システムとを含む船舶を開示している。この船舶は、船体の操船席に設けられたステアリングホイール、スロットルレバー及びジョイスティックをさらに含む。船舶用推進システムは、船体の船尾に取り付けられた左右一対の船外機を含む。各船外機は、垂直回動軸まわりに回動可能な推進ユニットと、推進ユニットを船尾に取り付ける取り付け機構とを含む。推進ユニットは、エンジンと、エンジンの出力で回転されることにより推進力を発生するプロペラとを含む。推進ユニットが垂直回動軸まわりに回動すると、船体の中心線に対する推進力の方向である舵角が変更されるので、船舶の舵取りが実現される。
【0003】
ステアリングホイールは、舵取りのために操船者によって操作される。スロットルレバーは、各船外機のエンジンのスロットル開度の調整のために操船者によって操作される。ジョイスティックは、舵取り及び各船外機のエンジンのスロットル開度の調整のために操船者によって操作される。そのため、この船舶では、ステアリングホイール及びスロットルレバーを用いたステアリング操船と、ジョイスティックを用いたジョイスティック操船とが利用可能である。
【0004】
ステアリング操船の場合、操船者がスロットルレバーを前方へ傾倒させると、各船外機の推進ユニットでは、シフト位置が前進位置となり、スロットル開度が、スロットルレバーの傾倒量に応じて設定された目標値になるように調整される。これによって、前進方向の推進力が発生するので、船舶を前進させたり、後進中の船舶を減速させたりすることができる。操船者がスロットルレバーを後方へ傾倒させると、各船外機の推進ユニットでは、シフト位置が後進位置となり、スロットル開度が、スロットルレバーの傾倒量に応じて設定された目標値になるように調整される。これによって、後進方向の推進力が発生するので、船舶を後進させたり、前進中の船舶を減速させたりすることができる。
【0005】
ジョイスティック操船の場合、操船者がジョイスティックを前方へ傾倒させると、各船外機の推進ユニットでは、シフト位置が前進位置となり、スロットル開度が、ジョイスティックの傾倒量に応じて設定された目標値になるように調整される。これによって、前進方向の推進力が発生する。操船者がジョイスティックを後方へ傾倒させると、各船外機の推進ユニットでは、シフト位置が後進位置となり、スロットル開度が、ジョイスティックの傾倒量に応じて設定された目標値になるように調整される。これによって、後進方向の推進力が発生する。さらに、操船者がジョイスティックを例えば右方へ傾倒させると、左の船外機の推進ユニットが左方へ回動し、かつシフト位置が前進位置となって右前方への推進力を発生する。また、このとき、右の船外機の推進ユニットが右方へ回動し、かつシフト位置が後進位置となって右後方への推進力を発生する。これらの推進力の合力、すなわち合成推進力が船体に作用することにより、船舶が右方へ横移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載はないが、船舶は、前進時の運動性能を最大化することを目標に設計されるのが通常である。したがって、推進ユニットが前進方向の推進力を発生する場合のスロットル開度の目標値についての上限値は、スロットル全開に相当する100%に近い値に設定されるのが通常である。一方、船舶は、後進時には後方からの水を被らないように低速で移動することを想定して設計されるのが通常である。したがって、推進ユニットが後進方向の推進力を発生する場合のスロットル開度の目標値についての上限値は、100%を大幅に下回る値に設定されるのが通常である。
【0008】
ステアリング操船及びジョイスティック操船を選択できる船舶では、高速航走時にはステアリング操船を用い、離着岸等のための低速航走時にはジョイスティック操船を用いるのが便利であり、かつ一般的である。
このような船舶において、スロットル開度の目標値の特性が、ステアリング操船及びジョイスティック操船のどちらでも同じであると、次に説明するように、操船者が操船時に十分な推進力が得られないと感じる場合がある。
【0009】
操船者が、例えば、船舶を右方へ横移動させるためにジョイスティックを右方へ目一杯傾倒させても、シフト位置が後進位置となる右の船外機のスロットル開度が小さく、右後方への推進力が小さい。バランスをとるために、シフト位置が前進位置となる左の船外機のスロットル開度は、右の船外機のスロットル開度と同程度とする必要があるから、右前方への推進力も小さくなる。そのため、左右の船外機の合成推進力の左右方向成分が小さいので、操船者は、左右方向への十分な推進力が得られないと感じる場合がある。したがって、従来の操船システムには、より良好な操船フィーリングのために改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明の一実施形態は、操船フィーリングの向上を図れる操船システム及び船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、船舶の船体に装備可能に構成される推進機と、スロットルアクチュエータと、第1操作子と、第2操作子と、コントローラとを含み、前記船舶に装備される操船システムを提供する。前記推進機は、エンジンによって前進方向又は後進方向の推進力を発生する。前記スロットルアクチュエータは、前記エンジンのスロットル開度を変化させる。前記第1操作子及び前記第2操作子は、操船のために操船者によって操作される。前記第2操作子は、前記第1操作子とは別に設けられる。前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第1操作子の操作に応じて、第1上限値以下の範囲で第1目標値を設定し、前記スロットル開度が前記第1目標値になるように前記スロットルアクチュエータを制御する。前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2操作子の操作に応じて、前記第1上限値よりも大きい第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定し、前記スロットル開度が前記第2目標値になるように前記スロットルアクチュエータを制御する。
【0012】
この構成により、推進機が後進方向の推進力を発生する場合、操船者が第2操作子を操作した場合の推進機のエンジンのスロットル開度の目標値は、操船者が第1操作子を操作した場合の第1上限値よりも大きい第2上限値までの範囲で設定できる。そのため、第2操作子の操作に応じて、スロットル開度の目標値が第1上限値よりも大きい第2目標値に設定されて、実際のスロットル開度が第2目標値になると、推進機は、後進方向に大きな推進力を発生することができる。これにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0013】
本発明の一実施形態においては、前記第2操作子は、ジョイスティックであってもよい。
本発明の一実施形態においては、前記第2操作子がジョイスティックであり、前記第2上限値は、前記スロットル開度の最大値である。
