(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146795
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】抗CD26抗体の奏効性バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20220928BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220928BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220928BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220928BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220928BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
G01N33/574 A
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P35/00
C07K16/28
C07K14/725
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】46
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047954
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】510301242
【氏名又は名称】ワイズ・エー・シー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森本 幾夫
(72)【発明者】
【氏名】波多野 良
(72)【発明者】
【氏名】弘田 直人
(72)【発明者】
【氏名】エリック アンジュビン
(72)【発明者】
【氏名】ファニー バレックス
(72)【発明者】
【氏名】ナム ダン
(72)【発明者】
【氏名】金子 有太郎
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性のある癌患者を選択する方法。
【解決手段】抗CD26抗体の基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、測定日における該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較すること、及び
測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される方法であって、
ここで、前記測定日は基準投与日を1日目として1~60日目であり、かつ、
該患者は少なくとも1回は基準投与として抗CD26抗体を投与される患者であり、かつ、
前記測定日が抗CD26抗体の投与日に該当する場合には、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該測定日における抗CD26抗体の投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルである、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性のある癌患者を選択する方法であって、
抗CD26抗体の基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、測定日における該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較すること、及び
測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される方法であって、
ここで、前記測定日は基準投与日を1日目として1~60日目であり、かつ、
該患者は少なくとも1回は基準投与として抗CD26抗体を投与される患者であり、かつ、
前記測定日が抗CD26抗体の投与日に該当する場合には、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該測定日における抗CD26抗体の投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルである、方法。
【請求項2】
前記測定日が基準投与から1~30日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定日が基準投与から22~30日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定日が基準投与から2~8日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記患者が、2週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から22~30日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの65%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、2週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から29日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの62.3%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が男性である、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から2~8日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの49%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から15日目以降であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの30%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの26%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、6mg/kgの抗CD26抗体が投与される患者である、請求項8~請求項11に記載の方法。
【請求項13】
癌患者における抗CD26抗体による治療効果を予測する方法であって、
抗CD26抗体の基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較すること、及び
測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する方法であって、
ここで、前記測定日は基準投与日を1日目として基準投与から1~60日目であり、かつ、
該患者は少なくとも1回は基準投与として抗CD26抗体を投与される患者であり、かつ、
前記測定日が抗CD26抗体の投与日に該当する場合には、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該測定日における抗CD26抗体の投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルである、方法。
【請求項14】
前記測定日が基準投与から1~30日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記測定日が基準投与から22~30日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記測定日が基準投与から2~8日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記患者が、2週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から22~30日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの65%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が、2週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から29日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの62.3%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が男性である、請求項17又は請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が、週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から2~8日目であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの49%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記患者が、週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者であり、かつ、
前記測定日が基準投与から15日目以降であり、かつ、
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの30%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの26%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、6mg/kgの抗CD26抗体が投与される患者である、請求項20~請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記基準投与が初回投与である、請求項1~請求項24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が、0.1~6mg/kgの抗CD26抗体が投与される患者である、請求項1~請求項11及び請求項11~請求項19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記患者が、2週に1回、又は週に1回の頻度で抗CD26抗体が投与される患者である、請求項1~請求項4及び請求項13~請求項23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗CD26抗体がYS110である、請求項1~請求項27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
抗CD26抗体を有効成分として含有する癌治療用医薬組成物であって、
抗CD26抗体の基準投与日を1日目として、
基準投与から1~60日目の癌患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である患者に投与するための、医薬組成物。
【請求項30】
抗CD26抗体の基準投与から1~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
抗CD26抗体の基準投与から22~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
抗CD26抗体の基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項33】
2週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、
基準投与から22~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの65%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項34】
2週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、
基準投与から29日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの62.3%未満であるである患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項35】
男性に投与されるための、請求項33又は請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項36】
週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、
基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項37】
基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの49%未満である患者に投与するための、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
基準投与から15日目以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの30%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項39】
準投与から15日目以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの26%未満である患者に投与するための、請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
抗CD26抗体量として、6mg/kgで投与するための、請求項36~請求項39のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記基準投与が初回投与である、請求項29~請求項40のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項42】
抗CD26抗体量として、0.1~6mg/kgで投与するための、請求項29~請求項31のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
2週に1回、又は週に1回投与するための、請求項29~請求項42のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項44】
抗CD26抗体がYS110である、請求項29~請求項43のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項45】
癌が悪性中皮腫である、請求項1~請求項28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
癌が悪性中皮腫である、請求項29~請求項44のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗CD26抗体の奏効性を判定するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
CD26は、110kDaの、その細胞外ドメインにジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)活性を持つII型膜貫通糖タンパク質であり、N末端ジペプチドをL-プロリン又はL-アラニンで前末端位置(非特許文献1、2)において切断することができる。CD26は、複数の生物学的機能を有し、様々な正常細胞型及び腫瘍に発現する。CD26はまた、血清及び他の体液中に保存されたDPP4活性を有する可溶性形態として見出される。抗CD26モノクローナル抗体のインビトロ及びインビボ投与は、複数の作用機序を介して腫瘍の増殖、遊走、及び浸潤を阻止し、腎細胞癌(RCC)及び悪性中皮腫(MM)を含む種々の癌を接種したマウス異種移植モデルの生存期間を延ばす(非特許文献3-7)。
【0003】
最近、CD26を発現する固形腫瘍(MM23人、RCC9人、尿路上皮癌(UTC)1人)を対象としたYS110の第I相ファースト・イン・ヒューマン(FIH)臨床試験(FIH)が実施され(非特許文献8)、YS110療法が良好な安全性プロファイルを発揮し、進行性/難治性腫瘍患者の疾患コントロールを促進することが実証された。
【0004】
癌の治療において、治療効果を奏するかどうかを判定することは治療戦略において非常に重要である。固形がんの場合、例えば治療薬投与から4週間後にRECISTなどに基づき、その効果を確認することで当該固形がんにおいて効果を奏するか否かを判定している。しかし、より早く簡便な奏効性評価の方法として、バイオマーカーの利用が期待されている。癌管理におけるバイオマーカーは、予防、診断、及び治療法の選択、並びに潜在的に治療モニタリングのために使用され得る。EGFR又はALK融合遺伝子(肺癌)、HER2(乳癌又は胃癌)、又はRAS(結腸癌)などのマーカーは、選択された遺伝子変化を特定することによって最適な治療法を選択するために使用される。しかしながら、癌治療過程中の予測結果を示す血清バイオマーカーは、これまで特定されていない。
【0005】
可溶性CD26の血清レベルはこれまで可能性のあるバイオマーカーとして評価されてきた。尿路上皮癌、胃癌、膵癌、甲状腺癌、肺癌の患者では、ベースラインの血清可溶性CD26力価と治療の臨床的有効性との相関が報告されている(非特許文献9~14)。結腸癌手術後の血清可溶性CD26力価変動も、再発又は転移のリスクの予測バイオマーカーであることが報告された(非特許文献15~17)。さらに、糖尿病患者の大腸癌又は肺癌手術後のDPP4阻害剤シタグリプチンによる治療は、他の糖尿病治療薬による治療よりも全生存期間の延長と関連しており(非特許文献18)、可溶性CD26/DPP4が抗腫瘍活性の調節に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。しかし、治療経過中の血清可溶性CD26力価変動が、治療転帰の予後マーカーであるという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO02/14462号
【特許文献2】国際公開WO2007/014169号
【特許文献3】国際公開WO2008/114876号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ohnuma K, et al., Trends Immunol. 2008;29(6):295-301.
【非特許文献2】Ohnuma K, et al., Front Biosci (Landmark Ed). 2018;23:1754-79.
【非特許文献3】Ho L, et al., Clin Cancer Res. 2001;7(7):2031-40.
【非特許文献4】Inamoto T, et al., Clin Cancer Res. 2006;12(11 Pt 1):3470-7.
【非特許文献5】Inamoto T, et al., Clin Cancer Res. 2007;13(14):4191-200.
【非特許文献6】Yamamoto J, et al., Br J Cancer. 2014;110(9):2232-45.
【非特許文献7】Nishida H, et al., Blood Cancer J. 2018;8(11):99.
【非特許文献8】Angevin E, et al., Br J Cancer. 2017;116(9):1126-34.
【非特許文献9】Liang PI, et al., Oncotarget. 2017;8(2):2995-3008.
【非特許文献10】Boccardi V, et al., BMC Cancer. 2015;15:703.
【非特許文献11】Abooshahab R, et al., Exp Oncol. 2018;40(4):299-302.
【非特許文献12】Sanchez-Otero N, et al., Sci Rep. 2014;4:3999.
【非特許文献13】Ye C et al., Transl Cancer Res. 2016;5:512-519.
【非特許文献14】Enz N, et al., Pharmacol Ther. 2019;198:135-59.
【非特許文献15】De Chiara L, et al., PLoS One. 2014;9(9):e107470.
【非特許文献16】De Chiara L, et al., Dis Markers. 2020;2020:4347936.
【非特許文献17】Larrinaga G, et al., PLoS One. 2015;10(3):e0119436.
【非特許文献18】Ali A, et al., Mol Clin Oncol. 2019;10(1):118-24.
