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特開2022-146896生体組織接着剤用噴霧器及び目詰まり防止容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146896
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】生体組織接着剤用噴霧器及び目詰まり防止容器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20220928BHJP
   A61J 1/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61B17/00 400
A61J1/00 Z
A61L24/00 230
A61L24/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029539
(22)【出願日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2021047677
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】竹川 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】川上 直哉
(72)【発明者】
【氏名】山中 一哲
【テーマコード(参考)】
4C047
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C047CC30
4C081AC04
4C081CD111
4C081CD20
4C081DA15
4C160MM18
(57)【要約】
【課題】 生体組織接着剤の断続的な塗布を確実に可能とする噴霧器を提供する。
【解決手段】 第1の成分を含む第1の溶液を噴射する第1のチューブ30と、第1の成分の凝塊形成を促進する第2の成分を含む第2の溶液を噴射する第2のチューブ30とを有し、第1のチューブから噴射された第1の溶液と第2のチューブから噴射された第2の溶液とを混合して生体組織接着剤を生成し噴霧する生体組織接着剤用噴霧器に、第1のチューブの遠位端31と第2のチューブの遠位端31との間に隔壁34を設けた。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分を含む第1の溶液を噴射する第1のチューブ(30)と、上記第1の成分の凝塊形成を促進する第2の成分を含む第2の溶液を噴射する第2のチューブ(30)とを有し、上記第1のチューブ(30)から噴射された前記第1の溶液と上記第2のチューブ(30)から噴射された前記第2の溶液とを混合して生体組織接着剤を生成し噴霧する生体組織接着剤用噴霧器であって、
前記第1のチューブ(30)の遠位端(31)と前記第2のチューブ(30)の遠位端(31)との間に隔壁(34)を設けたことを特徴とする生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項2】
前記生体組織接着剤用噴霧器(10)はスプレーヘッド(18)を有し、
前記スプレーヘッド(18)は中空のハウジング(21)を有し、
前記ハウジング(21)は、近位側から遠位側に延びる中心軸(20)と、前記中心軸(20)の近位側と遠位側にそれぞれ位置する近位部(22)及び遠位部(25)とを有し、
前記遠位部(25)は、前記近位側から前記遠位側に向かって平行に延びる第1の軸(26)と第2の軸(26)に沿って形成され、前記ハウジング(21)の内部(27)と外部(28)とを連通する第1の貫通孔(29)と第2の貫通孔(29)を有し、
前記第1のチューブ(30)と前記第2のチューブ(30)は前記第1の貫通孔(29)と前記第2の貫通孔(29)にそれぞれ挿通されて前記遠位部(25)の端面(33)から突出しており、
前記隔壁(34)は、前記遠位部(25)の前記端面(33)において前記第1の貫通孔(29)と前記第2の貫通孔(29)の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項3】
前記第1の貫通孔(29)の前記第1の軸(26)と前記第2の貫通孔(29)の第2の軸(26)は前記中心軸(20)に平行であることを特徴とする請求項2に記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項4】
前記第1の貫通孔(131)の前記第1の軸(130)と前記第2の貫通孔(131)の前記第2の軸(130)を含む面が前記中心軸(20)と斜めに交差していることを特徴とする請求項3に記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項5】
前記第1の貫通孔(29)の内径は前記第1のチューブ(30)の外径よりも大きく、前記第1の貫通孔(29)に挿通された前記第1のチューブ(30)の周囲には第1のガス噴射孔(32)が形成され、
前記第2の貫通孔(29)の内径は前記第2のチューブ(30)の外径よりも大きく、前記第2の貫通孔(29)に挿通された前記第2のチューブ(30)の周囲には第2のガス噴射孔(32)が形成され、
前記ハウジング(21)の前記内部(27)には無菌ガス供給管(35)が接続されており、
前記無菌ガス供給管(35)から前記ハウジング(21)の前記内部(27)に供給された無菌ガスが、前記第1の貫通孔(29)の内面と前記第1のチューブ(30)の外面との間に形成された第1のガス噴射孔(32)及び前記第2の貫通孔(29)の内面と前記第2のチューブ(30)の外面との間に形成された前記第2のガス噴射孔(32)から噴射されるように構成されていることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項6】
前記隔壁(34)は、前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)に平行で且つ前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)を含む面に垂直な面に沿って延在していることを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項7】