この構成により、推進機が後進方向の推進力を発生する場合において、操船者がジョイスティックを操作した場合のエンジンのスロットル開度の目標値は、スロットル開度の最大値までの範囲で設定できる。そのため、ジョイスティックの操作に応じて、スロットル開度の目標値が最大値に設定されて、実際のスロットル開度が最大値になると、推進機は、後進方向における最大の推進力を発生することができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記操船システムは、前記第1操作子を有する第1操作系と、前記第2操作子を有する第2操作系とをさらに含む。前記第1操作系は、前記第1操作子の操作に応じて前記スロットル開度についての第1リクエスト値を生成する。前記第2操作系は、前記第2操作子の操作に応じて前記スロットル開度についての第2リクエスト値を生成する。前記コントローラは、前記第1リクエスト値に基づいて第1目標値を設定し、前記第2リクエスト値に基づいて第2目標値を設定する。前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が最大値であるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が最大値であるときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する。
【0015】
この構成により、第2リクエスト値が最大値になるように操船者が第2操作子を操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が最大値になるように操船者が第1操作子を操作したことによって設定される第1目標値よりも大きい。そのため、第2操作子の操作に応じてスロットル開度の目標値が第2目標値に設定されて、実際のスロットル開度が第2目標値になると、推進機は、スロットル開度の目標値が第1目標値に設定される場合よりも、後進方向に大きな推進力を発生することができる。これにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0016】
本発明の一実施形態においては、前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下であるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する。
この構成により、第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下の所定値になるように操船者が第2操作子を操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が当該所定値と同じときの第1目標値よりも大きい。そのため、第2リクエスト値が最大値でない場合でも、後進方向に大きな推進力を発生することができる。それにより、第2操作子を用いるときに大きな推進力を得やすくなるので、操船フィーリングの向上を図れる。
【0017】
本発明の一実施形態においては、前記推進機が後進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きい全範囲にあるときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する。
この構成により、第2リクエスト値の全範囲(零を除く)にわたって、同じリクエスト値に対して、第2目標値が第1目標値よりも大きい。そのため、第2リクエスト値が零よりも大きいいずれの値であっても、後進方向に大きな推進力を発生することができる。この大きな推進力により、操船フィーリングの向上を図れる。
【0018】
本発明の一実施形態においては、前記推進機が前進方向の推進力を発生する場合に、前記コントローラは、前記第2リクエスト値が零よりも大きいときの前記第2目標値を、前記第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの前記第1目標値よりも大きい値に設定する。
この構成により、推進機が前進方向の推進力を発生する場合に、第2リクエスト値が零よりも大きい所定値になるように操船者がジョイスティックを操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が当該所定値と同じときの第1目標値よりも大きい。そのため、第2操作子が用いられるとき、推進機は、前進方向に大きな推進力を発生することができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記操船システムは、前記推進機が発生する推進力の前記船体に対する舵角を変化させる転舵ユニットをさらに含む。前記コントローラは、前記第2操作子の操作に応じて、前記転舵ユニットを制御して前記舵角を変化させる。
この構成により、操船者によって第2操作子が操作されると、推進機のエンジンのスロットル開度の目標値は、操船者が第1操作子を操作した場合の第1上限値よりも大きい第2上限値までの範囲で設定できる。そのため、第2操作子を用いた操船時に大きな推進力を発生させることができる。とくに、舵角の変化に応じて、推進力が左右方向成分を含む場合には、大きな左右方向成分を発生させることができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0020】
本発明の一実施形態は、船体と、前記船体に搭載される前記操船システムと、を含む船舶を提供する。
この構成により、第2操作子を用いる操船時に後進方向の大きな推進力を推進機から発生させることができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、操船フィーリングの向上を図れる操船システム及び船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【
図2】船舶に備えられた推進機の構成を説明するための図解的な断面図である。
【
図3】船舶に備えられた操船システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】操船システムに含まれる推進機が後進方向の推進力を発生させる場合の当該推進機のエンジンにおけるスロットル開度の目標値の特性を表したグラフである。
【
図5】推進機が発生する後進方向の推進力の特性を表したグラフである。
【
図6】操船による船舶の第1の挙動を説明するための平面図である。
【
図7】操船による船舶の第2の挙動を説明するための平面図である。
【
図8】前進方向の推進力を発生させる場合の推進機のエンジンにおけるスロットル開度の目標値の特性を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶1の平面視における構成を説明するための概念図である。図中、船舶1の前進方向(船首方向)を矢印FWDで表し、その後進方向(船尾方向)を矢印BWDで表してある。さらに、船舶1の右舷(スターボードサイド)方向を矢印RIGHTで表し、その左舷(ポートサイド)方向を矢印LEFTで表してある。
【0024】
船舶1は、船体2と、船体2に搭載される操船システム3を含む。操船システム3は、船体2に装備可能に構成される推進機の一例としての複数の船外機4と、これらの船外機4を制御するBCU(ボートコントロールユニット)5とを含む。
複数の船外機4は、船体2の船尾2Aに左右方向に並んで装備され、船体2の瞬間的な旋回中心である抵抗中心P(後述する
図6等を参照)よりも後方で推進力を発生するように設計されている。抵抗中心Pは、平面視において船体2の重心と一致するとは限らないし、船体2における定位置にあるとは限らない。
【0025】
この実施形態では、複数の船外機4は、船尾2Aに取り付けられた左船外機4L及び右船外機4Rを含む。左船外機4L及び右船外機4Rは、船体2の船尾2A及び船首2Bを通って前後方向に沿う中心線Cに対して、左右対称な位置に取り付けられている。具体的には、左船外機4Lは、船体2の左舷後部に取り付けられており、右船外機4Rは、船体2の右舷後部に取り付けられている。
