(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146805
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20220928BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047970
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 錬
(72)【発明者】
【氏名】飯野 準也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA12
5H050EA23
5H050FA04
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA11
5H050HA12
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】正極活物質層にニッケル含有量の多いリチウム系化合物を使用した場合において、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用電極10は、正極活物質層11と、正極活物質層11の表面上に設けられる絶縁層12とを備え、正極活物質層11は、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有し、絶縁層12は、絶縁性微粒子、重量平均分子量10,000~1,000,000のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチルピロリドンを含有し、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して3.2~10質量部であり、前記N-メチルピロリドンの含有量が、絶縁層全量基準で0.0001~15質量%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備え、
前記正極活物質層は、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有し、
前記絶縁層は、絶縁性微粒子、重量平均分子量10,000~1,000,000のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有し、
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して3.2~10質量部であり、
前記N-メチル-2-ピロリドンの含有量が、絶縁層全量基準で0.0001~15質量%である、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量が20~80モル%である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記リチウム系化合物のニッケル含有量が50モル%以上85モル%未満である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記絶縁性微粒子の平均粒径が0.1~2μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記絶縁性微粒子がアルミナ粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
前記絶縁層の厚さが1~5μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
正極活物質層又は基材の表面に、絶縁性微粒子、重量平均分子量10,000~1,000,000のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有するスラリー組成物を塗布して塗膜を形成させ、該塗膜におけるN-メチル-2-ピロリドンの含有量を0.0001~15質量%に調整して絶縁層を形成させる工程を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記工程におけるN-メチル-2-ピロリドンの含有量の調整を、塗膜を40~150℃の温度で、10秒~20分間乾燥することで行う、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層を備えるリチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電力貯蔵用の大型定置用電源、電気自動車用等の電源として利用されており、近年では電池の小型化及び薄型化の研究が進展している。リチウムイオン二次電池は、金属箔の表面に正極活物質層を形成した両電極と、両電極の間に配置されるセパレータを備えるものが一般的である。セパレータは、両電極間の短絡防止や電解液を保持する役割を果たす。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池は、セパレータが収縮したときなどでも、良好な短絡抑制機能を持たせるために、例えば、正極活物質層の表面に多孔質の絶縁層が設けられることが検討されている。例えば、特許文献1では、無機フィラー粒子およびバインダーを含む複合粒子と、N-メチルピロリドンなどの溶媒を含む粉体を、溶媒を残存した状態で加圧して耐熱層(絶縁層)を形成させることにより、バインダー量が低減された耐熱層(絶縁層)を備える非水電解質二次電池を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、特許文献1のように絶縁層のバインダー量を低減すると抵抗が低下するため、出力特性の向上が期待できるものの、絶縁層の強度が低下して安全性が低下することが懸念される。したがって、出力特性を良好にしつつ安全性を向上させる技術が望まれている。
安全性の向上は、ニッケル含有率の高い正極活物質を使用する場合も重要となる。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度を更に高めることが求められており、例えば、NCM523、NCM622などのニッケル含有率が高い正極活物質が使用されることが検討されている。しかし、エネルギー密度を高くするための正極活物質を使用する場合、従来の絶縁層の設計で絶縁層を設けても、正極活物質層で酸化反応が起こるなどして劣化が進み、安全性などの各種性能が十分に担保できないことがある。
【0006】