【発明の概要】
【0008】
CD26発現腫瘍患者を対象としたヒト化抗体YS110を用いた第I相FIH臨床試験において、血清可溶性CD26/DPP4力価の一過性の減少とその後の回復を、YS110投与の最初のサイクルの4週間の間に観察された。この研究では、可溶性CD26/DPP4力価の変動とRECIST基準による反応又は無増悪生存(PFS)により判定された有効性測定項目との間の相関を、計26人の評価可能な症例又は層別化した群で解析して、YS110治療に対する可能性のある予後バイオマーカーを特定した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】箱ひげ図解析によるYS110投与後の血清可溶性CD26レベルの変化を示す。各図は、ベースライン(1日目投与前、100%)から1、15、及び29日目のYS110投与前/後までの血清可溶性CD26力価変動を示した。解析したデータを(A)合計26例、(B)Q2W投与18例、(C)Q2W投与男性14例、(D)Q1W投与8例、(E)MM19例、(F)Q2W投与MM12例、(G)Q2W投与男性MM9例、(H)RCC6例に層別化した。データは各群の平均値±標準偏差で示す。
【
図2】血清可溶性CD26レベルとDPP4酵素活性との間の相関を示す。(A)血清可溶性CD26レベル(ng/ml)と血清DPP4酵素活性(μM/min)の間の相関を示す。(B)ベースラインからの血清可溶性CD26力価変動(%)と血清DPP4力価との相関ベースラインからの変動(%)を示す。両方とも非ゼロ相関によって調べた。
【
図3】散布図解析による血清可溶性CD26力価変動と腫瘍体積変動の間の関係を示す。合計25症例のYS110投与ベースライン(1日目投与前、100%)からの(A)1日目投与後、(B)15日目投与前、(C)15日目投与後、(D)29日目投与前、(E)29日目投与後における血清可溶性CD26力価の変動、及び43日目のRECIST反応基準による腫瘍体積変動を図にした。データをSD(灰色丸)コホートとPD(白丸)コホートに分けた。(F)Q2W投与17例、(G)Q2W投与男性14例、(H)MM18例、(I)Q2W投与MM11例、(J)MM、Q2W投与男性9例、(K)Q2W投与RCC6例の、29日目のYS110投与前の血清可溶性CD26力価のベースラインからの変動、及び43日目のRECIST反応基準による腫瘍体積変動を図にした。
【
図4】棒グラフ解析によるSDコホートとPDコホートとの間の血清可溶性CD26力価変動の差を示す。1日目、15日目、及び29日目のYS110投与前のベースライン(1日目投与前、100%)からの血清可溶性CD26力価変動のSDコホートとPDコホートとの間の違いを解析した。解析したデータを、(A)合計23例、(B)Q2W投与17例、(C)Q2W投与男性14例、(D)Q1W投与8例、(E)MM17例、(F)Q2W投与MM11例、(F)MM、Q2W投与男性9例、(H)Q2W投与RCC6例に層別化した。データは各群の平均値±標準偏差で示す。
【
図5】ヒト腫瘍及び非腫瘍細胞におけるCD26の細胞表面タンパク質発現を示す。示された悪性中皮腫細胞株(A)または非腫瘍細胞(B)は、PE標識マウスIgG1、κアイソタイプコントロール(BioLegend、クローンMOPC-21(i))またはPE標識マウス抗ヒトCD26 mAb(BD Biosciences、クローンM-A261(ii))で染色した。CD26の細胞表面発現をフローサイトメトリーによって分析した。2次元ドットプロット(横軸:CD26、縦軸:非染色)(上のパネル)およびCD26強度のヒストグラム(赤い線)および生細胞用にゲートされたアイソタイプコントロール(灰色の領域)(下のパネル)を示す。3回の独立した実験の代表的なプロットとヒストグラムが示され、各実験で同様の結果が得られた。この実験で使用された細胞株の中で、MSTO-CD26、JMNctrl-shRNA、H226、TIG-1、及びHDMVECの細胞表面にCD26が明確に発現した。一方で、MSTOの親株、JMN CD26-shRNA、MCF10A、HUVECではCD26はほとんど発現せず、MeT-5Aで部分的に発現した。
【
図6】YS110の添加は、CD26陽性腫瘍及び非腫瘍細胞からの可溶性CD26産生を低下させた。(A、B)MM細胞株(MSTO親、MSTO-CD26、JMNctrl-shRNA、JMNCD26-shRNA又はH226細胞(各3.5×104))(A)又は非腫瘍細胞(MCF10A(1.0×105)、HUVEC(9.0×104)、MeT-5A(6.0×104)、TIG-1(5.0×104)又はHDMVEC細胞(9.0×104))(B)を対照ヒトIgG(hIgG)又はヒト化抗CD26モノクローナル抗体YS110(各10μg/ml)と72時間インキュベートした。(C)MSTO-CD26又はTIG-1細胞を、指定濃度のYS110と共に3日間インキュベートした。(D)MSTO-CD26細胞を、指定濃度のYS110と共に1日間、3日間又は7日間インキュベートした。培養上清中の可溶性CD26濃度をELISA法により測定した。破線は検出限界(0.488ng/ml)、NDは「未検出」(検出限界未満)を示す。3つの独立した実験の代表的データを4サンプルの平均±SD(標準偏差)として示し、YS110とビヒクル又は対照ヒトIgG(*p<0.01)の値を比較したところ、各実験で同様の結果が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用する場合、「治療」は、有益な、または所望の臨床結果を得るためのアプローチである。本発明の目的において、有益な、または所望の臨床結果は、検出可能または検出不可能のいずれにせよ、1つ以上の症状の軽減、疾患の範囲の縮小、疾患の安定化した(すなわち、悪化していない)状態、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の回復または寛解、および緩解(部分的または全体)を含むが、これらに限定されるものではない。「治療」は、仮に治療を受けなかった場合の見込まれた余命に対して、余命を延ばすことも意味している。
【0011】
「有効量」は、臨床結果を含む有益なまたは所望の臨床結果を達成するのに十分な量である。有効量は、1回または複数回の投与で投与することができる。本発明の目的において、本明細書中に記載される医薬組成物の有効量は、腫瘍増殖に関連する状態の進行を遅延させるのに十分な量である。当該技術分野で理解されるように、例えば、医薬組成物の有効量は、とりわけ、患者病歴、ならびに使用される医薬組成物の種類(および/または量)などの他の要因に変動または依存してもよい。
【0012】
本発明の医薬組成物は医薬的に許容される担体を含んでいてもよい。本明細書で使用する場合、「医薬的に許容される担体」または「医薬的に許容される賦形剤」は、有効成分と組み合わせた場合に、その有効成分が生物活性を維持可能であり、送達された際に被験体の免疫系と非反応性であり、被験体に対して無毒性である任意の材料を含む。例として、リン酸緩衝食塩水、水、油/水エマルジョン等のエマルジョン、および様々な種類の湿潤剤などのあらゆる標準的な医薬の担体が含まれるが、これらに限定されるものではない。噴霧投与または非経口投与のための好ましい希釈剤は、リン酸緩衝食塩水または生理食塩水(0.9%)である。そのような担体を含む組成物は、よく知られている従来法により、処方される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、 18thedition、 A. Gennaro編、 Mack Publishing Co.、 Easton、 PA、 1990およびRemington、 The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing、 2000を参照のこと)。
【0013】
ある実施態様において、本明細書において用いられる「抗CD26抗体」は、ヒトCD26に特異的に結合する。ある実施態様において、本明細書において記載される抗CD26抗体は、YS110と同じエピトープに結合する。ある実施態様において、本明細書において記載される抗CD26抗体は、競合アッセイにおいて、YS110とCD26との結合を遮断する能力がある(YS110と競合する)。競合アッセイは、固定化したエピトープ又は抗原に対して被験抗体を接触させた後、未結合の抗体を洗浄により除去し、次いで、標識化したYS110抗体と該エピトープ又は抗原と接触させ、、未結合の抗体を洗浄により除去した後に結合したYS110抗体を検出することにより行うことができる。被験抗体と接触させていないコントロールへのYS110抗体とエピトープ又は抗原との結合と比較して、被験抗体を接触させた場合におけるYS110抗体とエピトープ又は抗原への結合が減少している場合には、競合アッセイにおいて、YS110抗体の結合を遮断する能力がある(YS110抗体と競合する)と判定することができる。
【0014】
本明細書において用いられる抗CD26抗体のヒトCD26への結合親和性としては、10-5M未満、5×10-5M未満、10-6M未満、5×10-7M未満、10-7M未満、5×10-8M未満、10-8M未満、5×10-9M未満、10-9M未満、5×10-10M未満、10-10M未満、5×10-11M未満または10-11M未満の解離定数(即ち、Kd)を有する親和性が挙げられる。解離定数はまた、10-15M以上、5×10-15M以上、10-14M以上、5×10-14M以上、10-13M以上、5×10-13M以上、10-12M以上、5×10-12M以上、10-11M以上、5×10-11M以上、10-10M以上または5×10-10M以上であってもよい。親和性を決定するための方法は、当該技術分野で知られている。例えば、結合親和性は、BIAcoreバイオセンサー、KinExAバイオセンサー、シンチレーション近接アッセイ、ELISA、ORIGEN免疫測定法(IGEN社)、蛍光消光、蛍光転移、および/または酵母ディスプレイを使用して決定してもよい。親和性は、適切なバイオアッセイを用いてスクリーニングされることもありうる。
【0015】
CD26に対する抗体の結合親和性を決定するための1つの方法は、抗体の単官能性Fab断片の親和性を測定することである。単官能性Fab断片を得るために、抗体、例えば、IgGは、パパインで切断されるか、または組換え技術によって発現させることができる。モノクローナル抗体の抗CD26Fab断片の親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)システム(BIAcore 3000(商標)、BIAcore社、Piscaway、NJ)により決定することができる。供給業者の取扱説明書に従って、SAチップ(ストレプトアビジン)は使用される。ビオチン化されたCD26を、HBS-EP(100mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005% P20)中に希釈し、0.005mg/mLの濃度でチップ上に注入することができる。個々のチップチャネルを横切る可変的な流動時間を使用して、抗原密度の2つの範囲が達成される:詳細な動力学的試験のためには10~20応答ユニット(RU)、濃度のためには500~600RU。Pierce溶出緩衝液および4M NaCl(2:1)の混合物は、結合したFabを効率的に除去する一方で、200回以上の注入に対してチップ上のCD26の活性を保つ。HBS-EP緩衝液は、ランニング緩衝液として全てのBIAcoreアッセイに使用することができる。精製したFab試料の階段希釈溶液(0.1~10×見積もられたKD)を100μL/分で2分間注入し、30分までの解離時間が通常許容される。Fabタンパク質の濃度は、既知濃度(アミノ酸分析により決定された)の標準的なFabを使用して、ELISAおよび/またはSDS-PAGE電気泳働により決定することができる。反応速度の結合速度(kon)および解離速度(koff)は、BIAevaluationプログラムを使用して、1:1 Langmuir結合モデルにデータをフィットさせることにより(Lofas & Johnsson、 1990)同時に得られる。平衡解離定数(KD)値はkoff/konとして算出される。
【0016】
本発明の組成物は、CD26発現に関連する状態(疾患または障害等)、例えば悪性中皮腫の治療に有用である。ある実施態様では、本発明の組成物は、1つ以上の次の特徴を有していてもよい:(a)CD26に結合する、(b)CD26活性を調節する、(c)G1/SチェックポイントでCD26+細胞の細胞周期を停止させる、(d)CD26を発現する細胞(例えば、悪性中皮腫)の増殖を阻害する、(e)CD26の細胞外マトリックスに対する結合を阻害する、および/または(f)CD26発現に関連する状態の治療に有用である。ある実施態様において、CD26の発現に関連する状態は、CD26の過剰発現に関連する疾患または障害である。ある実施態様においては、CD26の発現に関連する状態は、少なくとも部分的には、CD26により媒介されるものである。ある実施態様において、CD26の発現に関連する状態は、CD26が発現している細胞の増殖に関連する状態である。ある実施態様において、前記疾患または障害は、癌(例えば、悪性中皮腫、肺癌、腎臓癌、肝臓癌またはCD26の発現を伴うその他の悪性腫瘍)である。
