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特開2022-146804リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、スラリー組成物、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、スラリー組成物、及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146804
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、スラリー組成物、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220928BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/525
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047969
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】飯野 準也
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 錬
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA12
5H050EA14
5H050EA23
5H050FA04
5H050FA18
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA11
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】エネルギー密度を高くしたような場合であっても、安全性を確保しつつ、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、絶縁層を備えるリチウムイオン二次電池用電極を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用電極10は、正極活物質層11と、正極活物質層11の表面上に設けられる絶縁層12とを備え、絶縁層12が、絶縁性微粒子と、絶縁層用バインダーとを含む。絶縁層12の空隙率が41~60%であり、かつ絶縁層12の表面12Aの二乗平均平方根高さ(Sq)が3.0μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、絶縁性微粒子及びバインダーを含有し、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備え、
前記絶縁層の空隙率が41~60%であり、かつ前記絶縁層の表面の二乗平均平方根高さ(Sq)が3.0μm以下である、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記絶縁層における前記絶縁性微粒子の含有量が、前記絶縁性微粒子と前記バインダーの合計100質量部に対して、80~99質量部である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記絶縁層が、フッ素系界面活性剤、及び重量平均分子量10,000~40,000のポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(A)をさらに含む請求項1又2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記添加剤(A)の含有量が、前記絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部である請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
前記バインダーが、重量平均分子量が40,000より大きく400,000以下であるポリビニルブチラール樹脂である請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
前記絶縁性微粒子が無機粒子である請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
前記絶縁層の厚みが3~7μmである請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項9】
前記正極活物質層が、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有する請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項10】
前記絶縁層が設けられている前記正極活物質層の表面の表面粗さ(Ra)が、0.5~1.5μmである請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項12】
絶縁性微粒子と、バインダーと、フッ素系界面活性剤及び重量平均分子量10,000~40,000のポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(A)とを含有し、
前記添加剤(A)の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部であるスラリー組成物。
【請求項13】
前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項12に記載のスラリー組成物。
【請求項14】
前記バインダーが、重量平均分子量が40,000より大きく400,000以下であるポリビニルブチラール樹脂である請求項12又は13に記載のスラリー組成物。
【請求項15】
前記絶縁性微粒子の含有量が、前記絶縁性微粒子と前記バインダーの合計100質量部に対して、80~99質量部である請求項12~14のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【請求項16】
前記絶縁性微粒子が無機粒子である請求項12~15のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【請求項17】
有機溶剤をさらに含む請求項12~16のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【請求項18】
固形分濃度が10~60質量%である請求項12~17のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【請求項19】
正極活物質層と、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
請求項12~18のいずれか1項に記載のスラリー組成物によって、前記絶縁層を形成する、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層を備えるリチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、スラリー組成物、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電力貯蔵用の大型定置用電源、電気自動車用等の電源として利用されており、近年では電池の小型化及び薄型化の研究が進展している。リチウムイオン二次電池は、金属箔の表面に正極活物質層を形成した両電極と、両電極の間に配置されるセパレータを備えるものが一般的である。セパレータは、両電極間の短絡防止や電解液を保持する役割を果たす。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池は、セパレータが収縮したときなどでも、良好な短絡抑制機能を持たせるために、例えば、正極活物質層の表面に多孔質の絶縁層が設けられることが検討されている。絶縁層は、例えば、特許文献1に開示されるように、絶縁性微粒子、バインダー及び溶媒を含む絶縁層用スラリーを、正極活物質層の上に塗布し、乾燥することで形成することが知られている。絶縁層は、サイクル特性や出力特性などを向上させる観点から、一定値以上の空隙率を有することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2016/104782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度を更に高めることが求められており、例えば、NCM523、NCM622などのニッケル含有率が高い正極活物質が使用されることが検討されている。しかし、エネルギー密度を高くするための正極活物質を使用する場合、従来の絶縁層の設計で絶縁層を設けても、正極活物質層で酸化反応が起こるなどして劣化が進み、安全性などの各種性能が十分に担保できないことがある。