そこで、本発明は、正極活物質層にニッケル含有量の多いリチウム系化合物を使用した場合において、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、正極活物質層にニッケル含有量の多いリチウム系化合物を使用した場合において、バインダーとして重量平均分子量が特定範囲のポリビニルブチラール樹脂及びN-メチル-2-ピロリドンをそれぞれ特定量含有した絶縁層を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1]正極活物質層と、前記正極活物質層の表面上に設けられる絶縁層とを備え、前記正極活物質層は、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有し、前記絶縁層は、絶縁性微粒子、重量平均分子量10,000~1,000,000のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有し、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して3.2~10質量部であり、前記N-メチル-2-ピロリドンの含有量が、絶縁層全量基準で0.0001~15質量%である、リチウムイオン二次電池用電極。
[2]前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量が20~80モル%である、上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[3]前記リチウム系化合物のニッケル含有量が50モル%以上85モル%未満である、上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[4]前記絶縁性微粒子の平均粒径が0.1~2μmである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[5]前記絶縁性微粒子がアルミナ粒子である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[6]前記絶縁層の厚さが1~5μmである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[7]正極活物質層又は基材の表面に、絶縁性微粒子、重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有するスラリー組成物を塗布して塗膜を形成させ、該塗膜におけるN-メチル-2-ピロリドンの含有量を0.0001~15質量%に調整して絶縁層を形成させる工程を備える、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
[8]前記工程におけるN-メチル-2-ピロリドンの含有量の調整を、塗膜を40~150℃の温度で、10秒~20分間乾燥することで行う、上記[7]に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
[9]上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正極活物質層にニッケル含有量の多いリチウム系化合物を使用した場合において、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のリチウムイオン二次電池用電極の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウムイオン二次電池用電極>
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用電極について詳細に説明する。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池用電極(以下、単に「電極」ということがある)10は、正極活物質層11と、正極活物質層11の表面11A上に設けられる絶縁層12とを備える。電極10において、正極活物質層11は、通常、正極集電体13の上に積層されている。また、電極10は、リチウムイオン二次電池において正極を構成する。
正極活物質層11は、正極集電体13の両表面に積層されてもよく、その場合、絶縁層12は各正極活物質層11の表面11A上に設けられるとよい。このように、絶縁層12を電極10の両面に設けると、負極及び正極を複数積層して多層構造とした場合でも、各正極と各負極の間の短絡を有効に防止できる。
【0011】
[絶縁層]
本発明における絶縁層は、絶縁性微粒子、重量平均分子量10,000~1,000,000のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有し、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、絶縁性微粒子100質量部に対して3.2~10質量部であり、前記N-メチル-2-ピロリドンの含有量が、絶縁層全量基準で0.0001~15質量%である。
このような絶縁層を使用することにより、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができる、リチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。ここで安全性とは、リチウムイオン二次電池電極を使用してリチウムイオン二次電池を製造した直後の初期の安全性と、リチウムイオン二次電池をある程度使用した場合(例えば充放電を500サイクル程度繰り返した場合)の経時の安全性の両方を意味することとする。
【0012】
(ポリビニルブチラール樹脂)
本発明における絶縁層はポリビニルブチラール樹脂を含有する。ポリビニルブチラール樹脂は、バインダーとして機能するものであり、絶縁性微粒子との接着性を高めることで、絶縁層の強度を向上させることができ、安全性を高めることができる。
ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールを、n-ブチルアルデヒドでアセタール化して得られる樹脂である。ポリビニルブチラール樹脂は、変性させてもよいし、未変性であってもよい。
【0013】
絶縁層中のポリビニルブチラール樹脂の含有量は、絶縁性微粒子100質量部に対して3.2~10質量部である。ポリビニルブチラール樹脂の含有量が3.2質量部未満であると、絶縁層の強度が低くなることで初期の安全性が悪くなり、サイクル特性も低下する。ポリビニルブチラール樹脂の含有量が10質量部を超えると、絶縁層の抵抗が高くなり、出力特性が低下する。ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、絶縁性微粒子100質量部に対して、好ましくは3.25~8質量部であり、より好ましくは3.3~6質量部であり、さらに好ましくは3.3~4質量部である。
本発明の絶縁層は、このようにバインダーであるポリビニルブチラール樹脂の含有量を比較的少なくしているため、リチウムイオン二次電池の出力特性が向上する。一般にはバインダーの量が少ない場合は、絶縁層の強度が低くなり安全性が低下する傾向にあるが、本発明の絶縁層は後述するようにNMPを一定量含んでいるため、絶縁層の強度の低下が抑制され、安全性を確保することができる。