【0026】
左船外機4L及び右船外機4Rのそれぞれには、ECU(電子制御ユニット)6が内蔵されている。BCU5及び各ECU6のぞれぞれは、CPU(中央処理装置)及びメモリを含むマイクロコンピュータによって構成されていて、マイクロコンピュータが所定のソフトウェア処理を実行する。以下では、左船外機4Lに内蔵されたECU6を「左ECU6L」といい、右船外機4Rに内蔵されたECU6を「右ECU6R」という。ただし、
図1では、便宜上、左船外機4Lと左ECU6Lとは分離して表してあり、右船外機4Rと右ECU6Rとは分離して表してある。
【0027】
船体2の操船席には、操船のための操作台7が設けられている。操作台7には、舵取りのために操作されるステアリング操作部8と、各船外機4の出力調整のために操作されるスロットル操作部9と、舵取り及び各船外機4の出力調整のために操作されるジョイスティック10とが備えられている。ステアリング操作部8及びスロットル操作部9は、操船のために操船者によって操作される第1操作子の一例である。ジョイスティック10は、第1操作子とは別に設けられ、操船のために操船者によって操作される第2操作子の一例である。これらの操作子は、操船システム3に含まれる。
【0028】
この実施形態では、ステアリング操作部8及びスロットル操作部9を用いた通常の操船(以下では「ステアリング操船」という。)と、ジョイスティック10を用いた操船(以下では「ジョイスティック操船」という。)とが利用可能である。操作台7では、例えば、ステアリング操作部8が左寄りの位置に配置され、スロットル操作部9が右寄りの位置に配置され、ジョイスティック10がステアリング操作部8とスロットル操作部9との間に配置されているが、これらのレイアウトは任意に変更できる。
【0029】
ステアリング操作部8は、左右に回動可能なステアリングホイール8Aを備えている。スロットル操作部9は、左船外機4L及び右船外機4Rにそれぞれに対応したスロットルレバー9L及び9Rを備えている。左のスロットルレバー9Lは、左船外機4Lの出力制御のために用いられる。右のスロットルレバー9Rは、右船外機4Rの出力制御のために用いられる。スロットルレバー9L及び9Rは、それぞれ前後方向に所定角度範囲で回動可能である。スロットルレバー9L及び9Rを中立位置から前方へ所定量傾倒させたときのスロットルレバー9L及び9Rの傾倒位置は、前進シフトイン位置である。スロットルレバー9L及び9Rを中立位置から後方へ所定量傾倒させたときのスロットルレバー9L及び9Rの傾倒位置は、後進シフトイン位置である。
【0030】
スロットルレバー9L及び9Rの各頭部は、互いに近接する方向に折り曲げられて、ほぼ水平な把持部を形成している。これにより、操船者は、スロットルレバー9L及び9Rを両方同時に回動させて、左船外機4L及び右船外機4Rのスロットル開度を実質的に等しく保ちながら、左船外機4L及び右船外機4Rの出力を制御できる。
ジョイスティック10は、操作台7から突設されたレバーである。ジョイスティック10は、操船者の操作によって中立位置から前後左右の自由な方向(斜め方向も含む)へ傾倒させることができる。ジョイスティック10の頭部には、ジョイスティック10の軸線まわりに回動操作することができるノブ11が設けられている。ノブ11は、ジョイスティック10の一部である。ノブ11の代わりに、ジョイスティック10全体が、その軸線まわりに回動操作できてもよい。
【0031】
BCU5は、船体2内に配置された通信バス12を介して、各ECU6との間で通信を行う。通信バス12は、例えばCAN(Control Area Network)によって構成されている。通信バス12は、BCU5と各ECU6とをつなぐ第1通信バス12Aと、ステアリングホイール8Aと各ECU6とをつなぐ第2通信バス12Bと、BCU5とジョイスティック10とをつなぐ第3通信バス12Cとを含む。通信バス12は、スロットルレバー9Lと左ECU6Lとをつなぐ第4通信バス12Lと、スロットルレバー9Rと右ECU6Rとをつなぐ第5通信バス12Rとを含む。なお、通信バス12の配線に係る構成は、適宜変更可能である。
【0032】
図2は、左船外機4L及び右船外機4Rの共通の構成を説明するための図解的な断面図である。各船外機4は、取り付け機構21を介して船体2の船尾2Aに取り付けられている。取り付け機構21を船外機4の一部とみなしてもよい。取り付け機構21は、船尾2Aに着脱自在に固定されるクランプブラケット22と、クランプブラケット22に横軸としてのチルト軸23を中心に回動自在に結合されたスイベルブラケット24とを備えている。スイベルブラケット24をチルト軸23まわりに回動させることによって、船外機4のトリム角を変化させることができる。
【0033】
船外機4は、スイベルブラケット24に、縦軸としての操舵軸25まわりに回動自在に取り付けられている。これにより、船外機4を操舵軸25まわりに回動させることによって、舵角(船外機4が発生する推進力の船体2の中心線Cに対する方向)を変化させることができる。
船外機4のハウジングは、トップカウリング26とアッパケース27とロアケース28とで構成されている。トップカウリング26内には、駆動源となるエンジン29が、そのクランク軸の軸線が上下方向となるように設置されている。エンジン29のクランク軸下端に連結される動力伝達用のドライブシャフト30は、上下方向にアッパケース27内を通ってロアケース28内にまで延びている。
【0034】
ロアケース28の下部後方には、推進力発生部材となるプロペラ31が回転自在に装着されている。ロアケース28内には、プロペラ31の回転軸であるプロペラシャフト32が水平方向に通されている。プロペラシャフト32には、ドライブシャフト30の回転が、ドッグクラッチによって構成されたシフト機構33を介して伝達される。
シフト機構33は、ドライブシャフト30の下端に固定された駆動ギヤ33Aと、プロペラシャフト32上に回動自在に配置された前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cと、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cの間に配置されたスライダ33Dとを含む。駆動ギヤ33A、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cのそれぞれは、ベベルギヤからなる。前進ギヤ33Bは、前方から駆動ギヤ33Aに噛合しており、後進ギヤ33Cは後方から駆動ギヤ33Aに噛合している。そのため、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cは互いに反対方向に回転される。
【0035】
スライダ33Dは、プロペラシャフト32にスプライン結合されている。すなわち、スライダ33Dは、プロペラシャフト32に対してその軸方向に摺動自在であるけれども、プロペラシャフト32に対する相対回動はできず、プロペラシャフト32とともに回転する。スライダ33Dは、ドライブシャフト30と平行に上下方向に延びるシフトロッド34の軸まわりの回動によって、プロペラシャフト32上で摺動される。これにより、スライダ33Dは、前進ギヤ33Bと結合した前進位置と、後進ギヤ33Cと結合した後進位置と、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cのいずれとも結合されないニュートラル位置とのいずれかのシフト位置に配置される。