前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)を含む面に直交する第1の方向(z方向)における前記隔壁(34)の一端部又は他端部若しくは両端部は、前記端面(33)に沿って前記隔壁(34)から互いに遠ざかる第2の方向に延在する一対の防護壁(37)を有することを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載の生体組織接着剤用噴霧器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかの生体組織接着剤用噴霧器と共に使用される容器であって、前記ハウジングの末端部に着脱自在に装着可能な口部形状を有し、内部に生理食塩液が収容されることを特徴とする容器。
【請求項9】
生体組織接着剤用噴霧器と共に使用される容器であって、生体組織接着剤用噴霧器の遠位部が前記容器の底面に接触しないように、前記生体組織接着剤噴霧器に形成された係合部が係合する被係合部を備えていることを特徴とする請求項8に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織接着剤を噴霧して塗布する生体組織接着剤用噴霧器に関する。また、本発明は、生体組織接着剤用噴霧器と共に使用される目詰まり防止容器に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術では古くから組織を接着するために糸による縫合が行われてきたが、縫合のための組織への針穴による傷が生じたり、組織の接着に日数がかかる上、組織接着後には抜糸するなどの問題もあった。これらの解決のために1910年頃から縫合部の接着強化のためにフィブリンを使う研究が始まった。現在のフィブリン糊製剤の臨床応用は1944年、Tidrick RTらが皮膚移植の際にフィブリノゲンとトロンビンの2成分を用いたのが最初であるが、接着力が弱く、効果が不十分であった(非特許文献1)。
その後1970年に入り、タンパク質の精製技術が進み、高濃度のフィブリノゲンやトロンビンの溶液が分離できるようになると、両者の反応後にフィブリンの網目を強固にする血液凝固第XIII因子も発見された。(非特許文献2)。これらの技術の発展により、1978年には世界発のフィブリン糊製剤であるTisseel(登録商標:Immuno AG)が開発され、日本においては1988年にベリプラスト(登録商標)P(CSLベーリング株式会社)、1991年にボルヒール(登録商標:KMバイオロジクス株式会社)が発売された。フィブリン糊は4成分から構成され、フィブリノゲン(血液凝固第XIII因子を含む)凍結乾燥粉末をフィブリノゲン溶解液(アプロチニンを含む)で溶かしたA液を調製し、トロンビン凍結乾燥粉末をトロンビン溶解液(塩化カルシウムを含む)で溶かしたB液を調製する。A液とB液を組織の接着面で混合することで、組織の接着や閉鎖に用いられる。発売当初はA液またはB液の一方の溶液を適用部位に塗布し、これに他方の溶液を交互に被覆する「重層法」、あるいはA液とB液とを同時に塗布しながら混合する「混合法」で主に用いられていた。しかし、重層法ではフィブリンゲルを形成する前に大半のフィブリノゲン溶液が流れ落ちるという問題があり、混合法では形成されるフィブリンゲルが不均一であるという問題があった。このため、これらの方法ではフィブリン糊製剤の効力に限界があった。
【0003】
日本にとどまらず世界において、フィブリン糊製剤は発売以降、少しずつ市場での需要が拡大しているが、その一助として塗布器具の開発がある。先述のように、フィブリン糊はA液であるフィブリノゲン溶液とB液であるトロンビン溶液を混合するが、これを対象部位で均一に混合するガス式スプレー器具の開発により、強固で均一なフィブリンゲルの作製が可能となり、利便性と有効性が向上したことが市場で大変評価された(特許文献1、2)。このガス式スプレー器具の開発以降も、改良スプレーノズル、胸腔鏡下などで用いることが可能なスプレーノズル(特許文献3)、耳鼻咽喉科のための微量滴下器具(特許文献4)などが順次開発されるに伴い、フィブリン糊製剤は日本において発売から約30年を経た現在においても外科手術における重要な生体組織接着剤となっている。
フィブリン糊製剤の日本における適応は「組織の接着・閉鎖」であるが、様々な領域で幅広く用いられている。主な使用用途は、縫合部位の補強、損傷組織での止血、エアーおよび体液漏出の防止、組織欠損部の補填および被覆などである。主な診療領域としては、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、産婦人科、消化器外科であり、最近では口腔外科などでも用いられている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平03-047609号公報
【特許文献2】国際公開1994/07420号
【特許文献3】特開2001-157716号公報
【特許文献4】特開平7-184952号公報
【特許文献5】実登3172382公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tidrick RT, Warner ED. Fibrin fixation of skin transplants. Surg. 1944;15:90-5
【非特許文献2】一般社団法人日本血液製剤協会WEBサイト:http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/fibrin-paste/fib_02.html(2020年12月1日確認)
【非特許文献3】一般社団法人日本血液製剤協会WEBサイト:http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/fibrin-paste/fib_05_03.html(2020年12月1日確認)