【0014】
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、10,000~1,000,000である。重量平均分子量が10,000未満の場合は、絶縁層の強度が低下し易くなり、リチウムイオン二次電池の初期の安全性及び経時の安全性が低下しやすくなる。重量平均分子量が1,000,000を超えると、絶縁層を形成するためのスラリー組成物の粘度が高くなることにより、所望の形状の絶縁層が形成されにくく欠陥が増加してしまうため、初期安全性が低下しやすくなる。
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、安全性向上の観点から、好ましくは25,000~500,000であり、より好ましくは40,000~300,000であり、さらに好ましくは70,000~250,000であり、さらに好ましくは95,000~200,000である。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、具体的な測定条件は、例えば下記のとおりである。
カラム: Shodex GPC KF-806L(8.0mmI.D.×300mm)溶媒: THF
溶出速度:1.0mL/min
溶出温度:40℃
【0015】
ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量は、好ましくは20~80モル%、より好ましくは25~80モル%、さらに好ましくは30~80モル%であり、さらに好ましくは32~80モル%である。80モル%以下とすることで、バインダーの粘着性を高めて絶縁層の強度を向上させることができる。また、これら下限値以上とすることで、絶縁性微粒子、特に無機粒子との接着性を高めて、絶縁層の強度が向上する。
【0016】
ポリビニルブチラール樹脂のアセタール化度(ブチラール化度ともいう)は、好ましくは20~80モル%、より好ましくは20~75モル%、さらに好ましくは20~68モル%である。アセタール化度を20モル%以上とすることで、バインダーの粘着性を高めて絶縁層の強度を向上させることができる。また、これら上限値以下とすることで、絶縁性微粒子、特に無機粒子との接着性を高めて、絶縁層の強度が向上する。
また、ポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量は、低いほどよく、好ましくは5モル%以下である。
なお、ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量、アセチル基量、及びアセタール化度は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定し、また、算出することができる。
【0017】
絶縁層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリビニルブチラール樹脂以外のバインダーを含んでいてもよい。ポリビニルブチラール樹脂以外のバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂等のフッ素含有樹脂、ポリメチルアクリレート(PMA)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリブチルアクリレート樹脂などのアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
絶縁層全量基準におけるポリビニルブチラール樹脂以外のバインダーの含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%である。
【0018】
(NMP)
本発明における絶縁層は、N-メチル-2-ピロリドン(以下、単にNMPと記載することもある)を含有する。NMPの含有量は、絶縁層全量基準で0.0001~15質量%ある。
NMPは、絶縁層を形成するためのスラリー組成物に含まれる溶剤であり、本発明では絶縁層中のNMP量を上記のとおり特定範囲としている。
NMPの含有量が、絶縁層全量基準で0.0001質量%未満であると、絶縁層の強度が低くなり、初期の安全性が低下する。一方、NMPの含有量が、絶縁層全量基準で15質量%超であると、リチウムイオン二次電池の使用時においてガスが発生しやすくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。また絶縁層を形成させる際に、形状が制御しにくくなり、そのため、絶縁層の強度が低下して、安全性が低下する傾向がある。
NMPの含有量は、安全性及びサイクル特性向上の観点から、絶縁層全量基準で、好ましくは0.0005~9質量%であり、より好ましくは0.001~3質量%であり、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。
なお、絶縁層におけるNMPの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0019】
(絶縁性微粒子)
絶縁性微粒子は、絶縁性であれば特に限定されず、有機粒子、無機粒子の何れであってもよい。具体的な有機粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋スチレン-アクリル酸共重合体、架橋アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸リチウム)、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の有機化合物から構成される粒子が挙げられる。無機粒子としては二酸化ケイ素などの酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ベーマイト、チタニア、ジルコニア、窒化ホウ素、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化マグネシウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、クレイ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機化合物から構成される粒子が挙げられる。また、無機粒子は、ニオブ-タンタル複合酸化物、マグネシウム-タンタル複合酸化物等の公知の複合酸化物から構成される粒子であってもよい。また、絶縁性微粒子は、無機化合物と有機化合物の両方を含む複合微粒子であってもよい。例えば、有機化合物からなる粒子の表面に無機酸化物をコーティングした無機有機複合粒子であってもよい。