【0017】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号8-14からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号1-7からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の両方を含む。ある実施態様では、本発明の医薬組成物が含有する抗CD26抗体は、配列番号8-14からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および配列番号1-7からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0018】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号1-14のうちいずれか1つのアミノ酸配列の少なくとも5個の連続するアミノ酸、少なくとも8個の連続するアミノ酸、少なくとも約10個の連続するアミノ酸、少なくとも約15個の連続するアミノ酸、少なくとも約20個の連続するアミノ酸、少なくとも約30個の連続するアミノ酸、または少なくとも約50個の連続するアミノ酸を含む。
【0019】
抗CD26抗体は、本明細書においてに記載されるようなされる抗体配列の断片であってもよく、少なくとも約50個のアミノ酸、少なくとも約75個のアミノ酸、または少なくとも約100個のアミノ酸の長さの断片を含む。
【0020】
配列番号:15
EVQLVX1SGX2X3X4X5QPGX6X7LRLX8CX9ASGX10X11LX12TYGVHWVRQAPGKGLEWX13GVIWGX14GRTDYDX15X16FMSRVTISX17DX18SKX19TX20YLQX21NSLRAEDTAVYYCX22RX23RHDWFDYWGQGTTVTVSS
【0021】
上記配列中、X1はEまたはQであり、X2はAまたはGであり、X3はGまたはEであり、X4はLまたはVであり、X5はV、K、またはEであり、X6はGまたはEであり、X7はTまたはSであり、X8はTまたはSであり、X9はTまたはKであり、X10はFまたはYであり、X11はSまたはTであり、X12はT、N、またはSであり、X13はVまたはM、X14はGまたはD、X15はAまたはSであり、X16はAまたはSであり、X17はKまたはRであり、X18はNまたはTであり、X19はSまたはNであり、X20はVまたはAであり、X21はMまたはLであり、X22はV、M、またはTであり、そしてX23はNまたはSである。
【0022】
配列番号16
XIIX2X3TQSPSSLSX4X5X6GX7RX8TIX9CX10ASQX11IRNX12LNWYQQKPGQAPRLLIYYSSNLXI3X14GVPX15RFSGSGSGTDFTLTISRLX16X17EDX18AX19YYCQQSX20KLPX21TFGSGTKVEIK
【0023】
上記配列中、X1はDまたはEであり、X2はLまたはEであり、X3はMまたはLであり、X4はAまたはVであり、X5はSまたはTであり、X6はL、P、またはAであり、X7はDまたはEであり、X8はVまたはAであり、X9はTまたはSであり、X10はSまたはRであり、X11はGまたはDであり、X12はSまたはNであり、X13はHまたはQであり、X14はSまたはTであり、X15はS、D、またはAであり、X16はEまたはQであり、X17はPまたはAであり、X18はFまたはVであり、X19はT、A、またはIであり、X20はIまたはNであり、そしてX21はFまたはLである。
【0024】
表1は、X376(配列番号:1)、X377(配列番号:2)、X378(配列番号:3)、X379(配列番号:4)、X380(配列番号:5)、X381(配列番号:6)、およびX394(配列番号:7)であるヒト化VL変異体のアミノ酸配列を示す。Kabat番号および配列番号を付したスキームは、軽鎖可変領域が一致する。
【0025】
表2は、X384(配列番号:8)、X385(配列番号:9)、X386(配列番号:10)、X387(配列番号:11)およびX388(配列番号:12)、X399(配列番号:13)およびX420(配列番号:14)であるヒト化VH変異体のアミノ酸配列を示す。配列番号およびKabat番号スキームの両方を示す。Kabat番号スキームは、82a、82b、および82cを含む。
【0026】
【0027】
【0028】
抗CD26抗体は、さらに、配列番号17またはそれらの断片もしくは変異体を含んでもよい。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号17を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、シグナル配列を除く配列番号17を含む(当業者は、ある実施態様において、抗体のシグナル配列が抗体から切断されるものであることを容易に理解するであろう)。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号17の可変領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は配列番号17に対して、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約98%の同一性を有する、抗体(またはそれらの断片)を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号17の断片であって、少なくとも約10アミノ酸、少なくとも約25アミノ酸、少なくとも約50アミノ酸、少なくとも約75アミノ酸、少なくとも約100アミノ酸の長さの断片を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトCD26に結合する。
【0029】
重鎖(配列番号17)
MEWSWVFLFFLSVTTGVHSEVQLVESGAGVKQPGGTLRLTCTASGFSLTTYGVHWVRQAPGKGLEWVGVIWGDGRTDYDAAFMSRVTISKDTSKSTVYLQMNSLRAEDTAVYYCMRNRHDWFDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0030】
抗CD26抗体は、さらに、配列番号18、またはそれらの断片もしくは変異体を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号18を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、シグナル配列を除く配列番号18を含む。(当業者は、ある実施態様において、抗体のシグナル配列が抗体から切断されるものであることを容易に理解するであろう。)ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号18の可変領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は配列番号18に対して、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約98%の同一性を有する、抗体(またはそれらの断片)を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号18の断片であって、少なくとも約10アミノ酸、少なくとも約25アミノ酸、少なくとも約50アミノ酸、少なくとも約75アミノ酸、少なくとも約100アミノ酸の長さの断片を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、配列番号18、またはそのフラグメントもしくは変異体をさらに含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトCD26に結合する。例えば、ある実施態様において、抗CD26抗体は、それぞれがシグナル配列の無い配列番号17を含む少なくとも1本の重鎖(例えば、2本の重鎖)、およびそれぞれがシグナル配列の無い配列番号18を含む少なくとも1本の軽鎖(例えば、2本の軽鎖)を含む抗体である。
【0031】
軽鎖(配列番号18)
MSVPTQVLGLLLLWLTDARCDILLTQSPSSLSATPGERATITCRASQGIRNNLNWYQQKPGQAPRLLIYYSSNLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISRLQPEDVAAYYCQQSIKLPFTFGSGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0032】
本明細書において、ヒト化抗CD26抗体である「YS110」とは、重鎖定常領域が配列番号17に記載されたアミノ酸配列からなり、軽鎖定常領域が配列番号18に記載されたアミノ酸配列からなる抗体を意味する。YS110は悪性腫瘍細胞膜上のCD26と結合すると細胞内に取り込まれ、さらに核内にまで移行することが報告されている(Yamada K et al、Plos One、2013 Apr 29;8(4):e62304)。より具体的には、YS110はCaveolin依存性のendocytosisにより細胞質内に取り込まれ、early endocytic vesiclesによって核内に輸送されると考えられる。即ち、本発明の抗CD26抗体は、悪性腫瘍細胞膜上のCD26と結合すると細胞内に取り込まれ、さらに核内にまで移行する抗体であってもよい。抗体が悪性腫瘍細胞膜上のCD26と結合すると細胞内に取り込まれ、さらに核内にまで移行するか否かは、標識化した抗体と細胞を接触させた後、標識を基に抗体が存在する位置を顕微鏡等を用いて検出し、当該位置と細胞内の組織との位置関係を決定することにより行うことができる。
【0033】
別の側面において、抗CD26抗体は、YSLRWISDHEYLY(配列番号19;ペプチド6)、LEYNYVKQWRHSY(配列番号20;ペプチド35)、TWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55)、LWWSPNGTFLAYA(配列番号22;ペプチド84)、RISLQWLRRIQNY(配列番号23;ペプチド132)、YVKQWRHSYTASY(配列番号24;ペプチド37)、EEEVFSAYSALWW(配列番号25;ペプチド79)、DYSISPDGQFILL(配列番号26;ペプチド29)、SISPDGQFILLEY(配列番号27;ペプチド30)、およびIYVKIEPNLPSYR(配列番号28;ペプチド63)からなる群から選択される1つ以上のペプチドに結合する。ある実施態様において、抗CD26抗体は、前記ペプチドの1つ以上に特異的に結合する。これらのペプチドは、ヒトCD26の領域である。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトCD26の他の領域に対応する1つ以上のペプチドと比べて、YSLRWISDHEYLY(配列番号19;ペプチド6)、LEYNYVKQWRHSY(配列番号20;ペプチド35)、TWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55)、LWWSPNGTFLAYA(配列番号22;ペプチド84)、RISLQWLRRIQNY(配列番号23;ペプチド132)、YVKQWRHSYTASY(配列番号24;ペプチド37)、EEEVFSAYSALWW(配列番号25;ペプチド79)、DYSISPDGQFILL(配列番号26;ペプチド29)、SISPDGQFILLEY(配列番号27;ペプチド30)、およびIYVKIEPNLPSYR(配列番号28;ペプチド63)からなる群から選択される、1つ以上のペプチドに特異的に結合する。
【0034】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、次のそれぞれのペプチドに結合する:YSLRWISDHEYLY(配列番号19;ペプチド6);LEYNYVKQWRHSY(配列番号20;ペプチド35);TWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55);LWWSPNGTFLAYA(配列番号22;ペプチド84);およびRISLQWLRRIQNY(配列番号23;ペプチド132)に結合する。ある他の実施態様において、抗CD26抗体は、次のそれぞれのペプチド:YSLRWISDHEYLY(配列番号19;ペプチド6);TWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55);RISLQWLRRIQNY(配列番号23;ペプチド132);YVKQWRHSYTASY(配列番号24;ペプチド37);およびEEEVFSAYSALWW(配列番号25;ペプチド79)。ある実施態様において、抗CD26抗体は、次のそれぞれのペプチドに結合する:DYSISPDGQFILL(配列番号26;ペプチド29);SISPDGQFILLEY(配列番号27;ペプチド30);およびTWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55)。ある他の実施態様において、抗CD26抗体は、次のそれぞれのペプチドに結合する:DYSISPDGQFILL(配列番号26;ペプチド29);SISPDGQFILLEY(配列番号27;ペプチド30);TWSPVGHKLAYVW(配列番号21;ペプチド55);およびIYVKIEPNLPSYR(配列番号28;ペプチド63)。