【非特許文献4】CSLベーリング製品情報一覧ベリプラスト(登録商標)P コンビセット組織接着用「付属機器ハンドブック」WEBサイト:https://csl-info.com/products/beriplast05(2020年12月1日確認)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィブリン糊製剤は外科手術における重要なものとなっており、その背景として塗布器具の改良や進歩の貢献が大きい。特に圧縮空気等を利用したガス式スプレーは、均一な塗布や、両液の良好な混合の観点から、長年、医療現場で重宝されてきた。しかしながら、フィブリン糊製剤の特性上、スプレー先端で度々目詰まりを起こすことが従来からの課題とされており、近年各社から目詰まり対策を施したスプレーが発売されている。ベリプラスト(登録商標)Pコンビセット組織接着用(CSLベーリング株式会社)では、「ベリPショート先端詰まり予防タイプ」を開発し、トリプルベローズポンプシステムにより液垂れの原因となるノズル先端の残液を引き戻し、A液とB液が混合されないようにし、U字ダブルスリット形状の先端ノズルにより、先端詰まりの原因となる薬液の付着・蓄積を予防する仕様としている(非特許文献4)。また、ボルヒール(登録商標)組織接着用(KMバイオロジクス株式会社)は、「スプレードッグホルダータイプ」を開発した。これは生理食塩液を入れた容器(専用スタンド)に塗布器具スプレーの先端をつけることで、先端詰まりの原因となるスプレー先端に付着したA液とB液が生理食塩液で希釈され、2液が先端で固まらないようにしたものであると同時に、スプレーノズル先端で両液が乾燥により固まらないようにするためのものでもある(特許文献5)。
【0007】
「ベリPショート先端詰まり予防タイプ」はその目詰まり防止効果の面で課題を抱えており、また「スプレードッグホルダータイプ」については詰まり防止の効果は高いものの、限られた手術器具の設置スペースでは邪魔になることから、その医療ニーズを完全に満たすことができていない状況にある。以上のことから、フィブリン糊製剤の塗布器具スプレーにおいて、目詰まり防止と設置における利便性を兼ね備えた器具が望まれている。また、内視鏡手術用の先端の長いスプレーにおいては、「ベリPロングタイプ」に、目詰まり防止機能が搭載されていると記載されているが、その効果は低く、また目詰まり発生の理論上、解決には至っていない。ボルヒール用の「エンドスプレー32cmストレートタイプ」はスプレーの先端までの長さが長く、目詰まりが発生しやすい。一度噴霧を止めて、再度噴霧する場合、高い確率で目詰まりを起こすため、複数回の噴霧ができないおそれがある。
【0008】
また、フィブリン糊製剤は外科手術において、縫合部位の補強、損傷組織での止血、エアーおよび体液漏出の防止、組織欠損部の補填および被覆などに用いられるが、接着対象組織に近い距離でA液とB液を噴霧・混合する場合があり、噴霧前や後の段階において、術中に塗布器具スプレーの先端が対象組織に接触し、組織を傷つけることが理論上発生し得る。特に、内視鏡手術ではスプレー先端と臓器の距離が近くなりがちで、かつ、2次元画像からはその距離も測りにくいため、そのリスクが大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来のフィブリン糊製剤の塗布器具スプレーにおいて、先端詰まり防止のためのA液とB液の2液の噴霧口を隔てるための隔壁と組織愛護性を高めた適切な先端構造を見出した。
【0010】
さらに、塗布器具スプレー先端に取り付ける生理食塩液などの溶液を含んだ小型の目詰まり防止容器を見出した。
【0011】
具体的に、本発明に係る生体組織接着剤用噴霧器の実施形態は、第1の成分を含む第1の溶液を噴射する第1のチューブ(30)と、上記第1の成分の凝塊形成を促進する第2の成分を含む第2の溶液を噴射する第2のチューブ(30)とを有し、上記第1のチューブ(30)から噴射された前記第1の溶液と上記第2のチューブ(30)から噴射された前記第2の溶液とを混合して生体組織接着剤を生成し噴霧する生体組織接着剤用噴霧器において、前記第1のチューブ(30)の遠位端(31)と前記第2のチューブ(30)の遠位端(31)との間に隔壁(34)を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明の他の実施形態において、
前記生体組織接着剤用噴霧器(10)はスプレーヘッド(18)を有し、
前記スプレーヘッド(18)は中空のハウジング(21)を有し、
前記ハウジング(21)は、近位側から遠位側に延びる中心軸(20)と、前記中心軸(20)の近位側と遠位側にそれぞれ位置する近位部(22)及び遠位部(25)とを有し、
前記遠位部(25)は、前記近位側から前記遠位側に向かって平行に延びる第1の軸(26)と第2の軸(26)に沿って形成され、前記ハウジング(21)の内部(27)と外部(28)とを連通する第1の貫通孔(29)と第2の貫通孔(29)を有し、
前記第1のチューブ(30)と前記第2のチューブ(30)は前記第1の貫通孔(29)と前記第2の貫通孔(29)にそれぞれ挿通されて前記遠位部(25)の端面(33)から突出しており、
前記隔壁(34)は、前記遠位部(25)の前記端面(33)において前記第1の貫通孔(29)と前記第2の貫通孔(29)の間に設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の実施形態において、
前記第1の貫通孔(29)の前記第1の軸(26)と前記第2の貫通孔(29)の第2の軸(26)は前記中心軸(20)に平行であることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の実施形態において、
前記第1の貫通孔(131)の前記第1の軸(130)と前記第2の貫通孔(131)の前記第2の軸(130)を含む面が前記中心軸(20)と斜めに交差していることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の実施形態において、
前記第1の貫通孔(29)の内径は前記第1のチューブ(30)の外径よりも大きく、前記第1の貫通孔(29)に挿通された前記第1のチューブ(30)の周囲には第1のガス噴射孔(32)が形成され、
前記第2の貫通孔(29)の内径は前記第2のチューブ(30)の外径よりも大きく、前記第2の貫通孔(29)に挿通された前記第2のチューブ(30)の周囲には第2のガス噴射孔(32)が形成され、
前記ハウジング(21)の前記内部(27)には無菌ガス供給管(35)が接続されており、
前記無菌ガス供給管(35)から前記ハウジング(21)の前記内部(27)に供給された無菌ガスが、前記第1の貫通孔(29)の内面と前記第1のチューブ(30)の外面との間に形成された第1のガス噴射孔(32)及び前記第2の貫通孔(29)の内面と前記第2のチューブ(30)の外面との間に形成された前記第2のガス噴射孔(32)から噴射されるように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の他の実施形態において、