上記の中では、無機粒子が好ましい。無機粒子は、電気化学的に安定で分解しにくいためサイクル特性が向上する。無機粒子の中では、アルミナ粒子、ベーマイト粒子、酸化チタン粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化ケイ素粒子が好ましく、中でもアルミナ粒子がより好ましい。
絶縁性微粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
絶縁性微粒子の平均粒子径は、0.1~2μmが好ましい。2μm以下とすることで、絶縁層の粗さが低減して、安全性などが向上する。また、0.1μm以上とすることで、絶縁層の空隙率が高まり、出力特性が向上しやすくなる。これら観点から、絶縁性微粒子の平均粒子径は、0.3~1.5μmが好ましく、0.5~1.0μmがより好ましい。
なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた絶縁性微粒子の粒度分布において、体積積算が50%での粒径(D50)を意味する。
また、絶縁性微粒子は、平均粒子径が上記範囲内の1種が単独で使用されてもよいし、平均粒子径の異なる2種の絶縁性微粒子が混合されて使用されてもよい。
【0021】
絶縁層に含有される絶縁性微粒子の含有量は、絶縁層全量基準で、好ましくは50~99質量%が好ましく、より好ましくは70~98質量%、さらに好ましくは80~97質量%である。絶縁性微粒子の含有量がこれら下限値以上であると絶縁層に適切な絶縁性が付与され、これら上限値以下であると、一定量以上のバインダーを含有させることができ、層強度を高めて安全性などが向上する。
【0022】
絶縁層の厚みは、好ましくは1~5μmであり、より好ましくは1.5~4.5μmであり、さらに好ましくは2.0~4.0μmである。絶縁層の厚みをこれら下限値以上とすると絶縁層によって正極活物質層を緻密に被覆することができ安全性が向上する。絶縁層の厚みをこれら上限値以下とすると電極における体積あたり活物質重量が大きくなり、エネルギー密度を向上させることができる。
【0023】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含有する層である。正極活物質層は、典型的には、正極活物質と、バインダー(以下、「正極用バインダー」ともいう)を備える。
本発明における正極活物質層は、ニッケル含有量が50モル%以上のリチウム系化合物を含有する。該リチウム系化合物は正極活物質として含有される。なお、ニッケル含有量とは、リチウム系化合物に含有される遷移金属の全量を100モル%としたときのニッケルの比率を示す。
リチウム系化合物は、ニッケル含有量を50モル%以上とすることで、体積当たりの容量が上がって、エネルギー密度が向上する。また、ニッケル含有量を50モル%以上とすると、酸化反応などにより分解が生じて、安全性などの各種性能を良好にしにくくなるが、本発明では、ニッケル含有量が高くても、上記の通り、特定の絶縁層を使用しているため、安全性などの各種性能を向上させることができる。
リチウム系化合物におけるニッケル含有量は、エネルギー密度の観点からは、55モル%以上がより好ましく、58モル%以上がさらに好ましい。また、ニッケル含有量は、エネルギー密度を高めつつ安全性を向上させる観点から、例えば、85モル%未満であればよいが、安全性をより向上させる観点からは、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、65モル%以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明におけるリチウム系化合物は、ニッケル含有量が50モル%以上であれば特に制限されないが、リチウム原子、酸素原子及び遷移金属を含有する金属酸リチウム化合物が好ましく、具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(NCA)などが挙げられる。
なお、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物は、例えば一般式ではLiaNi1-b-cCobMncO2(但し、0<a≦1、0<b<1、0<c<1、b+c<1)で表される化合物であり、また、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物は、一般式ではLitNi1-x-yCoxAlyO2(但し、0.95≦t≦1.15、0<x≦0.3、0<y≦0.2、x+y≦0.5を満たす。)で表わされる化合物である。
本発明におけるリチウム系化合物としては、エネルギー密度を向上させる観点から、NCM及びNCAが好ましく、安全性を向上させつつエネルギー密度を向上させる観点からは、NCMがより好ましい。
NCMの好ましい具体例としては、NCM622(LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2)、NCM523(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2)、NCM811(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)が挙げられるが、これら中では、エネルギー密度の観点から、NCM622、NCM811がより好ましく、エネルギー密度及び安全性の観点からはNCM622がさらに好ましい。
【0025】
リチウム系化合物の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.5~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましく、5~15μmであることが更に好ましい。
正極活物質層におけるリチウム系化合物の含有量は、正極活物質層全量基準で、50~98.5質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましく、70~97質量%がさらに好ましい。リチウム系化合物の含有量は、上記下限値以上にすることで、エネルギー密度を十分に向上させることができる。また、上記上限値以下にすることで、正極活物質層にバインダーなどの他の成分を適切に含有させることができる。
【0026】
(正極用バインダー)
正極用バインダーとしては、特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂等のフッ素含有樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメチルアクリレート(PMA)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリブチルアクリレート樹脂などのアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンが特に好ましい。
【0027】