【0035】
競合アッセイを用いて、2つの抗体が同一または立体的に重複するエピトープを認識することにより同じエピトープに結合するかどうか決定することができる。通常、抗原は、マルチウェルプレート上に固定され、非標識抗体が標識抗体の結合を遮断する性能が測定される。そのような競合アッセイのための一般的な標識は、放射性標識または酵素標識である。さらに、当業者に知られているエピトープマッピング技術を用いることにより、抗体が結合するエピトープを決定することができる。
【0036】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、1つ以上の定常領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトの定常領域を含む。ある実施態様において、定常領域は、重鎖の定常領域である。別の実施態様においては、定常領域は、軽鎖の定常領域である。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトの定常領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または100%の同一性を有する定常領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、Fc領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトのFc領域を含む。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトのFc領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または100%の同一性を有するFc領域を含む。
【0037】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、IgG抗体である。ある実施態様において、抗CD26抗体は、IgG1抗体である。別の実施態様において、抗CD26抗体は、IgG2抗体である。ある実施態様において、抗CD26抗体は、ヒトIgG抗体である。
【0038】
抗CD26抗体は、単量体、二量体、および多量体の形態の抗体であってよい。例えば、二重特異性抗体、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体は、本明細書において開示された抗体を使用して調製することができる(例えば、Sureshら、 Methods in Enzymology、 1986、 121、 210参照のこと)。従来より、二重特異性抗体の組換え生産は、異なる特異性を有する2つの重鎖を含む、2組の免疫グロブリンの重鎖-軽鎖ペアの共発現に基づいていた(Millstein、Cuello、 Nature、 1983、 305、 537-539)。
【0039】
二重特異性抗体を作製するための1つのアプローチによれば、所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体‐抗原結合部位)は、免疫グロブリンの定常領域に融合している。好ましくは、前記融合部分は、少なくともヒンジ部、CH2およびCH3領域の部分を含む、免疫グロブリンの重鎖定常領域を伴う。軽鎖の結合に必須な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を少なくとも1つの融合部分に有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNAおよび所望の場合には免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々発現ベクターに挿入され、適切な宿主生物に同時形質移入される。構築において使用される3つの抗体鎖の不等比が最適収量を提供する実施態様において、これら3つの抗体の相互比(mutual proportion)を高い柔軟性で調製することが可能になる。少なくとも2つの抗体の等比での発現が高収率をもたらすか、または比率が特に重要ではない場合には、1つの発現ベクターに2つまたは3つ全ての抗体のコード配列を挿入してもよい。
【0040】
1つのアプローチとして、一方のアームの第1の結合特異性を有するハイブリッド型免疫グロブリン重鎖、ならびに他方のアームのハイブリッド型重鎖-軽鎖ペア(第2の結合特異性を有する)から構成される二重特異性抗体が挙げられる。この非対称の構造(二重特異性抗体分子の半分の部分だけに免疫グロブリン軽鎖を有する)により、所望でない免疫グロブリン鎖の組み合わせから所望の二重特異性化合物を分離することが容易になる。このアプローチは、1994年3月3日に公開された国際公開公報第94/04690号に記載されている。
【0041】
2つの共有結合した抗体を含む、ヘテロ結合抗体もまた、抗CD26抗体の範囲内である。このような抗体は、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせるため(米国特許第4、676、980号)、またはHIV感染の治療のために使用されている(国際公開公報第91/00、360号および第92/200、373号;欧州特許第03089号)。ヘテロ結合抗体は、任意の好都合な架橋法を使用して作製されてもよい。適切な架橋剤および架橋技術は、当該技術分野でよく知られており、米国特許第4、676、980号に記載されている。
【0042】
「抗CD26抗体」の用語は、抗CD26抗体の抗原結合性断片を含み得る。例えば、ある実施態様において、抗体は、Fab、Fab’、Fab’‐SH、Fv、scFv、およびF(ab’)2からなる群から選択される。ある実施態様において、抗体は、Fabである。様々な技術が抗体断片の生産のために開発されている。これらの断片は、完全体の抗体のタンパク質消化を介して得ることができ(例えば、Morimotoら、 1992、 J. Biochem. Biophys. Methods 24:107-117およびBrennanら、 1985、 Science 229:81を参照のこと)、または組換宿主細胞により直接生産することもできる。例えば、Fab’‐SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させることによってF(ab’)2断片を形成することができる(Carterら、 1992、 Bio/Technology 10:163-167)。別の実施態様において、F(ab’)2は、F(ab’)2分子の組み立てを促進するロイシンジッパーGCN4を使用して形成される。他のアプローチによれば、Fv、Fab、またはF(ab’)2の断片は、組換え宿主細胞培養から直接単離される。
【0043】
ある実施態様において、抗CD26抗体は、その一本鎖(ScFv)、変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、diabody、線状抗体、一本鎖抗体、および任意の他の修飾された立体配置の免疫グロブリン分子である。
【0044】
一本鎖可変領域断片は、短い連結ペプチドを使用して、軽鎖および/または重鎖可変領域を連結することにより作製される。Birdら(1988) Science 242:423-426。連結ペプチドの例は、一方の可変領域のカルボキシ末端および他方の可変領域のアミノ末端との間約3.5nmを架橋する、(GGGGS)3(配列番号29)である。他の配列のリンカーも設計および使用されている。Birdら(1988)。リンカーは、次に薬物の固定または固体担体に対する固定などの付加的機能のために修飾することができる。一本鎖変異体は、組換技術または合成技術のいずれによっても生産することができる。scFvを合成技術で生産する場合には、自動合成機を使用することができる。scFvを組換え技術で生産する場合には、scFvをコードするポリヌクレオチドを含む適切なプラスミドを、適切な宿主細胞、酵母(yeast)細胞、植物細胞、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞などの真核生物、または大腸菌などの原核生物に導入することができる。目的のscFvをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのライゲーションなどのルーチン操作により作製することができる。その結果生じるscFvは、当該技術分野で知られている標準的なタンパク質精製技術を使用して単離することができる。
【0045】
diabodyなどの他の形態の一本鎖抗体もまた抗CD26抗体に包含される。diabodyは、VHドメインおよびVLドメインが単一の抗体鎖上で発現する二価の二重特異性抗体であるが、同一鎖上でこれら2つのドメインが対形成するのには短すぎるリンカーを使用しており、そのために、強制的に、これらのドメインは、別の鎖の相補的なドメインと対形成せざるを得ず、2つの抗原結合部位が作り出される(例えば、Holliger、 P.ら(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448;Poljak、 R. J.ら(1994) Structure 2:1121-1123を参照のこと)。
【0046】
抗CD26抗体は、本明細書中に記載される抗体に対する修飾を包含するが、このような修飾の例としては、該抗体の特性に著しく影響を与えない、機能的に等価な抗体および増強もしくは減弱された活性を有する変異体が挙げられる。抗体の修飾は、当該技術分野においてルーチン操作であり、本明細書中に詳細に記載される必要はない。修飾された抗体の例は、アミノ酸残基の保存的置換、著しく機能活性を悪化させない1以上のアミノ酸の欠失もしくは付加、または化学的類似体の使用を伴う抗体を含む。
【0047】
アミノ酸配列の挿入または付加は、長さが1個の残基から100個以上の残基を含む抗体までのアミノ末端および/またはカルボキシル末端での融合ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内の挿入を含む。末端の挿入の例は、N末端メチオニル残基を有する抗体またはエピトープタグに融合した抗体を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体のN末端またはC末端への、抗体の血清半減期を延長させる酵素もしくは抗体の融合を含む。
【0048】
抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、(a)例えばシートもしくはヘリックスコンホメーションなどの、置換領域における抗体主鎖の構造、(b)標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の容積の維持に対する修飾の効果を著しく変化させる置換を選択することにより達成される。天然状態で存在する残基は、一般的な側鎖特性に基づく次のグループに分類される:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:Asn、Gln、His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;および
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0049】
抗体の適切な立体構造を維持するのに関与しない任意のシステイン残基を置換することにより(通常はセリンと置換)、分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋形成を妨ぐことができる。反対に、特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合、システイン結合を抗体に付加することにより、抗体の安定性を向上させることができる。
【0050】
アミノ酸修飾は、1つ以上のアミノ酸の変化または修飾から可変領域等の領域の完全な再設計にわたる。可変領域における変化は、結合親和性および/または特異性を変化させることができる。ある実施態様において、1~5個以下の保存的なアミノ酸置換がCDRドメイン内でなされる。他の実施態様において、1~3個以下の保存的アミノ酸置換がCDR3ドメイン内でなされる。さらなる別の実施態様において、CDRドメインはCDRH3および/またはCDR L3である。
【0051】
モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein、 1975、 Nature 256:495により記載されているような、ハイブリドーマ法を使用して調製してもよい。ハイブリドーマ法において、マウス、ハムスター、または他の適切な宿主動物は、通常、免疫剤で免疫することにより、該免疫剤に特異的に結合する抗体を生産するか、または生産可能なリンパ球が誘発される。あるいは、リンパ球はin vitroで免疫してもよい。