【0036】
スライダ33Dが前進位置にあるとき、エンジン29の駆動力が伝達された前進ギヤ33Bの回転がスライダ33Dを介してプロペラシャフト32に伝達される。これにより、プロペラ31は、一方向に回転し、船体2を前進させる方向(前進方向)の推進力を発生する。このときのプロペラ31の回転を「正回転」という。一方、スライダ33Dが後進位置にあるとき、エンジン29の駆動力が伝達された後進ギヤ33Cの回転がスライダ33Dを介してプロペラシャフト32に伝達される。後進ギヤ33Cは、前進ギヤ33Bとは反対方向に回転するため、プロペラ31は、反対方向に回転し、船体2を後進させる方向(後進方向)の推進力を発生する。このときのプロペラ31の回転を「逆回転」という。このように、船外機4は、エンジン29によって前進方向又は後進方向の推進力を発生する。スライダ33Dがニュートラル位置にあるとき、ドライブシャフト30の回転はプロペラシャフト32に伝達されない。すなわち、エンジン29とプロペラ31との間の駆動力伝達経路が遮断されるので、いずれの方向の推進力も生じない。
【0037】
船外機4には、エンジン29を始動させるためのスタータモータ35が配置されている。スタータモータ35は、ECU6によって制御される。また、船外機4には、エンジン29のスロットルバルブ36を作動させてスロットル開度を変化させ、エンジン29の吸入空気量を変化させるためのスロットルアクチュエータ37が備えられている。スロットルアクチュエータ37は、電動モータからなっていてもよい。スロットルアクチュエータ37の動作は、ECU6によって制御される。そのため、スロットルバルブ36は、電子制御されるスロットルバルブである。エンジン29には、さらに、スロットル開度を検出するためのスロットル開度センサ38が備えられている。
【0038】
シフトロッド34に関連して、スライダ33Dのシフト位置を変化させるためのシフトアクチュエータ39が設けられている。シフトアクチュエータ39は、例えば、電動モータからなり、ECU6によって動作制御される。
船外機4には、例えば前方へ延びる操舵ロッド40が固定されている。操舵ロッド40には、ECU6によって制御される操舵アクチュエータ41が結合されている。操舵アクチュエータ41は、例えば、DCサーボモータ及び減速器を含む構成とすることができる。操舵アクチュエータ41を駆動することによって、船外機4を操舵軸25まわりに回動させることができ、舵取り操作を行うことができる。このように、操舵アクチュエータ41、操舵ロッド40及び操舵軸25は、船外機4において、舵角を変化させる転舵ユニット42を構成している。転舵ユニット42は、操船システム3に含まれる。転舵ユニット42には、舵角を検出するための舵角センサ43が備えられている。舵角センサ43は、例えば、ポテンショメータからなる。
【0039】
クランプブラケット22とスイベルブラケット24との間には、例えば液圧シリンダを含み、ECU6によって制御されるトリムアクチュエータ44が設けられている。トリムアクチュエータ44は、チルト軸23まわりにスイベルブラケット24を回動させることにより、船外機4をチルト軸23まわりに回動させて、船外機4のトリム角を変化させる。
【0040】
図3は、操船システム3の電気的構成を示すブロック図である。操船システム3は、前進時及び後進時のそれぞれにおける船舶1の航走速度を検出してBCU5に入力する速度センサ50と、船舶1の現在位置信号を生成してBCU5に入力する位置検出装置51とをさらに含む。速度センサ50は、ピトー管を用いて構成することができる。速度センサ50は、対水速度を検出するものでも、対地速度を検出するものでもよい。位置検出装置51は、船舶1の現在位置信号を生成するものであり、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信して現在位置情報を生成するGPS受信機で構成することができる。現在位置信号は、船体2の方位(舳先の向き)の情報を含んでもよい。
【0041】
操船システム3は、ステアリングホイール8Aの回動位置(回動方向及び回動量)を検出して左ECU6L及び右ECU6Rに入力するステアリングセンサ52をさらに含む。操船システム3は、スロットルレバー9L及び9Rの前後方向の傾倒位置(傾倒方向及び傾倒量)をそれぞれ検出して左ECU6L及び右ECU6Rにそれぞれ入力する左センサ53L及び右センサ53Rをさらに含む。以下、左センサ53L及び右センサ53Rを総称するときは「スロットルセンサ53」という。ステアリングセンサ52及びスロットルセンサ53は、それぞれ、ポテンショメータで構成することができる。
【0042】
操船システム3は、任意の方向に傾倒されたときのジョイスティック10における前後方向の傾倒位置を検出してBCU5に入力する前後センサ54と、ジョイスティック10における左右方向の傾倒位置を検出してBCU5に入力する左右センサ55とをさらに含む。前後方向及び左右方向の両方に傾斜した斜め方向にジョイスティック10が傾倒された場合には、斜め方向が前後方向と左右方向とに分解されて、前後方向の傾倒位置が前後センサ54によって検出されて、左右方向の傾倒位置が左右センサ55によって検出される。操船システム3は、ノブ11の回動位置を検出してBCU5に入力する回動センサ56をさらに含む。前後センサ54、左右センサ55及び回動センサ56は、それぞれ、ポテンショメータで構成することができる。
【0043】
操船システム3は、船体2の回頭を抑制して船体2の方位を保持するために操船者によって押下操作される方位保持ボタン57と、船体2の位置を現在位置に保持するために操船者によって押下操作される定点保持ボタン58とをさらに含む。方位保持ボタン57及び定点保持ボタン58は、前述した第2操作子の一例であり、操作台7において操船者の指が届きやすい位置、例えばジョイスティック10の根元等に設けられている(
図1参照)。方位保持ボタン57が押下操作されると、その旨を示す信号がBCU5に入力される。この信号は、方位保持ボタン57が発生する第2操船指令の一例である。定点保持ボタン58が押下操作されると、その旨を示す信号がBCU5に入力される。この信号は、定点保持ボタン58が発生する第2操船指令の一例である。
【0044】
ステアリング操船の場合、ステアリングホイール8Aの回動位置を表わす信号が、ステアリング操作部8が発生する第1操船指令の一例として、左ECU6L及び右ECU6Rに入力される。具体的には、各ECU6は、ステアリングセンサ52によって検出されるステアリングホイール8Aの回動位置に応じて、舵角の目標値(以下、「目標舵角」という。)を設定する。具体的には、中立位置から右方向へのステアリングホイール8Aの回動操作に対しては、各ECU6は、右旋回のための目標舵角を設定する。同様に、中立位置から左方向へのステアリングホイール8Aの回動操作に対しては、各ECU6は、左旋回のための目標舵角を設定する。いずれの場合も、中立位置からのステアリングホイール8Aの回動量が大きいほど、目標舵角は、その絶対値(中立位置からの偏角)が大きな値とされる。各ECU6は、舵角センサ43によって検出される舵角が目標舵角に一致するように、対応する操舵アクチュエータ41を制御する。通常、左船外機4L及び右船外機4Rのそれぞれの目標舵角は等しく設定される。
【0045】
ステアリング操船の場合、スロットルレバー9Lの傾倒位置を表す信号が、左ECU6Lに入力され、スロットルレバー9Rの傾倒位置を表す信号が、右ECU6Rに入力される。スロットルレバー9L及びスロットルレバー9Rのそれぞれの傾倒位置を表す信号は、スロットル操作部9が発生する第1操船指令の一例である。
