IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ドライケミカル株式会社の特許一覧

特開2022-146893防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備
<>
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図1
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図2
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図3
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図4
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図5
  • 特開-防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146893
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/06 20060101AFI20220928BHJP
   A62C 37/40 20060101ALI20220928BHJP
   A62C 35/62 20060101ALI20220928BHJP
   F17C 13/12 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A62C3/06 Z
A62C37/40
A62C35/62
F17C13/12 301A
F17C13/12 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025239
(22)【出願日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021047219
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229405
【氏名又は名称】日本ドライケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】林 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 千秋
【テーマコード(参考)】
2E189
3E172
【Fターム(参考)】
2E189CA06
2E189CA09
2E189CC01
2E189CE04
2E189GB02
2E189GB04
2E189GB05
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BA04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD03
3E172BD04
3E172DA75
3E172EA02
3E172EB02
3E172KA02
3E172KA03
3E172KA11
3E172KA21
3E172KA30
(57)【要約】
【課題】溶栓式安全弁の再閉塞を防止することができ、また、大気中に放出された水素のジェット火炎を可視化することが可能な防災設備を提供する。
【解決手段】火災発生時に、溶栓式安全弁102が装着された水素貯蔵容器100を冷却するための防災設備1であって、水素貯蔵容器100を冷却するための冷却水11aと、冷却水11aを供給するための第1配管15と、第1配管15に連絡し、水素貯蔵容器100に向けて冷却水11aを噴射させることが可能なノズル14と、を備え、ノズル14から水素貯蔵容器100に噴射される冷却水11aによって、溶栓式安全弁102が被水しない構成としてある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災発生時に、溶栓式安全弁が装着された水素貯蔵容器を冷却するための防災設備であって、
前記水素貯蔵容器を冷却するための冷却水と、
前記冷却水を供給するための第1配管と、
前記第1配管に連絡し、前記水素貯蔵容器に向けて前記冷却水を噴射させることが可能なノズルと、
を備え、
前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない構成としたことを特徴とする防災設備。
【請求項2】
前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない位置に前記ノズルを設置した請求項1に記載の防災設備。
【請求項3】
前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない向きに前記ノズルを設置した請求項1又は2に記載の防災設備。
【請求項4】
前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水の噴射パターンを、前記溶栓式安全弁が被水しない噴射パターンとした請求項1~3のいずれか1項に記載の防災設備。
【請求項5】
前記溶栓式安全弁の方向に飛散及び/又は流動する前記冷却水を遮断するための遮蔽板を設けることによって、前記溶栓式安全弁が被水しないようにした請求項1~4のいずれか1項に記載の防災設備。
【請求項6】
前記冷却水に増粘性又はゲル化性を与える物質を添加することによって、前記水素貯蔵容器の表面に付着させた前記冷却水の粘度を上昇させ、前記溶栓式安全弁が被水しないようにした請求項1~5のいずれか1項に記載の防災設備。
【請求項7】
前記冷却水に増粘性又はゲル化性を与える物質が、チキソトロピー性を有する物質である請求項6に記載の防災設備。
【請求項8】
前記冷却水に濡れ性を与える物質を添加することによって、前記水素貯蔵容器の表面に対する前記冷却水の表面張力を低下させ、前記溶栓式安全弁が被水しないようにした請求項1~5のいずれか1項に記載の防災設備。
【請求項9】
前記冷却水に濡れ性を与える物質が、界面活性剤である請求項8に記載の防災設備。
【請求項10】
前記溶栓式安全弁を介して前記水素貯蔵容器から放出された水素に、炎色反応を生じさせる物質を混合させる構成とした請求項1~9のいずれか1に記載の防災設備。
【請求項11】
前記溶栓式安全弁の出口に連絡する第2配管を備え、前記第2配管の出口付近で、前記炎色反応を生じさせる物質を噴射させることによって、前記水素貯蔵容器から放出された水素に、前記炎色反応を生じさせる物質を混合させる請求項10に記載の防災設備。
【請求項12】
前記炎色反応を生じさせる物質が、塩化ナトリウム水溶液である請求項10又は11に記載の防災設備。