【0052】
モノクローナル抗体(および他の抗体)もまた、米国特許第4、816、567号に記載されるような、組換えDNA法により作製されてもよい。モノクローナル抗体をコードするDNAは、モノクローナル抗体の重鎖もしくは軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブの使用といった、従来方法を使用して単離および配列決定がなされる。単離後に、DNAは発現ベクターに組み込まれ、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、または該発現ベクターが導入されない限り免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクションされることにより、該組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成が達成される。
【0053】
抗体の生産に有用な様々なタンパク質発現系、ベクター、および細胞培地は、当業者に知られている。例えば、以下を参照:国際公開公報第03/054172号、第04/009823号、および第03/064630号(これらの全文は参照によって本明細書中に組み込まれる)。ある実施態様において、グルタミン合成酵素(GS)発現系は、抗CD26抗体の発現に使用される。
【0054】
抗CD26抗体は、好ましくはヒト化抗体である。治療抗体は、投与された抗体に対する免疫応答を誘発することが部分的な原因となって、副作用をしばしば誘発する。その結果、薬効の低下、標的抗原を有する細胞の減少、および望ましくない炎症反応が起こりうる。上記を回避するために、組換え抗CD26ヒト化抗体を作製してもよい。抗体のヒト化の一般原理は、抗体の抗原結合部分の基本的な配列を維持すること含み、一方、抗体の非ヒト残部の少なくとも一部分をヒト抗体配列と交換することを含む。モノクローナル抗体をヒト化するための4つの従来からの一般的なステップは、(1)出発抗体の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインのヌクレオチド配列ならびに推定アミノ酸配列を決定すること、(2)ヒト化抗体を設計する、つまり、ヒト化する工程において、いずれの抗体フレームワーク領域もしくは残基および/またはCDR残基を使用するのかを決定すること、(3)実際のヒト化する方法論/技術、ならびに(4)ヒト化抗体のトランスフェクションおよび発現を含むが、これらに限定されるものではない。抗体がヒトにおける臨床試験および治療において使用される場合、免疫応答を回避するために、定常領域も組換え技術によってヒト定常領域により近づけることができる。例えば、米国特許第5、997、867号および第5、866、692号を参照のこと。
【0055】
組換えヒト化抗体において、Fcγ部分を修飾することにより、Fcγ受容体および補体免疫系との相互作用を回避することができる。そのような抗体の調製技術は、国際公開公報第99/58572号に記載される。
【0056】
非ヒト免疫グロブリン由来の抗原結合部位を含む、多くの「ヒト化」抗体分子が報告されており、それらの例としては、げっ歯類V領域とそれらに関連した相補性決定領域(CDR)とがヒト定常ドメインに融合したものが挙げられる。例えば、Winterら、Nature 349:293-299(1991) ; Lobuglioら、Proc. Nat. Acad. ScI USA 86:4220-4224(1989); Shawら、J Immunol. 138:4534-4538(1987);およびBrownら、Cancer Res. 47:3577-3583(1987)を参照のこと。他の参考文献には、適切なヒト抗体定常ドメインとの融合前にヒト支持フレームワーク領域(FR)に組み込まれたげっ歯類CDRが記載されている。例えば、Riechmannら、Nature 332:323-327(1988); Verhoeyenら、Science 239:1534-1536(1988);およびJonesら、Nature 321 :522-525(1986)参照のこと。もう1つの参考文献には、組換えベニアリングされたげっ歯類フレームワーク領域に支持されたげっ歯類CDRが記載されている。例えば、欧州特許公開第519、596号を参照のこと。これらの種類の「ヒト化」分子は、ヒト移植患者におけるそれらの部分の治療適用の期間および有効性を制限するげっ歯類抗ヒト抗体分子に対する不要な免疫学的応答を最小限にするために設計されている。他の利用可能な抗体のヒト化方法は、Daughertyら、Nucl. Acids Res.、 19:2471-2476(1991)ならびに米国特許第6、180、 377号;第6、054、297号;第5、997、867号;第5、866、692号;第6、210、671号;第6、350、861号;および国際公開公報第01/27160号中に開示されている。
【0057】
抗体をヒト化するさらなる例示的な方法は、国際公開公報第02/084277号および米国特許公開公報第2004/0、133、357号中に記載され、それら両方の全文が本明細書中に参照により組み込まれる。
【0058】
更に、抗CD26抗体は、水溶性のポリマー部分と結合していてもよい。抗CD26抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシ‐PEG、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール等と結合していてもよい。抗CD26抗体は、分子上の無作為な位置、または分子上の予め決定した位置で修飾してもよく、そして1つ、2つ、または3つ以上の結合部分を含んでいてもよい。前記ポリマーは、任意の分子量であってもよく、分枝状または非分枝状のものであってもよい。ある実施態様において、前記部分は、リンカーを介して抗体に結合される。ある実施態様において、前記結合部分は、動物体内での抗体の循環半減期を増加させる。抗体に対するPEGなどのポリマーの結合方法は、当該技術分野でよく知られている。ある実施態様において、抗CD26抗体はPEG化された抗体などのPEG化された抗体である。また、前記抗CD26抗体は、更に異なる化学療法剤、放射性核種、免疫療法剤、サイトカイン、ケモカイン、造影剤、毒素、生物学的作用剤、酵素阻害剤、または抗体などの他の薬剤と結合していてもよい。
【0059】
本明細書における医薬組成物は、上述の抗CD26抗体を有効成分として含有する悪性中皮腫治療用医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、抗CD26抗体を有効成分として含有する癌治療用医薬組成物であって、抗CD26抗体の基準投与日を1日目として、基準投与から1~60日目の悪性中皮腫患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である患者に投与するための、医薬組成物。抗CD26抗体の基準投与から1~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である患者に投与するための、請求項29に記載の医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、抗CD26抗体の基準投与から22~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの60%未満である患者に投与するための、医薬組成物;抗CD26抗体の基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満である患者に投与するための医薬組成物;2週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、基準投与から22~30日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの65%以下である患者に投与するための医薬組成物;2週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、基準投与から29日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの62.3%以下であるである患者に投与するための医薬組成物;男性に投与されるための医薬組成物;週に1回投与されるための医薬組成物であり、かつ、
基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%以下である患者に投与するための医薬組成物;基準投与から2~8日目の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの49%以下である患者に投与するための医薬組成物;基準投与から15日目以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの30%以下である患者に投与するための医薬組成物;基準投与から15日目以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの26%以下である患者に投与するための医薬組成物;抗CD26抗体量として、6mg/kgで投与するための医薬組成物;前記基準投与が初回投与である医薬組成物;抗CD26抗体量として、0.1~6mg/kgで投与するための医薬組成物;2週に1回、又は週に1回投与するための医薬組成物;抗CD26抗体がYS110である
医薬組成物とすることができる。
【0060】
本明細書において、「癌」は、例えば、悪性中皮腫、肺癌、腎臓癌、肝臓癌またはCD26の発現を伴うその他の悪性腫瘍であってもよい。
【0061】
本明細書中に記載された方法(治療方法を含む)は、単一部位あるいは複数部位への単一の時点あるいは複数の時点における単回直接注射によってなされてもよい。投与はまた、複数部位へほぼ同時に行ってもよい。投与頻度は、治療過程の上で決定および調整され、達成が望まれる結果に基づく。場合によっては、本発明の医薬組成物、および医薬組成物の徐放持続製剤が適切であり得る。徐放を達成するための様々な製剤や装置は、当該分野で周知である。
【0062】
治療又は予防対象はヒトである。
【0063】
医薬組成物は、好ましくは、担体(好ましくは医薬的に許容される担体)に含まれた状態で哺乳動物に投与される。適切な担体およびそれらの製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、A.Gennaro編、 Mack Publishing Co.、 Easton、 PA、 1990年およびRemington、 The Science and Practice of Pharmacy 第20版 Mack Publishing、 2000年に記載されている。通常、適切量の医薬的に許容される塩が製剤に用いることにより該製剤に等張性を有することになる。担体の例としては、生理食塩水、リンガー溶液およびデキストロース溶液が挙げられる。これらの溶液のpHは、好ましくは約5~約8、より好ましくは約7~約7.5である。更に、担体としては、抗体を含有する固体の疎水性ポリマー製の半透性マトリクスなどの徐放製剤が挙げられ、そのマトリクスは、例えば、フィルム、リポソームまたはマイクロ粒子などの造形品の形態にある。例えば、投与される抗体の投与経路および濃度に依存して、ある異種の担体がより好ましくなる場合があることは、当業者には明らかであろう。
【0064】
医薬組成物は、哺乳動物に注射(例えば、全身、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、門脈内)によって投与されてもよく、または有効な形態での血流への送達を確実にするその他の方法(例えば、注入)によって投与されてもよい。医薬組成物は、局所で治療効果を得るために、組織内単離灌流などの単離灌流法でも投与してもよい。静脈注射が好ましい。
【0065】
本発明の医薬組成物を投与するための有効用量およびスケジュールは、経験的に決定され、そのような決定方法は当該技術分野の技術常識の範囲内である。例えば、週に1回を5回投与、又は2週に1回を3回投与することができる。当業者であれば、投与すべき医薬組成物の用量が、例えば、医薬組成物を接種する哺乳動物、投与経路、使用する抗体の具体的な種類および前記哺乳動物に投与される他の薬剤に依存して変わることを理解するであろう。単独で使用される医薬組成物1日当たりの典型的な投与量は、前述の要素にもよるが、1日当たり有効成分量として、約1μg/体重kgから100mg/体重kgまたはそれ以上までの範囲であってもよい。一般に、以下のいずれの投与量が使用されてもよい:少なくとも約50mg/体重kg;少なくとも約10mg/体重kg;少なくとも約3mg/体重kg;少なくとも約1mg/体重kg;少なくとも約750μg/体重kg;少なくとも約500μg/体重kg;少なくとも約250μg/体重kg;少なくとも約100μg/体重kg;少なくとも約50μg/体重kg;少なくとも約10μg/体重kg;少なくとも約1μg/体重kgの投与量、またはこれを上回るの投与量が投与される。好ましくは、前記抗CD26抗体の量として、0.1~2mg/kgで2週に1回で3回投与されるか、又は、2~6mg/kgで週に1回で5回投与される。