前記隔壁(34)は、前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)に平行で且つ前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)を含む面に垂直な面に沿って延在していることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の実施形態において、
前記第1の軸(26)と前記第2の軸(26)を含む面に直交する第1の方向(z方向)における前記隔壁(34)の一端部又は他端部若しくは両端部は、前記端面(33)に沿って前記隔壁(34)から互いに遠ざかる第2の方向に延在する一対の防護壁(37)を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上述の実施形態に係る生体組織接着剤用噴霧器と共に使用される容器であって、前記ハウジングの末端部に着脱自在に装着可能な口部形状を有し、内部に生理食塩液等の液体が収容されるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態に係る生体組織接着剤用噴霧器によれば、第1のチューブ(30)の遠位端(31)と第2のチューブ(30)の遠位端(31)がそれらの間に設けられた隔壁(34)によって分離されているため、噴霧中断時に第1と第2のチューブから漏れ出た溶液が第1と第2のチューブの遠位端付近で混じり合って凝固することがない。また、生体組織接着剤の2液に粘性の差がある場合、2液の流路での通液抵抗の差によって、粘性が低い方の液体が通るチューブ(30)内に、粘性が高い方の液体が吸い上げられる現象が発生し、チューブ(30)内で凝固・閉塞を引き起こすことも考えられるが、本発明の実施形態によれば、隔壁(34)により端面(33)での2液の混合を防ぎ、これを防止することができる。そのため、中断後も確実かつ迅速に生体組織接着剤の噴霧を再開できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る生体組織接着剤用噴霧器の斜視図。
図2図2は、図1に示す噴霧器のスプレーヘッドの横断面図。
図3図3は、図2に示すスプレーヘッドの遠位部の拡大斜視図。
図4図4は、図2に示すスプレーヘッドの遠位部の拡大断面図。
図5】他の形態のスプレーヘッド遠位部の拡大斜視図。
図6】他の形態のスプレーヘッド遠位部の拡大斜視図。
図7図6に示すスプレーヘッド遠位部の正面図。
図8図8は、本発明の実施形態2に係る生体組織接着剤用噴霧器に装着されるスプレーヘッドの斜視図。
図9図9(a)は図8に示すスプレーヘッドの遠位部の拡大断面図、図9(b)は図9(a)に示すスプレーヘッドの端面図。
図10図10は、スプレーヘッドの遠位端とそれに装着される小型目詰まり防止容器の拡大断面図。
図11図11は、スプレーヘッドの遠位端とそれに装着される他の小型目詰まり防止容器の拡大断面図。
図12図12は、防護壁(隔壁ガード)の無いスプレーヘッド遠位部の正面図。
図13図13(a)~図13(c)は隔壁と防護壁(隔壁ガード)を有するスプレーヘッド遠位部の正面図で、図13(a)は遠位部端面縁の全周に防護壁を形成した形態を表す図、図13(b)は隔壁から45度の範囲に防護壁を形成した形態を表す図、図13(c)は隔壁から22.5度の範囲に防護壁を形成した形態を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0022】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る生体組織接着剤用噴霧器(以下、「噴霧器」という。)10を示す。噴霧器10は、後述する2つの溶液をそれぞれ収容する2つのシリンジ11を有する。各シリンジ11は、後述する溶液を収容する中空筒のバレル12を有する。バレル12は、バレル12の遠位端に一体的に設けられた筒先13と、バレル12の近位端に一体的に設けられたフランジ(フィンガグリップ)14を有する。バレル12の近位端は開放されており、その開口からプランジャロッド15が挿入される。2つのシリンジ11は、図示するように並行に配置され、バレル12の近位側がバレルホルダ16によって保持され、遠位側がスプレーヘッド18によって保持される。プランジャ15の近位端は、プランジャホルダ17によって保持される。したがって、2つのシリンジ11にそれぞれ溶液を収容した状態で、プランジャホルダ17を押しながらプランジャ15を近位側から遠位側に移動させると、それぞれのシリンジ11に収容された溶液が筒先13から同時に吐出される。
【0023】
スプレーヘッド18はシリンジ11の筒先13に着脱可能に装着される。実施形態1において、スプレーヘッド18は、図2に示すように、中心軸20に沿って近位側(図の右側)から遠位側(図の左側)に向かって次第に断面が小さくなるほぼ四角錐台状の中空ハウジング21を有する。
【0024】
ハウジング21の近位部22には中心軸20に対して対称に且つ平行に一対の中空円筒状シリンジ連結部23が設けられている。シリンジ連結部23の内側にはシリンジ11の筒先13を受ける筒先挿入筒24が固定されており、シリンジ連結部23の内面と筒先挿入筒24の外面との間がシールされている。筒先挿入筒24は、シリンジ11の筒先13の外面形状に対応する内面形状を有する。したがって、シリンジ11の筒先13をスプレーヘッド18の筒先挿入筒24に挿入した状態で、筒先13の外面と筒先挿入筒24の内面との間がシールされる。
【0025】
実施形態1において、ハウジング21の遠位部25は略円筒形に形成されており、該遠位部25には中心軸20に対称で且つ平行な一対の軸26に沿ってハウジング21の内部(内部空間)27と外部(外部空間)28を連通する一対の貫通孔(第1の貫通孔と第2の貫通孔)29が形成されている。
【0026】
ハウジング21の内部27には一対のチューブ30が配置されている。チューブ30の近位端は筒先挿入筒24の遠位端に接続されており、シリンジ11の筒先13から押し出された溶液がチューブ30に供給されるようになっている。チューブ30の遠位側は貫通孔29に挿通されている。実施形態1において、チューブ遠位端31は、貫通孔29から所定長さ突出させてある。