【0006】
そこで、本発明は、エネルギー密度を高くしたような場合であっても、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極、及びスラリー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、正極活物質層上に設けた絶縁層の空隙率及び表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を所定の範囲内とすること、さらには、特定の配合のスラリー組成物を使用することで上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
[1] 正極活物質層と、絶縁性微粒子及びバインダーを含有し、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備え、
前記絶縁層の空隙率が41~60%であり、かつ前記絶縁層の表面の二乗平均平方根高さ(Sq)が3.0μm以下である、リチウムイオン二次電池用電極。
[2]前記絶縁層における前記絶縁性微粒子の含有量が、前記絶縁性微粒子と前記バインダーの合計100質量部に対して、80~99質量部である上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[3]前記絶縁層が、フッ素系界面活性剤、及び重量平均分子量10,000~40,000のポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(A)をさらに含む上記[1]又[2]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[4]前記添加剤(A)の含有量が、前記絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部である上記[3]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[5]前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[6]前記バインダーが、重量平均分子量が40,000より大きく400,000以下であるポリビニルブチラール樹脂である上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[7]前記絶縁性微粒子が無機粒子である上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[8]前記絶縁層の厚みが3~7μmである上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[9]前記正極活物質層が、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有する上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[10]前記絶縁層が設けられている前記正極活物質層の表面の表面粗さ(Ra)が、0.5~1.5μmである上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[11]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを備える、リチウムイオン二次電池。
[12]絶縁性微粒子と、バインダーと、フッ素系界面活性剤及び重量平均分子量10,000~40,000のポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(A)とを含有し、
前記添加剤(A)の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部であるスラリー組成物。
[13]前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である上記[12]に記載のスラリー組成物。
[14]前記バインダーが、重量平均分子量が40,000より大きく400,000以下であるポリビニルブチラール樹脂である上記[12]又は[13]に記載のスラリー組成物。
[15]前記絶縁性微粒子の含有量が、前記絶縁性微粒子と前記バインダーの合計100質量部に対して、80~99質量部である上記[12]~[14]のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
[16]前記絶縁性微粒子が無機粒子である上記[12]~[15]のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
[17]有機溶剤をさらに含む上記[12]~[16]のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
[18]固形分濃度が10~60質量%である上記[12]~[17]のいずれか1項に記載のスラリー組成物。
[19]正極活物質層と、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
上記[12]~[18]のいずれか1項に記載のスラリー組成物によって、前記絶縁層を形成する、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エネルギー密度を高くしたような場合であっても、安全性を確保しつつ、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極、及びスラリー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池用電極の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウムイオン二次電池用電極>
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用電極について詳細に説明する。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池用電極(以下、単に「電極」ということがある)10は、正極活物質層11と、正極活物質層11の表面11A上に設けられる絶縁層12とを備える。電極10において、正極活物質層11は、通常、正極集電体13の上に積層されている。また、電極10は、リチウムイオン二次電池において正極を構成する。
正極活物質層11は、正極集電体13の両表面に積層されてもよく、その場合、絶縁層12は各正極活物質層11の表面11A上に設けられるとよい。このように、絶縁層12を電極10の両面に設けると、負極及び正極を複数積層して多層構造とした場合でも、各正極と各負極の間の短絡を有効に防止できる。
【0011】
[絶縁層]
絶縁層12は、絶縁性微粒子と、バインダーとを含む。絶縁層12は、空隙率が41~60%であり、かつ絶縁層12の表面12Aの二乗平均平方根高さ(Sq)が3.0μm以下である。電極10は、絶縁層の空隙率及び二乗平均平方根高さ(Sq)が上記範囲内とすることで、エネルギー密度を高くしたような場合であっても、安全性を確保しつつ、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる。
【0012】
一方で、空隙率が41%未満となると、電極集中を十分に抑制することができず、サイク特性などを十分に向上させることができない。また、空隙率が60%より高くなると絶縁層が緻密にならずに、正極活物質層の劣化が進行して、サイクル特性、出力特性が低下したり、絶縁層の強度が低下して安全性が低下したりする。
安全性、サイクル特性、及び出力特性の観点から、空隙率は、42~58%が好ましく、43~56%がより好ましく、44~55%がさらに好ましい。
【0013】
また、二乗平均平方根高さ(Sq)は、絶縁層表面の粗さを示す指標となるものである。Sqが小さくなると、粗さを小さくしつつ粗さのバラつきも抑えられ、正極と負極間の距離を短くできる。一方で、二乗平均平方根高さ(Sq)は、3.0μmより大きくなると、正極と負極間の距離を十分に短くすることができず、出力特性が十分に向上しなかったり、安全性が低下したりすることがある。これら観点から、二乗平均平方根高さ(Sq)は、2.8μm以下が好ましく、2.6μm以下がより好ましく、2.3μm以下がさらに好ましい。二乗平均平方根高さ(Sq)は、下限に関しては特に限定されず、0μm以上であればよいが、実用的には例えば0.1μm以上でもよいし、0.5μm以上でもよい。
【0014】