【請求項13】
前記水素貯蔵容器と同じ場所に設置された火災感知器と、
前記火災感知器からの信号に基づいて、前記冷却水の供給を開始させる制御部と、
を備えた請求項1~12のいずれか1項に記載の防災設備。
【請求項14】
溶栓式安全弁が装着された少なくとも1つの水素貯蔵容器が搭載された燃料電池車両であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の防災設備を備えたことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項15】
溶栓式安全弁が装着された複数の水素貯蔵容器が荷台に積載された水素トレーラであって、請求項1~13のいずれか1項に記載の防災設備を備えたことを特徴とする水素トレーラ。
【請求項16】
溶栓式安全弁が装着された少なくとも1つの水素貯蔵容器が設置された定置式設備であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の防災設備を備えたことを特徴とする定置式設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災発生時に、溶栓式安全弁が装着された水素貯蔵容器を冷却するための防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、次世代エネルギーの1つとして「水素」が普及しつつある。水素は、エネルギーとして利用してもCOを排出しない特徴がある。例えば、水素は、水素製造プラントで製造される。水素製造プラントで製造された水素は、水素トレーラによって輸送され、水素ステーションに貯蔵される。水素ステーションに貯蔵された水素は、乗用車、オートバイ、バス及びトラックなどの燃料電池車両に提供され、燃料電池の発電に使用される。
【0003】
水素ステーションや燃料電池車両に使用される外販用の水素は、複合容器に充填された圧縮水素の形態で貯蔵及び輸送することが一般に普及している。また、工業用の水素は、-253℃に冷却した液化水素の形態で貯蔵及び輸送することが行われている。さらに、水素をトルエン等の有機物に化合させて有機ハイドライド(例えば、MCH:メチルシクロヘキサン)の形態で貯蔵及び輸送することが実用化の段階にある。その他、水素をアンモニア(NH)として貯蔵及び輸送すること、及び合金に水素原子を吸蔵させて貯蔵及び輸送することなどが検討されている。
【0004】
ここで、圧縮水素が充填される複合容器は、アルミニウム製ライナーを炭素繊維強化プラスチックで被覆した構成となっている。圧縮水素が充填された複合容器が火災に遭遇した場合、火熱によって内圧が上昇し、複合容器が破裂する危険がある。このため、従来の複合容器には、高温時に容器内の水素を自動的に放出させるための溶栓式安全弁が設けられている。
【0005】
例えば、特開2015-230071号公報の図4には、溶栓式安全弁Abが設けられた複数の高圧水素容器Aを備えた水素トレーラ1が開示されている。特開2015-230071号公報の図6図8に示されるように、各高圧水素容器Aの溶栓式安全弁Abは、放出配管80に接続される。火災発生時の高温によって溶栓式安全弁Abが溶融すると、高圧水素容器A内の水素が、放出管80から大気中へ放出される。
【0006】
特開2017-038789号公報の図1及び図2には、火災を消火するための水を供給する第1の供給ライン25と、第1の供給ライン25よりも少量の水を供給する第2の供給ライン26とを備えた水素ステーションが開示されている。火災などの異常が検出された場合は、第1の供給ライン25から水噴霧ヘッド24に対して、消火に十分な量の水が供給される。一方、貯蔵タンク13の表面温度が上昇した場合は、第2の供給ライン26から水噴霧ヘッド24に対して、冷却のための少量の水が供給される。
【0007】
特開2006-271900号公報の図1には、水素貯蔵タンク2及び水素ディスペンサ3からの水素漏洩を検知したときに、複数のミストノズル6からミストを放出させて、防護区域内の湿度を高める構成の水素ステーションが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-230071号公報
【特許文献2】特開2017-038789号公報
【特許文献3】特開2006-271900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複合容器に設けられる溶栓式安全弁の作動温度は、一般的に約110℃に設定されており、燃料電池車両の複合容器(例えば、内圧15MPa、容積47L)であれば、容器内の水素は、溶栓式安全弁が作動してから約1分で大気中への放出が完了する。しかし、一旦作動した溶栓式安全弁が、冷却水又は消火剤によって被水すると、溶栓の金属が再凝固し、水素を放出するための流路が再閉塞されてしまう。このため、火災発生時において、容器内から大気中への水素の放出時間が遅延してしまい、複合容器が破裂してしまうおそれがある。複合容器が破裂すると、容器の破片が燃えたまま飛翔し、火災現場の周辺に大きな被害が生じるため、複合容器の破裂は、何としてでも回避しなければならない。したがって、火災発生から一刻も早く、容器内の全ての水素を大気中へ放出させて、複合容器を空にすることが重要となる。
【0010】
一方、容器内の水素は、溶栓式安全弁から水素放出配管を通過し、高い圧力で水素放出管の出口から大気中に放出される。水素放出配管の出口から放出された水素に引火した場合は、水素のジェット火炎が形成される。高い圧力で放出される水素のジェット炎は、消火が困難であるため、延焼しないように監視しながら水素の燃焼を継続させることが、基本的な対応措置となっている。しかし、水素が燃焼したときの炎の色は無色透明に近いため、水素のジェット火炎を目視で捉えることが困難である。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、溶栓式安全弁の再閉塞を防止することができ、また、大気中に放出された水素のジェット火炎を可視化することが可能な防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明の防災設備は、火災発生時に、溶栓式安全弁が装着された水素貯蔵容器を冷却するための防災設備であって、前記水素貯蔵容器を冷却するための冷却水と、前記冷却水を供給するための第1配管と、前記第1配管に連絡し、前記水素貯蔵容器に向けて前記冷却水を噴射させることが可能なノズルと、を備え、前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない構成としたことを特徴とする。