【0027】
貫通孔29の内径はチューブ30の外径よりも僅かに大きく設計されており、貫通孔29の内面とチューブ30の外面との間に、ハウジング21の内部27と外部28を連通する隙間(無菌ガス噴射孔)32(図4参照)が形成されている。
【0028】
図3,4に示すように、ハウジング遠位部25の端面33には、貫通孔29の中間に板状の隔壁34が形成されている。隔壁34は、2つの貫通孔29の軸26を含む面と直角に交差する面に沿って、すなわち、中心軸20の方向(x方向)と2つの軸26と直角に交差する方向(y方向)との2方向(x、y方向)に直交する方向(第1の方向、z方向)に、延在している。隔壁34の高さ、すなわち、端面33からの突出量Lは、チューブ30の端面33からの突出量Lよりも僅かに大きい。ただし、隔壁34の高さLは、チューブ30の突出量Lと同じ、又はチューブ30の突出量Lよりも小さくてもよい。
【0029】
図2に戻り、ハウジング21の上面又は下面には、無菌ガス供給管35が接続されている。無菌ガス供給管35の遠位端は、ハウジング21の内部27に開口している。一方、図1に戻り、無菌ガス供給管35の近位端は、無菌化フィルタ36を介して、図示しない無菌ガス供給源に接続されるようになっている。したがって、無菌ガス供給源から供給された無菌ガスは、無菌化フィルタ36で無菌化された後、無菌ガス供給管35を介してハウジング21の内部27に供給され、遠位部25の隙間(無菌ガス噴射孔)32を介して、チューブ30の周囲から噴射される。
【0030】
このように構成された噴霧器10で生体組織接着剤を噴霧するにあたっては、一方のシリンジ11に血液凝固第XIII因子とフィブリノゲンを含有する溶液(第1の溶液)が収容され、他方のシリンジ11にはトロンビン含有溶液(第2の溶液)が収容される。溶液が収容されたシリンジ11は、シリンジバレル12の近位側がバレルホルダ16によって保持され、両プランジャロッド15がプランジャホルダ17によって保持される。シリンジ11の筒先13はスプレーヘッド18の筒先挿入筒24に挿入され、シリンジ11とスプレーヘッド18が連結される。そして、スプレーヘッド18の無菌ガス供給管35が図示しないチューブを介してガス供給源接続される。
【0031】
このようにして組み立てられた噴霧器10を使って溶液を噴霧する場合、無菌ガス供給源から供給されたガスが、無菌化フィルタ36で無菌化された後、無菌ガス供給管35を通じてスプレーヘッド18の内部27を経由して、隙間(ガス噴射孔)32から噴射される。
【0032】
この状態で、プランジャホルダ17を押してプランジャロッド15を遠位側に移動すると、シリンジ11に収容されている溶液がシリンジ11の筒先13からチューブ30に送られ、チューブ30の遠位端(ノズル)31から噴射される。噴射された溶液は、チューブ30の周囲から噴射される無菌ガスによりそれぞれ霧化され、大気中で混合して目的の患部に塗布される。
【0033】
手術中、溶液の噴射は断続的又は間欠的に行われ、噴射とそれに続く噴射の間に数分から数十分の時間があくこともあり得る。この場合、隔壁が無ければ、チューブ30の遠位端から漏れ出たフィブリノゲン溶液とトロンビン溶液がハウジング遠位部25の端面33上で接触して凝固し、チューブ30の先端開口を塞いだり、隙間(ガス噴射孔)32に詰まったりするが、上述した実施形態では、2つのチューブ30が隔壁34によって分離されているので、2つの溶液が端面33上で混じり合うことはない。そのため、実施形態1によれば、スプレーヘッド18の遠位端において2つの溶液が混じり合って凝固することによりチューブ30や隙間(ガス噴射孔)32が詰まるということがない。したがって、実施形態1の噴霧器10によれば、中断後も確実に溶液の噴霧が行われる。
【0034】
上述の実施形態1において、隔壁34の形状は適宜変形を加えることができる。例えば、図5に示すように、隔壁34の一端(z方向の端部)を隔壁34から離れる2方向(y方向とその反対方向)に延ばして一対の防護壁(隔壁ガード)37を形成してもよい。または、図6に示すように、隔壁34の両端(z方向の端部と反対側の端部)を隔壁34から離れる2方向(y方向とその反対方向)に延ばして2対の防護壁37、38を形成してもよい。これらの形態によれば、隔壁34の上端部又は下端部と生体組織との接触を防止できる。
【0035】
図6に示す実施形態では、図の上側に現れる一方の防護壁37の長さ(隔壁34からの長さ)と図の下側に現れる他方の防護壁38の長さは同じであるが、一方の防護壁37の長さを他方の防護壁38の長さよりも大きく又は小さくしてもよい。
【0036】
また、図6に示す実施形態の場合、上側の防護壁37と下側の防護壁38をそれぞれ端面33の縁に沿って相手側に向かって延長し結合することによって、環状の防護壁を形成してもよい。ただし、図7に示すように、一方の防護壁37の末端と他方の防護壁38の末端との間には適当な間隔(開放距離H又は開放角度θ)をあけて、端面33に溶液が滞留しないようにすることが好ましい。
【0037】
[実施形態2]
図8、9は、上述した実施形態1のスプレーヘッド18に代わる、実施形態2に係るスプレーヘッド118を示す。図示するように、実施形態2のスプレーヘッド118が実施形態1のスプレーヘッド18と異なる点は遠位部の構造である。
【0038】
具体的に、実施形態2のスプレーヘッド118の遠位部125は、中心軸20に沿って延びる長尺の延長部126を有する。延長部126の長さは、例えば約3cm~約30cmである。延長部126は、図示する形状を安定的に維持できるように、硬い中空の管によって形成される。延長部126の近位端はハウジング21の内部27に開放されており、延長部126の内部127がハウジング21の内部27に連通している。
【0039】
延長部126の遠位端は端壁128によって塞がれている。実施形態2では、端壁128、特に端壁128の遠位端面129は中心軸20に対して斜めの面である。端壁128には、中心軸20と斜めに交差する面上にあって、上方から見たときに(z方向とは逆の方向から見たときに)中心軸20に対して対称に且つ平行に表れる2つの軸130に沿って貫通孔131が形成されており、ハウジング21の内部27から延長部126の内部127に延ばされたチューブ30の遠位端132が貫通孔131から突出している。実施形態2では、軸130は、斜め端面129にほぼ直交する方向(図9(b)に示すy’方向)に向けられている。