なお、二乗平均平方根高さ(Sq)は、非接触レーザー表面分析機を用いて300μm×300μm視野において測定するとよい。二乗平均平方根高さ(Sq)は、高さ関数Z(x,y)に対する二乗平均平方根である。また、空隙率は、二乗平均平方根高さ(Sq)の測定視野の画像において、絶縁性微粒子で被覆されている部分の面積の割合を求めて、その面積割合を充填率(%)とし、充填率(%)を100(%)から引くことで算出できる。被覆されている部分の面積の測定は、画像解析ソフト(「Image J」など)を用いて行ってもよい。
【0015】
絶縁層の厚みは、好ましくは3~7μmである。厚みを3μm以上とすることで、絶縁層によって正極活物質層を緻密に被覆することができ安全性が向上する。また、7μm以下とすることで、電極における体積あたり活物質重量が大きくなり、エネルギー密度を向上させることができる。これら観点から、絶縁層の厚みは、3~6μmがより好ましく、3~5μmがさらに好ましい。
【0016】
(絶縁性微粒子)
絶縁性微粒子は、絶縁性であれば特に限定されず、有機粒子、無機粒子の何れであってもよい。具体的な有機粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋スチレン-アクリル酸共重合体、架橋アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸リチウム)、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の有機化合物から構成される粒子が挙げられる。無機粒子としては二酸化ケイ素などの酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ベーマイト、チタニア、ジルコニア、窒化ホウ素、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、クレイ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機化合物から構成される粒子が挙げられる。また、無機粒子は、ニオブ-タンタル複合酸化物、マグネシウム-タンタル複合酸化物等の公知の複合酸化物から構成される粒子であってもよい。また、絶縁性微粒子は、無機化合物と有機化合物の両方を含む複合微粒子であってもよい。例えば、有機化合物からなる粒子の表面に無機酸化物をコーティングした無機有機複合粒子であってもよい。
上記の中では、無機粒子が好ましい。無機粒子は、電気化学的に安定で分解しにくいためサイクル特性が向上する。無機粒子の中では、アルミナ粒子、ベーマイト粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化チタン粒子、酸化ケイ素粒子、酸化ジルコニウム粒子が好ましく、中でもアルミナ粒子がより好ましい。
絶縁性微粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
絶縁性微粒子の平均粒子径は、0.1~2μmが好ましい。2μm以下とすることで、絶縁層の粗さが低減して、二乗平均平方根高さ(Sq)の値も小さくなり、安全性などが向上する。また、0.1μm以上とすることで、分散効果を高めて緻密な層構造を形成して、空隙率が所望の範囲内に調整しやすくなり、安全性なども向上する。これら観点から、絶縁性微粒子の平均粒子径は、0.3~1.5μmが好ましく、0.5~1.0μmがより好ましい。
なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた絶縁性微粒子の粒度分布において、体積積算が50%での粒径(D50)を意味する。
また、絶縁性微粒子は、平均粒子径が上記範囲内の1種が単独で使用されてもよいし、平均粒子径の異なる2種の絶縁性微粒子が混合されて使用されてもよい。
【0018】
絶縁性微粒子の含有量は、絶縁性微粒子とバインダーとの合計量100質量部に対して、80~99質量部であることが好ましい。99質量部以下とすることで、絶縁層において一定量以上のバインダーを含有させることができ、層強度を高めて安全性などが向上する。また、80質量部以上とすることで、バインダーによって空隙が閉塞することを抑制して、出力特性やサイクル特性が向上する。これら観点から、絶縁層に含有される絶縁性微粒子の含有量は、85~98質量部がより好ましく、90~97質量部がさらに好ましい。
【0019】
(バインダー)
絶縁層に含まれるバインダー(「絶縁層用バインダー」ともいう)は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂等のフッ素含有樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメチルアクリレート(PMA)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリブチルアクリレート樹脂などのアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
これらバインダーは、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
絶縁層に使用されるバインダーは、上記した中では、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びアクリル樹脂から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、特にポリビニルブチラール樹脂が好ましい。これら樹脂を使用することで、絶縁層の空隙率及び二乗平均平方根高さ(Sq)を所望の範囲にしやすくなり、安全性を確保しつつ、出力特性、及びサイクル特性を向上させやすくなる。
【0021】
ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールを、n-ブチルアルデヒドでアセタール化して得られる樹脂である。ポリビニルブチラール樹脂は、変性させてもよいし、未変性であってもよい。
ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量は、好ましくは20~80モル%、より好ましくは25~80モル%、さらに好ましくは30~80モル%である。80モル%以下とすることで、バインダーの粘着性を高めて絶縁層の強度を向上させることができる。また、これら下限値以上とすることで、絶縁性微粒子、特に無機粒子との接着性を高めて、絶縁層の強度が向上する。
上記ポリビニルブチラール樹脂のアセタール化度(ブチラール化度ともいう)は、好ましくは20~75モル%、より好ましくは20~70モル%、さらに好ましくは20~65モル%である。アセタール化度を20モル%以上とすることで、バインダーの粘着性を高めて絶縁層の強度を向上させることができる。また、これら上限値以下とすることで、絶縁性微粒子、特に無機粒子との接着性を高めて、絶縁層の強度が向上する。
また、ポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量は、低いほどよく、好ましくは15モル%以下である。
なお、ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量、アセチル基量、及びアセタール度は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定し、また、算出することができる。
【0022】
バインダーに使用されるポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、40,000より大きい。重量平均分子量が40,000より大きいことで、絶縁性微粒子に適切に接着性され、絶縁性微粒子を保持することができる。ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、40,000より大きく400,000以下であることが好ましく、50,000~300,000がより好ましく、60,000~200,000がさらに好ましい。重量平均分子量をこれら下限値以上とすることで絶縁性微粒子に対する接着性を高めることができ、リチウムイオン二次電池の各種特性が良好となる。また、上限値以下とすることで後述するスラリー組成物の粘性を下げて、空隙率を所定の範囲内に調整しやすくなる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的な測定条件は例えば下記のとおりである。
カラム: Shodex GPC KF-806L(8.0mmI.D.×300mm)
溶媒: THF
溶出速度:1.0mL/min
溶出温度:40℃
【0023】
(添加剤(A))
本発明の絶縁層は、フッ素系界面活性剤、及び重量平均分子量10,000~40,000のポリビニルブチラール樹脂(以下、「低分子量PVB」ともいう)からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(以下、添加剤(A)ともいう)を含有することが好ましい。