【0066】
本発明の方法は、抗CD26抗体投与により、血清中の可溶性CD26のレベルがよりする患者において、より抗腫瘍効果が高いことに基づくものである。すなわち、本発明の方法は、抗CD26抗体の投与前の癌患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、投与から1日後以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較することにより、抗CD26抗体の奏効性を予測することができることを利用するものである。すなわち、本発明の方法は、少なくとも1回の抗CD26抗体の被検者への投与が必要である。このような、投与開始前後の血清中の可溶性CD26のレベルを比較する基準となる抗CD26抗体の投与を基準投与という。基準投与は好ましくは当該患者における初回投与であるが、当該患者において必ずしも初めて受ける投与である必要は無い。例えば、過去に抗CD26抗体の糖を世受けた患者が、直近の投与を受けた後、任意の期間経過後に改めて抗CD26抗体を投与される場合に、当該投与を基準投与としてもよい。比較の基準(100%)となる抗CD26抗体の投与前の癌患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該基準投与の前に測定される。本発明の方法において、基準とすべき抗CD26抗体投与の前に測定された該患者の血清中の可溶性CD26のレベル(基準レベル)を「基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベル」という。基準レベル(100%)に対する比較対象となる、基準投与から1日目以降の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、「測定日における該患者の血清中の可溶性CD26のレベル」という。ここで、基準投与から1日目以降とは、基準投与を1日目として計算される日数である。このような比較対象となる該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを測定する日を測定日という。測定日までに受ける抗CD26抗体の投与は、基準投与の1回のみであってもよいし、複数回であってもよい。例えば、抗CD26抗体が週に1回投与される場合、8日目、15日目、22日目、29日目・・・において抗CD26抗体が投与される。測定日が1~8日目(投与前)の場合には、基準投与のみであるが、8日目(投与後)以降は2回以上の投与を受けていることになる。測定日が投与日である場合、該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの測定は、投与の前、又は投与の後とすることができる。また、抗CD26抗体は、抗CD26抗体を有効成分として含有する医薬組成物として、上述の医薬組成物の投与に準じて投与される。
【0067】
よって、一態様において、本発明は、抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性のある癌患者を選択する方法であって、抗CD26抗体の基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、測定日における該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較すること、及び測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である場合、当該患者は抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択される方法であって、ここで、前記測定日は基準投与日を1日目として1~60日目であり、かつ、該患者は少なくとも1回は基準投与として抗CD26抗体を投与される患者であり、かつ、前記測定日が抗CD26抗体の投与日に該当する場合には、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該測定日における抗CD26抗体の投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルである、方法。に関する。
【0068】
本明細書において、「基準投与」とは、当該投与前の患者の血清中の可溶性CD26のレベルを基準として、投与後の患者の血清中の可溶性CD26のレベルが低下したか否かを判定するための投与を意味し、当該患者にとって初回投与である必要は無い。ただし、通常は薬剤の奏効性は治療開始の初期に行われることから、好ましくは、基準投与は初回投与である。
【0069】
本明細書全体において、「レベル」とは、数値化された存在量に関する指標を意味し、例えば、濃度、量あるいはその代わりとして用いることができる指標を含む。よって、レベルは蛍光強度等の測定値そのものであってもよいし、濃度等に換算された値であってもよい。また、レベルは、絶対的な数値(存在量、単位面積当たりの存在量など)であっても良いし、又は必要に応じて設定された比較対照と比較した相対的な数値(割合(%)、倍数など)であってもよい。
【0070】
別の態様において、本発明は、癌患者における抗CD26抗体による治療効果を予測する方法であって、抗CD26抗体の基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルと、測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを比較すること、及び測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%未満である場合、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測する方法であって、ここで、前記測定日は基準投与日を1日目として基準投与から1~60日目であり、かつ、該患者は少なくとも1回は基準投与として抗CD26抗体を投与される患者であり、かつ、前記測定日が抗CD26抗体の投与日に該当する場合には、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルは、当該測定日における抗CD26抗体の投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルである、方法に関する。
【0071】
上記方法において、「測定日」は、基準投与日を1日目として1~60日目とすることができ、例えば、1~30日目、2~8日目、2~15日目、2~21日目、2~29日目、8~15日目、8~21日目、8~29日目、15~22日目、15~29日目、又は22~29日目、あるいは、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,若しくは29日又はこれらの任意の二点の間の期間に含まれる日とすることができる。
【0072】
本発明の方法において、抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性がある、又は、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると判定されるケースは、測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの85%、80%、75%、70%、65%、62.3%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、26%、若しくは25%未満である場合、とすることができる。
【0073】
好ましくは、週に1回の頻度で6mg/kgの抗CD26抗体が投与された場合において、測定日が基準投与から2~8日目であり、かつ、該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの50%未満(又は49%未満)である場合、抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性がある、又は、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると判定される。
【0074】
あるいは、好ましくは、週に1回の頻度で6mg/kgの抗CD26抗体が投与された場合において、測定日が基準投与から15日目以降(例えば、15~22日目、15~29日目、又は22~29日目)であり、かつ、 該測定日の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルが、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルの30%未満(又は、26%未満)である場合、抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性がある、又は、当該患者において抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると判定される。
【0075】
以上に記載された方法は、更に、抗CD26抗体を患者に投与すること、基準投与前の該患者の血清を採取すること、及び基準投与から上述に指定の期間後の該患者の血清を採取すること、並びに、基準投与前の該患者の血清中の可溶性CD26を測定すること、及び、基準投与後の該患者の血清中の可溶性CD26を測定することから選択される任意の工程を含んでいてもよい。可溶性CD26の測定は、ELISAキットなどの市販キットを用いて、又は当業者周知の方法により測定することができる。
【0076】
また、一態様において、本発明は、抗CD26抗体の投与前の癌患者の血清中の可溶性CD26のレベル、及び前記投与から1~60日目(好ましくは、5~45日目、15~30日目、25~30日目)の該患者の血清中の可溶性CD26のレベルを測定する方法に関する。
【0077】
また、本明細書に記載された方法において、可溶性CD26のレベル(またはその測定)は、DPPIV活性(またはその測定)と置き換えてもよい。DPPIV活性は、市販のキットを使用することにより測定することができる。
【0078】
更に、本発明の方法は、前記方法により抗CD26抗体により治療効果が得られる可能性があるとして選択された患者、又はて抗CD26抗体が治療効果がある可能性があると予測された患者に、抗CD26抗体を有効成分として含有する悪性中皮腫治療用医薬組成物を投与することを含んでいてもよい。
【0079】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0080】
(1)ヒト被験者
FIH第I相臨床試験において、YS110が投与された33人の患者(MM23人、RCC9人、UTC1人)が安全性解析の対象とされ、33人中26人(MM19人、RCC6人、UTC1人)が治療有効性を評価された(Angevin E, et al., Br J Cancer. 2017;116(9):1126-34.)。最大耐量を決定するために、患者は最初にYS110注入を、0.1、0.4、1、及び2mg/kgで、1、15、及び29日目(2週間に1回、Q2W)に合計3回受けた。予備的薬物動態データに基づいて、その後プロトコルを改訂し、患者が1、8、15、22、及び29日目に合計5回のYS110注入(毎週1回、Q1W)を2、4、及び6mg/kgで受けられるようにした。33人の患者の中で、26人の患者(Q2Wコホート18例、Q1Wコホート8例)が、RECIST基準又はPFSモニタリングにより、YS110が仲介する抗腫瘍活性に関して評価可能であった。ベースラインからの腫瘍体積変動が、MMに対する修正RECIST基準、又はRCC又はUTCに対するRECIST1.0基準により、29日目のYS110投与の第1のサイクル完了から2週間後の43±4.2日目に評価された(Angevin E, et al.(2017)上掲)。血清可溶性CD26/DPP4力価が、1、15、及び29日目のYS110投与の直前及び直後に測定された。
【0081】
(2)統計解析
箱ひげ図解析を用いて、1、15、及び29日目のYS110注入前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価変動を観察した。安定疾患(SD)と進行性疾患(PD)症例について層別化した散布図解析を用いて、1、15、及び29日目のYS110投与前/後の血清可溶性CD26力価の変動と、43日目のベースラインからの腫瘍体積変動との間の関係を観察した。これら2つの観察解析には、PPMC解析又はSRDC解析を使用して、ベースラインからの1日目及び29日目のYS110投与前/後の血清可溶性CD26力価変動と、43日目のRECIST基準による腫瘍体積変動との間の潜在的相関性の統計学的調査を行った。ピアソンの積率相関/スピアマンの順位差相関(PPMC/SRDC)解析に基づき、1日目のYS110投与前(ベースライン、100%)、15日目のYS110投与前及び29日目のYS110投与前におけるSD症例及びPD症例により層別化した血清可溶性CD26/DPP4力価変動の棒グラフ解析を行って、ウィルコクソンの順位和検定で血清可溶性CD26/DPP4変動と、43日目のRECIST基準によるSD症例又はPD症例の発生率との間の相関性を調べた。PPMC/SRDC及び棒グラフ解析の結果に基づき、ROC解析を用いて、フィッシャーの正確確率検定で、RECIST基準によるSDの結果とPFS≧90日又は≧180日について、ベースラインからの血清可溶性CD26力価変動のインデックス(カットオフ価)を調べた。SD症例とPD症例の間の背景因子の差は、ROC解析の前にフィッシャーの正確確率検定又はウィルコクソンの順位和検定により検査した。