【0013】
(2)好ましくは、上記(1)の防災設備において、前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない位置に前記ノズルを設置する。
【0014】
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)の防災設備において、前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水によって、前記溶栓式安全弁が被水しない向きに前記ノズルを設置する。
【0015】
(4)好ましくは、上記(1)~(3)のいずれかの防災設備において、前記ノズルから前記水素貯蔵容器に噴射される前記冷却水の噴射パターンを、前記溶栓式安全弁が被水しない噴射パターンとする。
【0016】
(5)好ましくは、上記(1)~(4)のいずれかの防災設備において、前記溶栓式安全弁の方向に飛散及び/又は流動する前記冷却水を遮断するための遮蔽板を設けることによって、前記溶栓式安全弁が被水しないようにする。
【0017】
(6)好ましくは、上記(1)~(5)のいずれかの防災設備において、前記冷却水に増粘性又はゲル化性を与える物質を添加することによって、前記水素貯蔵容器の表面に付着させた前記冷却水の粘度を上昇させ、前記溶栓式安全弁が被水しないようにする。
【0018】
(7)好ましくは、上記(6)の防災設備において、前記冷却水に増粘性又はゲル化性を与える物質が、チキソトロピー性を有する物質である。
【0019】
(8)好ましくは、上記(1)~(5)のいずれかの防災設備において、前記冷却水に濡れ性を与える物質を添加することによって、前記水素貯蔵容器の表面に対する前記冷却水の表面張力を低下させ、前記溶栓式安全弁が被水しないようにする。
【0020】
(9)好ましくは、上記(8)の防災設備において、前記冷却水に濡れ性を与える物質が、界面活性剤である。
【0021】
(10)好ましくは、上記(1)~(9)のいずれかの防災設備において、前記溶栓式安全弁を介して前記水素貯蔵容器から放出された水素に、炎色反応を生じさせる物質を混合させる構成とする。
【0022】
(11)好ましくは、上記(10)の防災設備において、前記溶栓式安全弁の出口に連絡する第2配管を備え、前記第2配管の出口付近で、前記炎色反応を生じさせる物質を噴射させることによって、前記水素貯蔵容器から放出された水素に、前記炎色反応を生じさせる物質を混合させる。
【0023】
(12)好ましくは、上記(10)又は(11)の防災設備において、前記炎色反応を生じさせる物質が、塩化ナトリウム水溶液である。
【0024】
(13)好ましくは、上記(1)~(12)の防災設備が、前記水素貯蔵容器と同じ場所に設置された火災感知器と、前記火災感知器からの信号に基づいて、前記冷却水の供給を開始させる制御部と、を備える。
【0025】
(14)上記目的を達成するために、本発明の燃料電池車両は、溶栓式安全弁が装着された少なくとも1つの水素貯蔵容器が搭載された燃料電池車両であって、上記(1)~(13)のいずれかの防災設備を備えたことを特徴とする。
【0026】
(15)上記目的を達成するために、本発明の水素トレーラは、溶栓式安全弁が装着された複数の水素貯蔵容器が荷台に積載された水素トレーラであって、上記(1)~(13)のいずれかの防災設備を備えたことを特徴とする。
【0027】
(16)上記目的を達成するために、本発明の定置式設備は、溶栓式安全弁が装着された少なくとも1つの水素貯蔵容器が設置された定置式設備であって、上記(1)~(13)のいずれかの防災設備を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備によれば、溶栓式安全弁の再閉塞を防止することができ、また、大気中に放出された水素のジェット火炎を可視化することが可能となる。これにより、火災発生時における水素貯蔵容器の破裂を回避することができ、また、水素のジェット火炎を目視で監視することにより火災の延焼を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る防災設備を示す概略図である。
図2図2は、本発明の第2実施形態に係る防災設備を示す概略図である。
図3図3は、本発明の第3実施形態に係る防災設備を示す概略図である。
図4図4(a)は、第1実施形態に係る防災設備を構成するノズルの正面図である。図4(b)は、前記ノズルの側面図である。図4(c)は、前記ノズルの底面図である。図4(d)は、前記ノズルの噴射角度及び噴射パターンを示す部分拡大図である。図4(e)は、第1実施形態に係る防災設備を構成する水素放出配管の出口付近を示す部分拡大断面図である。図4(f)は、第2及び第3実施形態に係る防災設備を構成する水素放出配管の出口付近を示す部分拡大断面図である。
図5図5(a)~(c)は、溶栓式安全弁の被水を防止するための遮蔽板を示す概略図である。
図6図6(a)は、本発明の実施形態に係る燃料電池車両を示す概略図である。図6(b)は、本発明の実施形態に係る水素トレーラを示す概略図である。図6(c)は、本発明の実施形態に係る定置式設備を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
1.防災設備の第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る防災設備1を示す。防災設備1は、火災発生時に水素貯蔵容器100を冷却するためのものであり、例えば、図6(a)~(c)に示されるような燃料電池車両2、水素トレーラ3、及び水素ステーションや水素製造プラントなどの定置式設備4に設けられる。水素貯蔵容器100には、火災発生時に容器内の水素を放出するための溶栓式安全弁102が設けられている。防災設備1は、火災発生時における水素貯蔵容器100の破裂を防止すること、及び/又は、大気中に放出された水素のジェット火炎を可視化することを目的としている。
【0032】
図1に示されるように、防災設備1は、主として、水素貯蔵容器100の破裂を防止するための第1の機械的要素のグループと、水素のジェット火炎を可視化するための第2の機械的要素のグループとで構成される。理解を容易にするため、第1及び第2の機械的要素のグループは、図1中の一点鎖線を境界にして、図中の上下に概念的に区分けされる。但し、火災報知器30及び制御部40は、第1及び第2の機械的要素のグループの両方の制御処理を行う。
【0033】
1-1.水素貯蔵容器の破裂を防止するための構成