【0040】
実施形態1と同様に、貫通孔131の内径はチューブ30の外径よりも大きく設計されており、貫通孔131の内面とチューブ30の外面との間に、延長部126の内部127と外部28を連通する隙間(無菌ガス噴射孔)133が形成されている。
【0041】
延長部端壁128の端面129には、貫通孔131の中間に板状の隔壁134が形成されている。隔壁134は、端面129に沿って、2つの軸130を含む面に直交する面に沿って(図9(b)に示すz’方向)延在している。隔壁134の高さ、すなわち、延長部126の端面129からの突出量Lは、チューブ30の端面129からの突出量Lよりも僅かに大きい。ただし、隔壁134の高さLは、チューブ30の突出量Lと同じ、又はチューブ30の突出量Lよりも小さくてもよい。
【0042】
このように構成された実施形態2のスプレーヘッド118及び該スプレーヘッド118を備えた噴霧器によれば、無菌ガス供給源から供給されたガスは、無菌化フィルタ36、無菌ガス供給管35、スプレーヘッド118の内部27を通過した後、延長部126の内部127を経由して、隙間(ガス噴射孔)133から噴射される。
【0043】
一方、シリンジ11からチューブ30に送られた溶液は、チューブ30の遠位端(ノズル)132から噴射される。噴射された溶液は、チューブ30の周囲から噴射される無菌ガスによりそれぞれ霧化され、大気中で混合して目的の患部に塗布される。
【0044】
実施形態1と同様に、実施形態2においても、隔壁134によって2つのチューブ30が分離されているので、中断時に一方のチューブ30から漏れ出た溶液が他方のチューブ30から漏れ出た溶液と混じり合うことがない。そのため、実施形態2によれば、スプレーヘッド118の遠位端において2つの溶液が混じり合って凝固することによりチューブ30や隙間(ガス噴射孔)133が詰まるということがない。したがって、実施形態の噴霧器によれば、中断後も確実に溶液の噴霧が行われる。
【0045】
上述の実施形態1と同様に、隔壁134の形状に適宜変形を加えることができる。例えば、図示するように、隔壁134の一端(例えば、図9(b)のz’方向の端部)を隔壁134から離れる2方向(y’方向とその反対方向)に延ばして一対の防護壁135を形成してもよい。
【0046】
図6,7に示す形態と同様に、隔壁134の両端(z’方向の端部と反対側の端部)を隔壁134から離れる2方向(y’方向とその反対方向)に延ばして2対の防護壁を形成してもよい。この形態によれば、隔壁134の上端部又は下端部と生体組織との接触を防止できる。
【0047】
また、上側の防護壁の長さ(隔壁134から長さ)と下側の防護壁の長さは同じでもよいし、上側の防護壁の長さを下側の防護壁の長さよりも大きく又は小さくしてもよい。
【0048】
さらに、上側の防護壁と下側の防護壁をそれぞれ端面129の縁に沿って相手側に向かって延長し結合することによって、環状の防護壁を形成してもよい。ただし、上側の防護壁の末端と下側の防護壁の末端との間には適当な間隔をあけて、端面129に溶液が滞留しないようにすることが好ましい。
【0049】
上述した実施形態2では、延長部126の端壁128及び端面129を中心軸20に対して斜めに形成するとともに、貫通孔131の軸130を中心軸20に対して斜めの方向に向けているが、端壁及び端面は中心軸20に対して直交又は略直交する方向に向けてもよいし、貫通孔の軸は中心軸に平行又は略平行な方向に向けてもよい。具体的に、斜めの端壁に中心軸20に平行又は略平行な貫通孔を形成してもよいし、中心軸20に直交する方向に向けられた端壁に斜めの貫通孔を形成してもよい。
【0050】
[他の実施形態]
中断中の詰まりを防止するために、図10に示すように、スプレーヘッドの遠位部25(図1,2参照)又は延長部126に装着可能な小型目詰まり防止容器40を用意し、噴霧中断中、容器40に収容された溶液(生理食塩液等)41にスプレーヘッドの遠位部25又は延長部126の遠位部を浸けるようにしてもよい。この場合、スプレーヘッドの遠位部25又は延長部126は容器40の底面に接触しないことが望ましい。
【0051】
容器40は、容器口部42をスプレーヘッドの遠位部又は延長部126の遠位部に対応する形状とすることが好ましい。また、スプレーヘッドの遠位部25又は延長部126の遠位部の外面と容器口部42の内面との隙間は、溶液の表面張力によって該溶液の漏れが防止されるように決めることが好ましい。この場合、容器40に浸けたスプレーヘッドおよび容器40は横向きにしても該溶液が漏れない。
【0052】
スプレーヘッドの遠位部又は延長部126遠位部には、段部又はストッパ(係合部)135を形成して、段部135が容器口部(被係合部)42の端部に当たった状態でスプレーヘッドの遠位部25又は延長部126の遠位部が確実に溶液41に浸かるようにすることが好ましい。この場合、スプレーヘッドの遠位部25は容器40の底面に接触しないことが望ましい。
【0053】
図11に示すように、スプレーヘッドの25遠位部又は延長部126の遠位部には、遠位側に向かって次第に外径が小さくなるテーパ部(係合部)136を形成する一方、容器口部42に対応する形状のテーパ部(被係合部)43を形成し、スプレーヘッド又は延長部のテーパ部136が容器口部42のテーパ部43に当たった状態でスプレーヘッドの遠位端又は延長部の遠位端が確実に溶液41に浸かるようにしてもよい。この場合、テーパ部136,43が当たることによって、溶液41の漏れを防止できる。この場合、容器40に浸けたスプレーヘッドおよび容器40は横向きにしても該溶液が漏れない。また、スプレーヘッドの遠位部25又は延長部126は容器40の底面に接触しないことが望ましい。
【実施例0054】
材料、機器、方法等
フィブリン糊製剤として、ボルヒール(登録商標)組織接着用(KMバイオロジクス株式会社)3mL製剤の専用スプレーセット(上述した「噴霧器」に相当する。)を用いた。まず、ボルヒールの調製器セットを用いて溶解したボルヒールを専用シリンジに抜き取り、スプレーセットを組み立てた。無菌ガスのガス圧を0.075MPaに設定し、エアラインからスプレーヘッドへ送気を行い、一回の噴霧で両液0.5mLずつの薬液を噴霧した。噴霧から3秒後にエアラインをクランプし、20分間静置した。最大5回の噴霧を行い、噴霧状態および噴霧可能だった回数を確認した。