正極用バインダーの含有量は、正極活物質層全量基準で、1~30質量%であることが好ましく、1.5~25質量%であることがより好ましく、2.5~20質量%であることがさらに好ましい。正極用バインダーの含有量を上記下限値以上とすることで、バインダーによって正極活物質を適切に結着させることができる。また、上記上限値以下とすることで、エネルギー密度を高くしやすくなる。
【0028】
(導電助剤)
正極活物質層は、正極活物質及び正極用バインダーに加えて、さらに導電助剤を含有してもよい。導電助剤は、一般的に上記正極活物質よりも導電性が高い材料が使用され、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファーバー、棒状カーボン、黒鉛粒子などの炭素材料などが挙げられる。導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層に導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、正極活物質層全量基準で、0.5~30質量%であることが好ましく、1~25質量%であることがより好ましく、2~15質量%がさらに好ましい。
【0029】
正極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましい。
正極活物質層の密度は、特に限定されないが、2.0~4.5g/ccが好ましく、2.5~4.0g/ccがより好ましい。
【0030】
正極活物質層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、正極活物質、導電助剤、及び電極用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。そのような成分としては、増粘剤が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。これらはナトリウム塩などの塩の態様にて使用されていてもよい。ただし、正極活物質層の総質量のうち、正極活物質、導電助剤、及び電極用バインダーの総含有量は、90~100質量%であることが好ましく、95~100質量%であることがより好ましい。
【0031】
(正極集電体)
正極集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられ、これらの中ではアルミニウム又は銅が好ましく、より好ましくはアルミニウムである。正極集電体は、一般的に金属箔からなり、その厚さは、特に限定されないが、1~50μmが好ましい。
【0032】
[リチウムイオン二次電池用電極の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は、特に限定されないが、正極活物質層又は基材の表面に、絶縁性微粒子、重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂、及びN-メチル-2-ピロリドンを含有するスラリー組成物を塗布して塗膜を形成させ、該塗膜におけるN-メチル-2-ピロリドンの含有量を0.0001~15質量%に調整して絶縁層を形成させる工程を備える製造方法であることが好ましい。
【0033】
リチウム二次電池用電極の製造においては、最初に正極活物質層及びスラリー組成物を準備する。
【0034】
(正極活物質層の形成)
正極活物質層の形成においては、まず、正極活物質と、正極用バインダーと、溶媒とを含む正極活物質層用組成物を用意する。正極活物質層用組成物は、必要に応じて配合される導電助剤などのその他成分を含んでもよい。正極活物質、正極用バインダー、導電助剤などは上記で説明したとおりである。正極活物質層用組成物は、スラリーとなる。
【0035】
正極活物質層用組成物における溶媒は、水又は有機溶剤のいずれでもよいが、好ましくは有機溶剤を使用する。好適な有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)から選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が特に好ましい。正極活物質層用組成物の固形分濃度は、例えば5~75質量%、好ましくは20~65質量%である。
【0036】
正極活物質層は、上記正極活物質層用組成物を使用して公知の方法で形成すればよく、例えば、上記正極活物質層用組成物を電極集電体の上に塗布し、乾燥することによって形成することができる。
また、正極活物質層は、正極活物質層用組成物を、電極集電体以外の基材上に塗布し、乾燥することにより形成してもよい。電極集電体以外の基材としては、公知の剥離シートが挙げられる。基材の上に形成した正極活物質層は、好ましくは絶縁層を形成した後、基材から正極活物質層を剥がして電極集電体の上に転写すればよい。
電極集電体又は基材の上に形成した正極活物質層は、好ましくは加圧プレスする。加圧プレスすることで、電極密度を高めることが可能になる。加圧プレスは、ロールプレスなどにより行えばよい。
【0037】
(スラリー組成物)
スラリー組成物は、絶縁性微粒子、重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂、及びNMPを含有する。
スラリー組成物における、絶縁性微粒子、重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂、及びNMPは上記で説明したとおりである。また、スラリー組成物における、絶縁性微粒子100質量部に対するポリビニルブチラール樹脂の質量部数も、絶縁層で説明した範囲と同様であるので、その説明は省略する。
【0038】
スラリー組成物は、NMP以外の有機溶媒を含んでいてもよい。NMP以外の有機溶媒としては、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。ただし、形成される絶縁層のNMP含有量を所望の範囲に調整し、本発明の効果を得る観点からは、NMP以外の有機溶媒は含まないことが好ましい。
【0039】
また、スラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、絶縁性微粒子、重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂、溶媒以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、スラリー組成物は、固形分基準で、絶縁性微粒子及び重量平均分子量1万~100万のポリビニルブチラール樹脂の総含有量が、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
なお、固形分とは、スラリー組成物に含まれる上記溶媒などの揮発成分を除く成分である。
【0040】
(塗膜の形成)