これら添加剤(A)を含有することで、絶縁性微粒子の分散性を高めたり、正極活物質層との濡れ性が向上したりして、少ないバインダー量で空隙率を所定の範囲に調整したり、二乗平均平方根高さ(Sq)を小さくしたりすることができる。そのため、エネルギー密度を高くした場合でも、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性を向上させやすくなる。
添加剤(A)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。添加剤(A)としては、低分子量PVBが好ましく、絶縁用バインダーがポリビニルブチラール樹脂である場合に、低分子量PVBを使用することが特に好ましい。
【0024】
低分子量PVBは、上記の通り重量平均分子量が10,000~40,000である。低分子量PVBは、重量平均分子量が上記範囲内であることで、絶縁性微粒子に良好に吸着して絶縁性微粒子の分散効果を高めて、空隙率を所望の範囲内に調整しやくなる。また、スラリー組成物の粘度を下げて、表面の粗さを低くして、二乗平均平方根高さ(Sq)の低い絶縁層表面を形成しやすくなる。また、添加剤(A)の電解液への溶解を抑制して、電解液粘度上昇を抑制して、サイクル特性を向上しやすくなる。これら観点から、低分子量PVBの重量平均分子量は、好ましくは12,000~30,000であり、より好ましくは12,000~23,000である。
【0025】
低分子量PVBは、ポリビニルアルコールを、n-ブチルアルデヒドでアセタール化して得られる樹脂である。ポリビニルブチラール樹脂は、変性させてもよいし、未変性であってもよい。ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量は、特に限定されないが、好ましくは20~80モル%、より好ましくは24~60モル%、さらに好ましくは28~50モル%である。
また、上記ポリビニルブチラール樹脂のアセタール化度は、好ましくは20~78モル%、より好ましくは40~74モル%、さらに好ましくは50~70モル%である。
ポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量は、低いほどよく、好ましくは5モル%以下である。
【0026】
フッ素系界面活性剤は、絶縁性微粒子を分散させつつ、正極活物質層のバインダー、特に、PVDFなどのフッ素系樹脂への濡れ性が促進され、後述するスラリー組成物の正極活物質層に対する接触角を下げることができる。そのため、正極活物質層表面に一定以上の凹凸があっても、空隙率を低下させやすくなる。フッ素系界面活性剤は、正極用バインダーがフッ素樹脂、特にPVDFである場合に使用することが好適である。
フッ素系界面活性剤は、分子内にフルオロアルキル基、好ましくはパーフルオロアルキル基と親水性官能基とを有する構造を有する。フッ素系界面活性剤は、ノニオン系、アニオン系が好適であり、中でもノニオン系がより好適である。フッ素系界面活性剤は市販品も使用でき、例えばAGCセイミケミカル株式会社製の「サーフロン」シリーズなどを使用できる。
【0027】
添加剤(A)の含有量は、絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部である。含有量を0.001質量部以上とすることで、分散効果を高めて、絶縁層を所定の空隙率に調整し、かつ表面が平滑で二乗平均平方根高さ(Sq)の低い絶縁層表面を形成できる。そして、出力特性及びサイクル特性を良好に維持しつつ、安全性を向上させやすくなる。また、10質量部以下とすることで、絶縁性微粒子の結着に寄与しない成分の配合量が少なくなり、絶縁層の強度を高めて安全性などを向上させることができる。
添加剤(A)の上記含有量は、より好ましくは0.01~5重量部、さらに好ましくは0.1~1.5質量部であり、よりさらに好ましくは0.2~0.9質量部である。
【0028】
絶縁層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、絶縁性微粒子、絶縁層用バインダー及び添加剤(A)以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、絶縁層の総質量のうち、絶縁性微粒子及び絶縁層用バインダーの総含有量は、80質量%以上が好ましく、85~99.99質量%がより好ましく、90~99.9質量%がさらに好ましく、92~99.8質量%がよりさらに好ましい。
【0029】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含有する層である。正極活物質層は、典型的には、正極活物質と、バインダー(以下、「正極用バインダー」ともいう)を備える。
正極活物質は、リチウム系化合物であることが好ましい。リチウム系化合物としては、金属酸リチウム化合物が挙げられる。
金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等が例示できる。また、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)などであってもよい。さらに、リチウム以外の金属を複数使用したものでもよく、三元系と呼ばれるリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(NCA)などが挙げられる。
なお、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物は、例えば一般式ではLiNi1-b-cCoMn2(但し、0<a≦1、0<b<1、0<c<1、b+c<1)で表される化合物であり、また、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物は、一般式ではLitNi1-x-yCoAl(但し、0.95≦t≦1.15、0<x≦0.3、0<y≦0.2、x+y≦0.5を満たす。)で表わされる化合物である。
正極活物質としては、エネルギー密度を向上させる観点から、NCM及びNCAが好ましく、安全性を向上させつつエネルギー密度を向上させる観点からは、NCMがより好ましい。
【0030】
リチウム系化合物は、ニッケル含有量が50モル%以上である化合物が好ましい。なお、ニッケル含有量とは、リチウム系化合物に含有される遷移金属の全量を100モル%としたときのニッケルの比率を示す。
リチウム系化合物は、ニッケル含有量を50モル%以上とすることで、体積当たりの容量が上がって、エネルギー密度が向上する。また、ニッケル含有量を50モル%以上とすると、酸化反応などにより分解が生じて、安全性などの各種性能を良好にしにくくなるが、本発明では、ニッケル含有量が高くても、上記の通り、絶縁層の空隙率及び表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を調整することで、安全性などの各種性能を向上させることができる。
リチウム系化合物におけるニッケル含有量は、エネルギー密度の観点からは、55モル%以上がより好ましく、58モル%以上がさらに好ましい。また、ニッケル含有量は、エネルギー密度を高めつつ安全性を向上させる観点から、例えば、85%以下であればよいが、安全性をより向上させる観点からは、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、65モル%以下がさらに好ましい。
【0031】
ニッケル含有量が50モル%以上である化合物の好適な具体例としては、NCM、およびNCAが挙げられ、これらの中ではNCMが特に好ましい。NCMの好ましい具体例としては、NCM622(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)、NCM523(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)、NCM811(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)が挙げられるが、これら中では、エネルギー密度の観点から、NCM622、NCM811がより好ましく、エネルギー密度及び安全性の観点からはNCM622がさらに好ましい。
なお、NCMとしては、ニッケル含有量が50モル%未満のものも使用でき、例えばNCM333(LiNi0.33Mn0.33Co0.33)が挙げられる。
【0032】