具体的には、左ECU6Lは、左センサ53Lによって検出されるスロットルレバー9Lの傾倒位置に応じて、左船外機4Lのためのシフト位置及びスロットル開度の目標値を設定する。以下では、シフト位置の目標値を「目標シフト位置」といい、スロットル開度の目標値を「目標スロットル開度」という。右ECU6Rは、右センサ53Rによって検出されるスロットルレバー9Rの傾倒位置に応じて、右船外機4Rのための目標シフト位置及び目標スロットル開度を設定する。
【0046】
スロットルレバー9L及び9Rのそれぞれの傾倒位置は、スロットルバルブ36の開度、つまりスロットル開度についてのリクエスト値を含む。各ECU6は、入力されたリクエスト値に基づいて、目標スロットル開度を設定する。スロットルレバー9Lの前方への傾倒量が前進シフトイン位置に相当する値以上であれば、左ECU6Lは、左船外機4Lの目標シフト位置を前進位置とする。スロットルレバー9Lが前進シフトイン位置を超えてさらに前方へ傾倒されると、左ECU6Lは、その傾倒量が大きいほど大きな目標スロットル開度を設定する。同様に、スロットルレバー9Lの後方への傾倒量が後進シフトイン位置に相当する値以上であれば、左ECU6Lは、左船外機4Lの目標シフト位置を後進位置とする。スロットルレバー9Lが後進シフトイン位置を超えてさらに後方へ傾倒されると、左ECU6Lは、その傾倒量が大きいほど大きな目標スロットル開度を設定する。
【0047】
スロットルレバー9Lの傾倒位置が前進シフトイン位置と後方シフトイン位置との間にあるときは、左ECU6Lは、左船外機4Lの目標シフト位置をニュートラル位置とする。このとき、エンジン29の駆動力はプロペラ31に伝達されないので、船外機4からの推進力は発生しない。すなわち、前進シフトイン位置と後進シフトイン位置との間の操作領域は、推進力の発生に関与しない不感帯であり、中立位置は、不感帯に含まれる。
【0048】
右ECU6Rは、右センサ53Rによって検出されるスロットルレバー9Rの傾倒位置に対しても同様の処理を行う。すなわち、スロットルレバー9Rの傾倒位置に応じて、右ECU6Rは、右船外機4Rの目標シフト位置及び目標スロットル開度を設定する。
このように目標シフト位置及び目標スロットル開度が設定されると、各ECU6は、スライダ33Dが目標シフト位置に配置されるように、対応するシフトアクチュエータ39を制御する。各ECU6は、スロットル開度センサ38によって検出されるスロットル開度が目標スロットル開度に一致するように、対応するスロットルアクチュエータ37を制御する。
【0049】
ジョイスティック操船の場合、ジョイスティック10の傾倒位置及びノブ11の回動位置を表す信号が、ジョイスティック10が発生する第2操船指令の一例として、BCU5に入力される。BCU5は、各ECU6に対して、第2操船指令に基づく目標シフト位置(前進、ニュートラル、後進)、目標スロットル開度及び目標舵角を表すデータを与える。
【0050】
具体的に、BCU5は、ジョイスティック10の傾倒位置に応じて目標シフト位置及び目標スロットル開度を設定する。ジョイスティック10の傾倒位置は、スロットルバルブ36の開度についてのリクエスト値を含む。BCU5は、入力されたリクエスト値に基づいて、目標スロットル開度、つまり各船外機4のスロットルバルブ36の開度についての目標値を設定する。
【0051】
より具体的には、ジョイスティック10の前方への傾倒量が前進シフトイン位置に相当する値以上であれば、BCU5は、目標シフト位置を前進位置とする。ジョイスティック10が前進シフトイン位置を超えてさらに前方へ傾倒されると、BCU5は、その傾倒量が大きいほど大きな目標スロットル開度を設定する。同様に、ジョイスティック10の後方への傾倒量が後進シフトイン位置に相当する値以上であれば、BCU5は、目標シフト位置を後進位置とする。ジョイスティック10が後進シフトイン位置を超えてさらに後方へ傾倒されると、BCU5は、その傾倒量が大きいほど大きな目標スロットル開度を設定する。ジョイスティック10の前後方向の傾倒位置が前進シフトイン位置と後方シフトイン位置との間の中立位置にあるときは、BCU5は、目標シフト位置をニュートラル位置とする。
【0052】
BCU5は、ノブ11の回動位置に応じて、目標舵角を設定する。具体的には、左方向へのノブ11の回動操作に対しては、左旋回のための目標舵角が設定され、その絶対値(中立位置からの偏角)は、中立位置からの回動量が大きいほど大きくされる。同様に、右方向へのノブ11の回動操作に対しては、右旋回のための目標舵角が設定され、その絶対値は、中立位置からの回動量が大きいほど大きくされる。
【0053】
別の動作例として、BCU5は、ジョイスティック10の斜め左方向又は斜め右方向の傾倒に応じて、目標シフト位置及び目標スロットル開度だけでなく、目標舵角も設定してもよい。その場合、BCU5は、ジョイスティック10の斜め左方向への傾倒操作に対しては、左旋回のための目標舵角を設定する。同様に、ジョイスティック10の斜め右方向への傾倒操作に対しては、BCU5は、右旋回のための目標舵角を設定する。いずれの場合も、ジョイスティック10の中立位置からの傾倒量が大きいほど、目標舵角は、その絶対値(中立位置からの偏角)が大きな値とされる。
【0054】
BCU5は、このように設定した目標値(目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標舵角)を各船外機4のECU6に与える。ジョイスティック操船では、通常、左船外機4L及び右船外機4Rのそれぞれの目標値は等しく設定される。各ECU6は、スライダ33Dが目標シフト位置に配置されるように、対応するシフトアクチュエータ39を制御する。各ECU6は、スロットル開度センサ38によって検出されるスロットル開度が目標スロットル開度に一致するように、対応するスロットルアクチュエータ37を制御する。各ECU6は、舵角センサ43によって検出される舵角が目標舵角に一致するように、対応する操舵アクチュエータ41を制御する。
【0055】
BCU5は、ジョイスティック10の左右方向の操作(真横への操作)に応じて目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標舵角を設定してもよい。その場合、BCU5は、ジョイスティック10の左方向への傾倒操作に対しては、抵抗中心Pまわりの回頭を伴わない左方への直線移動のための目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標舵角を設定する。このような直線移動を「並進移動」という。BCU5は、ジョイスティック10の右方向への傾倒操作に対しては、右方への並進移動のための目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標舵角を設定する。並進移動の場合、左船外機4Lの目標シフト位置と、右船外機4Rの目標シフト位置とは、互いに反対になるように設定される。左船外機4Lの目標スロットル開度と、右船外機4Rの目標スロットル開度とは同じになるように設定される。BCU5は、中立位置からのジョイスティック10の傾倒量が大きいほど大きな目標スロットル開度を設定する。目標舵角の絶対値は、左船外機4Lと右船外機4Rとで同じになるように設定されるが、左船外機4Lの回動方向と右船外機4Rの回動方向とは、互いに反対になるように設定される。詳しくは、後述する。
【0056】