図1中の一点鎖線の下に示されるように、第1の機械的要素のグループには、冷却水タンク11、ポンプ12、第1電動弁13、第1ノズル14及び第1配管15が含まれる。冷却水タンク11内には、火災発生時に水素貯蔵容器100を冷却するための冷却水11aが貯蔵されている。ポンプ12の入口は、第1配管15を介して、冷却水タンク11の出口に接続されている。ポンプ12の出口は、第1配管15を介して、第1電動弁13の入口に接続されている。第1電動弁13の出口は、第1配管15を介して、第1ノズル14の入口に接続されている。ポンプ12及び第1電動弁13は、制御部40に電気的に接続されており、制御部40によって動作を制御される。火災感知器30は、水素貯蔵容器100が設置された防護区域内に設置されている。
【0034】
火災感知器30は、例えば、熱、炎及び煙のうちの少なくとも1つ以上を検知し、制御部40に信号を出力する。制御部40は、火災感知器30からの信号に基づいて、ポンプ12を作動させるとともに、第1電動弁13を開状態にする。これにより、冷却水タンク11に貯蔵された冷却水11aが、ポンプ12に吸引され、第1配管15を介して、第1ノズル14から水素貯蔵容器100に噴射される。第1ノズル14から噴射された冷却水11aによって、火災発生時に水素貯蔵容器100が冷却され、水素貯蔵容器100の加熱による破裂が抑制される。
【0035】
1-1-1.溶栓式安全弁の被水を防止するための構成
冷却水11aによって水素貯蔵容器100を冷却するだけでは、水素貯蔵容器100の破裂を防止することはできない。水素貯蔵容器100の破裂を防止するためには、火災発生から一刻も早く、水素貯蔵容器100内の全ての水素を大気中へ放出させて、水素貯蔵容器100を空にすることが必要である。図1に示されるように、水素貯蔵容器100内の水素は、火災発生時の火熱によって、溶栓式安全弁102の溶栓が溶融することにより放出される。ところが、第1ノズル14から噴射された冷却水11aによって、溶栓式安全弁102が被水すると、溶融した溶栓が冷却されて溶栓式安全弁102の出口が再閉塞されるおそれがある。このため、本実施形態の防災装置1では、溶栓式安全弁102の被水を防止するための以下の構成が設けられている。
【0036】
1-1-2.第1ノズル
第1ノズル14は、水素貯蔵容器100に噴射される冷却水11aによって、溶栓式安全弁102が被水しない位置及び向きに設置されている。図1に示されるように、第1ノズル14は、溶栓式安全弁102から離れた水素貯蔵容器100の中央に設置され、且つ冷却水11aが水素貯蔵容器100の中央に噴射される向きに設置されている。
【0037】
また、第1ノズル14は、水素貯蔵容器100の中央に噴射される冷却水11aが、溶栓式安全弁102に被水しない噴射角度、噴射パターンとなるように構成してある。図4(a)~(c)に示されるように、第1ノズル14の先端には、噴射口が形成されたチップ14aと、このチップ14aを保持するためのリテーナ14bとが設けられている。第1ノズル14の噴射角度、噴射パターンは、これらチップ14a及びリテーナ14bの構成によって調整することが可能である。チップ14aには、略楕円形状の噴射口と、この噴射口を包囲する横方向に延びる溝とが形成されている。一方、リテーナ14bには、チップ14aの横方向に延びる溝の両端に対応する断面逆U字形状の一対の切欠部が形成されている。これら噴射口、溝及び切欠部の寸法によって、第1ノズル14の噴射角度、噴射パターンが決定される。図4(d)に示されるように、第1ノズル14の噴射角度は、例えば、15°~115°の範囲内に設定される。また、第1ノズル14の噴射パターンは、ほぼ全域にわたり均等な流量分布を示す扇形(図1を参照)となるようにしてある。
【0038】
1-1-3.冷却水
第1ノズル14から噴射される冷却水11aには、その物性に影響を与える所定の添加物が添加される。例えば、冷却水11aに増粘性又はゲル化性等を与える物質、例えばアルギン酸ナトリウム、セルロース、アラビアガム、ペクチン、ゼラチン、ポリエチレングリコールなどの物質、スメクタイト、ベントナイト及びモンモリロナイト等のコロイド性含水ケイ酸塩を含有する鉱物、コロイド性含水ケイ酸塩からなる合成無機高分子化合物、キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類等を添加することで、水素貯蔵容器100への付着性が向上する。増粘性又はゲル化性等を与える物質の中でも、特にチキソトロピー性を与える物質を添加することによって、冷却水11aは、せん断応力を受けると粘度が低下し、せん断応力を受けない状態では粘度が上昇する性質を得る。このようなチキソトロピー性により、第1ノズル14から噴射されるときの冷却水11aの粘度は低下する。その後、水素貯蔵容器100の表面に付着した冷却水11aの粘度が上昇し、溶栓式安全弁102が被水しにくくなる。
【0039】
冷却水11aにチキソトロピー性を与える物質は、特に限定されるものではなく、例えば、スメクタイト、ベントナイト及びモンモリロナイト等のコロイド性含水ケイ酸塩を含有する鉱物、コロイド性含水ケイ酸塩からなる合成無機高分子化合物、キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類を用いることができる。より好ましくは、キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類を用いるとよい。キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類は、食品に用いられるものであり、人間及び動物に無害だからである。
【0040】
また例えば、冷却水11aに濡れ性を与える物質を添加することによって、水素貯蔵容器100の表面に付着させた冷却水11aの表面張力を低下させ、溶栓式安全弁102が被水しないようにしてもよい。濡れ性を与える物質として、界面活性剤、有機溶剤、アルコール類、高分子化合物、脂肪酸類、油脂類、分散剤等が挙げられ、特に、界面活性剤が好ましい。界面活性剤が添加されることによって、冷却水11aと接触面との間の接触角が小さくなり、水素貯蔵容器100の表面に付着しやすくなる。このような冷却水11aの表面張力を低下させることにより、溶栓式安全弁102が被水しにくくなる。
【0041】
界面活性剤としては、特に制限されないが、環境への悪影響を抑制する観点から、炭化水素系界面活性剤が好ましい。炭化水素系界面活性剤は、疎水基が炭素及び水素からなる。炭化水素系界面活性剤としては、炭化水素系ノニオン界面活性剤、炭化水素系カチオン界面活性剤、炭化水素系アニオン界面活性剤、炭化水素系両性界面活性剤が挙げられ、濡れ性の観点から、炭化水素系ノニオン界面活性剤が好ましい。炭化水素系ノニオン界面活性剤は、濡れ性の観点から、グリフィン法によって求めたHLBが3~20のものが好ましく、HLBが8~16であるものがより好ましい。