正極活物質の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.5~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましく、5~15μmであることが更に好ましい。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、正極活物質層全量基準で、50~98.5質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましく、70~97質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量は、上記下限値以上にすることで、エネルギー密度を十分に向上させることができる。また、上記上限値以下にすることで、正極活物質層にバインダーなどの他の成分を適切に含有させることができる。
【0033】
(正極用バインダー)
正極用バインダーとしては、特に限定されず、従来正極に使用しているバインダーを適宜選択して使用することができる。正極用バインダーとしては、上記絶縁層用バインダーに列挙した化合物から適宜選択して使用できるが、中でもポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン樹脂が特に好ましい。
【0034】
正極用バインダーの含有量は、正極活物質層全量基準で、1~30質量%であることが好ましく、1.5~25質量%であることがより好ましく、2.5~20質量%であることがさらに好ましい。正極用バインダーの含有量を上記下限値以上とすることで、バインダーによって正極活物質を適切に結着させることができる。また、上記上限値以下とすることで、エネルギー密度を高くしやすくなる。
【0035】
(導電助剤)
正極活物質層は、正極活物質及び正極用バインダーに加えて、さらに導電助剤を含有してもよい。導電助剤は、一般的に上記正極活物質よりも導電性が高い材料が使用され、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファーバー、棒状カーボン、黒鉛粒子などの炭素材料などが挙げられる。導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層に導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、正極活物質層全量基準で、0.5~30質量%であることが好ましく、1~25質量%であることがより好ましく、2~15質量%がさらに好ましい。
【0036】
絶縁層12が設けられる正極活物質層11の表面11Aの表面粗さ(Ra)は、0.5~1.5μmであることが好ましい。表面粗さ(Ra)を0.5μm以上とすると、正極に空隙を発生させることで電解液の保持性が良好となり、サイクル特性が向上する。また、1.5μm以下とすることで絶縁層表面を平滑にして、絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を低くしやすい。これら観点から、上記表面粗さ(Ra)は、0.6~1.2μmであることがより好ましい。
【0037】
正極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましい。
正極活物質層の密度は、特に限定されないが、2.0~4.5g/ccが好ましく、2.5~4.0g/ccがより好ましい。
【0038】
正極活物質層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、正極活物質、導電助剤、及び電極用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。そのような成分としては、増粘剤が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。これらはナトリウム塩などの塩の態様にて使用されていてもよい。ただし、正極活物質層の総質量のうち、正極活物質、導電助剤、及び電極用バインダーの総含有量は、90~100質量%であることが好ましく、95~100質量%であることがより好ましい。
【0039】
(正極集電体)
正極集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられ、これらの中ではアルミニウム又は銅が好ましく、より好ましくはアルミニウムである。正極集電体は、一般的に金属箔からなり、その厚さは、特に限定されないが、1~50μmが好ましい。
【0040】
[スラリー組成物]
本発明のスラリー組成物は、絶縁性微粒子と、バインダー(上記した絶縁層用バインダー)と、添加剤(A)とを含有する。また、スラリー組成物における添加剤(A)の含有量は、絶縁性微粒子100質量部に対して、0.001~10質量部であり、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.1~1.5質量部、よりさらに好ましくは0.2~0.9質量部である。本発明のスラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の絶縁層、特に正極の絶縁層を形成するのに適した組成物である。
以上のスラリー組成物を使用して正極活物質層上などに絶縁層を形成すると、絶縁層の空隙率、及び絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を上記した所定の範囲内に調整しやすくなる。そして、電池のエネルギー密度を高くしたような場合であっても、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性を向上させることができる、絶縁層を備える電極を提供できる。
なお、スラリー組成物における、絶縁性微粒子、バインダー(絶縁層用バインダー)、及び添加剤(A)は、上記で説明したとおりであり、また、スラリー組成物におけるこれらの含有量も、絶縁層で説明した範囲と同様であるので、その説明は省略する。
【0041】
スラリー組成物は、さらに溶媒を含む。スラリー組成物において使用される溶媒は、水及び有機溶剤のいずれでもよいが、有機溶剤が好ましい。溶媒は、バインダーを溶解するものが好ましい。
使用される有機溶剤の好ましい具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)から選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が特に好ましい。
【0042】
また、スラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、絶縁性微粒子、絶縁層用バインダー、添加剤(A)、溶媒以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、スラリー組成物は、固形分基準で、絶縁性微粒子及び絶縁層用バインダーの総含有量が、80質量%以上が好ましく、85~99.99質量%がより好ましく、90~99.9質量%がさらに好ましく、92~99.8質量%がよりさらに好ましい。
なお、固形分とは、スラリー組成物に含まれる上記溶媒などの揮発成分を除く成分である。
【0043】
スラリー組成物の固形分濃度は、10~60質量%であることが好ましい。固形分濃度を60質量%以下とすることで、絶縁性微粒子の分散効果を高めて、平滑で、かつ緻密な層構造を有する絶縁層を形成して、安全性を向上させることができる。また、10質量%以上とすることで、絶縁層形成時の正極活物質層への溶剤の染み込み量を低減させ、電極のプレス戻りを抑制しエネルギー密度を維持することができる。また、溶剤の染み込み量を低減させて、正極活物質層のバインダー樹脂が膨潤することを防止することで、活物質粒子同士の距離が大きくなったり接触面積が低下したりすることを抑制する。その結果、導電パスが確保されて抵抗が低減し、サイクル特性及び出力特性が向上する。
以上の観点から、スラリー組成物の固形分濃度は、15~50質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。
【0044】
スラリー組成物の25℃における粘度は、10~1000mPa・sであることが好ましい。粘度を10mPa・s以上とすることで、絶縁層形成時の正極活物質層への溶剤の染み込みを防止して、電極のプレス戻りを抑制しエネルギー密度を高めることができる。また、正極活物質層における抵抗を低減しサイクル特性及び出力特性が向上する。また、1000mPa・s以下とすることで、スラリー組成物の塗工性が上がり、表面が平滑な絶縁層を形成しやすくなる。これら観点からスラリー組成物の25℃における粘度は、20~250mPa・sがより好ましく、25~85mPa・sがさらに好ましい。なお、スラリー組成物の粘度は、B型粘度計を用いて、60rpm、25℃の条件で測定したものである。
【0045】
[リチウムイオン二次電池用電極の製造方法]