本発明の製造方法では、正極活物質層又は基材の表面に、上記したスラリー組成物を塗布して塗膜を形成させる。基材としては、剥離シートなどが挙げられ、例えば、ポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
スラリー組成物を塗布する方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、バーコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。これらの中では、絶縁層を均一に塗布して、絶縁層を薄くする観点から、バーコート法又はグラビアコート法が好ましい。
【0041】
塗膜を形成させた後、塗膜に含まれるNMPの含有量を0.0001~15質量%に調整して絶縁層を形成させる。NMPの含有量を0.0001~15質量%に調整する方法としては、塗膜を適切な条件で乾燥させる方法が好ましい。具体的には、塗膜を40~150℃の温度、好ましくは45~100℃、より好ましくは50~70℃の温度で、10秒~20分間、好ましくは1~15分間、より好ましくは2~12分間、さらに好ましくは2~10分間乾燥させることが好ましい。
なお、正極活物質層上に塗膜を形成させた場合は、正極活物質上にそのまま絶縁層を形成させることができる。一方、基材上に塗膜を形成させた場合は、基材上に絶縁層が形成されるため、基材から絶縁層を剥離して、正極活物質層上に転写するとよい。本発明の絶縁層は、一定量のNMPを含有しているため、正極活物質層上に転写する場合でも、密着性よく転写することが可能となる。
【0042】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記したリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極とを備える。リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、互いに対向するように配置され、正極に設けられた絶縁層は、負極に対向する面に配置されることになる。
【0043】
(負極)
リチウムイオン二次電池における負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に積層された負極活物質層とを有する。負極活物質層は、典型的には、負極活物質と、バインダー(負極用バインダー)とを含む。
負極活物質層に使用される負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料、スズ化合物とシリコンと炭素の複合体、リチウムなどが挙げられるが、これら中では炭素材料が好ましく、グラファイトがより好ましい。
負極活物質は、特に限定されないが、その平均粒子径が0.5~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、負極活物質層全量基準で、50~99質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましい。
【0044】
負極活物質層は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤は、上記正極活物質で列挙した物質から適宜選択して使用すればよい。
負極活物質層において、導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、負極活物質層全量基準で、1~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましい。
【0045】
負極活物質層に含有される負極用バインダーとしては、特に限定されず、従来負極に使用しているバインダーを適宜選択して使用することができる。負極用バインダーとしては、上記正極用バインダーに列挙した化合物から適宜選択して使用される。
負極活物質層における負極用バインダーの含有量は、負極活物質層全量基準で、1.0~30質量%であることが好ましく、1.2~20質量%がより好ましい。
負極活物質層は、負極活物質、導電助剤、及び負極用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。そのような成分としては、増粘剤が挙げられる。増粘剤は、上記の通りである。ただし、負極活物質層の総質量のうち、負極活物質、導電助剤、及び電極用バインダーの総含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0046】
負極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがより好ましい。
負極活物質層の密度は、特に限定されないが、1.2~3.0g/ccが好ましく、1.4~2.2g/ccがより好ましい。
【0047】
負極集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられ、これらの中ではアルミニウム又は銅が好ましく、銅がより好ましい。負極集電体は、一般的に金属箔からなり、その厚さは、特に限定されないが、1~50μmが好ましい。
【0048】
上記した正極の場合と同様に、負極活物質、負極用バインダー、及び必要に応じて配合される導電助剤などの成分、さらには溶媒を含有する負極活物質層用組成物を、負極集電体上に塗布し乾燥することにより、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極を得ることができる。負極活物質層の表面には、公知の絶縁層が設けられてもよいが、設けられなくてもよい。
【0049】
(セパレータ)
本発明のリチウムイオン二次電池は、好ましくは正極及び負極の間に配置されるセパレータをさらに備える。セパレータが設けられることで、正極及び負極の間の短絡がより一層効果的に防止される。また、セパレータは、後述する電解質を保持してもよい。正極に設けられる絶縁層は、セパレータに接触していてもよいし、接触していなくてもよいが、接触することが好ましい。
セパレータとしては、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が挙げられ、これらの中では多孔性の高分子膜が好ましい。多孔性の高分子膜としては、オレフィン系多孔質フィルムが例示される。セパレータは、リチウムイオン二次電池駆動時の発熱により加熱されて熱収縮などすることがあるが、そのような熱収縮時でも、正極に上記絶縁層が設けられることで短絡が抑制しやすくなる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池では、セパレータが省略されてもよい。セパレータが省略されても、正極に設けられた絶縁層により、負極と正極の間の絶縁性が確保されるとよい。
【0050】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極がそれぞれ複数積層された多層構造であってもよい。この場合、負極及び正極は、積層方向に沿って交互に設けられればよい。また、セパレータが使用される場合、セパレータは各負極と各正極の間に配置されればよい。