【0042】
ここで、HLBとはHydrophilic-Lipophilic Balanceの頭文字で界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値である。HLBは0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。HLBは、計算によって決定する方法(アトラス法、グリフィン法、デイビス法、川上法等)が知られているが、本明細書におけるHLBは、グリフィン法によって求めた値である。
【0043】
なお、界面活性剤を2種以上使用する場合は、HLBは、各成分のHLB値の加重平均となり、界面活性剤が2種類の場合は、次式で表示される。
HLB=N HLB×W+N HLB×W
ここで、N HLB・ HLB:各界面活性剤のHLB
・W:各界面活性剤の重量分率(W+W=1)
以下、界面活性剤が3種類以上の場合も同様の計算方式でHLBを求めることができる。
【0044】
炭化水素系ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンアルキルフェノール型、ポリオキシエチレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレンアルキルアミド型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、プロピレングリコール脂肪酸エステル型、プロピレングリコール脂肪酸ジポリオキシエチレンラノリンエーテル型、脂肪族アルカノールアマイド型、ポリオキシエチレンヒマシ油型、ポリオキシエチレン多価アルコール型、多価アルコール脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル型等のノニオン界面活性剤が挙げられ、より具体的には、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンヒマシ油等が挙げられる。これらは、例えば花王株式会社のレオドールSP-S30V、青木油脂工業株式会社のブラウノンシリーズのBR-404、EN-1502及びEN-1504、並びにファインサーフシリーズのD-1303及びTD-50等で市販されている。炭化水素系ノニオン界面活性剤は、1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
炭化水素系カチオン界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、EO付加アンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。炭化水素系カチオン界面活性剤は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
炭化水素系アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキル硫酸エステル塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、スルホコハク酸塩、メチルタウリン酸塩、アラニネート及びその塩等が挙げられる。炭化水素系アニオン界面活性剤は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
炭化水素系両性界面活性剤としては、例えば、アラニン型、イミダゾリニウムベタイン型、アミノプロピルベタイン型、アミノジプロピオン型の両性界面活性剤等が挙げられる。好ましくはイミダゾリニウムベタイン型の両性界面活性剤が挙げられる。炭化水素系両性界面活性剤は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
脂肪酸としては、直鎖又は分岐のいずれでもよく、天然又は合成のいずれでもよく、飽和又は不飽和のいずれでもよく、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、牛脂脂肪酸、オレイン酸、ヒマシ硬化脂肪酸、リノール酸、パルミトレイン酸、リノレン酸等が挙げられる。脂肪酸は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
有機溶剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類、エチレンオキシドの付加モル数が3~10のポリオキシエチレン低級アルキルエーテルなどが挙げられる。有機溶剤は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系誘導体、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。高分子化合物は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸系、アルキルナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、アルキルアミン型、アルキルフェノール型の分散剤等が挙げられる。分散剤は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
アルコール類としては、メタノールやエタノール等の低級アルコールやラウリルアルコールやミリスチルアルコール等の高級アルコール、グリセリンやソルビトール等のグリコール以外の多価アルコール等が挙げられる。アルコール類は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
油脂類としては、天然油脂及び合成油脂のいずれであってもよく、加工油、シリコーン油、鉱物油、ワックス等が挙げられる。油脂類は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
冷却水11aは、消火能力を向上させる観点から、カリウム塩を含むことが好ましい。
カリウム塩としては、無機カリウム塩及び有機カリウム塩が挙げられ、 無機カリウム塩としては、水酸化カリウム、四ホウ酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム等が挙げられ、有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウム、クエン酸カリウム、乳酸カリウム、酒石酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム、グリコール酸カリウム等が挙げられる。 カリウム塩は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、労働安全衛生法に抵触せず、環境への影響抑制の点から、有機カリウム塩が好ましく、医薬品原料としても使用されている酢酸カリウムがより好ましい。