次に、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態に係る電極の製造方法は、上記したスラリー組成物によって絶縁層を形成する工程を含む。具体的には、まず、正極活物質層を形成し、その正極活物質層の表面上に、スラリー組成物を用いて絶縁層を形成するとよい。
【0046】
(正極活物質層の形成)
正極活物質層の形成においては、まず、正極活物質と、正極用バインダーと、溶媒とを含む正極活物質層用組成物を用意する。正極活物質層用組成物は、必要に応じて配合される導電助剤などのその他成分を含んでもよい。正極活物質、正極用バインダー、導電助剤などは上記で説明したとおりである。正極活物質層用組成物は、スラリーとなる。
【0047】
正極活物質層用組成物における溶媒は、水又は有機溶剤のいずれでもよいが、好ましくは有機溶剤を使用する。好適な有機溶剤の詳細は、上記した絶縁層用スラリー組成物で列挙したとおりで、特に好ましくはN-メチル-2-ピロリドンである。正極活物質層用組成物の固形分濃度は、例えば5~75質量%、好ましくは20~65質量%である。
【0048】
正極活物質層は、上記正極活物質層用組成物を使用して公知の方法で形成すればよく、例えば、上記正極活物質層用組成物を電極集電体の上に塗布し、乾燥することによって形成することができる。
また、正極活物質層は、正極活物質層用組成物を、電極集電体以外の基材上に塗布し、乾燥することにより形成してもよい。電極集電体以外の基材としては、公知の剥離シートが挙げられる。基材の上に形成した正極活物質層は、好ましくは絶縁層を形成した後、基材から正極活物質層を剥がして電極集電体の上に転写すればよい。
電極集電体又は基材の上に形成した正極活物質層は、好ましくは加圧プレスする。加圧プレスすることで、電極密度を高めることが可能になる。加圧プレスは、ロールプレスなどにより行えばよい。
【0049】
(絶縁層の形成)
絶縁層は、上記した絶縁層用のスラリー組成物を使用して形成する。具体的には、上記したスラリー組成物を、正極活物質層上に塗布して乾燥することによって形成することができる。スラリー組成物が塗布される正極活物質層は、電極集電体又は基材のいずれの上に形成したものでもよいが、電極集電体上に形成された正極活物質層が好ましい。
絶縁層用組成物を正極活物質層の表面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、バーコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。これらの中では、絶縁層を均一に塗布して、絶縁層を薄くしかつ上記二乗平均平方根高さ(Sq)を小さくする観点から、バーコート法又はグラビアコート法が好ましい。
また、乾燥温度は、上記溶媒を除去できれば特に限定されないが、例えば40~120℃、好ましくは50~90℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、30秒~10分間である。
【0050】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記したリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを有する。リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、互いに対向するように配置され、正極に設けられた絶縁層は、負極に対向する面に配置されることになる。
【0051】
(負極)
リチウムイオン二次電池における負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に積層された負極活物質層とを有する。負極活物質層は、典型的には、負極活物質と、バインダー(負極用バインダー)とを含む。
負極活物質層に使用される負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料、スズ化合物とシリコンと炭素の複合体、リチウムなどが挙げられるが、これら中では炭素材料が好ましく、グラファイトがより好ましい。
負極活物質は、特に限定されないが、その平均粒子径が0.5~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、負極活物質層全量基準で、50~99質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましい。
【0052】
負極活物質層は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤は、上記正極活物質で列挙した物質から適宜選択して使用すればよい。
負極活物質層において、導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、負極活物質層全量基準で、1~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましい。
【0053】
負極活物質層に含有される負極用バインダーとしては、特に限定されず、従来負極に使用しているバインダーを適宜選択して使用することができる。負極用バインダーとしては、上記絶縁層用バインダーに列挙した化合物から適宜選択して使用される。
負極活物質層における負極用バインダーの含有量は、負極活物質層全量基準で、1.0~30質量%であることが好ましく、1.2~20質量%がより好ましい。
負極活物質層は、負極活物質、導電助剤、及び電極用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。そのような成分としては、増粘剤が挙げられる。増粘剤は、上記の通りである。ただし、負極活物質層の総質量のうち、負極活物質、導電助剤、及び電極用バインダーの総含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0054】
負極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがより好ましい。
負極活物質層の密度は、特に限定されないが、1.2~3.0g/ccが好ましく、1.4~2.2g/ccがより好ましい。
【0055】
負極集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられ、これらの中ではアルミニウム又は銅が好ましく、銅がより好ましい。負極集電体は、一般的に金属箔からなり、その厚さは、特に限定されないが、1~50μmが好ましい。
【0056】
上記した正極の場合と同様に、負極活物質、負極用バインダー、及び必要に応じて配合される導電助剤などの成分、さらには溶媒を含有する負極活物質層用組成物を、負極集電体上に塗布し乾燥することにより、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極を得ることができる。負極活物質層の表面には、公知の絶縁層が設けられてもよいが、設けられなくてもよい。
【0057】
(セパレータ)
本発明のリチウムイオン二次電池は、好ましくは正極及び負極の間に配置されるセパレータをさらに備える。セパレータが設けられることで、正極及び負極の間の短絡がより一層効果的に防止される。また、セパレータは、後述する電解質を保持してもよい。正極に設けられる絶縁層は、セパレータに接触していてもよいし、接触していなくてもよいが、接触することが好ましい。
セパレータとしては、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が挙げられ、これらの中では多孔性の高分子膜が好ましい。多孔性の高分子膜としては、オレフィン系多孔質フィルムが例示される。セパレータは、リチウムイオン二次電池駆動時の発熱により加熱されて熱収縮などすることがあるが、そのような熱収縮時でも、正極に上記絶縁層が設けられることで短絡が抑制しやすくなる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池では、セパレータが省略されてもよい。セパレータが省略されても、正極に設けられた絶縁層により、負極と正極の間の絶縁性が確保されるとよい。
【0058】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極がそれぞれ複数積層された多層構造であってもよい。この場合、負極及び正極は、積層方向に沿って交互に設けられればよい。また、セパレータが使用される場合、セパレータは各負極と各正極の間に配置されればよい。
リチウムイオン二次電池において、上記した負極及び正極、又は負極、正極、及びセパレータは、バッテリーセル内に収納される。バッテリーセルは、角型、円筒型、ラミネート型などのいずれでもよい。
【0059】
(電解質)