【0082】
(3)細胞株及び培養物
ヒトMM細胞株MSTO-211H(MSTO親)とNCI-H226は、American Type Culture Collection(ATCC、メリーランド州ロックビル)から入手した。MSTO親細胞は、全長ヒトCD26(MSTO-CD26)で安定的にトランスフェクトした(Yamamoto J, et al., Br J Cancer. 2014;110(9):2232-45.)。ヒトMM細胞株JMN細胞をショートヘアピンRNA(shRNA)発現レンチウイルスで形質導入し、安定細胞株JMNCD26-shRNAとJMNctrl-shRNAを生成した(Yamazaki H, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2012;419(3):529-36.)。非腫瘍ヒト細胞には、不死化胸膜中皮細胞株MeT-5A、乳房上皮細胞株MCF10A、胎児肺線維芽細胞株TIG-1、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、及びヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMVEC)を用いた。MeT-5AとMCF10AはATCCから、TIG-1はJCRB細胞バンク(日本、大阪)から入手した。HUVEC、HDMVEC、及びMCF10A、HUVEC、HDMVEC用の培地(それぞれMEGM、EGM-2、EGM-2MV)を、LONZA(メリーランド州ウォーカーズビル)から購入した。MSTO親、MSTO-CD26、JMNctrl-shRNA、JMNCD26-shRNA、H226、及びMeT-5Aは、10%FBSを添加したRPMI1640培地中で増殖させた。TIG-1は、10%FBSを添加したDMEM培地中で増殖させた。全細胞を37℃の加湿5%CO2インキュベーター中で培養した。
【0083】
(4)抗体及び試薬
ヒト化抗CD26モノクローナル抗体YS110は、Y’s AC Co.,Ltd.(日本、東京)から提供された。BioLegend(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入したヒトIgG1イソタイプ対照モノクローナル抗体(クローンQA16A12)を対照として使用した。
【0084】
(5)培養上清の調製
細胞を、24ウェルプレート(Corning)中の500μlの培地中、対照ヒトIgG又はYS110の存在下又は非存在下で、3日間、37℃で培養した。時間経過解析のために、MSTO-CD26(1.5×105、4×104、又は4×103)を、24ウェルプレートの500μlのRPMI1640培地中で、YS110(1、3、10μg/mL)の存在下又は非存在下で、37℃でそれぞれ、1、3、又は7日間培養した。インキュベーション後、上清をコンフルエント培養物から収集した。
【0085】
(6)可溶性CD26及びDPP4酵素活性の定量化
治療用ヒト化抗CD26モノクローナル抗体YS110と交差反応性を示さないマウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体(クローン5F8及び9C11)を用いて、可溶性CD26及びDPP4活性用のアッセイを我々の研究室で開発した。関連する実験方法は以前に詳述されている(Ohnuma K, et al., J Clin Lab Anal. 2015;29(2):106-11.)。データは、複数比較試験のためにテューキーの一方向ANOVA検定により解析した。有意性は、GraphPad Prism 6(GraphPadSoftware、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて解析した。p<0.01の値は有意であると考え、対応する図及び図の説明に示す。
【0086】
(7)YS110投与前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価の変化(箱ひげ図に示す)
この第I相試験は、以下のようないくつかの重要なパラメータを含む。1)腫瘍の組織型:MM19例、RCC6例、UTC1例;2)YS110投与量:0.1~6mg/kg;3)投与頻度:18例において2週に1回(Q2W)で3投与、8例において週に1回(Q1W)で5投与加えて、SD症例とPD症例との間の背景因子の試験では、性別を除き、年齢、BMI、腫瘍体積の絶対値、又はYS110投与前の血清可溶性CD26/DPP4力価にバイアスがないことが示された(データは非図示)。表3及び表4に示されるように、男性患者(MMでSD4例とPD7例、RCCでSD2例とPD3例)とは対照的に、YS110は女性患者(MMでSD6例とPD2例、RCCでSD1例、UTCでPD1例)においてより効果があるように思われた。
【0087】
【0088】
【0089】
各抗体用量コホートにおける症例数が統計解析に十分ではなかったため、本研究では、合計26症例を1)腫瘍組織及び2)薬剤投与頻度に従ってさらに分類し、血清可溶性CD26力価変動がYS110治療の予後バイオマーカーになり得るか否かを検討した(これらの26症例についての詳細な情報は、表3を参照)。
【0090】
最初に、箱ひげ図解析により、各群におけるYS110治療中の血清可溶性CD26力価変動を調べた。血清可溶性CD26力価は、1、15、29日目のYS110投与直後に一貫して低下し、次のYS110注入まで徐々に回復したが、以前の投与前レベル(
図1A)には戻らなかった。このパターンは、Q2W薬投与スケジュールで治療した18例(
図1B)で同様に観察された。対照的に、Q1Wスケジュールで治療した8例では明らかな差が観察された。表3に示されるように、Q2W症例(0.1~2mg/kg)と比較して、Q1W症例では比較的高用量(2~6mg/kg)の抗体が投与された。抗体用量と投与頻度のこれらの違いは、15日目と29日目の投与前血清可溶性CD26力価に大きく影響した(
図1D)。YS110投与後の血清可溶性CD26力価の回復は、薬物投与頻度がより高いQ1W症例では明確ではなかった。Q2W投与は男性14例、女性4例、Q1W投与は男性2例、女性6例であった(表4)。Q2W投与とQ1W投与の男性症例とQ2W投与とQ1W投与の女性症例との間の分布バイアスは有意であった(フィッシャーの正確確率検定によるp=0.026)。さらに、Q1Wコホートの症例数(8例)は、追加の統計解析には不十分であった。従って、我々は主に、追加解析のためにQ2W症例と男性症例に焦点を当てた。血清可溶性CD26力価の最初の低下とその後の回復は、Q2W投与の男性14例、Q2W投与のMM12例、及びQ2W投与の男性MM9例を含む上記コホートへの群の更なる層別(
図1C、F及びG)を含め、MM19例及びRCC6例の両方で同様に観察された(
図1E及びH)。
図2に示されるように、血清可溶性CD26力価の絶対値又は力価変動は、血清DPP4酵素活性のレベルと強い相関関係があった(r=0.908、p<0.001又はr=0.974、p<0.001)。YS110は、DPP4酵素活性を直接阻害しないため(Y’s Therapeutics Inc. USA IND. 2008;100657:Section 8, 8.2.1.5:289.)、YS110投与後の血清DPP4酵素活性の低下は、血清可溶性CD26タンパク質レベルの低下によるものである。
【0091】
(8)散布図解析によるSDコホート及びPDコホートの29日目の投与前の血清可溶性CD26/DPP4力価変動及び43日目の腫瘍体積変動の差
次に、YS110投与開始後の散布図解析により、SDコホート及びPDコホートにより層別化した計25例に対し、1、15、及び29日目の投与前/後血清可溶性CD26力価変動と、43日目の腫瘍体積変動との間の潜在的関係を調べた。SD群の腫瘍体積変動は、PD群よりも当然低いと予想される。血清可溶性CD26力価は、1、15、及び29日目のYS110注入直後、SDコホート及びPDコホートの両方で顕著に減少した(
図3A、C、及びE)。一方、血清可溶性CD26力価変動におけるSD群とPD群との間の顕著な差異は、29日目の注入前に観察された。SDコホートの29日目の注入前の血清可溶性CD26力価変動は、PD群と比較して低レベルであった(
図3D)。さらに、この現象は、Q2W投与の17例、Q2W投与の男性14例、MM18例、Q2W投与のMM11例、Q2W投与の男性MM9例、又はRCC6例(それぞれ
図3Ff~K)のような各層別化群で明確に観察された。これらの散布図解析が示すように、YS110投与前に測定したとき、SDコホートの血清可溶性CD26力価変動は、PD例より低く、この差はQ2W29日目投与前で特に明らかである。
【0092】
(9)PPMC/SRDC解析による29日目の投与前/後血清可溶性CD26/DPP4力価変動と腫瘍体積変動及び/又はPFSとの相関
PPMC解析及びSRDC解析を行って、1、15及び29日目の投与前/後血清可溶性CD26抗体価の変動と、YS110投与後43日目にRECIST基準により判定される腫瘍体積変動又はPFSとの相関を調べた。FIH第I相臨床試験において、RECISTにより、13例がSDと判定され、13例がPDと判定され、13のSD症例のうち、7例にYS110が特に有効であり、PFSが180日を超えた(表5)。
【0093】
【0094】
合計25例において、29日目の投与前血清可溶性CD26力価変動と、43日目の腫瘍体積変動との間に統計的に有意な相関が認められた(PPMC/SRDCにより、p=0.006又はp=0.009(表5))。血清可溶性CD26力価変動とPFSとの間にも統計学的に有意な相関がみられた(計26例で、PPMCによる29日目投与後のp=0.011、(表5))。加えて、DPP4酵素活性の血清力価変動と腫瘍体積又はPFSの間にも、血清可溶性CD26力価の場合と同様に、統計学的に有意な相関があった(表5)。29日目の投与前血清可溶性CD26/DPP4力価と腫瘍体積との間、及び29日目の投与前及び/又は投与後血清可溶性CD26/DPP4力価とPFSとの間には、Q2W投与頻度の18例とQ2W投与頻度の男性14例において、同様に統計学的に有意な相関が認められた(表6及び表7)。
【0095】
【0096】
【0097】
MM19例では、SRDC解析により、29日目の投与前/後の血清DPP4力価変動と腫瘍体積との間に統計学的に有意な相関が観察され、PPMC解析により、29日目投与前血清可溶性CD26力価と腫瘍容量の間の相関はほぼ統計学的に有意に達した(p=0.065)。PPMC解析による29日目投与後血清可溶性CD26力価とPFSとの間に統計学的に有意な相関があり、29日目投与後血清DPP4力価とPFSとの間の相関はほぼ統計学的に有意に達した(PPMC解析ではp=0.056、SRDC解析ではp=0.069)(表8)。
【0098】
【0099】
Q2W投与頻度のMM12例では、血清可溶性CD26/DPP4力価の変動と腫瘍体積との間には、統計学的に有意な相関は認められなかった。29日目の投与後血清可溶性CD26/DPP4力価とPFSとの間の相関は、統計学的有意に達した(表9)。
【0100】
【0101】
Q2W投与で治療した男性MM9例では、血清可溶性CD26/DPP4力価と腫瘍体積との間の変動に有意差は観察されなかったが、29日目投与前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価とPFSとの間には相関傾向があった(表10)。
【0102】
【0103】
Q2W及びQ1W投与で治療したRCC6例及び8例では、症例数がPPMC/SRDC統計解析に十分ではなかった。以上より、29日目投与前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価(3回目のYS110投与前/後)と腫瘍体積又はPFSとの間の変動には相関関係が認められた。層別化した各コホートでの症例数は限られていたものの、特に18例及びQ2W投与で治療した男性14例で統計学的有意差が認められたことは重要であると考える。
【0104】
(10)棒グラフ解析による、SDコホートの29日目投与前血清可溶性CD26/DPP4力価(PDコホートより有意に低い)
散乱図及びPPMC/SRDC検査に基づいて、SD症例及びPD症例における1、15、及び29日目の投与前血清可溶性CD26力価変動の棒グラフ解析を行った。全23例(12例のSD及び11例のPD)で、SDコホート及びPDコホートの血清可溶性CD26力価は、投与前1日目から投与前29日まで減少した。注目すべきことに、SD症例の29日目投与前血清可溶性CD26力価変動は、PD症例より有意に低かった(p=0.016)(