リチウムイオン二次電池において、上記した負極及び正極、又は負極、正極、及びセパレータは、バッテリーセル内に収納される。バッテリーセルは、角型、円筒型、ラミネート型などのいずれでもよい。
【0051】
(電解質)
リチウムイオン二次電池は、一般的には電解質を備える。電解質は特に限定されず、リチウムイオン二次電池で使用される公知の電解質を使用すればよい。電解質としては例えば電解液を使用する。
電解液としては、有機溶媒と、電解質塩を含む電解液が例示できる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、又はこれら溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。
電解質塩としては、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3CO2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2CF3)2、LiN(COCF3)2及びLiN(COCF2CF3)2、リチウムビスオキサレートボラート(LiB(C2O4)2)等のリチウムを含む塩が挙げられる。また、有機酸リチウム塩-三フッ化ホウ素錯体、LiBH4等の錯体水素化物等の錯体が挙げられる。これらの塩又は錯体は、1種単独で使用してもよいが、2種以上の混合物であってもよい。
また、電解質は、上記電解液にさらに高分子化合物を含むゲル状電解質であってもよい。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリアクリル系ポリマーが挙げられる。なお、ゲル状電解質は、セパレータとして使用されてもよい。
電解質は、負極及び正極間に配置されればよく、例えば、電解質は、上記した負極及び正極、又は負極、正極、及びセパレータが内部に収納されたバッテリーセル内に充填される。また、電解質は、例えば、負極又は正極上に塗布されて負極及び正極間に配置されてもよい。
【実施例0052】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
リチウムイオン二次電池の評価方法、及び各種物性の測定方法は以下のとおりである。
【0054】
[絶縁層中のNMPの濃度]
各実施例及び比較例で作製した絶縁層におけるNMPの濃度は、ガスクロマトグラフィー(Agilent製 5977B )により測定した。
【0055】
[絶縁層の強度(初期強度)]
各実施例、比較例で作製した絶縁層付き正極を5cm×5cmに切り出し、重量を測定した(試験前の正極重量)。正極の表面の絶縁層に、クロスカットテスターを用いて長さ3cmの傷をつけ、さらに形成された傷に対して直角に交わるように長さ3cmの傷をつけた。このように傷をつけることで絶縁層の一部が脱落する。絶縁層の一部が脱落した後の正極の重量を測定した(試験後の正極重量)。
使用したクロスカットテスター(株式会社テツタニ社製「クロスカットテスター 1mm」)は、エッジ数が6でエッジ間隔が1mmであった。
以下の式(1)により、絶縁層の強度を求めた。なお、以下の式(1)により求められる値は、絶縁層が残存するほど高い値となり、絶縁層の強度が高いことを意味する。
式(1) [(試験後の正極重量)/(試験前の正極重量)]×100
A:式(1)の値が95%以上
B:式(1)の値が90%以上95%未満
C:式(1)の値が85%以上90%未満
D:式(1)の値が85%未満
【0056】
[出力特性評価(サイクル特性評価後)]
サイクル特性を評価した後の各リチウムイオン二次電池について、以下のように放電容量を求めることで出力特性を評価した。
1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、10Cの定電流放電を行い、2.5Vまで放電させた時点で放電完了とする放電を行い、放電容量を計算した。以下の基準で出力特性を評価した。
A:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が25%以上である。
B:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が20%以上25%未満である。
C:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が10%以上20%未満である。
D:1Cの定電流の放電容量に比べ、10Cの放電容量が10%未満である。
【0057】
(初期安全性:釘刺し試験)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池に、1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、電池を金属板で拘束し、電池の面に対して垂直方向に釘を穿刺した。釘穿刺条件及び釘刺し時の測温度は以下の通りであった。
釘穿刺位置:電極の中央部
釘設計:鉄製、φ3mm、先端角度30°
穿刺速度:10mm/sec
測温部:セルの最表面、かつ釘穿刺位置から10mm以内の距離に熱電対を設置して、温度を測定した。
釘穿刺時の電池の挙動と最高温度について以下のとおり評価した。
A:電池は発火及び発煙せず、最高到達温度135℃未満であった。
B:電池は発火及び発煙せず、最高到達温度135℃以上であった。
C:電池は発煙したが発火しなかった。
D:電池が発火した。
なお、電池の発火は電池自身の危険性を示し、最高到達温度は電池の持つ危険リスクを示す。
【0058】
(経時安全特:釘刺し試験)
サイクル特性を評価した後の各リチウムイオン二次電池について、上記した初期安全性の評価と同様の釘刺し試験を行い、同様に評価した。
【0059】
(サイクル特性)
各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池を25℃、1Cの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.05Cとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、1Cの定電流放電を行った。このサイクルを繰り返した。500サイクル後の放電容量を10サイクル後の放電容量と比較し、容量維持率とした。得られた容量維持率に基づきサイクル特性を以下の評価基準で評価した。
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が85%以上90%未満
C:容量維持率が80%以上85%未満
D:容量維持率が80%未満
【0060】
(絶縁層及び活物質層の厚み)