【0055】
冷却水11aは、着色抑制及び凝固点を低下させる観点から、グリコール類を含むことが好ましい。
グリコール類としては、炭素数2~10のものが好ましく挙げられ、具体的には、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルグリコール、エチルジグリコール、ブチルグリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。グリコール類は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、労働安全衛生法に抵触しない、環境への影響抑制の点から、プロピレングリコール及びジエチレングリコールが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
【0056】
冷却水11aは、耐燃焼性の観点から、リン酸エステル類を含むことが好ましい。
リン酸エステル類としては、モノメチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル;ジエチルホスファイト等の亜リン酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、脂肪族リン酸アミデート等が挙げられる。リン酸エステル類は1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、労働安全衛生法に抵触せず、環境への影響抑制の点から難燃効果の高い、酸性リン酸エステルが好ましい。
【0057】
さらに、第1ノズル14から噴射される冷却水11aに増粘性又はゲル化性又はチキソトロピー性又は濡れ性を与えることによって、溶栓式安全弁102が被水しにくくなるだけでなく、水素貯蔵容器100の表面を広く覆う水膜が形成され、水素貯蔵容器100の冷却効果が向上する。
【0058】
1-2.水素のジェット火炎を可視化するための構成
図1中の一点鎖線の上に示されるように、第2の機械的要素のグループには、水溶液タンク21、加圧容器22、イニシエータ22a、第2電動弁23、第2ノズル24及び第2配管25が含まれる。水溶液タンク21内には、炎色反応を生じさせる物質が添加された水溶液、例えば、塩化ナトリウム水溶液21aが貯蔵されている。加圧容器22内には、高圧ガスが充填されている。加圧容器22内に充填される高圧ガスは空気でもよいが、不活性ガスである炭酸ガス、窒素ガス又はこれらの混合ガスがより好ましい。加圧容器22の出口は、図示しない封板によって封鎖されている。加圧容器22の出口には、イニシエータ22aが取り付けられている。イニシエータ22aは、加圧容器22の封板を破くための電気発火式の点火具である。
【0059】
加圧容器22の出口は、第2配管25を介して、水溶液タンク21に接続されている。水溶液タンク21の出口は、第2配管25を介して、第2電動弁23の入口に接続されている。第2電動弁23の出口は、第2配管25を介して、第2ノズル24の入口に接続されている。第2ノズル24は、水素放出配管102aの出口付近に配置されている。イニシエータ22a及び第2電動弁23は、制御部40に電気的に接続されており、制御部40によって動作を制御される。
【0060】
制御部40は、火災感知器30からの信号に基づいて、イニシエータ22aを点火させた後に、第2電動弁23を開状態にする。イニシエータ22aを点火させることにより、加圧容器22の封板が破かれ、加圧容器22内の高圧ガスが、水溶液タンク21内に充填される。これにより、水溶液タンク21内の圧力が高まり、水溶液タンク21に貯蔵された塩化ナトリウム水溶液21aが、第2配管25を介して、第2ノズル24から水素放出配管102aの出口付近に噴射される。
【0061】
図4(e)に示されるように、第2ノズル24から噴射された塩化ナトリウム水溶液21aは、水素放出配管102aの出口から大気中に放出された水素100aに混合される。これにより、水素放出配管102aの出口から大気中に放出された水素100aに引火して、水素100aのジェット火炎が形成された場合でも、水素100aに混合された塩化ナトリウム水溶液21aが炎色反応を生じさせ、水素100aのジェット火炎が可視化される。具体的に、塩化ナトリウム水溶液21aの炎色反応は、水素100aのジェット火炎を黄色に着色する。
【0062】
1-2-1.水溶液
炎色反応を生じさせるための水溶液への添加物は、水溶性金属塩類や水溶性有機金属類などが挙げられ、塩化ナトリウム水溶液21aに限定されるものではない。例えば、塩化ナトリウム(Na)以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、銅(Cu)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)などを添加した水溶液を用いてもよい。塩化ナトリウム以外のアルカリ金属には、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などが含まれる。また、アルカリ土類金属には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などが含まれる。これらの物質を添加した水溶液によっても、水素100aのジェット火炎を可視化させるための炎色反応を生じさせることが可能である。
【0063】
1-2-2.水溶液の噴射タイミング
本実施形態では、火災感知器30からの信号に基づいて、塩化ナトリウム水溶液21aを噴出させることとしたが、このタイミングに限定されるものではない。例えば、防護区域内の温度が、溶栓式安全弁102の溶栓の溶融温度(例えば、110℃±10℃)に達したときに、炎色反応を生じさせるための水溶液が噴射される構成としてもよい。この場合は、防護区域内に温度センサを設置し、温度センサが検知した温度に基づいて、制御部40に水溶液の供給を開始させる。また例えば、水素放出配管102a内を流れる水素100aの流量に基づいて、炎色反応を生じさせるための水溶液が噴射される構成としてもよい。この場合は、水素放出配管102a内に流量センサを設置し、流量センサが検知した流量に基づいて、制御部40に水溶液の供給を開始させる。
【0064】
1-2-3.第2ノズル