図4A)。同様の結果が、Q2W投与で治療した17例(p=0.007)、MM17例(p=0.068)、Q2W投与で治療したMM11例(p=0.068)、Q2W投与で治療した男性MM9例(p=0.020)、又はRCC6例(p=0.049)(
図4B及びE~H)のような各層化群で観察された。最小p値を有するSDコホートとPDコホートとの間の統計学的有意差は、Q2W投与で治療した男性14例で観察された(p=0.003)(
図4C)。Q1W投与で治療した8例では、SD症例の血清可溶性CD26力価変動はPD症例より低く、15日目の3回目YS110投与前に統計的有意性に向かった(p=0.053)。このタイミングは、Q2W治療スケジュールで29日目の投与前血清可溶性CD26力価を評価する同じサンプル収集タイミングを表す(
図4D)。
【0105】
(11)層別化群におけるROC解析によるSD又はPFSの結果に及ぼす血清可溶性CD26/DPP4力価変動の予測能力
ROC解析を採用して、SD及びPFS≧90日又は≧180日の結果に関して、29日目のYS110投与前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価変動のカットオフ力価(インデックス)を調べた。確率は、フィッシャーの正確確率検定(表11)で評価した。
【0106】
【0107】
計23症例を調査して、SD及びPFS≧90日又は≧180日の結果に関するインデックス(46.4%又は18.2%)を検討した結果、統計的に有意な結果(SDについてはp=0.003、PFSについては0.005又は0.003、曲線下面積(AUC)はそれぞれ0.795、0.697又は0.759)が認められた(表11;列の合計)。Q2W(17例又は18例)、Q2W、男性(14例)、MM(17例又は18例)、MM、Q2W(11例又は12例)、MM、Q2W、男性(9例)の列に関しては、結果の各列のインデックスが統計的に有意である、又は有意な傾向があると判断された。特に、Q2W、男性(14例)の列では、結果SDについての29日目YS110投与前のインデックス37.7%は、統計的に有意であった(p<0.001、AUC1.000)。また、結果PFS≧90日又は≧180日についてのインデックス37.7%は、統計的に有意であった(p<0.001又はp=0.027、AUCはそれぞれ0.950又は0.879)。総合すれば、YS110治療過程での血清可溶性CD26/DPP4力価変動に関する我々の解析により、血清可溶性CD26/DPP4力価変動は、特にQ2W投与スケジュールの29日目の3回目のYS110注入の直前/直後の時点で、YS110抗腫瘍療法の潜在的予後バイオマーカーであることが実証された。
【0108】
(12)ヒト化抗CD26モノクローナル抗体の添加による、CD26発現MM細胞株及び非腫瘍細胞の培養上清中の可溶性CD26レベルの低下
第I相試験において、CD26発現腫瘍患者において、YS110治療後に可溶性CD26の血清中濃度が顕著に低下したため(
図1)、我々は、MM細胞株からの可溶性CD26産生に及ぼすYS110のインビトロ作用について調査した。この目的のために、我々は、様々なヒトCD26陽性又は陰性MM細胞株を選択した。MSTO親は、内因性ヒトCD26欠損細胞株であったが、MSTO-CD26は完全長ヒトCD26を安定的に発現した。内因性ヒトCD26陽性細胞株であるJMNにおけるCD26の安定したshRNAノックダウンは、JMNctrl-shRNA細胞と比較して、CD26発現を著しく低下させた(Yamazaki H, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2012;419(3):529-36.)。MM細胞株におけるCD26の細胞表面発現は、
図5に示した。最初に、CD26陽性又は陰性細胞の3日間培養からの培養上清に含まれる可溶性CD26の量を測定した。可溶性CD26はCD26陽性MSTO-CD26、JMNctrl-shRNA、及びH226細胞の培養上清中で定量することができたが、YS110治療に関係なく、可溶性CD26はCD26陰性MSTO親及びJMNCD26-shRNA細胞の培養上清中では検出できなかった(
図6A)。YS110による治療は、MSTO-CD26、JMNctrl-shRNA及びH226細胞の培養上清中の可溶性CD26の量を、ビヒクル又は対照ヒトIgG(
図6A)とインキュベートされた細胞と比較して明らかに減少させた。次に、非腫瘍(正常)細胞からの可溶性CD26の産生を調べた。CD26はHDMVECとTIG-1の細胞表面に明確に発現したが、CD26はHUVECとMCF10Aではほとんど発現せず、MeT-5Aで部分的に発現した(
図5B)。可溶性CD26はCD26陽性TIG-1及びHDMVEC細胞の培養上清で定量できたが、可溶性CD26はCD26陰性又は低MCF10A、HUVECとMeT-5A細胞(
図6B)の培養上清では検出できなかった。
図6Aに示された結果と同様に、YS110治療は、ビヒクル又は対照ヒトIgGとインキュベートされた細胞と比較して、TIG-1及びHDMVEC細胞の培養上清中の可溶性CD26の量を明らかに減少させた(
図6B)。YS110による治療は、MSTO-CD26とTIG-1細胞の両方からの可溶性CD26の産生を用量に依存して減少させた(
図6C)。その後の時間経過解析は、MSTO-CD26細胞の3日間培養の上清中の可溶性CD26レベルがMSTO-CD26細胞の1日間培養と比較してわずかに増加し、増加した可溶性CD26レベルがMSTO-CD26細胞の7日間培養の上清中で観察されることを示した(
図6D)。YS110治療後の可溶性CD26レベルの減少は、どの培養期間においても一貫して観察された。まとめると、これらのデータは、可溶性CD26がCD26陽性腫瘍細胞と非腫瘍細胞の両方から産生され、YS110の添加が抗体用量に依存してこれらの細胞からの可溶性CD26産生を減少させたことを示す。我々は、これらのインビトロ効果が、YS110投与後のCD26発現腫瘍患者の血清中可溶性CD26レベルの顕著な低下に反映されると考える。
【0109】
同様の実験を、週に1回6mg/kg投与することにより行った。その結果、Day2の時点におけるYS110投与前/後の血清可溶性CD26/DPP4力価は、初回(Day1、以下同様)投与前のCD26/DPP4力価を100%とすると、SDは48.64%、PDは55.46%であった(p=0.026)。また、Day15pre(投与前)の血清可溶性CD26/DPP4力価は、初回投与前のCD26/DPP4力価を100%とすると、SDは25.51%、PDは33.47%であった。また、Day29pre(投与前)の血清可溶性CD26/DPP4力価は、初回投与前のCD26/DPP4力価を100%とすると、SDは25.10%、PDは31.74%であった。また、Day15post(投与後)の血清可溶性CD26/DPP4力価は、初回投与前のCD26/DPP4力価を100%とすると、SDは24.06%、PDは30.56%であった。また、Day29post(投与後)の血清可溶性CD26/DPP4力価は、初回投与前のCD26/DPP4力価を100%とすると、SDは25.64%、PDは30.93%であった。
【0110】
本研究において、血清可溶性CD26/DPP4力価変動とRECIST反応基準による腫瘍容積変動との間の関係についての散布図解析で、YS110治療の経過中の予測可能期間が、SD症例とPD症例を区別するために使用できることが示唆された。この予測可能期間は、Q2W治療スケジュールにおける29日目のYS110投与3回目の前/後であり、結果はPPMC/SRDC解析及び棒グラフ解析により統計学的に有意であることがわかった。ROC解析は、29日目投与前/後血清可溶性CD26/DPP4力価変動のカットオフ力価を、SD又は90又は180日より長いPFSの症例の結果に対するインデックスとして規定し、得られたインデックスの下で有意に実行可能な予測を生じた。特に、Q2Wスケジュールで治療した男性14例のROC解析は、p<0.001(表11)のカットオフ値を規定した。同様の結果が、Q2W投与スケジュールで治療した男性MM9例(表11)で得られた。結果は層別化群の症例数が少ないにもかかわらず統計的に有意であり、これは、血清可溶性CD26/DPP4力価変動がYS110で治療した癌患者に対する決定的な予後バイオマーカーであることを強く示唆するものである。Q2Wスケジュールの状況とは異なり、Q1Wスケジュールで治療した症例では、症例数が解析に十分ではなかった。しかしながら、29日目投与前ではなく15日目投与前の血清可溶性CD26力価変動は、
図4Dに示されるように、統計的有意性に向かう傾向(p=0.053)で、PD症例とSD症例とを区別するために用いることができた。これらのデータは、薬剤投与頻度と投与量(YS110用量レベル2、4、6mg/kgでQ1W)の増加が、血清可溶性CD26力価測定の最適タイミングに影響し、この最適タイミングは、YS110の投与頻度及び/又は投与量に依存して変化する可能性があることを示唆する。
【0111】
我々のロバストなインビトロ及びインビボデータが示すように、YS110は、さらにS/G1期での細胞周期停止の誘導を介してその直接抗腫瘍効果を誘導することに加えて(Inamoto T, et al., Clin Cancer Res. 2007;13(14):4191-200.、Hayashi M, et al., Cancer Cell Int. 2016;16:35.)、抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)を介してMM細胞の細胞溶解を誘導した。もう一つのYS110の重要な作用機序は、RNAポリメラーゼIIの構成成分であるPOLR2A遺伝子の発現の抑制を介してMM細胞の増殖を阻害するための、細胞表面からのCD26-YS110複合体のインターナリゼーションによる、CD26分子の核移行であった。しかしながら、ヒト胎児腎HEK293細胞や正常Tリンパ球などのCD26発現非腫瘍性細胞では、CD26-YS110複合体は核内に移行しなかった(Yamada K, et al., PLoS One. 2013;8(4):e62304.、Hayashi M, et al., Cancers (Basel). 2019;11(8):1138.)。さらに、CD26-抗体複合体のインターナリゼーションは、特異的モノクローナル抗体によって認識されるCD26のエピトープに依存していた。CD26のインターナリゼーションは、マウス抗ヒトCD26モノクローナル抗体5F8で処理したMM細胞の細胞表面からは観察されず、YS110によって認識されるものとは異なるCD26のエピトープを認識し、抗腫瘍活性を示さなかった(Yamada K, et al., PLoS One. 2013;8(4):e62304.、Hatano R, et al., Diagn Pathol. 2014;9:30.)。
【0112】
CD26の残基201~211、730、及び740は、CD26/DPPIVポケット構造を構成する残基630のセリン触媒部位と共に、DPP4酵素活性に必須である[26]。対照的に、YS110は、触媒部位とは異なるCD26の248~358番目のaa領域を認識し(Hatano R, et al.,(2014)上掲、Dong RP, et al., Mol Immunol. 1998;35(1):13-11 21.)、YS110の結合はDPP4酵素活性に直接影響しない(Y’s Therapeutics Inc. USA IND. 2008;100657:Section 8, 8.2.1.5:289.)。我々の今回のデータは、YS110治療が、CD26発現MM細胞株及び非腫瘍細胞の両方からの可溶性CD26の産生を低下させることを示した(
図6)。CD26の可溶性型は39番目のaa残基から始まり、細胞質及び膜貫通領域を欠くが(Iwaki-Egawa S, et al., J Biochem.14 1998;124(2):428-33.)、可溶性CD26の産生及び細胞表面からの放出に関与する正確な機序はまだ完全には解明されていない。YS110治療後の可溶性CD26産生の低下は、細胞表面CD26分子の抗体介在性インターナリゼーションによる可能性がある(Yamada K, et al.,(2013)上掲)。YS110を用いた第I相臨床試験において、1日目のYS110投与直後の可溶性CD26の血清中濃度(1日目投与後)は、YS110投与前の血清中濃度(1日目投与前)に比べて著しく低下した(
図1)。食細胞による可溶性CD26-YS110複合体のFc受容体介在貪食は、おそらくYS110投与後の血清可溶性CD26の急速な減少に関与している可能性がある。本研究で我々は、YS110投与後の血清可溶性CD26/DPP4力価の持続した低レベルがPD症例と比較してSD症例で共通して観察されるが、SD症例とPD症例との間でYS110投与直後の血清可溶性CD26/DPP4レベル(1日目投与後、15日目投与後、29日目投与後)に有意差はないことを実証した(
図1及び
図3)。
【0113】
本結果は、ヒト化抗CD26抗体YS110による治療の初期段階における血清可溶性CD26/DPP4力価変動が、MMを含むCD26+癌患者に対する抗腫瘍活性の予測バイオマーカーである可能性があることを示す最初の知見である。
【配列表】