絶縁層の厚みは、以下の方法により測定した。絶縁層が形成された電極に対し、イオンミリング方式で断面を露出させた。露出した断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。観察は電極の絶縁層の表層から底部まで見えるような視野とした。断面倍率は、20000倍で行った。得られた画像に対し、画像解析ソフト(Image J)を使用しランダムに正極活物質層と絶縁層の界面から絶縁層表面までの長さを、電極集電体に対して垂直方向に計測した。1枚の画像につき、10点測定し、平均値を絶縁層の厚さとした。
正極活物質層及び負極活物質層の厚みについては、同様の方法で断面を露出させて、SEM(走査電子顕微鏡)で観察し、10点平均の値を正極活物質層又は負極活物質層の厚みとした。
【0061】
(重量平均分子量の測定方法)
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、明細書記載の条件にて測定した。
【0062】
<実施例1>
[正極の作製]
(正極活物質層の作製)
正極活物質としての平均粒子径10μmのリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2:NCM622)92質量部と、導電助剤としての一次粒子径30nmのケッチェンブラック4質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン樹脂4質量部と、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合し、固形分濃度60質量%に調整したスラリー(正極活物質層用組成物)を得た。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に両面塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。乾燥後、アルミニウム箔を400kN/mで加圧プレスして密度3.0g/ccの正極活物質層を得た。それぞれの正極活物質層の厚みは50μmであった。
【0063】
(絶縁層用のスラリー組成物の作製)
ポリビニルブチラール樹脂(PVB1)をNMPに5質量%で溶解したものをバインダー溶液として用意した。
無機粒子としてのアルミナ粒子(サソール社製、製品名「APA―3AFS」、平均粒子径0.5μm)を、中程度の剪断力を加えながら、上記バインダー溶液に混合して混合物を得た。この際、アルミナ粒子及びポリビルブチラール樹脂は絶縁層中の量が表1のとおりになるように調節して配合した。
その後NMPを混合物に注ぎ、固形分濃度が30質量%となるよう調整して、撹拌機で30分間穏やかに撹拌し、目開き80μmのフィルターでろ過し、絶縁層用のスラリー組成物を得た。スラリーの粘度は、B型粘度計、60rpm、25℃の条件で30mPa・sであった。
【0064】
なお、各実施例及び比較例で使用したポリビニルブチラール樹脂の詳細は以下のとおりである。
PVB1:積水化学工業株式会社製「エスレックBH-3」、重量平均分子量110,000、水酸基量34モル%、アセタール化度65モル%、アセチル基量1モル%
PVB2:積水化学工業株式会社製「エスレックBH-6」、重量平均分子量92,000、水酸基量30モル%、アセタール化度69モル%、アセチル基量1モル%
PVB3:積水化学工業株式会社製「エスレックBH-S」、重量平均分子量66,000、水酸基量23モル%、アセタール化度76モル%、アセチル基量1モル%
【0065】
(絶縁層の作製)
得られた絶縁層用のスラリー組成物を、バーコーターで、正極活物質層の表面に塗布した。スラリー組成物を塗布して形成した塗膜を60℃で10分間乾燥することによって、正極活物質層の表面に絶縁層を形成した。これにより、正極集電体の両面に正極活物質層及び絶縁層がこの順に形成された正極(絶縁層付き正極)を得た。
【0066】
[負極の作製]
負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径10μm)100質量部と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースNaを1.5質量部と、溶媒としての水とを混合し、固形分濃度50質量%に調整したスラリー(負極活物質層用組成物)を得た。このスラリーを厚さ12μm銅箔に両面塗布し、100℃で真空乾燥した。電極を500kN/mで加圧プレスして、厚み50μm、1.6g/ccの負極活物質層を形成して、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を得た。
【0067】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比で混合した溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解して、電解液を調製した。
【0068】
[リチウムイオン二次電池の作製]
セパレータとして、厚み15μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用意した。上記で作製した負極6枚と、絶縁層付き正極5枚とをこれらの間にセパレータを介して交互に積層して積層体を得た。正極サイズは110mm×95mm、負極サイズは120mm×100mm、セパレータサイズは140mm×120mmであった。
【0069】
上記積層体の各正極集電体の露出部の端部を纏めて超音波溶着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。同様に、各負極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。次いで、アルミラミネートフィルムで積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止した。封止せずに残した一辺から、上記で得た電解液8gを注入し、真空封止することによってラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0070】
<実施例2~9、比較例1~5>
ポリビニルブチラール樹脂の種類、及び配合量、並びに絶縁層を作製する際の塗膜の乾燥条件を表1、2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0071】
【0072】
以上の実施例では、正極活物質としてニッケル含有量の多いリチウム系化合物を用いているが、特定のポリビニルブチラール樹脂及びN-メチル-2-ピロリドンの含有量を特定範囲とした絶縁層を用いることにより、安全性を確保しつつも、出力特性、及びサイクル特性を向上させることができた。
【0073】
それに対して、比較例では、特定のポリビニルブチラール樹脂やNMPの含有量が所定の範囲外の絶縁層を使用しているため、安全性、出力特性、及びサイクル特性のすべてを良好にすることができなかった。