【実施例0055】
A液とB液の2液の噴霧口(溶液吐出口)を隔てるための隔壁とスプレーヘッド遠位部に取り付ける生理食塩液を含んだ小型目詰まり防止容器の効果比較
ボルヒールの専用スプレーセットの中でも、「エンドスプレー32cmストレートタイプ」は延長部遠位端までの長さが長く、目詰まりが発生しやすい。一度噴霧を止めて、再度噴霧する場合、高い確率で目詰まりを起こす。今回、その要因を特定に成功した。フィブリン糊の2種類の液は、それぞれの粘性が大きく異なり、両液を等量スプレーしようとした場合、それぞれの流路での通液抵抗に差が発生する。それぞれの通液抵抗の差は、シリンジ内圧の差に繋がり、噴霧を止めた後に、その圧の差は解消に向かうが、両液の均等な噴霧を目的とした場合、両シリンジの押しは同じ高さに揃うよう固定されており、その圧の差の解消は、圧が高くなったシリンジからの薬液の吐出と、圧が低くなったシリンジへのノズルからの吸い込みによって進む。フィブリン糊では、具体的に、粘性が高いフィブリノゲン液がシリンジ内から押し出され、粘性が低いトロンビン液は、シリンジに吸い上げられる格好となる。この際、一度は延長部の遠位端に吐出されたフィブリノゲン液を、トロンビン液側のチューブで吸い上げることにより、トロンビン液側のチューブが閉塞することを突き止めた。その吸い上げを防止する目的で、延長部の遠位端に、両液の吐出口を分離する隔壁を設けた噴霧器を発明した。また、乾燥した薬液のたん白質の析出による目詰まりを防止したり、スプレーヘッドの遠位端に残る薬液の洗浄を目的とした、生理食塩液を充填したスプレーヘッドに取り付ける目詰まり防止容器を発明した。今回、両仕組み(隔壁の有無、目詰まり容器の使用/不使用)について目詰まり防止効果を確認する目的で、噴霧後20分間静置し、最大5回までの噴霧可能回数を確認することでの比較検討を実施した。
【0056】
[群設定]
第A群(隔壁有り[図12参照]、目詰まり防止容器使用):ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群
第B群(隔壁有り、目詰まり防止容器不使用):ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置したスプレーヘッドで噴霧し、そのまま静置する群
第C群(隔壁無し、目詰まり防止容器使用):ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプそのままで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群
第D群(隔壁無し、目詰まり防止容器不使用):ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプそのままで噴霧し、そのまま静置する群(対照群)
第A群から第D群において、チューブ遠位端のスプレーヘッドからの突出量(高さ)は1mmとした。
【0057】
[結果]
5本のエンドスプレー32cmストレートタイプ(第D群の対照群は3本)を用いて、実施したところ、以下の結果が得られた。


以上より、スプレーヘッド遠位端の隔壁と生理食塩液を充填した目詰まり防止容器にスプレーヘッドの遠位端を入れて静置することによる目詰まり防止効果が確認できた。特に、隔壁の効果の寄与度の方が大きいと考えられた。
【実施例0058】
A液とB液の2液の噴霧口(溶液吐出口)を隔てる隔壁導入のためのスプレーヘッドの遠位部形状の目詰まり防止効果比較
実施例1と同様にボルヒールの専用スプレーセットの中でも、「エンドスプレー32cmストレートタイプ」は延長部遠位端までの長さが長く、詰まり易いため、基本的に1回の使用しか推奨されていない。実施例1では隔壁と生理食塩液を充填した目詰まり防止容器にスプレーヘッドの遠位端を入れて静置することによる目詰まり防止効果が確認でき、特に、隔壁の効果の寄与度の方が大きかった。一方、隔壁の対象組織への接触により、組織を傷つける影響が大きくなることが考えられることから、スプレーヘッドの遠位端の形状を比較検討した。
【0059】
[群設定]
第1群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、遠位端面の縁に沿ってその全周に高さ1 mmの隔壁ガード(「防護壁」に相当する。)を形成したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器にスプレーヘッドの遠位端を入れて静置する群(図13(a)参照))
第2群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から45度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(b)参照))
第3群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(c)参照))
第1群から第3群において、チューブ遠位端のスプレーヘッドからの突出量(高さ)は1mmとした。
【0060】
[結果]
3本のエンドスプレー32cmストレートタイプを用いて、噴霧の可否を確認したところ、以下の結果が得られた。


以上より、目詰まり防止効果の高いスプレーヘッド遠位端形状は、第3群であることが確認できた。なお、ボルヒールのフィブリノゲン液に食用色素 青(青色1号、ケニス株式会社)、トロンビン液に食用色素 赤(赤色102号、ケニス株式会社)を視認性が確保できる程度に加え、第3群のスプレー先端の2液の噴霧口の間の隔壁の高さを1 mmから2 mmに変更したところ、噴霧状態および噴霧可能回数に影響はなかったが、高さ3 mmの隔壁では噴霧できず、不良であった。隔壁の高さは1~2 mmの範囲が好適と考えられた。
【実施例0061】
A液とB液の2液の噴霧口(溶液吐出口)を隔てる隔壁導入のためのスプレーヘッドの遠位部形状の組織愛護性の比較
スプレーヘッドの遠位部形状の違いによる対象組織の接触傷害の違いを比較した。評価法として、固定したブタ肝臓に対し、プッシュプルゲージの先端に取り付けたスプレー先端部を電動スタンドにて押しつけ(50 mm/min)、ブタ肝臓の皮膜又は実質が損傷するまでの最大押力(N:ニュートン)を記録した。
【0062】
[群設定]