リチウムイオン二次電池は、一般的には電解質を備える。電解質は特に限定されず、リチウムイオン二次電池で使用される公知の電解質を使用すればよい。電解質としては例えば電解液を使用する。
電解液としては、有機溶媒と、電解質塩を含む電解液が例示できる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、又はこれら溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。
電解質塩としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFCO、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiN(COCF及びLiN(COCFCF、リチウムビスオキサレートボラート(LiB(C等のリチウムを含む塩が挙げられる。また、有機酸リチウム塩-三フッ化ホウ素錯体、LiBH等の錯体水素化物等の錯体が挙げられる。これらの塩又は錯体は、1種単独で使用してもよいが、2種以上の混合物であってもよい。
また、電解質は、上記電解液にさらに高分子化合物を含むゲル状電解質であってもよい。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリアクリル系ポリマーが挙げられる。なお、ゲル状電解質は、セパレータとして使用されてもよい。
電解質は、負極及び正極間に配置されればよく、例えば、電解質は、上記した負極及び正極、又は負極、正極、及びセパレータが内部に収納されたバッテリーセル内に充填される。また、電解質は、例えば、負極又は正極上に塗布されて負極及び正極間に配置されてもよい。
【実施例0060】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
リチウムイオン二次電池の評価方法、及び各種物性の測定方法は以下のとおりである。
(出力特性評価)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池について、以下のように放電容量を求めることで出力特性を評価した。
1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、10Cの定電流放電を行い、2.5Vまで放電させた時点で放電完了とする放電を行い、放電容量を計算した。以下の基準で出力特性を評価した。
A:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が35%以上である。
B:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が25%以上35%未満である。
C:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が15%以上25%未満である。
D:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が15%未満である。
【0062】
(エネルギー密度)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池を25℃で充放電を一度行い、放電容量を測定した。充放電の条件は、以下のとおりであった。
充電条件:CCCV充電。CC条件は、4.2V、1.0C。CV条件は、4.2V、0.05C終止とする。
放電条件:CC放電。2.5V、1.0Cとする。
放電容量を、(正極+セパレータ+負極+絶縁層)の厚みで割り、厚み当たりの容量(エネルギー密度)として、以下の通り評価した。
A:厚み当たりの容量が12.0mAh/μm以上
B:厚み当たりの容量が11.5mAh/μm以上12.0mAh/μm以上未満
C:厚み当たりの容量が11.0mAh/μm以上11.5mAh/μm未満
D:厚み当たりの容量が11.0mAh/μm未満
【0063】
(安全性評価:釘刺し試験)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池に、1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、電池を金属板で拘束し、電池の面に対して垂直方向に釘を穿刺した。釘穿刺条件及び釘刺し時の測温度は以下の通りであった。
釘穿刺位置:電極の中央部
釘設計:鉄製、φ3mm、先端角度30°
穿刺速度:10mm/sec
測温部:セルの最表面、かつ釘穿刺位置から10mm以内の距離に熱電対を設置して、温度を測定した。
釘穿刺時の電池の挙動と最高温度について以下のとおり評価した。
A:電池は発火及び発煙せず、最高到達温度135℃未満であった。
B:電池は発火及び発煙せず、最高到達温度135℃以上であった。
C:電池は発煙したが発火しなかった。
D:電池が発火した。
なお、電池の発火は電池自身の危険性を示し、最高到達温度は電池の持つ危険リスクを示す。
【0064】
(サイクル特性)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池を25℃、1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、1Cの定電流放電を行った。このサイクルを繰り返した。500サイクル後の放電容量を10サイクル後の放電容量と比較し、容量維持率とした。得られた容量維持率に基づきサイクル特性を以下の評価基準で評価した。
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が85%以上90%未満
C:容量維持率が80%以上85%未満
D:容量維持率が80%未満
【0065】
(絶縁層表面の二乗平均平方根高さ:Sq)
正極活物質層上に設けられた絶縁層の表面の二乗平均平方根高さ(Sq)は、非接触レーザー表面分析機(オリンパス社製「OLS-4500」)を使用し、300μm×300μm視野となるように倍率を設定した。上記300μm×300μm視野の面積において、高さ関数Z(x,y)に対して自乗平均平方根Sqを算出した。
【0066】
(絶縁層の空隙率)
Sqを測定する方法で撮影した視野の画像に対して、画像解析ソフト(Image J)を用いて8bitグレースケールに変換した。白い部分は被覆されている部分と捉え、白い部分の閾値設定を行い白色部の割合を算出した。算出においては、1視野に対し1024分割し計算した。その後、白色部の割合(%)を充填率として、充填率(%)を100(%)から引くことで空隙率(%)とした。なお、空隙率設定のための閾値は、最大値150、最小値0とする。
【0067】
(絶縁層及び活物質層の厚み)
絶縁層の厚みは、以下の方法により測定した。絶縁層が形成された電極に対し、イオンミリング方式で断面を露出させた。露出した断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。観察は電極の絶縁層の表層から底部まで見えるような視野とした。断面倍率は、20000倍で行った。得られた画像に対し、画像解析ソフト(Image J)を使用しランダムに正極活物質層と絶縁層の界面から絶縁層表面までの長さを、電極集電体に対して垂直方向に計測した。1枚の画像につき、10点測定し、平均値を絶縁層の厚さとした。
正極活物質層及び負極活物質層の厚みについては、同様の方法で断面を露出させて、SEM(走査電子顕微鏡)で観察し、10点平均の値を正極活物質層又は負極活物質層の厚みとした。
【0068】
(正極活物質層の表面粗さ:Ra)
非接触レーザー表面分析機(オリンパス社製「OLS-4500」)を使用し、600μm×600μm視野となるように倍率を設定した。30点の視野の高さ方向の算術平均値を表面粗さ(Ra)とした。なお、正極活物質層表面の表面粗さ(Ra)は、絶縁層が形成される前の正極活物質層の表面に対して測定した。
【0069】
(スラリー組成物の粘度)
スラリー組成物の粘度は、B型粘度計を用いて60rpm、25℃の条件で測定した。
【0070】
(活物質層の密度)
正極活物質層の密度は、次のようにして測定した。まず、正極を直径16mmで打ち抜いた測定試料を複数枚準備した。各測定試料の質量を精密天秤にて秤量し、質量を測定した。予め測定した正極集電体の質量を測定結果から差し引くことにより、測定試料中の正極活物質層の質量を算出した。また、上述した方法で正極活物質層の厚みを測定した。各測定値の平均値から下記式(1)に基づいて、正極活物質層の密度を算出した。
正極活物質層の密度(g/cc)=正極活物質層の質量(g)/[(正極活物質の厚み(cm)×打ち抜いた正極の面積(cm)]・・・(1)
負極活物質層の密度も同様に測定した。
【0071】
(重量平均分子量の測定方法)
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、明細書記載の条件にて測定した。
【0072】
<実施例1>
[正極の作製]
(正極活物質層の作製)