次に、前述したスロットル開度についてのリクエスト値について詳説する。リクエスト値の単位の一例は、スロットル開度の単位と同じ「%」である。そのため、リクエスト値が100%であることは、スロットル開度が100%であること(スロットル全開)を要求することを意味している。ステアリング操船の場合のリクエスト値を「第1リクエスト値」といい、ジョイスティック操船の場合のリクエスト値を「第2リクエスト値」という。
【0057】
以下では、BCU5及び各ECU6のまとまりをコントローラ60といい、BCU5及び各ECU6のそれぞれを、コントローラ60を構成する複数の機能処理部のいずれかとみなす。コントローラ60は、第1リクエスト値に基づいて、スロットル開度についての第1目標値を設定し、第2リクエスト値に基づいて、スロットル開度についての第2目標値を設定する。第1目標値及び第2目標値のそれぞれの単位の一例は、スロットル開度の単位と同じ「%」である。
【0058】
スロットル操作部9と、スロットル操作部9の傾倒位置を検出するスロットルセンサ53とは、スロットル操作部9の操作に応じて、スロットル操作部9の傾倒位置に対応した第1リクエスト値を生成する第1操作系61を構成している(
図3参照)。ジョイスティック10と、ジョイスティック10の傾倒位置を検出する前後センサ54及び左右センサ55とは、ジョイスティック10の操作に応じて、ジョイスティック10の傾倒位置に対応した第2リクエスト値を生成する第2操作系62を構成している(
図3参照)。第1操作系61及び第2操作系62は、操船システム3に含まれる。
【0059】
コントローラ60における、例えばBCU5やECU6のメモリには、
図4に示すスロットル開度の目標値の特性についてのグラフが記憶されている。このグラフは、船外機4が後進方向の推進力を発生する場合のスロットル開度の目標値の特性を表したグラフである。
図4のグラフにおいて、横軸は、第1リクエスト値及び第2リクエスト値のそれぞれを表し、縦軸は、第1目標値及び第2目標値のそれぞれを表し、破線は、第1目標値の特性ラインL1を表し、実線は、第2目標値の特性ラインL2を表している。この実施形態では、リクエスト値とスロットル開度の目標値との関係が、ステアリング操船の場合とジョイスティック操船の場合とで異なっているので、特性ラインL1と特性ラインL2とは一致しない。
【0060】
第1リクエスト値が最大値であるときの第1目標値を「第1上限値」といい、第2リクエスト値が最大値であるときの第2目標値を「第2上限値」という。第2上限値は、第1上限値よりも大きい。つまり、第2リクエスト値が最大値であるときの第2目標値は、第1リクエスト値が最大値であるときの第1目標値よりも大きい。なお、この実施形態では、第1リクエスト値が最大値及び第2リクエスト値が最大値は、いずれも100%であって同じであるが、これらの最大値は、100%未満であってもよいし、互いに異なってもよい。
【0061】
船外機4が後進方向の推進力を発生する場合に、ステアリング操船によって第1リクエスト値が入力されたコントローラ60は、第1リクエスト値を特性ラインL1に当てはめて、第1リクエスト値に対応する第1目標値を、第1上限値以下の範囲で設定する。つまり、コントローラ60は、操船者によるステアリング操作部8やスロットル操作部9の操作に応じて、第1上限値以下の範囲で第1目標値を設定する。そして、コントローラ60は、エンジン29における実際のスロットル開度が第1目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
【0062】
船外機4が後進方向の推進力を発生する場合に、ジョイスティック操船によって第2リクエスト値が入力されたコントローラ60は、第2リクエスト値を特性ラインL2に当てはめて、第2リクエスト値に対応する第2目標値を、第2上限値以下の範囲で設定する。つまり、コントローラ60は、操船者によるジョイスティック10の操作に応じて、第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定する。この場合、コントローラ60は、第2リクエスト値が最大値であるときの第2目標値を、第1リクエスト値が最大値であるときの第1目標値よりも大きい値に設定する。
【0063】
本実施形態では、零以外の全域のリクエスト値について、第2目標値の特性ラインL2が第1目標値の特性ラインL1を上回っている。そのため、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きい全範囲にあるときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定する。
なお、リクエスト値が零及び最大値のいずれでもない所定値である場合にだけ、第2目標値の特性ラインL2が第1目標値の特性ラインL1を部分的に上回っていてもよい。その場合、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下の当該所定値であるときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定する。
【0064】
そして、コントローラ60は、エンジン29における実際のスロットル開度が第2目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
図5は、船外機4が発生する後進方向の推進力の特性を表したグラフである。
図5のグラフにおいて、横軸は、実際のスロットル開度を表し、縦軸は、後進方向の推進力を表し、実線は、後進方向の推進力の特性ラインL3を表している。スロットル開度が、スロットルアクチュエータ37の制御によって増大するのに従って、後進方向の推進力が特性ラインL3に沿って増大する。
【0065】
ステアリング操船の場合には、スロットル開度の第1目標値が第1上限値に定められていて、ジョイスティック操船の場合には、スロットル開度の第2目標値が、第1上限値よりも大きい第2上限値に定められている(
図4参照)。そのため、ステアリング操船の場合には、実際のスロットル開度が第1上限値を超えないので、後進方向の推進力は、第1推進力P1以下に制限される。一方、スロットル開度の第2目標値が、第1上限値よりも大きい第2上限値に定められている。そのため、ジョイスティック操船の場合には、実際のスロットル開度が第1上限値を超えて第2上限値まで増大できるので、後進方向の推進力は、第1推進力P1よりも大きい第2推進力P2まで増大する。第2上限値は、スロットル開度の最大値であってもよく、その場合の第2推進力P2は、エンジン29が発生できる後進方向の最大推進力であってもよい。
【0066】
次に、操船者による様々な操船のパターンについて説明する。
図6及び
図7は、各パターンの操船による船舶1の挙動を説明するための模式的な平面図である。操船者が、ステアリング操船として、ステアリングホイール8Aを中立位置に保った状態でスロットルレバー9L及び9Rの両方を後方へ同時に回動させる。すると、コントローラ60は、目標舵角を零に設定し、スロットルレバー9L及び9Rの傾倒位置に応じた目標スロットル開度(前述した第1目標値)を設定するので、
図6に示すように、各船外機4は、船体2の中心線Cに沿った後進方向の推進力αを発生する。これにより、船舶1が後方へ直進する。以下では、左船外機4Lが発生する推進力αを「左推進力αL」といい、右船外機4Rが発生する推進力αを「右推進力αR」という。船舶1が後方へ直進する場合、左推進力αLと右推進力αRとは等しい。なお、船舶1は、前進時の運動性能を最大化することを目標に設計されているので、船舶1を後方へ直進させることは滅多にない。