本実施形態の第2ノズル24は、図4(a)~(d)に示される第1ノズル14と同じ構成としたが、これに限定されるものではない。水素放出配管102aの出口から大気中に放出された水素100aに、炎色反応を生じさせるための水溶液を混合させることが可能であれば、第1ノズル14と異なる構成のノズルを用いてもよい。
【0065】
2.防災設備の第2実施形態
図2は、本発明の第2実施形態に係る防災設備1を示す。第2実施形態に係る防災設備1は、ポンプ12によって水源から冷却水11aを汲み上げる構成となっている。この構成により、図1に示される冷却水タンク11は省略される。水源として、例えば、貯水槽、又は川、湖、海などの自然水利を利用する。このような第2実施形態に係る防災設備1は、図6(c)に示される水素ステーションや水素製造プラントなどの定置式設備4に好適である。
【0066】
また、第2実施形態に係る防災設備1は、水素放出配管102aの出口付近に設けられたベンチュリ管26に、水溶液タンク21の出口が接続された構成になっている。この構成により、図1に示される加圧容器22、イニシエータ22a及び第2電動弁23は省略される。ベンチュリ管26の構成は、図4(f)に示される。ベンチュリ管26の主管路26aの途中には、断面積が小さい絞り部26bが形成されている。絞り部26bには、副管路26cが連通している。図2に示される水溶液タンク21の出口は、第2配管25を介して、ベンチュリ管26の副管路26cに接続される。
【0067】
溶栓式安全弁102から放出された水素100aは、水素放出配管102aを通って、ベンチュリ管26の主管路26aを流れる。水素100aは、絞り部26bを通過するときに流速が速くなり、絞り部26bの圧力が低くなる。これにより、水溶液タンク21内の塩化ナトリウム水溶液21aが、副管路26cから絞り部26bの側に吸引され、主管路26aを流れる水素100aと混合される。このようなベンチュリ管26を利用した構成によれば、図1に示される火災感知器30、制御部40による制御処理なしで、主管路26aを流れる水素100aの単位時間あたりの流量に応じた、適量の塩化ナトリウム水溶液21aを混合させることが可能となる。
【0068】
3.防災設備の第3実施形態
図3は、本発明の第3実施形態に係る防災設備1を示す。第3実施形態に係る防災設備1は、図1及び図2に示される冷却水11aの代わりに、消火剤19aを水素貯蔵容器100に噴射させる構成となっている。消火剤19aは、火災発生時に水素貯蔵容器100を冷却するとともに、水素貯蔵容器100近傍の火炎を消火する役割を果たす。
【0069】
第3実施形態に係る防災設備1は、消火剤原液17、混合器18及び消火剤タンク19を備えた構成となっている。これら以外の構成は、図2に示される第2実施形態に係る防災設備1と同一である。混合器18は、水源から汲み上げた水を消火剤原液17と混合し、消火剤19aを生成する。混合器18によって生成された消火剤19aは、消火剤タンク19aに貯蔵される。
【0070】
消火剤タンク19に貯蔵された消火剤19aは、ポンプ12に吸引され、第1配管15を介して、第1ノズル14から水素貯蔵容器100に噴射される。第1ノズル14から噴射された消火剤19aによって、火災発生時に水素貯蔵容器100が冷却され、水素貯蔵容器100の加熱による破裂が抑制される。また、消火剤19aによって、水素貯蔵容器100近傍の火炎が消火され、水素貯蔵容器100への引火が防止される。
【0071】
4.溶栓式安全弁の被水を防止するためのオプション
火災発生時における溶栓式安全弁102の被水を防止するためのオプションとして、図5(a)~(c)に示されるような遮蔽板51~52を水素貯蔵容器100に装着してもよい。遮蔽板51~52によって、溶栓式安全弁102の方向に飛散及び/又は流動する冷却水11aが遮断される。これにより、冷却水11a(又は図3の消火剤19a)による溶栓式安全弁102の被水を防止することができる。
【0072】
図5(a)に示される遮蔽板51は、溶栓式安全弁102の上方を覆う面積を有するコンパクトな傘である。傘型の遮蔽板51によって、溶栓式安全弁102の上方から飛散及び/又は流動する冷却水11aを遮断することができる。
【0073】
図5(b)に示される遮蔽板52は、水素貯蔵容器100の半分の断面積と等しい半円筒状のカバーである。半円筒状のカバー型の遮蔽板52によって、溶栓式安全弁102の上方及び側方から飛散及び/又は流動する冷却水11aを遮断することができる。
【0074】
図5(c)に示される遮蔽板53は、水素貯蔵容器100の半分の断面積と等しい切欠部が形成された垂直な壁である。垂直な壁型の遮蔽板53によって、溶栓式安全弁102の上方及び側方から飛散及び/又は流動する冷却水11aを遮断することができる。
【0075】
5.防災設備の用途
図1図3に示される本実施形態の防災設備1は、例えば、図6(a)~(c)に示されるような燃料電池車両2、水素トレーラ3、及び水素ステーションや水素製造プラントなどの定置式設備4に適用することが可能である。
【0076】
5-1.燃料電池車両
図6(a)は、図1の防災設備1を備えた燃料電池車両2を示す。なお、図6(a)において、図1の防災設備1を構成するポンプ12、第1電動弁13、加圧容器22、イニシエータ22a、第2電動弁23、制御部40は、図示を省略する。
【0077】
燃料電池車両2は、2つの水素貯蔵容器100を備える。2つの水素貯蔵容器100のそれぞれには、元弁101(図1を参照)及び溶栓式安全弁102が設けられている。2つの溶栓式安全弁102の出口は、1つの水素放出配管102aに接続される。この水素放出配管102aの出口は、燃料電池車両2の天井を通って、車両の外部に配置されている。なお、図1に示される水素貯蔵容器100の元弁101は、水素供給配管101aを介して、燃料電池車両2の図示しない燃料電池に接続される。
【0078】
2つの水素貯蔵容器100の下方には、冷却水タンク11及び水溶液タンク21が配置されている。冷却水タンク11の出口は、1つの第1配管15に接続される。図示しないが、第1配管15の途中には、ポンプ12及び第1電動弁13が接続される(図1を参照)。
【0079】
2つの水素貯蔵容器100の上方には、第1配管15に接続された2つの第1ノズル14が配置される。一方、水溶液タンク21の出口は、1つの第2配管25に接続される。図示しないが、水溶液タンク21には、加圧容器22の出口に設けられたイニシエータ22aが接続され、及び第2配管25の途中には、第2電動弁23が接続される(図1を参照)。第2配管25の出口には、第2ノズル24が接続される。第2ノズル24は、燃料電池車両2の天井を通って、水素放出配管102aの出口付近に配置される。さらに、2つの水素貯蔵容器100の上方には、火災感知器30が設置される。