正極活物質としての平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2:NCM622)92質量部と、導電助剤としての一次粒子径30nmのケッチェンブラック4質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン樹脂4質量部と、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合し、固形分濃度60質量%に調整したスラリー(正極活物質層用組成物)を得た。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に両面塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。乾燥後、アルミニウム箔を400kN/mで加圧プレスして密度3.0g/ccの正極活物質層を得た。
【0073】
(絶縁層用のスラリー組成物の作製)
積水化学工業株式会社製「エスレックBH-A」のポリビニルブチラール樹脂(平均重量分子量12万、水酸基量27モル%(カタログ値)、アセタール化度60モル%(カタログ値))を有機溶剤NMPに5質量%で溶解したものをバインダー溶液として用意した。
無機粒子としてのアルミナ粒子(サソール社製、製品名「APA―3AFS」、平均粒子径0.5μm)95質量部、及び添加剤(A)としての低分子量PVB(1)(積水化学工業株式会社製、製品名「エスレックBL-10」、重量平均分子量15,000、水酸基量28モル%(カタログ値)、アセタール化度70モル%(カタログ値))を、中程度の剪断力を加えながら、固形分換算で5質量部のバインダー溶液に混合して混合物を得た。この際、添加剤(A)の配合量は、アルミナ粒子100質量部に対して0.5質量部であった。
その後NMPを混合物に注ぎ、固形分濃度が30質量%となるよう調整して、撹拌機で30分間穏やかに撹拌し、目開き80μmのフィルターでろ過し、絶縁層用のスラリー組成物を得た。
【0074】
(絶縁層の作製)
得られた絶縁層用のスラリー組成物を、バーコーターで、正極活物質層の表面に塗布した。スラリー組成物を塗布して形成した塗膜を60℃で乾燥することによって、正極活物質層の表面に絶縁層を形成した。これにより、正極集電体の両面に正極活物質層及び絶縁層がこの順に形成された正極を得た。
【0075】
[負極の作製]
負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径10μm)100質量部と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースNaを1.5質量部と、溶媒としての水とを混合し、固形分濃度50質量%に調整したスラリー(負極活物質層用組成物)を得た。このスラリーを厚さ12μm銅箔に両面塗布し、100℃で真空乾燥した。電極を500kN/mで加圧プレスして、厚み100μm、1.6g/ccの負極活物質層を形成して、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を得た。
【0076】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比で混合した溶媒に、電解質としてLiPFを1モル/リットルとなるように溶解して、電解液を調製した。
【0077】
[リチウムイオン二次電池の作製]
セパレータとして、厚み15μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用意した。上記で作製した負極6枚と、絶縁層付き正極5枚とをこれらの間にセパレータを介して交互に積層して積層体を得た。正極サイズは110mm×95mm、負極サイズは120mm×100mm、セパレータサイズは140mm×120mmであった。
【0078】
上記積層体の各正極集電体の露出部の端部を纏めて超音波溶着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。同様に、各負極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。次いで、アルミラミネートフィルムで積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止した。封止せずに残した一辺から、上記で得た電解液8gを注入し、真空封止することによってラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0079】
<実施例2~9、比較例1、3>
添加剤(A)の種類、及び配合量を表1、2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。なお、表1、2に示す各添加剤の詳細は、以下のとおりである。
低分子量PVB(2):積水化学工業株式会社製、製品名「エスレックBL-1」、重量平均分子量19,000、水酸基量36モル%(カタログ値)、アセタール化度63モル%(カタログ値))
低分子量PVB(3):積水化学工業株式会社製、製品名「エスレックBL-2H」、重量平均分子量28,000、水酸基量30モル%(カタログ値)、アセタール化度69モル%(カタログ値))
フッ素系界面活性剤:AGCセイミケミカル株式会社製、製品名「サーフロンS―243」、ノニオン系
アニオン系界面活性剤:楠本化成株式会社製、製品名「ディスパロン1831」、高分子量ポリカルボン酸アミン塩、アニオン系界面活性剤
【0080】
<実施例10、11>
NMPの量を調整して、固形分濃度が表2記載の濃度とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0081】
<実施例12~15>
正極活物質として表2に記載の正極活物質に変更した以外は実施例1と同様に実施した。なお、表2に示す各正極活物質は、以下の通りであった。
NCM523:平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物、LiNi0.5Mn0.3Co0.2
NCM811:平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物、LiNi0.8Mn0.1Co0.1
NCA:平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物、LiNi0.8Co0.17Al0.03
NCM333:平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物、LiNi0.33Mn0.33Co0.33
【0082】
<比較例2、4>
添加剤(A)を使用しなかった点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0083】
【表1】

【表2】
※表1、2において、添加剤(A)の質量部は、アルミナ粒子(絶縁性微粒子)100質量部に対する配合量である。
【0084】
以上の実施例では、絶縁層の空隙率を所定の範囲内とし、かつ絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を低くすることで、エネルギー密度を高くしても、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性の両方を向上させることができた。
また、各実施例では、特定の添加剤(A)を所定量含有するスラリー組成物によって絶縁層を形成することで、絶縁層の空隙率を所定の範囲内とし、かつ絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を低くでき、それにより、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性の両方を向上させることができた。
【0085】
それに対して、比較例では、絶縁層の空隙率が所定の範囲外であり、また、絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)が大きくなることで、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性の両方を向上させることができなかった。
また、比較例のスラリー組成物は、特定の添加剤(A)を所定量含有していなかったため、絶縁層の空隙率を所定の範囲内とし、かつ絶縁層表面の二乗平均平方根高さ(Sq)を低くすることができなかった。そして、安全性を確保しつつ、出力特性及びサイクル特性の両方を向上させることもできなかった。
【符号の説明】
【0086】
10 リチウムイオン二次電池用電極(正極)
11 正極活物質層
11A 正極活物質層の表面
12 絶縁層
12A 絶縁層の界面
13 電極集電体
図1