【0067】
操船者がスロットルレバー9L及び9Rを後方へ目一杯回動させた場合、コントローラ60は、第1目標値を第1上限値に設定するので、左推進力αL及び右推進力αRは、第1推進力P1まで増大するものの、第1推進力P1を上回らない。
一方、操船者が、ジョイスティック操船として、ジョイスティック10を後方(真後ろ)へ回動させる。すると、コントローラ60は、目標舵角を零に設定し、ジョイスティック10の傾倒位置に応じた目標スロットル開度(前述した第2目標値)を設定するので、各船外機4は、船体2の中心線Cに沿った後進方向の推進力αを発生する。操船者がジョイスティック10を後方へ目一杯回動させた場合、コントローラ60は、第2目標値を第2上限値に設定するので、左推進力αL及び右推進力αRは、第1推進力P1よりも大きい第2推進力P2まで増大する。これにより、船舶1は、素早く後方へ直線移動する。
【0068】
図7を参照して、各船外機4の舵角βは、船体2の中心線Cに対する各船外機4のプロペラ31の回転軸線の偏角である。プロペラ31の回転軸線は、船外機4が発生する推進力αの作用線γと、平面視で一致する。以下では、左船外機4Lの舵角βを「左舵角βL」といい、右船外機4Rの舵角βを「右舵角βR」という。また、左推進力αLの作用線γを「左作用線γL」といい、右推進力αRの作用線γを「右作用線γR」という。
【0069】
本実施形態では、平面視において、作用線γが中心線Cと平行なときの舵角βを0度とし、一例として、左方へ増加するときの舵角βを正の値とし、右方へ増加するときの舵角βを負の値としている。
左舵角βL及び右舵角βRの両方が零である状態(
図6参照)で、ジョイスティック操船として、例えば操船者がジョイスティック10を左方へ傾倒させた場合を想定する。この場合には、左右センサ55が検出した左方へのジョイスティック10の傾倒位置が、コントローラ60に入力される。すると、コントローラ60は、船体2に作用させるべき推進力Fの目標値である船体目標値を決定する。そして、コントローラ60は、この船体目標値に応じた各船外機4の船外機目標値(目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標舵角)を決定し、対応する船外機4を船外機目標値に応じて駆動させる。これにより、各船外機4の推進力で船体2が左方へ移動する。
【0070】
具体的には、コントローラ60は、ジョイスティック10の操作に応じて転舵ユニット42を制御して、各船外機4の舵角βの絶対値を、ジョイスティック10の傾倒位置に応じた値になるように変化させる。そのため、船体2を左方へ移動させる場合には、コントローラ60は、左船外機4Lを左方へ回動させ、右船外機4Rを右方へ回動させる。左舵角βLの絶対値と右舵角βRの絶対値とは同じである。そして、コントローラ60は、左船外機4Lには後進方向の左推進力αLを発生させ、右船外機4Rには前進方向の右推進力αRを発生させる。そのため、左推進力αLと右推進力αRとの合力が、左方への推進力Fとして、中心線C上における左作用線γLと右作用線γRとの交差位置Xにおいて船体2に作用する。
【0071】
交差位置Xが船体2の抵抗中心Pと一致する場合には、一切のモーメントが発生しないので、船舶1を左方へ並進移動させることができる。
そして、左方へのジョイスティック10の傾倒量の増大に応じて各船外機4の舵角β及び目標スロットル開度(前述した第2目標値)が大きくなると、コントローラ60は、第2目標値を第2上限値に設定する。これにより、左推進力αL及び右推進力αRは、
図7に示すように、第1推進力P1よりも大きい第2推進力P2まで増大する。それぞれの推進力αが第1推進力P1であるときに船体2に作用する推進力Fを「推進力F1」といい、それぞれの推進力αが第2推進力P2であるときに船体2に作用する推進力Fを「推進力F2」という。推進力F2は、推進力F1よりも大きいので、船舶1は、素早く左方へ並進移動する。
【0072】
コントローラ60には、
図8に示すスロットル開度の目標値の特性についてのグラフが記憶されてもよい。このグラフは、船外機4が前進方向の推進力を発生する場合のスロットル開度の目標値の特性を表したグラフである。
図8のグラフにおいて、横軸は、第1リクエスト値及び第2リクエスト値のそれぞれを表し、縦軸は、第1目標値及び第2目標値のそれぞれを表し、破線は、第1目標値の特性ラインL4を表し、実線は、第2目標値の特性ラインL5を表している。
【0073】
船外機4が前進方向の推進力を発生する場合に、ステアリング操船によって第1リクエスト値が入力されたコントローラ60は、第1リクエスト値を特性ラインL4に当てはめて、第1リクエスト値に対応する第1目標値を設定する。そして、コントローラ60は、エンジン29における実際のスロットル開度が第1目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
【0074】
船外機4が前進方向の推進力を発生する場合に、ジョイスティック操船によって第2リクエスト値が入力されたコントローラ60は、第2リクエスト値を特性ラインL5に当てはめて、第2リクエスト値に対応する第2目標値を設定する。
前進方向の推進力の場合、第1目標値の特性ラインL4と第2目標値の特性ラインL5とが一致してもよいし、特性ラインL5が、零以外の全域において特性ラインL4を上回ってもよい。本実施形態では、特性ラインL5が、特性ラインL4を部分的に上回っている。特性ラインL5において特性ラインL4を上回った領域では、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きい所定値であるときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定する。そして、コントローラ60は、エンジン29における実際のスロットル開度が第2目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
【0075】
操船者が方位保持ボタン57や定点保持ボタン58を押下操作すると、これらに操作に対応する保持指令が、コントローラ60に入力される。保持指令の入力があると、コントローラ60は、目標値を演算する。具体的には、コントローラ60は、位置検出装置51が生成した船舶1の現在位置信号に基いて、船舶1の位置の瞬間的な変化量を演算し、この変化量から、船舶1に作用している波や波等による外力を演算する。そして、コントローラ60は、演算した外力に釣り合う合力が発生するように各船外機4が発生すべき推進力α及び舵角βの目標値を演算する。船外機4が後進方向の推進力を発生すべき場合には、コントローラ60は、この船外機4のスロットル開度について、前述した第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定し、第2目標値に基づいて推進力αの目標値を演算してもよい。そして、コントローラ60は、目標値の推進力αを発生するように各船外機4を駆動させ、舵角βが目標値になるように転舵ユニット42を制御する。これにより、各船外機4が発生する推進力αによって、船舶1の方位や位置が保持される。
【0076】
船舶1は、船外機4を1つだけ備えていてもよい。この場合、1つの船外機4が、船体2の船尾2Aにおいて左右方向における中央部に取り付けられていて、船舶1のスロットル操作部9は、スロットルレバーを1つだけ備えていて、ECU6は、1つだけ備えられている。