第4群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、遠位端面の縁に沿ってその全周に高さ1 mmの隔壁ガード(「防護壁」に相当する。)を形成したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(a)参照))
第5群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から45度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(b)参照))
第6群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(c)参照))
第7群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に1 mm隔壁を設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図12参照)
第4群から第7群において、チューブ遠位端のスプレーヘッドからの突出量(高さ)は1mmとした。
【0063】
[結果]
5本のエンドスプレー32cmストレートタイプを用いて、実施したところ、以下の結果が得られた(数値の単位:N)。

以上より、組織に損傷が見られた最大押力について、第4~6群は隔壁のみの第7群に比べて、4倍以上効果高い結果となった。これらの内、第4群が最も組織愛護性に優れるが、第5群と第6群は大きな差はなく、隔壁のみの第7群よりも組織愛護性が保たれていることを確認した。
【実施例0064】
スプレーヘッドの遠位部に取り付ける生理食塩液を含んだ小型目詰まり防止容器の大きさの比較
目詰まり防止容器の容積(溶液収容量)を変えて目詰まり防止効果を比較した。
【0065】
[群設定]
第8群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを配置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(a)参照)
第9群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを配置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液5mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(c)参照)
第10群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを配置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液3mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(c)参照)
第11群:ボルヒールのエンドスプレー32cmストレートタイプ先端の2液の噴霧口の間に高さ1 mm隔壁を設置し、隔壁の両端から22.5度の領域に高さ1 mmの隔壁ガードを配置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液1mLを充填した容器に先端を入れて静置する群(図13(c)参照)
第8群から第11群において、チューブ遠位端のスプレーヘッドからの突出量(高さ)は1mmとした。
【0066】
[結果]
3本のエンドスプレー32cmストレートタイプを用いて、実施したところ、以下の結果が得られた。

表に示すように、第8群から第10群では4~5回の噴霧が可能であった。一方、第11群の1mLまで容器を小さくすると、複数回の噴霧状態ができないことが確認された。このことから、複数回の噴霧のためには、生理食塩液を含んだ小型目詰まり防止容器の大きさは3mL以上であることが好ましいと考えられた。
【実施例0067】
スプレーヘッドの延長部の長さが短い塗布器具を用いた目詰まり防止効果の比較
スプレーヘッドの延長部の長さが短い塗布器具を用いて、隔壁の有無及び目詰まり防止容器の有無の違いによる目詰まり防止効果を比較した。
【0068】
[試験方法]
スプレーヘッドの延長部の長さが3cmであること以外は、実施例1と同じ方法で実施した。
【0069】
[群設定]
第E群(隔壁有り[図12参照]、目詰まり防止容器使用):ボルヒールのエンドスプレーの長さを3cmとし、2液の噴霧口の間に高さ1mm隔壁を設置したスプレーヘッドで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群
第F群(隔壁有り、目詰まり防止容器不使用):ボルヒールのエンドスプレーの長さを3cmとし、2液の噴霧口の間に高さ1mm隔壁を設置したスプレーヘッドで噴霧し、そのまま静置する群
第G群(隔壁無し、目詰まり防止容器使用):ボルヒールのエンドスプレーの長さを3cmとし、そのままで噴霧し、生理食塩液10mLを充填した容器に先端を入れて静置する群
第H群(隔壁無し、目詰まり防止容器不使用):ボルヒールのエンドスプレーの長さを3cmとし、そのままで噴霧し、そのまま静置する群(対照群)
第E群から第H群において、チューブ遠位端のスプレーヘッドからの突出量(高さ)は1mmとした。
【0070】
[結果]
第E群は5本、それ以外は3本のスプレー(長さ3cm)を用いて、実施したところ、以下の結果が得られた。

以上より、スプレーヘッドが短い塗布器具の場合、遠位端の隔壁と生理食塩液を充填した目詰まり防止容器にスプレーヘッドの遠位端を入れて静置することによる目詰まり防止効果が確認できた。また、隔壁、目詰まり防止容器のいずれか一方の使用であっても一定の効果が確認できた。
【実施例0071】
試作した塗布器具スプレー先端形状と先端に取り付ける生理食塩液を含んだ小型目詰まり防止容器
実施例1~5で見出した内容から、試作品を製造し、5回の噴霧が可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0072】
10:生体組織接着剤用噴霧器
11:シリンジ
18、118:スプレーヘッド
20:中心軸
21:ハウジング
22:近位部
26:軸
27:内部
28:外部
29:貫通孔(第1と第2の貫通孔)
30:チューブ
31:遠位端
32:隙間(無菌ガス噴射孔)
33:端面
34,134:隔壁
37:防護壁
126:延長部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13