【0080】
燃料電池車両2で発生した火災は、火災感知器30によって検知される。制御部40は、火災感知器30からの信号に基づいて、冷却水タンク11内の冷却水11aの供給を開始させる。これにより、冷却水11aが、第1配管15を介して、2つの第1ノズル14から2つの水素貯蔵容器100に噴射される。各第1ノズル14から噴射された冷却水11aによって、各水素貯蔵容器100が冷却され、各水素貯蔵容器100の加熱による破裂が抑制される。
【0081】
一方、制御部40は、火災感知器30からの信号に基づいて、水溶液タンク21内の塩化ナトリウム水溶液21aの供給を開始させる。これにより、塩化ナトリウム水溶液21aが、第2配管25を介して、第2ノズル24から水素放出配管102aの出口付近に噴射される。塩化ナトリウム水溶液21aは、水素放出配管102aの出口から放出された水素100aと混合される。これにより、水素放出配管102aの出口から大気中に放出された水素100aに引火して、水素100aのジェット火炎が形成された場合でも、水素100aに混合された塩化ナトリウム水溶液21aが炎色反応を生じさせ、水素100aのジェット火炎が可視化される。
【0082】
5-2.水素トレーラ
図6(b)は、図1の防災設備1を備えた水素トレーラ3を示す。なお、図6(b)において、図1の防災設備1を構成するポンプ12、第1電動弁13、加圧容器22、イニシエータ22a、第2電動弁23、制御部40は、図示を省略する。
【0083】
図6(b)に示されるように、水素トレーラ3に設置された防災設備1の構成は、上述した図6(a)の燃料電池車両2の場合と同様である。但し、水素トレーラ3に積載される水素貯蔵容器100の数は、燃料電池車両2の場合よりも多く、また、1つの水素貯蔵容器100の容量も、燃料電池車両2の場合よりも大きい。例えば、水素トレーラ3には、24本の水素貯蔵容器100が積載される。1本の水素貯蔵容器100の容量は300Lであり、内圧は45MPaである。
【0084】
なお、図1に示される水素貯蔵容器100の元弁101は、水素供給配管101aを介して、水素トレーラ3の図示しない水素供給口に接続される。この水素供給口を介して、水素トレーラ3から水素ステーションの水素貯蔵タンクに水素100aが供給される。図6(b)に示される防災設備1の火災発生時における動作は、図6(a)の燃料電池車両2の場合と同様である。
【0085】
5-3.定置式設備
本実施形態の防災設備1は、上述した燃料電池車両2及び水素トレーラ3のような移動可能な車両に限らず、図6(c)に示される定置式設備4に設置することもできる。定置式設備4に設置された防災設備1の構成は、上述した図6(a)の燃料電池車両2の場合と同様である。また、図6(c)に示される防災設備1の火災発生時における動作も、図6(a)の燃料電池車両2の場合と同様である。
【0086】
6.作用効果
上述した本実施形態の防災設備1、この防災設備1を備えた燃料電池車両2、水素トレーラ3及び定置式設備4によれば、溶栓式安全弁102の再閉塞を防止することができ、また、大気中に放出された水素100aのジェット火炎を可視化することが可能となる。これにより、火災発生時における水素貯蔵容器100の破裂を回避することができ、また、水素100aのジェット火炎を目視で監視することにより火災の延焼を防止することが可能となる。
【0087】
7.その他
本発明の防災設備、この防災設備を備えた燃料電池車両、水素トレーラ及び定置式設備は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の防災設備の防護対象である水素貯蔵容器は、複合容器のようなタンク又はボンベの形態に限定されるものではない。また、水素貯蔵容器に貯蔵される水素は、圧縮水素の形態に限定されるものではない。本発明の防災設備は、例えば、液化水素、有機ハイドライド(例えば、MCH)、アンモニア(NH3)及び水素吸蔵合金などの各種形態の水素を貯蔵した容器に適用することが可能である。
【0088】
図1図3に示される防災設備1において、火災感知器30の代わりに、水素の漏洩を検知するための水素検知器を設置してもよい。また、1つの水素貯蔵容器100に対して、複数の第1ノズル14を設置してもよい。複数の第1ノズル14は、例えば、1つの水素貯蔵容器100の長手方向に並んで、溶栓式安全弁102が被水しない位置及び向きに設置される。
【0089】
図1に示される防災設備1を作動させるための手動起動スイッチを設けてもよい。この手動起動スイッチをONにすることにより、制御部40に信号が送信される。これにより、ポンプ12が作動し、第1電動弁13が開状態になる。また、手動起動スイッチをONにすることにより、制御部40は、イニシエータ22aを点火させた後に、第2電動弁23を開状態にする。
【0090】
図1に示される防災設備1からポンプ12を省略してもよい。この場合、冷却水タンク11を第1ノズル14よりも高所に設置し、第1配管15を介して、冷却水タンク11の出口を第1電動弁13の入口に接続する。このような構成によれば、冷却水タンク11と第1ノズル14と高低差による圧力によって、冷却水タンク11内の冷却水11aを第1ノズル14に供給することができる。また、図1に示される加圧容器22及びイニシエータ22aと同様の構成を冷却水タンク11に適用することによって、冷却水タンク11の冷却水11aを第1ノズル14に供給することもできる。
【0091】
図3に示される防災設備1から混合器18を省略してもよい。この場合、水と消火剤原液17とをあらかじめ混合した消火剤19aを、消火剤タンク19に貯蔵する。
【符号の説明】
【0092】
1 防災設備
11 冷却水タンク
11a 冷却水
12 ポンプ
13 第1電動弁
14 第1ノズル
14a チップ
14b リテーナ
15 第1配管
16 オリフィス管
17 消火剤原液
18 混合器
19 消火剤タンク
19a 消火剤
21 水溶液タンク
21a 塩化ナトリウム水溶液
22 加圧容器
22a イニシエータ
23 第2電動弁
24 第2ノズル
24a チップ
24b リテーナ
25 第2配管
26 ベンチュリ管
26a 主管路
26b 絞り部
26c 副管路
30 火災感知器
40 制御部
51、52、53 遮蔽板
100 水素貯蔵容器
100a 水素
101 元弁
101a 水素供給配管
102 溶栓式安全弁
102a 水素放出配管
2 燃料電池車両
3 水素トレーラ
4 定置式設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6