以上のように、船外機4が後進方向の推進力αを発生する場合に、コントローラ60は、スロットル操作部9の操作に応じて、第1上限値以下の範囲で第1目標値を設定し、スロットル開度が第1目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。一方、コントローラ60は、ジョイスティック10の操作に応じて、第1上限値よりも大きい第2上限値以下の範囲で第2目標値を設定し、スロットル開度が第2目標値になるようにスロットルアクチュエータ37を制御する。
【0077】
この構成により、船外機4が後進方向の推進力αを発生する場合、操船者がジョイスティック10を操作した場合の船外機4のエンジン29のスロットル開度の目標値は、操船者がスロットル操作部9を操作した場合の第1上限値よりも大きい第2上限値までの範囲で設定できる。そのため、ジョイスティック10の操作に応じて、スロットル開度の目標値が第1上限値よりも大きい第2目標値に設定されて、実際のスロットル開度が第2目標値になると、船外機4は、後進方向に大きな第2推進力P2を発生することができる。第2推進力P2により、優れた操船応答性が得られる(
図6参照)。とくに、舵角βの変化に応じて、第2推進力P2が左右方向成分を含む場合には、大きな左右方向成分を発生させることができる。これより、船舶1を左右方向に素早く移動させることができる(
図7参照)。従って、操船フィーリングの向上を図れる。
【0078】
この実施形態においては、第1操作系61は、スロットル操作部9の操作に応じてスロットル開度についての第1リクエスト値を生成する。第2操作系62は、ジョイスティック10の操作に応じてスロットル開度についての第2リクエスト値を生成する。コントローラ60は、第1リクエスト値に基づいて第1目標値を設定し、第2リクエスト値に基づいて第2目標値を設定する。船外機4が後進方向の第2推進力P2を発生する場合に、コントローラ60は、第2リクエスト値が最大値であるときの第2目標値を、第1リクエスト値が最大値であるときの第1目標値よりも大きい値に設定する。
【0079】
この構成により、第2リクエスト値が最大値になるように操船者がジョイスティック10を操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が最大値になるように操船者がスロットル操作部9を操作したことによって設定される第1目標値よりも大きい。そのため、ジョイスティック10の操作に応じてスロットル開度の目標値が第2目標値に設定されて、実際のスロットル開度が第2目標値になると、船外機4は、スロットル開度の目標値が第1目標値に設定される場合よりも、後進方向に大きな第2推進力P2を発生することができる。これにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0080】
特に、この実施形態においては、船外機4が後進方向の推進力αを発生する場合に、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きい全範囲にあるときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定する。
この構成により、第2リクエスト値の全範囲(零を除く)にわたって、同じリクエスト値に対して、第2目標値が第1目標値よりも大きい(
図4参照)。そのため、第2リクエスト値が零よりも大きいいずれの値であっても、後進方向に大きな第2推進力P2を発生することができる。この大きな第2推進力P2により、操船フィーリングの向上を図れる。
【0081】
この実施形態においては、船外機4が後進方向の推進力αを発生する場合に、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下であるときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定してもよい。
この構成により、第2リクエスト値が零よりも大きく最大値以下の所定値になるように操船者がジョイスティック10を操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が当該所定値と同じときの第1目標値よりも大きい。そのため、第2リクエスト値が最大値でない場合でも、後進方向に大きな第2推進力P2を発生することができる。それにより、ジョイスティック10を用いるときに大きな推進力を得やすくなるので、操船フィーリングの向上を図れる。
【0082】
第2上限値は、スロットル開度の最大値であってもよい。この構成により、船外機4が後進方向の推進力αを発生する場合において、操船者がジョイスティック10を操作した場合のエンジン29のスロットル開度の目標値は、スロットル開度の最大値までの範囲で設定できる。そのため、ジョイスティック10の操作に応じて、スロットル開度の目標値が最大値に設定されて、実際のスロットル開度が最大値になると、船外機4は、後進方向における最大の第2推進力P2を発生することができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0083】
この実施形態においては、船外機4が前進方向の推進力αを発生する場合に、コントローラ60は、第2リクエスト値が零よりも大きいときの第2目標値を、第1リクエスト値が当該第2リクエスト値と同じときの第1目標値よりも大きい値に設定してもよい。
この構成により、船外機4が前進方向の推進力αを発生する場合に、第2リクエスト値が零よりも大きい所定値になるまで操船者がジョイスティック10を操作したことによって設定される第2目標値は、第1リクエスト値が当該所定値と同じときの第1目標値よりも大きい。そのため、ジョイスティック10が用いられるとき、船外機4は、前進方向に大きな第2推進力P2を発生することができる。それにより、操船フィーリングの向上を図れる。
【0084】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。いくつかの例を以下に列記する。
例えば、船舶1の並進移動について、左方への移動について説明したが、このような横移動は一例に過ぎない。そのため、この発明の特徴の1つであるスロットル開度の目標値に関する構成は、斜め移動等の左右方向成分を含む全ての方向への移動(並進移動も含む)に適用でき、並進移動以外の移動(例えば通常航走中における旋回)にも適用できる。
【0085】
また、船外機4以外の推進機の一例として、船内外機や、ウォータージェットドライブを用いてもよい。船内外機は、原動機が船内に配置され、推進力発生部材及び舵切り機構を含むドライブユニットが船外に配置されたものである。船内機は、原動機及びドライブユニットがいずれも船体2に内蔵され、ドライブユニットからプロペラシャフトが船外に延び出た形態を有する。この場合、舵取り機構は別途設けられる。ウォータージェットドライブは、船底から吸い込んだ水をポンプで加速し、船尾の噴射ノズルから噴射することで推進力を得るものである。この場合、舵取り機構は、噴射ノズルと、この噴射ノズルを水平面に沿って回動させる機構とで構成される。
【0086】
以上で説明した様々な特徴は、適宜組み合わされてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1:船舶、2:船体、3:操船システム、4:船外機、8:ステアリング操作部、9:スロットル操作部、10:ジョイスティック、29:エンジン、37:スロットルアクチュエータ、42:転舵ユニット、60:コントローラ、61:第1操作系、62:第1操作系